JP2004237626A - インクジェットヘッド及びその製造方法 - Google Patents

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Tomohiko Koda
智彦 甲田
Jun Nagata
純 永田
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Abstract

【課題】本発明は圧電素子と基台からなる駆動ユニットと、インク流路ユニットとの接着に関するものであり、インク吐出性能のばらつきを低減しつつ、組立後の性能を安定にするものである。
【解決手段】
圧電素子は振動板と第1の接着剤で接合され、位置決め部は圧力室外の剛性領域で、前記第1の接着剤よりも高硬度の第2の接着剤で接合されることで、圧電素子と振動板の接着にはばらつきがおきにくい低強度の弾性接着剤を、基台とインク流路部との接着には頑強に固定できるエポキシ系接着剤をと、目的にあった接着剤を選定することが出来るので、インク吐出性能の安定化や、駆動ユニットの破損を低減することが出来る。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はインクジェットヘッドに関し、より詳細には、オンデマンド型のインクジェットヘッド記録装置の駆動源として圧電素子を用いたインクジェットヘッドにおいて、圧電素子と圧電素子を支持固定する基台とインク流路を繋げる接着技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
積層型圧電素子を用いたインクジェットヘッドとしては、門型の剛性部材に櫛歯状に切断された圧電素子が固定され、切り分けられた圧電素子である振動子の変位により振動板を介して圧力室の容積を変化させて、インクを吐出するものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このようなヘッドにおける圧電素子と振動板の接合に関しては、ピエゾ振動子と振動板をショア硬度40度(Dスケール)以上の接着剤により結合することにより信頼性を確保することが出来るとされている(例えば特許文献2参照)。これは微小なピエゾ振動子の振動が接着剤により吸収されず、インク吐出が出来なくなることを防ぐものである。
【0004】
一方、ヘッドの小型化・高密度化が求められるにつれ、ノズル数が多く、かつそのピッチが非常に狭いヘッドが求めれらてきているが、この要求に対して圧電素子と振動板の接合部の接着剤塗布方法が問題となってくる。圧電素子と剛性部材をインク流路と接着剤を介して固定する場合、従来より、フィルムに接着剤を塗布して接着層を作り、そこに圧電素子や剛性部材を転写する方法が採用されている。この方法は、接着層を均一にすることにより、各部材の被接着面に同じ厚みの接着層を作製することが出来るという利点がある(例えば特許文献3参照)。
【0005】
さらに、ヘッドの小型化は、各部品の位置決め精度を高め、圧電素子と圧力室の位置決め方法においても信頼性の高く、かつ簡単な方法が求められてきた。圧電素子と剛性部材、インク流路の位置決め固定に関しては、基板に固定された圧電素子を複数に分割した圧電素子ユニットを、流路ユニットを固定する剛性部材の係合溝に挿入する方法がある(例えば特許文献4参照)。これは、圧電素子ユニットを係合溝に挿入して固定することにより、各部品の位置決めを容易としている。
【0006】
このように、インクジェットヘッドは当初に比べ、非常に精密な組立が要求されるものへと進化していった。
【0007】
【特許文献1】
特公平4−52213号公報
【特許文献2】
特公平7−61713号公報
【特許文献3】
特許3120565号公報
【特許文献4】
特許3082802号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、インクジェットヘッドも従来の紙への印刷だけでなく、産業用としても使用されるようになるにつれ、ユーザの様々なニーズに対応出来る製品を作製せねばならなくなった。いわゆる多品種小量生産に向けた設計・組立方法が求められることになってきた。
【0009】
前述した従来技術のうち、ショア硬度40度以上の硬い接着剤(一般的なエポキシ接着剤の全てがここに入る)を用いることは、微小な変位を行なう圧電素子のばらつきなどもインク吐出特性に反映しやすくなり、制御が難しいという問題がある。
【0010】
フィルムによる転写方法について、接着剤の層は均一とし易いが、転写する同一平面すべてに接着剤を塗布することになり、不必要な部分にも接着剤が付着してしまうという不具合が生じる。更に、フィルムによる転写法は、接着剤の均一な転写を行えるが、圧電素子の先端と同一面にある部品も同じ接着剤、同じ接着量となってしまう。接合する部品・場所により接着剤の転写量・種類を替えることは、この方法では難しい。
【0011】
剛性部材に溝を彫り、溝に係合させて位置決めするという方法は、ミクロンオーダの精度をもつ剛性部材を機械加工で作製する場合、非常に時間がかかりコストアップに繋がってしまう。
【0012】
剛性領域に圧電素子ユニットの契合する溝を設けて位置決め固定する場合、係合溝の精度が非常に高くなる上、部品の精度も高くなければならない為、コストがかかる。また、剛性部材と圧電素子ユニットを固定する際、剛性部材と圧電素子ユニットの隙間に接着剤を流し込んで固定した場合、接着剤の収縮で、圧電素子と振動板の接合部に傾きが生じる可能性が高い。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の特徴・製造方法を有するインクジェットヘッドを構成し、前述した課題を効果的に解決するものである。
【0014】
(1)列状に並んだ複数のノズルと、前記ノズルと各々に対応し、かつ前記ノズルに連通する複数の圧力室と、前記圧力室の一部を形成する振動板とからなるインク流路部に、振動子に当接する複数の圧電素子と、流路部の位置決め部と、これらを保持する基台よりなる振動子群を接合することにより、前記圧電素子の変位を前記振動板を介して圧力室に伝え、ノズルよりインクを吐出するインクジェットヘッドにおいて、前記圧電素子は前記振動板と第1の接着剤で接合され、前記位置決め部は前記圧力室外の剛性領域で、前記第1の接着剤よりも高硬度の第2の接着剤で接合されること。
【0015】
(2) 前記圧電素子の前記振動板との接合面、及び前記位置決め部と前記圧力室剛性領域の接合面には夫々中継部材が接合され、圧電素子に接合された中継部材は前記振動板と第1の接着剤で接合され、前記位置決め部に接合された中継部材は前記圧力室外の剛性領域と、前記第1の接着剤よりも高硬度の第2の接着剤で接合されること。
【0016】
(3)前記中継部材の材質はシリコンよりなり、ウェットエッチングまたはドライエッチングを用いて形成されること。
【0017】
(4)前記中継部材には、前記圧電素子及び位置決め部と接合する面と、前記振動板及び前記剛性領域と接合する面に、接着強度を増加させるための溝又は穴が形成されていること。
【0018】
(5)インクジェットヘッドの製造方法において、その一端が自由端となるように圧電素子を基台に接合する工程と、前記圧電素子の自由端側の面が基台に設けられた位置決め部と同一面となるように研磨する工程と、前記圧電素子を圧力室の並びに対応するように分割する工程と、前記圧電素子の自由端側に第1の接着層を形成する工程と、前記位置決め部の端部に前記第1の接着層よりも高硬度の第2の接着層を形成する工程と、列状に並んだ複数のノズルと、前記ノズルと各々に対応し、かつ前記ノズルに連通する複数の圧力室と、前記圧力室の一部を形成する振動板とからなるインク流路部に、前記第1の接着層及び第2の接着層を介して前記圧電素子及び前記位置決め部を接合させる工程とからなること。
【0019】
上述したように、圧電素子と振動板を固定する第1の接着剤と、位置決め部と流路剛性部を固定する第2の接着剤をそれぞれ別々にすることで、第1の接着剤にはインク吐出特性に最適な接着剤を用いることが出来、第2の接着剤には駆動ユニットを頑強に固定する高強度な接着剤を使用することが出来る。また、駆動ユニットを支える位置決め部に高強度な接着剤を用いることにより圧電素子の変位時に発生する反力を押え、駆動ユニットの倒れを防ぐことが出来る。
【0020】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明による第一の例となるインクジェットヘッドの構造を示す分解斜視図であり、図2はインクジェットヘッドの組み上げた状態を示す側面図、図3は縦断面図である。
【0021】
本ヘッドは大きく分けて、駆動ユニット15と流路ユニット33の2つに分けられる。
【0022】
駆動ユニット15は、変位発生源である圧電素子1、圧電素子1を保持しかつ位置決め部をもつ基台3、電気信号経路であるFPC14と、このFPC14と圧電素子1を中継する導電板9からなる。
【0023】
圧電素子1は、電極と圧電体を交互に積層して作製されており、細長い板状のバルク材として生成される。この積層型の圧電素子1は分極方向によりd31型やd33型があり、本例ではd33型を用いている。
【0024】
基台3は圧電素子1の一端を固定する圧電素子固定面6と、その両端に突き出した基台位置決め部4を持っている。圧電素子固定面6は板状の圧電素子1と接合する面で高平面度加工されている。基台3の側面と交差する角部7(図4参照)は面取りされている。基台位置決め部4は、その平面が圧電素子1の変位方向について、インク流路部29との位置を決め、変位方向と直交する面の位置を平面上にある基台位置決め穴5により位置決めする(図4参照)。圧電素子固定面6と基台3の位置決め部4の高さは圧電素子1の高さより若干低くなっている。これは、圧電素子1と基台3を接合した後、圧電素子1の自由端側を基台位置決め部4と同じ高さのなるまで研磨する為である。
【0025】
基台3の材質は圧電素子1を強固に固定する高い強度と、振動が他に伝播しないようなものが求められ、本例ではSUS430を用いている。他にもセラミックを用いる場合もある。セラミックで作製する場合は圧電素子1固定面と突き当て部を別々のブロックとして作製し、両部材を接合することにより基台3を形成する。セラミックで作製した場合、高い面精度を得られやすい。
【0026】
圧電素子1と基台3は接着剤により接合される。図4に接合した状態を示す斜視図、図5にその側面断面図を示す。接着剤にはエポキシ系などの高強度なものを用いる。圧電素子1は予め分極処理を行なっているため、反りが発生している。よって、接合の際は、反りを強制するため、適度に加圧して行なわれる。接合位置として、角部7を面取りした基台3の側面と同一平面上に揃うように配置する。
【0027】
接合後、基台位置決め部4と圧電素子1の自由端側を同一面とするため、研磨を行なう。図6にその状態を示す。なお、d31型の圧電素子1を用いた場合、研磨後に自由端面に再度電極をスパッタリングする工程が入る。
【0028】
研磨後、導電板9を基台3側面に取り付ける(図7及び図8参照)。導電板9は絶縁材上にノズルピッチに合わせて導電材がパターニングされており、ここではガラスに金メッキがスパッタリングされている。導電板9と基台3は接着剤12により固定され、その後、圧電素子1の面取り面側の電極面aと導電板9の電極面を、面取りしていない面側の電極面bと基台3を導電性接着剤13で導通させる(図8参照)。導電板9を固定する際、ガラス板11が圧電素子1と重なるように接合しなければならない。これは、共通電極を基台3から、個別電極を導電板9を経由して取り出すため、個別電極側の導電性接着剤が基台3と導通した場合、ショートしてしまうからである。
【0029】
続いて、図9に示すように、導電性接着剤13が硬化した後、圧電素子1をノズルピッチに合わせてダイシングして、ノズル数と同数の振動子2の列を形成する。位置決めの基点となるのは基台位置決め穴5である。両端に発生する切残し部分は加工後に取り除く。
【0030】
そして、図10に示すように、切断後に電気信号を圧電素子1に伝達するFPC14を導電板9に取り付ける。以上の工程により駆動ユニット15が形成される。
【0031】
流路ユニット33はノズルプレート18、チャンバプレート20、ダイアフラムプレート24からなるインク流路部29と、インク流路部29を固定する固定板30から形成される。各プレートはそれぞれに設けられている流路ユニット位置決め穴16(a)〜(c)により位置決めされる。また、インク流路部29には駆動ユニット15を位置決めする駆動ユニット位置決め穴17(a)〜(c)が形成されており、チャンバプレート20にその位置決め穴17(b)が形成され、ノズルプレート18とダイアフラムプレート24にはその穴に干渉しない逃げ穴位置決め穴17(a)と逃げ穴位置決め穴17(c)が設けられている。
【0032】
ノズルプレート18は、インク吐出口であるノズル19をもち、インク吐出面には撥インク処理が施される。材質はSUS303が用いられ、プレス加工により作製される。
【0033】
チャンバープレート20は、ノズル19に連通する圧力室21と、インク溜めであるマニホールド23、圧力室21とマニホールド23を結ぶリストリクタ22が形成されている。材質にはSi(シリコン)が用いられ、ウェットエッチング、またはドライエッチングにより形成する。エッチングによる加工は非常に高精度である為、駆動ユニット15に対する位置決め穴17(b)がチャンバープレート20に設けられているのはそうした理由からである。
【0034】
ダイアフラムプレート24は、圧力室21の一側壁をなす振動板25と、基台位置決め部4が当接する基台接合部26、マニホールド23へインクを導入するインク導入孔27、マニホールド23内のインク変動を吸収するダンパ28が形成されている。ダイアフラムプレート24は金属と樹脂を張り合わせて形成し、金属にはSUS303、樹脂にはポリイミドフィルムが用いられる。張りあせた合成部材の金属面をエッチングにより取り除き、金属の枠部に囲まれた振動板25やダンパ28を形成する。
【0035】
インク流路部29の組立は、ノズルプレート18、チャンバープレート20、ダイアフラムプレート24をそれぞれシート状の接着材で接合することにより行なわれる(図11)。それぞれの接着層は2〜3μm程度である。
【0036】
インク流路部29を形成した後、固定板30を接合する(図12参照)。固定板30はインク供給路31と駆動ユニット15が貫通する貫通孔32を有し、インク流路部29と接合する面は高平面度加工が施される。材質はSUS430であり、インク流路部29に比べ分厚い形状の為、高い剛性をもつ。よって、インク流路部29の接合時に発生する反りやうねりはここで矯正される。なお、貫通孔32の大きさは駆動ユニット15が接触しない程度の大きさである。これは、駆動ユニット15と固定板30が接触又は接合することにより傾きが発生し、インク吐出特性を著しく低下させる為である。以上の工程により流路ユニット33が形成される。
【0037】
駆動ユニット15と流路ユニット33はそれぞれ別々の工程で組立られる為、組立順序はどちらが先でも構わない。
【0038】
続いて、各ユニットの接合を行なう。接合は、転写板34,35により駆動ユニット15に接着剤37,38を転写した後、行なわれる。
【0039】
転写板34,35の作製方法、及び接合状態を図13に示す。まず、それぞれのユニットについて超音波洗浄やプラズマアッシング等を行い、表面状態をクリーンな状態にする。駆動ユニット15のプラズマ処理は、FPCなどを劣化させる可能性があるので保護フィルムなどを貼って行なう。続いて駆動ユニットに第1の接着剤37と第2の接着剤38を順番に転写する。まず、接合に用いる第1の接着剤37を転写する転写板34を作製し、続いて第2の接着剤38を転写する転写板35を作製する。これら転写板は、圧電素子用転写板34と基台用転写板35の2つであり、それぞれには基台位置決め穴5と対応する転写板位置決め穴36が設けられている。転写板にはSiが用いられ、転写板位置決め穴36の形成等はエッチングにより行なわれる。
【0040】
転写板34,35に接着層を作製する方法は、まず塗工台39の上に転写板34,35を固定し(図13の(b−1)(b−2)参照)、接着剤37,38を転写板34,35の所定の領域に塗布する。塗工台39は高平面度加工されており、中央部に複数の吸引穴40が設けられ、吸引穴40は纏まって側面の一つの出口41に集約される。吸引穴40の上に転写板34,35を置き、出口41より吸引することにより転写板34,35を精密に固定することが出来る。転写板34,35の両脇には転写板34,35と同じ厚みのSiのスペーサ42が予め固定されている。
【0041】
次に、図13(c)で示すように、塗布した接着剤37をドクターブレード43により掻き取る。(x)−(x)断面図で示すように、ドクターブレード43は両端の基準面から一定距離のギャップ44を介して掻き取り面があり、スペーサ42にドクターブレード43を押し当てた状態で接着剤37,38を掻きとっていくことで、図13(d)に示す均一な接着層45を作製する。ギャップ44の量は転写後の接着剤37,38のはみ出し量などから決定され、ドクターブレード43を複数用いて、段階的にギャップ39を減らして接着層45を作製していくとより均一な接着層45を形成することができる。なお、図示していないが、接着剤38についても同様に均一の接着層を形成する。
【0042】
第1の接着剤37,第2の接着剤38にはどちらも常温硬化型の接着剤を用い、圧電素子1用(第1の接着剤37)としては弾性接着剤であるEP001(セメダイン社)を用い、基台3(第2の接着剤38)にはアラルダイト(バンティコ社)を用いる。EP001はショア硬度37(Dスケール)程度であり、アラルダイトはショア硬度70(Dスケール)程度である。常温硬化型接着剤を用いるのは、設計時に熱膨張を考慮する必要が無いためである。
【0043】
本例において、接着層45の厚さは圧電素子1用転写板は40〜45μm、基台3用転写板は30〜35μmで行なっている。この量は転写される量、接合時のはみ出しなど接着剤37、38や被転写部材の面積などにより変わり得る。
【0044】
以上説明した接着層作製方法で転写板34,35に接着層45を形成する。
【0045】
接着剤37,38の転写については、まず圧電素子1に第1の接着剤37の転写を行なう。図14(a)に示すように、基台3の基台位置決め穴5と圧電素子用転写板34の転写板位置決め穴36をピン46で結び、圧電素子用転写板34に駆動ユニット15をおしつけて、第1の接着剤37を転写する。転写は基台3の圧電素子固定面6と反対の面にある加圧面8を押して行なう。この際の加圧量・時間も転写量に影響する為、明確に定めて行なう。
【0046】
次に、図14(b)に示すように、基台3に第2の接着剤38を転写する。圧電素子用転写板34の時と同様にピン46を用いて位置決めして基台3を押し付ける。この際も、加圧量や加圧時間も条件を検討した上で行なう。
【0047】
続いて、図14(c)に示すように、第1の接着剤37及び第2の接着剤38が転写された駆動ユニット15は、基台位置決め穴5と流路ユニット33の駆動ユニット位置決め穴17をピン46で結ぶことにより接合される。接着台47に流路ユニット33をピン46で固定した状態で、駆動ユニット15をピン46をガイドに挿入していく。接合時は加圧面を押して行なわれる。
【0048】
次に、図14(d)に示すように、40〜60℃程度に加熱して接着剤の硬化を行なう。これは、常温であると完全硬化に時間がかかり、公率が悪い為である。この程度の温度であれば熱膨張による影響も殆どない。
【0049】
以上説明したようにな工程で組立てることにより、基台位置決め部4と圧電素子1にそれぞれ目的にあった第1の接着剤37と第2の接着剤38を塗布した状態で組立てることが出来る。この方法を用いたインクジェットヘッドは、ノズル19間の相互干渉・インク速度のばらつきが少ない安定したインク吐出性能を得ることが出来る。
【0050】
次に、本発明の第2の例について説明する。ヘッドの部品構成は先に説明した第1の例と同じであるが、本例では圧電素子1と圧力室21の位置をより高精度にすることを目的としている。
【0051】
本方法では、駆動ユニット15の流路ユニット33との接合面に、中継部材48を取り付けることにより行なう。図15に、本例で用いる中継部材48の接合前の状態を示す。中継部材48は、振動子2の自由端側の先端にあり、振動子2の幅よりも狭い突起49があり、凸状の形をしている。突起49の先端面積を圧力室21形状に合わせて小さくすることにより、振動子2の幅を太くしても圧力室21への当接面積が適切な広さにすることが出来る。また、図16及び図17に示すように、中継部材48は複数の中継部材48を一枚の板に連結した中継部材連結プレート50として形成されており、両端に中継部材位置決め穴52を設け、この穴を基準に組立ることにより、突起49と圧力室21の位置決めも容易且つ高精度に行なうことが出来る。
【0052】
本例において、中継部材48はSi(シリコン)で作製し、エッチングにより凸形状や穴を形成する。特にドライエッチングで加工すると、穴の形状を丸穴や長穴を形成出来るため、位置決め穴として使い易い。中継部材48の圧電素子1接合面、または振動板25接合面には接着剤の逃げ溝を設けることも可能である。この場合、接着剤の逃げ溝だけでなく、投錨効果も得られるため、高い接合強度を確保できる。
【0053】
以下、組立方法を図18に示す。まず、(a)及び(b)に示すように、ダイシング前の段階まで組立た駆動ユニット15に中継部材連結プレート50を圧電素子1と基台位置決め部4に取り付ける。取り付けにはエポキシ系接着剤を用い、ここでは圧電素子1と基台位置決め部4の接着剤は同一のものとする。理由は、振動板25との接合部以外の部分で柔らかい接着剤を用いると、圧電素子1の変位が吸収されてしまうからである。駆動ユニット15と中継部材連結プレート50の位置決めはそれぞれの位置決め穴を用いて行なう。続いて、(c)に示すように、中継部材48と圧電素子1を同時にダイシングする。ダイシングは突起49をカットしないように位置を合わせて行なう。ダイシングに用いる刃は、振動子2の幅を出来る限り広く取る為、細い刃を用いている。ダイシング後、振動子2とその先端部についた中継部材48、基台3位置決め部についた基台中継部材51以外はすべて取り除く。最後に、(d)に示すように、FPC14を導電板9に取り付ける。このようにして、駆動ユニット15に中継部材48を取り付ける。
【0054】
第1の接着剤及び第2の接着剤を塗布する方法は第1の例と同様に、2つの転写板を用いて行なう。圧電素子用転写板34で圧電素子1に接着された中継部材48を、基台用転写板35で、基台3に接着された中継部材48を転写する。突起の面積は振動子2の面積よりも小さいので、圧電素子用接着板34の接着層の厚みは若干変化する。
【0055】
このような方法により、圧電素子1と圧力室21の位置決めを高精度に行なうことが出来る中継部材48を介した場合でも、それぞれ目的にあった接着剤の塗布を行なうことが出来、本発明の効果をより高めることが出来る。
【0056】
なお、中継部材48にセラミックを使用する方法もある。この場合、材質にはジルコニアなどが適当である。分割加工にはダイシングを用いて突起49を形成する。よって、Siに比べ精度が落ちるが、加工が容易で突起の幅やピッチを変更し易いので、ノズルピッチの広いものや、ノズル数が多くて長いヘッドに使われやすい。
【0057】
その他の例として、剥離材が塗付されたフィルムに接着剤の層が形成しているシート接着剤で圧電素子1に第1の接着剤、基台位置決め部4に第2の接着剤を転写する方法もある。この場合、ハンドリングが容易で、転写板に接着剤を塗布する必要もなくなるので作業性が向上する。しかし、シート接着剤は硬化時に100℃以上の熱が必要となるため、駆動ユニット15、流路ユニット33ともに熱膨張係数を合わせなければならない。
【0058】
また、図19及び20に示すように、固定板30の側面に基台位置決め部4に接着剤を塗布する接着剤注入孔53を設けることにより、駆動ユニット15の固定を強化する方法もある。固定板30の側面の基台3位置決め部付近に適当な大きさの穴53を設け、そこからディスペンサ54により第2の接着剤38を基台位置決め部4の下部周辺に注入するものである。固定板30と駆動ユニット15を、圧電素子1と振動板25との接合部から離れた部分において接着した場合、接着剤の収縮により倒れや傾きが発生しやすい。この方法のように、駆動ユニット15とインク流路部29との接合部付近において第2の接着剤38で固定板30と固定すると、第2の接着剤38の収縮による倒れや傾きが殆ど無いので、特性を悪化させずに頑強に固定できる。
【0059】
【発明の効果】
以上に説明したように、列状に並んだ複数のノズルと、前記ノズルと各々に対応し、かつ前記ノズルに連通する複数の圧力室と、前記圧力室の一部を形成する振動板とからなるインク流路部に、振動子に当接する複数の圧電素子と、流路部の位置決め部と、これらを保持する基台よりなる振動子群を接合することにより、前記圧電素子の変位を前記振動板を介して圧力室に伝え、ノズルよりインクを吐出するインクジェットヘッドにおいて、前記圧電素子は前記振動板と第1の接着剤で接合され、前記位置決め部は前記圧力室外の剛性領域で、前記第1の接着剤よりも高硬度の第2の接着剤で接合されることで、圧電素子と振動板の接着にはばらつきがおきにくい低強度の弾性接着剤を、基台とインク流路部との接着には頑強に固定できるエポキシ系接着剤を、と目的にあった接着剤を選定することが出来るので、インク吐出性能の安定化や、駆動ユニットの破損を低減することが出来る。
【0060】
また、圧電素子と振動板の間に中継部材を、基台位置決め部とインク流路部の剛性領域の間に基台中継部材を接合することにより、位置精度や吐出性能を向上することが出来る。そして、中継部材と圧電素子、基台中継部材と基台を接合する接着剤を、中継部材と圧電素子を接合する接着剤よりも高強度とすることで、圧電素子の変位を中継部材と圧電素子を接合する接着剤により減衰させることなく振動板に伝えることが出来る。
【0061】
また、中継部材の材質をシリコンとし、ウェットエッチング、またはドライエッチングを用いて中継部材を形成することにより、数μm以内の位置ずれで、ロットばらつきも殆どない中継部材を作製することが出来る。
【0062】
また、中継部材と基台中継部材には、圧電素子と基台位置決め部と接合する面と、振動板と剛性領域と接合する面に、溝が形成されているので、接着剤のはみだしを低減し、接着強度を飛躍的に向上することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一の例となるインクジェットヘッドの構造を示す分解斜視図。
【図2】インクジェットヘッドの組み上げた状態を示す側面図。
【図3】図2の縦断面図。
【図4】圧電素子と基台との接合状態を示す斜視図。
【図5】図4の側面断面図。
【図6】基台位置決め部と圧電素子の研磨加工の状態を示す概略斜視図。
【図7】導電板を基台との接合状態を示す斜視図。
【図8】図7の側面断面図。
【図9】圧電素子を分割加工した状態を示す斜視図。
【図10】駆動ユニットにFPCを取り付けた状態を示す斜視図。
【図11】流路ユニット分解斜視図及び斜視図。
【図12】流路ユニットに固定板が装着された状態を示す斜視図。
【図13】転写板の作製過程を示す工程図。
【図14】駆動ユニットと流路ユニットの接着過程を示す工程図。
【図15】本発明の第2の例で用いられる中継部材の斜視図。
【図16】中継部材連結プレートの斜視図。
【図17】図16の正面図。
【図18】駆動ユニットに中継連結プレートを接合する過程を示す工程図。
【図19】本発明の第3の例となるインクジェットヘッドの製造方法を示す正面断面図。
【図20】図19の側面断面図。
【符号の説明】
1は圧電素子、2は振動子、3は基台、4は基台位置決め部、5は基台位置決め穴、6は圧電素子固定面、7は角部、8は加圧面、9は導電板、10は電極、11はガラス板、12は接着剤、13は導電性接着剤、14はFPC、15は駆動ユニット、16は流路ユニット位置決め穴、17は駆動ユニット位置決め穴、18はノズルプレート、19はノズル、20はチャンバープレート、21は圧力室、22はリストリクタ、23はマニホールド、24はダイアフラムプレート、25は振動板、26は基台接合部、27はインク導入口、28はダンパー、29はインク流路部、30は固定板、31はインク供給路、32は貫通孔、33は流路ユニット、34は圧電素子用転写板、35は基台用転写板、36は転写板位置決め穴、37は第1の接着剤、38は第2の接着剤、39は塗工台、40は吸引孔、41は出口、42はスペーサ、43はドクターブレード、44はギャップ、45は接着層、46はピン、47は接着台、48は中継部材、49は突起、50は中継部材連結プレート、51は中継部材位置決め部、52は中継部材位置決め穴、53は接着剤注入孔、54はディスペンサである。

Claims (5)

  1. 列状に並んだ複数のノズルと、前記ノズルと各々に対応し、かつ前記ノズルに連通する複数の圧力室と、前記圧力室の一部を形成する振動板とからなるインク流路部に、振動子に当接する複数の圧電素子と、流路部の位置決め部と、これらを保持する基台よりなる振動子群を接合することにより、前記圧電素子の変位を前記振動板を介して圧力室に伝え、ノズルよりインクを吐出するインクジェットヘッドにおいて、
    前記圧電素子は前記振動板と第1の接着剤で接合され、前記位置決め部は前記圧力室外の剛性領域で、前記第1の接着剤よりも高硬度の第2の接着剤で接合されることを特徴とするインクジェットヘッド。
  2. 前記圧電素子の前記振動板との接合面、及び前記位置決め部と前記圧力室剛性領域の接合面には夫々中継部材が接合され、圧電素子に接合された中継部材は前記振動板と第1の接着剤で接合され、前記位置決め部に接合された中継部材は前記圧力室外の剛性領域と、前記第1の接着剤よりも高硬度の第2の接着剤で接合されることを特徴とするインクジェットヘッド。
  3. 前記中継部材の材質はシリコンよりなり、ウェットエッチングまたはドライエッチングを用いて形成されることを特徴とする前記請求項2記載のインクジェットヘッド。
  4. 前記中継部材には、前記圧電素子及び位置決め部と接合する面と、前記振動板及び前記剛性領域と接合する面に、接着強度を増加させるための溝又は穴が形成されていることを特徴とする前記請求項2または3のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
  5. その一端が自由端となるように圧電素子を基台に接合する工程と、前記圧電素子の自由端側の面が基台に設けられた位置決め部と同一面となるように研磨する工程と、前記圧電素子を圧力室の並びに対応するように分割する工程と、前記圧電素子の自由端側に第1の接着層を形成する工程と、前記位置決め部の端部に前記第1の接着層よりも高硬度の第2の接着層を形成する工程と、列状に並んだ複数のノズルと、前記ノズルと各々に対応し、かつ前記ノズルに連通する複数の圧力室と、前記圧力室の一部を形成する振動板とからなるインク流路部に、前記第1の接着層及び第2の接着層を介して前記圧電素子及び前記位置決め部を接合させる工程とからなるインクジェットヘッドの製造方法。
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Cited By (6)

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