以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係る電池の分解斜視構成を表しており、図2は図1に示した巻回電極体10のII−II線に沿った断面構成を表している。ここで説明する電池は、例えば、負極14の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
この二次電池は、主に、フィルム状の外装部材20の内部に、正極リード11および負極リード12が取り付けられた巻回電極体10が収納されたものである。このフィルム状の外装部材20を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
正極リード11および負極リード12は、例えば、外装部材20の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード11は、例えば、アルミニウム(Al)などの金属材料によって構成されており、負極リード12は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
外装部材20は、例えば、ナイロンフィルムと、アルミニウム箔と、ポリエチレンフィルムとがこの順に貼り合わされた矩形状のアルミラミネートフィルムによって構成されている。この外装部材20では、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体10に対向していると共に、各外縁部が融着あるいは接着剤によって互いに密着されている。
外装部材20と正極リード11および負極リード12との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム21が挿入されている。この密着フィルム21は、正極リード11および負極リード12に対して密着性を有する材料によって構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
なお、外装部材20は、上記した3層構造のアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムによって構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムや、金属フィルムによって構成されていてもよい。
巻回電極体10は、セパレータ15および電解質16を介して正極13と負極14とが積層されてから巻回されたものであり、その最外周部は保護テープ17によって保護されている。
正極13は、例えば、一対の面を有する正極集電体13Aの両面に正極活物質層13Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層13Bは、正極集電体13Aの片面だけに設けられていてもよい。
正極集電体13Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。正極活物質層13Bは、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて導電剤や結着剤などの他の材料を含んでいてもよい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、あるいはリチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物が挙げられ、特に、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガン(Mn)および鉄からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni(1-z) Coz O2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw O2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 O4 )などが挙げられる。中でも、コバルトを含む複合酸化物が好ましい。高い容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe(1-u) Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
この他、上記した正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラックあるいはケッチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。なお、導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。ただし、図2に示したように、正極13および負極14が巻回されている場合には、柔軟性に富むスチレンブタジエン系ゴムあるいはフッ素系ゴムなどを用いることが好ましい。
負極14は、例えば、一対の面を有する負極集電体14Aの両面に負極活物質層14Bが設けられたものである。ただし、負極活物質層14Bは、負極集電体14Aの片面だけに設けられていてもよい。
負極集電体14Aは、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する金属材料によって構成されているのが好ましい。このような金属材料としては、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどが挙げられ、中でも銅が好ましい。高い電気伝導性が得られるからである。
負極活物質層14Bは、複数の負極活物質粒子を含んでおり、必要に応じて導電剤や結着剤などの他の材料を含んでいてもよい。これらの導電剤および結着剤の詳細は、正極13について説明した場合と同様である。
負極活物質粒子は、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を有する負極材料を含有している。このような負極材料は、高いエネルギー密度が得られるので好ましい。また、負極活物質粒子は、その粒子内に多層構造を有している。なお、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量は、正極活物質による充電容量よりも大きくなっているのが好ましい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを有するものも含まれる。この「合金」は、非金属元素を有していてもよい。その組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
上記した金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)、あるいは白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金および化合物や、スズの単体、合金および化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン(Sb)およびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。ケイ素の化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素(C)を有するものが挙げられ、ケイ素に加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。ケイ素の合金あるいは化合物の一例としては、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 N4 、Si2 N2 O、SiOv (0<v≦2)、SnOw (0<w≦2)、あるいはLiSiOなどが挙げられる。
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を有するものが挙げられ、スズに加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。スズの合金あるいは化合物の一例としては、SnSiO3 、LiSnO、Mg2 Snなどが挙げられる。
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を有するものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2および第3の構成元素を有することにより、サイクル特性が向上するからである。
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として有し、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を有していてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上を有していてもよい。より高い効果が得られるからである。
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性あるいは非晶質の構造を有しているのが好ましい。また、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合しているのが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
SnCoC含有材料は、例えば、各構成元素の原料を混合した混合物を電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解させたのち、凝固させることによって形成可能である。また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法や、各種ロール法や、メカニカルアロイングあるいはメカニカルミリングなどのメカノケミカル反応を利用した方法などを用いてもよい。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法が好ましい。負極活物質が低結晶性あるいは非晶質の構造になるからである。メカノケミカル反応を利用した方法では、例えば、遊星ボールミルやアトライタなどの製造装置を用いることができる。
また、元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えば、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)が挙げられる。このXPSでは、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、グラファイトであれば、炭素の1s軌道(C1s)のピークは284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば、炭素が金属元素あるいは半金属元素と結合している場合には、C1sのピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる場合には、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合している。
なお、XPSでは、例えば、スペクトルのエネルギー軸の補正に、C1sのピークを用いる。通常、表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。XPSにおいて、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
負極活物質粒子は、例えば、気相法によって形成されている。この気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、より具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(chemical vapor deposition :CVD)法、あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。ただし、負極活物質粒子は、気相法以外の方法によって形成されていてもよい。
負極活物質粒子が気相法によって形成されている場合には、その気相法によって負極材料が複数回に渡って堆積され、その堆積膜が積層されることにより、負極活物質粒子が粒子内に多層構造を有している。堆積時に高熱を伴う蒸着法などによって負極活物質粒子を形成する場合に、負極材料の堆積工程を複数回に分割して行う(負極材料を順次薄く形成して堆積させる)ことにより、その堆積工程を1回で行う場合と比較して負極集電体14Aが高熱に晒される時間が短くなり、熱的ダメージを受けにくくなるからである。
この場合には、負極活物質粒子の1層当たりの厚さが1μm以下であり、その負極活物質粒子の層数は10層以上であるのが好ましい。1回の堆積工程で形成される負極活物質粒子の厚さが十分に薄くなるため、サイクル特性が向上するからである。また、1回の堆積工程で形成される負極活物質粒子の厚さが薄いにもかかわらず、その負極活物質粒子の総厚は十分に大きくなるため、高い容量が得られるからである。
負極活物質粒子は、例えば、負極活物質層14Bを支持する負極集電体14Aの表面に連結されており、その負極集電体14Aの表面から負極活物質層14Bの厚さ方向に成長している。この場合には、負極活物質粒子が気相法によって形成されており、負極集電体14Aと負極活物質層14Bとの界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。具体的には、両者の界面において、負極集電体14Aの構成元素が負極活物質層14Bに拡散していてもよいし、負極活物質層14Bの構成元素が負極集電体14Aに拡散していてもよいし、両者の構成元素が互いに拡散しあっていてもよい。充放電時における負極活物質層14Bの膨張および収縮に起因する破壊が抑制されると共に、負極集電体14Aと負極活物質層14Bとの間の電子伝導性が向上するからである。
この負極活物質層14Bは、必要に応じて、負極活物質粒子の表面(電解液と接する領域)を被覆する酸化物含有膜を含んでいてもよい。酸化物含有膜が電解液に対する保護膜として機能し、充放電を繰り返しても電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性がより向上するからである。この酸化物含有膜は、負極活物質粒子の表面のうちの一部を被覆していてもよいし、全部を被覆していてもよい。
この酸化物含有膜は、例えば、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の酸化物を含有しており、中でもケイ素の酸化物が好ましい。負極活物質粒子の表面を全体に渡って容易に被覆しやすいからである。もちろん、酸化物含有膜は、上記以外の他の酸化物を含有していてもよい。この酸化物含有膜は、例えば、気相法あるいは液相法によって形成されており、中でも液相析出法、ゾルゲル法、塗布法あるいはディップコーティング法などの液相法が好ましく、液相析出法がより好ましい。負極活物質粒子の表面を広い範囲に渡って容易に被覆しやすいからである。
また、負極活物質層14Bは、必要に応じて、負極活物質粒子の粒子間の隙間および粒子内の隙間に、リチウムと合金化しない金属材料を含んでいてもよい。金属材料を介して複数の負極活物質粒子が結着されると共に、上記した隙間に金属材料が存在することで負極活物質層14Bの膨張および収縮が抑制されるため、サイクル特性がより向上するからである。
この金属材料は、例えば、リチウムと合金化しない金属元素として、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛および銅からなる群のうちの少なくとも1種を有しており、中でもコバルトが好ましい。上記した隙間に金属材料が容易に入り込みやすいからである。もちろん、金属材料は、上記以外の他の金属元素を有していてもよい。ただし、ここで言う「金属材料」とは、単体に限らず、合金や金属化合物まで含む広い概念である。この金属材料は、例えば、気相法あるいは液相法によって形成されており、中でも電解鍍金法あるいは無電解鍍金法などの液相法が好ましく、電解鍍金法がより好ましい。上記した隙間に金属材料が入り込みやすくなると共に、その形成時間が短くて済むからである。
なお、負極活物質層14Bは、上記した酸化物含有膜あるいは金属材料のいずれか一方だけを含んでいてもよいし、双方を含んでいてもよい。ただし、サイクル特性をより向上させるためには、双方を含んでいるのが好ましい。
ここで、負極活物質層14Bが複数の負極活物質粒子と共に金属材料を含む場合を例に挙げて、負極14の詳細な構成を説明する。図3および図4は負極の断面構造を拡大して表しており、(A)は走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)写真(二次電子像)、(B)は(A)に示したSEM像を模式的に示したものである。
図3に示したように、負極活物質層14Bが複数の負極活物質粒子141を含み、その負極活物質粒子141が粒子内に多層構造を有している場合には、負極活物質層14B内に複数の隙間142が生じている。詳細には、粗面化された負極集電体14Aの表面には、複数の突起部(例えば、電解処理によって形成された微粒子)が存在している。この場合には、気相法などによって負極集電体14Aの表面に複数回に渡って負極材料が堆積され、その堆積膜が積層されると、負極活物質粒子141が上記した突起部ごとに厚さ方向に段階的に成長する。この複数の負極活物質粒子141の密集構造、多層構造および表面構造に起因して、複数の隙間142が生じている。
この隙間142は、発生原因に応じて分類された2種類の隙間142A,142Bを含んでいる。隙間142Aは、負極集電体14Aの表面に存在する突起部ごとに負極活物質粒子141が成長することに伴い、隣り合う負極活物質粒子141間に生じている。一方、隙間142Bは、負極活物質粒子141が粒子内に多層構造を有することに伴い、負極活物質粒子141内の各階層間に生じている。もちろん、隙間142は、隙間142A,142B以外の他の発生原因により生じた隙間を含んでいてもよい。
なお、負極活物質粒子141の露出面(最表面)には、空隙143が生じる場合がある。この空隙143は、負極活物質粒子141の表面にひげ状の微細な突起部(図示せず)が生じることに伴い、その突起部間に生じた空隙である。この空隙143は、負極活物質粒子141の露出面の全体に渡って生じる場合もあれば、一部だけに生じる場合もある。ただし、上記したひげ状の微細な突起部は、負極活物質粒子141の形成時ごとにその表面に生じるため、空隙143は、負極活物質粒子141の露出面だけでなく、各階層にも生じている。
図4に示したように、複数の負極活物質粒子141が形成されたのち、電解鍍金法などによって金属材料144が形成されると、その金属材料144は、隙間142内に入り込む。すなわち、金属材料144は、負極活物質粒子141間の隙間142Aに入り込むと共に、負極活物質粒子141内の隙間142Bに入り込む。この場合には、負極活物質粒子141の表面に生じたひげ状の微細な突起部間の空隙143にも金属材料144が入り込む場合がある。図4において、最上層の負極活物質粒子141の表面に金属材料144が点在していることは、その点在箇所に上記した微細な突起部が存在していること表している。
ここでは具体的に図面を参照して説明しないが、金属材料に代えて、液相析出法などによって酸化物含有膜を形成した場合には、その酸化物含有膜は、負極活物質粒子141の表面に沿って成長するため、隙間142Bおよび空隙143に優先的に入り込みやすい傾向にある。この場合には、析出時間を長くすれば、酸化物含有膜が隙間142Aまで入り込みやすくなる。
セパレータ15は、正極13と負極14とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ15は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などによって構成されており、それらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。
電解質16は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。
電解液は、化7で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルを含有する溶媒と、四フッ化ホウ酸リチウムを含有する電解質塩と、化8〜化12で表されるスルホン化合物からなる群のうちの少なくとも1種とを含んでいる。
(R11〜R14は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
(R21〜R23は炭素数が0以上4以下のアルキル基であり、R24は炭素数が1以上4以下のアルキル基あるいは炭素数が2以上4以下のアルケニル基である。)
(R31は炭素数が1以上4以下のアルキレン基あるいは炭素数が2以上4以下のアルケニレン基である。)
(R41は炭素数が1以上4以下のアルキレン基あるいは炭素数が2以上4以下のアルケニレン基である。)
(R51は炭素数が1以上4以下のアルキレン基あるいは炭素数が2以上4以下のアルケニレン基である。)
(R61は炭素数が0以上3以下のアルキレン基である。)
電解液が溶媒として化7に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルを含有しているのは、負極14の表面にハロゲン系の被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。
なお、化7中のR11〜R14は、互いに同一でもよいし、異なってもよい。また、R11〜R14について説明した「ハロゲン化アルキル基」とは、アルキル基のうちの少なくとも一部の水素がハロゲンによって置換された基である。このハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でもフッ素、塩素および臭素からなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、フッ素がより好ましい。高い効果が得られるからである。もちろん、フッ素以外の他のハロゲンであってもよい。
化7に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルとしては、例えば、化13および化14で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化13に示した(1)の4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)のテトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4−フルオロ−5−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)のテトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(10)の4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(11)の4−メチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(12)の4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンである。また、化14に示した(1)の4−トリフルオロメチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−トリフルオロメチル−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)の4,4−ジフルオロ−5−(1,1−ジフルオロエチル)−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)の4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンがより好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。特に、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンよりも4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンにおいて、より高い効果が得られる。なお、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。
溶媒中における化7に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルの含有量は、特に限定されず、ハロゲンを有する環状炭酸エステルの種類などの条件に応じて、任意に設定可能である。一例を挙げれば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いる場合には、溶媒中における4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンの含有量は40重量%以上50重量%以下であるのが好ましい。また、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いる場合には、溶媒中における4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンの含有量は10重量%以上20重量%以下であるのが好ましい。優れたサイクル特性が得られるからである。
溶媒は、化7に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルと共に、他の有機溶媒などの非水溶媒のいずれか1種あるいは2種以上を含有していてもよい。この非水溶媒は、高粘度(高誘電率)溶媒(例えば、比誘電率ε≧30)あるいは低粘度溶媒(例えば、粘度≦1mPa・s)のいずれか一方だけを含んでいてもよいが、双方を含んでいるのが好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
高粘度溶媒としては、例えば、炭酸プロピレンあるいは炭酸ブチレンなどの環状炭酸エステルや、γ−ブチロラクトンあるいはγ−バレロラクトンなどのラクトンや、N−メチルピロリドンなどのラクタムや、N−メチルオキサゾリジノンなどの環状カルバミン酸エステルや、テトラメチレンスルホンなどのスルホン化合物が挙げられる。一方、低粘度溶媒としては、例えば、炭酸ジメチルあるいは炭酸ジプロピルなどの鎖状炭酸エステルや、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチルあるいはトリメチル酢酸エチルなどの鎖状カルボン酸エステルや、N,N’−ジメチルアセトアミドなどの鎖状アミドや、N,N’−ジエチルカルバミン酸メチルあるいはN,N’−ジエチルカルバミン酸エチルなどの鎖状カルバミン酸エステルや、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランあるいは1,3−ジオキソランなどのエーテルが挙げられる。もちろん、上記外の他の非水溶媒であってもよい。
また、溶媒は、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有していてもよい。サイクル特性が向上するからである。この不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸ビニレンあるいは炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
ただし、電解質16がゲル状電解質である場合における溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
電解液が電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウムを含有しているのは、膨れ特性が向上するからである。電解液中における四フッ化ホウ酸リチウムの濃度は、特に限定されないが、中でも0.02mol/kg以上0.2mol/kg以下であるのが好ましい。サイクル特性の低下を抑えつつ、優れた膨れ特性が得られるからである。
この電解質塩は、四フッ化ホウ酸リチウムと共に、他のリチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種あるいは2種以上を含有していてもよい。他のリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF6 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )あるいは四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl4 )などの無機酸リチウム塩や、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド、リチウムビス(ペンタフルオロメタンスルホン)メチドあるいはリチウムトリス(トリフルオロメタンスルホン)メチドなどのパーフルオロアルカンスルホン酸誘導体のリチウム塩が挙げられる。
中でも、六フッ化リン酸リチウムが好ましい。電解液の電気抵抗が低下するため、サイクル特性が向上するからである。特に、電解質塩が四フッ化ホウ酸リチウムと共に六フッ化リン酸リチウム等を含有する場合には、六フッ化リン酸リチウム等の割合が四フッ化ホウ酸リチウムの割合よりも多いのが好ましい。サイクル特性がより向上するからである。
電解液中における電解質塩の濃度は、0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であるのが好ましい。この範囲外では、イオン伝導性が極端に低下する可能性があるからである。
電解液が化8〜化12に示したスルホン化合物(以下、単に「スルホン化合物」とも言う。)を含有しているのは、サイクル特性が向上すると共に、膨れ特性も向上するからである。このスルホン化合物は、1つあるいは2つのスルホニル基(−SO2 −)を有する化合物の総称であり、特に、不飽和炭素結合あるいは環状構造を有し、それらの双方を有する場合もある。なお、化8に示したR21〜R24の炭素数が限定されているのは、炭素数が多くなりすぎるとスルホン化合物が化学的に不安定になり、室温で分解しやすいからである。化9〜化12に示したR31、R41、R51およびR61の炭素数が限定されている理由も同様である。
化10および化11に示したR41およびR51は、飽和炭素結合を有するアルキレン基であってもよいし、不飽和炭素結合を有するアルケニレン基であってもよいが、後者よりも前者であるのが好ましい。容易に合成可能だからである。
なお、電解液は、化8〜化12に示したスルホン化合物の他に、化15あるいは化16で表されるスルホン化合物を含有していてもよい。化15および化16に示したスルホン化合物は、化8〜化12に示したスルホン化合物と同様の構造的特徴を有する化合物であり、R71およびR81の炭素数を限定している理由は、R21〜R24の炭素数を限定している理由と同様である。
(R71は炭素数が0以上3以下のアルキレン基である。)
(R81は炭素数が0以上3以下のアルキレン基である。)
もちろん、化8〜化12、化15および化16に示したスルホン化合物は、単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
上記した一連のスルホン化合物を代表して、化8〜化12に示したスルホン化合物の具体例としては、化17で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化8に示したスルホン化合物は、化17(1)のジビニルスルホンあるいは化17(2)のメチルビニルスルホンである。化9に示したスルホン化合物は、化17(3)のプロパンスルトンあるいは化17(4)のプロペンスルトンである。化10に示したスルホン化合物は、化17(5)のスルホプロピオン酸無水物である。化11に示したスルホン化合物は、化17(6)のエタンジスルホン酸無水物あるいは化17(7)のプロパンジスルホン酸無水物である。化12に示したスルホン化合物は、化17(8)のスルホ安息香酸無水物である。
電解液中におけるスルホン化合物の含有量は、特に限定されないが、中でも0.1重量%以上5重量%以下であるのが好ましく、0.1重量%以上3重量%以下であるのがより好ましい。優れたサイクル特性および膨れ特性が得られるからである。
電解液を保持する高分子化合物としては、例えば、化18で表される構成単位を有するポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ化ビニリデンの重合体が挙げられる。酸化還元安定性が高いからである。
また、高分子化合物としては、重合性化合物が重合して形成されたものも挙げられる。この重合性化合物としては、例えば、ビニル基、あるいはその一部の水素をメチル基などの置換基で置換した基を有するものが挙げられる。具体的には、アクリル酸エステルなどの単官能アクリレートや、メタクリル酸エステルなどの単官能メタクリレートや、ジアクリル酸エステルあるいはトリアクリル酸エステルなどの多官能アクリレートや、ジメタクリル酸エステルあるいはトリメタクリル酸エステルなどの多官能メタクリレートや、アクリロニトリルや、メタクリロニトリルなどがあり、中でもアクリレート基あるいはメタクリレート基を有するエステルが好ましい。重合が進行しやすく、重合性化合物の反応率が高いからである。また、重合性化合物としては、エーテル基を有しないものが好ましい。エーテル基が存在すると、そのエーテル基にリチウムイオンが配位し、イオン伝導率が低下してしまうからである。このような高分子化合物としては、例えば、化19で表される構成単位を有するポリアクリル酸エステルが挙げられる。
(RはC
g H
2h-1O
h である。ただし、gは1以上8以下の整数であり、hは0以上4以下の整数である。)
重合性化合物は、いずれか1種の単独でもよいが、単官能体と多官能体とを混合したものが好ましく、多官能体の単独あるいは2種類以上を混合したものが好ましい。重合して形成された高分子化合物の機械的強度と電解液保持性とを両立させやすくなるからである。
さらに、高分子化合物としては、化20で表される構成単位を有するポリビニルホルマールを有するものも好ましい。ポリビニルホルマールは、アセタール基を構成単位として有する高分子化合物である。
ポリビニルホルマール中におけるアセタール基の割合は、60mol%以上80mol%以下の範囲内であるのが好ましい。溶媒との溶解性が向上すると共に、電解質16の安定性がより高くなるからである。また、ポリビニルホルマールの重量平均分子量は、10000以上500000以下であるのが好ましい。分子量が低すぎると、重合反応が進行しにくくなる可能性があり、一方、分子量が高すぎると、電解液の粘度が上昇しすぎる可能性があるからである。
上記した高分子化合物は、単独でもよいし、複数種が混合されてもよいし、2種以上の共重合体でもよい。また、架橋剤によって重合したものでもよい。
なお、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質16に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ15に含浸される。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極13からリチウムイオンが放出され、電解質16を介して負極14に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極14からリチウムイオンが放出され、電解質16を介して正極13に吸蔵される。
この二次電池は、例えば、以下の3種類の製造方法によって製造される。
第1の製造方法では、まず、正極集電体13Aの両面に正極活物質層13Bを形成して正極13を作製する。この正極活物質層13Bを形成する場合には、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを混合した正極合剤を溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとし、ドクタブレードあるいはバーコータなどによって正極合剤スラリーを正極集電体13Aに塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機などによって塗膜を圧縮成型する。
次に、負極集電体14Aの両面に負極活物質層14Bを形成して負極14を作製する。この負極活物質層14Bを形成する場合には、気相法によって負極集電体14Aの表面にケイ素を含有する負極材料を堆積させて複数の負極活物質粒子を形成する。この気相法として蒸着法を用いる場合には、蒸着源に対して負極集電体14Aを相対的に往復移動させながら複数回に渡って負極材料を堆積させて積層し、あるいは蒸着源に対して負極集電体14Aを固定させたままでシャッターの開閉を繰り返しながら複数回に渡って負極材料を堆積させて積層することにより、負極活物質粒子が粒子内に多層構造を有するようにする。この場合には、必要に応じて、液相析出法などによって負極活物質粒子の表面を被覆するように酸化物含有膜を形成したり、電解鍍金法などによって負極活物質粒子の粒子間の隙間や粒子内の隙間に金属材料を形成してもよい。
次に、化7に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルを含有する溶媒と、化8〜化12に示したスルホン化合物からなる群のうちの少なくとも1種とを混合したのち、四フッ化ホウ酸リチウムを含有する電解質塩を溶解させて、電解液を調製する。この電解液を調製する場合には、化8〜化12、化15および化16に示したスルホン化合物からなる群のうちの少なくとも1種を用いることも可能である。
次に、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製して正極13および負極14に塗布したのち、溶剤を揮発させてゲル状の電解質16を形成する。続いて、正極13に正極リード11を溶接などして取り付けると共に、負極14に負極リード12を溶接などして取り付ける。続いて、電解質16が形成された正極13と負極14とをセパレータ15を介して積層させてから長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ17を接着させて巻回電極体10を作製する。
最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材20の間に巻回電極体10を挟み込んだのち、その外装部材20の外縁部同士を熱融着などして接着させて巻回電極体10を封入する。この際、正極リード11および負極リード12と外装部材20との間に、密着フィルム21を挿入する。これにより、図1および図2に示した二次電池が完成する。
第2の製造方法では、最初に、正極13に正極リード11を取り付けると共に負極14に負極リード12を取り付けたのち、セパレータ15を介して正極13と負極14とを積層して巻回させると共に最外周部に保護テープ17を接着させて、巻回電極体10の前駆体である巻回体を作製する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材20の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などして接着させて、袋状の外装部材20の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材20の内部に注入したのち、外装部材20の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質16を形成する。これにより、二次電池が完成する。
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ15を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を作製して袋状の外装部材20の内部に収納する。このセパレータ15に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、外装部材20の内部に電解液を注入したのち、その外装部材20の開口部を熱融着などによって密封する。最後に、外装部材20に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ15を正極13および負極14に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質16が形成されるため、二次電池が完成する。
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、二次電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや溶媒などが電解質16中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極13、負極14およびセパレータ15と電解質16との間において十分な密着性が得られる。
この二次電池によれば、負極14の負極活物質粒子が、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含有する負極材料を含有し、かつ、粒子内に多層構造を有する場合に、電解液が、化7に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルを含有する溶媒と、四フッ化ホウ酸リチウムを含有する電解質塩と、化8〜化12に示したスルホン化合物からなる群のうちの少なくとも1種とを含んでいる。この場合には、上記した全ての条件を満たしていない場合と比較して、充放電を繰り返しても電解液が分解しにくくなるため、放電容量が低下しにくくなると共に二次電池が膨れにくくなる。したがって、優れたサイクル特性および膨れ特性を得ることができる。
特に、二次電池の電池構造がラミネートフィルム型であれば、充放電時における膨れが顕在化しやすいため、膨れ特性をより効果的に向上させることができる。
また、電解質塩が四フッ化ホウ酸リチウムと共に六フッ化ホウ酸リチウムを含有していれば、サイクル特性をより向上させることができる。
また、化7に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルが4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンである場合に、溶媒中における4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンの含有量が40重量%以上50重量%以下であり、あるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンである場合に、溶媒中における4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンの含有量が10重量%以上20重量%以下であれば、優れたサイクル特性を得ることができる。
また、電解液中における四フッ化ホウ酸リチウムの濃度が0.02mol/kg以上0.2mol/kg以下であれば、優れた膨れ特性を得ることができる。
また、電解液中における化8〜化12に示したスルホン化合物の含有量が0.1重量%以上5重量%以下であれば、優れたサイクル特性および膨れ特性を得ることができる。
また、負極活物質粒子の1層当たりの厚さが1μm以下であり、その負極活物質粒子の層数が10層以上であれば、優れたサイクル特性と共に高い容量を得ることができる。
また、負極活物質層14Bが、負極活物質粒子の表面を被覆する酸化物含有膜を含み、あるいは負極活物質粒子の粒子間の隙間および粒子内の隙間に電極反応物質と合金化しない金属材料を含んでいれば、サイクル特性および膨れ特性をより向上させることができる。この場合には、酸化物含有膜および金属材料の双方を含んでいれば、両特性をさらに向上させることができる。
本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
(実施例1−1)
負極活物質としてケイ素を用いて、図1および図2に示したラミネートフィルム型の二次電池を作製した。この際、負極14の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
まず、正極13を作製した。最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃×5時間の条件で焼成してリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物94質量部と、導電剤としてグラファイト3質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、バーコータによってアルミニウム箔(厚さ=20μm)からなる正極集電体13Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機によって塗膜を圧縮成型して正極活物質層13Bを形成した。この際、正極集電体13Aの片面側における正極活物質層13Bの単位面積当たりの重量を20mg/cm2 とした。最後に、正極活物質層13Bが形成された正極集電体13Aを幅50mm×長さ300mmの帯状に切断した。
次に、負極14を作製した。最初に、電子ビーム蒸着法によって電解銅箔(厚さ=12μm)からなる負極集電体14Aの両面にケイ素を堆積させて複数の負極活物質粒子を形成することにより、負極活物質層14Bを形成した。この負極活物質層14Bを形成する場合には、蒸着源に対して負極集電体14Aを相対的に往復移動させながら複数回に渡ってケイ素を堆積させて積層することにより、負極活物質粒子が粒子内に多層構造を有するようにした。この際、ケイ素の1層当たりの堆積厚さを0.3μmとし、蒸着工程と冷却工程とを25回繰り返して負極活物質粒子の層数を25層(総厚=7.5μm)とした。最後に、負極活物質層14Bが形成された負極集電体14Aを幅50mm×長さ300mmの帯状に切断した。
次に、溶媒として化7に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルである4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)および炭酸ジエチル(DEC)と、スルホン化合物であるスルホプロピオン酸無水物(SPAH)とを混合したのち、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )および四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )を溶解させて、電解液を調製した。この際、電解液中の混合比(FEC:DEC:LiPF6 :LiBF4 :SPAH)を重量比で43.02:43.02:12.03:0.93:1とした。この場合には、FECとDECとの混合比(FEC:DEC)が重量比で50:50であり、言い替えれば溶媒中におけるFECおよびDECの含有量がいずれも50重量%である。また、電解液中におけるLiPF6 およびLiBF4 の濃度がそれぞれ0.9mol/kgおよび0.1mol/kgであり、電解液中におけるSPAHの含有量が1重量%である。
次に、正極13および負極14と共に電解液を用いて二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体13Aの一端にアルミニウム製の正極リード11を溶接すると共に、負極集電体14Aの一端にニッケル製の負極リード12を溶接した。続いて、正極13と、微多孔性ポリエチレンフィルム(厚さ=9μm)からなるセパレータ15と、負極14と、上記したセパレータ15とをこの順に積層してから長手方向に多数回巻回させたのち、粘着テープからなる保護テープ17で巻き終わり部分を固定して、巻回電極体10の前駆体である巻回体を形成した。続いて、外側から、ナイロンフィルム(厚さ=30μm)と、アルミニウム箔(厚さ=40μm)と、無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ=30μm)とが積層された3層構成のラミネートフィルムからなる外装部材20の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外縁部同士を熱融着して、袋状の外装部材20の内部に巻回体を収納した。続いて、外装部材20の開口部から内部に電解液を2g注入し、その電解液をセパレータ15に含浸させて巻回電極体10を作製した。最後に、真空雰囲気中において外装部材20の開口部を熱融着して封止することにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。この二次電池の容量は、800mAhである。
(実施例1−2)
FECとDECとの混合比(FEC:DEC)を重量比で40:60に変更したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
(実施例1−3,1−4)
LiPF6 およびLiBF4 の濃度をそれぞれ0.8mol/kgおよび0.2mol/kg(実施例1−3)、あるいは0.98mol/kgおよび0.02mol/kg(実施例1−4)に変更したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
(実施例1−5〜1−7)
SPAHの含有量を0.1重量%(実施例1−5)、3重量%(実施例1−6)、あるいは5重量%(実施例1−7)に変更したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
(実施例1−8,1−9)
溶媒として、FECに代えてトランス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)を用いると共に、炭酸エチレン(EC)を加え、DFECとECとDECとの混合比(DFEC:EC:DEC)を重量比で10:40:50(実施例1−8)、あるいは20:30:50(実施例1−9)としたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
(比較例1−1)
FECに代えてECを用いると共に、LiBF4 およびSPAHを加えなかったことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この際、LiPF6 の濃度を1.0mol/kgとした。
(比較例1−2)
LIBF4 およびSPAHを加えず、LiPF6 の濃度を1.0mol/kgとしたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
(比較例1−3)
SPAHを加えなかったことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
(比較例1−4)
LIBF4 を加えず、LiPF6 の濃度を1.0mol/kgとしたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
(比較例1−5)
FECに代えてECを用いたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
(比較例1−6)
SPAHを加えなかったことを除き、実施例1−8と同様の手順を経た。
(比較例1−7)
LIBF4 を加えず、LiPF6 の濃度を1.0mol/kgとしたことを除き、実施例1−8と同様の手順を経た。
これらの実施例1−1〜1−9および比較例1−1〜1−7の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
サイクル特性を調べる際には、23℃の雰囲気中で1サイクル充放電させて放電容量を測定し、引き続き同雰囲気中でサイクル数の合計が300サイクルとなるまで繰り返し充放電させて放電容量を測定したのち、放電容量維持率(%)=(300サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100を算出した。1サイクルの充放電条件としては、800mAの定電流で上限電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で充電開始からの総時間が3時間となるまでで充電したのち、800mAの定電流で終止電圧3.0Vまで放電した。
膨れ特性を調べる際には、23℃の雰囲気中で充電して二次電池の厚さを測定し、引き続き充電状態のままで90℃の恒温槽内に4時間保存して二次電池の厚さを測定したのち、膨れ(mm)=(保存後の厚さ−保存前の厚さ)を算出した。この際、充電条件は、サイクル特性を調べる場合と同様にした。
なお、上記したサイクル特性および膨れ特性を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実施例および比較例についても同様である。
表1に示したように、電解液が、溶媒としてFECあるいはDFECと、電解質塩としてLiBF4 と、SPAHとを含む実施例1−1〜1−9では、それらの全ての条件を満たしていない比較例1−1〜1−7と比較して、高い放電容量維持率を得つつ膨れが小さく抑えられた。
この場合には、溶媒中におけるFECの含有量が40重量%以上50重量%以下であり、あるいは溶媒中におけるDFECの含有量が10重量%以上20重量%以下であると、高い放電容量維持率が得られた。また、電解液中におけるLiBF4 の濃度が0.02mol/kg以上0.2mol/kg以下であると、膨れの増加が抑えられつつ高い放電容量維持率が得られた。さらに、電解液中におけるSPAHの含有量が0.1重量%以上5重量%以下であると、放電容量維持率が高くなると共に膨れが小さくなり、0.1重量%以上3重量%以下であると、膨れの増加が抑えられつつ高い放電容量維持率が得られた。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極14の負極活物質粒子がケイ素を含有すると共に多層構造を有する場合に、電解液が溶媒としてFECあるいはDFECと電解質塩としてLiBF4 とSPAHとを含むことにより、優れたサイクル特性および膨れ特性が得られることが確認された。
(実施例2−1〜2−7)
スルホン化合物としてSPAHに代えて、ジビニルスルホン(DVS:実施例2−1)、メチルビニルスルホン(MVS:実施例2−2)、プロパンスルトン(PS:実施例2−3)、プロペンスルトン(PRS:実施例2−4)、エタンジスルホン酸無水物(ESAH:実施例2−5)、プロパンジスルホン酸無水物(PSAH:実施例2−6)、あるいはスルホ安息香酸無水物(SBAH:実施例2−7)を用いたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
これらの実施例2−1〜2−7の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
表2に示したように、電解液がDVS等を含む実施例2−1〜2−7では、SPAHを含む実施例1−1と同様に、比較例1−1〜1−4と比較して、高い放電容量維持率を得つつ膨れが小さく抑えられた。
このことから、本発明の二次電池では、電解液がDVS等を含む場合においても、SPAHを含む場合と同様に、優れたサイクル特性および膨れ特性が得られることが確認された。
なお、ここではSPAH等を単独で用いた場合の結果だけを示しており、それらを2種以上混合させた場合の結果を示していない。しかしながら、表1の結果から明らかなように、SPAH等はいずれも単独で膨れを抑える役割を果たし、それらを混合させた場合に膨れが増加する特別な理由も考えられないことから、SPAH等を2種以上混合させた場合においても単独で用いた場合と同様の結果が得られることは明らかである。
(実施例3−1)
負極活物質粒子の層数を25層に代えて10層としたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この際、ケイ素の1層当たりの堆積厚さを0.75μmとし、蒸着工程と冷却工程とを10回繰り返して負極活物質粒子の総厚を7.5μmとした。
(実施例3−2)
負極活物質層14Bを形成する場合に、複数の負極活物質粒子を形成したのち、液相析出法によって負極活物質粒子の表面に酸化物含有膜としてケイ素の酸化物(SiO2 )を析出させたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この酸化物含有膜を形成する場合には、ケイフッ化水素酸にアニオン補足剤としてホウ素を溶解させた溶液中に、負極活物質粒子が形成された負極集電体14Aを3時間浸積し、その負極活物質粒子の表面にケイ素の酸化物を析出させたのち、水洗して減圧乾燥した。
(実施例3−3)
負極活物質層14Bを形成する場合に、複数の負極活物質粒子を形成したのち、電解鍍金法によって金属材料としてコバルト(Co)の鍍金膜を成長させたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この金属材料を形成する場合には、鍍金浴にエアーを供給しながら通電して負極集電体14Aの両面にコバルトを堆積させた。この際、鍍金液として日本高純度化学株式会社製のコバルト鍍金液を用い、電流密度を2A/dm2 〜5A/dm2 とし、鍍金速度を10nm/秒とした。
(実施例3−4)
実施例3−2,3−3で説明した手順により、酸化物含有膜としてケイ素の酸化物を析出させたのち、さらに金属材料としてコバルトの鍍金膜を成長させたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
(比較例2)
負極活物質粒子の層数を25層に代えて1層としたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この際、ケイ素の堆積厚さ(負極活物質粒子の厚さ)を7.5μmとした。
これらの実施例3−1〜3−4および比較例2の二次電池についてサイクル特性および膨れ特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
表3に示したように、負極活物質粒子の厚さを一定(7.5μm)とすると、負極活物質粒子が多層構造を有する実施例1−1,3−1では、単層構造を有する比較例2と比較して、膨れがほぼ同等に維持されつつ放電容量維持率が高くなった。この場合には、負極活物質粒子の層数が多くなるにしたがって放電容量維持率が高くなり、10層以上になると放電容量維持率が十分に高くなった。
また、酸化物含有膜や金属材料を形成した実施例3−2〜3−4では、それらを形成しなかった実施例1−1と比較して、膨れがほぼ同等に維持されつつ放電容量維持率が高くなった。この場合には、金属材料を形成した場合において放電容量維持率がより高くなり、酸化物含有膜および金属材料の双方を形成した場合において放電容量維持率がさらに高くなる傾向を示した。
なお、ここでは1回の蒸着工程で堆積させるケイ素の堆積厚さが0.3μmあるいは0.75μmである場合の結果しか示していないが、十分なサイクル特性を得るために必要なケイ素の堆積厚さの上限値を調べたところ、その上限値は1μmであった。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質粒子が多層構造を有することでサイクル特性が向上すると共に、負極活物質粒子の1層の厚さが1μm以下である場合にその層数が10層以上であれば十分な特性が得られることが確認された。また、酸化物含有膜や金属材料を形成すればサイクル特性がより向上し、酸化物含有膜よりも金属材料、さらに双方を形成すれば特性が著しく向上することも確認された。
上記した表1〜表3の結果から、本発明の二次電池では、負極の負極活物質粒子が、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を有する材料を含有し、かつ、粒子内に多層構造を有する場合に、電解液が、化7に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルを含有する溶媒と、四フッ化ホウ酸リチウムを含有する電解質塩と、化8〜化12に示したスルホン化合物からなる群のうちの少なくとも1種とを含むことにより、溶媒の組成や、電解質塩の濃度や、スルホン化合物の含有量などに依存せずに、優れたサイクル特性および膨れ特性が得られることが確認された。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記した実施の形態および実施例では、本発明の電池の電解質として、電解液、あるいは電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合について説明したが、他の種類の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス、イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したものや、他の無機化合物と電解液とを混合したものや、これらの無機化合物とゲル状電解質とを混合したものなどが挙げられる。
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の電池として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の電池は、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量とリチウムの析出および溶解に基づく容量とを含み、かつそれらの容量の和によって表される二次電池についても同様に適用可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他の短周期型周期表における1A族元素や、マグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などの2A族元素や、アルミニウムなどの他の軽金属を用いてもよい。この場合においても、上記実施の形態で説明した負極材料を用いることが可能である。
また、上記した実施の形態または実施例では、本発明の電池について、電池構造がラミネートフィルム型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、本発明の電池は、円筒型、角型、コイン型あるいはボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。
また、上記実施の形態および実施例では、本発明の電池に関し、電解液中におけるスルホン化合物の含有量について、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明しているが、その説明は、含有量が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、含有量が上記した範囲から多少外れてもよい。このことは、ハロゲンを有する環状炭酸エステルの含有量や四フッ化ホウ酸リチウムの濃度などについても同様である。
10…巻回電極体、11…正極リード、12…負極リード、13…正極、13A…正極集電体、13B…正極活物質層、14…負極、14A…負極集電体、14B…負極活物質層、15…セパレータ、16…電解質、17…保護テープ、20…外装部材、21…密着フィルム、141…負極活物質粒子、142(142A,142B)…隙間、143…空隙、144…金属材料。