以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る二次電池の断面構造を表すものである。この二次電池は、負極の容量が電極反応物質であるリチウムの析出および溶解による容量成分により表される、いわゆるリチウム金属二次電池である。この二次電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20を有している。電池缶11は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12,13がそれぞれ配置されている。
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、この電池蓋14の内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
巻回電極体20は、例えば、センターピン24を中心に巻回されている。巻回電極体20の正極21にはアルミニウム(Al)などよりなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケルなどよりなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接され電気的に接続されている。
図2は図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表すものである。正極21は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられた構造を有している。なお、図示はしないが、正極集電体21Aの片面のみに正極活物質層21Bを設けるようにしてもよい。正極集電体21Aは、例えば、厚みが5μm〜50μm程度であり、アルミニウム箔,ニッケル箔あるいはステンレス箔などの金属箔により構成されている。正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料の1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて導電剤および結着剤を含んで構成されている。正極活物質層21Bの厚みは、例えば、60μm〜250μmである。なお、正極活物質層21Bの厚みは、正極活物質層21Bが正極集電体21Aの両面に設けられている場合には、その合計の厚みである。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、エネルギー密度を高くするために、リチウムと遷移金属元素と酸素(O)とを含むリチウム含有化合物が好ましく、中でも、遷移金属元素として、コバルト(Co),ニッケル,マンガン(Mn)および鉄からなる群のうちの少なくとも1種を含むものであればより好ましい。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、LiCoO2 ,LiNi0.5 Co0.5 O2 ,LiMn2 O4 あるいはLiFePO4 が挙げられる。
なお、このような正極材料は、例えば、リチウムの炭酸塩,硝酸塩,酸化物あるいは水酸化物と、遷移金属の炭酸塩,硝酸塩,酸化物あるいは水酸化物とを所望の組成になるように混合し、粉砕した後、酸素雰囲気中において600℃〜1000℃の範囲内の温度で焼成することにより調製される。
導電剤としては、例えば、黒鉛,カーボンブラックあるいはケッチェンブラックなどの炭素材料が挙げられ、そのうちの1種または2種以上が混合して用いられる。また、炭素材料の他にも、導電性を有する材料であれば金属材料あるいは導電性高分子材料などを用いるようにしてもよい。結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム,フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンゴムなどの合成ゴム、またはポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられ、そのうちの1種または2種以上が混合して用いられる。例えば、図1に示したように正極21および負極22が巻回されている場合には、結着剤として柔軟性に富むスチレンブタジエン系ゴムあるいはフッ素系ゴムなどを用いることが好ましい。
負極22は、例えば、対向する一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられた構造を有している。なお、図示はしないが、負極集電体22Aの片面のみに負極活物質層22Bを設けるようにしてもよい。負極集電体22Aは、例えば、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する銅箔,ニッケル箔あるいはステンレス箔などの金属箔により構成されている。特に、銅箔は高い電気伝導性を有するので最も好ましい。負極集電体22Aの厚みは、例えば、5μm〜40μm程度であることが好ましい。5μmよりも薄いと機械的強度が低下し、製造工程において負極集電体22Aが断裂しやすく、生産効率が低下してしまうからであり、40μmよりも厚いと電池内における負極集電体22Aの体積比が必要以上に大きくなり、エネルギー密度を高くすることが難しくなるからである。
負極活物質層22Bは、例えば、負極活物質であるリチウム金属により形成されており、これにより高いエネルギー密度を得ることができるようになっている。負極活物質層22Bは、組み立て時から既に有するように構成してもよいが、組み立て時には存在せず、充電時に析出したリチウム金属により構成するようにしてもよい。また、負極活物質層22Bを集電体としても利用し、負極集電体22Aを削除するようにしてもよい。
セパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン,ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多孔質膜により構成されており、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜はショート防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100℃以上160℃以下の範囲内においてシャットダウン効果を得ることができ、かつ電気化学的安定性にも優れているので、セパレータ23を構成する材料として好ましい。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも化学的安定性を備えた樹脂であればポリエチレンあるいはポリプロピレンと共重合させたり、またはブレンド化することで用いることができる。
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含んでいる。
溶媒としては、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体を含んでおり、中でも、化1に示した環式炭酸エステル誘導体を含むことが望ましい。負極22における溶媒の分解反応を抑制することができるからである。溶媒には、1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
(式中、R1,R2,R3およびR4は、水素基、フッ素基、塩素基、臭素基、またはメチル基,エチル基あるいはそれらのうちの少なくとも一部の水素をフッ素基,塩素基,臭素基で置換した基を表す。R1,R2,R3およびR4のうちの少なくとも一つはハロゲンを有する基であり、同一のものがあってもよいし、すべてが異なっていてもよい。)
化1に示した環式炭酸エステル誘導体について具体的に例を挙げれば、化2の(1−1)〜(1−14),化3の(1−15)〜(1−23)に示した化合物などがある。
溶媒における環式炭酸エステル誘導体の含有量は、50体積%以下であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体は、また、従来より使用されている種々の溶媒と混合して用いてもよい。このような溶媒について具体例を挙げれば、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピロニトリル、N,N−ジメチルフォルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、ジメチルスルフォキシド、燐酸トリメチルが挙げられる。中でも、優れた充放電容量特性および充放電サイクル特性を実現するためには、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ビニレン、炭酸ジメチルおよび炭酸エチルメチルからなる群のうちの少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの溶媒は、単独で混合してもよく、複数種を混合して用いてもよい。
電解質塩としては、LiBF4 を含んでいる。溶媒の分解反応をより抑制することができるからである。
電解液におけるLiBF4 の濃度は、0.1mol/kg以上1.5mol/kg以下の範囲内であることが好ましい。この範囲内で高い効果が得られるからである。
また、電解質塩には、LiBF4 に加えて、他の軽金属塩のいずれか1種または2種以上を混合して用いることが好ましい。保存特性などの電池特性を向上させることができると共に、内部抵抗を低減させることができるからである。他の軽金属塩としては、例えば、LiB(C6 H5 )4 、LiCH3 SO3 、LiCF3 SO3 、LiAlCl4 、LiSiF6 、LiCl、LiBr、LiPF6 、LiB(OCOCF3 )4 、LiB(OCOC2 F5 )4 、LiClO4 、LiAsF6 、またはLiN(CF3 SO2 )2 ,LiN(C2 F5 SO2 )2 あるいはLiN(C4 F9 SO2)( CF3 SO2 )などの化4に示したリチウム塩、またはLiC(CF3 SO2 )3 などの化5に示したリチウム塩が挙げられる。
中でも、LiPF6 、LiB(OCOCF3 )4 、LiB(OCOC2 F5 )4 、LiClO4 、LiAsF6 、化4に示したリチウム塩および化5に示したリチウム塩からなる群のうちの少なくとも1種を含むようにすれば、より高い効果を得ることができると共に、高い導電率を得ることができるので好ましく、LiPF6 と、LiB(OCOCF3 )4 、LiB(OCOC2 F5 )4 、LiClO4 ,LiAsF6 ,化4に示したリチウム塩および化5に示したリチウム塩からなる群のうちの少なくとも1種とを混合して用いるようにすれば、更に好ましい。
電解質塩の含有量(濃度)は、溶媒に対して、0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下の範囲内であることが好ましい。この範囲外ではイオン伝導度の極端な低下により十分な電池特性が得られなくなる場合があるからである。
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料と、導電剤と、結着剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。次いで、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して正極活物質層21Bを形成し、正極21を作製する。
また、例えば、負極22として、負極集電体22Aを用意する。なお、負極22には、リチウム金属をそのまま用いてもよいし、負極集電体22Aにリチウム金属を貼り付けて負極活物質層22Bを形成したものを用いてもよい。
続いて、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などにより取り付ける。そののち、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接して、巻回した正極21および負極22を一対の絶縁板12,13で挟み電池缶11の内部に収納する。正極21および負極22を電池缶11の内部に収納したのち、電解液を電池缶11の内部に注入し、セパレータ23に含浸させる。そののち、電池缶11の開口端部に電池蓋14,安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。これにより、図1に示した二次電池が形成される。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、電解液を介して、負極集電体22Aの表面にリチウム金属となって析出し、図2に示したように、負極活物質層22Bを形成する。放電を行うと、例えば、負極活物質層22Bからリチウム金属がリチウムイオンとなって溶出し、電解液を介して正極21に吸蔵される。ここでは、電解液にハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体とLiBF4 とが含まれているので、負極22における溶媒の分解反応が抑制される。よって、負極22におけるリチウムの充放電効率が向上する。
このように本実施の形態では、電解液にハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、LiBF4 とを含むようにしたので、負極22における溶媒の分解反応を抑制することができる。よって、負極22における充放電効率が向上し、サイクル特性を向上させることができる。
また、電解質塩としてLiBF4 に加えて、他の軽金属塩を用いるようにすれば、サイクル特性をより向上させることができる。
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る二次電池は、負極の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表されるものである。
この二次電池は、負極活物質層の構成が異なることを除き、他は第1の実施の形態に係る二次電池と同様の構成および効果を有しており、同様にして製造することができる。よって、ここでは、図1および図2を参照し、同一の符号を用いて説明する。なお、同一部分についての詳細な説明は省略する。
負極活物質層22Bは、例えば、負極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料を含んで構成されており、必要に応じて正極活物質層21Bと同様の結着剤を含んでいてもよい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、黒鉛,難黒鉛化性炭素あるいは易黒鉛化性炭素などの炭素材料が挙げられる。このような炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるからである。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができ好ましい。
黒鉛としては、例えば、真密度が2.10g/cm3 以上のものが好ましく、2.18g/cm3 以上のものであればより好ましい。なお、このような真密度を得るには、(002)面のC軸結晶子厚みが14.0nm以上であることが必要である。また、(002)面の面間隔は0.340nm未満であることが好ましく、0.335nm以上0.337nm以下の範囲内であればより好ましい。
難黒鉛化性炭素としては、(002)面の面間隔が0.37nm以上、真密度が1.70g/cm3 未満であると共に、空気中での示差熱分析(differential thermal analysis ;DTA)において700℃以上に発熱ピークを示さないものが好ましい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、また、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む材料も挙げられる。このような負極材料を用いれば、高いエネルギー密度を得ることができるので好ましく、特に上述した炭素材料と共に用いるようにすれば、高いエネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるのでより好ましい。
この負極材料は金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、またこれらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には固溶体,共晶(共融混合物),金属間化合物あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
この負極材料を構成する金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成可能なマグネシウム(Mg),ホウ素(B),アルミニウム,ガリウム(Ga),インジウム(In),ケイ素(Si),ゲルマニウム(Ge),スズ(Sn),鉛(Pb),ビスマス(Bi),カドミウム(Cd),銀(Ag),亜鉛(Zn),ハフニウム(Hf),ジルコニウム(Zr),イットリウム(Y),パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)が挙げられる。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。
中でも、この負極材料としては、短周期型周期表における4B族の金属元素あるいは半金属元素を構成元素として含むものが好ましく、特に好ましいのはケイ素およびスズの少なくとも一方を構成元素として含むものである。ケイ素およびスズは、リチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素,ニッケル,銅(Cu),鉄,コバルト,マンガン,亜鉛,インジウム,銀,チタン(Ti),ゲルマニウム,ビスマス,アンチモン(Sb),およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ,ニッケル,銅,鉄,コバルト,マンガン,亜鉛,インジウム,銀,チタン,ゲルマニウム,ビスマス,アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
スズの化合物あるいはケイ素の化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素(C)を含むものが挙げられ、スズまたはケイ素に加えて、上述した第2の構成元素を含んでいてもよい。
負極活物質層22Bは、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極21の充電容量よりも小さくすることにより、充電の過程において、開回路電圧(すなわち電池電圧)が過充電電圧よりも低い時点で負極22にリチウム金属が析出し始めるようになっている。従って、この二次電池では、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料とリチウム金属との両方が負極活物質として機能し、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料はリチウム金属が析出する際の基材となっている。
なお、過充電電圧というのは、電池が過充電状態になった時の開回路電圧を指し、例えば、日本蓄電池工業会(電池工業会)の定めた指針の一つである「リチウム二次電池安全性評価基準ガイドライン」(SBA G1101)に記載され定義される「完全充電」された電池の開回路電圧よりも高い電圧を指す。また換言すれば、各電池の公称容量を求める際に用いた充電方法、標準充電方法、もしくは推奨充電方法を用いて充電した後の開回路電圧よりも高い電圧を指す。
これにより、この二次電池では、負極22にリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料を用いるという点では従来のリチウムイオン二次電池と同様であり、また、負極22にリチウム金属を析出させるという点では従来のリチウム金属二次電池と同様であるが、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料にリチウム金属を析出するようにしたことにより、高いエネルギー密度を得ることができると共に、サイクル特性および急速充電特性を向上させることができるようになっている。
この二次電池では、充電を行うと、正極21からリチウムイオンが放出され、電解液を介して、まず、負極22に含まれるリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料に吸蔵される。更に充電を続けると、開回路電圧が過充電電圧よりも低い状態において、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の表面にリチウム金属が析出し始める。そののち、充電を終了するまで負極22にはリチウム金属が析出し続ける。次いで、放電を行うと、まず、負極22に析出したリチウム金属がイオンとなって溶出し、電解液を介して、正極21に吸蔵される。更に放電を続けると、負極22中のリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料に吸蔵されたリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極21に吸蔵される。ここでは、電解液にハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、LiBF4 とが含まれているので、負極22における溶媒の分解反応が抑制される。よって、負極22におけるリチウムの充放電効率が向上する。
(第3の実施の形態)
図3は、第3の実施の形態に係る二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30をフィルム状の外装部材40の内部に収容したものであり、小型化,軽量化および薄型化が可能となっている。
正極リード31および負極リード32は、それぞれ、外装部材40の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。正極リード31および負極リード32は、例えば、アルミニウム,銅,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルム側と巻回電極体30とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
なお、外装部材40は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム,ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
図4は、図3に示した巻回電極体30のI−I線に沿った断面構造を表すものである。巻回電極体30は、正極33と負極34とをセパレータ35および電解質層36を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ37により保護されている。
正極33は、正極集電体33Aの片面あるいは両面に正極活物質層33Bが設けられた構造を有している。負極34は、負極集電体34Aの片面あるいは両面に負極活物質層34Bが設けられた構造を有しており、負極活物質層34Bの側が正極活物質層33Bと対向するように配置されている。正極集電体33A,正極活物質層33B,負極集電体34A,負極活物質層34Bおよびセパレータ35の構成は、それぞれ第1あるいは第2の実施の形態で説明した正極集電体21A,正極活物質層21B,負極集電体22A,負極活物質層22Bおよびセパレータ23と同様である。
電解質層36は、電解液と、この電解液を保持する保持体となる高分子化合物とを含み、いわゆるゲル状となっている。ゲル状の電解質層36は電池の漏液を防止することができるので好ましい。ゲル状の電解質は、イオン伝導度が室温で1mS/cm以上であるものであればよく、組成および高分子化合物の構造に特に限定はない。電解液(すなわち溶媒および電解質塩など)の構成は、第1あるいは第2の実施の形態と同様である。高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンあるいはポリカーボネートが挙げられる。特に、電気化学的安定性の点からは、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドの構造を持つ高分子化合物を用いることが望ましい。電解液に対する高分子化合物の添加量は、両者の相溶性によっても異なるが、通常、電解液の5質量%〜50質量%に相当する高分子化合物を添加することが好ましい。
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、正極33および負極34のそれぞれに、電解液と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を塗布し、混合溶剤を揮発させて電解質層36を形成する。そののち、正極集電体33Aの端部に正極リード31を溶接により取り付けると共に、負極集電体34Aの端部に負極リード32を溶接により取り付ける。次いで、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して、最外周部に保護テープ37を接着して巻回電極体30を形成する。最後に、例えば、外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込み、外装部材40の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間には密着フィルム41を挿入する。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
また、この二次電池は、次のようにして作製してもよい。まず、正極33および負極34に正極リード31および負極リード32を取り付けたのち、正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ37を接着して、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成する。次いで、この巻回体を外装部材40に挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材40の内部に収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を用意し、外装部材40の内部に注入する。
電解質用組成物を注入したのち、外装部材40の開口部を真空雰囲気下で熱融着して密封する。次いで、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることによりゲル状の電解質層36を形成し、図3および図4に示した二次電池が完成する。
この二次電池は、第1あるいは第2の実施の形態に係る二次電池と同様の作用および効果を有している。
なお、ゲル状の電解質に代えて、液状の電解質である電解液を用いてもよい。電解液の構成は上述した通りである。この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、上述したように正極33および負極34に正極リード31および負極リード32を取り付けたのち、正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ37を接着して、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成する。次いで、この巻回体を外装部材40に挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材40の内部に収納する。続いて、電解液を外装部材40の内部に注入する。そののち、外装部材40の開口部を真空雰囲気下で熱融着して密封する。これにより図3に示した二次電池が完成する。
更に、本発明の具体的な実施例について、詳細に説明する
(実施例1−1〜1−5)
負極22の容量が、リチウムの析出および溶解による容量成分により表される電池、いわゆるリチウム金属二次電池を作製した。その際、電池は、図1に示したものとした。
まず、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを、Li2 CO3 :CoCO3 =0.5:1(モル比)の割合で混合し、空気中において900℃で5時間焼成して、正極材料としてのリチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。次いで、このリチウム・コバルト複合酸化物91質量部と、導電剤であるグラファイト6質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤を調製した。続いて、この正極合剤を溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとし、厚み20μmの帯状アルミニウム箔よりなる正極集電体21Aの両面に均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層21Bを形成し正極21を作製した。そののち、正極集電体21Aの一端にアルミニウム製の正極リード25を取り付けた。
また、厚み10μmの帯状銅箔よりなる負極集電体22Aに、厚み30μmのリチウム金属箔を貼り付けて負極活物質層22Bを形成し、負極22を作製した。
正極21および負極22をそれぞれ作製したのち、厚み25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムよりなるセパレータ23を用意し、負極22,セパレータ23,正極21,セパレータ23の順に積層してこの積層体を渦巻状に多数回巻回し、巻回電極体20を作製した。
巻回電極体20を作製したのち、巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で挟み、負極リード26を電池缶11に溶接すると共に、正極リード25を安全弁機構15に溶接して、巻回電極体20をニッケルめっきした鉄製の電池缶11の内部に収納した。そののち、電池缶11の内部に電解液を減圧方式により注入した。
電解液には、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、炭酸ジメチル(DMC)とを、環式炭酸エステル誘導体:炭酸ジメチル=30:70の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiBF4 とLiPF6 とをそれぞれ0.5mol/kgとなるように溶解させたものを用いた。その際、環式炭酸エステル誘導体は、実施例1−1では4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、実施例1−2では4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(ClEC)、実施例1−3では4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン(BrEC)、実施例1−4では4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン(FPC)、実施例1−5では4−クロロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン(ClPC)とした。
電池缶11の内部に電解液を注入したのち、表面にアスファルトを塗布したガスケット17を介して電池蓋14を電池缶11にかしめることにより、実施例1−1〜1−5について直径14mm、高さ65mmの円筒型二次電池を得た。
実施例1−1〜1−5に対する比較例1−1,1−2として、電解液に、炭酸エチレン(EC)と、炭酸ジメチルとを、炭酸エチレン:炭酸ジメチル=30:70の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiBF4 とLiPF6 とをそれぞれ0.5mol/kgとなるように溶解させたもの、または4−フルオロ−1,3−ジオキシラン−2−オンと、炭酸ジメチルとを、4−フルオロ−1,3−ジオキシラン−2−オン:炭酸ジメチル=30:70の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF6 を1.0mol/kgとなるように溶解させたものを用いたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして二次電池を作製した。
更にまた、比較例1−3〜1−5として、負極材料に人造黒鉛を用い、電解液の組成を変えたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして二次電池を作製した。その際、負極は、人造黒鉛粉末90質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合し、溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンを添加して厚み15μmの帯状銅箔よりなる負極集電体22Aの両面に均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して負極活物質層22Bを形成することにより作製した。また、電解液には、炭酸エチレンと、炭酸ジメチルとを、炭酸エチレン:炭酸ジメチル=30:70の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF6 を1.0mol/kgとなるように溶解させたもの、または4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと、炭酸ジメチルとを、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン:炭酸ジメチル=30:70の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF6 を1.0mol/kgとなるように溶解させたもの、または4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと、炭酸ジメチルとを、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン:炭酸ジメチル=30:70の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiBF4 とLiPF6 とをそれぞれ0.5mol/kgとなるように溶解させたものを用いたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして二次電池を作製した。なお、負極22の容量がリチウムの吸蔵および放出による容量成分により表されるように、正極21と負極22との面積密度比を設計した。
得られた実施例1−1〜1−5および比較例1−1〜1−5の二次電池について、次のようにしてサイクル特性を測定した。
まず、100mAの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで定電流充電を行ったのち、4.2Vの定電圧で電流が1mAに達するまで定電圧充電を行い、引き続き、300mAの定電流で電池電圧が3.0Vに達するまで定電流放電を行った。この充放電を繰返し、サイクル特性は、初回放電容量(1サイクル目の放電容量)に対する100サイクル目の放電容量維持率(100サイクル目の放電容量/初回放電容量)×100(%)として求めた。得られた結果を表1に示す。
表1から分かるように、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、LiBF4 とを用いた実施例1−1〜1−5によれば、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体を用いていない比較例1−1、あるいはLiBF4 を用いていない比較例1−2よりも高い放電容量維持率が得られた。また、負極材料に人造黒鉛を用いた比較例1−3〜1−5によれば、ハロゲン原子を有する環状炭酸エステル誘導体と、LiBF4 とを混合しても、放電容量維持率は向上しなかった。
すなわち、負極活物質にリチウム金属を用いた場合に、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、LiBF4 とを用いるようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
(実施例2−1〜2−3)
溶媒における4−フルオロ−1, 3−ジオキシラン−2−オンの含有量を50体積%,20体積%または5体積%としたことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。その際、溶媒は、実施例2−1では4−フルオロ−1, 3−ジオキシラン−2−オンと炭酸ジメチルとを、4−フルオロ−1, 3−ジオキシラン−2−オン:炭酸ジメチル=50:50の体積比で混合した。また、実施例2−2,2−3では、4−フルオロ−1, 3−ジオキシラン−2−オンと炭酸エチレンと炭酸ジメチルとを、4−フルオロ−1, 3−ジオキシラン−2−オン:炭酸エチレン:炭酸ジメチル=20:10:70または5:25:70の体積比で混合した。
得られた実施例2−1〜2−3の二次電池について、実施例1−1〜1−5と同様にしてサイクル特性を測定した。結果を実施例1−1および比較例1−1の結果と共に表2に示す。
表2から分かるように、放電容量維持率は、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンの含有量が大きくなるに伴い上昇し、極大値を示したのち低下する傾向が観られた。
すなわち、溶媒におけるハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体の含有量は50体積%以下とすることが好ましいことが分かった。
(実施例3−1〜3−6)
電解質塩であるLiBF4 の濃度を1.6mol/kg、1.5mol/kg、1.25mol/kg、1.0mol/kg、0.8mol/kgまたは0.1mol/kgとしたことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。その際、実施例3−5,3−6では、他の電解質塩としてLiPF6 を0.2mol/kg、または0.9mol/kgとなるように溶解させた。
得られた実施例3−1〜3−6の二次電池について、実施例1−1〜1−5と同様にしてサイクル特性を測定した。結果を実施例1−1および比較例1−2の結果と共に表3に示す。
表3から分かるように、LiBF4 の濃度が0.1mol/kg以上1.6mol/kgの範囲内、特に0.1mol/kg以上1.5mol/kgの範囲内において、高い放電容量維持率が得られた。
すなわち、LiBF4 の濃度は、0.1mol/kg以上1.5mol/kg以下の範囲内とすることが好ましいことが分かった。
(実施例4−1〜4−7)
リチウムの吸蔵および放出による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表される二次電池を作製した。その際、負極材料に人造黒鉛を用い、比較例1−3〜1−5と同様にして負極22を作製したことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして二次電池を作製した。また、電解液には、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと、炭酸エチレンと、炭酸ジメチルとを表4に示した割合で混合した溶媒に、LiBF4 とLiPF6 とを表4に示した濃度となるように溶解したものを用いた。なお、負極22の容量がリチウムの吸蔵および放出による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表されるように、正極材料と負極材料との充填量を設計した。
実施例4−1〜4−7に対する比較例4−1,4−2として、電解液に、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと、炭酸ジメチルとを、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン:炭酸ジメチル=30:70の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF6 を1.0mol/kgとなるように溶解させたもの、または炭酸エチレンと、炭酸ジメチルとを、炭酸エチレン:炭酸ジメチル=30:70の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiBF4 とLiPF6 とをそれぞれ0.5mol/kgとなるように溶解したものを用いたことを除き、他は実施例4−1〜4−7と同様にして二次電池を作製した。
得られた実施例4−1〜4−7および比較例4−1,4−2の二次電池について、実施例1−1〜1−5と同様にしてサイクル特性を測定した。それらの結果を表4に示す。
また、実施例4−1〜4−7および比較例4−1,4−2の二次電池について、目視および7 Li核磁気共鳴分光法により負極22にリチウム金属およびリチウムイオンが存在しているか否かを調べた。
7 Li核磁気共鳴分光法による結果、実施例4−1〜4−7および比較例4−1,4−2の二次電池では、完全充電状態において265ppm付近にリチウム金属に帰属されるピークが確認され、また、44ppm付近にリチウムイオンに帰属されるピークが確認された。これらのピーク位置は外部標準塩化リチウムに対する数値である。一方、完全放電状態においては、リチウム金属に帰属されるピークが確認されなかった。また、目視によっても、完全充電状態においてのみリチウム金属が確認された。すなわち、負極22の容量は、リチウムの吸蔵および放出による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表されることが確認された。
表4から分かるように、実施例1−1〜1−5と同様に、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、LiBF4 とを用いた実施例4−1〜4−7によれば、LiBF4 を用いていない比較例4−1、あるいはハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体を用いていない比較例4−2よりも放電容量維持率が向上した。
すなわち、負極22の容量が、軽金属の吸蔵および放出による容量成分と、軽金属の析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和で表される二次電池の場合にも、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、LiBF4 とを用いるようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
(実施例5−1〜5−5,6−1〜6−5)
負極22の容量が、リチウムの析出および溶解による容量成分により表される電池、すなわちリチウム金属二次電池を作製した。
実施例5−1〜5−5では、実施例1−1〜1−5と同様にして作製した正極33および負極34に、正極リード31および負極リード32を取り付け、これらをセパレータ35を介して積層し巻回したのち、ラミネートフィルムよりなる外装部材40に挟み込み、電解液を注入して密封することにより二次電池を作製した。ラミネートフィルムは、外側からナイロン−アルミニウム−無延伸ポリプロピレンよりなり、厚みをそれぞれ30μm、40μm、30μmとした合計100μmのものとした。正極集電体33Aは、厚み12μmの帯状アルミニウム箔とした。
また、実施例6−1〜6−5では、幅30mm×高さ48mm×厚み5mmの角型容器を用いたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして二次電池を作製した。正極集電体は、厚み12μmの帯状アルミニウム箔とした。
これらの実施例では、電解液に、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、炭酸ジメチルとを、環式炭酸エステル誘導体:炭酸ジメチル=30:70の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiBF4 とLiPF6 とをそれぞれ0.5mol/kgとなるように溶解させたものを用いた。環式炭酸エステルは、実施例5−1,6−1では4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、実施例5−2,6−2では4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、実施例5−3,6−3では4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン、実施例5−4,6−4では4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、実施例5−5,6−5では4−クロロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンとした。
実施例5−1〜5−5,6−1〜6−5に対する比較例5−1,6−1として、電解液に、炭酸エチレンと、炭酸ジメチルとを、炭酸エチレン:炭酸ジメチル=30:70の体積比で混合した溶媒に、電解質塩とLiBF4 とLiPF6 とをそれぞれ0.5mol/kgとなるように溶解したものを用いたことを除き、他は実施例5−1〜5−5,6−1〜6−5と同様にして二次電池を作製した。また、比較例5−2,6−2として、電解液に、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと、炭酸ジメチルとを、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン:炭酸ジメチル=30:70の体積比で混合した溶媒に、電解質塩とLiPF6 を1.0mol/kgとなるように溶解したものを用いたことを除き、他は実施例5−1〜5−5,6−1〜6−5と同様にして二次電池を作製した。
作製した実施例5−1〜5−5,6−1〜6−5および比較例5−1,5−2,6−1,6−2の二次電池について、実施例1−1〜1−5と同様にして放電容量維持率を調べた。結果を表5, 6に示す。
表5,6から分かるように、実施例1−1〜1−5と同様に、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、LiBF4 とを用いた実施例5−1〜5−5,6−1〜6−5によれば、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体を用いていない比較例5−1,6−1、あるいはLiBF4 を用いていない比較例5−2,6−2よりも高い放電容量維持率が得られた。
すなわち、他の外装部材を用いた場合にも、ハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体と、LiBF4 とを用いるようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
(実施例7−1〜7−3,8−1〜8−3)
溶媒における4−フルオロ−1, 3−ジオキシラン−2−オンの含有量を50体積%,20体積%または5体積%としたことを除き、すなわち、実施例2−1〜2−3と同様の電解液を用いたことを除き、他は実施例5−1,6−1と同様にして二次電池を作製した。
得られた実施例7−1〜7−3,8−1〜8−3の二次電池について、実施例1−1〜1−5と同様にしてサイクル特性を測定した。結果を実施例5−1,6−1および比較例5−1,6−1の結果と共に表7,8に示す。
表7,8から分かるように、実施例2−1〜2−3と同様に、放電容量維持率は、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンの含有量が大きくなるに伴い上昇し、極大値を示したのち低下する傾向が観られた。
すなわち、他の外装部材を用いた場合にも、溶媒におけるハロゲン原子を有する環式炭酸エステル誘導体の含有量は50体積%以下とすることが好ましいことが分かった。
(実施例9−1〜9−6,10−1〜10−6)
電解質塩であるLiBF4 の濃度を1.6mol/kg、1.5mol/kg、1.25mol/kg、1.0mol/kg、0.8mol/kgまたは0.1mol/kgとしたことを除き、すなわち、実施例3−1〜3−6と同様の電解液を用いたことを除き、他は実施例5−1,6−1と同様にして二次電池を作製した。
得られた実施例9−1〜9−6,10−1〜10−6の二次電池について、実施例1−1〜1−5と同様にしてサイクル特性を測定した。結果を実施例5−1,6−1および比較例5−2,6−2の結果と共に表9,10に示す。
表9,10から分かるように、LiBF4 の濃度が0.1mol/kg以上1.6mol/kgの範囲内、特に0.1mol/kg以上1.5mol/kgの範囲内において、高い放電容量維持率が得られた。
すなわち、他の外装部材を用いた場合にも、LiBF4 の濃度は0.1mol/kg以上1.5mol/kg以下の範囲内とすることが好ましいことが分かった。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例においては、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他の1A族元素、またはマグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などの2A族元素、またはアルミニウムなどの他の軽金属、またはリチウムあるいはこれらの合金を用いる場合についても、本発明を適用することができ、同様の効果を得ることができる。その際、負極活物質には、上記実施の形態で説明したような負極材料を同様にして用いることができる。
また、上記実施の形態および実施例においては、電解液または固体状の電解質の1種であるゲル状の電解質を用いる場合について説明したが、他の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス,イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などよりなるイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したもの、またはこれらのイオン伝導性無機化合物とゲル状の電解質とを混合したものが挙げられる。
更に、上記実施の形態および実施例においては、巻回構造を有する二次電池について説明したが、本発明は、正極および負極を折り畳んだりあるいは積み重ねた構造を有する二次電池についても同様に適用することができる。加えて、いわゆるコイン型あるいはボタン型などの二次電池についても適用することができる。また、二次電池に限らず、一次電池についても適用することができる。
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構,15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,33B…正極活物質層、22,34…負極、22A,34A…負極集電体、22B,34B…負極活物質層、23,35…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質層、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム。