JP2008266754A - 耐酸化性及び耐食性に優れたNi3(Si,Ti)系金属間化合物,当該金属間化合物圧延箔,および当該金属間化合物圧延箔の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明によれば,Si:7.5〜12.5原子%,Ti:3.5〜8.5原子%,Nb:0.5〜3原子%,Cr:0.5〜3原子%,残部はNiからなる組成の合計重量に対してB:25〜500重量ppmを含むNi3(Si,Ti)系金属間化合物が提供される。
【選択図】図1
Description
特許文献1では,Ni3(Si,Ti)系金属間化合物から作製した箔の機械的特性についての研究が行われ,この箔が従来のニッケル合金やチタン合金を超える機械的強度を有していることが確認された。
本発明者らは,特許文献1に記載のNi3(Si,Ti)系金属間化合物箔の耐酸化性や耐食性について研究を行い,この箔の耐酸化性や耐食性をさらに向上させることが望ましいと考えた。
また,本発明の金属間化合物は,箔に加工することが容易である。本発明の金属間化合物からなる圧延箔は,例えば,他の構造部材の表面に貼り付けて,その構造部材の表面を保護するのに用いることができ,また,ハニカム構造部材等を作製するのに用いることができる。
なお,本明細書において,「〜」は,端の点を含む。
本発明の一実施形態のNi3(Si,Ti)系金属間化合物は,Si:7.5〜12.5原子%,Ti:3.5〜8.5原子%,Nb:0.5〜3原子%,Cr:0.5〜3原子%,残部はNiからなる組成の合計重量に対してB:25〜500重量ppmを含む。
以下,各元素について詳述する。
上記各元素の含有量は,Si,Ti,Nb,Cr及びNiの含有量の合計が100原子%になるように適宜調整される。
上記実施形態の組成のNi3(Si,Ti)系金属間化合物は,比較的延性が高く,例えば,上記実施形態の組成の鋳塊に対して均質化熱処理を行った後,圧延及び焼鈍を繰り返し行い,その後,冷間圧延を行うことによって厚さが例えば20〜200μmである金属間化合物圧延箔を製造することができる。
以下,各工程について詳細に説明する。
まず,上記実施形態で示した組成の鋳塊からなる試料を作製する。一例では、Ni,Si,Ti,Nb,Crの地金とBを秤量したものをアーク溶解炉で溶解,鋳造した鋳塊からなる試料を作製することができる。
次に,得られた試料に対して均質化熱処理を施す。均質化熱処理の条件は,特に限定されない。均質化熱処理は,例えば,真空中1223K〜1373Kで24〜48時間行うことができる。
次に,均質化熱処理の試料に対して圧延及び焼鈍を繰り返し行って試料を薄板に加工する。圧延後の焼鈍によって試料を再結晶化させて圧延による加工硬化を除去するとともに結晶粒を細粒化する工程を繰り返すことによって,比較的容易に薄板に加工することができる。
圧延は,例えば,623K以下,好ましくは523K〜623Kの温度で行うことができる。圧延は,1パスでの圧延率が0.5〜1.5%になるように行うことが好ましく,10〜20パスで行うことが好ましい。圧延は,圧延率が10%以上,好ましくは10〜50%,さらに好ましくは15〜30%になるように行うことが好ましい。なお,本明細書において,「1パスでの」と明示しない場合は,「圧延率」とは,複数パスでの圧延による厚さの総減少量の割合を意味する。
焼鈍の条件は,試料を再結晶化させることができるものであればよい。焼鈍の温度は,例えば,1173K〜1373Kにすることができる。焼鈍の時間は,例えば1〜5時間にすることができる。
圧延及び焼鈍は,所望の厚さ(例えば2mm以下)の薄板が得られるまで繰り返す。具体的には,圧延及び焼鈍は,3回以上,好ましくは4回以上繰り返す。
次に,得られた試料に対して圧延率90%以上で冷間圧延を行う。この冷間圧延によって金属間化合物圧延箔が得られる。圧延及び焼鈍の繰り返し工程と冷間圧延工程は,得られる箔の厚さが200μm以下,例えば20〜200μm以下になるように実施することが好ましい。
また,一度の冷間圧延によって所望の厚さの箔が得られない場合は,冷間圧延の後に焼鈍を行ってその後再度冷間圧延を行うことによって箔の厚さをさらに薄くすることができる。この際の焼鈍の温度は,例えば1073K〜1273Kにすることができる。焼鈍の時間は,例えば0.5〜2時間にすることができる。
次に,本発明の効果を示す実証実験について説明する。以下の実験では,上記実施形態で示した組成の金属間化合物から作製した箔と,特許文献1の記載された組成の金属間化合物から作製した箔の耐酸化性,耐食性及び機械的特性等の評価を行い,本発明の金属間化合物が耐酸化性,耐食性及び機械的特性に優れている点を実証した。
以下の方法で,金属間化合物圧延箔を作製した。
まず,表4に示す2種類の組成になるようにNi,Si,Ti,Nb,Crの地金(それぞれ純度99.9重量ppm)とBを秤量したものをアーク溶解炉で溶解,鋳造した厚さ10mmの鋳塊からなる試料を作製した。アーク溶解炉の雰囲気は,まず,溶解室内を真空排気し,その後不活性ガス(アルゴンガス)に置換した。電極は,非消耗タングステン電極を用い,鋳型には水冷式銅ハースを使用した。
Nb及びCrを含む試料が本発明の実施例であり,以下,「実施例試料」と呼ぶ。Nb及びCrを含まない試料は,特許文献1に記載されている試料であり,以下,「比較例試料」と呼ぶ。
次に,鋳造偏析を解消し,上記試料を均質化するために,1323Kで48時間保持の真空熱処理(炉冷)を行った。
次に,上記工程で得られた試料に対して,温間圧延と焼鈍を5度繰り返すことにより厚さ2mmの薄板を作製した。
温間圧延では,試料を大気中で573Kに加熱し,2段圧延機を用いて,1パスの圧下量を約0.1mmとして,10〜20パスの圧延を行った。試料は,1パス毎に加熱した。焼鈍は,真空中で1273K,5時間(炉冷)の条件で行った。
次に,上記工程で得られた薄板に対して,室温で冷間圧延を行い,箔を作製した。冷間圧延は,途中で焼鈍を行わずに圧延率が90%となるように行った。冷間圧延は,加工が進むにつれて,大径2段圧延機→小径2段圧延機→小径4段圧延機の順に圧延機を変えて行った。作製された箔の厚さは,0.2mmであった。冷間圧延によって得られ且つ冷間圧延後に焼鈍を行っていない箔を,以下「冷間圧延箔」と呼ぶ。
3−2−1.耐酸化性試験
冷間圧延箔について,耐酸化性試験を行った。耐酸化性試験は,TG−DTA(Thermogravimetry − Differential Thermal Analysis)によって行った。具体的には,耐酸化性試験は,冷間圧延箔を1173Kで大気暴露したときの,試料の単位表面積当たりの質量増加量を測定することによって行った。この結果を図1に示す。図1は,耐酸化性試験の結果を示す,時間と質量増加量との関係を示すグラフである。図1には,ニッケル合金(Inconel X750)及びステンレス鋼(SUS310)についての結果も併せて示した。
図1によると,実施例試料では,比較例試料に比べて質量増加がかなり小さかったことが分かる。これは,実施例試料の耐酸化性が優れていることを示しており,Cr及びNbを試料に含有させることによって耐酸化性が大幅に向上することが実証された。また,図1によると,実施例試料の耐酸化性は,ニッケル合金やステンレス鋼よりも優れていることが分かる。
冷間圧延箔について,耐食性試験を行った。耐食性試験は,冷間圧延箔を室温で24時間,塩酸(濃度:36%)に浸漬させ,その際の腐食減量(腐食による重量減少量)を測定することによって行った。腐食減量が小さいほど,耐食性に優れていることを意味する。
耐食性試験の際の腐食減量と,耐食性試験後の箔の外観を図2に示す。図2には,ニッケル合金(Inconel X750)及びステンレス鋼(SUS304)についての結果も併せて示した。
図2によると,実施例試料では,比較例試料に比べて腐食減量がかなり小さかったことが分かる。これは,実施例試料の耐食性が優れていることを示しており,Cr及びNbを試料に含有させることによって耐食性が大幅に向上することが実証された。また,図2によると,実施例試料の耐食性は,ニッケル合金やステンレス鋼よりも格段に優れていることが分かる。
次に,冷間圧延箔と,冷間圧延箔に873Kで1時間又は1173Kで1時間の焼鈍を行った箔(それぞれ,「873K焼鈍箔」,「1173K焼鈍箔」と呼ぶ。)について,室温引張試験を行った。室温引張試験に用いた箔の大きさは,平行部長さ10mm,幅4mmであった。室温引張試験は,室温,空気中で歪み速度8.4×10-5s-1の条件で行った。その結果を図3に示す。図3は,箔に加えた応力と箔に生じた歪みとの関係を示すグラフである。
図3によると,冷間圧延箔及び873K焼鈍箔では,実施例試料及び比較例試料の両方において,引張強度が2GPa以上であり,これらの箔が,非常に高い引張強度を有していることが確認された。また,1173K焼鈍箔では,実施例試料及び比較例試料の両方において,塑性伸びが30%程度であり,これらの箔が,一般の金属材料と比べても遜色のない高い延性を有していることが確認された。
次に,1173K焼鈍箔について,高温引張試験を行った。高温引張試験に用いた箔の大きさは,平行部長さ10mm,幅4mmであった。高温引張試験は,真空中で歪み速度8.4×10-5s-1,温度は,室温〜1023Kで行った。実施例試料及び比較例試料についての高温引張試験の結果を図4(a)〜(c)に示す。図4(a)は,試験温度と引張強度の関係を示すグラフであり,図4(b)は,試験温度と0.2%耐力の関係を示すグラフであり,図4(c)は,試験温度と伸びの関係を示すグラフである。また,実施例試料及び比較例試料と,種々の汎用合金(Inconel X750(Ni-15.5Cr-7Fe-2.5Ti-1Nb),Hastelloy X(Ni-9Mo-22Cr-18.5Fe-1.5Co ),S 816(Co-20Ni-20Cr-4Mo-4W-4Nb-3Fe-1.2Mn),SUS304(Fe-18Cr-8Ni),SUS430(Fe-18Cr))についての,試験温度と引張強度の関係を示すグラフを図5に示す。図5において,汎用合金に関するデータは,Metals Handbook Tenth Edition, (ASM International, Materials Park, OH, 1990)に記載されているものを用いた。
図4(b)によると,全ての温度において実施例試料の0.2%耐力が比較例試料の0.2%耐力よりも大きくなっており,Nb及びCrを添加することによって0.2%耐力が向上することが実証された。
図4(c)によると,773K以上の温度において実施例試料の伸びが比較例試料の伸びよりも大きくなっており,Nb及びCrを添加することによって高温域での伸びが向上することが実証された。
次に,1173K焼鈍箔についてSEM写真を撮影し,組織観察を行った。実施例試料及び比較例試料についてのSEM写真をそれぞれ図7(a)及び(b)に示す。図7(a),(b)を参照すると,図7(b)の比較例試料がL12単相組織を有するのに対し,図7(a)の実施例試料はL12マトリックス中にfccNi固溶体相が出現した2相組織を有していた。また,実施例試料のL12結晶粒の粒径は,比較例試料に比べて微細であった。
以上の評価結果から分かるように,実施例試料は,比較例試料に比べて耐酸化性及び耐食性が優れており,さらに引張強度や伸び等の機械的特性も比較例試料と同等かこれよりも優れている。従って,実施例試料は,自動車排ガス浄化装置の触媒担体等の優れた耐酸化性,耐食性及び機械的特性が要求される用途に好適に用いられる。また,実施例試料は,比較例試料と同様に箔に加工することが容易である。実施例試料から得られる箔は,例えば,他の構造部材の表面に貼り付けて,その構造部材の表面を保護するのに用いることができ,また,ハニカム構造部材等を作製するのに用いることができる。
Claims (4)
- Si:7.5〜12.5原子%,Ti:3.5〜8.5原子%,Nb:0.5〜3原子%,Cr:0.5〜3原子%,残部はNiからなる組成の合計重量に対してB:25〜500重量ppmを含むNi3(Si,Ti)系金属間化合物。
- Si:10.0〜12.0原子%,Ti:4.5〜6.5原子%,Nb:1.5〜2.5原子%,Cr:1.5〜2.5原子%,B:25〜100重量ppmである請求項1に記載のNi3(Si,Ti)系金属間化合物。
- 請求項1又は2に記載の金属間化合物からなり,厚さが20〜200μmであるNi3(Si,Ti)系金属間化合物圧延箔。
- Si:7.5〜12.5原子%,Ti:3.5〜8.5原子%,Nb:0.5〜3原子%,Cr:0.5〜3原子%,残部はNiからなる組成の合計重量に対してB:25〜500重量ppmを含む鋳塊からなる試料に対して均質化熱処理を行い,
均質化熱処理後の試料に対して圧延率10%以上の圧延と1173〜1373Kでの焼鈍を3回以上繰り返し,
その後,得られた試料に対して圧延率90%以上で冷間圧延を行う工程を備えるNi3(Si,Ti)系金属間化合物圧延箔の製造方法。
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