JP5327664B2 - ニッケル系金属間化合物、当該金属間化合物圧延箔および当該金属間化合物圧延板または箔の製造方法 - Google Patents
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Description
T. Takasugi et al., Journal of Materials Science 26, pp.1173-1178 (1991)
本発明者らは、特許文献1に記載のニッケル系金属間化合物の高温での延性特性を向上させることが望ましいと考えた。
また、本発明は、より優れた強度特性を有するニッケル系金属間化合物を提供するものである。
また、本発明者らは、本発明の金属間化合物は、特許文献1に開示されたNi,Si,TiおよびBからなるニッケル系金属間化合物に比べより優れた強度特性を有することを見出した。
また、本発明者らは、本発明の金属間化合物は、優れた耐酸化性、耐食性を有することを見出した。
なお、本明細書において、「〜」は、端の点を含む。
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。
本発明の金属間化合物は、前記冷間圧延加工後に300℃以上1000℃以下で焼鈍を行って得られたものであってもよい。
本発明は、本発明の金属間化合物からなり、厚さが20〜300μmであるニッケル系金属間化合物圧延箔も提供する。
本発明は、主成分であるNi、7.5〜12.5原子%のSi、5.5〜11.5原子%のTi並びに合計組成0.5〜4原子%のMo、CoおよびAlのうち少なくとも1つの元素からなる合計100原子%の組成を有する金属間化合物の重量に対して25〜500重量ppmのBを含有する鋳塊試料を作製する鋳塊試料作製工程と、前記鋳塊試料の均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、前記均質化熱処理工程後の前記鋳塊試料に対して圧延率10%以上の圧延加工と900〜1000℃での焼鈍を3回以上繰り返して得られる板状試料を作製する加工熱処理工程と、前記板状試料に対して圧延率85%以上99%以下で冷間圧延加工を行う冷間圧延工程と、を備えるニッケル系金属間化合物圧延板または箔の製造方法も提供する。
ここで示した種々の実施形態は、互いに組み合わせることができる。
本発明の一実施形態のニッケル系金属間化合物は、主成分であるNi、7.5〜12.5原子%のSi、5.5〜11.5原子%のTi並びに合計組成0.5〜4原子%のMo、CoおよびAlのうち少なくとも1つの元素からなる合計100原子%の組成を有する金属間化合物の重量に対して25〜500重量ppmのBを含有する。
なお、本実施形態のニッケル系金属間化合物は、実質的にNi、Si、Ti、B並びにMo、Co及びAlのうちの少なくとも1つの元素からなってもよく、これ以外の不純物元素を含んでいてもよい。
以下、各元素について詳述する。
上記各元素の含有量は、Ni、Si及びTiの含有量の合計と、Mo,Co及びAlのうち少なくとも1つの元素の合計含有量との和が100原子%になるように適宜調整される。
ニッケル系金属間化合物圧延板または箔は、上記実施形態の組成のニッケル系金属間化合物の板状または箔状のものである。ニッケル系金属間化合物圧延板または箔の厚さは、特に限定されないが、たとえば10μm〜10mmであり、好ましくは、10μm〜1000μm、さらに好ましくは20〜300μmである。
上記実施形態の組成のニッケル系金属間化合物は、比較的延性が高い。例えば、上記実施形態の組成の鋳塊に対して圧延加工および焼鈍を繰り返し行い、その後、冷間圧延加工を行うことによりニッケル系金属間化合物圧延板または箔を製造することができる。
以下各工程について説明する。
まず、上記実施形態で示した組成の鋳塊からなる鋳塊試料を作製する。たとえば、上記実施形態の組成のニッケル系金属間化合物となるように、Ni、Si、TiおよびBを適量秤量し、かつMo、CoおよびAlのうちの少なくとも1つの元素を適量秤量し、これらを溶解炉で溶解する。溶解炉で溶解したものを鋳造することにより、鋳塊試料を得ることができる。溶解炉はこれらの金属などを溶解することができれば特に限定されないが、たとえばアーク溶解炉を用いることができる。
鋳塊試料作製工程により得られた鋳塊試料に対して均質化熱処理を行う。均質化熱処理を行うと、鋳塊試料の元素の偏析を無くし鋳塊試料全体の組成を均質一様にすることができる。均質化熱処理は、たとえば、この鋳塊試料を真空中において24〜48時間、950℃〜1100℃の熱処理を行うことができる。
次にこの鋳塊試料に対して圧延加工および焼鈍を繰り返し行って板状に加工し板状試料とする。まず、この鋳塊試料に対して圧延加工をすることにより、板状の試料とする。圧延加工後に焼鈍を行うことにより加工硬化を除去した後、さらに圧延加工を行う。この圧延加工と焼鈍を繰り返し行うことにより、鋳塊試料を所望の厚さの板状試料とすることができる。
圧延加工の方法は、特に限定されないが、たとえば圧延機に試料を通過させることにより試料を圧延加工することができる。たとえば圧延機を用い試料を圧延加工する場合、圧延加工は、1パスでの圧延率が0.5〜1.5%になるように行うことが好ましく、10〜20パス行うことが好ましい。このように圧延機による圧延加工を繰り返し、圧延加工全体での圧延率が10%以上、好ましくは10〜50%、さらに好ましくは15〜30%になるように行うことが好ましい。なお、本明細書において、「1パスでの」と明示しない場合、「圧延率」とは、複数パスでの圧延加工による厚さの総減少量の割合を意味する。
焼鈍の条件は、試料の加工硬化を除去することができる条件であればよい。焼鈍は、例えば、真空中で1〜5時間、900℃〜1100℃で保持することにより行うことができる。
圧延加工および焼鈍は、所望の厚さの板状試料が得られるまで繰り返す。具体的には、圧延加工および焼鈍は、3回以上、好ましくは4回以上繰り返す。
次にこの板状試料に対して圧延率85%以上99%以下で冷間圧延加工を行う。この冷間圧延加工によって所望のニッケル系金属間化合物圧延板または箔が得られる。冷間圧延加工の方法は、特に限定されないが、たとえば、圧延機に板状試料を通過させることにより試料を冷間圧延加工することができる。
また、一度の冷間圧延加工によって所望の厚さの箔が得られない場合、冷間圧延加工の後に焼鈍を行ってその後再度冷間圧延加工を行うことによって厚さをさらに薄くすることができる。この際の焼鈍は、例えば真空中で0.5〜2時間、800℃〜1000℃で保持することにより行うことができる。
冷間圧延工程により得られたニッケル系金属間化合物圧延板または箔を、真空中、100℃〜1,000℃で焼鈍を行うことができる。焼鈍の時間は、たとえば、0.5〜2時間である。この焼鈍工程により、当該板または箔の延性特性が向上する。また、当該板または箔を100℃以上700℃以下の温度で使用する場合、使用する温度以上の温度で焼鈍を行うことにより当該板または箔の特性を安定させることができる。
次に、本発明の効果を示す効果実証実験について説明する。以下の実験は、上記実施形態で示した組成の金属間化合物の圧延箔の作製、作製した圧延箔のビッカース硬さ試験、室温引張試験、高温引張試験、組織観察、破面観察、耐酸化性試験および耐食性試験を行った。
また、比較のために特許文献1で開示されているMo、Co及びAlを含んでいない組成の金属間化合物についても同様の試験を行った。
4−1−1.鋳塊試料作製工程
表3は、本実施形態で作製した3種類の金属間化合物の組成、および比較のために作製した特許文献1で開示されている金属間化合物の組成を示した表である。
まず、表3に示した4種類の組成になるようにそれぞれの金属(それぞれの純度は99.9重量%以上)及びBを秤量したものをアーク溶解炉で溶解、鋳造した厚さ10mmの鋳塊からなる試料を作製した。アーク溶解炉の雰囲気は、まず、溶解室内を真空排気し、その後不活性ガス(アルゴンガス)に置換した。電極は、非消耗タングステン電極を用い、鋳型には水冷式銅ハースを使用した。
Mo、Co又はAlを含む試料が本発明の実施例であり、以下それぞれ「Mo添加試料」、「Co添加試料」又は「Al添加試料」と呼ぶ。また、Mo、Co及びAlを含んでいない試料を「基本組成試料」と呼ぶ。
次に、上記試料を均質化するために、真空中で48時間、1050℃で保持する均質化熱処理工程を行った。
次に、上記工程で得られた試料に対して、温間圧延加工と焼鈍を5度繰り返すことにより厚さ2mmの薄板を作製した。
温間圧延加工は、試料を大気中で300℃に加熱し、2段圧延機を用いて、1パスの圧下量を約0.1mmとして、10〜20パスの圧延することにより行った。また、試料は、1パス毎に加熱した。
焼鈍は、真空中で5時間、1000℃で保持することにより行った。
次に上記工程で得られた薄板に対して、室温で冷間圧延加工を行い、箔を作製した。冷間圧延加工は、途中で焼鈍を行わずに圧延率が90%となるように行った。冷間圧延加工は、板厚0.5mm程度まではダイス鋼ロールを使用し、その後は超硬ロールに変えて冷間圧延を行った。なお、ダイス鋼ロールも超硬ロールも同一の2段圧延機を使用した。作製された箔の厚さは、0.2mmであった。冷間圧延加工によって得られ且つ冷間圧延後に焼鈍を行っていない箔を、以下「冷間圧延箔」と呼ぶ。
次に上記工程で得られた冷間圧延箔を真空中で1時間、100、200、300、400、500、550、600、650、700、750、800、900又は1000℃で保持し焼鈍を行った。なお以下「焼鈍」という記載は、特に言及しない限りこの冷間圧延加工後の焼鈍をいう。
4−2−1.ビッカース硬さ試験
各温度で焼鈍を行ったMo添加試料、Co添加試料、Al添加試料及び基本組成試料、並びに冷間圧延加工後の各試料についてビッカース硬さ試験を行った。ビッカース硬さ試験は、各試料に正4角錐のダイヤモンド製圧子を押し込むことにより行った。その際の荷重は300gを主として用い、保持時間は20秒とした。
図1は、ビッカース硬さ試験の結果を示した図であり、各試料の焼鈍温度とビッカース硬さとの関係を示した図である。Mo添加試料、Co添加試料およびAl添加試料は、基本組成試料と同等またはそれ以上のビッカース硬さを有していることがわかった。特に600℃で焼鈍を行った、Mo添加試料、Co添加試料およびAl添加試料は、基本組成試料と比べ高いビッカース硬さを有していることがわかった。また、900℃または1000℃で焼鈍を行ったMo添加試料およびCo添加試料は、基本組成試料と比べ高いビッカース硬さを有していることがわかった。
各温度で焼鈍を行ったMo添加試料、Co添加試料、Al添加試料及び基本組成試料、並びに冷間圧延加工後の各試料について、室温引張試験を行った。室温引張試験に用いた試料の大きさは、平行部長さ10mm、幅4mmであった。室温引張試験は、室温、大気中で歪み速度8.4×10-5s-1の条件で行った。
図2は、室温引張試験の結果を示した図であり、各測定試料の焼鈍温度と、引張強度、0.2%耐力および伸びとの関係を示した図である。なお、図2(a)は、Mo添加試料、図2(b)は、Co添加試料、図2(c)は、Al添加試料、図2(d)は、基本組成試料の測定結果である。Mo添加試料、Co添加試料およびAl添加試料は、基本組成試料と同等またはそれ以上の室温引張強度特性を有していることがわかった。
900℃で1時間焼鈍を行ったMo添加試料、Co添加試料、Al添加試料及び基本組成試料について、各温度において引張試験を行った。高温引張試験に用いた箔の大きさは、平行部の長さ10mm、幅4mmであった。高温引張試験は、真空中で歪み速度8.4×10-5s-1、温度は、室温〜700℃で行った。
図3は、高温引張試験の結果を示した図であり、図3(a)は、試験温度と、各測定試料の引張強度との関係を示した図であり、図3(b)は、試験温度と0.2%耐力との関係を示した図であり、図3(c)は、試験温度と伸びを示した図である。Mo添加試料、Co添加試料およびAl添加試料の引張強度および0.2%耐力は、基本組成試料に比べてほとんどの温度範囲で高くなることがわかった。特にMo添加試料は、特に優れた引張強度特性および0.2%耐力特性を有することがわかった。
Mo添加試料、Co添加試料およびAl添加試料の伸びは、基本組成試料に比べ、500℃〜700℃の温度範囲で特に大きくなることがわかった。基本組成試料では試験温度が上がると伸びは、徐々に減少しているが、Mo添加試料、Co添加試料およびAl添加試料では、試験温度が上がると伸びが徐々に減少することはなかった。特にCo添加試料およびAl添加試料は、500℃で高い伸びを示し、Mo添加試料およびCo添加試料は、700℃で高い伸びを示すことがわかった。
次に、900℃で1時間焼鈍を行ったMo添加試料、Co添加試料、Al添加試料及び基本組成試料の組織のSEM写真の撮影を行った。図4(a)はMo添加試料、図4(b)は、Co添加試料、図4(c)は、Al添加試料、図4(d)は、基本組成試料のSEM写真である。基本組成試料とAl添加試料は、L12単相再結晶組織であるが、Mo添加試料、Co添加試料は、L12マトリックスにfcc(A1)−Ni固溶体相が存在した2相組織を呈していることがわかった。
次に、900℃で1時間焼鈍を行ったMo添加試料、Co添加試料、Al添加試料及び基本組成試料について、600℃で引張試験を行い、その後の試料の引張破断面のSEM写真の撮影を行った。図6(a)はMo添加試料、図6(b)は、Co添加試料、図6(c)は、Al添加試料、図6(d)は、基本組成試料のSEM写真である。図6(a)、(b)、(c)では、一般的な金属・合金においてみられる延性破面が確認されたが、図6(d)では、結晶粒界に沿った破断が生じた破断面(粒界破壊)が確認された。このことから、基本組成試料では、高温で粒界破壊が生じるため高温での延性が減少するのに対し、Mo添加試料、Co添加試料およびAl添加試料では、粒界破壊が抑制され高温で延性を有することがわかった。
次に、Mo添加試料、Co添加試料、Al添加試料および基本組成試料の冷間圧延箔について、耐酸化性試験を行った。耐酸化性試験は、TG−DTAによって行った。具体的には、耐酸化性試験は、冷間圧延箔を900℃で大気に暴露したときの試料の単位面積当たりの質量増加量を測定することによって行った。なお、耐酸化性試験の質量増加は、試料の酸化に伴う質量増加である。図7は、耐酸化性試験の結果であり、暴露時間と各試料の質量増加量との関係を示す図である。Mo添加試料、Co添加試料およびAl添加試料は基本組成試料に比べ質量増加量が少ないことから、Mo、CoまたはAlを添加した試料では酸化が抑制されることがわかった。
次に、Mo添加試料、Co添加試料、Al添加試料および基本組成試料の冷間圧延箔について、耐食性試験を行った。耐食性試験は、冷間圧延箔を室温で24時間、硫酸(95%)に含浸させ、その際の腐食減量(腐食による重量減少量)を測定することによって行った。腐食減量が小さいほど、耐食性に優れていることを意味する。表4は、耐食性試験の結果であり、各測定試料の1時間、単位表面積あたりの減少した質量(g/(m2・h))の数値である。Mo添加試料、Co添加試料およびAl添加試料は、基本組成試料に比べよりすぐれた硫酸に対する耐食性を有することがわかった。特に、Mo添加試料は、高い耐食性を有することがわかった。
以上の評価結果からわかるように、Mo添加試料、Co添加試料およびAl添加試料は、基本組成試料に比べ同等あるいはより優れた室温強度特性を有することがわかった。また、基本組成試料は、高温で延性を有さないが、Mo添加試料、Co添加試料およびAl添加試料は、高温で高い延性を有し、且つ基本組成試料より優れた高温強度特性を有することがわかった。このことから、Mo添加試料、Co添加試料およびAl添加試料は、高温加工に優れた特性、および高温で短時間に金属破断が進行しない特性を有することがわかった。
また、Mo添加試料、Co添加試料およびAl添加試料は、基本組成試料に比べより優れた耐酸化性特性、耐食性特性を有することがわかった。
Claims (5)
- 主成分であるNi、7.5〜12.5原子%のSi、5.5〜11.5原子%のTi並びに合計組成0.5〜4原子%のMo、CoおよびAlのうちの少なくとも1つの元素からなる合計100原子%の組成を有する金属間化合物の重量に対して25〜500重量ppmのBを含有することを特徴とするニッケル系金属間化合物。
- 圧延率85%以上99%以下の冷間圧延加工を行って得られた請求項1に記載の金属間化合物。
- 前記冷間圧延加工後に300℃以上1000℃以下で焼鈍を行って得られた請求項2に記載の金属間化合物。
- 請求項1〜3のいずれか1つに記載の金属間化合物からなり、厚さが20〜300μmであるニッケル系金属間化合物圧延箔。
- 主成分であるNi、7.5〜12.5原子%のSi、5.5〜11.5原子%のTi並びに合計組成0.5〜4原子%のMo、CoおよびAlのうち少なくとも1つの元素からなる合計100原子%の組成を有する金属間化合物の重量に対して25〜500重量ppmのBを含有する鋳塊試料を作製する鋳塊試料作製工程と、
前記鋳塊試料の均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、
前記均質化熱処理工程後の前記鋳塊試料に対して圧延率10%以上の圧延加工と900〜1000℃での焼鈍を3回以上繰り返して得られる板状試料を作製する加工熱処理工程と、
前記板状試料に対して圧延率85%以上99%以下で冷間圧延加工を行う冷間圧延工程と、
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