JP2008256480A - 磁歪式トルクセンサの製造方法 - Google Patents

磁歪式トルクセンサの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】トルク伝達軸に対して、磁歪膜及びピニオンの両方をそれぞれ最適な加工によって形成するとともに、磁歪膜の磁歪特性の感度と安定性を高めること。
【解決手段】外部トルクを検出する磁歪式トルクセンサは、作用軸61と第1及び第2の中空軸62,63を含む。第1の中空軸62は、外周面に第1の磁歪膜71が施されている。第2の中空軸63は、外周面に第2の磁歪膜72が施されている。第1及び第2の中空軸の中に作用軸を固定することによって、トルク伝達軸24を製造する。次に、作用軸に所定の付加トルクを加えることによって、第1及び第2の磁歪膜に付加トルクを加える。次に、付加トルクを加えた状態で、第1及び第2の磁歪膜を所定時間にわたって加熱する。次に、加熱された第1及び第2の磁歪膜を冷却する。次に、加えていた付加トルクを除く。
【選択図】図4

Description

本発明は、トルクを検出する磁歪式トルクセンサの製造方法に関する。
回転軸に作用したトルクを検出するトルクセンサには、多くの種類がある。近年、比較的簡単な構成で、しかも高精度である磁歪式トルクセンサの開発が進められている(例えば、特許文献1−3参照。)。
特開2001−133337公報 特開2004−309184公報 特開2004−340744公報
特許文献1〜3で知られている磁歪式トルクセンサは、車両用電動パワーステアリング装置に備えられており、ステアリングホイールからトルク伝達軸へ伝わった操舵トルクを検出する。トルク伝達軸は、外周面に磁歪膜が形成されている。磁歪式トルクセンサによれば、操舵トルクに応じて磁歪膜に生ずる磁歪の変化を、電気コイル及び磁歪検出回路で検出することにより、操舵トルクを検出できる。
ステアリングホイールで発生した操舵トルクは、トルク伝達軸とラックアンドピニオン機構とラック軸を介して操舵車輪に伝わる。このように、トルク伝達軸は、外周面に磁歪膜が形成されるとともに、軸端にラックアンドピニオン機構のピニオン(トルク伝達部分)が形成されている。
ところで、自動車は、エンジンを始動させない状態であっても、操舵できることが求められる。この状態において、操舵車輪を操舵するための操舵トルクは、通常の操舵時に比べて大きい。大きい操舵トルクは、トルク伝達軸からラックアンドピニオン機構を介してラック軸へ伝わる。このため、ラックアンドピニオン機構は、大きい機械的強度が求められる。すなわち、ラックアンドピニオン機構には、路面反力に起因する種々の外力や、運転者の操舵による適度の外力が作用する。ラックアンドピニオン機構は、前記外力に抗して、その時々の操舵状態を確保できるだけの、機械的強度が求められる。
ラックアンドピニオン機構のピニオンは、通常時の操舵トルクを越えた、大きい負荷に対する操舵トルクを伝達するのに必要な強度を、十分に確保する必要がある。このため、ピニオンは、浸炭処理や高周波焼入れ等の熱処理、ショットピーニング等といった、種々の表面処理を施すことが多い。
しかしながら、ピニオンに熱処理を施すことは、ピニオンを有しているトルク伝達軸の表面に、炭素成分を拡散させることになる。この結果、トルク伝達軸の表面は磁化されやすい。また、ピニオンにショットピーニング等の表面硬化処理を施すことにより、トルク伝達軸の表面に圧縮応力が残留するなど、ピニオン固有の制約が多くなる。
一方、トルク伝達軸の外周面に形成される磁歪膜は、一般にNi−Fe系の合金膜等の磁歪メッキ材からなる。このような磁歪メッキ材は、トルク伝達軸からの磁気の影響やトルク伝達軸の全体の歪みや局部的な歪みの影響を強く受ける。
このように、トルク伝達軸に磁歪膜と、例えば、ピニオン(トルク伝達部分)のような高強度が要求される部材の両方を設けた場合に、磁歪膜の磁歪特性の感度を高く保ちつつ安定性を高めるには、改良の余地がある。磁歪特性の安定性を高めることは、磁歪式トルクセンサのセンサ信号の性能向上と安定化に繋がる。
本発明は、トルク伝達軸に対して磁歪膜及びトルク伝達部分の両方を、それぞれ最適な加工によって設けることができるとともに、磁歪膜の磁歪特性の感度と安定性を高めることができる技術を、提供することを課題とする。
請求項1に係る発明は、外部から外部トルクが作用するトルク伝達軸の表面に第1の磁歪膜及び第2の磁歪膜を有している、磁歪式トルクセンサの製造方法において、
前記第1の磁歪膜が外周面に施された第1の中空軸と、前記第2の磁歪膜が外周面に施された第2の中空軸と、これら第1及び第2の中空軸に嵌合される作用軸とを準備する工程と、
前記第1及び第2の中空軸の中に前記作用軸を固定する、例えば、圧入することによって、前記トルク伝達軸を製造する工程と、
前記作用軸に所定の付加トルクを加えることによって、前記第1及び第2の磁歪膜に前記付加トルクを加える工程と、
この付加トルクを加えた状態で、前記第1及び第2の磁歪膜を所定の時間にわたって加熱する工程と、
加熱された前記第1及び第2の磁歪膜を冷却する工程と、
加えていた前記付加トルクを除く工程とを、
有していることを特徴とする。
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記第1及び第2の中空軸と作用軸を準備するときに、前記第1の中空軸における嵌合孔の径を、前記第2の中空軸における嵌合孔の径よりも小径に設定し、前記第1の中空軸の嵌合孔に固定される小径の第1嵌合軸部を、前記作用軸の一端に近い位置に設けるとともに、前記第2の中空軸の嵌合孔に固定される大径の第2嵌合軸部を、前記作用軸の一端から遠い位置に設けることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1において、前記第1及び第2の中空軸の中に前記作用軸を固定するときに、前記作用軸を軸長手方向の両端から別々に前記第1及び第2の中空軸に固定することを特徴とする。
請求項1に係る発明では、作用軸と第1及び第2の中空軸とは、固定する、例えば、圧入によって互いに連結し合う別部材である。作用軸には、第1及び第2の中空軸から分離した状態において、トルクを負荷へ伝達するためのトルク伝達部分を形成することができる。このため、作用軸には、トルク伝達に必要な強度を十分に確保するために、浸炭処理等の熱処理やショットピーニング等の、最適な表面処理を施すことができる。
しかも、作用軸には磁歪膜が形成されない。磁歪膜は、例えば磁歪メッキ処理によって形成されるものである。しかし、作用軸には磁歪メッキ処理を施さない。作用軸におけるトルク伝達部分に、磁歪メッキ材が付着することはない。
一方、第1及び第2の中空軸における外周面には、作用軸から分離した状態で、磁歪メッキ処理などによって、磁歪膜を最適な状態で形成することができる。つまり、第1の中空軸には第1の磁歪膜が施され、第2の中空軸には第2の磁歪膜が施される。
例えば、磁歪メッキ処理前の軸材の安定化処理、磁歪膜の安定化のための熱処理、磁歪膜における磁歪の方向を設定するための高周波熱処理や消磁処理などを、最適な条件で施すことができる。磁歪膜を施す条件(加熱時間、加熱温度など)を、作用軸の材質に応じて変える必要はない。
さらには、第1及び第2の中空軸は、作用軸を固定する、例えば、圧入によって連結するための嵌合孔を有している。第1及び第2の中空軸が加熱されたときに、嵌合孔の面と作用軸の外面との間で遮熱効果を有する。このため、各中空軸から作用軸へ伝わる熱量は、作用軸に各中空軸を一体に形成した場合と比べて、比較的少なくてすむ。
しかも、第1及び第2の中空軸は、各磁歪膜を形成するだけの部材である。このため、第1及び第2の中空軸を極めて小型にすることができるので、各中空軸の質量は小さい。
従って、第1及び第2の磁歪膜を加熱する工程において、各磁歪膜からの放熱量を過大に加味した高温によって、各磁歪膜を加熱する必要はない。この結果、各磁歪膜がキュリー温度に達することを防止することができるので、各磁歪膜の磁歪特性を消滅または劣化させずに形成でき、感度の低下を防止し、且つ、安定性を十分に高めることができる。
しかも、第1及び第2の中空軸に形成された各磁歪膜が、作用軸からの磁気の影響や作用軸の歪みの影響を受けることはない。
以上の説明のように、外部トルクが作用する作用軸と、外周面に磁歪膜が形成された第1及び第2の中空軸とは、固定される、例えば、互いに圧入される。ここで、外部トルクが作用する作用軸と第1及び第2の中空軸の組合せから成る軸を、トルク伝達軸と言う。トルク伝達軸に対して、第1及び第2の磁歪膜とトルク伝達部分の両方を、それぞれ最適な加工によって形成することができる。
しかも、トルク伝達軸において、各磁歪膜の磁歪特性の感度と安定性を十分に高めることができる。磁歪特性の感度と安定性を高めることによって、磁歪式トルクセンサのセンサ信号を十分に安定させ且つ検出精度を高めることができる。
例えば、請求項1の磁歪式トルクセンサを、車両用電動パワーステアリング装置に設けることができる。この場合には、ステアリングホイールからトルク伝達軸へ伝わった操舵トルクを、磁歪式トルクセンサによって安定的に精度良く検出できる。安定的に精度良く検出された操舵トルクに応じて、電動モータから補助トルクが出力される。操舵トルクに補助トルクを加えた複合トルクによって、操舵車輪を操舵することができる。従って、ステアリングホイールの操舵フィーリングを、十分に高めることができる。
また、請求項1の磁歪式トルクセンサを、上記車両用電動パワーステアリング装置の他に、ステア−バイ−ワイヤ式(steer-by-wire)操舵システムや四輪操舵システムにおける、車両用ステアリング装置に備えた場合においても、同様の効果を発揮する。
ここで、ステア−バイ−ワイヤ式操舵システムとは、操舵車輪を操舵するための操舵機構を、ステアリングホイールから機械的に分離させた方式の、操舵システムである。この操舵システムによれば、磁歪式トルクセンサによってステアリングホイールの操舵量を検出し、この操舵量に応じて操舵用アクチュエータが操舵用動力を発生し、この操舵用動力を操舵機構へ伝えることによって、操舵車輪を操舵する。
請求項2に係る発明では、先に、作用軸の一端から遠い位置に設けられた大径の第2嵌合軸部を、第2の中空軸の嵌合孔に嵌合する。次に、作用軸の一端に近い位置に設けられた小径の第1嵌合軸部を、第1の中空軸の嵌合孔に嵌合する。
このため、大径の第2嵌合軸部を第2の中空軸の嵌合孔に嵌合するときに、小径の第1嵌合軸部が第2の中空軸の嵌合孔に擦れることはない。また、小径の第1嵌合軸部を第1の中空軸の嵌合孔に嵌合するときに、第1嵌合軸部が第2の中空軸の嵌合孔に擦れることはない。このように、2つの中空軸の各嵌合孔に対して、作用軸における同一部分が嵌合されることはない。従って、各嵌合軸部の嵌合面や各嵌合孔の嵌合面が荒れることはない。各嵌合孔に対して各嵌合軸部を安定して嵌合することができ、トルク伝達軸の組立精度を高めることができる。
請求項3に係る発明では、作用軸の一端から第1の中空軸に嵌合し、作用軸の他端から第2の中空軸に嵌合する。このようにして、作用軸を軸長手方向の両端から別々に、第1及び第2の中空軸に嵌合する。
このため、2つの中空軸の各嵌合孔に対して、作用軸における同一部分が嵌合されることはない。従って、各嵌合軸部の嵌合面や各嵌合孔の嵌合面が荒れることはない。各嵌合孔に対して各嵌合軸部を安定して嵌合することができ、トルク伝達軸の組立精度を高めることができる。
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
磁歪式トルクセンサの一例として、車両用電動パワーステアリング装置に備えた例を挙げて説明する。但し、車両用電動パワーステアリング装置に備えた構成に限定されるものではない。
図1〜図6は、本発明の磁歪式トルクセンサを備えた電動パワーステアリング装置を示している。図1に示すように、車両用電動パワーステアリング装置10は、車両の操舵部材21から車両の操舵車輪31,31に至るステアリング系20と、このステアリング系20に補助トルクを加える補助トルク機構40とからなる。
操舵部材21は、例えば、ステアリングホイールからなる。以下、操舵部材21のことを、適宜「ステアリングホイール21」と言い換える。操舵車輪31,31は、例えば、左右の前輪である。
ステアリング系20は、ステアリングホイール21と、このステアリングホイール21にステアリングシャフト22及び自在軸継手23,23を介して連結されたトルク伝達軸24と、このトルク伝達軸24にラックアンドピニオン機構25を介して連結されたラック軸26と、このラック軸26の両端にボールジョイント27,27、タイロッド28,28及びナックル29,29を介して連結された左右の操舵車輪31,31とからなる。
ラックアンドピニオン機構25は、トルク伝達軸24に形成されたピニオン32と、ラック軸26に形成されたラック33とからなる。
このように、電動パワーステアリング装置10は、運転者によるステアリングホイール21の操舵に応じた操舵トルクを、トルク伝達軸24及びラックアンドピニオン機構25を介してラック軸26に伝達することにより、ラック軸26を介して操舵車輪31,31を操舵するようにしたものである。
補助トルク機構40は、磁歪式トルクセンサ41と制御部42と電動モータ43とボールねじ44とからなる。磁歪式トルクセンサ41は、ステアリングホイール21に加えられた、ステアリング系20の操舵トルクを検出する。制御部42は、磁歪式トルクセンサ41のトルク検出信号に基づいて制御信号を発生する。
電動モータ43は、制御部42の制御信号に基づき、前記操舵トルクに応じたモータトルク(補助トルク)を発生する。電動モータ43のモータ軸43aは、ラック軸26を囲う中空軸からなる。
ボールねじ44は、モータトルクをラック軸26に伝達するための動力伝達機構であって、ねじ部45と、ナット46と、多数のボールとからなる。ねじ部45は、ラック軸26のうちラック33を除く部分に形成されている。ナット46は、多数のボールを介して、ねじ部45に組付けられる回転部材であって、モータ軸43aにも連結されている。
電動パワーステアリング装置10によれば、トルク伝達軸24に伝わる操舵トルクを磁歪式トルクセンサ41で検出し、操舵トルクに応じたモータトルクを電動モータ43で発生し、モータトルクをラック軸26に伝達することができる。操舵車輪31,31は、操舵トルクに電動モータ43で発生したモータトルクを加えた、複合トルクにより、ラック軸26を介して操舵される。
図2に示すように、ラック軸26は、車幅方向(左右方向)へ延びるハウジング51に収納されている。ハウジング51は、概ね管状である、第1ハウジング52及び第2ハウジング53の一端面同士が、ボルトで結合されることにより、1個の細長いギヤボックスに組立てられている。第2ハウジング53は、電動モータ43におけるモータケースを兼ねる。
図2及び図3に示すように、トルク伝達軸24、ラックアンドピニオン機構25、磁歪式トルクセンサ41、電動モータ43及びボールねじ44は、ハウジング51に収納される。第1ハウジング52の上部開口は、リッド54によって塞がれている。トルク伝達軸24の上端部、長手中央部及び下端部は、上中下3個の軸受55,56,57を介して、第1ハウジング52に回転可能に支持されている。
次に、トルク伝達軸24について、図3〜図5に基づき詳細に説明する。
図4(a)は、分解した状態のトルク伝達軸24を示している。図4(b)は、図4(a)のb−b線に沿った断面構造を示している。図4(c)は、図4(a)のc−c線に沿った断面構造を示している。
図4(a)に示すように、トルク伝達軸24は、ピニオン軸61(作用軸61)と第1の中空軸62と第2の中空軸63とからなる。ピニオン軸61と第1の中空軸62と第2の中空軸63は、互いに別部材で構成されており、互いに同軸に配列される(トルク伝達軸24の軸線CLに配列される)。
さらに、ピニオン軸61と第1の中空軸62と第2の中空軸63は、互いに嵌合し合い且つ固定し合う(連結し合う)ことによって、一体的に組み立てられる。例えば、ピニオン軸61と第1及び第2の中空軸62,63は、圧入することによって、一体的に組み立てられる。
ピニオン軸61と第1及び第2の中空軸62,63は、強磁性の材料等の磁性体からなる。強磁性の材料としては、例えば、鉄鋼(ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材を含む)がある。
なお、ピニオン軸61と第1及び第2の中空軸62,63は、磁性体に限定されるものではない。磁性体にしない場合には、後述する第1の磁歪膜71及び第2の磁歪膜72は、磁性体の時期的な影響を受け難くなる。
詳しく説明すると、図4(a)に示すように、ピニオン軸61は中実軸であり、軸長手方向の一端61aから他端61bへ向かって、連結部61c、第1嵌合軸部61d、第2嵌合軸部61e、フランジ部61f、中間被支持部61g、止め輪嵌合溝61h、上記ピニオン32、下側被支持部61iを、この順に配列するとともに、軸線CLに配列したものである。
これらの連結部61c、第1嵌合軸部61d、第2嵌合軸部61e、フランジ部61f、中間被支持部61g、止め輪嵌合溝61h、上記ピニオン32、及び、下側被支持部61iは、全てピニオン軸61に一体に形成されている。
連結部61cは、自在軸継手23(図1参照)に連結する部分であって、例えばセレーションからなる。つまり、連結部61cは、断面が非円形状に形成されたものであり、後述するように、工具を確実に且つ安定的に掛けることができる。
第1及び第2嵌合軸部61d,61eは真円状(円柱状)を呈した軸である。第1嵌合軸部61dの径D1は、連結部61cよりも若干大径に設定されるとともに、第2嵌合軸部61eの径D2よりも若干小径に設定されている。小径の第1嵌合軸部61dは、ピニオン軸61の一端61aに近い位置に設けられている。大径の第2嵌合軸部61eは、ピニオン軸61の一端61aから遠い位置に設けられている。
さらに、第1嵌合軸部61dは、第2嵌合軸部61eとの境界61jの近傍に治具掛け部61kが形成されている。治具掛け部61kは、後述する治具を掛ける部分であり、図4a及び図4bに示すように、ピニオン軸61の一端61a側から見たときに、軸断面が非円形状に形成されている。より具体的には、治具掛け部61kは、第1嵌合軸部61dの外周面を2面取り又は4面取りすることによって形成された平坦面61lを有した部分である。断面が非円形状に形成された治具掛け部61kに、後述する工具を確実に且つ安定的に掛けることができる。
フランジ部61fは、第2嵌合軸部61eと中間被支持部61gとの間に形成されている。フランジ部61fは、第2嵌合軸部61eや中間被支持部61gよりも大径に設定され、図4a及び図4cに示すように、ピニオン軸61の一端61a側から見たときに、軸断面が非円形状に形成されている。より具体的には、フランジ部61fは、外周面が2面取り又は4面取りされることによって形成された平坦面61mを有している。断面が非円形状に形成されたフランジ部61fは、治具掛け部を兼ねる。フランジ部61f(治具掛け部)に、後述する工具を確実に且つ安定的に掛けることができる。
中間被支持部61gは、中間位置に配置された軸受56(図3参照)によって回転可能に支持される部分である。
止め輪嵌合溝61hは、中間被支持部61gに嵌合された軸受56を位置決めするための止め輪64(図3参照)を取付ける部分である。
下側被支持部61iは、下側に配置された軸受57(図3参照)によって回転可能に支持される部分である。
一方、第1の中空軸62は、外周面の全体にわたって第1の磁歪膜71が施されている。第2の中空軸63は、外周面の全体にわたって第2の磁歪膜72が施されている。第1の磁歪膜71のことを、適宜「第1付加歪み部71」と言う。第2の磁歪膜72のことを、適宜「第2付加歪み部72」と言う。
このように、外部から外部トルクが作用するトルク側軸61は、表面に磁歪式トルクセンサ41(図3参照)の第1の磁歪膜71及び第2の磁歪膜72を有している。
第1の中空軸62と第2の中空軸63は、軸線CLを中心とする真円状の短い軸である。第1の中空軸62の長さと、第2の中空軸63の長さは、共にL1である。
第1の中空軸62における嵌合孔62a(第1の嵌合孔62a)と、第2の中空軸63における嵌合孔63a(第2の嵌合孔63a)は、軸線CL上に形成された、真円状の貫通孔である。第1の嵌合孔62aの径d1は、第2の嵌合孔63aの径d2よりも小径に設定されている。
第1の磁歪膜71が形成された状態における第1の中空軸62の外径と、第2の磁歪膜72が形成された状態における第2の中空軸63の外径は、共にd3である。
第1の嵌合孔62aに対する第1嵌合軸部61dの嵌め合い方式と、第2の嵌合孔63aに対する第2嵌合軸部61eの嵌め合い方式は、共に「しまりばめ」である。「しまりばめ」とは、孔と軸とを組み立てたときに、常に「しめしろ」ができる嵌め合い、すなわち、孔の最大径が軸の最小径よりも小さいか、または、極端な場合には等しい嵌め合い方式である。「しめしろ」とは、軸の径が孔の径よりも大きい場合において、組み合わせる前の、軸の径に対する孔の径の差のことである。
第1の嵌合孔62aに対する第1嵌合軸部61dの「しめしろ」と、第2の嵌合孔63aに対する第2嵌合軸部61eの「しめしろ」は、最適な値となるように、適宜に設定される。
第1の嵌合孔62aに第1嵌合軸部61dを嵌め込むことにより、第1の中空軸62に径方向への一定の荷重を付加することができる。この荷重によって、第1の磁歪膜71の磁歪特性の、ばらつきを調整することができる。同様に、第2の嵌合孔63aに第2嵌合軸部61eを嵌め込むことにより、第2の中空軸63に径方向への一定の荷重を付加することができる。この荷重によって、第2の磁歪膜72の磁歪特性の、ばらつきを調整することができる。
より具体的には、第1嵌合軸部61dの径D1は、第1の嵌合孔62aのd1よりも若干小さく設定されている。第2嵌合軸部61eの径D2は、第2の嵌合孔63aのd2よりも若干小さく設定されている。
なお、第1及び第2の中空軸62,63の中に作用軸61を固定する方法は、「しまりばめ」に限定されるものではない。
ピニオン軸61と第1及び第2の中空軸62,63の組立手順は、次の通りである。
先ず、ピニオン軸61の一端61aから遠い位置に設けられた大径の第2嵌合軸部61eを、第2の中空軸63の嵌合孔63aに嵌合する(圧入することによって固定する)。
次に、ピニオン軸61の一端61aに近い位置に設けられた小径の第1嵌合軸部61dを、第1の中空軸62の嵌合孔62aに嵌合する(圧入することによって固定する)。
これで、トルク伝達軸24の組立作業を完了する。この結果を図5に示す。
図5(a)は、組み立てた状態のトルク伝達軸24の断面構造を示している。図5(b)は、組み立てた状態のトルク伝達軸24の外観を示している。
第1の中空軸62の下端は、第1嵌合軸部61dにおいて、第2嵌合軸部61eとの境界61jから一端61a側へ寸法L2だけ離れた位置に配置される。第2の中空軸63の上端は、第2嵌合軸部61eにおいて、境界61jの位置に配置される。
このように、大径の第2嵌合軸部61eを第2の中空軸63の嵌合孔63aに嵌合するときに、小径の第1嵌合軸部61dが第2の中空軸63の嵌合孔63aに擦れることはない。また、小径の第1嵌合軸部61dを第1の中空軸62の嵌合孔62aに嵌合するときに、第1嵌合軸部61dが第2の中空軸63の嵌合孔63aに擦れることはない。このように、2つの中空軸62,63の各嵌合孔62a,63aに対して、ピニオン軸61における同一部分が嵌合されることはない。従って、各嵌合軸部61d,61eの嵌合面や各嵌合孔62a,63aの嵌合面が荒れることはない。各嵌合孔62a,63aに対して各嵌合軸部61d,61eを安定して嵌合することができ、トルク伝達軸24の組立精度を高めることができる。
このように組み立てられた、ピニオン軸61と第1及び第2の中空軸62,63とは、相対的な回転と相対的な軸方向移動を、互いに規制し合う。ステアリングホイール21(図1参照)から連結部61cを介してピニオン軸61に伝わった操舵トルクは、ピニオン軸61から第1及び第2の中空軸62,63にも伝達される。
なお、ピニオン軸61は、軽量化のためには中実軸よりも中空軸にする方が好ましい。
次に、磁歪式トルクセンサ41について、詳細に説明する。
図3に示すように、磁歪式トルクセンサ41は、第1及び第2付加歪み部71,72と、検出部73とからなる。第1及び第2付加歪み部71,72は、付加歪みが付与されてトルク伝達軸24の表面に設けられ、外部から作用する外部トルクに応じて磁歪特性が変化する。検出部73は、第1及び第2付加歪み部71,72の周囲に設けられ、第1及び第2付加歪み部71,72に生じた磁歪効果を電気的に検出して、検出信号を出力する。この検出信号は、トルク検出信号である。
さらに詳しく述べると、図3、図5(a)及び図5(b)に示すように、第1及び第2付加歪み部71,72は、ピニオン軸61の軸長手方向に互いに逆方向の付加歪みが付与された、一対の磁気異方性部材である。つまり、第1及び第2付加歪み部71,72は、第1及び第2の中空軸62,63の外周面(軸外周面、表面)に形成された磁歪膜からなる。
第1及び第2磁歪膜71,72(第1及び第2付加歪み部71,72)は、第1及び第2の中空軸62,63の全周にわたって形成された、概ね一定幅のメッキ層からなる。第1及び第2の磁歪膜71,72における磁歪の方向は、互いに逆方向である。第1の磁歪膜71と第2の磁歪膜72とは、ピニオン軸61の軸長手方向に所定の間隔L2を有している。トルク伝達軸24は、第1の磁歪膜71と第2の磁歪膜72との間は、磁歪膜が全く存在しない、間隔L2の非磁歪部分を有している。
2つの磁歪膜71,72は、歪みの変化に対して磁束密度の変化が大きい材料からなる。例えば、磁歪膜71,72は、第1及び第2の中空軸62,63の外周面に気相メッキ法によって形成された、Ni−Fe系の合金膜である。この合金膜の厚みは、望ましくは5〜20μm程度である。なお、合金膜の厚みは、5〜20μmよりも小さく、または、5〜20μmよりも大きくてもよい。第1の磁歪膜71の磁歪方向に対して、第2の磁歪膜72の磁歪方向は異なっている。つまり、磁歪異方性を有する。
Ni−Fe系の合金膜は、Niを概ね20重量%含んだ場合と概ね50重量%含んだ場合に、磁歪定数が大きくなるので、磁歪効果が高まる。このため、Ni−Fe系の合金膜には、Ni含有率が概ね20重量%または概ね50重量%である材料を使用することが好ましい。例えば、Ni−Fe系の合金膜として、Niを50〜60重量%含み、残りがFeである材料を使用する。なお、磁歪膜は強磁性体の膜であればよく、パーマロイ(Ni;約78重量%、Fe;残り)やスーパーマロイ(Ni;78重量%、Mo;5重量%、Fe;残り)の膜であってもよい。ここで、Niはニッケル、Feは鉄、Moはモリブデンである。
一方、検出部73は、トルク側軸61が貫通する筒状のコイルボビン74,75と、コイルボビン74,75に巻かれた第1多層ソレノイド巻きコイル76並びに第2多層ソレノイド巻きコイル77と、第1及び第2多層ソレノイド巻きコイル76,77の周囲を囲う磁気シールド用バックヨーク78とからなる。
第1及び第2多層ソレノイド巻きコイル76,77は、検出コイルである。以下、第1多層ソレノイド巻きコイル76のことを、第1検出コイル76と言い換える。第2多層ソレノイド巻きコイル77のことを、第2検出コイル77と言い換える。第1検出コイル76は、第1付加歪み部71の周囲に隙間を有して巻かれる。第2検出コイル77は、第2付加歪み部72の周囲に隙間を有して巻かれる。
さらに、検出部73は、図6に示すように、第1及び第2変換回路81,82及びトルク信号出力回路83を有する。第1変換回路81は、第1検出コイル76の検出信号を整流、増幅、変換した上で、検出電圧VT1として出力する。第2変換回路82は、第2検出コイル77の検出信号を整流、増幅、変換した上で、検出電圧VT2として出力する。トルク信号出力回路83は、検出電圧VT1,VT2を演算し、トルク検出電圧VT3として出力する。
検出部73の作用は次の通りである。第1及び第2検出コイル76,77は、操舵トルクに応じてピニオン軸61に発生した捩れを検出し、検出信号を発する。この各検出信号は、第1及び第2変換回路81,82から検出電圧VT1,VT2として出力される。この検出電圧VT1,VT2は、トルク信号出力回路83からトルク検出電圧VT3として出力される。トルク検出電圧VT3は、トルク検出信号(操舵トルク信号)のことである。
磁歪式トルクセンサ41の説明をまとめると、次の通りである。第1及び第2の中空軸62,63は、歪みが付与された磁歪膜71,72を有している。ピニオン軸61から第1及び第2の中空軸62,63を介して、第1及び第2の磁歪膜71,72に外部トルクが作用したときに、この外部トルクに応じて磁歪膜71,72の透磁率が変化する。透磁率の変化に応じて、第1及び第2検出コイル76,77におけるインピーダンス(誘導電圧、検出電圧)が変化する。インピーダンスの変化を検出することによって、ピニオン軸61に作用した外部トルクの方向と外部トルクの値とを検出することができる。
以上の説明をまとめると、次の通りである。なお、ピニオン軸61のことを適宜「作用軸61」と言うことにする。
図4〜図5に示すように、作用軸61と第1及び第2の中空軸62,63とは、嵌合し且つ固定する、例えば、圧入によって互いに連結し合う別部材である。作用軸61は、外部から作用した外部トルクを負荷31,31(図1に示す操舵車輪31,31)へ伝達する部材である。第1及び第2の中空軸62,63は、外周面に磁歪膜71,72が形成された部材である。
作用軸61には、第1及び第2の中空軸62,63から分離した状態において、外部トルクを負荷31,31へ伝達するためのトルク伝達部分32(ピニオン32)を形成することができる。このため、作用軸61には、トルク伝達に必要な強度を十分に確保するために、浸炭処理等の熱処理やショットピーニング等の、最適な表面処理を施すことができる。
しかも、作用軸61には磁歪膜71,72が形成されない。磁歪膜71,72は、磁歪メッキ処理よって形成されるものである。しかし、作用軸61には磁歪メッキ処理を施さない。作用軸61におけるトルク伝達部分32に、磁歪メッキ材が付着することはない。
一方、第1及び第2の中空軸62,63の外周面には、作用軸61から分離した状態で、磁歪メッキ処理などによって、磁歪膜71,72を最適な状態で形成することができる。つまり、第1の中空軸62には第1の磁歪膜71が施され、第2の中空軸63には第2の磁歪膜72が施される。
例えば、磁歪メッキ処理前の軸材の安定化処理、磁歪膜71,72の安定化のための熱処理、磁歪膜71,72における磁歪の方向を設定するための高周波熱処理や消磁処理などを、最適な条件で施すことができる。磁歪膜71,72を施す条件(加熱時間、加熱温度など)を、作用軸61の材質に応じて変える必要はない。
さらに、第1及び第2の中空軸62,63には、この軸自体62,63に求められる、ねじり剛性等の必要な機械的性質を確保するために、作用軸61とは別個に調質を行うことができる。
このように、トルク伝達軸24に対して、磁歪膜71,72とトルク伝達部分32の両方を、それぞれ最適な加工によって形成することができる。しかも、磁歪膜71,72の磁歪特性の安定性を十分に高めることができる。磁歪特性の安定性を高めることによって、磁歪式トルクセンサ41のセンサ信号を十分に安定させ且つ検出精度を高めることができる。
さらには、第1及び第2の中空軸62,63は、作用軸61を嵌合し且つ固定する、例えば、圧入によって連結するための嵌合孔62a,63aを有している。第1及び第2の中空軸62,63が加熱されたときに、嵌合孔62a,63aの面と作用軸61の外面との間で遮熱効果を有する。このため、各中空軸62,63から作用軸61へ伝わる熱量は、作用軸61に各中空軸62,63を一体に形成した場合と比べて、比較的少なくてすむ。
しかも、第1及び第2の中空軸62,63は、各磁歪膜71,72を形成するだけの部材である。このため、第1及び第2の中空軸62,63を極めて小型にすることができるので、各中空軸62,63の質量は小さい。
従って、第1及び第2の磁歪膜71,72を加熱する工程において、各磁歪膜71,72からの放熱量を過大に加味した高温によって、各磁歪膜71,72を加熱する必要はない。この結果、各磁歪膜71,72がキュリー温度に達することを防止することができるので、各磁歪膜71,72の磁歪特性を消滅または劣化させずに形成でき、感度の低下を防止し、且つ、安定性を十分に高めることができる。
これに対して、作用軸61に各中空軸62,63を一体に形成した場合には、第1及び第2の磁歪膜71,72を加熱する工程において、各磁歪膜71,72の表面を加熱したときの熱が、各磁歪膜71,72から各中空軸62,63を介して、そのまま、作用軸61に容易に伝達されてしまう(逃げてしまう)。
各磁歪膜71,72の加熱温度を所定値に確保するためには、各磁歪膜71,72の表面温度を倍増させる必要がある。これでは、各磁歪膜71,72がキュリー温度に達してしまう心配がある。
上述のように、本発明では、各磁歪膜71,72からの放熱量を過大に加味した高温によって、各磁歪膜71,72を加熱する必要はない。この結果、各磁歪膜71,72がキュリー温度に達することはない。
しかも、第1及び第2の中空軸62,63に形成された各磁歪膜71,72が、作用軸61からの磁気の影響や作用軸の歪みの影響を受けることはない。
この磁歪式トルクセンサ41を、図1に示す車両用電動パワーステアリング装置10に設けることができる。この場合には、ステアリングホイール21からトルク伝達軸24に伝わった操舵トルクを、磁歪式トルクセンサ41によって安定的に精度良く検出できる。安定的に精度良く検出された操舵トルクに応じて、電動モータ43から補助トルクが出力される。操舵トルクに補助トルクを加えた複合トルクによって、操舵車輪31,31を操舵することができる。従って、ステアリングホイール21の操舵フィーリングを、十分に高めることができる。
さらに第1及び第2の中空軸62,63は、長手方向全体に貫通した嵌合孔62a,63aを有しているので、磁歪膜71,72に与える軸内部の影響、例えば熱処理や磁化のばらつき等の影響を、より抑制することができる。
さらには、第1及び第2の中空軸62,63は、作用軸61とは別部材である。従って、次の製造方法によって、第1の磁歪膜71を有した第1の中空軸62と、第2の磁歪膜72を有した第2の中空軸63を、大量生産することができる。製作工数を大幅に低減することができるので、第1及び第2の中空軸62,63の生産性を、より高めることができ、この結果、コストダウンを図ることができる。
製造方法は、次の通りである。
先ず、嵌合孔62aを有した長尺の中空材料と、嵌合孔63aを有した長尺の中空材料を準備する。
次に、嵌合孔62aを有した長尺の中空材料の全外周面に磁歪膜を施し、嵌合孔63aを有した長尺の中空材料の全外周面に磁歪膜を施す。
次に、嵌合孔62aを有した長尺の中空材料を所定の長さで切断して、複数個の第1の中空軸62を得る。また、嵌合孔63aを有した長尺の中空材料を所定の長さで切断して、複数個の第2の中空軸63を得る。
ところで、上記構成の磁歪式トルクセンサ41は、上記車両用電動パワーステアリング装置10の他に、ステア−バイ−ワイヤ式操舵システムや四輪操舵システムにおける、車両用ステアリング装置に備えた場合においても、同様の効果を発揮する。
ステア−バイ−ワイヤ式操舵システムとは、図1において、操舵車輪31,31を操舵するための操舵機構(トルク伝達軸24及びラック軸26)を、ステアリングホイール21から機械的に分離させた方式の、操舵システムである。
次に、磁歪式トルクセンサ41の製造方法、特に、トルク伝達軸24の製造方法について説明する。トルク伝達軸24の製造方法は、図4、図5及び図7に示す工程によって製造するものである。図7(a)〜図7(d)は、トルク伝達軸の製造方法を示している。
先ず、図4(a)に示すように、第1の磁歪膜71が外周面に施された第1の中空軸62と、第2の磁歪膜72が外周面に施された第2の中空軸63と、これら第1及び第2の中空軸62,63に嵌合される作用軸61とを準備する(軸準備工程)。
次に、図5(a)に示すように、第1及び第2の中空軸62,63の中に作用軸61を嵌合し且つ固定する(つまり、圧入する)ことによって、トルク伝達軸24を製造する(軸連結工程)。この結果、図5(b)に示すトルク伝達軸24を製造することができる。
次に、図7(a)に示すように、作用軸61の連結部61c(治具掛け部)に第1の治具91を掛け、作用軸61のフランジ部61f(治具掛け部)に第2の治具92を掛け、中空軸61の治具掛け部61kに第3の治具93を掛ける。さらに、第1及び第2の治具91,92を固定部材94,95に掛けることによって、回り止めをする。つまり、第1及び第2の治具91,92の回転を規制する。
次に、図7(a)に示すように、第3の治具93を図時計回りR1に捩る。このようにして、作用軸61と第1及び第2の中空軸62,63に所定の正方向の付加トルクを加える。この付加トルクの大きさは、好ましくは15〜100Nm程度である。なお、これ以上の大きさの付加トルクであってもよい。この結果、第1及び第2磁歪膜71,72にも正方向の付加トルクが付与される(外力付与工程)。
次に、図7(b)に示すように、第1及び第2磁歪膜71,72に加熱装置(例えば、高周波焼入装置96)をセットする。高周波焼入装置96は、第1の磁歪膜71の周囲を囲う第1加熱用コイル96aと、第2の磁歪膜72の周囲を囲う第2加熱用コイル96bと、第1及び第2加熱用コイル96a,96bに高周波数の交流電力を供給する電源96cとからなる。
次に、図7(b)に示すように、第3の治具93による付加トルクを付与しながら、高周波焼入装置96により、2つの磁歪膜71,72を同時に、所定の時間にわたって加熱する(加熱工程)。
次に、図7(c)に示すように、第1及び第2の磁歪膜71,72を、加熱された温度よりも低温となるように冷却する(冷却工程)。
次に、図7(c)に示すように、第3の治具93の捩り作業を止めることによって、加えていた付加トルクを除く(外力解放工程)。
最後に、図7(d)に示すように、トルク伝達軸24から全ての治具91〜93と高周波焼入装置96を外して、作業を終了する。
次に、上記加熱工程と上記冷却工程における作業特性を、図8によって説明する。
図8は、横軸を経過時間とし縦軸を磁歪膜の表面温度として、加熱工程と冷却工程における磁歪膜71,72の温度変化の一例を示している。
加熱工程において、高周波焼入装置96から第1及び第2加熱用コイル96a,96bへ、時点0から時点tiまでの所定の加熱時間にわたって高周波数の交流電力を供給することにより、第1及び第2の磁歪膜71,72は温度Teまで加熱される。加熱時間は、好ましくは3〜5sec程度である。なお、これ以上の時間であってもよい。加熱温度Teは好ましくは約400℃程度である。この時点で、高周波焼入装置96を停止することにより加熱工程を完了する。
周波焼入装置96を停止した時点で、次の冷却工程に入る。直前の加熱工程において、高周波焼入による第1及び第2の磁歪膜71,72の加熱時間を3〜5sec程度に設定した場合には、第1及び第2の磁歪膜71,72を外気温だけで十分に冷却することができる。図8では、時点tiから自然冷却することによって、第1及び第2の磁歪膜71,72の温度が徐々に低下していく状態を示している。第1及び第2の磁歪膜71,72の加熱温度が約400℃であるから、それ以下の温度に第1及び第2の磁歪膜71,72を冷却すればよい。
このように、本発明の製造方法では、先ず、磁歪膜71,72が外周面に施された第1及び第2の中空軸62,63に対し、作用軸61を嵌合し且つ固定する、例えば、圧入して互いに連結することにより、トルク伝達軸24を製造する。圧入による影響を受けた磁歪膜71,72には、歪みが生じて、この歪みがそのまま残留する。
これに対して、本発明の製造方法では、次に、作用軸61に所定の付加トルクを加えた状態で、磁歪膜71,72を所定の時間にわたって加熱処理する。加熱処理が完了した後に、磁歪膜71,72を、加熱された温度よりも低温となるように冷却して、作用軸61に加えられていた付加トルクを除く。
このように、磁歪膜71,72に付加トルクを加えた状態で、所定時間にわたって熱処理することにより、磁歪膜71,72にクリープを発生させることができる。
つまり、磁歪膜71,72に熱処理を施すことにより発生するクリープを巧みに利用して、磁歪膜71,72に残留している歪みを低減又は除去することができる。しかも、付加トルクを加えながら磁歪膜71,72に熱処理を施すことにより、クリープを利用して、磁歪膜71,72に付加された歪みを抜くことができる。そして、冷却後、この付加トルクを除去すると、磁歪膜71,72に、ピニオン軸61とそれぞれの中空軸62,63の弾性復元トルク(自己の弾性によって元に戻ろうとするトルク)により弾性歪みが付与される(歪みが付与される)。つまり、付加トルクを除去したことによって、ピニオン軸61と第1及び第2の中空軸62,63が自己の弾性によって元に戻るので、磁歪膜71,72に歪みが付与される。この結果、磁歪膜71,72における磁歪の方向を、付加トルクを加えた方向と反対方向に正確に且つ容易に傾けることができる。つまり、第1の磁歪膜71と第2の磁歪膜72との、磁歪異方性を設定することができる。
このように、本発明の製造方法では、トルク伝達軸24に磁歪膜71,72及びトルク伝達部分32の両方を、それぞれ最適な加工によって形成することができる。しかも、磁歪膜71,72の磁歪特性の安定性を十分に高めることができる。磁歪特性の安定性を高めることによって、磁歪式トルクセンサ41のセンサ信号を十分に安定させ且つ検出精度を高めることができる。
さらにまた、作用軸61と第1及び第2の中空軸62,63という3つの部材を組み合わせることによって、トルク伝達軸24を製造したにもかかわらず、次の2つの処理を同時に行うことができる。
第1の処理は、第1及び第2の中空軸62,63に作用軸61を圧入して連結したことによって磁歪膜71,72に生じた歪みを、低減又は除去する処理である。
第2の処理は、磁歪膜71,72における磁歪の方向を設定する、つまり、磁歪異方性を設定する処理である。
従って、磁歪特性の安定性を十分に高めた磁歪膜71,72を有するトルク伝達軸24を、少ないステップによって簡単に製造することができる。この結果、磁歪式トルクセンサ41の生産性を高めることができる。
次に、トルク伝達軸24の変形例について、図9及び図10に基づき説明する。なお、上記図1〜図8に示す実施例と同様の構成や製造方法については、同一符号を付し、その説明を省略する。
変形例のトルク伝達軸124は、上記図1〜図8に示すトルク伝達軸24と、実質的に同等品である。つまり、変形例のトルク伝達軸124は、トルク伝達軸24と置き換えて用いられる。
図9(a)は、分解した状態の変形例のトルク伝達軸124を示しており、上記図4(a)に示すトルク伝達軸24に対応させて表した。図9(b)は、図9(a)のb−b線に沿った断面構造を示している。図9(c)は、図9(a)のc−c線に沿った断面構造を示している。
図9(a)に示すように、トルク伝達軸124は、ピニオン軸161(作用軸161)と第1の中空軸162と第2の中空軸63(上記図4(a)に示す第2の中空軸63と同一品)とからなる。ピニオン軸161と第1の中空軸162と第2の中空軸63は、互いに別部材で構成されており、互いに同軸に配列される(トルク伝達軸124の軸線CLに配列される)。
さらに、ピニオン軸161と第1の中空軸162と第2の中空軸63は、互いに嵌合し合い且つ固定し合う(連結し合う)ことによって、一体的に組み立てられる。例えば、ピニオン軸161と第1及び第2の中空軸162,63は、圧入することによって、一体的に組み立てられる。
ピニオン軸161と第1及び第2の中空軸162,63は、強磁性の材料等の磁性体からなる。強磁性の材料としては、例えば、鉄鋼(ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材を含む)がある。
詳しく説明すると、図9(a)に示すように、ピニオン軸161は中実軸であり、軸長手方向の一端161aから他端161bへ向かって、連結部161c、小径部161d、嵌合軸部161e、治具掛け部161f、中間被支持部161g、止め輪嵌合溝161h、上記ピニオン32、下側被支持部161iを、この順に配列するとともに、軸線CLに配列したものである。
これらの連結部161c、小径部161d、嵌合軸部161e、治具掛け部161f、中間被支持部161g、止め輪嵌合溝161h、上記ピニオン32、下側被支持部161iは、全てピニオン軸161に一体に形成されている。
ピニオン軸161の各部について、図4(a)〜(c)に示すピニオン軸61と対比させて説明すると、次の通りである。
連結部161cは、連結部61cと同一構成である。小径部161dは、第1嵌合軸部61dと同様に真円状(円柱状)を呈した軸である。嵌合軸部161eは、第2嵌合軸部61eと同様に真円状(円柱状)を呈した軸である。嵌合軸部161eの径D2は、第2嵌合軸部61eの径と同一であり、小径部161dの径D1よりも若干大径に設定されている。小径部161dは、ピニオン軸161の一端161aに近い位置に設けられている。大径の嵌合軸部161eは、ピニオン軸161の一端161aから遠い位置に設けられている。
さらに、嵌合軸部161eは、軸長手方向の中央部に治具掛け部161kが形成されている。治具掛け部161kは、治具を掛ける部分であり、図9a及び図9bに示すように、ピニオン軸161の一端161a側から見たときに、軸断面が非円形状に形成されている。より具体的には、治具掛け部161kは、嵌合軸部161eの外周面を2面取り又は4面取りすることによって形成された平坦面161lを有した部分である。断面が非円形状に形成された治具掛け部161kに、工具を確実に且つ安定的に掛けることができる。
治具掛け部161fは、嵌合軸部161eと中間被支持部161gとの間に形成されている。治具掛け部161fは、図9a及び図9cに示すように、ピニオン軸161の一端161a側から見たときに、軸断面が非円形状に形成されている。より具体的には、治具掛け部161fは、外周面が2面取り又は4面取りされることによって形成された平坦面161mを有している。断面が非円形状に形成された治具掛け部161mに、工具を確実に且つ安定的に掛けることができる。
中間被支持部161gは、中間被支持部61gと同一構成である。止め輪嵌合溝161hは、止め輪嵌合溝61hと同一構成である。下側被支持部161iは、下側被支持部61iと同一構成である。
一方、変形例の第1の中空軸162は、図4(a)に示す第1の中空軸62と実質的に同じ構成であり、外周面の全体にわたって第1の磁歪膜71が施されている。第2の中空軸63は、図4(a)に示す第2の中空軸63と全く同一の構成であり、外周面の全体にわたって第2の磁歪膜72が施されている。
このように、外部から外部トルクが作用するトルク側軸161は、表面に磁歪式トルクセンサ41(図3参照)の第1の磁歪膜71及び第2の磁歪膜72を有している。
第1の中空軸162の各寸法は、第2の中空軸63の各寸法と同一に設定されている。例えば、第1の中空軸162における嵌合孔162a(第1の嵌合孔162a)の径は、第2の中空軸63における嵌合孔63a(第2の嵌合孔63a)の径d2と同一に設定されている。
第1の嵌合孔162aに対する嵌合軸部161eの嵌め合い方式と、第2の嵌合孔63aに対する嵌合軸部161eの嵌め合い方式は、共に「しまりばめ」である。
第1の嵌合孔162aに嵌合軸部161eを嵌め込むことにより、第1の中空軸162に径方向への一定の荷重を付加することができる。この荷重によって、第1の磁歪膜71の磁歪特性の、ばらつきを調整することができる。同様に、第2の嵌合孔63aに嵌合軸部161eを嵌め込むことにより、第2の中空軸63に径方向への一定の荷重を付加することができる。この荷重によって、第2の磁歪膜72の磁歪特性の、ばらつきを調整することができる。
ピニオン軸161と第1及び第2の中空軸162,63の組立手順は、次の通りである。先ず、ピニオン軸161の一端161a側から嵌合軸部161eの一端部分を第1の中空軸162に嵌合する(圧入することによって固定する)。次に、ピニオン軸161の他端161b側から嵌合軸部161eの他端部分を第2の中空軸63に嵌合する(圧入することによって固定する)。これで、トルク伝達軸24の組立作業を完了する。この結果を図10に示す。
図10(a)は、組み立てた状態の変形例のトルク伝達軸124の断面構造を示しており、上記図5(a)に示すトルク伝達軸24に対応させて表した。図10(b)は、組み立てた状態のトルク伝達軸124の外観を示しており、上記図5(b)に示すトルク伝達軸24に対応させて表した。
第1の中空軸162と第2の中空軸63とは、ピニオン軸161の軸長手方向に所定の間隔L2を有している。トルク伝達軸124は、第1の磁歪膜71と第2の磁歪膜72との間には、磁歪膜が全く存在しない、間隔L2の非磁歪部分を有している。
このように、2つの中空軸162,63の各嵌合孔162a,63aに対して、ピニオン軸161における同一部分が嵌合されることはない。従って、嵌合軸部161eの嵌合面や各嵌合孔162a,63aの嵌合面が荒れることはない。各嵌合孔162a,63aに対して嵌合軸部161eを安定して嵌合することができ、トルク伝達軸124の組立精度を高めることができる。
このように組み立てられた、ピニオン軸161と第1及び第2の中空軸162,63とは、相対的な回転と相対的な軸方向移動を、互いに規制し合う。ステアリングホイール21(図1参照)から連結部161cを介してピニオン軸161に伝わった操舵トルクは、ピニオン軸161から第1及び第2の中空軸162,63にも伝達される。
なお、ピニオン軸161は、軽量化のためには中実軸よりも中空軸にする方が好ましい。
変形例のトルク伝達軸124の製造方法については、上記図4、図5及び図6に示す製造方法と同じなので、説明を省略する。
なお、本発明では、トルク伝達軸24,124を製造する工程において、第1及び第2の中空軸62(162を含む),63の中に作用軸61,161を嵌合するとともに、互いに固定させることによって、トルク伝達軸24,124を製造するものであればよく、圧入だけによる連結の他に、第1及び第2の中空軸62(162を含む),63の中に作用軸61,161を嵌合した後に、「ピン」や「ねじ」によって互いに固定させる方法であってもよい。
本発明の磁歪式トルクセンサ41は、車両用電動パワーステアリング装置に備えたトルクセンサとして用いるのに、好適である。
本発明に係る電動パワーステアリング装置の模式図である。 本発明に係る電動パワーステアリング装置の全体構成図である。 図2の3−3線断面図である。 本発明に係るトルク伝達軸の分解した状態を説明する図である。 本発明に係るトルク伝達軸の組立状態を説明する図である。 本発明に係る磁歪式トルクセンサの模式的回路図である。 本発明に係るトルク伝達軸並びに磁歪膜の製造方法を示す説明図である。 本発明に係る加熱工程と冷却工程における磁歪膜の温度変化の一例を示す説明図である。 本発明に係る変形例のトルク伝達軸の分解した状態を説明する図である。 本発明に係る変形例のトルク伝達軸の組立状態を説明する図である。
符号の説明
24,124…トルク伝達軸、41…磁歪式トルクセンサ、61,161…作用軸、62,162…第1の中空軸、63…第2の中空軸、71…第1の磁歪膜、72…第2の磁歪膜。

Claims (3)

  1. 外部から外部トルクが作用するトルク伝達軸の表面に第1の磁歪膜及び第2の磁歪膜を有している、磁歪式トルクセンサの製造方法において、
    前記第1の磁歪膜が外周面に施された第1の中空軸と、前記第2の磁歪膜が外周面に施された第2の中空軸と、これら第1及び第2の中空軸に嵌合される作用軸とを準備する工程と、
    前記第1及び第2の中空軸の中に前記作用軸を固定することによって、前記トルク伝達軸を製造する工程と、
    前記作用軸に所定の付加トルクを加えることによって、前記第1及び第2の磁歪膜に前記付加トルクを加える工程と、
    この付加トルクを加えた状態で、前記第1及び第2の磁歪膜を所定の時間にわたって加熱する工程と、
    加熱された前記第1及び第2の磁歪膜を冷却する工程と、
    加えていた前記付加トルクを除く工程とを、
    有していることを特徴とする磁歪式トルクセンサの製造方法。
  2. 前記第1及び第2の中空軸と作用軸を準備するときに、
    前記第1の中空軸における嵌合孔の径を、前記第2の中空軸における嵌合孔の径よりも小径に設定し、
    前記第1の中空軸の嵌合孔に固定される小径の第1嵌合軸部を、前記作用軸の一端に近い位置に設けるとともに、
    前記第2の中空軸の嵌合孔に固定される大径の第2嵌合軸部を、前記作用軸の一端から遠い位置に設ける、
    ことを特徴とした請求項1記載の磁歪式トルクセンサの製造方法。
  3. 前記第1及び第2の中空軸の中に前記作用軸を固定するときに、前記作用軸を軸長手方向の両端から別々に前記第1及び第2の中空軸に固定することを特徴とした請求項1記載の磁歪式トルクセンサの製造方法。
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