JP2008248271A - 高強度ステンレス鋼及びこれを用いた高強度ステンレス鋼線 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】高強度ステンレス鋼は、0.05≦C≦0.12質量%、0.10≦Si≦3.0質量%、0.50≦Mn≦1.50質量%、6.1≦Ni≦7.9質量%、16.0≦Cr≦22.0質量%、0.5≦Co≦2.0質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、−20≦Md30≦100℃、10.0≦[Ni]≦14.0、20.0≦[Cr]≦24.0である。尚、Md30=551−462×(C+N)−9.2×Si−8.1×Mn−13.7×Cr−18.5×Mo−29×(Ni+Cu)、[Ni]=Ni+0.5Mn+0.3Cu+25N+30C、[Cr]=Cr+1.5Mo+2Si+1.5Ti+5V+5.5Al+1.75Nb+0.75W。
【選択図】図1
Description
(1)オーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS301、302、304、304N1、304N2、316等のSUS300番台のステンレス鋼)を溶体化処理後、冷間伸線加工することにより得られるステンレス鋼線、
(2)0.60〜0.95%のCを含む炭素鋼をパテンティング処理し、冷間伸線加工することにより得られるピアノ線、
(3)共析組成付近(0.24〜0.86%のC)の炭素鋼をパテンティング処理し、冷間伸線加工することにより得られる硬鋼線、
(4)中でも特に、耐食性が要求される橋梁用メインケーブルには、硬鋼線やピアノ線の表面に亜鉛メッキを施した亜鉛メッキ鋼線等、
が用いられている。
また、本発明の他の目的は、強度、剛性率、弾性率、捻回特性、耐へたり性が高いことに加えて、高い耐食性を備えた、高強度ステンレス鋼及びこれを用いた高強度ステンレス鋼線を提供することにある。これにより、耐食性が必要な用途においてメッキ工程を不要とし生産コストや生産効率を向上させようとするものである。
残部がFe及び不可避的不純物からなる高強度ステンレス鋼であって、
次式(1)で表されるMd30が、−20≦Md30≦100℃、
次式(2)で表される[Ni]が10.0≦[Ni]≦14.0、
次式(3)で表される[Cr]が20.0≦[Cr]≦24.0、
であることを要旨とする。
但し、
Md30=551−462×(C+N)−9.2×Si−8.1×Mn−13.7×Cr−18.5×Mo−29×(Ni+Cu)…式(1)、
[Ni]=Ni+0.5Mn+0.3Cu+25N+30C…式(2)、
[Cr]=Cr+1.5Mo+2Si+1.5Ti+5V+5.5Al+1.75Nb+0.75W…式(3)。
尚、上記式(1)〜(3)の計算に必要な元素が含まれていない又はその含有量が不明である元素については、これらの式には、その元素の含有量として「0」を代入するものとする。
残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ、鋼マトリックス中に0.05〜20.0体積%のフェライトを含有するオーステナイト−フェライト二相系の高強度ステンレス鋼であって、
上記式(1)で表されるMd30が、−20≦Md30≦100℃、
上記式(2)で表される[Ni]が10.0≦[Ni]≦14.0、
であることを要旨とする。この場合、上記式(3)で表される[Cr]が20.0≦[Cr]≦24.0であることが望ましい。
Cu≦0.50質量%、及び、Mo≦2.0質量%、から選ばれる少なくともいずれか1種を含有してもよい。
本発明に係る高強度ステンレス鋼は、上記いずれの場合においても、更に、Nb、V、W、Ta、及び、Hfから選ばれる少なくともいずれか1種又は2種以上を総量で0.01質量%以上2.0質量%以下含有してもよい。
本発明に係る高強度ステンレス鋼は、上記いずれの場合においても、更に、 Ca、Mg、B、及び、REMから選ばれる少なくともいずれか1種又は2種以上を総量で0.0001質量%以上0.0100質量%以下含有してもよい。
本発明に係る高強度ステンレス鋼は、上記いずれの場合においても、更に、0.001≦Al≦0.10質量%を含有してもよい。
本発明に係る他の高強度ステンレス鋼は、上記成分を含有するとともに、オーステナイト−フェライト二相系の高強度ステンレス鋼であり、かつ、Md30の適正化、並びに、[Ni]の適正化を行ったため、強度、剛性率、弾性率、捻回特性、耐へたり性等の機械的特性が高く、更に、高温強度や磁性を付与できるという効果がある。
本発明に係るこれらの高強度ステンレス鋼は、当該鋼に加工を施すことにより、、強度、剛性率、弾性率、捻回特性、耐へたり性、及び、耐食性を高めた鋼加工品が得られるという効果がある。
本発明に係る高強度ステンレス鋼線は、本発明に係る高強度ステンレス鋼を用いたものであるから、これと同様の効果を奏する。
(1)本実施形態に係る高強度ステンレス鋼は、必須元素としてC、Si、Mn、Ni、Cr、及び、Coを含有する。また、本実施形態に係る高強度ステンレス鋼は、任意的にCu、及び、Moから選ばれる少なくともいずれか1種、Nb、V、W、Ta、及び、Hfから選ばれる少なくともいずれか1種又は2種以上、Ca、Mg、B、及び、REMから選ばれる少なくともいずれか1種又は2種以上、並びに/又は、Alを含有してもよい。また、本実施形態に係る高強度ステンレス鋼は、その残部がFe及び不可避的不純物からなる。不可避的不純物には、例えば、P、S、O、及び、Nが含まれる。
条件A:
次式(1)で表されるMd30が、−20≦Md30≦100℃、
次式(2)で表される[Ni]が10.0≦[Ni]≦14.0、
次式(3)で表される[Cr]が20.0≦[Cr]≦24.0。
但し、
Md30=551−462×(C+N)−9.2×Si−8.1×Mn−13.7×Cr−18.5×Mo−29×(Ni+Cu)…式(1)、
[Ni]=Ni+0.5Mn+0.3Cu+25N+30C…式(2)、
[Cr]=Cr+1.5Mo+2Si+1.5Ti+5V+5.5Al+1.75Nb+0.75W…式(3)。
尚、上記式(1)〜(3)の計算に必要な元素が含まれていない又はその含有量が不明である元素については、これらの式には、その元素の含有量として「0」を代入するものとする。
鋼マトリックス中に0.05〜20.0体積%のフェライトを含有するオーステナイト−フェライト二相系の高強度ステンレス鋼であって、
上記式(1)で表されるMd30が、−20≦Md30≦100℃、
上記式(2)で表される[Ni]が10.0≦[Ni]≦14.0。
上述のように必須元素は、C、Si、Mn、Ni、Cr、及び、Coであり、その含有量及びその限定理由は以下の通りである。
(1)0.05≦C≦0.12質量%
Cは、オーステナイト形成元素として不可欠であり、加工硬化率を向上させる。そのため、C含有量は、0.05質量%以上とする。一方、Cを過剰に含有させると、粗大な炭化物が晶出し、加工性を劣化させる。そのため、C含有量は、0.12質量%以下とする。より好ましいC含有量は、0.08質量%以上0.11質量%以下である。
Siは、鋼の脱酸剤である。そのため、Si含有量は、0.10質量%以上とする。一方、Siは、その含有量が過大になると溶体化処理後の鋼の硬さを硬くし、その冷間加工性に悪影響を及ぼし、その熱間加工性を低下させる。そこで、Si含有量は、3.0質量%以下とする。尚、強度を特に重視した場合における、より好ましいSi含有量は、0.8≦Si≦2.0質量%である。
Mnは、鋼の脱酸剤として作用する。そこで、Mn含有量は、0.50質量%以上とする。一方、Mnを過剰に含有させると、耐食性を劣化させる。そこで、Mn含有量は、1.50質量%以下とする。より好ましいMn含有量は、1.0質量%以下である。
Niは、耐食性、特に、還元性酸環境中での耐食性を向上させるのに有効である。そこで、Ni含有量は、6.1質量%以上とする。一方、Niを過剰に含有させると製造コストの上昇を招く。そこで、Ni含有量は、7.9質量%以下とする。より好ましいNi含有量は、7.0質量%以下である。
Crは、耐食性を確保するために必須の元素である。そこで、Cr含有量は、16.0質量%以上とする。一方、Crを過剰に含有させると熱間加工性を害するとともに、靭性の低下を招く。そこで、Cr含有量は、22.0質量%以下とする。より好ましいCr含有量は、19.1質量%以上21.0質量%以下、更に好ましいCr含有量は、19.1質量%以上20.0質量%以下である。
Coは、これを含有させると、固溶強化による高強度化を図ることができる。また、Coは弾性率や剛性率の向上に寄与する。そこで、Co含有量は、その効果が明瞭となる0.5質量%以上とする。一方、Coを過剰に含有させると、製造コストの大幅上昇を招く。そこで、Co含有量は、2.0質量%以下とする。より好ましいCo含有量は、0.8質量%以上1.5質量%以下である。
また、Co含有量は、0.5質量%以上2.0質量%以下であるが、捻回特性を高めるためにはその含有量は、更に、Si含有量との関係で、Co/Siが0.75以上1.80以下であることが好ましい。
(7)P≦0.080質量%
Pは、粒界に偏析し、粒界腐食感受性を高めるほか、靭性の低下を招くため、含有量が低いほうが望ましいが、必要以上の含有量の低減は製造コストの上昇を招く。そこで、P含有量は、0.080質量%以下とする。より好ましいP含有量は、0.030質量%以下である。
Sは、熱間加工性を低下させる。そこで、S含有量は、0.020質量%以下とする。より好ましいS含有量は、製造コストとの兼ね合いから、0.010質量%以下、更に好ましくは、0.005質量%以下である。
Oは、冷間加工性や捻回特性へ有害な酸化物を形成することから極力低く抑制すべき元素である。そこで、O含有量は、0.015質量%以下とする。より好ましいO含有量は、製造コストとの兼ね合いから、0.010質量%以下、更に好ましくは、0.005質量%以下である。
Nは、冷間加工性や捻回特性へ有害な窒化物を形成することから極力低く抑制すべき元素である。そこで、N含有量は、0.050質量%以下とする。より好ましいN含有量は、製造コストとの兼ね合いから、0.030質量%以下である。
(11)Cu≦0.50質量%
Cuは、耐食性、特に、還元性酸環境中での耐食性を向上させるのに有効であるほか、加工硬化能を低下させ、冷間加工性を向上させ、また、熱処理等を施せば抗菌性を向上させるため、必要に応じて含有させることができる。一方、Cuを過剰に含有させると、熱間加工性を低下させる。そこで、Cu含有量は、0.50質量%以下とする。
Moは、所望の耐食性を得るために必要であり、強度を向上させることができるため、必要に応じて含有させることができる。一方、Moを過剰に含有させると、熱間加工性を低下させるほか、製造コストの上昇を招く。そこで、Mo含有量は、2.0質量%以下とする。より好ましいMo含有量は、1.0質量%以下である。
Nb、V、W、Ta、Hfは、Cと炭化物、又は、N、Cと炭窒化物を形成して、鋼の結晶粒を微細化し、靭性を高める効果がある。そこで、これらのいずれか1種又は2種以上を総量で、0.01質量%以上2.0質量%以下含有させるとよい。一方、これらを過剰に含有させると、製造コストの上昇を招く。そこで、これらのいずれか1種又は2種以上の総量を、1.0質量%以下とする。より好ましいこれらの総量は、0.5質量%以下である。
Ca、Mg、B、REM(Rare Eatrh Metal)は、鋼の熱間加工性を向上させるのに有効な元素である。そこで、これらのいずれか1種又は2種以上を総量で、0.0001質量%以上含有させるとよい。一方、これらを過剰に含有させると、その効果を飽和させ、逆に熱間加工性を低下させる。そこで、それらの1種又は2種以上の総量を、0.0100質量%以下とする。より好ましいこれらの総量は、0.0050質量%以下である。尚、REMは、Ce、La又はそれらの合金からなる。
Alは、鋼の強力な脱酸剤であり、Oを極力低減させる効果があるため、必要に応じて含有させる。そこで、Al含有量は、その効果が確認できる0.001質量%以上とする。一方、Alの過剰添加は、熱間加工性を低下させる。そこで、Al含有量は、0.10質量%以下とする。
次に、本実施形態に係る高強度ステンレス鋼の条件A、B及びその限定理由について説明する。
「Md30」は、次式(1)(上記式(1)に同じ)により表される。
Md30(℃)=551−462×(C+N)−9.2×Si−8.1×Mn−13.7×Cr−18.5×Mo−29×(Ni+Cu)…式(1)
本実施形態に係る高強度ステンレス鋼は、Md30が−20〜100℃の範囲に調整されているため、この温度範囲での加工(伸線加工等)によって、オーステナイト組織の(50%〜80%)をマルテンサイトに変態させることができる。マルテンサイトは、オーステナイトに比べると強度や弾性率が高く、フェライトは、オーステナイトに比べると弾性率が高い。従って、本実施形態に係る高強度ステンレス鋼は、伸線加工等を施すことにより、オーステナイト単相の場合に比べて高い強度や弾性率を得ることができる。
尚、Md30を−20℃以上としたのは、Md30が−20℃未満だとオーステナイトが安定化しすぎてマルテンサイトの生成が困難となり、加工硬化が少なく必要な強度が得られないからである。一方、Md30を100℃以下としたのは、Md30が100℃を超えると加工時にマルテンサイト生成量が多すぎるため、断線・縦割れ等の破壊が生じるためである。
[Ni]は、次式(2)(上記式(2)に同じ)により表され、オーステナイト安定化元素の総和を示す。
[Ni]=Ni+0.5Mn+0.3Cu+25N+30C…式(2)
[Ni]は、オーステナイトを安定化するために、10.0以上とする(図1参照)。一方、[Ni]が大きすぎると、熱間加工性の低下及び製造コストの上昇を招く。そこで、[Ni]は、14.0以下とする(図1参照)。
(18)20.0≦[Cr]≦24.0
[Cr]は、次式(3)により表され、フェライト安定化元素の総和を示す。
[Cr]=Cr+1.5Mo+2Si+1.5Ti+5V+5.5Al+1.75Nb+0.75W…式(3)
[Cr]は、フェライトの生成又は加工誘起マルテンサイトの生成のために、20.0以上とする(図1参照)。一方、[Cr]が大きすぎると、σ相の形成等により熱間加工性の低下を招く。そこで、[Cr]は、24.0以下とする(図1参照)。[Cr]を調整することにより、フェライトを生成させることができるため、弾性率や捻回特性を良好なものとすることができる。
(19)0.05体積%≦フェライト量≦20.0体積%
フェライト量(ここでいうフェライトはδ相)をこの範囲とするのは、フェライト量が0.05体積%未満の場合、十分な弾性率・剛性率が得られず、20.0体積%を超える場合、低強度となるからである。より好ましいフェライト量は、0.05体積%以上5.0体積%以下である。本実施形態に係る高強度ステンレス鋼は、該フェライトによって、例えば、高温割れを防いだり、磁性アップによる用途の拡大、高力化、あるいは粒界腐食や応力腐食割れ性を改善できる効果を有する。尚、フェライト量は、熱処理状態における分量を対象にするものとし、またその測定は、例えば、フェライトインジケーターやフェライトスコープなどの他、成分元素に基づくシェフラー状態図から算出でき、その単位は、体積%で示される。
図中斜線部に示したように、本実施形態に係る高強度ステンレス鋼は、フェライトが20.0体積%以下で、10.0≦[Ni]≦14.0、かつ、20.0≦[Cr]≦24.0となるように成分調整したものが好ましく、その金属組織は、オーステナイトとフェライトの二相状態である。
従って、本実施形態に係る高強度ステンレス鋼は、
(1)[Ni]及び[Cr]を上記所定範囲に成分調整することにより、又は、
(2)[Ni]を上記所定範囲に成分調整するとともにフェライト相を上記所定範囲含むことにより、
鋳造凝固時に硬いマルテンサイトが生成せず、熱間加工性を害する不純物SやP等を固溶するフェライトが適度に存在することになるため、加工性が良い。
尚、本実施形態に係る高強度ステンレス鋼のうち鋳造凝固時においてオーステナイト単相のもの(同図斜線部左上部分)も、ひずみを与える加工(伸線加工等)を施した後においては、オーステナイト及びマルテンサイトの二相状態で、高強度、高弾性特性を有するが、上記のように、オーステナイト、フェライト及びマルテンサイトの三相状態である方がより好ましい。
P.I(ピッティング・インデックス)は、耐孔食性の指標であり、次式(4)によって表される。P.Iは、その値が大きいほど耐孔食性が優れていることを示し、好ましくは、19以上23以下である。
P.I=Cr+3.3Mo+16N…式(4)
次に、本実施形態に係るステンレス鋼線及びその製造方法について説明する。(1)まず、上記所定成分を含有する鋼塊を溶製し、鍛造後、熱間圧延で適当な径の線材(高強度ステンレス鋼)を作製する。
こうして得られた線材は、上記所定成分を有するため、その組織は、図1に示したように、基本的にオーステナイトとフェライトの二相状態となる。従って、フェライトが存在するため弾性率や剛性率が良いものとなる。
表1及び表2に示した成分組成(残部はFe及び不可避的不純物からなる)の50kgの各鋼塊を高周波誘導炉で溶製し、鍛造後、熱間圧延を行い、各鋼塊について直径12.5mmの線材を作製した(発明鋼1〜26、比較鋼1〜3)。尚、比較鋼1、2にはSUS304系を用い、比較鋼3にはSUS316を用いた。表3は、発明鋼1〜26及び比較鋼1〜3のMd30(℃)、[Ni]、[Cr]、及び、P.Iを示す。
(試験片)
次に、直径12.5mmの各線材(発明鋼1〜26及び比較鋼1〜3)に対して1050〜1150℃での溶体化処理(後述するフェライト量の測定は最初の溶体化処理を行ったものから採取したものを測定用試料とした)と伸線加工とを繰返し行いながら細径化し、最終加工率95%の冷間伸線加工を行って、線径2.0mmのステンレス鋼線を得た。得られたステンレス鋼線は、発明鋼1〜26を用いたものを、それぞれ、発明線材1〜26、比較鋼1〜3を用いたものを、それぞれ、比較線材1〜3とした。そして、発明線材1〜26、比較鋼1〜3の時効特性を評価する為に、300〜500℃×30分の時効処理を行なって引張強度、弾性率、剛性率、捻回値、及び、磁性を測定する試験片とした。
引張強度及び弾性率は、JIS−Z2201に基づいて、試験片の先に引張加重を加えることにより測定した。そして、この時の破断応力を引張強度とし、弾性領域内での傾きを弾性率とした。尚、引張強度については時効処理前のものについても測定を行った。
(剛性率)
剛性率は、鋼線のねじり試験により、微小領域のねじり角度とねじり強さの関係から算出した。
(捻回値)
捻回値は、標点距離が線径×100倍となるように試験片の一端を固定し、試験片が破断するまで、他端を2回/分の一定速度で回転させることにより求めた。そして、試験片が破断したときの捻り回数を捻回値とした。
(フェライト量)
フェライト量は、測定用試料(上述したように最初の溶体化処理を行った後のものから採取した)を採取し、フェライトメーターにより算出した。
(磁性)
磁性は、透磁率計を用いて測定した。その結果、発明線材1〜26は、いずれも比透磁率が10以上の磁化特性を有した。
(試験片)
直径12.5mmの各線材(発明鋼1〜26及び比較鋼1〜3)を真直に矯正して、引張強度等の測定用の試験片作製のときと同じ条件で溶体化処理して試験片加工し、表面を#400まで仕上げた円形形状の試験片(φ10×50mm)を作製した。これを用いて耐食性を試験した。
(耐食性)
耐食性は、JIS−Z2371に基づいて、塩水噴霧試験を行って評価した。塩水噴霧試験は、試験片を35℃、5%塩化ナトリウム水溶液噴霧環境中に96時間暴露することにより行った。発銹の有無やその性状については、目視により確認した。その結果、全く発銹が認められなかったものを「A」、点状のしみや赤錆が認められたものを「B」とした。
(コイリング加工性及び試験片)
次に、発明線材1〜26と比較線材1〜3に対してコイリング加工を行い、ばね平均径20mm,自由長50mm、総巻数6.5,有効巻き数4.5の圧縮コイルばねを成形した。これらは、コイル平均径D/線径dの比が10で、コイリング加工速度60個/minの条件で成形されたが、いずれも大きなトラブルはなく良好に作業できた。これにより、冷間伸線加工されたステンレス鋼線(発明線材1〜26、比較線材1〜3)のコイリング加工性が良好と判明した。
発明線材1〜26を加工して得たばね、及び、比較線材1〜3を加工して得たばねを星型コイルばね疲労試験機「東海試験機製作所製造:TSC−16B型」にセットし、試験条件(平均応力:500N/mm2,応力振幅:250N/mm2,速度:20Hz)で連続96時間疲労試験を行った。耐へたり性を示す値は、疲労試験前後の荷重損失ΔPを測定して、次式(5)で算出した。
耐へたり性を示す値=(8D・ΔP)/(πGd3)×100…式(5)
但し、D:ばねの平均径,d:鋼線の線径,G:鋼線の横弾性係数,ΔP:荷重損失。
上記式(5)により得られた値が0.05%以下のものを耐へたり性が良いと判断し表4で「○」で示し、その値が0.10%以上のものを耐へたり性が悪いと判断し同表で「×」で示し、その値がその間にあるものを耐へたり性がやや良い判断し同表で「△」で示した。
発明線材1〜26(発明鋼1〜26)は、いずれも要求特性を満足した。これは、発明鋼1〜26が表1に規定する成分を所定量含有するとともに、Md30の適正化、並びに、[Ni]及び[Cr]の適正化を行ったためと考えられる。強度が高かったのは、Md30が−20〜100℃である試験片に伸線加工を施したものであるため、オーステナイトがマルテンサイトに変態したためと考えられる。弾性率が高かったのは、Md30の適正化に加え、[Cr]、[Ni]が上記の所定範囲に調整されているためフェライトが生成したためと考えられる。捻回特性が良かったのは、時効処理を行ったためと考えられる。
表4には、時効熱処理前の引張強さも併記しているが、発明線材1〜26は、比較線材1〜3に比して引張強さの増加率が大きく良い結果だった。更に、耐へたり性についても、発明線材1〜26を加工して得たばねのへたり率はいずれも0.04%以下の結果で、比較鋼1〜3を加工して得たばねのへたり率に比べて良好だった。
また、表4では、弾性率と剛性率については、時効処理後の値のみを示しているが、これらの値は、時効処理前、すなわち、伸線加工状態の弾性率及び剛性率に比して約2〜3%程度の特性向上が見られる。従って、発明線材1〜26は、時効処理前後を問わず、いずれの状態でも、弾性率185GPa以上、剛性率75GPa以上を有するものであった。
Claims (12)
- 0.05≦C≦0.12質量%、
0.10≦Si≦3.0質量%、
0.50≦Mn≦1.50質量%、
6.1≦Ni≦7.9質量%、
16.0≦Cr≦22.0質量%、及び、
0.5≦Co≦2.0質量%、を含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなる高強度ステンレス鋼であって、
次式(1)で表されるMd30が、−20≦Md30≦100℃、
次式(2)で表される[Ni]が10.0≦[Ni]≦14.0、
次式(3)で表される[Cr]が20.0≦[Cr]≦24.0、
であることを特徴とする高強度ステンレス鋼。
但し、
Md30=551−462×(C+N)−9.2×Si−8.1×Mn−13.7×Cr−18.5×Mo−29×(Ni+Cu)…式(1)、
[Ni]=Ni+0.5Mn+0.3Cu+25N+30C…式(2)、
[Cr]=Cr+1.5Mo+2Si+1.5Ti+5V+5.5Al+1.75Nb+0.75W…式(3)。 - 0.05≦C≦0.12質量%、
0.10≦Si≦3.0質量%、
0.50≦Mn≦1.50質量%、
6.1≦Ni≦7.9質量%、
16.0≦Cr≦22.0質量%、及び、
0.5≦Co≦2.0質量%、を含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ、鋼マトリックス中に0.05〜20.0体積%のフェライトを含有するオーステナイト−フェライト二相系の高強度ステンレス鋼であって、
次式(1)で表されるMd30が、−20≦Md30≦100℃、
次式(2)で表される[Ni]が10.0≦[Ni]≦14.0、
であることを特徴とする高強度ステンレス鋼。
但し、
Md30=551−462×(C+N)−9.2×Si−8.1×Mn−13.7×Cr−18.5×Mo−29×(Ni+Cu)…式(1)、
[Ni]=Ni+0.5Mn+0.3Cu+25N+30C…式(2)。 - 更に、
次式(3)で表される[Cr]が20.0≦[Cr]≦24.0であることを特徴とする請求項2に記載の高強度ステンレス鋼。
但し、
[Cr]=Cr+1.5Mo+2Si+1.5Ti+5V+5.5Al+1.75Nb+0.75W…式(3)。 - 更に、
Cu≦0.50質量%、及び、
Mo≦2.0質量%、
から選ばれる少なくともいずれか1種を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の高強度ステンレス鋼。 - 更に、Nb、V、W、Ta、及び、Hfから選ばれる少なくともいずれか1種又は2種以上を総量で0.01質量%以上2.0質量%以下含有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高強度ステンレス鋼。
- 更に、Ca、Mg、B、及び、REMから選ばれる少なくともいずれか1種又は2種以上を総量で0.0001質量%以上0.0100質量%以下含有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の高強度ステンレス鋼。
- 更に、0.001≦Al≦0.10質量%を含有することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の高強度ステンレス鋼。
- 請求項1から7のいずれかに記載の高強度ステンレス鋼に対し、伸線加工を施すことにより得られる高強度ステンレス鋼線であって、引張強度が2300MPa以上であることを特徴とする高強度ステンレス鋼線。
- 請求項1から7のいずれかに記載の高強度ステンレス鋼に対し、伸線加工及び時効処理を施すことにより得られる高強度ステンレス鋼線であって、引張強度が2300MPa以上であることを特徴とする高強度ステンレス鋼線。
- 金属組織が、オーステナイト相とフェライト相、及び、前記オーステナイト相の変態による加工誘起マルテンサイト相の三相の複合組織を有することを特徴とする請求項8又は9に記載の高強度ステンレス鋼線。
- 弾性率が185GPa以上であることを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載の高強度ステンレス鋼線。
- 剛性率が75GPa以上であることを特徴とする請求項8から11のいずれかに記載の高強度ステンレス鋼線。
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