JP2008239735A - ポリアミド成形品の製造方法およびエンジンカバー - Google Patents

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Abstract

【課題】軽量で、かつ高剛性および高耐熱性であり、耐衝撃性および寸法安定性に優れたポリアミド成形品を製造する方法、および該方法によって製造されたポリアミド成形品、特にエンジンカバーを提供すること。
【解決手段】相対粘度2.2以上2.9未満のポリアミド樹脂(A)ペレットおよび相対粘度2.9以上3.6以下のポリアミド樹脂(B)ペレットを含むペレット混合物を用いて成形するポリアミド成形品の製造方法であって、ポリアミド樹脂(A)ペレットおよびポリアミド樹脂(B)ペレットのうち全てのペレットが膨潤性層状珪酸塩を含有し、かつ少なくとも1種類のペレットがさらに非膨潤性フィラーを含有し、非膨潤性フィラーの配合量がペレット混合物全量に対して2.0〜10.0質量%、ペレット混合物の相対粘度が2.9以上であるポリアミド成形品の製造方法、および該方法によって製造されたポリアミド成形品、特にエンジンカバー。
【選択図】なし

Description

本発明はポリアミド成形品の製造方法および該方法によって製造されたポリアミド成形品、特にエンジンカバーに関する。
ポリアミド樹脂は、その優れた物理的および化学的性質から、自動車部品、電気電子部品をはじめ、土木、建築分野で幅広く用いられている。自動車分野においては、低燃費を実現するための軽量化と生産性とを両立するために、樹脂材料による射出成形品が活用されており、なかでもポリアミド樹脂はさまざまな機構部品用の材料として多く使用されている。近年、温度その他の条件面で厳しい環境下に曝されるエンジンルーム内部品にも樹脂化が進んでおり、とりわけ、樹脂化が顕著なのはエンジンカバーやタイミングベルトカバーなどのカバー類である。
カバー用樹脂材料としては、これまでガラス繊維や無機フィラーで強化されたポリアミド6樹脂やポリアミド66樹脂等のポリアミド樹脂組成物が用いられてきた。これは高い耐熱性に加え、耐衝撃性やリサイクル性といった広範囲の要求性能を満たす材料だったからである。しかし、必要な機械的物性を保持しつつ軽量化の要求に応えるには、従来のガラス繊維や無機フィラーによる強化材料では限界があった。一方、性能とは別の観点から生産コストの低減もまた大きな要求であり、これに応える材料は単純な材料組成、優れた生産性(射出成形性やリサイクル性等)を備えている必要がある。
このような背景のもと、ポリアミド樹脂に膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層を分子レベルで分散させたポリアミド樹脂を用いたエンジンカバーが提案されている(特許文献1参照)。しかし、これらのポリアミド樹脂では成形性やリサイクル性に優れるものの、耐衝撃性については不十分であり、特に低温での耐衝撃性を発現させることは大きな課題であった。
かかるポリアミド樹脂の耐衝撃性を向上させる方法が種々提案されており、例えば、オレフィン系共重合体からなる耐衝撃性改良材との混合物(特許文献2参照)によれば、ポリアミド樹脂の耐衝撃性を大きく向上させることができる。しかしこの方法では耐衝撃性の向上に反して、ポリアミド樹脂が本来有する優れた耐熱性や剛性が低下してくる傾向にあり、両立が困難であった。また、ポリアミド樹脂そのものの改質として、原料として用いる膨潤性層状珪酸塩の陽イオン交換容量やその初期粒子径の最適化(特許文献3参照)も提案されているが、耐衝撃性の改善に有効であったものの、耐衝撃性と耐熱性/剛性とのバランスの点において、なお、問題点が残っていた。
そこで、本発明の発明者らは相対粘度が2.6以上の膨潤性層状珪酸塩を含有するエンジンカバー用混合ポリアミド樹脂組成物(特許文献4)を提案し、耐衝撃性と耐熱性/剛性のバランスが得られたが、寸法安定性が低下するという新たな問題が生じていた。すなわち、近年、自動車用エンジンカバーは意匠性重視のため、エンジンを完全に覆い隠すように設計されており、そのため大きな成形体が要求され、剛性や寸法安定性をさらに高める必要があるが、上記技術では得られた成形体に反りが生じ、寸法精度に問題が生じた。特に、排気量2.5Lを越える大型エンジンのためのエンジンカバーにおいては反りが顕著に増大し、寸法安定性の問題は深刻であった。
特開平2−240160号公報 特許第2528163号 特開2002−249659号公報 特開2007−31484号公報
本発明は、軽量で、かつ高剛性および高耐熱性であることに加え、耐衝撃性(特に低温での耐衝撃性)および寸法安定性に優れたポリアミド成形品を製造する方法、および該方法によって製造されたポリアミド成形品、特にエンジンカバーを提供することを目的とする。
本発明は、相対粘度2.2以上2.9未満のポリアミド樹脂(A)ペレットおよび相対粘度2.9以上3.6以下のポリアミド樹脂(B)ペレットを含むペレット混合物を用いて成形するポリアミド成形品の製造方法であって、ポリアミド樹脂(A)ペレットおよびポリアミド樹脂(B)ペレットのうち全てのペレットが膨潤性層状珪酸塩を含有し、かつ少なくとも1種類のペレットがさらに非膨潤性フィラーを含有し、非膨潤性フィラーの配合量がペレット混合物全量に対して2.0〜10.0質量%であり、ペレット混合物の加重平均値で示される相対粘度が2.9以上であることを特徴とするポリアミド成形品の製造方法、および該方法によって製造されたポリアミド成形品、特にエンジンカバーに関する。
本発明の方法によれば、軽量で、かつ高剛性および高耐熱性であることに加え、耐衝撃性(特に低温での耐衝撃性)および寸法安定性に優れたポリアミド成形品を製造可能である。また本発明の方法によれば、使用される材料構成が比較的単純であり、しかも当該材料の流動性(成形性)が向上するため、生産性にも優れている。特に本発明の方法は、500mm以上の大きさを有する成形品を製造する場合でも上記効果を奏する。
本発明に係るポリアミド成形品の製造方法においては、成形に際し、相対粘度の異なる少なくとも2種類のポリアミド樹脂をそれぞれペレット形態で用いる。これによって、軽量で、かつ高剛性および高耐熱性であることに加え、耐衝撃性(特に低温での耐衝撃性)および寸法安定性に優れたポリアミド成形品を生産性よく製造可能である。そのメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のメカニズムに基づくものと考えられる。相対粘度の異なるポリアミド樹脂が分子レベルで均一に混ざると、それぞれのポリアミド樹脂の特性が打ち消される。しかしながら、成形時にそれらのポリアミド樹脂をそれぞれペレット形態で用いることにより、分子レベルでの均一化を回避しながらも、適度な混合・分散が可能となり、それぞれのポリアミド樹脂の特性を同時に発揮できる。結果として比較的低粘度のポリアミド樹脂が有する優れた流動性、寸法安定性(反り量)と、比較的高粘度のポリアミド樹脂が有する優れた耐衝撃性とを合わせて発揮できるものと考えられる。それらのポリアミド樹脂を予め混合および溶融混練して得られた溶融混合ペレットの形態で用いると、分子レベルでの均一化が起こるため、成形品に反りが生じ、十分な寸法安定性が得られない。しかも成形時の流動長が短かすぎるので、成形性が低下する。反りを抑制するためには、適度に分子レベルでの不均一さが必要である。詳細には分かっていないが、低粘度のポリアミド樹脂がマトリックス(海)、高粘度のポリアミド樹脂がドメイン(島)の関係となり、低粘度ポリアミドの海に、高粘度ポリアミドの島が分布する形態を取ると推定される。これによって、成形時の流動性を確保しつつ、成形品の寸法安定性が確保される。予め溶融混練してしまうと、マトリックス/ドメインが形成されず、樹脂の特性が平均化されてしまい、流動性と、通常では相反する特性である寸法安定性が両立できない。
本発明において詳しくは、相対粘度2.2以上2.9未満、特に2.3以上2.7以下のポリアミド樹脂(A)ペレットおよび相対粘度2.9以上3.6以下、特に3.0以上3.4以下のポリアミド樹脂(B)ペレットを含むペレット混合物を直接的に成形に用いる。ポリアミド樹脂(A)を使用しないと、寸法安定性や成形性が低下する。ポリアミド樹脂(B)を使用しないと、耐衝撃性、特に低温での耐衝撃性が低下する。ポリアミド樹脂(A)の相対粘度が低すぎると、耐衝撃性が悪くなる。ポリアミド樹脂(B)の相対粘度が高すぎると、寸法安定性や成形性が低下する。
本明細書中、ポリアミド樹脂の相対粘度は、96質量%濃硫酸を溶媒とし、25℃、濃度1g/dlの条件下で測定された値を用いている。
ペレットはプラスチック成形の分野で成形作業にそのまま使用され得る樹脂含有固形片であり、その寸法および形状は特に制限されるものではないが、本発明においては例えば、最大長が平均で1.5mm以上、好ましくは1.5〜6mm、特に1.8〜3.0mmの寸法を有するものを使用する。例えばポリアミド樹脂(A)およびポリアミド樹脂(B)をいずれも粉体形態で用いると、それらの樹脂が分子レベルで均一化するため、寸法安定性や成形性が低下する。ペレットの形状の具体例として、例えば、略円柱形状、略球形状、略円板形状等が挙げられる。例えばペレットが略円柱形状の場合、直径が1〜5mm、高さが上記最大長範囲内であることが好ましい。また例えば、ペレットが略球形状の場合、直径が上記最大長範囲内であることが好ましい。また例えば、ペレットが略円板形状の場合、厚みが1〜5mm、直径が上記最大長範囲内であることが好ましい。
平均最大長は、ペレットを撮影した写真より、個々のペレットの最大長を測定し、約100個の平均値として算出すればよい。
ポリアミド樹脂(A)ペレットおよびポリアミド樹脂(B)ペレットを含むペレット混合物の相対粘度は2.9以上、特に2.9〜3.5、好ましくは3.0〜3.4である。ペレット混合物の相対粘度が2.9未満であると、成形品の耐衝撃性が劣る傾向にあり、特にエンジンカバーとして好ましくない。ポリアミド樹脂(A)ペレットおよびポリアミド樹脂(B)ペレットはそれぞれ独立して2種類以上組み合わせて使用されてよく、その場合、それらの全ペレット混合物の相対粘度が上記範囲内であればよい。
ペレット混合物の相対粘度は個々のポリアミド樹脂(ペレット)の相対粘度の加重平均値として算出可能である。例えば、相対粘度2.8のポリアミド樹脂ペレット30質量%と相対粘度3.1のポリアミド樹脂ペレット70質量%とからなるペレット混合物の相対粘度(加重平均値)は3.01である。
ポリアミド樹脂(A)およびポリアミド樹脂(B)の配合割合は、ペレット混合物の相対粘度が上記範囲内であれば特に制限されず、耐衝撃性と流動性の両立の観点からは、質量比(A/B)で5/95〜50/50、特に10/90〜45/55が好ましい。ポリアミド樹脂(A)ペレットまたは/およびポリアミド樹脂(B)ペレットがそれぞれ2種類以上組み合わせて使用される場合、それらの合計量についての配合割合(A/B)が上記範囲内であればよい。
ポリアミド樹脂(A)および(B)はそれぞれ独立して、アミノカルボン酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸(それらの一対の塩も含まれる)を主たる原料とするアミド結合を主鎖内に有する重合体であればよい。その原料の具体例としては、アミノカルボン酸としては、例えば、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等がある。またラクタムとしては、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ウンデカノラクタム、ω−ラウロラクタム等がある。ジアミンとしては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,4−ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等がある。またジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等がある。またこれらジアミンとジカルボン酸は一対の塩として用いることもできる。
ポリアミド樹脂(A)および(B)の好ましい具体例としては、例えば、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリカプロアミド/ポリウンデカミドコポリマー(ナイロン6/11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMDT)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)およびこれらの混合物ないし共重合体等が挙げられる。中でもナイロン6、ナイロン66が特に好ましい。
本発明においてポリアミド樹脂(A)ペレットおよびポリアミド樹脂(B)ペレットは、全てのペレットが膨潤性層状珪酸塩を含有し、かつ全てのペレットのうち少なくとも1種類、製造容易性の観点から好ましくはいずれか1種類のペレットがさらに非膨潤性フィラーを含有するものである。例えばポリアミド樹脂(A)ペレットとしてペレット(a1)を、ポリアミド樹脂(B)ペレットとしてペレット(b1)を使用する場合、ペレット(a1)および(b1)はいずれも膨潤性層状珪酸塩を含有し、それらのうち少なくとも一方のペレットはさらに非膨潤性フィラーを含有する。また例えばポリアミド樹脂(A)ペレットとしてペレット(a1)および(a2)を、ポリアミド樹脂(B)ペレットとしてペレット(b1)および(b2)を使用する場合、ペレット(a1)、(a2)、(b1)および(b2)はいずれも膨潤性層状珪酸塩を含有し、それらのうち少なくとも1種類のペレットはさらに非膨潤性フィラーを含有する。膨潤性層状珪酸塩が含有されないポリアミド樹脂(A)ペレットまたはポリアミド樹脂(B)ペレットがペレット混合物に含まれると、成形品の寸法安定性が低下する。またポリアミド樹脂(A)ペレットおよびポリアミド樹脂(B)ペレットのうちいずれのペレットにも非膨潤性フィラーが含有されないと、寸法安定性が悪くなる。
ペレット中の膨潤性層状珪酸塩または非膨潤性フィラーの配合量は特に制限されず、ペレット混合物中における膨潤性層状珪酸塩または非膨潤性フィラーの配合量が後述の範囲内になるような配合量であればよい。ポリアミド樹脂(A)ペレットまたはポリアミド樹脂(B)ペレットのいずれにおいても膨潤性層状珪酸塩の配合量は通常は0.1〜20質量%、特に1〜20質量%が好適である。ポリアミド樹脂(A)ペレットに非膨潤性フィラーが含有される場合の非膨潤性フィラーの配合量は通常は、2〜50質量%が好適である。ポリアミド樹脂(B)ペレットに非膨潤性フィラーが含有される場合の非膨潤性フィラーの配合量は通常は、2〜30質量%が好適である。
膨潤性層状珪酸塩は、ポリアミド樹脂(A)および(B)ペレットにおいてポリアミド樹脂マトリックス中、珪酸塩層が分子レベルで均一に分散され得る。ここで、珪酸塩層とは膨潤性層状珪酸塩を構成する基本単位であり、膨潤性層状珪酸塩の層構造を崩すこと(以下、「劈開」という)によって得られる板状の無機結晶である。本発明における珪酸塩層とは、この珪酸塩層の一枚一枚、もしくは層間にポリアミド分子鎖が挿入されているが、その積層構造が完全には崩れていない状態を意味し、必ずしも一枚一枚にまで劈開されている必要はない。また分子レベルで均一に分散されるとは、膨潤性層状珪酸塩の珪酸塩層がポリアミド樹脂マトリックス中に分散する際に、それぞれが平均1nm以上の層間距離を保ち、互いに塊を形成することなく存在している状態をいう。ここで塊とは原料である膨潤性層状珪酸塩が全く劈開していない状態を指す。また層間距離とは前記珪酸塩層の重心間距離である。かかる状態は、ペレット(ポリアミド複合材料の試験片)について、例えば透過型電子顕微鏡観察をおこなうことにより確認することができる。
本発明において用いる膨潤性層状珪酸塩は、珪酸塩を主成分とする負に帯電した結晶層とその層間に介在するイオン交換能を有するカチオンとからなる構造を有するものであり、後述する方法で求めた陽イオン交換容量が50ミリ当量/100g以上であることが望ましい。この陽イオン交換容量が50ミリ当量/100g未満のものでは、膨潤能が低いためにペレット(ポリアミド複合材料)の製造時に実質的に未劈開状態のままとなり、均一に分散しないことにより、性能の向上が認められない。本発明においては陽イオン交換容量の値の上限に特に制限はなく、現実に調製可能な膨潤性層状珪酸塩の中から適当なものを選べばよい。
かかる膨潤性層状珪酸塩としては、天然に産出するものでも人工的に合成あるいは変成されたものでもよく、例えばスメクタイト族(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、ソーコナイト等)、バーミキュライト族(バーミキュライト等)、雲母族(フッ素雲母、白雲母、パラゴナイト、金雲母、レピドライト等)、脆雲母族(マーガライト、クリントナイト、アナンダイト等)、緑泥石族(ドンバサイト、スドーアイト、クッケアイト、クリノクロア、シャモナイト、ニマイト等)、またはそれらの混合物が挙げられるが、本発明においてはフッ素雲母、モンモリロナイトまたはそれらの混合物、特にNa型あるいはLi型膨潤性フッ素雲母やモンモリロナイトが好適に用いられる。
本発明において好適に用いられる膨潤性フッ素雲母は一般的に次式で示される構造式を有するものである。
α(MgγLiβ)Siσε
(式中で、Mはイオン交換性のカチオンを表し、具体的にはナトリウムやリチウムが挙げられる。また、α、β、γ、σおよびεはそれぞれ係数を表し、0≦α≦0.5、0≦β≦0.5、2.5≦γ≦3、10≦σ≦11、1.0≦ε≦2.0、である)。
本発明に用いるモンモリロナイトは次式で表されるもので、天然に産出するものを水ひ処理等を用いて精製することにより得ることができる。
Si(Al2−aMg)O10(OH)・nH
(式中で、Mはナトリウム等のカチオンを表し、0.25≦a≦0.6である。また層間のイオン交換性カチオンと結合している水分子の数はカチオン種や湿度等の条件によって様々に変わりうるので、式中ではnHOで表した)。
またモンモリロナイトにはマグネシアンモンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、鉄マグネシアンモンモリロナイト等の同型イオン置換体の存在が知られており、これらを用いてもよい。
本発明においては上記した膨潤性層状珪酸塩の初期粒子径について特に制限はない。ここで初期粒子径とは本発明において用いるポリアミド樹脂(A)および(B)ペレットを製造するに当たって用いる原料としての膨潤性層状珪酸塩の粒子径であり、ペレット中の珪酸塩層の大きさとは異なるものである。しかしこの粒子径もまた成形品の物性、特に剛性や耐熱性に少なからず影響を及ぼす。したがって、前記した膨潤性層状珪酸塩の混合比率を選択するに当たっては、この点も考慮するのが望ましく、必要に応じてジェットミル等で粉砕して粒子径をコントロールすることが好ましい。
ここで、膨潤性フッ素雲母系鉱物をインターカレーション法により合成する場合には、原料であるタルクの粒子径を適切に選択することにより初期粒子径を変更することができる。粉砕との併用により、より広い範囲で初期粒子径を調節することができる点で好ましい方法である。
膨潤性層状珪酸塩の配合量は、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、剛性、耐熱性および耐衝撃性のさらなる向上の観点からはペレット混合物全量(すなわち成形品全体)に対して2.5〜4.5質量%が好ましく、より好ましくは2.8〜4.1質量%、さらに好ましくは3.0〜3.8質量%である。
本発明で用いられる非膨潤性フィラーとは、層状構造を有していない無機結晶であるが、層構造を有していても陽イオン化合物を用いても層構造が崩れない(膨潤しない)無機結晶も含まれ、補強効果のあるフィラーのことである。具体例としては、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイトなどが挙げられる。中でも、板状フィラーが好ましく、カオリン、マイカ、タルク、ハイドロタルサイトが好適である。粒径は50μm以下が好ましい。非膨潤性フィラーは特に、寸法安定性の向上の観点から、アスペクト比が25以上のものが好ましい。アスペクト比とはフィラーの長軸と短軸の比を示すが、板状フィラーの場合は平板の平均直径と厚みの比を示す。
非膨潤性フィラーは、剛性、耐衝撃性、寸法安定性のさらなる向上の観点から、必要に応じて表面改質を行っても良い。表面改質剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、脂肪酸等が挙げられる。
非膨潤性フィラーの配合量は、ペレット混合物全量に対して2.0〜10.0質量%であり、好ましくは3.0〜8.0質量%である。当該配合量が少なすぎると、寸法安定性の向上効果に乏しく、多すぎると、耐衝撃性および流動性が低下するため好ましくない。
本発明のポリアミド樹脂(A)および(B)ペレットの製造方法について説明する。
まず、膨潤性層状珪酸塩の所定の範囲量存在下、所定量のモノマーをオートクレーブに仕込んだ後、水等の開始剤を用い、温度240〜300℃、圧力0.2〜3MPa、1〜15時間の範囲内で溶融重縮合法を実施すればよい。ナイロン6を樹脂マトリックスとする場合には、温度250〜280℃、圧力0.5〜2MPa、3〜5時間の範囲で重合することが好ましい。次いで、溶融ポリアミド樹脂をストランド状に払い出し(押し出し)、冷却、固化後、切断してペレットを得る。その後は、ポリアミド樹脂に残留しているポリアミドのモノマーを除去するために、ペレットに対して熱水による精練を行うことが好ましい。この場合、好ましくは90〜100℃の熱水中で8時間以上の処理を行えばよい。
上記のように膨潤性層状珪酸塩を添加して溶融重合する際は、珪酸塩とポリアミド樹脂の重合に要するポリアミドモノマーの一部とを、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール等の分散媒中で混合させる工程を設けることが望ましい。一般的に、この工程における温度条件は室温、あるいは必要に応じて室温以上、分散媒の沸点以下でおこない、ホモミキサーや超音波式分散機、高圧分散機等を用いることが望ましい。
膨潤性層状珪酸塩を添加して溶融重合する際は酸を添加してもよい。一般的に、酸を添加することにより、膨潤性層状珪酸塩の劈開が促進されポリアミド樹脂マトリックス中への珪酸塩層の分散がより進行するためである。
前記の酸としては、pKa(25℃、水中での値)が0〜6、または、負の酸であるなら有機酸でも無機酸でもよく、具体的には安息香酸、セバシン酸、ギ酸、酢酸、クロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、過塩素酸等が挙げられる。
酸の添加量は、使用する膨潤性層状珪酸塩の全陽イオン交換容量に対して1.0〜5.0倍モル量程度とすることが、膨潤性層状珪酸塩の劈開およびポリアミド樹脂マトリックスにおける重合触媒としての作用の点から好ましい。
前記した溶融重合で得られたポリアミド樹脂ペレットは、さらに固相重合を用いてより高分子量の強化ポリアミド樹脂とすることもできる。固相重合は、溶融重合により得られた強化ポリアミド樹脂を、通常は直径2〜5mm、長さ3〜6mm、好ましくは直径3〜4mm、長さ4〜5mmのペレット状にした後、不活性ガスの流通下、あるいは減圧下で、ポリアミドの融点未満の温度で5時間以上、好ましくは10時間以上おこなうことが好ましい。この際、固相重合の温度は融点よりも10℃以上低く、かつ150℃以上とすることがより好ましい。この温度が150℃未満では重合速度が遅く、一方融点近傍の温度ではペレットが融着する場合があるので好ましくない。
固相重合の際には、重合速度を上げる目的で、リン酸や硫酸又はこれらのナトリウム塩等を触媒として反応系に適量加えてもよいし、固相重合をおこなう温度よりも低い温度でペレットの予備結晶化を前もって実施してもよい。
ポリアミド樹脂(A)ペレットおよび/またはポリアミド樹脂(B)ペレットに非膨潤性フィラーを含有させる方法としては溶融混練法が挙げられる。溶融混練は、240〜300℃で行い、ペレット化すればよい。ナイロン6を樹脂マトリックスとする場合には、250〜280℃で溶融混練することが好ましい。
ポリアミド樹脂(A)ペレットおよび/またはポリアミド樹脂(B)ペレットには熱可塑性樹脂が含まれてよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、アクリルゴム、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/プロピレン/ブタジエン共重合体、天然ゴム、塩素化ブチルゴム、塩素化ポリエチレン等のエラストマーまたはこれらの無水マレイン酸等による変性物、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/フェニルマレイミド共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアリレート、および前記したポリアミド樹脂(A)および(B)以外のポリアミド樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂の配合量は、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、通常はペレットに対して10質量%以下が好適である。
上記のようなペレット混合物を用いて成形を行うに際しては、まず、ポリアミド樹脂(A)および(B)ペレット等を所定の配合割合でタンブラー等を用いてドライブレンドする。装置上あるいは操作条件上の制限は特にない。このとき、本発明の目的を達成できる限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、強化材、顔料、着色防止剤、耐候剤、耐光剤、難燃剤、可塑剤、結晶核剤、離型剤等の添加剤を添加してもよい。これらの添加剤は、ポリアミド樹脂(A)および(B)ペレット中に含有させてもよい。
熱安定剤や酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。
強化材としては、例えばクレー、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、ゼオライト、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。
成形方法は特に制限されず、例えば、射出成形方法等が採用可能である。ポリアミド樹脂(A)および(B)の分子レベルでの均一化をより有効に回避する観点からは、樹脂が溶融状態で練られる時間が比較的短くて済む射出成形方法を採用することが好ましい。射出成形法では一般的に樹脂を溶融する際、スクリューを回転・後退させ計量を行う。計量とは1ショットの成形に必要な樹脂量を溶融させることである。本発明においては、スクリューが回転・後退する際のスクリュー回転に伴うせん断を小さくすることが好ましく、低回転で計量することが望まれる。低回転の場合では計量時間は長くなり、高回転の場合では計量時間は短くなる。射出時の樹脂温度が例えば、Tm+5℃〜Tm+30℃の時、下記(1)式により求められる単位ストローク当たりの回転数(N)の値は0.3〜5、Tm+30℃を超える時は0.3〜3であることが好ましい。Tmは樹脂の融点であり、2種類以上の樹脂を用いる本発明においてはそれらの融点の加重平均によって得ることができる。
N=R×T×S/V (1)
Rは成形機のスクリュー回転数(rpm)であり、通常は10〜200rpmに設定される。
Tは樹脂の可塑化時間(秒)であって、成形機において可変なパラメータである。詳しくは、成形機にペレットを投入してから、計量の始まる時間をTとし、スクリューが回転し始めて、計量が開始・終了、スクリューが停止するまでの時間をTとした場合、Tを除く、Tの時間を示す。後述の計量容積に依存して設定され、本発明においては比較的短く設定される。例えば、後述の計量容積が13cmのときで、Tは通常、2〜10秒に設定される。また例えば、後述の計量容積が26cmのときで、Tは通常、2〜20秒に設定される。また例えば、後述の計量容積が1400cmのときで、Tは通常、20〜60秒に設定される。
Sはスクリュー断面積(cm)であって、成形機固有の値である。例えば、1〜150cmの成形機が使用される。
Vは計量容積(cm)であって、成形機固有の値である。詳しくはVは1ショットに使用される樹脂の容積であり、例えば5〜2500cmの成形機が使用される。
射出成形時の金型温度、射出圧力および射出速度は特に制限はない。成形品、特にエンジンカバーの耐衝撃性という点からは金型温度の影響が大きく、離型性や表面外観を損なわない範囲で金型温度を低く保つ方が好ましい結果を与える。具体的には金型温度が100℃以下、好ましくは80℃以下であることが望ましい。
以上に示した本発明の方法で製造されたポリアミド成形品は、−30℃での面衝撃強さ4.5J以上、耐熱温度140℃以上、および曲げ弾性率5.0GPa以上を満足するものであり、優れた靭性、剛性、耐衝撃性、耐熱性を有するものである。さらに、軽量化のために、比重が1.25以下であることが望ましい。
特に本発明の方法によって厚み1.6mmtおよび直径100mmの円板を成形し、水平盤に静置したときのそり量Laは0.5mm以下であって、かつ120℃で2時間の乾熱処理後のそり量LbとしたときのΔL=Lb−Laで示される増加量ΔLは2mm以下であり、寸法安定性に優れた成形品を製造可能である。
従って、本発明の方法は特殊な環境で使用されるエンジンカバーの製造に有用である。本発明の方法によれば、高い剛性、耐熱性、寸法安定性を有しつつ、実用材料として十分な低温雰囲気における耐衝撃性を兼ね備えた成形品を製造できる。本発明の方法は特に、平均厚みが3mm以下、投影面積が2500cm以上である大型エンジンに搭載のエンジンカバーの製造に有用である。
実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
実施例ならびに比較例で用いた原料および物性試験の測定方法は次の通りである。
1.測定方法
(1)陽イオン交換容量
日本ベントナイト工業会標準試験方法によるベントナイト(粉状)の陽イオン交換容量測定方法(JBAS−106−77)に基づいて求めた。
すなわち、浸出液容器、浸出管および受器を縦方向に連結した装置を用いて、まず初めに、膨潤性層状珪酸塩をpH=7に調製した1N酢酸アンモニウム水溶液により、その層間のイオン交換性カチオンの全てをNH に交換する。その後、水とエチルアルコールを用いて十分に洗浄してから、前記したNH 型の膨潤性層状珪酸塩を10質量%の塩化カリウム水溶液中に浸し、試料中のNH をKへと交換する。引き続いて、前記したイオン交換反応に伴い浸出したNH を0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定することにより、原料である膨潤性層状珪酸塩の陽イオン交換容量(ミリ当量/100g)を求めた。
(2)灰分
ペレット約5gをルツボに入れ、秤量した後、400℃×2h、さらに600℃×3hで焼却処理し、デシケーター中で吸湿を抑制しながら、室温まで十分に冷却した後、ルツボ中の残渣を無機灰分(質量%)として、下式で算出した。
無機灰分(質量%)={無機灰分質量(g)}/{焼却処理前の試料の全質量(g)}×100
(3)相対粘度
96質量%濃硫酸中に、乾燥ペレットの濃度が1g/dlになるように溶解させ、G−3ガラスフィルターにより無機成分を濾別した後測定に供した。測定はウベローデ型粘度計を用い、25℃でおこなった。
(4)比重
JIS K7112に基づいて測定した。1.25未満が実用上問題のない範囲であり、好ましくは1.22未満である。
(5)剛性(曲げ弾性率)
ASTM D−790に基づいて測定した(23℃×50%RH)。5.0GPa以上が実用上問題のない範囲であり、好ましくは5.2GPa以上である。
(6)耐熱温度(荷重たわみ温度)
ASTM D−648に基づいて、荷重1.8MPaで測定した。140℃以上が実用上問題のない範囲であり、好ましくは150℃以上である。
(7)耐衝撃性(面衝撃強さ)
デュポン式衝撃試験機にて、図1に示すような成形品に所定の高さから重錘を落下させて衝撃強度を評価した。この際、成形品に直接衝撃力を与える部分は直径30mm、厚さ5mmの円盤とし面衝撃を加えた。耐衝撃性は所定の高さおよび重錘荷重の組み合わせからなる条件下で、成形品が破壊しない最大の付与エネルギー(J)を計算して定量化した。なお成形品は評価の直前まで−30℃の雰囲気下に置いたものを用いた。4.5KJ以上が実用上問題のない範囲であり、好ましくは4.9KJ以上である。
G=(試験片が破壊しない最高高さ)×(重力加速度)×(重錘荷重)
(8)寸法安定性(そり量測定)
厚み1.6mmtの直径100mmの円板をサイドゲートにより成形し、23℃、絶乾状態で24時間放置後、水平盤に円板を静置させ、図2の4点を測定し、そり量Laを測定した。基準点はa,bで、水平盤に接地している点であり、それに対しc,dは高さ方向のそり上がりが大きい点である。そり量[mm]は次式で求めた。Laは0.5mm以下が実用上問題のない範囲であり、好ましくは0.3mm以下である。
そり量=(c+d)/2(a+b)/2
さらに、120℃で2時間放置後のそり量Lbを上記方法で測定し、差ΔL=Lb−Laを変形量として算出した。ΔL=2mm以下が実用上問題のない範囲であり、好ましくはΔL=1.5mm以下である。ΔL=2mmを超える場合、エンジンカバーとして意匠性を損なうばかりか、エンジンルーム内の他部品への干渉が発生するため好ましくない。
(9)流動性(バーフロー式)
厚さ2mm、幅20mmの渦巻状の成形品が採取できる片側1点ゲートの専用金型を用い、樹脂温度260℃、金型温度80℃、射出圧力100MPa、速度150mm/s、射出時間を5秒の条件下で成形を行った。流動長480mm以上が実用上問題のない範囲であり、好ましくは500mm以上である。
(10)融点
DSC(セイコー電子工業社製DSC22)を用いて、窒素雰囲気下で10℃/分の昇温速度により測定した。
2.原料
(1)膨潤性フッ素雲母
ボールミルにより平均粒子径が4.0μmとなるように粉砕したタルクに対し、平均粒子径が10μmの珪フッ化ナトリウムを全量の15質量%となるように混合した。これを磁性ルツボに入れ、電気炉にて850℃で1時間反応させることにより、平均粒径4.0μmの膨潤性フッ素雲母(M−1)を得た。この膨潤性フッ素雲母の組成は、Na0.60Mg2.63Si101.77、陽イオン交換容量は110ミリ当量/100gであった。
(2)マイカ
クラレ社製「クラライトマイカ 300D」を用いた。重量平均粒径は40μm、アスペクト比35。
(3)ポリアミド樹脂A
(A−1)
膨潤性フッ素雲母450gをε−カプロラクタム1kgおよび水500gとを混合して得た溶液中に加え、室温下、ホモミキサーを用いて1.5時間かく拌した。この分散液の全量を、予めε−カプロラクタム9kgを仕込み、95℃で溶融させておいた内容積30リットルのオートクレーブに投入し、撹拌しながら1.5時間かけて260℃まで加熱し、圧力1.5MPaまで昇圧した。その後、徐々に水蒸気を放出しつつ温度260℃、圧力1.5MPaを1時間維持し、さらに1時間かけて常圧まで放圧し、窒素を流通させながら15分間撹拌し、重合度を上げた。一連の重合工程で要した時間は3時間45分であった。重合が終了した時点で、前記反応生成物をストランド状に払い出し、冷却、固化後、切断してポリアミド樹脂組成物からなるペレットを得た。次いで、このペレットを95℃の熱水で8時間精錬した後、乾燥した。灰分5.0%、相対粘度2.7であった。ペレットは略円柱形状を有し、直径は1.5mm、高さは2.0mmであった。
(A−2)
膨潤性フッ素雲母を200gに変更した以外は、ポリアミド(A−1)と同様にして重合を行い、精練、乾燥後、得られた乾燥ペレット。灰分2.2%、相対粘度2.7であった。ペレットは略円柱形状を有し、直径は1.5mm、高さは2.0mmであった。
(A−3)
膨潤性フッ素雲母を270g、放圧後5分重合した以外はポリアミド(A−1)と同様にして重合を行い、精練、乾燥後、得られた灰分3.0%、相対粘度2.4のペレットを60質量%、マイカを40質量%混合し、二軸押出機(TEM37、東芝機械(株)社製)で、270℃で溶融混練しペレット化した。ペレットは略円柱形状を有し、直径は1.5mm、高さは2.2mmであった。
(A−4)
ユニチカ社製A1030BRL(灰分0%、相対粘度2.5)を60%、マイカを40%混合し、二軸押出機(TEM37、東芝機械(株)社製)で、270℃で溶融混練しペレット化した。ペレットは略円柱形状を有し、直径は1.5mm、高さは2.2mmであった。
(A−5)
放圧後2分重合した以外は、ポリアミド(A−1)と同様にして重合を行い、精練、乾燥後、得られた乾燥ペレット。灰分5.0%、相対粘度2.0であった。ペレットは略円柱形状を有し、直径は1.5mm、高さは2.0mmであった。
(4)ポリアミド樹脂B
(B−1)
膨潤性フッ素雲母を300g、放圧後30分重合した以外は、ポリアミド(A−1)と同様にして重合を行い、精練、乾燥後、得られた乾燥ペレット。灰分3.3%、相対粘度3.4であった。ペレットは略円柱形状を有し、直径は1.5mm、高さは2.0mmであった。
(B−2)
膨潤性フッ素雲母を300g、放圧後25分重合した以外はポリアミド(A−1)と同様にして重合を行い、精練、乾燥後、得られた灰分3.3%、相対粘度3.1のペレットを90量%、マイカを10質量%混合し、二軸押出機(TEM37、東芝機械(株)社製)で、270℃で溶融混練しペレット化した。ペレットは略円柱形状を有し、直径は1.5mm、高さは2.2mmであった。
(B−3)
ユニチカ社製「A1030BRT」を用いた。ペレット形状であり、相対粘度は3.5であった。ペレットは略円柱形状を有し、直径は1.5mm、高さは2.0mmであった。
(B−4)
放圧後45分間重合した以外は、ポリアミド(B−1)と同様にして重合を行い、精練、乾燥後、得られた乾燥ペレット。灰分3.3%、相対粘度3.8であった。ペレットは略円柱形状を有し、直径は1.5mm、高さは2.0mmであった。
各ポリアミド樹脂の相対粘度および膨潤性層状珪酸塩と非膨潤性フィラーの配合量を表1に示す。
Figure 2008239735
3.成形品の製造
(実施例/比較例)
実施例1〜4、比較例1〜6および8〜9では、各樹脂成分を表3または表4に示す配合割合でドライブレンドし、東芝機械社製射出成形機EC−100型(スクリュー径3.2cm)を用いてシリンダー温度260℃、金型温度80℃、射出時間10秒、冷却時間10秒で射出成形し、種々の成形品を得た。射出成形時の他の条件、(1)式によって求めた単位ストローク当たりの回転数Nを表2に示す。それらの成形品をもちいて各種評価をおこなった。結果を表3または表4に示す。また、実成形として、三菱重工プラスチックテクノロジー社製射出成形機2000MMIII型(スクリュー径12.0cm)を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度80℃、射出時間10秒、冷却時間40秒で射出成形し、エンジンカバーの成形品を得た。同様に、射出成形時の他の条件、(1)式によって求めた単位ストローク当たりの回転数Nを表2に示す。単位ストローク当たりの回転数Nは、いずれの成形品もN≦3を満たしており、分子レベルで均一化をより有効に回避する成形で成形品を得ることが出来た。
Figure 2008239735
比較例7では各樹脂成分を表3に示す配合割合で二軸押出機(TEM37、東芝機械(株)社製)をもちい、270℃で溶融混練し再ペレット化した。得られたペレットを用いること以外、実施例1と同様にして種々の成形品を作成し、各種評価を行った。
比較例10では各樹脂成分を粉砕し、粉体形態で用いたこと、各樹脂成分を表3に示す配合割合で用いたこと以外、実施例1と同様にして種々の成形品を作成し、各種評価を行った。各樹脂成分の粉体は平均粒径50μmであった。
Figure 2008239735
Figure 2008239735
実施例1〜4では、比較例と比較して、剛性、耐熱性、耐衝撃性および流動性のバランスが良くかつ、高い寸法安定性を示し、いずれも実用上優れた性能を発揮した。
本発明のポリアミド成形品の製造方法は、剛性、耐熱性、耐衝撃性(特に低温耐衝撃性)、流動性および寸法安定性を要求される用途、例えば、自動車のエンジンカバー、タイミングベルトカバー、船舶のエンジンカバー、船外機、耕運機、各種内燃機関のエンジンを覆うカバー類に用いることができる。また、エンジン周りだけでなく、自動車の外板、大型家電、大型機械の筐体等にも用いることができる。
耐衝撃性評価試験に用いた試験片の形状を示す概略図である。 反り量測定に用いた円板図と測定点を示す概略図である。

Claims (7)

  1. 相対粘度2.2以上2.9未満のポリアミド樹脂(A)ペレットおよび相対粘度2.9以上3.6以下のポリアミド樹脂(B)ペレットを含むペレット混合物を用いて成形するポリアミド成形品の製造方法であって、ポリアミド樹脂(A)ペレットおよびポリアミド樹脂(B)ペレットのうち全てのペレットが膨潤性層状珪酸塩を含有し、かつ少なくとも1種類のペレットがさらに非膨潤性フィラーを含有し、非膨潤性フィラーの配合量がペレット混合物全量に対して2.0〜10.0質量%であり、ペレット混合物の加重平均値で示される相対粘度が2.9以上であることを特徴とするポリアミド成形品の製造方法。
  2. 膨潤性層状珪酸塩層の配合量がペレット混合物全量に対して2.5〜4.5質量%であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド成形品の製造方法。
  3. ポリアミド樹脂(A)ペレットとポリアミド樹脂(B)ペレットの配合割合(A/B)が5/95〜50/50であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド成形品の製造方法。
  4. 膨潤性層状珪酸塩がフッ素雲母、モンモリロナイトまたはそれらの混合物であり、非膨潤性フィラーがタルク、カオリン、マイカ、ハイドロタルサイトまたはそれらの混合物であって、アスペクト比が25以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド成形品の製造方法。
  5. ポリアミド成形品が−30℃での面衝撃強さ4.5J以上、耐熱温度140℃以上、曲げ弾性率5.0GPa以上、および比重1.25以下を満足することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド成形品の製造方法。
  6. 厚み1.6mmtおよび直径100mmの円板を成形し、水平盤に静置したときのそり量Laが0.5mm以下であり、かつ120℃で2時間の乾熱処理後のそり量LbとしたときのΔL=Lb−Laで示される増加量ΔLが2mm以下である請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド成形品の製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載のポリアミド成形品の製造方法によって製造され、平坦部の平均厚みが3mm以下、投影面積が2500cm以上であるエンジンカバー。
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