つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ずこの発明で対象とすることのできる自動変速機について説明する。図2はその一例を示すスケルトン図であって、ここに示す自動変速機は、2組のシングルピニオン型遊星歯車機構と1組のダブルピニオン型遊星歯車機構と、複数の摩擦係合手段とを主体とした主変速部G1と、1組のシングルピニオン型遊星歯車機構と複数の摩擦係合手段とを主体とした副変速部G2とによって、前進6段・後進1段の変速段を設定できるように構成されている。
先ず、主変速部G1について説明すると、第1の遊星歯車機構1は、アウターギヤであるサンギヤS1と、このサンギヤS1と同心円上に配置されたインナーギヤであるリングギヤR1と、これらのサンギヤS1およびリングギヤR1に噛合するピニオンギヤP1を自転かつ公転自在に保持しているキャリヤC1とを備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。また、第2遊星歯車機構2は、アウターギヤであるサンギヤS2と、このサンギヤS2と同心円上に配置されたインナーギヤであるリングギヤR2と、そのサンギヤS2に噛合したピニオンギヤP2およびこのピニオンギヤP2とリングギヤR2とに噛合したピニオンギヤP2とを自転かつ公転自在に保持しているキャリヤC2とを備えたダブルピニオン型の遊星歯車機構である。さらに、第3の遊星歯車機構3は、アウターギヤであるサンギヤS3と、このサンギヤS3と同心円上に配置されたインナーギヤであるリングギヤR3と、これらのサンギヤS3およびリングギヤR3に噛合するピニオンギヤP3を自転かつ公転自在に保持しているキャリヤC3とを備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。
これらの遊星歯車機構1,2,3における回転要素同士が以下のように連結されている。すなわち各遊星歯車機構1,2,3は同一軸線上に、ここに挙げた順序で配列されており、その第1遊星歯車機構1におけるキャリヤC1と第2遊星歯車機構2におけるキャリヤC2とが、互いに一体となって回転するように連結されている。また、第1遊星歯車機構1のリングギヤR1と第2遊星歯車機構2のリングギヤR2と第3遊星歯車機構3のキャリヤC3との三者が、互いに一体となって回転するように連結されている。さらに、第2遊星歯車機構2のサンギヤS2と第3遊星歯車機構3のサンギヤS3とが、互いに一体となって回転するように連結されている。
つぎに主変速部G1における摩擦係合手段について説明すると、上記の第1遊星歯車機構1側には、第1遊星歯車機構1と同一軸線上に中空軸もしくは中実軸などからなる中間軸4が配置されており、この中間軸4と、互いに一体的に連結された前記第2遊星歯車機構2のサンギヤS2および第3遊星歯車機構3のサンギヤS3とを選択的に連結する第1クラッチK1が設けられている。また、中間軸4と第1遊星歯車機構1のサンギヤS1とを選択的に連結する第2クラッチK2が設けられている。さらに、中間軸4と、互いに連結されている第1遊星歯車機構1のキャリヤC1および第2遊星歯車機構2のキャリヤC2とを選択的に連結する第3クラッチK3が設けられている。これらのクラッチK1,K2,K3は、要は、選択的にトルクを伝達することのできるものであればよく、油圧によって係合・解放させられる多板クラッチや乾式の単板クラッチ、もしくはこれらと一方向クラッチを組み合わせた構成のものなどを適宜に使用することができる。
また、第1遊星歯車機構1のサンギヤS1の回転を選択的に止めるバンドブレーキである第1ブレーキB1が設けられている。さらに、そのサンギヤS1の特定の方向の回転を選択的に止めるための互いに直列に配列された一方向クラッチF1と多板ブレーキである第2ブレーキB2とが、サンギヤS1とケーシングなどの固定部5との間に配置されている。そして、互いに連結された第1遊星歯車機構1のキャリヤC1および第2遊星歯車機構2のキャリヤC2の回転を選択的に止める多板ブレーキからなる第3ブレーキB3が、第1遊星歯車機構1のキャリヤC1と固定部5との間に設けられている。またさらに、第3遊星歯車機構3のリングギヤR3の回転を選択的に止める多板ブレーキからなる第3ブレーキB3が、このリングギヤR3と固定部5との間に配置されている。この第3ブレーキB3と並列に第2の一方向クラッチF2が設けられ、リングギヤR3の特定の方向の回転をこの第2の一方向クラッチF2によって阻止するようになっている。そして、出力軸6が、第3遊星歯車機構3におけるキャリヤC3に一体となって回転するように連結されている。
一方、副変速部G2は、1組のシングルピニオン型遊星歯車機構7を主体にして、高低2段の変速状態に設定できるように構成されている。すなわちキャリヤC0が入力要素になっていてこのキャリヤC0に入力軸8が連結されている。またキャリヤC0とキャリヤC0によって保持しているピニオンギヤP0が噛合するアウターギヤであるサンギヤS0との間には、多板クラッチK0と一方向クラッチF0とが、互いに並列の関係となるように配置されている。なお、この一方向クラッチF0は、サンギヤS0がキャリヤC0に対して正回転方向に相対的に回転しようとする際に係合するよう構成されている。さらに、サンギヤS0を選択的に固定するための多板ブレーキB0が、サンギヤS0とハウジングなどの固定部5との間に設けられている。そして、リングギヤR0が、主変速部G1を構成している歯車変速機構における中間軸4に連結されている。
さらに、副変速部G2の入力側にロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ9が設けられている。このトルクコンバータ9は、従来知られている構成のものであって、フロントカバー10とポンプインペラ11のシェルとによって密閉容器が形成され、その内部にオイル(ATフルード)が封入されている。また、その容器の内部でポンプインペラ11に対向する位置にタービンランナ12が配置され、そのタービンランナ12が前記入力軸8に一体的に連結されている。さらに、これらポンプインペラ11とタービンランナ12との間でその回転中心側の部分には、一方向クラッチ13で保持したステータ14が配置されている。そして、ロックアップクラッチ15は、入力側の部材と出力側の部材とを直接連結するためのものであって、フロントカバー10の内面に対向しかつ接触・離隔自在に配置されており、さらにタービンランナ12もしくはこれが取り付けられた部材に一体回転するように連結されている。
なお、自動変速機の入力回転数としてタービン回転数を検出するための回転数センサ16と、出力回転数を検出するための回転数センサ17とが設けられている。
上記の自動変速機Atは、図3に示すように、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどのエンジンEgもしくはエンジンEgと電動機とを組み合わせた動力源の出力側に連結された状態で車両に搭載され、アクセル開度やスロットル開度によって判断されるエンジン負荷や車速あるいはタービン回転数などに基づいて定まる走行状態に応じて、また手動操作に基づいて変速段が電気的に制御されて設定されるようになっている。すなわち、油圧の給排を電気的に制御される油圧制御装置Bbが設けられていて、その油圧制御装置Bbを電子制御装置ECUからの出力信号によって制御することにより、自動変速機Atでの変速段を制御するようになっている。その電子制御装置ECUは、従来の自動変速機用電子制御装置と同様に、マイクロコンピュータを主体として構成されており、車速信号Vやアクセル開度信号Accなどの走行状態を示す入力信号と、予め記憶している変速マップとに基づいて変速段を判断するようになっている。また併せて、ロックアップクラッチ15の係合・解放ならびに半係合(スリップを伴う係合状態)の制御をおこなうようになっている。
また、油圧制御装置Bbでの油圧の給排状態や供給経路を変更して走行ポジションや非走行ポジションなどをシフトレバーLvによって選択するシフト装置Srが設けられており、このシフト装置Srは、油圧制御装置Bbにおけるマニュアルバルブなどの特定のバルブに機械的に連結される一方、そのシフト装置Srに設けられたスイッチなどのセンサが前記電子制御装置ECUに電気的に接続されている。さらに、ステアリングホイールに設けられたスイッチが電子制御装置ECUに電気的に接続され、そのスイッチの出力する信号を電子制御装置ECUに入力するようになっている。
自動変速機Atにおける各変速段は、シフト装置Srによって前進走行ポジションを選択した状態で、電子制御装置ECUから出力される信号によって油圧制御装置Bbが動作し、前述した摩擦係合手段を適宜に係合・解放させることにより設定される。その走行ポジションや、停止状態を維持するためのパーキング(P)ポジション、後進走行のためのリバース(R)ポジション、ならびにニュートラル(N)ポジションなどの各ポジションは、シフト装置Srによって選択するようになっている。各ポジションおよび変速段を設定するために電子制御装置ECUによって制御される各摩擦係合手段の係合・解放の状態をまとめて示せば図4のとおりである。
図4において、P,N,Rの各符号は、シフト装置Srによって選択されるパーキング、ニュートラル、リバースの各ポジションであり、また1stから6thは、前進走行のためのポジションが選択されている場合に設定される変速段を示す。また、図4において、〇印は係合状態、◎印はエンジンブレーキ時に係合状態、△印は係合しても動力の伝達に関与しないこと、空欄は解放状態をそれぞれ示す。
この図4に示すように、上記の自動変速機Atは、前進6段の変速段を設定することができ、その前進段のうち第1速ないし第4速および第6速は、副変速部G2を低速段、すなわちクラッチC0を係合させた直結状態とし、かつ主変速部G1の各摩擦係合手段を適宜に係合・解放させることにより設定される。また、第5速は、主変速部G1を直結状態(主変速部G1の全体が一体となって回転する状態)とし、かつ副変速部G2を高速段として設定される。そして、その第5速と第6速との変速比は、“1”より小さくなり、これらの変速段が共にいわゆるオーバードライブ段となっている。
また、上記の自動変速機Atでは、エンジン負荷や車速もしくはタービン回転数などの車両の走行状態に基づいて変速段を決定する自動モードと人為的な操作に基づいて変速段を決定する手動モードとに切り換えることができるように構成されている。その手動モードの一例が、スイッチ操作によってシフトレンジを切り換えるモードであって、シフト装置Srによって特定のポジションを選択した状態でスイッチ操作することによりシフトレンジを切り換えるように構成されている。
具体的には、シフト装置Srでのシフトポジションが図5に示すように配列して設けられている。すなわち図5の上側が車両の前方側もしくは車両の上下方向での上側であって、パーキング(P)、リバース(R)、ニュートラル(N)、ドライブ(D)の各ポジションが、ここに挙げた順序に直線的に配列されている。そのドライブポジションに対して車両の横方向(幅方向)に隣接する位置にマニュアル(M)ポジションが設けられ、そのマニュアルポジションに対して車両の後ろ方向もしくは下側に“4”ポジションが配置されている。この“4”ポジションに対して斜め後方もしくは斜め下側に“3”ポジションと“2”ポジションとが順に配列されている。そしてその“2”ポジションに対して車両の横方向(幅方向)に隣接する位置にLポジションが設けられている。これらの各ポジションの選択は、図3に示すシフトレバーLvによっておこなうように構成されており、したがって各ポジションはシフトレバーLvをガイドするための溝などの移動経路18によって連結されている。
上記のMポジションは、スイッチを手動操作することによりシフトレンジを切り換えるためのポジションであり、このMポジションが選択されることにより動作可能となるダウンスイッチ19とアップスイッチ20とが設けられている。これらのスイッチ19,20の設置位置は必要に応じて適宜に決めることができるが、その一例を示すと、図6に示すように、ステアリングホイール21のスポーク部分に設けることができる。その場合、ダウンスイッチ19を運転者に向けた表面側、アップスイッチ20をこれとは反対の裏面側に設けることが好ましい。
上記の例とは異なり、シフトポジションの選択とシフトレンジの切り換えとの両方の操作をシフトレバーLvによっておこなうように構成することもできる。その例を図7に示してある。ここに示す例では、上述したMポジションを除くパーキングポジションからLポジションまでの各ポジションが、車両の前後方向もしくは上下方向に沿って直線的に配列され、かつそれらのポジションがシフトレバーLvをガイドする溝などの移動経路18によって連結されている。そのドライブポジションに対して車両の横方向(幅方向)に隣接する位置にマニュアル(M)ポジションが設けられ、さらにそのMポジションに対して車両の前後方向もしくは上下方向の両側に、アップ(+)ポジションとダウン(−)ポジションとが設けられている。そして、特には図示しないが、これらのアップポジションとダウンポジションとにスイッチが設けられ、シフトレバーによってこれらのスイッチがオン動作させられてシフトレンジを切り換えるためのアップ信号およびダウン信号が出力されるようになっている。
上記の各シフトポジションは、設定可能な変速段の範囲すなわちシフトレンジを選択するためのものであり、各ポジション毎のシフトレンジ(変速レンジ)は図8に示すように構成されている。先ず、ドライブポジションは、シフトレバーをこのポジションに移動させることにより設定され、このドライブポジションで設定可能な変速段は前進第1速ないし第5速の5つの変速段である。また、“4”ポジションでは第1速ないし第4速、“3”ポジションでは第1速ないし第3速、“2”ポジションでは第1速および第2速、Lポジションでは第1速がそれぞれ設定され、いずれもドライブポジションよりも選択可能な変速比の範囲が狭くなっている。これらのポジションで設定可能な変速段は、エンジン負荷や車速などの走行状態に基づいて電子制御装置ECUによって決定され、その変速段への変速が実行される。したがってこれらのポジションでの変速は、シフトレバーLvをそれぞれのポジションに固定した状態で走行状態に応じてのみ実行される自動モードでの変速となる。
これに対してMポジションは、シフトレバーLvをドライブポジションもしくは“4”ポジションから移動させた後、アップスイッチ20を手動でON操作し、もしくはシフトレバーをアップ(+)ポジションに1回手動で移動させることによって設定されるポジションである。したがって人為的な手動操作を介在させる必要があるシフトポジションであることにより、手動モードでの変速となる。すなわちこのMポジションでは、図9に示すように、第2のオーバードライブ段である第6速を含めた前進6速の変速段を設定することが可能になる。言い換えれば、ドライブポジションの第5速で走行している際に車速が増大し、それに伴ってMポジションに手動でシフトし、かつアップシフトのスイッチ操作をすることにより、第5速から第6速へのアップシフトを実行することができ、これは手動での変速と同様の状況である。
また、Mポジションをシフトレバーで選択した状態で、前述したダウンスイッチ19を手動でON操作する都度、もしくはシフトレバーをダウン(−)ポジションに移動させる都度、シフトポジションが低速側のポジションに切り替わる。すなわちドライブ(D)ポジション、“4”ポジション、“3”ポジション、“2”ポジション、Lポジションの順に切り替わる。また、Lポジションからはアップスイッチ20を手動でオン動作する都度、もしくはアップ(+)ポジションにシフトレバーLvを移動する都度、これとは反対の順序でシフトポジションが切り替わる。その場合の各シフトポジションで設定可能な変速段の幅すなわちシフトレンジは、図8あるいは図9に示すように、自動モードの場合と同様である。
したがって手動モードでは、シフトレバーLvをMポジションに固定したまま、設定可能な最高速段をスイッチ操作によって人為的に切り換えることができる。一般に車両が定速走行している場合には、自動変速機の変速段はその時点のシフトポジションでの最高速段が設定されているから、手動でスイッチ操作することにより設定可能な最高速段が変更され、それに伴う変速が生じる。したがってMポジションでのシフトレンジの切り換えは、実質的に手動変速となる。なお、これらの切り換えられたシフトレンジごとの最高速段では、エンジンブレーキが効くように摩擦係合手段の係合・解放状態が制御される。具体的には、図4に◎印で示す摩擦係合手段が係合させられる。
上述した第2のオーバードライブ段である第6速は、シフトレバーをドライブポジションに設定することによる自動モードで設定することができず、すなわち禁止され、これに対してシフトレバーをMポジションに設定し、かつレンジアップのためのスイッチ操作をおこなう手動モードで設定することができ、すなわち許可される。このような第6速の禁止と許可との切り換えの制御は、変速段領域をスロットル開度(もしくはアクセル開度)と車速とによって決めた変速マップを変更することにより実行される。図10には、第6速の変速段領域を設定した変速マップの一部を示してある。
この図10において、実線がアップシフト線であり、また破線がダウンシフト線であって、走行状態がこれらの変速線を横切って変化することにより変速が実行される。これは、通常の自動変速機と同様である。この図10に示すように、第6速の変速段領域は、第5速の変速段領域よりも高車速側でかつ比較的小さいスロットル開度領域に設定されている。したがって第6速は、エンジン負荷が小さくかつ車速がかなり高い(例えば120〜130km/h以上)領域で設定される。これに対して第5速までの変速段が設定されるシフトポジションもしくはシフトレンジが選択されている場合には、図10における第6速の変速段領域のない変速線図が採用され、その変速線図に従って変速が実行される。すなわち第6速が設定されることはない。
なお、図11には、ロックアップクラッチ15の係合・解放を制御するためのロックアップ線図の一部を示してある。これは、第6速が設定されることに合わせてロックアップクラッチ15を制御するためのものであり、第6速が設定される際にロックアップクラッチ15を係合させる領域が、高車速・低スロットル開度領域に設定されている。この図11において、実線が係合線を示し、破線が解放線を示しており、第6速での走行状態がこれらの線を横切って変化することによりロックアップクラッチ15が係合されあるいは解放されるようになっている。
上述した例は、Mポジションでのシフトレンジをスイッチの手動操作によって切り換えるように構成した例であるが、シフトレンジを手動操作で切り換える替わりに、変速段を切り換えるように構成することもできる。すなわち、ドライブポジションないしLポジションの各シフトポジションでは、走行状態に応じて各変速段を設定する自動モードとして制御し、これに対してMポジションでは、アップスイッチ20やダウンスイッチ19もしくはこれらに対応するアップポジションやダウンポジションのスイッチが動作させられるごとに、変速段を1段アップし、もしくはダウンするように、手動モードとして構成することができる。具体的には、それらのスイッチからの信号に基づいて、現状の変速段に対して1段高速側の変速段もしくは低速側の変速段への変速信号を電子制御装置ECUから出力するように構成することができる。
その場合、図9に示すように、自動モードでは第5速を最高速段(最高変速比)とし、これに対してMポジションが選択されている際に設定される手動モードでは、第6速を最高速段(最高変速比)として制御される。すなわち第6速は運転者による人為的操作によってのみ設定可能となるように構成される。
上述した各シフトポジションでの変速制御およびMポジションでのスイッチ操作に基づくシフトレンジの切換制御、ロックアップクラッチ15の係合・解放の制御ならびにそれらの制御を成立させるための油圧の制御をおこなうために、電子制御装置ECUには以下に挙げる信号が入力され、また出力されている。すなわち図12に示すように、タービン回転数センサ16からの信号、ABS(アンチロックブレーキ)コンピュータからの信号、車両安定化制御(VSC:商標)コンピュータからの信号、エンジン回転数NE 、エンジン水温、イグニッションスイッチからの信号、バッテリSOC(State of Charge:充電状態)、ヘッドライトのオン・オフ信号、デフォッガのオン・オフ信号、エアコンのオン・オフ信号、車速信号、自動変速機(AT)油温、シフトポジション、サイドブレーキのオン・オフ信号、フットブレーキのオン・オフ信号、触媒(排気浄化触媒)温度、アクセル開度、カム角センサからの信号、アップスイッチ20からの信号((+)信号)、ダウンスイッチ19からの信号((−)信号)、車両加速度センサからの信号、レーザ信号、レーザクルーズセット信号などが、電子制御装置ECUに入力されている。なお、バッテリSOCは、上記の自動変速機Atをハイブリッド車に搭載した場合に、動力源としての電動機を駆動するバッテリもしくは回生制御の際に蓄電するためのバッテリの状態を検出し、その検出結果に基づいた制御をおこなうために入力されている。また、レーザ信号およびレーザクルーズセット信号は、レーザレーダを使用して前方車両を検出し、その前方車両との間に所定の車間距離を維持しつつ前方車両に追従して自動走行するレーザクルーズ制御もしくは追従制御のための信号である。
また、出力信号の例を挙げると、点火信号、噴射(燃料の噴射)信号、ATソレノイドへの信号、入力クラッチ用ソレノイドバルブに対する信号、ATライン圧コントロールソレノイドへの信号、ABSアクチュエータへの信号、スポーツモードインジケータへの信号、VSCアクチュエータへの信号、ATロックアップコントロールソレノイドバルブへの信号、第6速である第2オーバードライブ段インジケータへの信号などである。ここで、入力クラッチとは、ハイブリッド車もしくは一時的な停車時にエンジンの自動停止・再始動をおこなうエコラン車において、エンジンと駆動系統とを選択的に連結・遮断するためのクラッチである。
上述したように第6速は、変速比が“1”の直結段よりも2段、高速側のオーバードライブ段であり、その変速比がかなり小さく、得られる駆動トルクが小さくなる。そのため、第6速の変速段領域は、高車速・低スロットル開度の領域として設定されている。そのため、高速走行時のエンジン回転数を低く抑えて高速燃費を向上させることができるが、その反面、スロットル開度で表されるエンジン負荷がわずか増大したり、車速がわずか低下することによりダウンシフトが生じ易く、またその後にアップシフトが生じるビジーシフトとなり易い。
そこでこの発明に係る上述した構成の制御装置では、第2オーバードライブ段である第6速の制御を以下のように実行する。図1はその制御の一例を説明するためのフローチャートであり、先ず、データの読み込みなどの入力信号の処理(ステップS1)をおこない、ついでシフトレバーで選択されているシフトポジションがD、“4”、“3”、“2”、Lのいずれかのポジションか否かが判断される(ステップS2)。この判断は、例えばシフト装置Srに設けたスイッチから出力される信号に基づいて判断することができる。これらのシフトポジションは自動モードで変速段が設定されるポジションである。これらいずれかのシフトポジションがシフトレバーLvによって選択されていることによりステップS2で肯定判断された場合には、その選択されているシフトポジションに対応する変速段列(ギヤ段列)が設定される(ステップS3)。すなわち図8の自動モードの欄に示す変速段の領域を定めた変速マップが読み出されてその変速マップに基づいた変速制御が実行される。
これに対してステップS2で否定判断された場合には、MポジションがシフトレバーLvによって選択されているか否かが判断される(ステップS4)。このステップS4で否定判断された場合には、前進走行する状態とはなっていないので、特に制御をおこなうなうことなくリターンする。またMポジションが選択されていることによりステップS4で肯定判断された場合には、ドライブ(D)ポジションからのアップレンジ操作(+オン)されたか否かが判断される(ステップS5)。このアップレンジ操作は、図5および図6に示す例では、シフトレバーをMポジションに移動させた状態で、アップスイッチ20を1回、オン操作することにより実行される。また図7に示す例では、シフトレバーをMポジションからアップ(+)ポジションに1回、移動させることにより実行される。
このようなアップレンジ操作が実行された場合、すなわちステップS5で肯定判断された場合、手動モードとなって第2のオーバードライブ段である第6速を含む前進6段の変速段を設定可能な変速パターンが設定される(ステップS6)。すなわち図8の手動モードの欄のうち最上段に記載されている変速段の領域を設定した変速マップ(図10に一部を示してある変速マップ)が読み出され、その変速マップに従って変速制御が実行される。また併せてロックアップクラッチ15の制御パターンが図11に示すパターンに変更される。
したがってこの制御では、第6速を設定し、もしくは設定可能な状態とする操作がスイッチによる手動操作となり、その結果、シフトレンジが選択された状態となるので、それ以降の変速は、車両の走行状態および変速マップに基づいて自動的に実行される。なお、ステップS6で第6速までの変速が可能になると、そのことを示す表示(例えば第2オーバードライブ段ONの表示)がおこなわれる(ステップS7)。
このようにして設定される第2オーバードライブ段である第6速は変速比が小さいので、第6速で走行している状態では、駆動トルクに余裕がなく、アクセルペダルの僅かな踏み込みなどによってダウンシフトが生じる。しかしながら、そのような状態は、上述したように手動によるスイッチ操作によって設定される駆動状態であり、走行状態に基づく頻繁な変速を回避することを望む場合には、ダウンスイッチ19を操作し、もしくはダウン(−)ポジションにシフトレバーLvを1回操作することにより、第6速を設定しない変速パターンに切り換えることができるので、ビジーシフトやそれに伴う違和感を回避できる。
これに対してMポジションが選択されているものの、アップ操作がおこなわれないことにより、ステップS4で否定判断された場合には、各シフトレンジに対応した変速段が設定される(ステップS8)。すなわち図8の手動モードの欄のうち第2段目以下に示す変速段を設定することのできる変速マップが、選択されているシフトレンジに応じて読み出され、その変速マップに従った変速制御が実行される。そして、第6速を設定できない状態であることの表示(例えば第2オーバードライブ段OFFの表示)がおこなわれる(ステップS9)。
なお、上記の制御例は、変速レンジを手動操作で切り換える例であるが、シフトレバーLvによってMポジションを選択している状態でアップスイッチ20もしくはダウンスイッチ19を操作することにより、変速段自体を切り換えるように構成することができる。その場合の変速段列は、図9の手動モードの欄に示すとおり第6速ないし第1速の前進6段の変速段である。これに対してMポジション以外の前進走行のためのポジションでは走行状態に基づいて変速段が設定される自動モードとなり、その場合の変速段は、図9の自動モードの欄に示すとおり、最高速段を第5速とした前進5段の変速段である。したがって各シフトレンジの替わりに各変速段を、手動操作によって選択するように構成した場合であっても、第2オーバードライブ段である第6速は、手動操作によって選択して設定することになり、そのため、変速比が小さいことによる不都合が感じられれば、第6速を設定しないことを選択でき、そのような不都合を回避できる。
上述した具体例から知られるように第2のオーバードライブ段である第6速では、変速比が小さいことにより高速走行時のエンジン回転数を低下させて燃費を向上させることができる反面、第6速が設定されている状態での余裕駆動力が少ないために、アクセルペダルの僅かな踏み込みなどによって第6速からのダウンシフトが生じやすい。そこで、第6速は、意図的な選択操作によって設定することが好ましく、上記の具体例では、手動モードにおいてのみ設定可能としている。このような構成に替えて、自動モードで第6速を設定可能な特別な変速パターンを、他の一連の変速パターンから独立して設けることにより、第6速を設定するためには、人為的な手動操作を必要とするように構成することができる。
その例を以下に説明すると、図13はシフトレバーで選択できるシフトポジションの配列を示す図であり、第5速までの変速段を設定可能な第1ドライブポジションD5が非走行ポジションであるニュートラル(N)ポジションに続けて配置されている。これは、上述した具体例や通常の自動変速機におけるシフト装置と同様である。この第1ドライブポジションD5の横方向に隣接して“4”ポジションが配置され、これに続けて“3”ポジションおよび“2”ポジションならびにLポジションが連続して配置され、かつシフトレバーをガイドする溝などの移動経路18によって接続されている。なお、“4”ポジションは第4速までの変速段を設定するポジション、“3”ポジションは第3速までの変速段を設定するポジション、“2”ポジションは第2速までの変速段を設定するポジション、Lポジションは第1速を設定するポジションであり、これらは上述した具体例あるいは通常の自動変速機と同様である。
これに対して第2のオーバードライブ段である第6速までの変速段を設定することのできる第2ドライブポジションD6が、第1ドライブポジションD5に対して、“4”ポジションとは反対側に隣接して配置され、かつシフトレバーLvの移動経路18によって接続されている。言い換えれば、第1ドライブポジションD5から互いに異なる三方向に非走行ポジションであるニュートラルポジションと、“4”ポジションと、第2ドライブポジションD6とが配置され、かつ移動経路18によって接続されている。
車両の通常の走行では、シフトレバーをパーキングポジションから第1ドライブポジションD5にシフトし、また加減速のために“4”ポジションないしLポジションにシフトレバーをシフトする。これらのパーキングポジションからLポジションまでの各シフトポジションは、一部屈曲しているものの一連の移動経路18によって接続された状態で配置されている。これに対して、第6速までの変速段を設定することのできる第2ドライブポジションD6は、その一連の移動経路18から第1ドライブポジションD5の部分で分岐した状態で配置されている。
上記のシフトポジションを備えた制御装置による制御例を説明すると、図14において、先ず、入力信号の処理(ステップS11)をおこない、ついで第1ドライブポジションD5がシフトレバーLvによって選択されているか否かが判断される(ステップS12)。このステップS12で肯定判断された場合には、第1のオーバードライブ段である第5速までの変速段を設定することのできる変速パターン(OD1段パターン)が設定される(ステップS13)。具体的には第5速までの変速段領域を設定した変速マップが読み込まれ、その変速マップに従った変速制御が実行される。その場合、最高速段が第5速であって駆動力に余裕があるので、ビジーシフトが発生しない。
一方、第1ドライブポジションD5が選択されていないことによりステップS12で否定判断された場合には、第2ドライブポジションD6が選択されているか否かが判断される(ステップS14)。第2ドライブポジションD6が選択されていることによりこのステップS14で肯定判断された場合には、第6速までの変速段を設定することのできる変速パターン(OD2段パターン)が設定される(ステップS15)。具体的には、前述した図10に示す第6速の変速段領域が設定された変速マップが読み込まれ、その変速マップに従った変速制御が実行される。その場合、同時にロックアップパターンとして図11に示すパターンが設定される。その結果、高車速時には第6速が設定され、その変速比が小さいことによりエンジン回転数が低下し、燃費が良好になる。また、第6速では余裕駆動力が少なく、アクセル開度の僅かな増大や車速の僅かな低下によってダウンシフトが生じやすくなる。
なお、第2ドライブポジションD6以外のシフトポジションが選択されていることによりステップS14で否定判断された場合には、実際に選択されているそれぞれのポジションに応じたシフトパターンが設定される(ステップS16)。
したがって上記の制御例においては、第2のオーバードライブ段である第6速は、第1ドライブポジションD5から通常の“4”ポジションとは反対方向の第2ドライブポジションD6が選択されることにより設定可能となる。そしてこの第2ドライブポジションD6は、通常の走行時や加減速もしくは前後進を頻繁に繰り返すガレージシフト時などにおいて使用されるシフトレバーLvの操作経路から外れて配置されている。そのため、第6速を設定するためには、意図的な人為操作が必要になる。これは、上述した具体例と同様であり、したがって第6速で走行したり、その際の余裕駆動力の不足による変速が生じたりすることは、運転者が既に認識もしくは了解していることである。そのため、意図しない走行状態が生じるわけではないので、違和感が生じることがなく、またその走行状態を回避するためには、第2ドライブポジションD6から第1ドライブポジションD5にシフトすることにより第6速を禁止すればよく、この点でも走行中での違和感を回避することができる。
なお、第2ドライブポジションD6は、Mポジションのあるシフト装置にも設けることができる。その例を図15に示してある。ここに示す例においても、第2ドライブポジションD6は、第1ドライブポジションD5から“4”ポジションとは異なる方向に分岐した移動経路18上に設けられている。したがってこのような構成であっても、第6速を設定するためには意図的な操作を必要とするので、第6速での走行やその際の変速の頻度などは運転者が了解したものとなり、あるいは走行ポジションを切り換えることにより、第6速やそれに伴うビジーシフトを解消することができる。
ところで自動変速機Atにおける変速制御は、一例として上述したように変速マップに基づいて実行され、したがってその変速マップを変更すれば、異なる変速パターンで変速を実行することができる。その変速マップの切り換えには、変速段領域の異なるもの、すなわち設定可能な変速段数の異なるものも含まれる。そして、その変速マップは電子制御装置に予め記憶されているものを読み込むことにより切り換えることができる。以下に説明する具体例は、このような機能を利用して第2のオーバードライブ段である第6速を選択的に設定するように構成した例である。
この具体例におけるシフトレバーLvで選択されるシフトポジションは図16に示すように配列されている。すなわちパーキング(P)、リバース(R)、ニュートラル(N)、ドライブ(D)、“5”、“4”、“3”、“2”、Lの各ポジションが直列的に配列され、かつシフトレバーLvをガイドする溝などの移動経路18によって接続されている。これらのポジションのうち前進走行のためのドライブポジションないしLポジションで設定される変速段は、図17に示すとおりである。すなわちドライブポジションが選択されている場合に第1速から第6速までの変速段が走行状態に応じて設定され、以下、“5”ポジションからLポジションに従ってそれぞれの最高速段が1段ずつ低い変速段となるように構成されている。これらの各シフトポジションの切り換えは、具体的には、それぞれに応じた変速段領域を設定してある変速マップを読み込むことにより実行され、あるいはこれに相当する信号の処理をおこなうことにより実行される。
その変速マップもしくは変速パターンの変更制御の例を次に説明する。図18はその一例を説明するためのフローチャートであり、入力信号の処理(ステップS21)をおこなった後に、ドライブポジションが選択されているか否かが判断される(ステップS22)。ドライブポジション以外のポジションが選択されている場合には、その選択されているポジションに応じた変速パターンを設定すればよいので、この図18のルーチンから抜ける。これとは反対にドライブポジションが選択されていることによりステップS22で肯定判断された場合には、第2のオーバードライブ段である第6速を設定しない変速パターン(OD2カットパターン)が設定されているか否かが判断される(ステップS23)。すなわちシフトレバーLvをドライブポジションに設定したまま電気的な処理によって第6速を禁止する変速パターンが設定されているか否かが判断される。
このステップS23で否定判断された場合、すなわち第6速を設定することができる変速パターンとなっている場合には、ナビゲーションシステムによって高車速登坂路が走行予定路にあるか否かが判断される(ステップS24)。このナビゲーションシステムは、電子化した地図情報を予め記憶するとともに、グローバルポジショニングシステム(GPS)やジャイロを使用した自律航法などによって地図上の自車両位置を検出して所定のディスプレイに表示し、また目的地を入力することにより現在位置からの推奨走行路を求めて表示し、さらにはこのようにして求められた推奨走行路あるいは走行予定路の道路状況すなわちカーブの有無やその程度、道路の種別、登降坂路の区別やその勾配、道路の舗装の状態、路面摩擦係数などを出力するように構成されている。なお、このナビゲーションシステムとしては従来知られているものを採用することができる。ナビゲーションシステムは、このように走行予定路とその道路状況を検出できるので、ステップS24でその道路情報に基づいて高速走行路であってかつ所定以上の勾配の登坂路が走行予定路にあるか否かが判断される。
その時点では設定可能な最高速段である第6速で走行しており、したがってこのステップS24で肯定判断された場合には、第6速を禁止することに伴って変速が発生するか否かが判断される(ステップS25)。高速登坂路の走行に備えた第6速の禁止制御のための予備的な判断であり、第6速を禁止することに伴って変速(ダウンシフト)が発生するとすれば、その変速は、現在の走行状態や意図的な変速操作によるものではないから、違和感の原因となる。そこでステップS25で肯定判断された場合には、そのような違和感を避けるために特に制御をおこなうことなくリターンする。これに対して変速が生じないことが判断された場合、すなわちステップS25で否定判断された場合には、第2のオーバードライブ段である第6速を禁止した変速パターン(OD2カット変速パターン)が設定される(ステップS26)。具体的には第6速の変速段領域のない変速マップが読み込まれ、その変速マップに基づいて変速制御が実行される。
一方、ステップS24で否定判断された場合には、実際の走行状態から高速登坂路を判定する(ステップS27)。すなわち高速状態は実際の車速が所定の判断基準車速以上か否かによって判断することができ、また所定以上の勾配の登坂路であることは、実加速度がスロットル開度に応じた基準加速度より小さいことによって判断することができる。なお、高速道路の勾配は急激には増大しないので、加速度の低下率に基づいて高速登坂路が走行予定路にあることを予測してもよい。
このステップS27の判断はナビゲーションシステムによる判断に替わるものであるから、ステップS27で肯定判断された場合には、ステップS24で肯定判断された場合と同様に、ステップS25に進んで、第6速を禁止した場合に変速が生じるか否かが判断され、変速が生じないと判断された場合には第6速を禁止する変速パターンが設定され、反対に変速が生じると判断された場合には、リターンする。
なお、上記のステップS24およびステップS27は、要は、走行抵抗の大小を判定するステップであり、したがってナビゲーションシステムで得られる勾配情報もしくは実加速度を走行抵抗として数値化し、これを判断基準として予め定めた所定値と比較することとしてもよい。
また、前記ステップS26が既に実行されていることによりステップS23で肯定判断された場合には、第6速を禁止する制御からの復帰のための制御をおこなう。すなわち、先ず、ナビゲーションシステムによって高速登坂路が判定される(ステップS28)。高速登坂路が走行予定路にあることによりステップS28で肯定判断された場合には、第2のオーバードライブ段である第6速を禁止しておくために、すなわち従前の制御を継続するために、特に制御をおこなうことなくリターンする。
これに対してナビゲーションシステムによって高速登坂路が判定されていないことによりステップS28で否定判断された場合には、実際の走行状態すなわち実車速および実加速度から高速登坂路の有無が判定される(ステップS29)。なおこの場合も、高速道路の勾配は急激には低下しないので、加速度の増大率に基づいて高速登坂路が終了することを予測してもよい。高速登坂路が終了していないことによりステップS29で肯定判断された場合には、ステップS28で肯定判断された場合と同様に、第2のオーバードライブ段である第6速を禁止しておくために、すなわち従前の制御を継続するために、特に制御をおこなうことなくリターンする。
これとは反対にステップS29で否定判断されれば、ナビゲーションシステムによる判断と実加速度に基づく判断との両方から高速登坂路が終了したことになり、したがってその場合には、第6速を禁止する制御からの復帰制御をおこなうための予備的な判断として、第6速を設定できる変速パターンに切り換えた場合に変速が生じるか否かが判断される(ステップS30)。第6速を設定できる変速パターンに切り換えることに伴って変速が生じることによりステップS30で肯定判断された場合には、意図しない変速が生じることを避けるために、特に制御をおこなうことなくリターンする。これに対して変速が生じないことによりステップS30で否定判断された場合には、第2のオーバードライブ段である第6速を設定することのできる変速パターンに変更する(ステップS31)。具体的には、前述した図10に示す変速マップが読み込まれ、その変速マップに従った変速制御が実行される。その場合、ロックアップクラッチ15を制御するロックアップマップを図11に示すものに変更してもよい。
なお、上記のステップS28およびステップS29は、要は、走行抵抗の大小を判定するステップであり、したがってナビゲーションシステムで得られる勾配情報もしくは実加速度を走行抵抗として数値化し、これを判断基準として予め定めた他の所定値と比較することとしてもよい。
したがって上述した制御をおこなうことにより、高速登坂路を走行する場合には、駆動力に余裕のある第1のオーバードライブ段である第5速で走行することになり、その結果、車速を維持するなどのためにアクセルペダルをわずか踏み込んでもダウンシフトが生じることがなく、ビジーシフトを回避することができる。また、高速登坂路の終了に伴って第2のオーバードライブ段である第6速を設定することが可能になるので、高速走行時のエンジン回転数を低下させて燃費を向上させることができる。
上述した図18に示す例は、高速での登坂時にアクセルペダルを僅かに踏み込んでもダウンシフトが生じないようにする制御例であるが、この発明では高速での降坂時に第5速から第6速へのアップシフトを生じないようにして車速を維持するように制御し、ひいては高速降坂時のビジーシフトを回避することもできる。その例を図19に示してある。
図19はその一例を説明するためのフローチャートであり、このルーチンは、上記の図18に示すルーチンと類似する制御ステップを備えており、したがって図19の各制御ステップには、図18に示す対応する制御ステップの番号に“100”を加えた番号を付してある。すなわち、図19において、入力信号の処理(ステップS121)をおこなった後に、ドライブポジションが選択されているか否かが判断される(ステップS122)。ドライブポジション以外のポジションが選択されている場合には、その選択されているポジションに応じた変速パターンを設定すればよいので、この図19のルーチンから抜ける。
これとは反対にドライブポジションが選択されていることによりステップS122で肯定判断された場合には、第2のオーバードライブ段である第6速を設定しない変速パターン(OD2カットパターン)が設定されているか否かが判断される(ステップS123)。すなわちシフトレバーLvをドライブポジションに設定したまま電気的な処理によって第6速を禁止する変速パターンが設定されているか否かが判断される。
このステップS123で否定判断された場合、すなわち第6速を設定することができる変速パターンとなっている場合には、ナビゲーションシステムによって高車速降坂路が走行予定路にあるか否かが判断される(ステップS124)。このナビゲーションシステムは、電子化した地図情報を予め記憶するとともに、グローバルポジショニングシステム(GPS)やジャイロを使用した自律航法などによって地図上の自車両位置を検出して所定のディスプレイに表示し、また目的地を入力することにより現在位置からの推奨走行路を求めて表示し、さらにはこのようにして求められた推奨走行路あるいは走行予定路の道路状況すなわちカーブの有無やその程度、道路の種別、登降坂路の区別やその勾配、道路の舗装の状態、路面摩擦係数などを出力するように構成されている。なお、このナビゲーションシステムとしては従来知られているものを採用することができる。ナビゲーションシステムは、このように走行予定路とその道路状況を検出できるので、ステップS124でその道路情報に基づいて高速走行路であってかつ所定以上の下り勾配(例えば−5%以上の下り勾配)の降坂路が走行予定路にあるか否かが判断される。
その時点では設定可能な最高速段である第6速で走行しており、したがってこのステップS124で肯定判断された場合には、第6速を禁止することに伴って変速が発生するか否かが判断される(ステップS125)。高速降坂路の走行に備えた第6速の禁止制御のための予備的な判断であり、第6速を禁止することに伴って変速(ダウンシフト)が発生するとすれば、その変速は、現在の走行状態や意図的な変速操作によるものではないから、違和感の原因となる。そこでステップS125で肯定判断された場合には、そのような違和感を避けるために特に制御をおこなうことなくリターンする。これに対して変速が生じないことが判断された場合、すなわちステップS125で否定判断された場合には、第2のオーバードライブ段である第6速を禁止した変速パターン(OD2カット変速パターン)が設定される(ステップS126)。具体的には第6速の変速段領域のない変速マップが読み込まれ、その変速マップに基づいて変速制御が実行される。
一方、ステップS124で否定判断された場合には、実際の走行状態から高速降坂路を判断する(ステップS127)。すなわち高速状態は実際の車速が所定の判断基準車速以上か否かによって判断することができ、また所定以上の下り勾配の降坂路であることは、実加速度がスロットル開度に応じた基準加速度より大きいことによって判断することができる。なお、高速道路の下り勾配は急激には増大しないので、加速度の増大率に基づいて高速降坂路が走行予定路にあることを予測してもよい。
このステップS127の判断はナビゲーションシステムによる判断に替わるものであるから、ステップS127で肯定判断された場合には、ステップS124で肯定判断された場合と同様に、ステップS125に進んで、第6速を禁止した場合に変速が生じるか否かが判断され、変速が生じないと判断された場合には第6速を禁止する変速パターンが設定され、反対に変速が生じると判断された場合には、リターンする。
なお、上記のステップS124およびステップS127は、要は、走行抵抗の大小を判定するステップであり、したがってナビゲーションシステムで得られる勾配情報もしくは実加速度を走行抵抗として数値化し、これを判断基準として予め定めた所定値と比較することとしてもよい。
また、前記ステップS126が既に実行されていることによりステップS123で肯定判断された場合には、第6速を禁止する制御からの復帰のための制御をおこなう。すなわち、先ず、ナビゲーションシステムによって高速降坂路が判定される(ステップS128)。高速降坂路が走行予定路にあることによりステップS128で肯定判断された場合には、第2のオーバードライブ段である第6速を禁止しておくために、すなわち従前の制御を継続するために、特に制御をおこなうことなくリターンする。
これに対してナビゲーションシステムによって高速降坂路が判定されていないことによりステップS128で否定判断された場合には、実際の走行状態すなわち実車速および実加速度から高速降坂路の有無が判断される(ステップS129)。なおこの場合も、高速道路の下り勾配は急激には低下しないので、加速度の減少率に基づいて高速降坂路が終了することを予測してもよい。高速登降坂路が終了していないことによりステップS129で肯定判断された場合には、ステップS128で肯定判断された場合と同様に、第2のオーバードライブ段である第6速を禁止しておzくために、すなわち従前の制御を継続するために、特に制御をおこなうことなくリターンする。
これとは反対にステップS129で否定判断されれば、ナビゲーションシステムによる判断と実加速度に基づく判断との両方から高速降坂路が終了したことになり、したがってその場合には、第6速を禁止する制御からの復帰制御をおこなうための予備的な判断として、第6速を設定できる変速パターンに切り換えた場合に変速が生じるか否かが判断される(ステップS130)。第6速を設定できる変速パターンに切り換えることに伴って変速が生じることによりステップS130で肯定判断された場合には、意図しない変速が生じることを避けるために、特に制御をおこなうことなくリターンする。これに対して変速が生じないことによりステップS130で否定判断された場合には、第2のオーバードライブ段である第6速を設定することのできる変速パターンに変更する(ステップS131)。具体的には、前述した図10に示す変速マップが読み込まれ、その変速マップに従った変速制御が実行される。その場合、ロックアップクラッチ15を制御するロックアップマップを図11に示すものに変更してもよい。
なお、上記のステップS128およびステップS129は、要は、走行抵抗の大小を判定するステップであり、したがってナビゲーションシステムで得られる勾配情報もしくは実加速度を走行抵抗として数値化し、これを判断基準として予め定めた他の所定値と比較することとしてもよい。
したがって上述した制御をおこなうことにより、高速降坂路を走行する場合には、エンジンブレーキの効き易い第1のオーバードライブ段である第5速で走行することになり、その結果、車速を維持するなどのためにアクセルペダルを戻してもアップシフトが生じることがなく、ビジーシフトを回避することができる。また、高速降坂路の終了に伴って第2のオーバードライブ段である第6速を設定することが可能になるので、高速走行時のエンジン回転数を低下させて燃費を向上させることができる。
なおここで、上述した具体例とこの発明のとの関係を説明すると、上記のナビゲーションシステムが請求項2ないし6の発明における走行誘導システムに相当する。また上記の図18におけるステップS26の制御もしくは図19におけるステップS126の制御を実行する機能的手段が、請求項1の発明あるいは請求項2ないし6の発明における最高速比禁止手段に相当する。さらに、図18におけるステップS25およびステップS30、あるいは図19におけるステップS125およびステップS130の機能的手段が、請求項5もしくは請求項6の発明における変速発生判断手段に相当する。
この発明に係る制御装置を搭載する車両は、追従走行(追従制御)をおこなうように構成することができる。その追従走行とは、レーザレーダなどのレーダシステムによって前方車両を検出し、前方車両との間に所定の車間距離を維持しつつ前方車両に追従して走行する走行形態であり、車速および車間距離を維持するためにスロットル開度や変速段(変速比)が制御される。この追従走行あるいはレーザクルーズをおこなう場合、加減速制御の応答性がよいことが望まれるので、以下に述べるように制御される。
図20は、その制御例を説明するためのフローチャートであり、この制御が実行される追従走行車両における自動変速機は、前述したように第5速と第6速とをオーバードライブ段とした前進6速を設定可能な自動変速機であり、それらの変速段を設定するシフトポジションが、例えば図21に示すように構成されている。すなわち前進走行のためのポジションとしてドライブ(D)ポジション、“4”ポジション、“3”ポジション、“2”ポジション、Lポジションが設定されており、各ポジションで設定可能な変速段は図21に示すとおりである。なお、この具体例では、ドライブポジションにおいて設定可能な変速段が前述した各具体例におけるドライブポジションで設定できる変速段とは異なっており、第1速ないし第6速の前進6段の変速段を設定でき、また、“5”ポジションが設けられていない。
図20において入力信号の処理(ステップS41)をおこなった後、シフトレバーによってドライブポジションが選択されているか否かが判断される(ステップS42)。このドライブポジションでは図21に示すように、第1速ないし第6速の前進段が車両の走行状態に基づいて設定される。ドライブポジション以外のシフトポジションが選択されていることによりステップS42で否定判断された場合には、追従走行が禁止される(ステップS43)。非走行ポジションが選択されている場合には当然、追従走行が禁止され、またたとえ前進走行ポジションであっても、ドライブポジション以外のいわゆるエンジンブレーキポジションでは、第4速もしくはそれより低速側の変速段が最高速段となるので、追従走行には適さず、そのため、ドライブポジション以外のポジションが選択されている場合には、追従走行自体が禁止される。
これに対してドライブポジションが選択されていることによりステップS42で肯定判断された場合には、レーザクルーズスイッチがオンか否かが判断される(ステップS44)。すなわちレーザレーダによって前方車両を検出し、その前方車両との車間距離を所定の距離に維持しつつ前方車両に追従して走行する制御をおこなうことが、スイッチ操作によって選択されているか否かが判断される。レーザクルーズスイッチがオン操作されていないことにより、すなわち追従走行制御が実行されないことによりステップS44で否定判断された場合には、第2のオーバードライブ段である第6速を設定することのできる変速パターンが選択される(ステップS45)。これに対して追従走行のための制御が実行されることによりステップS44で肯定判断された場合には、第1のオーバードライブ段である弟5速を最高速段とした変速パターンすなわち第6速を禁止した変速パターンが設定される(ステップS46)。
具体的には、ドライブポジションが選択されていて追従走行をおこなわない場合には、図10に示す第6速の変速段領域を設定してある変速マップを読み込んで変速制御をおこなう。これと同時に図11に示すロックアップマップを読み込んで、第6速を設定した場合のロックアップクラッチ15の制御をおこなう。その結果、高速走行時にはエンジン回転数を低下させることができるので、燃費を向上させることができる。これに対して追従走行をおこなう場合には、図10に示す変速マップから第6速の変速段領域を削除した変速マップが読み込まれ、その変速マップに基づいて変速制御が実行される。したがって最高速段が第5速になるので、高速走行時での変速比が“1”より小さくても特には小さくならず、ある程度の駆動力を確保できるので、追従走行性能あるいは追従応答性が良好になる。
以上、この発明を図に示す具体例に基づいて説明したが、この発明は、上述した各具体例に限定されない。例えば、この発明で対象とする自動変速機は、変速比が“1”より小さいいわゆるオーバードライブ段を2つ以上設定することのできる自動変速機であってよく、図2に示す歯車列を備えたものに限定されない。また、この発明で対象とする自動変速機は、上述した有段式の変速機以外に、変速比が連続的に変化する無段変速機であってもよい。さらに、それらの変速機を搭載した車両は、内燃機関以外に電動機やモータ・ジェネレータを駆動力源として搭載している車両であってもよい。そして、この発明において、シフトポジションを選択するシフトレバーは、要は、自動変速機の油圧制御装置におけるマニュアルバルブすなわち各シフトポジションに応じて油圧の供給経路を変更するバルブを操作するものであり、したがってそのシフトレバーはそのマニュアルバルブに機械的に連結された操作機構以外に、スイッチレバーのように手動操作されることによりシフトポジションを切り換えるための電気信号を出力するものであってもよい。すなわちこの発明は、いわゆるシフト・バイ・ワイヤー式の自動変速機を対象とする制御装置にも適用することができる。そしてまた、この発明では、手動操作に基づいて設定される変速比は、前述した所定の範囲すなわちシフトレンジに含まれる複数の変速比もしくは連続した変速比であってもよく、あるいは特定の固定された変速比もしくは変速段であってもよい。
18…(シフトレバーの)移動経路、 19…ダウンスイッチ、 20…アップスイッチ、 Sr…シフト装置、 Lv…シフトレバー、 At…自動変速機、 ECU…電子制御装置。