JP2008202003A - ノルボルネン系化合物の製造方法および有機パラジウム錯体 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、ノルボルネン系化合物の製造方法および有機パラジウム錯体に関する。
ノルボルネン系化合物を主鎖に有する重合体のフィルムは、高い耐熱性、低複屈折、湿度に対する安定性を有することから、光学フィルムとして有望である。そのようなノルボルネン系化合物の重合において、複数の成分を混合して触媒活性種を発生させる多成分系触媒が有効であることが知られている。
例えば、ビス(アセチルアセトナート)パラジウムとジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレートを混合して得られる多成分系触媒が公知である(特許文献1)。この触媒はノルボルネンの重合では90%以上の高い収率を与えるものの、メトキシカルボニルノルボルネンとノルボルネンとの重合では13%と収率が低下し、メトキシカルボニルノルボルネンの導入率も20モル%と低い。また、本発明者の実験で、同条件でメトキシカルボニルノルボルネン単独の重合は進行しなかった。
一方、ビス(アセチルアセトナート)パラジウムとジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレートとトリシクロヘキシルホスフィンを混合して得られる多成分系触媒が知られている(特許文献2)。この触媒は、エステルやアシル基を有するノルボルネン系化合物の重合で良好な収率を与える。
特許第364334号
特表2005−521785号
しかしながら、特許文献2の多成分系触媒で用いられるトリシクロヘキシルホスフィンは、空気中で劣化しやすいため、扱いに難がある。トリシクロヘキシルホスフィンが劣化した場合、特許文献2の多成分系触媒を用いる重合の収率が低下することがある。本発明は、空気に安定で長期保存可能な有機パラジウム錯体を用いて、効率よくノルボルネン系重合体を得ることを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意工夫した結果、有機パラジウム錯体(a)と塩(b)を反応させる多成分系触媒を見出した。(a)は、溶液中でも固体でも空気に安定であり、常温で長期保存が可能である。この手法では、重合の収率が繰り返し再現できる。さらにこの手法は、特許文献2の手法より収率が向上することを見出し、本発明に至った。
上記課題を解決するための手段は以下の通りである。
[1]下記化合物(a)および(b)を混合することで発生させた多成分系触媒を用いたノルボルネン系化合物の単独もしくは共重合体の製造方法。
(a)下記一般式(1)で表される有機パラジウム錯体
一般式(1)
[1]下記化合物(a)および(b)を混合することで発生させた多成分系触媒を用いたノルボルネン系化合物の単独もしくは共重合体の製造方法。
(a)下記一般式(1)で表される有機パラジウム錯体
一般式(1)
(R、R1、R2、R3は1価のアルキル基もしくはアリール基を表し、互いに同じでも異なってもよい。)
(b)中心原子に非共有電子対をもたないアニオンとカウンターカチオンからなる塩
[2](a)のRがメチル基、R1、R2、R3がトリシクロヘキシル基、(b)がジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレートであることを特徴とする[1]記載のノルボルネン系化合物の単独もしくは共重合体の製造方法。
[3]ノルボルネン系化合物がエステルもしくはアシル基を含有することを特徴とする[1]および[2]記載のノルボルネン系化合物の単独もしくは共重合体の製造方法。
[4]下記式(2)で表される有機パラジウム錯体。
式(2)
(b)中心原子に非共有電子対をもたないアニオンとカウンターカチオンからなる塩
[2](a)のRがメチル基、R1、R2、R3がトリシクロヘキシル基、(b)がジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレートであることを特徴とする[1]記載のノルボルネン系化合物の単独もしくは共重合体の製造方法。
[3]ノルボルネン系化合物がエステルもしくはアシル基を含有することを特徴とする[1]および[2]記載のノルボルネン系化合物の単独もしくは共重合体の製造方法。
[4]下記式(2)で表される有機パラジウム錯体。
式(2)
本発明の多成分系触媒の成分は、空気中で安定で長期保存が可能である。また従来の手法によりも高い収率でノルボルネン系化合物の単独もしくは共重合体を得ることができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
(多成分系触媒)
本発明の多成分系触媒は、下記の化合物(a)および(b)を混合することによって得られる。
本発明の多成分系触媒は、下記の化合物(a)および(b)を混合することによって得られる。
(a)有機パラジウム錯体
一般式(1)
一般式(1)
R、R1、R2、R3は1価のアルキル基もしくはアリール基を表し、互いに同じでも異なってもよい。アルキル基として、炭素原子数1〜20のものが好ましく、炭素原子数1〜12のものがより好ましく、炭素原子数1〜8のものが特に好ましく、例えばメチル基、エチル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。アリール基として、炭素原子数6〜30のものが好ましく、炭素原子数6〜20のものがより好ましく、炭素原子数6〜12のものが特に好ましく、例えばフェニル基などが挙げられる。
Rとして、アルキル基が好ましく、炭素数1〜6のものがさらに好ましく、メチル基がもっとも好ましい。R1、R2、R3として、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアリール基が好ましく、シクロヘキシル基もしくはフェニル基がさらに好ましく、シクロヘキシル基がもっとも好ましい。したがって、もっとも好ましい(a)の構造は式(2)のA-1で表される。
式(2)
式(2)
有機パラジウム錯体(a)(下記反応式でA)は、非特許文献ブレティンオブザケミカルソサイアティーオブジャパン1974年47巻665ページに従って、ビス(ジオナート)パラジウムA’と三置換ホスフィンPとの1:1の反応で得られる(下記反応式)。配位力の強い三置換ホスフィンはパラジウム原子に配位し、ジオナートの一つはハプト1タイプの配位子となる。
なお、この有機パラジウム錯体(a)は、上記の反応で溶液中で発生させ、その溶液を触媒成分として用いてもよい。発生させた後、溶媒を除去し、残存物を用いてもよい。さらに再結晶し、単離した結晶を用いてもよい。
(b)中心原子に非共有電子対をもたないアニオンとカウンターカチオンからなる塩
中心原子に非共有電子対をもたないアニオンの例として、ホウ素やアルミニウムのような13族元素に4つの有機基が配位したものが挙げられる。4つの有機基は、アリール基などのようにかさ高いことが好ましく、さらにこの中にはフッ素のような電子吸引性基が含有されていることが好ましい。具体的には、テトラキス(アリール)ボレートやテトラキス(アリール)アルミネートが挙げられ、扱いやすさの点からテトラキス(アリール)ボレートが好ましい。
中心原子に非共有電子対をもたないアニオンの例として、ホウ素やアルミニウムのような13族元素に4つの有機基が配位したものが挙げられる。4つの有機基は、アリール基などのようにかさ高いことが好ましく、さらにこの中にはフッ素のような電子吸引性基が含有されていることが好ましい。具体的には、テトラキス(アリール)ボレートやテトラキス(アリール)アルミネートが挙げられ、扱いやすさの点からテトラキス(アリール)ボレートが好ましい。
テトラキス(アリール)ボレートとして、テトラキス(フェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、テトラキス(2−フルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3−フルオロフェニル)ボレート、テトラキス(4−フルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,5−ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,4,5,6−テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,4,5−トリフルオロフェニル)ボレート、フェニルトリス(パーフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(4−トリ−i−プロピルシリルテトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(4−ジメチル−t−ブチルシリルテトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス[3,5−ビス[1−メトキシ−2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル]フェニル]ボレート、テトラキス[3−[1−メトキシ−2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−5−(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、テトラキス[3−[2,2,2−トリフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1−(トリフルオロメチル)エチル]−5−(トリフルオロメチル)フェニル]ボレートを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
これらの中でも、アニオン電荷密度の高いテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、テトラキス(2,3,4,5−テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,4,5,6−テトラフルオロフェニル)ボレートが好ましく、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレートがより好ましく、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが特に好ましい。
カウンターカチオンは、有機カチオンもしくはブレンステッド酸であることが好ましい。有機カチオンとして、トリチルカチオンがあげられる。ブレンステッド酸として、アンモニウムやホスホニウムが挙げられる。これらは、プロトンを放出して、配位性の化合物となる。したがって、これらのアンモニウムやホスホニウムは、立体的なかさ高さがあることが好ましい。扱いやすさの点で、アンモニウムのほうが好ましい。
ホスホニウムとしては、ホスホニウムの三つの水素が、アルキル基もしくはアリール基もしくはこれらの両方で置換された三置換ホスホニウムが好ましい。具体的には、トリシクロヘキシルホスホニウムなどが好ましい。
アンモニウムとしては、アンモニウムの三つの水素が、アルキル基もしくはアリール基もしくはこれらの両方で置換された三置換アンモニウムが好ましい。三置換アミンの中でも、立体的にかさ高いジアルキルアリールアンモニウムなどが好ましく、ジメチルアニリニウムアンモニウムなどがより好ましい。
ホスホニウムとしては、ホスホニウムの三つの水素が、アルキル基もしくはアリール基もしくはこれらの両方で置換された三置換ホスホニウムが好ましい。具体的には、トリシクロヘキシルホスホニウムなどが好ましい。
アンモニウムとしては、アンモニウムの三つの水素が、アルキル基もしくはアリール基もしくはこれらの両方で置換された三置換アンモニウムが好ましい。三置換アミンの中でも、立体的にかさ高いジアルキルアリールアンモニウムなどが好ましく、ジメチルアニリニウムアンモニウムなどがより好ましい。
(b)の具体例として以下のものがあげられるが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
(a)および(b)の混合比率は、この触媒活性種が効果的に活かされるような比率が好ましい。すなわち、(b)の混合量は、(a)中のパラジウム原子に対し0.5〜10当量が好ましく、0.5〜5当量がより好ましく、1〜3当量が特に好ましい。
本発明の多成分系触媒は、均一溶液系で触媒活性種として用いることができる。多成分系触媒を重合反応系で調製しそれをノルボルネン系化合物と接触させる手順は適宜定めることができるが、(手順1)ノルボルネン系化合物が液体であり、本発明の多成分系触媒を溶解させることが可能であるならば、ノルボルネン系化合物中で(a)および(b)を混合してもよく、(手順2)ノルボルネン系化合物を溶媒に溶解してから、そこに(a)および(b)を添加して混合してもよく、(手順3)(a)および(b)のすべてまたは一部ずつを、それぞれあらかじめ溶媒中に溶解しておき、それらを同時にまたは順次にノルボルネン系化合物またはその溶液に添加してもよく、(手順4)逆に、(a)および(b)のすべてまたはその一部を溶媒中で混合し触媒系を調製したのちに、そこへノルボルネン系化合物またはその溶液を添加してもよく、なかでも上記(手順3)の態様が好ましい。
化合物(a)を溶媒に溶解してから混合する場合、溶媒は無極性もしくは低極性であることが好ましく、例えばトルエンなどが挙げられる。化合物(b)については、塩であるため、無極性もしくは低極性溶媒に溶解しないことがあるが、この場合、塩化メチレンなどのハロゲン系の低極性溶媒に溶かして、混合すればよい。
本発明の多成分系触媒においては、その触媒量が多すぎると重合体の黄色味が強くなり、触媒量が少なすぎると反応に時間がかかるもしくは収率が落ちる。したがって、ノルボルネン系化合物1当量に対し触媒中のパラジウムの量が10000000分の1当量〜1000分の1当量となるようにすることが好ましく、1000000分の1当量〜1000分の1当量となるようにすることがより好ましく、1000000分の1当量〜2000分の1当量となるようにすることが特に好ましい。
(ノルボルネン系化合物)
本発明で好ましく用いられるノルボルネン系化合物は下記一般式(3)で表される。
一般式(3)
本発明で好ましく用いられるノルボルネン系化合物は下記一般式(3)で表される。
一般式(3)
式中、Ra、Rb、Rc、およびRdはそれぞれ炭素と水素とからなる一価の有機基、極性基、または水素原子を表し、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。
炭素と水素からなる一価の有機基として、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基など)、アルケニル基(例えばビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基など)、アルキニル基(例えばプロパルギル基、3−ペンチニル基など)、アリール基(例えばフェニル基、p−メチルフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基など)などが挙げられる。
極性基は、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ハロゲン原子などの電気陰性度の高い原子を有し、それによって分極が生じている基であり、有機極性基を含む。具体的には例えば、アミノ基(例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基など)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基など)、アリールオキシ基(例えばフェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基など)、ヘテロ環オキシ基(例えばピリジニルオキシ基、ピリミジニルオキシ基、ピリダジニルオキシ基、ベンズイミダゾリルオキシ基など)、シリルオキシ基(例えばトリメチルシリルオキシ基、t−ブチルジメチルシリルオキシ基などが)、アシル基(例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基など)、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基など)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェニルオキシカルボニル基など)、アシルオキシ基(例えばアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アシルアミノ基(例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基など)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えばメトキシカルボニルアミノ基など)、アリールオキシカルボニルアミノ基(例えばフェニルオキシカルボニルアミノ基など)、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基(例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基など)、スルファモイル基(例えばスルファモイル基、N−メチルスルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−フェニルスルファモイル基など)、カルバモイル基(例えばカルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基、N−フェニルカルバモイル基など)、ウレイド基(例えばウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが)、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基などが挙げられる。これらの置換基は、ノルボルネン環に直接連結していてもよく、アルキレン基などで連結されていてもよく、更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。極性基として好ましいものは、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、シリルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、およびアリールオキシカルボニルアミノ基であり、アルコキシカルボニル基およびアシルオキシ基がより好ましい。
本発明の原料モノマーとして好ましく用いられる一般式(3)で表されるノルボルネン系化合物の具体例として、以下の化合物が挙げられるが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
本発明における重合では、上記のいずれかのノルボルネン系化合物の単独重合もしくは任意の2つ以上のノルボルネン系化合物の共重合を行うことができる。
一般式(3)で表されるノルボルネン系化合物は通常の方法で合成することができるが、例えばシクロペンタジエンもしくはジシクロペンタジエンと、目的とするノルボルネン系化合物が得られる構造を有するオレフィンとの反応により合成することができる。
重合反応では、空気、水、ノルボルネン系化合物中の不純物などにより、触媒活性が低下することがあるので、ノルボルネン系化合物は、使用前に蒸留もしくは再結晶で精製することが好ましい。ノルボルネン系化合物の純度は、好ましくは95〜100%、より好ましくは98〜100%、特に好ましくは99〜100%である。
(重合反応とその諸条件)
・重合反応
本発明の多成分系触媒においては、ノルボルネン系化合物の二重結合のビニル重合により目的の重合体を得る。そして本発明の触媒は単独重合のみならず2種類以上用いた共重合にも適用できる。重合に用いるノルボルネン系化合物が、2種類以上で、これらの重合速度が大きく異なる場合、分子量分布が4以上となり、フィルム用として適当でなくなる場合がある。このような場合、重合速度の早いノルボルネン系化合物を重合反応進行中のときに、添加することで分子量分布を小さくすることができる。また、ノルボルネン系化合物の重合性が高い場合、分子量が高くなりすぎて、溶媒に不溶となる成分が生じることがある。このような場合、αオレフィンを共存させると、分子量を下げることができる。本発明のノルボルネン系化合物重合用触媒は、空気もしくは水によって、触媒が不活性化され、重合性が低下もしくは重合が進行しないことがある。したがって、高純度の不活性ガス雰囲気下で取り扱うことが好ましい。
・重合反応
本発明の多成分系触媒においては、ノルボルネン系化合物の二重結合のビニル重合により目的の重合体を得る。そして本発明の触媒は単独重合のみならず2種類以上用いた共重合にも適用できる。重合に用いるノルボルネン系化合物が、2種類以上で、これらの重合速度が大きく異なる場合、分子量分布が4以上となり、フィルム用として適当でなくなる場合がある。このような場合、重合速度の早いノルボルネン系化合物を重合反応進行中のときに、添加することで分子量分布を小さくすることができる。また、ノルボルネン系化合物の重合性が高い場合、分子量が高くなりすぎて、溶媒に不溶となる成分が生じることがある。このような場合、αオレフィンを共存させると、分子量を下げることができる。本発明のノルボルネン系化合物重合用触媒は、空気もしくは水によって、触媒が不活性化され、重合性が低下もしくは重合が進行しないことがある。したがって、高純度の不活性ガス雰囲気下で取り扱うことが好ましい。
・重合反応の溶媒
ノルボルネン系化合物が液体であり、本発明のノルボルネン系化合物重合用触媒を溶解させることが可能であるならば、上述の(手順1)のようにこれらを無溶媒で混合させ、ニートで反応させることもできる。しかし、反応の進行とともに、粘度が上昇し、攪拌が困難となることがあるため、ノルボルネン系化合物を溶媒に溶解しておくことが好ましい。そのときの溶媒は、触媒に対し、配位しにくい低極性溶媒が好ましい。さらに、反応により生じたノルボルネン系化合物重合体を溶解状態にさせておくことのできるものが好ましい。このような溶媒の例として、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、p−シメン、メシチレンのような芳香族炭化水素類があげられ、好ましくはトルエン、キシレンであり、さらに好ましくはトルエンである。一方、溶媒の極性が低すぎると、ノルボルネン系化合物もしくはノルボルネン系化合物重合体が溶解しにくくなる。したがって、溶媒は用いるノルボルネン系化合物によって、適当なものを用いる必要がある。このような場合、上記の低極性溶媒に適量の極性溶媒を添加することができる。このような極性溶媒として、塩化メチレン、ジクロロエタン等が挙げられる。
ノルボルネン系化合物が液体であり、本発明のノルボルネン系化合物重合用触媒を溶解させることが可能であるならば、上述の(手順1)のようにこれらを無溶媒で混合させ、ニートで反応させることもできる。しかし、反応の進行とともに、粘度が上昇し、攪拌が困難となることがあるため、ノルボルネン系化合物を溶媒に溶解しておくことが好ましい。そのときの溶媒は、触媒に対し、配位しにくい低極性溶媒が好ましい。さらに、反応により生じたノルボルネン系化合物重合体を溶解状態にさせておくことのできるものが好ましい。このような溶媒の例として、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、p−シメン、メシチレンのような芳香族炭化水素類があげられ、好ましくはトルエン、キシレンであり、さらに好ましくはトルエンである。一方、溶媒の極性が低すぎると、ノルボルネン系化合物もしくはノルボルネン系化合物重合体が溶解しにくくなる。したがって、溶媒は用いるノルボルネン系化合物によって、適当なものを用いる必要がある。このような場合、上記の低極性溶媒に適量の極性溶媒を添加することができる。このような極性溶媒として、塩化メチレン、ジクロロエタン等が挙げられる。
ノルボルネン系化合物を溶解する溶媒の量は、ノルボルネン系化合物に対し0〜50質量部が好ましく、0.3〜20質量部がより好ましく、0.5〜5質量部が特に好ましい。溶媒に、空気もしくは水が混入していると、触媒が不活性化され、重合性が低下もしくは重合が進行しないことがある。したがって、溶媒を用いる場合、使用前に脱水蒸留および脱気することが好ましい。
・重合反応の温度
本発明の多成分系触媒において、重合反応は、室温以下の反応でも進行するが、加熱をすることで反応を促進できる。しかし、加熱しすぎると触媒活性種が分解してしまう。したがって、反応の温度は、室温〜150℃が好ましく、50〜130℃がより好ましく、50〜120℃が特に好ましい。
本発明の多成分系触媒において、重合反応は、室温以下の反応でも進行するが、加熱をすることで反応を促進できる。しかし、加熱しすぎると触媒活性種が分解してしまう。したがって、反応の温度は、室温〜150℃が好ましく、50〜130℃がより好ましく、50〜120℃が特に好ましい。
・重合反応の反応時間
本発明の多成分系触媒において、重合反応の反応時間は、反応温度と溶媒の量、ノルボルネン系化合物の種類などに依存するが、数十分から十数時間で終了させることができる。反応の終了は、反応液がパラジウムブラックが生じるところで判定できるが、反応時間が長くなることがあるので、適宜終了させることが好ましい。
本発明の多成分系触媒において、重合反応の反応時間は、反応温度と溶媒の量、ノルボルネン系化合物の種類などに依存するが、数十分から十数時間で終了させることができる。反応の終了は、反応液がパラジウムブラックが生じるところで判定できるが、反応時間が長くなることがあるので、適宜終了させることが好ましい。
・重合反応の後処理
反応液の加熱を停止したあと、反応液をそのままもしくは適当な溶媒で希釈した後、貧溶媒(例えば、メタノールなどのアルコール系溶媒)と混合させると、白色〜黄白色の固体が得られる。これをろ取、真空乾燥することでノルボルネン系化合物重合体が得られる。なお、重合体の黄色味が強い場合、適当な還元剤を用いると残存の2価パラジウムをパラジウムブラックとすることができ、これをろ過して取り除けば、白色の重合体が得られる。
反応液の加熱を停止したあと、反応液をそのままもしくは適当な溶媒で希釈した後、貧溶媒(例えば、メタノールなどのアルコール系溶媒)と混合させると、白色〜黄白色の固体が得られる。これをろ取、真空乾燥することでノルボルネン系化合物重合体が得られる。なお、重合体の黄色味が強い場合、適当な還元剤を用いると残存の2価パラジウムをパラジウムブラックとすることができ、これをろ過して取り除けば、白色の重合体が得られる。
以下に本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。市販されていないノルボルネン系化合物もしくは有機パラジウム錯体は、以下のようにして合成することができる。
(合成例1)M−II−5の合成
ジシクロペンタジエン(和光純薬社製)1094g、酢酸アリル(和光純薬社製)1772gとヒドロキノン(和光純薬社製)1gをオートクレーブに仕込み、空隙を窒素置換した。密閉系で内温180℃で9時間攪拌した(回転速度=300rpm)。反応混合物をろ過し、揮発成分をエバポレーションした。残存物を精密蒸留(カラム長さ=120cm、カラム充填物=Propak、還流比=10/1、圧力=10mmHg、トップ温度=89℃)に付して、無色透明なM−II−5を得た。
ジシクロペンタジエン(和光純薬社製)1094g、酢酸アリル(和光純薬社製)1772gとヒドロキノン(和光純薬社製)1gをオートクレーブに仕込み、空隙を窒素置換した。密閉系で内温180℃で9時間攪拌した(回転速度=300rpm)。反応混合物をろ過し、揮発成分をエバポレーションした。残存物を精密蒸留(カラム長さ=120cm、カラム充填物=Propak、還流比=10/1、圧力=10mmHg、トップ温度=89℃)に付して、無色透明なM−II−5を得た。
(合成例2)有機パラジウム錯体A−1の合成
ガラス製フラスコ内にトルエン100mL、ビス(アセチルアセトナート)パラジウムA’−1(東京化成社製)610mg、トリシクロヘキシルホスフィンP−1(ストレム社製)565mgを加え、5分攪拌し、有機パラジウム錯体A-1の溶液を調整した。反応液の一部を取り出し、濃縮し、過剰のヘキサンを加えた。これを−20℃に冷却すると、A-1の結晶を得た。
ガラス製フラスコ内にトルエン100mL、ビス(アセチルアセトナート)パラジウムA’−1(東京化成社製)610mg、トリシクロヘキシルホスフィンP−1(ストレム社製)565mgを加え、5分攪拌し、有機パラジウム錯体A-1の溶液を調整した。反応液の一部を取り出し、濃縮し、過剰のヘキサンを加えた。これを−20℃に冷却すると、A-1の結晶を得た。
(実施例1)
高純度アルゴンで置換したガラス容器に、ノルボルネン系化合物としてM−II−1(東京化成社製)15.2gとトルエン20mLを仕込み、攪拌はねで攪拌した。これに、(a)として合成例2で調整したA−1溶液1mLと、(b)としてB−1(ストレム社製)16.0mgの塩化メチレン1mL溶液を、上記反応容器に加えた。この組成物液を90℃で6時間反応させた。反応液をメタノール中に滴下したところ、10.6gの白色沈殿を得た(収率70%)。
高純度アルゴンで置換したガラス容器に、ノルボルネン系化合物としてM−II−1(東京化成社製)15.2gとトルエン20mLを仕込み、攪拌はねで攪拌した。これに、(a)として合成例2で調整したA−1溶液1mLと、(b)としてB−1(ストレム社製)16.0mgの塩化メチレン1mL溶液を、上記反応容器に加えた。この組成物液を90℃で6時間反応させた。反応液をメタノール中に滴下したところ、10.6gの白色沈殿を得た(収率70%)。
(実施例2)
合成例2で得たA−1の結晶11.7mgとトルエン1mLを実施例1のA−1の溶液として用いる以外は、実施例1と同様に合成をした。11.1gの白色沈殿を得た(収率73%)。
合成例2で得たA−1の結晶11.7mgとトルエン1mLを実施例1のA−1の溶液として用いる以外は、実施例1と同様に合成をした。11.1gの白色沈殿を得た(収率73%)。
(比較例1)
実施例1において、パラジウム原子が等量の組成となるように、ビス(アセチルアセトナート)パラジウムA’-1(東京化成社製)6.1mg、トリシクロヘキシルホスフィンP−1(ストレム社製)5.6mg、B−1(ストレム社製)16.0mgを添加し、重合を行った。反応液をメタノール中に滴下し、10.2gの白色沈殿を得た(収率67%)。
実施例1において、パラジウム原子が等量の組成となるように、ビス(アセチルアセトナート)パラジウムA’-1(東京化成社製)6.1mg、トリシクロヘキシルホスフィンP−1(ストレム社製)5.6mg、B−1(ストレム社製)16.0mgを添加し、重合を行った。反応液をメタノール中に滴下し、10.2gの白色沈殿を得た(収率67%)。
上記のように、本発明の触媒を用いる手法(実施例1および2)は特許文献2に従った手法(比較例1)の手法よりも収率が向上した。
(比較例2)
比較例1において、トリシクロヘキシルホスフィンP−1(ストレム社製)を添加せずに重合を行った。反応液をメタノール中に滴下したが、重合物は得られなかった。
比較例1において、トリシクロヘキシルホスフィンP−1(ストレム社製)を添加せずに重合を行った。反応液をメタノール中に滴下したが、重合物は得られなかった。
(実施例3)
合成例2で調整したA−1の溶液とB−1を室温で7日放置し、これを実施例1と同様に反応に用いた。収率70%であった。
合成例2で調整したA−1の溶液とB−1を室温で7日放置し、これを実施例1と同様に反応に用いた。収率70%であった。
(比較例3)
ビス(アセチルアセトナート)パラジウムA’-1、トリシクロヘキシルホスフィンP−1およびB−1を室温で7日放置し、これを比較例1と同様に反応に用いた。収率41%であった。
ビス(アセチルアセトナート)パラジウムA’-1、トリシクロヘキシルホスフィンP−1およびB−1を室温で7日放置し、これを比較例1と同様に反応に用いた。収率41%であった。
上記のように、本発明の触媒成分は空気に安定であり、一定期間空気中で保存した後に使用しても、収率の低下は見られない。一方、特許文献2の触媒成分は劣化が進行し、一定期間空気中で保存すると、重合の収率が低下する。
(実施例4)
ノルボルネン系化合物を等モル量のM−II−5とする以外は、実施例1と同様に合成をした。11.1gの白色沈殿を得た。収率92%であった。
ノルボルネン系化合物を等モル量のM−II−5とする以外は、実施例1と同様に合成をした。11.1gの白色沈殿を得た。収率92%であった。
(実施例5)
ノルボルネン系化合物を1/2モル量のM−II−1と1/2モル量のM−I−1とする以外は、実施例1と同様に合成をした。11.1gの白色沈殿を得た。収率88%であった。
ノルボルネン系化合物を1/2モル量のM−II−1と1/2モル量のM−I−1とする以外は、実施例1と同様に合成をした。11.1gの白色沈殿を得た。収率88%であった。
上記表から明らかなように、本発明の多成分系触媒を用いて、効率(収率)よく、ノルボルネン系化合物の重合体が得られることがわかる。さらに、本発明の多成分系触媒の成分は、一定期間の保存後に使用しても、収率の低下はみられない。
Claims (4)
- (a)のRがメチル基、R1、R2、R3がトリシクロヘキシル基、(b)がジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレートであることを特徴とする請求項1記載のノルボルネン系化合物の単独もしくは共重合体の製造方法。
- ノルボルネン系化合物がエステルもしくはアシル基を含有することを特徴とする請求項1および2記載のノルボルネン系化合物の単独もしくは共重合体の製造方法。
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