JP2008200730A - Ni基耐熱合金の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】同一ひずみ付与時においても、従来技術と比較してより整細粒な組織を得ることが可能なNi基耐熱合金の製造方法を提供すること。
【解決手段】Ni基耐熱合金を940℃以上1000℃以下の温度に加熱する加熱工程と、前記Ni基耐熱合金の温度が再結晶開始温度未満に低下するまでの間に、1打撃当たりの圧下率が7%以上となる加工を同一箇所で2回以上行う加工工程とを備えたNi基耐熱合金の製造方法。但し、圧下率=(l0−l)/l0、l0は加工前の材料の高さ、lは加工後の材料の高さ。
【選択図】図4
【解決手段】Ni基耐熱合金を940℃以上1000℃以下の温度に加熱する加熱工程と、前記Ni基耐熱合金の温度が再結晶開始温度未満に低下するまでの間に、1打撃当たりの圧下率が7%以上となる加工を同一箇所で2回以上行う加工工程とを備えたNi基耐熱合金の製造方法。但し、圧下率=(l0−l)/l0、l0は加工前の材料の高さ、lは加工後の材料の高さ。
【選択図】図4
Description
本発明は、Ni基耐熱合金の製造方法に関し、さらに詳しくは、鍛造、圧延などを用いてNi基耐熱合金を熱間加工し、所定の断面積・形状を有する部材を製造するNi基耐熱合金の製造方法に関する。
Ni基耐熱合金は、Niを主成分とする耐熱合金であり、ジェットエンジンのタービンブレード、タービンディスク、点火プラグ、耐熱ばねなど、800℃以上の高温に曝される部位に使用されている。Ni基耐熱合金は、固溶強化合金と、Ni3(Al、Ti)からなるγ’相の析出強化型合金とに大別される。さらに、γ’相が相対的に多い合金からなる部材は、熱間加工性が劣るために、一般に鋳造法や粉末冶金法により製造されているが、γ’相が相対的に少ない合金からなる部材は、鍛造、圧延等の熱間加工によっても製造されている。
熱間加工によって製造されたNi基耐熱合金は、多結晶体となる。一般に、多結晶体の機械的特性は、結晶粒の粒径に依存し、結晶粒が微細かつ均一であるほど、高い機械的特性を示す。Ni基耐熱合金は、オーステナイト単相であり、相変態を利用した結晶粒の微細化手法を用いることができないので、オーステナイト粒を微細化するためには、熱間加工中又はその後の加熱時に再結晶を生じさせることが必須となる。
熱間加工によって製造されたNi基耐熱合金は、多結晶体となる。一般に、多結晶体の機械的特性は、結晶粒の粒径に依存し、結晶粒が微細かつ均一であるほど、高い機械的特性を示す。Ni基耐熱合金は、オーステナイト単相であり、相変態を利用した結晶粒の微細化手法を用いることができないので、オーステナイト粒を微細化するためには、熱間加工中又はその後の加熱時に再結晶を生じさせることが必須となる。
しかしながら、塑性加工により材料内に均一に歪みを導入することは、一般に困難であり、材料内には不変形帯(デッドメタル)が生ずることが多い。そのため、熱間加工により材料内に歪みを導入しても、再結晶のための駆動力が場所によって異なり、材料全体に均一に再結晶が生じない場合がある。
また、Ni基耐熱合金は、一般に、多量の金属間化合物が存在する温度(920〜1000℃)で熱間加工が行われている。これは、金属間化合物によって結晶粒界の移動を抑制し、結晶粒を微細化するためである。しかしながら、金属間化合物の量が少なすぎる場合には結晶粒が粗大化し、逆に金属間化合物の量が多すぎる場合には再結晶が阻害される。そのため、温度や冷却速度などの操業条件の僅かな差異によって、未再結晶領域の面積率が変動し、材質が安定しないという問題がある。
また、Ni基耐熱合金は、一般に、多量の金属間化合物が存在する温度(920〜1000℃)で熱間加工が行われている。これは、金属間化合物によって結晶粒界の移動を抑制し、結晶粒を微細化するためである。しかしながら、金属間化合物の量が少なすぎる場合には結晶粒が粗大化し、逆に金属間化合物の量が多すぎる場合には再結晶が阻害される。そのため、温度や冷却速度などの操業条件の僅かな差異によって、未再結晶領域の面積率が変動し、材質が安定しないという問題がある。
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、ニッケル基耐熱合金からなる加工用素材の断面形状が4角形となるように鍛造した後、断面形状が6角形→8角形→6角形→4角形となるように、中間加工材のコーナーを順次打撃するニッケル基耐熱合金の加工方法が開示されている。
同文献には、このような方法によって、
(1) 中間加工材の横断面の減少を従来よりも小さく抑えつつ、中心部により大きな歪みを付与することができる点、及び、
(2) 従来の方法ではデッドメタルとなっていた領域にも効果的に歪みを付与することができる点、
が記載されている。
例えば、特許文献1には、ニッケル基耐熱合金からなる加工用素材の断面形状が4角形となるように鍛造した後、断面形状が6角形→8角形→6角形→4角形となるように、中間加工材のコーナーを順次打撃するニッケル基耐熱合金の加工方法が開示されている。
同文献には、このような方法によって、
(1) 中間加工材の横断面の減少を従来よりも小さく抑えつつ、中心部により大きな歪みを付与することができる点、及び、
(2) 従来の方法ではデッドメタルとなっていた領域にも効果的に歪みを付与することができる点、
が記載されている。
また、特許文献2には、Ni基耐熱合金素材を1010〜1080℃の温度で加工し、加工終了後に所定の関係式を満たす臨界冷却速度以上で950℃以下まで冷却し、さらに950〜1010未満℃の温度に0.5〜3時間保持するNi基耐熱合金部材の製造方法が開示されている。
同文献には、
(1) 加工後に、加工履歴(初期粒径、加工強度及びひずみ速度)によって決まる臨界冷却速度以上の冷却速度で950℃まで冷却することによって、再結晶粒の成長及び未再結晶領域の回復を抑制することができる点、
(2) 950〜1010未満℃の温度で0.5〜3時間保持することによって、高い転位密度の未再結晶領域から再結晶による細粒が得られ、しかも、熱処理温度が相対的に低いために再結晶粒の成長を抑制することができる点、並びに、
(3) このような方法によって、平均結晶粒径が50μm以下の組織を有するNi基耐熱合金部材を製造することができる点、
が記載されている。
同文献には、
(1) 加工後に、加工履歴(初期粒径、加工強度及びひずみ速度)によって決まる臨界冷却速度以上の冷却速度で950℃まで冷却することによって、再結晶粒の成長及び未再結晶領域の回復を抑制することができる点、
(2) 950〜1010未満℃の温度で0.5〜3時間保持することによって、高い転位密度の未再結晶領域から再結晶による細粒が得られ、しかも、熱処理温度が相対的に低いために再結晶粒の成長を抑制することができる点、並びに、
(3) このような方法によって、平均結晶粒径が50μm以下の組織を有するNi基耐熱合金部材を製造することができる点、
が記載されている。
また、特許文献3には、析出硬化型Fe−Ni基耐熱合金を熱間鍛造後、降温途中に920〜1020℃で溶体化処理を行い、その後の降温に800〜860℃で安定化処理を行う析出硬化型Fe−Ni基耐熱合金の製造方法が開示されている。
同文献には、熱間鍛造後の降温又は昇温中に二次析出相が多く形成される温度域を避けて溶体化処理、安定化処理を行うので、二次析出相の析出が極めて少なくなり、溶体化処理における静的再結晶により十分な結晶粒の微細化が可能になる点が記載されている。
同文献には、熱間鍛造後の降温又は昇温中に二次析出相が多く形成される温度域を避けて溶体化処理、安定化処理を行うので、二次析出相の析出が極めて少なくなり、溶体化処理における静的再結晶により十分な結晶粒の微細化が可能になる点が記載されている。
さらに、特許文献4には、結晶粒度ASTMNo.6以上の素材を用いて、かつ仕上げ鍛造中の被鍛造物の温度が加工による昇温により金属間化合物の固溶温度を超えることなく仕上げ鍛造を行う微細結晶粒超耐熱合金部材の製造方法が開示されている。
同文献には、
(1) 被鍛造物の温度が金属間化合物の固溶温度を超えないように、ひずみ速度に応じて鍛造比を調整すると、金属間化合物により結晶粒の粗大化を抑制できる点、及び、
(2) 仕上げ鍛造前の素材の結晶粒をASTMNo.6以上に微細化しておくことによって、ASTMNo.7以上の微細結晶粒が得られる点、
が記載されている。
同文献には、
(1) 被鍛造物の温度が金属間化合物の固溶温度を超えないように、ひずみ速度に応じて鍛造比を調整すると、金属間化合物により結晶粒の粗大化を抑制できる点、及び、
(2) 仕上げ鍛造前の素材の結晶粒をASTMNo.6以上に微細化しておくことによって、ASTMNo.7以上の微細結晶粒が得られる点、
が記載されている。
Ni基耐熱合金のオーステナイト粒径の微細化を狙った従来の鍛造技術の多くは、整粒化を目的とした素材への均質かつ効率的なひずみの導入によるものと、オーステナイト粒の粒成長抑制を目的とした鍛造温度、冷却速度、熱処理温度の制御によるものがほとんどである。一方、Ni基耐熱合金を均一に再結晶させるためには、各結晶粒に対し、再結晶の駆動力(すなわち、必要最低限のひずみ、温度及び保持時間)を付与する必要がある。
しかしながら、従来の方法は、加工時のトータルのひずみ付与量と温度のみを規定しているため、条件によっては再結晶が生じない場合がある。例えば、トータルひずみ付与量が同一の場合においても、1打撃当たりのひずみ付与量が小さい場合には、再結晶が生じず、次打撃に至までの間に、回復によるひずみの開放が生じる。その結果、再結晶が生じず、微細化されない場合がある。
しかしながら、従来の方法は、加工時のトータルのひずみ付与量と温度のみを規定しているため、条件によっては再結晶が生じない場合がある。例えば、トータルひずみ付与量が同一の場合においても、1打撃当たりのひずみ付与量が小さい場合には、再結晶が生じず、次打撃に至までの間に、回復によるひずみの開放が生じる。その結果、再結晶が生じず、微細化されない場合がある。
本発明が解決しようとする課題は、同一ひずみ付与時においても、従来技術と比較してより整細粒な組織を得ることが可能なNi基耐熱合金の製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明に係るNi基耐熱合金の製造方法は、
Ni基耐熱合金を940℃以上1000℃以下の温度に加熱する加熱工程と、
前記Ni基耐熱合金の温度が再結晶開始温度未満に低下するまでの間に、1打撃当たりの圧下率(以下、単に「圧下率」という)が7%以上となる加工を同一箇所で2回以上行う加工工程と
を備えていることを要旨とする。
但し、圧下率=(l0−l)/l0
l0は加工前の材料の高さ、lは加工後の材料の高さ。
Ni基耐熱合金を940℃以上1000℃以下の温度に加熱する加熱工程と、
前記Ni基耐熱合金の温度が再結晶開始温度未満に低下するまでの間に、1打撃当たりの圧下率(以下、単に「圧下率」という)が7%以上となる加工を同一箇所で2回以上行う加工工程と
を備えていることを要旨とする。
但し、圧下率=(l0−l)/l0
l0は加工前の材料の高さ、lは加工後の材料の高さ。
所定の温度に加熱されたNi基耐熱合金に対して圧下率が7%以上である1回目の加工を行うと、加工後の加熱によって1回目の静的再結晶が起こり、1回目の加工前に比べて結晶粒が微細化される。次いで、Ni基耐熱合金が再結晶開始温度以上の温度にある間に、同一箇所に対して、圧下率が7%以上である2回目の加工を行うと、加工後の加熱によって2回目の静的再結晶が起こる。静的再結晶完了時の粒径は、初期粒径が微細なほど小さくなるので、2回目の加工後の再結晶の粒径は、1回目の加工後の粒径よりもさらに小さくなる。以下、同様にして、Ni基耐熱合金が再結晶開始温度以上にある間に複数回の加工を行うと、加工回数が多くなるほど、粒径を均一かつ微細にすることができる。
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係るNi基耐熱合金の製造方法は、加熱工程と、加工工程とを備えている。
本発明に係るNi基耐熱合金の製造方法は、加熱工程と、加工工程とを備えている。
加熱工程は、Ni基耐熱合金を940℃以上1000℃以下の温度に加熱する工程である。
本発明において、Ni基耐熱合金の組成は、特に限定されるものではなく、あらゆるNi基耐熱合金に対して本発明を適用することができる。本発明が適用可能なNi基耐熱合金としては、具体的には、インコネル(INCONEL(登録商標))、ナイモニック(NIMONIC(登録商標))、ワスパロイなどがある。
Ni基耐熱合金の加熱温度は、再結晶粒の粒径に影響を与える。一般に、加熱温度が低すぎると、再結晶に時間がかかり、加工途中の限られた時間内に静的再結晶が十分に進行しない。従って、加熱温度は、940℃以上が好ましい。
一方、加熱温度が高くなるほど、短時間で静的再結晶は完了するが、加熱温度が高すぎると、再結晶粒の粒成長が起こる。これは、加熱温度が高すぎると、粒界をピンニングする作用がある金属間化合物(δ相)の微粒子がマトリックス中に固溶するためである。従って、加熱温度は、1000℃以下が好ましい。
本発明において、Ni基耐熱合金の組成は、特に限定されるものではなく、あらゆるNi基耐熱合金に対して本発明を適用することができる。本発明が適用可能なNi基耐熱合金としては、具体的には、インコネル(INCONEL(登録商標))、ナイモニック(NIMONIC(登録商標))、ワスパロイなどがある。
Ni基耐熱合金の加熱温度は、再結晶粒の粒径に影響を与える。一般に、加熱温度が低すぎると、再結晶に時間がかかり、加工途中の限られた時間内に静的再結晶が十分に進行しない。従って、加熱温度は、940℃以上が好ましい。
一方、加熱温度が高くなるほど、短時間で静的再結晶は完了するが、加熱温度が高すぎると、再結晶粒の粒成長が起こる。これは、加熱温度が高すぎると、粒界をピンニングする作用がある金属間化合物(δ相)の微粒子がマトリックス中に固溶するためである。従って、加熱温度は、1000℃以下が好ましい。
加工工程は、Ni基耐熱合金の温度が再結晶開始温度未満に低下するまでの間に、圧下率が7%以上となる加工を同一箇所で2回以上行う工程である。
「再結晶開始温度」とは、材料の変形後、材料が高温にある間に、新たな結晶粒が形成される最低温度をいう。加工は、材料の加熱温度から再結晶開始温度までの温度区間で行う。材料の温度が再結晶開始温度未満になると、再結晶が生じないために、整細粒組織が得られない。
再結晶開始温度は、一般に、材料組成や材料に加えられる最大ひずみに依存する。Ni基耐熱合金の場合、最大ひずみにもよるが、再結晶開始温度は、880℃前後である。短時間で再結晶を完了させるためには、加工は、再結晶開始温度より高い温度で完了させるのが好ましい。
「再結晶開始温度」とは、材料の変形後、材料が高温にある間に、新たな結晶粒が形成される最低温度をいう。加工は、材料の加熱温度から再結晶開始温度までの温度区間で行う。材料の温度が再結晶開始温度未満になると、再結晶が生じないために、整細粒組織が得られない。
再結晶開始温度は、一般に、材料組成や材料に加えられる最大ひずみに依存する。Ni基耐熱合金の場合、最大ひずみにもよるが、再結晶開始温度は、880℃前後である。短時間で再結晶を完了させるためには、加工は、再結晶開始温度より高い温度で完了させるのが好ましい。
本発明において、Ni基耐熱合金の加工方法は、特に限定されるものではなく、種々の熱間加工法を用いることができる。加工方法としては、具体的には、鍛造、圧延などがある。
「圧下率」とは、次の(1)式で与えられる値をいう。
圧下率=(l0−l)/l0 ・・・(1)
但し、l0は加工前の材料の高さ、lは加工後の材料の高さ。
圧下率は、加工後の材料の組織に影響を与える。一般に、圧下率が低すぎると、加工中に再結晶がほとんど生じない。従って、圧下率は、7%以上が好ましい。
圧下率が高くなるほど、材料に導入されるひずみ量が多くなるので、再結晶粒を微細化することができる。但し、圧下率を必要以上に大きくしても、微細化効果が飽和するので、実益がない。また、加工装置の能力にも限界がある。従って、圧下率は、50%以下が好ましい。
圧下率=(l0−l)/l0 ・・・(1)
但し、l0は加工前の材料の高さ、lは加工後の材料の高さ。
圧下率は、加工後の材料の組織に影響を与える。一般に、圧下率が低すぎると、加工中に再結晶がほとんど生じない。従って、圧下率は、7%以上が好ましい。
圧下率が高くなるほど、材料に導入されるひずみ量が多くなるので、再結晶粒を微細化することができる。但し、圧下率を必要以上に大きくしても、微細化効果が飽和するので、実益がない。また、加工装置の能力にも限界がある。従って、圧下率は、50%以下が好ましい。
加工は、圧下率が7%以上となる条件下で、同一箇所で2回以上行う必要がある。ここで、「同一箇所で2回以上加工を行う」とは、1回目の加工が終了し、加工箇所で再結晶を生じさせた後、再度、その箇所を加工することで再び再結晶を生じさせることをいう。
例えば、加工方法として鍛伸を用いる場合、まず、加熱された材料を長手方向にステップ送りしながら、平型を用いて軸に対して垂直な一方向(0°方向)から圧縮する(1パス目)。長手方向に沿って1パス目の鍛伸が終了した後、鍛造品を軸の回りに90°回転させ、同様に鍛造品を長手方向にステップ送りしながら、平型を用いて1パス目の方向とは90°異なる方向(90°方向)から圧縮する(2パス目)。以下、0°方向からの鍛伸及び90°方向からの鍛伸を必要に応じて複数パス繰り返し、ほぼ正方形の断面形状を維持しながら断面積を減少させる。この場合、材料の温度が再結晶開始温度未満になるまでの間に、圧下率が7%以上となるように、複数パスの鍛伸を行うと、同一箇所で2回以上の加工を行ったことになる。
また、例えば、加工方法として圧延を用いる場合、材料の温度が再結晶開始温度未満になるまでの間に、圧下率が7%以上となるように、複数パスの圧延を行うと、同一箇所で2回以上の加工を行ったことになる。
例えば、加工方法として鍛伸を用いる場合、まず、加熱された材料を長手方向にステップ送りしながら、平型を用いて軸に対して垂直な一方向(0°方向)から圧縮する(1パス目)。長手方向に沿って1パス目の鍛伸が終了した後、鍛造品を軸の回りに90°回転させ、同様に鍛造品を長手方向にステップ送りしながら、平型を用いて1パス目の方向とは90°異なる方向(90°方向)から圧縮する(2パス目)。以下、0°方向からの鍛伸及び90°方向からの鍛伸を必要に応じて複数パス繰り返し、ほぼ正方形の断面形状を維持しながら断面積を減少させる。この場合、材料の温度が再結晶開始温度未満になるまでの間に、圧下率が7%以上となるように、複数パスの鍛伸を行うと、同一箇所で2回以上の加工を行ったことになる。
また、例えば、加工方法として圧延を用いる場合、材料の温度が再結晶開始温度未満になるまでの間に、圧下率が7%以上となるように、複数パスの圧延を行うと、同一箇所で2回以上の加工を行ったことになる。
加工回数2回は、整細粒化のために必要最小限の回数である。一般に、加工回数が多くなるほど、再結晶粒の粒径を小さくすることができる。但し、加工回数を必要以上に多くしても、微細化効果が飽和するので、実益がない。従って、加工回数は、5回以下が好ましい。
次に、本発明に係るNi基耐熱合金の製造方法の作用について説明する。
静的再結晶完了時の粒径は、次の(2)式により与えられる。
d=C×d0 n/ε ・・・(2)
但し、dは再結晶完了時の粒径、d0は初期粒径、εはひずみ、Cは材料定数である。
また、圧下率とひずみの関係は、次の(3)式により与えられる。
圧下率=100×(1−1/eε) ・・・(3)
但し、eはネイピア数である。また、ひずみε=ln(l0/l)、l0は加工前の材料の高さ、lは加工後の材料の高さである。
従って、図1の左図に示すように、1回の打撃で十分なひずみを与えた場合であっても、初期粒径d0が大きいときには、十分な微細化効果が得られない。一方、1打撃当たりのひずみεが小さすぎる場合には、次打撃に至までの間に回復によるひずみの開放が生じ、再結晶が生じず、結晶粒が微細化しない場合がある。
静的再結晶完了時の粒径は、次の(2)式により与えられる。
d=C×d0 n/ε ・・・(2)
但し、dは再結晶完了時の粒径、d0は初期粒径、εはひずみ、Cは材料定数である。
また、圧下率とひずみの関係は、次の(3)式により与えられる。
圧下率=100×(1−1/eε) ・・・(3)
但し、eはネイピア数である。また、ひずみε=ln(l0/l)、l0は加工前の材料の高さ、lは加工後の材料の高さである。
従って、図1の左図に示すように、1回の打撃で十分なひずみを与えた場合であっても、初期粒径d0が大きいときには、十分な微細化効果が得られない。一方、1打撃当たりのひずみεが小さすぎる場合には、次打撃に至までの間に回復によるひずみの開放が生じ、再結晶が生じず、結晶粒が微細化しない場合がある。
これに対し、所定の温度に加熱されたNi基耐熱合金に対して圧下率が7%以上である1回目の加工を行うと、図1の右図に示すように、加工後の加熱によって1回目の静的再結晶が起こり、1回目の加工前に比べて結晶粒が微細化される。次いで、Ni基耐熱合金が再結晶開始温度以上の温度にある間に、同一箇所に対して、圧下率が7%以上である2回目の加工を行うと、加工後の加熱によって2回目の静的再結晶が起こる。再結晶粒の粒径は、初期粒径に依存するので、2回目の加工後の再結晶の粒径は、1回目の加工後の粒径よりもさらに小さくなる。以下、同様にして、Ni基耐熱合金が再結晶開始温度以上にある間に複数回の加工を行うと、加工回数が多くなるほど、粒径を均一かつ微細にすることができる。また、トータルの加工量がほぼ同一であっても、1ヒート中に圧下率が7%以上となる条件下で複数回の加工を行うと、1回の加工で大きなひずみを与えた場合に比べて、粒径を均一かつ微細にすることができる。
(実施例1)
[1. 試験片の鍛造]
インコネル(登録商標)718からなるφ15×22.5mmの試験片を用いて、端面拘束試験を行った。図2の上図に、試験条件を示す。
まず、複数個の試験片を用意し、所定の鍛造温度で30秒間保持した。鍛造温度は、920℃、980℃及び1050℃の3水準とした。保持終了後、試験片の1つを水焼入れした(鍛造前試験片)。次に、残った試験片を圧下率15%、加工速度31.2mm/secの条件下で1回目の鍛造を行い、鍛造温度で60秒間保持した。保持終了後、試験片の1つを水焼入れした(1打撃後の試験片)。さらに、残った試験片を圧下率15%、加工速度31.2mm/secの条件下で、2回目の鍛造を行い、鍛造温度で60秒間保持した。保持終了後、試験片の1つを水焼入れした(2打撃後の試験片)。以下、同様にして、3打撃後の試験片及び4打撃後の試験片を作製した。
図2の中央に、鍛造前試験片及び1〜4打撃後の試験片の外観写真を示す。また、図2の下図に、鍛造前試験片及び1〜4打撃後の試験片の内部に発生するひずみの数値解析結果を示す。
[1. 試験片の鍛造]
インコネル(登録商標)718からなるφ15×22.5mmの試験片を用いて、端面拘束試験を行った。図2の上図に、試験条件を示す。
まず、複数個の試験片を用意し、所定の鍛造温度で30秒間保持した。鍛造温度は、920℃、980℃及び1050℃の3水準とした。保持終了後、試験片の1つを水焼入れした(鍛造前試験片)。次に、残った試験片を圧下率15%、加工速度31.2mm/secの条件下で1回目の鍛造を行い、鍛造温度で60秒間保持した。保持終了後、試験片の1つを水焼入れした(1打撃後の試験片)。さらに、残った試験片を圧下率15%、加工速度31.2mm/secの条件下で、2回目の鍛造を行い、鍛造温度で60秒間保持した。保持終了後、試験片の1つを水焼入れした(2打撃後の試験片)。以下、同様にして、3打撃後の試験片及び4打撃後の試験片を作製した。
図2の中央に、鍛造前試験片及び1〜4打撃後の試験片の外観写真を示す。また、図2の下図に、鍛造前試験片及び1〜4打撃後の試験片の内部に発生するひずみの数値解析結果を示す。
[2. 試験方法]
各試験片を縦に切断し、試験片中央(図2の下図参照)の顕微鏡写真を撮影した。得られた写真を用いて、各試験片の平均オーステナイト(γ)粒径を算出した。
各試験片を縦に切断し、試験片中央(図2の下図参照)の顕微鏡写真を撮影した。得られた写真を用いて、各試験片の平均オーステナイト(γ)粒径を算出した。
[3. 結果]
図3に、各試験片中央の組織写真を示す。また、図4に、組織写真から算出した平均オーステナイト粒径を示す。鍛造温度920℃の場合、温度が低いために再結晶がほとんど進行せず、4打撃後であっても整細粒とはならず、平均粒径は、約44.9μmであった。一方、鍛造温度1050℃の場合、1打撃ごとに完全再結晶するため、打撃回数を増やしても、平均粒径は、約39μmで一定となり、繰り返し再結晶による微細化効果はほとんどない。これは、鍛造温度が高すぎるために、再結晶後に粒成長が生じたためと考えられる。
これに対し、鍛造温度980℃の場合、粒径は比較的均一であり、打撃回数が多くなるほど結晶粒は小さくなった。4打撃後の平均粒径は、約12.5μmとなった。
図3に、各試験片中央の組織写真を示す。また、図4に、組織写真から算出した平均オーステナイト粒径を示す。鍛造温度920℃の場合、温度が低いために再結晶がほとんど進行せず、4打撃後であっても整細粒とはならず、平均粒径は、約44.9μmであった。一方、鍛造温度1050℃の場合、1打撃ごとに完全再結晶するため、打撃回数を増やしても、平均粒径は、約39μmで一定となり、繰り返し再結晶による微細化効果はほとんどない。これは、鍛造温度が高すぎるために、再結晶後に粒成長が生じたためと考えられる。
これに対し、鍛造温度980℃の場合、粒径は比較的均一であり、打撃回数が多くなるほど結晶粒は小さくなった。4打撃後の平均粒径は、約12.5μmとなった。
(実施例2、比較例1)
[1. 試験片の鍛造]
インコネル(登録商標)718からなるφ15×22.5mmの試験片を用いて、端面拘束試験を行った。試験条件は、鍛造前試験片の初期粒径d0=180μm、鍛造温度T0=980℃、加工速度=31.1mm/sec、打撃回数=5回、トータル圧下率=32.3%(1打撃当たりの圧下率=7.5%に相当)とした以外は、実施例1と同一とした(実施例2)。
また、比較として、1打撃で実施例2とほぼ同等のトータルのひずみ量を与えた試験片も作製した。試験条件は、鍛造前試験片の初期粒径d0=169μm、鍛造温度T0=980℃、加工速度=31.2mm/sec、打撃回数=1回、トータル圧下率=33.0%とした以外は、実施例1と同一とした(比較例1)。
[1. 試験片の鍛造]
インコネル(登録商標)718からなるφ15×22.5mmの試験片を用いて、端面拘束試験を行った。試験条件は、鍛造前試験片の初期粒径d0=180μm、鍛造温度T0=980℃、加工速度=31.1mm/sec、打撃回数=5回、トータル圧下率=32.3%(1打撃当たりの圧下率=7.5%に相当)とした以外は、実施例1と同一とした(実施例2)。
また、比較として、1打撃で実施例2とほぼ同等のトータルのひずみ量を与えた試験片も作製した。試験条件は、鍛造前試験片の初期粒径d0=169μm、鍛造温度T0=980℃、加工速度=31.2mm/sec、打撃回数=1回、トータル圧下率=33.0%とした以外は、実施例1と同一とした(比較例1)。
[2. 試験方法]
各試験片を縦に切断し、試験片中央の顕微鏡写真を撮影した。得られた写真を用いて、各試験片の平均オーステナイト(γ)粒径を算出した。
各試験片を縦に切断し、試験片中央の顕微鏡写真を撮影した。得られた写真を用いて、各試験片の平均オーステナイト(γ)粒径を算出した。
[3. 結果]
図5の左図に、経過時間と平均粒径との関係を示す。なお、「経過時間」とは、1打撃目の加工終了時からの保持時間をいう。また、図5には、(2)式及び(3)式に基づいて算出した平均粒径の計算値も併せて示した。また、図5の右上図及び右下図に、それぞれ、比較例1及び実施例2で得られた試験片の組織写真を示す。図5より、トータルのひずみ量がほぼ同一である場合、1打撃で鍛造するよりも、圧下率が7%以上となる条件下で5打撃で鍛造する方が、平均粒径が小さくなることがわかる。
図5の左図に、経過時間と平均粒径との関係を示す。なお、「経過時間」とは、1打撃目の加工終了時からの保持時間をいう。また、図5には、(2)式及び(3)式に基づいて算出した平均粒径の計算値も併せて示した。また、図5の右上図及び右下図に、それぞれ、比較例1及び実施例2で得られた試験片の組織写真を示す。図5より、トータルのひずみ量がほぼ同一である場合、1打撃で鍛造するよりも、圧下率が7%以上となる条件下で5打撃で鍛造する方が、平均粒径が小さくなることがわかる。
(実施例3、4、比較例2、3)
[1. 試験片の製造]
インコネル(登録商標)718からなるφ15×22.5mmの試験片を用いて、均一圧縮試験を行った。均一圧縮試験は、試験片を鍛造温度に30秒間保持した後、トータル圧下率が等しくなるように、1〜3回の加工回数で圧縮することにより行った。加工を複数回に分けて行う場合、1打撃当たりの圧下率はトータル圧下率を加工回数で割った値とし、次打撃を開始するまでに鍛造温度で60秒間保持した。
詳細な試験条件は、以下の通りである。
(1) 鍛造温度: 920℃(比較例2)、940℃(実施例3)、1000℃(実施例4)、又は、1050℃(比較例3)
(2) トータル圧下率: 30%、60%、又は、90%
(3) 加工回数: 1回、2回、又は、3回
(4) 加工速度: 31.2mm/sec
(5) 初期粒径: 180μm
[1. 試験片の製造]
インコネル(登録商標)718からなるφ15×22.5mmの試験片を用いて、均一圧縮試験を行った。均一圧縮試験は、試験片を鍛造温度に30秒間保持した後、トータル圧下率が等しくなるように、1〜3回の加工回数で圧縮することにより行った。加工を複数回に分けて行う場合、1打撃当たりの圧下率はトータル圧下率を加工回数で割った値とし、次打撃を開始するまでに鍛造温度で60秒間保持した。
詳細な試験条件は、以下の通りである。
(1) 鍛造温度: 920℃(比較例2)、940℃(実施例3)、1000℃(実施例4)、又は、1050℃(比較例3)
(2) トータル圧下率: 30%、60%、又は、90%
(3) 加工回数: 1回、2回、又は、3回
(4) 加工速度: 31.2mm/sec
(5) 初期粒径: 180μm
[2. 試験方法]
各試験片を縦に切断し、試験片中央の顕微鏡写真を撮影した。得られた写真を用いて、各試験片の平均オーステナイト(γ)粒径を算出した。
各試験片を縦に切断し、試験片中央の顕微鏡写真を撮影した。得られた写真を用いて、各試験片の平均オーステナイト(γ)粒径を算出した。
[3. 結果]
図6に、各鍛造温度におけるトータル圧下率と平均粒径との関係を示す。鍛造温度920℃の場合、再結晶が進行しにくいために加工回数の影響はほとんどない。また、鍛造温度が1050℃の場合、打撃ごとに再結晶が完了するため、加工回数の影響はほとんどない。これに対し、鍛造温度940〜1000℃の場合、トータル圧下率が同一であっても、2回以上に分けて加工すると、1回で加工する場合に比べて結晶粒は微細化した。
図6に、各鍛造温度におけるトータル圧下率と平均粒径との関係を示す。鍛造温度920℃の場合、再結晶が進行しにくいために加工回数の影響はほとんどない。また、鍛造温度が1050℃の場合、打撃ごとに再結晶が完了するため、加工回数の影響はほとんどない。これに対し、鍛造温度940〜1000℃の場合、トータル圧下率が同一であっても、2回以上に分けて加工すると、1回で加工する場合に比べて結晶粒は微細化した。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
本発明に係るNi基耐熱合金の製造方法は、Ni基耐熱合金からなるタービンディスク、船用エンジンバルブなどの製造方法として使用することができる。
Claims (1)
- Ni基耐熱合金を940℃以上1000℃以下の温度に加熱する加熱工程と、
前記Ni基耐熱合金の温度が再結晶開始温度未満に低下するまでの間に、1打撃当たりの圧下率が7%以上となる加工を同一箇所で2回以上行う加工工程と
を備えたNi基耐熱合金の製造方法。
但し、圧下率=(l0−l)/l0
l0は加工前の材料の高さ、lは加工後の材料の高さ。
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