JP2008164553A - 位相回復法を用いたx線集光方法及びその装置 - Google Patents

位相回復法を用いたx線集光方法及びその装置 Download PDF

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Abstract

【課題】 波動光学理論に基づく位相回復法を利用し、実際の評価で使用する硬X線を用いてミラーにより集光された集光ビームの強度分布を用いることで、ミラー上の位相誤差分布、即ち、形状誤差を求めるX線波面計測法を提案し、それを利用してX線集光光学系を最適に調節する位相回復法を用いたX線集光方法及びその装置を提案する。
【解決手段】 反射X線の波面を微調節可能な波面調節能を有するX線ミラーを備え、焦点近傍でのX線強度分布を測定し、X線ミラー近傍でのX線強度分布を測定し若しくは入射X線の既知のX線強度分布を用い、焦点近傍でのX線強度分布と反射面近傍でのX線強度分布から位相回復法を用いて反射面での複素振幅分布を算出し、この複素振幅分布からX線集光光学系の波面収差を算出し、この算出した波面収差を最小にするように波面調節能にてX線ミラーの反射面を制御する。
【選択図】図1

Description

本発明は、位相回復法を用いたX線集光方法及びその装置に係わり、更に詳しくはX線集光強度分布から位相回復法により集光ミラーの形状誤差分布を算出し、その形状誤差分布を用いてX線集光光学系を微調整して集光するX線集光方法及びその装置に関する。
SPring−8に代表される第三世代放射光施設において軟X線から硬X線までの様々な波長領域において、高輝度、低エミッタンス、高コヒーレンスという特徴を持つX線を利用することができるようになった。このことは蛍光X線分析や光電子分光、X線回折等の様々な分析の感度や空間分解能を飛躍的に向上させた。このような放射光を利用したX線解析やX線顕微法は高感度、高分解能であるだけでなく非破壊で観察が可能であるため、現在、医学、生物、材料学等の分野で利用されつつある。
放射光施設において、X線を用いた様々な分析技術に高い空間分解能を付加するためには、集光されたX線ナノビームが必要となる。X線ナノビーム形成には、反射型ミラーを用いる方法が、輝度が高く、色収差がないという理由から最も優れた集光光学素子として認識されている。ここで、反射型ミラーを用いた集光光学系としては、K−B(Kirkpatrick and Baez)ミラーが一般的に使用されている(特許文献1参照)。
ここで、良好な集光を行うには、高精度な集光ミラーを作成することが必要である。集光ミラーは、シリコン単結晶のブロックを、従来手法を用いて所定形状に加工した後、数値制御EEM(Elastic emission machining)を用いて超精密に仕上げ加工をすることにより作製する。このプロセスにより作製する集光ミラーの精度は、加工前の表面形状計測の精度に大きく依存する。本発明者らは、非特許文献1にてMSI(Microstitching Interferometry)を提案し、X線ミラーの形状を全空間波長領域でPV値:1nm以下の測定再現性をもって高精度に計測するシステムを既に確立している。更に、曲率の大きな曲面を計測できるシステムとして、RADSI(Relative Angle Determinable Stitching Interferometry)を完成している。その測定原理は、高い空間分解能が期待できるマイケルソン型顕微干渉計を用いたスティッチングによる形状計測を基本とし、スティッチング誤差を中長周期の空間波長領域における高精度計測が可能なフィゾー型干渉計のデータを用いて補正するものである。このスティッチングでは、隣り合う領域の形状計測データの中で共通に計測されている重なり領域の一致度を利用して、隣り合う計測データの傾きを最適に補正するのである。
前述のように、本発明者らは、ナノ精度の表面加工、計測システムを完成させ、2nm(PV値)の精度を持つX線集光ミラーを作製し、SPring−8の硬X線をSub−30nmレベルの回折限界集光に成功している。しかし、前述の干渉計を用いたスティッチングによる形状計測は、集光ミラーの表面形状を高精度に計測できるものの、データ収集に長時間かかるとともに、その後のデータ処理にも時間がかかる欠点を有している。また、干渉計を用いた形状測定装置を用いて、理想的な特定条件のもとで集光ミラーの形状を高精度に計測できたとしても、その集光ミラーをX線集光装置に組み込んだ状態での集光ミラーの反射面の形状を保証することにはならない。その理由は、通常は集光ミラーの形状を計測するときと、実際にX線集光装置で使用するときとでは、温度や外部応力等の環境条件が異なるからである。最も理想的な回折限界での集光を達成するためには、X線集光装置に組み込まれた状態での集光ミラーの反射面の形状を高精度に知る必要があるが、X線集光光学系では稼動状態でほぼリアルタイムに集光ミラーの形状を計測できるシステムはこれまでなかった。
一方、投影レンズ等の結像性能測定の1つの方法に位相回復法がある。位相回復法は、主に電子顕微鏡や大きな収差が存在する天体望遠鏡等の光学系における解像度向上に用いられてきた方法で、基本的にはフォーカス面と瞳面における像の強度分布から像の位相分布を求め、該位相分布から光学系の波面収差を算出するものである(特許文献2,3参照)。通常の位相回復法は、先ず、計測したフォーカス面での強度分布に、任意に位相を与えた後、フーリエ変換し、瞳面での複素振幅分布を求める。次に、得られた複素振幅分布のうち、位相部はそのままとし、強度部にあたる絶対値のみを実際の測定値に応じた値(瞳面での強度の平方根)に置き換えて、新たな複素振幅分布とする。この新たな複素振幅分布を逆フーリエ変換し、フォーカス面上での複素振幅分布を求め、再び、位相部のみそのままとし、強度をフォーカス面での実測値に置き換える。以上の計算を繰り返し行って収束させることで、フォーカス面及び瞳面での複素振幅分布が算出される。瞳面での複素振幅分布の位相分布からレンズの波面収差を算出することができる。
しかし、フォトリソグラフィのように瞳面での強度分布の測定が難しい場合には、フォーカス面とデフォーカス面での光強度分布から光学系の波面収差を算出するようにしている。特許文献2では、光軸に垂直でフォーカス面近傍の複数の平面における光強度分布をそれぞれ測定し、位相回復法によってフォーカス面付近若しくは瞳面付近の光学像複素振幅を求め、それから投影レンズの波面収差を求めるのである。また、特許文献3では、フォーカス面とデフォーカス面の光強度分布を測定する際の光強度分布測定装置の移動時間を問題とし、予め測定したフォーカス面とデフォーカス面の光強度分布から算出した瞳面の光強度分布を記憶しておき、実際の測定時にはフォーカス面近傍の光軸に垂直な平面における光強度分布を測定し、このフォーカス面近傍での光強度分布と記憶した瞳面の光強度分布から位相回復法を用いて瞳面での複素振幅分布を算出し、この複素振幅分布から投影光学系の波面収差を算出することで、計測におけるリアルタイム性を確保するのである。
特開平08−271697号公報 特許第3634550号公報 特許第3774588号公報 山内和人,山村和也,三村秀和,佐野泰久,久保田章亀,関戸康裕,上野一匡,Alexei Souvorov,玉作賢治,矢橋牧名,石川哲也,森勇藏:高精度X線ミラーのための干渉計を利用した形状計測システムの開発,精密工学会誌,69(2003)856.
加工プロセスの中で、ミラーの最終的な形状精度を決めているのは、採用する形状計測装置の絶対精度である。今後更に集光径の縮小と低エネルギーにおける硬X線集光を目指すためには、曲率の小さなミラーを2nm(PV値)を上回る精度で作製する必要があり、形状計測器の性能向上が不可欠である。形状計測器の評価として、再現性と絶対精度の評価があり、多くの形状計測器において、再現に関しては1nmを切るレベルまで到達しているが、絶対精度に関しては評価する手段がない。また、形状計測器で使用する参照光の波長と、実際にX線集光装置で対象とするX線の波長とは大きく異なるので、形状計測器で集光ミラーの形状を測定したとしても、X線集光光学系の特性を直接評価することにはならない。
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、X線集光装置に装着したX線ミラーの形状精度を評価する方法として、新しく「At−wavelength metrology」を提案し、つまり波動光学理論に基づく位相回復法を利用し、実際の評価で使用する硬X線を用いて、ミラーにより集光された集光ビームの強度分布を用いることで、ミラー上の位相誤差分布、即ち、形状誤差を求めるX線波面計測法を提案し、それを利用してX線集光光学系を最適に調節するX線集光方法を提案する。また、X線集光光学系に備えた形状可変型反射光ミラーの形状変更を行い、X線の集光径の縮小を図ることが可能な位相回復法を用いたX線集光装置を提供することにある。
本発明は、前述の課題解決のために、超精密な反射面を有する単又は複数枚のX線ミラーでX線を反射させて集光するX線集光方法において、前記X線ミラーのうちの一つが反射面で反射されたX線の波面を微調節可能な波面調節能を有し、焦点近傍での光軸に垂直な平面におけるX線強度分布を測定するとともに、X線ミラーの反射面近傍での光軸に垂直な平面におけるX線強度分布を測定し若しくは入射X線の既知のX線強度分布を用い、焦点近傍でのX線強度分布と反射面近傍でのX線強度分布から位相回復法を用いて反射面での複素振幅分布を算出し、この複素振幅分布からX線集光光学系の波面収差を算出し、この算出した波面収差を最小にするように前記波面調節能にてX線ミラーの反射面を制御することを特徴とする位相回復法を用いたX線集光方法を提供する(請求項1)。
ここで、前記X線ミラーの波面調節能が、該X線ミラーの反射面の形状を変更可能な形状可変機能によるものであること(請求項2)、又は前記X線ミラーの波面調節能が、該X線ミラーの反射面に形成する多層膜の成膜による、あるいは多層膜の上に形成する追加多層膜の成膜によるものであること(請求項3)、又は前記X線ミラーの波面調節能が、該X線ミラーの反射面の追加加工による形状変更によるものであること(請求項4)が好ましい。また、これらを組み合わせて適用することも可能である。
そして、前記波面調節能を有するX線ミラーが、K−Bミラー系を構成する楕円集光ミラーであることが好ましい(請求項5)。あるいは、前記波面調節能を有するX線ミラーが、K−Bミラー系を構成する楕円集光ミラーの前段に配置した平面ミラーであることも好ましい(請求項6)。
更に、前記波面調節能を有するX線ミラーが、K−Bミラー系を構成する楕円集光ミラーの前段に配置した平面ミラーであって、その波面調節能が反射面の形状を変更可能な形状可変機能によるものであり、該反射面の形状を干渉計で確認しながら形状を微変更してなることも好ましい(請求項7)。
また、本発明は、前述の課題解決のために、超精密な反射面を有する単又は複数枚のX線ミラーでX線を反射させて集光するX線集光装置において、各X線ミラーを固定し、その姿勢を微調節可能なホルダーを備えるとともに、焦点近傍で光軸に垂直な平面におけるX線強度分布を測定するためのX線強度分布測定手段を備え、前記X線ミラーのうちの一つが反射面の形状を変更可能な形状可変型X線ミラーであり、集光機能を有するX線ミラーの反射面近傍での光軸に垂直な平面における既知のX線強度分布と、前記X線強度分布測定手段で測定したX線強度分布から位相回復法を用いて反射面での複素振幅分布を算出し、この複素振幅分布からX線光学系の波面収差を算出する演算手段と、該演算手段の結果に基づき前記形状可変型X線ミラーの反射面の形状を変更するドライバー手段をフィードバック制御して、X線集光光学系の波面収差を最小にすることを特徴とする位相回復法を用いたX線集光装置を構成した(請求項8)。
ここで、前記形状可変型X線ミラーが、K−Bミラー系を構成する楕円集光ミラーであることが好ましい(請求項9)。
また、前記形状可変型X線ミラーが、K−Bミラー系を構成する楕円集光ミラーの前段に配置した平面ミラーであることも好ましい(請求項10)。更に、前記形状可変型X線ミラーが、K−Bミラー系を構成する楕円集光ミラーの前段に配置した平面ミラーであり、該反射面の形状を前記ホルダーに固定した状態で計測可能な干渉計を備えていることがより好ましい(請求項11)。
そして、前記形状可変型X線ミラーは、高度な形状安定性を有する基台の上に、変形駆動層を介して反射面が形成された弾性変形可能なミラー表面層を積層し、前記変形駆動層は、圧電素子層の一方の面に共通電極層を形成するとともに、他方の面に複数に分割した駆動電極層を形成したものであり、前記共通電極層と各駆動電極層間に前記ドライバー手段から制御された電圧を印加するものである(請求項12)。
また、X線強度分布測定手段が、ワイヤスキャン法によって計測するものであることが好ましい(請求項13)。
本発明の位相回復法を用いたX線集光方法及びその装置は、理想的な集光ビームの強度分布を求めることが可能であれば、位相回復法を用いてX線集光光学系の波面収差、即ちX線ミラーの形状誤差を完全に算出することができ、その結果を利用して波面収差を最小にするように波面調節能を備えたX線ミラーの反射面を制御し、回折限界での理想的な集光を達成することができるのである。ここで、実際に集光するX線集光光学系を用いて焦点近傍でのX線強度分布を測定して演算するだけで、実際に使用する環境でほぼリアルタイムに波面誤差を評価できる。つまり、X線ミラーの形状の絶対精度を評価することができるようになるとともに、それにより得られたX線ミラーの表面形状誤差のデータに基づき、X線ミラーの形状修正を行うこともできる。本発明の方法は、高NAの多層膜ミラーにも適応可能であり、多層膜のムラによって発生する波面誤差を計測でき、またそれを補正することが可能となる。
SPring−8で発生された硬X線を集光する場合、完全コヒーレントなX線ビーム特性を有しているので、その都度、X線ミラーの反射面近傍での光軸に垂直な平面におけるX線強度分布を測定する必要はなく、入射X線のX線強度分布を既知として扱うことができるので、焦点近傍でのX線強度分布を測定するだけで済み、また位相回復法のアルゴリズムは順計算と逆計算の繰り返しであるので、簡単に演算することができ、それにより短時間で波面収差を算出することができる。ここで、順計算には、フレネルキルヒホッフ回折積分計算又はFFTなどを用い、また逆計算には、変形されたフレネルキルヒホッフ回折積分計算又は逆FFTなどを用いることができる。
ここで、X線ミラーの波面調節能が、該X線ミラーの反射面の形状を変更可能な形状可変機能によるものであると、その場でX線ミラーの形状を変更して、ビームプロファイルを改善させることができる。また、X線ミラーの波面調節能が、該X線ミラーの反射面に形成する多層膜の成膜による、あるいは多層膜の上に形成する追加多層膜の成膜によるものであると、又はX線ミラーの反射面の追加加工による形状変更によるものであると、一旦、X線集光光学系からX線ミラーを外した後の作業になるが、波面収差のデータがX線ミラーを修正するための信頼性の高い加工データとなる。
また、波面調節能を有するX線ミラーが、K−Bミラー系を構成する楕円集光ミラーの前段に配置した平面ミラーであって、その波面調節能が反射面の形状を変更可能な形状可変機能によるものであると、平面ミラーの反射面に対面させて配置した干渉計によって該反射面の形状を確認しながら形状を微変更することができ、高精度な形状補正が可能となる。つまり、集光ミラーの形状誤差、あるいは多層膜ミラーであれば、その多層膜のムラによって発生する波面誤差を打ち消す入射X線を、形状可変の平面ミラーにより、発生させて、理想的なX線の集光状態を作り出すのである。この場合、平面ミラーであれば、干渉計などにより、形状を測定しながら、形状を変化させることが可能であるので、より確実な波面補正が可能である。
通常のレーザーの領域では、形状可変ミラーによる波面補正はよく使われている方法であるが、X線領域では初めての試みである。形状誤差に対して極めて敏感な集光強度分布から、X線ミラー上の波面誤差を求め、それを改善するように形状を変化させることで、最適な集光状態を実現するのである。また、X線集光光学系やX線ビームは、長時間の使用中に温度変化等の影響で微妙に特性が変化する場合もあり、そのような場合でも逐一、X線集光光学系の波面収差を計測することにより、集光状態を維持することができる。
次に本発明の位相回復法を用いたX線集光方法及びその装置を実施形態に基づき更に詳細に説明する。本発明は、X線の集光強度分布のみからミラー面上の位相誤差を位相回復法により算出可能であることを利用している。一般的には、オフライン計測及び加工によって、高精度なX線ミラーの作製が求められており、使用する形状計測器の性能がX線ミラーの性能を決定していた。シミュレーションの結果により、集光強度分布からミラー面上の位相誤差分布を求めることが可能であり、それを利用すると従来にない精度0.1nm(PV値)レベルでミラーの形状分布を算出可能であることがわかった。この位相回復法によるミラー表面の形状誤差の算出手法とナノレベルで形状可変なX線ミラーを組み合わせることで、側定された波面誤差を修正することが可能である。
先ず、位相回復法による計算アルゴリズムを説明する。図1は、入射X線Iが、集光ミラーMの反射面で反射されて焦点Fで集光する様子と、入射X線の波面が反射によって乱れる様子を示している。集光ミラーMの反射面上でのX線の複素振幅分布Ψと焦点Fでの複素振幅分布Ψは、次のように表される。
Ψ=I・exp(iφ
Ψ=I・exp(iφ
図2に示した計算アルゴリズムに基づいて、位相回復法によってφを求める計算プロセスを簡単に説明する。この計算アルゴリズムそのものは従来公知の手法である。
(ステップ1)
集光ミラーには、完全コヒーレントな硬X線が入射されると仮定すると、反射面上の強度Iは均一となる。形状誤差が反映する反射面上の位相情報φは、不明であるので、初期設定では、位相誤差を0と仮定する。
=I
φ=0
(ステップ2)
波動光学順計算を実施し、焦点位置での強度と位相を算出する。具体的には、フレネルキルヒホッフ回折積分計算又はフーリエ変換などにより焦点での複素振幅分布を算出する。
(ステップ3)
焦点位置において、計算された位相φはそのままで、強度Iのみ実際の測定値Iexpに置き換えた後、波動光学逆計算により、ミラー上の強度Iと位相φを求める。この計算には変形されたフレネルキルヒホッフ回折積分計算又は逆フーリエ変換などを用いる。
(ステップ4)
集光ミラー上において、計算された位相φはそのままで、強度のみ、初期状態(強度I)に変更し、再度焦点位置での強度Iと位相φを求める。
(ステップ5)
ステップ3,4を位相と強度の変化が一定になるまで繰り返す。
このように計算された集光ミラーの反射面上の位相φから理想的な反射面形状からの誤差(波面収差)を算出するのである。
図3に、開発したプログラムにより、計算した計算例を示す。架空の形状誤差を与え、計算されたビーム強度分布のみから、逆に、与えた形状誤差分布の回復を試みた。(a)は初期状態であり、位相誤差分布がない状態からスタートしている。(b)は反復回数が10回の時であり、位相誤差分布が少し回復され、それに伴い強度分布も回復されていることがわかる。そして、(c)は反復回数が1000回の時であり、形状誤差と強度プロファイルが完全に一致している。この結果から、本手法がX線ミラー上の形状誤差を求めるのに有効な手段であることがわかる。
次に、実際の集光ミラーにおける形状誤差の決定を行った。図4に光学配置を示す。用いたミラーはSub−200nmの楕円集光ミラーである。SPring−8の1km長尺ビームラインにおいて行った集光特性の実験結果を用いている。図5に楕円集光ミラーの形状を示す。光源と集光点を2焦点とする楕円関数から形状を求めている。
図6に理想的な集光強度分布と、ワイヤスキャン法によって計測された焦点での光軸に垂直な平面におけるX線強度分布を示す。集光径に関しては、理想的なプロファイルと一致しているが、左肩に形状誤差に起因するサテライトピークの変化があるのがわかる。
図7に、図6のX線強度分布のみから、位相回復法によって算出した形状誤差分布を点線で示す。また、併せて前述の本発明者らによって開発されたMSIにより測定した結果を実線で示す。この結果、長周期形状の形状誤差において、実測形状と位相回復法によって算出した形状と一致していることがわかる。また、短周期の誤差が算出されていないのは、計測されたX線強度分布の領域の大きさに原因がある。もし、広い領域において正確にX線強度分布の計測が可能であれば、高周波の形状誤差においても一致すると考えられる。
次に、本発明の具体的な実施形態を説明する。K−Bミラー系は、垂直方向集光ミラーと水平方向集光ミラーを互に直角に光軸方向に配置して構成する。それぞれの集光ミラーは、光源と集光点を焦点とする楕円面を反射面に形成している。以下の実施形態では、原理的に同じであるので、K−Bミラー系を構成する一方の集光ミラーのみを用いて図式的に説明する。
図8は、形状可変型X線ミラー1を用いて、光源Oから射出されたX線が、反射面2で反射されて焦点Fで集光する場合を示している。図8中の左側の状態は、反射面2の形状に誤差を有し、該反射面2で反射された後のX線の波面が乱れる様子を示し、それによって焦点Fでの集光強度分布は低いピークの両側に比較的大きなサテライトピークが存在していることを示している。また、図8中の右側の状態は、位相反復法によって算出された反射面2の形状誤差データに基づいて、前記形状可変型X線ミラー1の反射面2の形状を補正すれば、該反射面2で反射された後のX線の波面が修正される様子を示し、それによって焦点Fでの集光強度分布は高いピークのみが現れることを示している。
図9は、多層膜集光ミラー3を用いて、光源Oから射出されたX線が、多層膜面4で反射されて焦点Fで集光する場合を示している。図9中の左側の状態は、多層膜面4にムラを有し、該多層膜面4で反射された後のX線の波面が乱れる様子を示し、それによって焦点Fでの集光強度分布は低いピークの両側に比較的大きなサテライトピークが存在していることを示している。また、図9中の右側の状態は、位相反復法によって算出された波面収差データに基づいて、前記多層膜集光ミラー3に追加多層膜面5を成膜して補正すれば、多層膜面4と追加多層膜面5で反射された後のX線の波面が修正される様子を示し、それによって焦点Fでの集光強度分布は高いピークのみが現れることを示している。ここで、前記多層膜集光ミラー3の多層膜面4若しくは追加多層膜面5は、SiとMo等を交互に所定厚さで積層したものである。
図10は、楕円集光ミラー6の前段に配置した形状可変型平面ミラー7でX線集光光学系の波面収差を補正する方法を示している。この場合、前記楕円集光ミラー6は、形状可変のX線ミラーではない。図10中の左側の状態は、光源Oから射出され、形状可変型平面ミラー7で反射されたX線を楕円集光ミラー6で焦点Fに集光する様子を示し、この場合には楕円集光ミラー6の反射面の形状誤差によって該反射面で反射された後のX線の波面が乱れ、それによって焦点Fでの集光強度分布は低いピークの両側に比較的大きなサテライトピークが存在していることを示している。また、図10中の右側の状態は、位相反復法によって算出された波面収差データに基づいて、前記形状可変型平面ミラー7の反射面の形状を補正すれば、該反射面で反射された後のX線の波面を変更することにより、楕円集光ミラー6で反射された波面が修正される様子を示し、それによって焦点Fでの集光強度分布は高いピークのみが現れることを示している。
図11は、形状可変型X線ミラー10の具体的構造を示している。この形状可変型X線ミラー10は、高度な形状安定性を有する基台11の上に、変形駆動層12を介して反射面17が形成された弾性変形可能なミラー表面層13を積層し、前記変形駆動層12は、圧電素子層14の一方の面に共通電極層15を形成するとともに、他方の面に複数に分割した駆動電極層16,…を形成したものであり、前記共通電極層15と各駆動電極層16間に前記ドライバー手段18から制御された電圧を印加するものである。ここで、前記共通電極層15と各駆動電極層16間に電圧が印加されることにより、それに挟まれた圧電素子層14の特定領域が変形し、その変形がミラー表面層13の形状を変更するのである。
そして、X線強度分布側定手段19によって、焦点近傍で光軸に垂直な平面におけるX線強度分布を測定し、そして演算手段20によって、集光機能を有する形状可変型X線ミラー10の反射面17近傍での光軸に垂直な平面における既知のX線強度分布と、前記X線強度分布測定手段19で測定したX線強度分布から位相回復法を用いて反射面での複素振幅分布を算出するとともに、この複素振幅分布からX線光学系の波面収差を算出し、該演算手段20の結果に基づいて前記形状可変型X線ミラー10の反射面17の形状を変更するドライバー手段18をフィードバック制御して、X線集光光学系の波面収差を最小にするのである。ここで、前記X線強度分布測定手段19としては、ワイヤスキャン法によって計測装置を用いた。
放射光を用いた分析技術において、X線集光ビームが必須の分析技術は多い。本発明を用いることで、現在の最先端の加工・計測技術によって作製されたX線ミラーの性能を革新的に向上させることができる。また、X線のナノビームを形成することが可能であることから、X線ナノビームを用いたナノ蛍光X線分析やナノX線回折などが容易に実現可能となり、更にX線顕微鏡を構築することも可能となる。
位相回復法によるX線ミラーの形状算出方法を示す概念図である。 位相回復法の計算アルゴリズムを示すフローチャートである。 X線ミラーの形状と焦点でのX線強度分布を与え、X線強度分布から形状誤差を算出したシミュレーション結果を示し、(a)は予め定めたX線ミラーの形状と焦点でのX線強度分布、(b)は位相回復法による計算の反復回数が10回の場合の結果、(c)は位相回復法による計算の反復回数が1000回の場合の結果をそれぞれ示している。 X線ミラーで集光した強度分布から形状誤差を算出する実験の光学配置図である。 図4で用いたX線ミラーの形状を示すグラフであり、横軸は位置、縦軸は高さである。 図4に示した光学配置で集光した理想的な集光強度分布とワイヤスキャン法によって計測した強度分布を示すグラフである。 図6のX線強度分布のみから算出したX線ミラーの形状誤差分布を示すグラフである。 形状可変型X線ミラーを用いてX線を集光する実施形態を示す説明図である。 多層膜集光ミラーを用いてX線を集光する実施形態を示す説明図である。 楕円集光ミラーの前段に配置した形状可変型平面ミラーでX線集光光学系の波面収差を補正する実施形態を示す説明図である。 形状可変型X線ミラーの具体構造と、その制御系を示す簡略説明図である。
符号の説明
M 集光ミラー
O 光源
F 焦点
1 形状可変型X線ミラー
2 反射面
3 多層膜集光ミラー
4 多層膜面
5 追加多層膜面
6 楕円集光ミラー
7 形状可変型平面ミラー
10 形状可変型X線ミラー
11 基台
12 変形駆動層
13 ミラー表面層
14 圧電素子層
15 共通電極層
16 駆動電極層
17 反射面
18 ドライバー手段
19 X線強度分布測定手段
20 演算手段

Claims (13)

  1. 超精密な反射面を有する単又は複数枚のX線ミラーでX線を反射させて集光するX線集光方法において、前記X線ミラーのうちの一つが反射面で反射されたX線の波面を微調節可能な波面調節能を有し、焦点近傍での光軸に垂直な平面におけるX線強度分布を測定するとともに、X線ミラーの反射面近傍での光軸に垂直な平面におけるX線強度分布を測定し若しくは入射X線の既知のX線強度分布を用い、焦点近傍でのX線強度分布と反射面近傍でのX線強度分布から位相回復法を用いて反射面での複素振幅分布を算出し、この複素振幅分布からX線集光光学系の波面収差を算出し、この算出した波面収差を最小にするように前記波面調節能にてX線ミラーの反射面を制御することを特徴とする位相回復法を用いたX線集光方法。
  2. 前記X線ミラーの波面調節能が、該X線ミラーの反射面の形状を変更可能な形状可変機能によるものである請求項1記載の位相回復法を用いたX線集光方法。
  3. 前記X線ミラーの波面調節能が、該X線ミラーの反射面に形成する多層膜の成膜による、あるいは多層膜の上に形成する追加多層膜の成膜によるものである請求項1記載の位相回復法を用いたX線集光方法
  4. 前記X線ミラーの波面調節能が、該X線ミラーの反射面の追加加工による形状変更によるものである請求項1記載の位相回復法を用いたX線集光方法。
  5. 前記波面調節能を有するX線ミラーが、K−Bミラー系を構成する楕円集光ミラーである請求項2〜4何れかに記載の位相回復法を用いたX線集光方法。
  6. 前記波面調節能を有するX線ミラーが、K−Bミラー系を構成する楕円集光ミラーの前段に配置した平面ミラーである請求項2〜4何れかに記載の位相回復法を用いたX線集光方法。
  7. 前記波面調節能を有するX線ミラーが、K−Bミラー系を構成する楕円集光ミラーの前段に配置した平面ミラーであって、その波面調節能が反射面の形状を変更可能な形状可変機能によるものであり、該反射面の形状を干渉計で確認しながら形状を微変更してなる請求項1記載の位相回復法を用いたX線集光方法。
  8. 超精密な反射面を有する単又は複数枚のX線ミラーでX線を反射させて集光するX線集光装置において、各X線ミラーを固定し、その姿勢を微調節可能なホルダーを備えるとともに、焦点近傍で光軸に垂直な平面におけるX線強度分布を測定するためのX線強度分布測定手段を備え、前記X線ミラーのうちの一つが反射面の形状を変更可能な形状可変型X線ミラーであり、集光機能を有するX線ミラーの反射面近傍での光軸に垂直な平面における既知のX線強度分布と、前記X線強度分布測定手段で測定したX線強度分布から位相回復法を用いて反射面での複素振幅分布を算出し、この複素振幅分布からX線光学系の波面収差を算出する演算手段と、該演算手段の結果に基づき前記形状可変型X線ミラーの反射面の形状を変更するドライバー手段をフィードバック制御して、X線集光光学系の波面収差を最小にすることを特徴とする位相回復法を用いたX線集光装置。
  9. 前記形状可変型X線ミラーが、K−Bミラー系を構成する楕円集光ミラーである請求項8記載の位相回復法を用いたX線集光装置。
  10. 前記形状可変型X線ミラーが、K−Bミラー系を構成する楕円集光ミラーの前段に配置した平面ミラーである請求項8記載の位相回復法を用いたX線集光装置。
  11. 前記形状可変型X線ミラーが、K−Bミラー系を構成する楕円集光ミラーの前段に配置した平面ミラーであり、該反射面の形状を前記ホルダーに固定した状態で計測可能な干渉計を備えている請求項8記載の位相回復法を用いたX線集光装置。
  12. 前記形状可変型X線ミラーは、高度な形状安定性を有する基台の上に、変形駆動層を介して反射面が形成された弾性変形可能なミラー表面層を積層し、前記変形駆動層は、圧電素子層の一方の面に共通電極層を形成するとともに、他方の面に複数に分割した駆動電極層を形成したものであり、前記共通電極層と各駆動電極層間に前記ドライバー手段から制御された電圧を印加するものである請求項9〜11何れかに記載の位相回復法を用いたX線集光装置。
  13. X線強度分布測定手段が、ワイヤスキャン法によって計測するものである請求項8記載の位相回復法を用いたX線集光装置。
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