JP2008116432A - ラマン分光測定装置、及びこれを用いたラマン分光測定法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】レーザ光源30と、試料1にレーザ光を照射し、試料1からの散乱光を受光する分離光学素子33及び対物レンズを有した顕微光学系と、散乱光を分光する分光手段と、前記分光された散乱光の強度を検出する光検出手段36とを有するラマン分光測定装置において、前記散乱光が入射する前記分光手段の光路前面に固定された第一のレーザ光遮断光学素子37と、差し替え可能な第二のレーザ光遮断光学素子38とを備え、第一のレーザ光遮断光学素子37のレーザ光波長に対する透過率を10-4〜10-5の範囲とし、第二のレーザ光遮断光学素子38のレーザ光波長に対する透過率を10-6以下としたことを特徴とするラマン分光測定装置を提供する。
【選択図】図4
Description
これまでの一般的な物質の深さ方向分析を行う方法としては、従来から、X線マイクロアナリシス(EPMA:electron probe micro-analyzer)、X線光電子分光(XPS:x-ray photoelectron spectroscopy)、2次イオン質量分析(SIMS:secondary ion mass spectroscopy)、ラザフォード後方散乱(RBS:Rutherford backscattering spectrometry)、フーリエ変換赤外分光(FT−IR:Fourier transform Infrared spectroscopy)、ラマン分光等が用いられて来たが、電子写真感光体における厚さ5〜40μm膜の表面から深さ方向への分析となると、試料調整を必要としない状況下で応用出来る方法は限られ、共焦点レーザ蛍光法、共焦点レーザラマン分光等の測定法があるが、材料に対する適用範囲の広さから、特に走査型プローブ顕微鏡技術の一種である共焦点レーザラマン分光法及び装置が用いられてきた。
点からのラマン散乱光が重なってしまい、その結果、抽出された情報は焦点位置近傍と非焦点の情報を同時に含むような滲みが生じ、これが原因でラマン分光測定装置の空間分解能が低下していた。
このような問題を解決するために、共焦点顕微鏡光学系を用いた共焦点レーザラマン分光測定装置が開発され、深さ方向計測の有力な測定手法として注目されている。
共焦点顕微光学系では焦点部からのレイリー反射光、或いはラマン散乱光(レーザなどの単色光を物体に照射すると、その入射光と異なる波長の散乱光が観測される。ここで入射光と等しい波長の散乱光をレイリー散乱光(弾性散乱光)と呼び、一方、入射光と波長の異なる散乱光(非弾性散乱光)をラマン散乱光と呼ぶ。)を、対物レンズ焦点面と光学的に共役となる様に配置したレンズ及びピンホールに透過させることにより試料焦点部からの光のみを検出する為、深さ方向の空間分解能が得られる。この状態で試料位置を膜の深さ方向に移動することに依って深さ方向プロファイルが得られるようになる。
入射光に対して観測されるラマン散乱光は、物質に特有のものであり、この散乱光のスペクトルを調べると、その物質を特定することが出来る。また共焦点光学系は、膜の深さ方向のプロファイルをミクロン単位で測定することが可能である。この二つの機能を用いて、膜構造解析を行うことが近年行われている。
但し、一般の乾燥系の対物レンズでは膜中で屈折率差に伴う収差の影響によりビーム径が拡がり、表面に対して膜中で励起光エネルギー(空間分解能)が低下するという問題も存在していた。
一方、共焦点レーザラマン分光法は、高い空間分解能(Min:0.5〜1μm)であり、微小部の化学構造、結晶性、配向などに関する分析が可能である点が大きな特徴である。
具体的には妨害光となるレイリー散乱光を除去する分離光学素子やレーザ光遮断光学素子を備えた共焦点レーザラマン分光測定装置が提案されている。
その後、試料1上に集光された光束は、試料1からラマン散乱光を含んで反射され、第2の集光レンズ24を経て、集束しつつダイクロイックミラー23に戻る。ダイクロイックミラー23に戻った光は、ダイクロイックミラーの特性により、ラマン散乱光のみが検出手段である検出部26側に導かれる。
更に、この反射光はダイクロイックミラー23を通過して検出部26に導かれる前に一旦集光され、集光位置に第2のピンホール25が設置される。
第1のピンホールと第2のピンホールとは、ダイクロイックミラーに対して共役な位置(ダイクロイックミラーを対称軸とする位置同士)となっている。
この際、ダイクロイックミラーによりレイリー光が除去されるため、試料となる光透過性の膜試料における界面情報を有したレイリー光を検出部で検出して利用する思想はこれまでの公知技術の中にはなかった。
通常装置での技術思想は、分離光学素子や後述する励起光遮断光学系(ノッチフィルター或いはエッジフィルター)を介設することによりラマン測定における妨害光であるレイリー光を効果的に除去して、高精度のラマン散乱光のみを測定することであったといえる。
ラマン散乱光を取得しない表面形状計測や表面観察の為のトポグラフィ機能を有する共焦点レーザ光学顕微鏡では、レーザ反射光(レイリー光)のみを検出して、その強度プロファイルより界面情報を取り出すことは可能であるが、前述した様に、ラマン分光測定の場合には、レイリー反射光を取り除いて微弱なラマン散乱光を受光する為、界面からの反射光情報を得ることは不要であった。
下記特許文献1で用いられるノッチフィルターは、励起レーザ光波長の近傍の帯域において透過率が殆どゼロに近いため、ノッチフィルターを透過するレイリー光は殆ど観察されないため、このレイリー光を用いて膜の界面情報を取り出すことは不可能である(特許文献1参照)。
また、下記特許文献2には、分光器の前段の光路上にレイリー光を遮断するノッチフィルターのみを配設して、ラマン散乱光を分光する前に予めレイリー光を除去するようにした装置構成が行われる方法が提案されている(特許文献2参照)。
特許文献2でも、ノッチフィルターに依りレイリー光が効果的に除去される為、分光器を通して検出器でレイリー光が検出されることはない。
更に、下記特許文献3には二種類のレーザ光をそれぞれ選択的に遮断するノッチフィルターを前後に配設することが提案されているが、前記文献同様にノッチフィルターによりレイリー光が効果的に除去される為、界面反射情報となるレイリー光を検出して利用しようとする思想は何ら開示されてはいない。
この様に、電子写真感光体膜の表面情報を得たい場合、共焦点レーザラマン分光測定装置によってラマンスペクトルの深さ方向プロファイルが測定できたとしても、膜の界面情報が無いため、膜構造のどの界面部分からのラマン散乱光情報なのかまで特定することはできず、当初の目的を達成することが出来なかった。
本発明で被検体となる感光体の光透過性膜の構成として、代表的なものを以下に挙げる。
図2は、アルミニウムドラム2上に、中間層3と、その上に電荷発生層4と電荷輸送層5を順次形成した感光体ドラムの層構成を示す図であり、電荷発生層4、電荷輸送層5により感光層をなしている。
図2において、中間層3は、導電性基体に感光層を接着固定するバインダとしての機能をもち、帯電ムラ等の弊害を抑制するために「顔料の微細粒子」が含有されている。
図2において、電荷発生層4は、特定の波長の光照射により「正と負の電荷対」を発生させる層であり、電荷輸送層5は電荷発生層4で発生した正と負の電荷のうち、所定極性の電荷を感光層表面へ輸送する機能を持つ層である。
中間層3、電荷発生層4、電荷輸送層5の膜厚は好ましくはそれぞれ、2〜6μm、1μm以下、15〜35μm程度であり、従って、感光層としての好ましい厚さは15〜36μm程度となる。
中間層3の層厚は、上記のように、一般的に2〜6μmの範囲であるが、バインダとしての十全な機能や、導電性基体に対する光遮蔽効果を良好にならしめるために、中間層3の厚さは3μm以上であることが好ましい。
この内、本実施形態の装置または方法を、例えば光透過性の膜となる電荷輸送層5中の成分傾斜を解析する構造解析に使用するニーズがある。
レイリー光として、電荷輸送層5の表面と中間層3の表面(界面)の反射光を受光することが可能である。
反射型の場合には励起と検出を同一の対物レンズで行うことになる。
焦点以外の深さからのラマン散乱光は、ピンホール位置で焦点を結ばないため、効率良く妨害光がカットされる(図1に示すように、非焦点からの反射光の行路を示す破線部分のほとんどの反射光がピンホールにより遮蔽される)。
照明系と検出系で光束が2回絞られていることから、検出光は励起光強度分布と、ラマン散乱光強度分布のたたみ込み積分になり、光軸(深さ)方向の空間分解能とS/N比がともに高くなる。
但し、膜中では屈折率差に依る色収差や球面収差の影響でビーム径が拡がりを見せる為、これらをプランアポクロマートレンズ、或いは油浸レンズやエマルジョンオイル、補正環を用いて拡がりを押さえることが必要となる。
プランアポクロマートレンズは、低屈折率高分散、高屈折率低分散などの特殊ガラスを組み合わせて収差補正を行ったレンズで色収差は実用上ほぼ補正されており、像面のフラットネスも最高レベルの対物レンズである。
補正環は、対物レンズに付けられたリング状の金物で、それを回すことに依って、その中のレンズ群の一部が光軸方向に移動し、膜の屈折率の誤差で発生した収差を打ち消す働きをする。油浸レンズは均質液浸系を想定して設計してある為、補正環は無いのが普通である。
補正環付きレンズと通常のレンズとの違いは明白で、特にNAを大きくした時に、補正なしだと空間分解能が極めて低下するのに対して、補正環が有ると、高い空間分解能を保っており違いがより顕著となる。
油浸レンズは、一般にはガラス程度の屈折率を持つ油をレンズと膜の間に満たして、空気とレンズの屈折の影響を排除する工夫がなされたものである。乾燥系のレンズでは、レンズから空気、更に対象膜と二箇所で光が通る媒質が変化し屈折が生じる。油浸レンズと合わせて使用するエマルジョンオイルをレンズや膜と近い屈折率となる1.5〜1.6とすると光の屈折の影響を排除できる様になる。このことは、NAの大きな対物レンズを用いた場合、膜中の空間分解能を高める為に有効な手立てとなる。
共焦点顕微鏡光学系を用いる場合は、NAが測定時の空間分解能に大きく寄与する為、NAを1.2以上とすることに依って、サブミクロンサイズでの膜構造解析が可能となってくる。また、エマルジョンオイルを用いることにより、膜中での収差の影響を軽減できる為、膜表面に対して膜中で励起光エネルギーが低下するという問題も解決できる。
前述したエマルジョンオイルの屈折率に関しては、分光エリプソメータに依って屈折率を求めることが出来る。
これにより、光透過性の膜試料で、ステージのZ方向の移動によりステップ毎の深さ方向(膜試料の厚み方向)で明瞭なラマンスペクトルが得られ、三次元解析が可能となる。
共焦点顕微鏡光学系は、物体上の焦点面と共役なピンホールを備えることにより深さ方向に優れた空間分解能を達成することが可能となる。
一般に、測定対象膜が厚くなると、それに伴い収差が大きくなり空間分解能が低下する為、油浸レンズやエマルジョンオイルを用いた場合でも、例えば電子写真感光体の場合などは測定できる膜厚の範囲は3〜40μmである。3μmより薄い膜では空間分解能不足でラマン信号の重なりが生じ正確な測定が出来なくなってしまい、40μm以上では収差に依るビームスポット径の拡がりが大きくなり、空間分解能が低下し、入射レーザ光の強度が著しく低下してしまう。
レーザ光遮断光学素子の透過率については、例えば分光反射率測定装置により透過率を求めることが出来る。
用いるレーザ光強度は出射口で1〜100mW/cm2度であれば良く、その後、試料となる光透過性の膜試料上での強度が、数nW/μm2〜数μW/μm2範囲程度になるように調整すれば良い。
一般には、レーザ光強度が高いほど検出されるラマン散乱光強度も強くなり、S/N比は向上するが、試料破壊や褪色化、強光への応答等を考慮する必要もある。光透過性の膜試料毎に吸収強度や光耐性などが異なり、レーザ光強度の条件決定は最も重要な項目の一つとなる。
また波長が短ければ、波長の4乗に反比例してラマン散乱強度が強くなる。
レーザ波長は対象膜となる電荷輸送層5の光ダメージと、ラマン測定に好ましく無い膜の蛍光発生を考えると540nm以上であることが好ましく、また前述の様にラマン散乱強度を考えると、波長は短い程好ましく、検討の結果では900nm以下であると、好適な測定が可能となることが確かめられた。
共焦点レーザ顕微鏡は、ステージを顕微鏡のZ方向に移動することによって、光透過性の膜試料に対して光軸方向の走査を行うことが可能となる。空間分解能は、前述した様に対物レンズのNAに大きく依存しており、高空間分解能を達成する為、乾燥系の対物レンズではなく油浸レンズを用いる方法も考えられる。
一般には、使用する乾燥系対物レンズはNA(開口数)0.8以上でなければ、深さ方向解析時の空間分解能:0.5〜2μmを確保できず、特に5μm以下の薄膜の場合は、明瞭な膜構造解析が不可能になる。
NAは対物レンズの性能を決める重要な値であり、焦点深度(空間分解能)、明るさに関係する値となる。NA(Numerical Aperture)とも呼び、以下の式で表されるものである。
NA=n・sinθ(ここでnは膜と対物レンズの間の媒質の屈折率、θは光軸と対物レンズの最も外側に入る光線とがなす角を示す)であり、NAが大きく成る程、空間分解能は向上する。
また、高い光学系スループットと小さな集光ビームスポットを両立させるため、一般的にはレンズへの照射レーザ径は、顕微鏡対物レンズの入射径と等しい直径に設定される。
図に示すように、第二のレーザ光遮断素子となるエッジフィルター38(図4(b)参照)を外した状態で、試料となる光透過性の膜試料1から発生した散乱光を、レーザ光源30から試料に向かう光と同波長の光(レイリー光)とラマン散乱光とに分離する分離光学素子33と、第1のレーザ光遮断光学素子となるノッチフィルター37に透過させ、分離光学素子及び第1のレーザ光遮断光学素子から洩れたレイリー光の光量変化を確認し、その光量がピークとなる位置から光軸方向の膜界面の位置を特定する。
反射率R=((N−N1)2+κ2)/(N+N1)2+κ2) ・・・(1)
N:測定対象膜の屈折率
N1:媒体の屈折率
κ:測定対象膜の消光係数
より、界面での反射率:Rが0.1%以上必要であることが見出されている。一般に、屈折率差が大きくなれば界面反射を確保しやすくなるが、その場合は、レンズ−媒体−膜間の屈折率差による収差の影響で、空間分解能とエネルギー密度の低下を誘発することとなる。この為、測定の為には対象となる膜の屈折率から決まる、−0.2〜−0.1の屈折率差を有するエマルジョンオイルを用いることが好適となる。
この為、第1のレーザ光遮断光学素子となるノッチフィルター37から洩れたレイリー光成分でも、ラマン散乱光に匹敵する強度を持つこととなる。
この光を、ラマン散乱光を分光する分光手段である分光器に入射させ、レーザ励起光と同一波長の光強度プロファイルを光検出手段となる検出器36で測定して膜における界面情報を取り出す。
その後、光透過性の膜試料1上に集光された光束は、光透過性の膜試料1からラマン散乱光を含んだ光として反射され、第2の集光レンズ34を経て、集束しつつダイクロイックミラー33に戻る。ダイクロイックミラー33に戻った光は、ダイクロイックミラーの特性により、ラマン散乱光のみが分光手段と光検出手段を有する検出部36側に向かう。
更に、この反射光はダイクロイックミラー33を経て検出部36に導かれる前に一旦集光され、第1のレーザ光遮断光学素子となるノッチフィルター37を透過した後、集光位置に配置された第2のピンホール35を透過して、検出部36に導かれる。
図3は、このような本発明の装置を用いてレイリー光の洩れ光から被検体である膜の界面情報を取得した結果を示す図である。
その後、Z方向のラマンスペクトルを測定する際は、分光手段となる分光器の手前に、検出対象のラマン散乱光に合った波長帯域の光のみを選択的に透過する第2のレーザ光遮断光学素子38が再配置されるようになる。例えば、図4(b)に示すように、レイリー光を遮断する第1のレーザ光遮断光学素子となるノッチフィルター37と第2のレーザ光遮断光学素子となるエッジフィルター38とを配設して、ラマン散乱光の分光及び検出する際に、光路からレイリー光を完全除去する構成としておく。
図4(b)に示す構成で、前段のレイリー光の洩れ光を受光した時と同条件でステージをZ方向に走査させ、ラマンスペクトルのZ方向のデータを取得する。
レイリー光の除去に用いられる第1のレーザ光遮断光学素子であるノッチフィルター37は、誘電体多層膜を用いたフィルターである。このフィルターの光学特性を図5に示すが、図5に例示したようにこのフィルターは特定の波長のみを透過させないようにしたものである。誘電体多層膜を積層して膜厚を最適化すれば、設計波長を中心にして20nm程度のバンド内の光を除去できる。
またノッチフィルター37として、2つの互いにコヒーレントなレーザビームに依って出来る干渉パターンを記録して作られるホログラフィック・ノッチフィルターを用いることもできる。
また、第一のレーザ光遮断光学素子37として後述するエッジフィルターを用いることも可能である。
ラマン分光顕微鏡においては、波長を分光し得るダイクロイックミラー等を用いて、光透過性の膜試料に照射された励起光成分(レイリー光)と光透過性の膜試料から発生したラマン散乱光が分離される。
励起レーザ光の反射光(レイリー光)とラマン散乱光の分離のために用いられるダイクロイックミラーは、特定の波長を境に二値的に変化する透過率特性を有していることが理想的で有るが、実際の透過率特性は比較的急峻に変化していても、その透過率は0と1とはならない。
この為、ダイクロイックミラーで分離された光にも、ラマン散乱光だけでなく、レイリー光が含まれる。
このことから、第一のレーザ光遮断光学素子の光学要素37は、単に検出対象の光を透過するだけでなく、不所望な(励起)光を遮断する機能も要求される。
エッジフィルターの特性は、例えば図6に示すようなものであり、レーザ光を488nmとしたこの図の例では、490nmより短波長側を完全に除去できる。例えば、誘電体多層膜を用いたものでは、最適設計を行えば、波長分別設計位置の前後大体30nm程度の間隔を置いて、これより短波長側の光をほぼ100%除去し、反対にラマン散乱光を含む長波長側の光を透過させることが出来る。本実施形態によれば、エッジフィルター38をノッチフィルター或いはエッジフィルター37後の光路に挿入することにより、ダイクロイックミラー33、ノッチフィルター或いはエッジフィルター37を透過してきた洩れレイリー光を、ラマン散乱光から分離して取り除くことができる。
第2のピンホール35を透過した光は、検出部に構成された分光器に入射し分散された後、マルチチャネル検出器(たとえば、CCD:Charge Coupled Device)若しくはシングルチャネル検出器(たとえば、APD:Avalanche Photodiode)で検出される。
図7は、励起レーザ光として488nmの波長光を用いた場合の、レーザ光源の波長域を反射する特性を有したダイクロイックミラーの特性図の例である。
このような状態で、光透過性の膜試料1を載せたステージを必要に応じてZ軸方向にピエゾ駆動或いはステッピングモータ移動機構により移動させる。
レイリー光洩れ光を受光する際は、図4(a)に示すように検出部36に入る前にレーザは第1のレーザ光遮断光学素子となる10-4〜10-5の透過率を有するノッチフィルター或いはエッジフィルター37のみを用いる構成でよく、また、ラマンスペクトルを取得する際には、図4(b)に示すように、第2のレーザ光遮断光学素子となる10-6の透過率を有するエッジフィルター38を更に配設してレイリー光が完全にカットされる。
その後、レーザ光を対物レンズ34で集光し、直径0.1mm程にして試料1に照射する。ラマン散乱光の偏光成分を調べる場合は、分離光学素子33の後に検光子40を設置する。検光子の中でも吸収型偏光子となるポラロイド板を用いた場合は、入射パワーに制限が生じるものの、微弱なラマン散乱光には適しており、小型軽量・安価でスペースに設置し易いという利点を持つ。
この後段の分光手段においては、回折格子の溝の方向に平行な場合と垂直な場合とでは反射率が異なるため、分光器の光透過特性が異なってしまい、偏光したままでは散乱光の偏光特性の他に、分光器の透過特性がラマン強度に重畳してしまう為、一度、偏光成分を選択し不要な偏光成分をカットした場合は、偏光解消板41を通して偏光を崩してしまうことが重要となる。偏光解消板41としては水晶偏光解消板を用いることが好ましい。
その他の測定手順は、前述したZ方向のラマンスペクトル測定法と同じステップとなる。
前述したように、励起光とラマン散乱光の分離のためには、ノッチフィルター37は特定の波長、この場合は励起光のみを透過させない透過率特性を有していることが理想的であるが、実際の遮光率は前述したごとく100%ではなく、僅かながらレイリー光の漏れ光を有している。
光透過性の試料膜の界面反射情報は、この洩れレイリー光から取得する。
このようにノッチフィルターは励起光波長(この図の場合は488nm波長)の励起光を幾らかは透過する(換言すれば透過率はゼロでは無い)。この為、光透過性の膜試料で反射された励起光(レイリー光)は、光透過性の膜試料から発生されたラマン散乱光と一緒に励起光遮断光学素子であるノッチフィルター37を少ない光量ではあっても透過する。
図4(a)に示す構成のノッチフィルター37の透過率を10-4としてレイリー光の洩れ光となる「レイリー光洩れ光プロファイル(界面反射強度分布図)」を取得し、図4(b)に示す構成で10-6の透過率を有するエッジフィルターを配設して、レイリー光を取り除いた状態で深さ方向のラマンスペクトルを取得し、任意の分子の特徴的なラマンバンドのピークを追いかけることによって、「膜中分子量プロファイル」プロファイルを取得している。
ここでノッチフィルター及びエッジフィルターの透過率は、前記レーザ光遮断光学素子を分光透過率測定装置(松下テクノトレーディング F20装置)にて透過率値を測定している。また、図4中の対物レンズ34には60倍の油浸レンズを用い、更に屈折率1.52のエマルジョンオイルをレンズ−試料間に用いている。電荷輸送層の屈折率1.68との差は−0.16で、トータルのNAは1.42である。エマルジョンオイルの屈折率は、エマルジョンオイルをスピンコーターでSi-Wafer上に超薄膜塗布し、分光エリプソメータ(J.A.Woollam社WVASE32)でエマルジョンオイルの複素屈折率(屈折率、消光係数)を測定している。
このようにして光透過性の膜試料1における膜界面情報を付与した膜構造のプロファイルを得ることが可能となる。
ここでノッチフィルター及びエッジフィルターの透過率は、前記レーザ光遮断光学素子を分光透過率測定装置(松下テクノトレーディング F20装置)にて透過率値を測定した。また図11(a)中の対物レンズ34には補正環付き対物レンズを用いた。
このようにして光透過性の膜試料1における膜界面情報を付与したZ方向位置毎の偏光ラマン強度データプロファイルを得ることが可能となる。
図9に示すように、ノッチフィルター37でのレイリー光の減衰率が大きい場合には、励起光近傍波長域でノッチフィルターの透過光を受光しても、光透過性の膜試料からの明瞭な界面反射光を取得することが出来なかった。
また、ノッチフィルター37の透過率を10-3とした場合、図10に示すように、ラマン散乱光受光時に、レイリー光(図中の励起光波長域)がダイクロイックミラー、ノッチフィルターで充分に減衰されずラマンスペクトルにレイリー光が重畳し、その結果、ラマンスペクトルのS/N比を著しく低下させてしまう。
図4(b)に示す構成において、エッジフィルター38の透過率を10-3程とした場合も同様にラマンスペクトルにレイリー光が重畳してしまう。
更に、図4(a)の対物レンズ34には油浸レンズを用い、屈折率1.68の被測定膜に対して屈折率差−0.201となる屈折率1.479のエマルジョンオイルをレンズ−試料間に用いた場合は、レンズからエマルジョンオイル、更には膜の間に屈折率差に依る屈折が生じる為、レーザ光のビームスポットが収差の影響を受けて拡がってしまい、充分な空間分解能が得られなくなかった。また屈折率2.0の屈折液を用いた場合も屈折率差が生じる為、やはり空間分解能が低下し、1.5〜1.6のエマルジョンオイルを用いた場合と比較して、膜厚20μm以上でビームスポット径が広がりをみせ、励起レーザの強度が見かけ上低下した為、正確な測定を行うことができなかった。
エマルジョンオイルの屈折率が膜の屈折率と近い、1.63の場合は、図13に示す様に、(1)式で示す膜表面での反射率が小さくなる為、膜表面でのレイリー光の反射光を取得することが出来ず、所望の膜構造解析を行うことが出来なかった。
2 アルミニウムドラム
3 中間層
4 電荷発生層
5 電荷輸送層
20 レーザ光源
21 集光レンズ
22 第1のピンホール
23 分離光学素子
24 第2の集光レンズ
25 第2のピンホール
26 検出部
30 レーザ光源
31 集光レンズ
32 第1のピンホール
33 分離光学素子
34 第2の集光レンズ
35 第2のピンホール
36 検出部
37 ノッチフィルター
38 エッジフィルター
39 偏光子
40 検光子
41 偏光解消板
Claims (21)
- レーザ光源と、試料にレーザ光を照射し前記試料からの散乱光を受光する分離光学素子及び対物レンズを有した顕微光学系と、前記散乱光を分光する分光手段と、
前記分光された散乱光の強度を検出する光検出手段と、を有するラマン分光測定装置において、
前記散乱光が入射する前記分光手段の光路前面に固定された第一のレーザ光遮断光学素子と、差し替え可能な第二のレーザ光遮断光学素子とを備え、
前記第一のレーザ光遮断光学素子のレーザ光波長に対する透過率が、10-4〜10-5の範囲であり、前記第二のレーザ光遮断光学素子のレーザ光波長に対する透過率を10-6以下としたことを特徴とするラマン分光測定装置。 - 前記ラマン分光測定装置は、焦点面と共役な関係にあるピンホールを備える共焦点顕微鏡光学系を有することを特徴とする請求項1に記載のラマン分光測定装置。
- 前記第一のレーザ光遮断光学素子はノッチフィルターであることを特徴とする請求項1に記載のラマン分光測定装置。
- 前記第一のレーザ光遮断光学素子はエッジフィルターであることを特徴とする請求項1に記載のラマン分光測定装置。
- 前記第二のレーザ光遮断光学素子はエッジフィルターであることを特徴とする請求項1に記載のラマン分光測定装置。
- 前記分離光学素子はダイクロイックミラーであることを特徴とする請求項1に記載のラマン分光測定装置。
- 前記ラマン分光測定装置に使用する乾燥系対物レンズのNAは、0.8以上であることを特徴とする請求項1に記載のラマン分光測定装置。
- 前記ラマン分光測定装置の対物レンズは、プランアポクロマートレンズであることを特徴とする請求項1に記載のラマン分光測定装置。
- 前記対物レンズには、補正環が付いていることを特徴とする請求項7に記載のラマン分光測定装置。
- 前記ラマン分光測定装置の対物レンズは、NAが1.2以上となる油浸レンズとエマルジョンオイルの組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載のラマン分光測定装置。
- 前記ラマン分光測定装置の油浸レンズには、被測定物となる対象膜の屈折率から−0.2〜−0.1の屈折率値を有するエマルジョンオイルを用いることを特徴とする請求項10に記載のラマン分光測定装置。
- 前記エマルジョンオイルの屈折率が、1.5〜1.6であることを特徴とする請求項11に記載のラマン分光測定装置。
- 前記ラマン分光測定装置のレーザ波長は、540nm以上900nm以下であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載のラマン分光測定装置。
- レーザ光源と、レーザの偏光方向を整える偏光子と、試料にレーザ光を照射し前記試料からの散乱光を受光する分離光学素子及び対物レンズを有した顕微光学系と、
前記散乱光の偏光特性を選択する為の検光子及び偏光解消板と、
前記散乱光を分光する分光手段と、
前記分光された散乱光の強度を検出する光検出手段と、を有するラマン分光測定装置において、
前記散乱光が入射する前記分光手段の光路前面に固定された第一のレーザ光遮断光学素子と、差し替え可能な第二のレーザ光遮断光学素子とを備え、
前記第一のレーザ光遮断光学素子のレーザ光波長に対する透過率を10-4〜10-5の範囲とし、前記第二のレーザ光遮断光学素子のレーザ光波長に対する透過率を10-6以下としたことを特徴とするラマン分光測定装置。 - 前記ラマン分光測定装置の偏光子は、全反射型偏光子であることを特徴とする請求項14に記載のラマン分光測定装置。
- 前記ラマン分光測定装置の検光子は吸収型偏光子であることを特徴とする請求項14に記載のラマン分光測定装置。
- 前記ラマン分光測定装置の偏光解消子は水晶偏光解消板であることを特徴とする請求項14に記載のラマン分光測定装置。
- 請求項1乃至13のいずれか一項に記載のラマン分光測定装置を用い、第一のレーザ光遮断光学素子におけるレイリー光の洩れ光を受光して膜界面における反射光強度を検出し、前記ラマン分光による深さ位置毎の分光データプロファイルと関連付けて膜界面の界面情報を取得することを特徴とするラマン分光測定法。
- 請求項14乃至17のいずれか一項に記載のラマン分光測定装置を用い、第一のレーザ光遮断光学素子におけるレイリー光の洩れ光を受光して膜界面における反射光強度を検出し、前記ラマン分光による位置毎の偏光ラマン強度データプロファイルと関連付けて膜界面の界面情報を取得することを特徴とするラマン分光測定法。
- 請求項18又は19に記載のラマン分光測定法において、被測定物が電子写真感光体膜である場合、測定する膜厚の測定範囲を3〜40μmに選定することを特徴とするラマン分光測定法。
- 請求項20に記載のラマン分光測定法において、被測定物となる膜の消光係数:κは、κ=λ/0.016π(λ:励起光波長cm)以下であることを特徴とするラマン分光測定法。
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