本発明のセラミック基板の製造方法について添付図面を参照しつつ以下に詳細に説明する。図1は本発明のセラミック基板の製造方法の実施の形態の一例を示す工程毎の断面図であり、1は支持体、2は第1のセラミックグリーンシート層、3,3’は第2のセラミックグリーンシート層、4はセラミックグリーンシート、5は貫通孔、6はセラミックグリーンシート積層体、7は分割溝である。
まず、図1(a)に示すように、支持体1上に第1のセラミックグリーンシート層2を形成し、次いで、図1(b)に示すように、第1のセラミックグリーンシート層2上に第2のセラミックグリーンシート層3を形成することにより、第1のセラミックグリーンシート層2上に第2のセラミックグリーンシート層3が積層されたセラミックグリーンシート4を形成する。また、別の支持体1上に第2のセラミックグリーンシート層3’のみを形成する。
第1のセラミックグリーンシート層2上に第2のセラミックグリーンシート層3が積層されたセラミックグリーンシート4を形成する方法は、(1)第1のセラミックグリーンシート層2となる第1のセラミックスラリーを支持体1上に塗布・乾燥して第1のセラミックグリーンシート層2のみからなる第1のセラミックグリーンシートを作製し、同様に第2のセラミックグリーンシート層3となる第2のセラミックスラリーを用いて作製した第2のセラミックグリーンシート層3のみからなる第2のセラミックグリーンシートを第1のセラミックグリーンシートの上に積層し、加熱して接着することにより形成する方法や、(2)支持体1上に形成された乾燥した第1のセラミックグリーンシート層2上に第2のセラミックグリーンシート3となる第2のセラミックスラリーを塗布・乾燥して形成する方法や、(3)支持体1上に塗布された第1のセラミックスラリー上に第2のセラミックスラリーを塗布して乾燥することにより形成する方法が挙げられる。
(1)の方法においては、第1のセラミックグリーンシート層2のみからなる第1のセラミックグリーンシートは比較的厚みが薄くなるので、リップコーター法等の薄い厚みを精度よく成形できる方法を使えばよく、逆に第2のセラミックグリーンシート層3のみからなる第2のセラミックグリーンシートは、厚みを厚く成形できるドクターブレード法等で成形すればよい。
(2)の方法においては、(1)と同様にリップコーター法等を用いて第1のセラミックグリーンシート層2のみからなる第1のセラミックグリーンシートを成形した上に、ダイコーター法やリップコーター法等の押し出し式の方法を用いるとよい。第1のセラミックグリーンシート層2の第1のセラミックグリーンシートが第2のセラミックスラリーの溶剤によって若干溶解しても、これらは非接触式の塗布方法であり、また溶剤の少ないスラリーを用いることができるので、第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックグリーンシート層3のスラリーとが混ざり合うことなくセラミックグリーンシート4を形成することができるのでよい。
(3)の方法においては、第1のセラミックスラリーも第2のセラミックスラリーも共にダイコーター法やリップコーター法等の押し出し式の方法を用いるとよい。これらは非接触式の塗布方法であり、また溶剤の少ない、比較的粘度の高いスラリーを用いることができるので、第1のセラミックスラリーと第2のセラミックスラリーとが混ざり合うことなくセラミックグリーンシート4を形成することができるのでよい。
第1のセラミックグリーンシート層2上への第2のセラミックグリーンシート層3の積層の際に、第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックグリーンシート層3との間に空隙を発生させる可能性があるので、また第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックグリーンシート層3との密着性を向上させるためには、上記(2)または(3)の方法が好ましい。さらに、上記(3)の方法では第1のセラミックグリーンシート層2の形成と第2のセラミックグリーンシート層3の形成とがほぼ同時に行なわれるので、工程が簡略化されることから、より好ましい。上記(1)の方法は、通常の単層のセラミックグリーンシートを作製する装置をそのまま利用できる点で好ましい。
ここで第2のセラミックグリーンシート層3は、その中に含まれる空隙の体積比率を10%より小さいものとすることが望ましい。これにより、セラミックグリーンシート4を形成する工程中の加熱において、溶融した溶融成分が第2のセラミックグリーンシート層3の空隙に浸透して溶融成分の多くが第1のセラミックグリーンシート層2から第2のセラミックグリーンシート層3へ移動してしまうことがないので、第1のセラミックグリーンシート層2の軟化変形性および接着性が損なわれることがなく、第2のセラミックグリーンシート層3が軟化して変形しやすくなることがない。
第2のセラミックグリーンシート層3の空隙率を10%より小さいものとするには、第2のセラミックグリーンシート層3中のセラミック成分および有機成分の比率を増やして空隙を少なくする方法や、第2のセラミックスラリーの作製工程で取り込まれた気泡を第2のセラミックグリーンシート層と成す前に、例えば真空脱泡により十分に除去する方法がある。
第2のセラミックグリーンシート層3中のセラミック成分を増やす方法としては、セラミック粉末の分散性を向上させる方法と、セラミック粉末の充填性を上げる方法とがある。セラミック粉末の分散性を向上させるには、有機バインダーとして分散効果のある官能基を有するものを用いたり、第2のセラミックスラリーを作製する際に分散剤を添加したりすればよい。セラミック粉末が良好に分散されると、セラミック粉末の凝集体が減少し、凝集体の内部に存在する空隙が減少することから、第2のセラミックスラリーを乾燥することにより作製される第2のセラミックグリーンシート層3中の空隙率が小さいものとなる。セラミック粉末の充填性を上げる方法は、セラミック粉末の粒径を管理してセラミックグリーンシート層3中のセラミック粉末自体の充填を上げる方法がある。セラミック粉末の平均粒径が大きいと、粉末の粗大粒の存在比が高くなり、複数の粗大粒が近接して存在することで形成される比較的大きい空隙が存在することとなるので、セラミック粉末の平均粒径を小さくすることで粗大粒の存在を数%以下に減らすことにより空隙率が減少する。また、セラミック粉末の粒度分布が粗大粒を含まないものを用いてもよい。セラミック粉末自体の充填性を上げる方法は、有機バインダーの特性を変えないことから、シートの加工性、ハンドリング性、脱脂性に対する影響が少ないので好ましい。
また、第2のセラミックグリーンシート層3中の有機成分を増やす方法としては、単純に有機バインダー量を増加させる方法が好ましい。その他の有機成分としては可塑剤等の溶剤などが考えられるが、可塑剤を増加させると、第2のセラミックグリーンシート層3が柔らかくなって積層時に変形し、高精度の寸法を保てなくなるからである。
また、(3)の方法を用いた場合は、第1のセラミックスラリーに含まれる溶剤の蒸気圧より第2のセラミックスラリーに含まれる溶剤の蒸気圧が低いことが好ましい。このことにより、支持体に第1のセラミックスラリーを塗布し、塗布されたセラミックスラリー上に第2のセラミックスラリーを塗布して乾燥した際、第2のセラミックスラリーが先に乾燥して乾燥収縮した後に第1のセラミックスラリーが後に乾燥する順序となるので、乾燥した第1のセラミックグリーンシート層2が乾燥の熱により軟化した状態で、第2のセラミックスラリーの乾燥収縮による応力を受けてシワができてしまうことがない。その結果として、シワによりセラミックグリーンシートを積層したときにセラミックグリーンシート層2,3間に空隙を生じることなくセラミックグリーンシート層2,3同士が密着され、そのセラミックグリーンシート4を用いたセラミックグリーンシート積層体6を焼成して得られるセラミック基板はデラミネーションの発生のないものとなるので、より好ましいものとなる。
また、支持体1上に第1のセラミックスラリーを塗布し、塗布された第1のセラミックスラリー上に第2のセラミックスラリーを塗布した後の乾燥温度が溶融成分の融点温度より低いことが好ましい。このことにより、乾燥の加熱により第1のセラミックスラリーに含まれる溶融成分が溶融することないので、乾燥の間に溶融成分が第2のセラミックスラリーまたは先に乾燥して第2のセラミックグリーンシート層3へと拡散しにくくなり、積層の際の加熱により軟化する第1のセラミックグリーンシート層2と軟化することのない第2のセラミックグリーンシート層3とを備えたセラミックグリーンシートが形成され、得られるセラミックグリーンシート積層体6およびそれを焼成して得られるセラミック基板は、デラミネーションの発生のない高い寸法精度を有するものとなるので好ましい。
さらに、乾燥の際の加熱により第1のセラミックスラリーに含まれる溶融成分が溶融することがないので、第1のセラミックスラリーおよび第2のセラミックスラリーに含まれる溶剤の蒸気圧の関係により第1のセラミックグリーンシート2層にシワができてしまうということがない。セラミックスラリーに含まれる溶剤の蒸気圧を考慮せずにスラリーを設計でき、第2のセラミックグリーンシート層3の成形性や第2のセラミックグリーンシート層3の空隙率を考慮した溶剤の選択が容易になる。
セラミックグリーンシート4の乾燥は、乾燥温度を常温より段階的に、少なくとも3段階以上徐々に上昇させ、セラミックスラリー表面の乾燥とセラミックスラリー表面への内部からの溶剤浸透がバランスよく行なわれるようにすると、表面のセラミックスラリーのみが乾燥してスラリー内部の乾燥が抑制されることがないので好ましい。例えば、それぞれ温度の異なる蒸気を熱源とする乾燥ゾーンを3基以上有する熱風乾燥機を用いると、大量でかつ一定の温度の熱風を循環させることにより、セラミックスラリーを均等に熱することが可能となる。この場合の乾燥温度は、セラミックスラリーの表面に当てられる熱風の温度となる。また、赤外ランプ等による輻射熱を熱源として用いる場合は、赤外ランプの温度ではなくセラミックスラリーの表面に位置する雰囲気の温度を乾燥温度とし、予め温度計でセラミックグリーンシート4を乾燥させるゾーンの雰囲気温度を測定しておいてもよいし、セラミックスラリーを乾燥しながら測定してもよい。この場合には、熱風乾燥に比べると均熱性に劣り、20℃乃至30℃程度のバラツキがあるため、乾燥ゾーン内の最も高い雰囲気温度を乾燥温度とする。
溶融成分の融点が低い場合は、乾燥温度を溶融成分の融点温度より低くするとセラミックスラリーの乾燥に時間がかかるので、乾燥機の乾燥ゾーンを長くする必要がある。生産性を優先する場合は、第1のセラミックグリーンシート層2にシワを発生させないようにセラミックスラリーに含まれる溶剤の蒸気圧を考慮したうえで、乾燥温度を融点より高い温度とするとよい。
本発明における第1のセラミックグリーンシート層2および第2のセラミックグリーンシート層3,3’は、セラミック粉末、有機バインダー等を混合したものが用いられる。第1のセラミックグリーンシート層はさらに溶融成分を含有する。さらに、可塑剤を添加してセラミックグリーンシート4のハンドリング性を調整してもよい。
セラミック粉末としては、Al2O3,AlN,ガラスセラミック粉末(ガラス粉末とフィラー粉末との混合物)等が挙げられ、セラミック基板に要求される特性に合わせて適宜選択される。
ガラスセラミック粉末のガラス成分としては、例えばSiO2−B2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3系,SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(ただし、MはCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は同一または異なってCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は上記と同じである),SiO2−B2O3−M3 2O系(ただし、M3はLi、NaまたはKを示す,SiO2−B2O3−Al2O3−M3 2O系(ただし、M3は上記と同じである),Pb系ガラス,Bi系ガラス等が挙げられる。
また、ガラスセラミック粉末のフィラー粉末としては、例えばAl2O3,SiO2,ZrO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,TiO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,Al2O3およびSiO2から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル,ムライト,コージェライト)等のセラミック粉末が挙げられる。
このようなセラミック粉末は、上記したように空隙率を少なくするには、平均粒径が1μm乃至3μmで、粒径が10μm以上の粗大粒が5%以下であるのがよい。
第1のセラミックグリーンシート層2および第2のセラミックグリーンシート層3,3’に配合される有機バインダーとしては、従来よりセラミックグリーンシートに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラ−ル系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、アクリル系バインダーがより好ましい。
第2のグリーンシート層3,3’はできるだけ強度を高くすることが望ましい。具体的には、第2のセラミックグリーンシート層3,3’の引張降伏強さを0.5MPa以上とするとよい。ここでいう引張降伏強さとは、日本工業規格JIS K 7113「プラスチックの引張試験方法」で規定された方法に準じて測定する。試験片の形状は1号型で、試験速度は速度I(500mm/min±20%)で行なう。引張降伏強さとは、この強度を超える力を与えれば弾性変形(力を与えて変形しても力が無くなれば元の形に戻る変形)ではなく塑性変形(力を与えて変形したら力が無くなっても戻らない変形)をするという強度であり、この降伏点強度が高ければ力を与えても変形しにくいことを示す。
これは、セラミックグリーンシート4に貫通孔5を形成する工程と、貫通孔5を形成したセラミックグリーンシート4と第2のセラミックグリーンシート層3’とを位置合わせして積層する工程、さらに、セラミックグリーンシート積層体6に、焼成した後に分割するための分割溝7の加工を行なう工程においては、第2のセラミックグリーンシート層3を含むセラミックグリーンシート4は硬く変形しにくい方が精度良く加工することができる。また、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程において、第2のセラミックグリーンシート層3,3’が硬くて変形しなければ、加熱時に軟化した第1のセラミックグリーンシート層2を第2のセラミックグリーンシート層3で保持することにより、第1のセラミックグリーンシート層2が軟化しても、セラミックグリーンシート4は積層時に変形することなく高精度の寸法を保てるからである。
第2のセラミックグリーンシート層3,3’の引張降伏強さを高くするには、第2のセラミックグリーンシート層3,3’に含まれる有機バインダーのガラス転移点(Tg)を上げる方法がある。セラミックグリーンシートの引張降伏強さ等の機械的特性は、含まれる有機バインダーの特性に支配される。有機バインダーのTgを上げるには、例えば、焼成時の脱バイ性に優れたアクリル系バインダーを使うのであれば、アクリル酸エステルよりTgの高いメタクリル酸エステルを選択することでTgを上げることができる。アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体のエステルを用いるのであれば、Tgの低いアクリル酸エステルよりTgの高いメタクリル酸エステルの比率を上げることによって可能となる。また、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルのエステルを、メチル、ブチル、エチルへキシルと代える、あるいは2重結合をもつ官能基を導入することによってもTgを上げることが可能となる。
また、共重合体を重合させる方法によってもバインダーの特性を変えることができる。例えば、共重合体(ポリマー)を構成する2種のモノマーをA,Bとすると、−AAA・・・AAABBB・・・BBBAAA・・・AAA−といったように、Aのブロック、Bのブロックとそれぞれかたまらせて重合させるブロック重合という方法がある。例えば、このブロック重合を用いて、Tgの高いメタクリル酸エステルとTgの低いアクリル酸エステルとを局部的に存在させることができる。Tgの低いアクリル酸エステルに無機粉体と結びつきやすい官能基を導入して骨格とし、Tgの低いアクリル酸エステルを無機粉体表面に吸着させ、無機粉体を結ぶ骨格にTgの高いメタクリル酸エステルが局部的に存在するものとなれば、セラミックグリーンシートに強度を発現させることができる。
Tgは、上記の工程を行なう常温程度以上のTgやバインダーの含有量にもよるが、20℃乃至60℃であるのが好ましい。20℃未満であると常温でグリーンシートが柔らかくなり、上記の工程において変形し易くなる。一方、60℃を超えると常温でグリーンシートが硬くなりすぎてしまい、ハンドリングの際に割れ易くなったり、金型加工でキャビティ用や貫通導体用の貫通孔を形成する際に孔の周囲にクラックが発生してしまったりする場合がある。可塑剤を加えることにより見掛けのTgを下げれば、Tgが70℃程度のものであっても、このような不具合を発生させることなく使用できる。Tgが20℃乃至60℃である有機バインダーとしては、アクリル系有機バインダーであれば、ポリメタクリル酸ノルマルブチル,ポリメタクリル酸エチル,ポリメタクリル酸イソブチル、他にはポリ酢酸ビニル,ポリアミド,ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
さらに、有機バインダーに架橋剤を配合して有機バインダーの骨格間を架橋でつなぎ、有機バインダー骨格同士を結びつけることにより、有機バインダーの特性を変えることができる。例えば、アクリル系バインダーであれば、イソシアネート架橋剤,エポキシ架橋剤,金属キレート剤を使うことにより、アクリル系バインダーに導入されたカルボキシル基、ヒドロキシル基などと反応してアクリル系バインダー骨格間を架橋でつなぐことにより、アクリル系バインダーの強度を上げることができる。これによってセラミックグリーンシートの強度を上げることが可能となる。
第1のセラミックグリーンシート層2に含有される溶融成分は、セラミックグリーンシート積層体6を作製する際の加熱時に溶融状態となるものであり、炭化水素,脂肪酸,エステル,脂肪アルコール,多価アルコール等が挙げられる。スラリーを調整する際の溶媒への溶解性を考慮すると、分子量が小さくかつ極性を有する炭化水素,エステル,脂肪アルコール,多価アルコールが好ましい。さらに、上述したアクリルバインダーとの相溶性を考慮すると、エステル,脂肪アルコール,多価アルコールがより好ましい。
溶融成分は前記のものの中でも、その融点が35℃乃至100℃であるものが好ましい。これは、この範囲の融点のものを用いると、常温では第1のセラミックグリーンシート層2が軟化して変形することはないので、積層工程までのハンドリングが容易となり、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程における加熱時にセラミックグリーンシート4中のバインダーや可塑剤等の有機成分が分解することがないので、分解ガスによりデラミネーションが発生してしまうことがないからである。融点が35℃乃至100℃である溶融成分としては具体的には、ミリスチルアルコール,セチルアルコール,ヘキサデカノール,ポリエチレングリコール,ポリグリセロール,ステアリルアミド,オレイルアミド,エチレングリコールモノステアレート,パラフィン,ステアリン酸,シリコーン等が挙げられる。これらの中で焼成工程での分解および揮発性がよく、ヒドロキシル基を有するものは、ミリスチルアルコール,セチルアルコール,ヘキサデカノール,ステアリルアルコール,ポリエチレングリコール,ポリグリセロールである。
第1のセラミックグリーンシート層2の有機成分は、有機バインダーと溶融成分との結びつきを考えると、有機バインダーはアクリル系バインダーが、溶融成分は多価アルコールが望ましい。具体的には、有機バインダーはアクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体が、溶融成分はヘキサデカノールが望ましい。
好ましくは、第1のセラミックグリーンシート層2に含有される溶融成分の含有量は、第1の有機バインダー100質量%に対して50質量%乃至100質量%とするのがよい。溶融成分の量が50質量%より少ないと、第1の有機バインダーと結びつき第1の有機バインダー中に分散する溶融成分の絶対量が足りなくなるので、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程の加熱時に第1のセラミックグリーンシート層2が全体にわたり軟化せず粘着性が得られなくなるか、または第1のセラミックグリーンシート層2が均一に軟化せず粘着性のない部分ができてしまうこととなり、焼成して得られるセラミック基板にはデラミネーションが発生してしまうこととなる。溶融成分が100質量%より多いと、第1の有機バインダーと結びつく溶融成分が過多となり、第1の有機バインダー中に分散しきれない溶融成分が凝集してしまう部分が発生し、この部分は第1の有機バインダーが存在せず粘着性を有さない部分となるので、この部分に、焼成して得られるセラミック基板のデラミネーションが発生してしまうこととなる。
また、第1のセラミックグリーンシート層2の有機成分の配合量は、第1のセラミックグリーンシート層2に含まれるセラミック粉末100質量%に対して10質量%乃至50質量%であるのがよい。有機成分の量が10質量%より少ないと、無機成分と結びつくことで第1のセラミックグリーンシート層2中に分散させる役割をもつ有機成分の絶対量が足りなくなるので、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程の加熱時に第1のセラミックグリーンシート層2が全体にわたり粘着性が得られなくなるか、または第1のセラミックグリーンシート層2の粘着性が均一でない部分ができることとなり、焼成して得られるセラミック基板にはデラミネーションが発生してしまうこととなる。有機成分が50質量%より多いと、無機成分と結びつく有機成分が過多となり、第1のセラミックグリーンシート層2中に分散しきれない有機成分が凝集してしまう部分が発生する。この部分は、有機成分が存在し粘着性を有するものの、無機成分が存在しない部分となるので、焼成時における有機成分の除去によって得られるセラミック基板の中に空隙や空隙に起因するデラミネーションが発生することとなる。
ここで、有機成分とは有機バインダーと溶融成分とのことである。第1のセラミックグリーンシート層2を形成する際には、溶剤および可塑剤や分散剤等も含むスラリーを用いるが、スラリーを乾燥させて第1のセラミックグリーンシート層2とするので第1のセラミックグリーンシート層2の有機成分には蒸発してしまう溶剤は含まれず、可塑剤や分散剤等はその量が少ないため、有機成分とは有機バインダーと溶融成分としている。
第2のセラミックグリーンシート層3,3’の有機成分(有機バインダー)量は、第2のセラミックグリーンシート層3,3’に含まれる無機粉末100質量%に対して5質量%乃至20質量%であるのがよい。有機成分の量が5質量%より少ないと、セラミックグリーンシート中のセラミック粉末が多すぎて無機粉末の間を繋ぎ合わせることができず、セラミックグリーンシートが脆く、ハンドリングや加工できないようになる。また、有機成分が20質量%より多いと、第2のセラミックグリーンシート層3,3’を焼成してセラミック基板としたときの収縮率が大きくなる。さらに、セラミックグリーンシート積層体6に占める第2のセラミックグリーンシート層3,3’が多いため、セラミックグリーンシート積層体6を焼成したセラミック基板の収縮率も大きくなることとなる。収縮率が大きくなると、所望の寸法のセラミック基板を作るためにはより大きなセラミックグリーンシート積層体6が必要となるため、生産性に対して好ましくない影響を与える。また、収縮率が大きければ、ばらつきも大きくなる傾向があるため、得られるセラミック基板の収縮ばらつきも大きくなるので好ましくない。
第2のセラミックグリーンシート層3,3’の有機成分である有機バインダーとしては、同様にアクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体が望ましい。また、メタクリル酸エステルの割合を多くして、20℃乃至60℃にTgを調整することが望ましい。メタクリル酸エステルとしては、分解性の高いメタクリル酸イソブチルやメタクリル酸ノルマルブチルを選択するのが望ましい。
上記のような好ましい特性となる第1のセラミックグリーンシート層2としては、例えば、セラミック粉末100質量%に対して、有機バインダーとしてメタクリル酸イソブチル−アクリル酸ラウリル共重合体を20質量%、および溶融成分としてヘキサデカノール(もしくはセチルアルコール)を10質量%含むものが好ましい。同様に第2のセラミックグリーンシート層3としては、例えば、セラミック粉末100質量%に対して、有機バインダーとしてメタクリル酸ノルマルブチル−アクリル酸2エチルヘキシルを10質量%含むものが好ましい。
第1のセラミックグリーンシート層2の厚さは、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程において導体層とセラミックグリーンシート4との段差を埋めることができるように、導体層の厚みより厚くなるように形成される。セラミックグリーンシート4の積層時に変形させないように、好ましくは、第1のセラミックグリーンシート層2の厚みは第2のセラミックグリーンシート層3より薄く、さらに好ましくは第1のセラミックグリーンシート層2の厚みをできるだけ薄くするほうがよく、導体層の厚みより若干厚い程度、具体的には10μm乃至100μmとすればよい。
また、第2のセラミックグリーンシート層3,3’の厚さは、作製するセラミック基板に必要な厚みとすればよく、例えば50μm乃至300μmのものを用いればよい。
第1のセラミックグリーンシート層2は、セラミック粉末,有機バインダー,溶融成分に溶剤(有機溶剤,水等)、必要に応じて所定量の可塑剤,分散剤を加えてボールミル等の混合手段で混合し分散させて第1のセラミックスラリーを得ておき、これをPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等の支持体上にドクターブレード法,リップコーター法,ダイコーター法等の成形手段により成形することによって得られる。第2のセラミックグリーンシート層3,3’は、第1のスラリーに対して溶融成分を含まない第2のセラミックスラリーを同様にして作製し、同様の成形手段を用いて形成される。
支持体1は、紙や、ポリオレフィン系,ポリエステル系,ポリアミド系,ポリイミド系,塩化ビニル系等の有機樹脂からなるフィルム状のものである。表面の平滑性に優れた有機樹脂フィルムの中で、コストが安く、比較的引っ張り強度が高く変形しにくいPETフィルムが好ましい。支持体1の表面には、セラミックグリーンシート4の剥離性を考慮して離型剤や帯電防止剤などの表面処理層が形成されていることが好ましい。離型剤の種類としては、大別してシリコーン系,フッ素系,長鎖アルキル基含有系,アルキッド樹脂系,ポリオレフィン樹脂系などを用いることができる。
上記(2)の方法の場合は、第1のセラミックグリーンシート層2の溶解度パラメータと第2のセラミックスラリーの溶解度パラメータとの差を3乃至8とすることによって、第1のセラミックグリーンシート層2上に第2のセラミックスラリーを塗布した際に第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックスラリーとが互いに溶解することを抑制するので、第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックグリーンシート層3とが混合して同一化してしまうことを防ぐことができる。また、第1のセラミックグリーンシート層2上に第2のセラミックスラリーを塗布した際に第1のセラミックグリーンシート層2上の第2のセラミックスラリーをはじかれること無く塗布することができるので、第2のセラミックスラリーの塗布時に気泡の巻き込みによる空隙の発生も無く、デラミネーションの発生を防ぐことができるので好ましい。
上記(3)の方法の場合は、第1のセラミックスラリーの溶解度パラメータと第2のセラミックスラリーの溶解度パラメータとを2以上離すことによって、支持体1に第1のセラミックスラリーを塗布し、塗布された第1のセラミックスラリー上に第2のセラミックスラリーを塗布した際に、第1のセラミックスラリーと第2のセラミックスラリーとが互いに溶解することを抑制するので、第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックグリーンシート層3とが混合して同一化してしまうことを防ぐことができるのでより好ましい。
ここで、溶解度パラメータとは、有機成分の性質が似通ったものは相溶けやすいという性質をもとに数値化したものであり、SP(Solubility Parameter)値とも呼ばれるものである。溶解度パラメータの値が近いもの同士は溶解しやすいことを示すものであるので、有機成分の溶解力を示す指標として用いられる。セラミックスラリーの溶解度パラメータは、セラミックグリーンシートおよびセラミックスラリー中の各有機成分の溶解度パラメータと各有機成分の体積分率とから算出する。例えば、セラミックスラリー中に2つの有機成分が含まれ、それぞれの溶解度パラメータが5および7で、体積分率がそれぞれ70%および30%である場合のセラミックスラリーの溶解度パラメータは、5×0.7+7×0.3=5.6となる。なお、有機成分の溶解度パラメータは、講談社出版「溶剤ハンドブック」(浅原昭三ほか編、1976年初版)による溶解度パラメータのデータを用いればよい。
(2)および(3)の方法においてセラミックグリーンシートおよびセラミックスラリーの溶解度パラメータの差を調整するには、それぞれのセラミックスラリーに含まれる溶剤および有機バインダーの溶解度パラメータを変えればよい。例えば第1のセラミックグリーンシート層2用および第2のセラミックグリーンシート層3用のセラミックスラリーに含まれる溶剤の溶解度パラメータをそれぞれ互いに異なるものとするには、一方を炭化水素系の無極性溶剤とすると溶解度パラメータが小さくなり、また他方をアルコール系の極性溶剤とすると溶解度パラメータが大きくなり、これによって溶解度パラメータの差を調整できるので都合がよい。具体的には、無極性溶剤としてはメチルエチルケトンのケトン類,トルエン,キシレンの芳香族系炭化水素を、極性溶剤としてはエチルアルコール,プロピルアルコール,ブチルアルコールなどのアルコール類を用いるのが好ましい。また有機バインダーの溶解度パラメータを変えるには、2つの異なる骨格を得られ、官能基を自由に選択できるアクリル系バインダーを用いるのが好ましい。具体的には、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体のエステルを、メチル,ブチル,エチルへキシルなどと変化させることにより、極性を変え、さらに溶解度パラメータを変えることが可能となるので好ましい。
次に、図1(c)に示すように、セラミックグリーンシート4にキャビティとなる貫通孔5を形成する。貫通孔5はパンチング加工やレーザー加工等によりセラミックグリーンシートに形成される。
このとき、溶融成分は加熱しない常温では溶融せず固形であるため、溶融成分を含む第1のセラミックグリーンシート層2は常温では硬く変形しにくい。これによって、常温で行なうセラミックグリーンシート4に貫通孔5を形成する工程では、第1のセラミックグリーンシート層2は硬く変形しにくいため、貫通孔5を形成するときに発生する応力、例えばパンチングで機械的に打ち抜くときに発生するせん断応力や位置決めして貫通孔5を形成するためにグリーンシートを高速移動させて発生する振動によってセラミックグリーンシート4が変形せず、精度良く加工することができる。
貫通孔5の形成は、支持体1を剥さずに行なうと、セラミックグリーンシート4の変形を抑制することができるので好ましい。しかし、パンチングにより貫通孔5を形成する場合は、支持体1としてセラミックグリーンシート4に比べて弾性に富むPETフィルム等を用いると、セラミックグリーンシート4を打ち抜く応力を支持体1が吸収してパンチング加工できなくなる場合がある。従って、上記したようにセラミックグリーンシート4の強度を上げて変形を抑制した上で、支持体1を剥してパンチング加工するのが好ましい。レーザー加工で貫通孔5を形成する場合には、上記のようにセラミックグリーンシート4の変形を抑制するために支持体1を剥さないほうが好ましい。
セラミックグリーンシート4の第2のセラミックグリーンシート層3上や、積層体の最下層となる第2のセラミックグリーンシート層3’上に導体層を形成する場合は、貫通孔5を形成する前でもよいし後でも構わない。
導体層を形成する方法としては、例えば導体材料粉末をペースト化したものをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等により印刷したり、めっき法や蒸着法等により所定パターン形状の金属膜を形成するようなセラミックグリーンシート4上に直接形成する方法、あるいは印刷により所定パターン形状に形成した導体厚膜や所定パターン形状に加工した金属箔、めっき法や蒸着法等により形成した所定パターン形状の金属膜をセラミックグリーンシート4上に転写する方法がある。導体材料としては、例えばW,Mo,Mn,Au,Ag,Cu,Pd(パラジウム),Pt(白金)等の1種または2種以上が挙げられ、2種以上の場合は混合,合金,コーティング等のいずれの形態であってもよい。
導体層はセラミックグリーンシート4の第2のセラミックグリーンシート層3およびセラミックグリーンシート層3’上に形成されるのが望ましい。これは、第2のセラミックグリーンシート層3,3’は加熱時に溶融する溶融成分を含有しないことから、第2のセラミックグリーンシート層3,3’は加熱時に変形することはないので、その上に導体層を形成することにより導体層を変形させないようにするためである。
また、必要に応じて上下の層間の導体層同士を接続するためのビアホール導体やスルーホール導体等の貫通導体を形成してもよい。これら貫通導体は、パンチング加工やレーザー加工等によりセラミックグリーンシート4および第2のセラミックグリーンシート層3’に形成した貫通孔5に、導体材料粉末をペースト化したもの(導体ペースト)を印刷やプレス充填により埋め込む等の手段によって形成され、通常は導体層を形成する前に形成する。
また、貫通孔5の周囲には蓋体をろう材により接合するためのシール金属層となるシールパターンを導体層の形成と同様の方法で行なってもよい。
次に、図1(d)に示すように、貫通孔5が形成されたセラミックグリーンシート4と第2のセラミックグリーンシート層3’とを位置合わせして積み重ね、溶融成分が溶融状態となり第1のセラミックグリーンシート層2が軟化して変形する程度の温度、つまり溶融成分の融点程度の温度で加熱することで、セラミックグリーンシート積層体6を作製する。
セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程において、第1のセラミックグリーンシート層2は加熱時に溶融する溶融成分を含有することから、第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックグリーンシート層3’とを積層して加熱した際に第1のセラミックグリーンシート層2が軟化するので、第1のセラミックグリーンシート層2はその下に位置する第2のセラミックグリーンシート層3’および導体層を形成したときには第2のセラミックグリーンシート層3上に形成された導体パターンの形状に追従して変形することとなる。その結果、導体層周囲や導体層間に空隙が発生することなく完全に密着し、セラミックグリーンシート積層体6はデラミネーションの発生のないものとなる。
よって、セラミックグリーンシート積層体6を焼成して分割した後のセラミック基板は、キャビティ内部と基板外部とがデラミネーションで通気することがなく、セラミック基板のキャビティ部の封止が良好に行なわれるので、電子部品素子を搭載した電子部品は信頼性の高いものとなる。
また、第1のセラミックグリーンシート層2は、加熱時に溶融する溶融成分を含有することから、加熱のみで第1のセラミックグリーンシート層2が軟化して接着性を有するものとなるので、大きな加圧力によりセラミックグリーンシート4を圧着させる必要がない。よって、幅の狭い枠状のセラミックグリーンシート4が変形することがなく、キャビティ周囲部とキャビティ底部との加圧力差によるキャビティ底部の反りの発生を抑えることが可能となり、キャビティ底部に電子素子を精度よく確実に搭載することが可能なセラミック基板を得ることができる。
図1(d)の最下部に位置するセラミックグリーンシートとしては、第2のセラミックグリーンシート層3’を用い、セラミック基板の下面に導体層が露出する場合は、最下部の第2のセラミックグリーンシート層3’の両面に導体層を形成したものを用いればよい。
図1に示した例ではセラミックグリーンシート4と第2のセラミックグリーンシート層3’との2層構造であるが、積層数をセラミック基板に要求される設計に応じて増やすことが可能である。すなわち、貫通孔5を形成した枠状のセラミックグリーンシート4を複数枚積層してもよいし、第2のセラミックグリーンシート層3’の上に平板状のセラミックグリーンシート4を積層してもよい。
セラミックグリーンシート積層体6を作製する際の加熱条件は、溶融成分の融点以上の温度に保持される時間を0.3秒乃至5秒とするのが望ましい。溶融成分の融点以上の温度に保持される時間が0.3秒に満たない場合には、溶融成分の溶融が不十分となり、セラミックグリーンシート4の第1のセラミックグリーンシート層2が軟化することによって発生する接着性が低下し、セラミックグリーンシート積層体6の内部にデラミネーションが発生しやすくなってしまう。一方、溶融成分の融点以上の温度に保持される時間が5秒を超えると、加熱による溶融成分の流動が大きくなってしまい、セラミックグリーンシート積層体6が変形してしまったり、軟化した第1のセラミックグリーンシート層2の一部がキャビティ部内等に流れ込んでしまい、キャビティ部内の導体層を覆うなどしてセラミック基板に電気的接続不良をもたらしてしまったりするおそれがある。
また、セラミックグリーンシート4の加熱温度が100℃を超えるような場合は、セラミックグリーンシート積層体6中のバインダーや可塑剤等の有機成分が分解しやすくなり、分解ガスによりデラミネーションが発生しやすくなってしまうので、加熱温度は溶融成分の融点以上100℃以下の加熱温度が好ましい。
積層したセラミックグリーンシート4が位置ずれしないように、また、軟化した第1のセラミックグリーンシート層2を第2のセラミックグリーンシート層3’および導体層を形成したときには第2のセラミックグリーンシート層3’上に形成された導体層のパターン形状に追従して変形するのを補助するために押さえる程度の加圧を行なうと、より精度よく確実な圧着が可能となる。この場合の加圧力は、3kgf/cm2乃至20kgf/cm2(2.94×105Pa乃至19.6×105Pa)にすることが好ましい。加圧力が3kgf/cm2(2.94×105Pa)未満であると、圧着面との接触が不均一になり、セラミックグリーンシート積層体6に均一な温度をかけにくくなるので、セラミックグリーンシート積層体6の内部に空隙が生じ、デラミネーションが部分的に発生してしまう場合がある。一方、加圧力が20kgf(19.6×105Pa)を超えると、軟化した第1のセラミックグリーンシート層2が押し出されて流動し、キャビティ部内等に第1のセラミックグリーンシート層2の一部が流れ込んでしまいやすくなる。
セラミックグリーンシート4を積層するための積層装置は、圧着面に加熱部を有し内部に冷却部を有した上パンチ部と、セラミックグリーンシート積層体6を支持する下パンチ部とからなるものを用いることが好ましい。上パンチ部の加熱部は、通電することによって板状の抵抗体を発熱させる構造をとっているものとすることにより、セラミックグリーンシート積層体6を均一に加熱することが容易となり、さらに、抵抗体の発熱量を抵抗体材料の種類や厚みにより調整できるため、セラミックグリーンシート積層体6の形状などに応じて加熱量を調整することができ、セラミックグリーンシート積層体6の変形や、キャビティ構造やビアホール等に溶融成分を含んだ軟化した第1のセラミックグリーンシート層2が流れ込んでしまうことを一層効果的に抑えることができる。また、冷却部を有することから上パンチを発熱させた後に瞬時に冷却できるので、上記のような好ましい短時間の加熱がより容易となる。
また、積層装置は、油圧サーボ方式や電気サーボ方式を用いて、上パンチ部や下パンチ部がセラミックグリーンシート4の圧着の際に可動する構造のものが好ましい。このような積層装置によれば、パンチの加圧力を所望に応じて調整できるので、セラミックグリーンシート積層体6の積層時の加圧力を小さくできる。さらに、圧着した状態でセラミックグリーンシート積層体6のパンチの加圧力を細かく制御することができるので、セラミックグリーンシート積層体6の変形や、キャビティ部やビアホール等に溶融成分を含んだ軟化した第1のセラミックグリーンシート層2の一部が流れ込んでしまうことをさらに効果的に抑えることができる。
次に、図1(e)に示すように、セラミックグリーンシート積層体6に、焼成した後に分割するための溝加工を行なう。溝加工により形成される分割溝7は、縦断面形状をV字形とすると、セラミックグリーンシート積層体6を焼成した後にセラミック基板を分割する際に、容易に良好に分割できるので望ましい。さらに、分割溝7はセラミックグリーンシート積層体6の上下面に形成すると、容易に、またバリや欠け等の発生がなく良好に分割できるので望ましい。分割溝7の縦断面形状をV字形とするには、縦断面形状がV字形の切断刃を有する金型やカッター刃をセラミックグリーンシート積層体6に押し当てることにより加工すればよい。
このとき、溶融成分は加熱しない常温では溶融せず固形であるため、溶融成分を含む第1のセラミックグリーンシート層2は常温では硬く変形しにくい。このため、分割溝7を形成するときの変形、例えば切断刃をセラミックグリーンシート4に押し込んだ際に、切断刃の周囲のセラミックグリーンシート4が押されることによる変形も抑えられ、精度良く加工することができる。
分割溝7の深さは、セラミック基板を分割する工程までの取り扱い時に割れない程度にできるだけ深くするのが望ましい。具体的には、セラミックグリーンシート積層体6の厚みの1/3乃至1/2の深さの分割溝7を形成するのがよい。この深さで分割溝7を形成すると、セラミック基板を分割する工程までの取り扱いでは割れず、分割する際にはバリや欠け等の発生がなく良好に分割することができる。セラミックグリーンシート積層体6の上下面に分割溝7を形成する場合は、上下の分割溝7の深さの合計がこの範囲となるようにすればよい。
そして、溝加工されたセラミックグリーンシート積層体6を焼成することにより、セラミック基板が作製される。焼成する工程は有機成分の除去とセラミック粉末の焼結とから成る。有機成分の除去は100℃乃至800℃の温度範囲でセラミックグリーンシート積層体6を加熱することによって行ない、有機成分を分解し揮発させ、焼結温度はセラミック組成により異なり、約800℃乃至1600℃の範囲内で行なう。焼成雰囲気はセラミック粉末や導体材料により異なり、大気中、還元雰囲気中、あるいは非酸化性雰囲気中等で行なわれ、有機成分の除去を効果的に行なうために水蒸気等を含ませてもよい。
セラミック材料としてガラスセラミックスのような低温焼結材料を用いる場合は、セラミックグリーンシート積層体6の上下面にさらに拘束グリーンシートを積層して焼成し、焼成後に拘束シートを除去するようにすれば、より高寸法精度のセラミック基板を得ることが可能となる。拘束グリーンシートは、Al2O3等の難焼結性無機材料を主成分とするグリーンシートであり、セラミックグリーンシート積層体6の焼成時に収縮しないものである。この拘束グリーンシートが積層された積層体は、収縮しない拘束グリーンシートにより積層平面方向(xy平面方向)の収縮が抑制され、積層方向(z方向)にのみ収縮するので、焼成収縮に伴う寸法ばらつきが抑制される。このときの拘束グリーンシートも、本発明におけるセラミックグリーンシート4と同様の、溶融成分を含む第1のセラミックグリーンシート層2と溶融成分を含まない第2のセラミックグリーンシート層3とを有する構成にすると、拘束グリーンシートをセラミックグリーンシート積層体6に積層して圧着する際にも大きな加圧力を必要としないので、セラミックグリーンシート積層体6を変形させることがなく、得られるセラミック基板がより高寸法精度のものとなるのでよい。
また、拘束グリーンシートには、難焼結性無機材料の主成分に加えて、焼成温度以下の軟化点を有するガラス成分、例えばセラミックグリーンシート4中のガラスと同じガラスを含有させるとよい。焼成中にこのガラスが軟化してセラミックグリーンシート4と結合することによりセラミックグリーンシート4と拘束グリーンシートとの結合が強固なものとなり、より確実な拘束力が得られるからである。このときのガラス量は、難焼結性無機成分とガラス成分を合わせた無機成分に対して0.5質量%乃至15質量%とすると、拘束力が向上し、かつ拘束グリーンシートの焼成収縮が0.5%以下に抑えられる。
焼成後、拘束グリーンシートが焼成されてセラミック基板に保持されている拘束シートを除去する。除去方法としては、例えば研磨,ウォータージェット,ケミカルブラスト,サンドブラスト,ウェットブラスト(砥粒と水とを空気圧により噴射させる方法)等が挙げられる。
焼成後のセラミック基板の表面に露出した導体層やシール金属層がある場合には、その表面に、腐食防止のために、または半田や金属ワイヤ等の外部基板や電子部品素子との接続手段の良好な接続のために、ニッケルや金のめっきを施すとよい。
以上のように、本発明の製造方法で作製されたセラミック基板は、その内部にデラミネーションを有さず、小型で寸法精度の高いものとなり、電子部品素子を良好に搭載し、気密に封止することができるので、小型で信頼性の高い電子部品を得ることのできるものとなる。