JP2008075164A - 巻取式真空蒸着方法及び装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】巻取装置によって真空中を走行するフィルム基材の上に、電子ビームによって金属酸化物を被覆する反応蒸着方法において、蒸発材料を前記フィルム基材の上に成膜ドラム上で堆積させた後に、前記フィルム基材が成膜ドラムから剥離する近傍の成膜ドラムの内部に永久磁石を配置することで成膜ドラム表面に磁場を形成し、フィルム基材が成膜ドラムから剥離する際に発生する電気エネルギーを利用することで、剥離箇所に安定したグロー放電を起こさせる。
【選択図】図1
Description
図4において、耐熱性と熱容量の大きい材料から構成される坩堝1内に挿入された蒸発材料2に高エネルギーの電子線を照射させることで蒸発材料を加熱、蒸発させることができる。巻出ロール3から巻出されたフィルム基材4は成膜ドラム5へ搬送される。フィルム基材4は、成膜室6内で蒸発材料2がフィルム基材4上に薄膜積層され、成膜ドラム5から離れた後に巻取ロール7によって巻き取られる。成膜ドラム5にはフィルム基材4から、蒸発過程で生じた熱によって発生する放出ガス及び坩堝1および蒸発材料2から放射される熱線によって基材が変形するのを抑制するために通常0°C〜−20°C近辺にまで冷却調整される。さらに、蒸発過程において成膜室内蒸発中に酸素や窒素などの反応性ガスを導入することにより酸化物や窒化物のセラミックス薄膜を形成することができる。
また、巻取可能な場合でも、成膜ドラム5とフィルム基材4間の界面には、剥離時に静電気力に応じた放電が生じフィルム基材4に放電痕(ピンホール)などの損傷を与えるばかりでなく、巻取張力も不安定になるため成膜されたフィルムを皺などのストレスを与えずに巻取ることが極めて困難になる。特に、生成される薄膜が金属酸化物である場合、誘電体となるために、電荷が蓄積しやすくなることで更なる巻取障害を引き起こす。
また、一般的に放電装置のために必要な導入ガスには、成膜面と化学反応させないように、イオン化したアルゴンガスやネオンガスなどの不活性ガスが用いられるが、これらのガスは放電し、静電気力を緩和するために必要なガスであり、反応・吸着されることなく、排気ポンプにて全て排出されるため、成膜雰囲気に著しい圧力上昇を伴うこととなる。
これを回避する対策として、剥離箇所や巻取室10と成膜室6との間に仕切り板や中間室などを設けることでガス分離する方法が提案されているが、設備のコストアップや複雑化、既存設備への大幅改造が余儀なくされる。
また本発明の巻取式真空蒸着装置は、真空中においてフィルム基材を巻き出し、成膜ドラム上を走行する前記フィルム基材に金属酸化物を蒸着し、前記金属酸化物が蒸着した前記フィルム基材を巻き取る巻取式真空蒸着装置であって、前記フィルム基材が前記成膜ドラムから剥離する近傍の前記成膜ドラム内部に永久磁石が設置されるとともに、前記成膜ドラムの対極がチャンバー外壁であり、前記成膜ドラムに40kHzから100kHzの高周波電位を印加することを特徴とする。
特に、成膜ドラムに40kHzから100kHzの高周波電位を印加ことにより、安定した連続放電により高周波電位を成膜ドラムに印加できる。また、成膜ドラムからフィルム基材が剥離する箇所の圧力帯域を10−1Pa以下としたことにより、適正な放電を維持しつつ、成膜圧力を低く抑え不純物が混入しない環境を整備することが可能となる。
図1は本発明の実施の形態による巻取式真空蒸着装置の一例を示す概略断面図である。なお、図4に示す従来例と共通の構成は同一符号を付して説明する。
図1において、巻取式真空蒸着装置8は巻取室10と成膜室6の上下のチャンバーを有し、上側の巻取室10には巻出ロール3、巻取ロール7、成膜ドラム5が配置され、その間をフィルム基材4が走行している。成膜ドラム5は冷却および回転などの要因で設置されるために、常に放電に対して設置電位となる場合が多い。
一方、下側の成膜室6内に配置された蒸着材料2を電子銃14から生成された電子ビーム9で加熱蒸発する。また、巻取室10と成膜室6をそれぞれ排気ポンプ11にて真空排気する。
成膜室6にて薄膜を形成した後に走行してきたフィルム基材4が成膜ドラム5から離れるエリア12の剥離箇所近傍の成膜ドラム5内部に永久磁石13を配置しており、永久磁石13は成膜ドラム5の回転と共に回転しないように固定されている。
また、成膜ドラム5(陰極)の対極となるものは、銅板などで高周波接地されていればよく、好適な手段として、チャンバー外壁20および成膜ドラム5から一定距離を離したカバー19などを配置することで放電状態をより安定させることができる。
放電開始電圧Vは圧力pと放電間距離dの積で最小値をとる法則であるため、放電間距離dが一定であると仮定するならば、圧力pだけで放電開始電圧Vが決まり、このVを低下させることでフィルム基材4や薄膜にダメージを与えない程度の電圧に下げて放電を起こさせることができ、帯電障害が生じる程のエネルギーでの放電を抑制できることになる。しかしながら、真空装置内部に不活性ガスを導入すると、真空槽内部の圧力が上昇し、排気ポンプに負荷がかかると同時に、プロセスの成膜環境に悪影響を与えてしまう。
これは成膜ドラム5の内部に永久磁石を配置し、成膜ドラム5に40〜100kHzの高周波電位を印加することで成膜ドラム5が陰極となり、その磁力線が閉じ、磁力線の一部が成膜ドラム5のロール面に対して平行になるため、剥離箇所近傍において真空装置内に滞在するガスが電離、プラズマ化し、磁界に電子が捕捉されることで電流が閉じたいわゆるマグネトロン放電が持続するためである。
また、この放電は電子とイオンが効率良く衝突を繰り返すために、平均自由工程が大きい圧力領域:10−2Pa近辺においても放電が持続できるために、成膜プロセス圧力に影響を及ぼすことがない。なお、他の代替手法としては、成膜ドラム5の近傍に放電電極およびガス導入系を配置することでフィルムに付着した帯電を緩和する機構を有したものも開発されているが、放電電極をフィルム基材の表裏に配置しなくてはならないこと、剥離箇所その場所には電極を配置できないために効果を発揮しない。
このような本実施の形態によって、放電を開始できる圧力を低くしたまま、また、放電電極によるフィルムの擦れがなく、かつ剥離箇所その場所にグロー放電を安定して起こすことが可能となるために、帯電障害が起こらない状態で巻取が可能となる。
一般的な分離において、100KHz以上の高周波を用いた放電(以下高周波放電)と、それ以下の周波数において放電する(以下、低周波放電という)がある。
低周波放電とは、放電空間において電子衝突電離(α効果)と、電極での荷電粒子の衝突による二次電子放出(γ効果)によって放電が維持するものをいい、半周期ごとに極性が切り変わる直流放電的な振舞を示すため、著しい低周波放電(40KHz以下)では、不連続な放電状態になる場合がある(例えば、河合良信著 最新プラズマ発生技術(アイピーシー) P62参照)。
よって、40〜100KHzの高周波帯では、複雑な整合回路を必要としない。
この結果、本実施の形態では、成膜ドラム5への印加電圧に40〜100KHzの高周波を用いる。
まず、2枚の平行電極の間隔をd、内部の圧力をPとし、電極の間に電圧Vsをかけたときに、放電を開始する電圧は、P×dの項に対して極小値を持つ。これは、Pを下げると電子の平均自由工程が長くなり、電界による加速が大きく、衝突電離が盛んになるためであるが、ある所まで平均自由工程が長くなると、逆に電極間で電子の衝突回数が減少するために、衝突電離が不活発となり、放電開始電圧は再び上昇する。
一般に、マグネトロンを用いた放電においては、電子が磁石の効果によって電極間に捕捉されるために、衝突回数が増え、圧力が低くても放電が維持できる。
また、一般に蒸着プロセスにおいて、高密度の膜を形成するためには、成膜圧力を低く抑え不純物が混入しない環境を整備する必要があるため、蒸着プロセスに隣接する剥離放電抑制プロセスにおいても極力低圧力下での放電が望ましい。
まず、実施例1として、フィルム基材として12μmの厚みを有するPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを選定し、加速電圧40kV、12kWの電子ビームをアルミ塊に照射し溶融・蒸発させた環境下に、酸素ガスを導入し、60m/minの速さでフィルム基材上にアルミナ薄膜を形成した。
成膜ドラムにサマリム−コバルト合金からなる永久磁石13を、図2に示すように、内部のS極17をヨーク18を介してN極16で包囲するような形で配置し、成膜ドラムに40kHzの高周波を印加しながら膜形成を行った。ここで、成膜ドラムの表面近傍の磁力をガウスメータにて測定したところ約200ガウスであった。
フィルム走行面(蒸着裏面)と成膜ロールの間のエリアに剥離面に向けて噴射するように固定された直径6mmのPET製のチューブを配置し、直径1mm、ピッチ10mmの気体噴出孔から2×10-4m3/minのアルゴンガスを導入しながら膜形成を行った。
また、比較例2として、比較例1と同様の装置で、液体蒸気噴射口に水蒸気およびアルゴンガスを導入しない条件で成膜を実施し評価した。
(1)酸化アルミ層酸素透過率:モダンコントロール社製酸素透過度測定器(MOCON OXTRAN)用いて40°C−90%RH雰囲気下にてフィルムを測定する。
(2)酸化アルミ層のピンホール:薄膜面側から強浸透性の液体を噴霧し、浸透させ裏面に滲出したかを目視にて観察する。
(3)フィルムの巻姿:巻き取られた原反を目視にて観察、皺が要因で発生するゲージバンドや巻取張力不安定により発生する蛇行による巻きズレ量を定規にて測定する。
(4)フィルムの裏面傷:巻取成膜された原反を巻き剥がし、成膜されたフィルムの巻取方向での縦傷を目視にて観察する。
(5)アルミナ成膜中の圧力:熱陰極電離真空計(イオンゲージ)を用いてアルミナ蒸着中の成膜室及び、巻取室の圧力を観察する。
膜厚80−120nmのAlOx薄膜上に強浸透性の液体をそれぞれ噴霧したところ、実施例1、比較例1ではほとんど滲出は確認されなかったが、比較例2では広範囲に渡り液体が滲出し、ピンポールが非常に多く存在することが確認された。また、実施例1、比較例1では通常巻取時に発生するフィルム皺によるゲージバンドも見られず、巻きズレ量も±1mm程度と良好であり、さらに巻き取られたフィルムの裏面に巻取による縦傷も観察されなかった。しかし、比較例2では液体蒸気噴射孔由来の縦傷が多数観測されフィルムがチューブに巻き込まれ巻取不良が発生した。
この要因は、大量に蓄積された静電気力が強い放電発光を伴いながら一度に瞬間的にエネルギーを放出しフィルムを弛ませたことにより、張力が一定に制御できずフィルムが上下に波を打つ挙動を引き起こしたため、皺が発生したと考えられる。
一般に蓄積された静電エネルギーを無理なく放出するためには、剥離するエリア近傍の圧力を数Paレベルに上昇させる必要がある。しかし、通常の不活性ガスを導入すると成膜室の圧力も上昇してしまうために成膜環境に多大な影響を与えてしまう(一般に成膜室の圧力が上昇すると、蒸発された分子の平均自由工程が小さくなり、基材フィルムに衝突するエネルギーが小さくなり、基材に対して密着不良が起こる。また、密度が疎(ポーラス)な膜になるために、膜の機能が失われることが多い)。
さらに、従来、フィルムの裏面の帯電を除去するために必要であったガス導入パイプや筒状の放電電極の必要性もなくなり、これによりフィルムの裏面が擦れて著しい傷をつけたりすることを抑制することが可能となる。
Claims (6)
- 真空中においてフィルム基材を巻き出し、成膜ドラム上を走行する前記フィルム基材に金属酸化物を蒸着し、前記金属酸化物が蒸着した前記フィルム基材を巻き取る巻取式真空蒸着方法であって、
前記フィルム基材が前記成膜ドラムから剥離する近傍の前記成膜ドラム内部に永久磁石を設置するとともに、前記成膜ドラムの対極をチャンバー外壁とし、
前記成膜ドラムに40kHzから100kHzの高周波電位を印加する、
ことを特徴とする巻取式真空蒸着方法。 - 前記成膜ドラムからフィルム基材が剥離する箇所の圧力帯域が10−1Pa以下であることを特徴とする請求項1記載の巻取式真空蒸着方法。
- 真空中においてフィルム基材を巻き出し、成膜ドラム上を走行する前記フィルム基材に金属酸化物を蒸着し、前記金属酸化物が蒸着した前記フィルム基材を巻き取る巻取式真空蒸着装置であって、
前記フィルム基材が前記成膜ドラムから剥離する近傍の前記成膜ドラム内部に永久磁石が設置されるとともに、前記成膜ドラムの対極がチャンバー外壁であり、
前記成膜ドラムに40kHzから100kHzの高周波電位を印加する、
ことを特徴とする巻取式真空蒸着装置。 - 前記成膜ドラムからフィルム基材が剥離する箇所の圧力帯域が10−1Pa以下であることを特徴とする請求項3記載の巻取式真空蒸着装置。
- 前記永久磁石は、成膜ドラムの回転と共に回転しないように固定されていることを特徴とする請求項3記載の巻取式真空蒸着装置。
- 蒸発材料が挿入された坩堝と、前記蒸発材料に電子線を照射させる電子銃と、前記坩堝及び電子銃が配置される成膜室と、前記成膜ドラム、巻出ロール、及び巻取ロールが配置される巻取室と、前記成膜室及び巻取室を真空排気する排気ポンプとを有することを特徴とする請求項3記載の巻取式真空蒸着装置。
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