JP4225051B2 - 巻取式真空蒸着方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、巻取走行するフィルム基材に対し電子ビームによる加熱蒸発によって薄膜形成する巻取式真空蒸着方法に係わり、さらに詳細には、走行するフィルム基材も帯電を除去するための気体を導入する手段を備えた巻取式真空蒸着方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、プラスチック等の基材を用いて、その表面に薄膜を形成し機能性を持たせたフィルムの開発が盛んに行われている。その代表例として、ガスバリア膜を付加し、食品包装材などに応用されている。AlOx,SiOx,MgO等の金属酸化物からなる薄膜がフィルム上に形成され、これらは透明性かつ酸素,水蒸気等の気体遮断性を持つため利用される。プラスチックを代表とするフィルム基材に対しての電子ビーム加熱による巻取式真空蒸着装置の最も簡単な概念図を図5に示すように、蒸発材料18は耐熱性を有するるつぼ17に入れられ、蒸発材料に高エネルギーの電子が衝突することで加熱蒸発する。巻出ロール13から巻出されたフィルム基材12は成膜ロール14へ送られる。フィルム基材12は、成膜室内で蒸発材料18をに蒸着させ、成膜ロール14から離れ巻取られて巻取ロール15となる。成膜ロール14は冷却を行い、蒸発過程で生じた熱によるフィルム基材12の浮きを少なくしている。さらに、この過程で成膜室内蒸発中に酸素などの反応性ガスを入れることで比較的容易に酸化物薄膜などを成膜することができ、一般に反応性蒸着と呼ばれている。
【0003】
フィルム基材12が巻出し、成膜、巻取と一連の動作を行うと、成膜ロール14の出口箇所においてフィルム基材12と成膜ロール14間で剥がそうとする張力が働く。しかし、それとは逆の向きに静電気力によるフィルム基材12と成膜ロール14が密着しようとする力が働く。張力>静電気力の関係にあれば、成膜ロール14からフィルム基材12が剥がれ、巻取られていく。そのときの成膜ロール14とフィルム基材12間の界面は、静電気力に応じた放電が生じフィルム基材12に衝撃を与える。その衝撃により、フィルム基材12または薄膜に損傷が生じたり、張力が不安定となるなどの不都合が生じる。一方、張力<静電気力の関係にあれば、フィルム基材12が成膜ロール14から剥がれることなく、成膜ロール12から送り出されずに成膜ロール14の入り口へと巻き込まれることで巻取不可能となる。
【0004】
このような問題の対処するため、成膜ロール14での剥離箇所の静電気力を減らす方法が多数考えられてきた。この静電気力は電子ビームによって蒸発材料18の上部より散乱電子や反跳電子などがフィルム基材12まで到達したものと考えられている。これは、電子ビームを蒸発材料に照射することで急激に静電気力が増大している点から予想できる。さらに生成する薄膜も金属酸化物であると誘電体になるため、散乱電子や反跳電子などが蓄積してしまう。
【0005】
従来、イオンによる中和で静電気力を減少させることが考えられている(例えば、特許文献1参照。)。このイオンの役割はフィルム基材に到達する前もしくはフィルム基材上で帯電の要因になる電子を中和することで静電気力の緩和を行う。ただし、イオン発生のための装置が必要なことと成膜条件によってイオン中和の最適条件が変わってしまう問題点がある。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−313953号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、電子ビーム蒸着を行うときにフィルム基材の帯電障害をなくし、損傷のない安定な成膜を可能とする巻取式真空蒸着方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、すなわち請求項1に係る発明は、真空中を巻取装置によって走行するフィルム基材が、電子ビームによって真空蒸着される真空蒸着方法において、
前記走行する基材が蒸発材料を堆積する成膜ロールから離れる箇所であり、かつ、前記基材と成膜ロールの間に、柔軟性を有するチューブ状の部材に気体噴射孔を設けた気体を導入する手段を備え、該走行する基材が成膜ロールから離れる部分に向けて前記気体を噴射することを特徴とする巻取式真空蒸着方法である。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、請求項1記載の巻取式真空蒸着方法において、前記気体が、Ar,Ne等の不活性気体であることを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の巻取式真空蒸着装置の一例を示す断面図である。巻取式真空蒸着装置11には巻取ロール13と巻出ロール15の他に複数のガイドロール20と成膜ロール14から成る巻取部、成膜ロール14上をフィルム基材12が走行している場所に成膜室と呼ばれる薄膜形成部がある。それらを真空環境下にするため巻取部、薄膜形成部を各々真空排気する真空ポンプ10が設けられている。薄膜形成部を経路として走行してきたフィルム基材12が成膜ロール14から離れる部分に向けて気体を噴出する小さな孔が多数存在する気体導入部21がある。
【0012】
これにより、成膜ロール14とフィルム基材12の剥離面での圧力を上げることで、パッシェンの法則V=f(p×d)(Vは放電開始電圧[V],fは圧力p[Pa]と放電間距離d[m]で決まる関数)の放電開始電圧Vを低下することができる。この放電開始電圧Vは圧力pと放電間距離dの積で最小値を取る法則であるので、放電間距離dが一定であると仮定するなら、圧力pだけで放電開始電圧Vが決定される。この放電開始電圧Vを低下することで、フィルム基材12や薄膜の絶縁破壊を起こさない程度の電圧になるため、放電は起こるが障害が生じる程のエネルギーは無くなる。
【0013】
成膜ロール14は冷却および回転等の要因で接地されることが多いため、常に放電に対して接地電極となりうる。薄膜形成部には蒸発材料18とるつぼ17から成る蒸発源があり、電子ビーム19によって加熱蒸発し薄膜を形成することができる。電子ビーム19は電子銃16で生成し、電子銃16は熱電子放出型などの一般的な電子銃を用いることができる。以上より、従来の電子ビーム蒸着よって問題となるプラスチックフィルム基材などの誘電体基材の帯電障害を防ぐ。
【0014】
フィルム基材12は、公知のものを使用することができ、例えばポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド系(ナイロンー6、ナイロンー66等)、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエーテルスルホン、アクリル、セルロース系(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース等)などが挙げられるが特に限定しない。
【0015】
蒸発材料18は、様々な金属(例えば、Al,Cu,Ti,Si等)、またはTiO2,MgO,SiO2,SiO,Al2O3,ZrO2,ZnS等のセラミックが挙げられるが特に限定はしない。
【0016】
気体導入手段としてのチューブ状の部材21としては、材質は特に限定しなが、柔軟性を有する、例えばテフロン(登録商標)等が好ましく用いられる。また、チューブ状の部材の断面形状、およびこの部材に設けられる気体の噴射孔の形状等は特に限定されず、図2〜4に示すように、例えば断面形状が四角形、円形、三角形状のチューブ状の部材22,25,26およびこの部材に設けられる気体噴射孔の形状がスリット状穴23もしくは複数個の円形状穴24等を設けることができる。なお、気体が成膜ロールからフィルム基材の離れる部分に効率よく噴射することを達成させるためには、スリット状穴23もしくは円形状穴24が大き過ぎると気体が拡散してしまうので、好ましくは、スリット状穴の場合は1mm巾以下、円形状穴の場合は直径1mm以下であれば拡散の影響を低減することができる。
【0017】
このように、図1に図示した装置による薄膜形成する場合、フィルム基材12を巻出しロール13のように設置し蒸発材料18をるつぼ17に収め、上下真空室を適度な圧力になるまで真空ポンプ10で真空排気を行う。電子ビーム19が照射できる圧力になれば電子銃16が動作させ蒸発材料18を蒸発するまで加熱させ、フィルム基材12を成膜ロール14上に走行させることで蒸発材料18による薄膜を形成することができる。その後、巻取ロール15のようにフィルム基材12が巻き取られる。このときのフィルム基材12には蒸発材料18の他に、散乱電子や二次電子が入射し成膜ロール14からフィルムが剥がれるとき静電気力がかかり、無理に引っ張ろうとすると帯電障害が生じる。放電開始電圧を下げるように、気体導入手段としての気体噴射孔を設けたチューブ状の部材21からのAr、Ne等の不活性気体を圧力を上げて噴射することで、剥離を無理なく行えるようにする。さらに、チューブ状部材の材質として柔軟性を有するものをを使うことでフィルム剥離面がチューブを押し出すような強い静電気力がかかっても剥離面に接しながらガス導入を行えるため、効率良く放電開始電圧を下げることができる。よって、静電気力が放電エネルギーに変換されるが数百V程度の放電電圧なので帯電障害が起こらない成膜ができる。
【0018】
【実施例】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0019】
〈実施例1〉
フィルム基材として25μmの厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、蒸発材料としてAl、加速電圧40kV、15kWの電子ビームを電子銃から生成し、Al蒸発中に酸素ガスを入れ、反応性蒸着を行いながら成膜ロール上を60m/minで走行するPETフィルム上にAlOxの薄膜を生成した。フィルム走行面と成膜ロールの間にテフロン(登録商標)製のチューブ(直径3mm)を設置し、数カ所に気体噴出孔(直径1mm)からArガスを導入し、剥離面に噴射するように固定し成膜中は常にArが剥離面の圧力を上げるようにした。こうして形成したAlOx薄膜の評価に成膜面側から強浸透性の液体を噴霧し、浸透させ裏面に滲出したかどうかでピンホールの有無を調べた。また、成膜中において成膜ロールとフィルム基材の剥離状態を目視で確認した。
【0020】
〈比較例1〉
実施例1と同様の装置で、気体導入のためのテフロン(登録商標)製チューブを外した以外は同条件で成膜をし、実施例1と同様に評価した。その結果を以下に示す。
【0021】
AlOx膜上に強浸透性の液体をそれぞれ噴霧したところ、実施例1ではほとんど滲出は確認されなかった。ところが比較例1では広範囲に渡り液体が滲出したため、ピンポールが非常に多く存在していた。成膜中での剥離面を目視で確認したところ、実施例1では剥離面周辺に薄く発光するグロー放電が見受けられたが、フィルムは成膜ロールから問題なく剥離し、巻き取られたフィルムに皺は見られなかった。ところが、比較例1では剥離面に沿うように強い放電発光が見えて剥離箇所が前後に移動するといった不安定な状態だった。静電気力は強い放電発光が見えるときにエネルギーを放出し、フィルムを弛ませる。そのため、張力調整が一定に制御できずにフィルムが上下に波を打つ挙動が見られた。さらに巻取られたフィルムには皺が生じてしまった。
【0022】
〈実施例2〉
気体導入孔(直径1mm)付きテフロン(登録商標)製チューブ(直径5mm)を平常時にフィルム基材が剥離する箇所の20mm外側にある程度緩く設置し、25μmの厚さのPETフィルムを用いてAl材料を電子ビーム(加速電圧40kV,出力15kW)で蒸発させた。Al蒸気中に酸素ガスを導入し反応性蒸着を行いAlOx成膜を行った。。PETフィルムは60m/minで走行させ、気体導入孔を剥離面にむけArガスを噴出させた。評価は実施例1と同様にピンホールの有無、および剥離面の目視による確認を行った。
【0023】
〈比較例2〉
気体導入孔付きSUS管(直径6mm)で行い、設置場所をフィルム基材が剥離する箇所の80mm外側に固定した以外はすべて実施例2と同様の条件で行った。評価も実施例2と同様にて行った。その結果を以下に示す。
【0024】
実施例2でのAlOx膜に対して、高浸透性の液体を噴霧したところ滲出されなかったのでピンホールはほとんど無かった。目視によって剥離面での強い発光は見られずに、安定に巻取られ皺もほとんど無かった。比較例2では、一部に高浸透性の液体が滲出されていたので、ピンホールが発生していた。剥離面を見ていたところ平常時に剥離するところが静電気力によって外側に巻き込まれる形で移動し、80mm外側のSUS管を擦りながら、剥離していた。よって、剥離面に近い場所に気体導入孔を置く必要があり、近すぎてもフィルムにキズをつける恐れがあるため、成膜ロール上に気体導入チューブを固定して設置よりは緩く置いた柔軟性のあるチューブを用いた方が、剥離面の状態によって調整することは無く自由度があって効果的と言える。
【0025】
【発明の効果】
以上のように、本発明によると、巻取走行するフィルム基材に対し電子ビームによる加熱蒸発によって薄膜形成する巻取式真空蒸着方法で散乱電子や二次電子が入射し、成膜ロールからフィルムが剥がれるとき静電気力がかかり、無理に引っ張ろうとするときの帯電障害が生じる際に、放電開始電圧を下げるように、気体導入手段としての気体噴射孔を設けたチューブ状の部材からのAr、Ne等の不活性気体を圧力を上げて噴射することで、フィルム基材の帯電障害をなくし、損傷のない安定な成膜を可能とする巻取式真空蒸着方法を提供することができる。
【0026】
さらに、気体導入手段として、柔軟性を有するチューブ状の部材を使うことでフィルム剥離面がチューブを押し出すような強い静電気力がかかっても剥離面に接しながらガス導入を行えるため、効率良く放電開始電圧を下げることができる。フィルム基材や薄膜の絶縁破壊を起こさない程度の電圧になるため、放電は起こるが障害が生じない程度までエネルギー無くす効果が得られ、また高価な装置や大がかりな専用器具を必要とせずに、他の巻取成膜装置に取り付けこともできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の巻取式真空蒸着装置の一例を示す説明図である。
【図2】本発明における気体導入手段としての気体噴射孔を設けたチューブ状の部材の一例を示す概略斜視図である。
【図3】本発明における気体導入手段としての気体噴射孔を設けたチューブ状の部材の他の例を示す概略斜視図である。
【図4】本発明における気体導入手段としての気体噴射孔を設けたチューブ状の部材のさらに別の例を示す概略斜視図である。
【図5】従来の巻取式真空蒸着装置の最も簡単な構成を示す説明図である。
【符号の説明】
10…真空ポンプ
11…巻取真空成膜装置
12…フィルム基材
13…巻出しロール
14…成膜ロール
15…巻取ロール
16…電子銃
17…るつぼ
18…蒸発材料
19…電子ビーム
20…ガイドロール
21…気体噴射孔を設けたチューブ状の部材
22、25、26…断面形状の異なるチューブ状の部材
23…スリット状孔
24…円形状孔
Claims (2)
- 真空中を巻取装置によって走行するフィルム基材が、電子ビームによって真空蒸着される真空蒸着方法において、
前記走行する基材が蒸発材料を堆積する成膜ロールから離れる箇所であり、かつ、前記基材と成膜ロールの間に、柔軟性を有するチューブ状の部材に気体噴射孔を設けた気体を導入する手段を備え、該走行する基材が成膜ロールから離れる部分に向けて前記気体を噴射することを特徴とする巻取式真空蒸着方法。 - 前記気体が、Ar,Ne等の不活性気体であることを特徴とする請求項1記載の巻取式真空蒸着方法。
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