以下、上記発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
<<第1実施形態>>
図1に示すように、本例の成膜装置1は、縦置き円筒状の真空容器10を含む。
真空容器10は、公知の成膜装置で通常用いられるような概ね円筒の形状を有するステンレス製の容器であり、接地電位とされている。真空容器10には、排気口(不図示。本実施形態では図1に向かって右側)が設けられており、この排気口を介して真空ポンプ(不図示)が接続されている。真空ポンプを作動させることで、真空容器10の内部が所定圧力(例えば10−4〜3×10−2Pa程度)に排気されるようになっている。真空容器10には、内部にガスを導入するためのガス導入管(不図示)が形成されている。真空容器10には、扉(不図示。本実施形態では図1に向かって左側)を介して、ロードロック室(不図示)が接続されていてもよい。
真空容器10の内部の上方には、基板ホルダ12が保持されている。基板ホルダ12(基体保持手段)は、垂直軸回りに回転可能に保持されるドーム状に形成されたステンレス製の部材であり、モータ(不図示。回転手段)の出力軸(不図示。回転手段)に連結されている。
基板ホルダ12の下面(基体保持面)には、成膜の際に、複数の基板14が支持される。なお、本実施形態の基板ホルダ12の中心には、開口が設けられており、ここに水晶モニタ50が配設されている。水晶モニタ50は、その表面に蒸着物質(成膜材料の蒸発物)が付着することによる共振周波数の変化から、基板14表面に形成される物理膜厚を膜厚検出部51で検出する。膜厚の検出結果は、コントローラ52に送られる。
真空容器10の内部の上方には、基板ホルダ12を上方から包み込むように電気ヒータ53(加熱手段)が配設されている。基板ホルダ12の温度は、熱電対などの温度センサ54で検出され、その結果はコントローラ52に送られる。
コントローラ52は、膜厚検出部51からの出力に基づいて、後述する蒸着源34のシャッタ34a及びイオン源38のシャッタ38aの開閉状態を制御し、基板14へ形成される薄膜の膜厚を適切に制御する。また、コントローラ52は、温度センサ54からの出力に基づいて、電気ヒータ53を制御し、基板14の温度を適切に管理する。なお、コントローラ52は、後述のイオン源38及び蒸着源34の作動開始や作動停止についても管理する。
真空容器10の内部の側面側には、エネルギー粒子照射手段が配設されている。エネルギー粒子照射手段の一例としてのイオン源38は、第1に、蒸着源34(後述。以下同じ)の作動開始前にイオンビーム(ion beam)を基板14に向けて照射し、基板14の表面をクリーニングする目的で使用されるエネルギー粒子照射装置である。第2に、蒸着源34の作動開始による成膜材料の供給とともに照射し、基板上に堆積する薄膜にイオンアシスト効果を与える目的で使用される成膜アシスト装置としてのエネルギー粒子照射装置でもある。
イオン源38は、反応ガス(例えばO2)や希ガス(例えばAr)のプラズマから、正に帯電したイオン(O2 +,Ar+)を引き出し、加速電圧により加速して基板14に向けて射出する。イオン源38の上方には、イオン源38から基板14に向かうイオンビームを遮断する位置に開閉操作可能に設けられたシャッタ38aが備えられている。シャッタ38aは、コントローラ52から指令により適宜開閉制御される。
本例のイオン源38は、例えば図2に示すように、モータからの出力を受けて垂直軸回りに回転している回転途中の基板ホルダ12に保持されるすべての基板14のうち、太い実線で囲まれる領域A2に移動してきた特定の基板14群に対してのみ、イオンビームを部分的に照射可能となるような構成(例えば電極の曲率)、配置及び/又は向きで配置されている。
すなわち本例では、イオン源38によるイオンビームの照射領域(A2)が、基板ホルダ12の基体保持面である下面全域(図2の二点波線で囲まれる領域A1)より小さくなるように、イオン源38が配置される(A2<A1)。特にA2≦((1/2)×A1)、つまり基板ホルダ12の下面全域の半分以下となるようにイオン源38を配置することが好ましい。
イオン源38をこのように配置することで、イオン源38から照射されるイオンビームは、回転中の基板ホルダ12に保持されるすべての基板14のうち、領域A2に移動してきた特定の基板14群のみに部分的に照射される(イオン部分照射)。なお本例のイオン部分照射を所定時間、継続することで、最終的には、回転途中の基板ホルダ12に保持されるすべての基板14に対してイオンビームを照射することが可能となる。
基板ホルダ12のイオン照射面側の中心の位置を(x,y)=(0,0)としたとき、基板ホルダ12が回転することによって前記中心から前記イオン照射面側の半径方向に所定距離、離間した任意ポイントである測定点(図3参照)が移動する軌跡と、x軸とが、x>0部分で交わる点を基準点(測定位置=0度)とする。このとき、基板ホルダ12が回転することによって前記任意ポイントが前記軌跡上を反時計回りに移動する位置と前記中心とを結ぶ直線が、x軸(ただしx>0に限る)に対してなす角度(x1。図3ではθと表示)を0度〜360度のX軸とし、各x1でのイオン電流密度(y1)を0μA/cm2〜70μA/cm2のY軸に取ったXY平面に、x1とy1の値をプロットしたグラフを図4に示す。この図4のグラフは、図2に示す領域A2での上記測定点におけるイオン照射の状態を示している。
図4に示すように、測定位置によって測定点でのイオン電流密度が変動していることが理解できる。これは、基板ホルダ12が回転することによって軌跡上を移動する測定点について、測定位置によってイオンが照射されたり照射されなかったりしていることを意味している。この例の測定点は、イオンの照射が80°の位置から開始され、180°前後で最大密度を記録し、230°の位置で終了している。
なお、図2の態様のほかに、例えば図5の太い実線で囲まれる領域A2’で、イオンビームを部分照射することが可能となるように、イオン源38を配置してもよい。ただし、図5の態様では、基板ホルダ12の回転軸(図中、「×」を参照)近傍に保持される特定の基板14と、基板ホルダ12の外周近傍に保持される別の基板14との間で、イオンビームの相対的な照射時間が異なることがある。この場合、基板ホルダ12に保持されるすべての基板14の特性が均一化されないこともある。従って、本例では、図2に示すように、所定の閉曲線(例えば略楕円)で囲まれる領域(この領域は基板ホルダ12の回転軸である回転中心を含まない)に、イオンビームを照射することができるようイオン源38を配置することが望ましい。基板ホルダ12の回転中心を含まないような閉曲線で囲まれる領域とすることで、イオンビームのパルス照射が実現される。
図1に戻り、本例では、シャッタ38aの上方には、イオン源38から引き出されるイオンの指向性を調整するための調整壁38b,38bを設けてもよい。これを設けることで、上述したイオン源38の配置如何を問わずに、イオンビームを基板ホルダ12の所定領域(例えば図2の領域A2や、図5の領域A2’など)に照射させることができる。
本例のイオン源38は、真空容器10の側面に、支持装置としてのアタッチメント44を介して取り付けられている。
イオン源38を真空容器10の側面側に取り付けることで、これが蒸着源34と同様に、真空容器10の内部下方に配置される場合と比較して、イオン源38から照射されるイオンビームが短い飛行距離で基板14に到達する。その結果、基板14に衝突する際のイオンの運動エネルギーの低下を抑えることができる。また、高い運動エネルギーを保った状態のイオンビームを斜め方向から基板14表面に衝突させることで、基板14表面に対するイオンクリーニング効果やイオンアシスト効果をより大きく発現させることができ、基板14表面の不純物原子が効果的に除去される結果、基板14表面の原子と、蒸着により飛来してきた成膜材料分子との結合が促進され、その上に成膜される薄膜の諸性能が向上すると考えられる。
本例のイオン源38は、蒸着源34の配置位置よりも、イオン源38の本体長さ分以上、基板14に近い位置に配置されている。また、イオン源38の取り付けが容易となるように、真空容器10の側面の一部が傾斜して形成されているが、イオン源38を取り付ける位置は任意である。なお、イオン源38の取り付け位置は、真空容器10の内部側面に限定されず、蒸着源34と同様に、真空容器10の内部下方であってもよい。いずれにしても、基板ホルダ12に保持される基板14の一部にイオンビームを照射可能となるような位置に取り付けられる。
アタッチメント44(支持手段)は、イオン源38の支持装置であって真空容器10の側面に取り付けられている。アタッチメント44は、真空容器10側に固定されるブラケット(不図示)と、イオン源38側をブラケットに対して傾斜可能に支持するピン(不図示)と、イオン源38の傾きを所定位置で固定するネジからなる制動部材(不図示)とを備える。そのため、イオン源38の取り付け角度を任意に調節することができる。また、真空容器10側にブラケットを配設し、これを位置調整可能なベースプレート(不図示)に固定することにより、取り付け角度のみならず、高さ方向、半径方向の位置を調整可能に構成されている。なお、高さ方向、半径方向の位置調整は、ベースプレートを上下方向及び半径方向に移動させることで行う。
イオン源38の取り付け高さh及び半径方向の位置の変更により、イオン源38と基板14とを適切な距離に調整することができ、取り付け角度の変更により、基板14に衝突するイオンビームの入射角度や位置を調整することができる。イオン源38の高さ方向、半径方向の位置、及び取り付け角度の調整により、イオンビームのロスを最小限に抑え、イオン源38の照射領域(例えば図2のA2、図5のA2’)に対してイオン電流密度が均一な分布となるように調整する。
イオン源38の取り付け角度θは、イオンビームを照射する軸線と、基板ホルダ12の回転軸線とのなす角度のことである。この角度が大きすぎても、小さすぎても、イオンビーム照射による基板14表面のクリーニング効果、さらには薄膜へのイオンアシスト効果が減少するおそれがあり、薄膜の諸性能向上の効果が減少、或いは無くなるおそれがある。
本例において、イオン源38の取り付け角度θが6〜70度の角度範囲であるときに、最終的に、基板14表面に成膜される薄膜の諸性能を、より一層向上させることができることが期待される。
また、イオン源38からのイオンビームが基板14に到達可能な範囲であれば、基板14表面に斜め方向からイオンビームを入射させる方法は、基板14とイオン源38との距離に依存しない。
なお、上記の取り付け角度θは、基板ホルダ12や真空容器10の大きさ若しくは成膜材料によって適宜変更可能なことはもちろんである。
取り付け高さhは、イオン源38と基板14との距離が適切になるように設定される。取り付け高さhが高すぎると、取り付け角度θが大きくなりすぎ、一方、取り付け高さhが低すぎると基板14とイオン源38との距離が長くなるとともに取り付け角度θが小さくなりすぎる。よって、取り付け高さhは、適切な取り付け角度θを得ることができる位置である必要がある。
イオン源38と基板14との距離は、平均自由行程1と同等若しくはそれ以下であることが望ましい。例えば、平均自由行程1=500mmであれば、イオン源38と基板14との距離も500mm以下にすることが望ましい。イオン源38と基板14との距離を平均自由行程1以下とすることで、イオン源38から放出されたイオンの半数以上を無衝突状態で基板14に衝突させることができる。高いエネルギーを有したままイオンビームを基板14に照射することができるため、その後に成膜される薄膜の諸性能向上の効果が大きい。
ここで、“イオン源38と基板14の距離”とは、イオン源38の中心とイオン源38の中心から基板ホルダ12の成膜面側の中心までの距離をいう。同様に、“蒸着源34と基板14の距離”とは、蒸着源34の中心と蒸着源34の中心から基板ホルダ12の成膜面側の中心までの距離をいう。また、“イオン源38の本体長さ”とはイオン源38(イオン銃)の電極からイオンプラズマ放電室の底部までの距離である。
イオン源38の取り付け位置は、真空容器10の側面側の位置には限定されず、アタッチメント44によって真空容器10の側面の壁面から離間した位置でもよい。アタッチメント44は半径方向にもイオン源38の位置を調整することができるため容易にこのような配置にすることができる。この場合、より近い位置から、基板14に対してイオンビームを照射することができるため、より低いエネルギー(消費電力)でもイオン部分照射の効果が得られる。
なお、イオン源38を底部に設置してもよい。この場合、底部に台座を設置して台座の上にイオン源38を取り付ければよい。また、イオン源38を真空容器10の側面に取り付けることにより、蒸着源34と基板の間に配置される膜厚補正板(不図示)によって、イオンビームの照射が妨げられることがなくなるため、イオンのロスが減少するので好ましい。
真空容器10の内部の側面側には、ニュートラライザ40が配設されている。ニュートラライザ40は、イオン源を38を成膜アシスト装置として用いる場合に作動させる第2の成膜アシスト装置である。蒸着源34から基板14に向けて移動する成膜材料は、イオン源38から照射される正イオン(イオンビーム)の衝突エネルギーにより、基板14の表面に高い緻密性でかつ強固に付着する。このとき、基板14はイオンビームに含まれる正イオンにより正に帯電する。なお、イオン源38から射出された正のイオン(例えばO2 +)が基板14に蓄積することにより、基板14全体が正に帯電する現象(チャージアップ)が起こる。チャージアップが発生すると、正に帯電した基板14と他の部材との間で異常放電が起こり、放電による衝撃で基板14表面に形成された薄膜(絶縁膜)が破壊されることがある。また、基板14が正に帯電することで、イオン源38から射出される正のイオンによる衝突エネルギーが低下するため、薄膜の緻密性、付着強度などが減少することもある。このような不都合を解消し、基板14に蓄積した正の電荷を電気的に中和(ニュートラライズ)させるために、本例のごとくニュートラライザ40を配設することができる。
本例のニュートラライザ40は、イオン源38によるイオンビームの照射中に、電子(e−)を基板14に向けて放出する成膜アシスト装置であり、Arなどの希ガスのプラズマから電子を引き出し、加速電圧で加速して電子を射出する。ここから射出される電子は、基板14表面に付着したイオンによる帯電を中和する。
本例において、ニュートラライザ40は、イオン源38から所定距離を離間させて配設してある。なお、ニュートラライザ40の上方には、ニュートラライザ40から放出される電子の指向性を調整するための調整壁(図示省略。例えば調整壁38bを参照)が設けてあってもよい。
ニュートラライザ40の配置は、基板14に電子を照射して中和できる位置であればよく、イオン源38と同様に、電子を基板ホルダ12に保持されるすべての基板14に対して、その一部に照射することができる配置でもよいし、あるいは、蒸着源34と同様に、電子を基板14の全部に照射可能な配置であってもよい。
ニュートラライザ40は、基板14に電子を照射して中和できる位置に配置してあればよい。本例では、ニュートラライザ40を基板ホルダ12に近い位置に配設している。このように配設することで、イオン源38から照射されたイオンが付着する基板ホルダ12の領域に向かって正確に電子を照射することができる。
また、ニュートラライザ40はイオン源38と所定の距離離れた位置に配設されると、イオン源38から基板14に向かって移動中のイオンと直接反応することが少なく、効率よく基板ホルダ12の電荷を中和することができる。そのため、従来の蒸着装置よりもニュートラライザ40に印加される電流値を低い値にしても好適に基板ホルダ12を中和することができる。基板14表面に十分な電子を供給することができるため、例えば、高屈折率膜や低屈折率膜などの誘電体膜を完全に酸化させることができる。
本例では、イオン源38及びニュートラライザ40がそれぞれ1つずつで構成されているが、これらが複数ずつ配置される構成とすることもできる。例えば、回転する基板ホルダ12の回転方向に沿ってイオン源38とニュートラライザ40が複数設けられる構成としてもよい。このような構成とすることで、大きなサイズの基板ホルダ12を備える大型の成膜装置にもより効果的に適用することができる。
本例において、真空容器10の内部の下方には、成膜源と規制手段で構成される成膜手段が配設されている。
成膜源の一例としての蒸着源34は、本例では抵抗加熱方式(直接加熱方式や間接加熱方式など)の蒸着源である。蒸着源34は、成膜材料を載せるためのくぼみを上部に備えた坩堝(ボート)34bと、坩堝34bから基板14方向へ放出される成膜材料の蒸発物のすべてを遮断する位置に開閉可能に設けられたシャッタ34aとを備える。シャッタ34aは、コントローラ52からの指令により適宜開閉制御される。
直接加熱方式は、金属製のボートに電極を取り付けて電流を流し、直接、金属製のボートを加熱してボート自体を抵抗加熱器とし、この中に入れた成膜材料を加熱する。間接加熱方式は、ボートが直接の熱源ではなく、ボートとは別に設けられた加熱装置、例えば遷移金属などのレアメタルなどからなる蒸着フィラメントに電流を流すことにより加熱する方式である。
坩堝34bに成膜材料を載せた状態で、ボート自体あるいはボートとは別に設けられた加熱装置により、成膜材料を加熱し、この状態でシャッタ34aを開くと、坩堝34bから成膜材料の蒸発物が基板14方向へ真空容器10の内部を移動し、個々の基板14の表面に付着する。
なお、蒸着源34は、抵抗加熱方式に限らず、電子ビーム加熱方式の蒸着源であってもよい。蒸着源34が電子ビーム加熱方式である場合、その蒸着源34は、上記同様、坩堝34b及びシャッタ34aのほか、成膜材料に電子ビーム(e− )を照射し、これを蒸発させる電子銃及び電子銃電源(ともに不図示)をさらに備えるようにすればよい。
図1に示す本例の蒸着源34は、モータからの出力を受けて垂直軸回りに回転している回転途中の基板ホルダ12に保持されるすべての基板14方向(基板ホルダ12の全域)に、成膜材料の蒸発物が放出可能となる配置と向きで設置されている(蒸着源34の容器10内、略中央配置の例)。
規制手段の一例としての規制板36は、蒸着源34から放出される成膜材料の蒸発物の飛散方向を規制するための部材であり、回転途中の基板ホルダ12の全域に向けて蒸着源34から放出された成膜材料の蒸発物の飛散方向を規制することができるように配置されている。その結果、本例では、例えば図6に示すように、回転途中の基板ホルダ12に保持されるすべての基板14のうち、太い実線で囲まれる領域A3に移動してきた特定の基板14群に対してのみ、蒸着源34から放出される成膜材料の蒸発物が部分的に供給される。
すなわち本例では、蒸着源34による成膜材料の蒸発物の付着領域(A3)が、基板ホルダ12の下面全域(図6の二点波線で囲まれる領域A1)より小さくなるように、成膜手段としての蒸着源34及び規制板36が設置される(A3<A1)。特にA3≦((1/2)×A1)、つまり基板ホルダ12の下面全域の半分以下となるように成膜手段を構成し、配置することが好ましい。
規制板36及び蒸着源34をこのように配置することで、蒸着源34から放出される成膜材料の蒸発物は、回転中の基板ホルダ12に保持されるすべての基板14の方向に放出されるが、規制板36が一部の蒸発物の飛散を遮蔽するので、結果的にはすべての基板14のうち、領域A3に移動してきた特定の基板14群のみに、蒸着源34から放出された成膜材料の蒸発物が部分的に付着する(成膜材料の部分供給)。なお本例の成膜材料の部分供給を所定時間、継続することで、最終的には、回転途中の基板ホルダ12に保持されるすべての基板14に対して成膜材料の蒸発物を付着させ、薄膜を堆積させることが可能となる。
なお、基板ホルダ12の成膜面側の中心の位置を(x,y)=(0,0)としたとき、基板ホルダ12が回転することによって前記中心から前記成膜面側の半径方向に所定距離、離間した任意ポイントである測定点A〜C(図7参照)が移動する各軌跡と、x軸とが、x>0部分で交わる点を基準点(測定位置=0度)とする。このとき、基板ホルダ12が回転することによって測定点A〜Cが各軌跡上を反時計回りに移動する位置と前記中心とを結ぶ直線が、x軸(ただしx>0に限る)に対してなす角度(x1。図7ではθと表示)を0度〜360度のX軸とし、各x1での成膜レート(y2)を0.05nm/秒〜0.85nm/秒のY軸に取ったXY平面に、x1とy2の値をプロットしたグラフを図8に示す。この図8のグラフは、図6に示す領域A1での各測定点A〜Cにおける成膜材料の蒸発物供給の各状態を示している。
図8に示すように、測定位置によって各測定点での成膜レートが変動していることが理解できる。これは、基板ホルダ12が回転することによって各軌跡上を移動する各測定点について、測定位置によって蒸発物が付着したり付着しなかったりしていることを意味している。なお、蒸発物が付着しているエリアは、図6の領域A3に相当する。
なお、図6の態様のほかに、例えば図9の太い実線で囲まれる領域A3’で、成膜材料を部分供給することが可能となるように規制板36の配置を調整してもよい。ただし、図9の態様では、基板ホルダ12の回転軸(図中、「×」を参照)近傍に保持される特定の基板14と、基板ホルダ12の外周近傍に保持される別の基板14との間で、成膜材料の相対的な供給時間が異なることがある。この場合、基板ホルダ12に保持されるすべての基板14上に堆積する薄膜の特性が均一化されないこともある。従って、本例では、図6に示すように、基板ホルダ12の回転軸である回転中心を含まない閉曲線で囲まれる領域に、成膜材料が供給可能となるように規制板36の配置を調整することが望ましい。基板ホルダ12の回転中心を含まないような閉曲線で囲まれる領域とすることで、成膜材料のパルス供給が実現される。なお、イオンビームの照射領域(例えば図2のA2)と成膜材料の供給領域(例えば図6の領域A3)は重複してもよい。
なお、本例において、規制板36を必ずしも設ける必要はない。この場合、例えば図10に示すように、蒸着源34を容器10内の略中央配置から端側へ寄せて配置すればよい。蒸着源34を容器10内の端側へ寄せて配置することで、規制板36の設置を省略しても、回転途中の基板ホルダ12の一部、即ちすべての基板14の一部(所定領域に移動してきた特定の基板14群)に向けた、成膜材料の部分供給が可能となる(成膜材料の飛散方向と供給方向が同一)。
この場合、図6に示す例と同様に、蒸着源34による成膜材料の蒸発物の付着領域が、基板ホルダ12の下面全域より小さくなるように、真空容器2内下方の端側へ寄せた位置に蒸着源34が設置される。この例においても、図6に示す例と同様に、蒸発物の付着領域が、基板ホルダ12の下面全域(つまり本発明で言う「基体保持面の全域」)の半分以下となるように蒸着源34を配置することが好ましい。
図10に示す例において、蒸着源34は、基板ホルダ12の回転中心である鉛直軸が延びる方向(鉛直方向)に沿った基準線に対して、蒸着源34の中心と基板ホルダ12の外縁の最遠点Pとを結ぶ線の成す角度(θ1)が、好ましくは40度以上、より好ましくは60度以上となる位置に配置されることが好ましい。基準線に対する角度θ1が上記角度以上となるように蒸着源34を配置することで、規制板36を使用せずに成膜材料の部分供給が可能となる。
なお、図10に示す例において、基板ホルダ12の成膜面側の直径を「ドーム径D1」、基板ホルダ12の成膜面側の中心から蒸着源34の中心までの距離を「高さD2」、前記基準線から蒸着源34の中心までの最短距離を「オフセットD3」としたとき、一例として、D1を例えば1000mm〜2000mm程度、D2を例えば500mm〜1500mm程度、D3を例えば100mm〜800mm程度に、それそれ設計することができる。
<<第2実施形態>>
次に、成膜装置1を用いた成膜方法の一例(光学薄膜の成膜方法)を説明する。
本例では、光学薄膜の一例として、光学フィルター薄膜を成膜する場合を例示する。本例において成膜される光学フィルター薄膜は、高屈折率物質と低屈折率物質とを交互に積層させて成摸しているが、一種類若しくは複数種類の蒸発物質(成膜材料)からなる光学フィルターの成膜に対しても本発明は適用でき、その場合、蒸着源34の数や配置を適宜変更可能である。
なお、本例にて作製する光学フィルターの具体例として、短波長透過フィルター(SWPF)と赤外線カットフィルターを挙げているが、これ以外にも、長波長透過フィルター、バンドパスフィルター・NDフィルターなどの薄膜デバイスについても適用可能である。
本例において、蒸着源34のボートに充填する光学薄膜を形成するための成膜材料としては、高屈折率物質(例えばTa2O5やTiO2)や低屈折率物質(例えばSiO2)などが用いられる。
(1)まず、基板ホルダ12の下面に、複数の基板14をその成膜面が下向きになる状態でセットする。基板ホルダ12にセットする基板14(基体)は、形状が例えば板状やレンズ状などに加工されたガラスやプラスチックや金属で構成することができる。なお、基板14は、固定前あるいは固定後に、湿式洗浄しておくことが好ましい。
(2)次に、基板ホルダ12を真空容器10の内部にセットした後、真空容器10内を例えば10−4〜10−2Pa程度にまで排気する。真空度が10−4Paより低いと、真空排気に時間を要し過ぎて生産性を低下させるおそれがある。一方、真空度が10−2Paより高いと、成膜が不十分となることがあり、膜の特性が劣化するおそれがある。
(3)次に、電気ヒータ53に通電して発熱させ、基板ホルダ12を所定速度(後述)で回転させる。この回転により複数の基板14の温度と成膜条件を均一化させる。
コントローラ52は、基板14の温度が、例えば常温〜120℃、好ましくは50〜90℃になったことを温度センサ54の出力により判定すると、成膜工程に入る。基板温度が常温未満では成膜される薄膜の密度が低く、十分な膜耐久性が得られない傾向がある。基板温度が120℃を超えると基板14としてプラスチック基板を用いている場合に、その基板14の劣化や変形が起きる可能性がある。なお、無加熱成膜が好適な材料を用いる場合には常温で成膜することもある。本例では、成膜工程に入る前に、イオン源38をアイドル運転状態としておく。また、蒸着源34も、シャッタ34aの開動作によって直ちに成膜材料を拡散(放出)できるように準備しておく。
(4)次に、コントローラ52は、イオン源38の照射電力(パワー)をアイドル状態から所定の照射電力に増大させ、シャッタ38aを開き、回転途中の個々の基板14の表面にイオンビームを照射する(基板14表面のクリーニング)。このとき、ニュートラライザ40の作動も開始させる。すなわち、成膜に先立ち、個々の基板14の成膜面に対し、イオン源38から引き出される導入ガス(ここでは酸素)のイオンビームを照射する工程と、電子を照射する工程とが並行して行われる。本例では、光学フィルター薄膜の成膜に先立ち、回転途中の基板ホルダ12に保持されるすべての基板14のうち、領域A2に移動してきた特定の基板14群に対してのみ、連続してイオンと電子の部分照射を行うことが特徴である。
イオンビームの部分照射による基板14表面のクリーニング条件は、以下の通りである。イオン源38へ導入するガス種としては、少なくともアルゴン又は酸素を含んでいればよく、アルゴンと酸素との混合ガスであってもよいが、好ましくはアルゴンと酸素との混合ガスである。上記ガス種の導入量(混合ガスである場合には合計導入量)は、例えば1sccm以上、好ましくは5sccm以上、より好ましくは20sccm以上であり、かつ例えば100sccm以下、好ましくは70sccm以下、より好ましくは50sccm以下である。「sccm」とは、「standard
cc/m」の略で、0℃、101.3kPa(1気圧)におけるものを示す。
イオンの加速電圧(V)は、例えば50〜1500V、好ましくは500〜1300V、より好ましくは700〜1200Vである。イオンの照射電流(I)は、例えば50〜1500mA、好ましくは200〜1300mA、より好ましくは400〜1200mAである。
基板クリーニングにかかわる、基板ホルダ12に向けたイオン源38によるイオンビームの全照射時間を「T1」としたとき、本例では該T1を、例えば1〜800秒、好ましくは10〜100秒程度とする。またT1とともに、基板ホルダ12に保持される1枚あたりの基板14に対するイオンビームの照射時間を「T2」とし、かつ領域A2を領域A1の半分に設定した場合、T2はT1の半分となる。つまり、基板ホルダ12に向けたイオンビームの照射を、例えば600秒(T1)、行ったとしても、1枚あたりの基板14に対して、300秒(T2)しか、イオンビームの実照射が行われないことになる。
本例では、イオン源38がイオンビームを部分照射可能な配置で配置されている(A2<A1)。特に、A2≦((1/2)×A1)となるようにイオン源38を配置することで、T2≦((1/2)×T1)となるようにイオンビームを照射し、基板14表面をクリーニングすることが好ましい。なお、A2≦((1/2)×A1)となるようにイオン源38を配置するとともに、基板ホルダ12の回転速度を変動させることで、T2≦((1/2)×T1)となるようにイオンビームを照射することもできる。
本例では、基板ホルダ12の回転に伴って、該基板ホルダ12に保持されるすべての基板14のうちの任意の基板(基準基板)が、A2領域に入ってから出ていくまでの時間を「t1」とし、A2領域を出てから次にA2領域に入る直前までの時間を「t2」としたとき、t1<t2となるように、A2領域の大きさ、配置、及び/又は、基板ホルダ12の回転速度を決定することが好ましい。t1<t2、つまり基準基板に対し、照射されている時間がイオン照射されていない時間よりも短くなるように、A2領域の大きさ等を設定することで、より効率的で適切なイオン照射が可能となる。ちなみに、t1とt2の合計(t1+t2)は、基板ホルダ12が一回転する時間であり、本例では、該(t1+t2)が、好ましくは0.6秒〜20秒程度に設定される。つまり基板ホルダ12の回転速度は3〜100rpm程度に設定される。好ましくは5〜60rpm、より好ましくは10〜40rpmで基板ホルダ12を回転させることもできる。
ニュートラライザ40の作動条件は、以下の通りである。ニュートラライザ40へ導入するガス種としては、例えばアルゴンである。上記ガス種の導入量は、例えば10〜100sccm、好ましくは30〜50sccmである。電子の加速電圧は、例えば20〜80V、好ましくは30〜70Vである。電子電流は、イオン電流以上の電流が供給されるような電流であればよい。
(5)次に、コントローラ52は、イオン源38のシャッタ38aをそのままに保持する(開状態)とともに、シャッタ34aを開き、成膜材料のイオンビームアシスト蒸着(IAD:Ion−beam
Assisted Deposition method)を開始させる。このとき、ニュートラライザ40の作動も継続させる。すなわち、本例では、基板14の成膜面に対し、蒸着源34から成膜材料を飛散させる工程と、イオン源38から引き出される導入ガス(ここでは酸素)のイオンビームを照射する工程と、電子を照射する工程とが並行して行われる(成膜処理)。
本例では、上述したイオンビームの部分照射による基板14表面のクリーニングに続き、回転途中の基板ホルダ12に保持されるすべての基板14のうち、領域A3に移動してきた特定の基板14群に対してのみ、連続して成膜材料の部分供給を行うことも特徴である。すなわち、斜め照射によるイオンビームの部分照射後の基板14のクリーニング面に向けて、蒸着源34から成膜材料の蒸発物を所定時間(T3。後述)の間、放出し、成膜処理を行う。さらに本例では、こうした成膜材料の部分供給とともに、部分照射によるイオンビームの成膜アシストを伴うことも特徴である。
基板ホルダ12に向けた蒸着源34による成膜材料の蒸発物の全放出時間を「T3」とし、基板ホルダ12に保持される1枚あたりの基板14に対する前記蒸発物の付着時間を「T4」とし、かつ領域A3を領域A1の半分に設定した場合、T4はT3の半分となる。つまり、基板ホルダ12に向けた蒸発物の放出を、例えば2000秒(T3)、行ったとしても、1枚あたりの基板14に対して、1000秒(T4)しか、蒸発物の付着が行われないことになる。
本例では、蒸着源34による成膜材料の供給が部分供給可能となる構成で、蒸着源34及び規制板36が配置されている(A3<A1)。特に、A3≦((1/2)×A1)となる構成で蒸着源34及び規制板36を配置することで、T4≦((1/2)×T3)となるように成膜材料を供給することが好ましい。なお、A3≦((1/2)×A1)となる構成で蒸着源34及び規制板36を配置するとともに、基板ホルダ12の回転速度を変動させることで、T4≦((1/2)×T3)となるように成膜材料を供給することもできる。
イオンビームの部分照射による成膜アシスト条件は、成膜開始前に行うイオンビームの部分照射によるクリーニング条件(前出)と同じ条件で行ってもよいし、異なる条件で行うこともできる。ただし、イオンの加速電圧(V)は、例えば50〜1500V、好ましくは100〜1200V、より好ましくは200〜400Vとする。イオンの照射電流(I)は、例えば50〜1000mA、好ましくは100〜1000mA、より好ましくは300〜1000mA、さらに好ましくは300〜600mAとする。
アシスト効果を与える場合の、基板ホルダ12に向けたイオン源38によるイオンビームの全照射(全アシスト)時間を「T5」としたとき、該T5を、蒸着源34による成膜材料の蒸発物の全放出時間(T3)と同一にすることもできるし、あるいは異ならせることもできる。T5とともに、1枚あたりの基板14に対するイオンビームの実照射(実アシスト)時間を「T6」とし、かつ領域A2を領域A1の半分に設定した場合、T6はT5の半分となる。つまり、基板ホルダ12に向けた蒸発物の放出とともにアシスト効果を与えるためのイオンビームの照射を、該蒸発物の放出時間(T3)と同様の、例えば600秒(T5)、行ったとしても、1枚あたりの基板14に対して、300秒(T6)しか、アシスト効果を与えるためのイオンビームの実照射が行われないことになる。
本例では、イオン源38がイオンビームを部分照射可能な配置で配置されている(A2<A1)。特に、A2≦((1/2)×A1)となるようにイオン源38を配置することで、T6≦((1/2)×T5)となるようにイオンビームを照射し、成膜アシストすることができる。
ニュートラライザ40の作動条件は、成膜開始前に行うイオンビームの部分照射によるクリーニング(前出)における場合と同じ条件で行ってもよいし、異なる条件で行うこともできる。
蒸着源34が成膜材料の蒸発物を放出する間、イオン源38のシャッタ38aを開動作して放出したイオンを基板14に衝突させることによって、基板14に付着した成膜材料の表面を平滑化すると共に緻密化する。
この操作を所定回数繰り返すことにより多層膜を形成することができる。イオンビームの照射により基板14に電荷の偏りが生じるが、この電荷の偏りは、ニュートラライザ40から基板14に向けて電子を照射することで中和している。このようにして、基板14の成膜面に薄膜が所定厚みで形成される。
(6)コントローラ52は、基板14の上に形成される薄膜の膜厚を水晶モニタ50により監視し続け、所定の膜厚になると成膜を停止する。これにより、複数の基板14の表面に光学フィルター薄膜が所定膜厚で成膜され、光学フィルターが得られる。なお、コントローラ52は、成膜を停止する際に、シャッタ34a及びシャッタ38aを閉じる。
本例による成膜装置1を用いた成膜方法によれば、成膜に先立ち、回転途中の基板ホルダ12の基体保持面の一部の領域に向けてイオンビームが照射され、その結果、基板ホルダ12に保持され回転している複数の基板14のうち前記領域に移動してきた特定の基板14群のみにイオンビームが照射される(イオンの部分照射による基板14表面のクリーニング)。イオンビームの照射領域A2は、基板ホルダ12の下面全域A1よりも小さい(A2<A1)。
その結果、成膜に先立ち、各基板14に対してイオンビームが時間的にパルス状に高密度で照射されることとなり、イオンビームの照射を全面照射(A2=A1)する従来技術と比較して、各基板14の表面のクリーニング効果が高まる。具体的には、各基板14すべての表面の活性度が向上し、成膜時における、各基板14とその上に堆積する薄膜との結合がより促進され、その結果、形成する薄膜の諸性能をより一層高めることができる。
イオンビームの照射を、回転している基板ホルダ12の一部領域のみに向けて行うことで、各基板14に対してイオンビームが時間的にパルス状に高密度で照射される。このパルス状に密度の高いイオンビームの照射により、各基板14の表面のエネルギー状態の活性化が促進される。この後、多粒子間の相互作用を通して各基板14の表面は、高い確率で熱平衡状態へと到達し、これにより、イオンビームの全面照射を採用する従来手法と比較して、基板14表面に、諸性能(本例では、光学薄膜における光学特性)に優れた薄膜を形成することができる。
特に、T2がT1の半分以下となる(T2≦((1/2)・T1))ように基板ホルダ12の回転速度及びイオンの照射領域の一方又は双方を調整することで、こうした効果をより一層顕著に発揮させることができる。
また、本例による成膜装置1を用いた成膜方法によれば、イオンビームの部分照射に加え、基板ホルダ12の基体保持面の一部の領域に向けて成膜材料が供給され、その結果、基板ホルダ12に保持され回転している複数の基板14のうち前記領域に移動してきた特定の基板14群のみに成膜材料が供給される(成膜材料の部分供給)。成膜材料の供給領域A3は、基板ホルダ12の下面全域A1よりも小さい(A3<A1)。
その結果、イオンビームの部分照射による基板14表面のクリーニング効果に加え、基板14とその上に堆積する薄膜との間での結合力がより一層高まり、その結果、薄膜の諸性能がより一層顕著に高められる。
イオンビームの部分照射に続き、成膜材料の供給を回転している基板ホルダ12の基体保持面の一部領域のみに向けて行うことで、クリーニング後の各基板14に対して薄膜の成膜材料が時間的にパルス状に高密度で照射される。このパルス状に密度の高い成膜材料の供給により、各基板14の表面のエネルギー状態の活性化促進に加え、各基板14表面に堆積する成膜粒子のエネルギー状態の活性化も促進され、各基板14の表面に堆積した成膜粒子がより高い確率で熱平衡状態へと到達し、これにより、各基板14の表面に、より一層、諸性能(本例では光学特性)に優れた薄膜を形成することができる。
特に、T4がT3の半分以下となる(T4≦((1/2)×T3))ように基板ホルダ12の回転速度及び成膜材料の供給領域の一方又は双方を調整することで、こうした効果をより一層顕著に発揮させることができる。
さらに本例では、成膜材料の部分供給とともに、アシスト効果を与えるイオンビームを部分照射するので、成膜材料を供給している間、各基板14に対してイオンビームが照射されていない時間が確保される。基板14表面に堆積された蒸着層を構成する分子(蒸着分子)は、アシスト効果を与えるイオンビームが照射されている間は、そのイオンビームによって化学反応(酸化)が促進されるが、その一方でイオンビームから受ける運動エネルギーによって表面がマイグレーション(物理励起)されるとの不都合を生じうる。本例では、基板14に対してイオンビームに照射されていない間に、イオンビームの照射によって表面がマイグレーションされた蒸着分子を基板14上の安定な位置(安定サイト)に静止させる(落ち着かせる)ことができる。安定サイトに静止した蒸着分子に対してその後再びイオンが照射されても、静止した蒸着分子が安定サイトから動き出すことはなく、結果として緻密で良質な薄膜が得られることになるものと考えられる。すなわち、薄膜が緻密になり、且つ、組成的な均一性が向上すると共に、薄膜組織の歪みの低減を図ることができる。こうして、成膜された組織が良好な均一性を有することで、屈折率の変動が少なく、光の吸収係数が一定以下で安定する光学フィルターを得ることができる。
なお、アシスト効果を与えるイオンビームを、基板ホルダ12の基板保持面全域に、つまりすべての基板14に対して連続して照射した場合(全面照射)、基板14表面に堆積された蒸着分子は、基板14上の安定サイトに静止する前に再度、励起されてしまう。連続してイオンビームが照射されているからである。その結果、前記蒸着分子を安定サイトに静止させることが困難となり、これによって薄膜の緻密が阻害されるのではないかと考えられる。
本例による成膜装置1を用いた成膜方法によれば、基板ホルダ12に保持され回転している複数の基板14に対し、その一部に成膜材料を供給しながら、アシスト効果を与えるイオンビームを部分照射するので、アシスト効果を与えるイオンビームの照射を全面照射する場合と比較して、薄膜の緻密化が一層促進され、結果として高いイオンアシストの効果を得ることができる。
<<第3実施形態>>
次に、成膜装置1を用いた成膜方法の他の例(機能性薄膜の成膜方法)を説明する。
本例では、機能性薄膜の一例として、有機物で構成される防汚膜を成膜する場合を例示する。なお、防汚膜は、撥水性、撥油性を有する膜であり、油汚れの付着を防止する機能を有する。ここで、「油汚れの付着を防止する」とは、単に油汚れが付着しないだけでなく、たとえ付着しても簡単に拭き取れることを意味する。すなわち、防汚膜は撥油性を維持する。
本例において、蒸着源34のボートに充填する防汚膜を形成するための成膜材料の形態は、特に限定されず、例えば、(a)多孔質セラミックに疎水性反応性有機化合物を含浸させたものや、(b)金属繊維又は細線の塊に疎水性反応性有機化合物を含浸させたものを用いることができる。これらは、多量の疎水性反応性有機化合物を素早く吸収し、蒸発させることができる。多孔質セラミックは、ハンドリング性の観点からペレット状で用いることが好ましい。
金属繊維又は細線としては、例えば鉄、白金、銀、銅などが挙げられる。金属繊維又は細線は、十分な量の疎水性反応性有機化合物を保持できるように絡みあった形状のもの、例えば織布状や不織布状のものを用いることが好ましい。金属繊維又は細線の塊の空孔率は、疎水性反応性有機化合物をどの程度保持するかに応じて決定することができる。
成膜材料として、金属繊維又は細線の塊を用いる場合、これを一端が開放した容器内に保持することが好ましい。容器内に保持した金属繊維又は細線の塊もペレットと同視することができる。容器の形状は特に限定されないが、クヌーセン型、末広ノズル型、直筒型、末広筒型、ボート型、フィラメント型等が挙げられ、成膜装置1の仕様によって適宜選択することができる。容器の少なくとも一端は開放されており、開放端から疎水性反応性有機化合物が蒸発するようになっている。容器の材質としては、銅、タングステン、タンタル、モリブデン、ニッケル等の金属、アルミナ等のセラミック、カーボン等が使用可能であり、蒸着装置や疎水性反応性有機化合物によって適宜選択する。
多孔質セラミックペレット、及び容器に保持した金属繊維又は細線の塊からなるペレットのいずれも、サイズは限定されない。
多孔質セラミック又は金属繊維又は細線の塊に疎水性反応性有機化合物を含浸させる場合、まず疎水性反応性有機化合物の有機溶媒溶液を作製し、浸漬法、滴下法、スプレー法等により溶液を多孔質セラミック又は金属繊維又は細線に含浸させた後、有機溶媒を揮発させる。疎水性反応性有機化合物は反応性基(加水分解性基)を有するので、不活性有機溶媒を使用するのが好ましい。
不活性有機溶媒としては、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶剤(パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン等)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(m−キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド等)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)等)、フッ素変性アルキルアミン系溶剤(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミン等)、炭化水素系溶剤(トルエン、キシレン等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)等が挙げられる。これらの有機溶媒は単独でも2種以上を混合しても良い。疎水性反応性有機化合物溶液の濃度は限定的ではなく、疎水性反応性有機化合物を含浸する担体の形態に応じて、適宜設定することができる。
本例では、第2実施形態と同様に、基板14表面のクリーニングを行う(第2実施形態の(1)〜(4)参照)。
(5)次に、コントローラ52は、イオン源38の照射電力をアイドル状態に戻し、シャッタ38aを閉じるとともに、シャッタ34aを開き、防汚膜を形成するための成膜材料の抵抗加熱方式による真空蒸着を行う(成膜処理)。なお本例において、成膜材料の加熱は、抵抗加熱方式に限定されず、ハロゲンランプ、シーズヒータ、電子ビーム、プラズマ電子ビーム、誘導加熱等を用いることもできる。
すなわち、斜め照射によるイオンビームの部分照射後の基板14のクリーニング面に向けて、蒸着源34から成膜材料を例えば3〜20分(T3)の間、飛散させ、成膜処理を行う(成膜材料の部分供給)。その結果、個々の基板14表面には防汚膜が、所定厚み(例えば1〜50nm)で形成される。
(6)コントローラ52は、基板14上に形成される薄膜の膜厚を水晶モニタ50により監視し続け、所定の膜厚になると蒸着を停止する。これにより、複数の基板14の表面に防汚膜が所定膜厚で成膜され、防汚膜基材が得られる。
本例による成膜装置1を用いた成膜方法によれば、第2実施形態と同様に、イオンビームの部分照射による基板14表面のクリーニングに加え、成膜材料の部分供給する。このため、イオンビームの部分照射による効果に加え、基板14とその上に堆積する薄膜との間での結合力がより一層高まり、その結果、薄膜の諸性能(本例では機能性薄膜としての防汚膜の耐摩耗性など)がより一層顕著に高められる。
イオンビームの部分照射に続き、成膜材料の供給を回転している基板ホルダ12の基体保持面の一部領域のみに向けて行うことで、クリーニング後の各基板14に対して薄膜の成膜材料が時間的にパルス状に高密度で照射される。このパルス状に密度の高い成膜材料の供給により、各基板14の表面のエネルギー状態の活性化促進に加え、各基板14表面に堆積する成膜粒子のエネルギー状態の活性化も促進され、各基板14の表面に堆積した成膜粒子がより高い確率で熱平衡状態へと到達し、これにより、各基板14の表面に、より一層、諸性能に優れた薄膜を形成することができる。
特に、T4がT3の半分以下となる(T4≦((1/2)×T3))ように基板ホルダ12の回転速度及び成膜材料の供給領域の一方又は双方を調整することで、こうした効果をより一層顕著に発揮させることができる。
本例で成膜される防汚膜は、1kg/cm2の荷重によるスチールウール#0000を、1000回(好ましくは2000回)を超えて往復させても油性ペンによるインクを拭き取れるように、その耐摩耗性がより高められている。
なお、防汚膜の成膜手順は上記手順に限定されない。例えば、真空容器10の内部下方に、蒸着源34以外の蒸着源(例えば電子ビーム加熱方式など)を配設し、イオンビーム斜め照射による基板14表面のクリーニングに続き、別途配設した蒸着源(図示省略)により基板ホルダ12に保持されたすべての基板14のクリーニング面上にSiO2やAl2O3などの無機膜を数nm程度で成膜した後、蒸着源34を作動させて該無機膜上に防汚膜を成膜してもよい。この態様によっても、基板ホルダの全面に向けたイオンビーム照射により一度にすべての基板表面をクリーニングする従来手法と比較して、得られる防汚膜の耐摩耗性がより高められる。
次に、上記発明の実施形態をより具体化した実施例を挙げ、発明をさらに詳細に説明する。
なお、各実験例において、T1,T2はクリーニング時における時間を意味し、特にT1は基板ホルダに向けたイオンビームの全照射時間、T2は1枚あたりの基板に対するイオンビームの照射時間である。T3,T4は成膜時における時間を意味し、特にT3は基板ホルダに向けた成膜材料(撥油剤、SiO2、Ta2O5)の蒸発物の全放出時間、T4は1枚あたりの基板に対する前記蒸発物の付着時間である。T5,T6は上記成膜時のイオンアシストの時間を意味し、特にT5は基板ホルダに向けたイオンビームの全照射(全アシスト)時間、T6は1枚あたりの基板に対するイオンビームの実照射(実アシスト)時間である。
《実験例1》
本例では、図1に示す成膜装置1(ただし規制板36を取り外した)を準備し、下記条件で成膜して防汚膜サンプルを得た。なお、本例のイオンビームの照射領域(A2)を基板ホルダ12に対する位置関係で示した様子を図11に示す。基板としてBK7(屈折率n=1.52)を用い、基板ホルダの回転速度(RS)を30rpmとした。
基板クリーニングに関するイオン照射については、照射開始時の基板温度を100℃とし、イオン源の条件を以下とした。
・導入ガス種及び導入量:O2を50sccm。
・イオン加速電圧:1000V。
・照射イオン電流:500mA。
・T1:300秒、T2:100秒。
・基板ホルダの中心から580mmオフセットした位置に保持される基板を基準基板としたとき、その基準基板に対するイオン照射の割合:31%。
ニュートラライザの条件は以下とした。
・導入ガス種及び導入量:Arを10sccm、
・電子電流:1A。
防汚膜の成膜については、成膜開始時の基板温度を100℃とし、成膜条件を以下とした。防汚膜の成膜に際し、イオンと電子の照射を中止した。
・成膜材料:キャノンオプトロン社製の撥油剤(商品名:OF−SR、成分名:含フッ素有機珪素化合物)。
・T3:500秒、T4:500秒。
《耐摩耗性の評価》
得られた防汚膜サンプルの防汚膜の表面に、1cm2のスチールウール#0000を載せ、1kg/cm2の荷重をかけた状態で、50mmの直線上を1往復1秒の速さで擦傷試験を行った。この擦傷試験の往復100回毎に、試験面(防汚膜面)に、油性マジックペン(有機溶媒型マーカー、商品名:マッキー極細、セブラ社製)で線を描き、油性マジックペンの有機溶媒型インクを乾燥布で拭き取れるか否かを評価した。その結果、有機溶媒型インクを拭き取ることができた最大擦傷往復回数は、2400であった。
《水接触角の評価》
得られた防汚膜サンプルの防汚膜の表面に、1cm2のスチールウール#0000を載せ、1kg/cm2の荷重をかけた状態で、50mmの直線上を1往復1秒の速さで2000回、擦傷を行った後、JIS−R3257のぬれ性試験に準拠した方法で、防汚膜上の水に対する接触角を測定した。具体的には、試験台に防汚膜サンプルを載置し、擦傷後の防汚膜側に蒸留水を滴下し、静置した状態で水滴の接触角を光学的に測定することにより行った。その結果、95度であった。
《実験例2》
イオン源によるイオンビームの照射領域と蒸着源による成膜材料の供給領域とが、ともに基板ホルダの基板セット面の全域である、従来の成膜装置(図示省略)を準備した。この成膜装置を用いて、実験例1と同一条件で成膜して防汚膜サンプルを得た。なお、本例のイオンビームの照射領域(A1)を基板ホルダ12に対する位置関係で示した様子を図12に示す。
・T1:300秒、T2:300秒。
・T3:500秒、T4:500秒。
得られた防汚膜サンプルの防汚膜に対する最大擦傷往復回数は1100であり、実験例1のサンプルと比較して耐摩耗性に劣っていることが確認できた。ただし、「最大擦傷往復回数:1100」であっても、十分に耐摩耗性があり、十分に実用に耐えうるものと判断される。また防汚膜サンプルの防汚膜表面における擦傷後の、水に対する接触角を同様に測定したところ53度であり、実験例1のサンプルと比較して擦傷後の水に対する接触角が低下しており、耐摩耗性の劣化が確認できた。
《実験例3》
本例では、図1に示す成膜装置1(規制板36あり)を準備した以外は実験例1と同一条件で防汚膜サンプルを得た。なお、本例のイオンビームの照射領域(A2)を基板ホルダ12に対する位置関係で示した様子を図11に示す。成膜材料の供給領域(A3)を基板ホルダ12に対する位置関係で示した様子を図13に示す。
・T1:300秒、T2:100秒。
・基板ホルダの中心から580mmオフセットした位置に保持される基板を基準基板としたとき、その基準基板に対するイオン照射の割合:31%。
・T3:500秒、T4:360秒。
得られた防汚膜サンプルの防汚膜に対する最大擦傷往復回数は3500であった。また防汚膜サンプルの防汚膜表面における擦傷後の、水に対する接触角を同様に測定したところ102度であった。
《実験例4》
本例では、実験例1と同一の成膜装置を準備し、下記条件で、光学フィルター試料を作製した。光学フィルター試料は、高屈折率膜と低屈折率膜との27層からなる短波長透過フィルター(Short Wave Pass Filter : SWPF)の多層膜である。基板としてBK7(屈折率n=1.52)を用い、基板ホルダの回転速度(RS)を30rpmとした。
基板クリーニングに関するイオン照射については、照射開始時の基板温度を100℃とし、イオン源の条件を実験例1と同一とした。
・T1:300秒、T2:100秒。
・基板ホルダの中心から580mmオフセットした位置に保持される基板を基準基板としたとき、その基準基板に対するイオン照射の割合:31%。
光学フィルター薄膜の成膜については、成膜開始時の基板温度を100℃とし、成膜条件を以下とした。
・成膜材料:Ta2O5(高屈折率膜)と、SiO2(低屈折率膜)。
・Ta2O5の成膜速度:0.5nm/秒。
・Ta2O5蒸発物の、T3:2260秒、T4:2260秒。
・SiO2の成膜速度:1.0nm/秒。
・SiO2蒸発物の、T3:1500秒、T4:1500秒。
なお、光学フィルター薄膜の成膜に際し、アシスト効果を与えるイオン源による出力を以下の条件に変えた。
・導入ガス種及び導入量:O2を50sccm。
・イオン加速電圧:300V。
・照射イオン電流:500mA。
・Ta2O5成膜時の、T5:2260秒、T6:750秒。
・SiO2成膜時の、T5:1500秒、T6:500秒。
ニュートラライザの条件は以下とした。
・導入ガス種及び導入量:Arを10sccm、
・電子電流:1A。
《分光特性の評価》
得られた光学フィルター試料の透過分光特性(透過率T)と反射分光特性(反射率R)を測定し、その和(R+T)をグラフ化し、特に波長域450〜550nmでの(R+T)値の平均値をプロット化した。結果を図14に示す。その結果、可視光領域の全般で吸収が確認されなかった。特に図14に示すように450nmから550nmの波長域での(R+T)値が99.5%以上であり、薄膜(多層膜)での吸収がほとんどなく、良好な光学特性を持つ薄膜であることが確認できた。
《実験例5》
本例では、実験例3と同一の成膜装置を準備した以外は、実験例4と同一条件で光学フィルター試料を作製した。
・Ta2O5蒸発物の、T3:2260秒、T4:1620秒。
・Ta2O5成膜時の、T5:2260秒、T6:750秒。
・SiO2蒸発物の、T3:1500秒、T4:1075秒。
・SiO2成膜時の、T5:1500秒、T6:500秒。
実験例4と同様に、得られた光学フィルター試料の透過分光特性(透過率T)と反射分光特性(反射率R)を測定し、その和(R+T)をグラフ化した上で、実験例4と同様に、波長域450〜550nmでの(R+T)値の平均値をプロット化した。結果を図14に示す。その結果、可視光領域の全般で光の吸収が確認されない薄膜が形成できていることが確認できた。特に450nmから550nmの波長域での(R+T)値については、実験例4の結果以上の、99.8%の値が得られ、極めて良好な光学特性を持つ薄膜を形成できていることが確認できた。
《実験例6》
本例では、実験例2と同一の、従来の成膜装置を準備した以外は、実験例4と同一条件で光学フィルター試料を作製した。
・T1:300秒、T2:300秒。
・Ta2O5蒸発物の、T3:2260秒、T4:2260秒。
・Ta2O5成膜時の、T5:2260秒、T6:2260秒。
・SiO2蒸発物の、T3:1500秒、T4:1500秒。
・SiO2成膜時の、T5:1500秒、T6:1500秒。
実験例4と同様に、得られた光学フィルター試料の透過分光特性(透過率T)と反射分光特性(反射率R)を測定し、その和(R+T)をグラフ化した上で、実験例4と同様に、波長域450〜550nmでの(R+T)値の平均値をプロット化した。結果を図14に示す。その結果、可視光領域の全般で一部、吸収が確認された。図14に示すように450nmから550nmの波長域での(R+T)値が99.3%であり、薄膜(多層膜)での吸収が少し見られ、実験例4,5と比較した場合に光学特性が劣る薄膜であることが確認できた。
《実験例7》
本例では、図10に示す成膜装置1(蒸着源34をオフセット)を準備した以外は実験例1と同一条件で防汚膜サンプルを得た。
・T1:300秒、T2:110秒。
・基板ホルダの中心から560mmオフセットした位置に保持される基板を基準基板としたとき、その基準基板に対するイオン照射の割合:35%。
・T3:500秒、T4:100秒。
なお、本例において、図15に示す領域A1での各測定点A〜Cにおける成膜材料の蒸発物供給の各状態を図16のグラフに示す。この図16は、図8のグラフと同趣旨のグラフである。図16に示すように、測定位置によって各測定点での成膜レートが変動していることが理解できる。これは、基板ホルダ12が回転することによって各軌跡上を移動する各測定点について、測定位置によって蒸発物が付着したり付着しなかったりしていることを意味している。各測定点ごとにレート最大値を示す位置(例えば測定点Cでは90°の位置)に、図15の領域A3に相当する蒸着物付着エリアの中心付近が存在する。
《実験例8》
本例では、図10に示す成膜装置1(蒸着源34をオフセット)を準備した以外は実験例1と同一条件で防汚膜サンプルを得た。
・T1:300秒、T2:120秒。
・基板ホルダの中心から830mmオフセットした位置に保持される基板を基準基板としたとき、その基準基板に対するイオン照射の割合:32%。
・T3:500秒、T4:80秒。
《実験例9》
本例では、図10に示す成膜装置1(蒸着源34をオフセット)を準備した以外は実験例1と同一条件で防汚膜サンプルを得た。
・T1:300秒、T2:120秒。
・基板ホルダの中心から560mmオフセットした位置に保持される基板を基準基板としたとき、その基準基板に対するイオン照射の割合:32%。
・T3:500秒、T4:290秒。
《実験例10》
本例では、基板ホルダ12に対する成膜材料の供給領域(A3)の位置関係を図15に示すものとした以外は実験例7〜9と同一条件(ただし下記条件を除く)で防汚膜サンプルを得た。
・T1:300秒、T2:100秒。
・基板ホルダの中心から580mmオフセットした位置に保持される基板を基準基板としたとき、その基準基板に対するイオン照射の割合:31%。
・T3:500秒、T4:230秒。
なお、各実験例での、ドーム径D1、高さD2、オフセットD3、角度θ1の設計値を表1に示した。表1では、上記実験例2,3で用いた成膜装置における各設計値も併せて示した。
・T1:300秒(実験例7〜10)、
・T2:110秒(実験例7)、120秒(実験例8,9)、100秒(実験例10)。
・T3:500秒、
・T4:100秒(実験例7)、80秒(実験例8)、290秒(実験例9)、230秒(実験例10)。
得られた防汚膜サンプルの防汚膜に対する最大擦傷往復回数は実験例3と同一の値(実験例7〜10:3500)であった。また防汚膜サンプルの防汚膜表面における擦傷後の、水に対する接触角を同様に測定したところ実験例3とほぼ同一の値(実験例7:103度、実験例8:102度、実験例9:100度、実験例10:101度)であった。
なお、各実験例での処理形式と評価結果を表2にまとめた。