図1は、この発明の実施例に係る船外機の変換ユニットが取り付けられた船外機を、船体も含めて全体的に示す概略図である。
図1において、符号10は船外機を示す。船外機10は、図示の如く、船体(艇体)12の後尾(トランサム)に装着される。また、船体12の操縦席14付近には、ステアリングホイール16が配置される。ステアリングホイール16は、操船者によって回転操作自在とされる。
船体12の操縦席14付近には、さらにシフト・スロットルレバー20と、複数個の報知ランプ(報知部)22とが配置される。シフト・スロットルレバー20は、操船者によって揺動操作自在とされる。
ステアリングホイール16およびシフト・スロットルレバー20には、それぞれプッシュプルケーブル(ワイヤケーブル)24,26が接続される。即ち、船体12には、ステアリングホイール16、シフト・スロットルレバー20およびプッシュプルケーブル24,26などからなる機械式の操作機構が配置される。尚、各プッシュプルケーブル24,26の端部(具体的には、ステアリングホイール16やシフト・スロットルレバー20と接続される端部と反対側の端部)は、ステアリングホイール16およびシフト・スロットルレバー20の手動操作に応じて可動(変位)する可動部(図1で図示せず)を備え、その可動部は、後述する船外機側変換ユニットのアナログ信号出力部に接続される。
図2は、図1に示す船外機10を部分的に断面で表す拡大側面図である。
図2に示すように、船外機10はスターンブラケット30を備える。スターンブラケット30は、船体12の後尾に固定されると共に、チルティングシャフト32を介してスイベルケース34に接続される。また、船外機10は、マウントフレーム(操舵機構)36を備える。マウントフレーム36はシャフト部40を備え、シャフト部40はスイベルケース34の内部に鉛直軸回りに回転自在に収容される。マウントフレーム36は、その上端と下端(シャフト部40の下端)が船外機10の本体を構成するフレーム(図示せず)に固定される。
スイベルケース34の上部には、シャフト部40を駆動する操舵用電動モータ(アクチュエータ)42が配置される。操舵用電動モータ42の出力軸は、減速ギヤ機構44を介してマウントフレーム36の上端に接続自在とされる。即ち、操舵用電動モータ42を動作させることにより、その回転出力が減速ギヤ機構44を介してマウントフレーム36に伝達され、よって船外機10がシャフト部40を操舵軸として左右に(鉛直軸回りに)操舵される。このように、マウントフレーム36は、操舵用電動モータ42によって船外機10を左右に操舵させる「操舵機構」として機能する。
また、船外機10の上部には、内燃機関(以下「エンジン」という)46が搭載される。エンジン46は、具体的には火花点火式の水冷ガソリンエンジンであり、排気量2200ccを備える。エンジン46は水面上に位置し、エンジンカバー50によって覆われる。
エンジン46の吸気管52には、スロットルボディ54が接続される。スロットルボディ54は、その内部にスロットルバルブ56を備えると共に、スロットルバルブ56を開閉するスロットル用電動モータ(アクチュエータ)60が一体的に取り付けられる。スロットル用電動モータ60の出力軸は、スロットルボディ54に隣接して配置された減速ギヤ機構(図示せず)を介し、スロットルバルブ56に接続自在とされる。即ち、スロットル用電動モータ60を動作させることでスロットルバルブ56が開閉され、エンジン46の吸気が調量されてエンジン回転数が調節される。
また、船外機10は、鉛直軸と平行に配置され、回転自在に支持されたドライブシャフト(バーチカルシャフト)62を備える。ドライブシャフト62の上端には、エンジン46のクランクシャフト(図示せず)が接続される一方、下端にはピニオンギヤ64が設けられる。
ドライブシャフト62の下端のピニオンギヤ64には、水平軸回りに回転自在に支持されたプロペラシャフト66がシフト機構70を介して配置される。プロペラシャフト66の一端には、図2に示す如く、プロペラ72が取り付けられる。シフト機構70は、前進ベベルギヤ74、後進ベベルギヤ76、クラッチ80、シフトスライダ82およびシフトロッド84とからなる。
前進ベベルギヤ74と後進ベベルギヤ76は、プロペラシャフト66の外周に配置されると共に、上記したピニオンギヤ64と噛合して相反する方向に回転させられる。前進ベベルギヤ74と後進ベベルギヤ76の間には、クラッチ80が配置される。クラッチ80は、プロペラシャフト66と一体に回転する。また、クラッチ80は、シフトロッド84を回転させてシフトスライダ82を変位させることにより、前進ベベルギヤ74と後進ベベルギヤ76のいずれかに係合自在とされる。
エンジンカバー50の内部には、前記したシフト機構70を駆動するシフト用電動モータ(アクチュエータ)86が配置される。シフト用電動モータ86の出力軸は、減速ギヤ機構90を介してシフト機構70、具体的には、シフトロッド84の上端に接続自在とされる。即ち、シフト用電動モータ86を駆動することにより、シフトロッド84を回転させてシフトスライダ82を変位させ、よってクラッチ80を前進ベベルギヤ74と後進ベベルギヤ76のいずれかに係合させることができる。
ドライブシャフト62の回転は、ピニオンギヤ64と各ベベルギヤ74,76によって水平軸回りの回転に変換されつつ、各ベベルギヤ74,76のいずれかに係合されたクラッチ80を介してプロペラシャフト66に伝達され、よってプロペラ72が船体12を前進させる方向あるいは後進させる方向のいずれかに回転させられる。
また、シフト用電動モータ86を駆動してシフトスライダ82を適宜な位置に変位させることにより、クラッチ80と各ベベルギヤ74,76の係合を解除することができる。即ち、シフト用電動モータ86を駆動してシフト機構のクラッチ80を動作させることにより、シフトポジションをフォワード、リバースおよびニュートラルの間で切り替えることができる。
このように、船外機10は、操舵機構、シフト機構およびスロットルバルブにアクチュエータである電動モータ42,60,86が接続され、その電動モータ42,60,86の駆動を制御することで、船外機の操舵、シフトチェンジあるいはエンジン回転数の調整を行うようにした、いわゆる電子式の船外機である。
図3は、図1に示す船外機10および船体12の構成を詳細に表すブロック図である。
図3に示すように、船外機10と船体12には、船体12に配置された機械式の操作機構(具体的には、ステアリングホイール16やシフト・スロットルレバー20)の手動操作によって操舵機構、シフト機構およびスロットルバルブが駆動される船外機10に取り付け自在な変換ユニット90が配置される。以下、船外機10側に配置される変換ユニットを「船外機側変換ユニット」と呼び、符号90Aで示す。一方、船体12側に配置される変換ユニットを「船体側変換ユニット」と呼び、符号90Bで示す。
船外機側変換ユニット90Aは、前記した操舵用電動モータ42と、スロットル用電動モータ60と、シフト用電動モータ86と、各電動モータの動作を制御するECU(Electronic Control Unit。電子制御ユニット。アクチュエータ制御手段)92からなる。ECU92は、CPUやROM、RAMなどを備えたマイクロ・コンピュータを備え、エンジンカバー50(図3で図示せず)の内部に収容される。
また、図3に示す如く、船外機10のシャフト部40付近には操舵角センサ94が配置され、操舵角センサ94は船外機10の操舵角を示す出力、具体的には、シャフト部40の回転角を示す出力を生じる。船外機10のスロットルバルブ56付近にはスロットル開度センサ96が配置され、スロットル開度センサ96はスロットル開度を示す出力を生じる。また、船外機10のシフトロッド84付近にはシフト位置センサ100が配置され、シフト位置センサ100はシフトポジションを示す出力、具体的には、シフトロッド84の回転角を示す出力を生じる。これらのセンサ94,96,100の出力は、ECU92に入力される。
船外機10のエンジン46(図3で図示せず)には水温センサ102が取り付けられ、水温センサ102は冷却水温度を示す出力を生じる。船外機10には、水温センサ102の他にも、船外機10の運転状態を示す出力を生じるセンサ(図示を省略)が複数個取り付けられる。
一方、船体12には、操船部106と、変換ユニット90の一部である船体側変換ユニット90Bと、電源部(バッテリ)110とが配置される。操船部106は船外機10の操縦に必要な操作系や計器類からなり、具体的には、前述したステアリングホイール16やシフト・スロットルレバー20などの機械式の操作機構の他、報知部112などからなる。報知部112は、前述した複数個の報知ランプ22から構成される。
船体側変換ユニット90Bは、機械式の操作機構の可動部(後述)に生じた変位に応じたアナログ信号を出力するアナログ信号出力部(操作系アナログセンサ・スイッチ)114と、出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換処理するデジタル信号変換部(アナログデータ処理ブロック)116と、変換されたデジタル信号を前記ECU92にCAN(Controller Area Network)通信を介して出力するデジタル信号出力部(CAN通信ブロック)120と、それらの動作を制御するCPU(Central Processing Unit。メインプロセッサ)122と、およびCPU122に動作電源を供給する動作電源部(電源ブロック)124とから構成される。また、電源部110は、動作電源部124および船外機10のECU92などに接続され、それらの動作電源を供給する。
以下、上記した船体側変換ユニット90Bを構成する各要素について説明すると、アナログ信号出力部114には、前述した如く、ステアリングホイール16およびシフト・スロットルレバー20に接続されたプッシュプルケーブル24,26の可動部24a,26aが接続される。この可動部24a,26aは、前述したように、ステアリングホイール16およびシフト・スロットルレバー20の手動操作に応じて可動させられ、変位が生じる。
アナログ信号出力部114は、可動部24a,26aに生じた変位を検出して電気信号であるアナログ信号を出力する。尚、アナログ信号出力部(操作系アナログセンサ・スイッチ)114はアナログ信号を出力するセンサあるいはスイッチであり、例えば、ステアリングホイール16などの操作量に応じて抵抗値が変化するポテンショメータやスライドボリュームなどからなる。具体的には、ステアリングホイール16の回転操作によって可動させられる可動部24aには、アナログ信号出力部114としてポテンショメータが接続されると共に、シフト・スロットルレバー20の揺動操作(直線的な変位)によって可動させられる可動部26aには、アナログ信号出力部114としてスライドボリュームが接続される。
このように、ステアリングホイール16やシフト・スロットルレバー20が操作されることによってプッシュプルケーブルの可動部24a,26aに変位が生じると、アナログ信号出力部114は、その変位を検出してアナログ信号を出力する。
デジタル信号変換部116は、アナログ信号出力部114から出力されたアナログ信号が入力され、そのアナログ信号を処理、具体的にはデジタル信号(電気信号)に変換する。
デジタル信号出力部120は、デジタル信号変換部116で変換されたデジタル信号が入力されると、そのデジタル信号を通信用のデジタル信号に変換すると共に、変換した通信用デジタル信号をCAN(デジタル信号ライン)126を介して前記した船外機側変換ユニット90AのECU92に出力(送信)する。CPU122は、デジタル信号変換部116などの動作の制御を実行するための演算を行ってそれらの動作を制御する。
動作電源部124は、CPU122と電源部110とを接続する電源ライン128の間に介挿される。従って、船体側変換ユニット90B、具体的には、CPU122は、電源部110から動作電源部124を介して動作電源の供給を受ける。
船体側変換ユニット90Bは、さらに、船体12に配置された報知部112(報知ランプ22)に船外機の運転状態を示す出力を送信するインジケータ処理ブロック(送信手段)130も備える。具体的には、インジケータ処理ブロック130は、水温センサ102などから出力された船外機10の運転状態を示す出力がECU92、デジタル信号出力部120およびCPU122を介して入力され、それを報知部112を駆動可能な信号(制御信号)に変換(処理)して出力する。
上記の如く構成された船外機10と船体12の動作を、変換ユニット90を中心に、図3を参照して説明する。
ステアリングホイール16が操船者によって操作(回転操作)させられると、ステアリングホイール16に接続されたプッシュプルケーブル24の可動部24aが変位する。アナログ信号出力部114は、その変位を検出してアナログ信号をデジタル信号変換部116に出力する。
また、シフト・スロットルレバー20が操船者によって操作(揺動操作)させられると、シフト・スロットルレバー20に接続されたプッシュプルケーブル26の可動部26aが変位する。アナログ信号出力部114は、ステアリングホイール16の場合と同様、その変位を検出してアナログ信号をデジタル信号変換部116に出力する。
アナログ信号出力部114から出力されたアナログ信号は、デジタル信号変換部116でデジタル信号に変換された後、CPU122を介してデジタル信号出力部120に入力される。デジタル信号出力部120は、入力されたデジタル信号を通信用デジタル信号に変換し、その変換した通信用デジタル信号を船外機側変換ユニット90AのECU92にCAN通信を用いて出力(送信)する。
ECU92は、デジタル信号出力部120から出力されたデジタル信号に基づいて各電動モータ42,60,86の動作を制御する。具体的には、ステアリングホイール16の手動操作によって可動部24aに生じる変位に応じたアナログ信号を変換して得られたデジタル信号と、操舵角センサ94の出力に基づき、船外機10の操舵角がデジタル信号に応じた値となるように操舵用電動モータ42の動作を制御する。
また、ECU92は、シフト・スロットルレバー20の手動操作によって可動部26aに生じる変位に応じたアナログ信号を変換して得られたデジタル信号と、スロットル開度センサ96の出力に基づき、スロットル開度がデジタル信号に即した値となるようにスロットル用電動モータ60の動作を制御する。同様に、ECU92は、シフト・スロットルレバー20の手動操作から得られたデジタル信号とシフト位置センサ100の出力に基づき、シフトがそのデジタル信号に即したポジションとなるようにシフト用電動モータ86の動作を制御する。
また、ECU92には、水温センサ102などから船外機10の運転状態を示す出力が入力される。船外機10の運転状態を示す出力は、CAN(デジタル信号ライン)126を介して船体側変換ユニット90Bのデジタル信号出力部120に入力され、その後CPU122を介してインジケータ処理ブロック130に入力される。
インジケータ処理ブロック130は、入力された船外機10の運転状態を示す出力を報知部112の制御信号に変換し、それを報知部112に送信(出力)する。これにより、例えば水温センサ102の出力からエンジンのオーバーヒートが検知されたとき、対応する報知ランプ22を点灯させて操船者に報知するこができる。同様に、図示しないセンサの出力から船外機10の各部の異常などが検知されたときは、対応する報知ランプ22を点灯させ、操船者に報知することができる。
以上のように、この発明の実施例にあっては、船体12に配置された機械式の操作機構(ステアリングホイール16、シフト・スロットルレバー20、プッシュプルケーブル24,26など)の手動操作によって操舵機構(マウントフレーム36)、シフト機構70および搭載内燃機関(エンジン46)のスロットルバルブ56の内の少なくともいずれかが駆動される船外機10に取り付け自在な変換ユニット90(船外機側変換ユニット90A、船体側変換ユニット90B)であって、前記機械式の操作機構の手動操作によってその可動部24a,26aに生じた変位を検出して電気信号に変換する変換手段(船体側変換ユニット90B(アナログ信号出力部114、デジタル信号変換部116、デジタル信号出力部120、CPU122、動作電源部124))と、前記操舵機構、シフト機構およびスロットルバルブの内の少なくともいずれかに接続自在なアクチュエータ(操舵用電動モータ42、スロットル用電動モータ60、シフト用電動モータ86)と、および前記変換された電気信号に基づいて前記アクチュエータの動作を制御するアクチュエータ制御手段(ECU92)とからなるように構成したので、船体に機械式の操作機構を備える船外機を電子式に変更する場合、専用のリモコンユニットなどを新たに配置することなく、従来使用していた機械式の操作機構で電子式の船外機を操縦、具体的には、船外機の操舵、シフトチェンジあるいは機関回転数の調整を行うことができる。即ち、変換ユニットを船外機に取り付けることで、機械式の操作機構を備えた船外機を、新たにリモコンユニットなどを取り付けることなく、電子式の船外機に容易に変換することができる。
また、前記船体12には報知部112(報知ランプ22)が配置されると共に、前記船外機の運転状態を示す出力を前記報知部に送信する送信手段(インジケータ処理ブロック130)を備えるように構成したので、機械式の操作機構を備えた船外機を電子式に変更した場合であっても、機械式で用いていた船体の報知部に船外機の運転状態を表示させることができ、よって操船者は船外機の運転状況を把握することができる。
また、前記変換手段(船体側変換ユニット90B)は、前記機械式の操作機構の可動部に生じた変位に応じたアナログ信号を出力するアナログ信号出力部(操作系アナログセンサ・スイッチ)114と、前記出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するデジタル信号変換部(アナログデータ処理ブロック)116と、前記変換されたデジタル信号を前記アクチュエータ制御手段に出力するデジタル信号出力部(CAN通信ブロック)120と、それらの動作を制御するCPU122と、および前記CPUに動作電源を供給する動作電源部(電源ブロック)124とから構成されるようにしたので、上記した効果をより一層得ることができる。
尚、上記において、アナログ信号出力部114をポテンショメータやスライドボリュームなどとしたが、それに限られるものではなく、プッシュプルケーブルの可動部24a,26aに生じる変位に応じたアナログ信号(電気信号)を出力するセンサあるいはスイッチであれば、どのようなものでもよい。
また、この発明をプロペラ72の駆動源としてエンジン46を備える船外機を例にとって説明したが、この発明は、エンジンと電動モータを備えたハイブリッド型の船外機にも適用が可能である。
10 船外機、12 船体、16 ステアリングホイール(機械式の操作機構)、20 シフト・スロットルレバー(機械式の操作機構)、22 報知ランプ、24,26 プッシュプルケーブル(機械式の操作機構)、24a,26a (機械式の操作機構の)可動部、36 マウントフレーム(操舵機構)、42 操舵用電動モータ(アクチュエータ)、46 エンジン(搭載内燃機関)、56 スロットルバルブ、60 スロットル用電動モータ(アクチュエータ)、70 シフト機構、86 シフト用電動モータ(アクチュエータ)、90 変換ユニット、90A 船外機側変換ユニット、90B 船体側変換ユニット(変換手段)、92 ECU(電子制御ユニット。アクチュエータ制御手段)、112 報知部、114 アナログ信号出力部(変換手段)、116 デジタル信号変換部(変換手段)、120 デジタル信号出力部(変換手段)、122 CPU(変換手段)、124 動作電源部(変換手段)、130 インジケータ処理ブロック(送信手段)