JP2007324353A - 半導体加工装置用部材およびその製造方法 - Google Patents

半導体加工装置用部材およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】半導体加工処理容器内部材は、ハロゲンガスを含む環境でプラズマエッチング加工されると、早期に腐食損傷を受けるとともに、微小なパーティクルを発生して処理容器内を汚染して、半導体の加工生産能力を甚しく低下させる問題がある。
【解決手段】基材の表面に、15〜50原子%の水素を含有するアモルファス状炭素水素固形物層が形成された半導体加工装置用部材を提案する。この部材は、排気した反応容器内に、被処理基材を保持するとともに炭化水素系ガスを導入し、その基材に高周波電力と高電圧パルスとを重畳印加してその導入炭化水素系ガスのプラズマを発生させると同時に、該基材を負の電位に保持することによって、気相析出させた15〜50原子%の水素を含有するアモルファス状炭素水素固形物を基材表面に吸着させて得られる。
【選択図】図1

Description

本発明は、半導体加工装置用部材およびその製造方法に関し、とくにハロゲンやハロゲン化合物が存在するような環境下でプラズマ処理したり、プラズマ処理によって発生する微細なパーティクルを洗浄除去することが必要な半導体加工装置の分野で用いて有効な技術についての提案である。
半導体の製造および加工のプロセスにおいては、各工程で弗化物、塩化物をはじめとする腐食性の強い有害ガスあるいは水溶液を用いるため、これらのプロセスで用いられる材料は腐食損耗が激しいという問題があった。
特に、半導体デバイスは、その素材がSiやGa、As、Pなどからなる化合物半導体を主体としたものであり、その製造工程では、成膜、不純物の注入、エッチング、アッシング、洗浄等の処理が行われるが、その多くは、真空もしくは減圧中で処理するいわゆるドライプロセスによる処理である。
このドライプロセスに属する装置としては、酸化炉、CVD装置、エピタキシャル成長装置、イオン注入装置.拡散炉、反応性イオンエッチング装置、プラズマエッチング装置などおよびこれらの装置に付属している配管、給・排気ファン、真空ポンプ、バルブ類などの部材、部品等がある。
そして、これらの装置類については、次のような腐食性ガス種を用いることが知られている。例えば、BFやPF、PF、NF、WF、HFなどの弗化物、BClやPCl、PCl、POCl、AsCl、SnClTiCl、SiHCl、SiCl、HCl、Clなどの塩化物、HBrなどの臭化物、その他、NHやClFなどである。
ところで、これらのハロゲン化物を用いるドライプロセスでは、反応の活性化を図るため、プラズマ(低温プラズマ)が用いられる。こうしたプラズマ使用環境では、腐食性の強い原子状またはイオン化したF、Cl、Br、Iなどのハロゲン化物となる他、プラズマエッチング時などには、気相中にSiO、Si、Si、Wなどのパーティクルと呼ばれる微粉末状固形物が生成することから、それへの対策が必要であった。
例えば、その対策の1つに、アルミニウム陽極酸化物(アルマイト)による表面処理がある。その他、AlやAl・TiO、Yなどのアルカリ土類金属、IIIa族金属の酸化物を、溶射法や蒸着法などによって部材表面に被覆したり、焼結する技術がある(特許文献1〜4)。
さらに、最近では、Y溶射皮膜をレーザ照射や電子ビーム照射して該溶射皮膜の表面を再溶融することによって、耐食性や耐プラズマエロージョン性を向上させる技術(特許文献5)もある。
一方、防食目的ではないが、ハロゲン系ガスを含む環境で使用される静電チャックにおいて、エッチング加工用のSi薄膜をジョンソンラーベック力を利用して吸着するのに適したダイヤモンドライク・カーボン(DLC)を電極表面に形成する表面処理技術も提案されている(特許文献6〜10参照)。
特公平6−036583号公報 特開平9−69554号公報 特開2001−164354号公報 特開平11−80925号公報 特開2005−256098号公報 特開平5−144929号公報 特開2002−246455号公報 特開平10−158815号公報 特開平10−64986号公報 特開平6−200377号公報
最近の半導体加工技術の分野では、より高度で高い精密度を目指すという観点から、半導体加工装置あるいはそれの部材、部品を、各種のハロゲンやハロゲン化合物による厳しい腐食環境に曝すことが多い。このような装置等では、プラズマエッチング時に発生する腐食性の強いハロゲンイオンの存在によって、使用環境がより厳しいものになる。さらに、高精密加工が要求される最近の半導体加工装置用部材については、環境汚染物質(パーティクル)でさえも、忌避されるようになってきた。
発明者らの研究によると、前記環境汚染物質(パーティクル)の主成分は、半導体加工装置内に配設されている部材およびその表面に被覆されている表面処理皮膜の構成成分であることがわかってきた。従って、現在、耐ハロゲン腐食用部材あるいは耐プラズマエロ一ジョン用表面処理皮膜として用いられている部材および皮膜についてはもっと改良が必要であると考えられる。即ち、最近の研究対象となっている各種の半導体デバイス加工用装置では、薄膜成分中のSi以外の元素、金属、非金属化合物類等はすべて汚染物質であると考えられている状況である。
したがって、特許文献1〜4に開示されているような各種の耐食・耐プラズマエロージョン用皮膜、およびSi薄膜の吸・脱着用の静電チャック部材を構成する酸化物、珪化物、窒化物などの皮膜や焼結体は、現在ではむしろ汚染源の一つとして考えられている。
また、特許文献6〜10に開示されている炭素と水素を主成分とするDLCおよびその皮膜は、金属成分を含まない非金属材料で形成されているため、ハロゲンおよびハロゲン化合物に対しても十分な耐食性を発揮する。しかし、このDLCおよびその皮膜は、静電チャックの電極面にSi薄膜を吸・脱着することを目的として開発され、硬質で高い電気抵抗率(10〜1013Ωcm)が付与されているため、損傷や剥離が発生しやすく、これを半導体加工装置用各部材に使用することには多くの問題があった。
即ち、本発明は、従来技術が抱えている以下に示すような問題点を解決することを目的として開発された技術を提案する。
(1)DLCは、非常に硬く(特に電気抵抗率が10〜1013Ωcmと高いものについて)延性に乏しいため、基材が加熱されるような環境では、基材とDLCとの間に大きな熱応力が発生して容易に剥離する。即ち、僅かな熱的・機械的衝撃や曲げ応力がかかっても剥離する他、時として室内に放置しただけでも室温の変化などによって剥離する。とくに、電気抵抗率の高いDLCは、皮膜中に大きな残留応力をもつため、厚膜にすることが困難であると同時に、多くのピンホールもある。従って、DLC自体は腐食性に優れた材料であったとしても、薄膜しかできないこと及びピンホールから侵入する腐食成分によって、基材が容易に腐食される。
(2)DLC自体は、耐ハロゲン腐食性に優れているものの、プラズマエッチング処理を受けると、簡単に剥離するのみならず、DLCが残留応力の影響を受けて丸い小さな筒状片となって周囲に飛散し、これが環境汚染源となる。そして、このような原因で剥離したDLCは、酸、アルカリ、ハロゲンなどによって腐食されず、また、蒸気化もしないために、HF、ClFなどの薬液による装置の洗浄技術では除去できず、このことが、却って環境汚染源となる。
(3)また、先行特許文献6〜10などに開示されている従来のDLC形成方法では、10μm厚さ以上の形成が困難で、複雑な形状の部材表面に均等な厚さのDLCを形成することができなし、溶射皮膜や気孔を有するセラミック焼結体のような基材上への形成技術としては不十分である。
本発明は、上述した問題点を解決することを目的として開発されたものであって、基材の表面に、15〜50原子%の水素を含有するアモルファス状炭素水素固形物層が形成されてなる半導体加工装置用部材である。
本発明に係る上記部材構成のうち、前記アモルファス状炭素水素固形物層は、炭素含有量85〜50原子%、水素含有量15〜50原子%の微小固体粒子からなるものであって、80μm以下の厚さを有する層であり、硬さHv:500〜2300、電気抵抗率が10Ωcm未満の特性を有するものである。前記基材は、金属材料もしくは非金属材料のいずれか、またはこれらの基材上に形成された溶射皮膜、めっき皮膜、PVD皮膜、CVD皮膜、陽極酸化皮膜および再溶融処理皮膜のうちから選ばれるいずれか1種以上の1層以上のアンダーコート層によって構成されているものであること、そして、前記アモルファス状炭素水素固形物層は、基材もしくはアンダーコート層の特にその気孔中に侵入した炭素と水素を主成分とする微小固体粒子および/または該基材表面に被覆された炭素と水素を主成分とする微小固体粒子からなる皮膜とによって形成されたものであること、さらに、前記基材またはアンダーコート層の表面には、その表面が高エネルギー照射処理によって生成する2次再結晶層を有するものであることが好ましい。
また、本発明は、排気した反応容器内に、被処理基材を保持するとともに炭化水素系ガスを導入し、その基材に高周波電力と高電圧パルスとを重畳印加してその導入炭化水素系ガスのプラズマを発生させると同時に、該基材を負の電位に保持することによって、気相析出させた15〜50原子%の水素を含有するアモルファス状炭素水素固形物を基材表面に吸着させる(以下、この処理を「プラズマCVD法」と呼ぶ)ことを特徴とする半導体加工装置用部材の製造方法を提案する。
かかる本発明の製造方法において、前記アモルファス状炭素水素固形物によって形成される層は、炭素含有量85〜50原子%、水素含有量15〜50原子%の微小固体粒子からなるものであって、80μm以下の厚さを有し、硬さHv:500〜2300、電気抵抗率が10Ωcm未満の特性を有するものである。前記基材は、金属材料もしくは非金属材料のいずれか、またはこれらの基材上に形成された溶射皮膜、めっき皮膜、PVD皮膜、CVD皮膜、陽極酸化皮膜および再溶融処理皮膜のうちから選ばれるいずれか1種以上の1層以上のアンダーコート層によって構成されているものであること、そして、前記アモルファス状炭素水素固形物によって形成される層は、基材もしくはアンダーコート層の気孔中に侵入した炭素と水素を主成分とする微小固体粒子および/または基材表面に被覆された炭素と水素を主成分とする微小固体粒子からなる皮膜とによって形成されたものであること、さらに前記基材またはアンダーコート層の表面には、その表面が高エネルギー照射処理によって生成する2次再結晶層を形成するものであることが好ましい。
(1)本発明によれば、高周波電力と高電圧パルスとを重畳するプラズマCVD法の処理によって、被処理基材の表面部に、アモルファス状の炭素と水素を主成分とする微小固体粒子を、その表面に被覆するのみならず気孔中にも侵入充填させることにより、被処理基材の欠陥を補修するとともにアモルファス状炭素水素固形物の層を一定の厚さに容易に形成することができる。
(2)本発明によれば、被処理基材に負電圧を印加することによって、正に帯電したイオン、ラジカル状態の炭素と水素を主成分とする微小固体粒子を、この基材のあらゆる表面部分に均等に吸着・成長させることができるため、複雑な形状をした該基材のあらゆる部分、とくに隠れた部分にも、また微小な気孔内に対しても、均等な膜を形成することができる他、開気孔内に侵入してこれを確実に封孔することができるようになる。
(3)本発明によれば、基材表面に被覆されたアモルファス状の炭素水素固形物の層(皮膜)は、緻密で密着性に優れるほか、成膜時の残留応力が小さく、化学的にも安定しているため、海水、酸、アルカリ、有機溶剤に冒されず化学的に安定しており、基材の封孔と耐食被覆を同時に実現できる。
(4)本発明によれば、硬度が比較的低く電気抵抗率が10Ωcm未満であることから、延性を有するため、基材に熱的・機械的な曲げ変形が加わっても剥離するようなことがない。
(5)本発明によれば、基材表面に被覆したアモルファス状炭素水素固形物の膜が80μm以下(好ましくは0.5μm〜50μm)の厚さに成膜した場合であっても、耐剥離性に優れた皮膜を形成することができる。
(6)本発明によれば、前記アモルファス状炭素水素固形物層は、硬さHv:500〜2300、電気抵抗率:10Ωcm未満の特性を示すものの、密着性および延性に優れる他、ハロゲンガス雰囲気中におけるプラズマエッチング作用によって分解した場合に、特に酸素が含まれていると大部分がC、CO、CO、H、HOなどのガス体となって排出されるため、パーティクルの発生源とならない。
(7)本発明によれば、アモルファス状炭素水素固形物層がハロゲンガスやハロゲン化合物による化学的腐食作用に対して優れた耐食性を発揮するため、パーティクルの発生源となる腐食生成物の発生を根絶させることができる。
従って、上述したアモルファス状炭素水素固形物層を有する本発明に係る半導体加工処理装置では、反応容器内部が常に清浄な環境に維持されるため、高度かつ高精密な半導体加工処理を長時間にわたって効率よく行うことができるようになる。
本発明に係る半導体加工装置用部材は、上述したように、基材の表層部分が、炭素および水素を主成分とする微小固体粒子(ナノオーダの超微粒子で、1×10−9m程度以下の大きさである)が堆積して形成されたアモルファス状炭素水素固形物層、とくに水素含有量の多い(15原子%以上)固形物によって被覆されていることを特徴としている。本発明において重要なことは、炭素と水素とを主成分とするアモルファス状炭素水素固形物を、半導体加工装置用部材の表面に、誘引吸着させて成膜することにある。
本発明における前記アモルファス状炭素水素固形物の侵入、堆積によって基材表面に形成される層は、後で詳述するように、炭化水素系ガスプラズマ発生下において、高周波電圧と高電圧パルスとを重畳印加して被処理部材である基材を負の電位にすることにより、この雰囲気中に気相析出した炭素と水素を主成分とするアモルファス状微小固体粒子をこの基材表面に誘引吸着させる方法によって形成される。このような成膜環境は、成膜材料源としての炭化水素系ガスが、プラズマによって容易に分解するとともに、活性化された炭化水素をはじめ炭素や水素のイオンやラジカルを発生し、これが基材の表面欠陥層内部にまでも侵入するだけでなく、その表面を一定の厚さで被覆するものとなる。例えば、基材表面部分の開気孔あるいはアンダーコート(溶射皮膜等)の微小な開気孔中にもアモルファス状の前記微小固体粒子が侵入して封孔し、あるいはその表面に堆積して成膜となる。
本発明の上記プラズマCVD法では、炭化水素系ガスのプラズマによって分解生成した低分子の炭化水素をはじめ炭素や水素のイオンやラジカルは、気相状態のまま(雲状ないし霧状となって)基材全体を覆うように発生し、そして、これらが基材あるいは溶射皮膜等のアンダーコートの表面に誘引吸着され、さらには開気孔内にも侵入し充填され、やがて気相析出したこれらのアモルファス状の前記微小固体粒子は、処理時間の経過に伴って、該開気孔以外の皮膜表面にも堆積して、皮膜全面を被覆するようになる。発明者らの実験によると、膜厚は80μm程度までに形成することが可能である。
以下、この高周波電圧と高電圧パルスとを重畳したプラズマCVD法の処理について、図面に基づいて説明する。この方法において、被処理基材2は、反応容器1内で負の電位(負電圧)が印加されており、それ故に、プラズマによって励起されプラスに帯電した炭化水素系ガスのイオンやラジカルは、雲状あるいは霧状となって負電圧下の被処理基材2の全面を覆うように発生し、該基材2表面において炭素と水素を主成分とするアモルファス状の微小固体粒子の放電析出を繰り返して吸着されていく。従って、たとえ基材2の形状が複雑であったとしても、封孔と被覆が比較的均等に行われる特徴がある。例えば、図1に示すようなTおよびS字型をした基材に対しても、正にその基材部分のみに、つまり基材のある部分のみに、アモルファス状炭素水素の固形物を吸着(負電位をもたない部分は吸着作用が生じない)させることができる。このように、基材を負の電位にして、上記の封孔、被覆の両処理ができ、しかも、どの部分も均等に成膜できるという特徴がある。この点、負電位を印加せずに単に炭化水素系ガスのプラズマ放電を行うと、形成されるアモルファス状炭素水素固形物からなる皮膜の厚さは、均等になることはない。その理由は、プラズマエネルギーのみの場合は、炭化水素系ガス濃度によってガスの分解効率が変化するとともに、前掲のTおよびS字型試料の形、位置によって、ガス濃度自体が変化するためである。
また、本発明の上記高周波電圧と高電圧パルスとを重畳したプラズマCVD法の処理では、炭化水素系ガスを成膜原料として生成したアモルファス状炭素水素固形物からなる層を、疎水性にすることができる。その結果、基材がたとえ、腐食性水溶液と接するような場合があっても、その水溶液との濡れ性を低下させて、腐食反応が物理的に起こり難い表面に仕上げることができるようになる。その一方で、親油性のアモルファス状炭素水素固形物の成膜時または成膜後に、雰囲気ガス中にNやSiOを含むガスを用いて処理すると、親水性に変化させることが可能である。従って、本発明で形成する上記皮膜は、界面特性に応じて適宜に変化させることができる。
上述したアモルファス状炭素水素固形物の層は、この層の炭素と水素の含有量を、成膜用の炭化水素系ガスの種類を変化させることによって、制御することができる。例えば、炭化水素系ガス成分のC/H比が大きいほど、形成されるアモルファス状炭素水素固形物層中の炭素含有量が高くなる。ただし、この場合、膜の硬さが高く、かつ電気抵抗率の高い層となるので、耐摩耗性は向上するものの延性に乏しく内部応力も大きくなり、厚膜の形成が難しいという問題がある他、多数の微小気孔も生じやすくなる。従って、アモルファス状炭素水素固形物からなる膜自体は、耐食性には優れるものの、環境の腐食成分がこうした気孔から浸入し、基材を腐食させることによって、皮膜の剥離を促すという問題がある。
上記の問題を克服するために、本発明においては、該アモルファス状炭素水素固形物層の炭素含有量は、85原子%未満を上限として含有させることにした。
一方、本発明において、前記アモルファス状炭素水素固形物の水素含有量は15原子%以上を含有させる。この理由は、アモルファス状炭素水素固形物層の残留応力を小さくして厚膜の形成が可能となるので、曲げ変形に対する抵抗、耐食性を向上させるという観点からは、水素の含有量が多い方が有利だからである。ただし、この水素の含有量が50原子%を超えると、膜の形成が困難となるので好ましくない。
即ち、本発明では、成膜用の炭化水素系ガス中のC/H比を小さく(水素含有比率を15原子%以上50原子%未満と大きくする)すること、即ち、アモルファス状炭素水素固形物層中の水素含有量を多くすることにより、基材の曲げ変形に対する抵抗力が大きくなり、生成した皮膜の剥離も起りにくくした点に特徴がある。このように、水素含有量を多くしたアモルファス状炭素水素固形物の皮膜は、硬さHvが500〜2300、電気抵抗率が10Ωcm未満の特性を示すようになり、これは一般のDLCに比較すると極めて低い物性値と言えるものである。しかも、得られる皮膜の内部応力値も小さいため、最高膜厚80μmのアモルファス状炭素水素固形物層の形成も可能である。
このような理由により、アモルファス状炭素水素固形物層は、炭素含有量:85〜50原子%、水素含有量:15〜50原子%とした。好ましくは、炭素含有量:84〜68原子%、水素含有量:16〜32原子%がよい。
以下、本発明において最も特徴的な構成である上記アモルファス状炭素水素固形物層の特徴についてまとめると、以下のとおりである。
a.アモルファス状炭素水素固形物の主成分は、炭素と水素から構成されている。従って、海水、各種の酸、アルカリ、有機溶剤にも冒されず、化学的に安定である。
b.炭化水素系ガスのプラズマ活性分解反応によって生成する、炭素と水素を主成分とするアモルファス状微小固体粒子(ナノオーダの超微粒子で、1×10−9m程度以下の大きさである)の集合体は、各粒子および粒子堆積層がアモルファス状態を呈しているため、欠陥のできやすい粒界というものがなく、緻密で優れた密着性を有し、基材等から剥離することがない。
c.アモルファス状炭素水素固形物の層(皮膜)は、平滑(Ra:0.5μm以下)で、耐摩耗性に優れ(摩擦係数μ:0.11〜0.2)るため、異物が付着しにくい。
d.アモルファス状炭素水素固形物層は、成膜時に炭化水素ガス中にNやSiを共存させて、成膜後にその表面にSiを注入するなどの方法によって、親油性(疎水性)、親水性のいずれにも制御することができるため、界面特性が重要視される産業分野への展開が可能である。
e.半導体加工装置用部材は、ハロゲンガス環境でプラズマエッチング作用を受けると部材の表面が破壊されることが知られているが、本発明のアモルファス状炭素水素固形物層、とくに水素含有量が15〜50原子%と多い層は、分解時にC、H、HOなどの気体となるものが多く、環境汚染源のパーティクルが発生しにくい。
次に、上記アモルファス状炭素水素固形物層の形成装置について説明する。図2は、被処理材である基材2の表面に、アモルファス状炭素水素固形物層を形成するための装置を示している。この装置は、主として、接地された反応容器1と、該反応容器1内の所定の位置に配設される被処理体2に接続された導体3に、この反応容器1内に成膜用の有機系ガス導入装置(図示せず)や反応容器を真空引きする真空装置(図示せず)等を介して、高電圧パルスを印加するための高電圧パルス発生電源4とを備えている。
その他、上記の装置には、被処理体2の周囲に炭化水素系ガスプラズマを発生させるためのプラズマ発生用電源5が配設されている他、前記導体3および被処理体2に、高電圧パルスおよび高周波電圧の両方を同時に印加するために、高電圧パルス発生電源4およびプラズマ発生用電源5との間に重畳装置6が介装されている。なお、ガス導入装置および真空装置は、それぞれバルブ7aと7bを介して反応容器1に接続され、導体3は高電圧導入部を介して重畳装置6に接続されている。
上記装置を用い、被処理体の表面に、アモルファス状炭素水素固形物層を形成するには、被処理体2を反応容器1内の所定の位置に設置し、真空装置を稼動させて該反応容器1中の空気を排出して脱気したあと、ガス導入装置によって有機系の炭化水素系ガスを該反応容器1内に導入する。次いで、プラズマ発生用電源5からの高周波電力を被処理体2に印加する。反応容器1は、アース線8によって電気的に中性状態にあるため、被処理体は、相対的に負の電位を有することになる。このため印加によって発生する、導入ガスのプラズマ中のプラスイオンは、負に帯電した被処理体2の形状に沿って発生するようになる。
そして、高電圧パルス発生電源4からの高電圧パルス(負の高電圧パルス)を被処理体2に印加し、炭化水素系ガスプラズマ中のプラスイオンを被処理体2の表面に誘引吸着させる。この処理によって、被処理体2の表面に厚膜のアモルファス状の前記皮膜を均等に形成することができる。この炭化水素系ガスプラズマ中では、次に示すような現象が発生し、最終的には炭素と水素を主成分とするアモルファス状炭素水素固形物が気相析出して被処理体2の表層部・気孔内に侵入ないし該表面を被覆するように生成して皮膜を形成するものと考えられる。
即ち、アモルファス状炭素水素固形物層は、次のようなプロセス(イ)〜(ニ)に従って形成されているものと推定している。
(イ)導入された炭化水素系ガスのイオン化(ラジカルと呼ばれる活性な中性粒子も存在する)が起り、
(ロ)炭化水素系ガスから変化したイオンおよびラジカルは、負の電圧が印加された被処理体の面に衝撃的に衝突し、
(ハ)衝突時のエネルギーによって、結合エネルギーの小さいC−H間が切断され、その後、活性化されたCとHが重合反応を繰り返して高分子化し、炭素と水素を主成分とするアモルファス状の炭素水素固形物を気相析出し、
(ニ)そして、上記(ハ)の反応が被処理体(基材、アンダーコート溶射皮膜等)の気孔内で起こると、該気孔内がアモルファス状炭素水素固形物の微小固体粒子で充填され、一方、その表面で行われるとアモルファス炭素水素固形物皮膜を形成することとなる。
なお、この装置では、高電圧パルス発生電源4の出力電圧を下記(a)〜(d)のように変化させることによって、被処理体2に対して金属をふくめたイオン注入を実施することもできる。
(a)イオン注入を重点的に行う場合:10〜40kV
(b)イオン注入と皮膜形成の両方を行う場合:5〜20kV
(c)皮膜形成のみを行う場合:数百V〜数kV
(d)スパッタリングなどで重点的に行う場合:数百V〜数kV
なお、高電圧パルス発生電源4では、
パルス幅:1μsec〜10msec、
パルス数:1〜複数回のパルスを繰り返すことも可能である。
また、プラズマ発生用電源5の高周波電力の出力周波数は数十kHzから数GHzの範囲で変化させることができる。
反応容器1内に導入する成膜用有機ガスとしては、炭素と水素からなる有機系の炭化水素系ガスおよびこれにBやSi、O、Clなどが添加したものなどである。
(イ)常温(18℃)で気相状態のもの
CH、CHCH、C、CHCHCH、CHCHCHCH
(ロ)常温で液相状態のもの
CH、CCHCH、C(CH、CH(CHCH、C12、CCl
(ハ)有機Si化合物(液相)
(CO)Si、(CHO)Si、[(CHSi]
上記の反応容器内への導入ガスは、常温で気相状態のものは、そのままの状態で反応容器1内に導入できるが、液相状態の化合物はこれを加熱してガス化させ、そのガス(蒸気)を反応容器内に供給する。有機Si化合物を用いてアモルファス状固形物の皮膜を形成すると、皮膜中にSiが混入することがあるが、Siは炭素と強く結合しているので、本発明の目的の妨げとなることはない。
本発明に係るアモルファス状炭素水素固形物層の形状に適した基材質および表面処理皮膜(アンダーコート)としては、以下のものを例示することができる。
(イ)金属基材:Al、Ti、Ni、Cr、No、Ta、Nb、Siおよびこれらの合金類
(ロ)非金属基材:プラスチック、焼結材料、石英、硝子
(ハ)表面処理皮膜
(a)溶射皮膜:金属(合金を含む)、酸化物、珪化物、硼化物、窒化物、炭化物などのセラミックスおよびこれらの金属とのサーメット溶射皮膜等
(b)PVD、CVD皮膜:金属(合金を含む)、酸化物.珪化物、硼化物、窒化物、炭化物等
(c)金属めっき皮膜:Ni、Cr、Al、Fe等
(d)高エネルギー照射処理皮膜:上記溶射皮膜、PVD皮膜、CVD皮膜の表面をレーザーや電子ビームなどの高エネルギー照射処理することによって、表面層を再溶融処理(2次再結晶層)を形成した皮膜等
なお、表面処理皮膜形成のための溶射法としては、電気アーク溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、水プラズマ溶射法、爆発溶射法、コールドスプレー法などのいずれの溶射法で形成した皮膜に対しても適用できるが、特にセラミック材料を各種プラズマ溶射法によって形成してなる溶射皮膜に対しするときに好適である。その理由は、セラミック溶射皮膜は、金属系やサーメット系皮膜に比較して一般に多孔質であるため、本発明の効果が顕われやすいからである。
同様に、PVD法、CVD法によって形成される皮膜に対しても好適に用いられる。
基材および表面処理皮膜の表面状態は、基本的にはそのまま、例えば、溶射皮膜の場合は、溶射まま(as Sprayed)で、上述したアモルファス状炭素水素固形物層を形成することができるが、この溶射皮膜の表面を機械的に研削・研磨したり、電子ビーム照射処理やレーザー照射処理して、表面膜を再溶融処理した後に成膜したものであってもよい。
後者の場合、例えば、IIIa族元素の酸化物からなる多孔質溶射皮膜の上に、この溶射皮膜の最表層の部分を変質させる態様で新たな層、即ち前記IIIa族元素の酸化物からなる多孔質層を二次変態させて得られる二次再結晶層を形成したものが考えられる。
一般に、IIIa族元素の金属酸化物、たとえば酸化イットイリウム(イットリア:Y)の場合、結晶構造は正方晶系に属する立方晶である。その酸化イットリウムの粉末を、プラズマ溶射すると、溶融した粒子が基材に向って高速で飛行する間に超急冷されながら、基材表面に衝突して堆積するときに、その結晶構造が立方晶(Cubic)の他に単斜晶(monoclinic)を含む混晶からなる結晶型に一次変態をする。即ち、前記多孔質層の結晶型は、溶射の際に超急冷されることによって、一次変態して斜方晶系と正方晶系とを含む混晶からなる結晶型で構成されている。これに対し、前記二次再結晶層とは、一次変態した前記混晶からなる結晶型が、正方晶系の結晶型に二次変態した層である。
このように、主として一次変態した斜方晶系の結晶を含む混晶構造からなるIIIa族酸化物の前記多孔質層を、高エネルギー照射処理することによって、該多孔質層の堆積溶射粒子を少なくとも融点以上に加熱することによって、この層を再び変態(二次変態)させて、その結晶構造を正方晶系の組織に戻して結晶学的に安定化させることにしたものである。このような層では、溶射による一次変態時に、溶射粒子堆積層に蓄積された熱歪みや機械的歪みを解放して、その性状を物理的化学的に安定させ、かつ溶融に伴なうこの層の緻密化と平滑化をも実現する。
また、被処理体2の表面には、上述した方法の他、予めCrやSi、Ta、Nb、Tiなどの炭素と化学的親和力の強い金属イオンや金属の薄膜を形成したあと、その上に、本発明のアモルファス状の炭素水素固形物が堆積した皮膜を形成することも可能である。
(実施例1)
この実施例では、Al基材の表面に形成したアモルファス状炭素水素固形物層(膜)の水素含有量と基材の曲げ変形に対する抵抗およびその後の耐食性の変化について調査した。
(1)供試基材および試験片
供試基材は、Al(JIS−H4000規定の1085)とし、この基材から、寸法:幅15mm×長さ70m×厚さ1.8mmの試験片を作製した。
(2)アモルファス状炭素水素固形物層の形成方法およびその性状
試験片の全面にわたって、アモルファス状炭素水素固形物の膜を1.5μmm厚さに形成した。このとき、アモルファス状炭素水素固形物膜中の水素含有量を5原子%〜50原子%(残部は炭素)の範囲に制御したものを用いた。
(3)試験方法およびその条件
アモルファス状炭素水素固形物の膜を形成した試験片を、90°に曲げ変形を与え、曲げ部のアモルファス状炭素水素固形物の膜の外観状況を20倍の拡大鏡で観察した。また、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験に供し、96時間曝露した。
(4)試験結果
表1に試験結果を示した。この試験結果から明らかなように、アモルファス状炭素水素固形物膜中の水素含有量は少なく、炭素含有量の多いもの(No.1〜3)では、90°の曲げ変形を与えると、膜が剥離もしくは局部的に剥離した。一方、これらの剥離試験片を塩水噴霧試験に供すると、基材にAlが腐食され、多量の白さびが発生し、耐食性を完全に消失していることが判明した。これに対して、水素含有量が15原子%以上〜50原子%(No.4〜8)のアモルファス状炭素水素固形物膜は、曲げ変形によっても剥離せず、塩水噴霧試験にもよく耐え、優れた耐食性を継持していることが確認された。
Figure 2007324353
(実施例2)
この実施例では、Al基材に予めAl溶射皮膜を施工した後、その上に、実施例1と同様の水素含有量の異なるアモルファス状炭素水素固形物膜を形成したものについて、耐曲げ変形性および耐塩水噴霧試験性能を調査した。
(1)供試基材および試験片
供試基材として実施例1と同じAl試験片を用い、アモルファス状炭素水素固形物膜の形成に先駆けて、大気プラズマ溶射法によって、アンダーコートとして膜厚80μmのAl皮膜を施工した。
(2)試験方法および条件
実施例1に同じ。
(3)試験結果
表2に試験結果を示した。これらの試験結果から明らかなように、Al溶射皮膜の上にアモルファス状炭素水素固形物層を形成しても、水素含有量の少ない膜(No.1〜3)では曲げ変形抵抗が小さいため、容易に剥離した。これに対し、水素含有量を多く含むアモルファス状炭素水素固形物層(No.4〜8)は延性を有し、曲げ変形を与えても膜が剥離することなく、塩水噴霧試験においても優れた耐食性を維持していることが確認された。
Figure 2007324353
(実施例3)
この実施例では、半導体加工プロセス用装置に使用されている各種の基材および表面処理皮膜に対する本発明のアモルファス状炭素水素固形物層の形成の有無を調査した。
(1)供試基材および表面処理皮膜
(a)石英
(b)ソーダ硝子
(c)焼結材料(SiO、Al、AlN)
(d)ポリカボネート(有機高分子材料)
(e)PVD法(Al、TiN、TiC厚さ1.5μm)
(f)CVD法(Al、TiC厚さ1.8μm)
(g)陽極酸化アルミニウム(Al、8μm)
(2)アモルファス状炭素水素固形物膜の形成方法および膜厚
アモルファス状炭素水素固形物膜の形成方法は、実施例1と同じである。但し、アモルファス状炭素水素固形物膜の水素含有量は22原子%とし、膜厚は5μmとした。
(3)試験結果
表3に試験結果を示した。この試験結果から明らかなように、本発明に係るアモルファス状炭素水素固形物膜は、石英、硝子、ポリカーボネートなどの非金属材料はもとより、焼結体、PVD、CVD、陽極酸化膜などに対しても良好な密着性を示すことが確認され、これらの基材の保護皮膜として有利であることが確認された。
Figure 2007324353
(実施例4)
この実施例では、本発明に係わるアモルファス状炭素水素固形物膜の基本的な防食性能を調査するため、基材として汎用度の高いSS400鋼とAlを用い、これにアモルファス状炭素水素固形物膜を直接膜厚0.5〜50μmに形成させた。また防食性の環境として(a)高湿度、(b)塩水噴霧、(c)5%HSO、(d)5%NaOHなど腐食特性の異なる雰囲気中に曝露して、耐食性を調査した。
(1)基材および試験片寸法
基材としてSS400鋼とAlの2種類を用い、それぞれから幅30mm×長さ50m×厚さ2mmの試験片を作製した。
(2)アモルファス状炭素水素固形物膜とその厚さ
前掲の装置を用いアモルファス状炭素水素固形物膜を試験片の全面にわたって0.5〜50μmの厚さに形成したものを準備した(水素含有量22〜26原子%)。
(3)腐食試験条件
腐食試験条件として、次に示す条件を選択した。
(イ)高湿度雰囲気:恒温恒湿槽を用いて、30℃,相対湿度90%雰囲気中に試験片を1000時間曝露した。
(ロ)塩水噴霧:JISZ2371規定の塩水噴霧試方法によって96時間の試験を行った。
(ハ)5%HSO浸漬:5%HSO水溶液中(20〜25℃)に100時間浸漬した。
(ニ)5%NaOH浸漬:5%NaOH水溶液中(30〜35℃)に100h浸漬した。
(4)評価方法
腐食試験結果の評価は、試験前後における試験片表面の変化およびHSO,NaOH水溶液中の色調の変化を目視観察により実施した。なお、比較用の試験片として無処理状態のSS400鋼とAlを同じ条件で腐食試験に供した。
(5)腐食試験結果
表4に腐食試験結果を示した。この試験結果から明らかなように、無処理のSS400鋼試験片は、5%NaOH浸漬を除くすべての試験雰囲気(No.1、3、5)において、赤さびを発生したり、また溶解(No.5)した。また、Alの無処理試験片(No.2、4、6、8)では、高湿度雰囲気中以外の条件で白さびを発生(No.4)するとともに、酸(No.6)、アルカリ(No.8)によっても水素ガスを発生しながら溶解した。
これに対して、アモルファス状炭素水素固形物膜を形成した試験片では、基材質の種類に関係なく優れた耐食性を発揮し、膜厚1μm以上ではすべての腐食環境において十分な耐食抵抗を示した。ただ、膜厚0.5μmでは、高湿度雰囲気およびアルカリ水溶液(5%NaOH)浸漬では赤さびの発生を抑制するが、塩水噴霧,硫酸浸漬では僅かに赤さびや白さびの発生が認められた。
以上の結果から、アモルファス状炭素水素固形物膜の有効防食作用は、膜厚0.5〜50μmの範囲において認められ、特に1〜50μmの範囲が好適であることが判明した。
Figure 2007324353
(実施例5)
この実施例では、SS400鋼基材で製作した試験片の表面に、酸化物系セラミック溶射皮膜を直接、形成した後、その表面にアモルファス状炭素水素固形物膜を被覆した後、塩水噴霧試験に供してその耐食性を調査した。
(1)基材および試験片寸法
SS400鋼(寸法:幅50mm×長さ70m×厚さ3.2mm)
(2)溶射皮膜の種類と溶射法
試験片の表面に直接下記酸化物系セラミックを大気プラズマ溶射法によって70μm厚さに形成した。セラミック溶射皮膜をやや薄く施工したのは、アモルファス状炭素水素固形物膜の封孔・被覆効果を短時間の試験によって判別するためである。(数字はmassを示す)
(a)Al
(b)Cr
(c)8%Y・92%ZrO
(d)Al・MgOスビネル
(e)98%Al・2%TiO
(f)Y
(3)アモルファス状炭素水素固形物膜の形成と厚さ
実施例1と同じ装置を用い膜厚5μmに形成した(水素含有量16〜26原子%)。
(4)腐食試験条件
JIS−Z2371規定の塩水噴射試験方法により、96時間の腐食試験を行った。
(5)評価方法
腐食試験の評価は、試験前後における酸化物系セラミックの表面における赤さびの発生の有無によって判定した。なお、比較として、アモルファス状炭素水素固形物膜を被覆しない溶射皮膜を同条件で試験した。
(6)腐食試験結果
表5に腐食試験結果を示した。この試験結果から明らかなように、無処理の溶射皮膜(No.2、4、6、8、10、12)には、すべて赤さびの発生が認められた。即ち、セラミック溶射皮膜の気孔から塩水が内部に浸入してSS400鋼を基材を腐食し、溶出した鉄イオンが皮膜表面に浮上して赤さびを発生したものと考えられる。これに対して、アモルファス状炭素水素固形物膜を被覆した試験片(No.1、3、5、7、9、11)は、いずれのセラミック皮膜に対しても良好な封孔性と被覆性能を発揮し、赤さびの発生は認められなかった。
Figure 2007324353
(実施例6)
この実施例では、腐食性の厳しい雰囲気や有機溶剤を取扱う環境で使用する場合、SS400鋼基材に金属系のアンダーコートを施工した場合の酸化物セラミック溶射皮膜に対するアモルファス状炭素水素固形物膜の防食効果を調査した。
(1)基材および試験片寸法
実施例5に同じ。
(2)溶射皮膜の種類と溶射法(数字はmass%)
(a)アンダーコート:80%Ni−20%Cr(大気プラズマ溶射法)
(b)トップコート:Al、Y、8%Y−92%ZrO(大気プラズマ溶射法)
なお、膜厚は、アンダーコート50μm、トップコート150μmである。
(3)アモルファス状炭素水素固形物膜の形成方法と膜厚
実施例1と同じ方法で膜厚5μmにした(水素含有量26〜34原子%)。
(4)腐食条件
(イ)5%HCl:5%HCl水溶液を入れたビーカを20〜23℃に維持し、試験片を浸漬し、耐酸性を評価した。
(ロ)5%NaOH:5%NaOH水溶液を入れたビーカ中に試験片を浸漬し、20〜23℃の温度で24時間の耐アルカリ性を評価した。
(ハ)95%トルエン:試薬用の95%トルエン溶液中(15〜20℃)に試験片を24時間浸漬して、耐有機溶剤性を評価した。
(5)腐食試験結果
表6に腐食試験結果を示した。この試験結果から明らかなように、アンダーコートおよびアモルファス状炭素水素固形物膜の有無にかかわらず、5%NaOHと有機溶剤中では、赤さびの発生はなく、外観状態に変化は認められなかった。一方、5%HCl水溶液中では、アンダーコートを施工していても、アモルファス状炭素水素固形物膜が被覆されていない皮膜(No.2、4、6、8、10、12)では、トップコートの種類に関係なく、すべて腐食され、HCl水溶液の色調が黄色〜淡黄色に変化し、基材のSS400鋼およびアンダーコート成分の溶解が推定された。これに対して、アモルファス状炭素水素固形物層を被覆した皮膜(No.1、3、5、7、9、11)を浸漬したHCl水溶液の色調は変化せず、皮膜は健全な状態を維持していた。
Figure 2007324353
(実施例7)
この実施例では、半導体加工装置部材としての利用を考慮して、Al基材に酸化物セラミック溶射皮膜を直接、形成した後、各種のハロゲン系ガス中における耐食性を調査した。
(1)基材および試験片寸法
Al(JISH4000規定1085)を基材とし、寸法:幅20mm×長さ30m×厚さ2.3mmの試験片を採取した。
(2)溶射皮膜の種類と溶射法
溶射皮膜の種類:Al、YAG(YAl12)、Y
それぞれAl基材に直接大気プラズマ溶射法によって、厚さ150μmに形成した。
(3)アモルファス状炭素水素固形物膜の形成方法と膜厚
実施例1と同じ方法で膜厚5μmにした(水素含有量22〜34原子%)。
(4)腐食試験条件
(イ)活性ハロゲンガス試験:
この試験には、図3に示す装置を用い、試験片31を電気炉32の中心部に設けられたステンレス鋼管33の内部の設置台36上に静置した後、腐食性のガス34を左側から流し、そして、配管途中に設けた石英放電管35に出力600Wのマイクロ波を負荷させて、腐食性ガスの活性化を促した。このような装置を用いた試験では、活性化した腐食性のガスが電気炉中に導かれ、試験片31を腐食した後、右側から系外に放出される。このような腐食試験装置を用い、試験片温度180℃、腐食性ガスCFを150ml/min、Oを75ml/minを流しつつ10時間の腐食試験を行った。
(ロ)5%HCl浸漬試験:5%HCl水溶液を入れたビーカを20〜23℃に維持し、試験片を浸漬し、耐酸性を評価した。
(ハ)HCl蒸気試験:
化学実験用のデシケーターの底部に30%HCl水溶液を入れ、その上にガラス製の多孔板を配設した後、そのガラス板の上に試験片を静置した。この環境(20〜25℃)では、蒸気圧の高いHCl蒸気が発生して、ガラス板の孔から上昇したHCl蒸気によって試験片が腐食されるようになっている。
なお、無処理のSS400鋼板は、1時間の試験によって全面赤さびが発生するほどである。
(ニ)HF蒸気試験:
容量3LのSUS316製のオートクレーブの中に試験片を静置した後、外部からHFガスを500ppm注入し、150℃で24時間の腐食試験を行った。
(5)腐食試験結果
表7に腐食試験結果を示した。この試験結果から明らかなように、アモルファス状炭素水素固形物膜を形成しない試験片(No.2、4、6)では、セラミック溶射皮膜自体は比較的良好な耐食性を示すものの、皮膜の気孔を通って内部へ侵入した腐食性ガスによって基材のAlが腐食され、セラミック皮膜との結合力を消失する結果、剥離する現象が認められた。
これに対して、アモルファス状炭素水素固形物膜を形成した試験片では、すべての腐食性ガスに対して十分な耐食性を示すとともに、膜自体が緻密であるため外観上全く異常は認められなかった。
Figure 2007324353
(実施例8)
この実施例では、酸化物セラミック溶射皮膜の表面を電子ビームおよびレーザーなどの高エネルギーを照射して、皮膜表面の成膜粒子を溶融させたものに対するアモルファス状炭素水素固形物膜の防食効果について調査した。
(1)基材および試験片寸法
SS400鋼を用い、幅20mm×長さ30m×厚さ3.2mmの試験片を採取した。
(2)溶射皮膜の種類と溶射法
溶射皮膜の種類:Y
大気プラズマ溶射法を用いて膜厚80μmに形成した。
(3)高エネルギー照射の種類とその条件
(a)電子ビーム照射:下記仕様の電子ビーム照射装置を用い、皮膜表面深さ3μmを再溶融した。
照射雰囲気:1×10−1〜5×10−3MPa
照射出力:10〜30KeV
照射速度:1〜20mm/s
(b)レーザー照射:下記仕様のレーザー照射装置を用い、皮膜表面から10μm再溶融した。
レーザー出力:2〜4kw
ビーム面積:5〜10mm
ビーム走査速度:5〜20mm/s
(4)アモルファス状炭素水素固形物膜の形成と膜厚
実施例1と同じ方法で膜厚3μmにした(水素含有量26〜38原子%)。
(5)腐食試験条件
(イ)塩水噴霧試験:JISZ−2371規定により96時間の試験実施
(ロ)活性ハロゲンガス試験:実施例7と同じ条件で実施
(ハ)HCl蒸気試験:化学実験用デシケーターの底部に30%HCl水溶液を入れ、その上部に多孔質ガラス板を配設した後、そのガラス板の上に試験片を静置し、この環境では蒸気圧の大きいHCl溶液から多量のHCl蒸気が発生し、SS400鋼は1hの曝露によって全面赤さびが発生する。
(6)腐食試験結果
表8に腐食試験結果を示した。この試験結果から明らかなように、Y溶射皮膜をビームおよびレーザ照射しても、そのままの状態の皮膜(No.2、6)では、すべての腐食試験において局部的な赤さびの発生が認められ、腐食成分の内部侵入を完全に防ぐことができない。この原因を解明するため、電子ビームおよびレーザ照射した溶射皮膜の表面を拡大鏡で観察すると、溶射膜特有の気孔は溶融現象によって消失しているが、微小な割れが多数発生していることが判明した。これらの割れは、高エネルギー照射を行い、皮膜(No.4、8)ではすべての腐食試験において多量の赤さびが発生しているのに比較すると、高エネルギー照射の効果が認められるものの十分な対策とはなっていない。
これに対して、アモルファス状炭素水素固形物膜を被覆した皮膜(No.1、3、5、7)では、高エネルギー照射の有無に関係なく、腐食成分の侵入を完全に防ぎ赤さびの発生は全く認められなかった。
Figure 2007324353
本発明の技術は、デポシールド、バッフルプレート、フォーカスリング、インシュレータリング、シールドリング、ベローズカバー、電極などの半導体加工装置用部材として用いられる。その他、本発明は、Si薄膜やSi薄膜の加工品などの搬送用部材の耐摩耗性および加工品に対する疵付き防止用の表面処理技術としても有用であり、また、液晶デバイスなどのプラズマ処理容器内部材、部品に対しても適用が可能である。
TおよびS字型をした溶射皮膜試験片に対して形成された本発明に係わるアモルファス状炭素水素固形物膜の分布状況の略線図である。 アモルファス状炭素水素固形物を析出させるための装置の略線図である。 ハロゲン化合物を含むガスを用いた腐食試験装置の略線図である。
符号の説明
1 反応容器
2 被処理体(基材)
3 導体
4 高電圧パルス発生電源
5 プラズマ発生用電源
6 重畳装置
7 反応容器内の空気を除去するための真空装置に接続されたバルブ
8 アース線
9 高電圧導入部
21 鋼製基材
22 溶射皮膜
23 アモルファス状炭素水素固形物膜
31 試験片
32 電気炉
33 ステンレス鋼管
34 腐食性ガス
35 石英放電管
36 試験片設置台

Claims (12)

  1. 基材の表面に、15〜50原子%の水素を含有するアモルファス状炭素水素固形物層が形成されてなる半導体加工装置用部材。
  2. 前記アモルファス状炭素水素固形物層は、炭素含有量85〜50原子%、水素含有量15〜50原子%の微小固体粒子からなり、80μm以下の厚さを有する層であることを特徴とする請求項1に記載の半導体加工装置用部材。
  3. 前記アモルファス状炭素水素固形物層は、硬さHv:500〜2300、電気抵抗率が10Ωcm未満の特性を有することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体加工装置用部材。
  4. 前記基材は、金属材料もしくは非金属材料のいずれか、またはこれらの基材上に形成された溶射皮膜、めっき皮膜、PVD皮膜、CVD皮膜、陽極酸化皮膜および再溶融処理皮膜のうちから選ばれるいずれか1種以上の1層以上のアンダーコート層によって構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の半導体加工装置用部材。
  5. 前記アモルファス状炭素水素固形物層は、基材もしくはアンダーコート層中に侵入した炭素と水素を主成分とする微小固体粒子および/または基材表面に被覆された炭素と水素を主成分とする微小固体粒子からなる皮膜とによって形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の半導体加工装置用部材。
  6. 前記基材またはアンダーコート層の表面には、その表面が高エネルギー照射処理によって生成する2次再結晶層を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の半導体加工装置用部材。
  7. 排気した反応容器内に、被処理基材を保持するとともに炭化水素系ガスを導入し、その基材に高周波電力と高電圧パルスとを重畳印加してその導入炭化水素系ガスのプラズマを発生させると同時に、該基材を負の電位に保持することによって、気相析出させた15〜50原子%の水素を含有するアモルファス状炭素水素固形物を基材表面に吸着させることを特徴とする半導体加工装置用部材の製造方法。
  8. 前記アモルファス状炭素水素固形物によって形成される層は、炭素含有量85〜50原子%、水素含有量15〜50原子%の微小固体粒子からなり、80μm以下の厚さを有する層であることを特徴とする請求項7に記載の半導体加工装置用部材の製造方法。
  9. 前記アモルファス状炭素水素固形物によって形成される層は、硬さHv:500〜2300、電気抵抗率が10Ωcm未満の特性を有することを特徴とする請求項7または8に記載の半導体加工装置用部材の製造方法。
  10. 前記基材は、金属材料もしくは非金属材料のいずれか、またはこれらの基材上に形成された溶射皮膜、めっき皮膜、PVD皮膜、CVD皮膜、陽極酸化皮膜および再溶融処理皮膜のうちから選ばれるいずれか1種以上の1層以上のアンダーコート層によって構成されていることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1に記載の半導体加工装置用部材の製造方法。
  11. 前記アモルファス状炭素水素固形物によって形成される層は、基材もしくはアンダーコート層中に侵入した炭素と水素を主成分とする微小固体粒子および/または基材表面に被覆された炭素と水素を主成分とする微小固体粒子からなる皮膜によって形成されていることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1に記載の半導体加工装置用部材の製造方法。
  12. 前記基材またはアンダーコート層の表面には、その表面が高エネルギー照射処理によって生成する2次再結晶層を形成することを特徴とする請求項7〜11のいずれか1に記載の半導体加工装置用部材の製造方法。
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