しかしながら、図13に示すように、従来の多層型バラントランス101においては、LTCC基板の加圧焼成時にLTCC基板のマザー基板130がその中心から放射線状(図13の矢印)に伸張するため、図14(a)から図14(b)へ移動するように、各LTCC基板に形成されたインダクタンス素子103、104の配設位置が所望の位置からLTCC基板の面内方向(X方向およびY方向)にずれてしまう。例えばインダクタンス素子103、104の配設位置がLTCC基板の面内方向(X方向およびY方向)にそれぞれ±50μmずつずれると、各LTCC基板上のインダクタンス素子103、104の対向面積は減少することから、図15に示すように、それらインダクタンス素子103、104の電磁結合度が変化してしまう。そのため、従来の多層型バラントランス101においては、LTCC基板の加圧焼成により相互インダクタンス素子102の結合特性が変化し、その伝送損失を低下させてしまうという問題があった。
また、従来の多層型バラントランス101においては、インダクタンス素子103、104の対向面間における対向距離が変化すると、それに伴い、相互インダクタンス素子102の電磁結合度が変化する。そのため、LTCC基板の加圧焼成の際にLTCC基板の厚さが所望の厚さと異なってしまうと所望の結合特性が得られなくなってしまうという問題もあった。その反面、所望の結合特性を得るためには、LTCC基板は所定の厚さを必要とするため、当該所定の厚さよりもLTCC基板を薄くすることができず、従来の多層型バラントランス101の薄型化を妨げていた。
さらに、図14および図16に示すように、一般的に、多層型バラントランス101に備わるキャパシタ106、106は相互インダクタンス素子102の形成層と異なる層に形成されており、相互インダクタンス素子102および多層型バラントランス101の小型化・省スペース化が困難であった。
そのうえ、図16に示すように、従来の多層型バラントランス101においては、インダクタンス素子103、104およびキャパシタ106、106が積層方向に重なって積層されていた。そのため、それらが重なって積層されている部分に係るLTCC基板の厚さはそれらが重なって積層されていない部分に係るLTCC基板の厚さよりも厚くなってしまうので、多層型バラントランス101の表面に凸部140が形成されてしまうという問題があった。もし、この凸部140が多層型バラントランス101に接続されるIC150のバンプ150aよりも高く盛り上がってしまうと、多層型バラントランス101の接続端子108に当該IC150のバンプ150aを接続することができなくなってしまう。
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、インダクタンス素子の配設位置が面内方向および高さ方向にずれたとしても相互インダクタンス素子の結合特性を安定させることができる相互インダクタンス素子を提供することを本発明の目的としている。
また、本発明は、相互インダクタンス素子の厚さを一様に薄くすることができる相互インダクタンス素子を提供することを他の目的としている。
さらに、本発明は、キャパシタが接続された相互インダクタンス素子の小型化・省スペース化を図ることができる相互インダクタンス素子を提供することを他の目的としている。
そして、本発明は、誘電板の加圧焼成時にインダクタンス素子の配設位置が所望の位置からずれたとしても不平衡線路(同軸線路)と平衡型線路(レッヘル線路)と間の伝送損失を低下させずに安定させることができる平衡不平衡変換器を提供することを他の目的としている。
前述した目的を達成するため、本発明の相互インダクタンス素子は、その第1の態様として、第1の誘電板上において対向する二辺を第1の対辺として有する多角形環を形成している第1の導体線路と、第2の誘電板上において第1の対辺とそれぞれ平行する二辺を第2の対辺として有する多角形環を形成している第2の導体線路とを備えており、第2の誘電板は、第1の誘電板の上方または下方に積層されており、第2の対辺の対向間隔は、第1の対辺の対向間隔と異なっており、第2の対辺は、誘電板の積層方向において第1の対辺に重ならずに第1の対辺の内側もしくは外側のいずれか一方にずらして配列されていることを特徴としている。
本発明の第2の態様の相互インダクタンス素子は、第1の態様の相互インダクタンス素子において、第1の導体線路は、第1の対辺の対向方向と異なる方向において対向する二辺を第3の対辺として有する多角形環を形成し、第2の導体線路は、第3の対辺とそれぞれ平行する二辺を第4の対辺として有する多角形環を形成するとともに、第4の対辺の対向間隔は第3の対辺の対向間隔と異なっており、第4の対辺は、積層方向において第3の対辺に重ならずに第3の対辺の内側もしくは外側のいずれか一方にずらして配列されていることを特徴としている。
本発明の第3の態様の相互インダクタンス素子は、第2の態様の相互インダクタンス素子において、第2の対辺が第1の対辺の内側にずらして配列される場合、第4の対辺は第3の対辺の外側にずらして配列されており、第2の対辺が第1の対辺の外側にずらして配列される場合、第4の対辺は第3の対辺の内側にずらして配列されていることを特徴としている。
本発明の第4の態様の相互インダクタンス素子は、第2または第3の態様の相互インダクタンス素子において、第1の導体線路および第2の導体線路は、第1の対辺および第3の対辺ならびに第2の対辺および第4の対辺の各対向方向をそれぞれ直交させてなる開いた略四角形環をそれぞれ形成していることを特徴としている。
本発明の第5の態様の相互インダクタンス素子は、第1の態様の相互インダクタンス素子において、第3の誘電板上において第1の対辺とそれぞれ平行する二辺を第5の対辺として有する多角形環を形成している第3の導体線路を備えており、第3の誘電板は、第1の誘電板の上方または下方であって第1の誘電板の積層位置に対して第2の誘電板の積層位置と反対側に積層されており、第3の導体線路の一端は、第2の導体線路の一端と電気的に接続されており、第5の対辺の対向間隔は第1の対辺の対向間隔と異なっており、第5の対辺は、積層方向において第1の対辺に重ならずに第1の対辺の内側もしくは外側のいずれか一方にずらして配列されていることを特徴としている。
本発明の第6の態様の相互インダクタンス素子は、第5の態様の相互インダクタンス素子において、第1の導体線路は、第1の対辺の対向方向と異なる方向において対向する二辺を第3の対辺として有する多角形環を形成し、第2の導体線路は、第3の対辺とそれぞれ平行する二辺を第4の対辺として有する多角形環を形成し、第3の導体線路は、第3の対辺とそれぞれ平行する二辺を第6の対辺として有する多角形環を形成するとともに、第4の対辺の対向間隔および第6の対辺の対向間隔は第3の対辺の対向間隔とそれぞれ異なっており、第4の対辺および第6の対辺は積層方向において第3の対辺に重ならずに第3の対辺の内側もしくは外側のいずれか一方にそれぞれずらして配列されていることを特徴としている。
本発明の第7の態様の相互インダクタンス素子は、第6の態様の相互インダクタンス素子において、第2の対辺が第1の対辺の内側または外側のいずれか一方にずらして配列される場合、第5の対辺はその他方側にずらして配列されており、第4の対辺が第3の対辺の内側または外側のいずれか一方にずらして配列される場合、第6の対辺はその他方側にずらして配列されていることを特徴としている。
本発明の第8の態様の相互インダクタンス素子は、第6または第7の態様の相互インダクタンス素子において、第1の導体線路、第2の導体線路および第3の導体線路は、第1の対辺および第3の対辺、第2の対辺および第4の対辺ならびに第5の対辺および第6の対辺の各対向方向をそれぞれ直交させてなる略四角形環をそれぞれ形成していることを特徴としている。
また、本発明の相互インダクタンス素子は、その第9の態様として、第1の誘電板上に円環を形成している第1の導体線路と、第2の誘電板上に円環を形成している第2の導体線路とを備えており、第2の誘電板は、第1の誘電板の上方または下方に積層されており、第2の導体線路に係る円環は、第1の導体線路に係る円環と同軸上に配設されているとともに、積層方向において第1の導体線路に係る円環と重ならずに第1の導体線路に係る円環の内側もしくは外側のいずれか一方に縮小または拡大させた大きさに形成されていることを特徴としている。
本発明の第10の態様の相互インダクタンス素子は、第1から第9の態様のいずれか1の態様の相互インダクタンス素子において、誘電板は低温同時焼成セラミック(LTCC)であることを特徴としている。
本発明の第11の態様の相互インダクタンス素子は、第1から第10の態様のいずれか1の態様の相互インダクタンス素子において、第1の導体線路に対する2次側の導体線路は、2次側の導体線路の両端間中央に接続されている中間端子を有していることを特徴としている。
本発明の第12の態様の相互インダクタンス素子は、第1から第11の態様のいずれか1の態様の相互インダクタンス素子において、第1の導体線路に係る環の内側において積層方向に積層された複数のキャパシタを備えていることを特徴としている。
そして、本発明の平衡不平衡変換器は、第1から第12のいずれか1の態様の相互インダクタンス素子と、第1の導体線路の一端に接続される第1の入出力端子と、第2の導体線路の両端または第2の導体線路および第3の導体線路における互いに接続されていない各一端にそれぞれ接続されている第2の入出力端子と、第1の導体線路の他端に接続されている接地導体とを備えていることを特徴としている。
本発明の第1の態様の相互インダクタンス素子によれば、第1の導体線路と第2の導体線路とを積層方向に重ねていないので、積層方向における厚さ調整に大きく依存することなく、面内方向における第2の対辺のずらした量の調整によって、第1の導体線路と第2の導体線路との結合特性、すなわち相互インダクタンス素子の結合特性を制御することができる。そのため、以下の4つの効果を奏する。
第1に、第1の誘電板または第2の誘電板が第1の対辺または第2の対辺の対向方向の平行方向に伸縮し、第2の導体線路が第2の対辺の対向方向にずれたとしても、第2の対辺の一方が第1の対辺の一方から離れることにより、その離れた分だけ第2の対辺の他方が第1の対辺の他方に接近するので、相互インダクタンス素子の結合特性に変化を生じさせないという効果を奏する。第2に、相互インダクタンス素子の結合特性は相互インダクタンス素子の厚さに依存しないので、相互インダクタンス素子の製造時にその厚さが所望の厚さと異なってしまったとしても、相互インダクタンス素子の結合特性に変化を生じさせないという効果を奏する。第3に、相互インダクタンス素子の厚さが変化しても相互インダクタンス素子の結合特性は変化しないので、相互インダクタンス素子の結合特性に影響を与えることなく相互インダクタンス素子の厚さを薄くすることができるという効果を奏する。そして、第4に、第1の導体線路と第2の導体線路とをそれらの積層方向に重ねる必要がないので、相互インタクタンス素子の表面に凸部が形成されることを防止することができるという効果を奏する。
本発明の第2の態様の相互インダクタンス素子によれば、第2の対辺のずらした量の調整だけでなく、第4の対辺のずらした量の調整によっても相互インダクタンス素子の結合特性を制御することができるので、相互インダクタンス素子の厚さを薄くする際に相互インダクタンス素子の結合特性の制御を容易に行なうことができるという効果を奏する。
本発明の第3の態様の相互インダクタンス素子によれば、第2の対辺を第1の対辺の内側にオフセット配列させた長さ分だけ第4の対辺を第3の対辺の外側にずらして配列させることができる。同様にして、第2の対辺を第1の対辺の外側にずらして配列させた長さ分だけ第4の対辺を第3の対辺の内側にずらして配列させることができる。そのため、第1の導体線路と第2の導体線路との重なる部分を最小限の面積にしつつ、第2の導体線路の長さを第1の導体線路の長さと同等にすることができるので、インピーダンス・マッチングを容易に行なうことができるという効果を奏する。
本発明の第4の態様の相互インダクタンス素子によれば、第1の対辺および第3の対辺に係る各々の対向方向の平行方向および第2の対辺および第4の対辺に係る各々の対向方向の平行方向が第1の誘電板および第2の誘電板の面内方向(X方向およびY方向)に対応しているので、第1の誘電板または第2の誘電板がその面内方向(X方向およびY方向)に伸縮して第1の導体線路と第2の導体線路との位置関係がずれたとしても、第1の導体線路と第2の導体線路との電磁結合度の変化を防止することができ、相互インダクタンス素子の結合特性が安定するという効果を奏する。また、本発明の第4の態様の相互インダクタンス素子によれば、複雑な形状の多角形環を形成することなく、第1の導体線路と第2の導体線路との電磁結合度の変化を防止することができるので、相互インダクタンス素子の製造コストを低廉なものとすることができるという効果を奏する。
本発明の第5の態様の相互インダクタンス素子によれば、第1の導体線路に対して第2の導体線路だけでなく第3の導体線路も積層方向に重ねていないので、積層方向における厚さ調整に依存することなく、面内方向における第2の対辺および第5の対辺のオフセット量の調整によって、相互インダクタンス素子の結合特性を制御することができる。そのため、第2の導体線路については第1の実施形態に係る4つの効果と同様の効果を奏し、第3の導体線路については以下の5つの効果を奏する。
第1に、第1の誘電板または第3の誘電板が第1の対辺または第5の対辺の対向方向の平行方向に伸縮し、第3の導体線路が第5の対辺の対向方向にずれたとしても、第5の対辺の一方が第1の対辺の一方から離れることにより、その離れた分だけ第5の対辺の他方が第1の対辺の他方に接近するので、相互インダクタンス素子の結合特性に変化を生じさせないという効果を奏する。第2に、第1の導体線路に係る多角形環の両面側に第2の導体線路および第3の導体線路をそれぞれ配設することができるので、インピーダンス変換比の設定を容易に行なうことができるという効果を奏する。第3から第5の効果については、第1の実施形態に係る第2から第4の効果と同様の効果を奏する。
本発明の第6の態様の相互インダクタンス素子によれば、第1の対辺および第5の対辺の対向方向の平行方向だけでなく、第3の対辺および第6の対辺の対向方向の平行方向に第1の誘電板または第3の誘電板が伸縮したとしても、第1の導体線路と第3の導体線路との電磁結合度の変化を防止することができるので、相互インダクタンス素子の結合特性が安定するという効果を奏する。
本発明の第7の態様の相互インダクタンス素子によれば、第2の導体線路と第3の導体線路との対向面積が減少するので、相互インダクタンス素子にとって悪影響を及ぼすおそれのある第2の導体線路と第3の導体線路との電磁結合を減少させることができるという効果を奏する。
本発明の第8の態様の相互インダクタンス素子によれば、第1から第3の誘電板の面内方向に伸縮して第1の導体線路と第2の導体線路との位置関係および第1の導体線路と第3の導体線路との位置関係がずれたとしても、第4の実施形態と同様、その面内方向と各対辺の対向方向とがそれぞれ対応しているので、第1の導体線路と第2の導体線路との電磁結合度および第1の導体線路と第3の導体線路との電磁結合度の変化を防止することができ、相互インダクタンス素子の結合特性が安定するという効果を奏する。また、本発明の第8の態様の相互インダクタンス素子によれば、複雑な形状の多角形環を形成することなく、相互インダクタンス素子の製造コストを低廉なものとすることができるという効果を奏する。
本発明の第9の態様の相互インダクタンス素子によれば、第2の誘電板がその面内方向に伸縮し、第2の導体線路に係る円環の一部が第1の導体線路に係る円環の一部から離れても、その第2の導体線路に係る円環の一部と対向する他の部分が第1の導体線路に係る円環の一部に対向する他の部分と接近する。そのため、第1の導体線路と第2の導体線路との電磁結合度の変化を防止することができるので、相互インダクタンス素子の結合特性が安定するという効果を奏する。
本発明の第10の態様の相互インダクタンス素子によれば、LTCC基板はHTCC基板の焼成温度(1600℃程度)と比較してその焼成温度が低い(900℃程度)ので、第1の導体線路や第2の導体線路などの導体の材料として高電導かつ低融点のCu、Ag、Auを用いることができる。そのため、相互インダクタンス素子の伝送抵抗を低くすることができるので、高周波回路においてその伝送抵抗によるエネルギーロスを少なくすることができるという効果を奏する。
本発明の第11の態様の相互インダクタンス素子によれば、中間端子から2次側の導体線路の両端に平衡な電気信号を送ることができるので、2次側の導体線路に接続される回路に対して中間端子から直流電圧を平衡給電することができるという効果を奏する。
本発明の第12の態様の相互インダクタンス素子によれば、デッドスペースとなっている第1の導体線路の環内部をキャパシタの配設場所として有効利用しているので、相互インダクタンス素子を小型化・省スペース化することができるという効果を奏する。
そして、本発明の平衡不平衡変換器によれば、誘電板の加圧焼成時にインダクタンス素子の配設位置が所望の位置からずれたとしても、相互インダクタンス素子の結合特性が安定しているので、不平衡線路(同軸線路)と平衡型線路(レッヘル線路)と間の伝送損失を低下させずに安定させることができるという効果を奏する。
以下、図1から図10を用いて、本発明の相互インダクタンス素子および平衡不平衡変換器を、その第1から第3の実施形態により説明する。
はじめに、図1から図5を用いて、第1の実施形態の相互インダクタンス素子2Aおよびその相互インダクタンス素子2Aを備える平衡不平衡変換器1Aを説明する。
図1(a)、(b)は第1の実施形態の平衡不平衡変換器1Aの斜視図を示している。第1の実施形態の平衡不平衡変換器1Aは、図1(a)に示すように、8枚の誘電板11A〜18Aを積層させて形成されている。この誘電板11A〜18Aとしては、HTCC(高温焼成セラミック)基板やLTCC(低温同時焼成セラミック)基板などのセラミック系基板など絶縁性に優れる基板を用いることができるが、第1の実施形態においては、LTCC基板が用いられている。
図1(a)、(b)に示すように、各々の誘電板11A〜18Aには、それらの表面上に、第1の導体線路3A、第2の導体線路4A、キャパシタ6A、6A、入出力端子7、8a、8bまたは接地導体9が適宜に分配配置されている。ここで、8枚の層よりなる平衡不平衡変換器1Aのうちの最上方層を第1の層と称すると、第1の層から下方に計数して第5番目の層となる第5の層においては、第1の導体線路3Aが形成された誘電板(以下、「第1の誘電板」という。)15Aが配設されている。また、第4の層においては、第2の導体線路4Aが形成された誘電板(以下、「第2の誘電板」という。)14Aが配設されている。この第1の誘電板15Aの上方に第2の誘電板14Aを積層させることにより、第1の実施形態の第1の導体線路3Aおよび第2の導体線路4Aは相互インダクタンス素子2Aを形成する。なお、第1の誘電板15Aおよび第2の誘電板14Aの積層順は相互インダクタンス素子2Aの結合特性に影響を与えないので、他の実施形態においては第2の誘電板14Aの上方に第1の誘電板15Aを積層させても良い。
図2(a)は第1の実施形態の相互インダクタンス素子2Aの平面図を示しており、図2(b)は、その相互インダクタンス素子2Aの等価回路を示している。また、図3は、図2(a)の3−3矢視断面図を示している。
第1の導体線路3Aは、図2(a)に示すように、インダクタンス素子となる開いた四角形環を形成しており、1次側の導体線路となっている。この四角形環は略長方形状に形成されることによりそれぞれ平行に対向している二辺(略四角形環が開いていることにより一部接続されていない辺23Aaも接続された一辺として考える。以下、第2の導体線路4Aなどにおいても同様とする。)21Aa、21Ab、23Aa、23Abを2組の対辺として有している。これら2組の対辺21Aa、21Abおよび23Aa、23Abは、それらの対向方向の平行方向(X方向およびY方向)を互いに直交させるように形成されており、本発明の第1の対辺および第3の対辺として用いられている。
第2の導体線路4Aは第1の導体線路3Aに対する2次側の導体線路である。この第2の導体線路4Aは第1の導体線路3Aと同程度の線路幅を有しており、第1の導体線路3Aと同様の形状およびインダクタンス素子となる開いた四角形環を形成している。第2の導体線路4Aに係る四角形環の各辺は第1の導体線路3Aに係る四角形環の各辺21Aa、21Ab、23Aa、23Abとそれぞれ平行に配列されている。第1の実施形態においては、第1の対辺21Aa、21Abとそれぞれ平行に配列されている対向する二辺22Aa、22Abを本発明の第2の対辺とし、第3の対辺23Aa、23Abとそれぞれ平行に配列されている対向する二辺24Aa、24Abを本発明の第4の対辺として用いられている。これら第2の対辺22Aa、22Abおよび第4の対辺24Aa、24Abは、第1の対辺21Aa、21Abおよび第3の対辺23Aa、23Abにそれぞれ平行であることから、それらの各対向方向は互いに直交している。
また、第2の導体線路4Aは、図1(a)、図2(a)および図3に示すように、第2の誘電板14Aを介して、その積層方向において第1の導体線路3Aとできる限り重ならないように積層されている。具体的には、第2の導体線路4Aにおける第2の対辺22Aa、22Abの対向間隔は第1の対辺21Aa、21Abの対向間隔よりも狭くなっており、第1の対辺21Aa、21Abが第2の対辺22Aa、22Abと重なっていない。同様にして、第4の対辺24Aa、24Abの対向間隔は第3の対辺23Aa、23Abの対向間隔よりも広くなっており、第3の対辺23Aa、23Abが第4の対辺24Aa、24Abと重なっていない。つまり、第2の導体線路4Aにおける第2の対辺22Aa、22Abは積層方向において第1の対辺21Aa、21Abに重ならずに第1の対辺21Aa、21Abの内側にずらして配列されており、第4の対辺24Aa、24Abは積層方向において第3の対辺23Aa、23Abに重ならずに第3の対辺23Aa、23Abの外側にずらして配列されている。これにより、第2の導体線路4Aが第1の導体線路3Aと誘電板の積層方向に重なる部分がほぼ無くなる。このずらした量は所望の結合特性を勘案して決定されている。
具体例を挙げて説明すると、図2(a)に示す相互インダクタンス素子2Aにおいて、その第1の導体線路3Aおよび第2の導体線路4Aの線路幅がともに500μmである場合、そのずらした量は線路幅500μmに結合調節距離(図2(a)の面内における第1の導体線路3Aと第2の導体線路4Aとの離間距離)60μmを加えた値560μmとなっている。なお、このずらした量は、第1の導体線路3Aおよび第2の導体線路4Aの線路幅ならびに結合調節距離のみならず、各誘電板11A〜18AとなるLTCC基板の圧縮率および伸縮率をも勘案して決定されている。
これら第1の導体線路3Aおよび第2の導体線路4Aは、図1および図2に示すように、各層に形成されたスルーホール10を介して、第3から第7の各層にそれぞれ2枚ずつ矩形状に形成された金属平板を積層させてなる2つのキャパシタ6A、6Aにそれぞれ並列に接続されている。これらキャパシタ6A、6Aは、積層方向において、第1の導体線路3Aおよび第2の導体線路4Aに係る環の内側に配設されている。
キャパシタ6A、6Aにおいて最上方に位置するキャパシタ6A、6Aの一部6Aa、6Aaが形成された第3の層の上層には、ダミー層となる第2の層を介して第1の層が積層されている。第1の層は、誘電板11Aの表面に印刷形成された1本の第1の入出力端子7および2本の第2の入出力端子8a、8bを有している。第1の入出力端子7は、図1に示すように、第1層から第5層までの各誘電板11A〜15Aに形成されたスルーホール10を介して、第1の導体線路3Aの一端3Aaに電気的に接続されている。また、第2の入出力端子8a、8bは、第1層から第4層までの各誘電板11A〜14Aに形成されたスルーホール10を介して、第2の導体線路4Aの両端4Aa、4Abに電気的に接続されている。
また、キャパシタ6A、6Aにおいて最下方に位置するキャパシタ6A、6Aの他の一部6Ab、6Abが形成された第7の層の下層には、最下層となる第8の層が積層されている。第8の層は、誘電板18Aの表面に平板状に形成された接地導体9を有している。この接地導体9は、第1の入出力端子7に接続されていない第1の導体線路3Aの他端3Abに接続されている。
なお、図1および図2に示すように、スルーホール10を介して第2の導体線路4Aの両端4Aa、4Ab間中央に電気的に接続される中間端子20Aを第1の層の誘電板11Aに形成しても良い。
次に、第1の実施形態の相互インタクタンス素子2Aおよび平衡不平衡変換器1Aの作用を説明する。
第1の実施形態の平衡不平衡変換器1Aの誘電板11A〜18Aは、LTCC基板が用いられている。このLTCC基板の焼成温度(900℃程度)は、HTCC基板の焼成温度(1600℃程度)と比較して低いので、第1の導体線路3Aや第2の導体線路4Aなどの導体の材料として高電導かつ低融点のCu、Ag、Auを用いることができる。そのため、相互インダクタンス素子2Aの伝送抵抗を低くすることができ、高周波回路においてその伝送抵抗によるエネルギーロスを少なくすることができる。
このLTCC基板のマザー基板を加圧焼成する際、そのマザー基板が積層方向に圧縮され、それに伴い、そのマザー基板がその中心から放射線状に伸縮する(図13を参照)。そのため、第1の実施形態の平衡不平衡変換器1Aにおいては、相互インダクタンス素子2Aを形成する第2の導体線路4Aの第2の対辺22Aa、22Abおよび第4の対辺24Aa、24Abを第1の導体線路3Aに対して前述した所定の方向にずらして配列させている。これにより、第1の誘電板15Aおよび第2の誘電板14Aの加圧焼成時にそれらが圧縮されて第1の導体線路3Aおよび第2の導体線路4Aの積層間隔が狭くなったとしても、相互インダクタンス素子2Aの結合特性はほとんど影響を受けない。
つまり、図3に示すように、第1の実施形態の相互インタクタンス素子2Aにおいては、第1の導体線路3Aと第2の導体線路4Aとを積層方向に重ねていないので、第1の導体線路3Aと第2の導体線路4Aとの積層間隔(厚さ調整)に大きく依存することなく、第2の導体線路4Aに係るずらした量の調整によって、第1の導体線路3Aと第2の導体線路4Aとの結合特性、すなわち相互インダクタンス素子2Aの結合特性を制御することができる。そのため、相互インダクタンス素子2Aの厚さ(積層間隔)が所望の厚さと異なってしまったとしても、相互インダクタンス素子2Aの結合特性が変化することを防止することができる。
また、前述の内容を言い換えると、相互インダクタンス素子2Aの厚さが変化しても相互インダクタンス素子2Aの結合特性は変化しないことになる。そのため、相互インダクタンス素子2Aの結合特性に影響を与えることなく相互インダクタンス素子2Aおよび平衡不平衡変換器1Aの厚さを薄くすることができる。具体的に述べると、従来の平衡不平衡変換器(多層型バラントランス)101の厚さは600μmであったが、第1の実施形態の平衡不平衡変換器1Aの厚さは450μmとすることができ、従来の平衡不平衡変換器(多層型バラントランス)101の厚さと比較して2/3倍の厚さまで薄くすることができる。
さらに、図3に示すように、第1の実施形態の相互インタクタンス素子2Aおよび平衡不平衡変換器1Aにおいては、第1の導体線路3A、第2の導体線路4Aおよびキャパシタ6Aがそれらの積層方向において重ねられていないので、相互インタクタンス素子2Aの表面、すなわち平衡不平衡変換器1Aの表面に凸部が形成されることを防止することができる。これにより、第2の接続端子8a、8bの周辺に凸部が形成され、当該第2の接続端子8a、8bにICのバンプが接続されないといったことを防止することができる。なお、厳密に言えば、図2(a)に示すように、第1の導体線路3Aおよび第2の導体線路4Aに係るずらす方向の組み合わせにより、それらの積層方向において重ねられてしまう部分が生じてしまう場合もあるが、その重ねられてしまう部分は従来の相互インタクタンス素子102および平衡不平衡変換器101と比較してわずかであるので、平衡不平衡変換器1Aの表面に凸部が形成されることを防止することができる。
また、図2に示すように、第1の誘電板15Aまたは第2の誘電板14Aの加圧焼成時にそれらが第1の対辺21Aa、21Abまたは第2の対辺22Aa、22Abの対向方向の平行方向(Y方向)に伸縮したり、第3の対辺23Aa、23Abまたは第4の対辺24Aa、24Abの対向方向の平行方向(X方向)に伸縮したりしたとしても、それらの積層方向において第2の対辺22Aa、22Abが第1の対辺21Aa、21Abと重ならず、また第4の対辺24Aa、24Abが第3の対辺23Aa、23Abと重ならない限り、相互インダクタンス素子2Aの結合特性はほとんど影響を受けない。
つまり、図4に示すように、第1の誘電板15Aまたは第2の誘電板14Aがそれらの面内方向(第1の対辺21Aa、21Abおよび第3の対辺23Aa、23Abの各々の対向方向の平行方向または第2の対辺22Aa、22Abおよび第4の対辺24Aa、24Abの各々の対向方向の平行方向)に伸縮することにより、第1の導体線路3Aと第2の導体線路4Aとの位置関係がずれ、第2の導体線路4Aに係る第2の対辺22Aa、22Abの一方22Abと第1の導体線路3Aに係る第1の対辺21Aa、21Abの一方21Abとの距離が離れたとしても、その離れた分だけ第2の対辺22Aa、22Abの他方22Aaと第1の対辺21Aa、21Abの他方21Aaとの距離が接近する。同様に、第2の導体線路4Aに係る第4の対辺24Aa、24Abの一方24Aaと第1の導体線路3Aに係る第3の対辺23Aa、23Abの一方23Aaとの距離が離れたとしても、その離れた分だけ第4の対辺24Aa、24Abの他方24Abと第3の対辺23Aa、23Abの他方23Abとの距離が接近する。そのため、第1の導体線路3Aと第2の導体線路4Aとの位置関係が第1の誘電板15Aまたは第2の誘電板14Aの面内方向にずれたとしても、第1の導体線路3Aと第2の導体線路4Aとの電磁結合度の変化を防止することができるので、相互インダクタンス素子2Aの結合特性が安定する。
また、第1の実施形態の相互インダクタンス素子2Aにおいては、第2の対辺22Aa、22Abのずらした量もしくは第4の対辺24Aa、24Abのずらした量、またはそれら第2の対辺22Aa、22Abおよび第4の対辺24Aa、24Abの調整によって相互インダクタンス素子2Aの結合特性を制御することができる。そのため、相互インダクタンス素子2Aの厚さを薄くする際、相互インダクタンス素子2Aの結合特性の制御を容易に行なうことができる。
さらに、第1の実施形態の相互インダクタンス素子2Aにおいては、第2の対辺22Aa、22Abを第1の対辺21Aa、21Abの内側にオフセット配列させ、第4の対辺24Aa、24Abを第3の対辺23Aa、23Abの外側にずらして配列させている。このことから、第2の対辺22Aa、22Abを第1の対辺21Aa、21Abの内側にずらして配列させた長さ分だけ第4の対辺24Aa、24Abを第3の対辺23Aa、23Abの外側にずらして配列させることができる。そのため、第2の導体線路4Aを容易に長さ調整することができるので、第2の導体線路4Aの長さを第1の導体線路3Aの長さと同等にすることができ、インピーダンス・マッチングが行ない易くなるとともに、相互インダクタンス素子2Aの結合特性を安定させることができる。例えば、第1の実施形態においては、第1の導体線路3Aと第2の導体線路4Aとを同等の長さにすることができるので、インピーダンス変換比が1:1の相互インダクタンス素子2Aを形成することができる。
もちろん、上記と逆側にオフセット配列させたとしても、第2の対辺22Aa、22Abを第1の対辺21Aa、21Abの外側にずらして配列させた長さ分だけ第4の対辺24Aa、24Abを第3の対辺23Aa、23Abの内側にずらして配列させることができるので、同様の効果を得ることができる。
図5は、第1の実施形態の相互インダクタンス素子2Aの結合特性を示している。例えば、図4に示すように、第1の導体線路3Aと第2の導体線路4Aとの位置関係が誘電板11A〜18Aの面内方向(X方向およびY方向)にそれぞれ±50μmずつずれたとしても、図5と図15(従来例)と比較すれば、相互インダクタンス素子2Aの伝送損失に変化が生じていないことは明らかである。このことからも、第1の実施形態の相互インダクタンス素子2Aにおいては、第1の導体線路3Aと第2の導体線路4Aとの電磁結合度の変化を防止することができ、相互インダクタンス素子2Aの結合特性を安定させることができるといえる。
また、第1の実施形態の相互インダクタンス素子2Aについては、第1の導体線路3Aと第2の導体線路4Aとによる2つの長方形環のインダクタンス素子を積層させることにより形成することができるので、例えば渦巻き形状などの複雑な形状のインダクタンス素子を形成せずとも第1の導体線路3Aと第2の導体線路4Aとの電磁結合度の変化を防止することができる。そのため、相互インダクタンス素子2Aを容易に形成することができるので、相互インダクタンス素子2Aの製造コストを低廉なものとすることができる。
さらに、第1の実施形態の相互インダクタンス素子2Aは、第1の導体線路3Aに係る長方形環の内側にキャパシタ6A、6Aを有しているので、デッドスペースとなっていた第1の導体線路3Aの環内部を有効利用することができる。このため、相互インダクタンス素子2Aおよび平衡不平衡変換器1Aの小型化・省スペース化を図ることができる。
そのうえ、第1の実施形態の相互インダクタンス素子2Aに中間端子20Aを形成した場合、中間端子20Aから第2の導体線路(2次側の導体線路)4Aの両端4Aa、4Abに平衡な電気信号を送ることができるので、2次側の導体線路に接続されるICなどの回路(図示せず)に対して中間端子20Aから直流電圧を平衡に給電することができる。
すなわち、第1の実施形態の相互インダクタンス素子2Aおよび平衡不平衡変換器1Aによれば、誘電板11A〜18Aの加圧焼成時にインダクタンス素子(第1の導体線路3Aおよび第2の導体線路4A)の配設位置が所望の位置からずれたとしても、相互インダクタンス素子2Aの結合特性が安定しているので、不平衡線路(例えば、同軸ケーブルなどの同軸線路)と平衡線路(例えば、ツイステッド・ペア・ケーブルなどのレッヘル線路)との間の伝送損失を低下させずに安定させることができ、さらに平衡不平衡変換器1Aおよび相互インダクタンス素子2Aの小型化・省スペース化を図ることができる。
なお、第1の実施形態においては、第1の導体線路3Aおよび第2の導体線路4Aは開いた略四角形環を形成しているが、他の実施形態においては、開いた五角形環や六角形環など、開いた多角形環を形成してもよい。また、他の実施形態においては、第1の導体線路および第2の導体線路に係る各環においてずらして配列される各対辺は2組以上あってもよいし、誘電板11A〜18Aの伸縮方向をある一方向に予想することができるのであれば、図11に示すように、他の実施形態の平衡不平衡変換器1Dの相互インタクタンス素子2Dにおいて、第1の導体線路3Dに係る第3の対辺23Da、23Dbおよび第2の導体線路4Dに係る第4の対辺24Da、24Dbのみをずらして配列して形成させてもよい。
次に、図6から図9を用いて、第2の実施形態の相互インタクタンス素子2Bおよび平衡不平衡変換器1Bを説明する。なお、特に言及しない点については、第1の実施形態の相互インタクタンス素子2Aおよび平衡不平衡変換器1Aと同様にして形成されている。
図6(a)、(b)は第2の実施形態の平衡不平衡変換器1Bの分解斜視図を示している。第2の実施形態の平衡不平衡変換器1Bは、図6に示すように、8枚の誘電板11B〜18Bを積層させて形成されている。各々の誘電板11B〜18Bには、その表面上に、第1の導体線路3B、第2の導体線路4B、第3の導体線路5B、キャパシタ6B、6B、入出力端子7、8a、8bまたは接地導体9が適宜に分配配置されている。第5の層においては、第1の導体線路3Bが形成された第1の誘電板15Bが配設されている。また、第4の層においては、第2の導体線路4Bが形成された第2の誘電板14Bが配設されており、第6の層においては、第3の導体線路5Bが形成された誘電板(以下、「第3の誘電板」という。)16Bが配設されている。このように、第1の誘電板15Bの上層に第2の誘電板14Bを積層させつつ、第1の誘電板15Bの下層に第3の誘電板16Bを積層させることにより、第2の実施形態の第1の導体線路3B、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bは相互インダクタンス素子2Bを形成する。
図7(a)は第2の実施形態の相互インダクタンス素子2Bの平面図を示しており、図7(b)は、その相互インダクタンス素子2Bの等価回路を示している。また、図8は、図7(a)の8−8矢視断面図を示している。
第1の導体線路3Bおよび第2の導体線路4Bならびにそれらに係る略四角形環は、第1の実施形態と同様に形成されている。
第2の実施形態の第2の導体線路4Bは第1の実施形態と同様に積層されており、第2の対辺22Ba、22Bbおよび第4の対辺24Ba、24Bbは第1の実施形態と同様にずらして配列されている。ずらした量も第1の実施形態と同程度となっている。
第3の導体線路5Bは、図6(a)および図7(a)に示すように、第1の導体線路3Bと同程度の線路幅を有しており、第1の導体線路3Bと同様の形状であってインダクタンス素子となる開いた四角形環を形成している。第3の導体線路5Bに係る四角形環の各辺25Ba、25Bb、26Ba、26Bbは第1の導体線路3Bに係る四角形環の各辺21Ba、21Bb、23Ba、23Bbとそれぞれ平行に配列されている。第1の対辺21Ba、21Bbとそれぞれ平行に配列されている対向する二辺25Ba、25Bbは本発明の第5の対辺とし、第3の対辺23Ba、23Bbとそれぞれ平行に配列されている対向する二辺26Ba、26Bbは本発明の第6の対辺として用いられている。
また、第3の導体線路5Bは、図6(a)、図7(a)および図8に示すように、第1の誘電板15Bおよび第2の誘電板14Bを介して、その積層方向において第1の導体線路3Bおよび第2の導体線路4Bと重ならないように積層されている。具体的には、第3の導体線路5Bにおける第5の対辺25Ba、25Bbの対向間隔は第1の対辺21Ba、21Bbの対向間隔よりも広くなっており、第1の対辺21Ba、21Bbが第5の対辺22Ba、22Bbと重なっていない。同様にして、第6の対辺26Ba、26Bbの対向間隔は第3の対辺23Ba、23Bbの対向間隔よりも狭くなっており、第3の対辺23Ba、23Bbが第6の対辺26Ba、26Bbと重なっていない。つまり、第5の対辺25Ba、25Bbが積層方向において第1の対辺21Ba、21Bbと重ならずに第1の対辺21Ba、21Bbの外側にずらして配列されており、第6の対辺26Ba、26Bbが積層方向において第3の対辺23Ba、23Bbと重ならずに第3の対辺23Ba、23Bbの内側にずらして配列されている。これにより、第3の導体線路5Bが第1の導体線路3Bと誘電板の積層方向に重なる部分がほぼ無くなる。
このずらした量は所望の結合特性を勘案して決定されている。具体例を挙げて説明すると、図7(a)に示す相互インダクタンス素子2Bにおいて、その第1の導体線路3B、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bの線路幅がともに500μmである場合、そのずらした量は線路幅500μmに結合調節距離(図7(a)の面内における第1の導体線路3Bと第3の導体線路5Bとの離間距離)60μmを加えた値560μmとなっている。なお、このずらした量は、第1の導体線路3B、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bの線路幅ならびに結合調節距離のみならず、各誘電板11B〜18BとなるLTCC基板の圧縮率および伸縮率をも勘案して決定されている。
そして、この第3の導体線路5Bの一端5Bbは、図6(a)および図7(a)に示すように、第4から第6の層に形成されたスルーホール10を介して、第2の導体線路4Bの一端4Bbと接続されている。図7(b)に示すように、この接続により、第1の導体線路3Bは1次側の導体線路となり、接続された第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bは2次側の導体線路となる。
第1の導体線路3Bの両端3Ba、3Bbならびに接続された第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bの各他端4Ba、5Baは、図6および図7(a)に示すように、各層に形成されたスルーホール10を介して、第3から第7の各層にそれぞれ2枚ずつ矩形状に形成された金属平板を積層させてなる2つのキャパシタ6B、6Bにそれぞれ並列に接続されている。これらキャパシタ6B、6Bは、積層方向において、第1の導体線路3B、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bに係る環の内側に配設されている。
これらキャパシタ6B、6Bにおいて最上方に位置するキャパシタ6B、6Bの一部6Ba、6Baが形成された第3の層の上層には、ダミー層となる第2の層を介して第1の層が積層されている。第1の層は、誘電板11Bの表面に1本の第1の入出力端子7および2本の第2の入出力端子8a、8bを有している。第1の入出力端子7は、図6に示すように、第1層から第7層までの各誘電板11B〜17Bに形成されたスルーホール10を介して、第1の導体線路3Bの一端3Baに電気的に接続されている。また、一方の第2の入出力端子8aは、第1層から第4層までの各誘電板11B〜14Bに形成されたスルーホール10を介して、第3の導体線路5Bに接続されていない第2の導体線路4Bの一端4Baに電気的に接続されており、他方の第2の入出力端子8bは、第1層から第6層までの各誘電板11B〜16Bに形成されたスルーホール10を介して、第2の導体線路4Bに接続されていない第3の導体線路5Bの一端5Baに電気的に接続されている。
また、キャパシタ6B、6Bにおいて最下方に位置するキャパシタ6B、6Bの一部6Bb、6Bbが形成された第7の層の下層には第1の実施形態と同様の第8の層が積層されており、第8の層の接地導体9は、第1の実施形態と同様、第1の導体線路3Bの他端3Bbに接続されている。
なお、図6および図7に示すように、第2の導体線路4Bの一端4Baと第3の導体線路5Bの一端5Baとの間の中間位置、すなわち2次側の導体線路の両端子4Ba、5Ba間中央においては、スルーホール10を介して電気的に接続される中間端子20Bを形成しても良い。
次に、第2の実施形態の相互インタクタンス素子2Bおよび平衡不平衡変換器1Bの作用を説明する。
図6から図8に示すように、第2の実施形態の平衡不平衡変換器1Bにおいては、第2の導体線路4Bの第2の対辺22Ba、22Bbおよび第4の対辺24Ba、24Bbならびに第3の導体線路5Bの第5の対辺25Ba、25Bbおよび第6の対辺26Ba、26Bbを第1の導体線路3Bに係る第1の対辺21Ba、21Bbおよび第3の対辺23Ba、23Bbに対して前述した所定の方向にずらして配列させている。このずらした配列により、誘電板11B〜18Bの加圧焼成時に第1の誘電板15B、第2の誘電板14Bおよび第3の誘電板16Bが圧縮されて第1の導体線路3B、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bの積層間隔が狭くなったとしても、相互インダクタンス素子2Bの結合特性はほとんど影響を受けない。
つまり、図8に示すように、第1の実施形態と同様、第2の実施形態の相互インタクタンス素子2Bにおいては、第1の導体線路3B、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bを積層方向に重ねていないので、第1の導体線路3Bと第2の導体線路4Bとの積層間隔(厚さ調整)および第1の導体線路3Bと第3の導体線路5Bとの積層間隔に大きく依存することなく、第2の導体線路4Bに係るずらした量および第3の導体線路5Bに係るずらした量の調整により相互インダクタンス素子2Bの結合特性を制御することができる。そのため、相互インダクタンス素子2Bの厚さ(積層間隔)が所望の厚さと異なってしまったとしても、相互インダクタンス素子2Bの結合特性が変化することを防止することができる。
また、前述の内容を言い換えると、相互インダクタンス素子2Bの厚さが変化しても相互インダクタンス素子2Bの結合特性は変化しないことになる。そのため、相互インダクタンス素子2Bの結合特性に影響を与えることなく相互インダクタンス素子2Bおよび平衡不平衡変換器1Bの厚さを薄くすることができる。
さらに、図8に示すように、第2の実施形態の相互インタクタンス素子2Bおよび平衡不平衡変換器1Bにおいては、第1の導体線路3B、第2の導体線路4Bおよびキャパシタ6Bがそれらの積層方向において重ねられていないので、相互インタクタンス素子2Bの表面、すなわち平衡不平衡変換器1Bの表面に凸部が形成されることを防止することができる。これにより、第2の接続端子8a、8bの周辺に凸部が形成され、当該第2の接続端子8a、8bにICのバンプが接続されないといったことを防止することができる。なお、厳密に言えば、図7(a)に示すように、第1の導体線路3B、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bに係るずらす方向の組み合わせにより、それらの積層方向において重ねられてしまう部分が生じてしまう場合もあるが、その重ねられてしまう部分は従来の相互インタクタンス素子102および平衡不平衡変換器101と比較してわずかであるので、平衡不平衡変換器1Bの表面に凸部が形成されることを防止することができるといえる。
また、誘電板11B〜18Bの加圧焼成時に第1の誘電板15B、第2の誘電板14Bまたは第3の誘電板16Bが第1の対辺21Ba、21Bb、第2の対辺22Ba、22Bbまたは第5の対辺25Ba、25Bbの対向方向の平行方向に伸縮したり、第3の対辺23Ba、23Bb、第4の対辺24Ba、24Bbまたは第6の対辺26Ba、26Bbの対向方向の平行方向に伸縮したりしたとしても、それらの積層方向において第2の対辺22Ba、22Bbおよび第5の対辺25Ba、25Bbが第1の対辺21Ba、21Bbと重ならず、また第4の対辺24Ba、24Bbおよび第6の対辺26Ba、26Bbが第3の対辺23Ba、23Bbと重ならない限り、相互インダクタンス素子2Bの結合特性はほとんど影響を受けない。
つまり、第1の誘電板15Bまたは第2の誘電板14Bがそれらの面内方向(X方向およびY方向)に伸縮することにより、第1の導体線路3Bと第2の導体線路4Bとの位置関係がずれ、第2の導体線路4Bに係る第2の対辺22Ba、22Bbの一方22Bbと第1の導体線路3Bに係る第1の対辺21Ba、21Bbの一方21Bbとの距離が離れたとしても、その離れた分だけ第2の対辺22Ba、22Bbの他方22Baと第1の対辺21Ba、21Bbの他方21Baとの距離が接近する。また、第2の導体線路4Bに係る第4の対辺24Ba、24Bbの一方24Baと第1の導体線路3Bに係る第3の対辺23Ba、23Bbの一方23Baとの距離が離れたとしても、その離れた分だけ第4の対辺24Ba、24Bbの他方24Bbと第3の対辺23Ba、23Bbの他方23Bbとの距離が接近する。そのため、第1の導体線路3Bと第2の導体線路4Bとの位置関係が第1の誘電板15Bまたは第2の誘電板14Bの面内方向にずれたとしても、第1の導体線路3Bと第2の導体線路4Bとの電磁結合度の変化を防止することができるので、相互インダクタンス素子2Bの結合特性が安定する。
同様にして、第1の誘電板15Bまたは第3の誘電板16Bがそれらの面内方向に伸縮することにより、第1の導体線路3Bと第3の導体線路5Bとの位置関係がずれ、第3の導体線路5Bに係る第5の対辺25Ba、25Bbの一方25Bbと第1の導体線路3Bに係る第1の対辺21Ba、21Bbの一方21Bbとの距離が離れたとしても、その離れた分だけ第5の対辺25Ba、25Bbの他方35Baと第1の対辺21Ba、21Bbの他方21Baとの距離が接近する。また、第3の導体線路5Bに係る第6の対辺26Ba、26Bbの一方26Bbと第1の導体線路3Bに係る第3の対辺23Ba、23Bbの一方23Bbとの距離が離れたとしても、その離れた分だけ第6の対辺26Ba、26Bbの他方26Baと第3の対辺23Ba、23Bbの他方23Baとの距離が接近する。そのため、第1の導体線路3Bと第3の導体線路5Bとの位置関係が第1の誘電板15Bまたは第3の誘電板16Bの面内方向にずれたとしても、第1の導体線路3Bと第3の導体線路5Bとの電磁結合度の変化を防止することができる。
また、第2の実施形態の相互インダクタンス素子2Bにおいては、第2の導体線路4Bに係る第2の対辺22Ba、22Bbのずらした量もしくは第4の対辺24Ba、24Bbのずらした量、またはそれら第2の対辺22Ba、22Bbおよび第4の対辺24Ba、24Bbの調整によって相互インダクタンス素子2Bの結合特性を制御することができる。同様にして、第3の導体線路5Bに係る第5の対辺25Ba、25Bbのずらした量もしくは第6の対辺26Ba、26Bbのずらした量、またはそれら第5の対辺25Ba、25Bbおよび第6の対辺26Ba、26Bbの調整によって相互インダクタンス素子2Bの結合特性を制御することができる。そのため、相互インダクタンス素子2Bの厚さを薄くする際、相互インダクタンス素子2Bの結合特性の制御を容易に行なうことができる。
ここで、第1の導体線路3Bに対し、第2の導体線路4Bと第3の導体線路5Bとは互いにほぼ同じ方向に移動するが、たとえ異なる方向に移動したとしても、相互インダクタンス素子2Bの電磁結合度の変化を防止することができる。
以上より、誘電板11B〜18Bの加圧焼成によりその誘電板11B〜18Bが圧縮され、それに伴い、面内方向に伸縮したとしても、第1の導体線路3B、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bにより形成される相互インダクタンス素子2Bの結合特性を安定させることができる。
さらに、第2の実施形態の相互インダクタンス素子2Bにおいては、第2の対辺22Ba、22Bbを第1の対辺21Ba、21Bbの内側にオフセット配列させ、第4の対辺24Ba、24Bbを第3の対辺23Ba、23Bbの外側にずらして配列させている。また、第5の対辺25Ba、25Bbを第1の対辺21Ba、21Bbの外側にずらして配列させ、第6の対辺26Ba、26Bbを第3の対辺23Ba、23Bbの内側にずらして配列させている。
つまり、第2の対辺22Ba、22Bbを第1の対辺21Ba、21Bbの内側にずらして配列させた長さ分だけ第4の対辺24Ba、24Bbを第3の対辺23Ba、23Bbの外側にずらして配列させることができる。同様に、第5の対辺25Ba、25Bbを第1の対辺21Ba、21Bbの外側にずらして配列させた長さ分だけ第6の対辺26Ba、26Bbを第3の対辺23Ba、23Bbの外側にずらして配列させることができる。そのため、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bを容易に長さ調整することができるので、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bの長さを第1の導体線路3Bの長さとそれぞれ同等にすることができる。このことから、第1の導体線路3Bおよび第2の導体線路4Bならびに第1の導体線路3Bおよび第3の導体線路5Bのインピーダンス・マッチングが行ないやすくなるとともに、相互インダクタンス素子2Bの結合特性を安定させることができる。
例えば、第2の実施形態においては、第3の導体線路5Bの一端5Bbが第2の導体線路4Bの一端4Bbに接続されていることから、第1の導体線路3B、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bをそれぞれ同等の長さにすると、インピーダンス変換比が1:2の相互インダクタンス素子2Bを形成することができる。このように、第3の導体線路5Bを第2の導体線路4Bに接続し、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bの長さを調整することにより、第2の実施形態の相互インダクタンス素子2Bに係るインピーダンス変換比の設定を第1の実施形態の相互インダクタンス素子2Aに係るインピーダンス変換比の設定よりも多種多様に行なうことができる。
もちろん、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bに関して、上記とは逆側にずらして配列させたとしても同様の効果を得ることができる。
そのうえ、第2の実施形態の相互インダクタンス素子2Bにおいては、第1の導体線路3Bに係る第1の対辺21Ba、21Bbに対して、第2の導体線路4Bに係る第2の対辺22Ba、22Bbを内側に、第3の導体線路5Bに係る第5の対辺25Ba、25Bbを外側にずらして配列させている。また、第1の導体線路3Bに係る第3の対辺23Ba、23Bbに対して、第2の導体線路4Bに係る第4の対辺24Ba、24Bbを外側に、第3の導体線路5Bに係る第6の対辺26Ba、26Bbを内側にずらして配列させている。そのため、第2の導体線路4Bと第3の導体線路5Bとの対向面積を減少させることができるので、第2の実施形態の相互インダクタンス素子2Bにとって悪影響を及ぼすおそれのある第2の導体線路4Bと第3の導体線路5Bとの電磁結合を減少させることができ、第2の導体線路4Bと第3の導体線路5Bとによって相互インダクタンス素子2Bが形成されることを防止することができる。
図9は、第2の実施形態の相互インダクタンス素子2Bの結合特性を示している。例えば、第1の導体線路3Bと第2の導体線路4Bとの位置関係が誘電板11B〜18Bの面内方向(X方向およびY方向)にそれぞれ±50μmずつずれたとしても、図9と図15(従来例)と比較すれば、相互インダクタンス素子2Bの伝送損失に変化が生じていないことは明らかである。このことからも、第2の実施形態の相互インダクタンス素子2Bにおいては、第1の導体線路3B(1次側の導体線路)と第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5B(2次側の導体線路)との電磁結合度の変化を防止することができ、相互インダクタンス素子2Bの結合特性を安定させることができる。
この第2の実施形態の相互インダクタンス素子2Bについては、3つの長方形環のインダクタンス素子(第1の導体線路3B、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5B)を積層させることにより形成することができるので、渦巻き形状などの複雑な形状のインダクタンス素子を形成せずとも相互インダクタンス素子2Bの電磁結合度の変化を防止することができる。そのため、相互インダクタンス素子2Bを容易に形成することができるので、相互インダクタンス素子2Bの製造コストを低廉なものとすることができる。
また、第2の実施形態の相互インダクタンス素子2Bは、第1の導体線路3B、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bに係る長方形環の内側にキャパシタ6B、6Bを有しているので、デッドスペースとなっていた第1の導体線路3Bの環内部を有効利用することができる。このため、相互インダクタンス素子2Bおよび平衡不平衡変換器1Bの小型化・省スペース化を図ることができる。
ここで、第2の実施形態の相互インダクタンス素子2Bに中間端子20Bを形成した場合、中間端子20Bから第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5B(2次側の導体線路)の各一端4Ba、5Baに平衡な電気信号を送ることができるので、2次側の導体線路に接続されるICなどの回路(図示せず)に対して中間端子から直流電圧を平衡に給電することができる。
すなわち、第2の実施形態の相互インダクタンス素子2Bおよび平衡不平衡変換器1Bによれば、誘電板11B〜18Bの加圧焼成時にインダクタンス素子となる第1の導体線路3B、第2の導体線路4Bおよび第3の導体線路5Bの配設位置が所望の位置からずれたとしても、相互インダクタンス素子2Bの結合特性が安定しているので、不平衡線路(例えば、同軸ケーブルなどの同軸線路)と平衡線路(例えば、ツイステッド・ペア・ケーブルなどのレッヘル線路)と間の伝送損失を低下させずに安定させることができ、さらに小型化・省スペース化を図ることができる。
次に、図10を用いて、第3の実施形態の平衡不平衡変換器1Cを説明する。なお、特に言及しない点については、第1の実施形態と同様にして形成されている。
第3の実施形態の平衡不平衡変換器1Cは、第1の実施形態と同様、8枚の誘電板(図示せず)を積層させて形成されている。各層に配設された誘電板の表面には、第1の導体線路3C、第2の導体線路4C、キャパシタ6C、6C、入出力端子7、8a、8bまたは接地導体9が適宜に分配配置されている。ここで、入出力端子7、8a、8bおよび接地導体9については第1の実施形態と同一の層において同一形状に形成されている(図1を参照)。また、第1の導体線路3C、第2の導体線路4Cおよびキャパシタ6C、6Cについては、それらの配設層が第1の実施形態と同一となっており、それらの形状が第1の実施形態と異なっている。
図10は、第3の実施形態の相互インダクタンス素子2Cを示す平面図である。第1の導体線路3Cおよび第2の導体線路4Cは、図10に示すように、互いに同程度の線路幅を有する開いた円環をそれぞれ形成している。この第2の導体線路4Cに係る円環は、第2の誘電板を介して第1の導体線路3Cに係る円環と同軸上に積層されている。また、第2の導体線路4Cに係る円環は、積層方向において第1の導体線路3Cに係る円環と重ならないように積層されており、第1の導体線路3Cに係る円環の内側に縮小させた大きさに形成されている。
具体例を挙げて説明すると、図10に示す相互インダクタンス素子2Cにおいて、その第1の導体線路3Cおよび第2の導体線路4Cの線路幅がともに500μmである場合、第2の導体線路4Cに係る円環の外径は、第1の導体線路3Cに係る円環の外径と比較して、線路幅500μmに結合調節距離(図10の面内における第1の導体線路3Cと第2の導体線路4Cとの離間距離)60μmを加えた値560μmだけ縮小させた大きさとなっている。なお、第2の導体線路4Cに係る円環の外径は、第1の導体線路3Cおよび第2の導体線路4Cの線路幅ならびに結合調節距離のみならず、各誘電板となるLTCC基板の圧縮率および伸縮率をも勘案して決定されている。
また、第3の実施形態の相互インダクタンス素子2Cにおいては、第1の導体線路3Cおよび第2の導体線路4Cは、各層に形成されたスルーホール10を介して、第3から第7の各層にそれぞれ2枚ずつ半円状に形成された金属平板を積層させてなる2つのキャパシタ6C、6Cにそれぞれ並列に接続されている。これらキャパシタ6C、6Cは、積層方向において、第1の導体線路3Cおよび第2の導体線路4Cに係る環の内側に配設されている。
次に、第3の実施形態の相互インダクタンス素子2Cおよび平衡不平衡変換器1Cの作用を説明する。
図10に示すように、第3の実施形態の相互インダクタンス素子2Cにおいては、第2の導体線路4Cが第1の導体線路3Cと積層方向に重ならないように積層されている。また、第2の導体線路4Cに係る円環の直径が第1の導体線路3Cに係る円環の直径よりも前述した所定の大きさだけ縮小されている。そのため、誘電板の加圧焼成時に第1の誘電板15Cおよび第2の誘電板14Cおよび第3の誘電板16Cが圧縮されて第1の導体線路3Cおよび第2の導体線路4Cの積層間隔が狭くなったとしても、相互インダクタンス素子2Cの結合特性はほとんど影響を受けない。
つまり、第1の実施形態および第2の実施形態と同様、第3の実施形態の相互インタクタンス素子2Cにおいては、第1の導体線路3Cおよび第2の導体線路4Cを積層方向に重ねていないので、第1の導体線路3Cと第2の導体線路4Cとの積層間隔(厚さ調整)に大きく依存することなく、第2の導体線路4Cに係る円環の直径調整により相互インダクタンス素子2Cの結合特性を制御することができる。そのため、相互インダクタンス素子2Cの厚さ(積層間隔)が所望の厚さと異なってしまったとしても、相互インダクタンス素子2Cの結合特性が変化することを防止することができる。
また、前述の内容を言い換えると、相互インダクタンス素子2Cの厚さが変化しても相互インダクタンス素子2Cの結合特性は変化しないことになる。そのため、相互インダクタンス素子2Cの結合特性に影響を与えることなく相互インダクタンス素子2Cおよび平衡不平衡変換器1Cの厚さを薄くすることができる。
さらに、第3の実施形態の相互インタクタンス素子2Cおよび平衡不平衡変換器1Cにおいては、第1の導体線路3Cおよび第2の導体線路4Cがそれらの積層方向に重ねられていないので、相互インタクタンス素子2Cの表面、すなわち平衡不平衡変換器1Cの表面に凸部が形成されることを防止することができる。これにより、第2の接続端子8a、8bの周辺に凸部が形成され、当該第2の接続端子8a、8bにICのバンプが接続されないといったことを防止することができる。
また、図10に示すように、第2の導体線路4Cに係る円環の直径が第1の導体線路3Cに係る円環の直径よりも前述した所定の大きさだけ縮小されているので、第1の誘電板または第2の誘電板が圧縮され、それに伴い、その面内方向に伸縮し、第2の導体線路4Cに係る円環の一部と第1の導体線路3Cに係る円環の一部との距離が離れたとしても、その離れた分だけその一部と対向する第2の導体線路4Cに係る円環の他の部分と第1の導体線路3Cに係る円環の他の部分との距離を接近させることができる。これによって、第1の導体線路3Cと第2の導体線路4Cとの電磁結合度の変化を防止することができ、相互インダクタンス素子2Cの結合特性を安定させることができる。
さらに、第1の実施形態と同様、第3の実施形態の相互インダクタンス素子2Cは、デッドスペースとなっていた第1の導体線路3Cの環内部をキャパシタ6C、6Cの配設場所として有効利用することができるので、相互インダクタンス素子2Cを小型化・省スペース化することができる。
すなわち、第3の実施形態の平衡不平衡変換器1Cおよび相互インダクタンス素子2Cによれば、誘電板の加圧焼成時にインダクタンス素子となる第1の導体線路3Cおよび第2の導体線路4Cの配設位置が所望の位置からずれたとしても、相互インダクタンス素子2Cの結合特性が安定しているので、不平衡線路(同軸ケーブルなどの同軸線路)と平衡型線路(ツイステッド・ペア・ケーブルなどのレッヘル線路)と間の伝送損失を低下させずに安定させることができるという効果を奏する。
なお、第2の導体線路4Cに係る円環は、第1の導体線路3Cに係る円環と積層方向に重なる範囲内において、第1の導体線路3Cに係る円環の外側に拡大させた大きさに形成されていてもよい。この場合も、第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、本発明は、前述した実施形態などに限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。例えば、第1から第3の実施形態の相互インダクタンス素子2A〜2Cは平衡不平衡変換器1A〜1Cに備えられているが、他の実施形態においては、方向性結合器、電圧制御発信器、PLL回路などの相互インダクタンスを利用する回路に備えられてもよい。