第一の形態
図1を参照して、本発明に係る冷却塔の運転方法の一形態を実施可能な冷却水循環システムの一例を説明する。図1において、冷却水循環システム100は、給水装置120を備えた冷却塔110と冷却負荷装置130とを主に備えている。
冷却塔110は、冷却負荷装置130に対してそれを冷却するための循環水を供給するための開放式冷却塔であり、上部に開口部141を有する円筒型の本体140を備えている。本体140は、外気を導入するためのルーバ142(通気孔の一例)が側面に設けられており、また、循環水を貯留するための貯留部143を底部に有している。本体140の開口部141には、ファン144が水平に配置されている。ファン144は、ルーバ142から本体140内へ外気が流入するよう回転可能なものであり、モータ145により回転駆動される。ファン144を回転駆動するモータ145は、インバータ146と接続されている。インバータ146は、モータ145へ供給する電源周波数を無段階に変えてモータ145の回転速度を変速し、ファン144の回転速度を調整するためのものである。また、インバータ146は、冷却塔110の動作を制御するための制御装置147と接続されている。制御装置147は、温度センサ148とpHセンサ162とを備えている。温度センサ148は、貯留部143内に配置されており、貯留部143内に貯留された循環水の温度を計測するためのものである。pHセンサ162は、貯留部143内に配置されており、貯留部143内に貯留された循環水のpHを計測するためのものである。
本体140の貯留部143からは、冷却負荷装置130へ向けて冷却水の供給経路149が延びている。供給経路149は、送水ポンプ150を有している。送水ポンプ150は、冷却塔110の貯留部143に貯留された循環水を冷却負荷装置130へ連続的に送り出すためのものである。また、貯留部143は、底部から延びる排水経路160を備えている。排水経路160は、貯留部143に貯留された循環水の一部を放出するためのものであり、制御弁161を有している。制御弁161は、電磁弁であり、制御装置147からの指令信号に基づいて循環水の放出量を制御可能である。
また、本体140内の上部であって、ファン144の下方には、冷却水の回収経路151が水平に配置されている。回収経路151の末端部は、本体140内において、本体140の底部へ向けて循環水を散水するための多数のノズル152(散水口の一例)を有している。また、回収経路151の他端は、冷却負荷装置130へ向けて延びている。
給水装置120は、冷却塔110に対し、循環水を供給するためのものであり、原水供給路121、軟水器122および給水経路123を主に備えている。原水供給路121は、一端が水道水や工業用水等の原水の供給源(図示せず)と接続されており、軟水器122に対して原水を供給するためのものである。この原水供給路121は、軟水器122に対する原水の供給量を制御するためのバルブ124を有している。バルブ124は、制御装置147により制御される。軟水器122は、原水供給路121からの原水を軟水化するためのものである。具体的には、原水供給路121からの原水に含まれる硬度分、すなわちカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを除去し、原水を軟水とするためのものである。給水経路123は、軟水器122からの軟水を冷却塔110の貯留部143へ供給するためのものである。
冷却負荷装置130は、循環水による冷却が必要な熱交換器等の各種装置、例えば、各種の化学プラントのターボ冷凍機や吸収冷凍機、建築物の空調用冷却機、食品工場の冷水製造機や真空冷却機などであり、所要の冷却水流路(図示せず)を有している。この冷却水流路は、冷却水導入部131と冷却水排出部132とを有している。そして、冷却水導入部131には供給経路149の末端が接続されている。また、冷却水排出部131には、回収経路151の上記他端が接続されている。この結果、冷却水流路は、供給経路149および回収経路151と共に、冷却塔110の本体140と冷却負荷装置130との間で循環水を循環させるための循環経路を形成している。
次に、上述の冷却塔110の運転方法を説明する。
先ず、冷却塔110において、インバータ146によりモータ145を作動させ、ファン144を回転させる。この結果、図に矢印で示すようにルーバ142を通じて本体140内へ外気が流入する。この外気は、本体140内を通過し、開口部141から外部へ排出される。
また、バルブ124を操作して原水供給路121から軟水器122へ原水を供給すると、当該原水は軟水器122において硬度分が除去されて軟水となる。この軟水は、軟水器122から給水経路123を通じて冷却塔110の貯留部143へ供給され、貯留される。
貯留部143に貯留された軟水は、冷却負荷装置130を冷却するための循環水として冷却負荷装置130に対して供給される。ここでは、送水ポンプ150の動作により貯留部143の軟水(以下、循環水という)が供給経路149を通じて冷却負荷装置130の冷却水導入部131に対して連続的に供給される。冷却水導入部131に対して供給された循環水は、冷却負荷装置130の冷却水流路を通過して冷却負荷装置130を冷却し、冷却水排出部132から回収経路151へ排出される。
回収経路151へ排出された循環水は、冷却塔110の本体140内においてノズル152から散水され、図に点線で示すように本体140内で落下して貯留部143へ戻る。この際、本体140内で落下する循環水は、ファン144の回転により本体140内へ流入する外気に触れて冷却される。このように冷却されて貯留部143へ戻った循環水は、再び供給経路149を通じて冷却負荷装置130へ供給され、回収経路151を通じて貯留部143へ戻る。したがって、貯留部143に貯留された循環水は、冷却塔110の作動中、供給経路149、冷却負荷装置130の冷却水流路および回収経路151を循環して冷却負荷装置130を冷却する冷却水として機能する。
上述のような冷却塔110において、回収経路151から散水される循環水の冷却能力は、ファン144の回転速度により定まる。すなわち、ファン144を高速で回転させると、ルーバ142から本体140内へ流入する外気量が増加するため、冷却塔110において循環水の冷却能力は高くなる。逆に、ファン144を低速で回転させると、ルーバ142から本体140内へ流入する外気量が減少するため、冷却塔110において循環水の冷却能力は低くなる。したがって、循環水をより強力に冷却する必要がある場合、例えば気温の高い夏季においては、ファン144を高速で回転するのが有利である。一方、循環水を強力に冷却する必要がない場合、例えば気温の低い冬季や夏季であっても夜間においては、省エネルギーの観点から、ファン144を低速で回転するのが有利である。
また、冷却塔110において、回収経路151から散水される循環水の歩留まりも、ファン144の回転速度により定まる。すなわち、ファン144を高速で回転させると、ルーバ142から本体140内へ流入する外気量が増加するため、回収経路151から散水される循環水は、蒸発しやすくなるとともに外気と共に開口部141から本体140外へ飛散しやすくなり、循環水の歩留まりは低くなる。逆に、ファン144を低速で回転させると、ルーバ142から本体140内へ流入する外気量が減少するため、回収経路151から散水される循環水は、蒸発しにくくなるとともに開口部141から本体140外へ飛散しにくくなり、循環水の歩留まりは高くなる。
そこで、制御装置147は、冷却塔110の運転負荷状態、具体的には温度センサ148により計測される循環水の温度に基づいてインバータ146を制御し、モータ145の回転速度を変速してファン144の回転速度を調整する。具体的には、温度センサ148により計測される循環水温度が高温のときは、インバータ146によりモータ145を高速回転させ、ファン144の回転速度を速くする。また、温度センサ148により計測される循環水温度が低温のときは、インバータ146によりモータ145を低速回転させ、ファン144の回転速度を遅くする。これにより、冷却塔110は、その運転負荷状態に応じて循環水を十分に冷却することができ、ファン144の回転駆動に要するエネルギーの省力化を図ることができる。また、冷却塔110をこのように運転すれば、ルーバ142から本体140内へ流入する外気量を冷却塔110の運転負荷状態に応じて制御することができるため、循環水が過剰に蒸発したり飛散したりするのを抑制することができる。この結果、循環水の節約を図ることができ、給水装置120から本体140へ補給する軟水量の抑制を図ることができる。
ところで、循環水は、軟水であり、上述のように冷却塔110内へ流入する外気と共に一部が蒸発するため、Mアルカリ成分濃度を基準とした場合に徐々に濃縮される。すなわち、循環水は、Mアルカリ成分濃度が上昇する。また、冷却塔110においては、インバータ146によりファン144の回転速度を調整することができ、それにより循環水が過剰に飛散するのを抑制することができるため、冷却塔110の運転負荷状態に応じて循環水を十分に冷却可能な範囲でファン144の回転速度を減速すれば、循環水におけるMアルカリ成分の喪失を抑制することができる。このため、冷却塔110において循環する循環水は、Mアルカリ成分濃度を基準とした濃縮倍率が効果的に高まり、Mアルカリ成分濃度が上昇しやすくなる。そして、このようなMアルカリ成分濃度の上昇に伴い、循環水のpHはアルカリ側へ変化する。この実施の形態では、このような循環水の濃縮に伴うpHの変化を利用し、循環水のpHを9.0以上、好ましくは9.2以上に設定する。
因みに、循環水の飛散量は、ファン144の回転速度が高速になるほど多くなる。飛散した循環水は、Mアルカリ成分を含むため、循環水の飛散量が多いとMアルカリ成分が失われることになる。この結果、循環水は、Mアルカリ成分濃度が一定以上に上昇しにくくなり、pHが9.0以上若しくは9.2以上に設定されにくくなる。そこで、この実施の形態では、循環水のpHをpHセンサ162により常時または定期的に測定し、その測定結果に基づいてファン144の回転速度を制御するのが好ましい。より具体的には、pHセンサ162での測定結果に基づいて制御装置147によりインバータ146を制御し、循環水を冷却するのに十分な範囲でファン144の回転速度が低速になるよう調節するのが好ましい。このようにすると、循環水の飛散が抑制され、Mアルカリ成分濃度を基準とする循環水の濃縮倍率を高めやすくなるため、循環水のpHを9.0以上若しくは9.2以上に設定しやすくなる。
以上のようにして循環水のpHを9.0以上若しくは9.2以上に設定すると、貯留部143から供給経路149、冷却負荷装置130、回収経路151および貯留部143の順に循環する循環水は、レジオネラ属菌の繁殖が抑制され、レジオネラ属菌数が厚生省生活衛生局企画課監修、財団法人ビル管理教育センター発行「新版 レジオネラ症防止指針(平成15年5月 5刷発行)」(上述の非特許文献1)において推奨されている10CFU/100ミリリットル未満に維持され得る。
ところで、循環水は、上述のように濃縮され、Mアルカリ成分濃度と共に各種の溶存物、例えば塩化物イオンのような腐食性イオンおよびシリカのようなスケール発生因子の濃度も上昇する。この結果、冷却塔110は、循環水が接触する部位において腐食およびスケールが発生しやすい状態になる。そこで、この運転方法においては、貯留部143に貯留された循環水のpHをpHセンサ162により監視し、このpHが9.0若しくは9.2を超える所定値以上のときに循環水を希釈する。すなわち、pHが当該所定値以上のときに貯留部143に貯留された循環水の一部を放出し、同時に供給装置120から貯留部143内へ新たな軟水を供給して循環水を希釈する。具体的には、循環水のpHが9.0若しくは9.2を十分に超えている所定値のとき(例えば、Mアルカリ成分の濃縮によりpHが9.5若しくはそれ以上に到達しているとき)、制御弁161を開放して排水経路160から循環水の一部を放出し、また、同時にバルブ124を開放して給水経路123から貯留部143へ新たな軟水を供給する。これにより、循環水は、腐食性イオンおよびスケール発生因子の濃度が低下し、冷却塔110に対して腐食やスケールを発生させにくくなる。
ここでは、予め定めた所定量の循環水を放出し、放出した循環水の量に相当する新たな軟水を供給するのが好ましい。放出する循環水の量は、例えば、制御弁161を開放したときに排水経路から放出される循環水の単位流量に応じ、制御弁161の開放時間を制御することで調節することができる。所定量の循環水を放出した後は、制御弁161を閉鎖して循環水の放出を停止し、同時にバルブ124を閉鎖して貯留部143への軟水の供給を停止する。
因みに、循環水のpHは、このような希釈操作により一時的に9.0若しくは9.2を下回る可能性があるが、その後の濃縮により9.0若しくは9.2以上に回復し得る。但し、循環水は、上述のような希釈時においても、pHを9.0以上若しくは9.2以上に維持するのが好ましい。
この運転方法において、循環水のpHを常時または定期的に監視し、そのpHが上述の条件のときに上述のような循環水の希釈操作を適時繰り返せば、循環水におけるレジオネラ属菌の繁殖を効果的に抑制することができ、併せて冷却塔110の腐食およびスケール発生を抑制することができる。
第二の形態
図2を参照して、本発明に係る冷却塔の運転方法の他の形態を実施可能な冷却水循環システムの一例を説明する。図2において、冷却水循環システム200は、冷却塔210、給水装置220、冷却負荷装置230を主に備えている。
冷却塔210は、冷却負荷装置230に対してそれを冷却するための循環水を供給するための密閉式冷却塔であり、上部に開口部241を有する円筒型の本体240、循環水の循環経路250および循環水を冷却するための散布水の移動経路260を主に備えている。
本体240は、外気を導入するためのルーバ242(通気孔の一例)が側面に設けられており、また、循環水を冷却する散布水を貯留するための貯留部243を底部に有している。この貯留部243は、底部から延びる排水経路270を備えている。排水経路270は、貯留部243に貯留された散布水の一部を放出するためのものであり、制御弁271を有している。制御弁271は、電磁弁であり、後述する制御装置247からの指令信号に基づいて散布水の放出量を制御可能である。
本体240の開口部241には、ファン244が水平に配置されている。ファン244は、ルーバ242から本体240内へ外気が流入するよう回転可能なものであり、モータ245により回転駆動される。ファン244を回転駆動するモータ245は、インバータ246と接続されている。インバータ246は、モータ245へ供給する電源周波数を無段階に変えてモータ245の回転速度を変速し、ファン244の回転速度を調整するためのものである。また、インバータ246は、冷却塔210の動作を制御するための制御装置247と接続されている。制御装置247は、温度センサ248とpHセンサ272とを備えている。温度センサ248は、貯留部243内に配置されており、貯留部243内に貯留された散布水の温度を計測するためのものである。pHセンサ272は、貯留部243内に配置されており、貯留部243内に貯留された散布水のpHを計測するためのものである。
循環経路250は、本体240内と冷却負荷装置230との間において、冷却負荷装置230を冷却するための循環水を循環するためのものであり、内部に循環水が充填されている。また、循環経路250は、本体240内において散布水との接触面積を確保するために蛇行しており、両端部が冷却負荷装置230へ延びている。また、循環経路250は、冷却水を循環させるための第一ポンプ251を有している。
移動経路260は、貯留部243から本体240外へ延びており、末端部が本体240内においてファン244の下方に水平に配置されている。また、移動経路260の末端部は、本体240の底部へ向けて散布水を散水するための多数のノズル261(散水口の一例)を有している。また、移動経路260は、貯留部243に貯留された散布水をノズル261へ供給するための第二ポンプ262を有している。
給水装置220は、冷却塔210に対し、散布水を供給するためのものであり、原水供給路221、軟水器222および給水経路223を主に備えている。原水供給路221は、一端が水道水や工業用水等の原水の供給源(図示せず)と接続されており、軟水器222に対して原水を供給するためのものである。この原水供給路221は、軟水器222に対する原水の供給量を制御するためのバルブ224を有している。バルブ224は、制御装置247により制御される。軟水器222は、原水供給路221からの原水を軟水化するためのものである。具体的には、原水供給路221からの原水に含まれる硬度分、すなわちカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを除去し、原水を軟水とするためのものである。給水経路223は、軟水器222からの軟水を冷却塔210の貯留部243へ供給するためのものである。
冷却負荷装置230は、循環水による冷却が必要な各種装置であって第一の形態における冷却負荷装置130と同様のものであり、所要の冷却水流路(図示せず)を有している。この冷却水流路は、冷却水導入部231と冷却水排出部232とを有している。そして、冷却水導入部231には循環経路250の一端が接続されている。また、冷却水排出部231には循環経路250の他端が接続されている。
次に、上述の冷却塔210の運転方法を説明する。
先ず、冷却塔210において、インバータ246によりモータ245を作動させ、ファン244を回転させる。この結果、図に矢印で示すようにルーバ242を通じて本体240内へ外気が流入する。この外気は、本体240内を通過し、開口部241から外部へ排出される。
また、循環経路250において第一ポンプ251を作動すると、循環経路250内において循環水が循環する。この循環水は、冷却負荷装置230の冷却水流路を流れ、冷却負荷装置230を冷却する。
また、バルブ224を操作して原水供給路221から軟水器222へ原水を供給すると、当該原水は軟水器222において硬度分が除去されて軟水となる。この軟水は、軟水器222から給水経路223を通じて冷却塔210の貯留部243へ供給され、貯留される。
貯留部243に貯留された軟水は、循環経路250を循環する循環水を冷却するための散布水として、第二ポンプ262の動作により移動経路260内へ連続的に供給される。そして、移動経路260内へ供給された散布水は、本体240内においてノズル261から散水され、図に点線で示すように本体240内で落下して貯留部243へ戻る。この際、本体240内で落下する散布水は、ファン244の回転により本体240内へ流入する外気に触れて冷却される。そして、冷却された散布水は、循環経路250と接触し、循環経路250および循環経路250内を循環する循環水を冷却する。貯留部243へ戻った散布水は、再び移動経路260を通じてノズル261から散水され、貯留部243へ戻る。したがって、貯留部243に貯留された散布水は、冷却塔210の作動中、移動経路260を循環することになる。
上述のような冷却塔210において、散布水による循環水の冷却能力は、ファン244の回転速度により定まる。すなわち、ファン244を高速で回転させると、ルーバ242から本体240内へ流入する外気量が増加するため散布水が強力に冷却され、散布水による循環水の冷却能力は高くなる。逆に、ファン244を低速で回転させると、ルーバ242から本体240内へ流入する外気量が減少するため、散布水は穏やかに冷却され、散布水による循環水の冷却能力は低くなる。したがって、循環水をより強力に冷却する必要がある場合(すなわち、散布水をより強力に冷却する必要がある場合)、例えば気温の高い夏季においては、ファン244を高速で回転するのが有利である。一方、循環水を強力に冷却する必要がない場合(すなわち、散布水を強力に冷却する必要がない場合)、例えば気温の低い冬季や夏季であっても夜間においては、省エネルギーの観点から、ファン244を低速で回転するのが有利である。
また、冷却塔210において、移動経路260のノズル261から散水される散布水の歩留まりも、ファン244の回転速度により定まる。すなわち、ファン244を高速で回転させると、ルーバ242から本体240内へ流入する外気量が増加するため、ノズル261から散水される散布水は、蒸発しやすくなるとともに、外気と共に開口部241から本体240外へ飛散しやすくなり、散布水の歩留まりは低くなる。逆に、ファン244を低速で回転させると、ルーバ242から本体240内へ流入する外気量が減少するため、ノズル261から散水される散布水は、蒸発しにくくなるとともに開口部241から本体240外へ飛散しにくくなり、散布水の歩留まりは高くなる。
そこで、制御装置247は、冷却塔210の運転負荷状態、具体的には温度センサ248により計測される散布水の温度に基づいてインバータ246を制御し、モータ245の回転速度を変速してファン244の回転速度を調整する。具体的には、温度センサ248により計測される散布水温度が高温のときは、インバータ246によりモータ245を高速回転させ、ファン244の回転速度を速くする。また、温度センサ248により計測される散布水温度が低温のときは、インバータ246によりモータ245を低速回転させ、ファン244の回転速度を遅くする。これにより、冷却塔210は、その運転負荷状態に応じて散布水を十分に冷却することができ、ファン244の回転駆動に要するエネルギーの省力化を図ることができる。また、冷却塔210をこのように運転すれば、ルーバ242から本体240内へ流入する外気量を冷却塔210の運転負荷状態に応じて制御することができるため、散布水が過剰に蒸発したり飛散したりするのを抑制することができる。この結果、散布水の節約を図ることができ、給水装置220から本体240へ供給する軟水量の抑制を図ることができる。
ところで、散布水は、軟水であり、上述のように冷却塔210内へ流入する外気と共に一部が蒸発するため、Mアルカリ成分濃度を基準とした場合に徐々に濃縮される。すなわち、散布水は、Mアルカリ成分濃度が上昇する。また、冷却塔210においては、インバータ246によりファン244の回転速度を調整することができ、それにより散布水が過剰に飛散するのを抑制することができるため、冷却塔210の運転負荷状態に応じて散布水を十分に冷却可能な範囲でファン244の回転速度を減速すれば、散布水におけるMアルカリ成分の喪失を抑制することができる。このため、冷却塔210において循環する散布水は、Mアルカリ成分濃度を基準とした濃縮倍率が高まる。すなわち、冷却塔210は、従来の密閉式冷却塔に比べて散布水の濃縮倍率を高めることができ、Mアルカリ成分濃度が上昇しやすくなる。そして、このようなMアルカリ成分濃度の上昇に伴い、散布水のpHはアルカリ側へ変化する。この実施の形態では、このような散布水の濃縮に伴うpHの変化を利用し、散布水のpHを9.0以上、好ましくは9.2以上に設定する。
因みに、散布水の飛散量は、ファン244の回転速度が高速になるほど多くなる。飛散した散布水は、Mアルカリ成分を含むため、散布水の飛散量が多いとMアルカリ成分が失われることになる。この結果、散布水は、Mアルカリ成分濃度が一定以上に上昇しにくくなり、pHが9.0以上若しくは9.2以上に設定されにくくなる。そこで、この実施の形態では、散布水のpHをpHセンサ272により常時または定期的に測定し、その測定結果に基づいてファン244の回転速度を制御するのが好ましい。より具体的には、pHセンサ272での測定結果に基づいて制御装置247によりインバータ246を制御し、散布水を冷却するのに十分な範囲でファン244の回転速度が低速になるよう調節するのが好ましい。このようにすると、散布水の飛散が抑制され、Mアルカリ成分濃度を基準とする散布水の濃縮倍率を高めやすくなるため、散布水のpHを9.0以上若しくは9.2以上に設定しやすくなる。
以上のようにして散布水のpHを9.0以上若しくは9.2以上に設定すると、貯留部243から移動経路260を循環する循環水は、レジオネラ属菌の繁殖が抑制され、レジオネラ属菌数が厚生省生活衛生局企画課監修、財団法人ビル管理教育センター発行「新版 レジオネラ症防止指針(平成15年5月 5刷発行)」(上述の非特許文献1)において推奨されている10CFU/100ミリリットル未満に維持され得る。
ところで、散布水は、上述のように濃縮され、Mアルカリ成分濃度と共に各種の溶存物、例えば塩化物イオンのような腐食性イオンおよびシリカのようなスケール発生因子の濃度も上昇する。この結果、冷却塔210は、散布水が接触する部位において腐食およびスケールが発生しやすい状態になる。そこで、この運転方法においては、貯留部243に貯留された散布水のpHをpHセンサ272により監視し、このpHが9.0若しくは9.2を超える所定値以上のときに散布水を希釈する。すなわち、pHが当該所定値以上のときに貯留部243に貯留された散布水の一部を放出し、同時に供給装置220から貯留部243内へ新たな軟水を供給して散布水を希釈する。具体的には、散布水のpHが9.0若しくは9.2を十分に超えているとき(例えば、Mアルカリ成分の濃縮によりpHが9.5程度に到達しているとき)、制御弁271を開放して排水経路270から散布水の一部を放出し、また、同時にバルブ224を開放して給水経路223から貯留部243へ新たな軟水を供給する。これにより、散布水は、腐食性イオンおよびスケール発生因子の濃度が低下し、冷却塔110に対して腐食やスケールを発生させにくくなる。
ここでは、予め定めた所定量の散布水を放出し、放出した散布水量に相当する新たな軟水を供給するのが好ましい。放出する散布水の量は、例えば、制御弁271を開放したときに排水経路から放出される散布水の単位流量に応じ、制御弁271の開放時間を制御することで調節することができる。所定量の散布水を放出した後は、制御弁271を閉鎖して散布水の放出を停止し、同時にバルブ224を閉鎖して貯留部243への軟水の供給を停止する。
因みに、散布水のpHは、このような希釈操作により一時的に9.0若しくは9.2を下回る可能性があるが、その後の濃縮により9.0若しくは9.2以上に回復し得る。但し、散布水は、上述のような希釈時においても、pHを9.0以上若しくは9.2以上に維持するのが好ましい。
この運転方法において、散布水のpHを常時または定期的に監視し、そのpHが上述の条件のときに上述のような散布水の希釈操作を適時繰り返せば、散布水におけるレジオネラ属菌の繁殖を効果的に抑制することができ、併せて冷却塔210の腐食およびスケール発生を抑制することができる。
変形例
(1)上述の各実施の形態においては、循環水若しくは散布水の濃縮によりこれらのpHを9.0以上若しくは9.2以上に設定しているが、循環水および散布水のpHは、薬剤の添加若しくは電気分解により9.0以上若しくは9.2以上に設定することもできる。
薬剤の添加によりpHを調整する場合は、冷却塔110,210の貯留部143,243に対して薬剤を注入するための注入装置を配置する。ここで用いられる薬剤は、循環水および散布水のpHを9.0以上若しくは9.2以上に調整することができるものであり、通常、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の炭酸塩およびアルカリ金属の水酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一つのアルカリ金属化合物である。アルカリ金属の炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムを挙げることができる。また、アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムを挙げることができる。さらに、アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを挙げることができる。
この場合、例えば、pHセンサ162,272により循環水および散布水のpHを常時または定期的に監視し、貯留部143,243に対して上述の薬剤を適宜注入して循環水および散布水のpHを9.0以上若しくは9.2以上に設定する。
一方、電気分解による場合は、冷却塔110,210に対し、図3に示すような電気分解装置300を装着する。電気分解装置300は、電解槽310と電源320とを主に備えている。電解槽310内には、循環水または散布水を電解するための一対の電極311,312が配置されており、この一対の電極311,312間に隔膜313が設けられることにより、陰極室314と陽極室315とが形成されている。電解槽310には、冷却塔110,210の貯留部143,243内から循環水または散布水の一部を取り出すための採水路316が接続されている。この採水路316は、陰極室314および陽極室315のそれぞれへ循環水または散布水を供給するためのものである。陰極室314には、循環水または散布水の電解により生成したアルカリ性電解水を貯留部143,243内へ供給するための電解水供給路317が接続されている。陽極室315には、同じく循環水または散布水の電解により生成した酸性電解水を系外へ排出するための排出路318が接続されている。電源320は、一対の電極311,312間に循環水または散布水の電解に必要な電圧を印加するためのものであり、制御装置147,247により制御される。
この電気分解装置300を備えた冷却塔110,210では、採水路316を通じて貯留部143,243から循環水または散布水の一部を電解槽310内へ供給する。電解槽310へ供給された循環水または散布水は、一対の電極311,312間に印加される電圧により電気分解され、陰極室314側でアルカリ性電解水が生成し、陽極室315側で酸性電解水が生成する。ここで生成したアルカリ性電解水は、電解水供給路317を通じて貯留部143,243へ供給する。また、酸性電解水は、排出路318を通じて系外へ排出する。このように、貯留部143,243に貯留された循環水または散布水の一部を継続的に電気分解装置300へ供給し、生成したアルカリ性電解水を貯留部143,243へ供給すれば、循環水または散布水は、pHが高まり、9.0以上に設定される。
以上のように薬剤の注入または電気分解により循環水および散布水のpHを設定する場合は、循環水および散布水のpHが希釈によって一時的に9.0若しくは9.2を下回ったときでも、当該pHを9.0以上若しくは9.2以上に速やかに回復させることができるため、貯留部143,243からの循環水および散布水の放出量を増加させることができ、循環水および散布水の希釈の程度を高めて腐食性イオンおよびスケール発生因子の濃度をより効果的に低下させることができる。
(2)上述の各実施の形態では、循環水および散布水を希釈するに際し、貯留部143,243から循環水および散布水の所定量を排出し、当該所定量が排出されたときに放出を停止しているが、この放出の停止時機は、循環水および散布水の電気伝導度に基づいて判定することもできる。すなわち、貯留部143,243において希釈された循環水および散布水の電気伝導度が所定値まで低下したときにおいて、循環水および散布水の放出を停止することができる。電気伝導度は、腐食性イオンおよびスケール発生因子の濃度の上昇に伴って高まり、下降に伴って低下するため、予め定めた任意の所定値まで低下したときに放出を停止するようにすれば、より有効に冷却塔110,210の腐食およびスケール発生を抑制することができる。
この場合は、貯留部143,243内に循環水または散布水の電気伝導度を測定するためのセンサを配置し、このセンサにより測定された電気伝導度に基づいて、制御装置147,247を介して制御弁161,271およびバルブ124,224を閉鎖する。
検証例
pHを7、9および10に調整した三種類の軟水のそれぞれにレジオネラ属菌を3,200個接種し、36℃で3日間放置した。そして、接種時、2日経過時および3日経過時の各時点において、この軟水0.1ミリリットルをシステイン含有BCYEα寒天培地に塗布して36℃で7日間培養し、レジオネラ属菌数を調べた。レジオネラ属菌数は、培地に形成された集落数に基づいて調べた。結果を表1に示す。
表1によると、pHが7の場合はレジオネラ属菌数が接種時に比べて増加しているが、pHが9および10の場合は接種時に比べてレジオネラ属菌数が減少していることがわかる。この結果より、軟水のpHを9.0以上に設定すれば、レジオネラ属菌の繁殖を効果的に抑制可能なことがわかる。