JP2007254256A - 水素発生材料、水素発生材料の製造方法、水素の製造方法、水素の製造装置および燃料電池 - Google Patents

水素発生材料、水素発生材料の製造方法、水素の製造方法、水素の製造装置および燃料電池 Download PDF

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Abstract

【課題】 簡便且つ効率よく水素を発生させ得る水素発生材料とその製造方法、および上記水素発生材料を水素源とする水素の製造方法を提供し、上記方法により得られる水素を燃料電池の燃料として利用することにより、燃料電池の小型化、効率化を実現する。
【解決手段】 水と有機溶媒とを含む処理溶媒中で、アルミニウムまたはアルミニウム合金を粉砕することにより製造される金属材料を用いて水素発生材料を構成する。上記金属材料は、金属状態のアルミニウムを含有する金属相とアルミニウムの酸化物または水酸化物を含有する不活性相とを含む表面皮膜を有することを特徴とする。
【選択図】 図5

Description

本発明は、水との反応により水素を発生し得る水素発生材料とその製造方法、当該水素発生材料を用いた水素の製造方法とその装置、ならびにその水素の製造装置を備えてなる燃料電池に関するものである。
近年、パーソナルコンピューター、携帯電話などのコードレス機器の普及に伴い、その電源である二次電池は、ますます小型化、高容量化が要望されている。現在、エネルギー密度が高く、小型軽量化を図り得る二次電池としてリチウムイオン二次電池が実用化されており、ポータブル電源としての需要が増大している。しかし、使用されるコードレス機器の種類によっては、このリチウム二次電池では未だ十分な連続使用時間を保証する程度までには至っていない。
このような状況の中で、上記要望に応え得る電池の一例として、固体高分子型燃料電池が挙げられる。電解質に固体高分子電解質、正極活物質に空気中の酸素、負極活物質に燃料(水素、メタノール)を用いる固体高分子型燃料電池は、リチウムイオン電池よりも高エネルギー密度化が期待できる電池として注目されている。燃料電池は、燃料および酸素の供給さえ行えば連続的に使用することができる。
燃料電池については、使用する燃料に関していくつかの候補が挙げられているが、それぞれ種々の問題点を有しており、最終的な決定が未だなされていない。
燃料として水素を用いる燃料電池としては、例えば、高圧タンク或いは水素吸蔵合金タンクに蓄えた水素を供給する方法が一部で実用化されているが、体積および重量が大きくなりエネルギー密度が低下するため、ポータブル電源用途には適さないという欠点を有している。
また、燃料電池の燃料として、炭化水素系燃料を用い、それを改質して水素を取り出す方法もあるが、改質装置が必要となり改質装置への熱の供給および断熱などの問題があるため、やはりポータブル電源用途には不適である。この他、燃料としてメタノールを用い、直接電極でメタノールを燃料として反応させる直接メタノール型燃料電池もあり、これは小型化が容易で、将来のポータブル電源として期待されているが、メタノールのクロスオーバーによる電圧の低下およびエネルギー密度の減少という問題がある。
他方、100℃以下の低温での化学反応により発生させた水素を燃料電池の燃料に使用する方法も知られている(特許文献1〜5)。これらの方法は、例えば、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、亜鉛など、水と反応して水素を発生する金属を水素源としている。
米国特許第6506360号公報 特許第2566248号公報 特開2004−231466号公報 特開2001−31401号公報 米国特許第6582676号公報
上記特許文献1〜3では、アルミニウムとアルカリまたは酸とを反応させる技術を開示しているが、これらの技術によれば、化学的に簡便に水素が発生するものの、アルミニウムに見合う当量のアルカリまたは酸を添加する必要があり、水素源以外の材料の比率が高くなることによるエネルギー密度の減少の問題が生じる。また、反応生成物である酸化物または水酸化物がアルミニウムの表面に皮膜を形成して、皮膜の内側のアルミニウムと水とが接触できなくなり、酸化反応がアルミニウムの表面のみで停止するという問題が生じやすい。
一方、機械的に表面皮膜を取り除くことによりこの問題を回避しようとする特許文献4に開示の技術では、表面皮膜を取り除くための機械的設備が必要になるなど装置が大型化するという問題がある。
また、特許文献5に開示の技術では、上記水酸化物の皮膜を形成しにくくするための触媒としてアルミナなどを添加して、低温で水素を発生させる。しかし、アルミニウムなどの金属だけでは水素が発生せず、触媒を添加するために、水素源であるアルミニウムなどの金属の含有量が低下して水素発生量が低下するという問題がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、簡便且つ効率よく水素を発生させ得る水素発生材料とその製造方法を提供し、さらに、上記水素発生材料を用いて水素を製造し、これを燃料電池の燃料として利用することにより、燃料電池の小型化、効率化を実現しようとするものである。
上記目的を達成し得た本発明の水素発生材料は、アルミニウムおよびアルミニウム合金より選択される少なくとも1種の金属材料を含有し、上記金属材料が、その表面に、金属状態のアルミニウムを含有する金属相とアルミニウムの酸化物または水酸化物を含有する不活性相とを含む表面皮膜を有することを特徴とするものである。
また、本発明は、アルミニウムおよびアルミニウム合金より選択される少なくとも1種の金属材料を含有する水素発生材料を製造するに当たり、水と有機溶媒とを含む処理溶媒中で、原料となるアルミニウムまたはアルミニウム合金を粉砕して当該金属材料とすることを特徴とするものである。
また、本発明は、上記水素発生材料と水とを反応させて水素を生成することを特徴とする水素の製造方法を提供するものである。
さらに、本発明は、上記水素発生材料を収容した容器を備え、さらに、上記水素発生材料と水が反応して生成する水素を、前記容器内から外部に取り出すことのできる導出口を上記容器に備えた水素の製造装置、ならびに、それを水素発生源として備えた燃料電池を提供するものである。
本発明によれば、簡便且つ効率よく水素を発生させ得る水素発生材料、および上記水素発生材料を水素源とする水素の製造方法を提供できる。本発明の水素発生材料を水素源とすることで、水素発生装置や燃料電池の小型化や効率化を実現できる。
本発明の水素発生材料は、アルミニウムおよびアルミニウム合金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属材料を含むものである。そして、上記金属材料は、主にアルミニウム金属またはアルミニウム合金である粒子内部と、この粒子内部を被覆する表面皮膜で構成されており、この表面皮膜は、金属状態のアルミニウム(アルミニウム金属またはアルミニウム合金)を含有する金属相とアルミニウム酸化物またはアルミニウム水酸化物を含有する不活性相とを含有している。本発明の水素発生材料は、上述のような形態の金属材料を含むことによって、速やかに、かつ効率よく水素を発生させることができる。
上記金属材料は、アルミニウム(純アルミニウム)またはアルミニウム合金から構成されている。アルミニウム合金としては、アルミニウムが主たる構成元素であればよく、合金の組成については特に限定されない。合金元素としては、例えば、ケイ素、鉄、銅、マンガン、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、チタン、鉛、スズ、およびクロムなどが挙げられる。なお、金属材料中のアルミニウムの含有比率を高めて水素発生量を多くする観点から、アルミニウム合金中におけるアルミニウムの含有量は、80質量%以上であることが好ましい。
一般に、アルミニウムは、アルミニウム金属である粒子内部の表面に、アルミニウム酸化物またはアルミニウム水酸化物で構成される緻密な難水溶性の不活性相よりなる表面皮膜(酸化皮膜)が形成されている。アルミニウムと水との反応の際には、上記表面皮膜に水が浸透して、粒子内部のアルミニウム金属まで水が到達すると、水素が発生する。そのため、アルミニウムを水素発生源とする通常の水素発生材料では、水素の発生開始までに、ある一定の時間を要する。
本発明者らが鋭意検討した結果、アルミニウムを用いて水素を製造する場合、アルミニウム粒子の表面状態によって、水素の発生開始までの時間および水素発生速度が最大になるまでの時間に大きな差が生じることが明らかとなった。具体的には、アルミニウム粒子の有する表面皮膜の少なくとも一部に、金属状態のアルミニウムを含有する金属相が存在する場合には、アルミニウム粒子の表面にアルミニウム酸化物またはアルミニウム水酸化物で構成される緻密な皮膜のみが存在している場合に比べ、水素の発生開始までの時間および水素発生速度が最大になるまでの時間を短縮できることが判明した。
これは、表面皮膜の少なくとも一部に、金属状態のアルミニウムを含有する金属相が存在することよって、表面皮膜に水が浸透し、粒子内部のアルミニウム金属にまで水が到達する前に、表面皮膜に存在する上記金属相と水が反応して反応の起点となり、粒子内部と水との反応が促進されるため、水素の発生開始までの時間および水素発生速度が最大になるまでの時間が短縮されると考えられる。
表面皮膜における金属相と不活性相の形態は、特に限定されるものではないが、上記金属相と上記不活性相の少なくとも一部が、それぞれ層を形成しており、表面皮膜が、上記金属相からなる層と上記不活性相からなる層とが互いに積層した積層部を含んで構成されている場合、金属相と水との反応が連続して生じ反応性が高くなることが期待される。また、不活性相の内部に微小な粒径の金属相が分散した形態であってもよい。
このように、本発明の水素発生材料に含まれる金属材料は、その表面皮膜の構成により、従来のアルミニウムやアルミニウム合金で構成される金属材料(表面に緻密な酸化皮膜のみが形成されている金属材料)に比べて、水素の発生開始までの時間および水素発生速度が最大になるまでの時間が短縮されており、簡便且つ効率的に水素を製造することができる。
なお、上記金属材料では、表面皮膜(上記積層部の内部、または上記積層部と上記粒子内部との界面)に空孔を有している場合には、上記積層部分および上記粒子内部に水が浸透しやくなり、上記積層部に含有される金属相または上記粒子内部と水とが反応しやすくなるので好ましい。
図1(a)〜(c)に、通常のアルミニウム粉末の断面の電子顕微鏡による観察結果を示す。また、図2(a)〜(c)に、本発明の実施例1の水素発生材料に用いた金属材料の断面の電子顕微鏡による観察結果を示す。図1(a)および図2(a)は上記断面の走査型電子顕微鏡(SEM)での像を示し、図1(b)および図2(b)は上記断面の走査透過電子顕微鏡(STEM)での像を示し、図1(c)および図2(c)は、それぞれ図1(b)および図2(b)の視野における、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(EDX)による元素マッピングを示す。
図1(a)から明らかなように、通常のアルミニウム粉末では、粒子の外表面に約5nmの厚みの緻密な表面皮膜が存在している。図1(c)の元素マッピングを見ると、酸素はほぼアルミニウム粉末の表面のみに分布していることから、表面皮膜はアルミニウムの酸化物または水酸化物であると考えられる。また、粒子内部に分布している元素がほぼアルミニウムのみであることから、内部はアルミニウム金属で構成されていると考えられる。
なお、図1(a)、(b)および図2(a)、(b)で示している「保護膜」とは、電子顕微鏡観察に際して粒子を保護する目的で粒子表面に付着させた分析用の膜であり、アルミニウム粉末の最表面に存在しているのは、実際には「表面皮膜」で現された部分である。
一方、図2(a)〜(c)に示す金属材料では、粒子はアルミニウム金属で構成された内部とその外表面に存在する約1μm以下の表面皮膜とで構成されている。この表面皮膜を図2(c)の元素マッピングで見ると、最外表側(保護膜の内側)から、主に酸素が分布している層(すなわち、アルミニウム酸化物またはアルミニウム水酸化物を含有する不活性相からなる層)と、主にアルミニウムが分布している層(すなわち、金属状態のアルミニウムを含有する金属相からなる層)とが交互に積層されて積層部を形成し、この積層部にはどちらの層も2層以上存在していることが分かる(図2(b)参照)。また、図2(a)から、上記表面皮膜には空孔が形成されていることも分かる。
水素発生材料における上記表面皮膜は、その少なくとも一部に上記積層部を有していればよく、その全体が上記積層部で構成されていてもよいが、例えば、上記表面皮膜の一部に上記積層部が形成され、その他の部分が不活性相だけで構成されていても構わない。具体的には、上記表面皮膜における上記積層部の割合は、水素発生材料の全表面積中、例えば、25面積%以上とすることができ、全量すなわち100面積%であってもよい。
また、上記表面皮膜における上記積層部は、金属相からなる層と、不活性相からなる層とが、それぞれ1層ずつ積層された構造であってもよく、例えば、図2(b)に示すように、金属相からなる層と不活性相からなる層とが、それぞれ2層以上互いに積層された構造を有していてもよい。積層部の総数の上限は特に限定されないが、例えば各層それぞれ4〜5層とすることができる。
上記表面皮膜における上記積層部の厚みは、厚すぎると、水素発生反応に関与しないアルミニウム酸化物やアルミニウム水酸化物の割合が多くなるため、水素発生効率の観点から、例えば、2μm以下であることが好ましい。また、上記積層部の厚みの下限は、例えば、10nmとすることができる。
上記金属材料は、金属状態のアルミニウムを60質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましい。金属材料における金属状態のアルミニウム含有量が低下すると、水素発生量が低下することがある。
アルミニウムは、加温された状態では表面の一部が水と反応して水素を発生するが、表面に安定な酸化皮膜を形成するため、板状、ブロック状または1mm以上の粒子などのいわゆるバルクの状態では、水との反応が進行せず、室温での水素発生量は、金属材料1g当たり5ml以下となる。
よって、本発明の水素発生材料に用いる金属材料は、微粒子を一定以上の割合で含むことが望ましく、粒径が60μm以下の粒子の割合が、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましい。また、金属材料の平均粒径としては、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。ただし、金属材料の形態は粒子状に限られるものではなく、金属箔のような形状であっても構わない。
アルミニウムが水素および酸化生成物を生成する反応は次式のいずれかによって進行していると考えられる。
2Al+6HO→Al・3HO+3H (1)
2Al+4HO→Al・HO+3H (2)
2Al+3HO→Al+3H (3)
上述したように、アルミニウムがバルクの状態ではこれらの反応により、表面に酸化皮膜を形成して安定化する。しかし、粒径を小さくすることにより、粒子内部のアルミニウムと水との反応が酸化皮膜によって阻害されにくくなり、水素発生反応が連続的に生じるようになる。すなわち、金属材料が、上記の粒度分布や平均粒径を有している場合には、酸化皮膜形成による水との反応抑制作用を小さくすることができ、効率よく水素を発生させることができる。
一方、金属材料の粒径を小さくしすぎた場合、水素発生速度が増加するものの、引火性が高まり空気中での取り扱いが困難になる。さらに、嵩密度が小さくなるため、水素発生装置における水素発生材料の充填密度が低下し、エネルギー密度が低下しやすくなる。このため、水素発生材料における金属材料の平均粒径は、0.1μm以上とすることが好ましい。
本明細書でいう金属材料の平均粒径は、体積基準の積算分率における50%径の値を意味している。また、本明細書でいう金属材料の粒度分布や平均粒径は、レーザ回折・散乱法で測定した値である。この方法は、具体的には、水などの液相に分散させた測定対象物質にレーザ光を照射することによって検出される散乱強度分布を利用した粒子径分布の測定方法である。レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定装置としては、例えば、日機装株式会社製「マイクロトラックHRA」などを用いることができる。
上記積層部を含む表面皮膜を有する金属材料は、水と有機溶媒を含む処理溶媒中で、アルミニウムまたはアルミニウム合金を粉砕し、上記金属材料の表面改質を行った後、上記処理溶媒を除去することによって得ることができる。
水素発生源として使用されるアルミニウムやその合金は、粉砕されることによってその表面積が増大し、水素の発生速度が向上する。ここで、一般的な機械的粉砕法であるスタンプミル法、ボールミル法、振動ミル法などでアルミニウムを粉砕すると、アルミニウムが展性に富む金属であるため、箔状に伸びて金属光沢を有する鱗片状の粉末となる。
これに対して、アルミニウムまたはアルミニウム合金を、水と有機溶媒を含む処理溶媒中で機械的に粉砕すると、黒色の粒状微粉末が得られ、上記の如き一般的な機械的粉砕法により作製したアルミニウム粉砕物よりも、速やかに水と反応して効率的に水素を生成し得る金属材料となる。これは、上述したように、上記の製法を採用することによって、上記金属材料の表面に、金属状態のアルミニウムを含有する金属相と、アルミニウム酸化物またはアルミニウム水酸化物を含有する不活性相とを含む表面皮膜が形成されていることによるものと考えられる。また、上記の製法を採用することで、金属相の少なくとも一部と不活性相の少なくとも一部とが、それぞれ層状に形成され、上記表面皮膜は、上記金属相からなる層と、上記不活性相とからなる層とが互いに積層した積層部を有するようになる。さらに、上記の製法を採用することによって、粒子表面に形成される上記表面皮膜には、空孔が形成される
上記の通り、本発明の水素発生材料は、原料となるアルミニウムまたはアルミニウム合金を、水と有機溶媒とを含む処理溶媒中で粉砕して形成される金属材料を用いることにより得られる。粉砕時に使用する液体が水を含有せず、有機溶媒のみで構成されていると、粉砕後の金属材料の一部または全部が、金属光沢を有する鱗片状の粒子となって水素発生効率が低下し、また、粉砕装置の粉採用ポットなどの内壁面に粉砕物が付着しやすいため、効率よく目的とする金属材料を作製することができない。
また、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉砕に使用する処理溶媒が有機溶媒を含有せず、水のみで構成されている場合には、粉砕の過程で金属材料の表面の酸化が過剰に進行して、酸化物または水酸化物が多量に形成される。このため、金属材料中に金属状態で存在するアルミニウムの含有量が低下して、水素発生量が減少してしまう。
一方、上記処理溶媒に有機溶媒を含有させることにより、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉砕時の酸化反応を制御して、表面皮膜における上記積層部の厚みを調整することができる。また、上記積層部の厚みは、粉砕時間の制御によっても調整することが可能である。
アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉砕に使用する上記処理溶媒は、前述した表面皮膜の構造を形成するために、粉砕を行うアルミニウムまたはアルミニウム合金1質量部に対して、水の量が0.02質量部以上となるようその割合を調整することが望ましく、水の量を0.1質量部以上とすることがより望ましい。一方、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉砕中における酸化の進行を抑制するため、水の量は2質量部以下とすることが望ましく、1質量部以下とすることがより望ましく、0.4質量部以下とすることが最も望ましい。原料であるアルミニウムまたはアルミニウム合金に対する水の量が少なすぎると、金属材料の表面改質が不十分となり、金属光沢を有する鱗片状の粉末が得られやすくなって、金属材料の水素発生効率が低くなることがある。一方、水の量が多すぎると、金属材料中の金属アルミニウム含有量が減少し、水素発生量の低下を引き起こすことがある。
上記処理溶媒を構成するための有機溶媒は、アルミニウムやアルミニウム合金と反応しにくい溶媒であれば特に限定されず、また、水と混ざり合わないものでも構わない。具体的には、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、アセトンなどのケトン類、エーテル類、N,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。なお、上記有機溶媒のうち、水と共沸混合物になるもの(例えば、トルエン、シクロヘキサンなど)は、上記処理溶媒を粉砕物から除去し易くすることから、より好適に用いられる。上記有機溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いても構わない。また、アルコールを用いることもでき、メタノールやエタノールのような低分子量(例えば炭素数10以下)のアルコールは、上記例示の有機溶媒と比較すればアルミニウムとの反応性が高い溶媒であり、条件によってはアルミニウムと反応してアルコキシドを生成する可能性もあるが、水との比較においてはその反応性はかなり低い溶媒であることから、上記例示の有機溶媒に代えて、あるいは上記例示の有機溶媒と共に用いることが可能である。
アルミニウムまたはアルミニウム合金の粉砕に用いる上記処理溶媒においては、水と有機溶媒の使用比率は、必ずしも限定されるものではないが、金属材料の酸化の進行を適度に抑制するために、例えば、水1質量部に対して有機溶媒の量を5質量部以上とするのが好適であり、一方、表面改質の効果を高めるために、有機溶媒の量を300質量部以下とするのが好適である。
上記処理溶媒中でのアルミニウムまたはアルミニウム合金の粉砕方法は、特に制限されるものではなく、例えば、ボールミル、サンドミル、振動ミルあるいはジェットミルなどを用いた機械的粉砕方法が採用できる。なお、本発明の水素発生材料に用いる金属材料を製造する際には、粉砕中に水素が発生するため、上述のような粉砕装置では、かかる水素を逃がす機構を設けることが望ましい。
このような工程を経て得られる金属材料を用いて本発明の水素発生材料は作製されるが、前述のように上記金属材料は、金属状態のアルミニウムを60質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましい。金属材料中における金属状態のアルミニウムの含有量が低下すると、水素発生量が低下することがある。なお、本発明では、水を含む処理溶媒中で粉砕を行うため、金属材料中に含有されるアルミニウム元素のすべてを金属状態で存在させることは難しい。しかし、上記のように、粉砕に用いる処理溶媒に有機溶媒を含有させて、この処理溶媒中の水の含有量を制限することにより、粉砕中のアルミニウムまたはアルミニウム合金の酸化を制御することができるため、本発明では金属状態のアルミニウムを多く含み、効率よく水素を発生し得る金属材料を用いて水素発生材料を構成することができる。
なお、本明細書において、金属材料中の金属状態のアルミニウムの含有量は、以下のようにして測定される。金属材料をX線回折装置により分析すると、アルミニウムまたはアルミニウム合金と水酸化アルミニウムが観測される。そこで、蛍光X線分析(XRF)によって金属材料中のアルミニウムおよび酸素の含有量を測定し、酸素の含有量から水酸化アルミニウム含有量を求め、残りを金属状態のアルミニウム含有量とする。
上記処理溶媒中でアルミニウムまたはアルミニウム合金の粉砕を行うと、略球状または不規則粒状の金属材料が得られる。このような金属材料は、そのまま用いてもよいし、圧延して鱗片状にするなど、さらに加工を施してから用いてもよい。
本発明の水素発生材料は、上記金属材料を後述する発熱材料や添加剤などと混合することにより構成される。ただし、上記金属材料は水との反応性が良好であるため、発熱材料や添加剤などの含有量を低減したり、あるいは添加を省いたりすることもでき、その場合にも簡便且つ効率よく水素を発生させることができるので、エネルギー密度を向上させることができる。
また、上記水素発生材料の形態としては、特に制限はなく、例えば、上記の金属材料と同じ形状を有する粉体状(粒子状)のままでもよいが、ペレット状または顆粒状に成形されていることがより好ましい。粉体状の水素発生材料を圧縮成形してペレット状にすると、充填密度が向上して体積が小さくなるので、エネルギー密度が向上する。また、顆粒状の場合は、水素発生材料を造粒して、例えば、ミリメートルサイズの顆粒状にすることにより、水素発生速度を大きくすることができる。
なお、詳しくは後述するが、本発明の水素発生材料は、水との反応開始時には加熱することが好ましく、外部からの加熱の他、水と反応して発熱する発熱材料であって上記金属材料以外の材料を、水素発生材料と水との反応時に共存させておくことにより、該発熱材料の水との反応による発熱を利用することもできる。よって、水素発生材料は、水と反応して発熱する発熱材料を含有していることも好ましい。このような発熱材料としては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウムなどのように、水と反応して発熱するか、または水和することにより発熱するアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物などの材料を例示することができる。また、鉄粉のように、酸素と反応して発熱する金属粉を発熱材料として用いることもできる。
水素発生材料に上記発熱材料を含有させる場合には、上記発熱材料の含有量は、水素生成速度を高める点からは、例えば、水素発生材料の全量中1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好まし。また、水素発生総量の点からは、例えば、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
水素発生材料に上記発熱材料を含有させる場合には、この発熱材料も含めて、ペレット状または顆粒状に成形することが好ましい。
また、本発明の水素発生材料には、種々の目的に応じて各種添加剤を含有させることができる。
例えば、上記添加剤として、親水性酸化物(アルミナ、シリカ、マグネシア、酸化亜鉛など)、炭素、吸水性高分子(カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなど)などを、水素発生材料に含有させることで、より効率よく水素を発生させることができる。これらの添加剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用しても構わない。これら添加剤の作用については不明だが、添加剤により上記金属材料と水との接触が良好になる、金属材料が水と反応することにより生成した反応生成物と未反応の金属材料とが凝結するのを防ぐ、または後述するペレットにした場合には、ペレット内部まで水が浸透するなどの効果があると考えられる。
上記の各種添加剤を用いる場合には、その含有量は、水素発生効率の点からは、例えば、水素発生材料中で1質量%以上とすることが好ましく、10質量%以上とすることがより好ましく、また、水素発生総量の点からは、例えば、30質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましい。
本発明の水素発生材料は、水と接触させることにより水素を発生するが、反応性を向上させ一定以上の水素発生速度を得るためには、外部からの加熱により反応を促進させることが望ましい。加熱温度は40℃以上とするのが望ましく、水の蒸発を防ぐためには95℃以下とすることが望ましい。加熱方法としては、水素発生材料および水を上記温度範囲内に保ち得る方法であれば、特にその方法については限定されるものではなく、例えば、発熱源として、抵抗体に通電することによる電気加熱、化学的発熱反応などを用い、水素発生材料および水を収容した容器を外部から加熱する方法を採用することができる。
化学反応により発熱する発熱源としては、例えば、上記の、水と反応して発熱する発熱材料として例示した各種化合物が挙げられる。発熱材料は、水と反応させて発熱させ、その熱で水素発生材料を収容した反応容器を加熱することができるが、水素発生材料と共に反応容器内に収容し、反応容器内で発熱させて水素発生材料を直接加熱してもよい。この場合の発熱材料の使用量は、水素発生材料に予め発熱材料を含有させた場合の上記好適含有量と同等程度とすることが好ましい。すなわち、水素発生材料と発熱材料との合計中、発熱材料の量を1質量%以上とすることが好ましく、また30質量%以下とすることが好ましい。
また、アルミニウムと水との反応は発熱反応であるため、その反応熱の放熱を防ぎ、水素発生材料と水の温度上昇に利用すれば、上記発熱源を有さずとも連続的に水素を発生させることが可能である。
さらに、水素発生材料と反応させる水の供給を制御することによって、水素発生量を制御することもできる。
本発明の水素発生材料は、上記水素発生材料と水を収容する容器を備え、その内部でこの水素発生材料と水とを反応させ、生成する水素を取り出す機構を有する水素発生装置において、水素発生源として使用できる。上記水素発生装置における上記容器は、外部から水素発生材料と水を加熱する上述の加熱手段を有していてもよく、必要に応じて水素発生を促進させることも可能である。この場合、加熱温度を制御することにより、発生水素量を制御することができる。
上記水素発生装置における上記容器の形態および形状は特に限定されないが、水の供給口と水素の排出口を備え、内部を密閉可能にして水および水素が外部に漏れないような構造とすることが望ましい。上記容器に用いる材質は水および水素を透過しにくく、かつ100℃程度に加熱しても破損しない材質であれば特に限定されない。例えば、耐熱ガラス、チタン、ニッケルなどの金属およびポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂を用いることができる。上記水素発生装置の一例を図3に示す。この水素発生装置は、水素発生材料6を収容する収容容器2と蓋3とを備えた反応容器1と、蓋3に設けられた水の供給口4を通じて水7を反応容器1内に供給するポンプ8とで構成され、発生した水素は、蓋3に設けられた水素の排出口5を通じて外部に取り出すことができるものである。
上記水素発生装置の水素の排出口5には、上記容器の内容物が外に漏れ出さないようにフィルターを設置することが好ましい。このフィルターは、気体を通すが液体および固体を通しにくい構造であれば特に限定されることはなく、燃料電池などに用いられる多孔性のポリテトラフルオロエチレン製気液分離膜を用いてもよい。また、電池のセパレータとして利用されるポリプロピレン製の多孔質フィルムなどを用いることもできる。
上記水素発生装置において、上記容器内部への水の供給は、流量を制御できるようにすることが望ましく、上記の通り、水の供給を制御することにより、発生する水素量を制御することができる。
本発明の水素発生材料を用いて発生させた水素は、炭化水素系燃料の改質で得られる水素において問題とされるCOおよびCOを含まない。そのため、100℃以下で作動する固体高分子型燃料電池において、上記ガスによる被毒の問題が発生せず、また、反応に水が関与するため、ガス中に適度な水分を含んでおり、水素を燃料とする燃料電池において非常に有用である。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
<実験1 金属材料および水素発生材料の作製、並びに水素発生試験>
(実施例1)
アトマイズ法により作製された平均粒径が55μmのアルミニウム粉末:5g、トルエン:15g、水:1g(上記アルミニウム粉末1質量部に対して0.2質量部)および粒径2μmのジルコニア製のビーズ:85gを、遊星ボールミルの粉砕用ポットに入れ、200rpmの回転速度でアルミニウム粉末を粉砕した。粉砕中に水素が発生したため、10分間回転させた後一旦回転を停止させて、ポット内に発生した水素を放出させて再び回転させた。この手順を繰り返して合計1時間ポットを回転させた。その後、トルエンおよび水を減圧乾燥で除去して、本発明の水素発生材料を構成するための金属材料を得た。得られた金属材料は、表面の金属光沢が失われて黒茶色をしており、平均粒径が12μmの不規則粒状の粒子となった。この金属材料について、金属状態のアルミニウムの含有量を前述の方法で測定したところ80質量%であり、原材料であるアトマイズ法により作製されたアルミニウム粉末では、99質量%であった。また、上記金属材料の粒度分布を、前述の粒子径分布測定装置により測定した。
次に、図1(a)〜(c)に、実施例1の金属材料を作製する際に原材料として用いたアルミニウム粉末の断面の電子顕微鏡による観察結果を示す。また、図2(a)〜(c)に、実施例1で作製した金属材料の断面の電子顕微鏡による観察結果を示す。前述のとおり、図1(a)および図2(a)は上記断面の走査型電子顕微鏡(SEM)での像を示し、図1(b)および図2(b)は上記断面の走査透過電子顕微鏡(STEM)での像を示し、図1(c)および図2(c)は、それぞれ図1(b)および図2(b)の視野における、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(EDX)による元素マッピングを示す。
前述したように、図1(a)〜(c)に示した原材料のアルミニウム粉末では、粒子内部には主にアルミニウムが分布しているのに対し、その外表面には、約5nmの幅で主に酸素が分布している。すなわち、原材料アルミニウム粉末では、アルミニウム金属で構成されていると考えられる粒子の表面に、酸化皮膜と考えられる緻密な表面皮膜が存在している。
これに対し、図2(a)〜(c)に示した実施例1の金属材料では、粒子内部には主にアルミニウムが分布しており、粒子内部はアルミニウム金属で構成されているが、その外表面には、主に酸素が分布している層(すなわち、アルミニウム酸化物またはアルミニウム水酸化物を含有する不活性相からなる層)と、主にアルミニウムが分布している層(すなわち、金属状態のアルミニウムを含有する金属相からなる層)とが、交互に1層ずつ積層され、それぞれの層を複数層有する積層部を含む約1μm以下の厚みの表面皮膜が存在している。
上記の金属材料を単独で用いて水素発生材料とし、水素発生試験を行った。上記金属材料:1gと水:10gをサンプル瓶に入れ、サンプル瓶の外側に抵抗体を設置した。抵抗体により容器を50℃に加熱することにより水素を発生させ、発生した水素は水上置換法により捕集して発生量を測定した。
(比較例1)
実施例1において原材料として用いたアルミニウム粉末をそのまま水素発生材料とし、実施例1と同様にして水素発生試験を行い、水素発生量を測定した。
実施例1および比較例1の水素発生材料について、2分ごとに捕集した水素の量を測定し、水素発生試験の開始から水素の発生開始までの時間を求めた。また、水素の捕集量の時間変化から水素の生成速度を求め、その値が最大値に達するまでの時間も求めた。それらの結果を表1に示す。
Figure 2007254256
表1より、アルミニウム粉末を、水と有機溶媒とを含む処理溶媒中で粉砕して作製した実施例1では、比較例1において水素発生材料として用いた原料粉末よりも、水素の発生開始までの時間および水素発生速度が最大になるまでの時間を大幅に短縮することができた。これは、図2(a)〜(c)に示す粒子断面像から考慮すると、表面皮膜の一部が、金属相と不活性相との積層部で構成されていることによって、表面皮膜に水が浸透し、粒子内部のアルミニウム金属まで水が到達する前に、表面皮膜の上記積層部における金属相と水が反応して反応の起点となり、粒子内部と水との反応が促進されるため、水素が発生するまでの時間および水素発生速度が最大になるまでの時間が大幅に短縮されたと考えられる。また、実施例1の金属材料で観測された上記積層部分の内部に存在している空孔も、水素の発生開始までの時間および水素発生速度が最大になるまでの時間が大幅に短縮された要因の一つであると考えられる。
(実施例2)
アルミニウム粉末の粉砕に用いる水の量を0.5g(上記アルミニウム粉末1質量部に対して0.1質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして金属材料を作製した。この金属材料のみで水素発生材料を構成して水素発生試験を行い、水素発生量を測定した。
(実施例3)
粉砕に使用するアルミニウム粉末の量を3g、および水の量を3g(上記アルミニウム粉末1質量部に対して1質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして金属材料を作製した。この金属材料のみで水素発生材料を構成して水素発生試験を行い、水素発生量を測定した。
(実施例4)
粉砕に使用するアルミニウム粉末の量を1g、および水の量を3g(上記アルミニウム粉末1質量部に対して3質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして金属材料を作製した。この金属材料のみで水素発生材料を構成して水素発生試験を行い、水素発生量を測定した。
(実施例5)
粉砕用ポットの総回転時間を10分に変更した以外は、実施例1と同様にして金属材料を作製した。この金属材料のみで水素発生材料を構成して水素発生試験を行い、水素発生量を測定した。
(実施例6)
アルミニウム粉末の粉砕に用いる水の量を0.05g(上記アルミニウム粉末1質量部に対して0.01質量部)にした以外は、実施例1と同様にして金属材料を作製した。この金属材料のみで水素発生材料を構成して水素発生試験を行い、水素発生量を測定した。
(実施例7)
実施例1で作製した金属材料0.9gと、平均粒径が1μmのアルミナ0.1gを乳鉢で混合して水素発生材料を作製した。この水素発生材料を用いて、実施例1と同様にして水素発生試験を行い、水素発生量を測定した。
(実施例8)
実施例1で作製した金属材料0.93gと、炭素(キャボット社製「バルカンXC−72R」)0.07gを混合して水素発生材料を作製した。この水素発生材料を用いて、実施例1と同様にして水素発生試験を行い、水素発生量を測定した。
(実施例9)
実施例1で作製した金属材料0.96gと、カルボキシメチルセルロース(ダイセル社製)0.04gを混合して水素発生材料を作製した。この水素発生材料を用いて、実施例1と同様にして水素発生試験を行い、水素発生量を測定した。
(比較例2)
アルミニウム粉末の粉砕に用いる処理溶媒を、水16gのみとした以外は、実施例1と同様にして金属材料を作製した。この金属材料のみで水素発生材料を構成して水素発生試験を行い、水素発生量を測定した。
(比較例3)
アルミニウム粉末の粉砕に用いる処理溶媒を、トルエン15gのみとした以外は、実施例1と同様にして金属材料を作製した。この金属材料のみで水素発生材料を構成して水素発生試験を行い、水素発生量を測定した。
実施例1〜9および比較例2、3における水素発生試験を20時間行い、その間2分ごとに捕集した水素の量を測定し、水素発生試験の開始から水素の発生開始までの時間および試験中の水素発生量の総量を求めた。また、水素の捕集量の時間変化から水素の生成速度を求め、その値が最大になるまでの時間とその時の最大値を求めた。これらの結果を表2および表3に示す。
また、実施例2〜9および比較例2、3における金属材料について、それぞれ平均粒径および金属状態のアルミニウムの含有量を実施例1と同様にして測定した。これらの結果も表2に示す。
また、図4に、横軸に金属材料の粒径(μm)を、縦軸に頻度(体積%)をとり、実施例1、2および5の金属材料の粒度分布を表すグラフを示す。図4から明らかなように、実施例1、2および5の各金属材料は、粒径が60μm以下の粒子を80質量%以上の割合で含有している。
Figure 2007254256
Figure 2007254256
アルミニウム粉末を、水と有機溶媒とを含む処理溶媒中で粉砕して作製した金属材料を含む実施例1〜9の水素発生材料では、いずれも比較例1の水素発生材料よりも水素の発生開始までの時間や、水素生成速度が最大に達するまでの時間が短縮され、容易に水と反応して水素の発生が可能な水素発生材料を得ることができた。ただし、金属材料の処理条件により粒度分布や表面皮膜の形態などが異なるため、水素発生量や水素の生成速度の最大値には差が認められた。
実施例2および実施例5の水素発生材料は、実施例1の水素発生材料に比べて水素発生量および生成速度が小さい値となった。これは、図4に示すように、実施例2および実施例5の金属材料の粒径が実施例1の金属材料の粒径よりも大きく、表面積が低下したためと考えられる。実施例3の水素発生材料では、水素の生成速度は増加したが、水素発生量は低下した。上記生成速度の増加は、金属材料の粒径が小さくなり反応面積が増加したためと考えられるが、粉砕処理時に添加した水が多かったことにより、アルミニウムの酸化が進行して金属状態のアルミニウムが減少したため、水素発生量が低下したものと思われる。実施例4の水素発生材料では、処理時に添加した水の割合が実施例3よりも多かったため、さらにアルミニウムの酸化が進行し、水素発生量および生成速度が実施例1の水素発生材料に比べて低下したと考えられる。従って、処理時のアルミニウムと水の比率を変えることより、金属アルミニウム含有量を制御することができ、水素発生量および生成速度を制御できるものと思われる。また、処理時のアルミニウムと水の比率を変えることによって金属材料の粒径を制御できることも分かった。また、実施例5から、粉砕時間を変えることによっても金属材料の粒径を制御できることがわかった。これら粉砕条件を制御することにより、金属材料の粒径を制御して水素発生量および水素生成速度を制御できると考えられる。
実施例6で用いた金属材料は、アルミニウム粉末の粉砕に用いる処理溶媒中の水の割合を減らして作製したものであるが、粉砕後の金属材料の大半が、粉砕用ポットの表面に付着した。また、一部が、金属光沢を有する鱗片状の粒子として得られた。この金属材料を水素発生材料として水素発生試験を行ったところ、金属材料が水に浮いてしまい、水と反応しにくくなったため、実施例1に比べて水素発生量が低下した。これに対し、実施例1〜5および実施例7〜9で用いた金属材料は水に沈み、水との親和性が良好であった。
実施例7は、添加剤としてアルミナを加え、金属材料の含有量を90質量%として水素発生材料を構成したものである。この実施例では、実施例1の水素発生材料に比べて、金属材料の含有量を減少させたが、添加剤であるアルミナが反応を促進させることにより金属材料中のアルミニウムの反応率が増加したため、実施例1と同等の水素発生量および水素の生成速度を得ることができた。これは、アルミナを添加することにより、未反応の金属材料と、金属材料の反応により生じる生成物との凝結が防止されたためと考えられる。
また、添加剤として炭素を加えて水素発生材料とした実施例8、および添加剤として吸水性高分子であるカルボキシメチルセルロースを加えて水素発生材料とした実施例9においても、実施例7と同様に、実施例1の水素発生材料に比べて金属材料の含有量が減少しているが、実施例1と同等以上の水素発生量および水素の生成速度が確保されており、水素発生材料中の炭素や吸水性高分子についても、実施例7に係るアルミナと同様の作用があることが分かった。
一方、アルミニウム粉末の粉砕を水のみを用いて行った比較例2では、粉砕処理中にアルミニウムの大部分が水と反応して酸化してしまったため、金属状態のアルミニウムがほとんど残存しておらず、水素発生試験で得られた水素の量はわずかであった。
また、比較例3では、アルミニウム粉末の粉砕を、水を含有しない有機溶媒のみを用いて実施したが、粉砕用ポットの表面に付着する粉砕物量や、金属光沢を有する鱗片状の粒子の割合が、実施例6に比べて更に増大した。そして、この粉砕物を用いて水素発生試験を行っても、粉砕物が水に浮いてしまい、水素発生量が極めて低下した。実施例1〜5で作製した金属材料と比較例3の粉砕物との粒子形状の違いや表面性状の違いなどが、水素発生の違いに影響を与えていると考えられる。
実施例2〜6で作製した金属材料について、その断面を電子顕微鏡で観察し、かつ、その表面をArでエッチングしながら、X線光電子分光法(XPS)により、アルミニウムの金属状態に由来するピークおよび酸化物(または水酸化物)に由来する2pのピークについて、深さ方向の分析を行うことにより、それぞれの金属材料の表面には、図5の模式図に示すような構造の積層部を有する表面皮膜が存在していることが確認された。
(実施例10)
水素発生試験における容器の加熱温度を45℃に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行い、水素発生量を測定した。
(実施例11)
水素発生試験における容器の加熱温度を40℃に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行い、水素発生量を測定した。
上記実施例10および実施例11について、水素発生量および水素の生成速度の最大値を表4に示す。
Figure 2007254256
水素発生試験時の加熱温度を変化させた実施例10および実施例11においても、いずれも水素発生が認められ、水素発生材料を40℃以上に加熱すれば、水素発生量および水素の生成速度が大幅に増加することが確認された。50℃に加熱した実施例1では、水素の生成速度が最大となったのは加熱開始14分後であり、その後急激に生成速度が低下した。これに対し、45℃および40℃で加熱した実施例10および実施例11では、実施例1よりも生成速度は低いが、長時間にわたり安定に水素を発生させることができた。従って、加熱温度を制御することによっても、水素発生速度を制御することが可能と考えられる。
<実験2 水素発生装置による水素発生試験>
(実施例12)
実施例1と同様にして作製した金属材料をそのまま水素発生材料とし、図3に示す構成の水素発生装置を用いて水素発生試験を行った。水素発生材料1gを、内容積50mlのガラス製収容容器2に入れた。このガラス製収容容器2を水供給口4および水素排出口5を有する蓋3で密閉した。加熱用手段として抵抗体を収容容器2の外側に配置した。抵抗体に通電して容器を50℃に加熱した状態で、ポンプ8を用いて水供給口4から水を0.02ml/minの速度で供給したところ、実施例1と同様に水素発生が確認された。また、水の供給を停止すると、数分後に水素発生が止まることを確認した。
(実施例13)
実施例12において、水の供給を停止する代わりに、加熱を止めて容器を放冷したところ、数分後に水素発生が止まることを確認した。
<実験3 固体高分子型燃料電池の作製>
実施例1と同様にして水素を発生させ、発生した水素を固体高分子型燃料電池に供給して放電試験を行った。その結果、室温で200mW/cmという高い出力が得られ、小型、可搬型燃料電池の燃料源として有効であることが分かった。
実施例1の金属材料の作製に際し、原材料として使用したアルミニウム粉末の断面の電子顕微鏡による観察結果を示す図である。 実施例1で作製した水素発生材料に用いた金属材料の断面の電子顕微鏡による観察結果を示す図である。 水素発生装置の構造を模式的に示す図である。 実施例1、2および5の水素発生材料に用いた金属材料の粒度分布を示すグラフである。 実施例2〜6の水素発生材料に用いた金属材料の表面皮膜の構造を模式的に示す図である。
符号の説明
1 反応容器
2 収容容器
3 蓋
4 水供給口
5 水素排出口
6 水素発生材料
7 水
8 ポンプ

Claims (21)

  1. アルミニウムおよびアルミニウム合金より選択される少なくとも1種の金属材料を含有し、水との反応により水素ガスを発生する水素発生材料であって、
    上記金属材料は、金属状態のアルミニウムを含有する金属相とアルミニウムの酸化物または水酸化物を含有する不活性相とを含む表面皮膜を有することを特徴とする水素発生材料。
  2. 上記表面皮膜は、上記金属相からなる層と、上記不活性相からなる層とが互いに積層した積層部を含んで構成されている請求項1に記載の水素発生材料。
  3. 上記積層部において、上記金属相からなる層と、上記不活性相からなる層とは、それぞれ2層以上積層している請求項2に記載の水素発生材料。
  4. 上記積層部の厚みが、2μm以下である請求項2または3に記載の水素発生材料。
  5. 上記表面皮膜が、空孔を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水素発生材料。
  6. 上記金属材料は、粒径が60μm以下の粒子を80体積%以上の割合で含有する請求項1〜5のいずれかに記載の水素発生材料。
  7. 上記金属材料の平均粒径が、30μm以下である請求項1〜6のいずれかに記載の水素発生材。
  8. 上記金属材料に含まれるアルミニウムは、60質量%以上が金属状態で存在する請求項1〜7のいずれかに記載の水素発生材料。
  9. 水と反応して発熱する発熱材料であって、上記金属材料以外の発熱材料を更に含有する請求項1〜8のいずれかに記載の水素発生材料。
  10. 親水性酸化物、炭素および吸水性高分子より選択される少なくとも1種の添加剤を更に含有する請求項1〜9のいずれかに記載の水素発生材料。
  11. アルミニウムおよびアルミニウム合金より選択される少なくとも1種の金属材料を含有し、水との反応により水素ガスを発生する水素発生材料の製造方法であって、
    水と有機溶媒とを含む処理溶媒中で、原料であるアルミニウムまたはアルミニウム合金を粉砕することにより上記金属材料を形成することを特徴とする水素発生材料の製造方法。
  12. 上記処理溶媒が、芳香族炭化水素または脂肪族炭化水素を含む請求項11に記載の水素発生材料の製造方法。
  13. 上記処理溶媒が、水と共沸混合物になる有機溶媒を含む請求項11に記載の水素発生材料の製造方法。
  14. 上記処理溶媒が、トルエンまたはシクロヘキサンを含む請求項13に記載の水素発生材料の製造方法。
  15. 原料となるアルミニウムまたはアルミニウム合金1質量部に対して、上記処理溶媒中の水の量を0.02〜2質量部とする請求項11〜14のいずれかに記載の水素発生材料の製造方法。
  16. 原料となるアルミニウムまたはアルミニウム合金1質量部に対して、上記処理溶媒中の水の量を0.1〜1質量部とする請求項15に記載の水素発生材料の製造方法。
  17. 上記処理溶媒中、水1質量部に対する有機溶媒の量を5質量部以上とする請求項11〜16のいずれかに記載の水素発生材料の製造方法。
  18. 請求項1〜10のいずれかに記載の水素発生材料を水と反応させ、水素を生成させることを特徴とする水素の製造方法。
  19. 上記水素発生材料および水のうち少なくとも一方を加熱することを特徴とする請求項18に記載の水素の製造方法。
  20. 請求項1〜10のいずれかに記載の水素発生材料を収容した容器を備え、さらに、上記水素発生材料が水と反応して生成する水素を、上記容器内から外部に取り出すことのできる導出口を上記容器に備えたことを特徴とする水素の製造装置。
  21. 水素を燃料とする燃料電池であって、水素発生源として請求項20に記載の水素の製造装置を備えたことを特徴とする燃料電池。
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