JP2007230878A - 脳機能改善剤及びそれを含有する脳機能改善組成物 - Google Patents

脳機能改善剤及びそれを含有する脳機能改善組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】神経成長因子の増強作用及び記憶学習能の向上作用の優れた脳機能改善剤及びそれを含有する脳機能改善組成物を提供する。
【解決手段】本発明の脳機能改善剤は、エリオディクティオール、ヘスペレチン及びナリンゲニンから選ばれる少なくとも一種の成分、又はこれらの配糖体であるエリオシトリン、ヘスペリジン及びナリンジンから選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分とする。該脳機能改善剤は神経成長因子の増強作用及び記憶学習能の向上作用を有するため、医薬品、飲食品、飼料等の脳機能改善組成物の有効成分として使用される。
【選択図】なし

Description

本発明は、脳機能改善剤及びそれを含有する脳機能改善組成物に関し、さらに詳しくは特定のフラバノンアグリコン又はフラバノン配糖体を含有する脳機能改善剤及びそれを含有する脳機能改善組成物に関する。
一般に、レモン等の柑橘属の果実には、ヘスペリジンやナリンジン等のフラバノン(フラボノイド)配糖体が多量に含有されていることが知られている。それらのフラバノン配糖体は、抗酸化作用、抗アレルギー作用、抗ウィルス作用及び抗炎症作用等の健康機能の向上効果があることが確認されており、これらの化合物は、摂取により生体内に投与された際に糖が遊離したアグリコンの形で存在していることが確認されている。従来より、特許文献1に記載されるように、フラバノン配糖体を麹菌等の微生物を用いて発酵処理されることにより、フラバノン配糖体をアグリコン化する方法が知られている。アグリコン化処理されることにより糖が遊離したフラバノンアグリコンはフラバノン配糖体よりも抗酸化作用等の効果が向上することが確認されている。
特開2003−102429号公報
この発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、特定のフラバノンアグリコン及びフラバノン配糖体が脳機能改善作用を有するという知見に基づいてなされたものである。その目的とするところは、神経成長因子の増強作用及び記憶学習能の向上作用の優れた脳機能改善剤及びそれを含有する脳機能改善組成物を提供することにある。
上記目的を達成するために、請求項1記載の脳機能改善剤は、エリオディクティオール、ヘスペレチン及びナリンゲニンから選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分とする。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の脳機能改善剤において、前記エリオディクティオール、ヘスペレチン及びナリンゲニンから選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有するとともに神経成長因子増強剤として使用される。
請求項3記載の発明は、請求項1記載の脳機能改善剤において、前記エリオディクティオールを有効成分として含有するとともに記憶学習能向上剤として使用される。
請求項4記載の脳機能改善組成物は、請求項1から請求項3のいずれか一項記載の脳機能改善剤を有効成分として含有する。
請求項5記載の発明は、請求項4記載の脳機能改善組成物において、飲食品、医薬品及び飼料から選ばれる少なくとも一つとして使用される。
請求項6記載の脳機能改善剤は、経口摂取により生体内に投与されるとともに、エリオシトリン、ヘスペリジン及びナリンジンから選ばれる少なくとも一種を有効成分とする。
請求項7記載の脳機能改善組成物は、請求項6記載の脳機能改善剤を有効成分として含有する。
本発明によれば、神経成長因子の増強作用及び記憶学習能の向上作用の優れた脳機能改善剤及びそれを含有する脳機能改善組成物を提供することができる。
以下、本発明を具体化した脳機能改善剤の一実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の脳機能改善剤は、脳機能改善作用を有するエリオディクティオール、ヘスペレチン及びナリンゲニンから選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分として含有する。または、これらの配糖体であるエリオシトリン、ヘスペリジン、ナリンジンから選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分として含有してもよい。本実施形態における脳機能改善作用とは、具体的には神経成長(栄養)因子の増強作用、記憶学習能の向上作用が挙げられる。
神経成長因子は、神経細胞の分化を促進し、その生存を維持する作用を有するタンパク質群である。神経成長因子は、具体的にはNerve Growth Factor(NGF)、Brain-derived Neurotrophic Factor(BDNF)等のニューロトロフィン類、増殖因子類、及びサイトカイン類等が挙げられる。神経成長因子は、一般に発生期の神経細胞の分化の促進や生理的な神経細胞死を抑制することで、生体内の神経ネットワークの構築を制御しており、標的細胞から供給されるシナプス形成を導く実体であると考えられている。生体内における神経成長因子の作用の低下は脳機能の老化・変性が進行する原因となると考えられている。本実施形態の脳機能改善剤は、神経成長因子を増強する作用に優れているフラバノンアグリコンであるエリオディクティオール、ヘスペレチン及びナリンゲニンを有効成分として含有するため、優れた神経細胞の老化・変性防止作用を発揮することができる。また、フラバノン配糖体であるエリオシトリン、ヘスペリジン及びナリンジンを有効成分として含有する場合であっても、経口摂取した際に生体内で前記アグリコンの形態に代謝されるため、同様に優れた神経細胞の老化・変性防止作用を発揮することができる。つまり、本実施形態の脳機能改善剤は、神経成長因子増強剤として好適に使用され得る。神経成長因子増強剤としては神経成長因子を増強する作用に特に優れているエリオディクティオール、ヘスペレチン及びナリンゲニンが有効成分として好ましく、生体内で各アグリコンに代謝されるエリオシトリン、ヘスペリジン及びナリンジンを有効成分として含有してもよい。脳機能改善剤の投与により神経の変性部位が脊髄前角運動ニューロンである筋萎縮性側策硬化症、変性部位が大脳皮質ニューロンであるアルツハイマー病及び変性部位が中脳黒質ドーパミンニューロンであるパーキンソン病等の神経変性疾患の改善効果が期待される。また、本実施形態の脳機能改善剤を生体内に投与することにより、神経ネットワークの構築による記憶学習能の向上、及びアセチルコリン、ドーパミンなど神経伝達物質の作用増強効果が期待できる。つまり、本実施形態の脳機能改善剤は、記憶学習能向上剤として好適に使用され得る。記憶学習能向上剤としては記憶学習能を向上する作用に特に優れているエリオディクティオール、ナリンゲニンが有効成分としてより好ましく、それらの配糖体であるエリオシトリン、ナリンジンを有効成分として含有してもよい。
脳機能改善作用を有するエリオディクティオール、ヘスペレチン及びナリンゲニンは、フラバノンアグリコン(フラボノイドアグリコン)の一種であり、天然物としては糖が結合したフラバノン配糖体(フラボノイド配糖体)の形でレモン、ライム、グレープフルーツ、スダチ等の柑橘類に多く含有されている。
フラバノン配糖体は、フラバノンアグリコンと、単糖類又は二糖類とがグリコシド結合で結合した構造を有している。エリオディクティオール(eriodictyol;3',4',5,7-tetrahydroxyflavanone;C15126)のフラバノン配糖体としては、ルチノース(L−ラムノシル−D−グルコース)との配糖体であるエリオシトリン(eriocitrin)又はグルコースとの配糖体であるエリオディクティオール−7−グルコシド(eriodictyol-7-glucoside)等が挙げられる。ヘスペレチン(hesperetin;3',5,7-trihydroxy-4'-methoxyflavanone;C16146)のフラバノン配糖体としては、ルチノースとの配糖体であるヘスペリジン(hesperidin)(ビタミンP)等が挙げられる。ナリンゲニン(naringenin;4',5,7-trihydroxyflavanone;C15125)のフラバノン配糖体としては、ネオヘスペリジオース(neohesheridiose)との配糖体であるナリンジン(naringin)等が挙げられる。エリオディクティオール、ヘスペレチン及びナリンゲニンの各フラバノンアグリコンは、例えば、柑橘類等のフラバノン配糖体を含有する原料をアグリコン化処理することによって得ることができる。フラバノン配糖体は、フラバノンアグリコンと糖とがグリコシド結合で結合した構造を有するため、フラバノンアグリコンは、グリコシド結合を切断する酵素反応(グリコシダーゼ反応)により生成(遊離)される。
前記原料としては、柑橘類の葉、果実、又はその果実の構成成分の一部を含有するものが用いられ、好ましくはレモン果実を構成する果皮(アルベド、フラベド)、じょうのう膜及びさのう等が用いられる。また、前記柑橘類の果汁を用いても構わない。さらに、前記原料としては、製造に要する手間を省くとともに前記柑橘類果実の有効利用を容易に図ることができることから、前記柑橘類果実から果汁を搾汁した後の搾汁残渣又はそれから水、親水性有機溶媒(メタノール又はエタノール)等の溶媒を用いて抽出した抽出物を使用するのが最も好ましい。フラバノン配糖体のエリオシトリンはミント類にも含有されるためミント類の葉、果実等を原料として使用してもよい。
前記アグリコン化処理としては微生物を用いた発酵処理又は酵素を用いたグリコシダーゼ処理が挙げられる。微生物による発酵処理は、前記原料にアスペルギルス(Aspergillus)属微生物を接種し、該微生物を所定の発酵条件下で所定期間培養することにより行われる処理である。この微生物発酵処理は、前記微生物(特に栄養菌糸)が生産するβ−グリコシダーゼによりフラバノン配糖体からアグリコンを遊離させる。前記微生物としては、アスペルギルス・サイトイ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ等の黒麹菌、又はアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーイエ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamarii)等の黄麹菌が挙げられる。これらの微生物のうち、アグリコン化反応の効率が良好であることから黒麹菌が好適に用いられ、アスペルギルス・ニガー又はアスペルギルス・アワモリが特に好適に用いられる。発酵処理後、培養液の可溶性成分中より極性溶媒(メタノール、エタノール、水等)による抽出、クロマトグラフィによる公知の分離手段を用いて精製することができる。
酵素によるグリコシダーゼ処理は、前記原料にβ−グリコシダーゼを作用させ、該原料中に含まれるフラバノン配糖体のグリコシド結合を切断する酵素反応を行わせる処理である。β−グリコシダーゼは、配糖体加水分解酵素(ヘテロシダーゼ)であって、前記フラバノン配糖体を構成するアグリコンとD−グルコースとの間のβ−1,6結合を切断する。このとき、前記原料中のフラバノン配糖体から、アグリコンと、前記酵素反応の副産物としての糖とが生成される。このグリコシダーゼ処理としては、該処理の効率を高めるために、果汁以外の柑橘類果実の構成成分の抽出物(抽出液)、又は柑橘類の果汁にβ−グリコシダーゼを添加して酵素反応を行わせるのが好ましい。或いは、酵素活性を有するβ−グリコシダーゼを固定化させた担体と、前記果汁又は抽出物とを接触させることにより前記酵素反応を行わせてもよい。
前記β−グリコシダーゼとしては、上記アスペルギルス属微生物が産生する上記β−グリコシダーゼ又はペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)が産生するβ−グリコシダーゼ等が好適に用いられる。β−グリコシダーゼは、上記微生物より抽出精製したものを使用しても、市販品を使用してもいずれでもよい。
なお、これらβ−グリコシダーゼを原料中に添加した場合には、グリコシダーゼ処理終了後に該グリコシダーゼを失活させるか、或いは取り除くとよい。一方、上記アグリコン化処理の前に、予め吸着剤を用いてフラバノン配糖体を精製(濃縮)することにより、アグリコンの含有量を高めた脳機能改善剤を得ることが容易となる。前記吸着剤としては、オルガノ(株)社製アンバーライトXAD等の合成吸着剤が好適に用いられる。また、前記アグリコン化処理の後に前記吸着剤を用いてアグリコンを精製(濃縮)することにより、アグリコンの含有量を高めた抗酸化素材を得ることが容易となる。また、前記吸着剤による精製は、抗酸化素材中に存在するフラバノン配糖体(酵素処理が不十分であることに起因するもの)を回収するために行われても構わない。さらに、前記吸着剤による精製は、前記原料中の夾雑物を効果的に除去することができるという効果も奏する。
また、前記フラバノン配糖体は、飲食品や医薬品等の脳機能改善組成物として経口摂取された場合には消化酵素や腸内細菌の働きにより糖が外れたアグリコンの形態になり生体内に吸収されることが知られている。前記発酵処理や酵素処理により、予めフラバノン配糖体をアグリコン化した形で摂取する場合は、より生体内への吸収性が高まるため、少量でより強い効果を発揮することが可能となる。フラバノン配糖体はアグリコンの形で生体内に吸収されることから、フラバノン配糖体の形で摂取した場合でも、脳など標的部位においてはアグリコンの形で作用する。そのため、本発明の脳機能改善剤に有効成分としてフラバノン配糖体を含有することにより、アグリコンと同様の効果が期待される。更に、フラバノン配糖体の形態で摂取する場合に、アグリコン化へ代謝を促進するために、アグリコンに変換する酵素(β―グリコシダーゼ等)を一緒に摂取することも可能である。
本実施形態の脳機能改善剤は、主に脳機能改善作用を効果・効能とする医薬品、医薬部外品、健康食品、健康飲料、栄養補助食品、動物用医薬品、飼料等の脳機能改善組成物の有効成分として配合されることにより摂取される。また、脳機能改善剤は、神経成長因子の増強作用を有することから、脳機能の低下を抑える脳機能低下予防剤にもなり得る。
本実施形態の脳機能改善剤を脳機能改善組成物の一つである医薬品として使用する場合は、服用(経口摂取)により投与する場合の他、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。この脳機能改善剤を医薬品として摂取する場合には、成人1日当たりフラバノンアグリコン含有量として好ましくは0.001〜2000mg/kg(体重)、より好ましくは0.01〜100mg/kg(体重)、最も好ましくは0.1〜10mg/kg(体重)である。フラバノン配糖体含有量として好ましくは、0.005〜5000mg/kg(体重)、より好ましくは0.05〜500mg/kg(体重)、最も好ましくは0.3〜30mg/kg(体重)である。この医薬品において、アグリコンの1日当たりの摂取量が0.001mg未満の場合には前記有効成分による脳機能改善作用を効果的に高めることができないおそれがあり、逆に2000mgを越える場合には不経済であるとともに、それ以上の脳機能改善効果は得られない。
本実施形態の脳機能改善剤を脳機能改善組成物の一つである飲食品として使用する場合、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって、例えば、粉末状、錠剤状、顆粒状、液状(ドリンク剤等)、カプセル状、シロップ、キャンディー等の形状に加工して健康食品製剤、栄養補助食品等として使用することができる。前記飲食品としては、具体的にはスポーツドリンク、茶葉、ハーブなどから抽出した茶類飲料、牛乳やヨーグルト等の乳製品、ペクチンやカラギーナン等のゲル化剤含有食品、グルコース、ショ糖、果糖、乳糖やデキストリン等の糖類、香料、ステビア、アスパルテーム、糖アルコール等の甘味料、植物性油脂及び動物性油脂等の油脂等を含有する飲料品や食料品が挙げられる。また、基材、賦形剤、添加剤、副素材、増量剤等を適宜添加してもよい。この脳機能改善剤を飲食品を摂取する場合には、成人1日当たりフラバノンアグリコン含有量として好ましくは0.001〜2000mg/kg(体重)、より好ましくは0.01〜100mg/kg(体重)、最も好ましくは0.1〜10mg/kg(体重)である。フラバノン配糖体含有量として好ましくは、0.005〜5000mg/kg(体重)、より好ましくは0.05〜500mg/kg(体重)、最も好ましくは0.3〜30mg/kg(体重)である。尚、飲食品として定期的且つ長期的に摂取する場合、0.001〜0.01mg/kg(体重)の低濃度の配合量であっても効果を十分に発揮することができる。この飲食品において、アグリコンの1日当たりの摂取量が0.001mg未満の場合には前記有効成分による脳機能改善作用を効果的に高めることができないおそれがあり、逆に2000mgを越える場合には不経済であるとともに、それ以上の脳機能改善効果は得られない。本実施形態の脳機能改善剤を含有する飲食品は、上記フラバノンアグリコンまたはフラバノン配糖体を含有するものであり、有効成分(フラバノンアグリコンまたはフラバノン配糖体)が発揮する高い脳機能改善作用によって、神経細胞の老化・変性等を抑えて高い健康増進効果を発揮する。
本実施形態の脳機能改善剤によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の脳機能改善剤は、脳機能改善作用を有するエリオディクティオール、ヘスペレチン及びナリンゲニンから選ばれる少なくとも一種のフラバノンアグリコンを有効成分として含有する。または、経口摂取した際に生体内でアグリコンの形態に代謝されるフラバノン配糖体であるエリオシトリン、ヘスペリジン及びナリンジンから選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有する。したがって、フラバノンアグリコンの優れた神経成長因子の増強作用及び記憶学習能の向上作用により高い健康増進効果を発揮することができる。
(2)フラバノンアグリコンは、生体内吸収性(特に経口摂取したときの吸収性)に優れているため、生体内において高い脳機能改善作用を発揮する。
(3)本実施形態の脳機能改善剤において、有効成分であるエリオディクティオール、ヘスペレチン及びナリンゲニンは、神経成長因子を増強する作用に特に優れている。したがって、神経成長因子増強剤として好適に使用することができる。同様に、経口摂取した際に生体内でアグリコンの形態に代謝されるフラバノン配糖体であるエリオシトリン、ヘスペリジン及びナリンジンを有効成分とする場合でも神経成長因子増強剤として好適に使用することができる。
(4)本実施形態の脳機能改善剤において、有効成分であるエリオディクティオール、ナリンゲニンは、記憶学習能を向上する作用に特に優れている。したがって、記憶学習能向上剤として好適に使用することができる。同様に、それらの配糖体であるエリオシトリン、ナリンジンを有効成分とする場合でも、記憶学習能向上剤として好適に使用することができる。
(5)本実施形態における前記フラバノンアグリコンは、柑橘類等由来のフラバノン配糖体を原料としてアグリコン化処理(グリコシダーゼ処理又は微生物発酵処理)することにより、容易かつ適切に生成することができる。したがって、天然成分由来の原料より入手することが可能であるため安全性が高く、医薬品、飲食品に容易に適用することができる。
(6)フラバノン配糖体を含む原料として、柑橘類の果実から果汁を搾汁した後の搾汁残渣、又は該搾汁残渣よりフラバノン配糖体を抽出した抽出物とすることにより、これら柑橘類の果汁を用いるのと比較して、極めて容易に大量のフラバノン配糖体を得ることができる。さらに、前記搾汁残渣は、前記柑橘類の果汁を含む飲料品等を製造する際に大量に廃棄されるものであることから、極めて安価に入手することができるうえ、食品リサイクル法の観点からもより好ましい。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態においては、前記フラバノンアグリコンは、柑橘類等由来のフラバノン配糖体を原料として生成した。しかしながら、フラバノンアグリコン及びフラバノン配糖体は化学的に合成したものでもよく、市販品等であってもよい。
・上記実施形態において、脳機能改善剤は有効成分である上記フラバノンアグリコンは、生体内において容易にフラバノンアグリコンに変換させるような他の分子が結合した構造で配合・摂取されてもよい。例えば、上述したようにフラバノンアグリコンは、糖が結合したフラバノン配糖体の構造で摂取されてもよい。かかる場合、消化器官内の酵素(グリコシダーゼ)により容易にグリコシド結合が切断され、アグリコンが生体内で遊離・吸収されることが期待される。生体内に吸収されたアグリコンは、当初より遊離した状態で摂取した場合と同様に脳機能改善作用を発揮することができる。
次に、各試験例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
試験例1(レモン果実に含まれるフラバノンアグリコンの神経突起伸長の評価)
レモン果実に含まれるレモンポリフェノールに着目し、レモンポリフェノールのフラバノン配糖体、フラバノンアグリコンを含め表1に示される8種類の各試料について、ラット副腎髄質褐色細胞種由来細胞株であるPC12細胞(ラット副腎皮質由来親クロム性細胞腫;購入したものを継代して使用)を用いた神経突起伸長活性の評価を行った。
<試料及び評価方法>
エリオシトリン(フラバノン配糖体)は、レモン果実の搾汁残渣よりエリオシトリンを得た。即ち、レモン搾汁残渣より水を用いて抽出した親水性成分を高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて分離精製したものを使用した。エリオディクティオール(フラバノンアグリコン)は、Extrasynthese S.A.社製(型番1111S)、ヘスペリジン(フラバノン配糖体)はSIGMA社製(純度95%)、ヘスペレチン(フラバノンアグリコン)は、SIGMA社製(純度95%)、ナリンジン(フラバノン配糖体)は、SIGMA社製(純度95%)、ナリンゲニン(フラバノンアグリコン)はSIGMA社製(純度95%)、ジオスミン(フラボン配糖体)は、SIGMA社製(純度95%)、ジオスメチン(フラボンアグリコン)は、SIGMA社製(純度95%)を使用した。
PC12細胞を24穴プレートに2×10(cells/ウェル)となるように播種し0.5%FBS(牛胎児血清)含有DMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地;日水製薬社製、牛血清(コスモバイオ社製)と馬血清(GIBCO社製)を混合したもの)を用いてCOインキュベーター内、37℃で24時間培養後培地交換した。培地交換24時間後に、各ウェルに対して、DMSO(ジメチルスルホキシド;和光純薬社製)で希釈した各ポリフェノールを15μM、神経成長因子(NGF;R&D systems社製)を1.5ng/mlとなるように投与した。投与後48時間後に顕微鏡を用い、各ウェル内を観察し、約100個のPC12細胞を選択し、細胞の長径より長い突起を有する細胞数を測定した。また、全細胞数に対する神経突起伸長が認められた細胞の比率(%)を求めた。1ウェルにつき5箇所にて、このような観察を行った。DMSOのみ投与したものをコントロールとした。結果を表1及び図1に示す。
Figure 2007230878
表1、図1に示すように、神経成長因子の存在下では、エリオディクティオール、ナリンゲニン、ヘスペレチンの各フラバノンアグリコンに高い神経突起伸長作用が認められ、フラバノン配糖体より、フラバノンアグリコンでの効果が高いことが示唆された。特にエリオディクティオールに高い神経突起伸長作用が認められた。フラバノンアグリコンは神経成長因子増強作用を有するため神経成長因子増強剤として好適に適用されることが確認された。尚、フラバノン配糖体は、体内での代謝により、アグリコン化されることを考慮すると、生体摂取においては、フラバノン配糖体を摂取した場合も同様の効果が発揮されると考えられる。また、試料3,4の結果より、フラボン化合物の場合、若干の効果は見られるものの、フラボンアグリコン及びフラボン配糖体のいずれにおいても十分な効果は発揮されなかった。
試験例2(エリオディクティオールによる神経突起伸長に関する濃度依存性)
試験例1において示される神経突起伸長作用が最も高いエリオディクティオールに着目し、濃度依存性を見るため評価を行った。先程と同様に、PC12細胞を24穴プレートに2×10(cells/ウェル)となるように播種し、0.5%FBS含有DMSM培地を用いてCOインキュベーター内、37℃で24時間培養後培地交換した。培地交換24時間後に、各ウェルに対して、エリオディクティオール0μM、3.75μM、7.5μM、15μM、30μMとなるよう投与した。また、神経成長因子は試験例1と同様1.5ng/mlとなるように投与した。投与後48時間後に顕微鏡を用い、各ウェル内を観察し、約100個のPC12細胞を選択し、細胞の長径より長い突起を有する細胞数を測定した。また、全細胞数に対する神経突起伸長が認められた細胞の比率(%)を求めた。1ウェルにつき5箇所にて、このような観察を行った。エリオディクティオールを投与しないものをコントロールとした。結果を表2、図2に示す。
Figure 2007230878
表2、図2より、神経成長因子の存在下において、エリオディクティオール濃度依存的に神経突起伸長作用が増強されることが明らかとなった。今回の最高投与濃度である30μM投与においては約80%の作用増強効果が見られた。尚、この濃度での細胞毒性は見られなかった。
試験例3(エリオディクティオールの記憶学習能向上の評価)
試験例1において示される神経突起伸長作用効果の高いエリオディクティオールに着目し、Wistar系雄性ラットを用いステップスルー試験を行った。ステップスルー試験用ボックスは、明室は100Wの電球で照射され、暗室の床はステンレスの柵が張り巡らされ、電流が流れるようになっている。明室と暗室の間には、手動開閉式のドアがある。本実施例では、ラットに暗室の危険を覚えさせるトレーニング試験の際のみ暗室に電流を流し、その電流は0.1mA、3秒間とした。
Wistar系雄性ラット10週齢を1週間予備飼育した後、群分けを行った。群分けに関しては、ラットを明室に入れた後10秒後に暗室へ通じるドアを開け、暗室へ入るまでの時間を測定し、その時間の平均が一定になるように行った。本試験例の各試料は表3に示されるように、コントロール、スコポラミン(Tocris bioscience社製、正式名称scopolamine hydrobromide)(1mg/kg・体重)、エリオディクティオール(1mg/kg・体重)+スコポラミン(1mg/kg・体重)、エリオディクティオール(5mg/kg・体重)+スコポラミン(1mg/kg・体重)の4群を使用した。スコポラミンは、アセチルコリンの可逆的拮抗物質であり、副交感神経遮断作用がある。本実施例では、健忘症モデルを作るために投与した。サンプルは、コーンオイルに溶解し経口投与、スコポラミンは皮下投与によりラット体内に注入した。
試験スケジュールに関しては、4日間サンプルを経口投与し、4日目のサンプル投与30分後にスコポラミンを皮下投与し、さらに30分後にトレーニング試験を行った。コントロール群にはスコポラミンの代わりに生理食塩水を皮下投与した。トレーニング試験24時間後、再度ラットを明室に入れ、暗室に入るまでの時間を測定した。暗室に入らない場合、最長時間は300秒までとした。結果を表3、図3に示す。
Figure 2007230878
表3、図3に示されるように、コントロール群と比較して、試料10のスコポラミン投与群では、入るまでの時間の減少が見られた(危険率1%)。試料11のエリオディクティオール(1mg/kg・体重)投与群では試料10のスコポラミン投与群と比較して、入るまでの時間が有意に増大した(危険率5%)。すなわち、エリオディクティオール(1mg/kg・体重)投与により、暗室は危険であるという記憶が維持されていることが明らかとなった。エリオディクティオールは記憶学習能向上作用を有するため記憶学習能向上剤として好適に適用されることが確認された。試料12のエリオディクティオール(5mg/kg・体重)投与群では、入るまでの時間はエリオディクティオール(5mg/kg・体重)を投与した効果が発揮されているが、試料10のスコポラミン投与群と比較した場合、有意差はなく、この濃度設定範囲内での記憶学習能の濃度依存性はみられなかった。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)前記エリオディクティオール、ヘスペレチン及びナリンゲニンから選ばれる少なくとも一種の成分、又はこれらの配糖体であるエリオシトリン、ヘスペリジン及びナリンジンから選ばれる少なくとも一種の成分は、柑橘類より抽出されたものである。従って、この(a)に記載の発明によれば、有効成分の安全性を向上させることができるとともに搾汁残渣の有効利用を図ることも可能となる。
神経成長因子の存在下におけるレモンに含まれるポリフェノールの神経突起伸長作用を示すグラフ。 神経成長因子の存在下におけるエリオディクティオールの濃度と神経突起伸長作用との関係を示すグラフ。 健忘症モデルラットを用いたステップスルー試験結果を示すグラフ。

Claims (7)

  1. エリオディクティオール、ヘスペレチン及びナリンゲニンから選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分とすることを特徴とする脳機能改善剤。
  2. 前記エリオディクティオール、ヘスペレチン及びナリンゲニンから選ばれる少なくとも一種を有効成分とするとともに神経成長因子増強剤として使用される請求項1記載の脳機能改善剤。
  3. 前記エリオディクティオールを有効成分とするとともに記憶学習能向上剤として使用される請求項1記載の脳機能改善剤。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか一項記載の脳機能改善剤を有効成分として含有する脳機能改善組成物。
  5. 飲食品、医薬品及び飼料から選ばれる少なくとも一つとして使用される請求項4記載の脳機能改善組成物。
  6. 経口摂取により生体内に投与されるとともに、エリオシトリン、ヘスペリジン及びナリンジンから選ばれる少なくとも一種を有効成分とする脳機能改善剤。
  7. 請求項6記載の脳機能改善剤を有効成分として含有する脳機能改善組成物。
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