JP2007222931A - サブマージアーク溶接用焼成型フラックス、肉盛溶接方法及びタービンロータ - Google Patents
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【解決手段】 混合原料を少なくとも焼成することにより得られ、質量%で、SiO2:5〜20%、MgO:15〜20%、Al2O3:20〜30%、CaF2:5〜20%、マンガン酸化物:MnO換算値で2〜10%、MgCO3:4〜10%、ZrO2:2〜10%、K3AlF6:2〜10%、金属粉を15%以下、及びCaO:5〜20%を含有するフラックスであって、前記混合原料が、前記CaOの原料として、実質的に化合物としての酸化カルシウムのみを5〜20%含有するフラックスを、サブマージアーク溶接に採用する。
【選択図】 図1
Description
表1に溶接材料の化学成分の一例を示す。
一方、低圧タービンロータの仕様において要求される衝撃特性は、JIS Z2202(Vノッチ試験)による室温での衝撃吸収エネルギー測定値で表すと、例えば54J以上である。
本発明にかかるフラックスは、混合原料を少なくとも焼成することにより得られ、質量%で、SiO2:5〜20%、MgO:15〜20%、Al2O3:20〜30%、CaF2:5〜20%、マンガン酸化物:MnO換算値で2〜10%、MgCO3:4〜10%、ZrO2:2〜10%、K3AlF6:2〜10%、金属粉を15%以下、及びCaO:5〜20%を含有するサブマージアーク溶接用焼成型フラックスであって、前記混合原料は、前記CaOの原料として、実質的に化合物としての酸化カルシウムのみを5〜20%含有することを特徴とする。
一般に、サブマージアーク溶接に使用する焼成型フラックスは、溶接ビードの安定や脱酸および脱硫効果による金属内の清浄度向上を目的に、CaOを含有している。通常溶接に使用されるフラックスは、このCaOの原料として、その焼成前の混合原料中にCaCO3等の金属炭酸塩を含有している。
一方、本発明においては、フラックスを焼成する前の混合原料において、CaCO3の替わりに化合物としての酸化カルシウム(CaO)を用いることにより、より高い脱酸効果を実現している。この高い脱酸効果により、TIG溶接と比較して溶接金属の衝撃特性が低下するのを防ぎつつ、大電流による大入熱溶接であるサブマージアーク溶接により、溶接工数の少ない高速溶接が可能となる。
SiO2は、スラグに適度の粘性及び流動性を与え、ビード形状を整える作用を有する。SiO2量が5%未満では、スラグの粘性が低下し、流動性が悪くなりビードが蛇行する。一方、フラックス中のSiO2量が20%を超えるとフラックスの塩基度が低下し、溶接金属中の酸素量が高くなり、靭性が低下する。従って、SiO2量は5〜20%とする。より好ましくは、SiO2量は10〜14%とする。
MgOは、スラグの融点を上昇させ、スラグ剥離性を向上させるのに有効な成分である。また、フラックスの塩基度を高めて溶接金属中の酸素量を低減して靭性を向上させるのにも有効な成分である。MgO量が15%未満ではその十分な効果が得られず、一方MgOが20%を超えると融点が上昇しすぎてビード外観を悪くし、またビード表面にスラグの焼付きも多くなる。従って、MgO量は15〜20%とする。より好ましくは、MgO量は17〜19%とする。
Al2O3は、スラグに適度の粘性及び流動性を与え、ビード形状を整える作用がある。Al2O3量が20%未満では、スラグの粘性が低下して、ビード形状が悪くなる。一方Al2O3量が30%を超えるとスラグの融点が高くなると共にスラグの粘性が高くなり、スラグの剥離性も低下する。従ってAl2O3量は20〜30%とする。より好ましくは、Al2O3量は22〜26%とする。
CaF2はスラグの流動性を調整する上で重要な成分であるとともに、塩基性成分であることから溶接金属中の酸素量を低下させる効果がある。CaF2量が5%未満では十分な効果が得られず、一方CaF2量が20%を超えるとアークが不安定になり、ビード波形も荒くなり、作業性を劣化させる。従ってCaF2量は5〜20%とする。より好ましくは、CaF2量は10〜14%とする。
マンガン酸化物は、スラグの粘性を調整し、ビードのなじみ性を良好にするのに効果がある。特に肉盛溶接を行う場合ビード止端部の角度をなめらかにすることが重要である。マンガン酸化物量がMnO換算値で2%未満では、その効果が十分得られず、一方10%を超えると溶接スラグ表面にポックマークが発生し、スラグの剥離性が低下するなど作業性を劣化させる。従ってマンガン酸化物はMnO換算値で2〜10%とする。より好ましくは、マンガン酸化物はMnO換算値で3〜5%とする。
MgCO3は、溶接時に溶接金属中への水素侵入を低下させるために有効である。MgCO3が溶接中に分解し、CO2が発生し水素分圧を下げる効果がある。MgCO3が4%未満では、その効果が十分得られず、一方10%を超えるとガス発生が多くなりすぎポックマークが発生するなど作業性を劣化させる。従ってMgCO3は4〜10%とする。より好ましくは、MgCO3量は4〜7%とする。
ZrO2は、アークの安定性を向上させビードの光沢やビード波形を良好にするために有効である。ZrO2が2%未満ではその効果が十分得られず、一方10%を超えるとスラグの焼付きが多くなる。従ってZrO2量は2〜10%とする。より好ましくは、ZrO2量は2〜5%とする。
K3AlF6は、その脱酸効果により溶接金属の低酸素化に有効である。また、アークの安定性を向上させ、ビード形状を良好にするなどの効果がある。2%未満ではその効果が十分得られず、一方10%を超えるとアークが荒くなり、ビード波形も荒くなり作業性が劣化する。従ってK3AlF6量は2〜10%とする。より好ましくは、K3AlF6量は2〜5%とする。
CaOは、金属を溶解する際、炉壁材として使用すると強力な脱酸、脱硫効果により、金属の清浄度を上げることが知られている。溶接に使用されるフラックスには、CaOは通常CaCO3のように金属炭酸塩の形態で一般には添加されるが、この金属炭酸塩の形態では溶接金属中の酸素量が十分低減できず、溶接金属の靭性向上に十分な効果が得られなかった。
そこで本発明は、CaOを、焼成前のフラックス原料として、酸化カルシウムの形態で添加したことに特徴がある。この酸化カルシウムの添加により溶接金属中の酸素量が極めて低減する。さらに、CaOはフラックスの塩基度を上げる原料であり、塩基度の上昇により脱酸効果がより高められる。従って、酸化カルシウムを添加することにより、その脱酸効果によって溶接金属の靭性が大きく向上する。酸化カルシウムの量が5%未満では靱性の向上効果が十分得られず、一方20%を超えるとビードの焼付きが発生し、ビード外観が劣化する。従って原料中の酸化カルシウム(CaO)の量は5〜20%とする。より好ましくは、原料中の酸化カルシウム(CaO)の量は5〜10%とする。
金属粉は、溶接によって酸化消耗する元素をおぎなうため、及び脱酸剤として、混合原料に添加される。溶接によって酸化消耗する元素をおぎなう目的では、金属Cr、金属Ni、Fe−Mo等が適量添加される。脱酸剤は溶接金属の靭性向上とフラックスのガス抜けを良好にする。脱酸剤としてはTi、Al、Si、Mn等あるいは、それらの元素とFe(鉄)との化合物があるが、中でもSiの化合物であるCa−Siが好適である。脱酸剤は1種のみの添加でも良く、また複合添加しても良い。金属粉の総量が15%を超えるとポックマークが発生するなどの作業性の劣化があるため、金属粉は総量で15%以下とする。より好ましくは、金属粉は総量で5%以下とする。
この肉盛溶接方法によれば、十分な衝撃特性を有する肉盛溶接部分を、大電流による大入熱溶接であるサブマージアーク溶接により、少ない溶接工数の高速溶接で形成することができる。
この肉盛溶接方法によれば、肉盛溶接部分を所定温度まで加熱する焼き戻し工程を採用したことにより、肉盛溶接部分の機械的強度を向上させることができる。
この肉盛溶接方法は、従来二律背反する要件とされていた母材の硬さを適正にする要件と、肉盛溶接部分の機械的強度を適正にするための要件との調和をとりつつ、少ない溶接工数の高速溶接で肉盛溶接を行うことができる。
このタービンロータは、十分な機械的強度を有し、低コストで補修または製造されたものとなる。
また、本発明によれば、十分な衝撃特性を有する肉盛溶接部分を、少ない溶接工数の高速溶接で形成することが可能な肉盛溶接方法を提供することができる。本発明の肉盛溶接方法は、地熱発電用タービンロータ及び低圧タービンロータの溶接補修や製造に好適に採用できる。
さらに本発明によれば、十分な機械的強度を有するタービンロータを低コストで提供することができる。このタービンロータは、地熱発電用タービンロータ及び低圧タービンロータとして好適に用いられる。
〔第1の実施形態〕
本実施形態においては、12Cr5Ni系溶接材料を用いたサブマージアーク溶接に適した焼成型フラックスの配合組成について検討した。
表2に、本発明による実施例1から実施例5の焼成型フラックスおよびこれらと対比するための比較例1から比較例15の焼成型フラックスの成分組成を示す。なお、表2において、CaO、CaCO3及び金属粉については、焼成前の混合原料中の成分量を示しており、その他の成分については、焼成して得られたフラックス中の成分量を示している。
なお、溶接作業性は、剥離性、アーク安定性、ビード形状を総合的に判断し、良好を○、不良を×とした。また、吸収エネルギーは、JIS Z2202(Vノッチ試験)による室温での衝撃吸収エネルギーの測定値である。
また、比較例3のフラックスを用いた場合は、原料中のCaOの含有量が本発明の範囲の下限を下回っているため、溶接作業性は良好であったが、溶接金属中の酸素量が400ppmを超え、衝撃特性も低下した。
また、比較例4のフラックスを用いた場合は、CaOの含有量が本発明の範囲の上限を超えているため、溶接金属は極めて低酸素で、衝撃特性も良好であったが、スラグの剥離性が悪く、またスラグの焼付きが発生し溶接作業性が劣化した。
比較例6のフラックスを用いた場合は、CaF2の含有量が本発明の範囲の下限を下回っているため、溶接金属の酸素量が高くなり、衝撃特性が低下した。また、ビード形状も悪化するなど溶接作業性が劣化した。
比較例7のフラックスを用いた場合は、SiO2の含有量が本発明の範囲の上限を超えているため、溶接作業性は良好であったが、溶接金属中の酸素量が高く、衝撃特性が低下した。
比較例9のフラックスを用いた場合は、Al2O3の含有量が本発明の範囲の下限を下回っているため、スラグの粘性が低下して、ビード形状が悪くなり、溶接作業性が低下した。
比較例10のフラックスを用いた場合は、Al2O3の含有量が本発明の範囲の上限を超えているため、粘性が高くなりすぎてビード形状が凸型になり、スラグの剥離性が低化し、溶接作業性が低下した。
比較例13のフラックスを用いた場合は、MnOの含有量が本発明の範囲の上限を超えているため、スラグの剥離性が悪く、溶接作業性が低下した。
比較例14のフラックスを用いた場合は、MgCO3の含有量が本発明の範囲の上限を超え、かつMnOの含有量が本発明の範囲を下回っているため、ガス発生量が多くなり、溶接作業性が劣化した。
比較例15のフラックスを用いた場合、ZrO2の含有量が本発明の範囲の上限を超え、かつMgCO3の含有量が本発明の範囲を下回っているため、スラグの剥離性が悪くなり、スラグの焼付きが多くなるなど、溶接作業性が悪くなった。
実施例1のサブマージアーク溶接用焼成型フラックス及び12Cr・5Ni系溶接材料(表1に示したものと同じ)を用いて、表4に示す成分組成(単位:重量%)の地熱発電用タービンロータ材(母材)に肉盛溶接施工を行い、各種特性を調べた。
本実施形態においては、以下の4段処理によって肉盛溶接を行った(実施例6)。
TIG溶接にて、母材2上に高さ約6mmまで肉盛を行い、第1の肉盛溶接部分3を形成した。
2)第1の焼き戻し工程:
母材熱影響部の硬さを350Hv以下にするために、640℃×10時間で熱処理を行った。
3)後盛溶接(第2の溶接工程):
上記フラックス及び溶接材料を用いたサブマージアーク溶接にて、第1の肉盛溶接部分3上に、目標高さ(約60mm)まで肉盛を行い、第2の肉盛溶接部分4を形成した。
4)第2の焼き戻し工程:
溶接金属の残留応力低減および溶接金属の強度調整のために、580℃×10時間で熱処理を行った。
得られた溶接試験材1(実施例6及び比較例16)に関して、引張特性(0.2%耐力、引張強さ)、衝撃特性(吸収エネルギー)、応力腐食割れ特性(地熱蒸気中での12ヶ月試験)及び溶接コストを評価した。
実施例6及び比較例16の評価結果と地熱発電用タービンロータの目標値を表5に示す。
なお、引張特性の0.2%耐力は、JIS Z2201に準じて測定した。引張特性の引張強さは、JIS Z2201に準じて測定した。衝撃特性の吸収エネルギーは、JIS Z2202(Vノッチ試験)に準じて、室温で測定した。応力腐食割れ特性の地熱蒸気中での12ヶ月試験は、3点曲げタイプの応力負荷試験方法により試験を行い、亀裂を生じなかったものを○、亀裂を生じたものを×とした。溶接コストは、比較例16の溶接コストを100とした場合の相対値である。
また、測定値が上下2段になっているものは、測定を2回行って得られたそれぞれの値である。
遅れ割れは、母材熱影響部の硬くなっている部分に溶接残留応力による引張応力が働くことにより、溶接金属中の水素が集まってくるため水素脆化を生じ、亀裂が生じる現象である。また、SR割れは、母材熱影響部の硬くなっている部分に溶接残留応力による引張応力が働いた状態で高温(SR温度)にさらされるために、亀裂が生じる現象である。このため、遅れ割れおよびSR割れに対しても、残留応力が低い時点、すなわち初期盛時点で、母材の熱影響部の硬さを低くしておくことは、効果があると考えられる。
実施例1のサブマージアーク溶接用焼成型フラックス及び12Cr・5Ni系溶接材料(表1に示したものと同じ)を用いて、表6に示す成分組成(単位:重量%)の低圧タービンロータ材(母材)に肉盛溶接施工を行い、各種特性を調べた。
本実施形態においては、以下の4段処理によって肉盛溶接を行った(実施例7)。
TIG溶接にて、母材2上に高さ約6mmまで肉盛を行い、第1の肉盛溶接部分3を形成した。
2)第1の焼き戻し工程:
母材熱影響部の硬さを350Hv以下にするために、580℃×10時間で熱処理を行った。
3)後盛溶接(第2の溶接工程):
上記フラックス及び溶接材料を用いたサブマージアーク溶接にて、第1の肉盛溶接部分3上に、目標高さ約60mmまで肉盛を行い、第2の肉盛溶接部分4を形成した。
4)第2の焼き戻し工程:
溶接金属の残留応力低減および溶接金属の強度調整のために、580℃×10時間で熱処理を行った。
実施例17及び低圧タービンロータ材の評価結果と低圧タービンロータの目標値を表7に示す。
なお、引張特性の0.2%耐力は、JIS Z2201に準じて測定した。引張特性の引張強さは、JIS Z2201に準じて測定した。衝撃特性の吸収エネルギーは、JIS Z2202(Vノッチ試験)に準じて室温で測定した。応力腐食割れ特性のアルカリ環境中Uベンド試験は、JIS−G0576(ステンレス鋼の42%塩化Mg腐食試験方法)と同様の試験片を用いて、40%NaOH溶液中、試験温度120℃で試験を行い、亀裂を生じなかったものを○、亀裂を生じたものを×とした。亀裂を生じなかった場合を○、亀裂を生じた場合を×とした。
また、測定値が上下2段になっているものは、測定を2回行って得られたそれぞれの値である。
2 母材
3 第1の肉盛溶接部分
4 第2の肉盛溶接部分
Claims (6)
- 混合原料を少なくとも焼成することにより得られ、
質量%で、SiO2:5〜20%、マンガン酸化物:MnO換算値で15〜20%、Al2O3:20〜30%、CaF2:5〜20%、MnO:2〜10%、MgCO3:4〜10%、ZrO2:2〜10%、K3AlF6:2〜10%、金属粉を15%以下、及びCaO:5〜20%を含有するサブマージアーク溶接用焼成型フラックスであって、
前記混合原料は、前記CaOの原料として、実質的に化合物としての酸化カルシウムのみを5〜20%含有することを特徴とするサブマージアーク溶接用焼成型フラックス。 - 混合原料を少なくとも焼成することにより得られ、
質量%で、SiO2:10〜14%、MgO:17〜19%、Al2O3:22〜26%、CaF2:10〜14%、マンガン酸化物:MnO換算値で3〜5%、MgCO3:4〜7%、ZrO2:2〜5%、K3AlF6:2〜5%、金属粉を5%以下、及びCaO:5〜10%を含有するサブマージアーク溶接用焼成型フラックスであって、
前記混合原料は、前記CaOの原料として、実質的に化合物としての酸化カルシウムのみを5〜10%含有することを特徴とするサブマージアーク溶接用焼成型フラックス。 - 請求項1又は請求項2に記載のフラックスを用いて、サブマージアーク溶接により、母材上に肉盛溶接を行う溶接工程を有することを特徴とする肉盛溶接方法。
- 前記溶接工程の後に、肉盛溶接部分を所定温度まで加熱する焼き戻し工程を有することを特徴とする請求項3に記載の肉盛溶接方法。
- 母材上に肉盛溶接を行い、第1の肉盛溶接部分を形成する第1の溶接工程と、
前記第1の溶接工程の後に、前記第1の肉盛溶接部分を所定温度まで加熱する第1の焼き戻し工程と、
前記第1の肉盛溶接部分の上に肉盛溶接を行い、第2の肉盛溶接部分を形成する第2の溶接工程と、
前記第2の溶接工程の後に、前記第2の肉盛溶接部分を所定温度まで加熱する第2の焼き戻し工程
とを有する肉盛溶接方法であって、
少なくとも前記第2の溶接工程は、請求項1又は請求項2に記載のフラックスを用いて、サブマージアーク溶接により行われることを特徴とする肉盛溶接方法。 - 低合金鋼で形成した母材の表面に、請求項3から請求項5のいずれかに記載の肉盛溶接方法により形成されたコーティング層を設けたことを特徴とするタービンロータ。
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