JP6848479B2 - 耐食鋼の溶接金属及びサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤ - Google Patents
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しかしながら、海浜地域に加え、内陸部でも融雪剤が散布される地域のように飛来塩分量が多い環境化では、耐候性鋼材の表面に保護性のあるさび層が形成されにくく、腐食を抑制する効果が発揮されにくい。そのため、これらの地域では、裸のまま耐候性鋼材を用いることができず、塗装して用いる必要がある。
しかし、再塗装は多大な工数がかかることから、塗装寿命を延長し、補修塗装間隔を大きく延ばすことで維持管理費用の低減を可能とする新しい耐食性鋼が開発されており、それに対応した溶接材料の開発がなされている。
特許文献2には、溶着金属のCu、Ni、Cr及びMo量を調整することによって、海浜耐候性に優れた溶接金属及び溶接材料を得る技術が開示されている。
特許文献3には、P含有の高耐候性鋼板を2電極で溶接することにより母材希釈を少なくし、高速溶接を行っても耐割れ性の良好なCu、Cr及びNiを適量含む溶接金属を形成することができるサブマージアーク溶接法を確立する技術が開示されている。
さらに、特許文献4には、W及びMoの少なくとも1種とSn及びSbの少なくとも1種を含む耐食性に優れた溶接継手の開示がある。
(1)溶接金属全質量に対する質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:0.15〜0.80%、Mn:1.2〜2.0%、Cu:0.02〜0.34%、Sn:0.05〜0.40%を含有し、Al:0.05%以下、P:0.025%以下、S:0.020%以下に制限し、残部はFe及び不純物からなることを特徴とする耐食鋼の溶接金属。
(3)溶接金属全質量に対する質量%で、Ti:0.05%以下、B:0.005%以下の1種又は2種をさらに含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の耐食鋼の溶接金属。
その結果、スズ(Sn)及び銅(Cu)を溶接金属に適量含有させることによって飛来塩分の多い環境下における耐食性を向上できることを見出した。
さらに、飛来塩分量が多い環境下でも耐候性及び耐塗装剥離性に優れた耐食鋼の溶接金属を得るために好適なサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤの成分も見出した。
まず、以下に本発明の溶接金属の成分の限定理由について説明する。なお、成分の含有量についての%は、溶接金属全質量に対する質量%を示す。
溶接金属中のCは、溶接金属の強度と焼入れ性を確保するために重要な元素である。Cが0.03%未満では、強度不足で靱性が低下する。一方、Cが0.15%を超えると、溶接金属がマルテンサイト主体の組織となり、強度が高くなり靱性が低下する。また、高温割れが生じやすくなる。したがって、溶接金属中のCは0.03〜0.15%とする。Cの好ましい含有量は、0.04〜0.14%である。
溶接金属中のSiは、溶接金属の靱性を高めるのに有効な成分である。Siが0.15%未満では、靱性が低下する。一方、Siが0.80%を超えると、溶接金属の強度が高くなり靱性が低下する。したがって、溶接金属中のSiは0.15〜0.80%とする。Siの好ましい含有量は、0.20〜0.60%である。
溶接金属中のMnは、溶接金属の強度を高めるのに有効な成分である。Mnが1.2%未満では、溶接金属の強度が低くなる。一方、Mnが2.0%を超えると、溶接金属の強度が高くなり靱性が低下する。したがって、溶接金属中のMnは1.2〜2.0%とする。Mnの好ましい含有量は、1.3〜1.8%である。
溶接金属中のCuは、溶接金属の耐食性を向上させる重要な元素である。Cuが0.02%未満では、耐食性を向上される効果が得られない。一方、Cuが0.35%を超えると、溶接金属の靱性が低下する。したがって、溶接金属中のCuは0.02〜0.35%とする。Cuの好ましい含有量は、0.02〜0.30%である。
溶接金属中のSnは、溶接金属の耐食性を向上させる重要な元素である。Snが0.05%未満では、耐食性向上の効果は得られない。一方、Snが0.40%を超えると、高温割れが生じやすくなる。また、粒界へのSnの偏析により溶接金属の靱性が低下する。したがって、溶接金属中のSnは0.05〜0.40%とする。Snの好ましい含有量は、0.10〜0.35%である。
溶接金属中のAl、P及びSは、共に低融点の化合物を生成して靱性を低下させるため、出来るだけ低いことが望ましい。したがって、溶接金属中のAlは0.05%以下、Pは0.025%以下、S:0.020%以下に制限する。好ましくは、Alは0.03%以下、Pは0.015%以下、Sは0.010%以下とする。
溶接金属中のMoは、溶接金属の強度を高めるのに有効な成分である。本発明では、必要に応じてMoを含有させることができる。しかしながら、Moが0.60%を超えると、溶接金属中に金属間化合物を生成して溶接金属を著しく硬化し靱性が低下する。よって、含有させる場合は、0.60%以下とする。好ましい含有量は、0.10〜0.55%である。
溶接金属中のTi及びBは、溶接金属の靱性を向上されるのに有効な成分である。本発明では、必要に応じてTiとBの1種または2種を含有させることができる。しかしながら、Tiが0.05%を超えると、溶接金属の強度が高くなり靱性が低下する。また、Bが0.005%を超えると、高温割れが生じやすくなる。したがって、溶接金属中において、Ti:0.05%以下及びB:0.005%以下の1種又は2種とする。なお、溶接金属中のTiはフラックス中の金属Ti、Ti合金及びTi酸化物から添加され、Bはフラックス中のB合金及びB化合物から添加される。
その他は、Fe及び不純物であるが、不純物中のNは0.008%以下、Oは0.08%以下であることが靱性の確保から好ましい。
次に、上記耐食鋼の溶接金属の成分を得るために必要なサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤ(単に、ワイヤという場合がある。)の成分の限定理由について説明する。なお、以下成分の含有量についての%は、ソリッドワイヤ全質量に対する質量%を示す。
ワイヤ中のCは、溶接金属の強度を確保する重要な元素であると共に、アーク中の酸素と反応しアーク雰囲気及び溶接金属の酸素量を低減する効果がある。Cが0.02%未満では、脱酸及び強度確保の効果が不十分であり、強度及び靱性ともに低下する。一方、Cが0.15%を超えると、溶接金属がマルテンサイト主体の組織となり、強度が高くなり靱性が低下する。また、高温割れが生じやすくなる。したがって、ワイヤ中のCは0.02〜0.15%とする。Cの好ましい含有量は、0.03〜0.14%である。
ワイヤ中のSiは、脱酸効果が有り、溶接金属の酸素量をコントロールする作用がある。Siが0.005%未満では、脱酸効果が得られず、溶接金属の靱性が低下する。一方、Siが0.05%を超えると、溶接金属の強度が高くなり靱性が低下する。したがって、ワイヤ中のSiは0.005〜0.05%とする。Siの好ましい含有量は、0.006〜0.04%である。
ワイヤ中のMnは、溶接金属の強度を高めるのに有効な成分である。Mnが1.5%未満では、溶接金属の強度が低くなる。一方、Mnが3.5%を超えると、溶接金属の強度が高くなり靱性が低下する。したがって、ワイヤ中のMnは1.5〜3.5%とする。Mnの好ましい含有量は、1.5〜3.0%である。
ワイヤ中のCuは、溶接金属の耐食性を向上させる重要な元素である。Cuが0.01%未満では、耐食性を向上させる効果が得られない。一方、Cuが0.35%を超えると、溶接金属の靱性が低下する。したがって、ワイヤ中のCuは0.01〜0.35%とする。なお、Cuはワイヤ表面の銅めっきからも添加できる。Cuの好ましい含有量は、0.02〜0.30%である。
ワイヤ中のSnは、溶接金属の耐食性を向上させる重要な元素である。Snが0.05%未満では、耐食性向上の効果は得られない。一方、Snが0.40%を超えると、高温割れが生じやすくなる。また、粒界へのSnの偏析により溶接金属の靱性が低下する。したがって、ワイヤ中のSnは0.05〜0.40%とする。好ましい含有量は、0.10〜0.35%である。
ワイヤ中のAl、P及びSは、共に低融点の化合物を生成して靱性を低下させるため、出来るだけ低いことが望ましい。したがって、ワイヤ中のAlは0.05%以下、Pは0.025%以下、Sは0.020%以下に制限する。好ましくは、Alは0.03%以下、Pは0.015%以下、Sは0.010%以下とする。
ワイヤ中のMoは、溶接金属の強度を確保する効果を有する。本発明では、必要に応じてMoを添加してもよい。Moが0.60%を超えると、溶接金属中に金属間化合物を生成して溶接金属を著しく硬化し靱性が低下する。したがって、ワイヤ中にMoを添加する場合は0.60%以下とする。好ましい含有量は、0.10〜0.55%である。
その他は、Fe及び不純物であるが、不純物中のNは0.008%以下であることが靱性の確保から好ましい。
上記サブマージアーク溶接用ソリッドワイヤは、通常の方法で製造できる。すなわち、成分を調整した鋼を溶解し、原線をつくり、縮径、焼鈍、めっきをして素線をつくり、素線を伸線して、所望の直径のワイヤとして製造することができる。
本発明の溶接金属は、耐食鋼どうしをサブマージアーク溶接して得ることができる。耐食鋼の好ましい成分は、質量%で以下の通りである。C:0.06〜0.20%、Si:0.005〜1.50%、Mn:0.05〜2.0%、P:0.028%以下、S:0.010%以下、Sn:0.02〜0.45%、Cu:0.01〜0.45%である。耐食鋼には、Mo:0.35%以下をさらに含有していてもよい。
本発明の溶接金属の作製にあたっては、フラックスは、ボンドフラックス、溶融型フラックスのいずれも使用できる。好ましいボンドフラックスのスラグ成分は、質量%で、SiO2:5〜20%、MnO:0〜1.0%、Al2O3:15〜30%、MgO:10〜25%、TiO2:0〜20%、B2O3:0〜1.0%、CaO:2〜20%、CaF2:5〜20%、金属炭酸塩中のCO2換算値の合計:1〜8%であり、合金成分として、Si:0.1〜2.0%、Mn:0.1〜1.0%、Fe:0.5〜35%が含有されて良い。また、好ましい溶融型フラックスのスラグ成分は、質量%で、SiO2:10〜50%、MnO:5〜35%、Al2O3:3〜35%、MgO:0〜10%、TiO2:0〜30%、B2O3:0〜1.0%、CaO:2〜25%、CaF2:0〜25%である。
ここで、金属炭酸塩中のCO2換算値とは、例えば、CaCO3が質量%で1%含有していた場合、1%×(12+16×2)/(40+12+16×3)=0.44%と計算する。なお、計算の際、Caの原子量として40、Cの原子量として12、酸素の原子量として16を用いた。
表1に示す各種成分のソリッドワイヤを試作し、表2に示すボンドフラックスまたは溶融型フラックスと組合せてサブマージアーク溶接し、欠陥の有無、機械的性能及び耐食性の調査を実施した。なお、表1に示すソリッドワイヤは原線を縮径、焼鈍、めっきして素線とし、それらの素線を4.0mmまで伸線して用いた。
図1に示す腐食試験片作成用の試料(厚さ3mm×幅60mm×長さ150mm)を溶接金属2が中心となるように母材1表面から深さ1mmの採取位置3から採取し、ショットブラスト処理後、炉内温度80℃で加熱乾燥させて試験片素材を作製した。この試験片素材の両面に、塗料A(中国塗料(株)製バンノー♯200)または塗料B(神東塗料(株)ネオゴーセイプライマーHB)いずれかの塗料を鋼材表面に塗装し膜厚200〜350μmの塗装試験片を作製した。
その後、得られた腐食試験片5をSAE(Society of Automotive Engineers) J2334試験に従い、耐食性を評価した。
この腐食試験は、飛来塩分量が1mddを超えるような厳しい腐食環境を模擬する試験である。この腐食形態が大気暴露試験に類似しているとされている(長野博夫、山下正人、内田仁著:環境材料学、共立出版(2004)、p.74参照)。
耐候性・耐塗装剥離性の評価は、塗膜剥離・膨れ面積率が50%未満、かつ、塗膜傷部平均腐食深さが0.5mm未満の場合を合格とした。
表4にこれらの試験結果をまとめて示す。
試験記号T16は、溶接金属中のCが多いので、溶接金属の引張強さが高く、吸収エネルギーが低値であった。また、クレータ割れが生じた。
試験記号T17は、溶接金属中のMnが少ないので、溶接金属の引張強さが低かった。
試験記号T19は、溶接金属中のMnが多いので、溶接金属の引張強さ高く、吸収エネルギーが低値であった。また溶接金属中のSnが少ないので溶接金属の塗膜剥離・膨れ面積率が50%以上で、塗膜傷部平均腐食深さが0.5mm以上となり腐食量が多かった。
試験記号T20は、溶接金属中のSiが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T22は、ワイヤ記号W16及び溶接金属中のCが多いので、溶接金属の引張強さが高く、吸収エネルギーが低値であった。また、クレータ割れも生じた。
試験記号T23は、ワイヤ記号W17及び溶接金属中のMnが少ないので、溶接金属の引張強さが低値であった。また、Snが多いので溶接金属の吸収エネルギーが低く、さらにクレータ割れも生じた。
試験記号T25は、ワイヤ記号W19及び溶接金属中のSiが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
試験記号26は、ワイヤ記号W20及び溶接金属中のCuが少ないので、塗膜剥離・膨れ面積率が50%以上で、塗膜傷部平均腐食深さが0.5mm以上となり腐食量が多かった。また、Moが多いので引張強さが高く、吸収エネルギーが低値であった。
試験記号28は、ワイヤ記号W22及び溶接金属中のSnが少ないので、塗膜剥離・膨れ面積率が50%以上で、塗膜傷部平均腐食深さが0.5mm以上となり腐食量が多かった。また、溶接金属中のBが多いので、溶接金属の引張強さが高く、クレータ割れが生じた。
試験記号29は、ワイヤ記号23及び溶接金属中のCuが多いので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。また、溶接金属中のTiが多いので引張強さが高かった。
2 溶接金属
3 腐食試験片作成用試料の採取位置
4 クロスカット
5 腐食試験片
Claims (5)
- 溶接金属全質量に対する質量%で、
C:0.03〜0.15%、
Si:0.15〜0.80%、
Mn:1.2〜2.0%、
Cu:0.02〜0.34%、
Sn:0.05〜0.40%
を含有し、
Al:0.05%以下、
P:0.025%以下、
S:0.020%以下に制限し、
残部はFe及び不純物からなることを特徴とする耐食鋼の溶接金属。 - 溶接金属全質量に対する質量%で、Mo:0.60%以下をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の耐食鋼の溶接金属。
- 溶接金属全質量に対する質量%で、Ti:0.05%以下、B:0.005%以下の1種又は2種をさらに含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐食鋼の溶接金属。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶接金属の製造に用いるサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤにおいて、ワイヤ全質量に対する質量%で、
C:0.02〜0.15%、
Si:0.005〜0.05%、
Mn:1.5〜3.5%、
Cu:0.01〜0.35%、
Sn:0.05〜0.40%
を含有し、
Al:0.05%以下、
P:0.025%以下、
S:0.020%以下に制限し、
残部はFe及び不純物からなることを特徴とする耐食鋼のサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤ。 - ワイヤ全質量に対する質量%で、Mo:0.60%以下をさらに含有することを特徴とする請求項4に記載の耐食鋼のサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤ。
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