積層型の圧電素子では、上記した何れの形態においても、一の内部電極が外部電極と接続される場所では、圧電体を挟んでその下層又は上層に他の内部電極が設けられないので、そこは、圧電体が変位を生じない不活性部となる。そのため、内部電極で挟まれた圧電体の活性部において生じた変位に応じて、不活性部に大きな応力が発生し、又は活性部と不活性部との境界に、応力が集中することになる。従って、積層型の圧電素子を長い期間にわたって使用すると、その応力集中に起因して圧電体にクラックが生じ性能低下を招来し、そのクラックの発生によって内部電極間が短絡し駆動不能に至る場合があった。
特に、ディーゼルエンジンの燃料噴射装置における噴射ノズルの開閉機構の駆動源として適用される圧電素子のように、大きな変位量を必要とされる場合には、所望の変位量を得るために、積層型の圧電素子は、圧電体と内部電極の積層数が多いものとなる。そのような積層型の圧電素子では、必然的に、上記応力が大きくなるとともに、不活性部も多く存在することになる。従って、高耐久性と高性能とを併せ持つ積層型の圧電素子を実現することは困難であった。
本発明は、上記した従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大きな変位量が得られ、長い期間にわたる信頼性の高い、積層型の圧電素子を実現することである。検討が重ねられた結果、以下に示す手段により、上記目的を達成出来ることが見出された。
即ち、先ず、本発明によれば、圧電/電歪層と内部電極層とが、交互に、複数、積層をされてなる柱状積層体と、その柱状積層体の周面に設けられ、内部電極層のうち、極性の同じものを、それぞれ接続する一対の外部電極と、を有する圧電/電歪素子であって、柱状積層体の層間の界面において、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面(単に、弱い界面又は弱界面ともいう)が、特定の間隔で設けられている積層型圧電/電歪素子が提供される。
一般に、界面とは、二つの相が互いに接触している境界面をいうから、本発明に係る積層型圧電/電歪素子における柱状積層体の層間の界面は、原則として圧電/電歪層(主として圧電/電歪材料からなる相、層状の圧電/電歪体)と内部電極層(導電材料からなる相、層状の内部電極)で形成され、積層方向に内部電極層が存在しない不活性部では、圧電/電歪層と圧電/電歪層で形成されるところも存在する場合がある。又、本明細書にいう界面強度は、日本工業規格(JIS) R1601に規定されるファインセラミックスの曲げ強さ試験方法に基づいて評価したものである。このR1601の規格は、圧電/電歪材料(圧電/電歪層)の破壊強度を測定するために用いられるものであるが、本明細書にいう界面強度を測定する場合には、試験片に界面を設け、且つ、その界面の法線が試験片の長さ方向と一致するものとする。そして、その試験片を用いて、R1601の規格に規定される試験方法によって試験を行い、破壊した箇所が(測定対象の)界面であることを確認した上で、試験によって得られた破壊荷重に基づいて算出した曲げ強さを、界面強度とする。
本発明に係る積層型圧電/電歪素子においては、上記特定の間隔が、次の(1)式及び(2)式を満たすことが好ましい。
但し、上記(1)式及び(2)式において、tは圧電/電歪層の1層あたりの厚さ(μm)を示す。又、(1)式において、nは特定の間隔の中に存在する圧電/電歪層の層数、lは柱状積層体の太さ(μm)、σfは特定の間隔に挟まれた1ブロックの破壊強度(MPa)、をそれぞれ示し、(2)式において、Eは圧電/電歪層を構成する圧電/電歪材料のヤング率(MPa)、d33は圧電/電歪層を構成する圧電/電歪材料の圧電/電歪定数(μm/V)、Vは印加電圧(V)、をそれぞれ示す。圧電/電歪層の1層あたりの厚さt及び柱状積層体の太さlは一定である。ブロックとは、積層型圧電/電歪素子の2つの相対的に弱い界面強度を有する界面に挟まれた部分、又は、積層型圧電/電歪素子の最も上面側又は下面側の1つの相対的に弱い界面強度を有する界面から上面側又は下面側の部分を指す。又、圧電/電歪層とは、内部電極層に挟まれている、即ち、活性部を有する層を指すのであって、積層型圧電/電歪素子の端部等に、内部電極層に挟まれていない、即ち、活性部を有さない圧電/電歪材料からなる層が設けられている場合には、これを圧電/電歪層とはみなさない。尚、破壊強度とは、日本工業規格のJIS R1601で規定されるファインセラミックスの曲げ強さ試験方法による曲げ強さである。
上記特定の間隔が、(1)式及び(2)式を満たす積層型圧電/電歪素子とは、特定の間隔で設けられている2つの相対的に弱い界面強度を有する界面に挟まれて存在する圧電/電歪層の層数nが、(1)式及び(2)式を満たすものであることを意味する。尚、本明細書において、上記の通り、積層型圧電/電歪素子の2つの相対的に弱い界面強度を有する界面に挟まれた部分、又は、積層型圧電/電歪素子の最も上面側又は下面側の1つの相対的に弱い界面強度を有する界面から上面側又は下面側の部分を、ブロック(1つであれば1ブロック)、と表現するから、1ブロックに含まれる界面は、相対的に強い界面強度を有する界面(単に、強い界面又は強界面ともいう)のみで構成される。又、積層型圧電/電歪素子の柱状積層体の太さは、柱状積層体の軸方向に垂直な断面が、正方形の場合にはその一辺の長さ、同じく断面が長方形の場合には長辺の長さ、同じく断面が円形の場合には直径、をそれぞれ指す。更に、破壊強度σfは、1ブロックが曲げ強さ試験方法によって破壊するときの応力を意味する。即ち、破壊強度σfは、積層型圧電/電歪素子において圧電/電歪層(圧電/電歪材料からなる相)にクラックが発生する場合には圧電/電歪層の曲げ強さに相当し、強い界面(圧電/電歪層と圧電/電歪層の間、又は圧電/電歪層と内部電極層の間)でクラックが発生する場合には界面強度に相当する。
本発明に係る積層型圧電/電歪素子では、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面において、更に相対的に界面強度の強い部分と界面強度の弱い部分が存在する場合に、相対的に界面強度の弱い部分が、積層型圧電/電歪素子の周面側から、内部電極層が配設された部分より圧電/電歪層の内部側まで、設けられていることが好ましい。
又、本発明に係る積層型圧電/電歪素子においては、柱状積層体を構成する圧電/電歪層と内部電極層のうち、一部の圧電/電歪層又は内部電極層の密度が、その他の圧電/電歪層又は内部電極層の密度より、小さく、その密度が小さい圧電/電歪層又は内部電極層によって、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面が形成されていることが好ましい。
更に、本発明に係る積層型圧電/電歪素子においては、柱状積層体を構成する内部電極層のうち一部が金属のみからなる材料で形成され、その他がサーメット材料で形成され、金属のみからなる材料で形成された内部電極層によって、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面が形成されていることが好ましい。
本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、限定されるものではないが、グリーンシート積層法を用いて作製されたものであることが好ましい。具体的には、本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、のちに圧電/電歪層となる、圧電/電歪材料を主成分とする複数のグリーンシートに、のちに内部電極層となる、導電材料からなる電極パターンを形成し、電極パターンを形成した複数のグリーンシートを積層して、グリーン積層体を得て、そのグリーン積層体を焼成して柱状積層体を得る工程を経て、作製されたものであることが好ましい。この場合において、グリーン積層体を得るに際し、打抜加工機を用い、電極パターンを形成したグリーンシートを、打抜加工機のパンチを積層軸としてそのパンチに積層しながら打抜加工することが好ましい。又、このようにグリーン積層体を得てそのグリーン積層体を焼成して柱状積層体を得る工程を経る場合には、本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、電極パターンを形成したグリーンシートを積層する際に、一部のグリーンシートの間の(未焼成での)接着強度が、その他のグリーンシートの間の(未焼成での)接着強度より弱くされて作製され、その作製の際に接着強度が弱くされたグリーンシートの間の界面によって、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面が構成されていることが好ましい。
本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、焼成のタイミングを変えた上記方法とは別のグリーンシート積層法を用いて作製されたものであることも好ましい。具体的には、本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、のちに圧電/電歪層となる、圧電/電歪材料を主成分とするグリーンシートに、のちに内部電極層となる、導電材料からなる電極パターンを形成し、電極パターンを形成したグリーンシートに新たなグリーンシートを積層し、その新たに積層したグリーンシートに、電極パターンを形成することを、繰り返し行うとともに、任意のタイミングで複数回の焼成を行って柱状積層体を得る工程を経て、作製されたものであることが好ましい。この場合において、本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、上記複数回行われる焼成のうち、一部の焼成における焼成温度をその他の焼成における焼成温度より低くし又は一部の焼成における焼成時間をその他の焼成における焼成時間より短くして作製され、その焼成温度を低くした又は焼成時間を短くした焼成のために十分に焼結されなかった圧電/電歪層又は内部電極層によって、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面が形成されているものであることが好ましい。焼成は任意のタイミングで行えるのであり、導電材料からなる電極パターンを形成する前にグリーンシートに対して焼成を行ってもよく、グリーンシートに電極パターンを形成する(パターンニングする)毎に焼成してもよく、更には、グリーンシートの積層及びパターニングを一定回数繰り返し行ってから、焼成してもよい。尚、グリーンシート積層法自体は、公知な手段であるが、その詳細については、本明細書において説明する他、例えば特許文献4に開示された手順、内容を参考にすることが出来る。
本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、焼成のタイミングによらず、圧電/電歪材料又は導電材料として、焼結温度又は焼結時間の異なる少なくとも2種類の圧電/電歪材料又は導電材料を用いて作製され、その少なくとも2種類の圧電/電歪材料又は導電材料のうちの焼結温度の高い又は焼結時間が長い圧電/電歪材料又は導電材料を主成分とするグリーンシート又は電極パターンが焼成されてなる圧電/電歪層又は内部電極層によって、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面が形成されていることが好ましい。
本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、分極したとき又は動作させたときに、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面において界面方向にクラックが発生することが好ましい。界面方向とは、界面に沿った方向を意味し、積層方向に対し概ね垂直な方向である。
本発明に係る積層型圧電/電歪素子においては、柱状積層体は、周面の角に面取りが施された正四角柱形であることが好ましい。
本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、内燃機関の燃料噴射装置における噴射ノズル開閉機構の駆動源として好適に用いられる。
本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、圧電/電歪層と内部電極層の積層方向が柱状積層体の軸方向と同じ方向(両者の方向が平行)であり、圧電/電歪層が生じる変位が電界誘起歪みの縦効果に基づく伸縮変位であることが好ましい。
又、本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、圧電/電歪と称しているが、圧電/電歪層において生じる変位は、電界によって誘起される歪みに基づく変位の全てである。即ち、本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、狭義の意味での、印加電界に概ね比例した歪み量を発生する逆圧電/電歪効果を利用するもの、及び印加電界の二乗に概ね比例した歪み量を発生する電歪効果を利用するものに限定されず、強誘電体材料全般にみられる分極反転、反強誘電体材料にみられる反強誘電相−強誘電相転移、等の現象を利用するものも含まれる。
本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、柱状積層体の層間の界面において、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面が、特定の間隔で設けられているので、駆動させた際に、又は分極処理時に、素子内部に大きな応力が生じた場合に、クラックを、上記相対的に弱い界面強度を有する界面において発生するように(界面方向に発生するように)誘導することが可能である。界面方向に発生するように誘導してクラックを発生させるため、内部の応力は、少なくとも柱状積層体の積層方向(圧電/電歪層の厚さ方向)には断絶し、不連続になり、連続する場合のように応力は大きくならず、本発明に係る積層型圧電/電歪素子では、圧電/電歪層を破壊するクラック又は圧電/電歪層をまたぐクラックが、発生し難い。圧電/電歪層をまたいでクラックが発生すると、絶縁破壊によって素子が機能出来なくなるが、界面で、界面方向に、発生するクラックは、圧電/電歪素子の機能を阻害しないため、長い期間にわたる使用による性能低下は抑制され、短絡による駆動不能は起こり難い。
本発明に係る積層型圧電/電歪素子では、全体の圧電/電歪層の層数を増しても、クラックを界面方向に(換言すれば層間に)発生させることによって、内部の応力の増加を防止することが出来る。これは、層数が少ない場合には、活性部と不活性部が歪みを分け合うので応力は低く抑えられるが、層数が多くなると不活性部が歪みの大半を受けるので不活性部に大きな応力が発生するところ、界面方向に(層間に)クラックを設けることにより、構造体としての連続性が分断され、少ない層数のブロックが複数接続されているような構造になるからである。即ち、層数が少ない場合には、不活性部と活性部との境界に極近い領域のみでの応力分布になるため、その応力分布に関与する活性部とその応力分布に関与する不活性部の体積は、ほぼ同じであるのに対し、層数が多い場合には、不活性部と活性部との境界から遠い領域にまで応力が分布するため、その応力分布に関与する活性部の体積が、その応力分布に関与する不活性部の体積よりも大きくなり、不活性部に大きな歪みが発生するからである。
特許文献1〜3に示される積層型圧電/電歪素子又はアクチュエータは、応力緩和部(特許文献1)、絶縁体(特許文献2)、又は接着剤層(特許文献3)が、緩衝材又は吸収材としてはたらき、応力を緩和又は吸収して、クラックの発生自体を防止しようとするものであるから、一旦、内部の応力によってクラックが発生してしまうと、緩衝材又は吸収材としてはたらく上記各部材の存在が、かえって、圧電/電歪層を破壊するクラック又は圧電/電歪層をまたぐクラックの発生の要因となるおそれがある。ある層の不活性部と活性部との境界でクラックが発生すると、その先端の応力は等方的に生じ、クラックの進展方向を特定することが出来ないからである。従って、これらの素子又はアクチュエータでは、応力の緩衝能力又は吸収能力を超えた力が働くと駆動不能になるおそれがあるが、本発明に係る積層型圧電/電歪素子によれば、このような問題は生じない。本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、そもそも応力の緩衝又は吸収を図ろうとするものではなく、それにより発生し得るクラックの進展方向を、所定の界面に誘引し、制御しようとするものだからである。本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、クラックを生じつつも、長期間、安定して動作し得るものであり、長い期間にわたる信頼性の高い、高耐久性を有する圧電/電歪素子である、ということが出来る。
本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、その好ましい態様により、特定の間隔が、上記(1)式及び(2)式を満たすものであり、伸縮変位が生じる部分と伸縮変位が生じない部分の割合、圧電/電歪層の厚さ、圧電/電歪層を構成する圧電/電歪材料のヤング率等で示されるこれらの式で条件付けされて、1ブロックの圧電/電歪層の最大数が制限されているので、1ブロック内に存在する相対的に強い界面強度の界面では、クラックが生じ難く、クラックは、ブロックを決める相対的に弱い界面強度の界面においてのみ界面方向に生じ易くなっている。従って、積層型圧電/電歪素子の全体の圧電/電歪層の積層数には関係なく、圧電/電歪層を破壊するクラック又は圧電/電歪層をまたぐクラックの発生を防止出来る。即ち、本発明によれば、大きな変位量を必要とする圧電/電歪層の積層数が多い圧電/電歪素子においても、長期にわたる高い信頼性は確保され、高耐久性と高性能とを併せ持つ積層型の圧電/電歪素子を実現することが可能となる。
本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、その好ましい態様により、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面において、更に相対的に界面強度の強い部分と界面強度の弱い部分が存在する場合に、相対的に界面強度の弱い部分が、積層型圧電/電歪素子の周面側から、内部電極層が配設された部分より圧電/電歪層の内部側まで設けられている。この態様は、界面強度の強い部分と界面強度の弱い部分の境界が、積層型圧電/電歪素子の不活性部と活性部との境界と、ずれて存在している態様であり、前者は、界面強度の違いによって応力が集中する境界であり、後者は、活性部の伸長に起因する歪みによって応力が集中する境界を意味するから、これらの位置をずらし、応力を分散させることによって、連続する界面に界面強度の強い部分と界面強度の弱い部分が存在しても、内部の応力によって、圧電/電歪層を破壊するクラック又は圧電/電歪層をまたぐクラックは発生し難くなっている。
特許文献1に示される積層型圧電/電歪素子では、その請求項1に記載されているように、積層方向において、応力緩和部が内部電極層の控え部に重合するように配置されているから、界面強度の変化する境界が積層型圧電/電歪素子の不活性部と活性部との境界と一致しており、一旦、内部の応力によってクラックが発生すると、圧電/電歪層を破壊するクラック又は圧電/電歪層をまたぐクラックが発生するおそれがある。従って、この素子では、応力の緩衝能力を超えた力が働くと駆動不能になるおそれがあるが、本発明に係る積層型圧電/電歪素子によれば、このような問題は回避出来る。既述のように、本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、そもそも応力の緩衝又は吸収を図ろうとするものではなく、それにより発生し得るクラックの進展方向を制御しようとするものだからである。
特許文献3に示される積層型圧電アクチュエータは、弾性率が低い層(接着剤層)を設けているため、本来のアクチュエータの特性として重要である発生力(アクチュエータが燃料噴射ノズルの弁等の対象物を押す力)を高くする設計が困難である。又、その構造が複雑であることから製造工程も多く複雑になるため製造コストが嵩み易いが、本発明に係る積層型圧電/電歪素子によれば、このような問題は生じない。本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、弾性率が低い層を有しておらず、グリーンシート積層法によって簡便に作製出来るものだからである。
噴射ノズルの開閉機構を動作させるための駆動源として本発明に係る積層型圧電/電歪素子を採用した燃料噴射装置は、長期にわたり駆動不能となることなく安定して、高速な噴射ノズルの開閉を実現し得るものとなる。従って、本発明に係る積層型圧電/電歪素子を採用した燃料噴射装置は、ディーゼルエンジンをはじめとする内燃機関の作動状況に応じて、最適な量の燃料をシリンダへ送ることが出来、内燃機関に対し、その排出ガス中に含まれるパティキュレート、窒素酸化物、一酸化炭素、炭化水素等の有害物を減少させ、燃費を改善し、エンジン音を低下させ、エンジン出力を向上させる、といった優れた効果を、長期にわたり、安定して、もたらす。
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明の要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
先ず、本発明に係る積層型圧電/電歪素子について説明する。図1〜図7は、本発明に係る積層型圧電/電歪素子の一の実施形態を示す図である。図1は、積層型圧電/電歪素子の、外部電極が形成されない周面を示す側面図であり、図2は外部電極が形成された周面を示す側面図であり、図3は上面図であり、図4は図2及び図3におけるBB断面を示す断面図であり、図5は図1及び図3におけるAA断面を示す断面図であり、図6は図1及び図2におけるCC断面のうち一の内部電極層を含む面を示す断面図であり、図7は図1及び図2におけるCC断面のうち上記一の内部電極層とは極性の異なる他の内部電極層を含む面を示す断面図である。
図1〜図7に示される積層型圧電/電歪素子1は、数十〜数百μmオーダーの厚さの圧電/電歪層14と、数〜十数μmオーダーの厚さの内部電極層18,19とが、交互に、複数、積層をされてなる柱状積層体10と、内部電極層18,19を一層おきに、即ち、極性の同じ内部電極層を接続する、一対の外部電極28,29と、を有している。柱状積層体10は、周面の角に面取りが施された正四角柱形を呈するものであり、その高さは数〜数十cmオーダーである。外部電極29は、外部電極28と対になる電極であり、ともに柱状積層体10の周面に形成されている。外部電極28,29は、それぞれ内部電極層18(信号電極)どうし及び内部電極層19(共通電極)どうしを接続するものであり、外部の電源を用いて内部電極層18,19間へ電圧をかけるための、配線の役割を担う電極である。圧電/電歪層14と内部電極層18,19とで構成される柱状積層体10、及び外部電極28,29は、焼成により一体化されている。外部電極28,29は、ハンダ、及びそのハンダにより取り付けられた金属部材によって構成される。尚、図4及び図5では、理解を容易にするため、層数を限定して描いているが、積層型圧電/電歪素子1の、内部電極層18,19に挟まれた圧電/電歪層14の層数は、数十〜数百オーダーである。
積層型圧電/電歪素子1では、圧電/電歪層14の分極方向P(図4参照)が、信号電極(内部電極層18)から共通電極(内部電極層19)へ向けた方向になっている。そして、信号電極〜共通電極間(即ち圧電/電歪層14)に対し、分極方向Pと同じ方向E(図4参照)に電圧が印加されると、複数の圧電/電歪層14のそれぞれが、電界誘起歪みの縦効果に基づき、柱状積層体10の軸方向(図4中において矢印Sで示される方向(S方向という))に伸長する変位を生じ、積層型圧電/電歪素子1として伸長する。電圧が印加されず圧電/電歪層14に電界が形成されなくなると、複数の圧電/電歪層14のそれぞれは収縮し、積層型圧電/電歪素子1としても収縮する。尚、本明細書にいう積層方向とは、S方向(柱状積層体の軸方向)に同じ方向である。
積層型圧電/電歪素子1には、活性部と不活性部とが存在する。積層型圧電/電歪素子1の不活性部は、図4において幅Dで示される部分である。そして、柱状積層体10の層間の各々の界面において、圧電/電歪層14と内部電極層18,19で形成される部分と、圧電/電歪層14と圧電/電歪層14で形成される部分とが存在するが、積層方向に内部電極層が存在しない、圧電/電歪層14と圧電/電歪層14とで形成される界面は、変位を生じない不活性部を構成する界面となる。幅Dで示される不活性部以外であって、積層方向に、圧電/電歪層14が内部電極層18と内部電極層19で挟まれた部分は、変位を生じる活性部となる。図4において、内部電極層18は図中右側へ向けて柱状積層体10の周面に露出し、内部電極層19は図中左側はへ向けて柱状積層体10の周面に露出し、幅Dで示される部分における界面に、圧電/電歪層14と内部電極層18,19とで形成されている部分があるが、ここは、外部電極28,29との接続のための配線部21,22(図6及び図7を参照)が存在するのみであり、内部電極層18,19に挟まれた圧電/電歪層14が存在しないから変位は生じず、不活性部である。
図8及び図9は、内部電極層を含む面を示す断面図であり、図6及び図7とは異なるパターンの内部電極層を示す図である。図8及び図9に示される内部電極層は、外部電極28,29と接続される側を除いて、柱状積層体10の周面に露出していない。このような態様においても、配線部21,22では内部電極層18と内部電極層19で挟まれた圧電/電歪層14が存在せず、この部分は不活性部である。
積層型圧電/電歪素子1では、柱状積層体10の層間の界面において、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面が、(例えば)2つ設けられている。2つの界面2a,2bの間隔は本明細書にいう特定の間隔にあたり、この間隔は、既述の(1)式及び(2)式を満たすように設けられている。換言すれば、界面2a,2bに挟まれて存在する圧電/電歪層の層数nが、(1)式及び(2)式を満たすように、2つの界面2a,2bの間隔が規定されている。そして、積層型圧電/電歪素子1の界面2aより上面側部分、積層型圧電/電歪素子1の界面2bより下面側部分、界面2a,2bで挟まれた部分(これら各部分は、それぞれ各1ブロックを構成する)には、界面2a,2bより相対的に強い界面強度を有する界面のみが存在する。
他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面2a,2bを設けるための手段としては、積層型圧電/電歪素子1の柱状積層体10を構成する圧電/電歪層14と内部電極層18,19のうち、一部の圧電/電歪層14又は内部電極層18,19の密度を、その他の圧電/電歪層14又は内部電極層18,19の密度より、小さくする手段を挙げることが出来る(第1の弱界面形設手段という)。密度が小さく粗い材料で構成される圧電/電歪層14又は内部電極層18,19によって形成される界面が、その有効接触面積が少ないことによって、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面となる。第1の弱界面形設手段では、圧電/電歪層14又は内部電極層18,19の密度の差が存在していればよく、積層型圧電/電歪素子1を作製する手段をグリーンシート積層法に限定するものではない。例えば、圧電/電歪層14においては、作製時に、圧電/電歪材料の粒径をより大きくしたり、気孔率が高くなるように圧電/電歪材料に混合する造孔剤の量を多くすることによって、密度を小さくすることが可能である。内部電極層18,19の場合も、圧電/電歪材料と同様にして、密度を小さくすることが出来る。
又、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面2a,2bを設けるための手段として、その界面を形成する内部電極層の材料を変更する手段(第2の弱界面形設手段という)を挙げることが出来る。例えば、弱い界面2a,2bを形成する内部電極層を構成する導電材料として、金属のみからなる材料を用い、その他の強い界面を形成する内部電極層を構成する導電材料として、サーメット材料を用いる。こうすると、サーメット材料の中のセラミックス成分と圧電/電歪層の成分が焼結するため、内部電極層を構成する導電材料として、サーメット材料を用いた場合の方が、金属のみからなる材料を用いた場合よりも、圧電/電歪層との密着強度が高くなる。即ち、この第2の弱界面形設手段によれば、サーメット材料を用いたことによる相対的に強い界面強度を有する界面と、金属のみからなる材料を用いたことによる相対的に弱い界面強度を有する界面と、を設けることが可能である。具体的には、例えば、のちに圧電/電歪層14となる、圧電/電歪材料を主成分とする複数のグリーンシートに、のちに内部電極層18,19となる、導電材料からなる電極パターンを形成し、電極パターンを形成した複数のグリーンシートを積層して、グリーン積層体を得て、そのグリーン積層体を焼成して柱状積層体10を得る工程を経て、積層型圧電/電歪素子1を作製する。そして、この過程において、内部電極層18,19を構成する導電材料として、金属のみからなる材料、又はサーメット材料を採用することによって実現することが可能である。但し、この第2の弱界面形設手段は、積層型圧電/電歪素子1を作製する手段を限定するものではない。
上記のように内部電極層18,19を構成する導電材料を変えなくても(あるいは変えても)、電極パターンを形成した(のちに圧電/電歪層14となる)グリーンシートを積層する際に、一部のグリーンシートの間の接着強度を、その他のグリーンシートの間の接着強度より弱くする手段(第3の弱界面形設手段という)によって、相対的に弱い界面強度を有する界面2a,2bを設けることが出来る。具体的には、(のちに圧電/電歪層14となる)グリーンシートを積層する際に、接着剤として、グリーンシートと同じセラミックの圧電/電歪材料が配合された材料を用い、その中のバインダの含有量を調整することによって実現することが出来る。積層に際し、バインダの含有量が適正である接着剤を使用した界面は相対的に強い界面強度有する界面になり、バインダの含有量が多いか又は少ない接着剤を使用した界面は相対的に弱い界面強度有する界面になる。例えばバインダの含有量が過剰に多いと、セラミックスの粒子間の距離が遠くなり、焼結し難くなるため、かえって界面強度が低下する。適正な配合割合にすることで接着力と焼結性の両立が実現出来、強い界面を形成することが可能である。
又、のちに圧電/電歪層14となる、圧電/電歪材料を主成分とするグリーンシートに、のちに内部電極層18,19となる、導電材料からなる電極パターンを形成し、電極パターンを形成したグリーンシートに新たなグリーンシートを積層し、その新たに積層したグリーンシートに、電極パターンを形成することを、繰り返し行うとともに、任意のタイミングで複数回の焼成を行って柱状積層体10を得る工程を経て、積層型圧電/電歪素子1を作製し、この過程において、上記複数回行われる焼成のうち、一部の焼成における焼成温度をその他の焼成における焼成温度より低くする又は一部の焼成における焼成時間をその他の焼成における焼成時間より短くする手段(第4の弱界面形設手段という)によって、相対的に弱い界面強度を有する界面2a,2bを設けることが可能である。焼成温度を低くすると、又は焼成時間より短くすると、十分に焼結されないため、そのときの焼成対象である圧電/電歪層14又は内部電極層18,19で形成される界面が、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面になる。
更に、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面2a,2bを設けるための手段として、焼成のタイミングによらず、グリーンシートの圧電/電歪材料として、焼結温度又は焼結時間(焼結に要する時間)の異なる少なくとも2種類の圧電/電歪材料を用い、それらに対し一定の温度又は一定の時間で焼成を施す手段(第5の弱界面形設手段という)を挙げることが出来る。焼結温度又は焼結時間の異なる例えば2種類の圧電/電歪材料のうちの焼結温度の高い又は焼結時間が長い方の圧電/電歪材料を主成分とするグリーンシートは、十分に焼結されないため、そのグリーンシートが焼成されてなる圧電/電歪層14で形成される界面は、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面になる。
積層型圧電/電歪素子1では、3つのブロックを区切る2つの弱い界面2a,2bにおいて、更にそれらの界面に、相対的に界面強度の強い部分(界面強度強部という)と界面強度の弱い部分(界面強度弱部という)が存在する。そして、界面強度弱部が、積層型圧電/電歪素子1の周面側から内部電極層18,19が配設された部分より圧電/電歪層14の内部側まで設けられている。図6と図7、及び図8と図9は、内部電極層を含む断面を表す図であり、これは界面2a,2bを含む界面を圧電/電歪層14側からみた図に相当する。そこで、これらの図を参照して説明する。図6と図7、及び図8と図9によれば、界面強度強部3と界面強度弱部4は、(点線で示される)境界線5で区切られ、それぞれにおいて、界面強度弱部4が、積層型圧電/電歪素子1の周面側から内部電極層18,19が配設された部分より圧電/電歪層14の内部側まで設けられていることがわかる。
以上、本発明に係る積層型圧電/電歪素子の実施形態について説明したが、次に、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面を設けるための、特定の間隔を規定する上記(1)式及び(2)式について説明する。本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、柱状積層体の層間の界面において、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面が、特定の間隔で設けられており、この特定の間隔が、弱い界面に挟まれて存在する圧電/電歪層の層数nが既述の(1)式及び(2)式を満たすように、設けられているものであり、(1)式及び(2)式は、積層型圧電/電歪素子に生じた問題となる現象を解析することによって導かれた式である。
本願出願人の調査によれば、トラブルが発生した積層型圧電/電歪素子を調査すると、多くの場合、クラックは、内部電極層と圧電/電歪層との界面上の活性部と不活性部との境界付近を起点として発生しており、又、不活性部においては界面上、活性部においては任意の方向に進展している。更に、複数のクラックが積層方向に、ほぼ等間隔で、発生している。この事実から、本願出願人は、積層型圧電/電歪素子には、層間の相互作用がはたらき、圧電/電歪層の層数nが増すと発生する応力も増すことを見出した。即ち、ある圧電/電歪層に発生する歪み(応力)は隣接する圧電/電歪層の歪み(応力)の累積によって発生する。又、ある圧電/電歪層に対して十分に遠い圧電/電歪層は影響を及ぼさないものと推論出来る。この考えは、棒状の構造体を長さ方向に引っ張るとき、端部から十分に離れたところの応力分布は、端部の荷重のかけ方(但し、合力と合モーメントに違いがないこと)によらない、というサンブナンの原理に合致するものである。このとき、影響を及ぼし得る範囲内に、必ず1つの弱い界面を設けてやれば、弱い界面を設けない場合に比べて発生する応力を低減させることが出来る。弱い界面を設けてブロックに分割することで、応力的に、あたかも構造体として層数が少ないという効果を得ることが出来る。そして、ある圧電/電歪層を基準として、影響を及ぼし得る範囲内は、圧電/電歪層の1層あたりの厚さt(μm)を一定とすれば、n×tで表される積層型圧電/電歪素子の長さと、柱状積層体の太さl(μm)で規定出来る。
尚、積層型圧電/電歪素子おける歪みを生じるそもそもの原因は、活性部と不活性部が相互作用することであり、これによって生じた歪みが、多層であることによって累積され、クラックの発生に至るのである。積層型圧電/電歪素子の駆動時の状態を解析すると、内部電極層間に印加電圧V(V)がかけられると、活性部が不活性部を引っ張る作用が生じると同時に、不活性部が活性部を圧縮しようとする作用も生じ、バランスがとられている。積層型圧電/電歪素子において、内部の応力が発生する要因は、活性部と不活性部の相互作用、及び層間の相互作用の両方であり、これらは独立した現象ではなく、後者は前者があることにより発生するものである。
ここで、層数nが十分に大きい場合(図11の曲線が平坦になっている領域)には、活性部と不活性部との境界に影響する活性部の領域が十分に大きくなる。即ち、活性部と不活性部との境界から、素子の太さ方向に離れている活性部の領域も、活性部と不活性部との境界付近の応力分布に影響を及ぼす。これによって活性部が不活性部を引張る作用が、不活性部が活性部を圧縮する作用よりも、はるかに優勢になる。上記のバランスにおいて、不活性部に発生する応力σ2(MPa)は、活性部に発生する応力σ1(MPa)よりはるかに大きい。即ち、歪みは不活性部に発生し、活性部には歪みはほとんど生じない。よって、σ1は零(0)とみなしてよい。ここで、圧電/電歪材料のヤング率E(MPa)、圧電/電歪定数d33(μm/V)、印加電圧(V)、及び、圧電/電歪層の1層の厚さ(μm)から不活性部に発生する応力の最大値σ2MAX(MPa)を求めると、次の(3)式で示される。
次に、不活性部に発生する応力σ2が最小値σ2MIN(MPa)となる場合を考える。これは、圧電/電歪層が1層(n=1)であって、上記層間の相互作用がなく、活性部と不活性部の相互作用のみがはたらく場合である。この場合には、活性部と不活性部の境界付近の、厚さと同程度の幅方向(界面と平行な方向)の圧電/電歪層部分のみが、活性部と不活性部の相互作用に寄与する。そして、この場合では、活性部が不活性部を引っ張る作用と、不活性部が活性部を圧縮しようとする作用は、五分五分と考えてよく、活性部に発生する応力σ1(圧縮応力)と、不活性部に発生する応力σ2(引張り応力)の絶対値は、等しく、これが不活性部に発生する応力の最小値σ2MINであるとみなすことが出来る。以上により、次の(4)式が導出される。
既述のように、ある圧電/電歪層から影響を及ぼし得る範囲内は、圧電/電歪層の1層あたりの厚さt(μm)を一定とすれば、n×tで表される積層型圧電/電歪素子の長さと、柱状積層体の太さl(μm)で規定出来るから、柱状積層体の太さlを一定として、上記(3)式及び(4)式より、近似式として次の(5)式が導出される。尚、(3)式及び(4)式より、σ2MAX=2×σ2MINである。又、柱状積層体の太さlとして、例えば、既に説明した積層型圧電/電歪素子1の場合には、柱状積層体10の軸方向に水平な断面が概ね正方形であるため、その一辺の長さを採用することが出来る。
そして、積層型圧電/電歪素子において応力が発生したとき、その応力が、1ブロックが圧電/電歪層で又は強い界面で破壊するときの応力である破壊強度σf(MPa)に達すると、圧電/電歪層又は強い界面にクラックが発生し得るから、弱い界面以外の部分で、応力が破壊強度σfに至らないようにすればよい。このことは、不活性部に発生する応力σ2が破壊強度σfより、小さくなるように、1ブロック内の圧電/電歪層の層数nを求めればよいことを意味する。そこで、(5)式よりσ2<σfとなるnを求めると、上記(1)式が得られる。積層型圧電/電歪素子は、圧電/電歪体や内部電極層等の複数の材料で構成されるが、問題となるクラックは圧電/電歪層内部に進行するもののみであるため、ここで考慮する破壊強度σfは、圧電/電歪層の曲げ強さ又は強い界面の界面強度となる。圧電/電歪層内部で発生するクラックは、その進展方向を制御出来ないし、強い界面で発生するクラックは、圧電/電歪層の内部に進展するおそれがある。尚、(2)式は、(4)式より導出される。
図11は、圧電/電歪層を構成する圧電/電歪材料のヤング率Eが60000MPa、圧電/電歪定数d33が0.0006μm/V、圧電/電歪層の1層あたりの厚さtが82μm、柱状積層体の太さlが7000μmの積層型圧電/電歪素子に、200Vの印加電圧をかけた場合における圧電/電歪層の層数nと不活性部に発生する応力σ2(MPa)との関係を、(2)式及び(5)式に基づき計算し曲線で表したグラフである。又、図11には、FEMシミュレーションソフトウエアStressCheck7(ADA社製、開発元(米)ESRD社)を用いて、不活性部に発生する応力σ2(MPa)を求めた結果(σ2の値)もプロットされている。シミュレーションの結果(プロット)と(2)式及び(5)式に基づいた計算結果(曲線)とは概ね合致していることから、(2)式及び(5)式に基づいて、不活性部に発生する応力σ2(MPa)が正しく求められると推認出来る。
又、図12は、圧電/電歪層を構成する圧電/電歪材料のヤング率Eを40000MPaとした他は、上記の例と(1)式及び(2)式中の各値が同じであり、且つ同じ形状の積層型圧電/電歪素子に、同じく200Vの印加電圧をかけた場合における圧電/電歪層の層数nと不活性部に発生する応力σ2(MPa)との関係を、(2)式及び(5)式に基づき計算し曲線で表したグラフである。又、図12には、上記と同じFEMシミュレーションソフトウエアStressCheck7を用いて、不活性部に発生する応力σ2(MPa)を求めた結果(σ2の値)もプロットされている。図12においても、シミュレーションの結果(プロット)と(2)式及び(5)式に基づいた計算結果(曲線)とは概ね合致していることから、(2)式及び(5)式に基づいて、不活性部に発生する応力σ2(MPa)が正しく求められると推認出来る。
ヤング率Eが60000MPaの場合の上記積層型圧電/電歪素子では、(2)式より、σ2MIN=43.9MPaとなる。そして、(1)式より、例えば、圧電/電歪層の破壊強度σfが70MPaの場合には、n<77.1層が求まる。これは、圧電/電歪層の層数が77層以下であれば、不活性部に発生する応力σ2は、圧電/電歪層の破壊強度σfより大きくならず、不活性部にクラックが発生しないことを意味する。従って、1ブロックが77層以下となるような間隔(特定の間隔)で、他の界面(1ブロック中の強い界面)より相対的に弱い界面強度を有する界面を設ければ、クラックが発生したとしても、必ず、その弱い界面において発生し、圧電/電歪層を破壊するクラック又は圧電/電歪層をまたぐクラックは、発生し難くなる。同様に、ヤング率Eが40000MPaの場合の上記積層型圧電/電歪素子では、(2)式より、σ2MIN=29.3MPaとなる。そして、(1)式より、例えば、圧電/電歪層の破壊強度σfが52MPaの場合には、n<128.1層が求まる。
次に、本発明に係る積層型圧電/電歪素子を製造する方法と、併せて使用する材料について、説明する。本発明に係る積層型圧電/電歪素子を製造するにあたっては、グリーンシート積層法を利用することが好ましい。図10の(a)〜(d)は、このグリーンシート積層法を利用し、作製対象を既に説明した図1〜7に示される積層型圧電/電歪素子1として、本発明に係る積層型圧電/電歪素子の製造工程の一例を表した説明図である。
先ず、圧電/電歪材料を主成分とする所定枚数のセラミックグリーンシート116(以下、グリーンシート又はシートともいう)を用意する。このシート116は、のちに圧電/電歪層を構成するものである。シート116は、従来知られたセラミックグリーンシート製造方法により作製出来る。例えば、圧電/電歪材料の粉末を用意し、これに有機樹脂(バインダ)、溶剤、分散剤、可塑剤、造孔剤等を望む組成に調合してスラリーを作製し、これを脱泡処理後、ドクターブレード法、リバースロールコーター法、リバースドクターロールコーター法等のテープ成形法によって成形し、適宜、それを切断して、シート116を作製することが可能である(図10の(a)を参照)。
圧電/電歪材料は、電界誘起歪みを起こす材料であれば、問われるものではない。結晶質でも非晶質でもよく、又、半導体セラミック材料や強誘電体セラミック材料、あるいは反強誘電体セラミック材料を用いることも可能である。用途に応じて適宜選択し採用すればよい。又、分極処理が必要な材料であっても必要がない材料であってもよい。
具体的には、好ましい材料として、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、ニッケルタンタル酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、マンガンタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛、マグネシウムタングステン酸鉛、マグネシウムタンタル酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ナトリウムビスマス、チタン酸ビスマスネオジウム(BNT)、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウムナトリウム、タンタル酸ストロンチウムビスマス、銅タングステンバリウム、鉄酸ビスマス、あるいはこれらのうちの2種以上からなる複合酸化物を挙げることが出来る。又、これらの材料には、ランタン、カルシウム、ストロンチウム、モリブデン、タングステン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガン、セリウム、カドミウム、クロム、コバルト、アンチモン、鉄、イットリウム、タンタル、リチウム、ビスマス、スズ、銅等の酸化物が固溶されていてもよい。中でも、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛の複合酸化物を主成分として酸化ニッケルを含有してなる材料、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛の複合酸化物を主成分とする材料が、大きな電界誘起歪が利用出来ることから、好ましい。この場合、ニッケル成分として、酸化物換算で0.05〜3質量%含有するものが特に好ましい。又、上記材料等に、ビスマス酸リチウム、ゲルマニウム酸鉛等を添加した材料は、その圧電/電歪層の低温焼成を実現しつつ高い材料特性を発現出来るので好ましく、特に、上記したジルコン酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛の複合酸化物を主成分として酸化ニッケルを含有してなる材料、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛の複合酸化物を主成分とする材料であって、そのニッケル成分として、酸化物換算で0.05〜3質量%含有し、且つゲルマン酸鉛を0.3〜4質量%添加した材料が望ましい。
次に、所定枚数のシート116を作製したら、一枚を除き、その他の半数のシート116の表面に、導電材料を用いて、所定のパターン(電極パターン)の導体膜48を形成し、シート118を得る。同様にして、残りの半数のシート116の表面に、導電材料を用いて、所定のパターン(電極パターン)の導体膜49を形成し、シート119を得る(図10の(b)を参照)。この導体膜48、49は、のちに内部電極層18,19(信号電極及び共通電極、図4〜7を参照)になる膜である。
導体膜48,49の形成手段は、スクリーン印刷法が好適に用いられるが、フォトリソグラフィ、転写、スタンピング等の手段で行ってもよい。使用する導電材料としては、室温で固体である金属が採用される。例えば、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、銀、スズ、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、又は鉛等の金属単体又はこれら2種類以上からなる合金、例えば、銀−白金、白金−パラジウム、銀−パラジウム等を1種単独で又は2種類以上を組み合わせたものを用いることが好ましい。又、これらの材料と、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化セリウム、ガラス、又は圧電/電歪材料等との混合物、サーメットであってもよい。これらの材料は、圧電/電歪層と同時に焼成されるか否かに依存して選定される。内部電極層の場合には、圧電/電歪層と同時に焼成されるため、圧電/電歪層の焼成温度においても変化しない白金、パラジウム、白金−パラジウム合金、銀−パラジウム合金等の高融点金属を使用する必要がある。一方、後述する、のちに外部電極となる導体膜の場合には、低温で焼成出来るので、アルミニウム、金、銀、銀−パラジウム合金等を使用することが可能である。加えて、用途によっては、非常に大きな変位を発生させなければならないケースもあり、又、弱い界面にクラックが発生しても、外部電極の断線が生じないように、形成した電極上に、別途、延展性に富む導電材料の箔、板等を載置し、併せて用いてもよい。
ここで、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面を設けるために、第2の弱界面形設手段を採用する場合には、弱い界面を形成するための導電材料として金属のみからなる材料を用い、その他の強い界面を形成するための導電材料としてサーメット材料を用い、これらを使い分ける必要がある。
又、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面設けるために、第1の弱界面形設手段を採用する場合には、密度を小さくしようとする圧電/電歪層になるグリーンシートのみの原料の組成を変更する。又は、密度を小さくしようとする内部電極層になる導体膜のみの原料の組成を変更する。グリーンシートは、スラリーを作製する際に、造孔剤の量を多くすることによって、又、圧電/電歪材料の粉末の粒径等を調整することによって、密度を小さくすることが可能である。導体膜は、例えばスクリーン印刷法により形成する場合には、使用する導電材料ペーストの造孔剤の量を多くすることによって、又、導電材料粉末の粒径等を調整することによって、密度を小さくすることが出来る。
次に、最上面を導体膜が形成されていないシート116として、のちに内部電極層18,19になる導体膜48,49が形成された所定枚数のシート118,119を積層し圧着して、グリーン積層体を得る(図10の(c)参照)。その後、そのグリーン積層体を焼成し、一体化した積層焼成体を得て、それに対し、ダイシング加工、スライシング加工等の加工手段により、周面の角を面取りを施す。尚、面取りは、焼成前に行ってもよい。又、のちに内部電極層18,19になる導体膜48,49が形成されたシート118,119を積層し圧着してグリーン積層体を得るに際し、打抜加工機を用い、シート118,119を、打抜加工機のパンチを積層軸として、そのパンチに積層しながら打抜加工することが出来る。この方法を打抜同時積層法とよび、その詳細の準備、手順等は、特許文献4に開示された方法に従って行う。打抜同時積層法を適用してグリーン積層体を得る工程を経て積層型圧電/電歪素子を製造すると、シートの位置合わせが精度よく行え、積層ずれが生じない。
他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面を設けるために、第3の弱界面形設手段を採用する場合には、上記グリーン積層体を得るためのシートの積層・圧着に際し、グリーンシートと同じセラミックの圧電/電歪材料が配合された材料を用いた、のちに消失する接着剤を使用する。そして、弱い界面を形成する圧電/電歪層となるシートの接着に用いる接着剤のみ、バインダの含有量を多く又は少なくする。尚、接着剤のうちセラミックの圧電/電歪材料は消失せず、圧電/電歪層の一部になる。
上記の積層、焼成、加工の工程を経て、圧電/電歪層14と内部電極層18,19とが交互に積層をされた柱状積層体10(図4〜7を参照)が得られる。そして、その柱状積層体10の軸方向に平行な周面に、導体膜を形成し焼成し、一対の外部電極28,29を設けることにより、積層型圧電/電歪素子1を得ることが出来る(図10の(d)を参照)。
尚、上記した積層、焼成の工程では、好ましくは打抜同時積層法を用いてグリーン積層体を得て、そのグリーン積層体を焼成し、一体化した積層焼成体を得ることとしたが、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面を設けるために、第4の弱界面形設手段を採用する場合には、最後に焼成するのではなく、任意のタイミングで複数回の焼成を行って柱状積層体10を得るようにする。そして、その複数回行われる焼成のうち、弱い界面を形成する圧電/電歪層となるシート、又は弱い界面を形成する内部電極層となる導体膜、を焼成する際の焼成温度を、その他の焼成における焼成温度より低くし、十分に焼結しないようにする。尚、この場合には、柱状積層体10を得る前に、シートを打抜加工機(パンチ)から取り出して焼成する必要があるから、打抜同時積層法は採用出来ない。
又、他の界面より相対的に弱い界面強度を有する界面を設けるために、第5の弱界面形設手段を採用する場合には、製造工程及び焼成のタイミングは自由であり、それに制限されない。グリーン積層体を得てそのグリーン積層体を焼成し一体化した積層焼成体を得る工程を経て柱状積層体10を得てもよく、任意のタイミングで複数回の焼成を行って柱状積層体10を得てもよい。
最後に、積層型圧電/電歪素子1の耐湿性、絶縁性を増す目的で、樹脂コートを施すことも好ましい。樹脂コートに使用する樹脂材料としては、ポリフルオルエチレン系、アクリル系、エポキシ系、ポリイミド系、シリコーン系等が挙げられるが、燃料噴射装置等の高環境負荷下では、ポリフルオルエチレン系、ポリイミド系、更には、それらの複合系、例えばPTFE(ポリフルオルエチレン系)とポリアミドイミドの複合系の材料を用いることが好ましい。
尚、上記した本発明に係る積層型圧電/電歪素子とそれを製造する方法では、理解容易に説明するため、1個を単独で作製する場合を示したが、実際には、グリーンシートに多数個分の導体膜を形成し(印刷し)、積層、焼成の後で、個割に加工する工程を経ることによって、容易に多数個取りが出来ることはいうまでもない。
以上、本発明に係る積層型圧電/電歪素子とそれを製造する方法について説明したが、本発明に係る積層型圧電/電歪素子は、内燃機関の燃料噴射装置における噴射ノズルの開閉機構に好適な駆動源として用いられるものである。ここで、図13に、内燃機関の燃料噴射装置の一例を示す。図13は断面図であり、図13には、噴射ノズル131を有する容器132と、その容器132の噴射ノズル131を開閉する開閉機構133と、その開閉機構133の駆動源として容器132に収容された上記した積層型圧電/電歪素子1と、を具備する内燃機関の燃料噴射装置130が示されている。
高圧の燃料は、図13に示されないコモンレールから燃料インレットを介して燃料噴射装置130に入り、噴射ノズル131から図13に示されないエンジンのシリンダへ噴射される。積層型圧電/電歪素子1は、燃料噴射装置130の図13中において丸で囲われた部分に収容され、その伸縮変位によって例えばニードル弁を移動させて、噴射ノズル131を開閉し、高圧の燃料の噴射を制御する。既述のように、積層型圧電/電歪素子1は、長期にわたり安定して、高速な噴射ノズル131の開閉を実現し得るものであり、最適な量の燃料をシリンダへ送ることが可能なものである。そのため、積層型圧電/電歪素子1を利用した燃料噴射装置130は、長期にわたり安定して、エンジンから排出されるガスの中に含まれるパティキュレート等の有害物を減少させることが出来る。