<積層型圧電素子>
以下、本発明の実施形態にかかる積層型圧電素子について詳細に説明する。図1は、本実施形態にかかる積層型圧電素子を示す斜視図であり、図2〜9は本実施形態にかかる積層型圧電素子の積層構造を示す一実施例の部分拡大断面図である。
図1に示すように、本実施形態の積層型圧電素子は、複数の圧電体層11と複数の金属層12とを積層してなる積層体13を有し、該積層体13の対向する側面に一対の外部電極15が配設されている(一方の外部電極は不図示)。金属層12は、圧電体層11の主面全体には形成されておらず、いわゆる部分電極構造となっている。この部分電極構造の複数の金属層12は、一層おきに積層体13の対向する側面にそれぞれ露出するように配置されている。これにより、金属層12は、一層おきに、一対の外部電極15に電気的に接続されている。なお、一対の外部電極15は、隣設する側面に形成してもよい。
また、積層体13の積層方向の両端側には圧電体で形成された不活性層14が積層されている。この積層型圧電素子を圧電アクチュエータとして使用する場合には、一対の外部電極15にリード線を半田によりそれぞれ接続固定し、リード線を外部電圧供給部に接続すればよい。この外部電圧供給部からリード線を通じて隣り合う金属層12間に所定の電圧を印加することにより、各圧電体層11が逆圧電効果によって変位する。一方、不活性層14は一方の主面側に金属層12が配置されているのみであり、他方の主面側には金属層12が配置されていないので、電圧を印加しても変位が生じない。
本実施形態の積層型圧電素子は、図1、2に示すように、圧電体層と金属層が交互に複数積層された積層体を有する積層型圧電素子において、複数の前記金属層のうちの少なくとも一層は、当該金属層の一部が前記積層方向の一方側と他方側に分離された分離電極部16を有していることを特徴としている。
このことにより、分離電極部16を含んだ金属層12aに接する圧電体層は電圧が印加された時に、他の金属層12と同様に駆動変形が可能であり、金属層12が圧電体層11をクランプする力が、分離電極部16において小さくなるために、分離電極部16を含んだ金属層12aに接する圧電体層は変位量が大きくなり、積層型圧電素子の変位量を大きくすることができる。
さらに、積層型圧電素子駆動時に応力が印加した際には、応力の伝達方向にかかわらず、分離電極部16において応力が一方側と他方側に分散される。分離電極部16は、一方側と他方側に分離していて他の電極よりも肉厚の薄いので、他の電極と比較して可撓性が高い。このため、分離電極部16に応力が集中すると、分離電極部がばねのように撓んで変形することで素子に加わる応力を緩和することができる。さらに、分離電極部16が緩和できないような大きな応力が加わった際においても、分離電極部の一方側又は他方側の電極部分に亀裂が生じることで応力を緩和することができるので、圧電体を横断して異なる極性同士を短絡するような亀裂が生じるのを防止することができる。これにより、積層型圧電素子13は変位を大きくすることができるだけでなく、長期駆動の耐久性を向上させることができる。
さらには、金属層12が等間隔で配置されると、積層型圧電素子を駆動させた時に、圧電体の材料定数と金属層間距離から決定される固有振動数から生じる共振現象でうなり音が発生するが、分離電極部16があることで、異なる電極板が挿入された効果が生まれ、位相ズレにより、共振が抑制され、うなり音を消滅させることができる。
さらには、素子が急激に高温にさらされるような環境に置かれた場合、熱は圧電体層よりも数段熱伝導特性に優れた金属層を伝播するので、分離電極部16があることで、熱伝導を分割して、周囲の圧電体に散逸させる効果を生み出し、熱の伝達速度を遅らせて、素子内の急激な温度勾配を抑止して、熱膨張差による素子の破壊を抑止することもできる。
このようにして、積層型圧電素子13は変位を大きくすることができるだけでなく、駆動電源に何らかのノイズが入って瞬間的に積層型圧電素子に高電圧が加わった場合や、高温、高湿、高電界、高圧力下で長期間連続駆動させた場合においても、信頼性の高い積層型圧電素子を形成することができる。
このとき、分離電極部16は図2、5のようにスリットで構成されている場合、図3、6のように、絶縁体が充填された場合、そして、図4、7のように、絶縁体とスリットで構成されている場合がある。
なお、分離電極部16の構造は、以下のようにして測定することができる。すなわち、分離電極部16が露出するように、積層体13を切断して、積層型圧電素子の切断面において、金属層をSEM(走査型電子顕微鏡)や金属顕微鏡で観察すると、金属成分だけでなく、スリットや、ボイド、さらにはセラミック成分等の金属以外の要素も分析することができる。ここで、金属層中には微細なボイド(空隙)が生じることがある。このボイドは、通常、その形状が球ないし楕円体であり、本発明におけるスリットとは異なるものである。本発明におけるスリットは、金属層中に形成され、厚みの極めて薄い平面状の3次元構造であり、金属層とほぼ平行に延びた細長い隙間である。具体的には、このスリットは、厚み方向(金属層の厚み方向)の長さが、金属層と平行な平面方向の縦横の長さに対して1/10以下であるものをいう。
さらに、前記分離電極部16は、図2、4、5、7のように、積層体の積層方向に垂直な方向に延設されたスリットを介して配置されていることが好ましい。これは、積層型圧電素子駆動時に応力が印加した際には、応力の伝達方向として最も多い積層体の積層方向からの応力を、分離電極部がばねのようにたわんで変形することで素子に加わる応力を緩和することができるからである。さらに、分離電極部16が緩和できないような大きな応力が加わった際においても、分離電極部の分離部のみ亀裂が生じたうえに破断して応力を緩和するとき、前記積層体の積層方向に垂直な方向に延設されたスリットを介して配置されていることで、圧電体を横断して異なる極性同士を短絡するような亀裂を生じることがない。よって、信頼性の高い積層型圧電素子を形成することができる。
さらに、図2〜4のように、前記分離電極部16が前記金属層12の側端部に形成されていることが好ましい。これは、圧電体が伸び縮みして駆動変形するのに対し、金属層がクランプしていることから、積層型圧電素子に加わる応力は素子側面に集中するので、図3の構造よりも図2の構造の方が、応力緩和効果の大きい分離電極部16が金属層12の側端部に形成されていることで、応力緩和効果が大きくなり、信頼性の高い積層型圧電素子を形成することができる。より好ましくは、図2、4のように分離電極部16が前記金属層12の側端部にて素子表面側が開放されたスリットで形成されていると、応力に応じて、スリットの開放口の形状が変化してばねの働きで応力を緩和して、信頼性の高い積層型圧電素子を形成することができる。
さらに、図8、9のように分離電極部の一方側又は他方側の一部に電極が形成されていない場合と比較して、図2、5のように分離電極部の一方側及び他方側の全体に電極がそれぞれ形成されている場合、すなわちスリット全体が金属層内に納まっている場合の方が好ましい。これにより、圧電体層11に接する金属層12の面積が大きくなり、圧電体層11のより広い面積に電圧を印加することが可能になるので、駆動変位量が大きくなる。しかも、分離電極部の一方側及び他方側の電極部分双方において亀裂を生じさせて応力を緩和することができるので、圧電体を横断して異なる極性同士を短絡するような亀裂が生じるのをより効果的に防止することができる。
さらに、前記積層体が角柱であり、前記分離電極部16が前記金属層の角部に形成されていることが好ましい。これは、積層体が角柱であると、圧電体が伸び縮みして駆動変形するのに対し、金属層がクランプしていることから生じる応力が素子側面に集中したとき、素子側面のなかでも特に角部に応力が集中するので、応力緩和効果のある分離電極部16を素子角部にあたる金属層12の角部に形成することで、応力緩和効果を特に発揮して信頼性の高い積層型圧電素子を形成することができる。
さらに、前記分離電極部16が前記積層体の積層方向に規則的に配設されていることが好ましい。これは応力緩和効果を発生させる分離電極部16を積層方向に規則的に配設されていると、素子内に加わった応力を均等に分散させることができるので、応力の1点集中を避けることができるので信頼性の高い積層型圧電素子を形成することができる。さらに全ての金属層12に分離電極部16を設けることで最も応力緩和効果を発揮して信頼性の高い積層型圧電素子を形成することができる。ここで、分離電極部16が積層方向に規則的に配置されているとは、分離電極部16を有する金属層と分離電極部16を有する金属層との間に存在する他の金属層の層数が、いずれの箇所においても同じである場合はもちろんのこと、積層方向において応力がほぼ均一に分散される程度に、分離電極部16を有する金属層間に存在する他の金属層12の層数が近似している場合も含む概念である。具体的には、分離電極部16を有する金属層間に存在する他の金属層12の層数は、各層数の平均値に対して±20%の範囲内、好ましくは各層数の平均値に対して±10%の範囲内、より好ましくはすべて同数であるのがよい。
さらに、前記積層体は、該積層体の積層方向に隣り合う金属層のうちの一方の金属層を他方の金属層に前記積層方向に投影したときに、互いに重なり合う活性部と重なり合わない不活性部とを有し、前記分離電極部16が前記不活性部に対応する領域に形成されていることが好ましい。これは、活性部においては圧電体層11は極性の異なる金属層に挟まれることで、素子に電圧が印加されると駆動変形するのに対し、不活性部においては、素子に電圧が印加されても圧電体層11は駆動変形しない。このため、活性部と不活性部との境界において応力が集中するので、この不活性部に応力緩和効果のある分離電極部16を設けることで、応力緩和効果を特に発揮して信頼性の高い積層型圧電素子を形成することができる。
さらに、前記金属層の一部に形成された分離電極部16は、当該金属層の他の部位よりも空隙が多いことが好ましい。これは、分離電極部16がより応力緩和効果を発揮するためには、他の金属層よりも応力に対しての変形能力が高いことが求められるため、同一金属で構成される金属層においても、分離電極部16の部分に空隙が多いことで、クッション効果が生まれ、応力緩和効果が大きくなる。空隙が多くなり、分離電極部16がスポンジ状の形状に金属層がなることがより好ましい。
さらに、分離電極部16の金属層が、図10〜13のように、金属粒子12bの集合体で構成されている。これは、応力が印加された場合、多数の粒子で構成されていることで、応力が分散して応力の集中を避けることができるだけでなく、急激に大きな応力が印加された場合でも、最も弱い粒子間の接続が破断して、応力を開放することができる。このような場合でも、粒子間が破断しても素子駆動の電圧は周囲の粒子を介して金属層内を伝播することができるので、素子の駆動力に影響を与えない信頼性の高い積層型圧電素子を形成することができる。
さらに、分離電極部16に樹脂が充填されていることが好ましい。これは、応力緩和効果があることと同時に、分離電極部16に圧縮の応力が加わっても、分離電極部16がつぶれて破壊することがなく、樹脂が充填されていることで、分離電極部16内に素子周囲の水分や雰囲気が触れることで金属からなる分離電極部16の内部、特に分離端部が侵食されることを抑止できる。樹脂は柔軟性の点から、シリコーン樹脂やウレタン樹脂、弗素系樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、密着性と腐食に対する強さから、シリコーン樹脂が最も好ましい。充填場所は、分離電極部端部に充填されていることが好ましい。
さらに、分離電極部16の主成分が銀であると、圧電体と同時焼成して素子を形成できるだけでなく、熱伝導特性が優れていることで、応力集中による素子の局部加熱しても、熱を散逸することができ、さらに、表面に酸化層の皮膜がない金属粒子を形成できるため、柔らかい金属粒子として、応力吸収も可能である。
このとき、分離電極部16の組成は、以下のようにして測定することができる。すなわち、分離電極部16が露出するように、積層体13を切断するなどして、分離電極部16の一部を採取し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析等の化学分析をすることで測定できる。また、積層型圧電素子を積層方向に切断した断面を、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)法等の分析方法を用いて分析することもできる。積層型圧電素子の切断面において、金属層をSEM(走査型電子顕微鏡)や金属顕微鏡で観察すると、金属成分だけでなく、ボイドや、セラミック成分等の金属以外の要素も含まれていることがある。このような場合でも、ボイド以外の領域はEPMA法等により分析することができる。
また、積層体13は、断面が多角形の柱状体であるのが好ましい。これは、積層体13が円柱状であると、真円にしなければ中心軸がぶれてしまうため高精度の円を作って積みあげなければならず、同時焼成による量産型の製法を用いるのが困難になる。また、略円形状の積層体を積層後、あるいは焼成後に外周を研磨して円柱状にしても、金属層12の中心軸を高精度にそろえるが困難になる。これに対して、多角形柱状体であれば、基準線を決定した圧電体層11に金属層12を形成することができ、さらに基準線に沿って積層することができるので、駆動の軸である中心軸を量産型の製法をもちいて形成することができるため、耐久性の高い素子とすることができる。
また、本発明においては、金属層12中のパラジウムの含有量をM1(質量%)、銀の含有量をM2(質量%)としたとき、0<M1≦15、85≦M2<100、M1+M2=100を満足する金属組成物を主成分とすることが好ましい。これは、パラジウムが15質量%を超えると、比抵抗が大きくなり、積層型圧電素子を連続駆動させた場合、金属層12が発熱し、該発熱が温度依存性を有する圧電体層11に作用して変位特性を減少させてしまうため、積層型圧電素子の変位量が小さくなる場合があるからである。さらに、外部電極15を形成した際、外部電極15と金属層12とが相互拡散して接合するが、パラジウムが15質量%を超えると、外部電極15中に金属層成分が拡散した箇所の硬度が高くなるため、駆動時に寸法変化する積層型圧電素子においては、耐久性が低下するおそれがあるからである。また、金属層12中の銀の圧電体層11へのマイグレーションを抑制するために、パラジウム金属が0.001質量%以上15質量%以下とすることが好ましい。また、積層型圧電素子の耐久性を向上させるという点では、パラジウムの比率は0.1質量%以上10質量%以下であるのが好ましい。また、熱伝導に優れ、より高い耐久性を必要とする場合はパラジウムの比率を0.5質量%以上9.5質量%以下とするのがより好ましく、さらに高い耐久性を求める場合は2質量%以上8質量%以下とするのがさらに好ましい。
一方、銀の比率が85質量%未満になると、金属層12の比抵抗が大きくなり、積層型圧電素子を連続駆動させた場合、金属層12が発熱する場合がある。また、金属層12中の銀の圧電体層11へのマイグレーションを抑制するために、銀が85質量%以上99.999質量%以下とすることが好ましい。また、積層型圧電素子の耐久性を向上させるという点では、銀の比率が90質量%以上99.9質量%以下であるのが好ましい。また、より高い耐久性を必要とする場合は銀の比率が90.5質量%以上99.5質量%以下であるのがより好ましく、さらに高い耐久性を求める場合は92質量%以上98質量%以下がさらに好ましい。上記の金属層12中の金属成分の質量%を示すパラジウム金属、銀金属はEPMA法等の分析方法で特定できる。
圧電体層11は、ペロブスカイト型酸化物を主成分とすることが好ましい。例えば、圧電体層11がチタン酸バリウム(BaTiO3)を代表とするペロブスカイト型圧電セラミックス材料等で形成されると、その圧電特性を示す圧電歪み定数d33が高いことから、変位量を大きくすることができ、さらに、圧電体層11と金属層12を同時に焼成することもできる。圧電体層11としては、圧電歪み定数d33が比較的高いチタン酸ジルコン酸鉛(PbZrO3−PbTiO3)からなるペロブスカイト型酸化物を主成分とすることが好ましい。
次に、本発明の積層型圧電素子の製法を説明する。まず、PbZrO3−PbTiO3等からなるペロブスカイト型酸化物の圧電セラミックスの仮焼粉末と、アクリル系、ブチラール系等の有機高分子から成るバインダーと、DBP(フタル酸ジブチル)、DOP(フタル酸ジオクチル)等の可塑剤とを混合してスラリーを作製する。ついで、該スラリーを周知のドクターブレード法やカレンダーロール法等のテープ成型法により圧電体層11となるセラミックグリーンシートを作製する。
次に、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して導電性ペーストを作製する。ついで、これを上記各グリーンシートの上面にスクリーン印刷等によって1〜40μmの厚みに印刷する。
このとき、分離電極部16を形成する部分を除いて導電性ペーストを印刷する。分離電極部16を形成する部分は、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して作製した導電性ペーストを1〜10μmの厚みに印刷した上に、金属チタン粉末を含有させたアクリルビーズ等の樹脂ビーズ、あるいは金属チタン粉末を含有させたカーボン粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを1〜10μmの厚みに印刷し、さらに再度、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して作製した導電性ペーストを1〜10μmの厚みに印刷する。
なお、後の焼成プロセスにおいて、金属チタン粉末を含有させたアクリルビーズ等の樹脂ビーズ、あるいは金属チタン粉末を含有させたカーボン粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを印刷した部分は、アクリルビーズやカーボン粉末が焼失すると同時に、周囲の金属層12を構成する金属粉末が焼結する際に、周囲の金属層とアクリルビーズやカーボン粉末が焼失した空間との界面に、金属チタン成分がチタン金属やチタン酸化物となって、焼失した空間を保持する。その後、チタン金属やチタン酸化物が金属層中や圧電体層中に拡散することで、分離金属層のスリットが形成される。なお、チタン金属の代わりに酸化チタン、水素化チタン等のチタン化合物を用いても良いが、焼成後に拡散してスリットと分離電極部との界面に化合物を残さないという点で、分離電極部の応力吸収特性を最も高くすることができるチタン金属が最も好ましい。
さらに、焼成プロセスにおいて分離電極部16のスリットがあるべき場所が癒着して形成されていなかった場合でも、その後のプロセスである分極処理で積層体13が伸びる際に、応力が分離電極部16に加わることで、スリットが形成される。特に分極処理の極性を反転させる分極反転処理を施すことで、素子の伸び縮みを短時間で最も激しくできるので、効果的にスリットが形成される。
もしくは、分離電極部16を形成する部分は、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して作製した導電性ペーストを1〜10μmの厚みに印刷した上に、スパッタ等の薄膜作製手法にて0.1〜5μmの厚みのアルミナ膜、窒化ケイ素膜、シリカ膜を形成した後に、さらに再度、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して作製した導電性ペーストを1〜10μmの厚みに印刷する。なお、後の焼成プロセスにおいて、スパッタ等の薄膜作製手法にて0.1〜5μmの厚みのアルミナ膜、窒化ケイ素膜、シリカ膜を形成した部分は、0.1〜5μmの厚みのアルミナ層、窒化ケイ素層、シリカ層として形成されるので、分離電極部16が形成できる。さらに、アルミナ層、窒化ケイ素層、シリカ層が形成された後に、その後のプロセスである分極処理で積層体13が伸びる際に、応力が分離電極部16に加わることで、アルミナ層、窒化ケイ素層、シリカ層と銀―パラジウム層との間にスリットが形成され、スリットを伴う分離電極部16とすることができる。特に分極処理の極性を反転させる分極反転処理を施すことで、素子の伸び縮みを短時間で最も激しくできるので、スリットが形成される。
もしくは、分離電極部16を形成する部分は、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して作製した導電性ペーストを1〜10μmの厚みに印刷した上に、0.1〜5μmの厚みのアルミナ箔、窒化ケイ素箔、シリカ箔を配置した後に、さらに再度、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して作製した導電性ペーストを1〜10μmの厚みに印刷する。なお、後の焼成プロセスにおいても、0.1〜5μmの厚みのアルミナ箔、窒化ケイ素箔、シリカ箔を配置した部分は、そのまま0.1〜5μmの厚みのアルミナ層、窒化ケイ素層、シリカ層として形成されるので、分離電極部16が形成できる。さらに、アルミナ層、窒化ケイ素層、シリカ層が形成された後に、その後のプロセスである分極処理で積層体13が伸びる際に、応力が分離電極部16に加わることで、アルミナ層、窒化ケイ素層、シリカ層と銀―パラジウム層との間にスリットが形成され、スリットを伴う分離電極部16とすることができる。特に分極処理の極性を反転させる分極反転処理を施すことで、素子の伸び縮みを短時間で最も激しくできるので、効果的にスリットが形成される。
もしくは、分離電極部16を形成する部分は、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して作製した導電性ペーストを1〜10μmの厚みに印刷した上に、BN粉末あるいはクオーツ相のSiO2粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを1〜10μmの厚みに印刷し、さらに再度、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して作製した導電性ペーストを1〜10μmの厚みに印刷する。なお、後の焼成プロセスにおいて、BN粉末あるいはクオーツ相のSiO2粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを1〜10μmの厚みに印刷した部分は、BN層あるいはクオーツ相のSiO2層として形成されので、分離電極部16が形成できる。さらに、BN層あるいはクオーツ相のSiO2層が形成された後に、その後のプロセスである分極処理で積層体13が伸びる際に、応力が分離電極部16に加わることで、BN層あるいはクオーツ相のSiO2層と銀―パラジウム層との間にスリットが形成され、スリットを伴う分離電極部16とすることができる。特に分極処理の極性を反転させる分極反転処理を施すことで、素子の伸び縮みを短時間で最も激しくできるので、効果的にスリットが形成される。
もしくは、分離電極部16を形成する部分は、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して作製した導電性ペーストを1〜10μmの厚みに印刷した上に、W粉末あるいはMo粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを1〜10μmの厚みに印刷し、さらに再度、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して作製した導電性ペーストを1〜10μmの厚みに印刷する。なお、後の焼成プロセスにおいて、W粉末あるいはMo粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを1〜10μmの厚みに印刷した部分は、酸化雰囲気での焼成により酸化されて酸化タングステン、あるいは酸化モリブデン粉末層として形成されので、分離電極部16が形成できる。さらに、酸化タングステン、あるいは酸化モリブデン粉末層が形成された後に、その後のプロセスである分極処理で積層体13が伸びる際に、応力が分離電極部16に加わることで、酸化タングステン、あるいは酸化モリブデン粉末層と銀―パラジウム層との間にスリットが形成され、スリットを伴う分離電極部16とすることができる。また、素子表面に面していれば、超音波洗浄、あるいは塩酸等の溶液でエッチング処理ができるので、スリットを形成することができる。
もしくは、分離電極部16を形成する部分は、他の金属層12よりも銀濃度の高い銀−パラジウム等の金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して作製した導電性ペーストを1〜40μmの厚みに印刷する。なお、後の焼成プロセスにおいて、他の金属層12よりも銀濃度の高い銀−パラジウム粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを1〜40μmの厚みに印刷した部分は、他の銀濃度の低い金属層12に銀が拡散して、分離電極部16を形成する部分は、ボイドだらけの金属層となる。そこで、その後のプロセスである分極処理で積層体13が伸びる際に、応力が分離電極部16に加わることで、ボイドだらけの金属層が裂けてスリットが形成され、スリットを伴う分離電極部16とすることができる。特に分極処理の極性を反転させる分極反転処理を施すことで、素子の伸び縮みを短時間で最も激しくできるので、効果的にスリットが形成される。
このとき、銀−パラジウム等の金属粉末は合金粉末ではなく、銀粉末とパラジウム粉末の混合粉末を用いて組成を調整してもよく、また、銀パラジウムの合金に銀粉末またはパラジウム粉末を加えることで組成を調整してもよいが、はじめから異なる組成の合金粉末を用いる方が、ベースト中の金属分散が均一になり、金属層12および分離電極部16の同一面内の組成分布が均一になるので好ましい。
次に、導電性ペーストが印刷されたグリーンシートを所望の配置で複数積層し、所定の温度で脱バインダーを行った後、900〜1200℃で焼成することによって積層体13が作製される。
不活性層14は、該不活性層14を形成するグリーンシート中に、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末を添加したり、不活性層14を形成するグリーンシートを積層する際に、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末および無機化合物とバインダーと可塑剤からなるスラリーをグリーンシート上に印刷することで、不活性層14とその他の部分の焼結時の収縮挙動ならびに収縮率を一致させることができるので、緻密な積層体13を形成することができる。
なお、積層体13は、上記製法によって作製されるものに限定されるものではなく、複数の圧電体層11と複数の金属層12とを交互に積層してなる積層体13を作製できれば、どのような製法によって形成されても良い。
例えば、図22に示すように、金属層12と圧電体層11とを積層したのち焼成することで積層型圧電素子を作製し、複数の積層型圧電素子を接着剤で接合して積層型圧電素子を連結したものであってもよい。この際に、連結部分の両方の素子表面に部分電極層を形成した後に、電極層同士を導電性接着剤で接合する。このとき、分離電極層を設ける部分には、導電性接着剤を塗布しないように、メタルマスクを用いたり、パターン印刷を行う。このようにすることでスリットを伴う分離電極部16とすることができる。
次に、ガラス粉末にバインダーを加えて銀ガラス導電性ペーストを作製し、これを積層体13の外部電極形成面に印刷し、ガラスの軟化点よりも高い温度、且つ銀の融点(965℃)以下の温度で焼き付けを行う。これにより、銀ガラス導電性ペーストを用いて外部電極15を形成することができる。
このとき、外部電極15を構成するペーストを多層に積層してから焼付けを行っても、1層で焼付けを行っても良いが、多層に積層してから一度に焼付けを行うほうが量産性に優れている。そして、層ごとにガラス成分を変える場合は、層ごとにガラス成分の量を変えたものを用いればよいが、圧電体層11に最も接した面にごく薄くガラスリッチな層を構成したい場合は、積層体13に、スクリーン印刷等の方法でガラスリッチなペーストを印刷した上で、多層のシートを積層する方法が用いられる。
最後に、外部電極15にリード線を接続し、該リード線を介して一対の外部電極15に0.1〜3kV/mmの直流電圧を印加し、積層体13を分極処理することによって、本発明の積層型圧電素子を利用した圧電アクチュエータが完成する。
分極処理をするまでのプロセスにて、分離電極部16のスリットがあるべき場所が癒着して形成されていなかった場合、分極処理で積層体13が伸びる際に、応力が分離電極部16に加わることで、スリットが形成される。さらに、アルミナ層、窒化ケイ素層、シリカ層、BN層あるいはクオーツ相のSiO2層にて分離電極部16が形成された場合においては、このプロセスで、アルミナ層、窒化ケイ素層、シリカ層、BN層あるいはクオーツ相のSiO2層と銀―パラジウム層との間にスリットが形成され、分離電極部16とすることができる。
さらに、積層型圧電素子をシリコーン樹脂等の樹脂で被覆することで、素子表面にスリットが開放された分離電極部16のスリット内に樹脂を充填することができる。
リード線を外部の電圧供給部に接続し、リード線及び外部電極15を介して金属層12に電圧を印加させると、各圧電体層11は逆圧電効果によって大きく変位し、これによって例えばエンジンに燃料を噴射供給する自動車用燃料噴射弁として機能する。
さらに、外部電極15の外面に、金属のメッシュ若しくはくし状の配線を導電性接着剤で接合してもよい。この場合には、アクチュエータに大電流を投入し、高速で駆動させる場合においても、大電流を直接金属層近傍に流すことができ、外部電極15上を流れる電流を低減できる。これにより、外部電極15が局所発熱を起こし断線することを防ぐことができ、耐久性を大幅に向上させることができる。
さらに望ましくは、導電性粒子はフレーク状や針状などの非球形の粒子であるのがよい。導電性粒子の形状をフレーク状や針状などの非球形の粒子とすることにより、該導電性粒子間の絡み合いを強固にすることができ、該導電性接着剤のせん断強度をより高めることができる。
このような製法で、図11〜14のように、金属層12の所望の位置に分離電極部16を形成することができる。
以上のように、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の積層型圧電素子は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々の変更は可能である。
例えば、上記の実施形態では、金属層が全て合金からなる場合について説明したが、一部の金属層が合金からなり、残りの金属層が単一の金属からなる形態であってもよい。また、上記の実施形態では、金属層が同じ成分を含有している場合について説明したが、金属層が主成分の異なる少なくとも二種以上の層からなる形態であってもよい。
<噴射装置>
図4は、本発明の一実施形態にかかる噴射装置を示す概略断面図である。図3に示すように、本実施形態にかかる噴射装置は、一端に噴射孔を有する33を有する収納容器31の内部に上記実施形態に代表される本発明の積層型圧電素子が収納されている。収納容器31内には、噴射孔33を開閉することができるニードルバルブ35が配設されている。噴射孔33には燃料通路37がニードルバルブ35の動きに応じて連通可能に配設されている。この燃料通路37は外部の燃料供給源に連結され、燃料通路37に常時一定の高圧で燃料が供給されている。従って、ニードルバルブ35が噴射孔33を開放すると、燃料通路37に供給されていた燃料が一定の高圧で図示しない内燃機関の燃料室内に噴出されるように構成されている。
また、ニードルバルブ35の上端部は内径が大きくなっており、収納容器31に形成されたシリンダ39と摺動可能なピストン41が配置されている。そして、収納容器31内には、上記した積層型圧電素子を備えた圧電アクチュエータ43が収納されている。
このような噴射装置では、圧電アクチュエータ43が電圧を印加されて伸長すると、ピストン41が押圧され、ニードルバルブ35が噴射孔33を閉塞し、燃料の供給が停止される。また、電圧の印加が停止されると圧電アクチュエータ43が収縮し、皿バネ45がピストン41を押し返し、噴射孔33が燃料通路37と連通して燃料の噴射が行われるようになっている。
また、本発明は、積層型圧電素子および噴射装置に関するものであるが、上記実施例に限定されるものではなく、例えば、自動車エンジンの燃料噴射装置、インクジェット等の液体噴射装置、光学装置等の精密位置決め装置や振動防止装置等に搭載される駆動素子、または、燃焼圧センサ、ノックセンサ、加速度センサ、荷重センサ、超音波センサ、感圧センサ、ヨーレートセンサ等に搭載されるセンサ素子、ならびに圧電ジャイロ、圧電スイッチ、圧電トランス、圧電ブレーカー等に搭載される回路素子以外であっても、圧電特性を用いた素子であれば、実施可能である。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を行うことは何等差し支えない。
実施形態にかかる積層型圧電素子からなる圧電アクチュエータを以下のようにして作製した。
まず、平均粒径が0.4μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PbZrO3−PbTiO3)を主成分とする圧電セラミックの仮焼粉末、バインダー、及び可塑剤を混合したスラリーを作製し、ドクターブレード法で厚み100μmの圧電体層11になるセラミックグリーンシートを作製した。
ついで、このセラミックグリーンシートの片面に、表1に示すように、主に銀−パラジウムからなる合金にバインダーを加えた導電性ペーストをスクリーン印刷法により約10μm形成したシートを300枚積層し、焼成した。焼成条件は、800℃で2時間保持した後に、1000℃で2時間焼成した。
このとき、分離電極部16を形成する部分は、表1に示すように、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して作製した導電性ペーストを印刷した上に、平均粒径1μmの金属チタン粉末を1重量%含有させた平均粒径1μmのアクリルビーズ、あるいは平均粒径1μmの金属チタン粉末を含有させた平均粒径1μmカーボン粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを印刷し、さらに再度、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して作製した導電性ペーストを、図2、5、8、9の形状になるようにパターン印刷する。なお、焼成プロセスにおいて、金属チタン粉末を含有させたアクリルビーズ等の樹脂ビーズ、あるいは金属チタン粉末を含有させたカーボン粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合したペーストを印刷した部分は、スリットとして形成された。
なお、アクリルビーズは、焼成時の温度上昇に伴って比較的低温で燃焼が開始され、消失して図2および図5のスリットとなる。一方、カーボン粉末は、チタン金属と反応しながら燃焼するので、焼成温度が約800℃に達した時点で急激に燃焼し始める。これと同時に周囲の金属層とも液相を形成する。このため、図8及び図9に示すような金属層パターンのない部分を印刷時に予め形成しておいた。これにより、金属層パターンの存在しない部分から燃焼時に生じるガスを効率的に排出することができるようになる。また、カーボン粉末の場合、燃焼が始まる温度がアクリルビーズと比較して高温であるため、金属層成分の焼結がある程度進んだ状態で消失することになる。これにより、アクリルビーズの場合と比較してスリット形状が保持されやすい傾向にある。
分離電極部16を形成する部分は、50層目、100層目、150層目、200層目、250層目になるように配置した。
次に、平均粒径2μmのフレーク状の銀粉末と、残部が平均粒径2μmのケイ素を主成分とする軟化点が640℃の非晶質のガラス粉末との混合物に、バインダーを銀粉末とガラス粉末の合計質量100質量部に対して8質量部添加し、十分に混合して銀ガラス導電性ペーストを作製した。このようにして作製した銀ガラス導電性ペーストを積層体13の外部電極15面に印刷して、700℃で30分焼き付けを行い、外部電極15を形成した。
その後、外部電極15にリード線を接続し、正極及び負極の外部電極15にリード線を介して3kV/mmの直流電界を15分間印加して分極処理を行い、図1に示すような積層型圧電素子を用いた圧電アクチュエータを作製した。
得られた積層型圧電素子に150Vの直流電圧を印加したところ、すべての圧電アクチュエータにおいて、積層方向に変位量が得られた。
さらに、この圧電アクチュエータを室温で0〜+150Vの交流電圧を150Hzの周波数で印加して、1×109回まで連続駆動した試験を行った。
測定後、分離電極部16が露出するように、積層体13を切断して、積層型圧電素子の切断面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察して分離電極部16の構造を確認した。
結果は表1に示すとおりである。なお、表1中の「スリット構成のために用いたペースト」欄において、「アクリルビーズ」と記載している試料については金属チタン粉末を含有させたアクリルビーズを用いたことを示し、「カーボン粉末」と記載している試料については金属チタン粉末を含有させたカーボン粉末を用いたことを示す。
表1に示すように、比較例として、分離電極部16を設けなかった試料番号17は、応力が金属層と圧電体層の境界に集中して金属層間の圧電体を横断する亀裂が生じて変位が小さくなった。
これに対して、本発明の実施例である試料番号1〜16は、1×109回連続駆動させた後も、素子変位量が著しく低下することなく、圧電アクチュエータとして必要とする実効変位量を有し、優れた耐久性を有した圧電アクチュエータを作製できた。
なお、分離電極構造が図8と図9のものは、金属層の一部が欠けたパターンであるため、金属層に接する圧電体において、金属層が接していない部分は電圧が印加されず、駆動できないため若干変位量が小さくなる。また、分離電極の位置が図12と13は他の図14〜19よりも分離電極の領域が狭いことにより応力緩和効果が小さくなり、初期変位量が小さくなっている。