<積層型圧電素子>
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態にかかる積層型圧電素子について詳細に説明する。図1(a)は、本実施形態にかかる積層型圧電素子を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)における圧電体層と金属層との積層状態を示す部分斜視図である。図2は本実施形態にかかる積層型圧電素子の積層構造を示す部分拡大断面図である。
図1および図2に示すように、本実施形態の積層型圧電素子は、複数の圧電体層11と合金を主成分とする複数の金属層12(12a,12b)とを交互に積層してなる積層体13を有し、該積層体13の対向する側面に一対の外部電極15が配設されている(一方の外部電極は不図示)。金属層12は、圧電体層11の主面全体には形成されておらず、
いわゆる部分電極構造となっている。この部分電極構造の複数の金属層12は、一層おきに積層体13の対向する側面にそれぞれ露出するように配置されている。これにより、金属層12は、一層おきに、一対の外部電極15に電気的に接続されている。なお、一対の外部電極15は、隣設する側面に形成してもよい。
また、積層体13の積層方向の両端側には圧電体で形成された不活性層14が積層されている。この積層型圧電素子を圧電アクチュエータとして使用する場合には、一対の外部電極15にリード線を半田によりそれぞれ接続固定し、リード線を外部電圧供給部に接続すればよい。この外部電圧供給部からリード線を通じて隣り合う金属層12間に所定の電圧を印加することにより、各圧電体層11が逆圧電効果によって変位する。一方、不活性層14は一方の主面側に金属層12が配置されているのみであり、他方の主面側には金属層12が配置されていないので、電圧を印加しても変位が生じない。
本実施形態の積層型圧電素子は、図2に示すように、複数の金属層12が、合金を主成分としてなり、合金を構成する一成分の比率が隣り合う両側の金属層12aよりも高い高比率金属層12bを複数含んでいることを特徴としている。すなわち、合金は、組成により軟らかさ(硬さ)を自在に変化させることができるので、複数の金属層12のうちの一部を、高比率金属層12bとすることで、部分的に軟らかさが異なる金属層を配置することができる。これにより、圧電素子に加わる応力を分散させることができるので、応力集中による素子変形の抑圧が緩和され、素子全体の変位を大きくすることができる。また、素子の変形による応力が集中するのを抑制でき、高電界、高圧力下で長期間連続駆動させた場合でも、積層界面においてデラミネーションが生じて破損するのを抑制することができる。
上記したように、本実施形態における「高比率金属層12b」は、合金を構成する一成分の比率(例えば、銀パラジウム合金を構成する銀の比率)が隣り合う両側の金属層12aよりも高い金属層のことである。高比率金属層12bにおける一成分の比率Bは、これに隣り合う両側の金属層12aにおける一成分の比率Aよりも高く設定されていればよいが(B>A)、比率Bが比率Aよりも好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5〜10質量%、さらに好ましくは1〜3質量%高く設定されているのがよい。比率Bが比率Aよりも0.1質量%以上高く設定されているときには、素子に加わる応力を分散させる高い効果を得ることができる。特に、比率Bが比率Aよりも0.5質量%以上高く設定されているときには、その効果が高い。一方、比率Bが比率Aよりも10質量%を超える範囲で高く設定されているときには、高比率金属層12bの熱膨張係数と隣り合う両側の金属層12aの熱膨張係数が異なることで、圧電体層と金属層との間の熱膨張率の差に起因する応力に分布が生じて積層型圧電素子内に応力が集中する箇所が生じるおそれがある。
また、本実施形態の積層型圧電素子では、駆動変形する領域は、圧電体層11のうち、該圧電体層11の両側の主面に配設された金属層12が圧電体層11を介して積層方向に重なり合う領域である。したがって、本発明の効果を得るためには、高比率金属層12bにおける一成分の比率B及び金属層12aにおける一成分の比率Aは、圧電体層11を介して積層方向に重なり合う領域において上記関係を満足していればよい。これにより、応力集中による素子変形の抑圧が緩和されるので、圧電素子全体の変位量を大きくすることができる。また、圧電素子の変形による応力集中を抑制できるので、高電界、高圧力下で長時間連続駆動させた場合であっても積層部分におけるデラミネーションを抑制することができる。さらに、圧電素子の変位(寸法変化)が揃った場合に生じる共振現象を抑制することができるので、うなり音発生を防止することができるだけでなく、高調波信号の発生を防止することができるので、制御信号のノイズを抑止することができる。
さらには、高比率金属層12bを複数配置することで、積層型圧電素子13の変位の大きさを制御できるので、圧電体層11の厚みを変える必要がなく、量産性に有効な構造とすることができる。
金属層12の合金組成は、以下のようにして測定することができる。すなわち、金属層12が露出するように、金属層12と圧電体層11との界面で積層体13を切断するなどして、金属層12の一部を採取し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析等の化学分析をすることで測定できる。また、積層型圧電素子を積層方向に切断した断面を、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)法等の分析方法を用いて分析することもできる。積層型圧電素子の切断面において、金属層をSEM(走査型電子顕微鏡)や金属顕微鏡で観察すると、金属成分だけでなく、ボイドや、セラミック成分等の金属以外の要素も含まれていることがある。このような場合には、金属のみで構成された部分をEPMA法等により分析すればよい。これにより、高比率金属層12bとそれ以外の金属層12aの合金比率を特定できる。
また、複数の高比率金属層12bは、該高比率金属層12b以外の他の金属層12aを1層又は複数層挟んでそれぞれ配置されている。例えば金属層12を構成する合金が銀パラジウムで、前記一成分が銀である場合には、以下の理由から複数の高比率金属層12bは、該高比率金属層12b以外の他の金属層12aを複数層挟んでそれぞれ配置されているのが好ましい。すなわち、高比率金属層12bと他の金属層12aが1層ずつ交互に連続して配置されていると、積層型圧電素子13内部の応力は全ての金属層12に対して均一に分散するというメリットがある。一方、高比率金属層12bは、他の金属層12aと比較して銀比率が高いことに起因して層自体が柔らかいので、高比率金属層12bが他の金属層12aと同程度の層数存在すると駆動変位が緩和される作用も大きくなり、駆動変位量が低下する傾向にある。したがって、複数の高比率金属層12bを、高比率金属層以外の他の金属層12aを複数層挟んでそれぞれ配置させることで、他の金属層12aを複数層挟んだ部分で圧電変位を大きくさせることができ、さらに、複数の高比率金属層12bの部分で応力緩和を可能とするので、素子全体の変位を大きくすることができるだけでなく、素子の変形による応力が集中することを抑制でき、高電界、高圧力下で長期間連続駆動させた場合でも、積層部分がはがれることがない。
また、金属層12を構成する合金は、周期律表8〜10族金属および/または11族金属を主成分とすることで、圧電体と金属層とを同時焼成することが可能となり、接合界面を強固に結合できるだけでなく、素子が変位して金属層に応力が加わっても、金属層自体が伸縮できるので、応力が一点に集中することがなく、耐久性に優れた高信頼性の圧電アクチュエータを提供することができる。金属層12を構成する合金は、特に、銀パラジウム合金であり、上記一成分が銀であるのが好ましい。これは、酸化雰囲気で焼成して積層型圧電体素子13を得ることができるというだけでなく、銀とパラジウムは全率固溶する金属なので、金属層一面にわたって不安定な金属間化合物を形成することなく応力緩和効果を有する柔らかい高比率金属層12bを形成することが可能となる。特に、高比率成分となる金属が銀であることで、積層型圧電素子を焼結する際には、セラミックスの液相成分に銀が固溶して、液相形成温度を低下させて焼結を進行させることが可能になる。これにより、金属層12と圧電体層11との相互結合力を強固なものとすることができる。さらに、合金化することで、単元素よりも耐マイグレーション性の強い金属層12を形成することが可能となり、耐久性のある積層型圧電体素子とすることができる。
さらに、複数の高比率金属層12bは規則的に配置されていることが好ましい。不規則に配置されると、積層型圧電素子全体に加わる応力が、高比率金属層同士の間隔が広い部分に集中して、応力分散の効果が十分に得られないおそれがある。高比率金属層12bを規則的に配置することで、積層型圧電素子に加わる応力が効果的に分散される。ここで、
本発明において「高比率金属層が規則的に配置されている」とは、高比率金属層12b間に存在する他の金属層12aの層数がいずれの高比率金属層12b間においても同じである場合はもちろんのこと、一部に応力が集中しない程度に、高比率金属層12b間に存在する他の金属層12aの層数が近似している場合も含む概念である。具体的には、高比率金属層12b間に存在する他の金属層12aの層数は、好ましくは各層数の平均値に対して±20%の範囲内、より好ましくは各層数の平均値に対して±10%の範囲内、さらに好ましくはすべて同数であるのがよい。高比率金属層12b間に存在する他の金属層12aの層数が、上記範囲内にあることで、積層型圧電素子に加わる応力がより効果的に分散される。
また、高比率金属層12bと圧電体層11との密着力は、高比率金属層以外の他の金属層12aと圧電体層11との密着力よりも低く設定されているのが好ましい。このように高比率金属層12bの密着力が他の金属層12aよりも低いことで、積層型圧電素子に応力が加わった際に、密着力の弱い高比率金属層12bが変形して応力が緩和される。また、密着力の弱い高比率金属層12bに接する圧電体層11は、当該高比率金属層12bとの接触面積が小さくなることで圧電体11を拘束する力が小さくなる。これによっても積層型圧電素子にかかる応力を緩和するとともに、応力の一点集中をさけることができるので、耐久性に優れた積層型圧電素子とすることができる。
さらに、高比率金属層12bは、ビッカース硬さ(Hv)が他の金属層12aよりも低く設定されているのが好ましい。高比率金属層12bのビッカース硬さ(Hv)が他の金属層12aよりも低い、すなわち他の金属層12aよりも柔らかい金属層とすることで、圧電素子を駆動させた際に、高比率金属層12bは、これに接する圧電体層11を拘束する力が弱くなり、圧電体層11は変位を大きくすることが可能となる。そのために、耐久性が高く、変位の大きい積層型圧電素子とすることができる。
本実施形態にかかる積層型圧電素子では、金属層12の積層方向の厚みが薄いため、金属層12のビッカース硬さは以下のようにして測定される。すなわち、ビッカース硬さを測定する際は、例えば明石製作所製MVK−H3型などのマイクロビッカース測定器を使用する。金属層12のビッカース硬さを測定するには、金属層12と圧電体層11の界面付近で積層型圧電素子を切断して、金属層12の部分にダイヤモンド圧子を押し込んで測定することもできるが、下地である圧電体層11の影響を受けないようにするためには、金属層12の積層方向に垂直な方向から、金属層12にダイヤモンド圧子を押し込むのが好ましい。圧電素子の側面から金属層12が露出している場合は、ダイヤモンド圧子と金属層12の積層方向が垂直になるように積層型圧電素子を設置して、ダイヤモンド圧子を金属層12に直接押し込んで硬度を測定する。一方、圧電素子の側面から金属層12が露出していない場合は、金属層12が見えるまで素子を研磨した後、上記と同様にして硬度を測定する。金属層12を露出させるためには、研磨以外に、ダイシングソーマシーンでの切断や、リューター等の利用が考えられるが、クラック等を生じさせずに平坦な面を形成できる手法であれば、特に手法は限定するものではない。
また、2つの高比率金属層12bの間には、該高比率金属層以外の他の金属層12aが複数配置されており、当該他の金属層からなる群には、合金を構成する一成分の濃度が高比率金属層側から漸次減少する傾斜濃度領域が存在しているのが好ましい。このような傾斜濃度領域が存在することで、積層型圧電素子の応力が高比率金属層12bに集中しつつ、その近傍の金属層12a(傾斜濃度領域の金属層12a)にも応力を分散させることができるので、さらに耐久性の高い積層型圧電素子とすることができる。さらに、全ての高比率金属層12b間において、上記傾斜濃度領域が存在するのがさらに耐久性を高める点でより好ましい。一方、合金を構成する一成分の比率が、高比率金属層12bとこれに隣り合う金属層12aとにおいて極端に異なっていると、応力緩和層となる高比率金属層1
2bに応力が集中しやすくなるおそれがある。
本発明では、金属層12が多数のボイドを有していることが好ましい。金属層12に金属成分以外の絶縁物質が含有すると、圧電素子を駆動させた際に、圧電体層11に電圧を印加できない部分が生じて圧電変位を大きくできないおそれがあるだけでなく、絶縁物質の部分に駆動時の応力が集中してデラミネーションの起点となるおそれがある。一方、金属層12が多数のボイドを有していると、金属部分に応力が加わった際に、ボイドの部分があることで金属が変形しやすくなり応力を分散緩和することができる。また、金属層12に接する圧電体層11が圧電変位する際、ボイドの部分があることで、圧電体層11を部分的にクランプすることになり、全面でクランプするときよりも圧電体層11が束縛される力が小さくなって変位しやすくなり、変位量を大きくすることができる。これにより、圧電素子の変位量がより大きく、しかも耐久性の高い積層型圧電体素子とすることができる。
特に、高比率金属層以外の他の金属層12aにボイドを設け、該金属層の断面における全断面積に対するボイドの占める面積比が5〜70%であることが好ましい。これは、ボイドを高比率金属層以外の他の金属層12aの面積に対して5〜70%占めるようにすると、変位量が大きくなり、変位特性に優れた積層型圧電素子を得ることができるからである。
ここで、上述した金属層の面積に対するボイドの占める割合(ボイド率)は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)、金属顕微鏡、光学顕微鏡などを用いて、積層型圧電素子における積層方向に平行な断面又は積層方向に垂直な断面を観察して断面画像を得、この断面画像を評価すればよい。その切断面において、金属層の部分に存在する空隙(ボイド)の面積を測定し、そのボイドの面積の総和を金属層の面積で除した値を100倍したものである。
他の金属層12aのボイド率が5%より小さいと圧電体層11が電界を印加されて変形する際に金属層12aから大きな拘束力を受け、圧電体層11の変形が抑制され、積層型圧電素子の変形量が小さくなって、発生する内部応力も大きくなるおそれがある。一方、他の金属層12aのボイド率が70%より大きいと、電極部分に極端に細い部分が生じる為、金属層自体の強度が低下し、金属層12aにクラックが生じやすくなり、断線等を生じる恐れがある。ボイド率は、より好ましくは7〜70%、さらに好ましくは10〜60%であるのがよい。このようにすることで、圧電体層11をよりスムーズに変形できるとともに、金属層12は導電性を充分に有しているため、積層型圧電素子の変位量を増大させることができる。
また、高比率金属層12bの断面における全断面積に対するボイドの占める面積比は20〜90%であることが好ましい。これは、ボイドを高比率金属層12bの面積に対して20〜90%占めるようにすると、さらに変位量が大きくなり、変位量に優れた積層型圧電素子を得ることができるからである。
さらに、金属層12が主に金属とボイドから構成されていると、金属もボイドもどちらも応力に対して変形可能であるため、さらに耐久性の高い積層型圧電素子とすることができる。特に、高比率金属層以外の他の金属層12aよりも高比率金属層12bが主に金属とボイドから構成されていると、金属もボイドもどちらも応力に対して変形可能であるため、応力緩和効果が向上し、さらに耐久性の高い積層型圧電素子とすることができる。
ボイド率の具体的な測定方法は次の通りである。すなわち、ボイド率を測定する方法は大きく分けて次の2つある。第1の方法は、積層体13を積層方向に平行な面で切ったと
きの断面を観察する方法であり、第2の方法は、積層体13を積層方向に垂直な面で切ったときの断面を観察する方法である。
ボイド率を第1の方法で測定するには、例えば以下のようにして行えばよい。まず、積層方向に平行な断面が露出するように、積層体13を公知の研磨手段を用いて研磨処理する。具体的には、例えば研磨装置としてケメット・ジャパン(株)社製卓上研磨機KEMET−V−300を用いてダイヤモンドペーストで研磨することができる。この研磨処理により露出した断面を、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)、光学顕微鏡、金属顕微鏡、光学顕微鏡などにより観察して断面画像を得、この断面画像を画像処理することによって金属層のボイド率を測定することができる。具体例を挙げると、光学顕微鏡にて撮影した金属層の画像に対して、空隙部分を黒色に塗りつぶし、空隙以外の部分を白色に塗りつぶし、黒色部分の比率、即ち、(黒色部分の面積)/(黒色部分の面積+白色部分の面積)を求め、百分率で表すことによりボイド率を算出することができる。例えば、断面画像がカラーである場合は、グレースケールに変換して黒色部分と白色部分に分けるとよい。このとき、黒色部分と白色部分に2階調化するための境界の敷居値を設定する必要がある場合には、画像処理ソフトウェアや目視により境界の敷居値を設定して2値化すればよい。
また、ボイド率を第2の方法で測定するには、例えば以下のようにして行えばよい。まず、ボイド率を測定したい金属層の断面(積層方向に垂直な断面)が露出するまで、公知の研磨装置を用いて積層体13の積層方向に研磨する。具体的には、例えば研磨装置としてケメット・ジャパン(株)社製卓上研磨機KEMET−V−300を用いてダイヤモンドペーストで研磨することができる。この研磨処理により露出した断面を、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)、光学顕微鏡、金属顕微鏡、光学顕微鏡などにより観察して断面画像を得、この断面画像を画像処理することによって金属層のボイド率を測定することができる。具体的には、光学顕微鏡にて撮影した金属層の画像に対して、空隙部分を黒色に塗りつぶし、空隙以外の部分を白色に塗りつぶし、黒色部分の比率、即ち、(黒色部分の面積)/(黒色部分の面積+白色部分の面積)を求め、百分率で表すことによりボイド率を算出することができる。例えば、断面画像がカラーである場合は、グレースケールに変換して黒色部分と白色部分に分けるとよい。このとき、黒色部分と白色部分に2階調化するための境界の敷居値を設定する必要がある場合には、画像処理ソフトウェアや目視により境界の敷居値を設定して2値化すればよい。なお、金属層の断面を観察する際には、これらの厚みの約1/2の位置まで研磨し、これにより露出した断面を観察するのが好ましい。ただし、金属層の厚みが薄く、かつ、厚みのばらつきが比較的大きな場合には、研磨処理により金属層の断面全体を露出させることができないことがある。このような場合には、金属層の一部が露出するまで研磨処理した時点で、その露出部分を観察して断面画像を得た後、さらに研磨を進めて、既に観察した部分を除く他の部分を観察するという操作を複数回繰り返してもよい。このようにして複数回の操作で得た観察画像を足し合わせて金属層の断面全体が観察できればよい。
また、高比率金属層12bは、複数の合金が点在した形態であるのがより好ましい。すなわち、高比率金属層12bは、複数個の導体領域が島状に点在して構成されているのがよい。高比率金属層12bが複数の導体領域の点在した形態であることで、積層型圧電素子13の応力が金属層12に加わっても、高比率金属層12b内での応力伝播が抑制でき、高比率金属層12bのなかでも特に応力が集中する箇所を生み出さないので、応力緩和と、耐久性を両立することができる。一方、高比率金属層12bが連続した一枚の層からなる場合には、積層型圧電素子13の応力が、高比率金属層12bに集中した際に、圧電体層11との界面のうち、圧電素子の側面に面した部分にその応力が伝播集中するため、特に応力が集中する箇所が発生してしまうおそれがある。
また、金属層12を積層体13の側面に露出させることが好ましい。これは、金属層1
2が素子側面で露出していない部分では、金属層12の露出していない箇所は、駆動時に変位できないことから、駆動時に変位する領域が素子内部に閉じ込められているために変位時の応力が前記境界に集中しやすくなり、耐久性に問題が生じるので好ましくないからである。
積層体13は、断面が多角形の柱状体であるのが好ましい。これは、積層体13が円柱状であると、真円にしなければ中心軸がぶれてしまうため高精度の円を作って積みあげなければならず、同時焼成による量産型の製法を用いるのが困難になる。また、略円形状の積層体を積層後、あるいは焼成後に外周を研磨して円柱状にしても、金属層12の中心軸を高精度にそろえるが困難になる。これに対して、多角形柱状体であれば、基準線を決定した圧電体層11に金属層12を形成することができ、さらに基準線に沿って積層することができるので、駆動の軸である中心軸を量産型の製法をもちいて形成することができるため、耐久性の高い素子とすることができる。
また、本発明においては、金属層12中のパラジウムの含有量をM1(質量%)、銀の含有量をM2(質量%)としたとき、0<M1≦15、85≦M2<100、M1+M2=100を満足する金属組成物を主成分とすることが好ましい。これは、パラジウムが15質量%を超えると、比抵抗が大きくなり、積層型圧電素子を連続駆動させた場合、金属層12が発熱し、該発熱が温度依存性を有する圧電体層11に作用して変位特性を減少させてしまうため、積層型圧電素子の変位量が小さくなる場合があるからである。さらに、外部電極15を形成した際、外部電極15と金属層12とが相互拡散して接合するが、パラジウムが15質量%を超えると、外部電極15中に金属層成分が拡散した箇所の硬度が高くなるため、駆動時に寸法変化する積層型圧電素子においては、耐久性が低下するおそれがあるからである。また、金属層12中の銀の圧電体層11へのマイグレーションを抑制するために、パラジウム金属が0.001質量%以上15質量%以下とすることが好ましい。また、積層型圧電素子の耐久性を向上させるという点では、パラジウムの比率は0.1質量%以上10質量%以下であるのが好ましい。また、熱伝導に優れ、より高い耐久性を必要とする場合はパラジウムの比率を0.5質量%以上9.5質量%以下とするのがより好ましく、さらに高い耐久性を求める場合は2質量%以上8質量%以下とするのがさらに好ましい。
一方、銀の比率が85質量%未満になると、金属層12の比抵抗が大きくなり、積層型圧電素子を連続駆動させた場合、金属層12が発熱する場合がある。また、金属層12中の銀の圧電体層11へのマイグレーションを抑制するために、銀が85質量%以上99.999質量%以下とすることが好ましい。また、積層型圧電素子の耐久性を向上させるという点では、銀の比率が90質量%以上99.9質量%以下であるのが好ましい。また、より高い耐久性を必要とする場合は銀の比率が90.5質量%以上99.5質量%以下であるのがより好ましく、さらに高い耐久性を求める場合は92質量%以上98質量%以下がさらに好ましい。上記の金属層12中の金属成分の質量%を示すパラジウム金属、銀金属はEPMA法等の分析方法で特定できる。
圧電体層11は、ペロブスカイト型酸化物を主成分とすることが好ましい。例えば、圧電体層11がチタン酸バリウム(BaTiO3)を代表とするペロブスカイト型圧電セラミックス材料等で形成されると、その圧電特性を示す圧電歪み定数d33が高いことから、変位量を大きくすることができ、さらに、圧電体層11と金属層12を同時に焼成することもできる。圧電体層11としては、圧電歪み定数d33が比較的高いPbZrO3−PbTiO3からなるペロブスカイト型酸化物を主成分とすることが好ましい。
さらに、焼成温度は、900℃以上1000℃以下であることが好ましい。これは、焼成温度が900℃以下では、焼成温度が低いため焼成が不十分となり、緻密な圧電体層1
1を作製することが困難になる。また、焼成温度が1000℃を超えると、金属層12と圧電体層11接合強度が大きくなるからである。
また、本発明の積層型圧電素子の側面に端部が露出する金属層12と端部が露出しない金属層12とが交互に構成されており、前記端部が露出していない金属層12と外部電極15間の圧電体層11に溝が形成されており、この溝内に、圧電体層11よりもヤング率の低い絶縁体が形成されていることが好ましい。これにより、このような積層型圧電素子では、駆動中の変位によって生じる応力を緩和することができることから、連続駆動させても、金属層12の発熱を抑制することができる。
次に、本発明の積層型圧電素子の製法を説明する。
まず、PbZrO3−PbTiO3等からなるペロブスカイト型酸化物の圧電セラミックスの仮焼粉末と、アクリル系、ブチラール系等の有機高分子から成るバインダーと、DBP(フタル酸ジブチル)、DOP(フタル酸ジオクチル)等の可塑剤とを混合してスラリーを作製する。ついで、該スラリーを周知のドクターブレード法やカレンダーロール法等のテープ成型法により圧電体層11となるセラミックグリーンシートを作製する。
次に、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末にバインダー、可塑剤等を添加混合して導電性ペーストを作製する。ついで、これを上記各グリーンシートの上面にスクリーン印刷等によって1〜40μmの厚みに印刷する。
ここで、高比率金属層12bを形成する導電性ペーストは、該導電性ペーストに含まれる金属粉末のうち一成分の量を、他の金属層12aを形成する導電性ペーストに含まれる一成分の量よりも多くする。具体的には、合金として銀−パラジウムを用いて高比率金属層12bの銀成分を多くする場合には、合金組成中の銀成分が多い金属ペーストで高比率金属層12bを形成し、合金組成中の銀成分が少ない金属ペーストで高比率金属層以外の他の金属層12aを形成する。このとき、合金粉末ではなく、銀粉末とパラジウム粉末の混合粉末を用いて組成を調整してもよく、また、銀パラジウムの合金に銀粉末またはパラジウム粉末を加えることで組成を調整してもよいが、はじめから異なる組成の合金粉末を用いる方が、ペースト中の金属分散が均一になり、金属層12の同一面内の組成分布が均一になるので好ましい。
次に、導電性ペーストが印刷されたグリーンシートを所望の配置で複数積層し、所定の温度で脱バインダーを行った後、900〜1200℃で焼成することによって積層体13が作製される。
不活性層14は、該不活性層14を形成するグリーンシート中に、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末を添加したり、不活性層14を形成するグリーンシートを積層する際に、銀−パラジウム等の金属層12を構成する金属粉末および無機化合物とバインダーと可塑剤からなるスラリーをグリーンシート上に印刷することで、不活性層14とその他の部分の焼結時の収縮挙動ならびに収縮率を一致させることができるので、緻密な積層体13を形成することができる。
なお、積層体13は、上記製法によって作製されるものに限定されるものではなく、複数の圧電体層11と複数の金属層12とを交互に積層してなる積層体13を作製できれば、どのような製法によって形成されても良い。
その後、必要に応じて、積層型圧電素子の側面に端部が露出する金属層12と端部が露出しない金属層12とを交互に形成して、端部が露出していない金属層12と外部電極1
5間の圧電体部分に溝を形成して、この溝内に、圧電体層11よりもヤング率の低い、樹脂またはゴム等の絶縁体を形成してもよい。ここで、上記溝は内部ダイシング装置等で積層体13の側面に形成できる。
次に、ガラス粉末にバインダーを加えて銀ガラス導電性ペーストを作製し、これをシート状に成形し、乾燥した(溶媒を飛散させた)シートの生密度を6〜9g/cm3に制御する。このシートを積層体13の外部電極形成面に転写し、ガラスの軟化点よりも高い温度、且つ銀の融点(965℃)以下の温度で、且つ積層体13の焼成温度(℃)の4/5以下の温度で焼き付けを行う。これにより、銀ガラス導電性ペーストを用いて作製したシート中のバインダー成分が飛散消失し、3次元網目構造をなす多孔質導電体からなる外部電極15を形成することができる。
このとき、外部電極15を構成するペーストを多層のシートに積層してから焼付けを行っても、1層ごとに積層しては焼付けを行っても良いが、多層のシートに積層してから一度に焼付けを行うほうが量産性に優れている。そして、層ごとにガラス成分を変える場合は、シートごとにガラス成分の量を変えたものを用いればよいが、圧電体層11に最も接した面にごく薄くガラスリッチな層を構成したい場合は、積層体13に、スクリーン印刷等の方法でガラスリッチなペーストを印刷した上で、多層のシートを積層する方法が用いられる。このとき、印刷のかわりに5μm以下のシートを用いても良い。
なお、前記銀ガラス導電性ペーストの焼き付け温度は、ネック部(結晶粒の括れた部分)を有効的に形成し、銀ガラス導電性ペースト中の銀と金属層12を拡散接合させ、また、外部電極15中の空隙を有効に残存させ、さらには、外部電極15と柱状の積層体13側面とを部分的に接合させるという点から、500〜800℃が望ましい。また、銀ガラス導電性ペースト中のガラス成分の軟化点は、500〜800℃が望ましい。ネック部が存在すると、過度に緻密な焼結体とはならず、適度に隙間が存在する網目状の構造となる。
焼き付け温度が800℃より高い場合には、銀ガラス導電性ペーストの銀粉末の焼結が進みすぎ、有効的な3次元網目構造をなす多孔質導電体を形成することができず、外部電極15が緻密になりすぎてしまい、結果として外部電極15のヤング率が高くなりすぎ駆動時の応力を十分に吸収することができずに外部電極15が断線してしまう可能性がある。好ましくは、ガラスの軟化点の1.2倍以内の温度で焼き付けを行った方がよい。一方、焼き付け温度が500℃よりも低い場合には、金属層12端部と外部電極15の間で十分に拡散接合がなされないために、ネック部が形成されず、駆動時に金属層12と外部電極15の間でスパークを起こしてしまう可能性がある。
次に、外部電極15を形成した積層体13をシリコーンゴム溶液に浸漬するとともに、シリコーンゴム溶液を真空脱気することにより、積層体13の溝内部にシリコーンゴムを充填し、その後シリコーンゴム溶液から積層体13を引き上げ、積層体13の側面にシリコーンゴムをコーティングする。その後、溝内部に充填、及び積層体13の側面にコーティングしたシリコーンゴムを硬化させることにより、本実施形態の積層型圧電素子が完成する。
最後に、外部電極15にリード線を接続し、該リード線を介して一対の外部電極15に0.1〜3kV/mmの直流電圧を印加し、積層体13を分極処理することによって、本発明の積層型圧電素子を利用した圧電アクチュエータが完成する。リード線を外部の電圧供給部に接続し、リード線及び外部電極15を介して金属層12に電圧を印加させると、各圧電体層11は逆圧電効果によって大きく変位し、これによって例えばエンジンに燃料を噴射供給する自動車用燃料噴射弁として機能する。
さらに、外部電極15の外面に、金属のメッシュ若しくはメッシュ状の金属板が埋設された導電性接着剤からなる導電性補助部材を形成してもよい。この場合には、外部電極15の外面に導電性補助部材を設けることによりアクチュエータに大電流を投入し、高速で駆動させる場合においても、大電流を導電性補助部材に流すことができ、外部電極15に流れる電流を低減できる。これにより、外部電極15が局所発熱を起こし断線することを防ぐことができ、耐久性を大幅に向上させることができる。さらには、導電性接着剤中に金属のメッシュ若しくはメッシュ状の金属板を埋設しているため、導電性接着剤に亀裂が生じるのを防ぐことができる。金属のメッシュとは金属線を編み込んだものであり、メッシュ状の金属板とは、金属板に孔を形成してメッシュ状にしたものをいう。
また、導電性補助部材を構成する導電性接着剤は銀粉末を分散させたポリイミド樹脂からなることが望ましい。即ち、比抵抗の低い銀粉末を、耐熱性の高いポリイミド樹脂に分散させることにより、高温での使用に際しても、抵抗値が低く且つ高い接着強度を維持した導電性補助部材を形成することができる。
さらに望ましくは、導電性粒子はフレーク状や針状などの非球形の粒子であるのがよい。導電性粒子の形状をフレーク状や針状などの非球形の粒子とすることにより、該導電性粒子間の絡み合いを強固にすることができ、該導電性接着剤のせん断強度をより高めることができる。
以上のように、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の積層型圧電素子は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々の変更は可能である。
例えば、上記第1の実施形態では、金属層が全て合金からなる場合について説明したが、後述する第2の実施形態のように一部の金属層が合金からなり、残りの金属層が単一の金属からなる形態であってもよい。また、上記第1の実施形態では、金属層が同じ成分を含有している場合について説明したが、後述する第3の実施形態のように金属層が主成分の異なる少なくとも二種以上の層からなる形態であってもよい。
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態にかかる積層型圧電素子について説明する。なお、第2の実施形態の説明では、上記した第1の実施形態と異なる構成についてのみ記載する。
図3は、第2の実施形態にかかる積層型圧電素子の積層構造を示す部分拡大断面図である。本実施形態の積層型圧電素子では、複数の圧電体層11と複数の金属層12(12c、12d)とが交互に積層された積層体13を有し、複数の金属層12は、金属層12を構成する少なくとも一成分の比率が、隣り合う両側の金属層12cよりも高い高比率金属層12dを複数含んでいることを特徴としている。
このような高比率金属層12dを複数含んでいることで、積層体13において部分的に軟らかさ(硬さ)が異なる金属層を配置することができるので、圧電素子に加わる応力を分散させることができる。そのため、応力集中による素子変形の抑圧が緩和されることで、素子全体の変位を大きくすることができるだけでなく、素子の変形による応力が集中することを抑制でき、高電界、高圧力下で長期間連続駆動させた場合でも、積層部分がはがれるのを抑制することができる。
さらに圧電体層11のうち、駆動変形する箇所が、金属層11に挟まれた箇所であることから、好ましくは、金属層12のうち圧電体層11を介して重なりあう部分に、金属組
成の異なる金属層を形成することで、素子の寸法変化である変位がそろった場合に発生する共振現象を抑止することができるので、うなり音発生を防止することができるだけでなく、高調波信号の発生を防止することができるので、制御信号のノイズを抑止することができる。さらには、金属層12の金属組成を変化させることで、積層型圧電素子13の変位の大きさを制御できるために、圧電体層11の厚みを変える必要もないことで、量産性に有効な構造とすることができる。ここで、金属層の金属組成は、前記と同様の方法で測定できる。
また、複数の高比率金属層12dは、該高比率金属層12d以外の他の金属層12cを複数層挟んでそれぞれ配置されているのが好ましい。高比率金属層12dと他の金属層12cが1層ずつ交互に連続して配置されると、積層型圧電素子13内部の応力は全ての金属層11に対して均一に分散するが、同時に積層型圧電素子を駆動させた際に、駆動変位量も緩和することになる。したがって、複数の高比率金属層12dが他の金属層12cを複数層挟んでそれぞれ配置されることで、他の金属層12cを複数層挟んだ部分で圧電変位を大きくさせることができ、さらに、複数の高比率金属層12dの部分で応力緩和を可能とする。これにより、素子全体の変位を大きくすることができるだけでなく、素子の変形による応力が集中することを抑制でき、高電界、高圧力下で長期間連続駆動させた場合でも、積層部分がはがれるのを抑制できる。
具体的には、金属層12を構成する一成分が銀であり、他の金属層12cが銀パラジウム合金からなり、高比率金属層12dが銀からなるのが好ましい。これは、酸化雰囲気で積層型圧電体素子13を焼成して構成することができるというだけでなく、銀パラジウム合金は、全率固溶する合金なので、金属層一面にわたって不安定な金属間化合物を形成せずに応力緩和効果となる柔らかい金属層を形成することが可能となる。特に、高比率成分となる金属が銀であることで、積層型圧電素子を焼結する際には、セラミックの液相成分に銀が固溶して、液相形成温度を低下させて焼結を進行させることが可能になる。これにより、金属層12と圧電体層11との相互結合力を強固なものとすることができる。さらに、合金化することで、単元素よりも耐マイグレーション性の強い金属層を形成することが可能となり、耐久性のある積層型圧電体素子とすることができる。
このように高比率金属層12dが主に銀からなり、高比率金属層以外の他の金属層12cが主に銀パラジウム合金からなることで、最も応力緩和効果が大きくなる。圧電体層11を挟んで主に銀からなる高比率金属層12dが隣り合う場合、銀のマイグレーションから絶縁不良が生じることがあるが、この場合、主に銀からなる高比率金属層12dのとなりの金属層は主に銀パラジウム合金からなる金属層12cであるので、銀がマイグレーションしようとしても、パラジウムと結合して、浮遊する銀イオンを消滅させて安定化させるために、マイグレーションによる絶縁不良が発生せずに、耐久性の高い積層型圧線素子とすることができる。
また、第1の実施形態と同様に理由から、複数の高比率金属層12dが規則的に配置されているのが好ましく、さらに、高比率金属層12dと圧電体層11との密着力が、他の金属層12cと圧電体層11との密着力よりも低いことが好ましい。また、2つの高比率金属層12dの間には、他の金属層12cが複数配置されており、当該他の金属層12cからなる群には、一成分の濃度が高比率金属層12d側から漸次減少する傾斜濃度領域が存在することが好ましい。さらに、金属層12が多数のボイドを有していることが好ましく、さらに、高比率金属層12dが島状に点在する複数個の導体膜で構成されることが好ましい。
また、第2の実施形態においては、金属層12c中のパラジウムの含有量をM1(質量%)、銀の含有量をM2(質量%)としたとき、0≦M1≦15、85≦M2≦100、
M1+M2=100を満足する金属組成物を主成分とすることが好ましい。これは、パラジウムが15質量%を超えると、比抵抗が大きくなり、積層型圧電素子を連続駆動させた場合、金属層12が発熱し、該発熱が温度依存性を有する圧電体層11に作用して変位特性を減少させてしまうため、積層型圧電素子の変位量が小さくなる場合があるからである。
さらに、外部電極15を形成した際、外部電極15と金属層12とが相互拡散して接合するが、パラジウムが15質量%を超えると、外部電極15中に金属層成分が拡散した箇所の硬度が高くなるため、駆動時に寸法変化する積層型圧電素子においては、耐久性がおちるからである。
第2の実施形態にかかる積層型圧電素子の製法は、高比率金属層12dを形成する導電ペーストに銀粉末を配合する以外は、第1の実施形態と同様にすればよい。
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態にかかる積層型圧電素子について説明する。なお、第3の実施形態の説明では、上記した第1の実施形態と異なる構成についてのみ記載する。
図4は、第3の実施形態にかかる積層型圧電素子の積層構造を示す部分拡大断面図である。本実施形態の積層型圧電素子では、複数の圧電体層11と複数の金属層12とが交互に積層された積層体13を有し、複数の金属層12は主成分が異なる二種の金属層12e及び12fからなり、金属層12fが、他の金属層12eを複数層挟んだ状態で、複数配置されていることを特徴としている。
金属層は組成により軟らかさ(硬さ)を自在に変化させることができる。第3の実施形態では、主成分が異なる二種の金属層12e及び金属層12fが上記のように配置されていることで、部分的に軟らかさが異なる金属層を配置することができるので、素子に加わる応力を分散させることができる。そのため、応力集中による素子変形の抑圧が緩和されることで、素子全体の変位を大きくすることができるだけでなく、素子の変形による応力が集中することを抑制でき、高電界、高圧力下で長期間連続駆動させた場合でも、積層部分がはがれるのを抑制できる。
具体的には、金属層12fが銀パラジウム合金を主成分とし、他の金属層12eが銅を主成分とするのが好ましい。このような形態とすることで、窒素雰囲気等の還元雰囲気中で積層型圧電体素子13を焼成して構成することができるというだけでなく、銀と銅とパラジウムとが全率固溶する金属なので、金属層一面にわたって不安定な金属間化合物を形成せずに応力緩和効果となる柔らかい金属層を形成することが可能となる。特に、他の金属層12cを複数層挟んだ金属層12fが銀パラジウム合金を主成分とすることで、積層型圧電素子を焼結する際には、セラミックスの液相成分に銀が固溶して、液相形成温度を低下させて焼結を進行させることが可能になる。これにより、金属層12と圧電体層11との相互結合力を強固なものとすることができる。さらに、合金化することで、単元素よりも耐マイグレーション性の強い金属層を形成することが可能となり、耐久性のある積層型圧電体素子とすることができる。
さらに、金属層12fが主に銀からなり、他の金属層24が主に銅からなることで、最も応力緩和効果が大きくなる。圧電体層11を挟んで、主に銀からなる金属層12fが隣り合う場合、銀のマイグレーションから絶縁不良が生じることがあるが、本実施形態の場合、主に銀からなる金属層12fのとなりの金属層は主に銅からなる金属層12eであるので、銀がマイグレーションしようとしても、銅と結合して、浮遊する銀イオンを消滅させて安定化させるために、マイグレーションによる絶縁不良が発生せずに、耐久性の高い
積層型圧線素子とすることができる。
また、第1の実施形態と同様に理由から、複数の高比率金属層12fが規則的に配置されているのが好ましく、さらに、高比率金属層12fと圧電体層11との密着力が、他の金属層12eと圧電体層11との密着力よりも低いことが好ましい。また、2つの高比率金属層12fの間には、他の金属層12eが複数配置されており、当該他の金属層12eからなる群には、一成分の濃度が高比率金属層12d側から漸次減少する傾斜濃度領域が存在することが好ましい。さらに、金属層12が多数のボイドを有していることが好ましい。特に、他の金属層12eにボイドを設け、該金属層の断面における全断面積に対するボイドの占める面積比が5〜70%であることが好ましい。これは、ボイドを金属層12eの面積に対して5〜70%占めるようにすると、変位量が大きくなり、変位量に優れた積層型圧電素子を得ることができるからである。
また、金属層12eのボイド率が5%より少ないと圧電体層11が電界を印加されて変形する際に金属層から束縛を受け、圧電体層11の変形が抑制され、積層型圧電素子の変形量が小さくなり、発生する内部応力も大きくなるために耐久性にも悪い影響を与える。一方、金属層12eのボイド率が70%より大きいと、電極部分に極端に細い部分が生じる為、金属層自体の強度が低下し、金属層にクラックが生じやすくなり、最悪は断線等を生じる恐れがあるので好ましくない。さらに、ボイド率は、より好ましくは7〜70%、さらに好ましくは10〜60%である。このようにすることで、圧電体層11をよりスムーズに変形できるとともに、金属層12の導電性を充分に有しているため、積層型圧電素子の変位量を増大することができる。
さらに、金属層12fの断面における全断面積に対するボイドの占める面積比が24〜90%であることが好ましい。これは、ボイドを高比率金属層12bの面積に対して24〜90%占めるようにすると、さらに変位量が大きくなり、変位量に優れた積層型圧電素子を得ることができるからである。
また、金属層12が主に金属とボイドから構成されていると、金属もボイドもどちらも応力に対して変形可能であるため、さらに耐久性の高い積層型圧電素子とすることができる。特に、金属層12eよりも金属層12fが主に金属とボイドから構成されていると、金属もボイドもどちらも応力に対して変形可能であるため、応力緩和効果が向上し、さらに耐久性の高い積層型圧電素子とすることができる。
さらに、金属層12fは、複数の金属が点在した形態であるのがより好ましい。すなわち、金属層12fは、複数個の導体領域が島状に点在して構成されているのが好ましい。金属層12fが複数の導体領域の点在した形態であることで、積層型圧電素子13の応力が金属層12に加わっても、金属層12f内での応力伝播が抑制でき、金属層12fのなかでも特に応力が集中するというような箇所を生み出さない。これにより、応力緩和と、耐久性を両立することができる。
また、第3の実施形態においては、金属層12f中のパラジウムの含有量をM1(質量%)、銀の含有量をM2(質量%)としたとき、0≦M1≦15、85≦M2≦100、M1+M2=100を満足する金属組成物を主成分とすることが好ましい。これは、パラジウムが15質量%を超えると、比抵抗が大きくなり、積層型圧電素子を連続駆動させた場合、金属層12が発熱し、該発熱が温度依存性を有する圧電体層11に作用して変位特性を減少させてしまうため、積層型圧電素子の変位量が小さくなる場合があるからである。
さらに、外部電極15を形成した際、外部電極15と金属層12とが相互拡散して接合
するが、パラジウムが15質量%を超えると、外部電極15中に金属層成分が拡散した箇所の硬度が高くなるため、駆動時に寸法変化する積層型圧電素子においては、耐久性がおちるからである。
第3の実施形態にかかる積層型圧電素子の製法は、高比率金属層12eを形成する導電ペーストに銅粉末を配合する以外は、第1の実施形態と同様にすればよい。なお、外部電極15と金属層12との接合強度を向上させるには、外部電極15を構成する金属として、銅を主成分とした金属ペーストを用いることが好ましい。外部電極15を構成するためには、銀電極であっても銅電極であっても、窒素雰囲気等の還元雰囲気で焼成することで、金属層12の酸化を抑止して、耐久性の高い金属層12とすることができる。
なお、上記第3の実施形態では、複数の金属層が主成分の異なる2種の金属層からなる場合について説明したが、本発明では、複数の金属層の主成分が異なる少なくとも二種以上の金属層からなり、これらのうちの一種の金属層が、他の金属層を複数層挟んだ状態で、複数配置されていれば、本発明の効果が得られる。すなわち、圧電素子にかかる応力を金属主成分の異なる金属層近傍に集中させて、集まった応力を、さらに、金属層周辺の圧電体層を応力緩和層としてはさみこむことで、集まった応力を金属組成の高い2層の金属層のあいだに閉じ込めることができる。これにより、圧電素子全体に加わる応力を緩和させることができる。その結果、耐久性に優れた高信頼性の圧電アクチュエータを提供することができる。
<噴射装置>
図5は、本発明の一実施形態にかかる噴射装置を示す概略断面図である。図5に示すように、本実施形態にかかる噴射装置は、一端に噴射孔を有する33を有する収納容器31の内部に上記実施形態に代表される本発明の積層型圧電素子が収納されている。収納容器31内には、噴射孔33を開閉することができるニードルバルブ35が配設されている。噴射孔33には燃料通路37がニードルバルブ35の動きに応じて連通可能に配設されている。この燃料通路37は外部の燃料供給源に連結され、燃料通路37に常時一定の高圧で燃料が供給されている。従って、ニードルバルブ35が噴射孔33を開放すると、燃料通路37に供給されていた燃料が一定の高圧で図示しない内燃機関の燃料室内に噴出されるように構成されている。
また、ニードルバルブ35の上端部は内径が大きくなっており、収納容器31に形成されたシリンダ39と摺動可能なピストン41が配置されている。そして、収納容器31内には、上記した積層型圧電素子を備えた圧電アクチュエータ43が収納されている。
このような噴射装置では、圧電アクチュエータ43が電圧を印加されて伸長すると、ピストン41が押圧され、ニードルバルブ35が噴射孔33を閉塞し、燃料の供給が停止される。また、電圧の印加が停止されると圧電アクチュエータ43が収縮し、皿バネ45がピストン41を押し返し、噴射孔33が燃料通路37と連通して燃料の噴射が行われるようになっている。
また、本発明は、積層型圧電素子および噴射装置に関するものであるが、上記実施例に限定されるものではなく、例えば、自動車エンジンの燃料噴射装置、インクジェット等の液体噴射装置、光学装置等の精密位置決め装置や振動防止装置等に搭載される駆動素子、または、燃焼圧センサ、ノックセンサ、加速度センサ、荷重センサ、超音波センサ、感圧センサ、ヨーレートセンサ等に搭載されるセンサ素子、ならびに圧電ジャイロ、圧電スイッチ、圧電トランス、圧電ブレーカー等に搭載される回路素子以外であっても、圧電特性を用いた素子であれば、実施可能である。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を行うことは何等差し支えない。
第1の実施形態にかかる積層型圧電素子からなる圧電アクチュエータを以下のようにして作製した。
まず、平均粒径が0.4μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PbZrO3−PbTiO3)を主成分とする圧電セラミックの仮焼粉末、バインダー、及び可塑剤を混合したスラリーを作製し、ドクターブレード法で厚み150μmの圧電体層11になるセラミックグリーンシートを作製した。
ついで、このセラミックグリーンシートの片面に、表1に示す組成となるように、主に銀−パラジウムからなる合金にバインダーを加えた導電性ペーストをスクリーン印刷法により形成したシートを300枚積層し、焼成した。焼成条件は、800℃で2時間保持した後に、1000℃で2時間焼成した。
このとき、高比率金属層12bを形成する部分には、表1に示す組成となるように、銀−パラジウム合金にバインダーを加えた導電性ペーストで、3μmの厚さとなるように印刷を行い、高比率金属層12bが50層目、100層目、150層目、200層目、250層目になるように配置した。
次に、平均粒径2μmのフレーク状の銀粉末と、残部が平均粒径2μmのケイ素を主成分とする軟化点が640℃の非晶質のガラス粉末との混合物に、バインダーを銀粉末とガラス粉末の合計質量100質量部に対して8質量部添加し、十分に混合して銀ガラス導電性ペーストを作製した。このようにして作製した銀ガラス導電性ペーストを離型フィルム上にスクリーン印刷によって形成し、乾燥後、離型フィルムより剥がして、銀ガラス導電性ペーストのシートを得た。なお、フレーク状の粉末の平均粒径は、次のようにして測定されたものである。すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて粉末の写真を撮影し、その写真上で直線を引き、粒子と直線が交わる長さを50個測定し、その平均を取って平均粒径とした。
そして、銀ガラスペーストのシートを積層体13の外部電極15面に転写して積層し、700℃で30分焼き付けを行い、外部電極15を形成した。
その後、外部電極15にリード線を接続し、正極及び負極の外部電極15にリード線を介して3kV/mmの直流電界を15分間印加して分極処理を行い、図1に示すような積層型圧電素子を用いた圧電アクチュエータを作製した。
得られた積層型圧電素子に170Vの直流電圧を印加したところ、すべての圧電アクチュエータにおいて、積層方向に変位量が得られた。
さらに、この圧電アクチュエータを室温で0〜+170Vの交流電圧を150Hzの周波数で印加して、1×109回まで連続駆動した試験を行った。
結果は表1に示すとおりである。なお、高比率金属層以外の他の金属層12aは、表1に示すように、いずれの層もほぼ同一組成であった。
表1に示すように、比較例である試料番号6は、該積層界面にかかる応力が一点に集中して負荷が増大して剥離が生じるとともに、うなり音やノイズ発生が生じた。
これに対して、本発明の実施例である試料番号1〜5は、1×109回連続駆動させた後も、素子変位量が著しく低下することなく、圧電アクチュエータとして必要とする実効変位量を有し、優れた耐久性を有した圧電アクチュエータを作製できた。
第2の実施形態にかかる積層型圧電素子からなる圧電アクチュエータを以下のようにして作製した。
まず、平均粒径が0.4μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PbZrO3−PbTiO3)を主成分とする圧電セラミックの仮焼粉末、バインダー、及び可塑剤を混合したスラリーを作製し、ドクターブレード法で厚み150μmの圧電体層11になるセラミックグリーンシートを作製した。
このセラミックグリーンシートの片面に、表2の組成となるように、銀−パラジウム合金にバインダーを加えた導電性ペーストをスクリーン印刷法により形成したシートを300枚積層し、焼成した。焼成は、800℃で保持した後に、1000℃で焼成した。
このとき、高比率金属層12dを形成する部分には、銀100%の導電性ペーストで、3μmの厚さとなるように印刷を行い、高比率金属層12bが50層目、100層目、150層目、200層目、250層目になるように配置した。
次に、平均粒径2μmのフレーク状の銀粉末と、残部が平均粒径2μmのケイ素を主成分とする軟化点が640℃の非晶質のガラス粉末との混合物に、バインダーを銀粉末とガラス粉末の合計質量100質量部に対して8質量部添加し、十分に混合して銀ガラス導電
性ペーストを作製し、このようにして作製した銀ガラス導電性ペーストを離型フィルム上にスクリーン印刷によって形成し、乾燥後、離型フィルムより剥がして、銀ガラス導電性ペーストのシートを得た。
そして、前記銀ガラスペーストのシートを積層体13の外部電極15面に転写して積層し、700℃で30分焼き付けを行い、外部電極15を形成した。
その後、外部電極15にリード線を接続し、正極及び負極の外部電極15にリード線を介して3kV/mmの直流電界を15分間印加して分極処理を行い、図1に示すような積層型圧電素子を用いた圧電アクチュエータを作製した。
得られた積層型圧電素子に170Vの直流電圧を印加したところ、すべての圧電アクチュエータにおいて、積層方向に変位量が得られた。
さらに、この圧電アクチュエータを室温で0〜+170Vの交流電圧を150Hzの周波数で印加して、1×109回まで連続駆動した試験を行った。
結果は表2に示すとおりである。なお、高比率金属層以外の他の金属層は、表2に示すように、いずれの層もほぼ同一組成であった。
表2に示すように、比較例である試料番号6は、該積層界面にかかる応力が一点に集中して負荷が増大して剥離が生じるとともに、うなり音やノイズ発生が生じた。
これらに対して、本発明の実施例である試料番号1〜5は、1×109回連続駆動させた後も、素子変位量が著しく低下することなく、圧電アクチュエータとして必要とする実効変位量を有し、優れた耐久性を有した圧電アクチュエータを作製できた。
第3の実施形態にかかる積層型圧電素子からなる圧電アクチュエータを以下のようにして作製した。
まず、平均粒径が0.4μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PbZrO3−PbTiO3)を主成分とする圧電セラミックの仮焼粉末、バインダー、及び可塑剤を混合したスラリーを作製し、ドクターブレード法で厚み150μmの圧電体層11になるセラミックグリーンシートを作製した。
このセラミックグリーンシートの片面に、銅粉末にバインダーを加えた導電性ペーストをスクリーン印刷法により形成したシートを300枚積層し、窒素雰囲気中で焼成した。焼成は、800℃で保持した後に、1000℃で焼成した。
このとき、金属層12fを形成する部分には、表3に示す組成の銀−パラジウム合金の導電性ペーストで、3μmの厚さとなるように印刷を行った。この金属層12fは50層目、100層目、150層目、200層目、250層目になるように配置した。
次に、平均粒径2μmのフレーク状の銀粉末と、残部が平均粒径2μmのケイ素を主成分とする軟化点が640℃の非晶質のガラス粉末との混合物に、バインダーを銀粉末とガラス粉末の合計質量100質量部に対して8質量部添加し、十分に混合して銀ガラス導電性ペーストを作製し、このようにして作製した銀ガラス導電性ペーストを離型フィルム上にスクリーン印刷によって形成し、乾燥後、離型フィルムより剥がして、銀ガラス導電性ペーストのシートを得た。
そして、前記銀ガラスペーストのシートを積層体13の外部電極15面に転写して積層し、窒素雰囲気中700℃で30分焼き付けを行い、外部電極15を形成した。
その後、外部電極15にリード線を接続し、正極及び負極の外部電極15にリード線を介して3kV/mmの直流電界を15分間印加して分極処理を行い、図1に示すような積層型圧電素子を用いた圧電アクチュエータを作製した。
得られた積層型圧電素子に170Vの直流電圧を印加したところ、すべての圧電アクチュエータにおいて、積層方向に変位量が得られた。
さらに、この圧電アクチュエータを室温で0〜+170Vの交流電圧を150Hzの周波数で印加して、1×109回まで連続駆動した試験を行った。
結果は表3に示すとおりである。なお、主成分が同一の金属層は、表3に示すように、いずれの層もほぼ同一組成であった。
表3に示すように、比較例である試料番号6と7は、該積層界面にかかる応力が一点に集中して負荷が増大して剥離が生じるとともに、うなり音やノイズ発生が生じた。
これらに対して、本発明の実施例である試料番号1〜5は、1×109回連続駆動させた後も、素子変位量が著しく低下することなく、圧電アクチュエータとして必要とする実効変位量を有し、優れた耐久性を有した圧電アクチュエータを作製できた。
実施例1における試料番号5の圧電アクチュエータの内部電極12の材料組成を変化させて、各試料の変位量の変化率を測定した。ここで、変位量の変化率とは、各試料の積層型圧電素子が駆動回数1×109回に達した時の変位量(μm)と、連続駆動を開始する前の積層型圧電素子初期状態の変位量(μm)とを比較したものである。結果を表4に示す。
表4より、試料番号15のように全ての内部電極12を銀100%にした場合は、銀のイオンマイグレーションが発生し、積層型圧電素子は破損して連続駆動が不可能となった。また、試料番号13、14は内部電極12中の金属組成物においてパラジウムの含有量が15質量%を超えており、また、銀の含有量が85質量%未満であるため、内部電極12の比抵抗が大きいことで積層型圧電素子を連続駆動させた際発熱して、圧電アクチュエータの変位量が低下することがわかる。
これに対して、試料番号1〜12は、内部電極12中の金属組成物が8〜10属金属の含有量をM1質量%、1b属金属の含有量をM2質量%としたとき、0<M1≦15、85≦M2<100、M1+M2=100質量%を満足する金属組成物を主成分とするために、内部電極12の比抵抗を小さくでき、連続駆動させても内部電極12で発生する発熱を抑制できたので、素子変位量が安定した積層型アクチュエータを作製できることがわかる。
特に、試料番号6〜8は、内部電極12中の金属組成物が8〜10属金属の含有量をM1質量%、1b属金属の含有量をM2質量%としたとき、2≦M1≦8、92≦M2≦98、M1+M2=100質量%を満足する金属組成物を主成分とするために、内部電極12の比抵抗を小さくでき、連続駆動させても内部電極12で発生する発熱を抑制できたので、素子変位量が全く変化しない、極めて安定した積層型アクチュエータを作製できることがわかる。
表1に示す積層型圧電素子のうち、各試料1本ずつを抜き取り、金属層12の電極面が試験片の長手方向に略垂直になるように3mm×4mm×36mmに加工し、JIS R1601の4点曲げにて曲げ強さを測定した。このとき、どの部分で破壊したかを確認することで、積層型圧電素子の密着力が弱い箇所を特定した。
即ち、圧電体11内で破壊すれば、圧電体の強度が弱いことがわかり、金属層12内で破壊すれば、金属層12の強度が弱いことがわかり、圧電体11と金属層12の界面で破壊すれば、圧電体11と金属層12の界面の強度が弱いことがわかる。
さらに、それぞれのサンプルをアクチュエータとして機能させた場合の耐久性は表1に記載されているが、比較のために表5にも記載した。
比較例である試料番号6は、圧電体11内で破壊した。即ち、全ての圧電体11と金属層12が高強度に接合していることを示している。このことにより、アクチュエータとして1×109回連続駆動させると、積層界面にかかる応力が一点に集中するため、負荷が増大して剥離が生じた。
これに対して、本発明の実施例である試料番号1〜5は、圧電体11と高比率金属層の界面で破壊した。即ち、高比率金属層と圧電体層の密着力が最も弱いことを示している。このことから、連続駆動時の応力が加わった際に、密着力の弱い高比率金属層が変形して応力が緩和される現象が生じ、アクチュエータとして1×109回連続駆動させた後も、剥離することなく、優れた耐久性を有していたと考えられる。
表1に示す積層型圧電素子のうち、各試料1本ずつを抜き取り、金属層部分のビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さの測定には、明石製作所製MVK−H3型マイクロビッカース測定器を使用した。測定に際しては、下地である圧電体層11の影響を受けないようにするために、金属層12の積層方向に垂直な方向から、金属層12にダイヤモンド圧子を押し込む方法を用いた。結果を表6に示す。なお、それぞれのサンプルをアクチュエータとして機能させた場合の耐久性は表1に記載されているが、比較のために表6にも記載した。
比較例である試料番号6は、いずれの金属層も同じ組成であるため、同じ硬さであることがわかった。即ち、全ての圧電体11が同じ硬さの金属層で接合されていることを示している。この試料6では、アクチュエータとして1×109回連続駆動させると、積層界面にかかる応力が一点に集中するため、負荷が増大して剥離が生じた。
これに対して、本発明の実施例である試料番号1〜5は、高比率金属層の硬さが他の金属層よりも低い結果となった。即ち、高比率金属層が他の金属層よりも柔らかいいことを示している。このことから、連続駆動時の応力が加わった際に、柔らかい高比率金属層が変形して応力が緩和される現象が生じ、アクチュエータとして1×109回連続駆動させた後も、剥離することなく、優れた耐久性を有していたと考えられる。
傾斜濃度領域を有する積層型圧電素子を備えた圧電アクチュエータを以下のようにして作製した。
まず、平均粒径が0.4μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PbZrO3−PbTiO3)を主成分とする圧電セラミックの仮焼粉末、バインダー、及び可塑剤を混合したスラリーを作製し、ドクターブレード法で厚み150μmの圧電体層11になるセラミックグリーンシートを作製した。
ついで、このセラミックグリーンシートの片面に、銀−パラジウム合金(銀80質量%−パラジウム20質量%)にバインダーを加えた導電性ペーストをスクリーン印刷法により形成したシートを300枚積層し、焼成した。焼成条件は、800℃で2時間保持した後に、1000℃で2時間焼成した。
このとき、高比率金属層12bを形成する部分には、銀−パラジウム合金(銀85質量%−パラジウム15質量%)の導電性ペーストで、3μmの厚さとなるように印刷を行い
、さらに、図6に示すように、銀濃度が高比率金属層12b側から漸次減少するように配置した。高比率金属層12bは50層目、100層目、150層目、200層目、250層目になるように配置した。
次に、平均粒径2μmのフレーク状の銀粉末と、残部が平均粒径2μmのケイ素を主成分とする軟化点が640℃の非晶質のガラス粉末との混合物に、バインダーを銀粉末とガラス粉末の合計質量100質量部に対して8質量部添加し、十分に混合して銀ガラス導電性ペーストを作製した。このようにして作製した銀ガラス導電性ペーストを離型フィルム上にスクリーン印刷によって形成し、乾燥後、離型フィルムより剥がして、銀ガラス導電性ペーストのシートを得た。そして、銀ガラスペーストのシートを積層体13の外部電極15面に転写して積層し、700℃で30分焼き付けを行い、外部電極15を形成した。
その後、外部電極15にリード線を接続し、正極及び負極の外部電極15にリード線を介して3kV/mmの直流電界を15分間印加して分極処理を行い、図1に示すような積層型圧電素子を用いた圧電アクチュエータを作製した。得られた積層型圧電素子に170Vの直流電圧を印加したところ、すべての圧電アクチュエータにおいて、積層方向に変位量が得られた。
この圧電アクチュエータを室温で0〜+170Vの交流電圧を150Hzの周波数で印加して、1×109回まで連続駆動した試験を行った。結果は表7に示すとおりである。
この表7から、比較例である試料番号3は、該積層界面にかかる応力が一点に集中して負荷が増大して剥離が生じるとともに、うなり音やノイズ発生が生じた。
これに対して、本発明の実施例である試料番号1は、実施例2と異なり、1×109回連続駆動させた後も、素子変位量が全く低下することなく、圧電アクチュエータとして必要とする実効変位量を有し、極めて優れた耐久性を有した圧電アクチュエータを作製できた。