ところで、近年においては、例えば液晶ディスプレイ用の板ガラスの大板化が推進され、また他の高粘性ガラスからなるガラス成形品についても生産性向上が企図されていることに伴って、高粘性専用の供給流路を通じて成形装置に供給される溶融ガラスの単位時間当たりの流量が急激に増加するに至っている。このように溶融ガラスの流量が増加した場合に、上述の異質相を消失させて溶融ガラスの均質化を図るには、攪拌槽における攪拌能力を高める必要がある。そこで、本発明者等は、このような要請に応じるべく、攪拌羽根の回転数を高くすることを試みた。しかしながら、溶融ガラスが高粘性であることから、この溶融ガラス中で攪拌羽根の回転数を高めたのでは、攪拌手段(スターラ)本体への負荷が大きくなり、折損等の致命的なトラブルの要因となる。更に、攪拌羽根に作用する抵抗が不当に大きくなり、攪拌羽根が削られてその切除異物(通常は白金)が溶融ガラス中に混入され、この異物がガラス成形品に欠陥を生じさせる。また、攪拌羽根への抵抗を少なくするために、より高温での操業も考えられるが、このような手法では、攪拌羽根の素材である白金等の機械的強度が十分でなくなり、やはり同様の問題が生じるという結論を得るに至った。
この種の問題に対処するための他の方策として、上記の特許文献2によれば、攪拌羽根の形状に改良を加えて貴金属異物の切除量を減少させることが提案されているが、高粘性の溶融ガラス中で攪拌羽根を回転させねばならない制約の下では、このような手法にも自ずと限界があり、近年の溶融ガラスの大幅な流量増加には到底対処できないものである。
以上のような事情から、従来において、高粘性専用の供給流路に、上記のような流量増加に係る問題が発生した場合には、溶融窯、供給流路、及び成形装置からなる設備一式を、別途増設することのみをもって、当該問題の解決を図っているに過ぎなかった。
尚、上記の特許文献5には、高粘性専用の供給流路の途中に、スターラを有する第1流通部、スクリューを有する第2、第3流通部、及び、羽根を有する第4流通部が配設されているが、第1流通部は、溶融ガラスを攪拌して均質状態にする前工程にて溶融ガラス中に含有されている吸蔵ガスを気泡に変化させる作用を行うものであり、また第2、第3流通部は何れも、上昇しようとする溶融ガラスを下方に押し下げる作用を行うものである。したがって、溶融ガラスの均質化作用を行うのは、第4流通部のみであることから、この特許文献5に記載の手法によっても、上記の異質相を消失させて充分な均質化を図ることは極めて困難となる。したがって、この場合にも、近年の溶融ガラスの大幅な流量増加に対処するには、同文献に開示のものと同様の構成を備えた供給流路、溶融窯、及び成形装置からなる設備一式を、別途増設せねばならないことになる。
これに対して、低粘性専用の供給流路においては、撹拌羽根が回転することにより受ける抵抗は、上述の高粘性ガラスの場合よりも遥かに小さく、しかも溶融ガラスの温度が低いことから、溶融ガラスの流量を増加させる必要性が生じた場合であっても、スターラの折損、撹拌羽根の削りに起因するガラス成形品の品位低下及び製品歩留まり低下の問題は生じない。
したがって、溶融ガラスの流量を増加させようとした場合に、異質相の存在、スターラの折損や撹拌羽根の削り等に係る問題が浮上することは、高粘性専用の供給流路が有している固有の問題である。すなわち、この供給流路を流れる高粘性の溶融ガラスは、僅かな温度低下によっても流動性が阻害され、撹拌羽根による撹拌が困難な状態に容易に推移する特性を有しているため、既存の供給流路の基本的な構成を変更することは好ましくないとされている。したがって、既に述べた特許文献5に開示の高粘性専用の供給流路も、新たな槽を設けたものではなく、既存の槽の一部を改良したに過ぎないものである。以上の事項を勘案すれば、溶融ガラスの流量増加に対処するには、既述のように別途設備一式を増設するという対策を講じるのが最適とされていた。
これに対して、低粘性専用の供給流路においては、多少の温度変化が生じても、溶融ガラスの流動性に悪影響を及ぼすことがないため、供給流路の基本的な構成を容易に変更することができ、したがって上記の特許文献6,7,8には、低粘性専用の供給流路に様々な種類及び数の槽が設けられている。しかしながら、高粘性ガラスからなるガラス成形品を製造する分野においては、このような構成を採用したならば、溶融ガラスの流動性が悪化して成形装置による成形作業ひいてはガラス成形品に極めて目立つ欠陥が生じることは必至であると考えられ、そのような考えが常識化されている。このため、高粘性専用の供給流路の構成に着目すれば、溶融ガラスの流量増加に対する有効な対策は、何ら講じられていないのが実情である。
そこで、本発明の第1の課題は、高粘性専用の供給流路に、従来は不可能とされていた有効な改良を施すことにより、溶融ガラスの大幅な流量増加の要請があった場合でも、異質相の存在や撹拌羽根の削りに起因するガラス成形品の品位低下及び製品歩留まり低下の問題等が生じないようにすることにある。
また、上記の特許文献5には、高粘性専用の供給流路に、撹拌を行う第1〜第4の流通部が設けられているが、これらの撹拌流通部は何れも、冷却槽、減圧脱泡槽及び均質槽の一部として形成されたものである。このため、撹拌流通部を独立した状態で取り扱えないことから、保守点検や修理或いは取り換え等が面倒且つ煩雑になると共に、溶融ガラスから撹拌羽根等に作用する抵抗を適切にすべく撹拌流通部の温度を調整する場合にも、槽全体の影響を受けることになり、撹拌流通部を流れる溶融ガラスの温度調節ひいては粘度の適正化が困難になるおそれがある。
尚、このような問題、特に粘度の適正化の困難性に係る問題は、高粘性専用の供給流路が有している固有の問題であって、低粘性専用の供給流路では生じ得ない問題であると言える。すなわち、既に説明したように、低粘性専用の供給流路においては、基本的な構成を比較的自由に変更することができるため、上記の特許文献6,7,8には、低粘性専用の供給流路に様々な種類及び数の槽が設けられている。しかしながら、高粘性ガラスを対象とする分野で、このような構成を採用することは、成形装置での成形作業やガラス成形品に致命的な欠陥を生じさせることが必至であると考えられていたことから、高粘性専用の供給流路の構成に関して、このような問題に対する有効な対策は、何ら講じられていないのが実情である。
そこで、本発明の第2の課題は、高粘性専用の供給流路に、従来は不可能とされていた有効な改良を施すことにより、撹拌流通部の保守点検や修理或いは取り換えを容易に行うことができ、且つ撹拌羽根に作用する溶融ガラスの抵抗を容易に適正化できるようにすることにある。
上記第1の課題を解決するための第1の手段は、溶融ガラスの供給源となる溶融窯と、該溶融窯から流出した溶融ガラスを成形装置に供給する供給流路とを備えた溶融ガラス供給装置において、前記溶融ガラスは、1000ポイズの粘度に相当する温度が1350℃以上となる特性を有していると共に、前記供給流路の途中に、均質化作用を行う複数の攪拌槽を上下流方向に隣り合わせて配設したことに特徴づけられる。
この場合、上記の「複数の攪拌槽を上下流方向に隣り合わせて配設した」とは、隣り合う攪拌槽同士の間に他の槽が存在しないように配設したことを意味する。そして、上記の隣り合う攪拌槽同士の連通状態は、特に限定されるわけではないが、これらの隣り合う攪拌槽同士は、直接連通されていること、つまり通路としての役割を主として果たす連通流路のみで接続されていることが好ましい。但し、この連通流路は、その途中に邪魔板等を配設することが排除されるわけではない。また、この連通流路の流路面積は、攪拌槽の流路面積よりも小さいことが好ましい。
ここで、この装置による供給対象となるのは、1000ポイズの粘度に相当する温度が1350℃以上となる特性を有する溶融ガラスであることから、このガラスは、既に述べた事項から明らかなように、高粘性ガラスであって、低粘性ガラスとは区別されるものである。なお、前記溶融ガラスを、1000ポイズの粘度に相当する温度が1420℃以上となる特性を有するものとすれば、低粘性ガラスとの区別をより明確にできるという点で有利となる。そして、以上のような高粘性のガラスとしては、その一例として、無アルカリガラス(アルカリ成分が例えば0.1質量%以下、特に0.05質量%以下のガラス)を挙げることができる。具体的には、質量%で、SiO2:40〜70%、Al2O3:6〜25%、B2O3:5〜20%、MgO:0〜10%、CaO:0〜15%、BaO:0〜30%、SrO:0〜10%、ZnO:0〜10%、清澄剤:0〜5%含有する無アルカリガラス、より好ましくは、質量%で、SiO2:55〜70%、Al2O3:10〜20%、B2O3:5〜15%、:MgO:0〜5%、CaO:0〜10%、BaO:0〜15%、SrO:0〜10%、ZnO:0〜5%、清澄剤:0〜3%含有する無アルカリガラスを挙げることができる。
このような構成によれば、高粘性専用の供給流路に、均質化作用を行う複数の攪拌槽(以下、均質化作用を行う攪拌槽を均質槽ともいう)が上下流方向に隣り合って配設されているので、例えば液晶ディスプレイ用の板ガラスの大板化や、その他の高粘性ガラスからなるガラス成形品の生産性向上に対処すべく、供給流路を通じて成形装置に供給される溶融ガラスの単位時間当たりの流量が増加した場合であっても、溶融ガラスは複数の均質槽を通過することにより、攪拌能力ひいては均質化能力が高められる。したがって、高粘性ガラスであるが故に生成される異質相、例えば既述の比重の小さな表面部の異質相と比重の大きな底面部の異質相との2種の異質相を適切に消失させて、高粘性の溶融ガラスの充分な均質化を図ることが可能となる。この結果、成形装置に供給される溶融ガラス中に異質相が存在することによるガラス成形品の品位低下(例えばガラス成形品が板ガラスである場合の異質相の存在による凹凸の形成等)が効果的に回避される。しかも、このように均質槽が複数存在していると、1つの均質槽につき攪拌羽根の回転数を高めなくとも、トータルの攪拌能力(均質化能力)を充分に高くできることから、高粘性の溶融ガラスから攪拌羽根に作用する抵抗を小さく維持した上で、均質化作用を大幅に高めることが可能となる。これにより、高粘性の溶融ガラスの抵抗により攪拌羽根が削られて、その切除異物(白金等)が溶融ガラス中に混入されることによりガラス成形品に致命的な欠陥が生じるという不具合も効果的に抑制される。以上のような利点は、高粘性専用の供給流路であるからこそ享受できるものであって、低粘性専用の供給流路では、そもそもこれに対応する問題が生じないのであるから、以上のような利点については当然の事ながら享受できないものである。
上記第2の課題を解決するための第2の手段は、溶融ガラスの供給源となる溶融窯と、該溶融窯から流出した溶融ガラスを成形装置に供給する供給流路とを備えた溶融ガラス供給装置において、前記溶融ガラスは、1000ポイズの粘度に相当する温度が1350℃以上となる特性を有していると共に、前記供給流路の途中に、個々に独立した状態にある複数の攪拌槽を上下流方向に隣り合わせて配設したことに特徴づけられる。
ここで、上記の「個々に独立した状態にある複数の攪拌槽」とは、攪拌作用を行う部位が槽の一部としてそれぞれ存在しているのではなく、槽の全部が攪拌作用を行うようにそれぞれが構成されていることを意味する。ところで、この第2の手段が、上記第1の手段と相違しているところは、高粘性専用の供給流路の途中に、個々に独立した状態にある複数の攪拌槽を上下流方向に隣り合わせて配設した点である。その他の構成要素及びそれらに関する種々の事項は、上記第1の手段に関して既に述べた事項と同一であるので、ここでは便宜上、その説明を省略する。
この第2の手段によれば、高粘性専用の供給流路の途中に、個々に独立した状態にある複数の攪拌槽が配設されているので、それぞれの攪拌槽を独立した状態で取り扱えるようになり、保守点検や修理或いは取り換え等を容易且つ簡単に行うことが可能となる。しかも、溶融ガラスから撹拌羽根に作用する抵抗を適切にすべく撹拌部の温度を調整する場合にも、従来(既述の特許文献5に開示の高粘性専用の供給流路)と比較して、個々の槽内で攪拌部がその他の部位の影響を受け難くなり、撹拌部(攪拌槽)を流れる溶融ガラスの温度調節ひいては粘度の調節を容易且つ適正に行うことが可能となる。この場合にも、上記の利点、特に粘度の調節の適正化に係る利点は、高粘性専用の供給流路であるからこそ享受できるものであって、低粘性専用の供給流路では、そもそもこれに対応する問題が生じないのであるから、以上のような利点については当然の事ながら享受できないものである。
上記第1、第2の手段においては、複数の攪拌槽の全てについて、攪拌槽の流入口から内部に流入した直後の溶融ガラスが、その内部に収容された攪拌羽根に当接するように構成されていることが好ましい。
このようにすれば、溶融ガラスが攪拌槽の内部に流入した直後から、攪拌羽根に当接して攪拌作用を受け得ることになり、しかも複数の全ての攪拌槽においてそのような作用が行われることから、効率良く攪拌能力を高めることが可能となる。
このような構成とした場合には、流入口から内部に流入した直後の溶融ガラスの一部が、攪拌羽根に当接し、該溶融ガラスの残余部が、攪拌羽根よりも溶融ガラスの流れの順方向と逆側の部分に流れ込むように構成されていることが好ましい。
このようにすれば、溶融ガラスの一部については、攪拌槽の内部に流入した直後から、攪拌羽根に当接して攪拌作用を受け得ることになり、その残余部については、攪拌槽の内部に流入してから遅延するものの攪拌羽根に当接して攪拌作用を受け得ることになるため、その攪拌羽根に当接せずに素通りする溶融ガラスの量を可及的に少なくして、攪拌能力をより一層高めることが可能になる。
以上の構成においては、複数の攪拌槽の全てについて、攪拌槽の内部に収容された攪拌羽根により溶融ガラスの順方向(下方向または上方向)の流れに対して逆向き(上方向または下方向)の抵抗を付与するように構成されていることが好ましい。
このようにすれば、溶融ガラスの流れを阻止するような態様で攪拌羽根が溶融ガラスを攪拌することになるので、その方向性が逆の場合と比較して、溶融ガラスが攪拌羽根により攪拌作用を受ける時間が長くなり、充分な攪拌性能を得ることが可能となる。
以上の構成において、複数の攪拌槽の全ての内部を流れる溶融ガラスの温度は、1350〜1550℃であることが好ましい。
すなわち、溶融ガラスの温度が過度に低い場合には、その粘性が不当に高くなり、溶融ガラスの抵抗により攪拌羽根が削られて、その切除異物が溶融ガラス中に混入されるという致命的な欠陥が生じる一方、溶融ガラスの温度が過度に高い場合には、攪拌羽根の早期劣化や耐久性の低下を招く。このような事項を勘案すれば、複数の攪拌槽全ての内部を流れる溶融ガラスの温度が上記の数値範囲内にあることが好ましく、下限が1400℃、上限が1500℃であればより好ましい結果が得られる。
更に、複数の攪拌槽の全ての内部を流れる溶融ガラスの粘度は、300〜7000ポイズであることが好ましい。
すなわち、溶融ガラスの粘度が過度に低い場合には、その温度が不当に高くなっていることから、攪拌羽根の早期劣化や耐久性の低下を招く一方、溶融ガラスの粘度が過度に高い場合には、溶融ガラスの抵抗により攪拌羽根が削られて、その切除異物が溶融ガラス中に混入されるという致命的な欠陥が生じる。このような事項を勘案すれば、複数の攪拌槽全ての内部を流れる溶融ガラスの粘度が上記の数値範囲内にあることが好ましく、下限が700ポイズ、上限が4000ポイズであればより好ましい結果が得られる。
そして、以上の構成において、前記成形装置にて成形される板ガラスは、表裏両面を未研磨の状態で使用する場合に、本発明の効果をより一層享受できる。
すなわち、未研磨の状態で使用する場合、ガラスの均質性が直接ガラスの表面品位を決定する。それゆえ、本発明装置を使用すれば、高粘性の溶融ガラス中における例えば既述の表面部の異質相と底面部の異質相とが複数の攪拌槽(特に均質槽)にて攪拌作用を受けて、均質化され得ることから、これらの異質相が原因となって板ガラスの未研磨の表裏両面に欠陥が生じる等の品位低下ひいては不良品の発生を効果的に抑制することができる。
上記第1の課題を解決するための第3の手段は、ガラス成形品の製造方法であって、1000ポイズの粘度に相当する温度が1350℃以上となる特性を備えた高粘性ガラスを溶融窯で溶融する溶融工程と、前記溶融窯からその下流側の成形装置に通じる供給流路を溶融ガラスが流れる際に、均質化作用を行う複数の攪拌槽を上下流側に隣り合わせて配設してなる供給流路途中の攪拌槽配設部位に、前記溶融ガラスを流入させ且つ通過させる攪拌工程と、該攪拌工程で攪拌された溶融ガラスを成形装置に供給してガラス成形品を成形
する成形工程とを有することに特徴づけられる。
この第3の手段に係る製造方法の構成要素及びそれらに関する種々の事項は、上記第1の手段に係る装置に関して既に述べた事項と実質的に同一であるので、ここでは便宜上、その説明を省略する。
上記第2の課題を解決するための第4の手段は、ガラス成形品の製造方法であって、1000ポイズの粘度に相当する温度が1350℃以上となる特性を備えた高粘性ガラスを溶融窯で溶融する溶融工程と、前記溶融窯からその下流側の成形装置に通じる供給流路を溶融ガラスが流れる際に、個々に独立した状態にある複数の攪拌槽を上下流側に隣り合わせて配設してなる供給流路途中の攪拌槽配設部位に、前記溶融ガラスを流入させ且つ通過させる攪拌工程と、該攪拌工程で攪拌された溶融ガラスを成形装置に供給してガラス成形品を成形する成形工程とを有することに特徴づけられる。
この第4の手段に係る製造方法の構成要素及びそれらに関する種々の事項は、上記第2の手段に係る装置に関して既に述べた事項と実質的に同一であるので、ここでは便宜上、その説明を省略する。
そして、これらの第3、第4の手段に係る製造方法を実施するに際しても、既に述べた装置についての事項と同様の各作用効果を得るために、前記複数の攪拌槽の全てについて、攪拌槽の流入口から内部に流入した直後の溶融ガラスが、その内部に収容された攪拌羽根に当接するように構成されていることが好ましく、更には前記流入口から内部に流入した直後の溶融ガラスの一部が、攪拌羽根に当接し、該溶融ガラスの残余部が、攪拌羽根よりも溶融ガラスの流れの順方向と逆側の部分に流れ込むように構成されていることが好ましく、また、前記複数の攪拌槽の全てについて、攪拌槽の内部に収容された攪拌羽根により溶融ガラスの順方向の流れに対して逆向きの抵抗を付与するように構成されていることが好ましく、前記複数の攪拌槽の全ての内部を流れる溶融ガラスの温度が、1350〜1550℃(更には、下限が1400℃、上限が1500℃)であることが好ましく、その粘度が、300〜7000ポイズ(更には、下限が700ポイズ、上限が4000ポイズ)であることが好ましい。また、得られたガラスが未研磨の状態で使用可能となるように、成形工程ではオーバーフローダウンドロー法により板ガラスを成形することが好ましい。
以上のように本発明に係る溶融ガラス供給装置(第1の手段)によれば、高粘性専用の供給流路に、均質槽が上下流方向に隣り合って配設されているので、供給流路を流れる溶融ガラスの流量が増加した場合であっても、溶融ガラスは複数の均質槽を通過することにより、攪拌能力ひいては均質化能力が高められることから、高粘性ガラスであるが故に生成される異質相を適切に消失させて、溶融ガラスの充分な均質化を図ることが可能となる。しかも、このように均質槽が複数存在していると、1つの均質槽につき攪拌羽根の回転数を高めなくとも、トータルの攪拌能力(均質化能力)を充分に高くできることから、高粘性の溶融ガラスの抵抗により攪拌羽根が削られて、その切除異物(白金等)が溶融ガラス中に混入されることによりガラス成形品に致命的な欠陥が生じるという不具合が効果的に抑制される。
また、本発明に係る溶融ガラス供給装置(第2の手段)によれば、高粘性専用の供給流路の途中に、個々に独立した状態にある複数の攪拌槽が配設されているので、それぞれの攪拌槽を独立した状態で取り扱えるようになり、保守点検や修理或いは取り換え等を容易且つ簡単に行うことが可能となる。しかも、溶融ガラスから撹拌羽根に作用する抵抗を適切にすべく撹拌部の温度を調整する場合にも、個々の槽内で攪拌部がその他の部位の影響を受け難くなり、撹拌部(攪拌槽)を流れる溶融ガラスの温度調節ひいては粘度の調節を容易且つ適正に行うことが可能となる。
一方、本発明に係るガラス成形品の製造方法(第3の手段)は、上記の溶融ガラス供給装置(第1の手段)と実質的に同一の効果を奏する。
また、本発明に係るガラス成形品の製造方法(第4の手段)は、上記の溶融ガラス供給装置(第2の手段)と実質的に同一の効果を奏する。
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
先ず、図1に基づいて、本発明の第1実施形態に係る溶融ガラス供給装置の概略構成を説明する。同図に示すように、溶融ガラス供給装置1は、上流端に配備されてガラス原料を溶融する溶融窯2を備え、この溶融窯2から流出した高粘性の溶融ガラス(1000ポイズの粘度に相当する温度が1350℃以上となる特性を有する)を、オーバーフローダウンドロー法により板ガラスを成形する成形装置3の成形体に、供給流路4を通じて供給するように構成されている。具体的には、ここで供給される高粘性ガラスとしては、例えば、質量%で、SiO2 60%、Al2O3 15%、B2O3 10%、CaO 5%、BaO 5%、SrO 5%の組成を有し、1000ポイズの粘度に相当する温度が約1450℃である無アルカリガラスを使用することができる。上記の供給流路4には、上流端の溶融窯2の直下流側に通じる清澄槽5が配置され、清澄槽5の直下流側に、個々に独立した状態にある上流側の第1攪拌槽K1と下流側の第2攪拌槽K2とが上下流方向に隣り合って配設されている。この2つの攪拌槽K1、K2は何れもが、均質化作用を行う構造とされている。更に、この2つの何れについても、攪拌槽K1、K2の内部を流れる溶融ガラスの温度は、1350〜1550℃(好ましくは1400〜1500℃)であって、その粘度は300〜7000ポイズ(好ましくは700〜4000ポイズ)となるように調整がなされている。尚、第2攪拌槽K2の下流側からは、冷却パイプ7、図外のポット、小径パイプ、及び大径パイプを通じて、溶融ガラスが成形装置3の成形体に供給され、この成形体にて溶融ガラスを板状の形態に成形する構成とされている。そして、この成形装置3により成形して得られた板ガラスは、表裏両面が未研磨面の状態で製品となる。
第1、第2攪拌槽K1、K2は何れも、内部に単一のスターラからなる第1、第2攪拌手段S1、S2が収容され且つ各槽K1、K2の内周面が上下方向全域に亘ってそれぞれ円筒面とされると共に、これらの内周面と第1、第2攪拌手段(各攪拌羽根)S1、S2の外周端とはそれぞれ近接した状態にある。尚、この第1攪拌槽K1及び第2攪拌槽K2は何れも、円筒状の周壁及び底壁が白金または白金合金で形成されると共に、この2つの槽K1、K2は、大きさ、形態、及び内部構造が同一もしくは略同一である。そして、清澄槽5から下流側に向かう清澄通路10は、第1攪拌槽K1の上部(周壁の上端部)に接続されると共に、第1攪拌槽K1の下部(周壁の下端部)と第2攪拌槽K2の上部(周壁の上端部)とが第1連通路R1を介して接続され、且つ第2攪拌槽K2の下部(周壁の下端部)がポットに通じる冷却パイプ(冷却通路)7に接続されている。したがって、清澄通路10から第1攪拌槽K1の上部に形成された第1流入口M1を通じてその内部に流入した溶融ガラスは、第1攪拌槽K1の内部を下方に向かって流れた後に、第1攪拌槽K1の下部に形成された第1流出口N1を通じて第1連通路R1に流出し、第1連通路R1を斜め上方に流れて通過した後に、第1連通路R1から第2攪拌槽K2の上部に形成された第2流入口M2を通じてその内部に流入し、第2攪拌槽K2の内部を下方に向かって流れた後に、第2攪拌槽K2の下部に形成された第2流出口N2を通じて冷却通路7に流出するようになっている。尚、上記の各流入口は、各攪拌槽の周壁の上流側部分に形成され、且つ各流出口は、各攪拌槽の周壁の下流側部分に形成されると共に、各流入口及び各流出口の流路面積は、各攪拌槽の内部の流路面積よりも小さく設定されている(以下の各実施形態における各流入口及び各流出口も同様)。
この場合、図2に示すように、第1攪拌槽K1の第1流入口M1からその内部に流入する溶融ガラスは、流入した直後に、その一部が矢印Aで示す経路を経て第1攪拌手段S1の最上段の攪拌羽根S11に当接すると共に、その残余部が矢印Bで示す経路を経て最上段の攪拌羽根S11よりも上方の部位に流れ込むように各部の位置設定がなされている。また、第2攪拌槽K2の第2流入口M2からその内部に流入する溶融ガラスも、第1攪拌槽K1の場合と同様に、溶融ガラスの一部が第2攪拌手段S2の最上段の攪拌羽根S21に当接すると共に、その残余部が最上段の攪拌羽根S21よりも上方の部位に流れ込むように各部の位置設定がなされている。そして、第1攪拌槽K1及び第2攪拌槽K2に流入してその内部を下方に向かって流れる溶融ガラスに対しては、第1攪拌手段S1及び第2攪拌手段S2の何れもが、上方に向かう抵抗を付与するように、即ち溶融ガラスの流れと逆向きの抵抗を付与するように構成されている。
以上の構成を備えた溶融ガラス供給装置1を使用して、ガラス成形品としての板ガラスを製造するには、高粘性ガラスを溶融窯2で溶融する溶融工程と、溶融窯2からその下流側の成形装置3に通じる供給流路4を溶融ガラスが流れる際に、個々に独立した状態にあり且つ均質化作用を行う第1、第2攪拌槽K1、K2に溶融ガラスを流入させて通過させる攪拌工程と、この攪拌工程で攪拌された溶融ガラスを成形装置3に供給して板ガラスを成形する成形工程とが実行される。
次に、この第1実施形態における上記の攪拌工程について詳述する。
溶融窯2から流出して清澄槽5に流れ込んだ溶融ガラスは(図1参照)、清澄通路10から第1流入口M1を通じて先ず第1攪拌槽K1の内部に流入し、回転する第1攪拌手段S1によって攪拌されながら第1攪拌槽K1内を下方に向かって流れた後、第1流出口N1から流出して第1連通路R1を斜め上方に向かって流れる。その後、この溶融ガラスは、第1連通路R1から第2流入口M2を通じて第2攪拌槽K2の内部に流入し、回転する第2攪拌手段S2によって攪拌されながら第2攪拌槽K2内を下方に向かって流れた後、第2流出口N2から流出して冷却通路7に至る。
図3は、上記のように第1、第2攪拌槽K1、K2の内部で第1、第2攪拌手段S1、S2による攪拌作用を受けながら流れる溶融ガラスの態様について模擬実験(モデル実験)を行った結果を示す概略図である。同図に符号Cを付した一点鎖線で示す経路は、清澄通路10の上部に存在する溶融ガラスつまり溶融窯2及び清澄槽5の表面部に浮遊していた異質相を含む溶融ガラスの流れる経路を模式的に表したものであり、また同図に符号Dを付した破線で示す経路は、清澄通路10の下部に存在する溶融ガラスつまり溶融窯2及び清澄槽5の底面部に沈んでいた異質相を含む溶融ガラスの流れる経路を模式的に表したものである。
同図から把握できるように、清澄通路10の上部に存在する溶融ガラスは、先ず第1流入口M1の上部から第1攪拌槽K1内に流入してその中央部(中心軸線周辺部)を下方に向かって流れた後、第1流出口N1の下部から流出して第1連通路R1の下面部近傍を斜め上方に流れ、その後、第2流入口M2の下部から第2攪拌槽K2内に流入してその内周面近傍を下方に向かって流れた後、第2流出口N2の上部から流出して冷却通路7の上面部近傍を流れる。これに対して、清澄通路10の下部に存在する溶融ガラスは、先ず第1流入口M1の下部から第1攪拌槽K1内に流入してその内周面近傍を下方に向かって流れた後、第1流出口N1の上部から流出して第1連通路R1の上面部近傍を斜め上方に流れ、その後、第2流入口M2の上部から第2攪拌槽K2内に流入してその中央部を下方に向かって流れた後、第2流出口N2の下部から流出して冷却通路7の下面部近傍を流れる。
この場合、第1攪拌槽K1及び第2攪拌槽K2の内部においては、中央部を上方から下方に向かって流れる溶融ガラスが、回転する第1攪拌手段S1及び第2攪拌手段S2に当接して充分な攪拌作用を受けるのに対して、それぞれの内周面近傍を上方から下方に向かって流れる溶融ガラスは、第1攪拌手段S1及び第2攪拌手段S2に当接しないことから攪拌作用を殆ど受けることがない。したがって、清澄通路10の上部に存在していた溶融ガラスは、符号Cで示す経路(一点鎖線で示す経路)に沿って流れる間に、第1攪拌槽K1の内部で充分な攪拌作用を受けると共に、清澄通路10の下部に存在していた溶融ガラスは、符号Dで示す経路(破線で示す経路)に沿って流れる間に、第2攪拌槽K2の内部で充分な攪拌作用を受ける。これにより、溶融窯2及び清澄槽5において溶融ガラスの表面部に存在していた比重の小さな異質相が第1攪拌槽K1の内部で充分に攪拌されて消失することにより溶融ガラスの表面部が均質になると共に、その溶融ガラスの底面部に存在していた比重の大きな異質相が第2攪拌槽K2の内部で充分に攪拌されて消失することにより溶融ガラスの底面部が均質になり、ひいては溶融ガラスの全体にわたって均質化が図られる。
図4は、本発明の第2実施形態に係る溶融ガラス供給装置の主要部を示す概略正面図である。この第2実施形態に係る溶融ガラス供給装置1が、上述の第1実施形態に係る溶融ガラス供給装置1と相違しているところは、供給流路4の途中に、第1攪拌槽K1及び第2攪拌槽K2に加えて、その下流側に、それらの槽K1、K2と大きさ及び形態並びに内部構造が同一もしくは略同一の第3攪拌槽K3を配設し、この第3攪拌槽K3の下流側に冷却通路7を連通させた点である。詳述すると、第2攪拌槽K2の下部(周壁の下端部)と第3攪拌槽K3の上部(周壁の上端部)とが第2連通路R2を介して接続され、且つ、第3攪拌槽K3の下部(周壁の下端部)に冷却通路7が接続されている。したがって、第2攪拌槽K2の第2流出口N2を通じて流出した溶融ガラスは、第2連通路R2を斜め上方に流れて通過した後に、第2連通路R2から第3攪拌槽K3の上部に形成された第3流入口M3を通じてその内部に流入し、第3攪拌槽K3の内部を下方に向かって流れた後に、第3攪拌槽K3の下部に形成された第3流出口N3を通じて冷却通路7に流出するようになっている。
この第2実施形態に係る溶融ガラス供給装置1を使用して、ガラス成形品としての板ガラスを製造する場合にも、上述の第1実施形態の場合と同様にして、溶融工程と、攪拌工程と、成形工程とが実行される。そして、攪拌工程では、第1攪拌槽K1及び第2攪拌槽K2の内部において、上述の第1実施形態の場合と同様に、溶融ガラスが、回転する第1攪拌手段S1及び第2攪拌手段S2によって攪拌されると共に、その攪拌された溶融ガラスが、更に第3攪拌槽K3の内部において、回転する第3攪拌手段S3によって攪拌される。そして、上述の図3に示す模擬実験の結果を参照すれば、第3攪拌槽K3の内部での溶融ガラスの流れの形態は、第1攪拌槽K1の内部と実質的に同一となる。すなわち、第2攪拌槽K2の第2流出口N2から流出して第2連通路R2を斜め上方に流れた溶融ガラスのうち、第2連通路R2の上面部近傍(上部)に存在している溶融ガラス(当初は清澄通路10の上部に存在していた溶融ガラス)は、第3流入口M3の上部を通じて第3攪拌槽K3内に流入し、その内部の中央部を上方から下方に向かって流れた後、第3流出口N3の下部から流出して冷却通路7の下面部近傍に至る。これに対して、第2連通路R2の下面部近傍(下部)に存在している溶融ガラス(当初は清澄通路10の下部に存在していた溶融ガラス)は、第3流入口M3の下部を通じて第3攪拌槽K3内に流入し、その内周面近傍を上方から下方に向かって流れた後、第3流出口N3の上部から流出して冷却通路7の上面部近傍に至る。したがって、上述の第1実施形態の場合と比較すれば、溶融窯2及び清澄槽5内における溶融ガラスの表面部の異質相に対する攪拌作用ひいては均質化作用がより一層的確に行われることが期待できる。
図5は、本発明の第3実施形態に係る溶融ガラス供給装置の主要部を示す概略正面図である。この第3実施形態に係る溶融ガラス供給装置1が、上述の第2実施形態に係る溶融ガラス供給装置1と相違しているところは、供給流路4の途中に、第1、第2、第3攪拌槽K1、K2、K3に加えて、その下流側に、それらの槽K1、K2、K3と大きさ及び形態並びに内部構造が同一もしくは略同一の第4攪拌槽K4を配設し、この第4攪拌槽K4の下流側に冷却通路7を連通させた点である。詳述すると、第3攪拌槽K3の下部(周壁の下端部)と第4攪拌槽K4の上部(周壁の上端部)とが第3連通路R3を介して接続され、且つ、第4攪拌槽K4の下部(周壁の下端部)に冷却通路7が接続されている。したがって、第3攪拌槽K3の第3流出口N3を通じて流出した溶融ガラスは、第3連通路R3を斜め上方に流れて通過した後に、第3連通路R3から第4攪拌槽K4の上部に形成された第4流入口M4を通じてその内部に流入し、第4攪拌槽K4の内部を下方に向かって流れた後に、第4攪拌槽K4の下部に形成された第4流出口N4を通じて冷却通路7に流出するようになっている。
この第3実施形態に係る溶融ガラス供給装置1を使用して、ガラス成形品としての板ガラスを製造する場合にも、上述の第1実施形態の場合と同様にして、溶融工程と、攪拌工程と、成形工程とが実行される。そして、攪拌工程では、第1、第2、第3攪拌槽K1、K2、K3の内部において、上述の第2実施形態の場合と同様に、溶融ガラスが、回転する第1、第2、第3攪拌手段S1、S2、S3によって攪拌されると共に、その攪拌された溶融ガラスが、更に第4攪拌槽K4の内部において、回転する第4攪拌手段S4によって攪拌される。そして、上述の図3に示す模擬実験の結果を参照すれば、第4攪拌槽K4の内部での溶融ガラスの流れの形態は、第2攪拌槽K2の内部と実質的に同一となる。すなわち、第3攪拌槽K3の第3流出口N3から流出して第3連通路R3を斜め上方に流れた溶融ガラスのうち、第3連通路R3の下面部近傍(下部)に存在している溶融ガラス(当初は清澄通路10の上部に存在していた溶融ガラス)は、第4流入口M4の下部を通じて第4攪拌槽K4内に流入し、その内周面近傍を上方から下方に向かって流れた後、第4流出口N4の上部から流出して冷却通路7の上面部近傍に至る。これに対して、第3連通路R3の上面部近傍(上部)に存在している溶融ガラス(当初は清澄通路10の下部に存在していた溶融ガラス)は、第4流入口M4の上部を通じて第4攪拌槽K4内に流入し、その内部の中央部を上方から下方に向かって流れた後、第4流出口N4の下部から流出して冷却通路7の下面部近傍に至る。したがって、上述の第2実施形態の場合と比較すれば、溶融窯2及び清澄槽5内における溶融ガラスの底面部の異質相に対する攪拌作用ひいては均質化作用、また上述の第1実施形態の場合と比較すれば、表面部及び底面部の2種の異質相に対する攪拌作用ひいては均質化作用が、より一層的確に行われることが期待できる。
図6は、本発明の第4実施形態に係る溶融ガラス供給装置の主要部を示す概略正面図である。この第4実施形態に係る溶融ガラス供給装置1が、上述の第1実施形態に係る溶融ガラス供給装置1と相違しているところは、第1攪拌槽K1及び第2攪拌槽K2の周辺における通路構成が基本的に異なっている点にある。詳述すると、清澄槽5から下流側に向かう清澄通路10は、第1攪拌槽K1の上部(周壁の上端部)に接続されると共に、第1攪拌槽K1の下部(周壁の下端部)と第2攪拌槽K2の下部(周壁の下端部)とが第4連通路R4を介して接続され、且つ第2攪拌槽K2の上部(周壁の上端部)がポットに通じる冷却通路7に接続されている。したがって、清澄通路10から第1攪拌槽K1の上部の第1流入口M1を通じてその内部に流入した溶融ガラスは、第1攪拌槽K1の内部を下方に向かって流れた後に、第1攪拌槽K1の下部に形成された第1流出口N1を通じて第4連通路R4に流出し、第4連通路R4を略水平方向に流れて通過した後に、第4連通路R4から第2攪拌槽K2の下部の第2流入口M2を通じてその内部に流入し、第2攪拌槽K2の内部を上方に向かって流れた後に、第2攪拌槽K2の上部の第2流出口N2を通じて冷却通路7に流出するようになっている。
この場合、図7に示すように、第2攪拌槽K2の第2流入口M2からその内部に流入する溶融ガラスは、流入した直後に、その一部が矢印Eで示す経路を経て第2攪拌手段S2の最下段の攪拌羽根S21に当接すると共に、その残余部が矢印Fで示す経路を経て最下段の攪拌羽根S21よりも下方の部位に流れ込むように各部の位置設定がなされている。尚、第1攪拌槽K1の第1流入口M1からその内部に流入する溶融ガラスの流入直後における態様は、既に図2に基づいて説明した事項と同一である。そして、第1攪拌槽K1に流入してその内部を下方に向かって流れる溶融ガラスに対しては、第1攪拌手段S1が上方に向かう抵抗を付与するように構成されているのに対して、第2攪拌槽K2に流入してその内部を上方に向かって流れる溶融ガラスに対しては、第2攪拌手段S2が下方に向かう抵抗を付与するように構成されている。
この第4実施形態に係る溶融ガラス供給装置1を使用して、ガラス成形品としての板ガラスを製造する場合にも、上述の第1実施形態の場合と同様にして、溶融工程と、攪拌工程と、成形工程とが実行される。そして、攪拌工程において、溶融ガラスは、第1攪拌槽K1の内部を上方から下方に向かって流れる間、及び第2攪拌槽K2の内部を下方から上方に向かって流れる間に、回転する第1攪拌手段S1及び第2攪拌手段S2によって攪拌される。
図8は、上記のように第1、第2攪拌槽K1、K2の内部で第1、第2攪拌手段S1、S2による攪拌作用を受けながら流れる溶融ガラスの態様について模擬実験を行った結果を示す概略図である。同図に符号Gを付した一点鎖線で示す経路は、清澄通路10の上部に存在する溶融ガラスつまり溶融窯2及び清澄槽5の表面部に浮遊していた異質相を含む溶融ガラスの流れる経路を模式的に表したものであり、また同図に符号Hを付した破線で示す経路は、清澄通路10の下部に存在する溶融ガラスつまり溶融窯2及び清澄槽5の底面部に沈んでいた異質相を含む溶融ガラスの流れる経路を模式的に表したものである。
同図から把握できるように、清澄通路10の上部に存在する溶融ガラスは、先ず第1流入口M1の上部から第1攪拌槽K1内に流入してその中央部を下方に向かって流れた後、第1流出口N1の下部から流出して第4連通路R4の下面部近傍を略水平方向に流れ、その後、第2流入口M2の下部から第2攪拌槽K2内に流入してその中央部を上方に向かって流れた後、第2流出口N2の上部から流出して冷却通路7の上面部近傍を流れる。これに対して、清澄通路10の下部に存在する溶融ガラスは、先ず第1流入口M1の下部から第1攪拌槽K1内に流入してその内周面近傍を下方に向かって流れた後、第1流出口N1の上部から流出して第4連通路R4の上面部近傍を略水平方向に流れ、その後、第2流入口M2の上部から第2攪拌槽K2内に流入してその内周面近傍を上方に向かって流れた後、第2流出口N2の下部から流出して冷却通路7の下面部近傍を流れる。
この場合、清澄通路10の上部に存在していた溶融ガラスは、符号Gで示す経路(一点鎖線で示す経路)に沿って流れる間に、第1攪拌槽K1及び第2攪拌槽K2の内部で、回転する第1攪拌手段S1及び第2攪拌手段S2に当接して充分な攪拌作用を受けるのに対して、清澄通路10の下部に存在していた溶融ガラスは、符号Hで示す経路(破線で示す経路)に沿って流れる間に、第1攪拌手段S1及び第2攪拌手段S1、S2に当接しないことから攪拌作用を殆ど受けることがない。したがって、溶融窯2及び清澄槽5において溶融ガラスの表面部に存在する比重の小さな異質相が特に問題となる場合には、その表面部の異質相が第1、第2攪拌槽K1、K2の内部で充分に攪拌されて消失することにより溶融ガラスの表面部が充分に均質になる。
図9は、本発明の第5実施形態に係る溶融ガラス供給装置の主要部を示す概略正面図である。この第5実施形態に係る溶融ガラス供給装置1が、上述の第4実施形態に係る溶融ガラス供給装置1と相違しているところは、供給流路4の途中に、第1攪拌槽K1及び第2攪拌槽K2に加えて、その下流側に、それらの槽K1、K2と大きさ及び形態並びに内部構造が同一もしくは略同一の第3攪拌槽K3を配設し、この第3攪拌槽K3の下流側に冷却通路7を連通させた点である。詳述すると、第2攪拌槽K2の上部(周壁の上端部)と第3攪拌槽K3の上部(周壁の上端部)とが第5連通路R5を介して接続され、且つ、第3攪拌槽K3の下部(周壁の下端部)に冷却通路7が接続されている。したがって、第2攪拌槽K2の第2流出口N2を通じて流出した溶融ガラスは、第5連通路R5を略水平方向に流れて通過した後に、第5連通路R5から第3攪拌槽K3の上部に形成された第3流入口M3を通じてその内部に流入し、第3攪拌槽K3の内部を下方に向かって流れた後に、第3攪拌槽K3の下部に形成された第3流出口N3を通じて冷却通路7に流出するようになっている。
この第5実施形態に係る溶融ガラス供給装置1を使用して、ガラス成形品としての板ガラスを製造する場合にも、上述の第4実施形態の場合と同様にして、溶融工程と、攪拌工程と、成形工程とが実行される。そして、攪拌工程において、溶融ガラスは、第1攪拌槽K1の内部を上方から下方に向かって流れる間、及び第2攪拌槽K2の内部を下方から上方に向かって流れる間に加えて、第3攪拌槽K3の内部を上方から下方に向かって流れる間に、回転する第1、第2、第3攪拌手段S1、S2、S3によって攪拌される。そして、上述の図8に示す模擬実験の結果を参照すれば、第3攪拌槽K3の内部における溶融ガラスの流れの形態は、第1攪拌槽K1の内部と実質的に同一となる。したがって、上述の第4実施形態の場合と比較すれば、溶融窯2及び清澄槽5内における溶融ガラスの表面部の異質相が特に問題となる場合に、この異質相に対する攪拌作用ひいては均質化作用がより一層的確に行われることが期待できる。
図10は、本発明の第6実施形態に係る溶融ガラス供給装置の主要部を示す概略正面図である。この第6実施形態に係る溶融ガラス供給装置1が、上述の第5実施形態に係る溶融ガラス供給装置1と相違しているところは、供給流路4の途中に、第1、第2、第3攪拌槽K1、K2、K3に加えて、その下流側に、それらの槽K1、K2、K3と大きさ及び形態並びに内部構造が同一もしくは略同一の第4攪拌槽K4を配設し、この第4攪拌槽K4の下流側に冷却通路7を連通させた点である。詳述すると、第3攪拌槽K3の下部(周壁の下端部)と第4攪拌槽K4の下部(周壁の下端部)とが第6連通路R6を介して接続され、且つ、第4攪拌槽K4の上部(周壁の上端部)に冷却通路7が接続されている。したがって、第3攪拌槽K3の第3流出口N3を通じて流出した溶融ガラスは、第6連通路R6を略水平方向に流れて通過した後に、第6連通路R6から第4攪拌槽K4の下部の第4流入口M4を通じてその内部に流入し、第4攪拌槽K4の内部を上方に向かって流れた後に、第4攪拌槽K4の上部の第4流出口N4を通じて冷却通路7に流出するようになっている。
この第6実施形態に係る溶融ガラス供給装置1を使用して、ガラス成形品としての板ガラスを製造する場合にも、上述の第1実施形態の場合と同様にして、溶融工程と、攪拌工程と、成形工程とが実行される。そして、攪拌工程において、溶融ガラスは、第1攪拌槽K1の内部を上方から下方に向かって流れる間、第2攪拌槽K2の内部を下方から上方に向かって流れる間、及び第3攪拌槽K3の内部を上方から下方に向かって流れる間に加えて、第4攪拌槽K4の内部を下方から上方に向かって流れる間に、回転する第1、第2、第3、第4攪拌手段S1、S2、S3、S4によって攪拌される。そして、上述の図8に示す模擬実験の結果を参照すれば、第4攪拌槽K4の内部における溶融ガラスの流れの形態は、第2攪拌槽K2の内部と実質的に同一となる。したがって、上述の第5実施形態の場合と比較しても、溶融窯2及び清澄槽5内における溶融ガラスの表面部の異質相が特に問題となる場合に、この異質相に対する攪拌作用ひいては均質化作用がより一層的確に行われることが期待できる。
図11は、本発明の第7実施形態に係る溶融ガラス供給装置の主要部を示す概略正面図である。この第7実施形態に係る溶融ガラス供給装置1は、上述の第1実施形態における2つの攪拌槽K1、K2の連通構成と、上述の第4実施形態における2つの攪拌槽K1、K2の連通構成とを組み合わせたものに相当する。すなわち、供給流路4の上流側から順に、第1攪拌槽K1の上部の第1流入口M1に清澄通路10を接続し、第1攪拌槽K1の下部の第1流出口N1と第2攪拌槽K2の上部の第2流入口M2とを第1連通路R1を介して接続し、第2攪拌槽K2の下部の第2流出口N2と第3攪拌槽K3の上部の第3流入口M3とを第2連通路R2を介して接続し、第3攪拌槽K3の下部の第3流出口N3と第4攪拌槽K4の下部の第4流入口M4とを第3連通路R3を介して接続し、第4攪拌槽K4の上部の第4流出口N4に冷却通路7を接続したものである。
この第7実施形態に係る溶融ガラス供給装置1を使用して、ガラス成形品としての板ガラスを製造する場合にも、上述の第1実施形態の場合と同様にして、溶融工程と、攪拌工程と、成形工程とが実行される。そして、攪拌工程において、溶融ガラスは、第1、第2、第3攪拌槽K1、K2、K3の内部を上方から下方に向かって流れる間、及び第4攪拌槽K4の内部を下方から上方に向かって流れる間に、回転する第1、第2、第3、第4攪拌手段S1、S2、S3、S4によって攪拌される。したがって、この場合には、溶融窯2及び清澄槽5内における溶融ガラスの表面部の異質相に対してのみならず、底面部の異質相に対しても攪拌作用ひいては均質化作用を的確に行うことが期待できる。
図12は、本発明の第8実施形態に係る溶融ガラス供給装置の主要部を示す概略正面図である。この第8実施形態に係る溶融ガラス供給装置1が、上述の第1実施形態に係る溶融ガラス供給装置1と相違するところは、第1攪拌槽K1及び第2攪拌槽K2の内部における溶融ガラスの流れ方向が下方から上方に向かうように通路構成を変更した点にある。すなわち、供給流路4の上流側から順に、第1攪拌槽K1の下部に形成した第1流入口M1に清澄通路10を接続し、第1攪拌槽K1の上部に形成した第1流出口N1と第2攪拌槽K2の下部に形成した第2流入口M2とを第1連通路R1を介して接続し、第2攪拌槽K2の上部に形成した第2流出口N2に冷却通路7を接続したものである。
この第8実施形態に係る溶融ガラス供給装置1を使用して、ガラス成形品としての板ガラスを製造する場合にも、上述の第1実施形態の場合と同様にして、溶融工程と、攪拌工程と、成形工程とが実行される。そして、攪拌工程において、溶融ガラスは、第1、第2攪拌槽K1、K2の何れの内部をも下方から上方に向かって流れる間に、回転する第1、第2攪拌手段S1、S2によって攪拌される。したがって、このような構成によっても、上述の第1実施形態の場合と同様に、溶融窯2及び清澄槽5内における溶融ガラスの表面部の異質相と底面部の異質相との2種の異質相に対して攪拌作用ひいては均質化作用を的確に行うことが期待できる。尚、この第8実施形態における第1、第2攪拌槽K1、K2の連通構成と同一の態様で、第3攪拌槽を追加して連通させ、更には第4攪拌槽を追加して連通させてもよく、或いは、この第8実施形態における2つの攪拌槽K1、K2の連通構成と、上述の第1実施形態における2つの攪拌槽K1、K2の連通構成もしくは第4実施形態における2つの攪拌槽K1、K2の連通構成とを組み合わせるようにしてもよい。
図13は、以上の実施形態において攪拌槽の個数を2〜4個とした場合(第1〜第3実施形態)の攪拌効率を示すグラフである。ここで、攪拌効率とは、供給流路(各攪拌槽の内部)を流れる単位時間当たりの溶融ガラスの流量(kg/h)を、各攪拌槽の内部で回転する各攪拌手段(各スターラ)の平均回転数(rpm)で除算した値である。したがって、この攪拌効率は、各攪拌槽内で各攪拌手段が1回転する場合に、攪拌作用(均質化作用)を受けることができる溶融ガラスの流量を把握する上で目安となるものである。同図に実線で示す特性曲線Jは、攪拌槽の個数に対する実際の攪拌効率の変化を表わすものであるのに対して、同図に破線で示す直線Kは、攪拌槽の個数に比例して攪拌効率が増加すると仮定した場合の状態を表わすものである。同図の特性曲線Jから把握できるように、攪拌槽が2個の場合の実際の攪拌効率は、1個の場合の3倍程度となり、攪拌槽が3個の場合の実際の攪拌効率は、1個の場合の6倍または7倍程度となり、攪拌槽が4個の場合の実際の攪拌効率は、1個の場合の10倍または11倍程度となる。このように、攪拌効率は、攪拌槽の個数に比例して増加するのではなく、それよりも大きな比率で増加していくので、上記の各実施形態のように攪拌槽の個数を2〜4個とすれば、効率よく溶融ガラスを攪拌し且つ均質にすることが可能となる。
図14は、以上の実施形態において攪拌槽の個数を2〜4個とした場合(第1〜第3実施形態)の均質化必要回転数を示すグラフである。ここで、均質化必要回転数とは、流量が1ton/hの溶融ガラスを流そうとした場合に、攪拌槽の攪拌手段(スターラ)が不当な抵抗を受けることなく溶融ガラスを充分に攪拌(均質化)するために必要な攪拌手段の回転数(rpm)を意味するものである。尚、ここでいう攪拌手段の回転数は、各攪拌槽の各攪拌手段の回転数の合計値である。同図に示す特性曲線Lは、攪拌槽の個数と均質化必要回転数との関係を表わすものである。この特性曲線Lから明らかなように、攪拌槽の個数が増加するに連れて、均質化必要回転数が減少し、各攪拌手段の回転数を大幅に小さくすることができる。したがって、上記の各実施形態のように攪拌槽の個数を2〜4個にすれば、各攪拌槽の攪拌手段に不当な抵抗が作用しなくなり、攪拌羽根が削り取られて白金異物として溶融ガラス中に混入されるという不具合が生じ難くなる。
また、以上の実施形態では、2〜4個の攪拌槽が個々に独立した状態で上下流方向に隣り合って配設されているので、各攪拌槽をそれぞれ独立した状態で取り扱えるようになり、保守点検や修理或いは取り換え等の容易化及び簡素化が図られると共に、溶融ガラスから撹拌手段に作用する抵抗を適切にすべく撹拌槽の温度を調整する場合にも、その他の部位の影響を受け難くなり、各攪拌槽を流れる溶融ガラスの温度調節ひいては粘度の調節を容易且つ適正に行うことが可能となる。
そして、以上の実施形態に係る溶融ガラス供給装置は、オーバーフローダウンドロー法により液晶ディスプレイ用のガラスパネルに用いられる板ガラスを成形する場合に効果的に適用され得るが、成形方法はこれ以外のものであってもよく、またガラス成形品についても、エレクトロルミネッセンスディスプレイやプラズマディスプレイ等の他の平面ディスプレイ用のガラスパネル、及び、電荷結合素子(CCD)、等倍近接型固体撮像素子(CIS)、CMOSイメージセンサ等の各種イメージセンサやレーザーダイオード等のカバーガラス、並びに、ハードディスクやフィルタのガラス基板等に用いられる板ガラスを成形する場合にも適用可能である。
尚、以上の実施形態では、供給流路の途中に、2〜4個の攪拌槽を上下流方向に隣り合わせて配設したが、5個以上の攪拌槽を上下流方向に隣り合わせて配設してもよい。詳しくは、図1、図4或いは図5に示す連通構成のみで5個以上の攪拌槽を配設してもよく、また図6、図9或いは図10に示す連通構成のみで5個以上の攪拌槽を配設してもよく、もしくは図11に示す2種の連通構成や図12に示す連通構成を任意に選択し組み合わせて5個以上の攪拌槽を配設してもよい。そして、この場合には、供給流路を流れる溶融ガラスの流量に応じて、攪拌槽の個数を、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、更には少なくとも5個とすることが好ましい。