ところで、近年では、電波環境の良くないビルの室内に、新たに電波試験室を設置したいとの要求が増加傾向にある。
しかしながら、前記した従来の電波試験室を既存の室内に形成しようとすると、大掛かりな工事となり施工が大変であるといった問題がある。また、必要な電波遮蔽性能を確保するのも困難である。そこで、工場などで一体化形成することで電波遮蔽性能を確保した電波試験室を用いることが考えられるが、既存のビルでは、搬入スペースが制限されてしまい、室内に搬入するのは困難である。
そこで、壁や屋根を、導電性の部材でパネル化して、室内に搬入して、組み立てることが考えられる。しかし、この場合、電子機器のEMC試験では、高い電波遮蔽性能が求められるため、パネル同士の連結部分の導電性を高める必要がある。
そこで、本発明は前記の問題を解決するために案出されたものであって、施工が容易であり、パネル同士の導電性が高く、高い電波遮蔽性能を得ることができる電波試験室の連結構造および電波試験室を提供することを課題とする。
前記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、屋根パネルや壁パネルなどの電波シールド材で室全体を覆うとともに、電波吸収体を室内側に配置した電波試験室の隣接する壁パネル同士のパネル連結構造において、前記壁パネルは、コア材と、このコア材の周縁部に配置されたフレーム材と、前記コア材およびフレーム材の両面に貼り付けられた導電性表面材と、を備えており、隣り合う前記フレーム材に互いに対向するように形成された一対の嵌合溝で構成される嵌合孔に、この嵌合孔に嵌合する嵌合部材を挿入するとともに、隣り合う導電性表面材間の隙間に導電性パッキンを介設したことを特徴とする。
前記構成によれば、隣り合う導電性表面材同士が導電性パッキンを介して、電気的に接続されるので、パネル同士の導電性が高く、電波試験室の電波遮蔽性を高めることができる。さらに、前記構成によれば、パネルの連結作業が簡単であり、新たな電波試験室を、ビルの室内に容易な施工で形成することができる。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の電波試験室のパネル連結構造であって、前記導電性パッキンが、柔軟性を有する芯材の表面を、導電性を有する導電性材料で被覆して構成されたことを特徴とする。
前記構成によれば、導電性パッキンが柔軟性を有するので、導電性表面材間で適度に押圧され、導電性表面材同士を確実に電気的に連結することができる。
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の電波試験室のパネル連結構造であって、前記嵌合部材が、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の押出形材にて構成されたことを特徴とする。
前記構成によれば、高い精度の嵌合部材を形成することができるので、嵌合孔への挿入が容易に行えるとともに、隣り合う壁パネル間にガタツキが発生するのを防止できる。
請求項4に係る発明は、屋根パネルや壁パネルなどの電波シールド材で室全体を覆うとともに、電波吸収体を室内側に配置した電波試験室において、前記壁パネルは、パネル状のコア材と、このコア材の周縁部に配置されたフレーム材と、前記コア材およびフレーム材の両面に貼り付けられた導電性表面材と、を備えており、前記フレーム材のうち、少なくとも縦方向に延びるフレーム材には、嵌合溝が形成されており、隣り合う壁パネル同士は、隣り合う一対の嵌合溝で構成される嵌合孔と嵌合する嵌合部材を前記嵌合溝に挿入するとともに、隣り合う導電性表面材間に導電性パッキンを介設することで、電気的に接触して接続されたことを特徴とする。
前記構成によれば、隣り合う導電性表面材同士が導電性パッキンを介して、電気的に接続されるので、パネル同士の導電性が高く、電波遮蔽性の高い電波試験室を提供することができる。さらに、前記構成によれば、パネルの連結作業が簡単であり、新たな電波試験室を、ビルの室内に容易な施工で形成することができる。
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の電波試験室であって、前記導電性パッキンが、柔軟性を有する芯材の表面を、導電性を有する導電性材料で被覆して構成されたことを特徴とする。
前記構成によれば、導電性パッキンが柔軟性を有するので、導電性表面材間で適度に押圧され、導電性表面材同士を確実に電気的に連結することができ、電波遮蔽性の高い電波試験室を提供することができる。
請求項6に係る発明は、請求項4または請求項5に記載の電波試験室であって、前記コア材の両面に貼り付けられた導電性表面材のうち、少なくとも一方の導電性表面材の外面側表面には、導電性塗料が塗布されたことを特徴とする。
前記構成によれば、導電性表面材の導電性を保持しながら、耐食性を高めることができる。
請求項7に係る発明は、請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の電波試験室であって、前記導電性表面材が、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする。
前記構成によれば、電波試験室の軽量化および電波遮蔽性能の向上を達成することができる。
請求項8に係る発明は、請求項4乃至請求項7のいずれか1項に記載の電波試験室であって、前記電波吸収体は、λ/4型の電波吸収体であって、前記屋根パネルの内側面に布設されるとともに、互いに向かい合う前記壁パネルの内側面のうち少なくとも一方の内側面に布設されることを特徴とする。
前記構成によれば、所定の電波を吸収することができるので、電子機器のEMC試験の精度を高めることができる。また、屋根パネルの内側面および、向かい合う壁パネルの内側面のうち少なくとも一方に電波吸収体を貼り付けているので、床面あるいは、電波吸収体が貼り付けられていない壁面に衝突した電波は、対向する天井または壁面に設けられた電波吸収体に向かって反射するので、その電波吸収体で吸収される。
請求項9に係る発明は、請求項4乃至請求項8のいずれか1項に記載の電波試験室であって、前記壁パネルまたは前記屋根パネルに、室内と室外との間で、空気の流通を確保しつつ、電波を遮断する電波遮蔽手段を設けたことを特徴とする。
前記構成によれば、電波遮蔽性能を維持しながら、室内の空気の換気を行うことができるので、作業環境を向上させることができる。
請求項10に係る発明は、請求項9に記載の電波試験室であって、前記電波遮蔽手段が、電波を回折損失させることで遮蔽する金属製のフィルタを備えたことを特徴とする。
前記構成によれば、金属製のフィルタによって、電波を回折損失させることで遮蔽することができる。このような金属製のフィルタは、例えば、金属片が集合して構成されるとともに、空気が流通する隙間を有し、かつ電波を回折損失させることによって遮蔽するフィルタである。
請求項11に係る発明は、請求項9に記載の電波試験室であって、前記電波遮蔽手段が、所定波長より長い波長の電波を伝搬しない導波管を備えたことを特徴とする。
前記構成によれば、導波管の中空部を介して、室内と室外とは連通している。すなわち、電波遮蔽性能を維持しながら、室内と室外とを連通できるので、室内にケーブルを引き込んだり、室内の空気を換気したりするのに利用することができる。
ここで、「所定波長より長い波長の電波を伝播しない」とは、「導波管は、所定波長以下の波長の電波が減衰せずに、その内部を良好に伝播可能とする使用で設計される」ことを言い換えた意味である。また、本発明における導波管は、その外形が管状に限られるものではない。
請求項12に係る発明は、請求項11に記載の電波試験室であって、前記導波管が、複数設けられており、束状に配置されたことを特徴とする。
前記構成によれば、導波管を複数備えており、かつ複数の導波管は、束状であるため、例えば、複数の導波管を細くしても、電波試験室の室内と室外とを連通する連通路の総断面積を大きくすることができる。したがって、各導波管の開口部の面積を小さくして、各導波管の電波遮蔽性能を高めても、複数の導波管では、連通路の総断面積を大きくできるので、例えば、必要な換気用開口面積を確保できる。
請求項13に係る発明は、請求項11または請求項12に記載の電波試験室であって、前記導波管が、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されたことを特徴とする。
前記構成によれば、導波管を軽量化することができる。
請求項14に係る発明は、請求項9乃至請求項13のいずれか1項に記載の電波試験室であって、前記壁パネルまたは前記屋根パネルに、室外の空気を室内に吸い込むための吸気口を設けるとともに、室内の空気を室外に排出するための排気口を設け、前記吸気口および排気口に、前記電波遮蔽手段を設けたことを特徴とする。
前記構成によれば、電波遮蔽性能を維持しながら、室内の空気の換気を行うことができ、作業環境を向上させることができる。
請求項15に係る発明は、請求項4乃至請求項14のいずれか1項に記載の電波試験室であって、前記壁パネルに、開閉可能に形成され、閉時に電波を遮蔽する扉を設けたことを特徴とする。
前記構成によれば、電波試験室内への出入りが可能になるとともに、内部で電子機器のEMC試験などを行う際には、電波遮蔽性を維持することができ、精度の高い試験を行うことができる。
請求項16に係る発明は、請求項15に記載の電波試験室であって、前記扉が、導電性の扉本体パネルと、導電性の扉枠材とを有し、前記扉本体パネルの周縁部または、前記扉枠材の前記扉本体パネルとの当接部分の少なくとも一方に、導電性パッキンを設けたことを特徴とする。
前記構成によれば、扉を閉じた際には、ともに導電性を有する扉本体パネルと扉枠材とが導電性パッキンを介して電気的に接続されるので、扉の導電性が高く、高い電波遮蔽性能を維持することができる。
請求項17に係る発明は、請求項16に記載の電波試験室であって、前記導電性パッキンが、柔軟性を有する芯材の表面を、導電性を有する導電性材料で被覆して構成されたことを特徴とする。
前記構成によれば、導電性パッキンが柔軟性を有するので、扉本体パネルと扉枠材との間で適度に押圧され、扉本体パネルと扉枠材とを確実に電気的に連結することができる。
請求項18に係る発明は、請求項4乃至請求項17のいずれか1項に記載の電波試験室であって、前記壁パネルまたは前記屋根パネルに、電波の遮蔽性を有するとともに室内を視認可能な窓を設けたことを特徴とする。
扉を開けなくても、電子機器のEMC試験などの状況を確認できる。よって、試験中に誤って扉を開けたりするのを防止できる。
請求項19に係る発明は、請求項4乃至請求項18のいずれか1項に記載の電波試験室であって、前記壁パネルまたは前記屋根パネルに、電波妨害を防止しつつ、室外から室内へとケーブルを配線可能とするEMIダクトを設けたことを特徴とする。
前記構成によれば、電波妨害を防止しつつ、室外から室内へとケーブルを配線することができる。
請求項20に係る発明は、請求項19に記載の電波試験室であって、前記EMIダクトを介して、室外から室内へとケーブルが配線されており、前記ケーブルには、ノイズを吸収するノイズ吸収体が被覆されたことを特徴とする。
前記構成によれば、ノイズ吸収体によりケーブル内を導通するノイズを吸収することができる。なお、電波試験室の室外から室内へ配線されるケーブルとしては、例えば、アンテナに接続するケーブルや、内部に配置される電子機器の電源ケーブルなどが挙げられる。
請求項21に係る発明は、請求項4乃至請求項20のいずれか1項に記載の電波試験室であって、室外に絶縁変圧器を設け、この絶縁変圧器の出力側ケーブルを電源フィルタまたは導波管を介して室内へと引き込み、前記出力側ケーブルを室内に設けられた照明装置に接続したことを特徴とする。
前記構成によれば、電波妨害を防止しつつ、室内の照明を確保することができる。
請求項22に係る発明は、請求項4乃至請求項21のいずれか1項に記載の電波試験室であって、室内角部上端の入隅部に、前記壁パネルと前記屋根パネルとの連結部分を覆う導電性のコーナーカバー部材を設けたことを特徴とする。
前記構成によれば、電波遮蔽性能が低下しやすい電波試験室の入隅部において、隙間を覆うことができるので、電波遮蔽性の低下を防止できる。
本発明によれば、パネル同士の導電性が高く、高い電波遮蔽性能を得ることができる電波試験室の連結構造および電波試験室を容易な施工で形成することができるといった優れた効果を発揮する。
本発明に係る電波試験室の連結構造および電波試験室を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明に係る電波試験室のパネル連結構造を実施するための最良の形態を示した斜視図、図2は電波試験室を示した斜視図、図3は電波試験室を示した分解斜視図、図4は壁パネルを示した分解斜視図、図5は電波試験室を示した上面図および側面図である。
まず、本実施の形態に係る電波試験室の構成を説明する。
図2、図3および図5に示すように、本実施の形態に係る電波試験室1は、電波シールド材2で室全体を覆い、電波吸収体60(図14および図15参照)を室内側に配置したものである。電波シールド材2は、それぞれ導電性の屋根パネル10と複数の壁パネル20と床パネル51(図8参照)とで、主に構成されている。電波試験室1の壁面の四つのコーナー部には、コーナー柱21がそれぞれ設けられている。壁パネル20およびコーナー柱21は、電波試験室1の外周部に沿って設けられたベース22上に載置されて固定されている。隣接する壁パネル20同士、または壁パネル20とコーナー柱21とは、嵌合部材35(図3参照)を介して接続されている。
図4に示すように、壁パネル20は、矩形平面状を呈しており、パネル状のコア材24と、このコア材24の周縁部四辺に配置されたフレーム材25と、コア材24およびフレーム材25の室内側および室外側の両面に貼り付けられた導電性表面材26と、を備えて構成されている。
コア材24は、例えば硬質ポリウレタンフォームやポリスチレンフォームなどの断熱材から構成されており、電波試験室1(図2参照)の断熱効果を高める。なお、コア材は、前記材質に限られるものではなく、アルミニウム板をハニカム状に配列して形成したものであってもよい。
フレーム材25は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の押出形材にて構成されている。フレーム材25は、中空部を有する筒状に形成されている。コア材24の左右両端で垂直方向に延びて配置される垂直フレーム材25aには、嵌合部材35(図1参照)が嵌合される嵌合溝27が形成されている。
詳しくは図6に示すように、嵌合溝27は、断面T字状を呈しており、壁パネル20の外側(隣接する壁パネル20側)に向かってT字の脚部が開口するように形成されている。嵌合溝27の開口部分の両側には、フレーム材25の外周方向外方に延出する突条27aが形成されている。この突条27aは、後述する導電性表面材26のリップ部26aの配置スペースを確保するとともに、壁パネル20同士を連結する際に壁パネル20間に挿入される導電性パッキン36の挿入スペースを確保する役目を果たす。垂直フレーム材25aの、導電性表面材26が接する外側表面には、垂直方向に延びる溝25cが所定間隔で複数列形成されている。溝25cを設けたことによって、導電性表面材26を貼り付けるための接着剤を挿入することができ、フレーム材25と導電性表面材26との接着性を高めることができる。
図4に示すように、コア材24の上下両端で水平方向に延びて配置される水平フレーム材25bは、断面矩形状に形成されている(詳しくは図8および図10参照)。なお、垂直フレーム材25aや水平フレーム材25bの中空部内にリブを設けて補強するようにしてもよい。
垂直フレーム材25aは、壁パネル20の上端から下端まで延びて配置されており、水平フレーム材25bは、その両端が、コア材24を挟んで向かい合う一対の垂直フレーム材25aの背面25dにそれぞれ当接するように配置されている。すなわち、一対の垂直フレーム材25a,25a間の上下で、水平フレーム材25bが挟み込まれるようになっている。これによって、嵌合溝27は、壁パネル20の上端から下端の全長にかけて形成されることとなる。
導電性表面材26は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の板材にて構成されている。導電性表面材26は、コア材24とフレーム材25の室内側および室外側の両側面をそれぞれ覆うように一体形成されている。導電性表面材26は、その四辺の周縁部において、フレーム材25の外周面に所定長さで折り曲げられるリップ部26aが形成されている(詳しくは図6(側部)、図8(下部)、図10(上部)参照)。室内側および室外側に貼り付けられる一対の導電性表面材26,26のうちの少なくとも一方の導電性表面材26の外面側表面(コア材24と接する面とは逆側の面)には、導電性塗料29(図6参照)が一面に塗布されている。本実施の形態では、導電性塗料29は、室内側の導電性表面材26の外面側表面に塗布されている。導電性塗料29は、リップ部26aの表面まで塗布されている。
導電性塗料29は、導電剤と樹脂バインダーとで構成されている。導電剤には、ニッケル粒子や銀、銅、カーボンなどの粉体が用いられ、樹脂バインダーとしては、アクリル、ビニル、エポキシ、アルキドなどが用いられている。導電性塗料29は、樹脂バインダー内で、導電剤同士が接触することで、導電性が発現される。なお、導電性表面材26の、導電性塗料29が塗布されない面には、陽極酸化処理が施されている。
ベース22は、図8に示すように、断面略コ字状(U字状)に形成されており、電波試験室1の室外側に向かって開口するように配置されている。ベース22は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の押出形材にて構成されている。ベース22は、電波試験室1の外周位置の下部に敷設されている(図3参照)。ベース22は、コンクリートスラブ30上に直置きされており、アンカーボルト31およびナット32などの固定手段を介して下部プレート22aがコンクリートスラブ30に固定されている。一方、上部プレート22b上には、ボルト33およびナット32などの固定手段を介して、壁パネル20が固定されている。上部プレート22bと壁パネル20との間には、導電性ガスケット52が介設されており、壁パネル20とベース22との導電性を高めるように構成されている。上部プレート22bの室内側端部には、立上り部22cが形成されている。この立上り部22cは、壁パネル20の設置の際の位置決めガイドの役目を果たすとともに、電波の漏洩を防ぐための堰の役目を果たす。なお、ベース22は、押出形材に限られるものではなく、溝形鋼などの鉄骨材で構成してもよい。
ベース22の室内側には、アルミニウムあるいはステンレス製のプレートからなる床パネル51が敷設されている。床パネル51の周縁部(ベース22との接触部)には、プレートを下方に折り曲げてなる垂下部51aが形成されており、この垂下部51aとベース22の垂直プレート22dとが面接触するように構成されている。垂下部51aと垂直プレート22d間には、導電性ガスケット52が設けられており、床パネル51とベース22との導電性を高めている。導電性ガスケット52は、導電性ゴムなどから構成され、プレート状に形成されており、垂下部51aと垂直プレート22d間で挟持されるように設けられている。床パネル51は、根太(図示せず)などの下地材を介して、コンクリートスラブ30上に所定の高さで敷設されている。床パネル51は、電波試験室1の外部の床面と同等の床レベルとなるように形成されており、使い勝手を向上させている。なお、図8中、53は、床パネル51の補強部材を示し、54aは、電波試験室1の室外の床材、54bは、床材54aの床下地材をそれぞれ示す。
隣り合う壁パネル20,20同士のパネル連結構造5は、図1の右側部および図6の断面図に示すようになっている。壁パネル20の垂直フレーム材25a同士が突き合わされており、それぞれの嵌合溝27が互いに向かい合って、断面H字状の嵌合孔28が形成されることとなる。嵌合孔28には、嵌合孔28の内周形状と同等の外周形状、すなわち、断面H字状の嵌合部材35が、嵌合挿入されている。嵌合孔28は、壁パネル20の上端から下端までの全長に渡って形成されている。壁パネル20,20を突き合わせた後に、嵌合部材35は、壁パネル20,20の上方から挿入される。嵌合部材35は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の押出形材にて構成されており、嵌合孔28に嵌合することで、壁パネル20,20同士がガタつかずに固定されるような形状となっている。
隣り合う壁パネル20,20の垂直フレーム材25a,25a間の隙間には、導電性パッキン36が介設されている。導電性パッキン36は、垂直フレーム材25aの嵌合溝27の両側に折り曲げられた、導電性表面材26のリップ部26aに接するように設けられている。本実施の形態では、室内側の導電性表面材26,26のリップ部26a,26a間、すなわち、導電性塗料29が塗布されたリップ部26a,26a間に、導電性パッキン36が設けられている。
図6に示すように、導電性パッキン36は、両端が厚く形成されたシート状の部材であって、リップ部26a,26a間の隙間に、垂直方向に延びて配置されている。導電性パッキン36は、柔軟性を有する芯材36aの表面を、導電性を有する導電性材料36bで被覆して構成されている(図6(b)参照)。芯材36aは、例えば、ウレタン製スポンジで構成されている。導電性材料36bは、例えば、ニッケルメッキを施したナイロン素材の布状の部材であって、芯材36aの周囲に接着されている。
導電性パッキン36は、リップ部26a,26a間の隙間に、押し込み用のゴムパッキン37で押し込まれて挿入されている。ゴムパッキン37は、ゴムや樹脂などの弾性体によって構成されており、隙間に沿って垂直方向に延びるシート部37aの両側に、複数の襞37bが形成されている。このような構成によれば、導電性パッキン36は、断面略U字状に変形され、襞37bによって導電性表面材26のリップ部26aに押圧されている。
導電性塗料29が塗布されていない導電性表面材26,26のリップ部26a,26a間(本実施の形態では、室外側のリップ部26a,26a間)には、導電性パッキン36は設けられておらず、ゴムパッキン37のみが挿入されている(図(a)の上側参照)。このような構成によれば、室外側の防音性および防水性を確保できる。
図1の左側部および図7に示すように、電波試験室1の壁面の四つのコーナー部には、コーナー柱21が設けられている。コーナー柱21は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の押出形材にて構成されている。コーナー柱21の、隣接する壁パネル20との連結面には、壁パネル20に形成された嵌合溝27と同様の断面形状の嵌合溝27’が形成されている。この嵌合溝27’の開口部分の両側には、隣接する壁パネル20側に延出する突条27’aが形成されている。この突条27’aは、コーナー柱21と壁パネル20とを連結する際に壁パネル20間に挿入される導電性パッキン36の挿入スペースを確保する役目を果たす。
隣り合う壁パネル20とコーナー柱21とのパネル連結構造5は、隣り合う壁パネル20,20同士のパネル連結構造5と同等である。すなわち、壁パネル20とコーナー柱21とを突き合わせると、それぞれの嵌合溝27,27’が互いに向かい合って、断面H字状の嵌合孔28が形成されることとなる。嵌合孔28には、嵌合部材35が嵌合挿入されている。
コーナー柱21の、嵌合溝27’よりも室内側の面には、導電性塗料29が、塗布されている。隣り合う壁パネル20とコーナー柱21間の室内側の隙間には、導電性パッキン36が介設されている。導電性パッキン36は、室内側の導電性塗料29が塗布されたリップ部26aとコーナー柱21との間に設けられている。導電性パッキン36は、押し込み用のゴムパッキン37で、室内側から押し込まれて挿入されている。
隣り合う壁パネル20とコーナー柱21間の室外側の隙間には、導電性パッキン36は設けられておらず、防音性および防水性を確保するために、ゴムパッキン37のみが挿入されている。
図7の下部および図9には、扉40を有する壁パネル20が図示されている。扉40は、閉時に電波を遮蔽するように構成されている。図7および図9に示すように、扉40は、扉本体パネル40aと扉枠材41とを備えている。扉本体パネル40aの周縁部、または扉枠材41の、扉本体パネル40aとの当接部分の少なくとも一方(本実施の形態では扉枠材41のみ)に導電性パッキン43が設けられている。なお、図9では、他の形態の導電性パッキン44を図示している。
扉本体パネル40aは、通常の壁パネル20と同様に、内部に設けられるパネル状のコア材24と、このコア材24の周縁部四辺に配置されたフレーム材25と、コア材24およびフレーム材25の室内側および室外側の両面に貼り付けられた導電性表面材26と、を備えている。コア材24、フレーム材25および導電性表面材26の材質は、壁パネル20のものと同等である。室内側の導電性表面材26の室内側表面には、導電性塗料29が一面に塗布されている。
扉本体パネル40aの周囲には、全周に渡って、扉枠材41が設けられている。扉枠材41は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の押出形材にて構成されている。図7に示すように、垂直方向に延びる垂直扉枠材41aには、壁パネル20の嵌合溝27と同様の断面形状の嵌合溝27”が形成されている。この嵌合溝27”の開口部分の両側には、隣接するコーナー柱21側に延出する突条27”aが形成されている。この突条27”aは、扉本体パネル40aを有する壁パネル20と、コーナー柱21とを連結する際に導電性パッキン36の挿入スペースを確保する役目を果たす。隣り合うコーナー柱21との連結は、壁パネル20とコーナー柱21とを突き合わせると、それぞれの嵌合溝27”,27’が互いに向かい合って、断面H字状の嵌合孔28が形成されることとなる。嵌合孔28には、嵌合部材35が嵌合挿入されている。なお、コーナー柱21側の垂直扉枠材41aとは逆側の垂直扉枠材(図示せず)も同等の構成となっており、嵌合部材を介して隣接する壁パネル20(図2および図3参照)と接続されている。
扉枠材41の内周面には、扉40の閉時に、扉本体パネル40aを受ける扉受プレート41cが形成されている。扉受プレート41cには、導電性パッキン43が設けられている。導電性パッキン43は、導電性パッキン36と同様の材質で構成されており、柔軟性を有する芯材の表面を、導電性を有する導電性材料で被覆して構成されている。導電性パッキン43は、断面略レ字状(L字状)に形成されており、扉本体パネル40aと扉受プレート41c間で押圧されて変形する。これによって、導電性パッキン43は、扉本体パネル40aに適度な圧力で接触することで、扉受プレート41cと扉本体パネル40a間で導電性を確保することができる。
扉本体パネル40aは、ヒンジ41dを介して扉枠材41に開閉自在に支持されている。扉本体パネル40aのフレーム材25と、扉枠材41の垂直扉枠材41aの外側面との間でヒンジ41dの内側部分には、ゴムパッキン41eが設けられている。このゴムパッキン41eは、扉本体パネル40aのフレーム材25に固定されている。
図9に示すように、水平方向に延びる水平扉枠材41bは、断面略矩形の中空状に形成され、扉枠材41の内周面側(図9では、下側の水平扉枠材41bであるので、上側)に延出する扉受プレート41cが形成されている。水平扉枠材41bは、ボルト33およびナット32などの固定手段を介して、ベース22の上部プレート22b上に固定されている。なお、図9においては、図7の導電性パッキン43とは違う形状の導電性パッキン44を図示しているが、同一の扉枠材41内では、垂直扉枠材41aおよび水平扉枠材41bに、同一形状の導電性パッキン43あるいは導電性パッキン44が取り付けられる。図9に示した導電性パッキン44は、導電性ゴムにて構成されている。導電性パッキン44は、扉受プレート41cに固定される固定部44aと、固定部44aに連続的に形成され扉本体パネル40aに押圧されて変形する変形部44bとで構成されている。変形部44bは、薄厚の筒状で変形可能に形成されており、扉40の閉時に、変形してその復元力によって扉本体パネル40aを適度な圧力で押圧するようになっている。
図10は壁パネルと屋根パネルの連結構造を示した断面図である。図示するように、屋根パネル10も、壁パネル20と同様に、パネル状のコア材11と、このコア材11の周縁部に配置されたフレーム材12と、コア材11およびフレーム材12の両面に貼り付けられた一対の導電性表面材13と、を備えている。コア材11、フレーム材12および導電性表面材13は、それぞれ、壁パネル20のコア材24、フレーム材25および導電性表面材26と同等の材質で構成されている。フレーム材12は、断面矩形状を呈している。一対の導電性表面材13のうち、上側の導電性表面材13aは、所定の長さで外方へ延出している。
このような構成の屋根パネル10と壁パネル20とは、連結部材14を介して連結されている。連結部材14は、壁パネル20の上部に配置されており、壁パネル20の上側の
水平フレーム材25bに沿って形成されている。連結部材14は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の押出形材にて構成されている。連結部材14は、壁パネル20の室外側上端面近傍を覆う垂壁部14aと、屋根パネル10の下面周縁部を支持する支持板部14bと、屋根パネル10の上側の導電性表面材13aの周縁部の延出部分13cと当接する当接板部14cとを有している。垂壁部14aは、壁パネル20の室外側上端面近傍を覆うことで、連結部材14と壁パネル20との隙間から電波が侵入あるいは漏出するのを防止して、電波遮蔽性能を高めている。支持板部14bは、水平方向に延びて形成されており、屋根パネル10の下面周縁部を下側から支持するとともに、連結部材14と屋根パネル10の下側の導電性表面材13bとの隙間から電波が侵入あるいは漏出するのを防止して、電波遮蔽性能を高めている。当接板部14cは、上側の導電性表面材13aの周縁部の延出部分13cと所定の長さで重合して当接することで、連結部材14と導電性表面材13aとの隙間から電波が侵入あるいは漏出するのを防止して、電波遮蔽性能を高めている。なお、連結部材14と壁パネル20の上端面との間、支持板部14bと屋根パネル10との間、当接板部14cと導電性表面材13aとの間には、プレート状の導電性ガスケット52が介設されており、電波遮蔽性能をさらに高めている。
壁パネル20の室内側上端面には、その室内側上端面と連結部材14の支持板部14bの下面を覆うカバー部材15が設けられている。カバー部材15は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の押出形材からなり、断面L字状に形成されている。カバー部材15の壁パネル20との当接面および支持板部14bとの当接面には、凹部15aが形成されている。凹部15aには、プレート状の導電性ガスケット52が設けられており、壁パネル20とカバー部材15と連結部材14との導電性を確保することで、電波遮蔽性能を高めている。
図11は室内側コーナー部分の壁パネルと屋根パネルの連結構造を斜め下方から見上げるように示した斜視図、図12は図11のA−A線断面図である。図11および図12に示すように、電波試験室1の室内角部上端のコーナーの入隅部であって、直交する壁パネル20,20上部と屋根パネル10との連結部分には、互いに直交するカバー部材15,15の連結部近傍と、壁パネル20間に介設されるコーナー柱21の上端近傍とを覆うコーナーカバー部材16が設けられている。コーナーカバー部材16は、縦および直交する壁パネルの延出方向の3方向に延出する断面L字状のカバープレート部16a(水平方向に延出),16a(水平方向に延出),16b(鉛直方向に延出)を有している。コーナーカバー部材16は導電性を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金にて構成されている。コーナーカバー部材16は、カバープレート部16a,16a,16bを押出形材にてそれぞれ形成して、3方向に互いに接合することで、形成されている。水平方向に延出してカバー部材15上に位置するカバープレート部16a,16aは、カバー部材15より幅広に形成されており、カバー部材15を完全に覆うように構成されている。垂直方向に延出してコーナー柱21を覆うカバープレート部16bは、コーナー柱21よりも幅広に形成されており、コーナー柱21と、その両側の壁パネル20の側端部も覆うように構成されている。このような構成のコーナーカバー部材16によれば、壁パネル20,20およびコーナー柱21の上端部で、屋根パネル10との連結部分の、隙間が発生しやすいコーナーの入隅部を完全に覆うことができるので、電波遮蔽性能を大幅に高めることができる。
一方、図2および図12に示すように、連結部材14,14同士の連結部分の外側には、この連結部分を覆う外側コーナーカバー部材17が設けられている。外側コーナーカバー部材17は、平面視L字状に形成されており、互いに連結される連結部材14,14に沿って延出して形成されている。外側コーナーカバー部材17は、各連結部材14,14を覆う断面略Z字状のカバープレート部17a,17aを有している。外側コーナーカバー部材17はアルミニウムまたはアルミニウム合金にて構成されている。外側コーナーカバー部材17は、カバープレート部17a,17aを押出形材にてそれぞれ形成して、カバープレート部17a,17aを直交させて、平面視L字状に接合することで、形成されている。このような構成の外側コーナーカバー部材17によれば、連結部材14,14同士の連結部分であって、隙間が発生しやすいコーナーの出隅部を完全に覆うことができるので、電波遮蔽性能を大幅に高めることができる。
図13は壁パネルと窓の取り合いを示した断面図である。窓55は、壁パネル20と扉本体パネル40aに設けられている(図2参照)。図13に示すように、窓55は、二重構造となっており、壁パネル20の室内側および室外側の面に沿って、電波シールド性能を有する複層構造の透明板56,56がそれぞれ設けられている。
透明板56は、ガラス、アクリル、ポリカーボネイトやポリエステルなどにて構成される基板56a,56a内に、電波遮蔽性能を有するメッシュ56bを挟み込んで構成されている。メッシュ56bは、基板56a,56aの周縁部にまで延長しており、透明板56の周縁部は、銅テープ56cで被覆されている。透明板56は、その周縁部を、導電性を有する材料(例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金)からなる取付金具57a,57bによって、挟持されている。取付金具57a,57bと透明板56との間には、導電性ガスケット52が介設されており、取付金具57a,57bと透明板56との導電性を高めている。また、取付金具57a,57bと壁パネル20との間にも、導電性ガスケット52が介設されており、取付金具57a,57bと壁パネル20との導電性を高めている。これによって、窓55は、電波試験室1の内部を視認可能な透明性を有するとともに、電波の遮蔽性を有する。このような窓55を設けたことによって、扉40を開けなくても、EMC試験などの状況を確認できる。このように電波試験室1の内部が確認できるので、試験中に誤って扉40を開けたりするのを防止できる。
なお、図13では、壁パネル20と窓55との取り合いを示しているが、扉本体パネル40aと窓55との取り合いも同様の構成である。また、本実施の形態では、窓55は、壁パネル20と扉本体パネル40aに設けているが、屋根パネル10に設けてもよいのは勿論である。
前記構成の電波試験室1およびパネル連結構造5によれば、隣り合う導電性表面材26,26同士が導電性パッキン36を介して、電気的に接触して接続されるので、壁パネル20,20同士、または壁パネル20とコーナー柱21との導電性が高く、電波試験室1の電波遮蔽性を高めることができる。特に、導電性パッキン36は、ゴムパッキン37によって、隣り合う壁パネル20,20間に押し込まれて固定されているので、ゴムパッキン37の襞37bによって導電性表面材26に適度な圧力で押し付けられる。また、導電性パッキン36自体も柔軟性を有するので、導電性表面材26,26間で適度に押圧されて、導電性表面材26に接触する。したがって、導電性パッキン36と導電性表面材26とが確実に接触することとなり、隣り合う壁パネル20,20同士の導電性を確保することができる。また、導電性パッキン36は、壁パネル20とコーナー柱21との間にも設けられているので、壁パネル20とコーナー柱21との間でも導電性を確保できる。よって、電波試験室1の周壁を構成する複数の壁パネル20および各コーナー柱21は、電気的に一体に接続されることとなる。したがって、電波試験室1の外周面には、一体的な導電性の電波シールド層が形成され、電波試験室1の電波遮蔽性能が大幅に向上する。
なお、本実施の形態では、導電性パッキン36を、室内側のみに設けているが、これに限られるものではない。導電性パッキン36は、室外側のみに設けてもよく、また室内側および室外側の両方に設けてもよい。
本実施の形態では、隣り合う壁パネル20,20同士、または壁パネル20とコーナー柱21とを突き合わせた後に、互いに向かい合う嵌合溝27,27によって構成される嵌合孔28に、上部から嵌合部材35を挿入して嵌合させることができるので、連結作業が非常に簡単である。よって、新たな電波試験室1を、電波環境の良くないビルの室内に形成する場合であっても、各部材を容易に搬入できるとともに、容易な施工で電波試験室1を形成することができる。
室内側の導電性表面材26の外面側表面には、導電性塗料29が塗布されているので、導電性表面材26の導電性を保持しながら、耐食性を高めることができる。特に、導電性塗料29が塗布された部分に、導電性パッキン36を設けているので、隣り合う壁パネル20,20間でも導電性を大幅に向上できる。また、コーナー柱21の室内側の面にも導電性塗料29を塗布しているので、壁パネル20とコーナー柱21との導電性を大幅に向上できる。なお、導電性表面材26の、導電性塗料29が塗布されない面には、陽極酸化処理が施されているので、耐食性を確保できる。
なお、本実施の形態では、室内側の導電性表面材26のみに、導電性塗料29を塗布しているが、これに限られるものではない。導電性塗料29は、室外側の導電性表面材26のみに塗布してもよく、また室内側および室外側の両方の導電性表面材26,26に塗布してもよい。この場合、導電性パッキン36は、導電性塗料29が塗布された隣り合う導電性表面材26,26間に設けるのが好ましい。室内側および室外側の少なくとも一面に導電性塗料29を塗布すれば導電性を確保できる。
本実施の形態では、嵌合部材35を、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の押出形材にて構成しているので、非常に高い精度の嵌合部材35を形成することができる。したがって、嵌合孔28への挿入が容易に行えるとともに、隣り合う壁パネル20,20間にガタツキが発生するのを防止できる。
また、導電性表面材26を、アルミニウムまたはアルミニウム合金にて構成しているので、壁パネル20が、導電性を確保できるとともに軽量化される。したがって、電波試験室1の軽量化および電波遮蔽性能の向上を達成することができる。
ところで、図14は電波試験室の水平方向断面図、図15は電波試験室の垂直方向断面図である。図14および図15に示すように、電波試験室1の室内側には、電波吸収体60が布設されている。電波吸収体60は、λ/4型のものであって、屋根パネル10の内側面に布設されているとともに、互いに向かい合う壁パネル20の内側面のうち少なくとも一方の内側面に布設されている。すなわち、電波吸収体60は、天井面と互いに交差する2面の壁面との計3面に布設されている。
電波吸収体60は、電波を吸収させる公知の一方式に基づく構造を有しており、例えば携帯電話などの電子機器から放射された電波を擬似的に吸収するものである。電波吸収体60は、電子機器から放射された電波が、電波試験室1の内面で反射して共振するのを防止し、試験精度の低下を防止する。
電波吸収体60は、図16に示すように、シート状に一体化形成されており、背面パネル60aと、背面パネル60aの室内側に設けられたスペーサ60bと、さらにその室内側に配置され電波の1/4を透過させる機能を有する抵抗膜シート60cと、さらにその内側に配置された保護膜60dとを備えて構成されている。
背面パネル60aは、導電性を有する材質、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金などにて構成されている。背面パネル60aと壁パネル20との間には、着脱自在のテープ60eが介設されており、電波吸収体60が壁パネル20に着脱自在に貼り付けられている。
スペーサ60bは、電波の透過性を有するとともに、抵抗膜シート60cと背面パネル60aとの間隔を、λ/4に設定するためのものであり、λ/4の厚みを有している。なお、ここでは、携帯電話(図示せず)などの電子機器から放射される電波W1の波長がλである場合を想定している。スペーサ60bは、電波が通過可能であれば、どのような材料から形成してもよく、例えば、発泡スチロールから形成することができる。発泡スチロールから形成した場合、電波吸収体60の軽量化を図れるとともに、スペーサ60bの厚みを容易に調整することができる。
抵抗膜シート60cは、その表面抵抗値が自由空間のインピーダンス(376.7Ω)に略等しくなるように調整された薄いシートである。このような抵抗膜シート60cとしては、炭素導電性材料を塗布したものや、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムすず)膜の抵抗値を調整して成膜したものなどを使用することができる。
保護膜60dは、抵抗膜シート60cの室内側にそれぞれ積層して形成されており、抵抗膜シート60cの表面を保護するようになっている。
ここで、電波吸収体60の垂直方向から電波が入射した場合を例に挙げて、前記構成の電波吸収体60の作用を説明する。
携帯電話などの電子機器から放射された電波W1は、保護膜60dを通過した後、その1/2が抵抗膜シート60cを透過し、残りの1/2が反射する。ここで、透過した電波を電波W2、反射した電波を電波W3とする。電波W2は、スペーサ60bの内部を進んだ後、遮蔽性を有する背面パネル60aで反射し、電波W4となる。なお、反射の際に電波の位相はそれぞれ反転する。そうすると、抵抗膜シート60cに到達した電波W4は、抵抗膜シート60cで反射した電波W3に対して、スペーサ60bの厚さの2倍、つまり、「λ/4×2=λ/2」進んでおり、電波W3の位相と電波W4の位相が反転することになる。したがって、電波W3と電波W4とは相互に打ち消し合い、その結果として、抵抗膜シート60cに入射した電波W1は擬似的に吸収されることとなる。
以上のような電波吸収体60を電波試験室1の内面に設けたことによって、所定の電波を吸収することができる。よって、電子機器のEMC試験の精度を高めることができる。また、屋根パネル10の内側面および、向かい合う壁パネル20,20の内側面のうち少なくとも一方に電波吸収体60を布設しているので、床面あるいは、電波吸収体60が布設されていない壁面に衝突した電波は、対向する天井または壁面に設けられた電波吸収体60に向かって反射する。そして、反射した電波は、電波吸収体60で吸収される。さらに、電波吸収体60は着脱自在なテープ(図示せず)によって、貼り付けられるので、EMI試験の要求に応じて、電波吸収体60の布設位置を自由に変更できる。
なお、電波吸収体60は前記構成に限られるものではない。例えば、壁パネル20側より、抵抗膜シート(インピーダンス1088Ω)、スペーサ(38mm)、抵抗膜シート(インピーダンス280Ω)、スペーサ(38mm)、保護膜(アルミニウム板(箔でも可))の順で配置する構成としてもよい。このような構成によれば、880MHz周辺および2050MHz周辺の2種の電波を吸収することができる。
図17は壁パネルと換気扇と電波遮蔽手段との取り合いを示した断面図および正面図である。本実施の形態では、壁パネル20に形成された吸気口(図示せず)および排気口72(図17参照)に、室内と室外との間で、空気の流通を確保しつつ、電波を遮断する電波遮蔽手段70が設けられている。この電波遮蔽手段70は、断面ハニカム(正六角形)状の細孔71aを複数備えた換気用電波遮蔽体73にて構成されている。換気用電波遮蔽体73は、アルミニウムまたはアルミニウム合金にて構成されている。換気用電波遮蔽体73の各細孔71aは、周壁71bに取り囲まれている。この各細孔71aを取り囲む筒状の周壁71bは、それぞれ導波管71としての機能を備えている。すなわち、換気用電波遮蔽体73は、1つの細孔71aを取り囲む筒状の周壁71bからなる導波管71が、複数集合し、束状となって構成されていることとなる。そして、換気用電波遮蔽体73(電波遮蔽手段70)は、所定波長より長い波長の電波を伝搬しない導波管71を備えている。なお、細孔71aの断面形状は正六角形に限らず、四角形などその他の形状であってもよい。
排気口72の開口径L1、導波管71の長さL2、細孔71aの開口径L3は、導波管71内を伝搬させない電波の波長に基づいて設定される(例えば、L1=79.5mm、L2=12.7mm、L3=3.18mm)。
換気用電波遮蔽体73は、各導波管71の周囲に鍔部73aを有しており、その鍔部73aにビス74などの固定手段を挿通させることで、壁パネル20に固定されている。鍔部73aと壁パネル20との間には、プレート状の導電性パッキン74aが介設されており、壁パネル20と換気用電波遮蔽体73との導電性が高められている。
なお、図17中、75は、フードを示し、72bは排気口72周囲の開口枠を示す。フード75は、換気扇72aを覆うように壁パネル20に取り付けられている。
このような構成によれば、電波試験室1の室内と室外とは連通しており、この複数の導波管71を介して、電波を遮蔽しつつ、空気や熱を排気可能となっている。これによって、電波試験室1の内部の作業環境を大幅に向上させることができる。換気用電波遮蔽体73は、アルミニウムまたはアルミニウム合金にて構成されているので、壁パネル20などの軽量化を達成できる。さらに、複数の導波管71を束状に構成したため、複数の導波管71を細くしても、電波試験室1の室内と室外とを連通する連通路の総断面積を大きくすることができる。したがって、導波管71の開口部の面積を小さくして、各導波管71の電波遮蔽性能を高めても、連通路の総断面積を大きくできるので、必要な換気用開口面積を確保できる。また、導波管71を長くすれば、電波遮蔽性能をさらに高めることができる。
なお、図17では、排気口72に換気用電波遮蔽体73を設けた場合を図示したが、吸気口(図示せず)にも同様に換気用電波遮蔽体が設けられている。換気扇は、吸気口あるいは排気口72のいずれか一方に設けられていればよい。本実施の形態では、排気口72に換気扇72aが設けられているので、吸気口に換気扇を設けなくてもよい。
その他、図18に示すように、図17に示した構成の換気用電波遮蔽体73に代えて、エクスパンドアルミとも称されるアルミニウム片フィルタ76(電波遮蔽手段70)を使用してもよい。アルミニウム片フィルタ76は、取付枠77に設けられたメッシュ77aと、取付枠78に設けられたメッシュ78aとで挟まれつつ、排気口72(または吸気口)に蓋をするようにして、壁パネル20に固定されている。アルミニウム片フィルタ76(金属製のフィルタ)は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の小片(金属片)が集合して構成されたものであり、その内部に空気が流通する隙間を有している。そして、換気扇72aによって排気される電波試験室1内の空気が、アルミニウム片フィルタ76の隙間を通って、室外に排出されるようになっている。
このとき、電波もアルミニウム片フィルタ76の隙間を通過しようとするが、アルミニウム片フィルタ76を構成するアルミニウム等の小片によって電波が回折損失し、電波が遮蔽されるようになっている。なお、電波の回折損失とは、電波が複数のアルミニウム等の小片によって反射し、この小片の背面側(電波の進行方向側)に電波が伝播しにくいことである。
また、このようなアルミニウム片フィルタ76に代えて、スチールウールや、メッシュが複数重ねられてなるメッシュ積層体を、電波遮蔽手段として使用することもできる。
図15に示すように、壁パネル20には、電波妨害を防止しつつ、室外から室内へとケーブルを配線可能とするEMIダクト80が設けられている。EMI(Electro Magnetic Interference:電磁妨害または電磁干渉)ダクト80は、絶縁抵抗性を有するガスケット80aを介して、壁パネル20に設けられている。したがって、EMIダクト80を介して、携帯電話などの電子機器(図示せず)に接続するケーブル81を電波試験室1の外部から内部に配線可能とすると共に、ケーブル81の挿通部分からの電磁妨害は防止され、電波試験室1の遮蔽性は確保されている。
また、ケーブル81の所定長さ(例えば100mm以上)が、EMIダクト80内を通るように、ケーブル81を配線することによって、電磁妨害を好適に防止可能となっている。
さらに、ケーブル81のEMIダクト80内を通る部分および所定長さの前後部分の外周面は、その内部を導通するノイズを吸収するノイズ吸収体82に被覆されており、携帯電話などの電子機器で授受される電波を、送受信機などにて高精度で制御/測定可能となっている。このようなノイズ吸収体82は、例えば、東洋サービス社製のEMIテープ「ルミディオン(登録商標)ET」により、ケーブル81を所定長さ(例えば300mm以上)にて巻回することで構成される。
また、室外には、絶縁変圧器83が設けられており、この絶縁変圧器83の出力側ケーブル84は、導波管85を介して電波試験室1の室内へと引き込まれている。出力側ケーブル84は、室内に設けられた照明装置86に接続されている。出力側ケーブル84は、壁パネル20と電波吸収体60との間、および屋根パネル10と電波吸収体60との間を通過して照明装置86まで延出している。
このように、室外に絶縁変圧器83を設け、この絶縁変圧器83の出力側ケーブル84を、導波管85を介して室内へと引き込み、出力側ケーブル84を室内に設けられた照明装置86に接続したことによって、電波妨害を防止しつつ、室内の照明を確保することができる。導波管85に代えて電源フィルタを用いるようにしてもよい。
図19は本発明に係る電波試験室のパネル連結構造を実施するための最良の他の形態を示した断面図である。本実施の形態のパネル連結構造5’では、図示するように、断面矩形状の導電性パッキン90が、隣り合う壁パネル20,20の導電性表面材26,26間に設けられている。導電性パッキン90は、芯材90aの表面に導電性材料90bを被覆して構成されている。導電性パッキン90は、壁パネル20の厚さ方向の中心側、すなわち、嵌合溝27側に配設されている。導電性パッキン90は、導電性表面材26のリップ部26aに接触するように設けられている。導電性パッキン90の表面側には、ゴム製のガスケットなどのシール材91が設けられている。その他の構成については、図6のパネル連結構造5と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
かかる構造によれば、前記実施の形態と同様の作用効果を得られるとともに、電波試験室1のシール性を高めることができる。
以上、本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、本発明の電波試験室1の各構成部材は、アルミニウム製やアルミニウム合金製に限られるものではなく、導電性を有していれば、スチール、ステンレスや銅など他の材質であっても適用できるのは勿論である。