JP2007154316A - 有機エレクトロルミネッセンス素子及びパネルの製造方法と製造装置 - Google Patents

有機エレクトロルミネッセンス素子及びパネルの製造方法と製造装置 Download PDF

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Abstract

【課題】リーク電流が少ない、有機エレクトロルミネッセンス素子と、該素子を利用したELパネルの製造方法を提供することが本発明の課題である。
【解決手段】基板上に、A)第一の電極を成膜する工程と、B)該第一の電極上に発光層を含む一層以上の有機化合物薄膜層を積層する工程と、C)該有機化合物薄膜層上に第二の電極を積層する工程と、を少なくとも有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、工程B及びCと、工程BとCとの間と、工程C終了後、基板温度が室温となるまでの間と、における該基板温度が70℃以下であり、かつ、温度変化速度の絶対値が1.5℃/sec以内である有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、平面光源や表示素子に利用される有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」という。)及び有機EL素子を用いた有機ELパネルの製造法に関するものである。
エレクトロルミネッセンス素子(以下、「EL素子」という。)は、自発光型の平面型表示素子としての用途が有望視されている。EL素子の中でも有機EL素子は、無機EL素子とは異なり、交流駆動かつ高電圧が必要といった制約が無く、また、有機化合物の多様性により、多色化が比較的容易であると考えられることから、フルカラーディスプレイなどへの応用が期待され、盛んに研究開発が行なわれており、低電圧で高い輝度を有する構造が開発されている。無機EL素子は、電界励起型の発光である。一方、有機EL素子は、陽極から正孔を、陰極から電子を注入して動作する、いわゆるキャリア注入型の発光である。両電極から注入された正負のキャリアーは、各々対極に移動し、これらの再結合によって励起子が形成される。この励起子が、緩和される際に放出される光が有機EL素子における発光である。有機EL素子は、古くは高純度のアントラセン単結晶を用いての研究が盛んであったが、高電圧印加を必要とする割に輝度、発光効率共に低く安定性に欠けていた。しかし、1987年になって、イーストマン・コダック社のTangらが有機薄膜の2層積層型の構造で低電圧で高輝度な安定した発光が得られることを発表して以来、有機EL素子の研究開発は一気に活発化した。これは、電極対に狭持される有機層を、発光層と正孔輸送層との2層の積層構造としたもので、これにより10Vの印加電圧で1,000cd/mという従来にない優れた特性を示すものであった(非特許文献1)。最近では、発光層、正孔輸送層だけでなく陰極と発光層の間に電子輸送層を設けたり、あるいは正孔輸送層と陽極の間に正孔注入層を設けることもある。また、各層に用いる材料の種々の検討の結果、高発光効率化、長寿命化等に関して多くの成果が挙げられ、素子をX−Y平面に配列して形成するフラットパネルディスプレイへの応用が大いに期待されており、単純マトリクス方式の256×64ドットのモノクロディスプレイが開発されている(例えば、非特許文献2や非特許文献3など)。
256×64ドット単純マトリクス駆動方式の有機ELパネルは、通常、陰極を1/64デューティーで走査し、陽極を駆動する線順次駆動方式がとられる。その際に整流性が優れた有機EL素子が得られてないと、非選択の画素も発光してしまい、いわゆるクロストーク現象が見られ、表示品位を大きく低下させてしまう(例えば選択画素を中心として、隣接する画素が十文字に発光する等の現象である。詳細は、非特許文献4)。
有機EL素子は、正負のキャリア注入型の発光素子なので、原理的には逆バイアス印加時(正孔輸送層側の電極にマイナスの、電子輸送層側の電極にプラスの電圧を印加したとき)電流は流れない。しかし、実際のデバイスでは、逆バイアス印加時に微量のリーク電流が流れることがある。その原因として、有機層および電極の構成材料自身で決定されてしまう固有の性質も影響を与えることが考えられるが、一方で有機層や金属層の膜構造の乱れなどの物理的な変化なども考えられる。しかし、はっきりしたメカニズムは現在のところ不明である。なお、固有の電極材料を陰極に用いることにより、整流性が向上することが報告されている(非特許文献5)。しかしながら、製造プロセスの条件を検討した例は少なく、優れた整流特性を有する素子作成に必要な有効な条件は今まで見出されていない。
以上のように、有機EL素子をX−Y平面に配列しパネルを形成し、単純マトリックス駆動をしようとする場合、素子の整流性が低いと前述のリーク電流が原因となりクロストーク現象が発生し表示品位が大きく損なわれてしまう。
Tang et.al,Appl.Phys.Lett.,51(12),913(1987) 仲田仁ら、ディスプレイアンドイメージング Vol.5,pp.273−277(1997) 仲田仁、「有機EL素子の基礎から実用化技術まで」応用物理学会 有機分子・バイオエレクトロニクス分科会 第6回講習会テキスト、pp.147−154(1997) 大槻重義、「有機EL素子の基礎から実用化技術まで」応用物理学会 有機分子・バイオエレクトロニクス分科会 第6回講習会テキスト、pp.139−146(1997) 浅井伸利ら、ディスプレイアンドイメージング Vol.5,pp.279−283(1997)
本発明は、上述の問題点に鑑みなされたものであり、従来の有機EL素子の特性を維持しつつ、高い整流比を示す素子及び、該素子を利用した有機ELパネルの製造方法を提供することが目的である。
本発明者らは、この課題を解決すべく実験および研究を重ねた結果、有機膜および電極の成膜の際、支持基板の成膜側表面の温度変化の速度および温度を特定の範囲内に保つことが、前記課題を解決することを見出し本発明に至った。本発明は、基板上に、A)第一の電極を成膜する工程と、B)該第一の電極上に発光層を含む一層以上の有機化合物薄膜層を積層する工程と、C)該有機化合物薄膜層上に第二の電極を積層する工程と、を少なくとも有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、工程B及びCと、工程BとCとの間と、工程C終了後、基板の成膜側表面の温度が室温となるまでの間と、における該基板の成膜側表面の温度が70℃以下であり、かつ、温度変化速度の絶対値が1.5℃/sec以内である有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を提供する。
有機EL素子を形成するための基板は、表面が充分に平坦であり、製造プロセス中の種々のストレスに耐えることができ、かつ、素子からの光の取り出しロスが少ない種々の材料から選択可能であるが、特にガラスが好適に用いられる。
基板の成膜側表面の温度変化の速度は絶対値で1.5℃/sec以内であれば、本発明の効果が得られるが、より好ましくは温度変化の絶対値が0.75℃/sec以内であり、最も好ましくは支持基板を一定温度とすることである。
基板の成膜側表面の最高温度は、80℃以下であれば本発明の効果が確認できるが、本発明の効果が明確となるのは70℃以下であり、最も望ましくは50℃以下である。
また、基板の最低温度は、−200℃程度の低温で実施することも可能であるが、実用的には室温程度での実施が一般的である。
なお、基板の成膜面側の温度(以下、「基板温度」という。)とは、支持基板の各種の膜が成膜される側の表面若しくは、第一の電極が既に基板上に成膜されている場合は第一の電極の表面、に温度センサーを設置して測定したものとする。以下、支持基板を単に「基板」とする。
また、発光層を含む有機化合物薄膜層が、正孔輸送層、電子輸送層等を有する2層以上の積層構造である場合、工程Bは、各々の有機化合物薄膜の成膜を実施する工程のみでなく、各成膜工程の間で基板が成膜装置内部に放置されている期間をも含むこととする。
また、本発明で、基板の成膜面側の温度及び、温度変化速度の制御を行なう期間は、少なくとも、蒸着装置のメインシャッターを開放し有機化合物薄膜の成膜を開始した時点から、第二の電極の成膜終了後、室温まで冷却が完了し基板を成膜装置から取り出すことが可能となるまでの全期間であることが望ましい。
ここで、基板の温度制御を始める点を蒸着装置のメインシャッターを開放した時点からとしたが、実用上は、これに先立つ蒸発源の加熱の時から温度制御を行なってもよい。
本発明で提案した製造方法により有機EL素子を作製することで、逆バイアス電圧が印加された際のリーク電流が小さい有機EL素子を製造することが可能となった。
本発明により素子の整流性が向上した理由は推測であるが、各層を構成する材料の熱的性質の違いから生じる熱応力によってもたらされたヘテロ界面の乱れが、基板温度の変化を緩やかにすることで緩和されたために、有機EL素子のリーク電流が減少したものと思われる。
また、本発明では、前記工程B及びCを真空蒸着法で行うことが望ましい。真空蒸着法とは、真空下で蒸発源を加熱することで材料を気化、或いはクラスター化し、基板上に堆積させる手法である。加熱法としては、電子ビームを照射して材料を直接加熱する電子ビーム加熱法、抵抗加熱法等がある。
また、本発明では、真空蒸着装置を構成する部材として、1)基板を支持するための滑らかな平面を有する基板支持具と、2)基板の成膜側表面の温度を制御するために少なくとも2−1)温度センサー、2−2)演算ユニット、2−3)熱放出・吸収体より構成される基板温度制御装置と、を少なくとも有する真空蒸着装置を提供する。温度センサーで検出された基板温度の変化は演算ユニットで評価され、基板に生じた温度変化を打ち消し、設定された基板の温度及び、温度変化速度となるように熱吸収・加熱体に信号が出される。
この基板温度制御装置により、成膜中に発生する基板温度の変化を緩やかとすることが可能となった。また、成膜中の基板温度を70℃以下に抑えることが可能となり、良好な有機EL素子を得ることが可能となった。
また、前記熱吸収体・放出体と基板支持具とが一体化されていることが望ましい。
また、前記真空蒸着装置に設置される基板温度制御装置は、基板の成膜側表面の温度を70℃以下の温度に、かつ、基板の成膜側表面の温度の変化速度の絶対値を1.5℃/sec以内に、制御可能であることが望ましい。
ここで、前記基板支持具の前記滑らかな平面の表面粗さがJIS B0601−1994よる算術平均粗さ(Ra)が200nm以下であり、かつ、最大高さ(Ry)が800nm以下であることが望ましい。基板支持具の表面粗さがこれより小さい場合には、基板と支持具との接触面積が大きくなり、基板と基板支持具と一体化した熱放出・吸収体による基板の温度制御性がより向上する。
さらに、基板支持具の滑らかな平面と支持すべき基板の間を軟らかな金属により隙間なく充填してもよい。金属を基板と基板支持具との間の間隙に埋め込むことにより、基板の温度制御性が一層向上する。
ここで、軟らかな金属としては、インジウム、アルミニウム等が挙げられる。市販のインジウムシート等がこの目的に好適に用いられる。
本発明の真空蒸着装置は前記工程B及び工程Cに好適に用いられる。
また、本発明では、さらに、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を用いて製造された有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
また、本発明は、この有機エレクトロルミネッセンス素子をマトリックス上に複数個配置した有機エレクトロルミネッセンスパネルに好適に用いられる。本発明で提供する逆バイアス電圧印加時のリーク電流が少ない有機EL素子によりディスプレイパネルを作製することで、クロストークが抑えられた表示品質の良いディスプレイパネルを得ることができる。
本発明によれば、薄膜形成およびその前後のプロセスの間、基板温度の変化速度の絶対値を1.5℃/sec以内、かつ基板温度を70℃以下とすることにより、優れた整流特性を有する有機EL素子を作成できる。また、本発明の手法により単純マトリックス駆動有機ELパネルを作成することで、クロストークが無く表示品位の高い表示パネルを作成でき、ディスプレイデバイスとしての性能向上に著しい効果をもたらす。
図1は、一般的な有機EL素子の構造の一例を模式的に表した図である。支持基板11上には透明電極12が形成され、透明電極上に正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15が、電子輸送層上に陰極16が存在している。
本発明の実施に当たって、構造上の限定事項等は無いので、これまでの研究開発成果を適用できる。すなわち、支持基板、陽極、各種有機材料、陰極などは、各種公知のものを使用できる。図1は、3層の有機層(13,14,15)から成る有機EL素子の模式図であるが、一方若しくは両方のキャリア輸送層と発光層を兼ねた構成とすること、あるいは3層以上とすることも可能である。また、各層とも、2種類以上の材料を混ぜ合わせて構成してもよい。なお、支持基板は陰極側としてもよいし、光の取り出し方向もいずれでもよい。素子の製造順序は、図1に示した素子では、支持基板上に、陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極の順に積層していく方法が比較的簡便であるが、特に限定されるものではない。陰極側に支持基板を設ける場合は、陰極、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、陽極の順に構成してゆく方法が簡便であるが、この場合も特に限定されるものではない。
図2は、本発明の基板温度制御装置付きの真空蒸着装置の真空槽の実施の一例を示したものである。図2において、成膜が行われる基板24は熱放出・吸収体と一体となった基板支持具に固定されている。基板24の表面には基板温度を測定するための熱伝対23が設置されている。ただし、基板24表面に既に第一の電極が成膜されている時は熱伝対23はこの第一の電極上に設置される。
基板温度の制御は、熱伝対23により評価された基板温度及びその変化速度を演算ユニット21で評価し、基板に生じた温度変化を打ち消し、設定された範囲(基板温度変化速度の絶対値が1.5℃/sec、かつ、基板温度が70℃以下)になるような信号を基板支持具と一体化した熱放出・吸収体22(以下「基板支持具付き熱放出・吸収体」という。)に送り、基板支持具付き熱放出・吸収体22がこの信号に応じて、基板と熱の授受を行なう事でなされる。
また、成膜材料は蒸着源27に設置され、抵抗加熱方式又は、電子ビーム方式により加熱される。成膜は、蒸発源シャッター26とメインシャッター25を開放することで開始され、メインシャッター25を閉鎖することで終了する。
これらのうち、本発明に関わる基板支持具付き熱放出・吸収体22、熱伝対23は、真空雰囲気下にされられるので、他の部品と同様、真空系に悪影響を及ぼさないような材質、構成とすべきである。熱伝対23は基板表面の温度をモニターするためのもので、図2では一つであるが、複数あってもよい。成膜させる基板サイズが大きかったり、材料蒸発源がいくつかある場合などは、数個設置したほうが望ましい。ただし、この場合、いずれの熱伝対も基板に向かって飛来する蒸気流を妨げないような配置及び大きさとするべきである。基板支持具付き熱放出・吸収体22は、基板と熱の授受を行い基板の温度変化を相殺する方向に作用する。
本発明に於ける熱放出・吸収体は、基板と接する面(基板支持具付き熱放出・吸収体22における基板24と接する面)の表面粗さをJIS B0601−1994で規定される定義に基づいた値で、算術平均粗さ(Ra)を200nm以下、最大高さ(Ry)を800nm以下とすることが好ましい。このように表面を滑らかにすることにより、基板と基板支持具付き熱放出・吸収体22との間に高い密着性が生まれ、高真空雰囲気下でも素早い熱伝導が可能となる。
なお、基板側(基板裏面)においても熱放出・吸収体22と接する面の表面粗さが、基板支持具付き熱放出・吸収体22表面と同レベル、若しくはそれよりも小さくないと、前記の良好な熱伝導は得られないことに注意が必要である。両表面の密着性が不十分な場合、熱の伝導が円滑に行われず、基板温度の制御性が低下する(例えば、温度制御のタイムラグ等)。
インジウム等の熱伝導性がよく、比較的軟らかい金属シート等を両表面間に挟み圧着させることにより密着性を高めると、基板24と基板支持具付き熱放出・吸収体22との熱移動はよりスムーズとなる。この金属シートは、前述した密着性の悪い場合のみでなく、密着性の良い場合に用いても温度の制御性をより一層向上することが可能となる。
演算ユニット21は、熱伝対の温度変化を計算し、それを相殺するように基板支持具付き熱放出・吸収体22に信号を発信する。信号を受け取った、基板支持具付き熱放出・吸収体22は、信号のレベルにあわせ基板接触面の温度を変化させる。このような制御法により、成膜プロセスの間、基板の温度変化の速度の絶対値を1.5℃/sec以内、より好ましくは0.75℃/sec以内であり、最も好ましくは一定温度に、並びに、基板温度を70℃以下に、調整することが可能となる。なお、熱放出・吸収体22は、本体内部に加熱器・冷却器を有する構造でも良いし、不活性液体等を内部に循環させる構造でも良い。
その他、図2には記載していないが、真空蒸着装置の真空槽内には、蒸発レートをモニターするため装置、膜のパターニング用のマスク等必要な部品が必要数装着される。
また、蒸発源は、図2では3つ記したが、蒸着すべき膜の数に応じて、これ以上とすることも可能である。
一般に、真空蒸着法で成膜を行う際の基板の温度は、蒸発源加熱開始と共に緩やかに上昇する。そしてメインシャッター開放と同時により急激に上昇し、温度上昇はメインシャッターを閉じるまで継続する。蒸発源加熱開始から成膜終了までの温度上昇を緩やかとし、かつ基板温度を70℃以下とすることが本発明の第一の重要部分である。温度上昇の速さは、1.5℃/sec以内が好ましい。さらに言えば、0.75℃/sec以内がより好ましいが、最も好ましくは、メインシャッターを開放しても基板温度が一定温度で保たれることである。
成膜が終了し、メインシャッターを閉じ蒸発源加熱を停止すると、熱の供給が絶たれるため基板温度は急激に低下する。この温度低下を緩やかとすることが、本発明の第二の重要部分である。基板温度の低下速度は1.5℃/sec以上、より好ましくは0.75℃/sec以上とすること好ましい。
なお、このような基板の昇温・降温現象は、特に高沸点材料を蒸着させる場合に見られ、一般的な有機EL素子作成プロセスでは、電極に用いる金属材料の成膜の際に特に問題となる。各種の有機化合物薄膜の成膜の際も材料の物性、蒸着レートの安定性、膜厚等により基板温度の変化速度が大きくなる場合もある。したがって実用上、リーク電流の少ない有機EL素子を得るには真空蒸着装置内で連続して行われる全ての層の成膜工程とその前後工程(基板上に最初の膜を成膜する場合の前工程を除く。)にわたって、基板温度制御装置を作動させる方が好ましい。
なお、多層の積層膜を作成する際は、前述の範囲内の温度変化速度および温度を保ち得れば、そのつど蒸発源の温度を加熱前の温度に戻るまで待つ必要はない。
なお、蒸発源は熱の発生源でもあるので、蒸発源と基板との距離が十分に長い場合、昇温速度が抑えられ、膜厚、蒸着速度、蒸発源の形状によっては、特に基板温度制御を施さなくても、本発明記載の温度、温度変化速度範囲内に収まることも考えられる。しかし、蒸発源と基板との距離を取り過ぎると蒸着材料の多くが、真空槽内の基板以外の各部分に付着してしまい、材料の利用効率が低下する問題がある。この点に関しても、本発明による基板温度制御装置を動作させることにより、基板温度の上昇を抑えることができるので、基板と蒸発源の距離を短くすることができ、材料の有効利用が可能となる。このことも本発明の重要事項として挙げられる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の要旨を逸脱しない限り、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
=工程A(第一の電極の成膜)=
厚さ0.7mmのガラス基板上にITO(インジウム錫酸化物)をスパッタリングによってシート抵抗15Ω/□になるように成膜し、不要な部分をエッチングにより除去し、パターニングしてITO陽極(第一の電極)付き支持基板とした(以下、この項においては単に「基板」という)。この基板を、中性洗剤、イソプロピルアルコール中で順次超音波洗浄し、充分に乾燥させた後に、110℃に加熱しながら、UV−オゾン洗浄を5分間行なった。
=工程B(有機化合物薄膜層の積層)=
この基板の第一の電極が存在しない側を、基板温度制御機構付き抵抗加熱式真空蒸着装置の真空槽内の基板支持具と一体となった熱放出・吸収体に密着して固定した。この際、基板と基板支持具との密着性を高めるために、インジウムシートで両者を圧着した。
なお、本実施例で用いた真空蒸着装置は5つの蒸発源を持ち、蒸発源から基板表面までの距離が約30cmである。
また、熱放出体・吸収体は、ステンレス製であり、温度調節は、フッ素系不活性液体を内部に循環させて、この液体を介して間接的に行う方式とした。熱放出・吸収体の基板と接する面の表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)を200nm以下、最大高さ(Ry)を800nm以下とした。
熱放出・吸収体に基板を固定すると共に、成膜される全ての膜の原料物質を蒸発源に取り付ける。すなわち、
(1)正孔輸送材料であるN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(α−ナフチル)−1,1’―ビフェニル−4,4’−ジアミン(以下、α−NPDと略記する。)を200mgをモリブデンボートに入れ、蒸発源にセットした。なお、α−NPDの構造を以下に示す。
Figure 2007154316
(2)電子輸送材料を兼ねた緑色発光材料であるトリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム(以下、Alqと略記する。)を200mgモリブデンボートに入れ、蒸発源にセットした。なお、Alqの構造を以下に示す。
Figure 2007154316
(3)陰極材料である、アルミニウムを2g、リチウムを0.5gそれぞれタングステンボートに入れ蒸発源にセットした。リチウムのセットは、表面の酸化を抑えるために素早く行い、セット後ただちに真空引きをした。
その後、真空槽内を10−5Pa台まで減圧し、基板温度制御装置を作動させ、基板温度の調整を開始した。α−NPD入りのモリブデンボートをゆっくり加熱し、約0.1nm/secの蒸着レートで安定したところで、メインシャッターを開放し、成膜を開始した。膜厚が50nmとなったところで、メインシャッターを閉じ正孔輸送層の形成を終了した。同様にして、Alqを蒸着レート約0.1nm/secで蒸着し、膜厚70nmの電子輸送層を兼ねた発光層を形成した。これら、一連の有機層の蒸着時には、同じマスクを介して行い、有機膜のパターンを形成した。
=工程C(第二の電極の成膜)=
工程Bに続いて陰極用の別のマスクをセットした。なお、陰極用のマスクと有機化合物薄膜用のマスクはあらかじめ真空槽内にセットしておき、真空槽外部からの操作によりいずれかを選択できるような機構を有する真空蒸着装置を用いた。陰極用マスクをセットした後、リチウム入りタングステンボートおよびアルミニウム入りタングステンボートを加熱しアルミニウムに対するリチウムの重量比率が約0.1%となるように各々の蒸着レートを制御した後、メインシャッターを開放した。この場合の陰極の成膜速度は2nm/secである。陰極の膜厚が250nmとなったところでメインシャッターを閉じ、蒸発源の加熱を停止した。
なお、本実施例において陰極は、リチウムとアルミニウムの混合物としたが、リチウムは電子注入効率を上げるために混合されるのであり、有機層と電極の界面から数十nmまでに存在すれば良い。そこで、リチウムとアルミニウム混合物電極の成膜がある程度進み、上述の数十nmのリチウム含有アルミニウム層が形成されたならば、リチウムの蒸着を停止して、その後は、アルミニウムのみで電極を形成しても構わない。
全ての膜の成膜が終了後、基板温度の変化速度の絶対値が1.5℃/sec以内となるように、基板温度制御装置を作動させたまま、室温まで冷却し、続いて、ゆっくりと乾燥窒素を真空槽に導入した。真空槽内の圧力が大気圧となったところで、素早く取り出し、乾燥窒素存在下でキャップと接着剤により封止した。
基板温度制御装置は、真空槽を開放し、完成した素子を取り出すまで動作させておいた。また、途中の基板表面の温度は最高でも60℃前後で、70℃を上回ることはなかった。なお、1枚の基板につき、2mm×2mmの発光部を4箇所設け、同一基板に4つの同構造の画素を作成した。
<比較例1>一連の成膜工程(α−NPDの蒸発源加熱〜成膜〜加熱終了〜放置〜Alqの蒸発源加熱〜成膜〜加熱終了〜放置〜陰極材料蒸発源加熱〜成膜〜加熱終了〜放置〜取り出し)の間、基板温度制御装置を作動させなかったこと以外は、実施例1と同様の手順で、同じ構造の有機EL素子を作成した。なお、基板温度制御装置を動作させなかった為、基板温度は、蒸発源加熱開始と共に徐々に上昇し、メインシャッター解放時にさらに急激に上昇し、メインシャッターを閉じるまで温度は上昇し続けた。また、メインシャッターを閉じ蒸発源加熱を止めると同時に急激に低下した。これらの傾向は、特に金属材料である陰極の蒸着時に顕著に見られ、この時の温度上昇時の温度変化速度は、最も速い時で2.1℃/secであった。また、陰極成膜終了後の温度の低下速度も、最も速い時で1.8℃/secであった。また、基板温度も70℃を超えて約80℃を示していた。
有機膜の成膜時も、有機材料中最も高い気化温度を有するAlqの成膜時に温度変化の速さが1.5℃/secを上回っていた。
<実施例2>
=工程A(第一の電極の成膜)=
実施例1と同様にしてITO陽極(第一の電極)を基板上に成膜し、洗浄処理を施し工程Aを終了した。
=工程B(有機化合物薄膜層の積層)=
本工程及び工程Cでは実施例1と同じ真空蒸着装置を用いている。また、実施例1と同様に、基板を熱放出・吸収体と一体化した基板支持具に固定するとともに、以下に示す必要な成膜用の原料物質をボートに入れ蒸発源に取り付けた。用いたボートは実施例1と同様に、有機材料についてはモリブデン製であり、陰極材料についてはタングステン製である。
(1)正孔輸送材料であるα−NPD(図3)を200mg
(2)青色発光材料である4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(以下、DPVBiと略記する。)を200mg
なお、DPVBiの構造を以下に示す。
Figure 2007154316
(3)電子輸送材料であるAlqを200mg
(4)陰極材料であるAlを2g、
(5)陰極材料であるLiを0.5g
なお、リチウム取り付け時の注意も実施例と1同様である。
その後、実施例1と同様に真空引きを行ない、10−5Pa台となった時点で、基板温度制御装置による基板温度の調整を開始した。
その後、α−NPD入りのモリブデンボートをゆっくり加熱し、約0.1nm/secの蒸着レートで安定したところで、メインシャッターを開放し、成膜を開始した。膜厚が50nmとなったところで、メインシャッターを閉じ正孔輸送層の成膜を終了した。同様にして、DPVBiを蒸着レート約0.1nm/secで蒸着し、膜厚50nmの発光層を形成した。さらに、同様にして、Alqを蒸着レート約0.1nm/secで蒸着し膜厚40nmの電子輸送層を形成した。これら、一連の有機層の蒸着時には、実施例1と同じ形状のマスクを介して行い、有機膜のパターンを形成した。
=工程C(第二の電極の成膜)=
続いて陰極用の別のマスクをセットし、実施例1と同様に陰極の形成を行ない、終了後、規定の基板温度変化速度で室温まで冷却した後、実施例1と同様にして、封止して素子を得た。
基板温度制御装置は、真空槽を開放し、完成した素子を取り出すまで動作させておいた。また、途中の基板表面の温度は最高でも60℃前後で、70℃を上回ることはなかった。なお、1枚の基板につき、2mm×2mmの発光部を4箇所設け、同一基板に4つの同構造の画素を作成した。
<比較例2>一連の成膜工程(α−NPDの蒸発源加熱〜成膜〜加熱終了〜放置〜DPVBiの蒸発源加熱〜成膜〜加熱終了〜放置〜Alqの蒸発源加熱〜成膜〜加熱終了〜放置〜陰極材料蒸発源加熱〜成膜〜加熱終了〜放置〜取り出し)の間、基板温度制御装置を作動させなかったこと以外は、実施例2と同様の手順で、同じ構造の有機EL素子を作成した。なお、基板温度制御装置を動作させなかった為、基板温度は、蒸発源加熱開始と共に徐々に上昇し、メインシャッター解放時にさらに急激に上昇し、メインシャッターを閉じるまで温度は上昇し続けた。また、メインシャッターを閉じ蒸発源加熱を止めると同時に急激に低下した。これらの傾向は、特に金属材料である陰極の蒸着時に顕著に見られ、この時の温度上昇時の温度変化速度は、最も速い場合で2.2℃/secであった。また、陰極成膜終了後の温度の低下速度も、最も速い場合で1.8℃/secであった。また、基板温度も70℃を超えて約80℃を示していた。
有機膜の成膜時も、有機材料中最も高い気化温度を有するAlqの成膜時に温度変化の速さが1.5℃/secを上回っていた。
<実施例3>
=工程A(第一の電極の成膜)=
実施例1と同様にしてITO陽極(第一の電極)を基板上に成膜し、洗浄処理を施し工程Aを終了した。
=工程B(有機化合物薄膜層の積層)=
本工程及び工程Cでは実施例1と同じ真空蒸着装置を用いている。また、実施例1と同様に、基板を熱放出・吸収体と一体化した基板支持具に固定するとともに、以下に示す必要な成膜用の原料物質をボートに入れ蒸発源に取り付けた。用いたボートは実施例1と同様に、有機材料についてはモリブデン製であり、陰極材料についてはタングステン製である。
(1)正孔輸送材料であるα−NPD(図3)を200mg
(2)赤色発光材料である4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(以下、DCMと略記する。)を100mg
なお、DCMの構造を以下に示す。
Figure 2007154316
(3)Alqを200mg
(4)陰極材料であるAlを2g、
(5)陰極材料であるLiを0.5g
なお、リチウム取り付け時の注意も実施例と1同様である。
その後、実施例1と同様に真空引きを行ない、10−5Pa台となった時点で、基板温度制御装置による基板温度の調整を開始した。
その後、α−NPD入りのモリブデンボートをゆっくり加熱し、約0.1nm/secの蒸着レートで安定したところで、メインシャッターを開放し、成膜を開始した。膜厚が50nmとなったところで、メインシャッターを閉じ正孔輸送層の成膜を終了した。続いて、Alq入りモリブデンボートとDCM入りモリブデンボートを加熱しAlqに対するDCMの重量比率が1%となるように各々の蒸着レートを制御した後、メインシャッターを解放した。AlqとDCMの混合膜の膜厚が50nmとなったところで、DCM入りボートの加熱源のシャッターのみを閉じ加熱を止めた。発光層におけるAlqは、発光材料DCMをドープするためのホスト材料としての機能を持つ。さらに、電子輸送層を成膜するためにAlqのみさらに35nm成膜を続けた。こうして、発光層(AlqとDCMの混合層)と電子輸送層(Alqのみから成る層)を形成した。これら、一連の有機層の蒸着時には、実施例1と同じ形状のマスクを介して行い、有機膜のパターンを形成した。
=工程C(第二の電極の成膜)=
続いて陰極用の別のマスクをセットし、実施例1と同様に陰極の形成を行ない、終了後、規定の基板温度変化速度で室温まで冷却した後、実施例1と同様にして、封止して素子を得た。
基板温度制御装置は、真空槽を開放し、完成した素子を取り出すまで動作させておいた。また、途中の基板表面の温度は最高でも60℃前後で、70℃を上回ることはなかった。なお、1枚の基板につき、2mm×2mmの発光部を4箇所設け、同一基板に4つの同構造の画素を作成した。
<比較例3>一連の成膜工程(α−NPDの蒸発源加熱〜成膜〜加熱終了〜放置〜AlqとDCMの蒸発源加熱〜成膜〜DCM蒸発源の加熱終了、Alqの蒸発源加熱続行〜Alqの加熱終了〜放置〜陰極材料蒸発源加熱〜成膜〜加熱終了〜放置〜取り出し)の間、基板温度制御装置を作動させなかったこと以外は、実施例3と同様の手順で、同じ構造の有機EL素子を作成した。なお、基板温度制御装置を動作させなかった為、基板温度は、蒸発源加熱開始と共に徐々に上昇し、メインシャッター解放時にさらに急激に上昇し、メインシャッターを閉じるまで温度は上昇し続けた。また、メインシャッターを閉じ蒸発源加熱を止めると同時に急激に低下した。これらの傾向は、特に金属材料である陰極の蒸着時に顕著に見られ、この時の温度上昇時の温度変化速度は、最も速い場合で2.1℃/secであった。また、陰極成膜終了後の温度の低下速度も、最も速い場合で1.8℃/secであった。また、基板温度も70℃を超えて約80℃を示していた。
有機膜の成膜時も、有機材料中最も高い気化温度を有するAlqの成膜時に温度変化の速さが1.5℃/secを上回っていた。
<実施例4>実施例1で作成した有機EL素子と同じ材料で、同じ膜厚構成の、256(陽極本数)×64(陰極本数)ドット緑色発光有機ELパネルを作成した。各画素の形状は、縦横いずれも0.33mmピッチ/スペース0.04mmとした。ガラス基板、陽極パターン、有機膜用マスク、陰極用マスク、封止キャップの形状がそれぞれ異なる以外は、同じ材料を用いて、同じ膜厚とし、実施例1と同様、温度制御装置を作動させ周辺からの熱の授受に伴う温度変化に対し、その変化速度の絶対値を0.75℃/sec以内に制御した上で成膜した。成膜終了後も、温度制御装置を作動させた状態でしばらく放置し、基板温度が室温に戻ったところで、ゆっくりと乾燥窒素を真空槽に導入した。真空槽内の圧力が大気圧となったところで、素早く取り出し、乾燥窒素存在下でキャップと接着剤により封止した。基板温度制御装置は、真空槽を開放し、完成したパネルを取り出すまで動作させておいた。また、途中の基板表面の温度は最高でも60℃前後で、70℃を上回ることはなかった。
<比較例4>温度制御装置を作動させなかった以外は、実施例4と同様の手法、材料を用いて、同構造の有機ELパネルを作成した。なお、基板温度制御装置を動作させなかった為、基板温度は、蒸発源加熱開始と共に徐々に上昇し、メインシャッター解放時にさらに急激に上昇し、メインシャッターを閉じるまで温度は上昇し続けた。また、メインシャッターを閉じ蒸発源加熱を止めると同時に急激に低下した。これらの傾向は、特に陰極蒸着時に顕著に見られ、温度上昇時の温度変化速度は、速い時は、2℃/secを上回った。また、成膜終了後の温度の低下速度は1.5℃/secを上回っていた。有機膜の成膜時も材料によっては、温度変化の速さが、速い時は、1.5℃/secを上回っていた。基板温度は、陰極成膜時に70℃を超えていた。
<実施例5>実施例4で用いたものと同様の陽極パターン付ガラス基板、有機膜用マスク、陰極用マスク、封止キャップを用いて、実施例2と同じ膜構造の青色発光有機ELパネルを作成した。実施例2と同様、温度制御装置を作動させ、周辺からの熱の授受に伴う温度変化に対し、その変化速度の絶対値を0.75℃/sec以内に制御した上で成膜した。成膜終了後も、温度制御装置を作動させた状態でしばらく放置し、基板温度が室温に戻ったところで、ゆっくりと乾燥窒素を真空槽に導入した。真空槽内の圧力が大気圧となったところで、素早く取り出し、乾燥窒素存在下でキャップと接着剤により封止した。基板温度制御装置は、真空槽を開放し、完成したパネルを取り出すまで動作させておいた。また、途中の基板表面の温度は最高でも60℃前後で、70℃を上回ることはなかった。
<比較例5>温度制御装置を作動させなかった以外は、実施例5と同様の手法、材料を用いて、同構造の有機ELパネルを作成した。なお、基板温度制御装置を動作させなかった為、基板温度は、蒸発源加熱開始と共に徐々に上昇し、メインシャッター解放時にさらに急激に上昇し、メインシャッターを閉じるまで温度は上昇し続けた。また、メインシャッターを閉じ蒸発源加熱を止めると同時に急激に低下した。これらの傾向は、特に陰極蒸着時に顕著に見られ、温度上昇時の温度変化速度は、速い時は2℃/secを上回った。また、成膜終了後の温度の低下速度は1.5℃/secを上回っていた。有機膜の成膜時も材料によっては、温度変化の速さが速い時は1.5℃/secを上回っていた。基板温度は、陰極成膜時に70℃を超えていた。
<実施例6>実施例4で用いたものと同様の陽極パターン付ガラス基板、有機膜用マスク、陰極用マスク、封止キャップを用いて、実施例3と同じ膜構造の赤色発光有機ELパネルを作成した。実施例3と同様、温度制御装置を作動させ、周辺からの熱の授受に伴う温度変化に対し、その変化速度の絶対値を0.75℃/sec以内に制御した上で成膜した。成膜終了後も、温度制御装置を作動させた状態でしばらく放置し、基板温度が室温に戻ったところで、ゆっくりと乾燥窒素を真空槽に導入した。真空槽内の圧力が大気圧となったところで、素早く取り出し、乾燥窒素存在下でキャップと接着剤により封止した。基板温度制御装置は、真空槽を開放し、完成したパネルを取り出すまで動作させておいた。また、途中の基板表面の温度は最高でも60℃前後で、70℃を上回ることはなかった。
<比較例6>温度制御装置を作動させなかった以外は、実施例6と同様の手法、材料を用いて、同構造の有機ELパネルを作成した。なお、基板温度制御装置を動作させなかった為、基板温度は、蒸発源加熱開始と共に徐々に上昇し、メインシャッター解放時にさらに急激に上昇し、メインシャッターを閉じるまで温度は上昇し続けた。また、メインシャッターを閉じ蒸発源加熱を止めると同時に急激に低下した。これらの傾向は、特に陰極蒸着時に顕著に見られ、温度上昇時の温度変化速度は、速い時は2℃/secを上回った。また、成膜終了後の温度の低下速度は1.5℃/secを上回っていた。有機膜の成膜時も材料によっては、温度変化の速さが、速い時は1.5℃/secを上回っていた。基板温度は、陰極成膜時に70℃を超えていた。
<比較例と実施例の比較>以上の手順で作製した各有機EL素子(実施例1〜3,比較例1〜3)の印加電圧−電流特性を、−15〜+15Vにわたり測定した。測定は、
(1)0Vから+15Vまで印加電圧を上昇する順方向と、
(2)0Vから−15Vまで印加電圧を減少する逆方向と、の2方向に分けて行なった。素子の電圧−電流特性の再現性を調査するために、測定は素子毎に3回繰り返した。
図3に、実施例1と比較例1の場合の測定データを例示した。図3の横軸は印加電圧である。縦軸は、電流値の絶対値を対数軸上に示したものである。図3から明らかなように、順方向の特性には実施例1と比較例1で大きな差異は見られなかった。実施例1、比較例1のどちらもが、電圧10Vで約10−3Aの電流となる。
それに対し、逆方向リーク電流では大きな差異が見られた。実施例1では、電圧を減少させても、電流はほぼ10−10Aで一定であるのに対し、比較例1では、電圧の絶対値が大きくなればなるほどリーク電流が増加した。−15Vで比較した場合、比較例1は実施例1に比べ2〜4桁大きなリーク電流が流れていた。
また、実施例1では、順方向、逆方向ともに再現性のよいデータが得られたのに対し、比較例1では、同一基板内に作製された画素間においても、逆方向電圧印加時に流れるリーク電流にバラツキが見られた。なお、この傾向は比較例2,比較例3においても認められた。実施例2、実施例3は、実施例1と同様に、再現性が高く、バラツキの少ないデータが得られた。得られた結果を基に以下の式で表される整流比を算出し、表1に結果を示した。
整流比=|+15V印加時の電流量|/|−15V印加時の電流量|
Figure 2007154316
この表から明らかなように、本発明により、逆方向のリーク電流が低減され、整流性特性の優れた有機EL素子が作成できることが分かる。
また、以上の手順で作成した256×64ドット有機ELパネル(実施例4〜6,比較例4〜6)を駆動回路に接続した。ロウ側(陰極側)を1/64デューティーで順次グランドにスイッチする一方で、カラム側(陽極)から定電流データ信号を送る方式で駆動し、文字、キャラクター及び模様等を表示させ、目視観察でクロストークの有無を観測した。
表2に、クロストークの有無を示した。これらから明らかなように、本発明により、整流特性の優れた画素をパネル内に形成することが可能となり、表示品位の優れた単純マトリックス駆動方式の有機EL素子パネルが作成できた。
Figure 2007154316
一般的な有機EL素子の模式図である。 本発明による基板温度制御を可能にした真空蒸着装置の真空槽の構造をあらわす模式図である。 実施例1,および比較例1で作成した有機EL素子の電流−電圧特性である。縦軸は、マイナスの方向に流れる電流を対数表示するために絶対値で表記している。

Claims (8)

  1. 真空蒸着装置を構成する部材として、1)基板を支持するための滑らかな平面を有する基板支持具と、2)基板の成膜側表面の温度を制御するために少なくとも2−1)温度センサー、2−2)演算ユニット、2−3)熱放出・吸収体より構成される基板温度制御装置と、を少なくとも有する真空蒸着装置。
  2. 前記基板支持具と前記熱放出・吸収体が一体化されている請求項1記載の真空蒸着装置。
  3. 前記基板温度制御装置は、基板の成膜側表面の温度を70℃以下の温度に、かつ、基板の成膜側表面の温度の変化速度の絶対値を1.5℃/sec以内に、制御することを特徴とする請求項1又は2記載の真空蒸着装置。
  4. 前記基板支持具の前記滑らかな平面の表面粗さがJIS B0601−1994よる算術平均粗さ(Ra)が200nm以下であり、かつ、最大高さ(Ry)が800nm以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の真空蒸着装置。
  5. 前記基板支持具の滑らかな平面と支持すべき基板の間を軟らかな金属により隙間なく充填する請求項4記載の真空蒸着装置。
  6. 基板上に、A)第一の電極を成膜する工程と、B)該第一の電極上に発光層を含む一層以上の有機化合物薄膜層を積層する工程と、C)該有機化合物薄膜層上に第二の電極を積層する工程と、を少なくとも有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、工程B及びCと、工程BとCとの間と、工程C終了後、基板温度が室温となるまでの間と、における該基板温度が70℃以下であり、かつ、温度変化速度の絶対値が1.5℃/sec以内である有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であり、
    請求項1〜5のいずれか一項に記載の真空蒸着装置を、前記工程B及びCに用いる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
  7. 請求項6記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を用いて製造した有機エレクトロルミネッセンス素子。
  8. 請求項7記載の有機エレクトロルミネッセンス素子をマトリックス状に複数個配置した有機エレクトロルミネッセンスパネル。
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