JP2007138020A - 熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法 - Google Patents

熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法 Download PDF

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健太郎 鼎
Masahito Kobayashi
雅人 小林
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稔 前田
Yutaka Abe
豊 阿部
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Abstract

【課題】柔軟性、耐熱性、機械的物性、ゴム弾性、低温性、及び耐油性に優れ、全体として良好な海島構造を有する熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】(a)(a−1)シリコーンゴム、及び(a−2)シリコーンゴム以外のゴム、を含むゴム組成物と、(b)融点が165℃以上の熱可塑性樹脂と、を含有する原料組成物を、架橋剤の存在下に動的に熱処理してなる熱可塑性エラストマー組成物である。
【選択図】なし

Description

本発明は熱可塑性エラストマー組成物、及びその製造方法に関し、更に詳しくは、柔軟性、耐熱性、機械的物性、ゴム弾性、低温性、及び耐油性に優れ、全体として良好な海島構造を有する熱可塑性エラストマー組成物、及びその製造方法に関する。
従来から、柔軟性、ゴム弾性に優れる高分子材料としては、ゴム材料の他、熱可塑性エラストマー組成物が広く用いられている。熱可塑性エラストマー組成物については、通常の熱可塑性樹脂の成形方法である射出成形、異形押出成形、カレンダー加工、ブロー成形等により成形品を得ることができる。そのため、近年、省エネルギー、省資源、リサイクルといった観点から自動車部品、工業用品、電気電子部品、建材等に加硫ゴムや塩化ビニル樹脂の代替材用途として需要が拡大している。
しかしながら、熱可塑性エラストマー組成物は、製造プロセスが複雑であること、使用可能な架橋剤が高価であること、及び使用する架橋剤等による汚染のために用途が限定されること等の解決すべき課題を多く抱えている。
関連する従来技術として、180〜350℃の温度条件下で混練及び熱処理されてなる、熱可塑性コポリエステルエラストマーマトリックス中にアクリルゴムの加硫ゴム粒子が分散した構造(いわゆる海島構造)を有する熱可塑性エラストマー組成物、及びその製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1で開示された製造方法においては、脂肪族若しくは芳香族ポリカルボン酸又はこれらの酸無水物等の、一般的な架橋剤として知られている化合物が架橋剤として用いられている。
一般的な架橋剤の使用温度は、150〜200℃の範囲内が好適であることが知られている。一方、融点が200℃以上の熱可塑性樹脂をマトリックスとする熱可塑性エラストマー組成物を製造しようとして200℃を超える温度条件下で架橋を実施すると、架橋剤が瞬時に反応してしまい、良好な海島構造を有する熱可塑性エラストマー組成物を得ることができないといった問題がある。従って、融点の高い熱可塑性樹脂をマトリックスとするような場合であっても、安定した状態で動的架橋を実施することができ、全体として良好な海島構造を有する熱可塑性エラストマー組成物を提供することが可能な熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を開発することが必要とされている。
ところで、ポリエステル樹脂等と、アクリルゴム等とからなる熱可塑性エラストマー組成物は硬度が高く、強度に優れたものであることが知られている。しかしながら、伸びが小さく、柔軟性やゴム弾性に劣るという問題があった。一方、熱可塑性ポリエステルエラストマー等と、アクリルゴム等からなる熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性が良好であることが知られている。しかしながら、耐熱性や耐油性に劣るという問題があった。従って、十分な強度を有しながらも、柔軟性、ゴム弾性、耐熱性、低温性、及び耐油性等の諸特性をもバランスよく備えた熱可塑性エラストマー組成物を開発することが求められていた。
特開平9−272788号公報
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、柔軟性、耐熱性、機械的物性、ゴム弾性、低温性、及び耐油性に優れ、全体として良好な海島構造を有する熱可塑性エラストマー組成物、並びに柔軟性、耐熱性、機械的物性、ゴム弾性、低温性、及び耐油性に優れ、全体として良好な海島構造を有する熱可塑性エラストマー組成物を、比較的融点の高い熱可塑性樹脂存在下であっても安定した状態で製造することが可能な熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供することにある。
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、シリコーンゴム及びそれ以外のゴムを含むゴム組成物と、特定の熱可塑性樹脂とを含有する原料組成物を、架橋剤の存在下に動的に熱処理することによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、以下に示す熱可塑性エラストマー組成物、及びその製造方法が提供される。
[1](a)(a−1)シリコーンゴム、及び(a−2)シリコーンゴム以外のゴム、を含むゴム組成物と、(b)融点が165℃以上の熱可塑性樹脂と、を含有する原料組成物を、架橋剤の存在下に動的に熱処理してなる熱可塑性エラストマー組成物。
[2]前記(a−1)シリコーンゴムが、下記平均組成式(1)で表される、重合度が500〜10000のオルガノポリシロキサンである前記[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
Figure 2007138020
(前記平均組成式(1)中、Rは置換又は非置換の一価の有機基であり、Rのうち0.02〜10mol%はビニル基であり、aは1.900〜2.004の範囲の数である)
[3]前記(a−2)シリコーンゴム以外のゴムが、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム、ヒドリンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、及びフッ素ゴムからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[4]前記(b)熱可塑性樹脂が、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエステル樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[5]前記(a−1)シリコーンゴム5〜90質量部、及び前記(a−2)シリコーンゴム以外のゴム5〜90質量部(但し、(a−1)+(a−2)=100質量部)を含む前記(a)ゴム組成物40〜95質量%と、前記(b)熱可塑性樹脂5〜60質量%(但し、(a)+(b)=100質量%)と、を含有する前記[1]〜[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[6](イ)架橋された前記(a−1)シリコーンゴムからなる第一の島相、及び架橋された前記(a−2)シリコーンゴム以外のゴムからなる第一の海相、を含む第二の島相と、(ロ)前記(b)成分からなる第二の海相と、を含む海島構造を有する前記[1]〜[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[7](a−1)シリコーンゴム、及び(a−2)シリコーンゴム以外のゴムを含有するゴム成分を、第一の架橋剤の存在下に動的に熱処理してゴム組成物を得る第一の工程と、得られた前記ゴム組成物、及び(b)熱可塑性樹脂を含有する原料組成物を、第二の架橋剤の存在下に動的に熱処理する第二の工程と、を含む熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
[8]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形品。
[9]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる等速ジョイント(CVJ)ブーツ。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性、耐熱性、機械的物性、ゴム弾性、低温性、及び耐油性に優れているといった効果を奏するものであり、全体として良好な海島構造を有するものである。従って、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いれば、柔軟性、耐熱性、機械的物性、ゴム弾性、低温性、及び耐油性に優れた、等速ジョイント(CVJ)ブーツをはじめとする成形品を製造することができる。
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法によれば、柔軟性、耐熱性、機械的物性、ゴム弾性、低温性、及び耐油性に優れ、全体として良好な海島構造を有する熱可塑性エラストマー組成物を、比較的融点の高い熱可塑性樹脂存在下であっても安定した状態で動的架橋を実施して製造することができる。
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
1.熱可塑性エラストマー組成物
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の一実施形態は、(a)(a−1)シリコーンゴム(以下、「(a−1)成分」ともいう)、及び(a−2)シリコーンゴム以外のゴム(以下、「(a−2)成分」ともいう)を含むゴム組成物(以下、「(a)成分」ともいう)と、(b)融点が165℃以上の熱可塑性樹脂(以下、「(b−1)成分」ともいう)とを含有する原料組成物を、架橋剤の存在下に動的に熱処理してなるものである。以下、その詳細について説明する。
((a)ゴム組成物)
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物における、動的に熱処理される原料組成物に含まれるゴム組成物は、(a−1)シリコーンゴム、及び(a−2)シリコーンゴム以外のゴムを含むものである。
((a−1)シリコーンゴム)
ゴム組成物に含まれる(a−1)成分は、シリコーンゴムである。この(a−1)成分は、下記平均組成式(1)で表されるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。なお、下記平均組成式(1)中、Rは置換又は非置換の一価の有機基であり、Rのうち0.02〜10mol%はビニル基であり、aは1.900〜2.004の範囲の数である。
Figure 2007138020
オルガノポリシロキサンは、主として直鎖状のものであるが、その一部が分岐鎖状となっていても、三次元構造を形成していてもよい。また、単独重合体、共重合体、又はこれらの混合物であってもよい。このオルガノポリシロキサンの平均組成式中、置換又は非置換の一価の有機基(R)の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、若しくはフェニル基、又はこれらの基のハロゲン置換炭化水素基等を挙げることができる。なお、Rのうちの0.02〜10mol%、好ましくは0.05〜5mol%がビニル基であることが更に好ましい。Rに占めるビニル基の割合が0.02%未満であると、後記するポリオルガノハイドロジェンシロキサンとの反応(ヒドロシリル化反応)が不十分になり、得られる熱可塑性エラストマー組成物のロール作業性、機械的強度、耐熱性、耐寒性等の特性が低下する傾向にある。一方、Rに占めるビニル基の割合が10mol%超であると、ヒドロシリル化反応が急激に進むために、不均一な混練状態となり易く、得られる熱可塑性エラストマー組成物の物性に影響が及ぶ傾向にある。
前記平均組成式(1)中、aの値は1.900〜2.004、好ましくは1.950〜2.002である。aの値が1.900未満であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度、耐熱性等が良好になり難い傾向にある。一方、aの値が2.004超であると、十分な重合度のオルガノポリシロキサンを得難くなる傾向にある。
また、オルガノポリシロキサンの重合度は、500〜10,000、好ましくは1,000〜8,000である。重合度が500未満であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度等が良好になり難い傾向にある。一方、重合度10,000超のものは合成し難い。オルガノポリシロキサンの分子鎖末端は、例えば水酸基、アルコキシ基、トリメチルシリル基、ジメチルビニルシリル基、メチルフェニルビニルシリル基、メチルジフェニルシリル基等で封鎖されていてもよい。なお、(a−1)成分は、アクリル変性シリコーンゴム、メタクリル変性シリコーンゴム、フロロ変性シリコーンゴム等の変性シリコーンゴムであってもよい。
((a−2)シリコーンゴム以外のゴム)
ゴム組成物に含まれる(a−2)成分は、シリコーンゴム以外のゴムである。(a−2)成分の具体例としては、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム及びその水添物、クロロスルホン化ポリエチレン、フッ素ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、エチレン−アクリルゴム等を挙げることができる。なかでも、アクリルゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム及びその水添物、エピクロルヒドリンゴムが好ましく、アクリルゴム、アクリロニトリル−アクリルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム及びその水添物、エピクロルヒドリンゴムが、耐油性の面で更に好ましい。
(a−2)成分は、(a−1)成分、又は後述するヒドロシリル化架橋剤と反応し得る架橋基成分を含むものであってもよい。この架橋基成分の具体例としては、ビニルクロルアセテート、アリルクロルアセテート、2−クロロエチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、5−エチリデン−2−ノルボルネン等を挙げることができる。なお、これらの二種以上を含んでいてもよい。また、ジシクロペンタジエン、ビニルアクリレート、ビニルメタクリレート、アリルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、p−ビニルフェニル(ジメチル)ビニルシラン、3−メタクリロキシプロピルジメチルビニルシラン等も好適例として挙げることができる。これらは、(a−1)成分と(a−2)成分とが接する境界面での結合性又は濡れ性を改良し得る可能性がある。従って、得られる熱可塑性エラストマー組成物の物性改良に効果的である。
(a−2)成分は、(a−1)成分との均一分散性、混練作業性等の面から、そのムーニー粘度(ML1+4,100℃)が10〜200であることが好ましく、20〜150であることが更に好ましく、30〜100であることが特に好ましい。このような粘度の(a−2)成分を用いることにより、安定した品質及び特性を有するゴム組成物を得ることができる。なお、(a−2)成分のムーニー粘度が前記範囲外にあると、混練作業性、分散性が低下し、得られる熱可塑性エラストマー組成物の耐寒性、耐熱性等の品質特性を維持し難くなる傾向にある。
ゴム組成物に含まれる、(a−1)成分と(a−2)成分の割合は、質量比で、(a−1)/(a−2)=5〜95/95〜5であることが好ましく、(a−1)/(a−2)=7〜93/93〜7であることが更に好ましく、(a−1)/(a−2)=10〜90/90〜10であることが特に好ましい。(a−1)/(a−2)の値が5/95未満であると、低温性が悪化する可能性にある。一方、(a−1)/(a−2)の値が95/5超であると、過度に架橋され易く、得られる熱可塑性エラストマー組成物の加工性及び機械的強度が低下する傾向にある。
((b)熱可塑性樹脂)
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物における、動的に熱処理される原料組成物に含まれる(b)成分は、熱可塑性樹脂である。この(b)成分の融点は、165℃以上、好ましくは168〜350℃、更に好ましくは170〜330℃である。(b)成分の融点が165℃未満であると、得られる成形体の強度が不十分になることがある。なお、(b)の具体例としては、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等を挙げることができる。なお、これらを一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
(ポリアミド系熱可塑性エラストマー)
ポリアミド系熱可塑性エラストマーとしては、ポリアミド(ナイロン6、66、11、12等)をハードセグメントとし、ポリエーテル又はポリエステルをソフトセグメントとするもの等を挙げることができる。なお、より具体的には、下記一般式(2)で表されるものである。
Figure 2007138020
前記一般式(2)中、PAはハードセグメントであるポリアミドのブロックであり、PGはソフトセグメントであるポリエーテルのブロックである。本実施形態において用いられる前記一般式(1)で表わされるポリアミド系熱可塑性エラストマーは、例えば米国特許第3,044,978号明細書等に開示されているように、それ自体は公知の物質である。
ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、例えば、(1)ジアミンとジカルボン酸の塩、ラクタム類、又はアミノジカルボン酸(PA構成成分)、(2)ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール(PG構成成分)、及び(3)ジカルボン酸、を重縮合させることによって調製することができる。なお、市販品としては、「ペバックス」(商品名、東レ社製)、「VESTAMID」(商品名、ダイセル・ヒュルス社製)、「UBE・PAE」(商品名、宇部興産社製)、「ノバミッド」(商品名、三菱化学社製)、「グリラックスA」(商品名、大日本インキ化学工業社製)等がある。
(ポリエステル系エラストマー)
ポリエステル系エラストマーは、ポリエステルとポリエーテルとを主たる反復単位とする多元ブロック共重合体として知られている。本実施形態においては、結晶性芳香族ポリエステルを含有する高融点結晶性重合体ハードセグメントと、脂肪族ポリエーテルを含む芳香族及び/又は脂肪族ポリエステル単位を含有する低融点重合体ソフトセグメントとを含有する多元ブロック共重合体を、ポリエステル系エラストマーとして好適に用いることができる。
結晶性芳香族ポリエステルを含有する高融点結晶性重合体ハードセグメントは、主として芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、ジオール又はそのエステル形成性誘導体とから形成されるポリエステルである。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、3−スルホイソフタル酸ナトリウム等を挙げることができる。主として芳香族ジカルボン酸が用いられるが、芳香族ジカルボン酸の一部を、必要に応じて1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。もちろん、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、例えば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、酸ハロゲン化物等も同等に用いることができる。
ジオールとしては、分子量400以下のジオール、例えば1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール等の脂環族ジオール、キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、4,4’−ジヒドロキシ−p−クオーターフェニル等の芳香族ジオールが好ましい。このようなジオールも、エステル形成性誘導体、例えばアセチル体、アルカリ金属塩等の状態で使用することができる。これらのジカルボン酸及びその誘導体、又はジオール成分は、二種以上併用してもよい。そして、最も好ましい高融点結晶性重合体セグメントの例は、テレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと、1,4−ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンテレフタレートである。
ポリエステル系エラストマーを構成する低融点重合体ソフトセグメントは、脂肪族ポリエーテルを含む芳香族及び/又は脂肪族ポリエステル単位を含有する。脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体等を挙げることができる。このような脂肪族ポリエーテルを含有させることで、ポリエステルエラストマーにゴム弾性を付与することができ、熱可塑性エラストマー組成物の機械的物性を損なうことなく柔軟性を向上させることができる。
また、芳香族ポリエステルとしては、前述した高融点結晶性重合体ハードセグメントの結晶性芳香族ポリエステルと同様のものを挙げることができる。更に、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート等を挙げることができる。これらの脂肪族ポリエーテルを含む芳香族及び/又は脂肪族ポリエステル単位を含有するものの中で、得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート等が好ましい。
ポリエステル系エラストマーの市販品としては、「ペルプレン」(商品名、東洋紡社製)、「ハイトレル」(商品名、東レ・デュポン社製)、「プリマロイ」(商品名、三菱化学社製)、「ヌーベラン」(商品名、帝人社製)等がある。
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂とは、一般に飽和ジカルボン酸と飽和2価アルコールとの重縮合反応、ラクトンの開環反応、一分子内に水酸基とカルボキシル基を持つ化合物の重縮合反応等により得られる熱可塑性樹脂のことをいう。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート(ポリプロピレンテレフタレート)、ポリテトラメチレンテレフタレート(ポリブチレンテレフタレート)、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサン−1,4−ジメチロールテレフタレート、ポリネオペンチルテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカプロラクトン、p−ヒドロキシ安息香酸ポリエステル、ポリアリレート等を挙げることができる。本実施形態の第一の熱可塑性エラストマーにおいては、二種類以上のポリエステル樹脂を併用してもよい。これらの中でポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。また、テレフタル酸部分は、アルキル基、ハロゲン基等で置換されていてもよい。
(ポリアミド樹脂)
ポリアミド樹脂としては、公知の種々のものを用いることができる。具体例としては、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、芳香環を有する脂肪族ポリアミド(ナイロンMXD6)等を挙げることができる。また、上記のポリアミド樹脂の共重合体を用いることもできる。具体例としては、ナイロン6とナイロン66との共重合体(N6/N66)、ナイロン6とナイロン10との交互共重合体(ナイロン610:N610)、ナイロン6とナイロン12との交互共重合体(ナイロン612:N612)等を挙げることができる。
また、これらのポリアミド樹脂は、単独で、又は二種以上のブレンド物として用いることができる。ブレンド物の具体例としては、ナイロン6とナイロン66とのブレンド物(N6/N66)、ナイロン6とナイロン11とのブレンド物(N6/N11)、ナイロン6とナイロン12とのブレンド物(N6/N12)、ナイロン6とナイロン610とのブレンド物(N6/N610)、ナイロン6とナイロン612とのブレンド物(N6/N612)、ナイロン66とナイロン11とのブレンド物(N66/N11)、ナイロン66とナイロン12とのブレンド物(N66/N12)、ナイロン66とナイロン610とのブレンド物(N66/N610)、ナイロン66とナイロン612とのブレンド物(N66/N612)、ナイロン11とナイロン12とのブレンド物(N11/N12)、ナイロン11とナイロン610とのブレンド物(N11/N610)、ナイロン11とナイロン612とのブレンド物(N11/N612)、ナイロン12とナイロン610とのブレンド物(N12/N610)、ナイロン12とナイロン612とのブレンド物(N12/N612)、ナイロン610とナイロン612とのブレンド物(N610/N612)等の2成分系のブレンド物、ナイロン6とナイロン11とナイロン610とのブレンド物(N6/N11/N610)、ナイロン6とナイロン11とナイロン612とのブレンド物(N6/N11/N612)、ナイロン6とナイロン12とナイロン610とのブレンド物(N6/N12/N610)、ナイロン6とナイロン12とナイロン612とのブレンド物(N6/N12/N612)、ナイロン6とナイロン610とナイロン612とのブレンド物(N6/N610/N612)、ナイロン66とナイロン11とナイロン610とのブレンド物(N66/N11/N610)、ナイロン66とナイロン11とナイロン612とのブレンド物(N66/N11/N612)、ナイロン66とナイロン12とナイロン610とのブレンド物(N66/N12/N610)、ナイロン66とナイロン12とナイロン612とのブレンド物(N66/N12/N612)、ナイロン66とナイロン610とナイロン612とのブレンド物(N66/N610/N612)等の3成分系のブレンド物、ナイロン6とナイロン66とナイロン11とナイロン610とのブレンド物(N6/N66/N11/N610)、ナイロン6とナイロン66とナイロン11とナイロン612とのブレンド物(N6/N66/N11/N612)、ナイロン6とナイロン66とナイロン12とナイロン610とのブレンド物(N6/N66/N12/N610)、ナイロン6とナイロン66とナイロン12とナイロン612とのブレンド物(N6/N66/N12/N612)、ナイロン6とナイロン66とナイロン610とナイロン612とのブレンド物(N6/N66/N610/N612)、ナイロン6とナイロン11とナイロン12とナイロン610とのブレンド物(N6/N11/N12/N610)、ナイロン6とナイロン11とナイロン12とナイロン612とのブレンド物(N6/N11/N12/N612)、ナイロン6とナイロン11とナイロン610とナイロン612とのブレンド物(N6/N11/N610/N612)、ナイロン6とナイロン12とナイロン610とナイロン612とのブレンド物(N6/N12/N610/N612)等の4成分系のブレンド物、ナイロン6とナイロン66とナイロン11とナイロン610とナイロン62とのブレンド物(N6/N66/N11/N610/N612)、ナイロン6とナイロン66とナイロン12とナイロン610とナイロン612とのブレンド物(N6/N66/N12/N610/N612)等の5成分系のブレンド物、ナイロン6とナイロン66とナイロン11とナイロン12とナイロン610とナイロン612とのブレンド物(N6/N66/N11/N12/N610/N612)等の6成分系のブレンド物を挙げることができる。
(a)成分((a−1)成分+(a−2)成分)と(b)成分の含有割合は、質量比で、(a):(b)=40:60〜95:5であることが好ましく、(a):(b)=45:55〜92:8であることが更に好ましく、(a):(b)=50:50〜90:10であることが特に好ましい。(a):(b)=40:60よりも(a)成分の割合が少ないと、最終的に得られる熱可塑性エラストマー組成物のゴム弾性が低下する傾向にある。一方、(a):(b)=95:5よりも(a)成分の割合が多いと、(b)成分が少な過ぎるために、最終的に得られる熱可塑性エラストマー組成物の相構造(モルホロジー)が、動的架橋型熱可塑性エラストマー組成物の特徴である良好な海島構造(熱可塑性樹脂が海(マトリックス)、架橋したゴムの粒子が島(ドメイン))になり難く、成形加工性、機械物性が低下する傾向にある。
(架橋剤)
(a−1)成分と(a−2)成分を含むゴム組成物は、(a−1)成分と(a−2)成分を含有するゴム成分を、架橋剤(第一の架橋剤)の存在下に動的に熱処理することによって得ることができる。より具体的には、第一の架橋剤として(c−1)ヒドロシリル化架橋剤(以下、「(c−1)成分」ともいう)を使用し、(d)ヒドロシリル化触媒(以下、「(d)成分」ともいう)の存在下に動的に熱処理することが好ましい。
((c−1)ヒドロシリル化架橋剤)
ヒドロシリル化架橋剤の構造に特に制限はないが、(a−1)成分とヒドロシリル化反応を生起し、(a−1)成分を架橋し得る構造を有するものであることが好ましく、その分子中に、水素−ケイ素結合を少なくとも2個有するものが更に好ましい。具体的には、下記一般式(3)〜(9)のいずれかで表されるものを好適例として挙げることができる。
Figure 2007138020
(前記一般式(3)中、R1は炭素数1〜18のアルキル基、mは0以上の数、nは2以上の数である)
Figure 2007138020
(前記一般式(4)中、R1は炭素数1〜18のアルキル基である)
Figure 2007138020
(前記一般式(5)中、R1は炭素数1〜18のアルキル基、R2はブチル基又はフェニル基である)
Figure 2007138020
(前記一般式(6)中、R1は炭素数1〜18のアルキル基、mは0以上の数、nは2以上の数である)
Figure 2007138020
(前記一般式(7)中、R1は炭素数1〜18のアルキル基、R3はメチル基又はフェニル基、bは0以上の数である)
Figure 2007138020
(前記一般式(8)中、R1は炭素数1〜18のアルキル基、pは0以上の数、qは1以上の数である)
Figure 2007138020
(前記一般式(9)中、R1は炭素数1〜18のアルキル基、rは4以上の数である)
(c−1)成分の使用量は、(a−1)成分100質量部に対して、0.005〜50質量部とすることが好ましく、0.01〜30質量部とすることが更に好ましく、0.02〜20質量部とすることが特に好ましい。(c−1)成分の使用量が、(a−1)成分100質量部に対して0.005質量部未満であると、ヒドロシリル化反応が不十分となる傾向にある。一方、50質量部超であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の粘度が低下し、強度低下に繋がる傾向にある。
((d)ヒドロシリル化触媒)
ヒドロシリル化触媒としては、ヒドロシリル化反応において触媒作用を示すものであれば特に制限はないが、例えば、遷移金属化合物が好ましい。具体的には、Fe(CO)5、Co(CO)8、RuCl3、IrCl3、〔(オレフィン)PtCl22、ビニル基含有ポリシロキサン−Pt錯体、H2PtCl6・6H2O、L3RhCl3、L2Ni(オレフィン)、L4Pd、L4Pt、L2NiCl2、L2PdCl2(但し、L=PPh3又はPR’3(Phはフェニル基、R’はアルキル基))を挙げることができる。なかでも、白金化合物が好ましい。
(d)成分の好適な使用量は、(a−1)成分中のビニル基の含有量や、(c−1)成分中の水素−ケイ素結合の量によって異なる。但し、(a−1)成分100質量部に対して、(d)成分を0.00001〜1質量部使用することが好ましく、0.0001〜5質量部使用することが更に好ましい。なお、(c−1)成分が白金化合物である場合には、白金元素換算で、5〜1000ppm使用することが好ましい。(c−1)成分の使用量が0.00001質量部未満であると、ヒドロシリル化反応が不十分となり、得られる熱可塑性エラストマー組成物のロール作業性、機械的強度、耐熱性、耐寒性等が低下する傾向にある。一方、1質量部超であると、ロール作業性はそれ以上の向上が達成され難くなり、機械的強度や耐熱性等が低下する傾向にある。
(d)成分として遷移金属化合物を使用する場合、この遷移金属化合物を添加する方法としては、遷移金属化合物を各種有機溶媒又はゴムで希釈して添加する方法を挙げることができる。添加する際の温度は、10〜200℃とすることが好ましく、20〜170℃とすることが更に好ましい。
((c−2)架橋剤)
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、ゴム組成物と(b)成分を含有する原料組成物を、架橋剤(第二の架橋剤)(以下、「(c−2)成分」ともいう)の存在下に動的に熱処理することによって得ることができる。(c−2)成分の種類は特に限定されないが、(a−2)成分を架橋し得る化合物であることが好ましい。
(c−2)成分の使用量は、熱可塑性エラストマー組成物を製造するための原料組成物に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、0.01〜20質量部とすることが好ましく、0.1〜15質量部とすることが更に好ましく、1〜10質量部とすることが特に好ましい。
(c−2)成分の具体例としては、有機過酸化物、フェノール樹脂架橋剤、硫黄、硫黄化合物、p−キノン、p−キノンジオキシムの誘導体、ビスマレイミド化合物、エポキシ化合物、シラン化合物、アミノ樹脂、ポリオール架橋剤、ポリアミン、トリアジン化合物、金属石鹸、(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤等を挙げることができる。なかでも、有機過酸化物、フェノール樹脂架橋剤、(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤が好ましい。これらを一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
(有機過酸化物)
有機過酸化物としては、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキセン−3、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,2’−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−イソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシド、p−メンタンパーオキシド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジラウロイルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジ(t−ブチルパーオキシ)パーベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等を挙げることができる。
なかでも、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドが好ましい。これらを一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
(c−2)成分として有機過酸化物を使用する場合に、この有機過酸化物の使用量は、原料組成物に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、0.05〜10質量部とすることが好ましく、0.1〜5質量部とすることが更に好ましい。有機過酸化物の使用量が多すぎると、架橋度が過度に高くなり、成形加工性や機械的物性が低下する傾向にある。一方、有機過酸化物の使用量が少なすぎると、架橋度が不足し、得られる熱可塑性エラストマー組成物のゴム弾性及び機械的強度が低下する傾向にある。
(フェノール樹脂架橋剤)
フェノール樹脂架橋剤としては、例えば、下記一般式(10)で表されるp−置換フェノール系化合物、o−置換フェノール・アルデヒド縮合物、m−置換フェノール・アルデヒド縮合物、臭素化アルキルフェノール・アルデヒド縮合物等を挙げることができる。なかでも、p−置換フェノール系化合物が好ましい。これらを一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
Figure 2007138020
前記一般式(10)中、Xはヒドロキシル基、ハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子であり、Rは炭素数1〜15の飽和炭化水素基であり、nは0〜10の整数である。なお、p−置換フェノール系化合物は、アルカリ触媒の存在下における、p−置換フェノールとアルデヒド(好ましくはホルムアルデヒド)との縮合反応により得ることができる。
(c−2)成分としてフェノール樹脂架橋剤を使用する場合に、このフェノール樹脂架橋剤の使用量は、原料組成物に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、0.05〜10質量部とすることが好ましく、0.1〜5質量部とすることが更に好ましい。フェノール樹脂架橋剤の使用量が多すぎると、架橋度が過度に高くなり、成形加工性や機械的物性が低下する傾向にある。一方、フェノール樹脂架橋剤の使用量が少なすぎると、架橋度が不足し、得られる熱可塑性エラストマー組成物のゴム弾性及び機械的強度が低下する傾向にある。
((メタ)アクリル酸エステル系架橋剤)
(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤としては、重量平均分子量Mwが1000〜30000、分子量分布Mw/Mnが1.0〜4.0であり、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位からなる重合体(c−2−1)、及び/又は、重量平均分子量Mwが1000〜30000、分子量分布Mw/Mnが1.0〜4.0であり、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を5〜35質量%及び芳香族ビニル単量体に由来する構成単位を65〜95質量%含有する重合体(c−2−2)を用いることが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば炭素数が1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アルキル基は直鎖、分岐鎖、又は環状鎖のいずれでもよい)、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、(メタ)アクリル酸フェノキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルエステル、(メタ)アクリル酸イソボルニルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシシリルアルキルエステル等を挙げることができる。これらは、一種又は二種以上を用いることができる。
熱可塑性エラストマー組成物の流動性及び相溶性を考慮すると、炭素数が1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アルキル基は直鎖、分岐鎖、又は環状鎖のいずれでもよい)、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールエステルが更に好ましい。
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン,o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等を挙げることができる。これらは一種又は二種以上を併用できる。アクリルゴムとの相溶性を考慮すると、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
重合体(c−2−2)に占める、芳香族ビニル単量体に由来する構成単位の割合が95質量%超であると、アクリルゴムとの架橋反応性が悪化し、機械的物性が低下する傾向にある。一方、65質量%未満であると、ゴムと相溶性が低下し、機械的物性の低下が引き起こされ易くなる傾向にある。また、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の割合が5質量%未満であると、アクリルゴムとの架橋反応性が悪化し、機械的物性が低下する傾向がある。(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の割合が35質量%超であると相溶性が低下し、機械的物性の低下が引き起こされ易くなる傾向にある。よりバランスのとれた熱可塑性エラストマー組成物を得るには、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の割合が5〜33質量%、及び芳香族ビニル単量体に由来する構成単位の割合が67〜95質量%であることが更に好ましく、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の割合が5〜30質量%、及び芳香族ビニル単量体に由来する構成単位の割合が70〜95質量%であることが特に好ましい。
重合体(c−2−2)の共重合成分は、(メタ)アクリル酸エステルと、芳香族ビニル単量体が主であるが、これらとラジカル共重合可能なその他のビニル単量体を用いてもよい。その他のビニル単量体に由来する構成単位の割合は、0〜30質量%であることが好ましい。その他のビニル単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルジアルキルアミド、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、(メタ)アリルエーテル類を挙げることができる。
(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤は、通常のラジカル重合によって得ることができるものであるが、180〜300℃の高温連続重合方法により得られるものであることが好ましい。この高温連続重合方法によれば、高温重合であるために高分子鎖からの水素引き抜き反応に始まるラジカル分岐反応が起こり難く、切断反応が優先するために分岐成分の少ない、直鎖成分の多い(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤を得ることができる。また、切断反応が優先することにより多量の開始剤や連鎖移動剤等の不純物を含まない低分子量ポリマーが容易に製造できる。更に、反応器に撹拌槽型反応器を用いれば、組成分布や分子量分布の狭いビニル系共重合体((メタ)アクリル酸エステル系架橋剤)を得ることができるため特に好ましい。
高温連続ラジカル重合法は、特表昭57−502171号公報、特開昭59−6207号公報、又は特開昭60−215007号公報等に開示された公知の方法に従えばよい。例えば、加圧可能な反応器を加圧下で所定温度に設定した後、この反応器に、ビニル系単量体混合物を一定の供給速度で供給し、ビニル系単量体混合物の供給量に見合う量の重合液を抜き出す方法を挙げることができる。なお、反応器には、必要に応じて重合溶媒を添加してもよい。また、ビニル系単量体混合物には、必要に応じて重合開始剤を配合することもできる。重合開始剤を配合する場合における重合開始剤の配合量は、ビニル系単量体混合物100質量部に対して0.001〜3質量部であることが好ましい。圧力は、反応温度と使用するビニル系単量体混合物及び重合溶媒の沸点に依存する。従って、反応に影響を及ぼさないが、反応温度を維持できる圧力であればよい。
上記のビニル系単量体を重合させるに際しての反応温度は、180〜300℃が好ましく、200〜270℃が更に好ましい。300℃超であると、着色や熱劣化の問題が生じる場合があり、180℃未満であると、分岐反応が起こり易く、分子量分布が広がる傾向にある。従って、分子量を下げるのに多量の開始剤や連鎖移動剤が必要となり、最終的に得られる熱可塑性エラストマー組成物の耐候性、耐熱性、耐久性に悪影響を与える場合がある。また、除熱が難しい等の生産上の問題が起こる場合もある。また、重合反応におけるビニル系単量体混合物の滞留時間は、1〜60分であることが好ましく、5〜30分であることが更に好ましい。滞留時間が1分未満であると、ビニル系単量体が十分に反応しない恐れがあり、滞留時間が60分超であると、生産性が悪く、着色や熱劣化が起こる場合がある。また、管状型反応器よりも連続撹拌槽型反応器を用いるプロセスの方が、得られる(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤の組成分布、分子量分布が狭くなり易いので好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤の分子量分布Mw/Mn(重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比)は1.0〜4.0である。(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤の分子量分布Mw/Mnが4.0超であると、高分子量成分の影響で相溶性が乏しくなり、(b)熱可塑性樹脂の架橋反応性が低下する傾向にあるとともに、低分子量成分によっても表面ブリードが引き起こされ易くなる傾向にある。(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤の分子量分布Mw/Mnは、1.2〜3.5以下であることが好ましく、1.2〜3.0以下であることが更に好ましい。なお、1.2より小さくても特に問題はないが、通常得られる(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤の分子量分布Mw/Mnは1.2以上である。
(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤は、一種類を単独で用いてもよいし、二種以上の混合物として用いてもよい。また、(メタ)アクリル酸エステルや芳香族ビニル単量体は、グリシジル基等を含むことが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルや芳香族ビニル単量体が、グリシジル基を含むものである場合において、(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤のエポキシ価は、0.01〜20meq/gであることが好ましく、0.1〜15meq/gであることが更に好ましく、0.5〜10meq/gであることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤のエポキシ価が0.1meq/g未満であると、架橋反応性低くなる傾向にある。一方、エポキシ価が20meq/g超であると、安定した状態で架橋が制御できない傾向にある。
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を得るために用いられる(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤としては、例えば、ARUFON UG(商品名(東亞合成社製))シリーズ(ARUFON UG4010、UG4030(商品名(東亞合成社製))等)を挙げることができる。
(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤の使用量は、原料組成物の100質量部に対し、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.3〜15質量部であることが更に好ましく、0.5〜10質量部であることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤の使用量が20質量部超であると、安定した状態で架橋を制御し難く、また、得られる架橋ゴムの硬度が過大となり、好適なゴム弾性を示さなくなる傾向にある。一方、(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤の使用量が0.1質量部未満であると、架橋反応性が低く、得られる架橋ゴムの架橋密度が低くなり、好適なゴム弾性を示さなくなる傾向にある。
(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤の使用量は、原料組成物100質量部に対し、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.3〜15質量部であることが更に好ましく、0.5〜10質量部であることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤の使用量が20質量部超であると、安定した状態で架橋を制御し難く、また、得られる架橋ゴムの硬度が過大となり、好適なゴム弾性を示さなくなる傾向にある。一方、(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤の使用量が0.1質量部未満であると、架橋反応性が低く、得られる架橋ゴムの架橋密度が低くなり、好適なゴム弾性を示さなくなる傾向にある。
(架橋助剤、架橋促進剤)
架橋剤とともに、架橋助剤及び/又は架橋促進剤を用いると、架橋反応を穏やかに行うことができ、均一な架橋を形成することができるために好ましい。架橋剤として有機過酸化物を用いる場合には、架橋助剤として、硫黄、硫黄化合物(粉末硫黄、コロイド硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、表面処理硫黄、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等)、オキシム化合物(p−キノンオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンオキシム等)、多官能性モノマー類(エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルシアヌレート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−トルイレンビスマレイミド、無水マレイン酸、ジビニルベンゼン、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛等)等を用いることが好ましい。なかでも、p,p’−ジベンゾイルキノンオキシム、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジビニルベンゼンが好ましい。これらを一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。なお、N,N’−m−フェニレンビスマレイミドは、架橋剤としての作用を示すものであるため、架橋剤として単独で使用することもできる。
架橋剤として有機過酸化物を使用する場合における、架橋助剤の使用量は、原料組成物に含まれる重合体成分の合計量100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、0.2〜5質量部とすることが更に好ましい。架橋助剤の使用量が10質量部超であると、架橋度が過度に高くなり、成形加工性が低下し、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的物性が低下する傾向にある。
架橋剤としてフェノール樹脂架橋剤を用いる場合には、架橋促進剤として、金属ハロゲン化物(塩化第一すず、塩化第二鉄等)、有機ハロゲン化物(塩素化ポリプロピレン、臭化ブチルゴム、クロロプレンゴム等)等を用いると、架橋速度を調節することができるために好ましい。また、架橋促進剤の他に、酸化亜鉛等の金属酸化物やステアリン酸等の分散剤を使用することが更に望ましい。
(各種添加剤)
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物には、可塑剤、伸展油、無機充填剤、金属酸化物、老化防止剤、補強剤、熱可塑性樹脂、ゴム等の高分子化合物、各種添加剤を含有させることができる。
(可塑剤)
可塑剤としては、例えば、トリメリット酸系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤、ポリエーテルエステル系可塑剤等を挙げることができる。
トリメリット酸系可塑剤としては、トリメリット酸の3つのカルボン酸がそれぞれアルコールと縮合してなるトリメリット酸エステルを挙げることができる。例えば、トリメリット酸トリメチル、トリメリット酸トリエチル、トリメリット酸トリプロピル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリアミル、トリメリット酸トリヘキシル、トリメリット酸トリヘプチル、トリメリット酸トリ−n−オクチル、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリノニル、トリメリット酸トリス(デシル)、トリメリット酸トリス(ドデシル)、トリメリット酸トリス(テトラデシル)、トリメリット酸トリス(C8〜C12混合アルキル)、トリメリット酸トリス(C7〜C9混合アルキル)、トリメリット酸トリラウリル等を挙げることができる。具体的には、アデカサイザー C−8、C−880、C−79、C−810、C−9N、C−10等(いずれも商品名(旭電化工業社製))が該当する。
ポリエーテル系可塑剤としては、脂肪族ジカルボン酸にアルコキシポリオキシエチレンアルコールを縮合させたものを挙げることができる。具体的には、アデカサイザー RS−705(商品名(旭電化工業社製))、モノサイザー W−264(商品名(大日本インキ化学工業社製))等が該当する。
ポリエーテルエステル系可塑剤の製造方法に関しては特に限定されるものではないが、2−エチルヘキシル酸とエーテルグリコールとを、2:1のモル比で反応させることにより容易に得ることができる。例えば、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、又はヘプタエチレングリコール等を所定量含む混合エーテルグリコールと、2−エチルヘキシル酸とを常法により反応させて得ることができるが、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、又はヘプタエチレングリコール等をそれぞれ別々に2−エチルヘキシル酸と常法により反応させて得られたジエステルを使用し、ポリエチレングリコール平均重合度が、5〜10となるように混合することによっても製造できる。具体的には、アデカサイザー RS−107、RS−1000、RS−735、RS−700等(いずれも商品名(旭電化工業社製))が該当する。なお、2−エチルヘキシル酸以外の脂肪族カルボン酸と、モノ/ジ/ポリ(3〜20)エチレングリコールとを反応させて得られるエーテルエステル系可塑剤を用いることもできる。
上記以外の可塑剤として、ジヘプチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート等のフタレート系可塑剤;ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジ(ブチルジグリコール)アジペート等のアジペート系可塑剤;トリメリテート系可塑剤;ピロメリテート系可塑剤;ビフェニルテトラカルボキシレート系可塑剤;ホスフェート系可塑剤;ポリエステル系可塑剤;塩素化パラフィン系可塑剤;パラフィン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、特殊プロセスオイル、エチレンとα−オレフィンのオリゴマー、パラフィンワックス、流動パラフィン、ホワイトオイル、ペトロラダム、石油スルホン酸塩、ギウソナイト、石油アスファルト、石油樹脂等の鉱物油系可塑剤;ひまし油、綿実油、菜種油、大豆油、バーム油、やし油、落花生油、木ロウ、ロジン、パインオイル、ジペンテン、含パインタール軟化剤、トール油、精製トール油等の植物油系可塑剤;黒サブ、白サブ、飴サブ等のサブ系可塑剤等を挙げることができる。
上述してきた可塑剤のなかでも、ポリエーテルエステル系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、芳香族系プロセスオイルを用いることが好ましく、ポリエーテルエステル系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤を用いることが更に好ましい。これらを一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
可塑剤の重量平均分子量は、400〜1000であることが好ましく、500〜900であることが更に好ましい。可塑剤の重量平均分子量が400未満であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の耐熱性が不十分となる傾向にある。一方、可塑剤の重量平均分子量900超であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の耐寒性・圧縮永久歪が低下する傾向にある。なお、可塑剤は、熱可塑性エラストマー組成物の製造時に原料組成物に添加してもよいし、予め(a)ゴム組成物に添加してもよい。
可塑剤の配合量は、(a−1)成分、(a−2)成分、及び(b)成分の合計量100質量部当たり、1〜200質量部とすることが好ましく、5〜150質量部とすることが更に好ましく、10〜100質量部とすることが特に好ましい。200質量部超とすると、最終的に得られる熱可塑性エラストマー組成物から可塑剤がブリードアウトし、機械的強度及びゴム弾性が低下する傾向にある。
(無機充填剤)
無機充填剤としては、ゴム組成物に配合される通常のものを使用することができる。例えば、シリカ、重質炭酸カルシウム、胡粉、軽微性炭酸カルシウム、極微細活性化炭酸カルシウム、特殊炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、カオリン、焼成クレー、パイロフライトクレー、シラン処理クレー、合成ケイ酸カルシウム、合成ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、カオリン、セリサイト、タルク、微粉タルク、ウォラスナイト、ゼオライト、ベントナイト、マイカ、アスベスト、PMF(Processed Mineral Fiber)、セピオライト、チタン酸カリウム、エレスタダイト、石膏繊維、ガラスバルン、シリカバルン、ハイドロタルサイト、フライアシュバルン、シラスバルン、カーボン系バルン、アルミナ、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、二硫化モリブデン等を挙げることができる。これらは、一種単独で又は二種以上を混合して使用することができる。この中でも、吸油性が高いことから特にシリカが好ましい。
無機充填剤の配合量は、原料組成物の100質量部当たり、0〜50質量部とすることが好ましく、0.5〜30質量部とすることが更に好ましく、1〜20質量部とすることが特に好ましい。50質量部超とすると、原料組成物の粘度が過度に高くなり、又は得られる熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性の指標である圧縮永久歪が大きくなる傾向にある。
無機充填剤としてシリカを使用する場合には、通常、シリカの表面処理にシランカップリング剤が用いられる。用いられるシランカップリング剤は特に限定されるものではなく、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシラン、メチルトリエトキシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、N−〔β−(N−ビニルベンザルアミノ)エチル〕−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩等を挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、一種単独で又は二種以上を混合して使用することができる。
シランカップリング剤の配合量は、混合物の100質量部当たり、0.1〜10質量部とすることが好ましく、0.5〜5質量部とすることが更に好ましい。0.1質量部未満であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の引張特性、圧縮永久歪等が不十分となる傾向にある。一方、10質量部超であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物のゴム弾性が低下する傾向にある。
シリカのpHは、2〜10であることが好ましく、3〜8であることが更に好ましく、4〜6であることが特に好ましい。pHが2未満であると、架橋速度が遅くなる傾向にある。一方、pHが10超であると、スコーチ安定性が低下する傾向にある。また、シリカのDBP(ジブチルフタレート)吸油量(ml/100g)は、150〜300であることが好ましく、200〜300であることが更に好ましい。DBP吸油量が150未満であると、製造工程におけるエラストマー(C)と伸展油との混合時の粘度が低下して粘着力が上昇し、取り扱い性が低下する傾向にある。一方、吸油量が300超であると、粘度が過度に高くなる傾向にある。
ここで、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の好適な相構造(モルフォロジー)について説明する。図1は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の一実施形態の、相構造を示す模式図である。なお、図1では、(a−2)成分としてアクリルゴムを用いた場合を例に挙げて説明する。図1に示すように、本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の相構造は、シリコーンゴム架橋粒子1を第一の島相、及びアクリルゴム架橋粒子2を第一の海相とする第二の島相と、熱可塑性樹脂3からなる第二の海相と、を含む海島構造であることが好ましい。このような海島構造のモルフォロジーを構成することにより、より優れた柔軟性、耐熱性、機械的物性、ゴム弾性、低温性、及び耐油性が発揮される。
2.熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
次に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法の一実施形態について説明する。本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、(a−1)成分、及び(a−2)成分を含有するゴム成分を、第一の架橋剤の存在下に動的に熱処理してゴム組成物を得る第一の工程と、得られたゴム組成物、及び(b)成分を含有する原料組成物を、第二の架橋剤の存在下に動的に熱処理する第二の工程とを含む製造方法である。以下、その詳細について説明する。
一般的に、シリコーンゴムと、シリコーンゴム以外のゴムとは混合し難く、シリコーンゴムと極性ゴムとの混合は特に困難である。本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法では、先ず、(a−1)成分、及び(a−2)成分を、例えば連続式押出機、密閉式混練機等の溶融混練装置で混合するとともに、第一の架橋剤存在下に動的に熱処理して、ゴム組成物を得る(第一の工程)。得られるゴム組成物は、(a−1)成分を第一の島相、(a−2)を第一の海相とする、いわゆる海島構造を有するものである。
次に、本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物では、この海島構造を有するゴム組成物、及び(b)成分を、例えば前述の溶融混練装置等を使用して混合するとともに、第二の架橋剤存在下に動的に熱処理することにより、熱可塑性エラストマー組成物を得る(第二の工程)。得られる熱可塑性エラストマー組成物は、その内部に(a−1)成分からなる第一の島相を含む(a−2)成分を第二の島相、(b)成分を第二の海相とする、いわゆる海島構造を有するものである。
ここで、「動的に熱処理」するとは、剪断力を加えること、及び加熱することの両方を行うことをいう。より具体的な混練を行うための装置としては、連続式混練機、連続式押出機、密閉式混練機等の装置を挙げることができる。これらのうち、経済性、処理効率等の観点から連続式混練機、及び/又は連続式押出機を用いることが好ましい。これらの装置で行う処理はバッチ式でも連続式であってもよい。
連続式混練機としては、熱可塑性エラストマー組成物を架橋剤の存在下で溶融混練することができるものであれば特に限定されない。例えば、一軸押出機、二軸押出機、二軸ローター型押出機等を挙げることができる。これらのうち、二軸押出機、又は二軸ローター型押出機を好適に用いることができる。更には、L/D(スクリュー有効長さLと外径Dとの比)が、5以上である装置が好ましく、L/Dが10〜60である装置が更に好ましく用いられる。二軸押出機としては、例えば、2本のスクリューが噛み合うもの、噛み合わないもの等任意の二軸押出機を使用することができるが、2本のスクリューの回転方向が同一方向でスクリューが噛み合うものがより好ましい。このような二軸押出機としては、池貝社製GT、神戸製鋼所社製KTX、日本製鋼所社製TEX、東芝機械社製TEM、ワーナー社製ZSK(いずれも商品名)等を挙げることができる。二軸ローター式押出機としては、2本のスクリューが噛み合うもの、噛み合わないもの等任意の二軸ローター式押出機を使用することができるが、2本のスクリューの回転方向が異方向でスクリューが噛み合わないのがより好ましい。このような二軸ローター式押出機としては、例えば、日本製鋼所社製CIM、神戸製鋼所社製ミクストロンFCM/NCM/LCM/ACM(いずれも商品名)等を挙げることができる。
連続式押出機で熱可塑性エラストマー組成物を製造する場合における、可塑剤や伸展油の供給方法としては、ミキサーを用いて架橋反応に供される(a)ゴム組成物、及び(b)熱可塑性樹脂等と予め混合して連続式押出機のフィードホッパーに供給する方法、又はフィードホッパーとダイとの間に設けられたバレル開口部から直接供給する方法等がある。
密閉式混練機としては、ゴム成分や原料組成物を、架橋剤の存在下で溶融混練することができる装置であれば特に限定されない。例えば、加圧型ニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー等を挙げることができる。
なお、動的熱処理の際の処理温度は、通常、120〜350℃、好ましくは150〜290℃である。処理時間は、通常、20秒間〜320分間、好ましくは30秒間〜25分間である。また、混合物に加える剪断力は、通常、ずり速度で10〜20,000/秒、好ましくは100〜10,000/秒である。
また、(a)ゴム組成物として、コア/シェル乳化重合して得られたものを用いることが好ましい。より具体的には、(a)として、ガラス転移温度(Tg)が25℃以下であるコア部と、コア部の外周面上の少なくとも一部に形成された、ガラス転移温度(Tg)が25℃超であるシェル部とを備えたコア/シェル構造を有するゴム粒子が分散媒中に分散したエマルジョン(ラテックス)より得られたゴムを用いることが好ましい。
ラテックス中のゴム粒子をこのようなコア/シェル構造にすると、(a)ゴム組成物の性状を、粉末状又はクラム状とすることが可能となる。粉末状又はクラム状の(a)ゴム組成物は、互いに粘着・凝集し合うことなく、その性状を保持したまま、保管・製造時の添加剤ブレンド作業、或いは連続式混練機を用いた生産工程へと供することができる。従って、生産性・経済性に優れた製造方法で熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
クラム状のエラストマーとは、例えば、乳化重合したラテックスを凝固・乾燥することにより得ることができる、クラム状又は粒状のエラストマーのことをいう。クラム状のエラストマーの数平均粒子径は、5cm以下であることが好ましく、4cm以下であることが更に好ましく、3cm以下であることが特に好ましい。なお、数平均粒子径は、0.01mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることが更に好ましく、1mm以上であることが特に好ましい。数平均粒子径が5cm超であると、熱可塑性エラストマー組成物を製造時に安定的・定量的に連続式混練機及び/又は連続式押出機へ供給することが困難になる傾向にある。
また、粉末状のエラストマーは、例えば、乳化重合したラテックスを凝固・乾燥することにより、或いは、クラム状のエラストマー、又はクラム状のエラストマーを固めたベールゴムを機械的に破砕することにより得ることができる。
上述のようにして得られる本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、全体として良好な海島構造を有し、耐寒性に優れ、アクリルゴムの代替品として有用であるという効果を奏するものである。従って、その用途が限定されるものではないが、本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物のこのような特性を生かし、例えば、自動車等の輸送機械、一般機器・装置、電子・電気、建築等の幅広い分野において、O−リング、オイルシール、ベアリングシール等のシール材の他、CVJブーツ、緩衝・保護材、電線被覆材、工業用ベルト類、ホース類、シート類等の各種成形品を構成する材料として好適である。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
(熱可塑性エラストマー組成物の調製)
以下に示すシリコーンゴム、アクリルゴム、熱可塑性樹脂、架橋剤、及びその他の添加剤を用いた。
<シリコーンゴム>
ジメチルシロキサン単位99.85mol%とメチルビニルシロキサン単位0.15mol%からなり、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された、重合度が約7,000のメチルビニルポリシロキサン生ゴム100質量部、比表面積200m2/gの煙霧質シリカアエロジル200(商品名(日本アエロジル社製))30質量部、及び分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された重合度約10のジメチルポリシロキサン8質量部をニーダー中で均一に混合し、170℃で2時間熱処理を行うことにより、シリコーンゴムを得た。
<アクリルゴム>
窒素置換されたオートクレーブ内に純水を入れ、更に、アクリル酸ブチル(BA)41.5部、アクリル酸メトキシエチル(MEA)41.5部、アクリロニトリル(AN)13部、及びアクリル酸ジヒドロジシクロペンテニルオキシエチル(DCPEA)4部からなる単量体混合物100部と、ラウリル酸ナトリウム4.0部と、p−メンタンハイドロパーオキサイド0.25部と、硫酸第一鉄0.01部と、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.025部と、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.04部とを仕込み、反応温度30℃で乳化重合させた。重合転化率がほぼ100%に達したところで、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.5部を反応系に添加して共重合反応を停止させた(反応時間:1時間)。次いで、反応生成物(ラテックス)を取り出し、反応生成物に塩化カルシウム水溶液(0.25%)を添加して凝固させた。この凝固物を十分に水洗した後、約90℃で3〜4時間乾燥させることにより、ムーニー粘度[MS1+4,100℃]40のアクリルゴムを得た。
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂として、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)(ウィンテックポリマー社製、商品名「ジュラネックス500FP」(MFR(235℃,21N)=23g/10分、JIS K7206にて規定されるビカット軟化温度=204℃、融点=223℃)を使用した。
<ヒドロシリル化架橋剤>
ヒドロシリル化架橋剤として、商品名「TSF484」(GE東芝シリコーン社製)を使用した。
<ヒドロシリル化触媒>
ヒドロシリル化触媒として、塩化白金酸6水和物の0.5%水溶液(和光純薬社製)を使用した。
<(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤>
オイルジャケットを備えた容量1リットルの加圧式撹拌槽型反応器のオイルジャケット温度を、225℃に保った。次いで、スチレン38部、メタクリル酸メチル28部、グリシジルメタクリレート25部、ブチルアクリレート8部、芳香族系溶剤としてキシレン10部、及び重合開始剤であるジターシャリーブチルパーオキサイド2.5部からなる単量体混合液を調製し原料タンクに仕込んだ。一定の供給速度(48g/分、滞留時間:12分)で単量体混合液を原料タンクから反応器に連続供給し、反応器内の混合液質量が580g一定になるように反応液を反応器出口から連続的に抜き出した。その時の反応器内温は、235℃に保持した。更に、抜き出した反応物を減圧度30kPa、温度250℃に保った薄膜蒸発機で連続的に揮発成分を分離し、揮発成分をほとんど含まない共重合体を回収した。単量体混合物の供給開始後、反応器内部の温度が安定してから更に36分後をほぼ平衡状態に達したと判断し、薄膜蒸発後の重合体の回収開始点とし、それから180分反応を継続した結果、約8kgの(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤を回収した。ゲルパーミエーションクロマトグラフより求めたポリスチレン換算による重量平均分子量Mwは11500、数平均分子量Mnは5000、分子量分布Mw/Mnは2.3であった。また、ガスクロマトグラフによる架橋剤中の揮発成分量は1%以下であった。ガラス転移温度(Tg)は70℃、エポキシ価は1.8meq/gであった。
<老化防止剤>
老化防止剤として、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラックCD」、大内新興化学工業社製)を使用した。
(実施例1)
シリコーンゴム20部、アクリルゴム30部、ヒドロシリル化架橋剤(商品名「TSF484」)0.8部、及び塩化白金酸6水和物0.5%水溶液0.8部を、160℃に加熱した10リッター双腕型加圧ニーダー(モリヤマ社製)に投入し、40rpmで混練を開始した。最大トルク(所要時間:約10分)に達してから、更に5分混練を行い、未架橋のアクリルゴム中にシリコーンゴム架橋粒子が分散したゴム組成物を得た。得られたゴム組成物を、10インチロールを使用して2mm厚のシートに加工した後、軟質シートペレタイザーを使用して、1辺5mm角のゴム組成物ペレットを作製した。作製したゴム組成物ペレットの全量、前記(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤2.0部、及び老化防止剤(商品名「ノクラックCD」)1.0部を、ヘンシェルミキサーを用いて30秒間混合し、ゴム組成物ペレット混合物を得た。
次に、同方向回転二軸押出機(同方向非噛み合い型スクリュー、L/D=49、日本製鋼所社製、商品名「TEX44αII」)に、1台はゴム組成物ペレット混合物用、もう1台は熱可塑性樹脂用の、計2台の重量式フィーダー(クボタ社製、商品名「KF−C88」)を用いて、吐出量40kg/hで同方向回転二軸押出機の原料導入口より、得られたゴム組成物ペレット混合物と、熱可塑性樹脂として前記PBT樹脂50部をそれぞれ供給した。シリンダー温度設定230℃、スクリュー回転数400rpmで動的熱処理による架橋反応を施して、熱可塑性エラストマー組成物を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物を使用して、物性評価用の試験片(成形シート)を作製し、各種物性値の測定及び評価を行った。その結果、メルトフローレート(MFR)(230℃、10kg)は3g/10分、常温(25℃)における表面硬度(デュロD)は50、常温(25℃)における引張破断強度(TB)は23MPa、常温(25℃)における引張破断伸び(EB)は130%、140℃における引張破断強度(TB)は9MPa、140℃における引張破断伸び(EB)は130%、140℃における圧縮永久歪みは85%、及び耐油性の指標となる体積変化率(ΔV)は7%であった。また、低温試験の結果、試験片は破壊されなかった。なお、物性評価用の試験片(成形シート)を作製方法、及び各種物性値の測定方法を以下に示す。
(熱可塑性エラストマー組成物の試験片(成形シート)の作製)
得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットについて、射出成形機(日本製鋼社製、商品名「N−100」)を使用して射出成形を行うことにより、厚み2mm、長さ120mm、幅120mmの成形シートを作製した。作製した成形シートを各種評価に供した。
(熱可塑性エラストマー組成物の評価)
[メルトフローレート(MFR)]:流動性の指標として、メルトフローレート(MFR)を、容量10リットルのニーダーを使用し、230℃、10kg荷重にて測定した。
[表面硬度(デュロD)]:JIS K6253に準拠して、常温(25℃)で測定した。
[引張破断強度(TB)、及び引張破断伸び(EB)]:JIS K6251に準拠して、常温(25℃)及び140℃で測定した。
[圧縮永久歪み]:柔軟性の指標として、JIS K6262に準拠して、140℃、70時間の条件で測定した。
[耐油性]:JIS K6258に準拠し、IRM903号試験油を使用し、150℃、70時間浸漬試験による体積変化率(ΔV(%))を求めた。
[低温試験]:JIS K6261に準拠して衝撃脆化試験を行い、−40℃における試験片に生じた破壊の有無を観察した。
(比較例1)
アクリルゴム50部、前記(メタ)アクリル酸エステル系架橋剤2.0部、及び老化防止剤(商品名「ノクラックCD」)1.0部を、ヘンシェルミキサーを用いて30秒間混合し、ゴム混合物を得た。次に、同方向回転二軸押出機(同方向非噛み合い型スクリュー、L/D=49、日本製鋼所社製、商品名「TEX44αII」)に、1台はゴム混合物用、もう1台は熱可塑性樹脂用の、計2台の重量式フィーダー(クボタ社製、商品名「KF−C88」)を用いて、吐出量40kg/hで同方向回転二軸押出機の原料導入口より、得られたゴム混合物と、熱可塑性樹脂50部をそれぞれ供給した。シリンダー温度設定230℃、スクリュー回転数400rpmで動的熱処理による架橋反応を施して、熱可塑性エラストマー組成物を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物を使用して、物性評価用の試験片(成形シート)を作製し、各種物性値の測定を行った。結果を表1に示す。
Figure 2007138020
表1に示す結果から、実施例1の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性、ゴム弾性(圧縮永久歪み)、低温物性、及び耐油性に優れたものであることが分かる。これに対して、比較例1の熱可塑性エラストマー組成物は、実施例1の熱可塑性エラストマー組成物にと比べて、低温物性、ゴム弾性(圧縮永久歪)に劣るものであった。比較例1の熱可塑性エラストマー組成物には、シリコーンゴムが含まれていないために、このような差異が生じたものと推察される。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性、耐熱性、機械的物性、ゴム弾性、低温性、及び耐油性に優れたものであるため、CVJブーツ等の部材を構成するための材料として好適である。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の一実施形態の、相構造を示す模式図である。
符号の説明
1:シリコーンゴム架橋粒子
2:アクリルゴム架橋粒子
3:熱可塑性樹脂

Claims (9)

  1. (a)(a−1)シリコーンゴム、及び
    (a−2)シリコーンゴム以外のゴム、を含むゴム組成物と、
    (b)融点が165℃以上の熱可塑性樹脂と、
    を含有する原料組成物を、架橋剤の存在下に動的に熱処理してなる熱可塑性エラストマー組成物。
  2. 前記(a−1)シリコーンゴムが、下記平均組成式(1)で表される、重合度が500〜10000のオルガノポリシロキサンである請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
    Figure 2007138020
    (前記平均組成式(1)中、Rは置換又は非置換の一価の有機基であり、Rのうち0.02〜10mol%はビニル基であり、aは1.900〜2.004の範囲の数である)
  3. 前記(a−2)シリコーンゴム以外のゴムが、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム及びその水添物、クロロスルホン化ポリエチレン、フッ素ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、並びにエチレン−アクリルゴムからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  4. 前記(b)熱可塑性樹脂が、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエステル樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  5. 前記(a−1)シリコーンゴム5〜90質量部、及び前記(a−2)シリコーンゴム以外のゴム5〜90質量部(但し、(a−1)+(a−2)=100質量部)を含む前記(a)ゴム組成物40〜95質量%と、
    前記(b)熱可塑性樹脂5〜60質量%(但し、(a)+(b)=100質量%)と、
    を含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  6. (イ)架橋された前記(a−1)シリコーンゴムからなる第一の島相、及び架橋された前記(a−2)シリコーンゴム以外のゴムからなる第一の海相、を含む第二の島相と、
    (ロ)前記(b)成分からなる第二の海相と、
    を含む海島構造を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  7. (a−1)シリコーンゴム、及び(a−2)シリコーンゴム以外のゴムを含有するゴム成分を、第一の架橋剤の存在下に動的に熱処理してゴム組成物を得る第一の工程と、
    得られた前記ゴム組成物、及び(b)熱可塑性樹脂を含有する原料組成物を、第二の架橋剤の存在下に動的に熱処理する第二の工程と、
    を含む熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
  8. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形品。
  9. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる等速ジョイント(CVJ)ブーツ。
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