本発明は、有機EL表示装置に関し、特に有機EL表示装置の発光効率を向上する技術に関するものです。
特許文献1には、従来の隣接する2つの有機物層の間では、その界面におけるポテンシャル障壁の変化が大きかったために、正孔や電子の注入効率が悪かったという問題に対して、それら2つの有機物層の代わりにそれらの層の材料で構成された1つの混合層を設け、その混合比を厚さ方向で徐々に変化させるという解決手段が記載されています。また、その混合比の変化のさせ方としては、線形又は曲線状に混合比を変化させた傾斜混合の層を設けるか、階段状に混合比を変化させた層を設けることが記載されています。また、混合層として、1:1の混合層を用いることも示されています。さらに、その混合層の厚みとしては、100nmと200nmの2通り記載されています。
特許文献2には、電子輸送材料層と正孔輸送材料層との間に、電子輸送材料と正孔輸送材料との混合層を設けることが記載され、具体的な混合層の例としては、次の表1に記載された混合範囲にすることが好ましいと記載されています。
表1:特許文献2に記載された混合層の混合比
正孔輸送材料 電子輸送材料 ドーピング材料
約5〜約95 約95〜約5 約0.01〜約25
約30〜約70 約70〜約30 約0.05〜約10
約40〜約60 約60〜約40 約0.1〜約2
また、混合層の膜厚は1nm〜1000nm、好ましくは10nm〜200nm、さらに好ましくは、20〜100nmにすることが記載されています。
特開2002-324680号公報
特開2004-241188号公報
上記2つの従来技術は、2つの有機物層を個々に存在させた状態を保持するのではなく、それらの2つの層の材料の混合層を用いて単層化するものです。このような単層膜は、別個に成膜した場合に比べて機能が低いという問題があります。そのため、同じレベルまで機能を確保しようとして膜厚を厚くすることになりますが、膜厚を厚くすると今度は電流効率が下がり、発光開始電圧が上がってしまうことになります。特に、特許文献2のように、発光層を混合層にすると、再結合領域が広がり、発光に寄与できるドーパント近辺での再結合の割合が小さくなり、発光効率が低下します。
また、特許文献1の傾斜混合の混合層は、薄く成膜すると基板毎の再現性や基板面内の均一性が悪く、品質バラツキが発生しやすくなるという問題があります。従って、再現性や均一性を高めるためには、膜厚を大きくせざるをえません。また、同特許文献1の階段状に混合膜を成膜する場合にも、1回当たりに成膜できる膜厚を薄くするのには限界があるため、膜厚が厚くなるという問題や、原料の供給量を変化させるために成膜条件を変更させるためにタクトタイムが長くなる等の生産性上の問題も生じます。
本発明は、かかる問題を解消し、発光効率を向上させた有機EL表示装置を提供することを目的としています。
本願は、上記目的を達成する発明を複数含むものですが、代表的なものを挙げると次の通りです。
(1)少なくとも3層以上の有機物層を陽極と陰極の間に備え、該複数の有機物層は、直接接する隣りの2つの有機物層を構成する有機材料が混合されている混合層を有し、前記混合層の膜厚tが0.5nm≦t≦2nmの関係を満たすことを特徴とする有機EL表示装置。
(2)有機物層を陽極と陰極の間に備え、該有機物層は、ホール注入層と、該ホール注入層に接する混合層と、該混合層に接するホール輸送層とを備えるか、ホール輸送層と、該ホール輸送層に接する混合層と、該混合層に接する発光層とを備えるか、発光層と、該発光層に接する混合層と、該混合層に接する電子輸送層とを備え、前記混合層は、接する2つの層の有機材料の混合物によって構成されていることを特徴とする有機EL表示装置。
(3)有機層が積層された有機物層と、該有機物層を挟み込むアノード電極及びカソード電極を備え、前記有機物層を構成する層に、自身の表面の凹凸の最大値Rmaxの1.5倍以上の厚みを備えた有機層が含まれていることを特徴とする有機EL表示装置。
本発明によれば、有機EL表示装置の発光効率を向上し、長寿命化を図ることができます。
本発明は、上記特許文献1や特許文献2に記載されているように、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層といった有機物の機能層のうち、隣接する機能層の材料を混合して2つの機能層を1つの層に纏め、その層内でHOMO (Highest Occupied Molecular Orbital最高被占分子軌道)-LUMO (Lowest Unoccupied Molecular Orbital最低空分子軌道) のエネルギーギャップを小さくさせようとするものではなく、機能層とは別個にHOMO-LUMOのエネルギーギャップを緩和する混合層をその間に設け、電流効率を向上させようとするものです。
本発明者らは、HOMO-LUMOのエネルギーギャップが最も小さくなる混合比、つまり電流効率が高い混合比を実験的に調べているなかで、電流効率が最も高い混合比と、HOMO-LUMOのエネルギーギャップのグラフの変曲点(本明細書中では、HOMO-LUMOのエネルギーギャップの混合比に対する傾きの変化率が最大になる点、つまり、HOMO-LUMOのエネルギーギャップを縦軸にし、混合比を横軸にしてグラフを作成した場合に、グラフの傾きが大きく変化する混合比の値のことを「変曲点」と称することにする。)の混合比とが概ね一致することを発見しました。
さらに、本発明者らは、EL素子を構成する有機物層の膜厚が厚いと電流効率が低下する知見を得ており、電流効率を向上させるためには、隣接する層の機能によって好ましい混合比と膜厚が存在するはずであると推定し、混合する材料を変え、複数の膜厚と混合比のデータを取ることにしました。
具体的には、まず、基板に、ホール注入材料(HIM)とホール輸送材料(HTM)の混合比HTM/(HIM + HTM)及び膜厚を変えた薄膜を作成し、薄膜の吸収スペクトルの吸収端波長を求めました。又、ホール注入材料(HIM)とホール輸送材料(HTM)の混合比HTM/(HIM+HTM)を変えて、溶媒中に均一に溶解させ、その溶液の吸収スペクトルの吸収端波長を求めました。吸収スペクトルの吸収端波長λ(cm)とHOMO-LUMOのエネルギーギャップΔE(eV)との間には、ΔE(eV)=1.24×10−4/λという相関関係がありますので、その相関関係と実験で求めた吸収スペクトルの吸収端波長とから、HOMO-LUMOのエネルギーギャップと混合比HTM/(HIM + HTM)の関係を求めました。その関係を示したグラフが図1(a)です。
この図1(a)が示すとおり、薄膜の膜厚1〜5nmの範囲で曲線がほぼ重なるので、HOMO-LUMOのエネルギーギャップと膜厚の間にはあまり関係がありませんが、混合比HTM/(HIM + HTM)においては、B点(30%)を境にHOMO-LUMOのエネルギーギャップの変化が鈍化していることがわかります。つまり、B点が前述した「変曲点」となっています。
次に、図1(a)の変曲点B点とその前後のA点(20%)、C点(40%)を含む複数の混合比HTM/(HIM + HTM)の薄膜をそれぞれ、電極、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電極の積層構造を備えたEL素子のホール注入層とホール輸送層の間に形成することで、複数種類のEL素子を試作し、該EL素子の500cd/m2の明るさにおける電流効率と発光開始電圧を各EL素子毎に測定しました。測定結果として、図1(b)に該EL素子の各混合比HTM/(HIM + HTM)と500cd/m2の明るさにおける電流効率との関係、図1(c)に該EL素子の各混合比HTM/(HIM + HTM)と発光開始電圧との関係を示します。
図1(b),1(c)から、混合層全体に対するホール輸送材料の混合比HTM/(HIM + HTM)が変曲点Bのときに、電流効率が極大、発光開始電圧が極小となり、また、その変曲点B点の前後のA点(20%)〜C点(40%)の範囲、変曲点を示す混合比HTM/(HIM + HTM)±10%の範囲であれば、電流効率向上の効果を効率よく得ることができることもわかりました。また、これらの離散的なデータを結ぶことにより、図1(d)で説明するように、混合層は、HOMO-LUMOのエネルギーギャップが小さい方の層(ホール輸送層)を構成する物質(ホール輸送材料)の混合比HTM/(HIM + HTM)を3%にした場合におけるHOMO-LUMOのエネルギーギャップの変化率を100%とした時に、5〜10%の値の変化率となる混合比の範囲であれば、十分に効果があることが求められました。
また、図1(b),1(c)から、この電流効率向上効果と発光開始電圧低減効果は4nmよりも厚い膜厚ではほとんど効果がないが、少なくとも3nmまでは効果があることがわかりました。
同様に、ホール輸送層と発光層との間に混合層を設けた構造を試作し、ホール輸送材料HTMと発光ホスト材料EMMの混合比EMM/(HTM + EMM)とHOMO-LUMOのエネルギーギャップとの関係を求めることにより、変曲点B(20%)と前後の点(A点(10%)、C点(30%)を含む。)を複数求め、その後、各膜厚毎に電流効率と混合比EMM/(HTM + EMM)の関係及び発光開始電圧と混合比EMM/(HTM + EMM)の関係を求めました。図2(a)に、各膜厚ごとに、ホール輸送材料(HTM)と発光ホスト材料EMMの混合層における発光ホスト材料(EMM)の混合比EMM/(HTM + EMM)とHOMO-LUMOのエネルギーギャップとの関係、同図(b)に各膜厚毎の混合比EMM/(HTM + EMM)と電流効率の関係、同図(c)に各膜厚毎の混合比EMM/(HTM + EMM)と発光開始電圧の関係を示します。
図2(b)より、HOMO-LUMOのエネルギーギャップの変曲点Bの混合比EMM/(HTM + EMM)で混合層を形成すると注入効率の極大値を示し、膜厚が薄いほど電流効率向上効果が大きいという同じ傾向が見られ、A点〜C点の範囲の混合比EMM/(HTM + EMM)(10%〜30%)で電流効率に顕著な効果があることがわかりました。図2(c)より、発光開始電圧低減効果も同様の範囲であることがわかります。また、図2(b),2(c)のように、離散的なデータを結ぶことにより、混合層は、HOMO-LUMOのエネルギーギャップが小さい方の層(発光層)を構成する物質(発光ホスト材料)の混合比を3%にした場合におけるHOMO-LUMOのエネルギーギャップの変化率を100%とした時に、5〜10%の値の変化率となる混合比で効果があることが求められました。
また、この電流効率向上効果及び発光開始電圧低減効果は、図2(b),2(c)からわかるように、3nmではほとんど効果がありませんが、少なくとも2nmまでは効果があることがわかりました。
このように、ホール輸送材料HTMと発光ホスト材料EMMとの間に、A点〜C点の範囲(10〜30%)の混合比EMM/(HTM + EMM)で構成された膜厚2nm以下の混合層を形成することにより、電流効率の改善効果及び発光開始電圧の低減効果を最も効率よく得られます。
同様に、今度は、発光層と発光輸送層との間に混合層を設けた構造を試作し、各膜厚ごとに、発光材料EMMと電子輸送材料ETMとの混合層における電子輸送材料ETMの混合比ETM/(EMM + ETM)とHOMO-LUMOのエネルギーギャップの関係を求めることにより、HOMO-LUMOのエネルギーギャップの変曲点B(24%)と前後のA点(12%)、C点(36%)を求め、各膜厚ごとに、発光材料EMMと電子輸送材料ETMの混合層における電子輸送材料ETMの混合比ETM/(EMM + ETM)と電流効率の関係、発光ホスト材料EMMと電子輸送材料ETMの混合層における電子輸送材料ETMの混合比ETM/(EMM + ETM)と発光開始電圧の関係を求めました。図3(a)〜(c)にそれらを示します。
この場合も、HOMO-LUMOのエネルギーギャップの変曲点Bの混合比(24%)で混合層を形成すると電流効率の極大値と発光開始電圧の極小値を示す傾向が見られ、その前後のA点(12%)〜C点(36%)の混合比ETM/(EMM + ETM)では、電流効率向上と発光開始電圧低減の効果を顕著に得られることがわかりました。
また、図3(a)のように離散的なデータを結びグラフにしたことから、混合層は、HOMO-LUMOのエネルギーギャップが小さい方の層(電子輸送層)を構成する物質(電子輸送材料)の混合比を3%にした場合におけるHOMO-LUMOのエネルギーギャップの変化率を100%とした時に、5〜10%の値の変化率となる混合比で効果があることもわかりました。
また、混合層の膜厚は4nmではほとんど電流効率向上と発光開始電圧低減の効果がないが、3nmであれば効果があることもわかりました。
この実験結果から、発光ホスト材料EMMと電子輸送材料ETMの混合層における電子輸送材料ETMの混合比ETM/(EMM + ETM)を変曲点Bの混合比(24%)±12%、好ましくは±10%の範囲にし、膜厚を3nm以下にすることにより、電流効率の改善効果及び発光開始電圧の低減効果を最も効率よく得られることがわかりました。
これらの3種類の異なる層の間の混合層に対して行った実験結果から、HOMO-LUMOのエネルギーギャップと混合比の関係を求め、その混合層の陰極側の層の構成材料の混合比を変曲点B±10%の範囲の混合比の混合層、又は、HOMO-LUMOのエネルギーギャップが小さい方の層を構成する物質の混合比を3%にした場合におけるHOMO-LUMOのエネルギーギャップの変化率を100%とした時に、5〜10%の値に相当する変化率となる混合比の混合層、好ましくは、その混合層の膜厚を3nm以下、好ましくは、2nm以下にしたものを、EL素子内の隣接するいずれかの有機物層間に形成すれば、電流効率の改善効果及び発光開始電圧の低減効果を最も効率よく得られることがわかりました。
また、本発明者らは、上記実験中0.5nm〜5nmという有機物の薄膜を混合層として成膜しましたが、その成膜状態を観察したところ、凝集が発生しているものがありました。しかし、同じ膜厚の有機物層を成膜した場合でも凝集が発生しているものと発生していないものがありましたので、本発明者らは、この凝集の発生原因として下地となっている有機物層の表面状態に着目し、図4に示すように、下地膜の凹凸の大きさRmaxと混合層の膜厚が凝集に影響を与えているのかを確かめるべく、実験を試みました。
まず、単層膜と2層膜の凝集性について実験しました。その結果、2層膜の方が凝集性が小さいことがわかりました。さらに、2層膜の間に薄膜の混合層を設けたところ、2層膜より凝集性が小さいことがわかりました。なお、この理由は、混合層の方が2層の親和性が高く、相互作用が強くなるからであろうと考えられます。
さらに、よりEL素子構造に近い状態で確認するため、基板を用いて次のように実験を行いました。
まず、基板にホール注入層を蒸着し、AFM(Atomic Force Microscope, 原子間力顕微鏡)(ユニソク製USM-1200S型)で50μm×100μmの単位画素当り10箇所について、図4に示す凹凸の最大値(以下Rmaxと記す)を測定しましたところ、0.5nmでした。次に、Rmaxを観測した位置上に混合層を、膜厚が0.6Rmax、0.8Rmax、1.0Rmax、 2.0Rmax、3.0Rmaxとなるように蒸着し、更にホール輸送層を蒸着しました。この3層膜の半分にカバーをして、アトマイザーで純水を吹付後乾燥したときの状態を500倍の光学干渉顕微鏡で観察しました。最も凝集の大きいものは、膜が滴状に固まり基板が見える状態で、このレベルを凝集発生レベル5とし、アトマイザー処理前の初期の凝集が生じない状態を凝集発生レベル1として、レベル2〜4は数値が大きくなるほど凹凸のピッチが大きくなるような5段階の定性判定を行いました。その結果を図5に示します。
この実験結果から、混合層の膜厚を、混合比によらず、ホール注入層のホール輸送層に接する面の凹凸最大値Rmaxの1.5倍(1.5Rmax)以上にすれば凝集が発生しなくなることがわかりました。同様に、ホール輸送層の上に混合層、発光層を順に形成した場合の凝集発生レベルを図6に示し、発光層の上に混合層、電子輸送層を順に形成した場合の凝集発生レベルを図7に示します。ホール輸送層と発光層の間に混合層がある場合も、発光層と電子輸送層との間に混合層がある場合も、薄膜の混合層は膜厚1.5Rmax以上で凝集が発生しないことがわかりました。つまり、混合層の厚みは、混合比に関係なく、また、下地膜となる層がどの膜であっても、下地膜となる層と混合層のそれぞれの接する面の凹凸のRmaxの1.5倍以上にすれば、温度及び長時間駆動によるストレスから生じる凝集の発生を抑制できますので、長寿命化が可能になることがわかりました。また、有機層界面にキャリアが滞らなくなりますので、有機層の電気化学的変化(酸化・還元等)に伴う材料の変質を抑制できますので、長寿命化が可能になることがわかりました。
このように、本発明の一つは、陽極と、陰極と、陽極と陰極との間に挟まれた有機物層を備えた有機EL表示装置に関するものであり、特に、有機物層は第1〜第3の3層を含み、第2層は第1層の材料と第3層の材料との混合層で構成することにより、第1層と第3層との間のエネルギー障壁を低くするものです。また、本発明の他の一つは、その混合層を一定の範囲内の混合比と厚みにすることで、電流効率向上効果と発光開始電圧低減効果を効率良く得ることができるようにし、長寿命な有機EL表示装置を実現するものです。さらに、本発明の他の一つは、積層有機膜の下層の表面の凹凸とその上層の膜厚との関係を規定し、凝集の少ない均一な膜を実現した有機EL表示装置を実現しようとするものです。
この発明は、EL素子を搭載した基板の裏面に光を出射するボトムエミッション方式のアクティブマトリクス有機EL表示装置でも、ボトムエミッション方式とは逆方向に光を出射するトップエミッション方式のアクティブマトリクス有機EL表示装置でも適用可能ですが、以下、ボトムエミッション方式のアクティブマトリクス有機EL表示装置を例にして、上記発明を適用した具体例を説明します。
図12に有機EL表示装置の断面図を示します。
図12に示すとおり、この有機EL表示装置は、互いに対向配置するガラス基板である基板SUB1及びガラスで形成された封止基板である基板SUB2(CAP)と、それらを対向配置した状態で固定し、それらで囲まれた空間を封止するためのシール剤SLを備えています。基板SUB1は、その上に形成された下地膜GWと、電極間に電流が流れることにより発光するEL素子と、下地膜GWとEL素子との間に形成された個々のEL素子を駆動する画素回路と、画素回路に印加する電流や電圧を制御する周辺回路を備え、第2基板SUB2はガラス基板で構成され、第1基板SUB1との対向面に吸湿材DESを備えています。画素回路は、図示しませんが、電源線と、走査線と、この走査線に交差するデータ線と、走査線の走査信号によってデータ線(ドレイン線)のデータ信号を取り込む第1スイッチング素子と、取り込んだデータ信号を保持するコンデンサと、このコンデンサに保持された電位を基にして電源線からEL素子に流す電流又は同EL素子に印加する電圧を制御する第2のスイッチング素子とを含んでいます。
EL素子は、図8及び12に示す通り、基板SUB1側の陽極AD(画素電極PX)とSUB2側の陰極CDとの間に有機物層OLが挟まれた構造をしています。陽極ADと画素回路との間には絶縁膜ILI1及びILI2がSiNで形成され、陽極AD(画素電極PX)と画素回路との間は、その絶縁膜中のコンタクトホールを介して接続されています。陽極ADは200nmの厚みのITOで構成され、有機物層OLは陽極AD側から、ホール注入層HIL、混合層M1、ホール輸送層HTL、発光層OEL、電子輸送層ETLの5層で構成され、陰極は100nmの厚みのAlで構成されています。ホール注入層HILは、膜厚が100nmで、N,N’−ビス(N,N’−ジフェニル−4−アミノフェニル)−N,N−ジフェニル−4,4’−ジアミノ−1,1’−ビフェニルで構成され、AFM(ユニソク製USM-1200S型)でホール注入層HIL(単層)の50μm×100μmの単位画素当り10箇所の凹凸を測定したところ、表面の凹凸の最大値(Rmax)は0.5nmありました。混合層M1は、膜厚が0.75nmで、ホール注入材料HIMであるN,N’−ビス(N,N’−ジフェニル−4−アミノフェニル)−N,N−ジフェニル−4,4’−ジアミノ−1,1’−ビフェニルとホール輸送材料HTMである4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(以下α−NPDと記す)とが、70%:30%で混合された材料で構成されています。ホール輸送層HTLは、膜厚が50nmで、α−NPDで構成されています。発光層OELは、膜厚が100nmで、発光ホスト材料EMMのAlq3(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体)と発光ドーパント材料のクマリン誘導体を真空蒸着した膜で構成されています。電子輸送層ETLは、膜厚が50nmで、Alq3で構成されています。なお、Alと電子輸送層との間には、Liが島状に存在しています。
このEL素子は次の製造プロセスにより製造します。
(1)まず、ガラス基板である第1基板SUB1上に画素回路PICと周辺回路PECが形成されます。次に、画素回路PIC上にさらにSiNをCVDで形成し、さらに、各画素毎にコンタクトホールを形成します。
(2)次に、その第1基板SUB1をマグネトロンRFスパッタのチャンバに搬送し、ITOをSiN膜上に膜厚200nmとなるまでスパッタで成膜しました。
(3)その後、エッチャーのチャンバに搬送し、各画素PIX毎にアノード電極ADをパターニングしました。
(4)次に、酸素プラズマ装置(ニッシン製NP-DS100)で15秒処理して清浄し、蒸着マスクと共に真空チャンバー内に投入しました。このときの真空度は1×10-4〜1×10-5Paとし、有機物層OL形成から陰極形成まで保ちました。
(5)次に、ホール注入材料HIMのN,N’−ビス(N,N’−ジフェニル−4−アミノフェニル)−N,N−ジフェニル−4,4’−ジアミノ−1,1’−ビフェニルを真空加熱蒸着し、100nmのホール注入層HILを成膜しました。
(6)次に、ホール注入材料HIMのN,N’−ビス(N,N’−ジフェニル−4−アミノフェニル)−N,N−ジフェニル−4,4’−ジアミノ−1,1’−ビフェニルと、ホール輸送材料HTMの4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(以下α−NPDと記す)の混合比が7:3となるように、それぞれの蒸着レートを0.35×10−10m/s と0.15×10−10m/sとして真空加熱蒸着で成膜しました。
(7)次に、ホール輸送材料HTMのα−NPDを真空加熱蒸着し、50nmのホール輸送層HTLを成膜しました。
(8)次に、発光ホスト材料EMMのAlq3と発光ドーパント材料のクマリン誘導体をそれぞれ蒸着レートを1×10−10m/s と0.1×10−10m/sとして真空加熱蒸着し、100nmの発光層を成膜しました。
(9)次に、電子輸送材料ETMのAlq3を真空加熱蒸着し、50nmの電子輸送層ETLを形成しました。次に、LiFを10nm蒸着しました。このLiFは蒸着時のエネルギーで電子輸送材料と反応して、島状に一部が残るか、全部反応しきった状態になり、その界面に電子注入効果が付与されます。
(10)その後、Alを100nm蒸着して陰極CDを形成しました。
(11)最後に、真空チャンバーから取り出し、乾燥剤DESと共に封止シールして図12の構造を備えた有機EL表示装置としました。
<比較例1>
実施例1と材料・層構成・膜厚が共通で混合層の有無だけ異なるEL素子OLEを用いた有機EL表示装置を比較例として試作し、電流効率と発光開始電圧を測定しました。
<比較例1との対比>
比較表を表2に示します。実施例1は比較例1と比較して、500cd/m2における電流効率が10%高く、発光開始電圧が8%低いという結果になりました。このように、図1(a)の点A〜Cの混合比で混合層を成膜することにより、従来よりも電流効率と発光開始電圧を改善することができました。
また、両方の素子を130℃30分加熱し、500倍の干渉顕微鏡で表面観察を行うとともに、電流効率及び発光開始電圧を測定しました。また、さらに、加熱前後で物質的変化が生じたかどうかを、フォトルミネッセンス(PL)スペクトルで確認しました。表面観察及びPLスペクトルでも異常がありませんでしたので、この比較例と実施例1の違いは、加熱による凝集の発生の有無によるものとみなせます。従って、本実施例では、混合層の下地膜であるホール注入層の界面にある凹凸のRmaxの1.5倍以上の膜厚で混合層M1を形成したことにより、凝集抑制効果を得ることができたといえます。なお、下地膜の凹凸はその上に蒸着で混合層を設けるので、混合層の下面の凹凸にもなりますので、下地膜の凹凸のRmaxの1.5倍の厚みとは、混合層の下面の凹凸のRmaxの1.5倍の厚みともいうことができるのはいうまでもありません。
表2:実施例1と比較例1との比較表(比較例1の電流効率、発光電圧を100として比較する。)
加熱前 加熱後
電流効率 発光電圧 電流効率 発光電圧
比較例1 100 100 50 150
実施例1 110 92 110 93
実施例2のEL素子の断面図を図9に示します。
EL素子EL以外の有機EL表示装置の他の構成は実施例1と同じです。
図8のEL素子ELとの大きな相違点の一つは、ホール注入層HILとホール輸送層HTLとの間に混合層M1を設ける代わりに、発光層OELと電子輸送層ETLとの間に混合層M2を設けている点及び発光ホスト材料として4,4’−ビス(ジフェニルビニル)ビフェニルを用い、発光ドーパント材料のクマリン誘導体とともに蒸着レート1×10−10m/s と0.1×10−10m/sとして真空加熱蒸着し、100nmの発光層OELを形成している点です。つまり、本実施例の有機物層OLは陽極AD側から、ホール注入層HIL、ホール輸送層HTL、発光層OEL、混合層M2、電子輸送層ETLの5層で構成されています。ホール注入層HILは、膜厚が100nmで、N,N’−ビス(N,N’−ジフェニル−4−アミノフェニル)−N,N−ジフェニル−4,4’−ジアミノ−1,1’−ビフェニルで構成されています。ホール輸送層HTLは、膜厚が50nmで、α−NPDで構成されています。発光層OELは、膜厚100nmで、発光ホスト材料の4,4’−ビス(ジフェニルビニル)ビフェニルと発光ドーパント材料のクマリン誘導体を真空加熱蒸着した膜です。なお、AFMで50μm×100μmの単位画素当り10箇所の凹凸を測定したところ、最大値(Rmax)は0.8nmありました。混合層M2は、膜厚1.2nmで、図3(a)に示すA点〜C点の間の上記の発光ホスト材料と電子輸送材料Alq3の混合比、つまり、混合層又はその均一溶解液の吸収スペクトルの吸収端から算出したHOMO-LUMOのエネルギーギャップのグラフにおける変曲点Bの混合比(発光ホスト材料が76%、電子輸送材料が24%)で構成されています。電子輸送層ETLは、膜厚が50nmで、Alq3で構成されています。陰極CDは、膜厚が100nmで、Alで構成されています。Alと電子輸送層ETLとの間には、Liが島状に存在しています。
実施例1の製造プロセス(6)を省略し、製造プロセス(8)と(9)の間に、上記混合層M2の製造プロセスを追加することで製造しました。
<比較例2>
実施例2と材料・層構成・膜厚が共通で混合層M2の有無だけ異なるEL素子OLEを用いた有機EL表示装置を比較例2として試作し、電流効率と発光開始電圧を測定しました。なお、比較例1とは発光層のホスト材料が異なっています。
<実施例2と比較例2との比較>
実施例2と混合層M2を形成しなかった比較例2を比較したところ、実施例2の方が、500cd/m2における電流効率が8%高く、電圧が5%低い結果となりました。つまり、図3(a)のA点〜C点の混合比で混合層を成膜することにより、従来よりも電流効率と発光開始電圧を改善することができました。
また、両方の素子を130℃30分加熱した後、加熱前後で物質的変化が生じたかどうかを、表面観察及びフォトルミネッセンス(PL)スペクトルで確認しました。表面観察及びPLスペクトルでも異常がありませんでしたので、この比較例2と実施例2の加熱前後の違いは、加熱による凝集の発生の有無によるものとみなせます。従って、本実施例では、混合層の下地膜であるホール輸送層の界面にある凹凸のRmaxの1.5倍以上の膜厚で混合層M2を形成したことにより、凝集抑制効果を得ることができたといえます。
表3:実施例2と比較例2の比較表(比較例2の電流効率、発光電圧を100として比較する。)
加熱前 加熱後
電流効率 電圧 電流効率 電圧
比較例 100 100 60 140
実施例2 108 95 109 95
実施例3のEL素子の断面図を図10に示します。
EL素子OLE以外の有機EL表示装置の他の構成は実施例2と同じです。
実施例2のEL素子OLEとの大きな相違点の一つは、発光層OELと電子輸送層ETLとの間にも混合層M2を設けるだけでなく、ホール注入層HILとホール輸送層HTLとの間に混合層M1を設けている点です。実施例2で省略した実施例1の製造プロセス(6)に相当するプロセスを追加することで製造しました。
また、混合層M1の下地膜となるホール注入層(単層)の50μm×100μmの単位画素当り10箇所の凹凸を測定したところ、最大値(Rmax)は0.5nmあり、混合層M2の下地膜となる発光層(単層)の50μm×100μmの単位画素当り10箇所の凹凸を測定したところ、最大値(Rmax)は0.8nmありました。
実施例3と比較例2を比較したところ、実施例3の方が500cd/m2における電流効率が15%高く、電圧が10%低い結果になりました。つまり、図1(a)及び3(a)のA点〜C点の混合比で混合層を成膜することにより、従来よりも電流効率と発光開始電圧を改善することができました。
また、両方の素子を130℃30分加熱し、500倍の干渉顕微鏡で表面観察を行うとともに、電流効率及び発光開始電圧を測定しました。また、さらに、加熱前後で物質的変化が生じたかどうかを、フォトルミネッセンス(PL)スペクトルで確認しました。表面観察及びPLスペクトルでも異常がありませんでしたので、この比較例2と実施例3の加熱前後の違いは、加熱による凝集の発生の有無によるものとみなせます。従って、本実施例では、混合層M1の下地膜であるホール輸送層HTLの界面にある凹凸のRmaxの1.5倍以上の膜厚で混合層M1及びM2を形成したことにより、凝集抑制効果を得ることができたといえます。
表4:実施例3と比較例2の比較表
加熱前 加熱後
電流効率 電圧 電流効率 電圧
比較例2 100 100 60 140
実施例3 115 90 115 90
実施例4のEL素子の断面図を図11に示します。
EL素子以外の有機EL表示装置の他の構成は実施例3と同じです。
実施例3のEL素子との大きな相違点は、ホール注入層HILとホール輸送層HTLとの間の混合層M1、及び発光層OELと電子輸送層ETLとの間に混合層M2を設けただけでなく、発光層OELとホール輸送層HTLとの間にも混合層M3を設けている点です。実施例3の製造プロセスで、発光層OELを形成後、発光ホスト材料の混合比が20%になるように、電子輸送材料と発光ホスト材料の蒸着レートをそれぞれ0.4x10−10m/s と0.1x10−10m/sとして混合層M3を成膜するプロセスを加えることで製造しました。なお、ホール輸送層HTLをAFMで測定したところ、ホール輸送層のRmaxは0.6 nmあり、混合層M3は、ホール輸送層HTLのRmaxの1.5倍の膜厚である0.9nmありました。
実施例4と比較例2を比較したところ、500cd/m2における電流効率が20%高く、電圧が15%低いという結果が得られました。つまり、図1(a)〜3(a)のA点〜C点の混合比で混合層を成膜することにより、従来よりも電流効率と発光開始電圧が改善させることができました。
また、両方の素子を130℃30分加熱し、500倍の干渉顕微鏡で表面観察を行うとともに、電流効率及び発光開始電圧を測定しました。また、さらに、加熱前後で物質的変化が生じたかどうかを、フォトルミネッセンス(PL)スペクトルで確認しました。表面観察及びPLスペクトルでも異常がありませんでしたので、この比較例2と実施例4の加熱前後の違いは、加熱による凝集の発生の有無によるものとみなせます。本実施例では、混合層M1乃至M3の下地膜の凹凸のRmaxの1.5倍以上の膜厚で各混合層を形成したことにより、凝集抑制効果を得ることができたといえます。
表5:実施例4と比較例の比較表
加熱前 加熱後
電流効率 電圧 電流効率 電圧
比較例2 100 100 60 140
実施例4 120 85 119 85
<各実施例共通事項>
実施例1〜4で記述した材料以外で、下記の材料の組合せも適用可能です。
(1)ホール注入材料HIMとして、銅フタロシアニン(CuPc)などのポルフィリン系、ポリイミドなどの絶縁体高分子化合物、アルミナ超薄膜などでも同様の効果が得られます。
(2)ホール輸送材料HTMとして、4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)−ビフェニル(TAD)などの芳香族アミン系とその誘導体、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニル−アミノ]−トリフェニルアミン(MTDATA)などのスターバースト型芳香族アミン化合物などでも同様の効果が得らます。
(3)発光ホスト材料として、トリス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(以下Almqと記す)などのキノリン系金属錯体、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]−キノリナト)ベリリウム(以下BeBqと記す)などのベンゾキノリン系金属錯体、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−(4−ヒドロキシ−ビフェニリル)−アルミニウム(BAlq)などの混合配位子錯体などでも同様の効果が得られます。
(4)発光ドーパント材料として赤色のキナクリドン、青色の4,4’−ビス(2,2−ジフェニル−ビニル)−ビフェニル(DPVBi)などでも同様の効果が得らます。
(5)電子輸送材料ETMとして、Almqなどのキノリン系金属錯体、BeBqなどのベンゾキノリン系金属錯体、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)−ベンゾオキサゾラト]亜鉛(Zn(BOX)2)などのオキサゾール系金属錯体、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)−ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ)2)などのチアゾール系金属錯体などでも同様の効果が得られます。
(6)陰極CDとして、Al-Li合金、Li、Mg-Ag合金などでも同様の効果が得られます。
ホール注入材料(HIM)とホール輸送材料(HTM)の混合層の特性において、混合比とHOMO-LUMOのエネルギーギャップの関係を示すグラフである。
ホール注入材料(HIM)とホール輸送材料(HTM)の混合層の特性において、混合比と電流効率の関係を示すグラフである。
ホール注入材料(HIM)とホール輸送材料(HTM)の混合層の特性において、混合比と発光開始電圧の関係を示すグラフである。
ホール注入材料(HIM)とホール輸送材料(HTM)の混合層の特性において、HOMO-LUMOのエネルギーギャップの変化率を説明するグラフである。
ホール輸送材料(HTM)と発光ホスト材料(EMM)の混合層の特性において、混合比とHOMO-LUMOのエネルギーギャップの関係を示すグラフである。
ホール輸送材料(HTM)と発光ホスト材料(EMM)の混合層の特性において、混合比と電流効率の関係を示すグラフである。
ホール輸送材料(HTM)と発光ホスト材料(EMM)の混合層の特性において、混合比と発光開始電圧の関係を示すグラフである。
電子輸送材料(ETM)と発光ホスト材料(EMM)の混合層の特性において、混合比とHOMO-LUMOのエネルギーギャップの関係を示すグラフである。
電子輸送材料(ETM)と発光ホスト材料(EMM)の混合層の特性において、混合比と電流効率の関係を示すグラフである。
電子輸送材料(ETM)と発光ホスト材料(EMM)の混合層の特性において、混合比と発光開始電圧の関係を示すグラフである。
混合層に隣接する層の拡大断面図である。
ホール注入材料(HIM)とホール輸送材料(HTM)の混合層膜厚と凝集レベルの関係を示すグラフである。
ホール輸送材料(HTM)と発光ホスト材料(EMM)の混合層膜厚と凝集レベルの関係を示すグラフである。
発光ホスト材料(EMM)と電子輸送材料(ETM)の混合層膜厚と凝集レベルの関係を示すグラフである。
実施例1のEL素子断面図を示す。
実施例2のEL素子断面図を示す。
実施例3のEL素子断面図を示す
実施例4のEL素子断面図を示す。
ボトムエミッション方式のアクティブ有機EL表示装置の断面図を示す。
符号の説明
SUB1…TFT基板、SUB2…封止基板、AD…陽極、HIL…ホール注入層、HTL…ホール輸送層、OLE…発光層、ETL…電子輸送層、CD…陰極、M1、M2、M3…混合層