JP2007099737A - 神経細胞の酸化的損傷のマーカー及びその利用 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】神経細胞における酸化的損傷マーカー化合物として以下の式(1)で表される化合物を用いる。
(式(1)中、Rは、ヘキサノイル基、グルタロイル基、プロパノイル基又はスクシニル基を表す。)
【選択図】なし
Description
Lipids 26, 421(1991) J. Med. Chem. 1997,40,2211-2216 「現代の食品化学」三共出版 並木満夫
本発明の神経細胞の酸化的損傷マーカー化合物は、上記式(1)で表される。上記式(1)中、Rがヘキサノイル基であるマーカー化合物I及びRがグルタロイル基であるマーカー化合物IIは、いずれもAA由来のヒドロペルオキシドとドーパミンとの反応生成物であると考えられる。アラキドン酸とこれらの化合物I、IIとの関係を図1に示す。マーカー化合物Iは、AAの非カルボキシ末端由来であり、マーカー化合物IIは、AAのカルボキシル末端由来であると考えられる。これらのマーカー化合物I、IIはAAの酸化、AA含有量の低下、AAによるドーパミン含有量の低下など、神経細胞におけるAAに関連する各種の酸化的損傷を検出するのに有用である。
本発明の検査方法は、動物から採取される被験試料を検査対象としている。本明細書において、動物とは、ヒトの他、ヒト以外の異種の温血動物が挙げられ、例えば、マウス、ハムスター、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ニワトリが挙げられる。また、被験試料は、動物から採取される血液、血漿、血清、尿、脊髄液、脳髄液などの液体試料が挙げられるが、好ましくは、脊髄液、脳髄液である。また、被験試料としては、動物の神経組織等から採取される細胞や組織等の固形試料が挙げられる。細胞や組織などの固形試料に対しては免疫組織化学染色法により、細胞内又は組織におけるドーパミン修飾体の局在を検出することができる。組織やこうした被験試料は、その種類及び必要に応じて適宜前処理がなされる。
本発明の抗体は、上記式(1)で表されるマーカー化合物I〜IVから選択されるいずれかのマーカー化合物を特異的に認識する抗体である。本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。
こうしたマーカー化合物に対する抗体作製方法について説明する。
(1)抗原の調製
本発明の抗体を作製するための抗原としては、マーカー化合物とタンパク質などの適当なキャリアとを結合させた結合体を用いることが好ましい。キャリアタンパク質としては、従来公知のキャリアタンパク質が用いられるが、なかでもウシ血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン、リポプロテイン、ヘモシアニンなどが好ましく用いられる。より好ましくは、カギアナカサガイのヘモシアニン(KLH)である。こうしたキャリアタンパク質は、商業的に容易に入手可能である。なお、キャリアとしては、ポリアミノ酸、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリビニルなどの重合体又は共重合体等の合成高分子を用いることができる。
こうして調製した抗原で温血動物を免疫し、最終的に、目的とする抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングし、このハイブリドーマの産生する抗体を精製することにより本発明の抗体を得ることができる。温血動物としては、特に、限定しないで、マウス、ハムスター、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ニワトリ等を用いることができる。ハイブリドーマとして用いる細胞が限定されている場合、当該ミエローマの由来動物と同一の動物を用いることが好ましく、通常用いられるミエローマはマウス由来であることから、温血動物としてはマウスを用いることが好ましい。
例えば、本検査方法における本測定工程と、本測定工程の測定結果に基づいて動物の神経細胞の老化程度を判定する判定工程と、を備える検査方法が提供される。本発明者らによれば、こうした神経細胞における各種態様の酸化的損傷の程度(マーカー化合物の量)は神経細胞の老化程度に関連していると考えられる。すなわち、マーカー化合物の量が多ければより老化が進行しているといえるからである。老化程度の判定にあたっては、例えば、ヒトなど被験動物の年齢若しくは年代とマーカー量との関係を予め取得しておき、被験試料から検出されたマーカー化合物量と被験動物の年齢に相当するマーカー化合物量とを対比することで老化がより進行しているか、あるいは老化の進行が遅いかを判定できる。また、例えば、被験動物について定期的にマーカー化合物量を測定することで、神経細胞において老化の進行があったかどうか等を判定できる。さらに、被験動物個体の神経細胞の老化程度を判定することにより、酸化的損傷の生じている生理的状態を改善し又は予防するアンチエージング的な措置や治療が可能となる。
本発明の神経細胞における酸化的損傷を抑制又は促進する化合物のスクリーニング方法は、非ヒト動物に1種又は2種以上の試験化合物を投与する工程と、前記試験化合物を投与した前記非ヒト動物から採取される被験試料中のマーカー化合物I〜IVから選択されるいずれかの化合物の量を測定する工程と、を備えている。このスクリーニング方法によれば、非ヒト動物に試験化合物を投与したとき、マーカー化合物I〜IV量の増大又は減少を検出することができる。このため、試験化合物が神経細胞の酸化的損傷を促進するのか抑制するのかを評価することができる。この結果、本発明のスクリーニング方法によれば、神経細胞の酸化的損傷に調節(抑制又は促進)する化合物をスクリーニングすることができる。
本発明の測定キットは、本発明のマーカー化合物を特異的に認識する抗体を含んでいる。このため、被験試料中のマーカー化合物を簡便に測定することができる。本測定キットは、さらに、測定法に応じて、標識された二次抗体もしくは標識されたマーカー化合物ハプテン(抗原)、緩衝液、検出試薬および/またはマーカー化合物標準溶液等を含む。好ましいキットは、ELISA法に用いられうるものであり、固相化抗原を保持する担体、本発明の抗体、酵素標識された二次抗体および検出試薬などを含むことができる。
本発明の固定化体は、固相担体と、該固相担体に固定化される本発明の抗体とを備えている。固相担体は、基板状、ビーズ状等特に形態を限定しないし、その材質も、ガラス、セラミックス、プラスチック、金属など従来公知の材料を用いることができる。さらに、多孔質であっても緻密質であってもよい。本発明の抗体の固相担体への固定化形態は特に限定しないで共有結合、静電的結合など、抗体などのタンパク質を固相に保持できる従来公知の手法で固定化されていればよい。本発明の固定化体は、本発明の抗体を、基板状の固相担体上に他の抗体とともに予め位置情報を伴って固定化されていることが好ましい。こうした本発明の固定化体は、複数個の抗体が一つの基板状の固相担体に固定化された抗体チップの形態を採ることができる。
(実施例1)
本実施例は、本発明のマーカー化合物であるヘキサノイルドーパミン(HED:下式(6))、グルタロイルドーパミン(GLD:下式(7))、プロパノイルドーパミン(PRD:下式(8))及びスクシニルドーパミン(SUD:下式(9))をそれぞれ合成した。
ドーパミン63.9mg(0.337mmol)と無水ヘキサノイル酸72.3mg(0.337mmol)をDMF・リン酸塩緩衝液(pH7.4)混液(1:1)4.4mlに加えた後、スターラーを用いて室温で4時間反応させた。この反応液をLC/MS/MSを用いて分離し、分子量の確認を行った(m/z252.2→137.2)。また、1H−NMRおよび13C−NMRを用いて構造を決定した。結果を表1に示す。
ドーパミン95mg(0.5mmol)をリン酸塩緩衝液(pH7.4)・飽和酢酸ナトリウム水溶液混液(1:1)5mlに加えた後、少量のピリジンに溶かした無水グルタル酸57mg(0.5mmol)を1滴/秒で加えた。そして、スターラーを用いて室温で1時間反応させた。この反応液にメタノールを加えてエヴァポレーターを用いてピリジンをとばした後、HPLCを用いて分取した。さらに、分取物について、LC/MS/MSを用いて分子量の確認を行った(m/z268.2→137.2)。また、1H−NMRおよび13C−NMRを用いて構造を決定した。結果を表2に示す。
ドーパミン95mg(0.5mmol)をリン酸塩緩衝液(pH7.4)・飽和酢酸ナトリウム水溶液混液(1:1)5mlに加えた後、少量のピリジンに溶かした無水プロピオン酸65mg(0.5mmol)を1滴/秒で加えた。そして、スターラーを用いて室温で1時間反応させた。この反応液にメタノールを加えてエヴァポレーターを用いてピリジンをとばした後、HPLCを用いて分取した。さらに、分取物について、LC/MS/MSを用いて分子量の確認を行った(m/z210.1→137.2)。また、1H−NMRおよび13C−NMRを用いて構造を決定した。結果を表3に示す。
ドーパミン95mg(0.5mmol)をリン酸塩緩衝液(pH7.4)・飽和酢酸ナトリウム水溶液混液(1:1)5mlに加えた後、少量のピリジンに溶かした無水コハク酸49mg(0.5mmol)を1滴/秒で加えた。そして、スターラーを用いて室温で1時間反応させた。この反応液にメタノールを加えてエヴァポレーターを用いてピリジンをとばした後、HPLCを用いて分取した。さらに、分取物について、LC/MS/MSを用いて分子量の確認を行った(m/z254.1→137.2)。また、1H−NMRおよび13C−NMRを用いて構造を決定した。結果を表4に示す。
[HED, GLDのLC-MS/MS条件]
カラム:Develosil ODS-HG-3 (2 φ×50 mm)
移動相:A;100% H2O / 0.1% HCOOH
B;100%CH3CN / 0.1% HCOOH
流速 :0.2 ml /min
イオン源:Turbo Spray Ionization positive(スプレーイオン化法)
グラジエントプログラム
グラジエントプログラム及びフラグメント検出のための設定以外はHED等の同定のためのLC−MS/MS条件と同様とした。
グラジエントプログラム
(インビトロにおけるマーカー化合物の生成反応)
本実施例では、各種マーカー化合物が脂質ヒドロペルオキシドとドーパミンから生成されるかどうかをインビトロで確認した。なお、LC/MS/MS条件は、実施例1におけるのと同様の条件を用いた。
(1)HED
HEDはアラキドン酸を含むω−6系の多価不飽和脂肪酸から生成するため、ω−6系のリノール酸由来の脂質ヒドロペルオキシドである13−hydroperoxyoctadecadienoicacid(13−HPODE)を用いた。終濃度10mM13−HPODEおよび2mMドーパミンとなるようにリン酸塩緩衝液(pH7.4)中において37℃で反応させ、−80℃で反応停止とした。反応液について、LC/MS/MSを行ったところ、HEDを検出できた。
100mMアラキドン酸100μl、リポキシゲナーゼ0.8mg、ホウ酸緩衝液(pH9.0)11mgを混合した後、酸素を吹き付けながら30分間攪拌をした。1NHClを加えることによってpH4.0以下にした後、クロロホルム・メタノール混液(1:1)20mlで抽出し、クロロホルム層を回収し、脱水して乾固した。これに100μlエタノールで再溶解し、100mMアラキドン酸ヒドロペルオキシド画分とした。
反応は、終濃度10mMDHAおよび2mMドーパミンとなるようにリン酸塩緩衝液(pH7.4)中において37℃で反応させ、−80℃で反応停止とした。反応液について、LC/MS/MSを行ったところ、PRDを検出できた。
反応は、終濃度10mMDHAおよび2mMドーパミンとなるようにリン酸塩緩衝液(pH7.4)中において37℃で反応させ、−80℃で反応停止とした。反応液について、LC/MS/MSを行ったところ、SUDを検出できた。
本実施例では、ラット脳中における各種マーカー化合物の存在を確認した。
(試料調製)
6週齢のwister ratの雌を用いた。脳を摘出し、全脳の半分をホモジネート用とした。ホモジネート用の脳を、その湿重量に対して4倍量の抽出液(メタノール:5mMBHT:250mMEDTA混液(体積比で90:5:5)に加えた後、ホモジネートを行い、メタノール層を回収した。メタノールを留去して乾固させ、乾固物を再びメタノールで再溶解させた。これをHPLCによりマーカー化合物の検出時間付近を分取したのち、分取した画分を乾固して再びメタノールで再溶解させたものをLC/MS/MSを用いてマーカー化合物の有無を分析した。結果を図5に示す。
カラム:Develosil ODS-HG-5 (4.6 φ × 250 mm)
移動相:A;100% H2O / 0.01% CH3COOH
B;100% CH3CN / 0.01% CH3COOH
流速 :0.8 ml /min
検出器(UV):280 nm
グランジエントプログラム
本実施例では、各種マーカー化合物のアポトーシス誘導活性について評価した。
評価には、ヒト神経芽細胞腫由来培養細胞株(SH−SY5Y細胞)を用いた。おおよそ5×105cells/ウェルになるように6ウェルフラスコに細胞を播き、一晩インキュベーター(37℃、5%CO2)に入れて培養した後、それぞれのマーカー化合物を含んだ培地に交換した。それぞれの培地はマーカー化合物濃度が終濃度で100μMになるように調製した。24時間後に核染色を行うことにより細胞毒性評価した。核染色にはPropidiumIodide(PI)とHoechst33258,pentahydrate(bis−benzimide)を用いた。PIでは死細胞を評価し、Hoechstでは死細胞と生細胞の両方を評価した。そこで、PI/Hoechstを求めることにより細胞毒性評価した。評価方法は顕微鏡で観察することにより行い、それぞれ試薬で染色させた細胞数をカウントすることで評価した。なお、DMSO及びDAをマーカー化合物に替えて添加したもの及び無添加の培地で同様に評価した。結果を図8に示す。
Claims (16)
- 以下の式(1)で表される、神経細胞における酸化的損傷マーカー化合物。
- 前記式(1)中、Rは、ヘキサノイル基又はグルタロイル基で表される、請求項1に記載の酸化的損傷マーカー化合物。
- 前記式(1)中、Rは、プロパノイル基又はスクシニル基で表される、請求項1に記載の酸化的損傷マーカー化合物。
- 前記式(1)中、Rはヘキサノイル基又はプロパノイル基で表される、請求項1に記載の酸化的損傷マーカー化合物。
- 神経細胞における酸化的損傷の検査方法であって、
動物から採取される被験試料中の請求項1〜4のいずれかに記載の酸化的損傷マーカー化合物の量を測定する工程を備える、検査方法。 - 前記測定工程における前記被験試料は、脊髄液又は脳髄液である、請求項5に記載の検査方法。
- 前記測定工程は、前記酸化的損傷マーカー化合物を特異的に認識する抗体を用いる工程である、請求項5又は6に記載の検査方法。
- 前記測定工程は、ELISA法によって実施する、請求項7に記載の検査方法。
- 神経細胞の老化程度の検査方法であって、
動物から採取される被験試料中の請求項1〜4のいずれかに記載の酸化的損傷マーカー化合物の量を測定する工程と、
前記測定工程の測定結果に基づいて前記動物の神経細胞の老化程度を判定する工程を備える、検査方法。 - 神経細胞の酸化的損傷に関連する疾患に関する診断方法であって、
動物から採取される被験試料中の請求項1〜4のいずれかに記載の酸化的損傷マーカー化合物の量を測定する工程と、
前記測定工程の測定結果に基づいて前記動物の前記疾患の発症リスク、前記疾患に罹患しているかどうか及び前記疾患の進行程度のいずれかを診断する診断工程と、
を備える、診断方法。 - 前記疾患は、神経変性疾患である、請求項10に記載の診断方法。
- 以下の式(1)で表される化合物から選択されるいずれかの化合物を特異的に認識する抗体。
- 以下の式(2)及び(3)で表される化合物から選択される、請求項12に記載の抗体を作製するための化合物。
- 以下の式(4)及び(5)で表される化合物から選択される、請求項12に記載の抗体を作製するための抗原用化合物。
- 神経細胞における酸化的損傷を抑制する化合物のスクリーニング方法であって、
非ヒト動物に1種又は2種以上の試験化合物を投与する工程と、
前記試験化合物を投与した前記非ヒト動物から採取される被験試料中の請求項1〜4のいずれかに記載の神経細胞の酸化的損傷マーカー化合物の量を測定する工程と、
を備える、スクリーニング方法。 - 神経細胞における酸化的損傷を抑制する食品のスクリーニング方法であって、
非ヒト動物に1種又は2種以上の食品を投与する工程と、
前記食品を投与した前記非ヒト動物から採取される被験試料中の請求項1〜4のいずれかに記載の神経細胞の酸化的損傷マーカー化合物の量を測定する工程と、
を備える、スクリーニング方法。
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