JP2007098939A - レーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物およびレーザーマーキングが施されたポリアミド樹脂成形体 - Google Patents

レーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物およびレーザーマーキングが施されたポリアミド樹脂成形体 Download PDF

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Abstract

【課題】ポリアミド樹脂本来の成形性、機械物性、熱安定性、耐熱性、電気特性などの特徴を維持しつつ、且つ難燃性とレーザーマーキング性に優れた、ポリアミド樹脂組成物、及びこれを成形してなるレーザーマーキング用樹脂成形体を提供する。
【解決手段】レーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂100重量部に対し、ハロゲン含有有機化合物および/またはアンチモン化合物を0.1〜100重量部の割合で含有して成り、ポリアミド樹脂成形体にしてレーザー照射によるレーザーマーキングを施した際、マーキング色調がレーザー未照射部分のポリアミド樹脂成形体表面の色調より暗色であることを特徴とするレーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物。
【選択図】なし

Description

本発明はレーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物およびレーザーマーキングが施されたポリアミド樹脂成形体に関する。ここで、レーザーマーキングとは、表面にレーザー光を照射し、鮮明な文字、記号、図形などのマークを施す技術である。
ポリアミド樹脂は、その優れた成形性、機械物性、熱安定性、耐熱性、電気特性などの特徴を活かし、樹脂成形体として、例えば、自動車部品、電気・電子部品、各種機構部品など種々の用途に広く使用されている。また、各種用途に応じ、その樹脂成形体表面には、文字、記号、模様、絵などのマーキングが施されていることが一般的である。その方法としては、タンポ印刷、シルク印刷などの記録方法の他、予め、必要な文字、記号、模様、絵などが印刷されたシールを貼付する方法が知られている。
上述の記録方法は、記録液の飛散による印刷不良、凹凸部への印刷や微細文字の印字が困難である等の問題があり、また、シールを貼付する方法も成形品表面が平滑である必要がある等の制約がある。そこで、近年、この様な問題を解決する手段として方法として、ポリエステル系樹脂成形品を中心としてレーザーマーキングが注目を浴びている。
レーザーマーキングは、表面の性状によらず、再現性良く、高速でマーキングが行なえる技術であり、極めて有用な方法である。但し、レーザーマ−キングは、必ずしも全ての樹脂単体に対して適用できる技術ではなく、一般的に樹脂自身や各種添加剤の改良によるレーザーマーキング性の改良が提案されている。そして、従来から、レーザーマーキング用樹脂組成物としては、前述の通り、主としてポリエステル樹脂についての検討がなされてきた。
例えば、レーザーマーキングの先行技術について方法別に見ると、例えば、以下の(A)〜(D)の様な方法があり、様々な改良方法が提案されている。
(A)素材樹脂の発泡による樹脂成形体の表面変化を利用する方法(特許文献1)
(B)レーザー照射部の顔・染料などの脱色、変色を利用する方法(特許文献2及び3)
(C)レーザー照射による樹脂成形体表面の蝕刻を利用する方法(特許文献4及び5)
(D)レーザー照射部の炭化などの変化を利用する方法(特許文献6)
また、近年、ポリアミド樹脂についてもレーザーマーキング性の改良方法が種々提案されている(特許文献7及び8)。
特公平2−47314号公報 特表2001−505233号公報 特公昭56−144995号公報 特公昭61−11771号公報 特開平4−246456号公報 特開平05−96386号公報 特開平10−067862号公報 特開平11−228813号公報
ところで、上述の(D)の技術では、レーザーマーキング用樹脂組成物の限界酸素指数が高いもの程、鮮明なレーザーマーキングを施すことが出来るとされている(特許文献6)。これは次の様な技術思想に基づくものと考えられる。すなわち、限界酸素指数は物質の燃焼雰囲気中における酸素の割合であり、空気中の酸素の割合は約21%であるため、限界酸素指数が21%より高い値を示す物質は、燃え難くて炭化し易いため、レーザーマーキング性が良好となる。
一方、ポリアミド樹脂、特に、ポリアミド6やポリアミド66を代表とする脂肪族ポリアミド樹脂は、元来、高い吸湿性を示し、通常の大気中では吸湿した状態となっているため、吸湿したポリアミド樹脂そのものでも限界酸素指数が22%を超える。しかし、絶乾状態のポリアミド樹脂は勿論、吸水させて限界酸素指数が22%を超える状態にしたポリアミド樹脂や、限界酸素指数が30を超える、シアヌル酸メラミン等の難燃剤を含むポリアミド樹脂組成物でさえも、鮮明なレーザーマーキング性を得ることは出来ないという問題があった。
ポリアミド樹脂に無水硼酸を配合する方法(特許文献7)は、酸に極めて弱いポリアミド樹脂の分解を促進し、ポリアミド樹脂が本来有する、優れた機械物性、熱安定性などを著しく損なうという問題がある。また、ポリアミド樹脂にカーボンブラック及び/又はチタンブラックと共に赤リンを配合する方法(特許文献8)は、ポリアミド樹脂組成物の色調が暗色系(暗色〜黒色)の色調に制約されるという問題がある。
なお、ポリアミド樹脂に関する上記の先行技術(特許文献7及び8)には、ポリアミド樹脂にリン系難燃剤と共に三酸化アンチモンを配合することも提案されているが、ポリアミド樹脂組成物のレーザーマーキング性と三酸化アンチモン等の難燃剤との関連については何らの記載も示唆もない。
本発明の目的は、ポリアミド樹脂の本来の成形性、機械物性、熱安定性、耐熱性、電気特性などの特徴を維持しつつ、且つ難燃性とレーザーマーキング性に優れた、ポリアミド樹脂組成物、および、これを成形して成るレーザーマーキング用樹脂成形体を提供することにある。
本発明者らは、鋭意検討した結果、意外にも、ハロゲン含有有機化合物および/またはアンチモン化合物を特定量で含有するポリアミド樹脂組成物により、上記の目的を達成し得るとの知見を得た。そして、更に、このポリアミド樹脂組成物は、レーザーマーキング用途において常用されるカーボンブラック等の着色剤を配合しなくても、良好なレーザーマーキングが可能であり、幅広い色調の樹脂成形品に対応可能なレーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物となり得るとの知見を得た。
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その第1の要旨は、レーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂100重量部に対し、ハロゲン含有有機化合物および/またはアンチモン化合物を0.1〜100重量部の割合で含有して成り、ポリアミド樹脂成形体にしてレーザーマーキングを施した際、マーキング色調がレーザー未照射部分のポリアミド樹脂成形体表面の色調より暗色であることを特徴とするレーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物に存する。そして、本発明の第2の要旨は、上記のレーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物を成形して成るポリアミド樹脂成形体であって、レーザー照射によるレーザーマーキングが施されていることを特徴とするポリアミド樹脂成形体に存する。
本発明によれば、ポリアミド樹脂の本来の成形性、機械物性、熱安定性、耐熱性、電気特性などの特徴を維持しつつ、且つ難燃性とレーザーマーキング性に優れた、ポリアミド樹脂組成物、および、これを成形して成るレーザーマーキング用樹脂成形体を提供することが出来る。しかも、本発明のポリアミド樹脂組成物は、カーボンブラック等の着色剤が必須ではないため、幅広い色調に対応可能である。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で使用するポリアミド樹脂としては、3員環以上のラクタム、重合可能なω−アミノ酸または二塩基酸とジアミン等の重縮合によって得られるポリアミドが挙げられる。具体的には、ε−カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、9−アミノノナン酸、α−ピロリドン、α−ピペリドン等の重合体;ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン等のジアミンと、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二塩基酸、グルタール酸などのジカルボン酸と重縮合して得られる重合体またはこれらの共重合体が挙げられる。例えば、ナイロン4、6、7、8、11、12、6・6、6・9、6・10、6・11、6・12、6T、6/6・6、6/12、6/6T、6T/6I、MXD6等が挙げられる。これらのポリアミド樹脂は、複数、任意の割合で混合して使用してもよく、また、ポリアミド樹脂の末端は、分子量調節も兼ねてカルボン酸またはアミン化合物で封止されていてもよい。
上記のポリアミド樹脂の中では、レーザーマーキング性、機械的強度、成形性、電気特性(耐トラッキング性、耐アーク性、アーク放電後の絶縁性)の点から、ポリアミド6又はポリアミド66を主構成単位とした脂肪族ポリアミド樹脂が好ましい。斯かる脂肪族ポリアミド樹脂の具体例としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6/66、ポリアミド66/6の共重合体などが挙げられる。
本発明で使用するポリアミド樹脂の重合度(粘度)は、適宜選択し得るが、粘度が低すぎると、機械的強度や靭性が低下して使用上問題が生ずる場合があり、逆に高すぎると、レーザーマーキング性が低下し、更には薄肉成形品の製造が困難となる場合がある。斯かる観点から、ポリアミド樹脂の粘度は、96重量%硫酸中、濃度1重量%、温度23℃でとした際の測定粘度として、通常70〜190ml/g、好ましくは72〜150ml/gである。
本発明で使用するハロゲン含有有機化合物は、分子中にハロゲンを含有している有機化合物であれば特に制限されず従来公知の任意のものを使用することが出来る。ハロゲン含有有機化合物の具体例としては、塩素化ポリエチレン、塩素化パラフィン、トリス(クロロエチル)ホスフェート、パークロロシクロペンタデカン等の塩素含有有機化合物;ペンタブロモトルエン、テトラブロモビスフェノールS、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、オクタブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモベンゼン、ヘキサブロモシクロドデカン、エチレンビスペンタブロモジフェニル、エチレンビステトラブロモフタルイミド、臭素化ポリエチレン、ポリジブロモフェニレンエーテル、ビス(2,3,6-トリブロモフェノキシ)エタン、トリブロモネオペンチルアルコール、トリブロモフェニルアリルエーテル、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、テトラブロモビスフェノールA、ジジブロモフェノ−ルグリシジルエーテル、臭素化芳香族トリアジン系化合物、トリブロモフェノール、ペンタブロモベンジルポリアクリレート、テトラブロモビスフェノールA型のエポキシ樹脂、臭素化ポリスチレン等の臭素含有有機化合物が挙げられる。
また、上記のハロゲン含有有機化合物に含まれるハロゲン元素は、塩素、臭素、ヨウ素の2種以上が任意の割合で含まれていてもよい。特に、レーザーマーキングの改良効果が顕著なことから、ハロゲン含有有機化合物としては、含有されるハロゲン原子の50重量%以上が臭素原子であるものが好ましい。
更に、上記のハロゲン含有有機化合物としては、本発明のポリアミド樹脂組成物の熱安定性向上の観点から、その5重量%熱重量減少温度「Tg−Dta」(窒素雰囲気下、常温から昇温速度20℃/分の条件下にて昇温した際、昇温開始時の重量に対して重量が5重量%減少する温度)が300℃を超えるものが好ましい。斯かるハロゲン含有有機化合物としては、例えば、臭素化ポリスチレン類の他、ポリジブロモフェニレンエーテル等の臭素化ポリフェニレンエーテル類が挙げられる。これらの中では、レーザーマーキング性の改良効果が顕著なことから臭素化ポリフェニレンエーテル類が好ましく、特にポリジブロモフェニレンエーテルが好ましい。
上記のハロゲン含有有機化合物の含有量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して0.1〜100重量部である。この含有量が少なすぎると、レーザーマーキング性の改良効果が不充分であり、多すぎると、得られるポリアミド樹脂組成物の機械的強度や熱安定性が低下する。ハロゲン含有有機化合物の含有量は、ポリアミド樹脂100重量部に対し、好ましくは0.5〜100重量部、更に好ましくは1〜60重量部である。
本発明で使用するアンチモン化合物は、特に制限されないが、ポリアミド樹脂への添加量を低減してもレーザーマーキング性を良好に維持できる点から、アンチモン元素の含有量が10重量%以上のアンチモン化合物が好ましい。斯かるアンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン等が挙げられる。これらのアンチモン化合物は、本発明のポリアミド樹脂組成物のレーザーマーキング性、機械的強度、難燃性、流動性、外観などを改良する観点から、表面処理されていてもよい。特に、三酸化アンチモンはレーザーマーキング性の改良効果が大きくて好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物におけるアンチモン化合物の含有量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して0.1〜100重量部である。この含有量が少なすぎると、レーザーマーキング性が不充分であり、また多すぎると、得られるポリアミド樹脂組成物の機械的強度が低下し、更に、比重が増加する等の不具合が生じる。アンチモン化合物の含有量は、ポリアミド樹脂100重量部に対し、好ましくは0.1〜60重量部、更に好ましくは1〜30重量部である。
本発明においては、ハロゲン含有有機化合物(以下「(b)成分」ということがある)、アンチモン化合物(以下「(c)成分」ということがある)の何れか一方を使用すればよいが、両者を併用するならば、機械的強度、熱安定性、難燃性がより優れ、且つ比重の小さなポリアミド樹脂組成物を得ることが出来るので好ましい。
本発明において(b)成分と(c)成分を併用する際の含有比率は、特に制限されないが、(b)成分中のハロゲン元素含有量を(bx)重量%、(c)成分中のアンチモン元素含有量を(cy)重量%とした際、(bx)/(cy)が0.1〜10の範囲内であることが好ましい。なお、本発明のポリアミド樹脂組成物には、ポリアミド樹脂成形体にしてレーザーマーキングを施した際、マーキング色調がレーザー未照射部分のポリアミド樹脂成形体表面の色調より暗色であるという本発明の効果を損なわない限り、カーボンブラック等の黒色顔料を含有させてもよい。
本発明のポリアミド樹脂組成物において、強化材の配合は、レーザーマーキング性を改良するので好ましい。強化材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリ繊維、金属繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、PPS繊維、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカー、ゾノライト、ワラストナイト、金属繊維の繊維状充填剤;板状ガラス、タルク、カオリン、マイカ、黒鉛の板状充填剤;炭酸カルシウム、酸化鉄、磁性紛などの不定形充填剤;ガラスビーズ等の円形充填剤;ガラスバルーン等の中空充填剤;膨潤性雲母、ナノカーボン等の平均一次粒子径が0.1μ以下の超微粒子充填剤が挙げられる。
特に、ガラス繊維は、レーザーマーキング性の改良以外に、本発明のポリアミド樹脂組成物の剛性、耐熱剛性、衝撃強度などを総合的に向上させる観点から、最も好ましい。また外観を維持し、且つ、剛性、低そり、寸法安定性の向上を図る場合は、タルク、カオリン、ワラストナイトが好ましい。また、耐トラッキング性の向上を図る場合はタルクが好ましい。そして、剛性向上と導電性を改良する場合は、ナノカーボン、炭素繊維、金属繊維などが好ましい。
本発明において、強化材の含有量は、ポリアミド樹脂100重量部に対し、通常1〜800重量部、好ましくは5〜500重量部、更に好ましくは5〜300重量部、特に好ましくは5〜150重量部である。
上記の強化材は、シランカップリング剤、チタン系カップリング剤などで表面処理されたものであることが好ましい。表面処理剤としては、例えば、Y−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−Y−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−Y−アミノプロピルジメトキシメチルシラン等の如きアミノシラン系;Y−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、Y−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン系:イソプロピルトリスステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等のチタン系カップリング剤が挙げられる。
更に、本発明においては、他の添加剤や熱可塑性樹脂などを必要に応じて含有させてもよい。例えば、シリカ等の結晶核剤;酸化チタン、硫化亜鉛、ベンガラ、コバルト塩、銅塩などの顔料;ニグロシン、アジン系染料、アゾ系染料などの染料;ノルマルブチレンスルホン酸アミド等の可塑剤;高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸アミド等の離型剤・滑剤;臭化銅、塩化銅、ヨウ化銅ヨウ化カリウム、ハイドロタルサイト等の熱安定剤;フェノール化合物、ホスファイト化合物、ホスフェート化合物などの酸化防止剤;ヒンダートアミン等の紫外線安定剤;ポリリン酸メラミン、シアヌル酸メラミン、ホスファゼン、ホスフィネート金属塩、硼酸亜鉛、水酸化マグネシウム等の難燃剤;発泡剤;帯電防止剤などを含有することが出来る。
ポリアミド樹脂以外の他の樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、アラミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ノボラックフェノール樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンの共重合体(ABS)、スチレン・エチレン・ブテン・スチレンの3元ブロック共重合体(SEBS)、エチレン・ブテンラバー(EBR)、エチレン・プロピレンラバー(EPR)、エチレン・オクテンラバー(EOR)等の弾性重合体などが挙げられる。これらの樹脂は、ポリアミド樹脂との相溶化を図るため、各種の酸や不飽和基などで変性されたものであってもよい。
特に、PPE樹脂、ノボラックフェノール樹脂などのベンゼン環を主鎖に多く含む熱可塑性樹脂の配合は、レーザーマーキング性が向上するので好ましい。また、無水マレイン酸にて変性した弾性重合体、例えば、無水マレイン酸変性エチレン・ブテンラバーの配合は、耐衝撃性を飛躍的に向上させることが出来るので好ましい。ポリアミド樹脂以外の他の樹脂の含有量は、ポリアミド樹脂100重量部に対し、通常1〜95重量部である。
更に、本発明のレーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない限り、用途に応じ、従来公知の染料・顔料を含有させてもよい。これにより、白色〜淡灰色などの明色系から、濃灰色などの暗色系として、用途に応じて適応することが出来る。更に、アイボリー、赤、青、黄、茶などの、可視光領域(波長380〜780nm)の様々な発色波長の色調へ用途に応じて適応することが出来る。
本発明のレーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物は、明色系の樹脂組成物とし、レーザーマーキングを施した際に、暗色系のレーザーマーキングが施される際にその効果が顕著となる。なお、明色、暗色の判断は、色差計によりL値(明度)を測定して容易に行うことが出来る。色差計による測定は、評価装置として、JIS−Z−8722に準拠した装置を使用し、光源としてハロゲンランプ(C光、2度)を使用する一般的な方法で行うことが出来る。
本発明のポリアミド樹脂組成物を成形して成る成形体は、優れたでレーザーマーキング性を有する。成形方法としては、例えば、異形押出成形、平面押出し成形などの押出し成形;圧縮成形、ガスアシスト射出成形、射出圧縮成形、射出プレス成形、インサート成形、インモールド成形、局所金型高温成形(含む断熱金型成形)、二色成形、サンドイッチ成形などの射出成形;中空成形;カレンダー成形;回転成形など挙げられる。これらの中では射出成形が生産性の兼ね合いから好ましい。
本発明のレーザーマーキング用ポリアミド樹脂成形品の形状、表面状態などは、特に制限されず、用途に応じて適宜選択される。レーザーマーキングの際に使用するレーザーとしては、例えば、炭酸ガスレーザー、Nd−YAGレーザー、YAGレーザー、ルビーレーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー、エキシマレーザーが挙げられる。これらの中では、マーキング性に観点から、Nd−YAGレーザー又はYAGレーザーが好ましい。
使用するレーザーの波長は、通常193nm〜10600nm、好ましくは532nm〜1064nm、特に好ましくは1060nm近傍である。レーザーマーキング速度は、通常1〜2000mm/sec、好ましくは100〜1000mm/secである。
本発明のレーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物は、自動車部品、OA機器や家電製品の部品、電気・電子部品への適応が可能である。特に、電気電子部品として、各種スイッチ部品、ブレーカーの外部筐体や内部構造部品などの電気機器部品の他、コネクター等として好適に使用することが出来る。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例においては、以下に記載の各種原料を使用し、ペレット及びテストピースを製造して評価した。
<(a)ポリアミド樹脂>
(a−1)ポリアミド6樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバミッド(登録商標)1010J」(相対粘度2.5)
(a−2)ポリアミド66樹脂:デュポン社製「Zytel(登録商標)FE3218」(相対粘度2.8)
<(b)ハロゲン含有有機化合物>
(b−1)ポリジボロモフェニレンエーテル:イヌイ化成社製「NP64」(Br含有率64重量%、5%重量減少温度:400℃)
(b−2)臭素化ポリスチレン:グレートレークス社製「PDBS80」(Br含有率72重量%、5%重量減少温度:355℃)
<(c)アンチモン含有化合物>
(c−1)三酸化アンチモン(Sb):森六社製「MIC3」(平均粒子径:0.6μm)
<(d)強化材>
(d−1)ガラス繊維:日本電気硝子社製「T289H」(平均繊維径10μm、シランカップリング剤および有機バインダー表面処理品であり、樹脂組成物中では平均繊維長150〜500μmにて分散される。)
(d−2)ワラストナイト(ケイ酸カルシウム):ナイコ社製「ナイグロスM3」(平均粒子径2.5μm、アミノシラン処理品であり、樹脂組成物中では平均繊維長5〜70μmにて分散される。)
<(e)その他の添加剤>
(e−1)酸化チタン:石原産業社製「タイペークCR60」(平均粒子径0.2μm(表面処理剤の主要成分はアルミニウム)、揮発成分0.2重量%)
(e−2)カーボンブラック:三菱化学社製「♯40」(一次粒子径24nm、DBP吸収量115cm/100g、窒素吸着比表面積115m/g)
(e−3)弾性重合体(無水マレイン酸変性エチレン・ブテン−1共重合体):三菱化学社製「MODIC AP730T」
(e−4)離型剤(ステアリン酸カルシウム):日本油脂社製「カルシウムステアレートS」
<ポリアミド樹脂ペレット及びテストピースの製造方法>
各種原料を計量し、タンブラーミキサーにて混合後、日本製鋼所「TEX30C型」2軸押出機を使用し、シリンダー温度275℃、スクリュー回転数200rpmの条件下で、メインホッパーから一括投入して溶融混練し、ポリアミド樹脂組成物ペレットを製造した。なお、成分(d)を含有させる場合は、上記と同様メインホッパーから、成分(a)、(b)、(c)を一括投入し、途中から成分(d)をサイドフィードにて投入した。
得られたペレットを120℃で8時間〜12時間真空乾燥機し、レーザーマーキング評価用テストピース成形に使用した。テストピースの成形には、成形機として「住友SH100」、金型として100×100×3mmの平板試験片型を使用した。成形条件は、成形温度(シリンダー温度):275℃、金型温度:80℃、射出・保圧時間:15秒、冷却時間:20秒、充填時間:0.7秒とした。
また、曲げ弾性率およびシャルピー衝撃試験評価用テストピースの成形には、成形機として「ファナック100」、金型としてISO試験片金型を使用した。成形条件は、成形温度(リンダー温度):275℃、金型温度:80℃、射出・保圧時間:20秒、冷却時間:20秒、充填時間:2秒とした。なお、以下の説明において、上記のテストピースと先述のレーザーマーキング評価用テストピースと併せて単に「テストピース」ということがある。
(1)素材の色調とL値:
ポリアミド樹脂組成物(以下「素材」と言うことがある。)の色調は、目視にて判断した。L値の測定方法は、テストピースを使用し、レーザーマーキング処理を施す前に、以下の条件にて測定した。すなわち、評価装置として、日本電色工業社製「色差計SE−2000」(JIS−Z−8722に準拠した装置)、光源としてハロゲンランプ(C光、2度)を使用し、測定面積10mmΦの範囲について測定した。テストピースを固定するための裏押さえ板は標準白色板を用いた。L値は、その数値が大きい程、明度の高い(明るい)色調であることを示す。
(2)レーザーマーキング性評価方法:
次の表1に示す条件でテストピースにNd−YAGレーザーマーキングを行って評価した。マーキング図柄は、2枚のプレートにそれぞれ異なるマーキングを施した。1枚のプレートには20×20mmの正方形を塗りつぶす様にマーキングさせた。他の1枚のプレートにはフォント5mmで合計10文字のアルファベット(ABCDEFGHIJ)をマーキングした。
レーザーマーキング性の判定は、レーザーマーキング処理を施した2枚のプレートを目視観察し、総合的に判断し、次の表2に示す判断基準に基づきA〜Cランクに分けた。
また、明色系の素材へのレーザーマーキング性評価(レーザ−マーキング部のコントラスト)は、元々の素材の色調から、レーザーマーキング処理によって、どの程度色が変わったかを数値化して判断した。具体的には、20×20mmの正方形を塗り潰すようにレーザーマーキング処理し、レーザーマーキング前後のL値の差[(レーザー照射前のL値)−(照射後のL値)]を算出して評価した。このL値の差が正の数であれば、素材色調より暗色に変色したことを示し、負の数になれば、明色に変色したことを示す。また、この数値の絶対値が大きいほど、視認性に優れる傾向があることが明白となる。
(3)曲げ弾性率:
ISO178に準拠し、絶乾、23℃の条件下、島津製作所製「オートグラフ」を使用して測定した。単位は「MPa」である。
(4)シャルピー衝撃強度(ノッチあり)
ISO179−1/2に準拠し、絶乾、23℃の条件下、東洋精機社製シャルピー衝撃試験機を使用して測定した。単位は「kJ/m」である。
実施例1〜29並びに比較例1及び2:
表3〜9に示す割合で各成分を計量し、前述の方法にてテストピースを製造して評価した。結果を表3〜9に示す。表3〜9に示す配合割合の単位は全て重量部を示す。
表から明らかな通り、実施例1は、成分(a−1)及び(b−1)を表に示した割合で配合した例であり、素材の色調は、若干茶色味のある白色であった。これにレーザーマーキング処理を施した所、10Aの電流値で極めて鮮明なマークを施すことが出来、良好であった。レーザ−マーキング部の色調は、レーザーマーキング前の明度から、マーキング部の明度を差し引いた数値が正の数であり、その絶対値も大きいことから、マーキング部素材色調よりも暗色に発色し、且つコントラストの強い発色をしていることが分かる。
実施例2は、実施例1に対して(b−1)成分の配合量を減らした組成物について評価した例である。この組成物では電流値10Aでは明瞭なマーキングを得ることは出来なかったが、15Aに電流値を上げることにより、極めて良好なマーキングを施すことが出来た。
実施例3は、実施例1の(b)成分の種類を変更した例である。実施例1と同じ10Aの電流値では明瞭なマーキングを施すことが出来なかったが、電流値を15Aに上げると実施例1同様に極めて良好なマーキングを施すことが出来た。
実施例4及び5は、成分(a−1)及び成分(c−1)を配合した例である。この組成物の素材の色調は極めて明度の高い白色であった。この組成物も実施例1同様に極めて良好なマーキングを施すことが出来た。
実施例6〜10は、成分(a−1)と、成分(b−1)又は(b−2)と、成分(c−1)とを配合した組成物であるが、電流値10A又は15Aの何れかにより、実施例1同様に良好なマーキングを施すことが出来た。なお、実施例9では、曲げ弾性率およびシャルピー衝撃値も併せて評価した。その結果、ポリアミド樹脂の非強化材としては、各種製品に適用するのに必要十分な品質であった。
実施例12〜19は、成分(a)と、成分(b)及び/又は成分(c)とに加え、更に成分(d)を配合した例を示した。これらの組成物も実施例1同様に電流値10A又は15Aの何れかで良好なマーキングを施すことが出来た。
なお、実施17に示した組成物は曲げ弾性率およびシャルピー衝撃強度についても評価した。その結果、(d)成分を配合してない実施例9に比べ、弾性率と衝撃値が共に向上しており、強化ポリアミド樹脂組成物として、各種工業用途に適用するのに必要十分な品質を示した。
実施例20では、更に白色顔料を配合し、白色度を高める様に調色した樹脂組成物について評価した例であるが、実施例1同様に良好なマーキングを施すことが出来た。実施例21以降では、衝撃性向上を目的に弾性重合体を配合した例であるが、これらの組成物も10A又は15Aの電流値にて実施例1同様に良好なマーキングを施すこと出来た。また、弾性重合体を含まない実施例17よりも衝撃値が向上していることが分かる。
また、実施例28及び29の様に、(c)成分に対する(b)成分の含有比率を下げ、且つ(b)成分の含有量を前述の実施例に比べて半分程度としてもカーボンブラックを極少量併用するのみで良好なレーザーマーキング性を示すことが判る。
比較例1及び2は、成分(b)又は成分(c)を配合してない組成物であり、マーキングを施すことは出来なかった。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、レーザーによるマーキングにより、鮮明なマークを施すことが可能なため、レーザーマーキングを施す成形品用の材料として極めて有用であり、そのマーキング処理を施された成形品は、ブレーカー、コネクター等の電気電子部品を始めとした各種用途の他、自動車部品、雑貨部品などの各種工業用途に広範囲に適用することが出来る。

Claims (9)

  1. レーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂100重量部に対し、ハロゲン含有有機化合物および/またはアンチモン化合物を0.1〜100重量部の割合で含有して成り、ポリアミド樹脂成形体にしてレーザーマーキングを施した際、マーキング色調がレーザー未照射部分のポリアミド樹脂成形体表面の色調より暗色であることを特徴とするレーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物。
  2. ポリアミド樹脂100重量部に対し、ハロゲン含有有機化合物0.5〜100重量部とアンチモン化合物0.1〜60重量部を含有する請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
  3. ハロゲン含有有機化合物として、含有されるハロゲン原子の50重量%以上が臭素原子であり、5重量%熱重量減少温度が300℃以上であるがハロゲン含有有機化合物を使用する請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
  4. アンチモン化合物として三酸化アンチモンを使用する請求項1〜3の何れかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  5. ポリアミド樹脂としてポリアミド6又はポリアミド66を主構成単位とした脂肪族ポリアミド樹脂を使用する請求項1〜4の何れかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  6. ハロゲン含有有機化合物として臭素化ポリフェニレンエーテル類を使用する請求項1〜5の何れかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  7. 更に、ポリアミド樹脂100重量部に対し、強化材1〜1000重量部を含有する請求項1〜6の何れかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  8. 請求項1〜7の何れかに記載のレーザーマーキング用ポリアミド樹脂組成物を成形してなるポリアミド樹脂成形体であって、レーザー照射によるレーザーマーキングが施されていることを特徴とするポリアミド樹脂成形体。
  9. 請求項8に記載のポリアミド樹脂成形体を含む電気機器部品。
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