本発明者らは、表面層に硬化性樹脂を含有する感光体に対する表面層の構築について鋭意検討した結果、ある定形のディンプル様の凹凸形状を複数有する感光体表面形状が、上記の各種の問題に対して効果的であることを見出した。
以下、本発明を詳細に説明する。
初めに、本発明で示されるディンプル様の凹凸形状について説明する。
ディンプル形状の凹凸形状の測定には、表面形状測定システム(Surface Explorer SX−520DR型機、株式会社菱化システム製)を使用して評価した。
測定は、先ずドラムサンプルをワーク置き台に設置し、チルト調整して水平をあわせ、ウェーブモードで電子写真感光体の表面の3次元形状データを取り込んだ。その際、対物レンズは20倍の倍率を用いて616μm×810μmの視野観察で行った。
次に、データ解析ソフト中の、「等高線2」と称するプログラムを用いて、表面の3次元の算術平均粗さ(Sa)を算出した。
3次元の算術平均粗さ(Sa)とは、二次元の算術平均粗さ(Ra)を3次元に拡張したもので、表面形状曲面と表面形状の平均面とで囲まれた部分の体積を測定面積で割ったものである。平均面をXY面,縦方向をZ軸とし、測定された表面形状曲線をZ=f(x,y)とすると、次式で定義される。
また、データ解析ソフト中の、「ベアリング」と称するプログラムを用いて、表面形状曲面の平均面を基準としたときの、表面形状の平均面から支持体の方向に0.30μmだけ近い位置から支持体に近づく方向の領域をなす部分を、平均面に投影した像の累積面積の、測定面積に対する割合を算出した(以下、この割合を(Rdv)と記す。)。ここで、616μm×810μmの視野観察を選択した理由は、観察視野を狭めて、円筒型の感光体の曲面を平面に近似するためである。曲面を平面に近似できないほど広範囲で測定した場合には、算出される平均面が凹凸形状を横切らず、目的の値を求めることができない。ここで、感光体は円筒型と記したが、例えば、平板状の感光体であっても、実在の平面は必ず傾きやうねりを持つため、やはり近似が必要である。
上記のようにして、曲面を平面に近似することによって得られる値は、全表面が一様に粗面化処理されていれば、感光体表面全体に拡張できることは言うまでもない。よって、前記測定法により求められた3次元の算術平均粗さ(Sa)及び(Rdv)は、感光体表面全体の値として扱うことができる。
本発明のディンプル様の凹凸形状は、上述のとおり、2つの目的を同時に達成するために作製される。即ち、この凹凸形状は、初期使用時と長期使用時とにおけるクリーニング性の維持を達成することを目的とする。つまり、初期使用時のクリーニング性を維持させるための凹凸形状は、上述の測定において、3次元の算術平均粗さ(Sa)で、0.050μm以上0.40μm以下が好ましい。3次元の算術平均粗さ(Sa)が0.05μm未満であると、使用初期から粗面化による摩擦力低減の効果を得ることができず、0.40μmよりも大きいと得られる画像に粗面化に由来するガサツキが現れ、またクリーニングブレードからのトナーのすり抜けが多くなる。また、長期使用時のクリーニング性を維持させるための凹凸形状は、該凹凸形状の平均面から該支持体の方向に0.30μmの位置から該支持体に近い領域の凹部をなす部分を平均面に投影した像の累積面積が、凹凸形状の総面積に対して0.30%以上15%以下の割合が好ましい。この割合が0.30%未満であると、平坦化が進んだときに接触面積を低下し得る凹部が不足し、感光体とクリーニングブレード間の摩擦力が増大し、ブレードの欠けやトナーの抜けといったクリーニング不良を発生してしまう。また、この割合が15%よりも大きいと、深い凹部が連続して存在する確率が増え、使用初期から画像不良、感光体上のキズ発生の原因となってしまう。
電子写真感光体は、使用するにつれ、トナー成分由来の外添剤と呼ばれる滑剤の介在、又はクリーニングブレードと感光体との褶擦により、細かい傷が発生し、表面の摩擦力がある程度まで低下する。そのような状態では、もはや、クリーニングに必要な上述の凹凸形状は、初期の摩擦力を低減させる目的の形状ほどの凹凸は必要でなくなり、比較的平坦に近い凹凸形状でクリーニング性を満足する。
即ち、表面の摩擦力が低下するまでのクリーニング性を維持させるための凹凸形状は、「3次元の算術平均粗さ(Sa)が、0.050μm以上0.40μm以下」に相当し、それ以降、徐々に平坦化が進んだ際にも平坦化されず、かつ、その際の比較的摩擦力の低い環境下でのクリーニングを維持させる凹凸形状は、「該最表面の総面積に対する、該凹凸形状の該平均面から該支持体の方向に0.30μmの位置から該支持体に近い領域の凹部をなす部分を該平均面に投影した像の総面積の割合は、0.30%以上15%以下」に相当する。
以上のような理由により、初期使用時のクリーニング性を維持させるための凹凸形状と、長期使用時のクリーニング性を維持させるための凹凸形状の双方を形成することで、前者の凹凸形状が平坦化されてしまった場合にも、クリーニング性を維持することができる。
本発明における、初期使用時のクリーニング性を維持させるためのディンプル様の凹凸形状について、さらに好ましい形状について説明する。
先ず、表面形状の値は、十点平均粗さ(Rzjis)、凹凸の平均間隔(RSm)、最大山高さ(Rp)、最大谷深さ(Rv)は、JIS−B0601−2001に記載の方法に準じて得た値である。測定は表面粗さ測定器(商品名:サーフコーダーSE3500型、株式会社小坂研究所製)を用いて行った。
ここで、測定方向について説明する。本発明による電子写真感光体は、電子写真装置中で繰り返し使用することができる円筒状、又はベルト状の形状で、回転軸を持ち、回転しながら帯電、画像露光、現像、転写、クリーニングなどの電子写真プロセスを繰り返しながら使用される。クリーニングブレードは、通常電子写真感光体の回転軸に対して平行に配置され電子写真感光体の表面層に当接される。従って、周方向とは回転軸に対して垂直の方向を意味し、電子写真感光体の回転により各プロセスの部材と繰り返し接触する方向である。
電子写真感光体表面の表面粗さは、周方向及び回転軸方向に測定した両方の場合とも、Rzjisで0.3μm〜2.5μmが好ましく、0.4μm〜2.0μmの範囲であることがさらに好ましい。この表面粗さが0.3μm未満であると、粗面化による本発明による改善効果が得られず、2.5μmよりも大きいと、得られる画像に粗面化に由来するガサツキが現れ、またクリーニングブレードからのトナーのすり抜けが多くなる。
本発明において求められる表面形状は、できるだけ円形に近い、孤立した凹部を多数有する、いわゆるディンプル形状である。このディンプル形状の凹部は電子写真感光体の表面の全ての方向に対して方向性がないことが好ましい。
電子写真感光体の表面の凹凸において、谷部分がスジ状に連なった場合、帯電生成物などの低抵抗物質がそのスジ状部分に蓄積され、特に高温高湿下で長期間使用された場合などに、表面形状に起因するスジ状の画像欠陥が発生するという問題が発生しやすくなる。従って、周方向のRzjis(A)の値と電子写真感光体が回転する軸方向のRzjis(B)の値の比率が1に近いほど好ましい。
凹凸の平均間隔RSmは、周方向及び回転軸方向に測定した両方の場合とも、5μm〜120μmが好ましく、周方向のRSm(C)と回転軸方向のRSm(D)の比率がRSm(D)/RSm(C)=0.5〜1.5であることが好ましい。
さらに、RSmは、周方向及び回転軸方向に測定した両方の場合とも、10〜100μmであり、RSm(D)/RSm(C)=0.8〜1.2である場合がより好ましい。
表面形状が周方向に同一の形状が連なることがなく、全体がランダムに粗面化されていることにより、電子写真感光体が回転した時にクリーニングブレードの一定の部分に同じ形状が集中することなく、負荷が分散されて、トナーすり抜け、ブレードのめくれやエッジ部の欠損などが改善される。
また、電子写真感光体の表面とクリーニングブレードが速度差をもって当接するため、最適な凹凸の間隔範囲が存在し、RSmが5μm未満であると粗面化した効果が無くなり、120μmよりも大きいとトナーすり抜けなどのクリーニング不良が多くなる。
また、本発明の表面形状は凸部よりも凹部を積極的に有するような形状を意図したものである。電子写真感光体上に凸形状が多く、凸部の高さが大きくなるとクリーニングブレードに対する局所的な抵抗が増加し、特に長期間耐久使用した際にクリーニングブレードのエッジ部を欠損させるという問題が発生する。
従って、本発明においては凸部を小さく、凹部を多くするという形状を選択的に形成させるために、最大山高さ(Rp)は、0.6μm以下が好ましく、さらに好ましくは0.4μm以下である。また、最大谷深さRvと最大山高さRpとの割合、Rv/Rpは、1.2以上が好ましく、さらには1.5以上がより優れた効果を呈する。
ディンプル形状の凹部を、開口部の形状の点から、さらに詳細に検討した結果について説明する。ディンプル形状の凹部の測定には、上述の表面形状測定システム(Surface Explorer SX−520DR型機、株式会社菱化システム製)を使用して評価した。
測定は、上述と同様、ドラムサンプルをワーク置き台に設置し、チルト調整して水平をあわせ、ウェーブモードで電子写真感光体の表面の3次元形状データを取り込んだ。その際、対物レンズは50倍の倍率を用いて100μm×100μmの視野観察で行った。次に、データ解析ソフト中の、粒子解析プログラムを用いて表面の等高線データを表示した。
ディンプル形状の凹部、面積などを求める際、孔解析パラメータは、
最長径上限 50μm
最長径下限 1μm
深さ下限 0.1μm以上
体積下限 1μm3以上
で観察して画面上ディンプル形状の凹部と見える部分の個数をカウントした。面積100μm2当たりのディンプル形状の凹部の個数は、解析画面の視野中で見えるディンプル形状の凹部の数をカウントして個数とした。
ディンプル形状の凹部の平均アスペクト比は、上記と同じ視野及び同じ解析条件から、識別できるディンプル形状の凹部のデータを集めて、そのアスペクト比の平均値を求めて決定した。
本発明の電子写真感光体の適したディンプル形状の凹部の個数は、100μm2当たり 5個〜50個、さらに5個〜40個が好ましい。これらディンプル形状の凹部の個数が上限を上回っても、下限を下回っても粗面化した効果が得られなくなる。
また、好ましいディンプル形状の凹部の平均アスペクト比は0.5〜0.95である。
これらの数値の規定に適合した表面形状は、円形に近い形状を有する孤立したディンプル形状の凹部の凹凸を示している。このような形状を有することにより適度な粗面形状を有し、且つ方向性の無い粗面化表面であるため、前後で述べるような理由により、本発明の改善効果を効率よく得ることができる。
本発明においては、先述したように、感光体の表面に上記のディンプル様の凹凸形状を形成できれば、いかなる製膜法、又は粗面化方法を用いてもよい。
凹凸形成手段としては、感光層を形成する際の乾燥条件を制御することにより、感光体表面をユズ肌状に粗面化する方法、表面層にあらかじめ粉体粒子を添加することによる粗面化の方法、表面層を製膜する前の層上を粗面化した後に表面層を製膜する方法、成膜された感光体表面に粉体を衝突させる方法などが挙げられる。
しかしながら、本発明に示した凹凸形状を効率よく作製するには、成膜された感光体表面に粉体を衝突させる方法が好ましい。さらに、コストの面で、既存の装置技術の流用が好ましく、粒子を高速度で被処理体の表面に吹き付ける乾式のブラスト法、又は粒子を懸濁させた液体を被処理体の表面に噴流衝突させる湿式のホーニング法(ウェットブラスト法)が好ましい。更に、電子写真感光体は湿度条件に敏感なことから、水等の溶媒に接触させることなく被処理体を粗面化できる乾式のブラスト法がより好ましい。
上述の乾式ブラスト法には、圧縮空気を用いて粒子を噴射する方法、モータを動力として粉体を噴射する方法等がある。感光体の表面形状を精密に制御することが可能で、かつ設備の簡易性という点において、圧縮空気を用いて粉体を噴射する方法が好ましい。
本発明において用いられるブラスト加工装置の例を図1に示す。このブラスト加工装置は、被処理体1−7(被処理体は、本発明においては感光層形成後の感光体を示す。)を支持するためのワーク支持体1−6と、ワーク支持体1−6に支持された被処理体1−7に向けて粉体を高速度で吹き付けるノズル部とからなる。ワーク支持体1−6は、被処理体1−7を、被処理体1−7の軸を回転中心として回転自在に被処理体1−7の端部を支持する部材である。
上述のノズル部は、被処理体1−7に向けて粉体などの研磨粒子1−5を高速度で吹き付けるための噴射ノズル1−1と、噴射ノズル1−1を被処理体1−7に向けて固定するためのノズル固定冶具1−2と、噴射ノズル1−1に向けて圧縮エアを供給する圧縮エア供給管1−3と、噴射ノズル1−1に向けて研磨粒子1−5を供給する研磨粒子供給管1−4と、噴射ノズル1−1を被処理体1−7に向けて支持するアーム1−9と、アーム1−9を鉛直方向(被処理体1−7の軸方向)の任意の位置に支持するノズル支持体1−8とからなる。
容器(図示せず)に貯留されている研磨粒子1−5は、研磨粒子供給管1−4より噴射ノズル1−1に導かれる。噴射ノズル1−1に導かれた研磨粒子1−5は、圧縮エア供給管1−3より導入された圧縮エアによって噴射ノズル1−1より噴射され、ワーク支持体1−6により支持され自転している被処理体1−7に衝突する。
このとき、噴射ノズル1−1の先端と被処理体1−7との距離、及び噴射ノズル1−1の噴射口の軸線の延長線と被処理体1−7の接線又は回転軸とでなす角度は、ノズル固定冶具1−2やアーム1−9により調整する。噴射ノズル1−1は、通常、被処理体1−7の回転軸方向に対して移動しながら粗面化処理を行う。噴射ノズル1−1を被処理体1−7に向けて支持するアーム1−9が被処理体1−7の回転軸方向に移動することにより、被処理体1−7に対してムラ無く粗面化処理を施すことができる。
噴射ノズル1−1及び圧縮エア供給管1−3の口径は、研磨粒子1−5を噴出させるために適切に設計すればよく、前者の口径の方が後者の口径よりも大きいことが好ましい。噴射ノズル1−1の口径は、5〜10mmが好ましく、圧縮エア供給管1−3の口径は、2〜5mmが好ましい。噴射ノズル1−1と被処理体1−7の表面との最短距離は、3〜30cmが好ましい。この距離が3cm未満及び30cmよりも大きいと、加工効率が落ち、或いは所望の粗面化が困難となる。噴射ノズル1−1の噴射口の軸線の延長線と被処理体1−7の接線又は回転軸とでなす角度は、ある程度の自由度を持つが、角度が鋭角過ぎる場合には加工効率が低下する。噴射の動力に用いる圧縮空気の圧力も、所望の粗面化を行う観点から、適度な圧力に調整すればよい。また、被処理体1−7の表面の周方向における均一な粗面化処理を行う観点から、被処理体1−7の回転速度も適度な速度に調整すればよい。ここで、圧縮空気の圧力が低すぎると、Saが0.050μmを下回り、使用初期の摩擦力を低減することができない。逆に高すぎる場合には、0.40μmを上回り、トナーのすり抜けなどを引き起こすため、やはり初期クリーニング性を満足できない。当然のことながら、圧力の高低は、上記の研磨粒子の種類、距離、回転数、移動速度、角度、処理回数によって異なるため一概には記すことができない。一例をあげるならば、図1に示した装置乾式ブラスト装置(不二精機製造所製)を用いて、噴射ノズル1−1と被処理体1−7の表面との最短距離を10cmに設定し、研磨粒子に平均粒径が30μm程度のガラスビーズを使用し、ノズルの移動速度を220mm/分、感光体の回転速度を100rpm、ノズルの延長線とワークの接線又は回転軸とのなす角度をともに90°に、研磨粒子の供給量を200g/分、処理回数1回に設定した場合、0.050Mpaでは低すぎ、0.60Mpaでは高すぎる。
上述のブラスト加工装置を用いて粗面化処理を行う場合、研磨粒子1−5を噴射する噴射ノズル1−1が被処理体1−7の一端から他端まで走査することを一回と数えると、粗面化処理の回数は、所望の粗面化を行う観点から、圧縮空気の圧力や、被処理体1−7の回転速度、噴射ノズル1−1と被処理体1−7の表面との最短距離等の諸条件に応じて適度に調整すればよい。しかしながら、処理回数が多すぎる場合には、本願の要件である、Rdvが15%を超えてしまい、使用初期から画像欠陥を生じてしまう。具体的な処理回数について言及するには、処理回数以外の作成条件を全て記載する必要がある。例えば、一般的に用いられる圧縮空気の圧力(0.3Mpa程度)で、噴射ノズル1−1と被処理体1−7の表面との最短距離を10cmに設定し、研磨粒子にガラスを使用し、ノズルの移動速度を220mm/分、感光体の回転速度を100rpm、ノズルの延長線とワークの接線または回転軸とのなす角度をともに90°に、研磨粒子の供給量を200g/分に設定した場合、粗面化処理の回数が5回を超えると、Rdvは15%を超えるようになる。
当然のことながら、「5回」という回数は、上記の研磨粒子の種類や圧力、距離、回転数、移動速度、角度等を変えた場合には、この限りではない。
また、粒子径が小さいなどの理由で研磨力の小さい研磨粒子を用い、その他の条件を上記の条件と同様にして処理を行う場合、処理回数が少なすぎると、Saが0.050μmを下回り、初期クリーニング不良となる、あるいはSaが0.050μm以上でもRdvが0.30%を下回り、長期間の使用で摩擦力が増大し、クリーニング不良を引き起こす。
また、上述のブラスト加工装置を用いる場合、均一な粗面化を行う観点から、研磨粒子1−5が噴射ノズル1−1から噴出され始めてから、噴出量が安定した後に被処理体1−7に研磨粒子1−5を衝突させ始めることが好ましい。噴出量の安定を確認するためには、例えば、容器(図示せず)に貯留されている研磨粒子1−5の減少量をモニタリングし、減少速度が±20%以内に安定することを確認する方法が挙げられる。また、同様の観点から、噴出量が安定するまでの間、研磨粒子1−5を被処理体1−7に衝突させないために、噴射ノズル1−1の移動開始位置は、被処理体1−7の端から10mm以上外側に設定することが好ましい。
また、上述のブラスト加工装置を用いる場合、研磨粒子の噴出量を適切に調整すればよい。研磨粒子によって粒子径、比重、かさ比重が異なるため実測値で示すことは困難であるが、例えば、平均粒子径が30μm程度のガラスである場合、この噴出量は、10〜700g/分であることが好ましい。噴出量が10g/分未満の場合には、噴出量が不安定となり、また、噴出の密度が低いために粒子同士の衝突が少なく、突発的に高いエネルギーをもつ粒子が存在するために、均一な粗面化が行えない。また、そのような粒子の衝突によって深い凹部が形成される確率が高まり、Rdvが増大する。700g/分よりも大きい場合には、被処理体の周りに研磨粒子が多量に浮遊し、研磨粒子同士の衝突の頻度が高まり、研磨粒子の材質によっては、粒子の割れや、エネルギーの損失、ワーク支持体への付着(突き刺さり)の原因となる。
ワーク支持体の周囲に浮遊する研磨粒子の密度を制御するために、研磨粒子の噴出量を調整する以外に、ブラスト加工装置の装置内の空間の大きさを適切に設計してもよく、或いはワーク支持体を取り巻く遮蔽板を設けてもよい。
吐出量やワークの周りの空間の大きさは、粗面化処理中にワーク支持体の周囲に浮遊する研磨粒子の密度を左右し、研磨粒子の密度はRdvに影響する傾向がある。密度を低減させると、Rdvが低減し、密度を増大させるとRdvが増大する傾向にある。そのメカニズムは明らかではないが、粒子径が数十μm程度で、材質がアルミナやガラスの研磨粒子の場合、浮遊する粒子の密度に応じてワーク支持体への付着量が増減することから、付着した粒子が次に飛来した粒子に追突されて、より深い凹部を形成すると予想している。この浮遊粒子の密度を利用すれば、Rdvをある程度調整することができる。
上述の研磨粒子は、感光体表面を粗面化し得る粉体であれば特に制限はないが、体積基準粒度分布における平均粒径が10〜60μmのものが好ましい。そのような粉体を用いることで、初期の画像、耐久使用後の画像ともにクリーニング性に問題のない電子写真感光体の表面形状を形成し易くなる。
粉体の平均粒径が10μm未満の場合には、一般的なブラストに用いられる噴出圧力では衝突のエネルギーが小さいために、被処理体の表面の粗面化を十分に行うことができない。すなわち、Saが0.050μmを下回ってしまい、クリーニング性を改善する効果を得られない。また、粉体の平均粒径が60μmを越える場合には、被処理体の表面に形成される凹凸の周期が大きくなり、電子写真感光体とクリーニングブレードとの接触面積の低減の効果が低く、やはりクリーニング性を改善する効果を得ることができない。
また、粉体の平均粒径が60μmを越える場合、粉体の粒度分布に起因して、相対的に径の大きな粒子が相対的に径の小さな粒子を上から叩き込んで、感光体表面に埋め込んでしまうため、被処理体の表面状態が悪化してしまう。
また、上述の研磨粒子の体積基準粒度分布における最頻径は、10μm〜60μmが好ましい。最頻径は、粉体の体積基準の粒度分布において、粉体に含まれる粒子の粒径を所定の間隔で分割したときの各クラスにおいて、最も多くの粒子が含まれるクラスにおける粒子の粒径の範囲である。最頻径が10μm未満及び/又は60μmよりも大きい場合、クリーニング性を改善する効果は得られるものの、電子写真感光体における所望の表面を形成するために多量の粉体と処理時間とを必要とし、コストや生産性の面で不利である。
研磨粒子の材質としては、酸化アルミニウム、ジルコニア、炭化ケイ素、ガラス等のセラミック系;ステンレス鋼、鉄、亜鉛等の金属系;ポリアミド、ポリカーボネート、エポキシ、ポリエステル等の樹脂系;が挙げられる。さらに、研磨粒子の材質は、表面形状を形成することができるものであれば特に制約されないが、特に粗面化効率及びコストの面から、モース硬度2〜13の粉体が好ましく、ガラス、酸化アルミニウム、ジルコニア、ステンレス鋼であることが好ましい。また、ブラスト処理の条件が同じであれば、比重の重いものほどSa及びRdvを増大させる傾向にある。
次に、本発明の電子写真感光体の層構成について説明する。
本発明による電子写真感光体は、支持体と、この支持体上に積層された感光層とからなる。支持体を構成する材料は、本技術分野公知のものであれば特に限定されないが、例えば、鉄、銅、金、銀、アルミニウム、亜鉛、チタン、鉛、ニッケル、スズ、アンチモン、インジウム等の金属や合金、又はこれら金属の酸化物、カーボン、導電性高分子等の導電性材料が挙げられる。支持体の形状は、特に限定されないが、例えば、円筒状、円柱状等のドラム形状と、ベルト状、シート状などが挙げられる。上述の導電性材料は、支持体としてそのまま成形加工されてもよく、導電性の表面を形成するために、支持体となる部材の表面に塗布されて支持体の表面を形成してもよく、支持体となる部材の表面に蒸着されて支持体の表面を形成してもよく、エッチングやプラズマ処理により支持体の表面を形成してもよい。この導電性材料を支持体表面に適用する場合、支持体に用い得る材料は、上述の材料の他、紙、プラスチック等の非導電性材料であってもよい。
本発明による電子写真感光体は、上述の層に加え、例えば導電層、下引き層、保護層等を有してもよい。
導電層は、支持体のムラや欠陥の被覆、及び画像入力がレーザー光の場合には散乱による干渉縞防止を目的として支持体上に形成される層である。導電層は、カーボンブラック、金属粒子、金属酸化物等の導電性粉体を、バインダー樹脂中に分散し、例えば支持体上に塗布することにより形成してもよい。
下引き層は、各層間の界面での電荷注入制御や接着層として機能する層であり、支持体又は導電層と感光層との間に形成される層である。下引き層は、主にバインダー樹脂からなるが、上述の金属、若しくは合金、又はそれらの酸化物、塩類、界面活性剤等を有してもよい。下引き層に用いるバインダー樹脂の具体例としては、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリイミド、フェノール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリアミド−イミド、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリアリルエーテル、ポリアセタール、ブチラール樹脂等が挙げられる。下引き層の層厚は、好ましくは0.05〜7μmであり、より好ましくは0.1〜2μmである。
感光層は、光の照射によって電荷を発生し輸送する層であれば特に限定されず、光の照射による電荷の発生と発生した電荷の輸送との両方の機能を有する単層の感光層や、光の照射によって電荷を発生させる電荷発生層と、電荷発生層で発生した電荷を輸送する電荷輸送層とからなる積層型の感光層であってもよい。
感光層が機能分離型の感光層である場合、感光層は、電荷発生材料を有する電荷発生層と電荷輸送材料を有する電荷輸送層とが積層されて構成されるが、この積層の順序は特に制限されるものではない。
本発明において、電荷発生材料としては、本技術分野公知の一般的な材料を用いることができ、例えば、セレン−テルル、ピリリウム、チアピリリウム系染料、また各種の中心金属及び結晶系、具体的には例えばα、β、γ、ε及びX型等の結晶型を有するフタロシアニン化合物、アントアントロン顔料、ジベンズピレンキノン顔料、ピラントロン顔料、トリスアゾ顔料、ジスアゾ顔料、モノアゾ顔料、インジゴ顔料、キナクリドン顔料、非対称キノシアニン顔料、及びキノシアニン及びA−Si(アモルファスシリコン)等が挙げられる。
また、電荷発生層は、電荷発生材料以外に、バインダー樹脂を有してもよい。このバインダー樹脂の具体例としては、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリイミド、フェノール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリアミド−イミド、ポリサルフォン、ポリアリルエーテル、ポリアセタール、ブチラール樹脂、ベンザール樹脂等が挙げられる。
電荷発生層がバインダー樹脂を含有する場合、電荷発生材料とバインダー樹脂との比率は、バインダー樹脂と電荷発生材料との質量の総和に対する電荷発生材料の質量比が0.1〜100%であることが好ましく、より好ましくは10〜80%である。
電荷発生層の層厚は、0.001〜6μmであることが好ましく、より好ましくは、0.01〜2μmである。電荷発生層に含有される電荷発生材料の質量比は、10〜100%が好ましく、より好ましくは50〜100%である。
また、本発明において、電荷輸送材料の例としては、ピレン化合物、N−アルキルカルバゾール化合物、ヒドラゾン化合物、N,N−ジアルキルアニリン化合物、ジフェニルアミン化合物、トリフェニルアミン化合物、トリフェニルメタン化合物、ピラゾリン化合物、スチリル化合物、スチルベン化合物等が挙げられる。
また、電荷発生層は、電荷輸送材料以外に、バインダー樹脂を有してもよい。バインダー樹脂の具体例として、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリイミド等が挙げられる。さらに、電荷発生層は、上述の電荷輸送材料を有してもよい。
本発明による電子写真感光体において電荷輸送層を表面層とする場合、電荷輸送層は、高エネルギー線等により、硬化・重合する樹脂若しくは単重合体、又は正孔輸送機能を有するこれらの樹脂若しくは単重合体を有してもよい。
電荷輸送層にバインダー樹脂を含有する場合、電荷輸送材料とバインダー樹脂との比率は、バインダー樹脂と電荷輸送材料との質量の総和に対する電荷輸送材料の質量比が0.1〜100%が好ましく、より好ましくは10〜80%である。
電荷輸送層の厚さは、好ましくは5〜70μm、より好ましくは10〜30μmである。5μm未満であると帯電能が保てず、70μmよりも大きいと残留電位が高くなりすぎるため、いずれも不都合である。
電荷輸送層中に含まれる電荷輸送材料の量は、質量比で好ましくは20〜100%であり、より好ましくは30〜90%である。
感光層が単層の感光層である場合、電荷発生物質と電荷輸送材料とは同一層内に含有される。電荷発生材料及び電荷輸送材料の具体例は、上述の材料を用いることができる。この感光層は、上述した表面層の形成と同様に、放射線などの高エネルギー線等により、硬化・重合する樹脂若しくは単重合体、又は正孔輸送機能を有するこれらの樹脂若しくは単重合体で形成されてもよい。
単層の感光層の厚さは、8〜40μmであることが好ましく、より好ましくは12〜30μmである。単層の感光層における電荷発生材料や電荷輸送材料等の光導電性材料の含有量は、好ましくは20〜100質量%であり、より好ましくは30〜90質量%である。
本発明による電子写真感光体の最表面に該当する層は、電荷輸送機能を有していても、有していなくてもよいが、硬化性樹脂を含有する層であることがより好ましい。このような表面層は、本技術分野公知の方法により形成させればよく、例えば、硬化性樹脂やそのモノマー等の硬化性の材料の溶液又は分散液を支持体又は支持体上に形成された層の上に塗布し、所定の条件において硬化性樹脂を生成させることによって形成させる方法などが挙げられる。
本発明による電子写真感光体の表面層に用いる硬化性樹脂は、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂及びウレタン系樹脂からなる群より選択される一種類又は二種類以上であることが好ましい。
また、これら硬化性樹脂は、電荷輸送機能を有する硬化性樹脂の硬化物であることが好ましく、重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を加熱及び/又は放射線の照射により重合及び/又は架橋することにより、正孔輸送性化合物を含有する化合物やこの化合物を有する溶液、分散液等の組成物を硬化して得られたものであることがより好ましい。
この正孔輸送性化合物は、同一分子内に二つ以上の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物であることが好ましい。この正孔輸送性化合物は、上述の重合性官能基が重合する条件によって、重合させて、正孔輸送性化合物の組成物を硬化させればよい。このような重合条件には、加熱や放射線の照射等の公知の条件が挙げられる。重合に用い得る放射線は、好ましくは、電子線である。正孔輸送性化合物を有する組成物を硬化させるには、加熱する熱量、照射する放射線、又は電子線の強度を適宜調整すればよい。さらに、温度や酸素濃度等を適宜調整して組成物を硬化させてもよい。
上述の重合性官能基を有する正孔輸送性化合物は、本技術分野公知の種々の正孔輸送性化合物であればよく、例えば特許文献11に記載の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物であってもよい。
また、単層及び積層のどちらの場合においても、感光層の上層に保護層を設けてもよい。この場合、保護層が表面層となる。保護層は、電子写真感光体に加えられる機械的、電気的、又は化学的な負荷から感光層を保護する目的で、感光体の表面を構成するように、種々の層の最も上に形成される層である。この保護層は、上述した表面層の形成と同様に、放射線などの高エネルギー線等により、硬化・重合する樹脂若しくは単重合体、又は正孔輸送機能を有するこれらの樹脂若しくは単重合体で形成されてもよい。保護層の層厚は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜7μmである。
更に、保護層中に金属及びその酸化物、窒化物、塩、合金やカーボン等の導電性材料を含有してもよい。この金属種としては、鉄、銅、金、銀、鉛、亜鉛、ニッケル、スズ、アルミニウム、チタン、アンチモン、インジウム等が挙げられる。また、この導電性材料には、具体的には、ITO、TiO2、ZnO、SnO2、Al2O3等が挙げられる。導電性材料は微粒子状の材料であり、保護層中に分散される。その粒子径は好ましくは0.001〜5μmであり、より好ましくは0.01〜1μmである。その保護層への添加量は、好ましくは1〜70質量%であり、より好ましくは5〜50質量%である。導電性材料を保護層に分散する際に、分散剤としてチタンカップリング剤、シランカップリング剤、各種界面活性等を用いてもよい。
感光層を構成する各層には、酸化防止剤や光劣化防止剤等の各種添加剤を用いてもよい。また、表面層には、その滑性や撥水性を改善する目的で、各種フッ素化合物、シラン化合物、若しくは金属酸化物等、又はこれらの微粒子等を含有してもよい。これらの分散性を改善する目的で分散剤や界面活性剤を用いてもよい。表面層におけるこれら添加物の含有量は、好ましくは1〜70質量%、より好ましくは5〜50質量%である。
前述した層は、初期の化合物そのもの、又はそれを含有する溶液や分散液等の組成物を、支持体又は支持体上に既に形成されている層の上に、蒸着、塗布等の公知の方法で付着させ、前記化合物又は組成物の膜を形成し、この膜を硬化させる公知の方法によって形成することができる。このような公知の方法の中でも、塗布法が最も好ましい。塗布による方法は、薄膜から厚膜まで広い範囲で、しかもさまざまな組成の膜が形成可能である。具体的には、バーコーター、ナイフコーター、浸漬塗布、スプレー塗布、ビーム塗布、静電塗布、ロールコーター、アトライター、粉体塗布等の、各種方法や各種手段による塗布が挙げられる。表面層を製膜する方法が浸漬塗布法により塗布して製膜される場合において本発明は効果的である。なお、これらの各層の総膜厚は、上述の各膜の厚さによって調整すればよい。
本発明の電子写真感光体は、上述した本発明の方法によって製造された電子写真感光体である。上述の表面形状を有する以外、電子写真感光体の構成については、特に限定されない。
本発明の電子写真感光体における感光層の層構成としては、支持体側から電荷発生層/電荷輸送層をこの順に積層した順層積層構成、支持体側から電荷輸送層/電荷発生層をこの順に積層した逆層積層構成、又は電荷発生材料と電荷輸送材料を同一層中に分散した単層からなる構成の、いずれの構成をとることも可能である。
単層の感光層では光キャリアの生成と移動が同一層内で行われ、また感光層そのものが表面層となる。一方積層の感光層では、光キャリアを生成する電荷発生層と生成したキャリアが移動する電荷輸送層とが積層された構成をとる。
最も好ましい層構成は、支持体側から電荷発生層/電荷輸送層をこの順に積層した順層構成である。この場合、電荷輸送層が硬化性樹脂を含有する一層からなる表面層である電子写真感光体、又は電荷輸送層が非硬化型の第一層と硬化型の第二層との積層型であり、硬化型の第二層が表面層である電子写真感光体のいずれかが好ましい。
本発明における電子写真感光体表面の硬化性の層は、電子写真感光体を作製する際、支持体又はその上に形成された層に塗布するための塗料中に、重合性官能基を有するモノマー又はオリゴマー等を含有させ、製膜、乾燥後、その膜を加熱及び放射線の照射等で重合を進行させる工程を設けることにより、三次元的に架橋、硬化することにより溶剤等に不溶、不融の強靭な製膜層を形成することにより達成される。
本発明の最良の構成は、同一分子内に重合性官能基を有する正孔輸送性材料を含有する塗料を塗布し製膜後、硬化させた感光層を有する構成である。表面層の硬化層の強度をより高くするために重合性官能基は、正孔輸送性材料において同一分子内に二つ以上存在することが好ましい。
電子写真感光体の表面層の材質は、元素分析や赤外分光分析等の公知の分析によって調べることができる。また、重合性官能基を重合させる方法(加熱、放射線の照射等)は、表面層の材質をマススペクトル等の公知の分析によって調べ、重合開始剤の有無、又はその種類を確認することで判定できる場合もある。例えば、一般的には、電子線は、開始剤を用いずに重合させる場合に用いるため、開始剤が検出されない場合は、電子線による重合であると判断できる。また、電子写真感光体の表面形状は、電子写真感光体の表面を、レーザー顕微鏡やSEM、マイクロマップ等の公知の観察手段で、そのディンプル様の凹凸形状を観察することによって調べることができる。
(電子写真装置)
図2は、本発明の電子写真装置の一例の構成を概略的に示す図である。本発明による電子写真装置は、上述の本発明の電子写真感光体1と、電子写真感光体1の表面を帯電させる帯電手段2と、帯電した電子写真感光体1に形成すべき画像に応じたレーザー光等の光Lを照射して電子写真感光体1に静電潜像を形成させる像露光手段(図示せず)と、静電潜像が形成された電子写真感光体1にトナーを供給して静電潜像が現像されてなるトナー像を形成する現像手段3と、このトナー像を電子写真感光体1の表面から転写材7に転写させる転写手段4と、転写材7に転写されたトナー像を転写材に定着させる像定着手段8と、転写後の電子写真感光体1の表面の付着物を除去するクリーニング手段5と、クリーニング後の電子写真感光体1に静電履歴を消去するための光を照射する前露出手段6とを有する。
次に、本発明による電子写真装置の制御について説明する。電子写真感光体1は、例えば、円筒状の形状を有するものであり、軸1aを有する。電子写真感光体1は、軸1aを中心に所定の周速度で回転駆動される(図2では、矢印方向)。電子写真感光体1は、回転過程で、例えばコロナ放電を用いる非接触式の帯電装置である帯電手段2により、その周面に正又は負の所定電位の均一帯電を受ける。
次いで、電子写真感光体1は、露光部にて像露光手段によりスリット露光・レーザービーム走査露光等の光像露光Lを受ける。これにより、電子写真感光体1の周面に、露光像に対応した静電潜像が順次形成される。光Lは、電子写真装置を複写機やプリンターとして使用する場合には、原稿からの反射光若しくは透過光、又は原稿を読み取り信号化し、この信号によるレーザービームの走査、LEDアレイの駆動、若しくは液晶シャッターアレイの駆動等により電子写真感光体1に照射される光である。ファクシミリのプリンターとして使用する場合には、光Lは受信データをプリントするための露光光であってもよい。
このように形成された静電潜像には、現像スリーブ3−1を介して現像手段3から供給されるトナーが付着し、トナー像を形成する。なお、現像手段3は、例えば、トナーを収容するトナー容器と、トナー容器の開口部に回転自在に設けられている現像スリーブ3−1とを有する。
電子写真感光体1表面に形成されたトナー像は、電子写真感光体1と転写手段4との間に電子写真感光体1の回転に同期して供給された転写材7の表面に、転写手段4がコロナ放電により非接触的に印加する電圧により、順次転写される。
トナー像が転写された転写材7は、転写材7の未定着状態のトナー像を定着する像定着手段8に導入され像定着を受けた後、画像形成物(コピー)として機外へ出力される。なお、像定着手段8は、転写材7に存在する未定着トナーを転写材7に定着させ得る手段であれば特に制限されないが、例えば、転写材7を加熱するためのヒータを内蔵する定着ローラと、定着ローラに向けて転写材7を押圧するための加圧ローラとを有してもよい。
一方、トナー像が転写材7に転写された後の電子写真感光体1は、電子写真感光体1の表面に当接するクリーニングブレードを有するクリーニング手段5により、電子写真感光体1の表面に残存するトナー(残トナー)の除去を受け、清浄面化される。その後、電子写真感光体1の表面は、更に前露出手段6により除電処理されて繰り返して像形成に使用される。
本発明の電子写真装置は、本発明の電子写真感光体及び上述した手段以外の他の手段をさらに有してもよい。他の手段としては、例えば前記クリーニング手段、トナー像が転写された転写材にトナー像を定着させる定着手段、転写後又はクリーニング後の電子写真感光体の静電履歴を消去するための光を照射する前露光手段等の、電子写真の形成に関する種々の公知の手段が挙げられる。
(プロセスカートリッジ)
また、本発明による電子写真感光体は、現像手段、クリーニング手段等の構成要素のうち、1又は複数の手段を装置ユニットとして一体に結合して構成し、このユニットを装置本体に対して着脱自在に構成してなるプロセスカートリッジとして利用されてもよい。図3は、本発明のプロセスカートリッジの一例の構成を概略的に示す図である。本発明によるプロセスカートリッジは、筐体11中に、上述の電子写真感光体1と、帯電手段2と、現像手段3と、クリーニング手段5とを一体化して支持してなる。筐体11は、電子写真感光体1、帯電手段2、現像手段3、及びクリーニング手段5のそれぞれが画像形成に適した相対的な位置関係に配置されるように、これらを支持する。筐体11には、光L及び前露出手段6からの光を筐体11の外から中へ通すための開口部が設けられてもよい。
また、本発明によるプロセスカートリッジは、電子写真装置に着脱可能なように電子写真装置に案内するレール12等の案内手段が設けられてもよい。この案内手段は、転写手段4の転写位置や、前露出手段6からの光及び光Lの入射位置等に応じた画像形成位置に筐体11内の電子写真感光体1が配置されるように、筐体11を電子写真装置の本体に着脱自在に案内し、支持する。
上述の帯電手段2、現像手段3、及びクリーニング手段5は、公知の手段を用いることができ、例えば、上述の本発明による電子写真装置のものと同等の機能を有するものであってもよい。また、クリーニング手段は、クリーニングブレードと、クリーニングブレードを電子写真感光体に向けて支持するとともにクリーニングブレードが電子写真感光体の表面から除去した付着物を収容する廃トナー容器とを有するクリーニング手段であることが好ましい。また、上述の他の手段には、現像手段によって電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を転写材に転写するための転写手段等のさらなる手段が含まれていてもよい。さらに、本発明によるプロセスカートリッジは、上述の他に、電子写真の形成に関する他の手段のうちの一つ以上とを有し、電子写真の形成における少なくとも1つ以上の工程を実施する装置であってもよい。
本発明による電子写真感光体は、電子写真複写機に利用するのみならず、レーザービームプリンター、CRTプリンター、LEDプリンター、液晶プリンター、レーザー製版等の電子写真応用分野にも広く用いることができる。
次に、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
実施例1に用いる電子写真感光体を以下の通りに作製した。
まず、長さ370mm、外径84mm、肉厚3mmのアルミニウムシリンダ(JIS A3003で規定されるアルミニウムの合金)を切削加工により作製した。このシリンダを洗剤(商品名:ケミコールCT、常盤化学(株)製)を含む純水中で超音波洗浄を行い、続いて洗剤を洗い流す工程を経た後、更に純水中で超音波洗浄を行って脱脂処理した。
アンチモンをドープした酸化スズの被覆膜を有する酸化チタン粉体(商品名:クロノスECT−62、チタン工業(株)製)60質量部、酸化チタン粉体(商品名:titone SR−1T、堺化学(株)製)60質量部、レゾール型フェノール樹脂(商品名:ブライオーフェン(登録商標)J−325(大日本インキ化学工業(株)製、固形分70%)70質量部、2−メトキシ−1−プロパノール50質量部及びメタノール50質量部からなるスラリーを約20時間ボールミルで分散させて分散液を得た。この分散液に含有される粉体の平均粒径は、0.25μmであった。
このようにして調製した分散液を、上述のアルミニウムシリンダ上に浸漬法によって塗布し、これを150℃に調整した熱風乾燥機中で48分間加熱乾燥し、分散液の塗布膜を硬化させることにより、層厚15μmの導電層を形成させた。
次に、共重合ナイロン樹脂(商品名:アミラン(登録商標)CM8000、東レ(株)製)10質量部及びメトキシメチル化ナイロン樹脂(商品名:トレジンEF−30T、ナガセケムテックス(株)製)30質量部をメタノール500質量部及びブタノール250質量部の混合液に溶解した溶液を、上述の導電層の上に浸漬塗布し、これを100℃に調整した熱風乾燥機中で22分間加熱乾燥して、溶液の塗布膜を硬化させることにより、層厚み0.45μmの下引き層を形成した。
次に、CuKα特性X線回折スペクトルにおけるブラッグ角2θ±0.2°の7.4°及び28.2°に強いピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料4質量部、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)2質量部及びシクロヘキサノン90質量部からなる混合液を、直径1mmガラスビーズを用いてサンドミルで10時間分散させた後、得た混合液に酢酸エチル110質量部を加えて電荷発生層用塗工液を調製した。この塗工液を上述の下引き層上に浸漬塗布し、これを80℃に調整した熱風乾燥機中で22分間加熱乾燥して、塗工液の塗布膜を硬化させることにより、層厚0.17μmの電荷発生層を形成した。
次に、下記構造式(1)で示されるトリアリールアミン系化合物35質量部及びビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロン(登録商標)Z400、三菱エンジニアリングプラスティックス(株)製)50質量部を、モノクロロベンゼン320質量部及びジメトキシメタン50質量部の混合液に溶解して電荷輸送層用塗工液を調製した。この塗工液を上記電荷発生層上に浸漬塗布し、これを100℃に調整した熱風乾燥機中で40分間加熱乾燥して、塗工液の塗布膜を硬化させることにより、層厚20μmの第一の電荷輸送層を形成した。
次いで、硬化性の表面層である第二の電荷輸送層を以下のように作製した。
分散剤としてフッ素原子含有樹脂(商品名:GF−300、東亞合成(株)製)0.45質量部を、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(商品名:ゼオローラH、日本ゼオン(株)製)35質量部及び1−プロパノール35質量部の混液に分散した後、得た分散液に潤滑剤として四フッ化エチレン樹脂粉体(商品名:ルブロンL−2、ダイキン工業(株)製)9質量部を加え、高圧分散機(商品名:マイクロフルイダイザーM−110EH、Microfluidics社製)で5880N/cm2(600kgf/cm2)の圧力で3回の処理を施し、均一に分散させた。
得た分散液を、10μmのPTFEメンブレンフィルターで加圧ろ過を行い、潤滑剤分散液を調製した。その後、下記構造式(2)で示される正孔輸送性化合物21質量部をこの潤滑剤分散液に加え、得た潤滑剤分散液を、PTFE製の5μmメンブレンフィルターで加圧ろ過を行い、第二の電荷輸送層用塗工液を調製した。この塗工液を上述の第一の電荷輸送層上に浸漬塗布法により塗布し、硬化型表面層としての第二の電荷輸送層用の塗布膜を形成した。
その後、上述の塗布膜へ、窒素中において加速電圧150kV、線量15kGyの条件で電子線を照射し、塗布膜を硬化させたアルミニウムシリンダを得た。引き続いてシリンダの温度が120℃になる条件で90秒間加熱処理を行った。このときの酸素濃度は10ppmであった。更に、シリンダを大気中で100℃に調整した熱風乾燥機中で20分間加熱処理を行って、層厚5μmの硬化型表面層を形成し、感光体を作成した。
得た感光体は、以下のようにして粗面化処理を行った。図1に示す乾式ブラスト装置(不二精機製造所製)を用いて、下記条件にてブラスト処理を行った。
粉体として、粒径が45μm以下である球状ガラスビーズ(商品名:UB−02L 株式会社ユニオン製)を使用した。
ブラスト処理における圧縮エアの圧力は0.25MPa、噴射ノズルの回転軸方向への移動速度は220mm/分、感光体の回転速度は100rpm、ノズルと感光体との距離は100mm、ノズルの延長線とワークの接線又は回転軸とのなす角度はともに90°、粉体の供給量は200g/分に設定した。
以上の条件で、感光体の上端よりも5cm上から、下端よりも下5cmまで噴射ノズルを走査し、感光体の表面が全面粗面化処理されるまでブラストを行い、表面の粗面化された電子写真感光体を作製した。
このようにして得た電子写真感光体について、表面の評価を、表面形状測定システム(Surface Explorer SX−520DR型機、株式会社菱化システム製)を使用して評価した。
ドラムサンプルをワーク置き台に設置し、チルト調整して水平をあわせ、ウエーブモードで電子写真感光体の表面の3次元形状データを取り込んだ。その際、対物レンズは20倍の倍率を用いて616μm×810μmの視野観察で行った。
次に、データ解析ソフト中の、「等高線2」と称するプログラムを用いて、表面の3次元の算術平均粗さ(Sa)を算出した。
また、データ解析ソフト中の、「ベアリング」と称するプログラムを用いて、上述の(Rdv)を算出した。これらの評価結果を表1に示す。
クリーニング性の評価は、電子写真複写機(商品名:iR C6800、キヤノン(株)製)を、本実施例の負帯電有機感光体(電子写真感光体)が装着できるように改造した装置を用いて、以下の通り評価した。
感光体表面の残存トナーの除去工程は、イソシアネート化合物及びポリウレタン樹脂が反応してなる0.12mm以上1.2mm以下の厚みの硬化層を有するクリーニングブレードを電子写真感光体に当接させて行った。クリーニングブレードの線圧は40g/cmとした。また、クリーニングブレードの設定角(図3において、クリーニング手段5と電子写真感光体1の接点における法線と、クリーニング手段5の延出方向とのなす角度のうち鋭角となる方の角度)を24°に設定した。
この複写機に、評価対象の電子写真感光体を装着して、以下のように電位を設定し、繰り返し使用時のクリーニング性を評価した。まず、23℃/50%RHの環境下で、電子写真感光体の暗部電位(Vd)、明部電位(Vl)をそれぞれVd=−700(V)、Vl=−200(V)となるように電位の条件を設定し、評価するそれぞれの電子写真感光体の初期電位を調整した。
初期のクリーニング性を評価する目的で、A4横サイズ、画像比率10%で解像度と色の階調性が評価できるように作成されたテスト画像、フルカラー、連続2枚画像出力を500回繰り返して、合計1000枚耐久評価する中で結果を比較した。
さらに、表面形状が平坦化していった場合のクリーニング性を確認する目的で、上記の評価を継続し、連続2枚画像出力を50000回繰り返して、合計100000枚耐久評価する中で結果を比較した。
クリーニング性の評価は、出力画像、ブレード鳴き、ブレードめくれ、(スジ状の)トナーのすり抜けの発生状況を評価した。ここで、「ブレード鳴き」とは、クリーニングブレードと感光体の間の摩擦力が高すぎるために、それらが摺擦されるとき、又は感光体が停止するときに、ブレードが音を立てる状態をいう。そのような場合には、ブレードは感光体の回転方向に引きずられ、クリーニング性に問題が発生する場合が多い。「ブレードめくれ」も同様に、摩擦力が高すぎるために、感光体の回転方向にブレードが引きずられ、完全に持っていかれてしまい、反転してしまう状態をいう。「スジ状のトナーすり抜け」とは、クリーニングブレードのうち、何らかの原因でクリーニングできなくなったある箇所からトナーがすり抜け、この除去されないトナーが感光体上にスジ状に残ってしまう状態をいう。
このようにして得た評価結果を表1に示す。
<実施例2>
実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。引き続き、ブラスト処理における圧縮エアの圧力を0.40MPaとした以外は実施例1と同様にして表面の粗面化を行った。
得た表面の粗面化された電子写真感光体を、実施例1で用いた電子写真装置に装着してクリーニング性の評価を行った。結果を表1に示す。
<実施例3>
実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。引き続き、ブラスト処理における圧縮エアの圧力を0.17MPaとした以外は実施例1と同様にして表面の粗面化を行った。
得た表面の粗面化された電子写真感光体を、実施例1で用いた電子写真装置に装着してクリーニング性の評価を行った。結果を表1に示す。
<実施例4>
実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。引き続き、ブラスト処理における圧縮エアの圧力を0.40MPa、粉体の供給量を400g/分とし、処理回数を3回とした以外は実施例1と同様にして表面の粗面化を行った。
得た表面の粗面化された電子写真感光体を、実施例1で用いた電子写真装置に装着してクリーニング性の評価を行った。結果を表1に示す。
<比較例1>
実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。引き続き、粒径38μm以下の銀コートガラスビーズ(商品名:UBS−0030S 株式会社ユニオン製)を使用し、粉体の供給量を100g/分、圧縮エアの圧力を0.40MPaとした以外は実施例1と同様にして、感光体表面の粗面化を行った。
得た表面の粗面化された電子写真感光体を、実施例1で用いた電子写真装置に装着してクリーニング性の評価を行った。結果を表2に示す。
この感光体は評価初期からブレードの鳴き、トナーのすり抜けが発生し、画像にもスジ状の画像不良が現れたため評価を中止した。
<比較例2>
実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。引き続き、ブラスト処理における圧縮エアの圧力を0.10MPa、粉体の供給量を100g/分とした以外は実施例1と同様にして表面の粗面化を行った。
得た表面の粗面化された電子写真感光体を、実施例1で用いた電子写真装置に装着してクリーニング性の評価を行った。結果を表2に示す。
この感光体は評価初期からブレードの鳴き、ブレードのめくれが発生したため、直ちに評価を中止した。
<比較例3>
実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。引き続き、アルミナビーズ(商品名:CB−A30S 昭和タイタニウム株式会社製)を使用し、圧縮エアの圧力を、0.18MPaとした以外は実施例1と同様にして表面の粗面化を行った。
得た表面の粗面化された電子写真感光体を、実施例1で用いた電子写真装置に装着してクリーニング性の評価を行った。結果を表2に示す。
この感光体は評価初期からトナーのすり抜けが発生し、画像にもスジ状の画像不良が現れたため評価を中止した。
<比較例4>
実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。引き続き、ブラスト処理における圧縮エアの圧力を0.40MPa、粉体の供給量を400g/分とし、感光体に覆いを設けた以外は実施例1と同様にして表面の粗面化を行った。感光体の覆いとは、粉体を吹き付けている方向以外の三方を遮蔽するように、ゴムの板をコの字型に配置したもので、感光体表面と覆いの距離を100mmとした。
得た表面の粗面化された電子写真感光体を、実施例1で用いた電子写真装置に装着してクリーニング性の評価を行った。結果を表2に示す。
なお、この感光体は、クリーニング性評価の初期から長期使用後にかけて、画像上にキズ形状の白抜けが現れた。
表1と表2とを比較して分かるように、本発明の電子写真感光体を用いることで、初期の場合、又は表面形状が平坦化していった場合ともに、ブレード鳴き、ブレードめくれ、(スジ状の)トナーのすり抜けの問題がなく、良好な出力画像が得られた。