JP2007063269A - 多孔性金属錯体の製造方法、多孔性金属錯体、吸着材、分離材、ガス吸着材及び水素吸着材 - Google Patents

多孔性金属錯体の製造方法、多孔性金属錯体、吸着材、分離材、ガス吸着材及び水素吸着材 Download PDF

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Abstract

【課題】 反応時間の短縮及び収率の増加が可能な多孔性金属錯体の製造方法を提供する。
【解決手段】 中心金属と、複素環骨格及びカルボキシレート基を有する有機配位子とを備える金属錯体の三次元的多孔性骨格構造を含む多孔性金属錯体の製造方法であって、有機配位子の塩を複素環カルボン酸金属塩として調製し、中心金属の塩を第2の金属塩として調製し、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩を反応させる。
【選択図】 なし

Description

この発明は、多孔性金属錯体の製造方法、多孔性金属錯体、吸着材、分離材、ガス吸着材及び水素吸着材に関する。
近年、燃料電池車両に搭載するための固体高分子型燃料電池の開発競争が活発に繰り広げられている。このような燃料電池車両の実用化のために、低コスト、軽量で、かつ吸蔵密度の高い水素吸蔵材料を用いる効率的な水素吸蔵方法の開発が望まれている。
そこで、金属イオンと有機配位子からなる二次元格子構造を単位モチーフとして三次元的に積層した骨格構造を有する多孔性の有機金属錯体を用いた水素吸蔵材料が提案され(特許文献1、特許文献2参照)、メタン、窒素、水素などのガス吸着材として注目されている。中でも、例えばテトラジン、トリアジンなどの含窒素複素環骨格を有機配位子として用いた有機金属錯体は、水素とのアフィニティが向上するため水素吸蔵材料として好適であることが見出されている(特許文献3、非特許文献1、非特許文献2参照)。
特開2001−348361号公報 米国特許出願公開第2003/0004364号明細書 特開2005−93181号公報 エム・エダウディ(M.Eddaoudi),エイチ・リー(H.Li), オウ・エム・ヤギ(O.M.Yaghi)著,「ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(J.Am.Chem.Soc.)」,2000年,第122号,p.1391−1397 エヌ・エル・ロージー(N.L.Rosi)外,「サイエンス(Science)」,2003年,第300号,p.1127−1129
しかしながら、有機配位子となる複素環カルボン酸化合物は、有機金属錯体を得るために使用される溶媒への溶解度が低く、溶媒必要量が多くなる。一度に合成できる量が限られ、これを増やそうとすると多量の溶媒を必要とする。また、複素環カルボン酸化合物は金属塩との反応性が低く、有機金属錯体を得るためには長い反応時間が必要である。この反応時間を短くするために反応温度を上げると副反応が多くなり、目的とする有機金属錯体の収率が低くなることがある。中間体が不安定な化合物では、収率の低下がより顕著に見られ、コスト、量産性の点で問題がある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明に係る多孔性金属錯体の製造方法は、中心金属と、複素環骨格及びカルボキシレート基を有する有機配位子とを備える金属錯体の三次元的多孔性骨格構造を含む多孔性金属錯体の製造方法であって、有機配位子の塩を複素環カルボン酸金属塩として調製し、中心金属の塩を第2の金属塩として調製し、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩を反応させることを特徴とする。
本発明に係る多孔性金属錯体は、本発明に係る多孔性金属錯体の製造方法により得られたことを特徴とする。
本発明に係る吸着材は、本発明に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とする。
本発明に係る分離材は、本発明に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とする。
本発明に係るガス吸着材は、本発明に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とする。
本発明に係る水素吸着材は、本発明に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とする。
本発明によれば、複素環カルボン酸金属塩は、複素環カルボン酸よりも解離しやすく、溶解度が高いので、従来に比べて必要溶媒量が少なくてすみ、反応時間も短縮できる。また、複素環カルボン酸金属塩が解離しやすいため、第2の金属塩との反応性が高く、反応温度の低下、単位時間当たりの生産性及び収率の増加を期待でき、製造コストを削減できる。
本発明によれば、多孔性金属錯体が効率良く安価に得られる。
本発明によれば、本発明に係る多孔性金属錯体を用いるので、安価な吸着材、分離材、ガス吸着材及び水素吸着材を効率よく得られる。
以下、本発明の実施の形態に係る多孔性金属錯体の製造方法、多孔性金属錯体、吸着材、分離材、ガス吸着材及び水素吸着材を説明する。
第一実施形態
本発明の第一実施形態に係る多孔性金属錯体(多孔性架橋金属錯体)の製造方法について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る多孔性金属錯体の一例の結晶構造1(以下、しばしば三次元的多孔性骨格構造1とする)を示す模式図である。この結晶構造1は、2個の銅イオンを中心金属2とした二核錯体であり、中心金属2の周りにRで示す構造を有する置換基からなる複素環カルボン酸イオンが有機配位子として配位されて配位結合部3を形成している。各複素環カルボン酸イオンは2つのカルボキシレート基を有し、このカルボキシレート基の2つの酸素原子を介して中心金属2である銅イオンに配位することにより、2つの銅イオンを4つの格子点とする環(空隙)が縮合した格子状の2次元構造(複素環カルボン酸金属錯体)M1が形成されている。この二次元格子構造M1を単位モチーフ、つまり、基本的繰り返しパターンとして積層し、各二次元格子構造M1を架橋配位子4であるトリエチレンジアミンで架橋することにより三次元的多孔性骨格構造からなる架橋金属錯体が形成されている。架橋配位子4であるトリエチレンジアミンは、2個の配位基で中心金属2である銅イオンに配位している二座配位子である。この構造では、中心金属2と配位結合部3によって画成された空隙GP1を有し、複数の二次元構造M1の各空隙列がc軸方向に一列に整列し、一次元のチャネルを複数形成している。
このような構造を有する多孔性金属錯体の三次元的多孔性骨格構造1の二次元格子構造M1は、有機配位子の塩を複素環カルボン酸金属塩として調製し、中心金属2の塩を第2の金属塩として調製し、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩を反応させることによって製造する。複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩を反応させた後の反応液に中心金属に2座配位可能な架橋配位子を加えることにより、架橋配位子4が中心金属2と複素環骨格及びカルボキシレート基を有する有機配位子によって形成された二次元構造M1間を架橋して三次元的多孔性骨格構造1を形成する。この反応では、有機配位子となる化合物を金属塩とすることで解離しやすくなり、溶媒に対して溶解度が高くなるので、従来に比べて必要溶媒量が少なくてすみ、反応時間も短縮できる。また、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩は解離しやすいので反応性が高く、反応温度の低下、単位時間当たりの生産性及び収率の増加が期待でき、製造コストを削減できる。
ここで一例として、図2(a)に本発明の第一実施形態に係る化学反応を、図2(b)に従来例における化学反応を示す。図2(b)に示すように、従来例では有機配位子となる化合物として複素環カルボン酸を用い、溶媒中で中心金属となる金属塩と反応させている。この反応では、溶媒中における複素環カルボン酸の解離定数が低く溶解度が低いため、反応終了時間が長く、反応収率も低い。これに対し、図2(a)に示すように有機配位子となる化合物として複素環カルボン酸金属塩を使用した場合には、この化合物は溶媒に易溶であり、容易にイオン化して反応が進む。このため、従来例よりも短時間で反応が終了し、反応収率も従来例と比べて高くなる。
複素環カルボン酸金属塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を含むことが好ましい。複素環カルボン酸金属塩がアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩である場合には、カルボン酸の脱プロトン化と比較して複素環カルボン酸金属塩が溶媒中でカルボキシレート基と金属イオンに解離しやすい。このため、複素環カルボン酸金属塩は、複素環カルボン酸よりも解離しやすく、溶解度が高いので、従来に比べて必要溶媒量が少なくてすみ、反応時間も短縮できる。また、複素環カルボン酸金属塩が解離しやすいため、第2の金属塩との反応性が高く、反応温度の低下、単位時間当たりの生産性及び収率の増加を期待でき、製造コストを削減できる。
複素環カルボン酸金属塩は、次の一般式(I)
(XOOC)n1−R−(COOX’)n2 ・・・(I)
(ただし、Rは複素環を含み、Xは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、X’はXと同一又は異なるアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、n1及びn2は整数を示し、1≦n1≦8、0≦n2≦8である。)で表される複素環カルボン酸誘導体からなることが好ましい。
上記の一般式(I)において、Xは、Na(ナトリウム)又はK(カリウム)からなることが好ましい。XがNa又はKである場合には、従来に比べ、多孔性金属錯体が効率良く安価に得られる。また、Rはアリール基もしくはアリーレン基を含むことが好ましく、アリール基、アリーレン基は置換基を有していても良い。また、Rは環骨格内にN、O、S、P、B、As、Si、Sb及びHgを含む元素群から選択される元素を含むことが好ましい。
このRは、次の一般式(II)〜(XXVII)
Figure 2007063269
のいずれか一つで表される構造を有する置換基を含むことが好ましい。一般式(II)〜(XXVII)において、カルボキシレート基は環のどの位置に結合していても良く、このカルボキシレート基の2つの酸素原子が中心金属に配位することにより二次元格子構造M1を形成する。また、異なる複素環カルボン酸有機配位子を用いることができるため、水素とのアフィニティや細孔の形、径を変化させた多孔性の架橋金属錯体を、従来に比べ、安価で高効率に製造することができる。
第2の金属塩は、2〜4価の金属を含む金属群から選択された金属を含むことが好ましく、特に、第2の金属塩は2価の金属を含むことが好ましい。この場合には、第2の金属塩が溶媒中で解離して金属がイオン化するため、複素環カルボン酸金属塩との反応が促進される。このため、従来に比べ、反応時間も短縮でき、反応温度の低下、収率の増加が可能となる。なお、この第2の金属塩は、Cu、Zn、Mo、Ru、Cr、Ni及びRhを含む金属群から選択された金属を含むことがより好ましい。また、第2の金属塩は、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及び蟻酸塩を含む金属塩群から選択される金属塩を含むことが好ましい。
複素環カルボン酸金属塩の調製は、複素環カルボン酸金属塩を第1の溶媒に溶解して第1の溶液を得ることを含み、第2の金属塩の調製は、第2の金属塩を第2の溶媒に溶解して第2の溶液を得ることを含み、反応は、第1及び第2の溶液を混合することを含む。第1及び第2の溶液を混合することにより、複素環カルボン酸金属塩の解離により生成した複素環カルボン酸イオンと第2の金属塩の解離により生成した金属イオンが反応し、二次元格子構造M1が生成する。更に、架橋配位子を加えることにより、二次元格子構造M1と架橋配位子による架橋反応が進み、三次元的多孔性骨格構造を有する架橋金属錯体が形成する。
なお、複素環カルボン酸金属塩の調製、第2の金属塩の調製及び反応のいずれか一つは、第1又は第2の溶液に超音波を照射することを含んでもよい。この場合には、複素環カルボン酸金属塩と第2の金属塩との反応、又は複素環カルボン酸金属塩と架橋配位子との反応が促進されるため、従来に比べて反応時間の低下、反応温度の低下及び反応収率の増加が可能となる。
第1及び第2の溶媒の一方は、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルホルムアミド、水、アルコール類、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、アセトン及びアセトニトリルを含む溶媒群から選択された溶媒を含むことが好ましい。アルコールは、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等が使用可能である。これらの溶媒は、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩を溶解するが、目的物である金属錯体を溶解しないため、効率良く目的物を得ることが可能となる。中でも、第1及び第2の溶媒の一方は、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルホルムアミド、水、アルコール類を含む溶媒群から選択された溶媒を含むことが好ましい。また、第1及び第2の溶媒が同じ溶媒でも構わない。
多孔性金属錯体は、1[L]の水に500[mg]の割合で溶解したときに8〜10のpHを有することが好ましい。pHが8〜10の範囲にある場合には、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩が溶媒中で解離しやすくなるため溶媒への溶解度が上がり、反応が促進される。またpH8以下にするためには、化合物洗浄工程が必要となるためコスト高の原因となる。一方pH10以上では、残留イオンが多孔性金属錯体を用いた吸着材、分離材及びガス吸着材の性能に悪影響を与える場合がある。
反応は、1[L]の水に500[mg]の割合で溶解したときに10〜500[ppm]の濃度を有する硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、蟻酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム及び蟻酸カリウムを含む金属塩群から選択された、金属塩を副生成物として得ることを含むことが好ましい。これらの副生成物は反応速度が大きいため、複素環カルボン酸金属塩と第2の金属塩の反応が促進される。このため、反応時間の低下、反応温度の低下及び反応収率の増加が可能となる。
この多孔性金属錯体の製造方法により生成した多孔性金属錯体は、中心金属とカルボキシレート基を有する有機配位子とを備え、中心金属の周りに有機配位子が配位される。各有機配位子は2つのカルボキシレート基を有し、各カルボキシレート基がそれぞれ2つの酸素原子を介して異なる中心金属に配位することにより、中心金属を格子点とする環(空隙)が縮合した格子状の二次元構造が形成される。この二次元格子構造を単位モチーフ、つまり、基本的繰り返しパターンとして積層し、各二次元格子構造を架橋配位子で架橋することにより三次元的多孔性骨格構造が形成される。架橋配位子は、2個の配位基で中心金属に配位している二座配位子である。この構造では、複数の二次元構造の各空隙列が一列に整列するため、一次元のチャネルを複数形成する。
この多孔性金属錯体において、二次元格子構造の単位モチーフを積層した三次元的多孔性骨格構造は空隙を画成する骨格部であり、各空隙の細孔径は0.3〜2.0[nm]の大きさである。そして、この細孔径より小さな気体又は液体分子を骨格構造に取り込むことが可能である。この骨格構造は比較的強い結合である配位結合により形成されているため強固であり、気体又は液体分子を除去してもその骨格構造が安定に維持される。このため、気体又は液体分子を可逆的に取り込むことが可能である。なお、この多孔性金属錯体は上記副生成物を残留物として含む。上記副生成物を残留物として含む場合には、出発物質が複素環カルボン酸金属塩と第2の金属塩であることが示される。
以上説明した多孔性金属錯体(多孔性架橋金属錯体)の製造方法では、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩は解離しやすく、溶解度が高いため、従来に比べて必要溶媒量が少なくてすみ、反応時間も短縮できる。また、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩は解離しやすいので反応性が高く、反応温度の低下、単位時間当たりの生産性及び収率の増加を期待でき、製造コストを削減できる。このように、この製造方法により多孔性金属錯体を効率良く安価に得られる。また、この製造方法により得られた多孔性金属錯体を用いて吸着材、分離材、ガス吸着材及び水素吸着材を製造した場合には、従来に比べて効率良く安価に得られる。
第二実施形態
次に、本発明の第二実施形態に係る多孔性金属錯体(多孔性架橋金属錯体)の製造方法について説明する。本実施の形態に係る多孔性金属錯体の製造方法は、図1に示す多孔性金属錯体の三次元的多孔性骨格構造1を、有機配位子の塩を複素環カルボン酸金属塩として調製し、中心金属2の塩を第2の金属塩として調製し、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩を反応させ、この反応において、中心金属に2座配位可能な架橋配位子を、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩と同時に加えることによって製造する。本実施の形態では、複素環カルボン酸金属塩と第2の金属塩との反応の際に、中心金属2に2座配位可能な架橋配位子4を加えることにより、二次元格子構造M1からなる単位モチーフが形成されると同時に、架橋配位子4が二次元格子構造M1間を架橋して三次元的多孔性骨格構造1を形成する。この反応において、有機配位子となる化合物を金属塩とすることで化合物が解離しやすくなり、溶媒に対して溶解度が高くなるため、従来に比べて必要溶媒量が少なくてすみ、反応時間も短縮できる。また、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩は解離しやすいので反応性が高く、反応温度の低下、単位時間当たりの生産性及び収率の増加が期待でき、製造コストを削減できる。
さらに、従来では、二次元格子構造M1を架橋配位子4で架橋する場合には、金属イオンと有機配位子とから形成される二次元格子構造M1を形成した後に、この二次元格子構造M1を3次元的に積層して架橋配位子4で二次元格子構造M1間を結合するという2段階の合成法を取ることが多かった。これに対し、第二実施形態においては、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩を反応させる際に架橋配位子4となる化合物を加えることにより、二次元格子構造M1の形成と同時に各二次元格子構造M1の間を架橋配位子4によって結合することができる。このため、合成プロセスを1段階に短縮することができ、単位時間当たりの生産性及び収率の増加が期待でき、製造コストを削減できる。
ここで第二実施形態の一例として、図3(a)に第二実施形態に係る化学反応を、図3(b)に従来例における化学反応を示す。図3(b)に示すように、従来例では有機配位子となる化合物として複素環カルボン酸を用い、溶媒中で中心金属となる金属塩と反応させている。この反応では、溶媒中における複素環カルボン酸の解離定数が低く溶解度が低いため、反応終了時間が長く、反応収率も低い。また、複素環カルボン酸と金属塩とを反応させて二次元格子構造からなる金属錯体を形成し、この反応液に更に架橋配位子となる化合物を添加し、架橋金属錯体を形成する2段階の合成法を取る。これに対し、図3(a)に示すように、有機配位子となる化合物として複素環カルボン酸金属塩を使用した場合には、この化合物は溶媒に易溶であり、容易にイオン化して反応が進むため、従来例よりも短時間で反応が終了し、反応収率も従来例と比べて高くなる。また、複素環カルボン酸金属塩、第2の金属塩及び架橋配位子を同時に反応させるため、二次元格子構造M1からなる金属錯体の形成と同時に架橋配位子による架橋反応が進み、架橋金属錯体が形成する。このように、合成プロセスを1段階に短縮することができ、単位時間当たりの生産性及び収率の増加が期待でき、製造コストを削減できる。
複素環カルボン酸金属塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を含むことが好ましい。複素環カルボン酸金属塩がアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩である場合には、カルボン酸の脱プロトン化と比較して複素環カルボン酸金属塩が溶媒中でカルボキシレート基と金属イオンに解離しやすい。このため、複素環カルボン酸金属塩は、複素環カルボン酸よりも解離しやすく、溶解度が高いので、従来に比べて必要溶媒量が少なくてすみ、反応時間も短縮できる。また、複素環カルボン酸金属塩が解離しやすいため、第2の金属塩との反応性が高く、反応温度の低下、単位時間当たりの生産性及び収率の増加を期待でき、製造コストを削減できる。
複素環カルボン酸金属塩は、次の一般式(I)
(XOOC)n1−R−(COOX’)n2 ・・・(I)
(ただし、Rは複素環を含み、Xは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、X’はXと同一又は異なるアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、n1及びn2は整数を示し、1≦n1≦8、0≦n2≦8である。)で表される複素環カルボン酸誘導体からなることが好ましい。
上記の一般式(I)において、Xは、Na(ナトリウム)又はK(カリウム)を含むことが好ましい。XがNa又はKである場合には、従来に比べ、多孔性金属錯体が効率良く安価に得られる。また、Rはアリール基もしくはアリーレン基を含むことが好ましく、アリール基、アリーレン基は置換基を有していても良い。また、Rは環骨格内にN、O、S、P、B、As、Si、Sb及びHgを含む元素群から選択される元素を含むことが好ましい。
このRは、次の一般式(II)〜(XXVII)
Figure 2007063269
のいずれか一つで表される構造を有する置換基を含むことが好ましい。一般式(II)〜(XXVII)において、カルボキシレート基は環のどの位置に結合していても良く、このカルボキシレート基の2つの酸素原子が中心金属に配位することにより二次元格子構造を形成する。また、異なる複素環カルボン酸有機配位子を用いることができるため、水素とのアフィニティや細孔の形、径を変化させた複素環カルボン酸金属錯体を、従来に比べ、安価で高効率に製造することができる。
第2の金属塩は、2〜4価の金属を含む金属群から選択された金属を含むことが好ましく、特に、第2の金属塩は2価の金属を含むことが好ましい。この場合には、第2の金属塩が溶媒中で解離して金属がイオン化するため、複素環カルボン酸金属塩との反応が促進される。このため、従来に比べ、反応時間も短縮でき、反応温度の低下、収率の増加が可能となる。なお、この第2の金属塩は、Cu、Zn、Mo、Ru、Cr、Ni及びRhを含む金属群から選択された金属を含むことがより好ましい。また、第2の金属塩は、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及び蟻酸塩を含む金属塩群から選択される金属塩を含むことが好ましい。
複素環カルボン酸金属塩の調製は、複素環カルボン酸金属塩を第1の溶媒に溶解して第1の溶液を得ることを含み、第2の金属塩の調製は、第2の金属塩を第2の溶媒に溶解して第2の溶液を得ることを含み、反応は、第1及び第2の溶液を混合することを含む。また、反応は、第2の金属塩に2座配位可能な架橋配位子を加えることを含む。複素環カルボン酸金属塩及び第2の溶液を混合することにより、複素環カルボン酸金属塩の解離により生成した複素環カルボン酸イオンと第2の金属塩の解離により生成した金属イオンが反応し、二次元格子構造M1が形成する。また、反応において、同時に架橋配位子を加えることにより、二次元格子構造M1の形成と同時に二次元格子構造M1の架橋配位子による架橋反応が進み、架橋金属錯体が形成する。このため、合成プロセスを1段階に短縮することができ、単位時間当たりの生産性及び収率の増加が期待でき、製造コストを削減できる。なお、架橋配位子は第1及び第2の溶液を得る段階で加えてもよい。
なお、複素環カルボン酸金属塩の調製、第2の金属塩の調製及び反応のいずれか一つは、第1又は第2の溶液に超音波を照射することを含んでもよい。この場合には、複素環カルボン酸金属塩と第2の金属塩との反応、又は複素環カルボン酸金属塩と架橋配位子との反応が促進されるため、従来に比べて反応時間の低下、反応温度の低下及び反応収率の増加が可能となる。
また、第1及び第2の溶媒の一方は、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルホルムアミド、水、アルコール類、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、アセトン及びアセトニトリルを含む溶媒群から選択された溶媒を含むことが好ましい。アルコールは、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等が使用可能である。これらの溶媒は、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩を溶解するが、目的物である金属錯体を溶解しないため、効率良く目的物を得ることが可能となる。中でも、第1及び第2の溶媒の一方は、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルホルムアミド、水、アルコール類を含む溶媒群から選択された溶媒を含むことが好ましい。また、第1及び第2の溶媒が同じ溶媒でも構わない。
多孔性金属錯体は、1[L]の水に500[mg]の割合で溶解したときに8〜10のpHを有することが好ましい。pHが8〜10の範囲にある場合には、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩が溶媒中で解離しやすくなるため溶媒への溶解度が上がり、反応が促進される。またpH8以下にするためには、化合物洗浄工程が必要となるためコスト高の原因となる。一方pH10以上では、残留イオンが多孔性金属錯体を用いた吸着材、分離材及びガス吸着材の性能に悪影響を与える場合がある。
反応は、1[L]の水に500[mg]の割合で溶解したときに10〜500[ppm]の濃度を有する硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、蟻酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム及び蟻酸カリウムを含む金属塩群から選択された、金属塩を副生成物として得る工程を含むことことが好ましい。これらの副生成物は反応速度が大きいため、複素環カルボン酸金属塩と第2の金属塩の反応が促進される。このため、反応時間の低下、反応温度の低下及び反応収率の増加が可能となる。
この多孔性金属錯体の製造方法により生成した多孔性金属錯体は、中心金属とカルボキシレート基を有する有機配位子とを備え、中心金属の周りに有機配位子が配位される。各有機配位子は2つのカルボキシレート基を有し、各カルボキシレート基がそれぞれ2つの酸素原子を介して異なる中心金属に配位することにより、中心金属を格子点とする環(空隙)が縮合した格子状の二次元構造が形成される。この二次元格子構造を単位モチーフ、つまり、基本的繰り返しパターンとして積層し、各二次元格子構造を架橋配位子で架橋することにより三次元的多孔性骨格構造が形成される。架橋配位子は、2個の配位基で中心金属に配位している二座配位子である。この構造では、複数の二次元構造の各空隙列が一列に整列するため、一次元のチャネルを複数形成する。
この多孔性金属錯体において、二次元格子構造の単位モチーフを積層した三次元的多孔性骨格構造は空隙を画成する骨格部であり、各空隙の細孔径は0.3〜2.0[nm]の大きさである。そして、この細孔径より小さな気体又は液体分子を骨格構造に取り込むことが可能である。この骨格構造は比較的強い結合である配位結合により形成されているため強固であり、気体又は液体分子を除去してもその骨格構造が安定に維持される。このため、気体又は液体分子を可逆的に取り込むことが可能である。なお、この多孔性金属錯体は上記副生成物を残留物として含む。上記副生成物を残留物として含む場合には、出発物質が複素環カルボン酸金属塩と第2の金属塩であることが示される。
以上説明した多孔性金属錯体(多孔性架橋金属錯体)の製造方法では、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩は解離しやすく、溶解度が高いため、従来に比べて必要溶媒量が少なくてすみ、反応時間も短縮できる。また、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩は解離しやすいので反応性が高く、反応温度の低下、単位時間当たりの生産性及び収率の増加を期待でき、製造コストを削減できる。また、複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩及び架橋配位子を同時に反応させるため、二次元格子構造からなる金属錯体の形成と同時に架橋配位子による架橋反応が進み、多孔性の架橋金属錯体が形成する。このため、合成プロセスを1段階に短縮することができ、単位時間当たりの生産性及び収率の増加が期待でき、製造コストを削減できる。このように、この製造方法により多孔性金属錯体を効率良く安価に得られる。また、この製造方法により得られた多孔性金属錯体を用いて吸着材、分離材、ガス吸着材及び水素吸着材を製造した場合には、従来に比べて効率良く安価に得られる。
以下、実施例1〜実施例8及び比較例1〜比較例2により本発明の実施の形態に係る多孔性金属錯体の製造方法について更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
1.試料の調製
実施例1 {Cu(OOC−C−COO)−1/2C12の合成
複素環カルボン酸誘導体として1,2,4,5−テトラジン−3,6−ジカルボン酸二ナトリウムを、第2の金属塩として硫酸銅五水和物を、架橋配位子としてトリエチレンジアミンを用いた。まず、テトラジンジカルボン酸二ナトリウム2.14[g]を含むメタノール溶液に硫酸銅五水和物2.50[g]を含むメタノール溶液を濾過しながら加えた。加熱攪拌後、得られた反応混合物にトリエチレンジアミン0.56[g]を含むトルエン溶液を加え、更に加熱攪拌した。析出した固体を吸引濾過により回収し、真空乾燥を行い、目的物を得た。
実施例2 {Rh(OOC−C−COO)−1/2C12の合成
複素環カルボン酸誘導体として1,2,4,5−テトラジン−3,6−ジカルボン酸二ナトリウムを、第2の金属塩として酢酸ロジウム二水和物を、架橋配位子としてトリエチレンジアミンを用いた。まず、テトラジンジカルボン酸二ナトリウム2.14[g]を含むメタノール溶液に酢酸ロジウム二水和物4.78[g]を含むメタノール溶液を濾過しながら加えた。加熱攪拌後、得られた反応混合物にトリエチレンジアミン0.56[g]を含むトルエン溶液を加え、更に加熱攪拌した。析出した固体を吸引濾過により回収し、真空乾燥を行い、目的物を得た。
実施例3 {Cu(OOC−C−COO)−1/2C12の合成
複素環カルボン酸誘導体として1,2,4,5−テトラジン−3,6−ジカルボン酸のイオン交換により合成したテトラジンジカルボン酸二カリウムを、第2の金属塩として硫酸銅五水和物を、架橋配位子としてトリエチレンジアミンを用いた。まず、テトラジンジカルボン酸二カリウム2.46[g]を含むメタノール溶液に硫酸銅五水和物2.50[g]を含むメタノール溶液を濾過しながら加えた。加熱攪拌後、得られた反応混合物にトリエチレンジアミン0.56[g]を含むトルエン溶液を加え、更に加熱攪拌した。析出した固体を吸引濾過により回収し、真空乾燥を行い、目的物を得た。
実施例4 {Cu(OOC−CSH−COO)−1/2C12の合成
複素環カルボン酸誘導体として2,5−チオフェンジカルボン酸のイオン交換により合成したチオフェンジカルボン酸二ナトリウムを、第2の金属塩として硫酸銅五水和物を、架橋配位子としてトリエチレンジアミンを用いた。まず、チオフェンジカルボン酸二ナトリウム2.16[g]を含むメタノール溶液に硫酸銅五水和物2.50[g]を含むメタノール溶液を濾過しながら加えた。加熱攪拌後、得られた反応混合物にトリエチレンジアミン0.56[g]を含むトルエン溶液を加え、更に加熱攪拌した。析出した固体を吸引濾過により回収し、真空乾燥を行い、目的物を得た。
実施例5 {Cu(OOC−C−COO)−1/2C12の合成
複素環カルボン酸誘導体として1,2,4,5−テトラジン−3,6−ジカルボン酸二ナトリウムを、第2の金属塩として硫酸銅五水和物を、架橋配位子としてトリエチレンジアミンを用いた。テトラジンジカルボン酸二ナトリウム2.14[g]、硫酸銅五水和物2.50[g]、トリエチレンジアミン0.56[g]をメタノールに溶解し、攪拌後室温にて放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し、真空乾燥を行い、目的物を得た。
実施例6 {Rh(OOC−C−COO)−1/2C12の合成
複素環カルボン酸誘導体として1,2,4,5−テトラジン−3,6−ジカルボン酸二ナトリウムを、第2の金属塩として酢酸ロジウム二水和物を、架橋配位子としてトリエチレンジアミンを用いた。テトラジンジカルボン酸二ナトリウム2.14[g]、酢酸ロジウム二水和物2.39[g]、トリエチレンジアミン0.56[g]をメタノールに溶解し、攪拌後室温にて放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し、真空乾燥を行い、目的物を得た。
実施例7 {Cu(OOC−C−COO)−1/2C12の合成
複素環カルボン酸誘導体として1,2,4,5−テトラジン−3,6−ジカルボン酸のイオン交換により合成したテトラジンジカルボン酸二カリウムを、第2の金属塩として硫酸銅五水和物を、架橋配位子としてトリエチレンジアミンを用いた。テトラジンジカルボン酸二カリウム2.46[g] 、硫酸銅五水和物2.50[g]、トリエチレンジアミン0.56[g]をメタノールに溶解し、攪拌後室温にて放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し、真空乾燥を行い、目的物を得た。
実施例8 {Cu(OOC−CSH−COO)−1/2C12の合成
複素環カルボン酸誘導体として2,5−チオフェンジカルボン酸のイオン交換により合成したチオフェンジカルボン酸二ナトリウムを、第2の金属塩として硫酸銅五水和物を、架橋配位子としてトリエチレンジアミンを用いた。チオフェンジカルボン酸二ナトリウム2.16[g] 、硫酸銅五水和物2.50[g]、トリエチレンジアミン0.56[g]をメタノールに溶解し、攪拌後室温にて放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し、真空乾燥を行い、目的物を得た。
比較例1 {Cu(OOC−C−COO)−1/2C12の合成
複素環カルボン酸として1,2,4,5−テトラジン−3,6−ジカルボンを用いた。まず、テトラジンジカルボン酸0.58[g]と硫酸銅五水和物0.85[g]を無水エタノールに溶解し、反応液を室温〜40[℃]で数日間加熱攪拌した。得られた反応混合物にトリエチレンジアミン0.19[g]の無水トルエン溶液を加え、オートクレーブを用いて120[℃]で3[時間]加熱攪拌した。得られた沈殿を濾過、メタノールで洗浄し、100[℃]にて減圧乾燥することによって目的物を得た。
比較例2 {Cu(OOC−CSH−COO)−1/2C12の合成
複素環カルボン酸として2,5−チオフェンジカルボン酸を用いた。まず、チオフェンジカルボン酸0.59[g]と硫酸銅五水和物0.85[g]を無水エタノールに溶解し、反応液を室温〜40[℃]で数日間加熱攪拌した。得られた反応混合物にトリエチレンジアミン0.19[g]の無水トルエン溶液を加え、オートクレーブを用いて120[℃]で3[時間]加熱攪拌した。得られた沈殿を濾過、メタノールで洗浄し、100[℃]にて減圧乾燥することによって目的物を得た。
2.ガス貯蔵能力の測定
実施例1及び実施例2で得られた試料について、ガス貯蔵能力を測定した。測定方法は、JIS H 7201の水素吸蔵放出測定試験に従った。試料を秤量して測定用耐圧試料管に入れ、200[℃]で3[時間]真空引きして試料管内に残留しているガスを放出させて、水素が吸蔵されていない原点を得た後測定を行った。測定温度は25[℃]とした。その後大気圧まで減圧して水素放出量の確認を行った。
3.結晶構造の確認
合成した試料の結晶構造の確認にはマックスサイエンス社製X線回折装置(MXP 18VAHF)を用い、電圧40[kV]、電流300[mA]、X線波長CuKαで測定を行った。
4.組成の確認
合成した試料の組成は、元素分析により確認した。炭素、水素、窒素の確認にはJPI-5S-65-2004に記載の方法を用い、金属元素の確認には誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いた。
実施例1〜実施例8、比較例1及び比較例2において合成された金属錯体、架橋配位子、複素環カルボン酸誘導体、第2の金属塩、反応の収率及び反応終了時間を表1に示す。また、実施例1、実施例2及び比較例1で得られた試料の水素吸蔵能及び測定圧力を表2に示す。
Figure 2007063269
Figure 2007063269
まず、複素環カルボン酸誘導体と第2の金属塩とを反応させ、その反応液に架橋配位子を加えて反応させた実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例2について考察する。比較例1ではカルボン酸誘導体として複素環カルボン酸であるテトラジンカルボン酸を用い、無水エタノール中で硫酸銅五水和物と反応させている。この反応では、溶媒に対するテトラジンカルボン酸の解離定数が低く、溶解度が低いため、表1に示すように反応終了時間が長く、反応収率も低かった。これに対し、実施例1では複素環カルボン酸金属塩であるテトラジンカルボン酸二ナトリウムを使用している。テトラジンカルボン酸二ナトリウムは溶媒に易溶であるため、容易にイオン化して反応が進み、反応時間が短くなった。また、比較例1では、架橋配位子となるトリエチレンジアミンを中心金属である銅イオンに配位させるためには、テトラジンカルボン酸と硫酸銅五水和物の反応物をトリエチレンジアミンと反応させ、さらに反応中はオートクレーブにより温度及び圧力を高くしなければ反応はほとんど進まなかった。これに対し、実施例1では、オートクレーブを用いなくても反応が進み、架橋配位子であるトリエチレンジアミンが中心金属である銅イオンに配位した。このように、実施例1では比較例1よりも反応がマイルドであり、短時間で反応が終了し、反応収率も比較例1と比べて高かった。
図4に、実施例1、実施例2及び比較例1における反応速度と反応収率との関係を示す。ここで反応速度は、反応時間の逆数を示し、右にいく程反応速度が大きいことを示している。実施例1と比較例1とを比較すると、表1にあるように実施例1の反応時間は8時間、比較例1の反応時間は339時間で、実施例1の反応速度は比較例1の42.4倍(=339時間/8時間)であり、反応収率は1.3倍であった。このように、複素環カルボン酸誘導体として複素環カルボン酸金属塩を用いた場合には、複素環カルボン酸を使用するよりも反応時間が短かく、収率の増加が可能となることがわかった。
また、第2の金属塩として酢酸ロジウムを用いた実施例2及びカルボン酸誘導体としてテトラジンジカルボン酸二カリウムを用いた実施例3のいずれにおいても比較例1よりも収率が高く、カルボン酸誘導体としてテトラジンカルボン酸二ナトリウムを使用したことによる効果がみられた。実施例4と比較例2で得られた値を比較すると、表1にあるように実施例4の反応時間は13時間、比較例2の反応時間は339時間で、カルボン酸誘導体としてチオフェンジカルボン酸二カリウムを使用した場合には、実施例4は比較例2と比べて反応時間は26.1倍(=339時間/13時間)、収率は1.3倍と高くなっており、チオフェンジカルボン酸二カリウムを使用したことによる効果がみられた。なお、10[MPa]における実施例1及び実施例2での水素吸蔵能は、それぞれ0.63[wt%]及び0.66[wt%]であり、比較例1の0.52[wt%]よりも高い値だった。
次に、複素環カルボン酸金属塩、第2の金属塩、架橋配位子を同時に反応させた実施例5〜実施例8について考察する。実施例5では、テトラジンカルボン酸二ナトリウムは溶媒に易溶であるため、容易にイオン化して反応が進んだ。また、実施例5では、オートクレーブを用いなくても反応が進み、さらにテトラジンカルボン酸、硫酸銅五水和物及びトリエチレンジアミンを同時に反応させたため、実施例1では合成プロセスが2段階であったが、実施例5では合成プロセスを1段階に短縮できた。このように、実施例5では実施例1よりもさらに短時間で反応が終了し、反応収率も実施例1よりも高くなった。
図5に、実施例5、実施例7及び比較例1における反応速度と反応収率との関係を示す。実施例5と比較例1とを比較すると、実施例5の反応速度は比較例1の67.8倍であり、反応収率は1.3倍であった。また、実施例7と比較例1とを比較すると、実施例7の反応速度は比較例1の42.4倍であり、反応収率は1.2倍であった。このように、複素環カルボン酸金属塩、第2の金属塩、架橋配位子を同時に反応させた場合には、更に反応速度が上がり、反応収率も高くなることがわかった。
実施例5と同様に、複素環カルボン酸誘導体、第2の金属塩、架橋配位子を同時に反応させた実施例6では、実施例2よりも更に反応時間が短くなった。また、実施例7においても、実施例3よりも反応時間が短くなり、反応収率も高くなった。また、実施例8においても実施例4よりも反応時間が短くなった。実施例8と比較例2で得られた値を比較すると、カルボン酸誘導体としてチオフェンジカルボン酸二カリウムを使用した場合には、実施例8は比較例2と比べて反応時間は33.9倍、収率は1.3倍と高くなっており、チオフェンジカルボン酸二カリウムを使用したことによる効果がみられた。
実施例1〜実施例8、比較例1及び比較例2の結果より、本発明の実施の形態に係る多孔性金属錯体の製造方法では、複素環カルボン酸金属塩は複素環カルボン酸と比較して溶媒中で解離しやすく、溶解度が高いため、従来に比べて反応時間の短縮及び収率の増加が可能となることがわかった。また、複素環カルボン酸金属塩、第2の金属塩、架橋配位子を同時に反応させることにより、更に反応時間の短縮及び収率の増加が可能となることがわかった。
以上、本実施の形態について説明したが、上記実施の形態の開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
多孔性金属錯体の三次元構造を示す模式図である。 (a)本発明の第一実施形態に係る化学反応の一例を示す図である。(b)従来例における化学反応を示す図である。 (a)本発明の第二実施形態に係る化学反応の一例を示す図である。(b)従来例における化学反応を示す図である。 実施例1、実施例2及び比較例1における反応速度と反応収率との関係を示すグラフである。 実施例5、実施例7及び比較例1における反応速度と反応収率との関係を示すグラフである。
符号の説明
1 三次元的多孔性骨格構造
2 中心金属
3 配位結合部
4 架橋配位子
M1 二次元格子構造

Claims (26)

  1. 中心金属と、複素環骨格及びカルボキシレート基を有する有機配位子とを備える金属錯体の三次元的多孔性骨格構造を含む多孔性金属錯体の製造方法であって、
    前記有機配位子の塩を複素環カルボン酸金属塩として調製し、
    前記中心金属の塩を第2の金属塩として調製し、
    前記複素環カルボン酸金属塩及び第2の金属塩を反応させることを特徴とする多孔性金属錯体の製造方法。
  2. 前記反応において、前記中心金属に2座配位可能な架橋配位子を加えることを特徴とする請求項1に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  3. 前記反応において、前記架橋配位子を同時に加えることを特徴とする請求項2に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  4. 前記架橋配位子は、トリエチレンジアミン又はピラジンを含むことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  5. 前記複素環カルボン酸金属塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  6. 前記複素環カルボン酸金属塩は、次の一般式(I)
    (XOOC)n1−R−(COOX’)n2 ・・・(I)
    (ただし、Rは複素環を含み、Xは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、X’はXと同一又は異なるアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、n1及びn2は整数を示し、1≦n1≦8、0≦n2≦8である。)で表される複素環カルボン酸誘導体を含むことを特徴とする請求項5に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  7. 前記Xは、Na又はKを含むことを特徴とする請求項6に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  8. 前記Rは環骨格内にN、O、S、P、B、As、Si、Sb及びHgを含む元素群から選択される元素を含むことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  9. 前記Rは、次の一般式(II)〜(XXVII)
    Figure 2007063269
    のいずれか一つで表される構造を有する置換基を含むことを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれか一項に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  10. 前記第2の金属塩は、2〜4価の金属を含む金属群から選択された金属を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  11. 前記第2の金属塩は2価の金属を含むことを特徴とする請求項10に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  12. 前記第2の金属塩は、Cu、Zn、Mo、Ru、Cr、Ni及びRhを含む金属群から選択された金属を含むことを特徴とする請求項11に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  13. 前記第2の金属塩は、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及び蟻酸塩を含む金属塩群から選択される金属塩を含むことを特徴とする請求項10乃至請求項12のいずれか一項に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  14. 前記複素環カルボン酸金属塩の調製は、前記複素環カルボン酸金属塩を第1の溶媒に溶解して第1の溶液を得ることを含み、
    前記第2の金属塩の調製は、前記第2の金属塩を第2の溶媒に溶解して第2の溶液を得ることを含み、
    前記反応は、前記第1及び第2の溶液を混合することを含むことを特徴とする請求項1に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  15. 前記第1及び第2の溶媒の一方は、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルホルムアミド、水、アルコール類、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、アセトン及びアセトニトリルを含む溶媒群から選択された溶媒を含むことを特徴とする請求項14に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  16. 前記第1及び第2の溶媒の一方は、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルホルムアミド、水、アルコール類を含む溶媒群から選択された溶媒を含むことを特徴とする請求項15に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  17. 前記複素環カルボン酸金属塩の調製、前記第2の金属塩の調製及び前記反応のいずれか一つは、前記第1又は第2の溶液に超音波を照射することを含むことを特徴とする請求項14乃至請求項16のいずれか一項に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  18. 前記多孔性金属錯体は、1[L]の水に500[mg]の割合で溶解したときに8〜10のpHを有することを特徴とする請求項1乃至請求項17のいずれか一項に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  19. 前記反応は、1[L]の水に500[mg]の割合で溶解したときに10〜500[ppm]の濃度を有する硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、蟻酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム及び蟻酸カリウムを含む金属塩群から選択された、金属塩を副生成物として得ることを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項18のいずれか一項に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
  20. 請求項1乃至請求項19のいずれか一項に係る多孔性金属錯体の製造方法により得られたことを特徴とする多孔性金属錯体。
  21. 前記多孔性金属錯体は、請求項19に係る副生成物を残留物として含むことを特徴とする請求項20に記載の多孔性金属錯体。
  22. 前記骨格構造内に取り込まれた気体又は液体を有することを特徴とする請求項20又は請求項21に記載の多孔性金属錯体。
  23. 請求項20乃至請求項22のいずれか一項に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とする吸着材。
  24. 請求項20乃至請求項22のいずれか一項に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とする分離材。
  25. 請求項20乃至請求項22のいずれか一項に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とするガス吸着材。
  26. 請求項20乃至請求項22のいずれか一項に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とする水素吸着材。
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