JP2007044922A - プレコート金属板とその製造方法,及び塗装金属成形物 - Google Patents

プレコート金属板とその製造方法,及び塗装金属成形物 Download PDF

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Abstract

【課題】 本発明は,深絞り成形を行っても加工部で塗膜の光沢低下が起こり難いプレス成形性に優れた高光沢のプレコート金属板とその製造方法及び塗装金属成形物を提供する。
【解決手段】 金属板の片面又は両面に1層又は2層以上の塗膜層を有するプレコート金属板において,最表層の塗膜は,ガラス転移温度が5〜30℃で,23℃での硬度が5mN荷重下でのユニバーサル硬度で2.5N/mm以上で,23℃での破断伸び率が100%以上の物性であり,且つ,最表層の塗膜の鏡面光沢度が入射角及び受光角が60°の条件で測定したときに60%以上であることを特徴とするプレコート金属板とその製造方法及び塗装金属成形物である。
【選択図】 なし

Description

本発明は,高光沢でプレス成形性に優れたプレコート金属板に関するものであり,特に,家電用,建材用,土木用,機械用,自動車用,家具用,容器用等において,プレス成形性に優れる深絞り成形用プレコート金属板とその製造方法及び塗装金属成形物に関する。
家電用,建材用,自動車用等に,従来の加工後塗装されていたポスト塗装製品に代わって,着色した塗膜を被覆したプレコート金属板が使用されるようになってきている。特に,近年ではプレコート金属板の加工形状も多様化し,プレコート金属板を深絞り成形によって加工する場合が増加している。プレコート金属板をプレス機械で成形加工した場合,加工部での塗膜割れや塗膜剥離の問題に加えて,プレス加工時のプレス金型による塗膜のカジリと呼ばれる欠陥が問題となる。塗膜のカジリとは,プレス時にプレス金型と塗膜表面とが擦れ,このせん断力により塗膜が剥離してしまう,又は,削り取られてしまう現象である。
このようなプレコート金属板を絞り加工したときの塗膜欠陥の問題を解決するために,様々な技術が公開されている。例えば,特許文献1には,プレコート金属板に塗装する塗膜のゴム状平衡弾性率を小さくすることで,深絞り加工時の塗膜の割れや剥離の発生を抑制させる技術が公開されている。また,特許文献2には,プレコート金属板にシランカップリング剤,タンニン酸,微粒シリカ,樹脂を含んだ化成処理を施し,かつ,リン酸系顔料を含むプライマー塗膜を被覆することで連続プレス加工時の塗膜のカジリを抑制する技術が公開されている。
特開2001−323389号公報 特開2003−166079号公報
一方,プレコート金属板を深絞り成形した場合,成形加工部で光沢が低下するという問題もあった。したがって,プレコート金属板を深絞り成形するためには成形加工部での光沢低下が目立ち難い,低光沢のプレコート金属板を使用することが一般的であった。しかしながら,プレコート金属板を用いた深絞り成形が普及するに従い,深絞り成形しても加工部で光沢が低下し難いプレコート金属板の要望が高まってきた。
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,深絞り成形を行っても加工部で光沢が低下し難い高光沢の深絞り成形用プレコート金属板とその製造方法及び塗装金属成形物を提供することを目的とする。
本発明者らは,深絞り成形を行っても加工部で光沢が低下し難いプレコート金属板を開発すべく鋭意検討を行った結果,加工部での光沢の低下は加工部で塗膜に歪が作用したときに多数発生する塗膜の局部伸びが原因であることを明らかとした。塗膜に局部伸びが発生すると,局部的に伸びた箇所は,伸びていない箇所と比べて塗膜が薄くなるため,微細な凹凸が形成される。そして,この凹凸部分で光が乱反射されるため,マクロにみると光沢が低下して見えてしまう。
このような点に着目して,本発明者らは,加工変形を受けたときに局部伸びが発生し難い塗膜について研究を行った結果,塗膜のガラス転移温度(以降Tgと称す)が30℃以下のものであれば,局部伸びが発生し難いことを見出した。しかしながら,その一方で,このように塗膜のTgが低いプレコート金属板は塗膜が柔らかいため,深絞り成形時に塗膜のカジリが発生し易くなる課題が新たに発生した。そこで,本発明者らは,この塗膜の架橋密度を調整して塗膜硬度と塗膜の破断伸び率を制御することで,Tgが30℃以下の塗膜でも深絞り成形時の塗膜のカジリが発生し難いことを見出した。
本発明は,かかる知見を基に完成されたものであって,本発明がその要旨とするところは,以下の通りである。
(1) 金属板の片面又は両面に1層又は2層以上の塗膜層を有するプレコート金属板において:前記塗膜層のうち最表層の塗膜は,(A)ガラス転移温度が5〜30℃であり,(B)23℃での硬度が5mN荷重下でのユニバーサル硬度で2.5N/mm以上であり,(C)23℃での破断伸び率が100%以上であり,且つ,(D)前記最表層の塗膜の鏡面光沢度が入射角及び受光角がそれぞれ60°の条件で測定したときに60%以上であることを特徴とする,プレコート金属板。
(2) 前記塗膜層は,2層以上であり,前記塗膜層のうち最下層の塗膜にリン系化合物を含むことを特徴とする,(1)に記載のプレコート金属板。
(3) 前記塗膜層は,2層以上であり,前記各塗膜層間の界面のうち少なくとも1つの界面のRa(算術平均粗さ)が0.3〜0.8μmであることを特徴とする,(1)又は(2)に記載のプレコート金属板。
(4) (2)又は(3)に記載のプレコート金属板の製造方法であって:前記塗膜層のうち少なくとも2層を,多層同時塗布又はウェットオンウェット方式により塗布することを特徴とする,プレコート金属板の製造方法。
(5) (1)〜(3)のいずれかに記載のプレコート金属板を25mm以上の成形高さに深絞り成形加工してなることを特徴とする,塗装金属成形物。
(6) 25mm以上の成形高さに深絞り成形加工してなる塗装金属成形物であって:少なくとも外面に1層又は2層以上の塗膜層を有し,前記塗膜層のうち最表層の塗膜は,(A)ガラス転移温度が5〜30℃であり,(B)23℃での硬度が5mN荷重下でのユニバーサル硬度で2.5N/mm以上であり,且つ,(D)前記最表層の塗膜の鏡面光沢度が入射角及び受光角が60°の条件で測定したときに60%以上である光沢部分を有することを特徴とする,塗装金属成形物。
(7) 前記塗膜層は2層以上であり,前記光沢部分は,前記各塗膜層間の界面のうち少なくとも1つの界面のRa(算術平均粗さ)が0.3〜0.8μmであることを特徴とする,(6)記載の塗装金属成形物。
(8) 前記光沢部分が,深絞り加工の底面であることを特徴とする,(6)又は(7)に記載の塗装金属成形物。
本発明によれば,深絞り成形を行っても加工部で光沢が低下し難く,プレス成形性に優れる高光沢のプレコート金属板とその製造方法及び塗装金属成形物を提供することができる。したがって,本発明によれば,これまでポストコートでしか対応ができなかった複雑な形状を有する成形部品がプレコート金属板を用いて製造することが可能となった。
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
本発明のプレコート金属板は,金属板の片面又は両面に少なくとも1層の塗膜層を有する。ここで,上記塗膜層のうち最表層の塗膜は,(A)Tgが5〜30℃で,(B)23℃,5mN荷重下での硬度がユニバーサル硬度で2.5N/mm以上で,(C)23℃での破断伸び率が100%以上の物性であり,且つ,(D)最表層の塗膜の鏡面光沢度が入射角及び反射角が60°の条件で60%以上であることを特徴としている。
本発明のプレコート金属板に用いる塗膜層は,一般に公知の塗膜,例えば,ポリエステル樹脂系,エポキシ樹脂系,ウレタン樹脂系,アクリル樹脂系,メラミン樹脂系の塗膜を用いることができる。これらの塗膜は顔料を全く含まないクリヤー塗料として用いても良いし,顔料を含んだものでも良い。また,一般に公知の硬化剤,例えばメラミン樹脂,イソシアネート等を添加すると塗膜硬度が高くなるため,より好適である。
本発明のプレコート金属板における最表面の塗膜のTgとは,顔料や硬化剤を含む塗膜の場合にはこれらを添加した後の塗膜のバルクとしてのTgのことである。塗膜のTgは,プレコート金属板に塗装された塗膜を剥離して,示差走査熱量分析装置(一般に,DSCと呼ばれる)を用いて測定しても良いし,プレコート金属板として塗装された状態で熱機械分析装置(一般に,TMAと呼ばれる)を用いて測定しても良い。また,その他一般に公知の方法にて測定しても良い。なお,塗膜のTgは測定機器や測定条件によって多少の誤差が生じることが知られている。そのため,本発明では,複数ある一般に公知のTg測定方法の内,いずれか1つの方法,すなわち,DSCを用いた方法又はTMAを用いた方法で測定したときに,塗膜Tgが5〜30℃の範囲であれば本発明に含まれるとする。塗膜のTgは,主にバインダー樹脂のTgに支配的であるため,バインダー樹脂のTgを制御することで,塗膜Tgを調整することができる。バインダー樹脂のTgはほぼ塗膜のTgと相関すると考えてよいため,使用するバインダー樹脂のTgも5〜30℃のものがより好適である。また,Tgの異なる樹脂を複数混合して,混合した樹脂全体のTgを5〜30℃としても良い。
塗膜Tgが5℃未満であると,塗膜全体の硬度が低過ぎて,23℃,5mN荷重下でのユニバーサル硬度を2.5N/mm以上に担保することが困難となるため不適である。また,塗膜Tgが30℃超では,プレコート金属板を成形加工したときに,加工部で塗膜の光沢低下が発生するため不適である。塗膜Tgは10〜28℃がより好適である。
本発明のプレコート金属板の塗膜硬度は,主に塗膜中に含まれる架橋剤の種類及び添加量で調整することができる。ここで,ユニバーサル硬度とは,ドイツのDIN 50359−1に記載された塗膜硬度測定方法を指し,ダイヤモンドでできた対面角度が136°の四角錐(JIS−Z−2244に記載のビッカース硬さ試験で用いる圧子と同じもの)を材料表面に押付け,作用している荷重条件下での押し込み深さから硬度を算出するものである。なお,本発明でのユニバーサル硬度とは,温度23℃,押し込み荷重5mNの条件で,且つ,このDIN規格に記載された微小硬度計を用いて測定したものとする。
硬化剤の種類としては,メラミン樹脂系もしくはイソシアネートが効果的であり,これらの添加量を高めるとユニバーサル硬度は高くなる。イソシアネート系硬化剤より,メラミン系硬化剤の方がユニバーサル硬度は高くなる傾向がある。メラミン樹脂の添加量は,主樹脂固形分100質量部に対して5〜120質量部がより好適である。主樹脂固形分100質量部に対するメラミン樹脂の添加量が5質量部未満であると,23℃でのユニバーサル硬度が2.5N/mm未満となる恐れがあり,メラミン樹脂添加量が120質量部超では,破断伸び率が100%未満となる恐れがある。なお,23℃でのユニバーサル硬度が2.5N/mm未満となると,厳しい条件でプレス成形を行ったときに塗膜のカジリが発生し易いため,不適である。
また,顔料の種類や添加量によってもユニバーサル硬度は変化する場合もあるため,これらを制御することで塗膜のユニバーサル硬度を調整することができる場合もある。
顔料は,一般に公知の防錆顔料,着色顔料,メタリック顔料,パール系顔料,体質顔料等を使用することができる。防錆顔料としては,クロム酸ストロンチウム,クロム酸カリウム,クロム酸バリウム,クロム酸カルシウム等のクロム系防錆顔料,リン酸亜鉛,トリポリリン酸アルミニウム,シリカ,カルシウムイオン交換シリカ等のクロメートフリー系の防錆顔料等を使用することができる。着色顔料としては,カーボンブラック,酸化チタン,亜鉛華,ナフトールレッド,ジスアゾイエロー,ジスアゾピラゾロンオレンジ等の一般に公知のものを用いることができる。無機系顔料であっても,有機系顔料であっても良い。メタリック顔料は,アルミ顔料,ニッケル顔料等の一般に公知の金属系顔料で,粒状のもの,フレーク状のものいずれの形態のものを使用しても良い。体質顔料は,一般に公知の,炭酸カルシウム,硫酸バリウム,タルク等の体質顔料を使用することができる。これらの顔料は,試薬を用いても良いし,市販のものを使用しても良い。また,これら各種顔料を複数併用して用いても良い。
一般的に,カーボンブラックや有機系の着色顔料より,酸化チタン等の白系顔料や体質顔料の方がユニバーサル硬度は高くなる傾向がある。また,添加量は多い方がユニバーサル高度は高くなる傾向があるが,多過ぎると塗膜が脆くなり,破断伸び率が100%未満となってしまうため,顔料添加量は,全樹脂固形分100質量部に対して60質量部未満がより好適である。60質量部を超えると,23℃での塗膜の破断伸び率が100%未満となる恐れがある。また,塗膜のユニバーサル硬度は,塗膜樹脂の分子量を制御することでも,調整することができる。塗膜樹脂の分子量を小さくすると,塗膜が硬化した後の架橋点間分子量が小さくなり,実質的に架橋密度が増すため,ユニバーサル硬度が高くなる。ただし,塗膜分子量を小さくし過ぎると,23℃での塗膜の破断伸び率が低下して100%未満となる恐れがあるため,分子量は10000以上がより好適である。また,分子量が50000超のものは溶剤に溶解し難く,塗料化が困難となる恐れがあるため,50000以下がより好適である。
なお,本発明のプレコート金属板の塗膜の破断伸び率が23℃で100%未満であると,プレス加工時に曲げ加工部から亀裂が生じ易いため,不適である。なお,本発明で言う伸び率とは,[伸び率]={[伸び量(△L)]/[初期長さ(L)]}×100(%),とする。伸び率については,文献によっては異なる定義がなされているものもあるため,混乱を避けるために以下に記載する。各塗膜の破断伸び率の測定方法は,プレコート金属板に塗装された塗膜各層を金属板から剥離した塗膜フィルム,もしくは,予めフッ素樹脂シート等の剥離性を有する基材に塗膜をプレコート金属板と同じ条件で塗装焼付けした後に,基材から塗膜を剥離して作製した塗膜フィルムを用いることができる。このようにして作製した塗膜フィルムを23℃の雰囲気中で引っ張り試験機にて破断するまで引っ張ることで,破断伸び率を測定することができる。
また,別の方法として,既に塗装を施した金属板を23℃の雰囲気中で塗膜層側が外側となるようにして180°密着曲げし,曲率部の塗膜のクラック発生有無を顕微鏡にて観察し,クラック発生が認められなければ,その塗膜の破断伸び率は100%以上有すると判断することもできる(以降,本方法を折り曲げ法と称す)。図1に記載されているように,180°密着曲げした材料を断面方向から見た場合,折り曲げられた部分の材料の板厚方向の中心部に全く歪みが発生しない中立面と言われる部分が発生する。そして,この中立面より曲げの外側では引張り歪みが,内側では圧縮歪みが発生することが知られている。ここで,金属板の曲げ加工部の最も外側の面は,金属板の板厚tを曲率半径とした半円であると仮定すると,下記式1にて金属板を密着曲げ加工した時の最も外側の面の伸び率(ε)を計算することができ,100%となることがわかる。なお,図1及び式1からも明らかなように,折り曲げ法にて塗膜の伸び率を求める手法の場合,母材となる金属板の板厚は,理論的にはどのような板厚の金属板を用いても得られる値は同じであり,何ら問題はない。
Figure 2007044922
・・・(式1)
なお,本考え方を導くためには一般的な材料力学に関する文献,例えば町田輝文著; 「わかりやすい材料強さ学」,発行者:オーム社出版,1999年等を参照することができる。
したがって,プレコート金属板を塗膜側が外側となるように180°密着曲げした場合に,その塗膜の伸び率は100%に達していると仮定することができ,この時に塗膜にクラックが認められなければ,その塗膜の破断伸び率は100%以上であると考えることができる。180°密着曲げした塗装金属板の塗膜のクラック発生の顕微鏡観察は,塗膜表面から観察しても良いし,塗膜を断面から観察しても良い。本発明では,塗膜の破断伸び率を測定する方法としては,塗膜フィルムの引張り試験により得る方法,塗装金属板を180°密着曲げしてクラックの発生の有無を観察する方法のいずれの方法を採用しても良い。本発明のプレコート金属板に塗装する塗膜のいずれか一層の塗膜の破断伸び率が100%未満であると,厳しい形状に加工したときに加工部で塗膜のクラックや剥離が発生して外観不良となったり,加工部での耐食性に劣ったりする恐れがある。
本発明のプレコート金属板の塗膜の鏡面光沢度は,未加工の状態で入射角及び受光角が60°の条件で測定したとき60%以上である必要がある。60°における鏡面光沢度が60%未満である場合は,成形加工部での塗膜の光沢低下が目立ち難いため,本発明を適用する必要が無い。鏡面光沢度が80%以上であると,本発明の効果がより発揮されるため,より好適である。なお,塗膜の鏡面光沢はJIS.K.5600.4.7:1999に記載された鏡面光沢度のことを言う。塗膜の光沢は,一般にはつや消し剤等を用いて調整しない限り,80%以上有している。光沢を低く調整する場合には,シリカ等のつや消し剤を用いて調整することができる。また,その他一般に公知の光沢調整剤等を用いて調整することができる。
本発明のプレコート金属板の塗膜は1層でも良いし,2層以上であっても良い。塗膜が2層以上の場合は,最表層の塗膜の物性として,(A)ガラス転移温度が5〜30℃で,(B)硬度がユニバーサル硬度で2.5N/mm以上で,(C)破断伸び率が100%以上の物性であり,且つ,(D)塗膜の鏡面光沢度が入射角及び受光角が60°の条件で測定したとき60%以上であることが必要である。下層の塗膜の物性がこの範囲外であっても良いが,これらの物性範囲のいずれか1項目以上を満たしていると,より成形性に優れ,成形加工部での塗膜光沢がさらに低下し難くなるため,より好適である。
また,本発明のプレコート金属板に用いる塗料中には,必要に応じて,消泡剤,スリップ剤,顔料分散剤,レベリング剤,ワックス等を添加しても良い。また,塗膜中にワックスを含むと塗膜表面の滑り性が向上するため,プレス時に加工し易くなり,より好適である。
本発明のプレコート金属板の塗膜が2層以上の場合,最下層の塗膜にリン系化合物を含むと,耐食性や金属板と塗膜との密着性が向上するため,より好適である。また,詳細なメカニズムは明らかにされていないが,リン系化合物を含む塗膜は,塗膜にせん断応力が作用したときに,この応力を緩和させる機能を有しているため,塗膜がせん断応力によって破壊され難い。そのため,これを最下層塗膜に含むプレコート金属板をプレス加工しても,塗膜に損傷が発生し難くなるため,より好適である。リン系化合物は,リン酸亜鉛やリン酸アルミニウム等の一般に公知のものを使用することができる。これらの化合物は,試薬として市販されているものや顔料等の工業製品として市販されているものを使用しても良い。工業製品として市販されているものとしては,例えば,テイカ社製のトリポリリン酸二水素アルミニウムである”K−WHITE”,東邦顔料社製のリン酸亜鉛系顔料である”EXPERT(登録商標)シリーズ”等を使用することができる。これらの化合物は複数種併用して添加しても良い。また,リン系化合物に加えて,他の防錆顔料とも併用しても良い。特に,Caイオン交換シリカは,耐食性に優れるためより好適である。Caイオン交換シリカは,GRACE社製の”SHIELDEX(登録商標)”を使用することができる。
下塗り塗膜中のリン系化合物の添加量は,樹脂固形分100質量部に対して5〜150質量部であるとより好適である。5質量部未満では耐食性に劣り,150質量部超では塗膜が脆くなり,加工性が劣る恐れがある。下層塗膜中には必要に応じて他の顔料や化合物を添加しても良い。
本発明のプレコート金属板が2層以上の塗膜層を有する場合,各塗膜層間の少なくとも1つの界面のRa(算術平均粗さ)が0.3〜0.8μmであると,より好適である。各塗膜の界面のRaが0.3μm未満であると,当該塗膜界面の密着性が低下する恐れがある。一般に,塗膜を積層した場合,塗膜の密着性は,塗膜間の化学結合や水素結合,ファンデルワールス力等の物理結合によって保たれているが,塗膜層間のRaを0.3以上にすることで,これらの密着力に加えて,アンカー効果による密着力が付与される。ただし,各塗膜の界面のRaが0.8μm超では,トップ塗料まで塗装したときの外観に影響して,光沢が低下する恐れがあるため不適である。特に,Raの調整は,最下層の塗膜層の上に上塗り塗料を2層以上重ね塗りしたときに有効である。ここで,上塗り塗料とは,最下層の塗膜層(金属板と接する塗膜層)の上に被覆された全ての塗料を指す。一般に,最下層の塗料には,金属板およびその上に塗装する上塗り塗料との密着性を担保させるために,プライマー塗料と呼ばれる密着性の良い樹脂等が添加されているため,最下層の塗膜層とその上に塗装する上塗り塗膜層との界面のRaを調整しなくともある程度の密着性は確保される。これに対して,一般に,上塗り塗料には,密着性を向上させるための樹脂等は添加されていない場合が多いため,上塗り塗料を2層重ね塗りした場合は,該2層間の界面のRaを0.3〜0.8μmにすると密着性が確保され,より好適である。また,上塗り塗膜層が3層以上の場合,塗膜層間の界面のRaを上述の範囲で制御する界面は,少なくともいずれか一つの界面であればよい。また,いずれか二つ以上の界面でも良いし,全ての界面であっても良い。
塗膜層間の界面へのRaの付与は,多層同時塗布もしくはウェットオンウェット塗装により達成することができる。多層同時塗布とは,スロットダイコーターもしくはスライドホッパー式のカーテンコーター等を用いて,複数層の塗液を同時に積層した状態で基材に塗布し,その後,多層同時塗布した塗液を同時に乾燥焼付けさせる方法である。また,ウェットオンウェット塗装とは,一度基材上に塗液を塗装した後に,この塗液が乾燥する前のウェット状態のうちに,その上に他の塗液を更に塗布し,この積層された多層塗液を同時に乾燥焼付けする方法である。このように,未乾燥状態の塗液を積層して同時塗布することにより,積層塗膜の界面付近で各層の塗液が極僅かに混じり合うことで,界面に凹凸(即ちRa)発生させることができる。一般には,上述のウェットオンウェット,もしくは,多層同時塗布によって2層以上の塗膜塗装すると,これら塗膜界面のRaは0.3〜0.8μmとなる。
なお,本発明において,この界面のRaは,次の方法(即ち,基本的にJIS.B.0601.4.2:2001に沿った方法)により測定することができる。
即ち,表面粗さRaを測定すべき界面の垂直断面を顕微鏡写真にて撮影後,界面の凹凸(粗さ曲線)をトレースし,JIS.B.0601.4.2:2001所定の式に従って,この界面の算術平均粗さRaを求めることができる(下記実施例を参照)。
ウェットオンウェット塗装の方法としては,ロールコーター,ディップ,カーテンフローコーター,ローラーカーテンコーター等の一般に公知の塗装方法で,塗膜層を1層塗装した後に,この塗膜層を乾燥焼付けする前に,更にその上に,カーテンフロー塗装,ローラーカーテン塗装,スライドホッパー式カーテンコーター,スロットダイコーター等の一般に公知の基材と非接触で塗装できる方法にて塗装を施し,この積層したウェット塗膜を同時に乾燥焼付けする方法で塗装することができる。また,多層同時塗布方法としては,スライドホッパー式カーテンコーターに代表されるような,平行な2個以上のスリット等から異なる塗料を積層するように塗出させることで塗布する方法を用いることができる。
本発明のプレコート金属板は,ロールコーター塗装,浸漬塗装,カーテンフローコーター,ローラーカーテンコーター,スライドホッパー式カーテンフローコーター等の一般に公知の塗装方法で,且つ,各層を一層毎に塗装して焼き付ける方法を2回以上繰り返すことで塗装しても良いが,ウェットオンウェットや多層同時塗布方法で2層以上の層を一度に塗装して焼き付ける方法を用いた方が,現行の2コート2ベーク塗装ラインにて多層塗装が可能な上,塗膜界面でのRaが0.3〜0.8μmとなり,密着性が向上するため,より好適である。
また,塗装における乾燥焼付方法は,熱風オーブン,直火型オーブン,遠赤外線オーブン,誘導加熱型オーブン等の一般に公知の乾燥焼付方法を用いることができる。
本発明に使用する金属板は,一般に公知の金属材料を用いることができる。金属材料が合金材料であってもよい。例えば,鋼板,ステンレス鋼板,アルミニウム板,アルミニウム合金板,チタン板,銅板等が挙げられる。これらの材料の表面にはめっきが施されていてもよい。めっきの種類としては,亜鉛めっき,アルミニウムめっき,銅めっき,ニッケルめっき等が挙げられ,さらに,これらの合金めっきであってもよい。鋼板の場合は,溶融亜鉛めっき鋼板,電気亜鉛めっき鋼板,亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板,溶融合金化亜鉛めっき鋼板,アルミニウムめっき鋼板,アルミニウム−亜鉛合金化めっき鋼板等,一般に公知の鋼板及びめっき鋼板を適用できる。
本発明に用いる金属板の表面には,一般に公知の化成処理を施すと金属板と塗膜層との密着性が向上するため,より好適である。化成処理は,リン酸亜鉛系化成処理,塗布クロメート処理,電解クロム酸処理,反応クロメート処理,クロメートフリー系化成処理等を使用することができる。クロメートフリー系化成処理としては,シランカップリング剤,ジルコニウム化合物,チタニウム化合物,タンニン又はタンニン酸,樹脂,シリカ等を含む水溶液による処理等が知られており,特開昭53−9238号公報,特開平9−241576号公報,特開2001−89868号公報,特開2001−316845号公報,特開2002−60959号公報,特開2002−38280号公報,特開2002−266081号公報,特開2003−253464号公報等に記載されている公知の技術を使用しても良い。これらの化成処理は,市販のもの,例えば,日本パーカライジング社製のクロメート処理剤「ZM−1300AN」,日本パーカライジング社製のクロメートフリー化成処理剤「CT−E300N」,日本ペイント社製の3価クロム系化成処理剤「サーフコート(商標) NRC1000」等を使用することができる。
本発明のプレコート金属板を用いて25mm以上の成形高さに深絞り成形された塗装金属成形物は,加工部での光沢低下がほとんど観察されないため,より好適である。特に,本発明のプレコート金属板を用いて成形された塗装金属成形物の底面では光沢低下が殆どなく,鏡面光沢度が入射角及び受光角が60°の条件で測定したとき60%以上有しているため,より好適である。また,本発明のプレコート金属板を用いて成形した塗装金属成形物の塗膜層は,加工を施した後もプレコート金属板の初期物性である,ガラス転移温度が5〜30℃で,23℃での硬度が5mN荷重下でのユニバーサル硬度で2.5N/mm以上を満たし,塗膜の緒性能も担保されるため好適である。また,成形前のプレコート金属板が2層以上の塗膜を有し,各塗膜層間の少なくとも1つの界面のRa(算術平均粗さ)が0.3〜0.8μmである部分を有するものを成形加工した塗装金属成形物は,該成形物の塗膜層間の少なくとも1つの界面のRa(算術平均粗さ)も0.3〜0.8μmであり,塗膜密着性に優れるためより好適である。
次に,実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが,本発明が下記実施例に限定されるわけではない。
以下,本実施例で用いた供試材について詳細を説明する。
まず,本実施例で用いた塗料について詳細を説明する。
東洋紡社製の非晶性ポリエステル樹脂である「バイロン(登録商標)63CS」(Tg:7℃,数平均分子量:20000),及び,東洋紡社製の非晶性ポリエステル樹脂である「バイロン(登録商標)GK890」(Tg:17℃,数平均分子量:11000),「バイロン(登録商標)GK140」(Tg:20℃,数平均分子量:13000),「バイロン(登録商標)GK780」(Tg:36℃,数平均分子量:11000),「バイロン(登録商標)GK880」(Tg:84℃,数平均分子量:18000),「バイロン(登録商標)220」(Tg:53℃,数平均分子量:3000)をバインダー樹脂として用いた。「バイロン(登録商標)63CS」は,ポリエステル樹脂を既に有機溶剤(質量比でシクロヘキサノン:ソルベッソ150=1:1に混合したもの)に溶解してあるため,これをそのまま使用した。その他の樹脂はペレット,フレークもしくはシート形状であるため,これらを有機溶剤(質量比でシクロヘキサノン:ソルベッソ150=1:1に混合したものを使用)に溶解して使用した。
次に,架橋剤として,三井サイテック社製の完全アルキル型メチル化メラミン樹脂(以降,メラミン樹脂又はHMMMと称す)である「サイメル(登録商標) 303」を用い,これらメラミン樹脂と上述のポリエステル樹脂とを混合した。更に,反応触媒として三井サイテック社製の「キャタリスト602」を全樹脂固形分に対して1.0質量%添加した。以上の手順にて本実施例で用いるクリヤー塗料を作製した。
次に,作製したクリヤー塗料に石原産業社製の酸化チタン「タイペークCR95」(以降,Ti系と称す)を必要量添加することで上塗り塗料を作製した。なお,酸化チタンを添加しないクリヤー塗料も必要に応じて準備した。
なお,最下層の塗料(以下,「下塗り塗料」と称す)については,市販の下塗り塗料である日本ファインコーティングス社製のFL641EUプライマーのクリヤー塗料を準備し,これに防錆顔料を必要量添加することで下塗り塗料を作製した。本実施例で用いた防錆顔料は,テイカ社製のトリポリリン酸二水素アルミニウムであるK−WHITE #105」(以降,リン酸ALと称す),GRACE社製のカルシウムイオン交換シリカである「SHIELDEX(登録商標)C303」(以降,Caシリカと称す)を用いた。また,必要に応じてして石原産業社製の酸化チタン「タイペークCR95」(以降,酸化チタンと称す)を添加したものも作製した。また,必要に応じて日本アエロジル社製のシリカ「AEROSIL(登録商標)200」を艶消し材として適量添加し,塗膜の光沢を60°鏡面光沢度として60%及び40%に調整したものも作製した。
作製した下塗り塗料の詳細を表1に,上塗りの詳細を表2に記載する。なお,表2中の酸化チタン含有塗料(上塗り−1〜12)を上塗り着色塗料,顔料を添加していないクリヤー塗料(上塗り−13〜15)を上塗りクリヤーと称す。
Figure 2007044922
Figure 2007044922
以下,本実施例で用いたプレコート金属板について詳細を説明する。
新日本製鐵株式会社製の亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板「ジンクライト」(以下,ZLと称す)と新日本製鐵株式会社製の電気亜鉛めっき鋼板「ジンコート」(以下,EGと称す),新日本製鐵株式会社製の溶融亜鉛めっき鋼板「シルバージンク」(以下,GIと称す)を原板として準備した。板厚は0.6mmのものを使用した。本実施例で用いたZLのめっき付着量は片面20g/m,めっき層中のニッケル量は12%であった。また,EGのめっき付着量は片面20g/mのものを,GIのめっき付着量は片面60mg/mのものを用いた。
次に,準備した原板を日本パーカライジング社製のアルカリ脱脂液「FC−4336」の2質量%濃度,50℃水溶液にてスプレー脱脂し,水洗後,乾燥した後に,日本パーカライジング社製のクロメートフリー化成処理剤である「CT−E300N」をロールコーターにて塗布し,熱風オーブンにて乾燥させた。熱風オーブンでの乾燥条件は,鋼板の到達板温で60℃とした。クロメートフリー処理の付着量は,全固形分で200g/m付着するように塗装した。
次に,化成処理を施した金属板の一方の面に作製した下塗り塗料を,他方の面に日本ファインコーティングス社製の裏面塗料である「FL100HQ」のグレー色をロールコーターにてそれぞれ塗装し,熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて金属板の到達板温が210℃となる条件で乾燥硬化させた。そして,乾燥焼付後に,塗装された金属板へ水をスプレーにて拭きかけ,水冷した。
次に,上塗り着色塗料を下塗り塗膜の上にローラーカーテンコーターにて塗装し,熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて金属板の到達板温が230℃となる条件で積層した塗膜を同時に乾燥硬化させた。そして乾燥焼付後に,塗装された金属板へ水をスプレーにて拭きかけて水冷することで2層のプレコート金属板を作製した(以降,本手順での塗装方法を「塗装方法(i)」と称す)。
また,必要に応じて,化成処理を施した金属板上に上塗り着色塗料を1コートのみロールコーターにて塗装した1コートのプレコート金属板も作成した(以降,本手順での塗装方法を「塗装方法(ii)」と称す)。
また,必要に応じて,下塗り塗料を1層塗装焼付けした上に,2種の上塗り塗料(上塗り着色塗料と上塗りクリヤー塗料)をスライドホッパー式のカーテンコーターにて同時に2層積層塗装し,2層同時に焼付けることで,合計3層塗装した(焼付けは2回)プレコート金属板を作成した(本手順での塗装方法を「塗装方法(iii)」と称す)。
更には,下塗り塗料を1層塗装焼付けした上に,ローラーカーテンコーターにて上塗り着色塗料を塗装し,更にこれを乾燥させる前にこの上にローラーカーテンコーターにて上塗りクリヤー塗料を塗装し,積層した2層の上塗り塗料を同時に焼付けることで合計3層塗装した(焼付けは2回)プレコート金属板を作成した(本手順での塗装方法を「塗装方法(iv)」と称す)。
また,下塗り塗膜上にロールコーターにて上塗り着色塗料を1層のみ塗装し,上述の要領で焼付けた後に,この塗膜上に再度ロールコーターにて上塗りクリヤー塗料をもう1層塗装し焼付けることで,合計3層塗装した(焼付けは3回)プレコート金属板も作製した(本手順での塗装方法を「塗装方法(v)」と称す)。
作成したプレコート鋼板の各塗膜厚については,ロールコーターやローラーカーテンコーターの場合にはロールの回転周速や塗料粘度を,スライドホッパー式のカーテンコーターの場合は塗料の塗出圧力や塗料粘度を調整することで,制御した。なお,下塗り塗膜の膜厚は5μm,上塗り塗膜の膜厚15μm,上塗りクリヤー塗膜の膜厚は10μm,裏面塗料の膜厚は5μmとした(いずれも乾燥膜厚)。なお,各膜厚はKET社製の電磁膜厚計「LE−200J」にて測定し,更に,各サンプルの垂直切断面を顕微鏡にて観察し,求める膜厚となっているかを再確認した。
表3に,作製したプレコート金属板の詳細を記載する。
Figure 2007044922
以下,作製したプレコート金属板の評価方法の詳細を説明する。
1. プレコート金属板の塗膜のガラス転移温度の測定
セイコー電子社製の熱機械分析装置「SSC5200シリーズ TMA/SS120C」にて塗膜のTgを測定した。なお,測定時のプローブは,針入プローブを用いた。
2. プレコート金属板の塗膜のユニバーサル硬度測定
フィッシャー・インストルメンツ社製の微小硬度計「フィッシャースコープ(登録商標)H100」を用いて測定した。測定時の雰囲気温度は23℃とし,押付け荷重5mNのときのユニバーサル硬度(HU(N/mm))を本測定機器にて測定した。
3. 塗膜破断伸び率測定
作製したプレコート金属板を,23℃の雰囲気中にてトップ塗膜を施した面が外側となるように180°折り曲げ加工(密着曲げ加工)した。次に,加工部を10倍顕微鏡にて観察し,塗膜の割れ発生の有無を調査した。更には,加工したプレコート金属板の加工部の中心付近を断面が観察できるように垂直に切断し,切断したプレコート金属板を樹脂に埋め込んだ後に断面部を研磨して,10倍及び500倍の顕微鏡にて断面を観察した。そして,各塗膜層の亀裂発生の有無を観察した。このようにして各塗膜層を観察し,500倍の顕微鏡で観察して全ての塗膜層に亀裂が入っていなかった場合を塗膜の破断伸び率が100%以上として○,一層以上の塗膜に10倍の顕微鏡で極僅かに亀裂が確認され,500倍顕微鏡で明らかに亀裂が確認される場合は,判断伸び率が僅かに100%未満であるとして△,一層以上の塗膜に10倍の顕微鏡で明らかな亀裂が発生していた場合を塗膜の破断伸び率が明らかに100%未満として×と評価した。
4. プレコート金属板の塗膜の鏡面光沢度測定
スガ試験機社製の「デジタル変角光沢計」を用いて,入射角と受光角が60°の条件で鏡面光沢度を測定した。
5. 塗膜界面のRa測定
プレコート金属板を塗膜断面が観察できるように垂直に切断し,切断したプレコート金属板を樹脂に埋め込んだ後に断面部を研磨して,3500倍の走査型電子顕微鏡による塗膜の断面写真を撮影した。次に,透明の樹脂シート(市販のOHPシートを使用)を写真上にかぶせて,塗膜界面の凹凸を誠光にトレースした。そして,図2に示すように,縦線(網掛け)の部分の面積を画像処理装置で測定して,測定した面積から,図2のX軸方向に対する平均値として以下の式2からRaを算出した。
Figure 2007044922
・・・(式2)
6. 耐食性試験
作製したプレコート金属板のトップ塗膜を施した面に素地の金属に達するカット傷を入れて,JIS K 5400.9.1記載の方法で塩水噴霧試験を実施した。塩水は,試験片のクロスカットを入れた面に噴霧した。試験時間は240時間とした。そして,表面側のカット部からの塗膜膨れ幅を測定し,カット部膨れ幅が片側3mm以下の場合を○,カット部膨れ幅が片側3mm超5mm以下の場合を△,カット部膨れ幅が片側5mm超の場合を×と評価した。
7. プレコート金属板加工後の鏡面光沢度測定
幅50mmの短冊状に切断したプレコート金属板を引張り試験機に治具間距離100mmとなるようにセットして,引っ張り速度200mm/minの条件で,治具間距離が110mmとなるまで引っ張った。そして,引っ張り加工後のサンプルを取り出し,サンプルの中央部の鏡面光沢度を,スガ試験機社製の「デジタル変角光沢計」を用いて,入射角と受光角が60°の条件で測定した。そして,測定結果より光沢保持率(=[加工後の鏡面60°光沢]×100/[加工前の鏡面60°光沢])を算出した。
なお,本実験において,治具間距離100mmのサンプルを治具間距離110mmまで引っ張った時の鏡面光沢を測定した理由は,経験的に,この条件で加工した時の60°鏡面光沢の光沢保治率が85%以上であると,深絞り成形部での光沢低加が目立ち難いことを本発明者らが知見したためである。
8. ドロービード試験
プレス成形時の摺動性や金型による材料のキズ付き性を評価する試験方法として,ドロービード試験が知られている。本実験方法にて,プレコート金属板を評価すると,プレス成形で発生する塗膜の型カジリが再現され,プレス成形にて塗膜の型カジリが発生し易いプレコート金属板は,本試験方法でも塗膜の型カジリによる剥離が観察される。本実験は,図3に示すように,凸金型と凹金型との間にサンプルを挟み込み,押付け荷重0.6t及び1.0tで金型に荷重をかけた状態で,サンプルを200mm/minの速度で引き抜いたときの塗膜の外観を観察することで実施した。なお,金型の表面粗度はRa=0.8μmに調整したものを用いた。また,本試験を実施する際には,サンプル塗膜表面に日本工作油社製の揮発性潤滑油「G−6215FS」を塗布し,評価面(裏面塗料を塗布していない面)が凹金型側となるように金型を押付けた。そして,引き抜いた後のサンプルの塗膜表面のキズ発生有無を調査し,次の基準で評価した。押し付け加重0.6tの条件でも1.0tでの条件でも塗膜の剥離が観察されない場合を○,0.6tの押し付け荷重条件では塗膜の剥離が認められないが,1.0tの条件で塗膜剥離が認められる場合を△,押し付け加重0.6tの条件でも1.0tでの条件でも塗膜の剥離が観察される場合を×と評価した。
9. 角筒成形試験
作製したプレコート金属板を評価面(裏面塗膜を施していない面)が成形物の外側となるように角筒形状に深絞り成形した。角筒成形時の金型は次の条件のものを用いた。即ち,ポンチサイズが40mm角,ポンチコーナーRが5mm,ポンチ肩Rが5mm,ダイス肩Rが5mmの条件とした。また,金型の表面粗度はRaで0.1μm以下の鏡面仕上げとした。また,材料のブランクサイズはφ100mmの円形とし,しわ押さえ圧を0.8tとした。成形高さは20mmと25mmと30mmの3水準実施した。また,成形加工後は,プレコート金属板の加工された部分の塗膜剥離もしくは亀裂の発生有無(以降,加工性と称す)を目視と10倍顕微鏡で観察し,目視と顕微鏡いずれの方法で観察しても剥離や亀裂の発生が認められない場合は○,顕微鏡では剥離や亀裂の発生が認められるが,目視ではこれらが認められない場合を△,目視でも剥離や亀裂の発生が認められた場合は×と評価した。また,成形物の光沢度を目視観察し,加工部で光沢の低下が認められない場合は○,明らかに光沢の低下が認められる場合は×と評価した。
(角筒成形物の光沢測定)
上記「9.角筒成形試験」で得た成形高さ25mmと30mmの角筒成形物底面の鏡面光沢度を,スガ試験機社製の「デジタル変角光沢計」を用いて,入射角と受光角が60°の条件で測定した。
(角筒成形物の塗膜界面のRa測定)
上記「9.角筒成形試験」で得た成形高さ25mmと30mmの角筒成形物底面の任意の部分を切り出し,この部分の塗膜断面が観察できるように垂直に切断し,切断した塗装金属板を樹脂に埋め込んだ後に断面部を研磨して,3500倍の走査型電子顕微鏡による塗膜の断面写真を撮影した。次に,透明の樹脂シート(市販のOHPシートを使用)を写真上にかぶせて,塗膜界面の凹凸を正確にトレースした。そして,図2に示すように,縦線の部分の面積を画像処理装置で測定して,その平均値として上記式2からRaを算出した。なお,成形物の断面観察した部位の金属板が,成形により曲がっていた場合,塗膜界面の粗さ中心に,金属板の表面もしくはその上に被覆された塗膜の最表面に対して平行な線を引き,これを界面の中心線とした。
Figure 2007044922
以下,評価結果について詳細を説明する。
表4に作製したプレコート金属板の評価結果を示す。本発明の実施例に係るプレコート金属板(実施例No.1〜17)は,高い光沢を有しているにもかかわらず,深絞り加工した時の加工部での光沢低下が小さく,更には,連続プレス時の塗膜カジリを再現するドロービード試験においても塗膜カジリが発生し難く,且つ,加工部で塗膜の剥離や亀裂の発生がなく良好であった。また,下塗り塗料中にリン系化合物を含まないもの(実施例−11,12,13)は,ドロービード試験や角筒成形で極僅かであるが,塗膜割れや塗膜剥離が発生する傾向で有るため,下塗り塗膜中にはリン系化合物が含まれるとより好適である。また,塗膜間の界面のRaが0.3〜0.8から外れるもの(実施例−17)は,ドロービード試験で塗膜が剥離し易い傾向であるため,塗膜間の界面のRaは0.3〜0.8がより好適である。このように,塗膜間の界面のRaが0.3〜0.8であるプレコート金属板は,いずれも多層同時塗布もしくはウェットオンウェット塗装にて作成されたものである為,このような方法で作成したものは塗膜密着性が向上し,プレス加工等で塗膜が剥離したりし難いため,より好適である。また,本発明の実施例に係るプレコート金属板を用いて深絞り成形されて得られた成形物は,塗膜の亀裂や剥離が無く,且つ,加工部の光沢低下も目視では見られないため,優れた外観を有する。
一方,塗膜のTgが30℃超のもの(比較例−18,20〜24)は,加工後の光沢保持率が低く,角筒成形しても目視で明らに光沢低下が認められるため,不適である。ただし,塗膜のTgが30℃超でも塗膜の初期光沢が60%未満のもの(比較例−19)は,元々の初期光沢が低いため,加工しても光沢低下が目立ち難いため,本発明を適用する必要はない。また,塗膜のガラス転移温度7℃で,且つ,23℃,5mN荷重の条件下でのユニバーサル硬度が2.6N/mmであるもの(実施例−1)は,ドロービード試験で他のものと比べて塗膜が剥離し易い傾向であり,塗膜のガラス転移温度7℃で且つ,23℃,5mN荷重の条件下でのユニバーサル硬度が2.5N/mm未満のもの(比較例−25)や塗膜のガラス転移温度5℃未満で且つ23℃,5mN荷重の条件下でのユニバーサル硬度が2.5N/mm未満のもの(比較例−26)は,ドロービード試験で塗膜が剥離してしまうため,塗膜Tgは5℃以上,ユニバーサル硬度は23℃,5mN荷重の条件で2.5 N/mm以上がより好適である。また,塗膜の破断伸び率が100%未満のもの(比較例−21〜23)は角筒成形した時に塗膜に剥離や亀裂が生じ易いため,不適である。
次に,本実施例で作製したプレコート金属板を用いて成形加工した成形物の評価結果を表5に示す。本発明の実施例に係るプレコート金属板を用いて成形した成形物(実施例No.成形物−1〜17)は,いずれも60°鏡面光沢で60%以上の外観を有しており,また,加工部で塗膜の亀裂や剥離の発生もなく,優れた外観であった。一方,本発明で規定した範囲外のプレコート金属板を用いて成形した成形物(比較例No.成形物−18〜26)は,光沢が低いか,もしくは加工部で塗膜の亀裂や剥離が発生しており,外観不良であった。
Figure 2007044922
本発明によれば,深絞り成形を行っても加工部で光沢が低下し難く,プレス成形性に優れる高光沢のプレコート金属板とその製造方法及び塗装金属成形物を提供することができる。したがって,本発明によれば,これまでポストコートでしか対応ができなかった複雑な形状を有する成形部品がプレコート金属板を用いて製造することが可能となった。
また,本発明のプレコート金属板を深絞り加工した成形物を使用することで,ポストコート塗装で課題となっていた揮発性有機溶剤(VOC)の問題を解決することができるだけではなく,ユーザーでの塗装設備撤廃によるコストダウン,工場省スペース化等も達成される。したがって,本発明は産業上の極めて価値の高い発明であると言える。
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
本発明は,高光沢でプレス成形性に優れたプレコート金属板に関するものであり,特に,家電用,建材用,土木用,機械用,自動車用,家具用,容器用等において,プレス成形性に優れる深絞り成形用プレコート金属板とその製造方法及び塗装金属成形物に関する。
本発明のプレコート金属板の塗膜の破断伸び率測定方法の折り曲げ法について示す図である。 本発明のプレコート金属板の塗膜界面のRaの測定方法を示す図である。 本発明のプレコート金属板の塗膜カジリ性を評価するドロービード試験方法を示す図である。

Claims (8)

  1. 金属板の片面又は両面に1層又は2層以上の塗膜層を有するプレコート金属板において:
    前記塗膜層のうち最表層の塗膜は,(A)ガラス転移温度が5〜30℃であり,(B)23℃での硬度が5mN荷重下でのユニバーサル硬度で2.5N/mm以上であり,(C)23℃での破断伸び率が100%以上であり,且つ,(D)前記最表層の塗膜の鏡面光沢度が入射角及び受光角がそれぞれ60°の条件で測定したときに60%以上であることを特徴とする,プレコート金属板。
  2. 前記塗膜層は,2層以上であり,
    前記塗膜層のうち最下層の塗膜にリン系化合物を含むことを特徴とする,請求項1に記載のプレコート金属板。
  3. 前記塗膜層は,2層以上であり,
    前記各塗膜層間の界面のうち少なくとも1つの界面のRa(算術平均粗さ)が0.3〜0.8μmであることを特徴とする,請求項1又は2に記載のプレコート金属板。
  4. 請求項2又は3に記載のプレコート金属板の製造方法であって:
    前記塗膜層のうち少なくとも2層を,多層同時塗布又はウェットオンウェット方式により塗布することを特徴とする,プレコート金属板の製造方法。
  5. 請求項1〜3のいずれかに記載のプレコート金属板を25mm以上の成形高さに深絞り成形加工してなることを特徴とする,塗装金属成形物。
  6. 25mm以上の成形高さに深絞り成形加工してなる塗装金属成形物であって:
    少なくとも外面に1層又は2層以上の塗膜層を有し,
    前記塗膜層のうち最表層の塗膜は,(A)ガラス転移温度が5〜30℃であり,(B)23℃での硬度が5mN荷重下でのユニバーサル硬度で2.5N/mm以上であり,且つ,(D)前記最表層の塗膜の鏡面光沢度が入射角及び受光角が60°の条件で測定したときに60%以上である光沢部分を有することを特徴とする,塗装金属成形物。
  7. 前記塗膜層は2層以上であり,
    前記光沢部分は,前記各塗膜層間の界面のうち少なくとも1つの界面のRa(算術平均粗さ)が0.3〜0.8μmであることを特徴とする,請求項6記載の塗装金属成形物。
  8. 前記光沢部分が,深絞り加工の底面であることを特徴とする,請求項6又は7に記載の塗装金属成形物。

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