JP2007009285A - 陽極酸化皮膜形成チタン製部材およびその製造方法、並びに内燃機関用のバルブスプリング - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 本発明に係る陽極酸化皮膜形成チタン製部材1は、β型チタン合金のチタン製部材2の表面にアルミニウムを含む陽極酸化皮膜3を形成した構成となっている。特に、かかる陽極酸化皮膜3は、Al2TiO5相を含んでなり、さらに多数の空隙3aを備え、その硬さはビッカース硬さでHv500以上である。
【選択図】 図1
Description
例えば、自動車用のエンジンなどに用いられるバルブスプリングを例に説明すると、カムによるバルブの開閉回数がバルブスプリングの固有振動数に等しいか、またはその整数倍になった場合、バルブスプリングは、カムによる強制振動とスプリング自体の固有振動とが共振することで、カムによる作動とは無関係に波打ち現象(サージング(surging))が発生する。サージングが発生すると、バルブの開閉は正しく行なわれなくなるだけでなく、バルブスプリングの一部に大きな圧縮力がかかるとともに、サージングによって衝突する箇所が摩耗し、疲労折損してしまう。
例えば、特許文献1には、β型チタン合金製スプリングの表面にショットブラスト処理を施した後、めっき皮膜を形成することにより耐摩耗性を高める技術が提案されている。
そして、当該技術では、セラミックス膜としてTi(チタン)を含む結晶性酸化物膜(TiO2)を素線表面に付加的に被覆し得ることが開示されているが、Tiを含む酸化物膜は金属よりも靭性が劣るので、例えば、バネ材として使用される場合、バネ材を圧縮したときの衝撃によって酸化物膜が素材から剥離するという問題があった。その結果、摩耗性が損なわれるばかりか、酸化物膜が剥離した部位が摩耗して、焼き付きが発生し、応力集中によって破損するという問題があった。
しかし、特許文献3に記載されている陽極酸化処理方法では、電解液に過酸化水素を添加するために酸化物が生成しやすいという問題のほか、電解液の濃度が変化しやすいために陽極酸化浴の管理や電解液の廃棄が非常に困難であるという問題があった。
そして、この陽極酸化皮膜は、Al2TiO5相を含んだ構成とするのが好ましい。
このような構成の陽極酸化皮膜形成チタン製部材とすれば、陽極酸化皮膜が多数の空隙を有しているために、平滑な表面を有しているチタン製部材と比較して他物体との接触面積を減らすことができるので、摺動性を向上させることができる。また、前記したように、陽極酸化皮膜が形成されたことによって硬質化されているので、結果として耐摩耗性に優れる。さらに、陽極酸化皮膜の多数の空隙に油を保持させることにより、陽極酸化皮膜形成チタン製部材に潤滑性を持たせることも可能になる。
このように膜厚を厚くすることができるので、確実に硬質化することができるほか、さらに耐久性・信頼性にも優れたものとすることができる。
かかる範囲の硬さを有する陽極酸化皮膜形成チタン製部材であれば、非常に硬さが高いために耐磨耗性に優れている。
したがって、内燃機関用のバルブスプリングを当該陽極酸化皮膜形成チタン製部材で構成すると好適である。
かかる工程を、必要とする膜厚を得るまで行い続けることによって、高い硬さと耐摩耗性を有する陽極酸化皮膜形成チタン製部材を製造することができる。
かかる前処理工程は、まず、洗浄工程によって、チタン製部材の表面を洗浄することができ、表面処理工程によって、洗浄されたチタン製部材の表面を表面処理することができる。
このように、陽極酸化処理したチタン製部材を時効処理することによって、母材を硬質化することができるので、より優れた陽極酸化皮膜形成チタン製部材を製造することができる。
そして、交流電気の電圧は、正の電圧ピークとして、250〜400Vであるとともに、負の電圧ピークが正の電圧ピークの30%以下であるのが好ましい。
さらに、本発明の陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法において、陽極酸化皮膜形成工程の電解液温度は室温〜80℃であるのが好ましく、通電時間は10分間以上、45分間未満であるのが好ましい。
また、β型チタン合金にアルミニウムを含む陽極酸化皮膜を形成した内燃機関用のバルブスプリングは、複合摩耗が発生しても耐磨耗性に優れる。したがって、特に自動車等のエンジンに用いることで軽量化を図るとともに、当該バルブスプリングの固有振動数の向上によるエンジン回転数の向上を図ることができる。
また、本発明の陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法は、陽極酸化処理を特定の条件で行うので、チタン製部材の表面に好ましい状態の陽極酸化皮膜を形成することができる。
参照する図面において図1は、陽極酸化皮膜形成チタン製部材の構造を示す説明図である。なお、図1は、実際に走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した図7(b)の状態を模式的に示したものである。
はじめに、本発明の陽極酸化皮膜形成チタン製部材について説明する。
図1に示すように、本発明に係る陽極酸化皮膜形成チタン製部材1は、β型チタン合金のチタン製部材2の表面にアルミニウムを含む陽極酸化皮膜3が形成されて成る。
また、陽極酸化処理時に、ルチル型酸化チタンやアナターゼ型酸化チタンが生成するとともに、アモルファス相なども生成していることが確認されていることから、これらの相や酸化物が陽極酸化皮膜3中に含まれることによってチタン製部材2の硬さを向上させていると考えられる。
つまり、空隙3aを小さく形成するほど陽極酸化皮膜形成チタン製部材1の硬さを向上させることができる。
つまり、陽極酸化皮膜3の体積に対する空隙3aの形成比率は、用途によっても異なるが、十分な強度や耐摩耗性を得るために、前記した特定の範囲内とするのが好ましい。
なお、本発明の陽極酸化皮膜形成チタン製部材1においてはその膜厚を1〜100μmとするのが好ましく、1〜80μmとするのがより好ましく、1〜50μmとするのがさらに好ましく、1〜20μmとするのがさらにより好ましい。膜厚が1μm未満であると、例えば、本発明の陽極酸化皮膜形成チタン製部材1を摺動性の激しい部材に適用したときに、高い強度や耐摩耗性を長期間にわたって確実に維持することができない可能性がある。一方、膜厚が100μmを超えると、実用的でないばかりか剥離の原因にもなる。
ビッカース硬さでHv500未満であると、機械機能部品として使用することを考慮した場合に、十分な硬さと耐摩耗性を有しているとはいい難い場合がある。一方、硬さは硬いほど好ましく、その上限について特に制限はない。
なお、陽極酸化皮膜3の硬さはその厚さ方向の断面において測定することが望ましいが、陽極酸化皮膜3の厚さが5μm以下の場合は断面において硬さを測定することが難しくなるため、その場合は陽極酸化皮膜3の表面より軽加重で測定しても良い。
例えば、高い硬さと耐磨耗性を有する本発明に係る陽極酸化皮膜形成チタン製部材1は、ビッカース硬さでHv500以上、より好ましくはHv600以上を有しているので、図2に示すような内燃機関用のバルブスプリング4として好適に用いることができる。
そして、かかる未処理のバルブスプリング4を陽極酸化処理することによって、その表面全体に陽極酸化皮膜3を形成することで、高い硬さと耐摩耗性を有するバルブスプリング4とすることができる。
また、陽極酸化皮膜3が多孔質であるため、多数の空隙に油を保持させることで潤滑性をもたせることが可能であり、耐磨耗性の一層の向上を図ることができる。
次に、図3を参照して、本発明に係る陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法について説明する。図3は、陽極酸化皮膜を形成するための装置を模式的に示して説明する説明図である。
本発明の陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法は、浸漬工程と、陽極酸化皮膜形成工程と、を含んでなる。
浸漬工程では、図3に示すように、電解用電源13の一の電極に接続されたβ型チタン合金のチタン製部材2と、電解用電源13の他の電極に接続された、交流電気をかけた電解液12に対して不溶性の不溶性金属材11と、を陽極酸化浴10のアルミン酸イオンを含む電解液12中に浸漬する。
電解液12については後に詳述する。
次いで、陽極酸化皮膜形成工程では、電解液12中に浸漬したチタン製部材2および不溶性金属材11に交流電気を流して陽極酸化処理を行うことによって、チタン製部材2の表面に陽極酸化皮膜3(図1参照)を形成し、陽極酸化皮膜形成チタン製部材1を製造する。
なお、図4は、後に説明する[実施例]において、交流電流に正の直流電圧を重畳し、アノードのピーク電圧(Vmax)に対してカソードのピーク電圧(Vmin)が小さくなるように交流電圧を印加することを説明するグラフであり、図5は、後に説明する[実施例]において、P4浴中で交流電圧のVmax=400V、Vmin=−70Vとし、周波数60Hzで交流電解したときの交流電流iac(「イ」で示す)と直流成分idc(「ロ」で示す)の経時変化を示すグラフである。
したがって、単純に交流電気を印加すると、アノードサイクルでのアノード電流に対して、カソードサイクルで非常に大きな水素発生電流が流れることになる。このカソードサイクルで発生した水素ガスによって、それまでに形成された陽極酸化皮膜3が激しく破壊されてしまうので、良質な陽極酸化皮膜3を得ることができない可能性がある。
周波数が60Hz未満であると、カソード電極とアノード電極の交替が遅すぎるために、チタン製部材2の表面に水素ガスの気泡が多く発生することによって、陽極酸化皮膜3が破壊されてしまうおそれがある。また、陽極酸化皮膜3の空隙3aが大きくなりすぎてしまい、高い硬さを得ることができないおそれがある。一方、周波数が200Hzを超えると、カソード電極とアノード電極の交替が速すぎるために、直流電気を通電した状態に近い状態となる結果、前記と同様に、チタン製部材2の表面に水素ガスの気泡が多く発生するため、陽極酸化皮膜3が破壊されてしまうおそれがある。また、陽極酸化皮膜3の空隙3aが大きくなりすぎてしまい、高い硬さを得ることができないおそれがある。
また、電圧が250V未満であると電圧が低すぎるために、十分な電流が流れにくく、β型チタン合金のチタン製部材2では陽極酸化皮膜3の形成が不十分となったり、陽極酸化皮膜3の形成が遅延したりするおそれがある。一方、電圧が400Vを超えると、電圧が高すぎるために、水素ガスの発生が激しくなり、陽極酸化皮膜3を破壊するおそれがある。また、負の電圧ピークが正の電圧ピークの30%以内でないと、水素ガスの発生が激しくなり、陽極酸化皮膜3を破壊してしまうおそれがある。
なお、用いる電気は前記したものに限定されることはなく、50〜350Vの電圧の直流電気の使用を妨げるものではなく、直流電気によっても陽極酸化皮膜3を形成することが可能である。
さらに、電圧を制御した交流陽極酸化処理も好適である。この場合、交流電気のアノードピーク電流とカソードピーク電流ができるだけ等しくなるように、交流電気の電圧の正および負のピーク電圧を設定するのが望ましい。カソード電流が小さすぎると、交流電気の電力が時間とともに大きく減少するので、陽極酸化皮膜3を厚く成長させることが困難となる。
温度条件が室温未満であると、電解液12の温度が低すぎるために、陽極酸化皮膜3の形成が進まず、遅延するおそれがある。一方、温度条件が80℃を超えると、温度条件が高すぎるために、電解液12中の水分が蒸発等しやすく、電解液12の組成が変化するおそれがある。
電解液12がアルカリ性、すなわち電解されたアルミン酸イオンがマイナスに帯電(アニオン)することになるので、チタン製部材2のTiと反応することができる結果、高い硬さのAl2TiO5を生成することができる。
これらの含有量は、形成する陽極酸化皮膜3の膜厚や形成条件によって異なるが、例えば、アルミン酸カリウムを用いた場合は、4〜50g/Lとすることができる。
これらの含有量は、形成する陽極酸化皮膜3の膜厚や形成条件によって異なるが、例えば、リン酸三ナトリウムを用いた場合は、1〜20g/Lとすることができる。
また、添加剤を添加することで陽極酸化皮膜3に形成される多数の空隙3aの孔径や分布密度などを制御することができる。例えば、添加剤としてリン酸三ナトリウムを少量添加した場合、数μmの孔径の空隙3aを具備することができ、リン酸三ナトリウムを多量添加した場合、サブミクロンオーダーの孔径の空隙3aを具備することができる。
すなわち、前処理工程は、均一な膜厚と適切な空隙3aを有する多孔質を具備する陽極酸化皮膜3を形成するために、浸漬工程の前にチタン製部材2を前処理するものである。
かかる前処理工程は、洗浄工程と、表面処理工程と、を含んでなる。
かかる表面処理工程も、めっき処理やエッチング処理で通常行われる表面処理手段を用いることができる。このような表面処理手段としては、例えば、機械研磨、電解研磨、化学研磨、油性研磨、バフ研磨、バレル研磨、がら研磨、研削、ボビング、グレイニング、筆電解研磨、サンドブラスト、ショットブラスト、液体ホーニング、デスマット処理、カソード電解処理、アノード電解処理などを挙げることができ、これらを常法によって行うことができる。
(1)チタン製部材の前処理
チタン製部材として、β型チタン合金のひとつであるTi−15V−3Al−3Cr−3Sn合金((株)神戸製鋼所製)を用いた。用いたチタン製部材は、厚さ1mmの板材であり、これは、熱延後溶体化(780℃より水冷)したものを30%の加工率で冷間圧延したものである。前処理として、アセトン(関東化学(株)社製01026-81)によるアセトン脱脂、エッチング(2wt%フッ化水素酸(フッ化水素46%含有、森田化学工業(株)社製)−10wt%硝酸(関東化学(株)社製28163-70)の混合液に60秒間浸漬)、カソード電解(10wt%硫酸、500A・m-2、60秒間)をこの順に行った。
電解液として、4g/Lのリン酸ナトリウム(Na3PO4・12H2O:和光純薬工業(株)社製197-02882)と、12g/Lのアルミン酸カリウム(K2Al2O4・3H2O:関東化学(株)社製32302-01)を含有するアルカリ性の電解液(P4浴)を用いた。リン酸ナトリウム濃度の影響を調べるために、リン酸ナトリウムを含まない浴(P0浴)、2g/Lおよび12g/Lのリン酸ナトリウムを含む電解液(それぞれP2,P12浴という)も用意した。いずれの浴もpH12.5であった。浴温は20℃とした。交流電解は、ステンレス製の電解セル(1L)を用い、これを対極としても用いた。チタン製部材を1.5mm×1.5mm×1.0mmのサイズとし、これに0.5mmφのチタン棒をスポット溶接してリードを取った。
そこで、本発明では、かかる電解用電源を用いて、図4に示すように、交流電流に正の直流電圧を重畳し、アノードのピーク電圧(Vmax)に対してカソードのピーク電圧(Vmin)が小さくなるように交流電圧を印加してカソードサイクルにおける酸化膜の破壊の程度を制御できるようにした。交流電解は、VmaxとVminを制御して所定の時間行った。
得られた陽極酸化皮膜の構造は理学電機(株)社製RINT2000 X線回折装置(XRD)を用いて評価した。X線回折の測定は、α−2θ(α=2°)法で行った。X線源には、CuKα線を用いた。チタン製部材の表面および断面観察を日本電子(株)社製JSM−5410走査電子顕微鏡を用いて行った。
また、組成分析(X線元素マッピング)を付属のOxford Instruments社製WDX−400によって行った。
さらに、グロー放電発光分光装置(HORIBA Jobin Yvon社製GDOES 5000RF)を用いて、陽極酸化皮膜の深さ方向の分析を行った。
さらに、陽極酸化皮膜の硬さを、超微小硬さ計(Fischer Instruments社製Fischerscope H100VP)を用いて、最大負荷30mNとして、押し込み深さ−荷重曲線から荷重負荷時の微小硬さを以下の式から求めた。
(4−1)P4浴での電解挙動と陽極酸化皮膜の特徴
図5に、P4浴中で交流電圧の最大値(Vmax)を400V、最小値(Vmin)を−70Vとし、周波数60Hzで交流電解したときの交流電流iac(「イ」で示す)と直流成分idc(「ロ」で示す)の経時変化を示す。ここで、iacは、交流電流の実効値である。iacは、最初の300秒間程度ほぼ一定の値を示した後、時間と共に減少し、3600秒間交流電解した後は、約1.2kA・m-2の電流密度となった。idcは、最初負の値を示し、約50秒間後に−800A・m-2の最小値を取った後、次第にゼロに近づき、2000秒間以降はほぼ−200A・m-2で一定となった。なお、idcが負であるのは、カソードサイクルにおけるカソード電流の方がアノードサイクルにおけるアノード電流よりも大きいことを表している。
母材のβ−Ti(●)由来の回折線に加えて、非常に鋭いルチル型酸化チタン(◆:Rutile)およびTiAl2O5相(▲)の回折線が強く現れている。一方、アナターゼ型酸化チタン(◇:Anatase)の回折線は非常に弱い。このことは、火花放電により準安定相であるアナターゼ型酸化チタンからルチル型酸化チタンへの相変態が進行していることを示している。さらに、電解液中のアルミニウムを取り込んでTiAl2O5相の生成もかなり進行していることを表している。
表面写真から酸化物層は多孔質であり、1〜2μmの円形ポアが多数表面に存在している。このような多孔質構造は、火花放電を伴う陽極酸化皮膜の特徴である。断面観察から、陽極酸化皮膜の膜厚は16μmであり、当該皮膜は2層構造であることがわかる。膜厚の70%程度を占める外層は多孔質であり、内層はかなり緻密な層となっている。
EPMAの分析結果と対応すると、アルミニウム(Al)は陽極酸化皮膜の外層に高濃度に存在していることがわかる。
また、リン(P)のプロファイルでは最表面を除き、母材を含めてほぼ一定の強度となっている。母材にはリンは存在しないはずであるから、他の元素との分光干渉が存在する可能性がある。
また、ナトリウム(Na)が母材と陽極酸化皮膜の界面に濃縮している。ナトリウムの濃縮量については不明であるが、密着性に悪影響を及ぼす可能性が考えられる。
さらに、水素(H)が母材中に取り込まれていることもわかる。これは、電解のカソードサイクルにおいてプロトンが還元され、母材中に吸収されたものであると考えられる。この水素吸蔵量について分析した結果、120ppm程度であることがわかった。これは、本発明に使用しているチタン製部材の水素量規定値(150ppm以下)内であった。
また、合金成分をみると、バナジウム(V)とクロム(Cr)のチタン(Ti)に対する割合は、陽極酸化皮膜中と母材中とでほぼ等しいことがわかる。これに対し、錫(Sn)は陽極酸化皮膜中で若干高濃度になっていることがわかる。
15minの交流電解で既に結晶性のよい酸化物(TiAl2O5相(▲)、ルチル型酸化チタン(Rutile(◆))およびアナターゼ型酸化チタン(Anatase(◇))が生成していること、および、電解時間が増しても特にXRDパターンに大きな変化は認められないことがわかる。
いずれも多孔質であるが、空隙の密度は電解時間と共に増える傾向にある。また、表面粗さも増す傾向が認められる。
15min交流電解した後のチタン製部材では、酸化物層のほとんどが多孔質層であり、30min交流電解した後のチタン製部材のような緻密な内層は存在しない。この多孔質層の厚さは11μmであり、30min交流電解後の試料の多孔質外層の厚さとほぼ一致する。したがって、30min交流電解した後のチタン製部材の酸化物層の2層構造は、初期の交流電解により多孔質層が生成し、その後緻密な内層が生成したと考えられる。
図13に、母材と酸化膜の押し込み深さ−荷重曲線を示す。
母材(Alloy substrate)に比べて、陽極酸化皮膜(Oxide layer)の押し込み深さはかなり小さいことから、陽極酸化皮膜の硬さが母材に比べて大きいことがわかる。母材の硬さ(HM)は約2.9GPaであるのに対し、陽極酸化皮膜の硬さは最大5.0GPaであり、母材より硬さが大きくなっていることがわかる。
次に、多孔質構造である陽極酸化皮膜の空隙の大きさなどを制御するために、各種電解パラメータの陽極酸化皮膜の構造と形態に及ぼす影響について検討を行った。
図14(a)〜(c)に、電解周波数の影響について検討した結果を示す。図14は、(a)40Hz、(b)100Hz、(c)500Hzで交流電解を行ったときのidcおよびiacの経時変化を示すグラフである。
図14の(a)〜(c)のiac(イ)に示すように、初期iacは周波数によらず4000A・m-2程度の値を示しているが、周波数が大きいほど電解時間と共にiacが大きく減少している。これは、idc(ロ)の挙動と対応していると考えられる。
まず、図17(a)〜(c)に、Vmax=400Vと一定とし、Vminを−30V,−50V,−70Vに変化させたときのiac,idcの変化を示す。Vminが小さくなるほどiacが大きくなり、陽極酸化皮膜が成長するようになっている。
(c)に示すように、Vmin=−70Vにおいて、idc(ロ)が負の大きな値のときに特にiac(イ)が大きくなっており,idcとiacに相関が認められる。このように、交流電解における陽極酸化皮膜の形成においてカソードサイクル時の水素発生が重要な役割を担っていることがわかる。
一方、大きなiacが流れたVmin=−70Vのチタン製部材では、ルチル型酸化チタンとAl2TiO5相の回折線が強く現れている。
図19(a)〜(c)に示すように、Vmaxを小さくすると、idcが負の大きな値を示すようになっている。これに対応してiacは、Vmaxが小さくなると、大きな値を維持する。
また、図21(a)〜(c)に示すように、表面をSEM観察すると、Vmaxが大きくなるほどポア径が小さくなっている。なお、図21は、それぞれ(a)Vmaxを300V、(b)Vmaxを350V、(c)Vmaxを400Vとし、Vmin=−70として陽極酸化皮膜を形成したSEM写真である。なお、図21(a)のスケールバーは10μmを示す。スケールバーのサイズは(b)および(c)においても同じである。
Yerokhinらは、Ti−6Al−4V合金のplasma electrolytic oxidationにおいて、アルミン酸カリウムとリン酸ナトリウムの混合浴から緻密で多孔度の小さな酸化膜が生成すると報告している(A.L. Yerokhin, A. Leyland, A. Matthews, "Applied Surface Science", 200 (2002) 172.)。
(イ)のP0浴では、TiAl2O5相(▲)の回折ピークは非常に弱く、リン酸イオン濃度が4g/L(P4浴)に増えるにつれて、TiAl2O5相の相対ピークが増えており、この酸化物層の生成にリン酸イオン濃度が影響を与えていることがわかる。
そして、これらのチタン製部材のテープ剥離試験結果を表2に示す。前記したように、P4浴では密着性のよい陽極酸化皮膜を生成できたが、P0浴ではテープ剥離試験により陽極酸化皮膜が全面剥離した。また、P2浴から得られた陽極酸化皮膜も部分剥離を生じた。P12浴では、電流が大きかったために、密着性の悪い陽極酸化皮膜が生成した。
ルチル型酸化チタン(◆)の回折ピークよりもTiAl2O5相(▲)の回折ピークが相対的に強くなっており、さらにアルミニウムの取り込み量が増えていることがわかる。
また、図26の(a)(b)に示す、Vmax=350V,Vmin=−50Vで30min交流電解したチタン製部材の表面SEM写真から、陽極酸化皮膜の空隙もP4浴に比べてかなり小さくなっていることがわかった。さらに、テープ剥離試験の結果も良好で、テープによる剥離が生じない、密着性のよい陽極酸化皮膜であることが確認された。なお、(a)のスケールバーは10μmを示し、(b)のスケールバーは5μmを示す。
また、P4浴で得られた陽極酸化皮膜に比べ、空隙の孔径は小さく、空隙の形成率(多孔度)は減少しているように見える。陽極酸化皮膜の膜厚は約9μmであった。
そして、最も多孔度が小さく、密着性の良好であったP12浴を用いて、Vmax=350V、Vmin=−50V、30minという条件で陽極酸化皮膜を形成したチタン製部材について、500℃×8時間の熱処理を行った。
その結果、熱処理後もテープ剥離を生じることなく、良好な密着性を維持した。
以上説明したように、時効前のβ型チタン合金であるTi−15V−3Al−3Cr−3Sn合金を、アルミン酸カリウムを含む電解液中で交流電解することにより、テープ剥離せず、密着性のよい陽極酸化皮膜を得ることができた。
次に、(実施例1)のβ型チタン合金であるTi−15%V−3%Al−3%Cr−3%Sn合金とともに純チタンおよびα−β型チタン合金であるTi−6%V−4%Al合金について、各種条件で陽極酸化を行った。
その結果を表3に示す。
ピーク電圧は、正の電圧V+と負の電圧V-をV+−V-の形で表現している。
膜厚は、チタン製部材の各箇所で渦電流膜厚計を用いて求めた値の平均値である。
硬さは、ビッカース硬さ計を用いて測定したものである。
孔径は、表面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察して測定した。
したがって具体的には、β型チタン合金を用いて人工骨、人工歯根、人工関節などの所定の形状に成形した後、本発明に係る陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法を適用してこれらに陽極酸化皮膜を形成することで、耐摩耗性に優れた好適な生体金属材料を製造することができることはいうまでもない。
2 チタン製部材
3 陽極酸化皮膜
3a 空隙
10 陽極酸化浴
11 不溶性金属材
12 電解液
13 電解用電源
Claims (18)
- β型チタン合金のチタン製部材の表面にアルミニウムを含む陽極酸化皮膜を形成したことを特徴とする陽極酸化皮膜形成チタン製部材。
- 前記陽極酸化皮膜が、Al2TiO5相を含むことを特徴とする請求項1に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材。
- 前記陽極酸化皮膜が、多数の空隙を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材。
- 前記陽極酸化皮膜が備える多数の空隙は、平均孔径が0μmを超え、3μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材。
- 前記陽極酸化皮膜の膜厚が、1〜100μmであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材。
- 前記陽極酸化皮膜の硬さが、ビッカース硬さでHv500以上であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材。
- 請求項1から請求項6のいずれかに記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材で構成されていることを特徴とする内燃機関用のバルブスプリング。
- 電解用電源の一の電極に接続されたβ型チタン合金のチタン製部材と、当該電解用電源の他の電極に接続された、交流電気をかけた電解液に対して不溶性の不溶性金属材と、をアルミン酸イオンを含む前記電解液中に浸漬する浸漬工程と、
前記電解液中に浸漬した前記チタン製部材および前記不溶性金属材に交流電気を流して陽極酸化処理を行うことによって、前記チタン製部材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、陽極酸化皮膜形成チタン製部材を製造する陽極酸化皮膜形成工程と、
を含むことを特徴とする陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法。 - 前記浸漬工程の前に、前記チタン製部材を前処理する前処理工程が含まれており、
前記前処理工程が、
前記チタン製部材の表面を洗浄する洗浄工程と、
洗浄された前記チタン製部材の表面を表面処理する表面処理工程と、
を含むことを特徴とする請求項8に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法。 - 前記チタン製部材の表面に前記陽極酸化皮膜を形成した後に、400〜550℃で1〜20時間の時効処理を行うことを特徴とする請求項8または請求項9に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法。
- 前記陽極酸化皮膜形成工程における陽極酸化処理が、火花放電陽極酸化処理であることを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法。
- 前記陽極酸化皮膜形成工程における陽極酸化処理が、交流法、交流直流重畳法、定電流法、定電圧法、不完全整流法、電流反転法、またはパルス法のいずれかであることを特徴とする請求項8から請求項11のいずれか1項に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法。
- 前記陽極酸化皮膜形成工程で流す前記交流電気は、周波数が、60〜200Hzであることを特徴とする請求項8から請求項12のいずれか1項に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法。
- 前記陽極酸化皮膜形成工程で流す前記交流電気の電圧が、正の電圧ピークとして、250〜400Vであるとともに、負の電圧ピークが前記正の電圧ピークの30%以下であることを特徴とする請求項8から請求項13のいずれか1項に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法。
- 前記陽極酸化皮膜形成工程の電解液温度が、室温〜80℃であることを特徴とする請求項8から請求項14のいずれか1項に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法。
- 前記陽極酸化皮膜形成工程の通電時間が、10分間以上、45分間未満であることを特徴とする請求項8から請求項15のいずれか1項に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法。
- 前記アルミン酸イオンを含む電解液が、アルカリ性であることを特徴とする請求項8から請求項16のいずれか1項に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法。
- アルカリ性の前記アルミン酸イオンを含む電解液が、アルミン酸カリウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミン酸バリウム、アルミン酸リチウム、アルミン酸マグネシウム、およびアルミン酸ベリリウムのうち少なくとも1種の化合物を含む電解液であることを特徴とする請求項17に記載の陽極酸化皮膜形成チタン製部材の製造方法。
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