JP2006333665A - 電動車両の駆動力制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】ロック状態にある車輪の回転を早期に復帰させ、十分なブレーキ性能を確保しつつアンチロックブレーキ制御の応答性とアンチロックブレーキ作動時の方向安定性とを向上する。
【解決手段】ABSが作動して少なくとも1輪が減圧モードのとき、回生トルク零化指令を出力し(S4)、ロックした車輪の車輪速度をアップさせる車輪速アップ駆動トルク指令を出力する(S5)。そして、時間tが経過したとき或いは目標モータ回転数に達したとき、微小駆動トルクを与える微小駆動トルク指令を出力して駆動系の機械的な応答遅れを補償すると共に、ブレーキ液圧アップ指令信号を出力して微小駆動トルク発生中のブレーキ制御圧を増圧する(S8)。これにより、ロック状態にある車輪の回転を早期に復帰させ、十分なブレーキ性能を確保しつつアンチロックブレーキ制御の応答性とアンチロックブレーキ作動時の方向安定性とを向上する。
【選択図】図6

Description

本発明は、少なくともモータの駆動力を車輪に伝達する電動車両の駆動力制御装置に関する。
近年、自動車等の車両においては、ガソリン等を燃料とするエンジンを動力源として搭載する車両に対し、低公害、省資源の促進を目的として、バッテリからの電力によって駆動力を発生するモータを搭載する電気自動車や、エンジンに加えてモータを搭載し、エンジンとモータとを併用するハイブリッド車等の電動車両が実用化の段階となっている。
この種の電動車両では、モータによる回生制動が可能であることから、ブレーキペダルの踏力に応じたブレーキ圧を電子的に制御する電子制御ブレーキシステム(EBS)を採用することが多い。しかしながら、この電子制御ブレーキシステムにアンチロックブレーキシステム(ABS)を併用した場合、モータによる回生制動とABS制御との切換えを円滑に行う必要がある。
このため、特許文献1には、ABS制御開始後の減圧を検知した場合、回生制動トルクをゼロ化して回生協調ブレーキ制御を終了することにより、回生制動モードからABSモードへの切換え時にブレーキペダルのショックを軽減させると共に、減圧不要の通常ブレーキ時に回生制動モードの機会を確保する技術が開示されている。
特開2000−270406号公報
しかしながら、ABSを作動させてブレーキ圧を減圧したとき、回生制動を中止するのみでは、車速や路面条件等の影響を受けてロック状態にある車輪の回転復帰が遅くなる虞があり、ABSによるアンチスリップ制御性の効果を必ずしも十分に得られない場合がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ロック状態にある車輪の回転を早期に復帰させ、十分なブレーキ性能を確保しつつアンチロックブレーキ制御の応答性とアンチロックブレーキ作動時の方向安定性とを向上することのできる電動車両の駆動力制御装置を提供することを目的としている。
上記目的を達成するため、本発明による電動車両の駆動力制御装置は、少なくともモータの駆動力を車輪に伝達し、ブレーキ系の圧力を電子的に制御する電子制御ブレーキシステムと、制動による上記車輪のロック状態を判定して上記車輪のブレーキ圧力を調整するアンチロックブレーキシステムとを備えた電動車両の駆動力制御装置であって、上記車輪がロック状態と判定したときの車体速度の推定値に基づいて、上記モータの目標回転数を設定する手段と、上記アンチロックブレーキシステムが作動して上記車輪のブレーキ圧力を減圧する減圧モードにあるとき、上記モータによる回生制動を中止し、上記モータに、ロック状態にある上記車輪の回転慣性に基づく駆動トルクを上記目標回転数に達するまで発生させる手段とを備えたことを特徴とする。
本発明による電動車両の駆動力制御装置は、ロック状態にある車輪の回転を早期に復帰させることができ、十分なブレーキ性能を確保しつつアンチロックブレーキ制御の応答性とアンチロックブレーキ作動時の方向安定性とを向上することができる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜図6は本発明の実施の一形態に係わり、図1はハイブリッド車のシステム構成図、図2は電子制御ブレーキのシステム系統図、図3はHEVモータ制御系とブレーキ制御系のブロック図、図4は制動力マップの特性例を示す説明図、図5は駆動トルクマップの特性例を示す説明図、図6は車輪速復帰制御ルーチンのフローチャートである。
本発明は、バッテリからの電力によって走行駆動力を発生するモータを搭載する電気自動車や、ガソリン等を燃料とするエンジンとモータとを搭載し、エンジンとモータとの少なくとも一方で走行駆動力を発生するハイブリッド車等の電動車両に適用されるものであり、図1においては、電動車両としてのハイブリッド車1に本発明を適用した例を示している。
本形態のハイブリッド車1は、駆動系として、車両前部のエンジン2に変速機4を介して連結されるフロントモータ5と、リヤの減速差動機構6に連結されるリヤモータ7との2つのモータを搭載しており、エンジン2とフロントモータ5との少なくとも一方の駆動力を変速機4からフロント車軸8を介して左右の前輪FtLH,FtLHに伝達すると共に、リヤモータ7の駆動力を減速差動機構6からリヤ車軸9を介して左右の後輪RrLH,RrRHに駆動力を伝達する4輪駆動車である。尚、エンジン2と変速機4との間には、エンジン2の駆動力を断続するクラッチ3が介装されている。
また、ハイブリッド車1には、電子制御系として、エンジン2及び変速機4を制御するエンジン・変速コントローラ(EG&TM_ECU)50、後述する電子制御ブレーキシステム(EBS)を制御するブレーキコントローラ(BRK_ECU)60、フロントモータ5及びリヤモータ7を制御すると共にシステム全体を統括する中央のハイブリッドコントローラ(HEV_ECU)70が備えられている。各コントローラは、マイクロコンピュータを中心として各種インターフェースや周辺回路を備えて構成され、CAN(Controller Area Network)等の通信バス80を介して双方向通信可能に接続され、制御情報や制御対象の動作状態に係わるセンシング情報が相互交換される。
エンジン・変速コントローラ50は、中央のハイブリッドコントローラ70からの制御指令を受け、エンジン2及び変速機4を制御する。エンジン制御としては、エンジン2の運転状態を検出する各種センサ・スイッチ類からの信号に基づいて、スロットル開度、点火時期、燃料噴射量等のパラメータを演算し、これらのパラメータの制御信号によってアクチュエータ類を駆動し、エンジン2の駆動力が制御指令値に一致するよう、エンジン2の運転状態を制御する。また、変速機制御としては、変速機4の油圧を制御し、運転状態に応じて決定した変速段、例えばアクセル開度(アクセルペダルストローク)と車速とに基づく変速線図に基づいて決定した変速段への切換制御を行う。
ブレーキコントローラ60は、ブレーキペダルの踏力に応じて、ハイブリッドコントローラ70によるモータの回生制動との協調制御下で電子制御ブレーキシステムによるブレーキ制御を行う。このブレーキ制御においては、左右の前輪FtLH,FtRHの回転(車輪速度)を検出する車輪速センサ10,11、左右の後輪RrLH,RrRHの回転を検出する車輪速センサ12,13からの信号に基づいて車輪のスリップを監視し、車輪のスリップ率が規定の判定値を越えた場合、車輪がロック状態にあると判定してアンチロックブレーキシステム(ABS)に対する制御を実行する。以下では、車輪のスリップ率が規定の判定値を越えた場合を、単に「車輪がロックした」と表現する。
ハイブリッドコントローラ70は、フロントモータ5の回転を検出するフロント回転センサ14、リヤモータ7の回転を検出するリヤ回転センサ15、その他、運転者の運転操作を含む運転状態を検出する図示しない各種センサ・スイッチ類からの信号を入力し、運転者の要求に応じた車両の要求駆動トルクを演算する。そして、この要求駆動トルクをエンジン2,フロントモータ5,リヤモータ7に適宜分配し、エンジン・変速コントローラ50に制御指令を出力すると共に、フロントモータ5,リヤモータ7を、それぞれインバータ16,17を介して駆動制御する。
また、ハイブリッドコントローラ70は、ブレーキコントローラ60からの制御情報に基づいて制動開始と認識したとき、クラッチ3を開放してエンジン2の出力を切離し、フロントモータ5及びリヤモータ7の回生制動によるモータのみの走行に切換える。このモータのみの走行においては、ブレーキによる車輪ロックが発生したとき、ロックした車輪に対する回生制動が中止され、ABSによるブレーキ圧の減圧タイミングに合わせて比較的大きな駆動トルクTMMを発生させることにより、ロックした車輪の回転を早期に復帰させる車輪速復帰制御を実行する。
すなわち、従来、ブレーキにより車輪がロックしたときには、ABSを作動させてブレーキ圧を減圧しているが、このブレーキ圧の減圧や回生の中止のみでは、ロックした車輪の回転復帰が車速や路面条件等の影響を受け、必ずしも十分な効果を得られない場合がある。従って、ハイブリッドコントローラ70は、ロックした車輪に対して受動的にブレーキ圧を減圧するのみではなく、回生中止及びブレーキ圧の減圧下でロックした車輪に積極的に駆動トルクTMMを与えることにより、回転復帰を促進する。
また、このとき、回転復帰の効果を上げるため、ABSによるブレーキ減圧後の加圧時に、駆動系のガタ等による機械的な応答遅れを抑制するため、微小駆動トルクTMminを与えるようにしており、更に、この微小駆動トルクTMmin発生時には、ブレーキ制御圧を微小駆動トルクTMmin分だけ高め、万一、運転者がスリップを察知してブレーキペダルの踏み込みを緩めた場合にも、ABSによる加圧時の制動力を確保する。
ここで、ABSを併設した本形態の電子制御ブレーキシステム(EBS)について説明する。本形態の電子制御ブレーキシステムは、図2に示すように、左前輪FtLH及び左後輪RrLHに対応するブレーキラインBL1と、右前輪FtRH及び右後輪RrRHに対応するブレーキラインBL2との独立した2系統の油圧ラインを備えている。
ブレーキラインBL1は、左前輪FtLHのホイールシリンダ20に接続されるホイールシリンダラインW1Ftと、左後輪RrLHのホイールシリンダ21に接続されるホイールシリンダラインW1Rrとが合流され、更に、合流点の上流側が、タンデムマスタシリンダ一体型のハイドロブースタ30の一方のシリンダからの液圧を導くマスタシリンダラインMC1と、電動ポンプ31及びアキュムレータ32によって形成される圧力源から制御圧を導く一方の制御圧ラインEB1とに分岐されて形成されている。
また、ブレーキラインBL2は、右前輪FtRHのホイールシリンダ22に接続されるホイールシリンダラインW2Ftと、右後輪RrRHのホイールシリンダ23に接続されるホイールシリンダラインW2Rrとが合流され、更に、合流点の上流側が、ハイドロブースタ30の他方のシリンダからの液圧を導くマスタシリンダラインMC2と、電動ポンプ31及びアキュムレータ32によって形成される圧力源から制御圧を導く他方の制御圧ラインEB2とに分岐されて形成されている。
各ホイールシリンダラインW1Ft,W1Rr,W2Ft,W2Rrには、それぞれ、各ホイールシリンダにブレーキ圧を加圧するためのABS加圧弁SV1,SV2,SV3,SV4が介装されている。また、各ホイールシリンダラインW1Ft,W1Rr,W2Ft,W2Rrは、各ABS加圧弁SV1〜SV4と各ホイールシリンダ20〜23との間で分岐され、それぞれ、ブレーキ圧を減圧するためのABS減圧弁SV5,SV6,SV7,SV8を介して減圧ラインL3に合流され、ハイドロブースタ30及びアキュムレータ32に供給するブレーキ液を貯留するリザーバ33に接続されている。
ハイドロブースタ30は、ブレーキペダル34の踏力を増幅するブースタ部(B)と2つのマスタシリンダ部とアキュムレータ32からの液圧を調圧してブースタ部(B)にフィードバックするレギュレータ部(R)とを同軸上に配置して構成されている。ハイドロブースタ30の一方のマスタシリンダ部は、マスタシリンダラインMC1に介装される切換弁SV9を介してホイールシリンダラインW1Ft,W1Rrの合流部に接続され、他方のマスタシリンダ部は、マスタシリンダラインMC2に介装されるストロークシミュレータ35及び切換弁SV10を介してホイールシリンダラインW2Ft,W2Rrの合流部に接続されている。
また、マスタシリンダラインMC1,MC2には、マスタシリンダ部からの液圧を検出する圧力センサ(MC圧センサ)36,37が切換弁SV9,SV10の上流側に取付けられている。これらのMC圧センサ36,37によって検出される圧力は、運転者のブレーキ操作によるブレーキペダル34のペダル踏力として用いられ、ペダル踏力に応じたブレーキ圧が決定される。
尚、ストロークシミュレータ35は、シリンダと圧縮ばねとで構成され、EBS作動時、ブレーキ圧に応じてシリンダに形成された圧力室の体積を増減させ、ブレーキペダル34のストロークに対し、自然なフィーリングを得るためのものである。
一方、アキュムレータ32には、リザーバ33に貯留されているブレーキ液が電動ポンプ31によって圧送される。このアキュムレータ32に蓄圧された圧力は、圧力センサ38により検出され、検出圧力が設定値以下になると、電動ポンプ31が駆動されてアキュムレータ32の圧力が設定圧力に達するまで加圧される。
アキュムレータ32の下流側は、ハイドロブースタ30のレギュレータ部(R)に接続されると共に、リニア制御加圧弁LSV1に接続されている。このリニア制御加圧弁LSV1の下流側は、リニア制御減圧弁LSV2を介してリザーバ33に接続されると共に、各制御圧ラインEB1,EB2に、それぞれ、切換弁SV12,SV13を介して接続されている。
リニア制御加圧弁LSV1,リニア制御減圧弁LSV2は、通路開口をリニアに変化させる制御弁であり、各制御圧ラインEB1,EB2の切換弁SV12,SV13の直下流に取付けられた圧力センサ(WC圧センサ)39,40の信号に基づいて制御される。すなわち、アキュムレータ32に蓄圧された高圧の液圧をリニア制御加圧弁LSV1及びリニア制御減圧弁LSV2で調圧し、WC圧センサ39,40で検出した各ホイールシリンダ20〜23の実ホイールシリンダ圧が目標値に一致するように制御する。
本形態においては、システムに異常が生じていない正常時、マスタシリンダラインMC1,MC2の切換弁SV9,SV10は閉弁状態とされ、制御圧ラインEB1,EB2の切換弁SV12,13が開弁状態とされる。このため、ブレーキペダル34が踏み込まれことによりマスタシリンダ圧が上昇すると、マスタシリンダ内のブレーキ液はストロークシミュレータ35へ流入する一方、ブレーキペダル34の踏み込みが解除され、マスタシリンダ圧が低下すると、ストロークシミュレータ35内のブレーキ液はマスタシリンダへ流入する。従って、切換弁SV9,SV10が閉弁されている状況下において、ストロークシミュレータ35内の圧縮ばね特性によりブレーキペダル34に対してペダル踏力に応じたストロークを発生させることができる。
システム異常が検出された場合には、切換弁SV12,SV13が閉弁され、切換弁SV9,SV10が開弁される。従って、マスタシリンダラインMC1がホイールシリンダラインW1Ft,W1Rrに連通されると共に、マスタシリンダラインMC2がホイールシリンダラインW2Ft,W2Rrに連通され、各ホイールシリンダ20〜23のホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧まで昇圧することが可能となり、安全が確保される。
尚、切換弁SV9,SV10の上流側の圧力と下流側の圧力、すなわち、マスタシリンダ側の圧力と各制御圧ラインEB1,EB2の圧力とは、常時ほぼ同じ圧力に維持されており、システム異常発生時にも確実且つ迅速なブレーキ操作が可能なようにバックアップしている。
次に、ブレーキコントローラ60及びハイブリッドコントローラ70によるブレーキ制御に係わる機能について、図3のブロック図を用いて説明する。
ブレーキコントローラ60は、EBS制御機能として、目標液圧演算部61、ローパスフィルタ62、実平均液圧演算部63、リニア制御弁指令値演算部64を備え、ABS制御機能として、ABS制御部65、ABS制御弁指令値演算部66を備えている。ABS制御部65は、スリップ検知演算部65a、推定車速演算部65b、減速度演算部65cを備えている。
目標液圧演算部61は、運転者がブレーキペダル34を踏み込んだときのペダル踏力を、MC圧センサ36,37によってマスタシリンダラインMC1,MC2の圧力として検出し、このペダル踏力に対応した要求制動力と、通信バス80を介してハイブリッドコントローラ70から送信されたモータ回生情報及び後述する液圧アップ指令に基づく制動力とに基づいて目標制動力を決定する。そして、この目標制動力に対応して、各ホイールシリンダ20〜23に印加するホイールシリンダ圧の目標値(目標液圧)を算出する。
ペダル踏力に対応した制動力は、例えば、図4に例示するマップを参照して決定することができる。図4の例では、ペダル踏力に対して前半で制動力を大きい勾配で直線的に増加させ、急ブレーキ時にも確実に対応できるようにしている。
ローパスフィルタ62は、WC圧センサ39,40の信号に含まれる脈動成分やノイズ成分を除去するものであり、実平均液圧演算部63は、このローパスフィルタを通過した信号を処理し、各ホイールシリンダ20〜23回路内ブレーキ液の実平均液圧を算出する。
リニア制御弁指令値演算部64は、目標液圧演算部61で算出した目標液圧と実平均液圧演算部63で検出した実平均液圧との偏差errに基づいて、アキュムレータ32に蓄圧された圧力を調圧するリニア制御加圧弁LSV1及びリニア制御減圧弁LSV2に対する制御指令値を演算する。この制御指令値に基づいてリニア制御加圧弁LSV1及びリニア制御減圧弁LSV2の開度が可変され、各ホイールシリンダ20〜23の実平均液圧が目標液圧に収束するようフィードバック制御される。
ABS制御部65は、スリップ検知演算部65aで4輪の車輪速センサ10〜13の信号に基づいて車輪のスリップを検知し、車輪のスリップ率が規定の判定値を越えた場合、車輪ロックと判定する。また、推定車速演算65bで4輪の車輪速センサ10〜13の信号に基づいて車体速度を推定した推定車速を演算する。この推定車速は、例えば、4輪の車輪速度の変化に対して最大速度を包絡して推定車速を算出する。更に、減速度演算部65cで加速度センサ19の信号に基づいて車体の減速度を演算する。
また、ABS制御部65は、4輪の車輪速センサ10〜13の信号に基づいて何れかの車輪がロックしたことを検出すると、ABS加圧弁SV1〜SV4及びABS減圧弁SV5〜SV8を駆動する際のABS制御モードを決定する。このABS制御モードは、ロックした車輪のホイールシリンダ圧を減圧する減圧モードと、ホイールシリンダ圧を保持する保持モードと、減圧したホイールシリンダ圧を再加圧する加圧モードとからなり、これらのモードが短時間で移行する状態が繰り返される。
ABS制御弁指令値演算部66は、ABS制御部65で決定したABS制御モードに応じて加圧弁(ABS加圧弁SV1〜SV4)及び減圧弁(ABS減圧弁SV5〜SV8)に対する指令値を演算し、ABS制御の各モードに対応して短時間で各弁の閉弁と開弁とを切り換える。すなわち、減圧モードのときには、ロックした車輪に対応する加圧弁を閉じると共に対応する減圧弁を開弁し、保持モードのとき、対応する加圧弁及び減圧弁を共に閉弁状態に保持し、加圧モードのとき、対応する減圧弁を閉弁させたまま対応する加圧弁を開弁する動作を切り換える。
以上の機能を有するブレーキコントローラ60は、ブレーキ信号、回生指令値、ABS作動信号、ABS作動状態、推定車速等の制御情報を通信バス80を介してハイブリッドコントローラ70に送信する。ブレーキ信号は、MC圧センサ36,37の信号に基づいて運転者のブレーキ操作を検出したことを示す信号であり、ABS作動信号は、ABS加圧弁SV1〜SV4の何れかが閉弁されている状態(4輪全てが加圧モードでない状態)を、ABS作動とする信号である。また、ABS作動状態は、減圧・保持・加圧モードの何れの制御状態にあるかについての情報である。
ハイブリッドコントローラ70のブレーキ制御に係わる機能は、駆動制御部71と、インバータ指令値演算部72とに大別される。駆動制御部71は、目標駆動・回生トルク演算部71aと目標モータ回転数演算部71bとを備えている。
目標駆動・回生トルク演算部71aは、ブレーキペダル34が踏み込まれておらず、ブレーキコントローラ60からブレーキ信号が入力されない通常走行時、アクセルペダルの踏み込み量(アクセルペダルストローク)を検出するアクセルセンサ45からの信号に基づいて運転者のアクセル操作に応じた要求駆動トルクを算出し、この要求駆動トルクをエンジントルクとモータトルクとに分配する。そして、エンジントルクとモータトルクとの分配率に基づく駆動トルク指令値を、エンジン・変速コントローラ50、インバータ指令値演算部72に出力し、エンジン・変速コントローラ50によるエンジン制御(変速制御)を実行させる共に、インバータ指令値演算部72からの制御指令値によるフロントモータ5及びリヤモータ7の駆動制御を実行する。
アクセル操作に応じた要求駆動トルクは、例えば、図5に例示するマップを参照して決定することができる。図5の例では、アクセルペダルストロークに対して駆動トルクを直線的に増加させ、所定のアクセルペダルストローク以上の領域では、エンジン特性とモータの消費電力とを考慮して駆動トルクの増加割合を抑制する特性に設定されている。
また、ブレーキコントローラ60からブレーキ信号が入力されたときには、ABS作動状態を参照し、ABSが作動していない状態では、モータ回生トルクを演算してインバータ指令値演算部72に出力すると共に、ブレーキコントローラ60にモータ回生情報を送信する。
更に、ブレーキコントローラ60でABS制御が開始されたときには、ロックした車輪の回生を中止し、回転を復帰させる車輪速復帰制御に移行する。この車輪速度復帰制御は、基本的に、ロックした車輪に比較的大きなモータ駆動トルクTMMを与えることにより、スリップした車輪速度ω0を可及的且つ速やかに加速し、推定車速V相当の目標車輪速度ωに復帰させるものであり、目標駆動・回生トルク演算部71aで演算されるモータ駆動トルクTMMと目標モータ回転数演算部71bで演算される目標モータ回転数ωMとをフィードフォワード制御することにより実行される。
モータに付加する駆動トルクは、本形態においては、「エネルギーの法則」に従い、スリップしている駆動系の回転慣性IWを、駆動トルク付加開始時の実車輪速度(実スリップ車輪速度)ω0から目標車輪速度ωに加速する関係を記述した以下の(1)式に基づいており、(1)式から以下の(2)式を導き、目標車輪速度ωと実車輪速度ω0との偏差に比例する付加駆動トルクMWを一定時間tだけ与えるように設定する。
1/2・IW・(ω2−ω02)=Mw・φ=MW・1/2・(ω+ω0)・t …(1)
但し、φ:トルク付加回転角度
t:トルク付加時間
IW・(ω−ω0)=MW・t …(2)
実際にモータに与える駆動トルクTMMは、車軸までの減速比i、スリップ車輪数、及びスリップ率(ω−ω0/ω)を考慮して設定する。すなわち、付加駆動トルクMWは、各左右輪、駆動軸毎に上述のエネルギー式を適用して求めた付加駆動トルクMj(添字jは、各車輪毎の値を示す)として求められ、以下の(3)式に示すように、モータ駆動トルクTMMは、車輪毎の付加駆動トルクMjの合力を減速比iで除算した値として求められる。また、目標モータ回転数ωMは、以下の(4)式に示すように、目標車輪速度ωに減速比iを乗じて求められる。
TMM=ΣMj/i …(3)
ωM=ω×i …(4)
以上の駆動トルクTMMと目標モータ回転数ωMとによるモータ制御により、スリップした(ロックした)車輪の回転が復帰し、ABS再加圧が開始されるが、この再加圧により車輪スリップ率が増加すると、再度、ABS減圧モードに移行し、以後、これを繰り返すことになる。尚、このとき、駆動系の回転慣性を加速するだけであるため、モータ最大出力をオーバーすることはない。
また、以上のモータ制御においては、ABS加圧時に微小駆動トルクTMminを与える。この微小駆動トルクTMminは、駆動系のガタ等による機械的な応答遅れを補償するために与えるトルクであり、その後のブレーキ圧を開放した車輪の回転復帰を早めることができる。本形態においては、ABS加圧毎に微小駆動トルクTMminを継続して与えるようにしているが、当初の期間のみ微小駆動トルクTMminを与えるようにしても良い。
更に、この微小駆動トルクTMminの発生中は、液圧アップ指令をブレーキコントローラ60に送信し、EBSのリニア制御加圧弁LSV1及びリニア制御減圧弁LSV2によるブレーキ制御圧を、微小駆動トルクTMminに相当する調整圧ΔPだけ増圧させる。これは、万一、運転者がスリップを察知してブレーキペダル34の踏み込みを緩めた場合にも、ABS加圧時の車輪制動力を通常のABS制御時と同様に確保するためである。
この場合の調整圧ΔPと、微小駆動トルクTMmin相当の車輪位置制動トルクΔTBminjとの関係は、以下の(5)式に示すように、路面の状態に依存する路面摩擦係数μではなく、ブレーキ機構部品の摩擦材の摩擦係数μgjによって決定される。
ΔTBminj=ΔP・μgj・AWj・Rj …(5)
但し、AWj:ホイールシリンダ面積
Rj :ブレーキ有効半径
従って、以下の(6)式に示すように、微小駆動トルクTMminに減速比iを乗じた車輪位置制動トルクΔTBminjの合力(制動力)は、摩擦材の摩擦係数μgj、ホイールシリンダ面積AWj、ブレーキ有効半径Rjが一定であるため、調整圧ΔPにより変動することはない。
TMmin・i=ΣΔTBminj …(6)
以上の車輪速復帰制御は、具体的には、ハイブリッドコントローラ70で所定時間毎に実行される図6の車輪速復帰制御ルーチンによって実施される。以下、図6のフローチャートに示す車輪速復帰制御ルーチンについて説明する。
この車輪速復帰制御ルーチンにおいては、最初のステップS1で、ブレーキコントローラ60からのブレーキ信号の入力の有無を調べる。そして、ブレーキ信号が入力されておらず、運転者によるブレーキ操作がなされていないときには、ブレーキ信号の入力待ちとなり、ブレーキ信号が入力されたとき、ステップS2へ進む。
ステップS2では、ブレーキコントローラ60からABS作動信号が入力されているか否かを調べる。ABS作動信号が入力されていないとき、すなわち、ブレーキ時の車輪ロックが発生していないときには、「回生制動制御モード」ルーチンへ移行し、ABS作動信号が入力されたとき、すなわち、ブレーキ時に車輪ロックが発生したときには、ステップS3へ進み、ABS作動状態(ABS制御モード)を調べる。
その結果、4輪の全てが減圧モードでないときには、ステップS2からステップS8へジャンプし、少なくとも1輪が減圧モードのとき、ステップS2からステップS4へ進んで回生トルクを零とする回生トルク零化指令を出力し、減圧モード下にある車輪の回生を中止した後、ステップS5で車輪速アップ駆動トルク指令を出力する。この車輪速アップ駆動トルク指令は、前述した目標モータ回転数ωMと駆動トルクTMMとのフィードフォワード制御により、ロックした車輪の車輪速度をアップして回転復帰を促進する制御指令である。
その後、ステップ6へ進み、モータ回転数が目標モータ回転数ωMに達したか否かを判定する。モータ回転数が目標モータ回転数ωMに達していない場合には、ステップS7で駆動トルクTMMを与える時間として設定した時間tの経過を待ち、時間tが経過したとき、或いはモータ回転数が目標モータ回転数ωMに達したときには、ステップS8へ進み、
微小駆動トルクTMminを与える微小駆動トルク指令を出力して駆動系の機械的な応答遅れを補償すると共に、ブレーキコントローラ60にブレーキ液圧アップ指令信号を出力して微小駆動トルクTMmin発生中のブレーキ制御圧を増圧し、運転者がスリップを察知してブレーキペダル34の踏み込みを緩めた場合にも、ABS加圧時の車輪制動力を通常のABS制御時と同様に確保する。
その後、ステップS9へ進み、ABS作動信号の有無からABS作動が解除されたか否かを判断する。そして、依然としてABSが作動している場合には、ステップS3へ戻って以上の処理を繰り返し、ABS作動が解除されたとき、ステップS10へ進んで、駆動トルクTMM及び微小駆動トルクTMminによる補正を解除する補正トルク解除信号を出力すると共に、微小駆動トルクTMminに対応したブレーキ制御圧の増圧を解除する液圧アップ指令解除信号をブレーキコントローラ60に出力し、ルーチンを抜ける。
以上のように、本実施の形態においては、ABSを併設した既存の電子制御ブレーキシステムを利用しながら、制動中におけるABS作動時に、各輪のABS作動状態(減圧・保持・加圧モード)の情報に基づいて、スリップした(ロックした)車輪に比較的大きな駆動トルクを与えて車輪の回転復帰を早め、また、回転復帰後も、微小駆動トルクを与えると共に、この微小駆動トルク分だけブレーキ制御圧を高めることにより、十分なブレーキ性能を確保しつつ、ABS制御応答性とABS作動時の方向安定性とを向上することができる。
尚、自動ブレーキにより車両のヨー挙動を制御するスタビリティコントロール装置を有する電動車両では、スタビリティコントロール制御終了時の車輪速復帰を早め、ヨー収束性を向上することが可能である。
ハイブリッド車のシステム構成図 電子制御ブレーキのシステム系統図 HEVモータ制御系とブレーキ制御系のブロック図 制動力マップの特性例を示す説明図 駆動トルクマップの特性例を示す説明図 車輪速復帰制御ルーチンのフローチャート
符号の説明
5 フロントモータ
7 リヤモータ
60 ブレーキコントローラ
65 ABS制御部
70 ハイブリッドコントローラ
71a 回生トルク演算部
71b 目標モータ回転数演算部
SV1〜SV4 ABS加圧弁
SV5〜SV8 ABS減圧弁
IW 回転慣性
TMM 駆動トルク
TMmin 微小駆動トルク
V 推定車速
i 減速比
ω 目標車輪速度
ωM 目標モータ回転数
ω0 実車輪速度

Claims (8)

  1. 少なくともモータの駆動力を車輪に伝達し、ブレーキ系の圧力を電子的に制御する電子制御ブレーキシステムと、制動による上記車輪のロック状態を判定して上記車輪のブレーキ圧力を調整するアンチロックブレーキシステムとを備えた電動車両の駆動力制御装置であって、
    上記車輪がロック状態と判定したときの車体速度の推定値に基づいて、上記モータの目標回転数を設定する手段と、
    上記アンチロックブレーキシステムが作動して上記車輪のブレーキ圧力を減圧する減圧モードにあるとき、上記モータによる回生制動を中止し、上記モータに、ロック状態にある上記車輪の回転慣性に基づく駆動トルクを上記目標回転数に達するまで発生させる手段とを備えたことを特徴とする電動車両の駆動力制御装置。
  2. 上記目標回転数を、上記車体速度に相当する車輪速度に、上記モータから車軸までの減速比を乗算して求めることを特徴とする請求項1記載の電動車両の駆動力制御装置。
  3. 上記駆動トルクを、上記目標回転数と実回転数との偏差に比例するように設定することを特徴とする請求項1又は2記載の電動車両の駆動力制御装置。
  4. 上記駆動トルクを、上記目標回転数と実回転数との偏差と上記回転慣性との乗算値に基づいて設定することを特徴とする請求項1〜3の何れか一に記載の電動車両の駆動力制御装置。
  5. 上記駆動トルクを、一定時間だけ発生させることを特徴とする請求項1〜4の何れか一に記載の電動車両の駆動力制御装置。
  6. 上記モータが上記目標回転数に達した後、上記アンチロックブレーキシステムが上記車輪のブレーキ圧力を再加圧する加圧モードに移行したとき、駆動系の機械的な応答遅れに基づく微小駆動トルクを発生させることを特徴とする請求項1〜5の何れか一に記載の電動車両の駆動力制御装置。
  7. 上記微小駆動トルクを、上記アンチロックブレーキシステムの作動により上記ブレーキ圧力を再加圧したときに継続的に発生させることを特徴とする請求項6記載の電動車両の駆動力制御装置。
  8. 上記モータで上記微小駆動トルクを発生中は、上記ブレーキ系の圧力を上記微小駆動トルク分だけ増加させることを特徴とする請求項6又は7記載の電動車両の駆動力制御装置。
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