JP2006299399A - 硬質皮膜被覆部材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】基体表面から、最下層、中間積層部、最上層とからなる硬質皮膜被覆部材において、該中間積層部は、金属成分の組成が(AlWCrXTiYSiZ)、但し、組成は原子%で、W+X+Y+Z=100、の窒化物、ホウ化物、炭化物及び酸化物の何れか又はそれらの固溶体又は混合物からなるA層とB層とが、A層は70<W+X<100、B層は30<Y<100で層厚方向に交互に積層され、該最上層は、Ti又はTiとSiの窒化物、炭化物、硫化物、硼化物の何れか又はそれらの固溶体又は混合物であることを特徴とする硬質皮膜被覆部材である。
【選択図】図1
Description
最上層の層厚さTμmは、0.01≦T<5、中間積層部の層厚さMμmは、0.1≦M<5、最下層の厚さ層Bμmは、0.01≦B<3、であり、M≦T≦B、であることが好ましい。中間積層部の硬度Hが、30GPa≦H≦50GPaの範囲であること、弾性係数Eが、450GPa≦E≦550GPaの範囲であること、弾性回復率Rが、28%≦R≦38%の範囲であることが好ましい。最上層は酸素を含有し、最表面から膜厚方向に100nm以内の深さ領域で酸素濃度の最大値を有することが好ましい。また、部材がエンドミル又はドリルであること、基体が高速度鋼又は超硬合金又はサーメットであることが好ましい。
最上層は、Ti又はTiとSiの窒化物、炭化物、硫化物、硼化物の何れか又はそれらの固溶体又は混合物の硬質皮膜である。最上層により潤滑性、皮膜硬度を更に向上させることができる。ここで最上層と中間積層部との界面は、両者の相互拡散層とすることが好ましく、これによって密着強度に優れる。最上層を中間積層部の上層側に被覆した場合、剥離や異常摩耗を著しく抑制し、硬質皮膜全体の潤滑性に関しても改善したものである。
最下層、中間積層部、最上層の組合せが極めて重要である。
中間積層部の組成は、A層が、45≦W≦65、25≦X≦35、0<Y≦10、0<Z≦10、B層が、0<W≦10、0<X≦10、30<Y<80、0<Z<30、であることが好ましい。上記の組成範囲に制御することにより、中間積層部が優れた潤滑性並びに耐熱性を有した状態で高硬度化され、A層とB層の密着強度に優れ、最下層並びに最上層との密着強度にも優れ、硬質皮膜全体の強度のバランスが最適となり好ましい。
最下層は、Alを50原子%以上含有し、残部がTi、Cr、Siから選択される1種以上の窒化物であることが好ましい。これにより、中間積層部との密着強度に優れ、同時に中間積層部の残留応力を緩和することができる。特に鉄系基体の場合は顕著にその効果が発揮される。
A層とB層との層厚方向の積層周期は0.5nm以上、100nm未満であり、X線回折における2θで40度から45度の範囲に少なくとも2つ以上のピークを有する硬質皮膜であることが好ましい。A層とB層の各厚さが層厚方向に0.5nm以上、100nm未満の周期で交互に積層することにより、AlとCrを必須成分とする中間積層部が高硬度化され、最下層、最上層との密着強度並びに硬質皮膜全体の強度のバランスが最適となる。また、中間積層部の上層側に最上層を被覆することにより、最上層の潤滑性並びに硬度が向上する。A層とB層の各厚さが層厚方向に0.5nm未満の場合、皮膜硬度と潤滑性が低下する。一方100nm以上の場合、AlとCrを必須成分とする中間積層部の高硬度化が十分に達成されない。A層とB層の厚さが0.5nm以上、100nm未満の範囲で交互に積層することが好適である。従って、上記構造に加えて、100nm以上の層厚で組成が変動した積層層が存在する場合でも、A層とB層より構成される0.5nm以上、100nm未満の積層部が存在すればその効果は発揮される。中間積層部のX線回折における2θで40度から45度の範囲に少なくとも2つ以上のピークを有することが好適である。これは中間積層部に2つ以上の別の格子定数を有する状態の相が構成される事を示し、これが中間積層部内に歪みを誘発し、高硬度化に有効に作用するからである。
中間積層部を構成するA層とB層は、少なくともAl及びCr及びTiの相互拡散層であることが好ましい。この場合、A層とB層の密着強度並びに最下層および最上層との密着強度に優れ、中間積層部の硬度を向上させる。更に硬質皮膜全体の強度のバランスが最適となり、特に好ましい層構造の形態である。
中間積層部のA層とB層は、結晶格子が連続していることが好ましい。この場合、A層とB層の密着強度並びに耐摩耗性を発揮することができる。本構造の確認方法は、透過電子顕微鏡による格子像観察並びに制限視野回折像又はA層及びB層の微小部電子線回折から確認することである。中間積層部のSi含有量が層厚方向に異なり、表層ほどSi含有量が多いことが好ましい。これにより、中間積層部で密着強度、硬度並びに強度が傾斜化され、その結果として、硬質皮膜全体の密着強度、耐熱性、硬度並びに皮膜強度が傾斜化され、耐摩耗性を改善することができる。
中間積層部のMμmが、0.1≦M<5であることが好ましい。中間積層部が0.1μm未満の場合、最上層と最下層の密着強度、硬度、強度のバランスが悪く、耐摩耗性改善効果が発揮されない場合があるため、好ましくない。
最上層のTμmが、0.01≦T<5であることが好ましい。最上層が0.01μm未満の場合、最下層の効果が確認されず、耐摩耗性も安定しなため、好ましくない。最下層が5μm以上の場合、耐摩耗効果が確認されず、好ましくない。
最下層のBμmが、0.01≦B<3であることが好ましい。最下層が0.01μm未満の場合、最上層の高硬度化による耐摩耗性改善効果が確認されない。最上層の層厚が3μm以上の場合、硬質皮膜の剥離や異常摩耗が発生する場合があり、好ましくない。更に、M≧T≧B、の関係を満足する場合、その効果が最大限に発揮され、特に好ましい層構造である。
中間積層部の弾性係数Eが、450GPa≦E≦550GPaの範囲であることが好ましい。E値がこの範囲内であることによって、硬質皮膜全体の密着強度、潤滑性、耐熱性のバランスが最適であり、最下層、最上層の効果が最大限に発揮され、密着強度改善に対して効果的である。中間積層部の弾性回復率Rが、28%≦R≦38%の範囲であることが好ましい。R値が28%未満の場合、耐摩耗性に乏しく、38%を超えて大きい場合、耐剥離性に乏しく異常摩耗が発生し易い。R値がこの範囲内であることによって、硬質皮膜全体の密着強度、潤滑性、耐熱性のバランスが最適であり、最下層、最上層の効果が最大限に発揮され、異常摩耗に対して効果的である。硬度H、弾性係数E、弾性回復率Rの測定方法としては、ナノインデンテーションによる硬度測定法により接触深さと最大荷重時の最大変位量が求められる(W.C.Oliver and G.M.Pharr:J.Mater.Res.,Vol.7,No.6,June、1992、1564−1583)。弾性回復率Rに関しては、R=100−{(接触深さ)/(最大荷重時の最大変位量)}の数式で定義する。ここでの硬度は通常のビッカ−ス硬度等の測定方法に代表される塑性変形硬度とは異なる。
最上層は酸素を含有し、膜厚方向に100nm以内の深さ領域で酸素濃度が最大となる場合が好ましい。これにより、硬質皮膜表面への被加工物の凝着抑制に特に効果的である。
被覆の方法は、スパッタリング法及び/又はAIP法により被覆した硬質皮膜被覆部材は、特に硬質皮膜が高硬度で密着強度に優れ、剥離及び異常摩耗抑制に優れ、その効果が得られ易い。上記硬質皮膜をスパッタリング法及び/又はAIP法により被覆し、被覆方法において、硬質皮膜の被覆時に使用する金属製ターゲット材の組成は、最上層被覆用と最下層被覆用とが異なり、中間積層部の被覆時は最上層被覆用のターゲット材を装着した蒸着源と、最下層被覆用のターゲット材を装着した蒸着源とを同時に稼動して被覆することである。この被覆方法を採用することにより、優れた耐摩耗性を発揮することができる硬質皮膜被覆部材を得ることができる。上記被覆方法の1例として、まず最下層の被覆について、最下層構成元素からなる金属製ターゲット1による被覆を行い、次に最上層構成元素からなる金属製ターゲット2による放電を開始し、金属ターゲット1と金属ターゲット2とにより同時に中間積層部を被覆する。次に、金属ターゲット1による被覆を停止し、金属ターゲット2により最上層を被覆するのである。以下、実施例に基づいて説明する。
本発明例の被覆には、AIP装置を用いた。図2に装置の概略図を示し、構成並びに被覆方法を述べる。装置構成は、減圧容器3と絶縁された複数のアーク放電式蒸発源4、5、6、7、基体ホルダー8よりなる。蒸発源4から7に硬質皮膜の金属成分となるターゲット1及び2を装着し、各蒸発源に所定の電流を供給してターゲット1及び2上でアーク放電を行い、金属ターゲット成分を蒸発しイオン化させ、減圧容器3と基体ホルダー8との間に負に印加したバイアス電圧により、基体9に被覆した。基体9は回転機構10を有しており、1回転/分から10回転/分の範囲で回転させた。即ち、ターゲット1の前面に基体9が対向した場合にターゲット1を含有した硬質皮膜が被覆され、ターゲット2の前面に基体9が対向した場合にターゲット2を含有した硬質皮膜が被覆される。この時、夫々のターゲット材成分を含有した窒化物を形成する場合は、窒素ガスを導入しながら成膜を行った。本発明例の評価は、組成が質量%で、Co含有量13.5%、残りWC及び不可避不純物からなる超硬合金を用いて、JIS規格SNGA432のインサートを製作した。この基体を脱脂洗浄し、基体ホルダー8に装填した。減圧容器3に設置された加熱用ヒーターにより、基体は550℃に加熱され、この状態を30分間保持することにより加熱及び脱ガス処理を行った。続いて、減圧容器3にArガスを導入し、減圧容器3に設置された熱フィラメントにより、Arのイオン化を行った。基体に印加したバイアス電圧により、基体をArイオンによるクリーニング処理を30分間行った。ここで、硬質皮膜への炭素、酸素、窒素、硼素成分の添加方法は、反応ガスであるN2ガス、CH4ガス、C2H2ガス、Arガス、O2ガス、COガス等から目的の皮膜組成が得られるようにガス種を選択し、被覆工程時に減圧容器3へ導入することによって可能であり、また予め金属ターゲットに添加することによっても可能である。
第1に、ターゲット材1を装着した蒸発源に25V、100Aの電力を供給し、負バイアス電圧を50V、反応ガス圧力を4Pa、被覆基体温度を500℃とし、基体ホルダー8を3回転/分とし、基体表面に約200nmの窒化物膜を被覆した。被覆基体を保持する冶具は、3回転/分で回転させた。この時のターゲット材1の組成がAl60Cr37Si3であるのに対し、硬質皮膜組成における金属成分の組成は、Al57Cr41Si2の窒化物であった。この硬質皮膜は本発明例1の最下層である。
第2に、中間積層部を、ターゲット材1を装着した蒸発源に25V、100Aの電力を供給した状態で、ターゲット材2を装着した蒸発源に20V、60Aの電力を供給した。この状態で、ターゲット材1、2を装着した全ての蒸着源を同時に稼動させ窒化膜の被覆を開始した。そして、窒化膜の成膜条件を連続的に変化させていった。即ち、ターゲット材2を装着した蒸発源に供給する電流を被覆時間の経過と伴に60Aから段階的に100Aまで増加させ、同時にターゲット材1を装着した蒸発源の電流を被覆時間の経過と伴に100Aから段階的に60Aまで変化させて被覆を行った。被覆の間は、基体にはパルスバイアス電圧を印加した。その条件は負バイアス電圧を60V、正バイアス電圧を10V、周波数を20kHz、振幅を負側に80%、正側に20%、とした。全圧力は6Pa、基体温度は525℃とし、被覆基体を保持する冶具は、6回転/分で回転させ、ターゲット材1、2の2種のターゲットから放出される夫々の窒化物の中間積層部を約2600nm被覆した。
第3に、最上層を、ターゲット材1を装着した蒸発源への電力供給を止め、成膜条件を段階的に変化させた。負バイアス電圧を100V、正バイアス電圧を0V、周波数を10kHz、振幅を負側に95%、正側に5%、全圧力を1.5Pa(N2:100sccm、Ar:30sccm、C2H2:20sccm)、基体温度500℃、基体回転数3回転/分に設定し、ターゲット材2による炭窒化物を約200nm被覆した。
第1〜第3の工程により得られた試料を本発明例1とした。
本発明例1による硬質皮膜の中間積層部の層厚、皮膜構造、組成、結晶構造を確認した。X線回折による結晶構造の定性解析並びに透過型電子顕微鏡によるナノ領域の解析を行った。X線回折による結晶構造の定性解析方法について述べる。使用した装置は、リガク製Rotaflex、RV−200B、X線回折装置であった。条件は、管電圧は120kV、電流を40μA、X線源をCukα、入射角を5度、入射スリットを0.4mm、2θを30度から70度に設定した。得られた硬質皮膜の結晶構造の定性解析を行った。X線回折は、本発明例1の最下層、積層部、最上層からのピーク分離をより明確にするために、本発明例1の中間積層部のみから構成される硬質皮膜を成膜して評価を行った。X線回折チャートを図3に示す。図3より本発明例1の中間積層部は、fcc構造を示した。2θで40度から45度の範囲に少なくとも2つ以上のピークを有する硬質皮膜であることを確認した。図3のピーク1がB層のfcc構造(111)面からの回折ピークであり、ピーク2がA層の(111)面からの回折ピーク、ピーク3がB層の(200)面からの回折ピーク、ピーク4がA層の(200)面からの回折ピークである。次に、透過電子顕微鏡(以下、TEMと記す。)によるナノ領域分析方法について述べる。TEMによる組織観察に用いる試料の準備として、試料とダミー基板とをエポキシ樹脂を用いて接着し、切断、補強リング接着、研磨、ディンプリング、Arイオンミーリングを行い作成した。試料厚さが原子層厚さになる領域において、組織観察、格子像観察、微小部(φ1nm)エネルギー分散型X線分光(以下、EDSと言う。)分析、微小部(φ1nm)電子線回折を行い、組織構造を決定した。TEMの観察位置は、中間積層部の層厚方向で中央付近を観察した。使用した装置は、日本電子製JEM−2010F型の電解放射型透過電子顕微鏡(以下、FE―TEMと記す。)を用いた。条件は、加速電圧200kVで組織観察を行い、微小部EDS分析には、装置付属のノーラン製UTW型Si(Li)半導体検出器を用いて、ナノメートルオーダーの積層膜の組成を決定した。この時、半値幅1nmの電子プローブを使用して、実際には試料を透過する際にビームが広がり、X線が発生する領域は広がると考えられる。しかし、結果として得られている情報は2nm未満であると考えられ、2nm以上の層厚であればEDS分析による組成定量分析は可能である。また、深さ方向の情報はすべて含まれるものと考えられるが、試料厚さが原子層厚さであることより、粒子そのものの情報であると考えられる。一般的に試料が薄くなると、得られるX線のカウント数が少なくなるため、定量精度は悪くなると考えられる。しかし、本測定結果から略2%未満のバラツキ範囲であった。微小部電子線回折は、カメラ長を50cm、ビーム径をφ1nmに収束させ、ナノメートルオーダーの積層膜の結晶構造を同定した。図4に本発明例1の積層部の任意に選択された膜断面の走査透過電子顕微鏡法(以下、STEMと記す。)による硬質皮膜組織の観察像を示す。図4より、本発明例1の中間積層部は、ナノオーダーの一定周期構造が確認され、各層の厚みが、約0.5nm以上、100nm未満であることが確認できた。本発明の効果がより得られ易い好ましい層厚としては、1nm以上、70nm未満、より好ましくは、2nm以上、50nm未満であった。図5に、図4中の中間積層部1250nmφの制限視野回折像を示す。図5より、本発明例1の中間積層部には、X線回折結果と同様に、2種の格子定数に起因するリングが認められた。また各リングにおいて内側と外側の強度分布が同様なことから、各結晶粒子中で方位が揃っており、膜厚方向に格子は連続して成長していた。図6は図4の拡大を示す。図6の番号1から5に対応した位置のEDS組成分析結果を表1に示す。
実施例1と略同様な手法を用い、表2に示す各種ターゲット材を用いて硬質皮膜を被覆し、皮膜の評価及び、硬質皮膜を切削工具に適用した場合の評価を行った。硬質皮膜の評価結果を表3、表4に示し、硬質皮膜を切削工具に適用した場合の評価結果を表5に示した。
被削材:合金鋼、SCM440:HRC30
工具回転数:3200回転/分
1回転あたりの送り量:0.15mm
加工深さ:15mm、止まり穴
加工方法:水溶性切削液、外部給油
寿命判定:切削不能に至るまでの穴数、但し100穴未満切り捨て
(切削評価2の評価条件)
被削材:マルテンサイト系ステンレス鋼(HRC52)
工具回転数:20000回転/分
テーブル送り量:4000m/分
切り込み深さ:軸方向0.4mm、ピックフィード0.2mm
加工方法:ドライ切削
寿命判定:最大摩耗幅が0.1mmに達するまでの切削長、但し10m未満切り捨て
2:積層部
3:最下層
4:蒸発源
5:減圧容器
6:金属ターゲットA
7:金属ターゲットB
8:基体
9:基体ホルダー
10:回転機構
Claims (1)
- 基体表面から、最下層、中間積層部、最上層とからなる硬質皮膜被覆部材において、該中間積層部は、金属成分の組成が(AlWCrXTiYSiZ)、但し、組成は原子%で、W+X+Y+Z=100、の窒化物、ホウ化物、炭化物及び酸化物の何れか又はそれらの固溶体又は混合物からなるA層とB層とが、A層は70<W+X<100、B層は30<Y<100で層厚方向に交互に積層され、該最上層は、Ti又はTiとSiの窒化物、炭化物、硫化物、硼化物の何れか又はそれらの固溶体又は混合物であることを特徴とする硬質皮膜被覆部材。
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