JP2006282160A - 全方向移動ロボット及び該ロボットの全方向移動駆動機構 - Google Patents

全方向移動ロボット及び該ロボットの全方向移動駆動機構 Download PDF

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仁彦 中村
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辰郎 圓戸
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Abstract

【課題】
全方向移動性・ホロノミック移動性を備えた小回りの利く移動ロボットを提供する。
【解決手段】
一つの球状走行体と、球状走行体を任意の方向に転動させる力を球状走行体に伝達する全方向移動駆動手段を備えたロボット本体と、ロボット本体を倒立振子型モデルで制御する制御手段と、を有する全方向移動ロボットである。好ましくは、球状走行体は弾性を有する。好ましくは、ロボット本体は、球状走行体を回転可能に保持する保持手段を有する。
【選択図】
図1

Description

本発明は、全方向移動ロボットに関するものである。
近年、様々な全方向移動性を持つ移動機構が世に誕生している。駄本らは、複数の車輪を斜めに傾いたプレートに配置し、そのプレートを4つ、ロボットに取り付けることで、全方向移動性を実現した。さらに、多田隈らは、駄本らのロボットの持つプレートに受動性を持たせ、段差を乗り越えることに成功している。一方、藤原らは、病院で使用する配膳車に全方向移動性を持たせ、操作性を考慮したロボットを開発した。それ以外にも、Muirらは、全方向移動性を持つ車輪の制御のために、Omni-directional wheelの幾何学的モデルを示し、制御手法を示した。また、木村は、Omni-directional wheelを4つ用いて、全方向移動車を開発している。このように、全方向移動性を持つ移動機構は、実現されれば応用範囲(搬送用、遠隔操作による移動機構など)が広いため、多くの研究例がある。
しかしながら、例えばオフィスや家庭環境用としてロボットを実用化するにはロボットの小型化が有用であるにもかかわらず、現在、全方向移動性を持つ機構で、かつ小型な移動機構はまだ見当たらない。全方向移動性を持つロボットは、その構造上、小型化は難しい。なぜなら、Omni-directional wheelは全方向移動を行うためには、同平面上に最低3つ配置する必要があるからである(特許文献1、特許文献2参照)。また、既存の開発例では、小型化した場合、実用性を考慮して十分なトルクを発生させるだけのモータを搭載することは困難である。これは、全方向移動性を持たせるためには、Omni-directional wheelを少なくとも3つ移動面に接触させなければならず、人や荷物を搬送することを目的とした場合、必要な駆動力を確保するため、機構自体がさらに大型化してしまうからである。機構が大型化してしまうと、オフィスや家庭環境での利用に対して、利便性が落ちる。
また、オフィスや家庭環境では、移動ロボットにとって路面の条件(床の材質、ウェットやドライなど)が厳しい場合が多く、この点を解決することも全方向移動性を持つロボットには必要である。路面条件にともない、移動ロボットの移動時には振動の問題もある。既存のOmni-directional wheelの応用からなる機構では、サスペンション機構を有しておらず、振動の緩和はできない。新しい機構の開発が必要となる。
特開昭63−43876号 特開平8−67268 駄本ら: "Omni-Discを使用した全方向車両VutonIIの開発(第2報)",日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会'01講演論文集,(2001) 多田隈ら: "ホロノミック全方向移動車VmaxCarrierの段差乗り越え性能", 日本ロボット学会創立20周年記念学術講演会, (2002) 藤原ら: "全方向移動型パワーアシストカート", 松下電工技報, (2002) P. Muir et.al: "Kinematicmodeling for feedback control of an omnidirectional wheeled mobilerobot",International Conference on Robotics and Automation, pp1772-1778,(1987)
全方向移動性を持つロボットには、一般的に上記のような問題があり、その問題点をまとめると次のようになる。
(課題1)既存の全方向移動ロボットは、移動面に直接接地するOmni-directional wheelなどを複数必要とするため、構造上大型になり、小回りがきかない。
(課題2)移動ロボットの性能は、路面の条件(材質、ウェット、ドライ、凸凹など)に左右されやすく、既存の全方向移動車では考慮されていない。
本発明は、全方向移動性・ホロノミック移動性を備えた小回りの利く移動ロボットを提供することを目的とするものである。
本発明の他の目的は、フットプリントの小さい移動ロボットを提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、床面の条件に左右されにくい移動ロボットを提供することにある。
上記課題を解決するために本発明が採用した技術手段は、一つの球状走行体と、球状走行体を任意の方向に転動させる力を球状走行体に伝達する全方向移動駆動手段を備えたロボット本体と、ロボット本体を倒立振子型モデルで制御する制御手段と、を有する全方向移動ロボットである。
好ましくは、球状走行体は、弾性を有する。一つの態様では、弾性球状走行体は、中空球状体の中空部に圧搾気体が封入することで構成される。中空球状体を構成する部材には適当な柔軟性・伸長性があることが望ましく、ラバー部材、樹脂部材、皮革等が例示される。このような弾性球状走行体としてバスケットボールを用いることができる。
好ましくは、ロボット本体は、球状走行体を回転可能に保持する保持手段を有する。一つの態様では、保持手段は、球状走行体を把持する複数の保持アームである。この場合、一つの態様では、保持アームは球状走行体の下半部を把持する一方、全方向移動駆動手段は、球状走行体の上半部に接触して力を伝達する。一つの態様では、保持アームは回動自在である。そして、保持アームは、球状走行体を弾性的に把持するものであることが好ましい。弾性的に支持する手段としては、一つの態様では、回動自在の保持アームの基端にスプリングを設けることで行う。また、保持アーム自体を弾性部材、例えば長尺状の板バネ材やロッド状のバネ材、から形成することで、保持アーム自体の弾性によって球状走行体を弾性的に把持してもよい。好ましくは、保持アームの球状走行体との接触部位は回転自在に構成されている。一つの態様では、保持アームの接触部位に回転自在のローラないしボールを装着し、ローラやボールを介して球状走行体の球面に接触させる。
球状走行体の保持手段は上述のものに限定されない。全方向移動駆動手段を、球状走行体の下半部に位置させ、上半部の極の周辺に球状のローラを配置してもよい。アームの代わりに、球状走行体の直径よりやや小さい径のリング状のものを下半部の上端近傍部位に配置して駆動時には接触しないが、地面から全体を持ち上げるときに下から支えて球状走行体が落ちないようにしてもよい。また、全方向移動駆動手段の少なくとも部分が、少なくとも保持手段の一部を構成するようにしてもよい。
全方向移動駆動手段は、3つ以上の駆動伝達ユニットを有し、各駆動伝達ユニットは、モータとモータ駆動で回転する1つ以上の回転体を有し、前記回転体は球状走行体の球面に接する曲面を有すると共に、モータ駆動による第1方向と非駆動の第2方向に回転可能(モータによる駆動と独立しており、球状走行体の転動に従動する自由回転)である。各駆動伝達ユニットの少なくとも1つの回転体は常時球状走行体に接しており、各駆動伝達ユニットの回転体の回転によって伝達される回転力によって球状走行体を所定方向に転動させる。回転体の曲面は、球状走行体と接触することで、回転体から球状走行体に回転力を伝達して球状走行体を駆動可能であると共に、球状走行体の回転に応じて従動的に回転可能であるような曲率を有する。一つの好ましい態様では、回転体の曲面は球面である。
2方向に回転可能な回転体は、一つの態様では、一つの回転体が2方向に回転可能としたものである。具体的には、枠体内に回転体を回転自在に支持させ、モータ駆動で枠体を回転体の回転方向と直交する方向に回転させることで回転体を枠体と一体で回転可能としたものが例示される。2方向に回転可能な回転体の他の態様では、モータ駆動で回転する回転体の部分がモータ駆動とは独立して自由回転するものでもよい。具体的には、回転体は、モータ駆動により回転する主ホイールと、主ホイールに対して設けた複数のフリーローラから構成され、一般にOmni-directional wheelと呼ばれる回転体、例えば、車輪の外周に車輪の回転方向と直角方向に回転する複数のフリーローラを設けたもの(特許文献2に開示されているもの)、車輪の外周に傾斜した複数のフリーローラを設けたもの(メカナムホイール)を用いることができる。
各駆動伝達ユニットの回転体の曲面と球状走行体の表面とが常時接触しており、各駆動伝達ユニットから球状走行体に伝達される力の合力が計算可能であれば、各駆動伝達ユニットの回転体の配設位置は限定されない。一つの好ましい態様では、各駆動伝達ユニットの回転体と球状走行体との接触点は、同一円周上に位置する。さらに好ましくは、前記接触点は、円周方向に等間隔で配設されている。
本発明に係るロボットは、倒立振子モデルにしたがって制御されるが、倒立振子制御自体は既知である。倒立振子制御については、例えば、特許第2530652号、特開2004−345030に開示されている。
本発明に係る全方向移動ロボットは、乗用型ロボットでも、無人ロボット(例えば、搬送用)でもよい。ロボット本体の上部に、目的に応じて交換できる部位をつけることで、用途に応じた使用が可能になる。乗用型ロボットの場合は、座面に力センサを設け、搭乗者の姿勢の変化による入力情報を力センサで検出し、検出された情報に基づいてロボットの走行方向を制御してもよい。
本発明では、一つの球状走行体と全方向移動駆動手段を利用することで、簡単な構成でありながら、従来にない小型でホロノミックな全方向移動性を持ったロボットを提供できる。また、フットプリントが小さいということは、小回りがきくということであり、利用者にとって利便性が高い。
弾性球状走行体を採用することで、別途サスペンションを設けることなく、路面の条件に柔軟に対応できるようになる。
本発明に係る全方向移動ロボットの一つの好ましい実施態様について図面を適宜参照しながら説明する。全方向移動ロボットは、球状タイヤを構成する球状走行体1と、球状走行体1の上に載置されるロボット本体から構成される。ロボット本体は、球状走行体1を回転可能な状態で保持する手段と、球状走行体1を任意の方向に回転させるための全方向移動駆動手段と、全方向移動駆動手段を制御する制御手段とを有する。図示の例では、保持手段は複数の保持アーム2から構成されている。全方向移動駆動手段は、4つの駆動伝達ユニット3から構成されている。球状走行体1の上半部、保持アーム2の基端側半部、各駆動伝達ユニット3からなる全方向移動駆動手段は、ドラム状の保護カバー4によって囲繞されている。全方向移動駆動手段の上側にはケーシング5が設けてあり、ケーシング5には制御手段が内装されている。ケーシング5の上側にはシート6が設けてあり、乗用型ロボットを構成している。
球状走行体1は、ロボット本体の下部に配置してあり、球状タイヤとして床面等の移動面に接地している。球状走行体1は、後述するように、ロボット本体に設けた全方向移動駆動手段を構成する各駆動伝達ユニット3の回転体36及び路面との相互作用により操作される。球状走行体1は、弾性を備えた弾性球状走行体1であり、弾性を備えた球状走行体は、一つの態様では、中空状の球状体の内部に圧搾空気を封入することで構成される。実施例では弾性球状走行体1として、市販のバスケットボールを用いている。
球状走行体1は、複数の保持アーム2によって、回転可能な状態で保持されている。保持アーム2の基端側は球状走行体1の上方に位置しており、ロボット本体(実施例では、電装機器取付部390を構成するプレートに連結されている)に回動自在に連結されており、複数の保持アーム2が球状走行体1を把持する方向、及び、把持状態から拡開する方向に回動するようになっている。保持アーム2は、基端側に設けた図示しないバネ材によって、球状走行体1を把持する方向に付勢されており、バネ力で球状走行体1を弾性的に把持する。保持アーム2の先端側は、球状走行体1の下半部まで延出しており、保持アーム2の先端部が球状走行体1に当接して保持するようになっている。保持アーム2の先端部にはリング状部が形成されており、リング状部のリング内には樹脂製の小球20が回転自在に装着されており、保持アーム2は回転自在の小球20を介して球状走行体1の球面に当接している。球状走行体1に対して小球20が接触するので、転がり摩擦となり、保持手段が球状走行体1の駆動に与える影響を可及的に小さくしている。小球20の材質は樹脂に限定されない。図示の例では、保持アーム2は、把持方向−拡開方向の1軸回転のアームであるが、基端部には若干のガタないし遊びを持たせてある。また、保持アームは前記1軸回転ではなく、すべての方向に適度に弾性を有するものが望ましい。
ドラム状の保護カバー4は、環状の上フレーム40と、環状の下フレーム41と、上下のフレーム40,41を周方向に間隔を存して上下方向に連結する複数の縦フレーム42とから構成されており、シート6の背部61に対向する位置にフットレスト43が形成されている。フットレスト43はスタンドとしての機能をも有する。保護カバー4は上フレーム40を介してケーシング5に装着されている。ロボットの軽量化には中空パイプからなるフレーム状の保護カバー4が有利であるが、保護カバー4はフレーム状のものに限定されず、図12に示すような周壁を有するものであってもよい。図12のものでは、全方向移動走行手段及び制御手段が一つのカバー体に内装されており、カバー体の上側にシートが、カバー体の下方部位にフットレストが設けてある。
ケーシング5は、上面50と側壁51と側壁51の下端に外側に延出形成されたフランジ52を有し、底部が開口状となっている。ケーシング5内部には、ロボットが、移動装置として自律的に移動できるように、電装機器や制御用PCなど、からなる制御手段が設けてある。図示のものでは、側壁51は平面視8角形を有しているが、側壁51の形状は特には限定されない。側壁の下端部のフランジ52には、側壁51の周方向に間隔を存して複数の取付片53が放射状に突成されており、取付片53には、保護カバー4の上フレーム40が装着される。
シート6は、平面視円形状の座面60と背部61とを有する。図12に示すように座面に取手を設けても良い。ケーシング5の上面50と座面60との間には力センサ(6軸力センサ)が介装されている。ケーシング上面50と座面60との間に操縦者用の入力デバイスとしての力センサを設けることで、力センサにより、座面60が受けた力の向きを計測する。操縦者は、進みたい方向に体を傾けることを、ロボットへの操作入力とする。シート6は人間が乗るためのものであるが、シートに代えてその他の部品を取り付け、運搬などにも応用可能である。
全方向移動駆動手段を構成する駆動伝達ユニット3について説明する。各ユニットは、上側に位置する1つの駆動軸30と、下側に位置する2つの従動軸31,32とを有し、駆動軸30にはモータ33がモータ固定部330を介して取り付けられている。駆動軸30、従動軸31,32にはそれぞれ歯車300,310,320が設けてあり、これらの歯車300,310,320にはチェーン34が巻回してある。モータ33のモータ軸の回転は図示しない減速ギアを介して駆動軸30に出力され、歯車とチェーンから構成される伝動機構によって、各歯車300,310,320が同期して回転することで、駆動軸30の回転を従動軸30,31に伝達することで従動軸30,31を回転駆動させる。尚、駆動軸と従動軸との伝達機構は、歯車とチェーンに限定されるものではなく、プーリとベルト、ギア同士の噛合等による伝達機構でもよい。
球状タイヤに力を伝達する機構として、図11に示す回転体装置を応用した機構を用いる。回転体装置は、方形状の枠体35と枠体35に回転自在に装着された回転体36を有する。方形状の枠体35は対向状の長壁350と対向状の短壁351とを有し、一方の短壁351には、駆動伝達ユニット3の従動軸31ないし32が固定されている。従動軸31ないし32の回転によって、枠体35は、従動軸31ないし32の軸心と一致する長軸(第1回転軸)352を回転軸心として回転する。
回転体36は、球状体の上方部位、下方部位を水平状に切り落として形成されており、球面部360と対向状の平面部361とを有する。回転体36は、球面部360を枠体35の短壁351に対向させ、平面部361を枠体35の長壁350に対向させて、回転軸353を介して枠体35の長壁350に図示しないベアリングを用いて回転自在に装着されている。回転体36は、長軸(第1回転軸)352すなわち従動軸31ないし32の軸心に直交する短軸(第2回転軸)354を回転軸心として回転自在となっている。回転体36は、ある1方向のみに力を伝達する車輪である(それ以外の方向に対しては、力を伝えない)。回転体装置の枠体35が従動軸31ないし32の回転に伴って回転することで回転体36は枠体35と一体で第1回転軸352を中心に回転するが、回転体36は枠体35とは独立して第2回転軸354を中心に回転する。回転体36の回転軸353は、駆動伝達ユニットの従動軸31ないし32には直結されておらず、回転体36は自由に回転することができる。回転体36は第1回転軸353を中心に回転することで球状走行体1に回転力を伝達する。
本発明では、回転体装置を2つ用いて、一つの駆動伝達ユニットを構成している。回転体装置は、枠体35を介して、固定用枠体37に回転可能に装着される。固定用枠体37の枠内に仕切壁370を設けることで2つの回転体装置を受け入れるための空間371,372が区画形成されており、それぞれの空間371,372に回転体装置を図示しないベアリングを介して回転自在に装着する。仕切壁370の上方に位置してモータ固定部330を連結する連結部373が形成されている。回転体装置は、一対の回転体装置の回転体36の回転軸353の位相を90°ずれるように配設されている。一対の回転体装置の各回転体36は、枠体35を介して、モータ33により同期して回転する。これにより、常にどちらか一方の回転体36の球面が常に球状走行体1の球面に接触している。すなわち、回転体装置を2つ用意することで、一方の回転体装置の回転体36が、枠体35の回転により球状タイヤ1の表面から離れても、もう一方の回転体装置の回転体36が球状タイヤ1の表面に接する。
上述のように、駆動伝達ユニット3は、モータ33とモータ駆動で回転する一対の回転体36を有し、回転体36は球状走行体1の球面に接する曲面を有する。一対の回転体36は、モータ駆動により同期して第1回転軸352を中心として回転する。一対の回転体36は、モータ駆動による第1回転軸352に対して常に直交した非駆動な第2回転軸354を有する。一対の回転体36の第1回転軸352は平行状であると共に、一対の回転体36の第2回転軸354は直交(90度ずれている)している。こうすることで、回転体は、モータ33の駆動による第1方向と、モータ33の駆動と独立した第1方向と直交する方向の第2方向に回転自在であり、かつ、一対の回転体36のいずれか一方の球面が常時球状走行体1の球面に接することになる。このような駆動伝達ユニット3を4つ用意し、同心円上に90度の間隔で周方向に等間隔を存して配置する。これにより、全方向移動が可能になる。駆動伝達ユニット3の数は3つ以上であればよく、駆動伝達ユニットを3つ配置すれば、3自由度(x方向、y方向、z軸回転)を実現できる。この機構3つを使って、球状タイヤを駆動させる。ただし、z軸回転は、路面から十分な摩擦力を得られる場合のみである。
球状走行体1を駆動する力は、3つ以上の駆動伝達ユニットで発生したそれぞれの力(球状走行体1の表面と各回転体36の曲面との接触点に作用する力)の合力である。球状走行体の駆動力計算方法の一手法について説明する。図13に示すように、モータの回転軸(駆動軸30)と回転体36の駆動軸(従動軸31,32)はチェーン34によって同期しているので、モータの回転軸(駆動軸30)の基底ベクトルと回転体36の駆動軸(従動軸31,32)の基底ベクトルは同一となる。ここで、球状走行体の駆動トルクをτb=[τbx,τbx,τbz](縦ベクトルであり、括弧内はx,y,zの成分)とし、i番目のモータ駆動軸の単位ベクトルをei=[eix,eiy,eiz] (縦ベクトルであり,括弧内はx,y,zの成分)とし、i番目のモータのトルクをτiとすると以下の関係が成り立つ(駆動伝達ユニットが4つの場合)。
τb=[e1 e2 e3 e4][τ1 τ2 τ3 τ4]([τ1 τ2 τ3 τ4]は縦ベクトル)
[e1 e2 e3 e4]の部分は、ヤコビ行列である。この関係式を用いて球状走行体の駆動トルクを計算する。
特に図10から明らかなように、駆動伝達ユニット3の駆動軸30及び従動軸31,32は、傾斜状に延出しており、各駆動伝達ユニット3の回転体36の曲面が、球状走行体1の上半部に接触して、回転力を伝達するように配設されている。一対の駆動伝達ユニット3を装着した固定用枠体37は、左右の側壁374を介して、支持ブラケット38に固定されている。支持ブラケット38は左右の垂直辺380と水平辺381とから略門型を有しており、左右の垂直辺380間に固定用枠体37が支持固定されている。各駆動伝達ユニット3の支持ブラケット38の水平辺381は、水平状の取付プレート39に固定されており、各駆動伝達ユニット3は、支持ブラケット38、取付プレート39によって一体化されている。
複数の駆動伝達ユニット3から構成される全方向移動伝達手段は、従来のように、直接移動面に接地するものではなく、ロボット本体の内部に配設され、ロボット本体は全方向移動伝達手段を介して球状走行体1の上に載置される。全方向移動駆動手段が、球状走行体1上を移動し、球状走行体1が地面に対して転動することで、ロボットは移動面上を移動可能となる。
制御手段を構成する電装機器は、実施例では、バッテリ、制御コンピュータ、モータドライバ、DCDCコンバータ、ジャイロセンサ、を含む。これらの電装機器は、主として取付プレート39の上側に設けた電装機器取付部390上に取り付けられ、ケーシング5に内装される。
力センサは、搭乗者の体の傾けによる移動方向への入力を計測するために用いる。ジャイロセンサは、姿勢推定することで、倒立振子として挙動する本ロボットの安定化に用いる。本ロボットは、他の倒立振子ロボットと異なり、球面を回転させて移動するため、自己の姿勢を推定するのが困難である。モータの回転角度を初期化して、常に正確にモータの回転角度を把握することによる制御も可能であるが、ジャイロセンサを用いて姿勢推定を行うことが望ましい。制御コンピュータは、各種計算を行う演算処理部、入力部、出力部、各種データを格納する記憶部、各構成要素を接続するインターフェースを備えており、ロボット全体の制御を行う。モータドライバは、CPUを独自に搭載しており、コンピュータからの指令を受けてモータの制御を行う。DCDCコンバータは、バッテリから供給される電圧を、各機器に必要な電圧に変換する。
本発明で提案するロボットの移動方法および移動時の制御手法の概要について説明する。本発明に係るロボットは、球面を備えた一つの球状走行体により走行するので、ロボットの移動の様子は、倒立振子の移動方法と同様の挙動を示す。図14に、移動の様子を表現したものを示す。左図は何かしらの安定化がなされている倒立振子が押された場合の移動の様子であり、右図は、本発明のロボットに人が乗り、進みたい方向へ体を傾けた場合の様子である。姿勢安定制御手段としての倒立振子制御は当業者において周知であり、また、倒立振子制御を利用して、倒立振子が倒れそうな方向へ台車を移動させる手段もよく知られている。本発明に係るロボットは、従来の全方向移動車(4輪が接地する)と異なり、本発明に係るロボットは、倒立振子の安定化と同様の制御手法によって移動可能である。倒立振子の安定化の制御手法として、様々な手法が知られており、既知の適切な制御手法を本発明に採用することができる。
図15は、ロボットの制御の一例を示すブロック図であって、ここでは、本発明に係るロボットが通常の倒立振子として動く場合と、人間がロボットを動かす場合とで切り替えるようにしている。すなわち、ロボットを走行させるための情報入力手段としては、操縦者の姿勢変化や体重移動によって入力される力を検出する力センサ、及び、目標値入力手段(予め制御コンピュータの記憶部に格納されている場合、タッチパネル等の入力手段から入力する場合、遠隔操作の場合を含む)がある。搭乗者は、進みたい方向へ体を傾けることで指令を行い、当該指令は力及びモーメント計測を行う力センサによって検出され、検出情報は制御コンピュータに送信され、移動方向への軌道が生成される。センサにより受け取った情報は制御コンピュータにより構成される倒立振子コントローラによって球状走行体の角速度に変換される。制御コンピュータにはジャイロセンサが電気的に接続され、ジャイロセンサの出力(ロボット本体の傾斜角度)が入力されて、倒立振子モデルに従って姿勢安定制御が行われる。次いで、制御コンピュータによって、倒立振子としてのロボットのモデルから球状走行体を駆動させるためのトルクを計算し、計算したトルクを4つのモータで実現するためにモータの必要な回転角速度を算出して、各駆動伝達ユニットの各モータへ駆動指令を行う(運動分解)。制御コンピュータにはモータドライバが電気的に接続されており、制御コンピュータからの各モータの回転角速度に基づくトルク指令値にしたがって、モータドライバからモータに所定の電流を供給してモータを駆動する。各モータには制御コンピュータに電気的に接続されたエンコーダを有しており、エンコーダからの出力(各モータの回転速度)が制御コンピュータに入力される。各モータの回転によって各駆動伝達機構の各回転体が球状走行体1に接触しながら回転して、球状走行体1に所定の合力ベクトルが生成し、球状走行体1が転動することでロボットが所定方向に走行する。図16は、図15と類似の図であって、移動ロボットの制御のシステム図である。コントローラ部分でジャイロとモータエンコーダから現在のロボットの情報を得て姿勢を安定化している。また、ヒューマンインターフェース部分で人の動き、具体的には椅子の下の六軸力覚センサへの入力からコントローラ部分へ操縦のための指令を与えている。
このように、本発明に係るロボットの実施例である球状タイヤを用いた倒立振子ロボットは、球状タイヤに回転体装置を少なくとも3つ以上配置することで、球状タイヤ1つで全方向移動性・ホロノミック移動性を実現させた。これにより、移動ロボットに小回りを利かせることがきると共に、ロボットの路面に対するフットプリントを小さくすることができる。また、球状タイヤには、バスケットボールを用いることができ、安価で構造上簡素な移動ロボットを提供できる。バスケットボールには、移動条件を床面の条件に左右されにくくし、路面の環境に対する頑健性、サスペンションの代用品としての効果も期待できる。また、本発明に係るロボットの姿勢制御には、従来の倒立振子の安定化制御の手法を利用することができる。さらに、ロボットの上部には、椅子を取り付け、人が乗って操縦できるようにする。
図17は、弾性を有する球状走行体1の形状保持手段7を説明する図である。形状保持手段7は、ロボット本体の下面より球状走行体1の頂部に向かって垂下する垂下部70と、垂下部70の下端に回転自在に装着された小球71と、から構成されており、垂下部70の下端の小球71は球状走行体1の頂部に接触ないし近接している。すなわち、球状走行体1は、頂部が垂下部70の下端の小球71、底部が床面にそれぞれ当接している。球状走行体1に、外周面から内側に向かう力が作用して、球状走行体1が縦長に変形しようとしても、球状走行体1の頂部はロボット本体の下面より垂下する垂下部70の下端の小球71に当接しているので、球状走行体1が縦長に変形することが規制される。図示の態様例では、垂下部70の上端には円板状の取付部72が設けてあり、形状保持手段7は、取付部72を介して取付プレート39の下面に固定される。
全方向移動ロボットの運動方程式の導出について説明する。全方位移動ロボットを三次元でシミュレーションするためにモデリングを行った。ボールの中心でロボットはボールにトルクNを与えられるものとする。ロボットの重心はボールの中心から常に等距離にあるとし、ボールは地面に対して滑らないものとする。ボール、ロボット(ロボット本体)それぞれの質量をm,m、慣性モーメントをI,Iとする。ボールの半径をr、ボールの中心からロボットの重心までの距離をrとする。ボールの角速度をω、速度をv、ロボットの角速度をω、速度をvとする。モデルのパラメータは表1のとおりである。
Figure 2006282160
Figure 2006282160
このとき、ωとvの関係は次のようになる。
Figure 2006282160
ボールの運動方程式は次のようになる。
Figure 2006282160
ロボットの運動方程式は次のようになる。
Figure 2006282160
これらの式からF,F,Nを消去すると次のような連立方程式が導出される。
Figure 2006282160
これが全方向移動ロボットの運動方程式となる。
次に、全方向移動ロボットの姿勢安定化制御系の設計について説明する。全方向移動ロボットの姿勢を安定化する制御系を作るためにまずロボットの二次元モデルを図20のように作る。二次元モデルのパラメータは表2のとおりである。
Figure 2006282160
このモデルの運動方程式はボールの運動エネルギーをK、ロボットの運動エネルギーをK、ポテンシャルエネルギーをUとしたときに次のようにラグランジュの運動方程式を求めれば得られる。
Figure 2006282160
次にロボットの姿勢を安定にするためにτを、
Figure 2006282160
とする。定数A,Bは、シミュレーションでは、uを0としロボットの初期の傾きを0.2radとしたときにロボットが約0.5秒で傾きが0radになるように求め、A=50,B=6とした。
次に姿勢の安定化を三次元で考える。絶対系を添え字0、ロボットの姿勢の目標値を添え字2ref、現在のロボットの姿勢を添え字2で表す。Rは姿勢行列である。ロボットの現在の姿勢は次のように表される。
Figure 2006282160
これよりロボットの目標姿勢から見た現在の姿勢は次のようになる。
Figure 2006282160
式で表すと以下の通りである。
Figure 2006282160
このベクトルaは目標姿勢の座標で表されているので絶対系の座標に変換する。
Figure 2006282160
よって安定化するためのτは、
Figure 2006282160
となる。シミュレーションでは、A’=60,B’=7に決定した。
次に、ロボットを目標地点に行かせるための位置姿勢制御系について述べる。簡単のため二次元モデルで考える。θ、Φのとりかたは前述のものと同じとする。目標地点の座標をxref、現在の座標をxとしたときにロボットの目標角度uが、
Figure 2006282160
となるようにした。uが大きすぎたり小さすぎたりしてロボットが大きく傾くのを防ぐためにuに上限値、下限値を設けることにした。設計上傾けられる角度や最大速度などから考慮して上限値は0.07、下限値は−0.07とした。定数C,Dは、表3に示すように決めた。Cがxrefに対して大きすぎるとオーバーシュートが発生し、Cがxrefに対して小さすぎると目標地点に行くまでに時間がかかりすぎてしまう。したがって、定数Cはxrefに対して適切に決定する必要がある。
Figure 2006282160
ロボットを鉛直方向に安定化したまま移動させると速度が非常に遅く、制御方法も困難なものになるが、ロボットを移動させるのにその方向へ傾けて移動させる制御手法を採用することで、このような不具合を改善することができる。また、ロボットを傾けて移動させたほうが感覚的操作になると考えられる。
次に三次元での位置制御の方法を述べる。
Figure 2006282160
というベクトルをロドリゲスパラメータとして以下のようにして目標姿勢を求める。
Figure 2006282160
定数C’,D’はC’=0.04,D’=0.15とした。二次元と同様にxrefが大きいときにはロボットを極端に倒した姿勢を目標姿勢としてしまうのでxref−xに上限値、下限値を設けた。具体的な例として、xref−xを1m以内とした。
本発明に係る全方向移動ロボットは、オフィスにおける汎用運搬ロボットや娯楽用の玉乗りロボットに用いることができる。
ロボットの全体側面図である。 ロボットの全体正面図である。 カバー体を省略して示すロボットの平面図である。 図1ないし図2において、ロボット本体の下半部(全方向移動伝達手段)と球状走行体のみを示す図である。 図4の平面図である。 図5において、電装機器取付部及び保持アームを取り外した図である。 図6の底面図である。 駆動伝達ユニットの正面図である。 駆動伝達ユニットの底面図である。 駆動伝達ユニットの側面図である。 回転体装置を示す図である。 回転体装置を取り付ける枠体の斜視図である。 球状走行体への駆動力の伝達の説明図である。 本発明に係るロボットと倒立振子の関係を示す図である。 ロボットの制御を示すブロック図である。 ロボットの制御を示すブロック図である。 球状走行体の形状保持手段を説明する図である。 ボール(球状走行体)の運動モデルを示す図である。 ロボット(ロボット本体)の運動モデルを示す図である。 ロボットの姿勢安定化制御の二次元モデルを示す図である。
符号の説明
1 球状走行体
2 保持アーム
3 駆動伝達ユニット
33 モータ
31,32 従動軸
35 枠体
36 回転体
352 第1回転軸
354 第2回転軸

Claims (12)

  1. 一つの球状走行体と、
    球状走行体を任意の方向に転動させる力を球状走行体に伝達する全方向移動駆動手段を備えたロボット本体と、
    ロボット本体を倒立振子型モデルで制御する制御手段と、
    を有する全方向移動ロボット。
  2. 請求項1において、前記球状走行体は、弾性を有することを特徴とする全方向移動ロボット。
  3. 請求項2において、前記球状走行体は中空体であり、中空部には圧搾気体が封入されていることを特徴とする全方向移動ロボット。
  4. 請求項1乃至3いずれかにおいて、ロボット本体は、球状走行体を回転可能に保持する保持手段を有することを特徴とする全方向移動ロボット。
  5. 請求項4において、前記保持手段は、球状走行体を把持する複数の保持アームであることを特徴とする全方向移動ロボット。
  6. 請求項5において、保持アームは、球状走行体を弾性的に把持することを特徴とする全方向移動ロボット。
  7. 請求項5,6いずれかにおいて、保持アームの球状走行体との接触部位は回転自在に構成されていることを特徴とする全方向移動ロボット。
  8. 請求項4乃至7いずれかにおいて、前記全方向移動駆動手段の少なくとも部分が、少なくとも保持手段の一部を構成していることを特徴とする全方向移動ロボット。
  9. 請求項1乃至8いずれかにおいて、全方向移動駆動手段は3つ以上の駆動伝達ユニットを有し、
    各駆動伝達ユニットは、
    モータとモータ駆動で回転する1つ以上の回転体を有し、
    前記回転体は球状走行体の表面に接する曲面を有すると共に、モータ駆動による第1方向と非駆動の第2方向に回転可能であり、
    各駆動伝達ユニットの少なくとも1つの回転体は常時球状走行体の表面に接しており、各駆動伝達ユニットの回転体の回転によって伝達される回転力によって球状走行体を所定方向に転動させることを特徴とする全方向移動ロボット。
  10. 請求項1乃至9いずれかにおいて、全方向移動ロボットは乗用であり、座面には力センサが設けてあり、力センサの検出情報を用いて、ロボットを移動させるように構成したことを特徴とする全方向移動ロボット。
  11. 球状走行体が転動することで移動する全方向移動ロボットの全方向移動駆動機構であって、
    全方向移動駆動機構は3つ以上の駆動伝達ユニットを有し、
    各駆動伝達ユニットは、
    モータとモータ駆動で回転する1つ以上の回転体を有し、
    前記回転体は球状走行体の表面に接する曲面を有すると共に、モータ駆動による第1方向と非駆動の第2方向に回転可能であり、
    各駆動伝達ユニットの少なくとも1つの回転体は常時球状走行体の表面に接しており、各駆動伝達ユニットの回転体の回転によって伝達される回転力によって球状走行体を所定方向に転動させることを特徴とする全方向移動ロボットの全方向移動駆動機構。
  12. 請求項1乃至10いずれかにおいて、前記制御手段は、ロボットを目標地点に移動させる際に、ロボットが移動方向に傾斜した姿勢で移動するように制御することを特徴とする全方向移動ロボット。
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