つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。まず、この発明を適用できる車両の構成例を、図2に基づいて説明する。この図2には、ベルト式無段変速機1を搭載した車両Veが示されているとともに、車両Veの制御系統が示されている。ベルト式無段変速機1においては、駆動プーリ(プライマリプーリ)2と従動プーリ(セカンダリプーリ)3とが、それぞれの中心軸線を互いに平行にして所定の間隔を空けて配置されている。その駆動プーリ2は、無端状のベルト4を巻き掛けるいわゆるV溝の幅を変更できるようになっており、駆動プーリ2は、プライマリシャフト30と一体回転し、かつ、軸線方向には固定された固定プーリ片5と、プライマリシャフト30と一体回転し、かつ、軸線方向に動作可能に構成された可動プーリ片6とを有している。その可動プーリ片6の背面側に、可動プーリ片6を軸線方向に動作させるための油圧アクチュエータ7が設けられている。油圧アクチュエータ7は、可動プーリ片6に軸線方向の推力を与える油圧室31を有している。そして、これら固定プーリ片5と可動プーリ片6との対向面が、テーパ角の一定なテーパ面となっていて、これらのテーパ面によって前記V溝が形成されている。
前記従動プーリ3は、セカンダリシャフト32と一体回転し、かつ、軸線方向には固定された固定プーリ片8と、セカンダリシャフト32と一体回転し、かつ、軸線方向に動作可能な可動プーリ片9とを有している。そして、これら固定プーリ片8と可動プーリ片9との対向面が、テーパ角の一定なテーパ面となっていて、これらのテーパ面によってV溝が形成されている。さらに、可動プーリ片9の背面側に、可動プーリ片9を軸線方向に動作させるための油圧アクチュエータ10が設けられている。油圧アクチュエータ10は、可動プーリ片9に軸線方向の推力を与える油圧室33を有している。
このベルト式無段変速機1の駆動プーリ2が、発進クラッチやトルクコンバータなどを介して、エンジンやモータ・ジェネレータなどの動力源(原動機)11に連結されている。ここで、エンジンとしては、内燃機関および外燃機関が挙げられるが、この実施例では、内燃機関、具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどが用いられている場合について説明する。以下、動力源11に代えてエンジン11と記す。また、セカンダリシャフト32が、デファレンシャル(図示せず)あるいはプロペラシャフト(図示せず)などを介して駆動輪36に連結されている。
上記のベルト4は、各プーリ2,3のV溝に挟み込まれる形状の多数の金属片を環状に配列し、それらの金属片をフープと称される環状の金属バンドによって結束して構成されている。したがって、ベルト4の全長はフープによって制限されるから、各プーリ2,3によってベルト4を挟み付けると、V溝の傾斜面(テーパ面)によってベルト4を半径方向で外側に押し出す向きの力が作用し、その結果、ベルト4に張力が加えられるとともに、ベルト4と各プーリ2,3との接触圧力が発生し、その接触圧力と摩擦係数とで決まる摩擦力によって、ベルト4と各プーリ2,3との間でトルクが伝達される。このようにベルト4を挟み付ける圧力が挟圧力であって、例えば、従動プーリ3側の油圧アクチュエータ10の油圧室33の油圧に応じて挟圧力が制御される。
これに対していずれか一方のプーリにおいてベルト4を挟み付ける圧力が相対的に増大し、あるいは低下すると、ベルト4の張力に抗してベルト4が当該一方のプーリで半径方向で外側に押し出され、あるいは反対に半径方向で内側に入り込み、同時に他方のプーリではベルト4が半径方向で内側に入り込み、あるいは半径方向で外側に押し出される。このような巻き掛け半径の変更が変速の実行であり、例えば、駆動プーリ2側の油圧アクチュエータ7の油圧室31に供給される圧油の流量を制御することにより、変速比が制御される。
以下、駆動プーリ2の溝幅を変化させて、ベルト4の各プーリ2,3に対する巻き掛け半径を変更することにより、ベルト式無段変速機1の変速比を制御するように構成されているものとして説明する。このベルト式無段変速機1の変速比を制御するための油圧制御回路34について説明すると、駆動プーリ2側の油圧アクチュエータ7の油圧室31には、油路35を介在させて、アップシフト制御弁12およびダウンシフト制御弁13が並列に接続されている。
そのアップシフト制御弁12は、駆動プーリ2側の油圧アクチュエータ7の油圧室31に対する圧油の供給を制御するバルブであって、ソレノイドバルブ14から出力される信号圧によって動作するように構成されている。具体的に説明すると、アップシフト制御弁12は、装置の全体の元圧であるライン圧PL、もしくは、ライン圧PLの補正圧が供給される入力ポート15と、前記油路35に接続され、かつ、入力ポート15に選択的に連通される出力ポート16と、デューティ比に応じた信号圧がソレノイドバルブ14から加えられることにより、図示しない弁体を動作させる信号圧ポート17とを備えている。なお、符号18はスプリングであって、信号圧に対抗する方向に弾性力を、弁体に対して付与するように配置されている。したがって、ソレノイドバルブ14におけるデューティ比に応じて、油圧アクチュエータ7の油圧室31に圧油が供給されるようになっている。
また、ダウンシフト制御弁13は、油圧アクチュエータ7の油圧室31から圧油を排出する制御を実行するためのバルブであって、ソレノイドバルブ19から出力される信号圧によって動作するように構成されている。具体的に説明すると、ダウンシフト制御弁13は、油路35に接続された入力ポート20と、その入力ポート20に選択的に連通されるドレインポート21と、デューティ比に応じた信号圧がソレノイドバルブ19から加えられることにより、図示しない弁体を動作させる信号圧ポート22とを備えている。なお、符号23はスプリングであって、信号圧に対抗する方向の弾性力を弁体に対して付与するように配置されている。したがって、ソレノイドバルブ19におけるデューティ比に応じて、油圧アクチュエータ7の油圧室31から圧油が排出されるようになっている。なお、油圧制御回路34は、油圧室33の油圧を制御する油路(図示せず)およびソレノイドバルブ(図示せず)などを有している。
そして、変速を制御する機能を有する電子制御装置(ECU)24が設けられている。この電子制御装置24は、マイクロコンピュータを主体として構成されたものであって、電子制御装置24には、アクセル開度、車速、ベルト式無段変速機1の入力回転数および出力回転数、エンジン回転数、エンジン11の冷却水温、油圧制御装置34の油温、アイドルスイッチなどの信号が入力される。そして、電子制御装置24においては、アクセル開度や車速、エンジン回転数などの入力データと、予め記憶しているデータなどとに基づいて演算を行って変速を判断するとともに、その変速判断に基づいて、ソレノイドバルブ14,19の通電状態を制御するためのデューティ比などを演算し、そのデューティ比に応じた制御信号を出力するように構成されている。また、この電子制御装置24は、油圧室33の油圧を制御するソレノイドバルブなどを制御することにより、前記従動プーリ3がベルト4を挟み付けてベルト式無段変速機1における伝達トルク容量を設定する挟圧力を制御するように構成されている。
したがって、上記のベルト式無段変速機1は、アクセル開度や車速などの車両の走行状態に基づいて、目標変速比あるいは目標入力回転数(エンジン11もしくは駆動プーリ2の目標回転数)が設定され、実変速比や実入力回転数がその目標値に一致するように、いずれかのソレノイドバルブ14,19を制御する信号が、電子制御装置24から出力されるように構成されている。そして、いずれかのソレノイドバルブ14,19が、入力されたデューティ比に応じた信号圧を出力することにより、アップシフト制御弁12から駆動プーリ2側の油圧アクチュエータ7に圧油が供給されてアップシフトが実行され、あるいはその油圧アクチュエータ7からダウンシフト制御弁13を介して圧油が排出させられてダウンシフトが実行される。
上記のアップシフトおよびダウンシフトの変速制御に際しては、フィードバック制御およびフィードフォワード制御を組み合わせて実行可能である。フィードバック制御は、目標入力回転数や目標変速比などの目標値と、実際の入力回転数や変速比などの実際値との偏差を求め、その偏差を小さく(少なく)するように、実際の入力回転数や変速比などの実際値を制御することである。これに対して、フィードフォワード制御は、油圧室31におけるオイルの供給量・排出量と、入力回転数や変速比との対応関係をモデルベースに基づいてデータ化しておき、そのモデルベース化されたオイル量と、変速比もしくは入力回転数との関係に基づいて、実入力回転数や実変速比が、目標入力回転数や目標変速比となるように、油圧室31におけるオイルの供給・排出量を制御することである。このフィードフォワード制御およびフィードバック制御に用いる制御量は、目標とする変速を達成するための制御指令信号であって、具体的には前記いずれかのソレノイドバルブ14,19に出力するデューティ比(%)である。
図3は、その変速制御の基本的な処理を説明するためのフローチャートであって、先ず、フィードフォワード(FF)制御用の目標入力回転数NINTSTAが算出される(ステップS100)。この目標入力回転数NINTSTAは、例えば、基本目標入力回転数NINCを1次なまし処理して算出する。この基本目標入力回転数NINCは、エンジン11の燃費を向上させることを目的として、エンジン11とベルト式無段変速機1とを協調制御する目標入力回転数であり、車両Veの運転状態、例えば、アクセル開度および車速に基づいて算出することが可能である。基本目標入力回転数NINCの算出例を具体的に説明すると、まず、アクセル開度とその時点の車速とに基づいて要求駆動力が求められる。これは、例えば予め用意したマップから求められる。その要求駆動力と車速とからエンジン11の要求出力が算出され、その要求出力を最小の燃費で出力するエンジン回転数が、マップを使用して求められる。こうして求められたエンジン回転数に対応するベルト式無段変速機1の入力回転数が、基本目標入力回転数NINCである。なお、エンジン11の負荷は、上記の目標出力とエンジン回転数とに基づいて算出され、その目標出力を達成するようにエンジン11のスロットル開度が制御される。
このステップS100についで、フィードバック(FB)制御用の目標入力回転数NINTを算出する(ステップS101)。このステップS101においては、目標入力回転数NINTとして、前述の目標入力回転数NINTSTA、または、目標入力回転数NINTSTAに対する制御の応答遅れを考慮した目標入力回転数NINTNFFのいずれかを、選択的に用いることが可能である。ここで、目標入力回転数NINTNFFは、例えば、次式により算出される。
NINTNFF(i)=NINTNFF(i−1)+{NINTSTA(i−K1)−
NINTNFF(i−1)}×K2
上記の式において、「(i)」は、制御ルーチンの実行周期における(i)番目の周期、つまり「今回」を意味し、「(i−1)」は前回を意味する。また、「K1」は、無駄時間に相当する係数もしくは補正値であり、「K2」は、なまし量を決定する時定数もしくは補正値である。さらに、目標入力回転数NINTSTAと目標入力回転数NINTNFFとを切り替える判断は、フィードフォワード制御が禁止されているか否かによりおこなわれる。具体的には、フィードフォワード制御が禁止されている場合は、目標入力回転数NINTSTAが選択され、フィードフォワード制御が許可されている場合は、目標入力回転数NINTNFFが選択される。ここで、一方の目標入力回転数NINTSTAが選択され、かつ、その目標入力回転数NINTSTAによる制御が実行される場合も、他方の目標入力回転数NINTNFFの算出自体は実行される。これとは逆に、他方の目標入力回転数NINTNFFが選択され、かつ、その目標入力回転数NINTNFFによる制御が実行される場合も、他方の目標入力回転数NINTSTAの算出自体は実行される。なお、フィードフォワード制御の許可・禁止条件については後述する。
上記のステップS101についで、実出力回転数NOUTのなまし補正回転数(遅れ補正なまし値)NOUTHOが算出される(ステップS102)。実出力回転数NOUTは、適宜のセンサによって検出されており、これをフィルタ処理することによりなまし補正回転数NOUTHOが求められる。なお、このなまし処理(フィルタ処理)は、検出信号に含まれるノイズ(外乱成分)を除去するための処理であるが、そのノイズの要因や程度は必ずしも一律ではないので、なまし係数(フィルタ処理の係数)はノイズあるいは外乱の要因や程度に応じて変更することが好ましい。
ついで、そのなまし補正回転数NOUTHOを利用して目標変速比RATIOTが算出される(ステップS103)。すなわち、変速比は駆動プーリ2の回転数と従動プーリ3の回転数との比であるから、目標変速比RATIOTが、上述した目標入力回転数NINTと実出力回転数NOUTのなまし補正回転数NOUTHOとの比として算出される。
図2に示すベルト式無段変速機1は、各プーリ2,3に対するベルト4の巻き掛け半径に応じて変速比が設定されるから、目標変速比RATIOTを達成するための可動プーリ片6の位置WDXが算出される(ステップS104)。ここで、位置WDXとは軸線方向における位置を意味する。すなわち変速比と可動プーリ片6の位置WDXとは、プーリの形状に基づいて幾何学的に定まるので、目標変速比RATIOTと可動プーリ片6の位置WDXとの関係を予めマップとして用意しておき、そのマップと目標変速比RATIOTとから可動プーリ片6の位置WDXが求められる。
前述した目標入力回転数NINTは、最終的に到達するべき回転数として設定されるのではなく、時々刻々の目標値として設定されるから、それに基づく前記目標変速比RATIOTも時々刻々変化する値として算出される。したがって可動プーリ片6の位置WDXは時間毎の位置として求められる。したがって次のステップS105では、所定時間の可動プーリ片6の移動量DXTが算出される。これは、可動プーリ片6の位置WDXの移動平均として求めることができる。
次に、目標変速比RATIOTの変化量を達成するための上記の所定時間の可動プーリ片6の移動量DXTを実現するのに要する駆動プーリ2の油圧アクチュエータ7に対する圧油の流量値QINが算出される(ステップS106)。要は、その油圧アクチュエータ7におけるピストン(図示せず)の受圧面積と、可動プーリ片6の移動量DXTとの積である。
駆動プーリ2側の油圧アクチュエータ7の油圧室31に対する圧油の給排の制御は、図2に示すソレノイドバルブ14,19をデューティ制御することによって行われるが、そのデューティ比に応じた圧油の流量は、その流入口と流出口との差圧に関係するので、先ず、その差圧(駆動プーリ2におけるオイルの流入出差圧)SAATUが算出される(ステップS107)。これは、所定のモデルに基づく制御で得られたデータを用いればよい。また、このステップS107においては、目標変速比と実際の変速比との偏差から変速速度を求め、その変速速度に応じた流量で、変速に必要な油圧室31の油圧が求められる。そして、この差圧SAATUと前記流量値QINとの関係を示すマップ、および変速に必要な油圧室31の油圧に基づいて、フィードフォワード制御での制御量(FF制御量)DQSCFFTが算出される(ステップS108)。
なお、軸線方向における駆動プーリ2の目標位置と、実際の位置との偏差を解消するためのフィードバック制御も併せて実行されるので、その偏差とフィードバックゲインとに基づくいわゆるフィードバック制御量(FB制御量)DQSCFBが算出される(ステップS109)。そして、これらの算出された制御量DQSCFFTおよび制御量DQSCFBに基づいて、変速出力制御量(具体的には前記ソレノイドバルブ14,19のデューティ比)が算出される(ステップS110)。
このように、フィードバック制御とフィードフォワード制御とを組み合わせ、かつ、並行して実行することが可能である。ところで、フィードフォワード制御の制御量、つまり、ソレノイドバルブ14,19のデューティ比は、基本的には図3のようにして求めることが可能であるとともに、図3のステップS101で述べたように、フィードフォワード制御が許可されている場合と、フィードフォワード制御が禁止されている場合とでは、選択される目標入力回転数の特性が異なる。
つぎに、図3のステップS100,S101の処理を、図1のフローチャートに基づいて一層具体的に説明する。まず、ステップS1の処理は、図3のステップS100の処理と同じである。このステップS1についで、ステップS2ないしステップS12の処理が実行される。このステップS2ないしステップS12の処理が、図3におけるステップS101の具体的な内容例である。このステップS2の処理は、ステップS101で述べた目標入力回転数NINTNFFの算出処理である。このステップS2についで、車両Veが発進し、かつ、実車速が、所定車速V1未満であるか否かが判断される(ステップS3)。ここで、所定車速V1は、車速信号の精度に応じて決定される値である。所定車速V1未満である場合は、その検知信号の精度が低いと考えられる。このステップS3で肯定的に判断された場合は、フラグXCHGNINTがオフされ(ステップS4)、ステップS5に進む。このフラグXCHGNINTは、目標入力回転数NINTSTAから目標入力回転数NINTNFFに変更する場合に、基本的には、徐変制御をおこなわないことを示すフラグである。より具体的には、車両Veの発進時に、フィードフォワード制御の禁止から、フィードフォワード制御の許可に変更されて、目標入力回転数NINTSTAから目標入力回転数NINTNFFに変更する場合に、徐変制御をおこなわないことを示す。なお、徐変制御については後述する。
ステップS5においては、フラグXCHGNINTがオンされているか否かが判断され、ステップS5で否定的に判断された場合は、実車速が所定車速未満であるために、車速の検知精度が低く、目標入力回転数NINTSTAから目標入力回転数NINTNFFに変更することが適当ではないと考えられるため、目標入力回転数NINTとして目標入力回転数NINTSTAを選択し(ステップS6)、この制御ルーチンを終了する。このようにして、ステップS6を経由して制御ルーチンを終了した後、次回の制御ルーチン実行時にステップS3で否定的に判断された場合は、車速の検知信号の精度が高くなり、フィードフォワード制御の実行が可能になる。このように、ステップS3で否定的に判断された場合は、目標入力回転数NINTSTAと目標入力回転数NINTNFFとの差の絶対値が、所定値以下であるか否かが判断される(ステップS7)。このステップS7で用いる所定値は、目標入力回転数NINTSTAから目標入力回転数NINTNFFに変更し、かつ、目標入力回転数NINTNFFと実NINとの偏差に基づいて、フィードバック制御しても、ショックが生じないか否かを判断する基準である。そして、ステップS7で否定的に判断される場合、つまり、ショックが生じる可能性がある場合は、ステップS5に進む。
これに対して、ステップS7で肯定的に判断された場合、つまりショックがないと判断された場合は、ステップS8に進み、フラグXCHGNINTがオンされる。このフラグXCHGNINTは、ステップS3で否定され、かつ、ステップS7で肯定的に判断される条件では、常時オンされる。そして、ステップS8についで、ステップS5に進む。このように、ステップS8を経由してステップS5に進んだ場合は、このステップS5で肯定的に判断されて、ステップS9に進む、このステップS9においては、目標入力回転数NINTSTAから目標入力回転数NINTNFFに変更する途中で、目標入力回転数NINTの徐変中であるか否かが判断される。
例えば、キックダウン操作がおこなわれた(アクセルペダルの踏み込み量が急激にした)場合のように、ベルト式無段変速機1の変速比を急激に変更する要求があるときは、ステップS9で否定的に判断される。このステップS9で否定的に判断された場合は、フィードフォワード制御が許可されているか否かが、更に別の条件で判断される(ステップS10)。例えば、アクセルペダルが全閉となっている場合、あるいは、アクセルペダルが戻され、かつ、車速が低下しながら緩やかにダウンシフトする場合などにおいては、フィードフォワード制御が禁止されるため、ステップS10で否定的に判断されて、ステップS6に進む。これに対して、ステップS10で肯定的に判断された場合は、目標入力回転数NINTは、目標入力回転数NINTSTAから目標入力回転数NINTNFFに変更され(ステップS11)、この制御ルーチンを終了する。このように、ステップS10からステップS11に進んだ場合は、目標入力回転数NINTを徐変する制御はおこなわれない。
一方、前述のキックダウン操作がおこなわれていなければ、ステップS9で肯定的に判断されて、目標入力回転数NINTSTAと目標入力回転数NINTNFFとの間で相互に変更するために、変更途中における目標入力回転数NINTが求められ(ステップS12)、この制御ルーチンを終了する。このステップS12においては、下記の式が用いられる。
NINT=NINTSTA−(NINTSTA−NINTNFF)×SWPRATE ・・・(1)
上記の式(1)において、SWPRATEは、目標入力回転数NINTを徐々に変更する制御(徐変制御)の割合、つまり徐変割合であり、徐変割合SWPRATEは、例えば、下記の式(2)または式(3)により算出可能である。
SWPRATE=DSFTNFF/DQSCFFT ・・・(2)
SWPRATE=DSFTNFF/DQSCFFT(0) ・・・(3)
すなわち、フィードフォワード制御の禁止から許可に変更される場合は式(2)が用いられ、フィードフォワード制御の許可から禁止に変更される場合は式(3)が用いられる。この実施例では、目標入力回転数NINTの徐変割合SWPRATEは、零ないし1の範囲に設定される。また、徐変制御の途中で、式(2)が、
DQSCFFT=0
になった場合は、
SWPRATE=1
に設定される。これは、目標入力回転数NINTSTAと目標入力回転数NINTNFFとが略一致して目標制御量DQSCFFTが零になり、徐変制御をおこなう必要がなくなったことを意味する。
また、式(3)において、
DQSCFFT(0)=0
の場合は、
SWPRATE=0
に設定される。
つぎに、図1のフローチャートに対応するタイムチャートの一例を、図4に基づいて説明する。まず、時刻t1以前においては、車両Veが停止しており、前後加速度(前後G)は零となっているとともに、フィードフォワード制御項(FF項)およびフィードバック制御項(FB項)および変速出力制御量(出力項)は、全て零%になっている。時刻t1で車両Veが発進して前後加速度が正(+)側に増加する。この時点では、フィードフォワード制御が禁止されており、目標入力回転数NINTSTAおよび実入力回転数NINTが、略一致した状態で実線で示すように上昇する。時刻t2で実車速がV1以上になると、フィードフォワード制御が禁止から許可に変更されるとともに、破線で示す基本目標入力回転数NINCが上昇を開始し、前後加速度が正側で緩やかに低下する。
また、時刻t2以降、一点鎖線で示す目標入力回転数NINTNFFが上昇を開始する。ここで、目標入力回転数NINTNFFは目標入力回転数NINTSTAよりも低回転数であるとともに、目標入力回転数NINTNFFおよび目標入力回転数NINTSTAが、車速の上昇に応じて、ほぼ同じ勾配で上昇する。時刻t2以降も、目標入力回転数NINTSTAと目標入力回転数NINTNFFとの差の絶対値が所定値を越えている場合は、フラグXCHGNINTがオフされており(“零”)、目標入力回転数NINTとして目標入力回転数NINTSTAが選択される。なお、目標入力回転数NINTSTAおよび実入力回転数NINは、基本目標入力回転数NINCと略一致した状態で上昇を継続する。このため、時刻t2以降もフィードバック制御項および変速出力制御量は、共に零%に制御されている。つまり、ベルト式無段変速機1で変速比が略一定に制御される。
そして、時刻t4以降は基本目標入力回転数NINCが略一定になるとともに、フィードフォワード制御項が負側に増加している。また、実入力回転数NINが、二点鎖線で示す目標入力回転数NINTSTAよりも若干高くなり、フィードバック制御項が負側に増加している。このようなフィードフォワード制御項およびフィードバック制御項の変化により、時刻t4以降、変速出力制御量も負側に増加している。つまり、ベルト式無段変速機1で、変速比が小さくなる変速、つまりアップシフトが生じる。また、時刻t4以降も目標入力回転数NINTNFFは、時刻t4以前と同じ勾配で上昇するとともに、時刻t5以降は、フィードフォワード制御項が負側で略一定に制御され、目標入力回転数NINTNFFの上昇勾配が緩やかとなっている。また、実入力回転数NINが目標入力回転数NINTSTAに近づくことにともない、フィードバック制御項が負側で減少し、零%となる。したがって、変速出力制御量は負側で減少し、負側の所定値で略一定となる。つまり、ベルト式無段変速機1でアップシフトが継続される。
そして、時刻t6において、目標入力回転数NINTSTAと目標入力回転数NINTNFFとの差の絶対値が所定値以下になると、フラグXCHGNINTがオンされ(“1”)、目標入力回転数NINTが、目標入力回転数NINTSTAから目標入力回転数NINTNFFに変更される。このように、図1の制御例において、ステップS8,S5,S10を経由してステップS11に進んだ場合は、変速出力制御項量の変動を抑制できる。より具体的には、ベルト式無段変速機1ではアップシフトが発生するが、ダウンシフトは生じない。したがって、車両Veの前後加速度が急激に変化することが抑制され、ショックとして体感されることを回避できる。
つぎに、ステップS9からステップS12に進んだ場合のタイムチャート例を、図4に基づいて説明する。この場合は、フィードフォワード制御が禁止から許可に変更された時点、つまり時刻t2以降、目標入力回転数NINTを、目標入力回転数NINTSTAから目標入力回転数NINTNFFに、実線で示すように徐変する制御が実行される。具体的には、目標入力回転数NINTSTAおよび目標入力回転数NINTNFFよりも緩やかな勾配で、徐変割合を零から1に増加するために、ステップS12で説明した処理で、目標入力回転数NINTの徐変割合が求められる。また、目標入力回転数NINTの徐変割合に基づいて、フィードフォワード制御項が破線で示すように負側に増加される。さらに、徐変制御される目標入力回転数NINTに対して、実入力回転数NINTを追従させるため、フィードバック制御項も破線で示すように負側に増加する。このような制御により、変速出力制御量が、負側で増加する傾向となる。つまり、ベルト式無段変速機1でアップシフトが発生し、車両の前後加速度が破線で示すように急激に低下する。
そして、時刻t3で、破線で示す目標入力回転数NINTが目標入力回転数NINTNFFと一致して、徐変割合が零となり、かつ、フィードフォワード制御項も零%に制御される。このとき、実入力回転数NINTと目標入力回転数NINTNFFとに差があるため、その差に応じてフィードバック制御項は負側で減少する。このため、時刻t3で変速出力制御量が負側で急激に減少し、その後は、フィードバック制御項の変化に応じた勾配で零%に近づく。このような変速出力制御量の変化に応じて、車両の前後加速度は、破線で示すように正側で上昇する傾向となる。
さらに、実入力回転数NINが目標入力回転数NINTNFFよりも低回転数になると、フィードバック制御項が負側から正側に変化して、正側で増加する傾向となり、変速出力制御量も、負側から正側に切り換わり、その正側で増加する。つまり、ベルト式無段変速機1の変速制御が、アップシフトからダウンシフトに変更される。このような制御に応じて、車両の前後加速度も正側で更に上昇する。ついで、時刻t4以降は、目標入力回転数NINTNFFと実入力回転数NINとの差が減少すると、フィードバック制御項も正側で減少する。したがって、車両前後加速度も正側で低下する。さらに、時刻t5以降、実入力回転数NINが再び目標入力回転数NINTNFFよりも高回転数になると、フィードバック制御項および変速出力制御量は、再度、負側に変化する。つまり、ベルト式無段変速機1の変速制御が、ダウンシフトからアップシフトに変更される。そして、時刻t7で、目標入力回転数NINTNFFと実入力回転数NINとが略一致し、フィードバック制御項および変速出力制御量が、零%に制御される。このように、ステップS9からステップS12に進んだ場合は、フィードバック制御項および変速出力制御量が、零%を境として、正側と負側とで交互に、かつ、急激に変動する。つまり、ベルト式無段変速機1でアップシフトとダウンシフトとが交互に繰り返されるハンチングが生じる。その結果、車両Veの前後加速度が正側で上昇および低下を繰り返し、ショックとして体感される可能性がある。
なお、この実施例においては、図2の従動プーリ3の油圧室33に供給されるオイル量、油圧室33から排出されるオイル量を制御することにより、ベルト式無段変速機1の変速比を制御することが可能に構成されているとともに、油圧室31の油圧を制御するソレノイドバルブなどを制御することにより、前記駆動プーリ2がベルト4を挟み付けてベルト式無段変速機1における伝達トルク容量を設定する挟圧力を制御するように構成されている車両についても、図1および図3の制御例を実行可能である。この場合は、油圧室33のオイル量を制御するソレノイドバルブ(図示せず)のデューティ比を、図1および図3の制御によりフィードバック制御およびフィードフォワード制御することが可能であり、駆動プーリ2の油圧室31のオイル量を制御する場合と同様の効果を得られる。
ここで、図1および図3に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、図1のステップS1,S2および図3のステップS100,S101が、この発明の目標入力回転数算出手段に相当し、ステップS3,S5,S6,S7,S8,S10,S11が、この発明の目標入力回転数変更手段に相当する。特に、基本目標入力回転数NINCを算出するステップS100は、基本目標入力回転数算出手段と把握することも可能である。また、この実施例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、駆動プーリ2が、この発明の入力側プーリに相当し、従動プーリ3が、この発明の出力側プーリに相当し、油圧室31,33が、この発明の油圧室に相当し、目標入力回転数NINTが、この発明の目標入力回転数に相当し、基本目標入力回転数NINCが、この発明の基本目標入力回転数に相当し、目標入力回転数NINTSTAが、この発明の第1の目標入力回転数に相当し、目標入力回転数NINTNFFが、この発明の第2の目標入力回転数に相当する。