JP2006232926A - 酢酸ビニル樹脂系エマルジョン及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 可塑剤を全く含まなくても優れた低温成膜性と接着強度とを備え、流動性が優れ、しかもVOC成分をほとんど含まない酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得る。
【解決手段】 酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは、重合性不飽和単量体(X)の重合体を含むエマルジョン中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合して得られ、重合性不飽和単量体(X)の重合体を含むエマルジョン中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合した後、さらに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物が添加されていることを特徴とする。液状高分子化合物は、アクリル系ポリマー、ポリオール系ポリマー、変性シリコーン系ポリマー等が挙げられ、粉末状水溶性高分子化合物は、ポリビニルアルコール系ポリマー、ポリビニルピロリドン系ポリマー等が挙げられる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、接着剤、塗料ベース、コーティング剤などとして有用な酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、及び前記酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法に関する。
従来、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは、木工用、紙加工用、繊維加工用等の接着剤や塗料ベースやコーティング剤などに幅広く使用されている。しかし、そのままでは最低造膜温度が高いため、多くの場合、揮発性を有する可塑剤、有機溶剤などの成膜助剤を添加する必要がある。前記可塑剤としてフタル酸エステル類などが使用されるが、昨今の環境問題の高まりから、フタル酸エステル類が環境に対して好ましくないとの指摘もあり、安全性の高い可塑剤などへの代替が検討されている。しかし、可塑剤は本質的にVOC成分(Volatile Organic Compounds;揮発性有機化合物)であり、特に、住宅関連に使用される接着剤では、VOC成分が新築病(シックハウス症候群)の原因物質ではないかとの見方もある。このように、環境負荷の少ない水性接着剤であっても、可塑剤に起因するVOC問題が指摘されるようになっている。そこで、可塑剤を含まない酢酸ビニル樹脂系エマルジョン系接着剤が検討されている。
例えば、エチレン含有量が15〜35質量%であるエチレン酢酸ビニル共重合体系樹脂エマルジョンに酢酸ビニルをシード重合してなる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを含む木工用接着剤が提案されている(特許文献1参照)。また、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂系エマルジョン中で酢酸ビニルをシード重合して酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを製造する方法において、酢酸ビニルを系内に添加しつつ行うシード重合を行う工程と、前記工程の前工程又は後工程として、酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体を系内に添加するか、又は前記工程中に酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体を前記酢酸ビニルとは独立して系内に添加する工程とを含む酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法が提案されている(特許文献2及び3参照)。
さらにまた、酢酸ビニルをシード重合して得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを製造する方法として、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン中の前記共重合体をシードとして、ポリビニルアルコールの保護コロイドの存在下で、酢酸ビニルモノマーを滴下してシード重合する酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法において、重合すべき酢酸ビニルモノマーの内の3〜15質量%、及び重合開始剤の規定量の内の15〜30質量%を、前記滴下前に一時添加する酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法(特許文献4参照)や、ポリビニルアルコール系樹脂を保護コロイドとして用い、酢酸ビニルモノマーおよびアクリル酸系モノマーを用いたコアシェル型エマルジョン重合を行うに際して、酢酸ビニルモノマーを用いてコア部のエマルジョン重合を行い、続いて酢酸ビニルモノマーおよびアクリル酸系モノマーの混合物を用いてシェル部のエマルジョン重合を行う酢酸ビニル系樹脂エマルジョンの製造方法(特許文献5参照)なども提案されている。
特開平11−92734号公報 特開2000−239307号公報 特開2000−302809号公報 特開2001−131206号公報 特開2001−302709号公報
しかしながら、保護コロイドの存在下にて酢酸ビニルモノマーのエマルジョン重合を行うと、形成されたエマルジョン粒子間における水素結合作用や、エマルジョン粒子間の擬凝集作用により、得られた酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは構造粘性を示す。そのため、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの粘度の測定を、BH型粘度計を用いて同一の温度条件下にて実施しても、ローターの回転数により、測定された粘度の値は大きく異なり、具体的には、低速度の回転数で測定した粘度の値は高く、一方、高速度の回転数で測定した粘度の値は低くなる。
言い換えれば、保護コロイドの存在下で酢酸ビニルモノマーをエマルジョン重合して得られた酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは、静置状態での粘度(静置粘度)の値が高く、攪拌状態での粘度の値は低くなり、この現象は、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂系エマルジョン中で酢酸ビニルモノマーをシード重合して得られた酢酸ビニル樹脂系エマルジョンでは、その粒子径が大きくなることから、より顕著に現れる傾向にある。静置状態における粘度の値と、攪拌状態における粘度の値との差が大きいほど、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの流動性が失われることになる。そのため、例えば、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを、口(取り出し口)の狭い容器内に入れて保存する場合、使用時に、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを容器から取り出す際には、取り出しが困難となってしまう。
なお、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの粘度を下げることにより、取り出し口の狭い容器からの取り出しを容易にすることは可能であるが、垂直面などに塗布した場合、接着剤の垂れが発生してしまう。このため、粘度を低下させずに、流動性が高められた酢酸ビニル樹脂系エマルジョンが求められている。
従って、本発明の目的は、可塑剤を全く含まなくても優れた低温成膜性と接着強度とを備えているとともに、流動性が優れており、しかもVOC成分をほとんど含まない酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、及び前記酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂系エマルジョン中で酢酸ビニルをシード重合して得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンに、特定の高分子化合物の混合物を添加すると、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂系エマルジョン中で酢酸ビニルをシード重合して得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンによる優れた特性を保持したまま、不揮発分の割合を低下させることなく、流動性を大きく改善することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、重合性不飽和単量体(X)の重合体を含むエマルジョン中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合して得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンであって、重合性不飽和単量体(X)の重合体を含むエマルジョン中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合した後、さらに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物が添加されていることを特徴とする酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを提供する。
前記液状高分子化合物としては、液状アクリル系ポリマー、液状ポリオール系ポリマー及び液状変性シリコーン系ポリマーから選択された少なくとも一種の液状高分子化合物が好ましく、前記粉末状水溶性高分子化合物としては、粉末状ポリビニルアルコール系ポリマー及び/又は粉末状ポリビニルピロリドン系ポリマーが好ましい。また、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物としては、粉末状水溶性高分子化合物が、液状高分子化合物により覆われている形態または液状高分子化合物中に分散した形態の混合物を好適に用いることができる。
本発明では、重合性不飽和単量体(X)の重合体としては、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂またはアクリル樹脂を用いることができる。また、前記シード重合のモノマー成分として、酢酸ビニルとともに、酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体(Y)が用いられていてもよい。
本発明は、また、前記酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを製造する方法であって、下記の工程(A)〜(B)を具備することを特徴とする酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法を提供する。
工程(A):重合性不飽和単量体(X)の重合体を含むエマルジョン中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合する工程
工程(B):工程(A)の後、さらに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物を添加する工程
なお、本明細書では、「アクリル」と「メタクリル」とを「(メタ)アクリル」、「アクリロイル」と「メタクリロイル」とを「(メタ)アクリロイル」等と総称する場合がある。
本発明の酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは、可塑剤を全く含まなくても優れた低温成膜性と接着強度とを備えているとともに、流動性が優れており、しかもVOC成分をほとんど含んでいない。
本発明の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン(「PVAcエマルジョン」と称する場合がある)は、重合性不飽和単量体(X)の重合体を含むエマルジョン中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合して得られ、且つ重合性不飽和単量体(X)の重合体を含むエマルジョン中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合した後、さらに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物が添加されている酢酸ビニル樹脂系エマルジョンである。このように、本発明のPVAcエマルジョンでは、重合性不飽和単量体(X)の重合体を含むエマルジョン中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合した後に、不揮発分となる液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物を添加しているので、PVAcエマルジョンの粘度を良好な状態で保持し且つPVAcエマルジョン中の不揮発分の割合を低下させることなく、PVAcエマルジョンの流動性を高めることができる。
従って、本発明のPVAcエマルジョンは、BH型粘度計を用いて測定された粘度において、ローターの回転数が高速の場合の粘度の値と、低速の場合の粘度の値との差が小さく、静置状態での粘度上昇が抑制されている。具体的には、本発明のPVAcエマルジョンは、BH型粘度計(株式会社トキメック社製)を用いて、温度:23℃の条件で粘度測定を行った際に、ローターの回転数が2r/minである場合の粘度を「η(2r/min)」とし、ローターの回転数が10r/minである場合の粘度を「η(10r/min)」とした場合、下記式(1)で示されるTI値を2.5未満(好ましくは2.0未満、さらに好ましくは1.9以下)とすることができる。
TI値=η(2r/min)/η(10r/min) (1)
なお、BH型粘度計を用いて粘度測定を行った際に用いられるローターとしては、PVAcエマルジョンの粘度により適宜選択することができる。
また、前記PVAcエマルジョンは、前記構成を有しているので、可塑剤が用いられていなくても、優れた低温成膜性と高い接着強度とを備えている。なお、前記低温成膜性はJIS K6804に準じて測定される。
しかも、前記PVAcエマルジョンや、該PVAcエマルジョンを含有する処理剤(水性接着剤、水性塗料、水性コーティング剤など)中には、VOC成分がほとんど又は全く含まれていない。なお、本発明において、VOC(Volatile Organic Compounds)とは、世界保健機構(WHO)が定義している化学物質を指す。具体的には、VOC成分とは、沸点範囲が「50−100℃」〜「240−260℃」の化学物質(すなわち、沸点の下限が50〜100℃の範囲にあり、沸点の上限が240〜260℃の範囲にある沸点を有する化学物質)を指す。
[液状高分子化合物]
液状高分子化合物としては、室温(20〜25℃、特に23℃)において、液状(液体状)となっている高分子化合物(ポリマー)であれば特に制限されず、公知の液状高分子化合物の中から適宜選択して用いることができる。液状高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、液状高分子化合物としては、粉末状水溶性高分子化合物の分散性のコントロール等の観点から、油溶性又は非水溶性若しくは難水溶性の液状高分子化合物を好適に用いることができる。
本発明では、液状高分子化合物としては、液状アクリル系ポリマー、液状ポリオール系ポリマー、液状変性シリコーン系ポリマーを好適に用いることができる。液状アクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸や、(メタ)アクリル酸エステル等のアクリル系モノマーによる構成単位を少なくとも有している液状ポリマーであれば特に制限されない。具体的には、液状アクリル系ポリマーとしては、東亞合成株式会社製の商品名「ARUFON」のシリーズ(例えば、商品名「ARUFON UP−1000」、同「ARUFON UP−1010」、同「ARUFON UP−1020」、同「ARUFON UP−1021」、同「ARUFON UP−1041」、同「ARUFON UP−1061」、同「ARUFON UP−1070」、同「ARUFON UP−1080」、同「ARUFON UP−1110」、同「ARUFON UP−2000」、同「ARUFON UP−2041」、同「ARUFON UP−2130」等)などが挙げられる。
また、液状ポリオール系ポリマーとしては、液状ポリエーテルポリオール系ポリマー、液状ポリエステルポリオール系ポリマー、液状ポリオレフィンポリオール系ポリマー、液状ポリカーボネート系ポリマー、液状ポリアクリルポリオール系ポリマー、液状ポリビニルエーテルポリオール系ポリマーなどが挙げられ、特に、液状ポリエーテルポリオール系ポリマーを好適に用いることができる。液状ポリエーテルポリオール系ポリマーとしては、液状ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。液状ポリアルキレングリコールとしては、アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなど)や環状エーテル(例えば、テトラヒドロフランなど)による構成単位を少なくとも有している液状ポリマーであれば特に制限されない。具体的には、液状ポリアルキレングリコールとしては、例えば、液状ポリエチレングリコール、液状ポリプロピレングリコール、液状ポリテトラメチレングリコール、液状(エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体)などが挙げられ、液状ポリプロピレングリコールが好適である。
液状ポリエステルポリオール系ポリマーとしては、ポリエステルを重合体又は共重合体の骨格(又は主鎖)とし且つ分子内に(特に末端に)ヒドロキシル基を少なくとも2つ有している液状ポリマーであれば特に制限されない。具体的には、液状ポリエステルポリオール系ポリマーとしては、例えば、多価アルコールと多価カルボン酸との縮合重合物;環状エステル(ラクトン)の開環重合物;多価アルコール、多価カルボン酸及び環状エステルの3種類の成分による反応物などが挙げられる。前記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−テトラメチレンジオール、1,3−テトラメチレンジオール、2−メチル−1,3−トリメチレンジオール、1,5−ペンタメチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサメチレンジオール、3−メチル−1,5−ペンタメチレンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタメチレンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、シクロヘキサンジオール類(1,4−シクロヘキサンジオールなど)、ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)、糖アルコール類(キシリトールやソルビトールなど)などが挙げられる。前記多価カルボン酸としては、例えば、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。前記環状エステルとしては、例えば、プロピオラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。
液状ポリオレフィンポリオール系ポリマーとしては、オレフィンを重合体又は共重合体の骨格(又は主鎖)の成分とし且つ分子内に(特に末端に)ヒドロキシル基を少なくとも2つ有している液状ポリマーであれば特に制限されない。具体的には、液状ポリオレフィンポリオール系ポリマーとしては、例えば、エチレン・α−オレフィン骨格を有する液状ポリオレフィンポリオール、ポリイソブチレン骨格を有する液状ポリオレフィンポリオール、ポリブタジエン骨格を有する液状ポリオレフィンポリオールなどが挙げられる。
液状ポリカーボネート系ポリマーとしては、ポリカーボネートを重合体又は共重合体の骨格(又は主鎖)とし且つ分子内に(特に末端に)ヒドロキシル基を少なくとも2つ有している液状ポリマーであれば特に制限されない。具体的には、液状ポリカーボネート系ポリマーとしては、多価アルコールとホスゲンとの反応物;環状炭酸エステル(アルキレンカーボネートなど)の開環重合物などが挙げられる。具体的には、多価アルコールとホスゲンとの反応物において、多価アルコールとしては、前記例示の多価アルコールなどが挙げられる。また、環状炭酸エステルの開環重合物において、アルキレンカーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ヘキサメチレンカーボネートなどが挙げられる。なお、ポリカーボネートポリオールは、分子内にカーボネート結合を有し、末端がヒドロキシル基である化合物であればよく、カーボネート結合とともにエステル結合を有していてもよい。
液状ポリアクリルポリオール系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルを重合体又は共重合体の骨格(又は主鎖)の成分とし且つ分子内に(特に末端に)ヒドロキシル基を少なくとも2つ有している液状ポリマーであれば特に制限されない。前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。
なお、ポリオレフィンポリオール系ポリマーやポリアクリルポリオール系ポリマーにおいて、分子内にヒドロキシル基を導入するために、オレフィンや(メタ)アクリル酸エステルの共重合成分として、通常、ヒドロキシル基を有するα,β−不飽和化合物[例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルなど]が用いられる。
さらに、液状変性シリコーン系ポリマー[液状(シリコーン系ポリマーの変性物)]としては、シリコーン成分による構成単位を少なくとも有している液状ポリマーの変性物であれば特に制限されない。具体的には、液状変性シリコーン系ポリマーとしては、例えば、株式会社カネカ製の商品名「カネカサイリル」のシリーズ(例えば、商品名「カネカサイリル SAT010」、同「カネカサイリル SAT030」、同「カネカサイリル EST250」、同「カネカサイリル EST280」、同「カネカサイリル SAT350」、同「カネカサイリル SAT070」、同「カネカサイリル SAX710」等)などが挙げられる。
液状高分子化合物は、液状を有しているので、分子量(重量平均分子量や数平均分子量など)が低く、粘度が低いことが重要である。液状高分子化合物の重量平均分子量としては、高分子化合物の種類等に応じて適宜選択され、例えば、15000以下(例えば、300〜15000)の範囲から選択することができ、好ましくは500〜6000(さらに好ましくは1000〜5000)である。なお、液状高分子化合物の重量平均分子量の測定方法は、特に制限されず、例えば、ゲルパーミェーションクロマトグラフ法などの公知の方法が挙げられ、その際の条件等も特に制限されず、公知の条件とすることができる。
また、液状高分子化合物の粘度(25℃)としては、例えば、40Pa・s以下(例えば、0.1〜40Pa・s)の範囲から選択することができ、好ましくは20Pa・s以下(例えば、0.1〜20Pa・s)であり、さらに0.1〜15Pa・s(特に0.2〜5Pa・s)であることが好ましい。従って、液状高分子化合物は、室温(20〜25℃、特に25℃)で液状とみなされる範囲であれば、ある程度の粘性を有していてもよい。なお、液状高分子化合物の粘度の測定方法は、特に制限されず、例えば、BM型粘度計を用いた方法などの公知の方法が挙げられ、その際の条件等も特に制限されず、公知の条件とすることができる。
なお、本発明において、液状高分子化合物は、室温において液状の状態を有していればよく、低分子化合物のように、気体、液体、固体の3つの物質の状態のうちの液体である必要はない。すなわち、液状高分子化合物は、必ずしも、加熱や冷却により、気体や固体に、物質の状態が変化する必要はない。
[粉末状水溶性高分子化合物]
粉末状水溶性高分子化合物としては、室温(20〜25℃、特に23℃)において、粉末状となっている水溶性高分子化合物であれば特に制限されず、公知の粉末状水溶性高分子化合物の中から適宜選択して用いることができる。粉末状水溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、粉末状水溶性高分子化合物は、適宜な温度(例えば、1〜99℃)において、若干でも水溶性(水に対して溶解性)を有していればよい。従って、粉末状水溶性高分子化合物の水への溶解度としては、適宜な温度(例えば、1〜99℃のいずれかの温度、好ましくは40〜90℃のいずれかの温度)において、例えば、1質量%以上であってもよく、好ましくは10質量%以上(さらに好ましくは30質量%以上、特に50質量%以上)である。耐水接着強さ等の観点からは、粉末状水溶性高分子化合物としては、加温状態の水(例えば、40〜90℃に加温された水)に対して高い溶解性を有していることが好ましい。もちろん、粉末状水溶性高分子化合物を水に溶解させる際の溶解に要する時間は、特に制限されない。
具体的には、粉末状水溶性高分子化合物としては、例えば、粉末状ポリビニルアルコール系ポリマー、粉末状ポリビニルピロリドン系ポリマー、粉末状セルロース誘導体、粉末状デンプン、粉末状デキストリンの他、粉末状オリゴ糖類、粉末状ポリ(メタ)アクリルアミド、粉末状ポリビニルアルキルエーテル系ポリマー(ポリビニルメチルエーテルなど)、粉末状シクロデキストリン、粉末状ゼラチン、粉末状寒天、粉末状ペクチン、粉末状アルギン酸ソーダ、粉末状グアーガム、粉末状アラビアガム、粉末状ローカストビーンガム、粉末状カラギーナン、粉末状カゼイン、粉末状トラガントガム、粉末状ファーセレラン、粉末状コラーゲン、粉末状キサンタンガム、粉末状プルラン、粉末状キチン、粉末状キトサンなどが挙げられる。本発明では、粉末状水溶性高分子化合物としては、粉末状ポリビニルアルコール系ポリマーが好適であり、特に、粉末状ポリビニルアルコール系ポリマーを好適に用いることができる。
粉末状ポリビニルアルコール系ポリマーとしては、ビニルアルコールによる構成単位を少なくとも有している粉末状水溶性ポリマーであれば特に制限されない。具体的には、粉末状ポリビニルアルコール系ポリマーとしては、例えば、粉末状ポリビニルアルコールの他、各種の粉末状変性ポリビニルアルコール[粉末状(ポリビニルアルコールの変性物)]などが挙げられる。粉末状変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、粉末状カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(粉末状カルボン酸変性ポリビニルアルコール)、粉末状アルキル基変性ポリビニルアルコール、粉末状チオール基変性ポリビニルアルコール、粉末状アクリルアミド変性ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
なお、前記粉末状ポリビニルアルコール等の粉末状ポリビニルアルコール系ポリマーにおいて、モノマー単位(単量体単位)としてのビニルアルコール単位の結合形態としては、特に制限されず、規則的に結合された形態(いわゆる「頭−尾結合」した形態)、規則的に結合されていない形態(いわゆる「頭−尾結合」とともに、「頭−頭結合」や「尾−尾結合」した形態)のいずれであってもよい。従って、粉末状ポリビニルアルコール系ポリマーは、モノマー単位としてのビニルアルコール単位の一部が、隣接するビニルアルコール単位同士の間で、ヒドロキシル基を有する炭素原子同士が結合した形態で[いわゆる「頭−頭結合」又は「尾−尾結合」(通常、「頭−頭結合」と称されている)した形態で]結合することにより形成された1,2−ジヒドロキシエチレン単位を、適宜な割合で有していてもよい。また、粉末状ポリビニルアルコール系ポリマーは、部分鹸化品、完全鹸化品のいずれであってもよい。粉末状ポリビニルアルコール系ポリマーの鹸化度は、水への溶解性、用途等に応じて適宜選択することができる。
また、粉末状ポリビニルピロリドン系ポリマーとしては、ビニルピロリドンによる構成単位を少なくとも有している粉末状水溶性ポリマーであれば特に制限されない。具体的には、粉末状ポリビニルピロリドン系ポリマーとしては、例えば、粉末状ポリビニルピロリドンの他、各種の粉末状変性ポリビニルピロリドン[粉末状(ポリビニルピロリドンの変性物)]などが挙げられる。
さらに、粉末状セルロース誘導体としては、セルロースから誘導された粉末状水溶性ポリマーであれば特に制限されない。具体的には、粉末状セルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース等のアルキルセルロース類;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース等のヒドロキシアルキル−アルキルセルロース類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース類;カルボキシメチルセルロース又はその塩(ナトリウム塩など)等のカルボキシアルキルセルロース類などのセルロースエーテル類が挙げられる。粉末状セルロース誘導体としては、セルロースエステル類などであってもよい。
なお、粉末状水溶性高分子化合物は、粉末状(固形粉末状)の形状を有していれば、その平均粒子径は特に制限されず、粉末状とみなされる大きさであればよい。
また、粉末状水溶性高分子化合物の重合度や重量平均分子量としては、高分子化合物の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、粉末状水溶性高分子化合物が粉末状ポリビニルアルコール系ポリマーである場合、粉末状ポリビニルアルコール系ポリマーの重合度としては、例えば、10以上(例えば、10〜5000)の範囲から適宜選択することができる。また、粉末状水溶性高分子化合物が粉末状ポリビニルピロリドン系ポリマーである場合、粉末状ポリビニルピロリドン系ポリマーの重量平均分子量としては、例えば、5000以上(例えば、5000〜5000000)の範囲から適宜選択することができる。
[重合性不飽和単量体(X)の重合体を含むエマルジョン]
本発明では、重合性不飽和単量体(X)の重合体を含むエマルジョン(「シードエマルジョン(Z)」と称する場合がある)中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合して、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得ている。従って、このシード重合では、シードエマルジョンとしてシードエマルジョン(Z)が利用されている(すなわち、シード粒子としてシードエマルジョン(Z)中のエマルジョン粒子が利用されており、シードポリマーとしてシードエマルジョン(Z)における重合性不飽和単量体(X)の重合体が利用されている)。
前記重合性不飽和単量体(X)としては、例えば、ビニルエステル類、(メタ)アクリル酸エステル類、オレフィン類などのビニル重合可能な単量体(エチレン性二重結合を有する重合性単量体)の1種又は2種以上を用いることができる。
ビニルエステル類としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、ベオバ10(商品名:シェルジャパン社製)などのC1-18脂肪族カルボン酸のビニルエステル類;安息香酸ビニルなどの芳香族カルボン酸のビニルエステル類などが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。オレフィン類としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンテンなどが挙げられる。
重合性不飽和単量体(X)の重合体(「重合体(X1)」と称する場合がある)の代表的な例としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(「エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂」と称する場合がある)等のオレフィン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(共重合体を含む)、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体などが例示される。重合体(X1)としては、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系重合体が好適であり、特にエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂が好ましい。なお、重合体(X1)は単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
重合体(X1)において、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂としては、特に限定されないが、通常、エチレン含有量が5〜60質量%程度のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂が用いられる。なかでも、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂としては、エチレン含有量が15〜35質量%の範囲にあるエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂が、特に低い成膜温度を与えると共に、優れた接着強さも付与するため好ましい。
なお、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂における酢酸ビニル含有量は、通常、40〜95質量%程度(好ましくは65〜85質量%)である。また、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂は、架橋性モノマーを0〜10質量%程度の含有量でモノマー成分として含有している。
従って、シードエマルジョン(Z)としては、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を含むエマルジョン(「エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョン」と称する場合がある)や、(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含むエマルジョンを好適に用いることができ、特にエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョンが好ましい。このようなエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョンは広く市販されており、市中で容易に入手することができる。市販品等のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョンは、必要に応じて水による希釈等により濃度調整を行って、用いることができる。
シードエマルジョン(Z)は、予め重合により得られた重合体(シードポリマーとして用いる重合体)を水に分散して調製したエマルジョンであってもよく、乳化重合により製造されたエマルジョン(シードポリマーとして用いる重合体を含むエマルジョン)であってもよい。なお、シードエマルジョン(Z)は、乳化重合によりシードエマルジョン(Z)を調製する工程を前段とし、該シードエマルジョン(Z)中でシード重合を行う工程を後段とする多段重合における前段で調製されたエマルジョンであってもよい。このような多段重合等の一連に行う重合によっても、本発明の酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを製造することができる。
[シード重合に付すモノマー成分]
本発明では、前述のようなシードエマルジョン(Z)中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合している。このようなシード重合で用いられるモノマー成分としては、少なくとも酢酸ビニルを含んでいれば特に制限されない。シード重合に付すモノマー成分としては、酢酸ビニルのみが用いられていてもよく、酢酸ビニルとともに、酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体(Y)(単に「重合性不飽和単量体(Y)」と称する場合がある)が用いられていてもよい。
重合性不飽和単量体(Y)としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類(アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類)、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、芳香族ビニル化合物、不飽和カルボン酸アミド類、オレフィン類、ジエン類、不飽和ニトリル類などが挙げられる。重合性不飽和単量体(Y)は単独で又は2以上を組み合わせて使用できる。
重合性不飽和単量体(Y)において、(メタ)アクリル酸エステル類としては、従来公知の(メタ)アクリル酸エステルの何れをも使用することができる。この代表例として、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル[好ましくは、(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステル、より好ましくは(メタ)アクリル酸C1-14アルキルエステル]などが例示できる。
また、(メタ)アクリル酸エステル類としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル;(メタ)アクリル酸グリシジルなどの反応性官能基含有(メタ)アクリル酸エステルなども用いることができる。
ビニルエステル類としては、酢酸ビニル以外の従来公知のビニルエステルの何れも使用することができる。この代表例として、例えば、ギ酸ビニル;プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、ベオバ10(商品名:シェルジャパン社製)などのC3-18脂肪族カルボン酸のビニルエステル類;安息香酸ビニルなどの芳香族カルボン酸のビニルエステル類等が挙げられる。
ビニルエーテル類としては、従来公知のビニルエーテル類を何れも使用することができる。この代表例として、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、iso−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、tert−アミルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類などが挙げられる。
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジンなどが挙げられる。不飽和カルボン酸アミド類には、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシブチルアクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類などが含まれる。オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンテンなどが挙げられる。ジエン類としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどが例示できる。また、不飽和ニトリル類としては、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。
[酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法]
このように、本発明では、シードエマルジョン(Z)中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分(すなわち、酢酸ビニルのみを含むモノマー成分、または酢酸ビニルとともに、重合性不飽和単量体(Y)を含むモノマー成分)をシード重合しており、このシード重合後に、さらに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物が添加されている。従って、本発明の酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは、例えば、下記の工程(A)〜(B)を具備する酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法により、製造することができる。
工程(A):重合性不飽和単量体(X)の重合体を含むエマルジョン[シードエマルジョン(Z)]中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合する工程
工程(B):工程(A)の後[すなわち、シードエマルジョン(Z)中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合した後]、さらに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物を添加する工程
[工程(A)]
工程(A)では、シードエマルジョン(Z)中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分(酢酸ビニルと、必要に応じて重合性不飽和単量体(Y)とを含むモノマー成分)をシード重合している。工程(A)におけるシード重合において、シードエマルジョン(Z)の使用量は、特に制限されない。シードエマルジョン(Z)としては、例えば、シードエマルジョン(Z)におけるシードポリマー(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂など)の量(固形分)が、シード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの全樹脂分(全固形分)中の含有量として、3〜40質量%(好ましくは5〜35質量%、さらに好ましくは10〜30質量%)程度となる割合で用いることが望ましい。
また、シード重合に付すモノマー成分において、酢酸ビニルの使用量は、例えば、シード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの全樹脂(全固形分)に対して、10〜90質量%(好ましくは15〜85質量%、さらに好ましくは40〜80質量%)程度である。
重合性不飽和単量体(Y)の使用量は、所望するエマルジョンの特性に応じて広い範囲で選択できる。重合性不飽和単量体(Y)の使用量は、例えば、酢酸ビニル100質量部に対して0〜100質量部(好ましくは0.05〜60質量部、さらに好ましくは0.05〜40質量部)程度である。
酢酸ビニルや重合性不飽和単量体(Y)等のモノマー成分を系内に添加する方法としては、特に制限はなく、一括添加方法、連続添加方法、間欠添加方法の何れの添加方法であってもよい。なお、酢酸ビニルを系内に添加する方法としては、反応の制御の容易性などの点から、連続添加方法又は間欠添加方法が好ましい。一方、重合性不飽和単量体(Y)を系内に添加する際には、酢酸ビニルと混合した混合物(「混合モノマー」と称する場合がある)として系内に添加してもよく、また、酢酸ビニルとは別個に系内に添加してもよく、さらにまた、これらの組み合わせた方法により、系内に添加してもよい。なお、重合性不飽和単量体(Y)を酢酸ビニルとは別個に系内に添加する場合、該重合性不飽和単量体(Y)の添加方法としては、反応の制御が可能な範囲で、一括添加方法のようにできるだけ短時間で添加するのが好ましい。
酢酸ビニルや重合性不飽和単量体(Y)等のモノマー成分は、それぞれ、別個に系内に添加する場合や、混合モノマーの形態で系内に添加する場合など、いずれの場合であっても、ポリビニルアルコールなどの保護コロイド水溶液と混合して、乳化した状態で系内に添加してもよい。保護コロイドの具体例は、下記に示されているとおりである。
工程(A)では、シード重合の際には、酢酸ビニルと、重合性不飽和単量体(Y)とは、同時にまたは別々にシード重合することができる。すなわち、工程(A)において、重合性不飽和単量体(Y)は、酢酸ビニルのシード重合の際に系内に添加されてもよく、酢酸ビニルのシード重合の前後で系内に添加されていてもよい。また、重合性不飽和単量体(Y)は、酢酸ビニルをシード重合する際に、酢酸ビニルを系内に添加する前や後で、系内に添加されていてもよい。従って、重合性不飽和単量体(Y)は、酢酸ビニルと混合した混合物として系内に添加してもよく、酢酸ビニルとは別個に系内に添加してもよく、またはこれらを組み合わせた形態で系内に添加してもよい。
本発明では、酢酸ビニルを系内に添加し且つシード重合を行う工程(「工程(A1)」と称する場合がある)と、重合性不飽和単量体(Y)を酢酸ビニルとは別個独立して系内に添加する工程(「工程(A2)」と称する場合がある)とを設けると、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンによる硬化物又は皮膜の低温接着強さを大きく向上させることができる。従って、工程(A)としては、酢酸ビニルを系内に添加しつつシード重合を行う工程(A1)と、重合性不飽和単量体(Y)を前記酢酸ビニルとは別個独立して系内に添加する工程(A2)とにより構成されていることが好ましい。
なお、前記工程(A1)は、酢酸ビニルを系内に添加し且つシード重合を行う工程であれば特に制限されず、例えば、酢酸ビニルを系内に添加しつつシード重合を行う工程であってもよく、また、酢酸ビニルを系内に添加した後、シード重合を行う工程であってもよく、さらにまた、酢酸ビニルの一部を系内に添加した後、シード重合を行い、さらにその後、酢酸ビニルの残部を系内に添加した後、シード重合を行う工程などのいずれの形態の工程であってもよい。
また、前記工程(A2)は、工程(A1)において、酢酸ビニルを系内に添加する前に行う工程[工程(A1)の前工程]、工程(A1)において、酢酸ビニルを系内に添加した後に行う工程[工程(A1)の後工程]、または工程(A1)中に行う工程[工程(A1)中に行う工程]などのいずれの工程であってもよい。このように、工程(A1)の前工程又は工程(A1)の後工程として、工程(A2)を設けるか、或いは工程(A1)中に、工程(A2)を設けると上記の有利な効果が得られる。
なお、工程(A2)を工程(A1)の前工程として行うとは、前述のように、酢酸ビニルを添加してシード重合する前に、重合性不飽和単量体(Y)を系内に添加することを意味する。この場合、重合性不飽和単量体(Y)の添加は、重合開始剤の存在下又は非存在下の何れの状態であっても行うことができる。すなわち、重合性不飽和単量体(Y)の重合は、酢酸ビニルの重合開始前に開始されてもよく、酢酸ビニルの重合開始と同時に開始されてもよい。また、重合性不飽和単量体(Y)の重合が終了した後に[該重合性不飽和単量体(Y)による重合体(重合性不飽和単量体(Y)が1種のみの場合には、ホモポリマー、重合性不飽和単量体(Y)が2種以上使用されている場合には、それらの共重合体)]が形成された後に、工程(A1)に移行する二段階重合を行ってもよい。
また、工程(A2)を工程(A1)の後工程として行うとは、前述のように、酢酸ビニルの添加終了後に、重合性不飽和単量体(Y)を系内に添加して該重合性不飽和単量体(Y)を重合に付すことを意味する。この場合、重合性不飽和単量体(Y)の添加は酢酸ビニルの重合が終了した後に行ってもよい。
さらにまた、工程(A2)を工程(A1)中に行うとは、前述のように、酢酸ビニルを添加してシード重合を行っている途中において、重合性不飽和単量体(Y)を酢酸ビニルとは別個に系内に添加して重合に付すことを意味する。この場合、重合性不飽和単量体(Y)の添加時期としては、工程(A1)の途中のどの段階(酢酸ビニルの添加段階、酢酸ビニルの添加及びシード重合段階、酢酸ビニルのシード重合段階など)であってもよいが、好ましくは工程(A1)の前半の段階(すなわち、酢酸ビニルの添加段階)である。
工程(A)又は工程(A1)において、シード重合における重合温度は、重合開始剤等に応じて適宜選択することができ、例えば、60〜90℃(好ましくは70〜85℃)程度であるがこれに限定されない。
また、工程(A2)において、重合性不飽和単量体(Y)を酢酸ビニルとは別個に系内に添加する際の温度としては、重合性不飽和単量体(Y)添加工程を、工程(A1)中の工程として設ける場合には、工程(A1)における温度(シード重合における重合温度)と同様であるが、重合性不飽和単量体(Y)添加工程を、工程(A1)の前工程として設け、且つ重合性不飽和単量体(Y)の重合を工程(A1)の時点で開始する場合には、重合性不飽和単量体(Y)の添加時の温度は特に限定されない。
なお、重合性不飽和単量体(Y)を酢酸ビニルとは別個に系内に添加する場合、重合性不飽和単量体(Y)としては、前記に具体的に例示された重合性不飽和単量体(Y)を使用することができるが、これらの中でも、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、ビニルエステル類及びビニルエーテル類から選択された少なくとも1種を使用するのが好ましい。重合性不飽和単量体(Y)としては、特に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル[例えば、(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステル、特に(メタ)アクリル酸C1-14アルキルエステル]、C3-14脂肪族カルボン酸のビニルエステルが、低温養生時の低温接着強さの低下が最も少ないので好ましい。また、その低温接着強さに加えて、優れた低温成膜性能(低温造膜性能)の保持の見地から、重合性不飽和単量体(Y)としては、アクリル酸C3-12アルキルエステルや、メタクリル酸C2-8アルキルエステルがさらに好ましい。
重合性不飽和単量体(Y)を酢酸ビニルとは別個に系内に添加する場合における該別個に添加する重合性不飽和単量体(Y)の使用量は、PVAcエマルジョンによる接着性等の性能を損なわない範囲で適宜選択できるが、一般には、酢酸ビニル100質量部に対して0.05〜10質量部程度の範囲である。前記使用量が0.05質量部未満では低温養生時の接着強さ(低温接着強さ)が低下しやすく、10質量部を超える場合には常態接着強さが低下しやすい。前記の重合性不飽和単量体(Y)の使用量における範囲の中でも、接着強さに優れ且つ低温養生時の低温接着強さの低下が最も少ない範囲は、酢酸ビニル100質量部に対して0.1〜7質量部(特に好ましくは0.5〜4質量部)の範囲である。
本発明では、シード重合に付すモノマー成分としては、シードポリマーを構成する単量体とは組成(種類)が異なる単量体(モノマー成分)、或いは組成は同じでも組成比が異なる単量体(モノマー成分)であることが多い。
なお、シード重合では、保護コロイドが用いられていてもよい。保護コロイドは、酢酸ビニルや重合性不飽和単量体(Y)等のモノマー成分をシード重合する際のシードエマルジョン(Z)中に予め混合されて用いられていてもよく、酢酸ビニルや重合性不飽和単量体(Y)等のモノマー成分をシード重合する際に、シードエマルジョン(Z)に添加するモノマー成分(酢酸ビニルや重合性不飽和単量体(Y)など)中に混合されて用いられていてもよい。このような保護コロイドとしては、特に限定されず、一般に酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを製造する際に用いられる保護コロイド、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)や、他の水溶性高分子などが好適に使用される。前記ポリビニルアルコールとしては、一般的なポリビニルアルコールの他、例えば、アセトアセチル化ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールなどであってもよい。ポリビニルアルコールは、部分鹸化品、完全鹸化品の何れであってもよく、また、分子量や鹸化度等の異なる2種以上のポリビニルアルコールを併用することもできる。このように、シード重合系内に、保護コロイドとしてのポリビニルアルコールを存在させると、該ポリビニルアルコールがシード重合における乳化剤として有効な機能を持つとともに、PVAcエマルジョンを接着剤として用いたときの塗布作業性が向上する。
保護コロイドの量は、シード重合の際の重合性や、PVAcエマルジョンを接着剤としたときの接着性などを損なわない範囲で適宜選択できるが、一般には、得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの全樹脂(全固形分)中の含有量として、例えば2〜40質量%(好ましくは5〜30質量%、さらに好ましくは8〜25質量%)程度である。
また、シード重合では、重合開始剤(重合触媒)を用いることができる。重合開始剤としては、特に限定されず、公知乃至慣用の重合開始剤、例えば、過酸化水素、ベンゾイルパーオキシド等の有機過酸化物、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、アゾビスイソブチロニトリルなどを使用することができる。これらの重合開始剤は、酒石酸、重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸などの還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として用いられていてもよい。重合開始剤の使用量は、例えば、シード重合に付すモノマー成分の総量(酢酸ビニルと、必要に応じて用いられる重合性不飽和単量体(Y)との総量)100質量部に対して0.05〜2質量部程度である。また、レドックス系重合開始剤を用いる際の還元剤の使用量は、前記重合開始剤の種類等に応じて適宜設定できる。
シード重合の際、重合性や接着剤としての性能を損なわない範囲で、他の添加物(例えば、界面活性剤、pH調整剤等)や連鎖移動剤を添加してもよい。
重合の方法としては、公知の重合法を使用でき、例えば、モノマー逐次添加法、一括仕込法、二段重合法などが挙げられるが、これらに限定されない。重合装置としては、特に限定されず、業界で使用されている常圧乳化重合装置などを用いることができる。
[工程(B)]
工程(B)では、工程(A)の後[すなわち、シードエマルジョン(Z)中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合した後]、得られた酢酸ビニル樹脂系エマルジョンに、さらに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物を添加して、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物が添加された酢酸ビニル樹脂系エマルジョン(PVAcエマルジョン)を調製している。
液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物(「高分子混合物」と称する場合がある)は、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物とが混合されたものであれば特に制限されないが、粉末状水溶性高分子化合物が、液状高分子化合物により覆われている形態の混合物、または粉末状水溶性高分子化合物が、液状高分子化合物中に分散した形態の混合物を好適に用いることができる。従って、高分子混合物としては、粉末状水溶性高分子化合物が、液状高分子化合物により覆われたり、液状高分子化合物中に分散されたりすることにより、液状高分子化合物に取り囲まれた形態を有していることが好ましい。高分子混合物がこのような形態を有していると、粉末状水溶性高分子化合物が、水中に投入した際に、表面が水分を吸収してゲル状となり(この傾向は、水温が高いほど顕著に現れる)、不溶物(いわゆる「ママコ」)になってしまうほど、水に対して高い溶解性を有している場合であっても、液状高分子化合物により取り囲まれていることにより、粉末状水溶性高分子化合物が急激に多量の水分と接触することを抑制又は防止することができるため、粉末状水溶性高分子化合物を容易に溶解させることができる。
高分子混合物の添加量又は使用量(固形分)としては、特に制限されず、例えば、高分子混合物を添加した後の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン全量中の固形分の割合が20〜80質量%(好ましくは30〜65質量%、さらに好ましくは35〜50質量%)となる割合であってもよい。すなわち、PVacエマルジョン中に含まれる固形分(不揮発分)の総量が、例えば20〜80質量%となるような割合で、高分子混合物を添加することが重要である。
また、高分子混合物の添加量又は使用量(固形分)としては、例えば、高分子混合物を添加した後の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン全量(固形分および水を含む)に対して10〜120質量%(好ましくは15〜90質量%、さらに好ましくは15〜60質量%)程度の範囲から選択することができる。
なお、高分子混合物において、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との割合としては、特に制限されず、例えば、液状高分子化合物/粉末状水溶性高分子化合物(質量比)=100/1〜2/5(好ましくは25/1〜3/5、さらに好ましくは10/1〜4/5)の範囲から選択することができる。
高分子混合物を、シード重合後の酢酸ビニル樹脂系エマルジョンに添加する方法としては、特に制限されず、一括添加方法、連続添加方法、間欠添加方法の何れの添加方法であってもよいが、一括添加方法(特に、撹拌下で一括添加する方法)が好適である。なお、高分子混合物を、シード重合後の酢酸ビニル樹脂系エマルジョンに添加する際の温度などは特に制限されず、例えば、シード重合時の温度であってもよい。従って、高分子混合物を添加する際には、シード重合完了後の系内の温度を調整する必要がないので、シード重合完了後、高い温度の状態の系内に、高分子混合物を添加することができ、容易に且つ優れた生産性で、PVacエマルジョンを調製することができる。もちろん、高分子混合物は、シード重合後の系内の温度を所定の温度に調整した後、系内に添加してもよい。
なお、工程(A)では、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分を系内に添加させてシード重合を行っているが、モノマー成分をすべて添加し終えてシード重合を行った後、反応を完結させるために、通常、さらに攪拌を継続させて、熟成を行っている(すなわち、工程(A)の後、熟成工程を行っている)。このように、工程(A)の後、シード重合の反応を完結させるための熟成工程を行う場合は、工程(B)は、熟成工程後で実施してもよいが、熟成工程前又は熟成工程中(特に熟成工程前)で実施することが好ましい。熟成工程前や熟成工程中で工程(B)を実施することにより(すなわち、高分子混合物を系内に添加した後に、シード重合の反応を完結させるための熟成を行うことや、シード重合の反応を完結させるための熟成を行いつつ、高分子混合物を系内に添加することなどにより)、シード重合の反応を完結させるための熟成を行うとともに、高分子混合物の溶解を行うことができ、より一層、PVAcエマルジョンの生産性を高めることができる。そのため、本発明では、工程(B)は、工程(A)と熟成工程との間、工程(A)の後の熟成工程の間、工程(A)の後、且つ熟成工程の後のいずれか1以上の段階で、行うことができる。
従って、本発明では、工程(A)を行った後、続いて工程(B)を行うことによって、本発明の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン(PVacエマルジョン)を調製してもよく、予め工程(A)を行って得られた酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを用いて、工程(B)を行って、PVacエマルジョンを調製してもよい。すなわち、本発明のPVacエマルジョンでは、工程(A)〜工程(B)を一連の工程として行ってもよく、工程(A)と工程(B)とを別個の工程(非連続の工程)として行ってもよい。
また、本発明のPVacエマルジョンは、可塑剤を全く含まない状態であっても、優れた低温成膜性と高い接着強度を発揮することができ、特に、低温養生時でも優れた低温接着強さを発揮することができ、低温養生時における接着強さの大幅な低下を阻止することができる。例えば、下記式で表される保持率の値は、通常60%以上とすることができ、製造条件によっては70%以上、或いは80%以上にも達することができる。
保持率(%)=[低温(5℃)接着強さ(N/mm2)/常態接着強さ(N/mm2)]×100
なお、前記常態接着強さとは、エマルジョンを木工用接着剤として用いたときの接着強さを示し、JIS K 6852に準拠して測定した圧縮せん断接着強さの値である。また、低温(5℃)接着強さとは、同じくエマルジョンを木工用接着剤として用いたときの接着強さであって、エマルジョン及び試験片を5℃雰囲気下で1日間保存し、その後同温度下で接着、養生し、且つ同温度下で測定する点以外は、JIS K 6852に準拠して測定した圧縮せん断接着強さの値である。
本発明のPVacエマルジョンの常態接着強さは、例えば、10N/mm2以上(例えば、10〜30N/mm2)、好ましくは15N/mm2以上(例えば、15〜30N/mm2)である。
また、本発明のPVAcエマルジョンは、最低成膜温度が低く、被着体に、低温(例えば、5℃以下)で塗布し乾燥して成膜した際の成膜性(低温成膜性)が優れており、低温下で成膜しても、透明な硬化物又は皮膜を形成することができる。このように、本発明のPVAcエマルジョンは、最低成膜温度が低く(例えば、0℃以下であり)、低温下であっても、良好な透明性を発揮する硬化物又は皮膜を形成することができる。
さらにまた、本発明のPVAcエマルジョンは、良好な耐水性を発揮することができ、水中で保持されても、硬化物又は皮膜の接着強さの大幅な低下を阻止することができる。従って、PVAcエマルジョンによる硬化物又は皮膜は、水中で保持された際の接着強さ(耐水接着強さ)が良好であり、例えば、水に濡れても、前記硬化物又は皮膜は被着体から容易には剥がれない。
本発明のPVAcエマルジョンは、良好な透明性を有する硬化物又は皮膜を形成することができとともに、耐水性が良好な硬化物又は皮膜を形成することができ、しかも、VOC成分をほとんど又は全く含んでいないので、水性接着剤、水性塗料、水性コーティング剤などの各種処理剤の有効成分として好適である。
しかも、本発明のPVAcエマルジョンは、流動性が優れており、静置状態での粘度の粘度上昇が抑制されているので、取り出し口の口径が狭い容器内に入れて保存されていても、容易に取り出すことが可能となっている。そのため、PVAcエマルジョンは、容量が小さい容器[例えば、500ml以下(好ましくは30〜300ml、さらに好ましくは50〜200ml)の容器]に保存される各種処理剤(水性接着剤など)として、特に好適に用いることができる。
なお、本発明のPVAcエマルジョンは、そのままで各種処理剤(例えば、水性接着剤、水性塗料、水性コーティング剤など)として利用できるが、必要に応じて、他の高分子エマルジョン(例えば、他の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、アクリル樹脂系エマルジョンなど)と混合した状態で、各種処理剤として利用することができる。
また、本発明のPVAcエマルジョンでは、セルロース誘導体等の水溶性高分子などが増粘剤として配合されたり、充填剤、溶剤、顔料、染料、防腐剤、消泡剤、沈殿防止剤、流動性改良剤、防錆剤、湿潤剤などが添加されていてもよい。本発明の水性接着剤の好ましい態様では、可塑剤(揮発性可塑剤)を実質的に含まない。可塑剤を実質的に含まないとは、例えば添加する顔料ペーストなどに可塑剤が含まれており、そのために前記接着剤中に可塑剤が混入すること等を妨げるものではないことを意味する。
本発明のPVAcエマルジョンは、いわゆる「非VOC型の水性接着剤」として、産業界のみならず、学童用、医療用として極めて安心できる接着剤となる。本発明のPVAcエマルジョンは、前述のように、接着剤のほか、塗料ベース、コーティング剤などの多目的に利用できる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計付きの反応容器に、水:630質量部を入れ、撹拌下、これに、商品名「クラレポバール224」[株式会社クラレ製、ポリビニルアルコール;「PVA(1)」と称する場合がある]:36質量部、商品名「クラレポバール117」[株式会社クラレ製、ポリビニルアルコール;「PVA(2)」と称する場合がある]:8質量部、及び酒石酸:1質量部を加えて溶解させ、80℃に保った。ポリビニルアルコール[PVA(1)およびPVA(2)]が完全に溶解した後、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョン(商品名「デンカスーパーテックスNS300」電気化学工業株式会社製;固形分:55質量%、エチレン含有量:20質量%;「EVAエマルジョン」と称する場合がある)を180質量部添加した。液温が80℃まで上がったところで、n−ブチルアクリレート(「BA」と称する場合がある)を7質量部添加し、5分間攪拌した。この混合液に、触媒(35質量%過酸化水素水:1質量部を水:20質量部に溶解させた水溶液)と、酢酸ビニルモノマー:175質量部とを、別々の滴下槽から2時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、液状高分子化合物としての商品名「ARUFON UP−1000」[東亜合成株式会社製;固形分:100質量%;アクリル系ポリマー;「液状ポリマー(1)」と称する場合がある]:30質量部と、粉末状水溶性高分子化合物としての商品名「クラレポバール217」[株式会社クラレ製、ポリビニルアルコール;「粉末状ポリマー(1)」と称する場合がある]:30質量部との混合物を添加し、80℃以上の温度を保ったまま、さらに1.5時間撹拌した。その後、室温まで冷却して、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。なお、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの固形分は、36質量%であった。
(実施例2)
液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物として、液状高分子化合物としての液状ポリマー(1)(商品名「ARUFON UP−1000」、東亜合成株式会社製):30質量部と、粉末状水溶性高分子化合物としての商品名「クラレポバールRS1717」[株式会社クラレ製、ポリビニルアルコール;「粉末状ポリマー(2)」と称する場合がある]:30質量部との混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。なお、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの固形分は、36質量%であった。
(実施例3)
液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物として、液状高分子化合物としての商品名「ARUFON UP−1020」[東亜合成株式会社製;固形分:100質量%;アクリル系ポリマー;「液状ポリマー(2)」と称する場合がある]:30質量部と、粉末状水溶性高分子化合物としての粉末状ポリマー(1)(商品名「クラレポバール217」、株式会社クラレ製):30質量部との混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。なお、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの固形分は、36質量%であった。
(実施例4)
液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物として、液状高分子化合物としての商品名「ARUFON UH−2000」[東亜合成株式会社製;固形分:100質量%;アクリル系ポリマー;「液状ポリマー(3)」と称する場合がある]:30質量部と、粉末状水溶性高分子化合物としての粉末状ポリマー(1)(商品名「クラレポバール217」、株式会社クラレ製):30質量部との混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。なお、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの固形分は、36質量%であった。
(実施例5)
液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物として、液状高分子化合物としての商品名「スミフェン3600」[住化バイエルウレタン株式会社製;固形分:100質量%;ポリプロピレングリコール;「液状ポリマー(4)」と称する場合がある]:30質量部と、粉末状水溶性高分子化合物としての粉末状ポリマー(1)(商品名「クラレポバール217」、株式会社クラレ製):30質量部との混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。なお、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの固形分は、36質量%であった。
(実施例6)
液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物として、液状高分子化合物としての商品名「カネカサイリル SAT010」[株式会社カネカ製;固形分:100質量%;変性シリコーン;「液状ポリマー(5)」と称する場合がある]:30質量部と、粉末状水溶性高分子化合物としての粉末状ポリマー(1)(商品名「クラレポバール217」、株式会社クラレ製):30質量部との混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。なお、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの固形分は、36質量%であった。
(実施例7)
酢酸ビニルモノマーの滴下量を175質量部に代えて195質量部とするとともに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物として、液状高分子化合物としての液状ポリマー(1)(商品名「ARUFON UP−1000」、東亜合成株式会社製):30質量部と、粉末状水溶性高分子化合物としての粉末状ポリマー(1)(商品名「クラレポバール217」、株式会社クラレ製):10質量部との混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。なお、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの固形分は、36質量%であった。
(実施例8)
酢酸ビニルモノマーの滴下量を175質量部に代えて185質量部とするとともに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物として、液状高分子化合物としての液状ポリマー(1)(商品名「ARUFON UP−1000」、東亜合成株式会社製):30質量部と、粉末状水溶性高分子化合物としての粉末状ポリマー(1)(商品名「クラレポバール217」、株式会社クラレ製):20質量部との混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。なお、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの固形分は、36質量%であった。
(実施例9)
酢酸ビニルモノマーの滴下量を175質量部に代えて135質量部とするとともに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物として、液状高分子化合物としての液状ポリマー(1)(商品名「ARUFON UP−1000」、東亜合成株式会社製):50質量部と、粉末状水溶性高分子化合物としての粉末状ポリマー(1)(商品名「クラレポバール217」、株式会社クラレ製):50質量部との混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。なお、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの固形分は、36質量%であった。
(実施例10)
酢酸ビニルモノマーの滴下量を175質量部に代えて95質量部とするとともに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物として、液状高分子化合物としての液状ポリマー(1)(商品名「ARUFON UP−1000」、東亜合成株式会社製):70質量部と、粉末状水溶性高分子化合物としての粉末状ポリマー(1)(商品名「クラレポバール217」、株式会社クラレ製):70質量部との混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。なお、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの固形分は、36質量%であった。
(実施例11)
酢酸ビニルモノマーの滴下量を175質量部に代えて155質量部とするとともに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物として、液状高分子化合物としての液状ポリマー(1)(商品名「ARUFON UP−1000」、東亜合成株式会社製):50質量部と、粉末状水溶性高分子化合物としての粉末状ポリマー(1)(商品名「クラレポバール217」、株式会社クラレ製):30質量部との混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。なお、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの固形分は、36質量%であった。
(実施例12)
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計付きの反応容器に、水:550質量部を入れ、撹拌下、これに、PVA(1)(商品名「クラレポバール224」、株式会社クラレ製):50質量部、PVA(2)(商品名「クラレポバール117」、株式会社クラレ製):10質量部、及び酒石酸:1質量部を加えて溶解させ、80℃に保った。ポリビニルアルコール[PVA(1)およびPVA(2)]が完全に溶解した後、EVAエマルジョン(商品名「デンカスーパーテックスNS300」、電気化学工業株式会社製)を200質量部添加した。液温が80℃まで上がったところで、BA(n−ブチルアクリレート)を7質量部添加し、5分間攪拌した。この混合液に、触媒(35質量%過酸化水素水:1質量部を水:20質量部に溶解させた水溶液)と、酢酸ビニルモノマー:260質量部とを、別々の滴下槽から2時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、液状高分子化合物としての液状ポリマー(1)(商品名「ARUFON UP−1000」、東亜合成株式会社製):30質量部と、粉末状水溶性高分子化合物としての粉末状ポリマー(1)(商品名「クラレポバール217」、株式会社クラレ製):30質量部との混合物を添加し、80℃以上の温度を保ったまま、さらに1.5時間撹拌した。その後、室温まで冷却して、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。なお、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの固形分は、42質量%であった。
(比較例1)
酢酸ビニルモノマーの滴下量を175質量部に代えて235質量部とするとともに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物を滴下しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。すなわち、撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計付きの反応容器に、水:630質量部を入れ、撹拌下、これに、PVA(1)(商品名「クラレポバール224」、株式会社クラレ製):36質量部、PVA(2)(商品名「クラレポバール117」、株式会社クラレ製):8質量部、及び酒石酸:1質量部を加えて溶解させ、80℃に保った。ポリビニルアルコール[PVA(1)およびPVA(2)]が完全に溶解した後、EVAエマルジョン(商品名「デンカスーパーテックスNS300」、電気化学工業株式会社製)を180質量部添加した。液温が80℃まで上がったところで、BA(n−ブチルアクリレート)を7質量部添加し、5分間攪拌した。この混合液に、触媒(35質量%過酸化水素水:1質量部を水:20質量部に溶解させた水溶液)と、酢酸ビニルモノマー:235質量部とを、別々の滴下槽から2時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、80℃以上の温度を保ったまま、さらに1.5時間撹拌した。その後、室温まで冷却して、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。なお、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの固形分は、36質量%であった。
(比較例2)
酢酸ビニルモノマーの滴下量を175質量部に代えて205質量部とするとともに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物に代えて、液状高分子化合物としての液状ポリマー(1)(商品名「ARUFON UP−1000」、東亜合成株式会社製):30質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。すなわち、撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計付きの反応容器に、水:630質量部を入れ、撹拌下、これに、PVA(1)(商品名「クラレポバール224」、株式会社クラレ製):36質量部、PVA(2)(商品名「クラレポバール117」、株式会社クラレ製):8質量部、及び酒石酸:1質量部を加えて溶解させ、80℃に保った。ポリビニルアルコール[PVA(1)およびPVA(2)]が完全に溶解した後、EVAエマルジョン(商品名「デンカスーパーテックスNS300」、電気化学工業株式会社製)を180質量部添加した。液温が80℃まで上がったところで、BA(n−ブチルアクリレート)を7質量部添加し、5分間攪拌した。この混合液に、触媒(35質量%過酸化水素水:1質量部を水:20質量部に溶解させた水溶液)と、酢酸ビニルモノマー:205質量部とを、別々の滴下槽から2時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、液状高分子化合物としての液状ポリマー(1)(商品名「ARUFON UP−1000」、東亜合成株式会社製):30質量部を添加し、80℃以上の温度を保ったまま、さらに1.5時間撹拌した。その後、室温まで冷却して、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。なお、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの固形分は、36質量%であった。
(比較例3)
酢酸ビニルモノマーの滴下量を175質量部に代えて205質量部とするとともに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物に代えて、粉末状ポリマー(1)(商品名「クラレポバール217」、株式会社クラレ製):30質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得た。すなわち、撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計付きの反応容器に、水:630質量部を入れ、撹拌下、これに、PVA(1)(商品名「クラレポバール224」、株式会社クラレ製):36質量部、PVA(2)(商品名「クラレポバール117」、株式会社クラレ製):8質量部、及び酒石酸:1質量部を加えて溶解させ、80℃に保った。ポリビニルアルコール[PVA(1)およびPVA(2)]が完全に溶解した後、EVAエマルジョン(商品名「デンカスーパーテックスNS300」、電気化学工業株式会社製)を180質量部添加した。液温が80℃まで上がったところで、BA(n−ブチルアクリレート)を7質量部添加し、5分間攪拌した。この混合液に、触媒(35質量%過酸化水素水:1質量部を水:20質量部に溶解させた水溶液)と、酢酸ビニルモノマー:205質量部とを、別々の滴下槽から2時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、粉末状水溶性高分子化合物としての粉末状ポリマー(1)(商品名「クラレポバール217」、株式会社クラレ製):30質量部を添加し、80℃以上の温度を保ったまま、さらに1.5時間撹拌した。その後、室温まで冷却したところ、粉末状水溶性高分子化合物が、いわゆる「ママコ」状態になっており、粉末状水溶性高分子化合物が溶解又は微分散された酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを得ることができなかった。
(評価)
実施例1〜12及び比較例1〜2で得られた酢酸ビニル樹脂系エマルジョンについて、下記の方法により、流動性、最低造膜温度、接着性能について評価した。評価結果は、表1に示した。
(流動性の評価方法)
酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを25℃に調温し、株式会社トキメック社製のBH型粘度計を用いて、温度:25℃、ローター:No.5(実施例1〜11および比較例1〜2)、No.6(実施例12)の条件で、ローターの回転数:2r/min、10r/minの各回転数にて、粘度測定を行い、下記式(1)で示されるTI値を求めた。
TI値=η(2r/min)/η(10r/min) (1)
[式(1)において、「η(2r/min)」は、ローターの回転数が2r/minである場合の粘度(Pa・s)を示し、「η(10r/min)」は、ローターの回転数が10r/minである場合の粘度(Pa・s)を示す。]
そして、前記式(1)で示されるTI値を用いて、流動性を下記の評価基準により評価した。なお、TI値は1に近いほど、静置状態での粘度変化(特に、粘度上昇)が抑制又は防止されている。
評価基準
○:TI値が2.0未満である。
△:TI値が2.0以上且つ2.5未満である。
×:TI値が2.5以上である。
(最低造膜温度の測定方法)
成膜試験器(理研精機製作所製の装置品名「M.F.T.試験装置」;型番「LT」)を使用して、JIS K 6804(7.6 最低造膜温度の項)に準拠して、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの最低造膜温度(℃)を測定した。
(接着性能の評価方法)
酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの接着性能として、下記の測定方法による各種接着強さ(常態接着強さ、耐水接着強さ)を測定し、接着性能を評価した。
(1)常態接着強さの測定方法
酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを、それぞれ、木工用接着剤として用いたときの圧縮せん断接着強さを、JIS K 6852に準拠して測定した。なお、試験片として、カバ材・カバ材の組み合わせを用いた。また、被着材における破壊の状態を調べ、破壊した面積のせん断面積に対する割合を材破率(%)として求めた。具体的には、23℃、50%RHの雰囲気下で、試験片のそれぞれの表面に塗布した後(塗布量:片面100g/m2、両面200g/m2)、前記塗布面同士を重ね合わせて、1MPaの圧締圧力で試験片どうしを貼り合わせ、50%RHの雰囲気下の雰囲気下で、24時間養生させた後、除圧し、23℃、50%RHの雰囲気下で48時間養生し、接着した。その後、23℃、50%RHの雰囲気下で、接着された試験片の圧縮せん断接着強さ(N/mm2)を、JIS K 6852に準拠して測定した。
(2)耐水接着強さの測定方法
酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを、それぞれ、木工用接着剤として用いたときの圧縮せん断接着強さを、JIS K 6852に準拠して、試験片が濡れた状態で測定した。なお、試験片として、カバ材・カバ材の組み合わせを用いた。具体的には、23℃、50%RHの雰囲気下で、試験片のそれぞれの表面に塗布した後(塗布量:片面100g/m2、両面200g/m2)、前記塗布面同士を重ね合わせて、1MPaの圧締圧力で試験片どうしを貼り合わせ、50%RHの雰囲気下の雰囲気下で、24時間養生させた後、除圧し、23℃、50%RHの雰囲気下で48時間養生し、接着した。その後、接着された試験片を、30±1℃に調整した恒温水漕中に3時間浸漬させた後、さらに、23±2℃に調整した水中に10分間浸した後、水中より取り出し、試験片が濡れた状態で、接着された試験片の圧縮せん断接着強さ(N/mm2)を、JIS K 6852に準拠して測定した。尚、試験片を水中に浸漬する際、試験片が完全に水中に浸るようにおもりを使用した。
Figure 2006232926
表1より明らかなように、実施例に係る酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは、ローターの回転数が2r/minである場合の粘度と、ローターの回転数が10r/minである場合の粘度との比であるTI値が、2.5未満となっており、静置状態での粘度上昇が抑制又は防止されていることが確認された。また、実施例に係る酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは、JIS基準(JIS K 6804)による最低造膜温度は、0℃以下であり、しかも、その際には、透明な皮膜が形成されており、低温成膜性が優れている。さらにまた、常態接着強さのみならず、水に濡れた状態で測定される耐水接着強さも良好であり、接着性能が優れている。従って、実施例に係る酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは、優れた低温成膜性と接着強度とを備え、流動性が優れている
もちろん、実施例に係る酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは、可塑剤を実質的に含んでおらず、VOC成分がほとんど含まれていない。

Claims (7)

  1. 重合性不飽和単量体(X)の重合体を含むエマルジョン中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合して得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンであって、重合性不飽和単量体(X)の重合体を含むエマルジョン中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合した後、さらに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物が添加されていることを特徴とする酢酸ビニル樹脂系エマルジョン。
  2. 液状高分子化合物が、液状アクリル系ポリマー、液状ポリオール系ポリマー及び液状変性シリコーン系ポリマーから選択された少なくとも一種の液状高分子化合物である請求項1記載の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン。
  3. 粉末状水溶性高分子化合物が、粉末状ポリビニルアルコール系ポリマー及び/又は粉末状ポリビニルピロリドン系ポリマーである請求項1又は2記載の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン。
  4. 液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物が、粉末状水溶性高分子化合物が、液状高分子化合物により覆われている形態または液状高分子化合物中に分散した形態の混合物である請求項1〜3の何れかの項に記載の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン。
  5. 重合性不飽和単量体(X)の重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂またはアクリル樹脂である請求項1〜4の何れかの項に記載の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン。
  6. シード重合に付すモノマー成分として、酢酸ビニルとともに、酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体(Y)が用いられている請求項1〜5の何れかの項に記載の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン。
  7. 請求項1〜6の何れかの項に記載の酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを製造する方法であって、下記の工程(A)〜(B)を具備することを特徴とする酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法。
    工程(A):重合性不飽和単量体(X)の重合体を含むエマルジョン中で、少なくとも酢酸ビニルを含むモノマー成分をシード重合する工程
    工程(B):工程(A)の後、さらに、液状高分子化合物と粉末状水溶性高分子化合物との混合物を添加する工程
JP2005047425A 2005-02-23 2005-02-23 酢酸ビニル樹脂系エマルジョン及びその製造方法 Pending JP2006232926A (ja)

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