JP2006201062A - 核酸の検出あるいは定量方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】特異性の高い核酸ハイブリダイゼーション法の利点を活かしながら、より簡易、迅速、特異的且つ目視判定性に優れた検出あるいは定量及び検出技術を提供する事。
【解決手段】 試料中の標的核酸から1本鎖核酸を増幅する工程、該増幅された標的1本鎖核酸を捕捉用オリゴヌクレオチドプローブを備えたメンブレン上で結合せしめ、さらに核酸クロマトグラフィーにより、試料中の標的核酸の存在を検出する工程、並びに共増幅させた標的核酸と内部標準核酸の発色量の対比を基に試料中の標的核酸量を目視で定量する工程を連続して行う。増幅法としてNASBA法を組み合わせると、増幅産物の変性処理を行う工程を省く事ができ直ちに検出操作に供する事が可能である。増幅反応時に内部標準核酸由来の1本鎖核酸を用いる事で、標的核酸と内部標準核酸との発色量対比から、標的核酸の量を測定できる。
【選択図】
図1

Description

本発明は、試料中核酸の検出あるいは定量方法、遺伝子診断技術の分野に関する。より詳しくは、本発明は標的核酸の存在を簡易、迅速、特異的に目視判定する定性あるいは定量方法及びそれに基づくキットに関する。
近年、各種試料に存在する微量の核酸を高感度検出、分析する効果的な手段として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(特許文献1)を始めとし、リガーゼ鎖反応(LCR)(特許文献2、特許文献3)や鎖置換増幅(SDA)(特許文献4、特許文献5),NASBA(非特許文献1、特許文献6)やTMA(特許文献7)といった様々な核酸増幅技術が開発,利用されている。
こうした増幅産物の検出方法としては、アガロースゲルに代表されるゲル電気泳動が一般的であり、泳動によって分離された増幅産物の分子サイズから目的とする標的核酸の有無が判定される。近年ではさらに高速泳動を実現したキャピラリーゲル電気泳動技術が開発され、より短時間且つ微量解析が可能となってきている。電気泳動による検出では、インターカレーターと呼ばれる、臭化エチジウムに代表される挿入結合性色素が用いられる。インターカレーターは核酸に対し高親和性に挿入結合し、その蛍光強度が増大する。インターカレーターによる検出では存在する全ての核酸が検出されるため、しばしば非特異産物が検出され、判定に困難をきたす。また、インターカレーターの中には性質上発がん性を有する物もあるため、取扱及び廃棄に対する十分な注意が必要である。
より特異的な核酸配列の検出、同定法として、目的の核酸に相補的な配列を有すオリゴヌクレオチドプローブを用いる核酸ハイブリダイゼーション法がある。核酸ハイブリダイゼーション法では、1本鎖のオリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせるため、目的の核酸が2本鎖のDNAの場合、予め熱やアルカリによる変性処理が必要である。上記核酸増幅法のうち、NASBAやTMAによって得られる増幅産物は鋳型に相補的な1本鎖RNAであるため、変性処理を行う事なく、相補的なオリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズが可能である。ただし、これら公知の核酸ハイブリダイゼーション法、例えばドットブロットやサンドイッチハイブリダイゼーションは操作が煩雑且つ長時間を要する。最近では蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer,RET)に基づくモレキュラービーコン(非特許文献2)等を利用し、増幅反応中の産物生成状況をモニタリングする、いわゆるリアルタイム検出法が開発されている。しかし、このためには2種の異なる励起波長及び吸収波長を有する蛍光物質で標識されたプローブ及び高価な専用増幅、検出装置を必要とする。
より簡便な核酸増幅産物の定量方法として、高分子担体の凝集反応によって増幅された核酸量を測定する方法がある(特許文献8)。この方法は、高分子担体の凝集の程度を散乱光強度、吸光度または透過光強度などにより光学的に定量し、その光学的定量に際しては、自動分析装置を用いなければならず、特別な装置を必要となる。
操作性に優れ、迅速、簡便な標的核酸の検出方法として、クロマトグラフィーに基づいた方法がある(特許文献9)。この方法は、細胞、ウイルスまたは細菌から遺伝子を抽出する工程、任意抽出された遺伝子の断片化工程、および検出工程が、単一の遺伝子検出装置上で、任意抽出された遺伝子またはその断片を含む液体試料をキャピラリー作用によって移動させる事により連続して行われる遺伝子検出方法である。該文献には、目的遺伝子の存否を判断し、さらにその種類を同定する事が可能になると記載されているが、定量的な測定についての言及はない。また、増幅反応を伴わない検出方法は、簡便な遺伝子検出方法ではあるが、病原微生物などの存在の有無といった微量の核酸検出を想定した場合、増幅反応なしで検出する事は検出感度面で困難を呈する事と予想された。
特開昭61−274697号 WO89/12696 特開平2−2934号公報 米国特許第5、270、184号 米国特許第5、455、166号 特許第2650159号公報 特許第3241717号公報 特開平9−168400号公報 特開2001−157598号公報 Nature、350:91、1991 Nature Biotech,14:303、1996
臨床現場における遺伝子検査、診断においては、簡易、迅速且つ感度、特異性の高い方法である事、さらには試薬や機器コストが低い事が要求される。本発明の課題は、特異性の高い核酸ハイブリダイゼーション法の利点を活かしながら、増幅産物の検出工程に要す時間及び工程数を減らし、特別な装置を用いる事なく、より簡易、迅速、特異的且つ目視判定性に優れた検出あるいは定量方法、並びに該方法において好適に使用される標的核酸の検出あるいは定量用キットを提供する事である。
さらに核酸増幅による検査では、様々な要因により増幅反応が進まず偽陰性となる可能性が常に危惧されるため、共増幅する事で増幅反応が正しく行われた証左となる内部標準核酸由来の増幅産物を同時に検出する方法を提供する事である。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討の結果、標的核酸から1本鎖核酸を増幅し、これを毛細管現象により移動させ検出することにより、上記目的を達成できることに想到し、本発明に到達した。
即ち、本発明は以下のとおりである。
1.試料中の標的となる核酸を特異的に検出又は定量するための方法であって、試料中より任意に抽出された標的核酸から1本鎖核酸として増幅する工程、該増幅産物をクロマトグラフィーにより検出する工程及び該検出像を目視判定により評価する工程を含む核酸の検出又は定量方法。
2.増幅工程は標的核酸及び標的核酸と競合的若しくは非競合的に共増幅され得る内部標準核酸の増幅を伴うものである前記1の方法。
3.増幅はNASBA又はTMAにより行う前記1又は2の方法。
4.検出は、メンブレンに結合した増幅産物と相補的な第1のオリゴヌクレオチドプローブ及び着色高分子担体で標識した相補的な第2のオリゴヌクレオチドプローブを用いて行うことを特徴とする前記1、2又は3の方法。
5.核酸クロマトグラフィーに基づくアッセイ装置を用いる前記1〜4のいずれか1項記載の方法。
6.試料及び着色高分子担体標識オリゴヌクレオチドプローブの展開正否のみならず、核酸増幅反応の正否あるいは核酸抽出操作の偽陰性を判定するため、内部標準核酸として競合的あるいは非競合的に増幅される1本鎖核酸を共検出する前記1〜5のいずれか1項に記載の方法。
7.標的核酸と競合的あるいは非競合的に増幅した既知量の内部標準核酸由来の増幅産物との発色量の対比から、試料中の標的核酸量を目視で判定する事を特徴とする前記1〜6のいずれか1項記載の核酸の定量方法。
8.複数の着色高分子担体及び捕捉用ポリヌクレオチドを組み合わせることで、試料中に存在する2種以上の異なる標的核酸を同時に検出あるいは定量する前記1〜7のいずれか1項記載の核酸の検出又は定量方法。
9.前記1〜8のいずれか1項の方法の遂行に有用な増幅プライマー、検出プローブ、着色高分子担体、多孔性メンブレン及び展開用吸水性基材を含んでなる標的核酸の検出キット。
本発明によれば、試料中に存在する単独あるいは2種以上の核酸を簡易、迅速、且つ特異的に目視判定下で検出する事が可能となる。さらに、増幅反応時に共増幅される内部標準核酸を用いると、試料及び高分子担体標識オリゴヌクレオチドの展開正否のみならず、その検出結果から、増幅及び検出反応の正否を正しく判定する事ができる。さらに、内部標準核酸として、競合的あるいは非競合的に増幅した1本鎖核酸を共検出し、標的核酸との発色量比を基にして、標的核酸の量までも目視で測定する事ができる。本発明における内部標準核酸の共増幅、共検出により、増幅阻害物質等の様々な背景を持つ試料中の標的核酸の検出が可能になる。また、DNAではなくRNAを特異的に増幅するNASBA(あるいはTMA)法を用いれば、偽陽性の基となる死菌等を検出する事なく、生きている生物のみ検出あるいは定量する事が可能である。さらに、増幅工程において内部標準核酸を共増幅する事で、偽陰性の回避のみならず標的核酸が微量である場合においても目視での検出判定が可能となる。既知量の内部標準核酸を含める事で、該内部標準核酸との発色量の対比から目視での定量が可能である。さらに検出工程において、特別な専用機器を一切要しない、操作性にも優れた遺伝子検出方法を提供する事ができる。
本発明の好ましい態様においては、増幅反応によって得られた標的1本鎖核酸をクロマトグラフィーにより、該増幅産物に相補的な第1のオリゴヌクレオチドプローブを結合したメンブレン上でハイブリダイズさせ、次いで該結合物に着色高分子担体で標識した標的核酸に相補的な第2のオリゴヌクレオチドプローブをハイブリダイズさせ、その発色により標的核酸の存在を検出あるいは定量できる。さらに内部標準核酸由来の増幅産物の検出結果から増幅及び検出反応の正否を判定する事ができる。
以下、具体的に本発明を説明する。なお、本明細書において核酸クロマトグラフィーとは、核酸を用いたクロマトグラフィーを意味する。
先ず、試料から標的核酸を抽出する。試料としては、標的となる核酸を含有するものであれば特に制限はないが、例えば培養細胞(菌)株、末梢血あるいは細菌、ウイルス等の微生物等を用いることができる。本発明において抽出法は特に限定されず、市販の抽出キットを用いて行う事ができる。例えば、簡便法(EDTA-SDS-Phenol-Ethanol)、塩化リチウム−尿素法、プロテアーゼK−デオキシリボヌクレアーゼ法、フェノールSDS法、グアニジンチオシアネート塩化セシウム法、グアニジンチオシアネートトリフルオロ酢酸セシウム法、アシッドグアニジンチオシアネートフェノールクロロホルム法(AGPC法)、バナジルリボヌクレオシド複合法、磁性シリカ法等が挙げられる。
このようにして得た標的核酸を1本鎖核酸として増幅する。増幅法としては、増幅産物として1本鎖核酸を産生するNASBA法又はTMA法が好ましく、増幅産物の変性処理を行う工程を省く事ができ直ちに検出操作に供する事が可能である。勿論本発明の核酸増幅法は、1本鎖核酸を生じるものならNASBA法又はTMA法に限定されるものではない。
NASBA法では、標的核酸として主にRNAを鋳型とし、増幅産物として鋳型RNA相補的な1本鎖RNAを生成し、複雑な温度制御のためのサーマルサイクラーは不要である。
NASBA法は、概略以下の[工程1]〜[工程9]よりなる。[工程1]試料中の標的核酸配列(RNA)に相補的な配列およびその5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を有する第1プライマーを適当な緩衝剤の存在下で試料中の標的核酸(RNA)にハイブリダイズさせ、逆転写酵素によりdNTPsを材料としてDNAを合成し、[工程2]RNA/DNAハイブリッドのRNAのみをリボヌクレアーゼHにより分解して一本鎖DNA(第2鋳型)を得、[工程3]ついで該一本鎖DNA(第2鋳型)に標的核酸配列(DNA)に相補的な配列を有する第2プライマーをハイブリダイズさせ、dNTPsを材料としてDNAポリメラーゼにより伸長反応を行い、二本鎖DNAを得る。[工程4]ついでプロモーター配列を認識するRNAポリメラーゼを用いて、NTPsを材料としRNAのコピー(第3鋳型)を多数合成する。[工程5]得られたRNA(第3鋳型)を鋳型とし、逆転写酵素を使用した第2プライマーによるRNA/DNAハイブリッドの合成、[工程6]リボヌクレアーゼHによるRNAのみを分解する一本鎖DNA(第4鋳型)の合成、[工程7]得られた一本鎖DNA(第4鋳型)を鋳型として、DNAポリメラーゼを使用した第1プライマーによる二本鎖DNAの合成、[工程8]RNAポリメラーゼを使用した該二本鎖DNAからRNAの多数コピー(第3鋳型)の合成を行う。[工程9]これらの工程(工程5〜8)を繰り返す事により、試料中の核酸を増幅させる事ができる。
他方、TMA法は、原理的にはNASBA法と同様の手法であるが、標的RNA特異的な2種類のプライマーと2種類の酵素(逆転写酵素とRNAポリメラーゼ)を用いて、鋳型RNA相補的な1本鎖RNAを等温下で生成する。
NASBA法等による核酸増幅反応の際、好ましくは内部標準核酸として標的RNA用のプライマーにより競合増幅される得る核酸を加える。具体的には、標的核酸の一部を改変した合成RNAを作製し、標的RNAと競合的増幅を行い、該改変部位に相補的なオリゴヌクレオチドプローブを結合せしめたメンブレン上で検出する。あるいは試料中に必ず共存する核酸を共増幅しても良いが、この場合は標的核酸とは異なる専用の増幅プライマーが必要となる。具体的には、βアクチン及びGAPDH等のハウスキーピング遺伝子並びに合成RNA等を含む核酸を非競合的に共増幅し、該増幅産物に相補的なオリゴヌクレオチドプローブを結合せしめたメンブレン上で検出する。これら内部標準核酸は標的核酸の有無に関わらず常に増幅、検出され得る必要量以上で一定量である事が望ましい。具体的には、内部標準核酸量としてより好適なのは、予想される標的核酸量と同等あるいは以下に設定され、標的核酸の増幅効率が優先されるようにすべきである。
増幅された核酸は、核酸クロマトグラフィーに基づく検出を行う。多孔性メンブレン上の識別可能な位置に予め捕捉用オリゴヌクレオチドプローブを結合させ、この捕捉用オリゴヌクレオチドプローブ位置とは異なる部位から試料や着色ラテックス等を毛細管現象で移動(展開)させる。捕捉及び標識化オリゴヌクレオチドプローブと特異的な結合(ハイブリダイゼーション)をした標的1本鎖核酸のみ捕捉用オリゴヌクレオチドプローブ結合位置で識別される。内部標準核酸を用いる場合は、標的核酸と内部標準核酸はそれぞれ別々に検出ししてもよいが、同一のメンブレンで同時に検出する共検出方法が好ましい。
検出における結果判定は、具体的には以下のように行われる事が望ましい。予想される標的核酸量と同等あるいは以下に設定され、競合あるいは非競合的に共増幅され、共検出された内部標準核酸の発色量を対照として、標的核酸量が同等、以下あるいは以上であると目視で判定を行う。例えば、標的核酸と競合増幅され得る内部標準核酸を用いた場合、標的核酸から得た増幅産物の発色量が、対照となる内部標準核酸由来の増幅産物と同等の発色量を呈した場合に同等量であると判定し、対照となる内部標準核酸の発色が微かに認められるあるいは認められず標的核酸の発色のみである場合、内部標準核酸に比べ標的核酸量が多いと判定する。一方、対照となる内部標準核酸の発色のみあるいは標的核酸の発色量が非常に微かである、という場合は標的核酸量が少ないと判定する。
また、複数の着色高分子担体及び捕捉用ポリヌクレオチドを組み合わせることで、試料中に存在する2種以上の異なる標的核酸を同時に検出あるいは定量することができる。例えば、2種類の異なる標的核酸(E、Fとする)を同時に検出しようとした場合、各々の標的核酸に相補的な補足用オリゴヌクレオチドプローブをメンブレン上の異なる位置に固相化し、また各々の標的核酸に相補的なオリゴヌクレオチドプローブを赤(標的核酸E用)あるいは青色(標的核酸F用)の高分子担体に結合し、該混合液をラテックス結合オリゴヌクレオチドプローブ塗布パッドに塗布、乾燥し、試験ストリップに設置する。上記試験ストリップに2種類の標的核酸を含むNASBA産物をアプライし、クロマトグラフィーによる検出を行う。各々の標的核酸が結合したメンブレン上で、NASBA産物を介して各々の相補的配列をもつオリゴヌクレオチド標識ラテックスの着色ラインが得られる。勿論、2種類に限定されるものではない。
多孔性メンブレンは捕捉用オリゴヌクレオチドプローブを結合できるものであればよく、例えばニトロセルロース、ナイロン等が挙げられ、物理的結合を始め各種結合方法が選択できるが、特にカルボキシル基等を化学修飾した共有結合活性修飾ナイロンメンブレンが望ましい。
着色高分子担体としては、青色、赤色等の顔料で着色されたポリスチレンラテックスが好ましく、特に官能基としてカルボキシル基を有すものがオリゴヌクレオチドプローブへの標識に有用である。複数の核酸を識別する場合、異なる色のラテックスを組み合わせる事で視認性が向上する。着色高分子担体粒子の大きさはメンブレン孔径より小さい粒径から選択され、通常直径500nm以下が用いられる。
捕捉用オリゴヌクレオチドプローブや標識用オリゴヌクレオチドプローブは、検出対象となる1本鎖核酸(増幅産物)に相補的な配列を有す1本鎖核酸である。各結合対象となるメンブレンやラテックスが化学的に修飾されている場合、これに反応する官能基を有す事が望ましく、例えばカルボキシル基で修飾されたメンブレンやラテックスに対しては、5’あるいは3’末端をアミノ化した合成オリゴヌクレオチドが好ましい。
メンブレンへの捕捉用オリゴヌクレオチドプローブ結合の形態は特に限定されないが、例えばラインあるいは円形スポットとして結合する。さらに、標的核酸と内部標準核酸由来の増幅産物を同時に捕捉するため、同一のメンブレン上の異なる位置に各捕捉オリゴヌクレオチドプローブを結合しておくのが好ましい。
ラテックス標識オリゴヌクレオチドは、ガラス繊維布等の保持用部材に塗布、乾燥させメンブレンの一端に設置しておく。液状試料や展開液によって保持部中のラテックスがメンブレン上に溶解浸出し、捕捉オリゴヌクレオチド結合位置に達す。この際試料中に検出対象となる1本鎖核酸が存在した場合、捕捉用オリゴヌクレオチド結合位置上でこの1本鎖核酸を介し着色ラテックスが集積し、目視的判定が可能となる。
検出は多量の1本鎖核酸を含む増幅産物を用い、核酸クロマトグラフィーによる検出を行うのが好ましい。特にNASBAやTMAによって得られる核酸は1本鎖RNAであり、検出前に変性操作を行う必要がなくそのまま展開する事が可能である。検出装置としては核酸クロマトグラフィーに基づくアッセイ装置が好ましい。
図1は、本発明による検出装置の構成例の概略を示す模式図である。捕捉用オリゴヌクレオチドプローブが固相化されたメンブレン3の上流端側に、ラテックス結合オリゴヌクレオチドプローブを塗布、乾燥させたパッド5を設置する。該パッド上のメンブレンとは重なり合わない部分で展開パッド6を設置する。なお、「上流」とは、展開パッドが配置されるメンブレンの末端側を意味する。該メンブレンの下流端側には吸収パッド4を設置し、試験ストリップとする。NASBA法による増幅産物の場合は変性処理する事なく、直ちにストリップ上のサンプルウェルにアプライされ、クロマトグラフィーによる検出が行われる。増幅産物及び試薬は上流側から下流側へと毛細管現象により移動する。1は標的核酸検出部(捕捉用オリゴヌクレオチド結合部)、2は内部標準核酸検出部(捕捉用オリゴヌクレオチド結合部)である。
図2は、本発明により、標的核酸を定量検出した場合の判定例を示す模式図である。図2の7は標的核酸、8は内部標準核酸の検出パターンである。増幅産物中の(A)は標的核酸なし、(B)は標的核酸量が内部標準核酸量より少ない、(C)は標的核酸量と内部標準核酸量が同等レベルである、(D)標的核酸量は内部標準核酸量より多いと判定する。
本発明において主として検出あるいは定量対象物となるのは、感染性疾患に関与あるいは関与が予想される病原性微生物の遺伝子(例えば細菌、ウイルス、原虫等)、あるいはがん、治療薬剤等に関与あるいは関与が予想される遺伝子並びにこれら疾患により発現変化を伴う遺伝子(例えばがん遺伝子、がん抑制遺伝子、薬剤耐性遺伝子等)が測定(増幅あるいは検出)対象として挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
また、本発明の方法の遂行に有用な増幅プライマー、検出プローブ、着色高分子担体、多孔性メンブレン及び展開用吸水性基材を標的核酸の検出キットとして提供することができる。展開用吸水性基材ととは、ラテックス標識オリゴヌクレオチド塗布パッド、展開パッド(展開液成分導入する部分)及びメンブレンを挟んだ反対側に吸収パッド(その水性液体の吸収力により展開を促進させる部分)等が含まれ、吸水性に優れた材料が好ましく、例えばガラス繊維布やセルロース繊維等が挙げられる。
以下に実施例を挙げ、本発明の材料及び方法の仕様を例示し、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
難治性院内感染の主要な原因菌の1つであるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下MRSA)の培養菌株からExtragen(カイノス社製)により抽出したtotal RNAを鋳型としてNASBA増幅反応を行い、増幅終了後の産物を前処理する事なく直ちに核酸クロマトグラフィーによる検出を行った。
(1)ラテックス結合オリゴヌクレオチドプローブの作製
カルボキシル基含有ポリスチレンラテックス(固形分10%(w/w)、Bangs社製)とアミノ基含有オリゴヌクレオチドプローブ(配列番号5、合成にあたり3’末端にアミノ基を導入)を、水溶性カルボジイミドを必要量添加したMES(2-Morpholinoethanesulfonic acid、 monohydrate)(同仁化学研究所社製)緩衝液中で混合し、結合させた後、モノエタノールアミン(和光純薬工業社製)を添加しさらに反応させた。上記反応液を遠心分離後、上清除去を行い、得られた沈殿に水溶液添加、洗浄操作を繰り返した。洗浄後、界面活性剤を含むHEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)(埼京化成社製)緩衝液に再懸濁し、使用まで4℃で保存した。
(2)オリゴヌクレオチドの固定化
カルボキシル基修飾ナイロンメンブレン(ポール社製)を水溶性カルボジイミドにより処理し、脱イオン水で洗浄した。この活性化したメンブレンに検出対象となる1本鎖核酸に対し相補的配列を持つアミノ基含有オリゴヌクレオチドプローブ(配列番号4、合成にあたり5’末端にアミノ基を導入)を結合させ、15分間風乾した。その後、メンブレンをTrisベースの緩衝液で処理、残存する活性基の消去後、メンブレンを脱イオン水で洗浄し、風乾した。
(3)NASBA法によるMRSA
RNAの増幅
カイノス製NASBA凍結乾燥試薬を、各0.4μMのプライマ−P1(配列番号1)、P2(配列番号2)、P3(配列番号3)を含むプライマー溶解液100μLで溶解し、0.5mLエッペンドルフチューブに5μLずつ分注した。水あるいは培養菌株103CFU相当由来のtotal RNAを各2.5μL加え、65℃、5分加熱、次いで41℃、5分間保温した。2.5μLの酵素液を加え、軽くタッピングした後41℃で60分反応させた。
(4)核酸クロマトグラフィーによる検出
検出用核酸クロマトグラフィー装置として、図1に示すような下記構成部品からなるストリップを作製した。
捕捉用オリゴヌクレオチドプローブが固相化されたメンブレンの上流端側に、ラテックス結合オリゴヌクレオチドプローブを塗布、乾燥させたパッド(ミリポア社製)を設置した。該パッド上のメンブレンとは重なり合わない部分で展開パッド(ミリポア社製)を設置した。さらに、該メンブレンの下流端側に吸収パッド(ミリポア社製)を設置し、試験ストリップとした。上記NASBA産物を変性処理する事なく、直ちにストリップ上のサンプルウェルにアプライし、クロマトグラフィーによる検出を行った。増幅産物及び試薬は上流側から下流側へと毛細管現象により移動する。検体として水を用いた場合、ラインの検出は認められなかった。一方、培養菌株由来のtotal RNAの増幅産物では、標的核酸特異的な着色ラインが検出された。増幅終了後直ちに変性操作を加える事なく核酸クロマトグラフィー解析する事で、僅か5から15分という短時間で目的とする核酸を特異的に検出し得た。
図3−(A)は、本発明の核酸クロマトグラフィーによるMRSA検出結果である。図3の9は、MRSAの培養菌株から抽出したtotal RNAを鋳型とし、NASBA増幅により得られた標的核酸の着色ラインである。
実施例2
水系感染症をもたらす原虫Cryptosporidium parvum(以下C. parvum)から磁性シリカにより抽出したtotal RNAを鋳型とし、NASBA増幅反応の際に内部標準核酸となる合成RNAを加えて競合増幅し、増幅終了後の産物を前処理する事なく直ちに核酸クロマトグラフィーによる検出を行った。
(1)ラテックス結合オリゴヌクレオチドプローブの作製
カルボキシル基含有ポリスチレンラテックス(固形分4%(w/w)、Duke社製)を用い、実施例1同様に処理した。標的核酸相補的配列を持つ3’末端アミノ基含有オリゴヌクレオチドプローブは、配列番号9である。
(2)オリゴヌクレオチドの固定化
標的核酸並びに内部標準核酸に相補的配列を持つ5’末端アミノ基含有オリゴヌクレオチドプローブ(配列番号8、10)を用い、実施例1同様に処理した。
(3)Competitive
NASBA法を用いたC. parvum RNAの増幅
カイノス製NASBA凍結乾燥試薬を、各0.4μMのプライマーP4(配列番号6)、P5(配列番号7)を含むプライマー溶解液100μLで溶解し、0.5mLエッペンドルフチューブに5μLずつ分注した。全てのチューブに100分子相当の内部標準RNAを1.25μL加えた後、水あるいは10オーシスト相当由来のtotal RNAを各1.25μL加え、65℃、5分加熱、次いで41℃、5分間保温した。2.5μLの酵素液を加え、軽くタッピングした後41℃で30分反応させた。
(4)核酸クロマトグラフィーによる検出
上記NASBA産物を変性処理する事なく、直ちにストリップ上のサンプルウェルにアプライし、クロマトグラフィーによる検出を行った。検体として水を用いた場合、内部標準核酸検出用のラインのみが青色検出された。一方、10オーシスト由来total RNAの増幅産物では、内部標準核酸の検出ラインのみならず標的核酸特異的な2本目の着色ラインが検出された。増幅終了後直ちに変性操作を加える事なく核酸クロマトグラフィー解析する事で、僅か5から15分という短時間で目的とする核酸を特異的に検出し得た。また、共増幅された内部標準核酸の検出を確認する事で、増幅及び検出反応に異常がなく正しい判定が可能となった。
図3−(B)は、本発明の核酸クロマトグラフィーによるC. parvum検出結果である。図3の10は、C. parvumの10オーシスト相当から抽出したtotal RNAを鋳型とし、NASBA増幅により得られた標的核酸の着色ラインである。図3の11は、標的核酸と競合的に増幅する内部標準核酸100分子のNASBA増幅産物の着色ラインである。
実施例3
薬剤耐性因子の1つであるMultidrug resistance gene 1(以下MDR1)の健常人末梢血有核細胞からAGPC法により抽出したtotal RNAを鋳型とし、NASBA増幅反応の際に内部標準核酸となる合成RNAを加えて競合増幅し、増幅終了後の産物を前処理する事なく直ちに核酸クロマトグラフィーによる検出を行った。
(1)ラテックス結合オリゴヌクレオチドプローブの作製
カルボキシル基含有ポリスチレンラテックス(固形分4%(w/w)、Duke社製)を用い、 実施例1同様に処理した。標的核酸相補的配列を持つ3’末端アミノ基含有オリゴヌクレオチドプローブは、配列番号14である。
(2)オリゴヌクレオチドの固定化
標的核酸並びに内部標準核酸に相補的配列を持つ5’末端アミノ基含有オリゴヌクレオチドプローブ(配列番号10、13)を用い、実施例1同様に処理した。
(3)Competitive
NASBA法を用いたMDR1 RNAの増幅
カイノス製NASBA凍結乾燥試薬を、各0.4μMのプライマーP6(配列番号11)、P7(配列番号12)を含むプライマー溶解液100μLで溶解し、0.5mLエッペンドルフチューブに5μLずつ分注した。全てのチューブに10000分子相当の内部標準RNAを1.25μL加えた後、水あるいは健常人末梢血有核細胞由来のtotal RNA 0.1μg相当のRNAを各1.25μL加え、65℃、5分加熱、次いで41℃、5分間保温した。2.5μLの酵素液を加え、軽くタッピングした後41℃で30分反応させた。
(4)核酸クロマトグラフィーによる検出
上記NASBA産物を変性処理する事なく、直ちにストリップ上のサンプルウェルにアプライし、クロマトグラフィーによる検出を行った。実施例2同様の標的及び内部標準RNA各々に特異的な着色ラインが示された。
本発明の核酸の検出あるいは定量方法は、サンドイッチハイブリダイゼーション法による試料中の標的核酸の検出をクロマトグラフィーにて行う事、さらに同時に2種以上の核酸を共検出する事、これにより、増幅及び検出反応の正否を1試験で判定でき且つ定量できる事を大きな特徴としている。従って本発明によれば、サンドイッチハイブリダイゼーション法の煩雑且つ長時間を要する操作を行う事なく、本発明において使用する多孔性メンブレン上に標的核酸から増幅された1本鎖核酸を含む試料や試薬等を展開するだけで、簡易、迅速且つ特異的に試料中の標的核酸の存在を検出あるいは定量する事ができる。また、対照となる共増幅され得る内部標準核酸の発色量との対比を基に標的核酸量を目視判定する事ができる。
また、増幅プライマー、検出プローブ、着色高分子担体、多孔性メンブレン及び展開用吸水性基材をキットとして提供することにより、高度な技術を要することなく簡単に核酸の検出・定量が可能となる。
本発明による検出装置の構成例の概略を示す模式図である。 本発明により、標的核酸を定量検出した場合の判定例を示す模式図である。 本発明の検出装置を用い、実施例の核酸クロマトグラフィーによる核酸増幅産物の特異的検出を示した図である。検体として(A)MRSAの検出:培養菌株由来のtotal RNAを増幅、検出、(B)C. parvumの検出:10オーシスト由来のtotal RNA及び内部標準核酸100分子の合成RNAを増幅、検出したものである。
符号の説明
1 標的核酸検出部(捕捉用オリゴヌクレオチド結合部)
2 内部標準核酸検出部(捕捉用オリゴヌクレオチド結合部)
3 メンブレン
4 吸収パッド
5 ラテックス結合オリゴヌクレオチドプローブ塗布パッド
6 展開パッド

Claims (9)

  1. 試料中の標的となる核酸を特異的に検出又は定量するための方法であって、試料中より任意に抽出された標的核酸から1本鎖核酸として増幅する工程、該増幅産物をクロマトグラフィーにより検出する工程及び該検出像を目視判定により評価する工程を含む核酸の検出又は定量方法。
  2. 増幅工程は標的核酸及び標的核酸と競合的若しくは非競合的に共増幅され得る内部標準核酸の増幅を伴うものである請求項1の方法。
  3. 増幅はNASBA又はTMAにより行う請求項1又は2の方法。
  4. 検出は、メンブレンに結合した増幅産物と相補的な第1のオリゴヌクレオチドプローブ及び着色高分子担体で標識した相補的な第2のオリゴヌクレオチドプローブを用いて行うことを特徴とする請求項1、2又は3の方法。
  5. 核酸クロマトグラフィーに基づくアッセイ装置を用いる請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
  6. 試料及び着色高分子担体標識オリゴヌクレオチドプローブの展開正否のみならず、核酸増幅反応の正否あるいは核酸抽出操作の偽陰性を判定するため、内部標準核酸として競合的あるいは非競合的に増幅される1本鎖核酸を共検出する請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 標的核酸と競合的あるいは非競合的に増幅した既知量の内部標準核酸由来の増幅産物との発色量の対比から、試料中の標的核酸量を目視で判定する事を特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の核酸の定量方法。
  8. 複数の着色高分子担体及び捕捉用ポリヌクレオチドを組み合わせることで、試料中に存在する2種以上の異なる標的核酸を同時に検出あるいは定量する請求項1〜7のいずれか1項記載の核酸の検出又は定量方法。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項の方法の遂行に有用な増幅プライマー、検出プローブ、着色高分子担体、多孔性メンブレン及び展開用吸水性基材を含んでなる標的核酸の検出キット。
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