JP2006183091A - 溶射用粉末 - Google Patents

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Abstract

【課題】 良好な耐摩耗性を有する炭化クロム及びニッケル基合金を含む溶射皮膜を良好に形成可能な溶射用粉末を提供する。
【解決手段】 本発明の溶射用粉末は、炭化クロム及びニッケル基合金のサーメット粒子を含有する。サーメット粒子の圧壊強度は150〜250MPaである。溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率は1.0%未満であり、溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径38μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率は7.0%以下である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、炭化クロム及びニッケル基合金のサーメット粒子を含有する溶射用粉末に関する。
ガスタービンやボイラーチューブなどの高温酸化雰囲気で使用される部材の耐久性を向上させる目的で、炭化クロム及びニッケル基合金を含む溶射皮膜が用いられている。この溶射皮膜は、例えば、炭化クロム及びニッケル基合金のサーメット粒子を含有する溶射用粉末をHVOF(high velocity oxy-fuel)溶射及びHVAF(high velocity air fuel)溶射などの高速フレーム溶射により溶射して形成される(例えば特許文献1参照)。
酸素を支燃ガスとして使用することにより比較的高温のフレームを発生するHVOF溶射が酸素製造装置や大掛かりな冷却装置を必要とするのに対し、空気を支燃ガスとして使用するHVAF溶射は、基本的に空冷機構を有しており、それらを必要としない。そのため、HVAF溶射は現地施工に向いており、前述のガスタービンやボイラーチューブのような移動させることが難しい対象物に対して溶射皮膜を形成する場合に有用である。
しかしながら、HVAF溶射により形成される溶射皮膜は、HVOF溶射により形成される溶射皮膜に比べて耐摩耗性に劣ることが多い。これは、HVAF溶射のフレームがHVOF溶射のフレームに比べて低温であるため、HVAF溶射の場合には溶射用粉末の溶融が不十分になりやすく、溶射皮膜中の粒子間結合力が低くなることが主な理由である。溶射皮膜の耐摩耗性を向上させるための手段として溶射用粉末が溶融しやすくなるように溶射用粉末の粒度を細かくすることは、炭化タングステンとコバルトのサーメットの場合にはある程度有効である。しかしながら、炭化クロムとニッケル基合金のサーメットの場合、単純に粒度を細かくしただけではスピッティングの発生により溶射皮膜の形成自体を良好に行うことが難しくなる。
特開2002−194525号公報
本発明の目的は、良好な耐摩耗性を有する炭化クロム及びニッケル基合金を含む溶射皮膜を良好に形成可能な溶射用粉末を提供することにある。
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、炭化クロム及びニッケル基合金のサーメット粒子を含有する溶射用粉末であって、サーメット粒子の圧壊強度が150〜250MPaであり、溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率が1.0%未満であり、溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径38μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率が7.0%以下である溶射用粉末を提供する。
請求項2に記載の発明は、溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径15μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率が1.0〜10.0%であり、溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径32μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率が15.0〜25.0%である請求項1に記載の溶射用粉末を提供する。
請求項3に記載の発明は、嵩比重が1.8〜2.5である請求項1又は2に記載の溶射用粉末を提供する。
請求項4に記載の発明は、造粒−焼結法又は焼結−粉砕法により炭化クロム粉末及びニッケル基合金粉末から前記サーメット粒子が作製される請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶射用粉末を提供する。
請求項5に記載の発明は、HVAF溶射により溶射皮膜を形成する用途において用いられる請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶射用粉末を提供する。
本発明によれば、良好な耐摩耗性を有する炭化クロム及びニッケル基合金を含む溶射皮膜を良好に形成可能な溶射用粉末が提供される。
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態に係る溶射用粉末は、炭化クロム粉末とニッケル基合金粉末の混合物を造粒及び焼結して得られる炭化クロム及びニッケル基合金のサーメット粒子から実質的になり、例えばHVAF溶射により溶射皮膜を形成する用途において用いられる。
溶射用粉末中のサーメット粒子の圧壊強度が150MPaよりも小さい場合には、溶射用粉末の溶射時にスピッティングと呼ばれる現象が頻繁に発生して実用上支障がある。スピッティングは、過溶融した溶射用粉末が溶射機のノズルの内壁に付着堆積してできる堆積物が溶射皮膜に混入する現象をいう。スピッティングが発生すると、溶射皮膜の組織構造が不均一となるため、溶射皮膜の品質が著しく低下する。サーメット粒子の圧壊強度が150MPaよりも小さい場合のスピッティングの発生は、溶射用粉末供給装置から溶射装置へ溶射用粉末が搬送されるときの衝撃や溶射フレームへ溶射用粉末が投入されるときの衝撃により溶射用粉末中のサーメット粒子が崩壊し、その結果生じる微粒子が過溶融することに起因する。従って、サーメット粒子の圧壊強度は150MPa以上であることが必須である。ただし、サーメット粒子の圧壊強度がたとえ150MPa以上であっても180MPaよりも小さい場合には、溶射時のスピッティングの発生があまり抑制されない虞がある。従って、サーメット粒子の圧壊強度は、好ましくは180MPa以上である。一方、溶射用粉末中のサーメット粒子の圧壊強度が250MPaよりも大きい場合には、溶射の際に溶射用粉末中のサーメット粒子が十分に軟化又は溶融されないために溶射用粉末の付着効率が極度に低下して実用上支障がある。また、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の耐摩耗性も良好ではない。従って、サーメット粒子の圧壊強度は250MPa以下であることが必須である。ただし、サーメット粒子の圧壊強度がたとえ250MPa以下であっても220MPaよりも大きい場合には、溶射用粉末の付着効率や溶射皮膜の耐摩耗性があまり改善されない虞がある。従って、サーメット粒子の圧壊強度は、好ましくは220MPa以下である。
溶射用粉末中の炭化クロムの含有量が85質量%よりも多い場合、さらに言えば80質量%よりも多い場合には、溶射用粉末の付着効率がやや低下したり、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の靭性があまり高くない虞がある。換言すれば、溶射用粉末中のニッケル基合金の含有量が15質量%よりも少ない場合、さらに言えば20質量%よりも少ない場合には、溶射用粉末の付着効率がやや低下したり、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の靭性があまり高くない虞がある。従って、溶射用粉末中の炭化クロムの含有量は、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下であり、溶射用粉末中のニッケル基合金の含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。一方、溶射用粉末中の炭化クロムの含有量が65質量%よりも少ない場合、さらに言えば70質量%よりも少ない場合には、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の耐摩耗性があまり高くない虞がある。換言すれば、溶射用粉末中のニッケル基合金の含有量が35質量%よりも多い場合、さらに言えば30質量%よりも多い場合には、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の耐摩耗性があまり高くない虞がある。従って、溶射用粉末中の炭化クロムの含有量は、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、溶射用粉末中のニッケル基合金の含有量は、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
溶射用粉末中の炭化クロムは、Cr32、Cr73及びCr236のいずれであってもよい。ただし、炭化クロムは大気中で高温にさらされた場合に酸化及び/又は脱炭し、クロム酸化物が生成したり、Cr32からCr73へ又はCr73からCr236への変化が起きたり、クロムリッチな準安定相への結晶相の変化が起きたりすると言われている。溶射用粉末の製造過程で行なわれる焼結の際、あるいは溶射の際に高温にさらされることにより、溶射用粉末中の炭化クロムからクロム酸化物やクロムリッチな準安定相物質が生成すると、溶射皮膜の特性が低下する虞がある。Cr32はCr73及びCr236に比べて、またCr73はCr236に比べて、溶射皮膜の特性低下に至るまでの変化に時間がかかる。従って、溶射用粉末中の炭化クロムは、好ましくはCr32及びCr73であり、より好ましくはCr32である。
溶射用粉末中のニッケル基合金は特に限定されないが、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の耐摩耗性向上のためにはニッケルクロム合金であることが好ましい。
サーメット粒子中に含まれる炭化クロム粒子の平均粒子径が0.5μmよりも小さい場合、さらに言えば1μmよりも小さい場合には、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の耐摩耗性又は靭性があまり高くない虞がある。従って、炭化クロム粒子の平均粒子径は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。一方、サーメット粒子中に含まれる炭化クロム粒子の平均粒子径が7μmよりも大きい場合、さらに言えば5μmよりも大きい場合には、サーメット粒子の形状が球形からやや離れる虞があり、その結果、溶射用粉末の流動性がやや低下する虞がある。また、溶射用粉末の組成均一性又は付着効率(溶射歩留まり)があまり良好でない虞もある。従って、炭化クロム粒子の平均粒子径は、好ましくは7μm以下、より好ましくは5μm以下である。
サーメット粒子中に含まれるニッケル基合金粒子の平均粒子径が7μmよりも大きい場合、さらに言えば5μmよりも大きい場合には、サーメット粒子の形状が球形からやや離れる虞があり、その結果、溶射用粉末の流動性がやや低下する虞がある。また、溶射用粉末の組成均一性又は圧壊強度があまり良好でない虞もある。従って、ニッケル基合金粒子の平均粒子径は、好ましくは7μm以下、より好ましくは5μm以下である。
溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率が1.0%以上である場合には、過溶融されやすいサーメット微粒子が溶射用粉末に多く含まれるために溶射用粉末の溶射時にスピッティングが頻繁に発生して実用上支障がある。従って、粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率は1.0%未満であることが必須である。また、スピッティングの発生をより確実に防止するためには、粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率は、好ましくは0.7%未満、より好ましくは0.5%未満である。
溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径38μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率が7.0%よりも大きい場合には、粒子径が38μm以上の溶融されにくいサーメット粒子が溶射用粉末に多く含まれるために溶射用粉末の付着効率が極度に低下して実用上支障がある。従って、粒子径38μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率は7.0%以下であることが必須である。また、付着効率の低下をより確実に防止するためには、粒子径38μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率は、好ましくは5.0%以下である。
溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径15μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率が1.0%よりも少ない場合には、粒子径が15μmよりも大きいやや溶融されにくいサーメット粒子が溶射用粉末に多く含まれるために溶射用粉末の付着効率があまり改善されない虞がある。また、溶射用粉末の溶融が不十分になりやすく、溶射皮膜中の粒子間結合力が低下するため、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の耐摩耗性がやや劣る虞もある。従って、粒子径15μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率は好ましくは1.0%以上である。一方、粒子径15μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率が10.0%よりも大きい場合には、粒子径が15μm以下のやや過溶融されやすいサーメット粒子が溶射用粉末に多く含まれるために溶射時のスピッティングの発生があまり抑制されない虞がある。従って、粒子径15μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率は好ましくは10.0%以下である。
溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径32μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率が15.0%よりも少ない場合には、皮膜形成時の飛行粒子の衝突力及びピーニングによる硬化が小さくなるため、溶射皮膜の耐摩耗性があまり良好でない虞がある。従って、粒子径32μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率は好ましくは15.0%以上である。一方、粒子径32μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率が25.0%よりも大きい場合には、粒子径が32μm以上のやや溶融されにくいサーメット粒子が溶射用粉末に多く含まれるために溶射用粉末の付着効率があまり改善されない虞がある。従って、粒子径32μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率は好ましくは25.0%以下である。
溶射用粉末の嵩比重が1.8よりも小さい場合には、サーメット粒子がやや過溶融されやすくなるために溶射時のスピッティングの発生があまり抑制されない虞がある。従って、溶射用粉末の嵩比重は好ましくは1.8以上である。一方、溶射用粉末の嵩比重が2.5よりも大きい場合には、サーメット粒子がやや溶融されにくくなるために溶射用粉末の付着効率があまり改善されない虞がある。従って、溶射用粉末の嵩比重は好ましくは2.5以下である。
次に、本実施形態に係る溶射用粉末の製造方法について説明する。本実施形態に係る溶射用粉末は、炭化クロム粉末及びニッケル基合金粉末から造粒−焼結法により製造される。まず、炭化クロム粉末とニッケル基合金粉末を分散媒に混合することによりスラリーが調製される。スラリーには適当な有機または無機バインダを添加してもよい。次に、噴霧型造粒機を用いてスラリーから造粒粉末を作製する。こうして得られた造粒粉末を焼結し、さらに解砕及び分級することにより、炭化クロム及びニッケル基合金のサーメット粒子から実質的になる溶射用粉末は製造される。このとき、溶射用粉末の製造プロセスにおける焼結温度及び焼結時間によって、得られる溶射用粉末中のサーメット粒子の圧壊強度を調整可能である。なお、造粒粉末の焼結は、真空中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよく、電気炉及びガス炉のいずれを用いて行ってもよい。
本実施形態は、以下の利点を有する。
・ 溶射用粉末中のサーメット粒子の圧壊強度が150MPa以上に設定され、さらに溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率が1.0%未満に設定されているため、溶射時のスピッティングの発生が良好に抑制される。加えて、溶射用粉末中のサーメット粒子の圧壊強度が250MPa以下に設定され、さらに溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径38μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率が7.0%以下に設定されているため、溶射用粉末の付着効率及び溶射皮膜の耐摩耗性が良好に改善される。ゆえに、本実施形態に係る溶射用粉末によれば、良好な耐摩耗性を有する炭化クロム及びニッケル基合金を含む溶射皮膜を良好に形成可能である。
・ 造粒−焼結法により製造される溶射用粉末は一般に、溶融−粉砕法又は焼結−粉砕法により製造される溶射用粉末に比べて、流動性が良好であり、製造過程での粉砕にともなった不純物の混入の虞も少ない。従って、造粒−焼結法により製造される本実施形態に係る溶射用粉末もこれらの利点を有する。
・ HVAF溶射は一般に、HVOF溶射に比べて、単位時間当たりに溶射できる溶射用粉末の量(粉末処理量)が多く、現地施工にも向いているなどの利点を有する。従って、本実施形態に係る溶射用粉末をHVAF溶射により溶射した場合にはこれらの利点が得られる。
前記実施形態は以下のように変更されてもよい。
・ 造粒−焼結法により溶射用粉末を製造する場合、造粒粉末は、噴霧型造粒機の代わりに転動型造粒機又は圧縮造粒機を使用した別の方法で作製されてもよい。この場合、原料の炭化クロム粉末及びニッケル基合金粉末は、スラリーに調製されることなく直接造粒されてもよい。
・ 溶射用粉末中の炭化クロム及びニッケル基合金のサーメット粒子は、炭化クロム粉末とニッケル基合金粉末の混合物を造粒及び焼結して作製される代わりに、炭化クロム粉末とニッケル基合金粉末の混合物を焼結及び粉砕して作製されてもよい。すなわち、造粒−焼結法の代わりに、焼結−粉砕法により作製されてもよい。あるいは、炭化クロム粉末とニッケル基合金粉末の混合物を造粒して作製されてもよいし、炭化クロム粒子をニッケル基合金層で被覆して作製されてもよいし、ニッケル基合金粒子を炭化クロム層で被覆して作製されてもよい。ただし、溶射用粉末から形成される溶射皮膜の耐摩耗性向上のためには造粒−焼結法又は焼結−粉砕法により作製されることが好ましく、さらに溶射用粉末の流動性向上及び溶射用粉末中の不純物低減のためには造粒−焼結法により作製されることがより好ましい。
・ 溶射用粉末は、炭化クロム及びニッケル基合金のサーメット粒子以外の成分を含有してもよい。ただし、溶射用粉末中の炭化クロム及びニッケル基合金のサーメット粒子の含有量はできるだけ100%に近いことが好ましい。
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。
実施例1〜9,11〜21及び比較例1〜4においては、炭化クロム(Cr32)粉末とニッケルクロム合金(Ni−20%Cr)粉末の混合物を造粒及び焼結して溶射用粉末を作製した。実施例10においては、炭化クロム(Cr32)粉末とニッケルクロム合金(Ni−20%Cr)粉末の混合物を焼結及び粉砕して溶射用粉末を作製した。ただし、実施例1〜12,15〜21及び比較例1〜4の混合物が75質量%の炭化クロム粉末と25質量%のニッケルクロム合金粉末からなるのに対し、実施例13の混合物は70質量%の炭化クロム粉末と30質量%のニッケルクロム合金粉末からなり、実施例14の混合物は80質量%の炭化クロム粉末と20質量%のニッケルクロム合金粉末からなる。実施例1〜21及び比較例1〜4に係る各溶射用粉末の詳細は表1に示すとおりである。
表1の“圧壊強度”欄には、式:σ=2.8×L/π/d2に従って算出される各溶射用粉末中のサーメット粒子の圧壊強度σ[MPa]を示す。式中、Lは臨界荷重[N]を表し、dはサーメット粒子の平均粒子径[mm]を表す。臨界荷重は、圧子によりサーメット粒子に一定速度で増加する圧縮荷重を加えたときに、圧子の変位量が急激に増加する時点においてサーメット粒子に加えられていた圧縮荷重の大きさである。この臨界荷重の測定は、(株)島津製作所社製の微小圧縮試験装置“MCTE−500”を用いて行った。
表1の“粒子径10μm以下の粒子の比率”欄には、各溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率を示す。この比率は、(株)堀場製作所製のレーザー回析/散乱式粒度測定機“LA−300”を用いて測定した。
表1の“粒子径38μm以上の粒子の比率”欄には、各溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径38μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率を示す。この比率は、(株)テラオカ製のロータップ型篩振盪機(JIS Z8801参照)を用いて測定した。
表1の“粒子径15μm以下の粒子の比率”欄には、各溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径15μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率を示す。この比率は、(株)堀場製作所製のレーザー回析/散乱式粒度測定機“LA−300”を用いて測定した。
表1の“粒子径32μm以上の粒子の比率”欄には、各溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径32μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率を示す。この比率は、(株)テラオカ製のロータップ型篩振盪機を用いて測定した。
表1の“嵩比重”欄には、嵩比重測定機(JIS Z2504参照)を用いて測定した各溶射用粉末の嵩比重を示す。
実施例1〜20及び比較例1〜4に係る各溶射用粉末を表2に示す溶射条件に従ってHVAF溶射したときのスピッティングの発生の有無に基づいて、優(◎)、良(○)、不良(×)の三段階で各溶射用粉末を評価した。具体的には、溶射開始から10分後の時点において溶射機のノズルに溶融した溶射用粉末の付着が認められた場合には不良、溶射開始から10分後の時点では付着が認められなかったが20分後の時点では付着が認められた場合には良、溶射開始から20分後の時点においても付着が認められなかった場合には優と評価した。この評価の結果を表1の“スピッティング”欄に示す。
実施例1〜20及び比較例1〜4に係る各溶射用粉末を表2に示す溶射条件に従ってHVAF溶射して形成した溶射皮膜の重量を測定した。そして、溶射に使用した溶射用粉末の重量に対する溶射皮膜の重量の比率、すなわち付着効率に基づいて、優(◎)、良(○)、不良(×)の三段階で各溶射用粉末を評価した。具体的には、付着効率が40%以上の場合には優、30%以上40%未満の場合には良、30%未満の場合には不良と評価した。この評価の結果を表1の“付着効率”欄に示す。
実施例1〜20及び比較例1〜4に係る各溶射用粉末を表2に示す溶射条件に従ってHVAF溶射して形成した溶射皮膜をJIS H8682-1に準拠した乾式摩耗試験に供した。具体的には、スガ式摩耗試験機を用いて米国CAMI(coated Abrasives Manufacturers Institute)規格においてCP180と呼ばれる研磨紙により荷重約31N(3.15kgf)で溶射皮膜の表面を所定回数摩擦した。この摩耗試験による各溶射皮膜の摩耗体積量に基づいて、優(◎)、良(○)、不良(×)の三段階で各溶射用粉末を評価した。具体的には、基準試料(SS400鋼板)を同じ摩耗試験に供したときの基準試料の摩耗体積量に対する溶射皮膜の摩耗体積量の比率が35%未満の場合には優、35%以上50%未満の場合には良、50%以上の場合には不良と評価した。この評価の結果を表1の“耐摩耗性”欄に示す。
Figure 2006183091
Figure 2006183091
表1に示すように、実施例1〜20においては、スピッティング、付着効率及び耐摩耗性に関する評価がいずれも優又は良であった。この結果から、実施例1〜20に係る溶射用粉末によれば良好な耐摩耗性を有する炭化クロム及びニッケル基合金を含む溶射皮膜を良好に形成可能であることが分かる。
前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 溶射用粉末中の炭化クロムがCr32である請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
・ 溶射用粉末中のニッケル基合金がニッケルクロム合金である請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
・ 溶射用粉末中の炭化クロムの含有量が65〜85質量%であり、ニッケル基合金の含有量が15〜35質量%である請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
・ 前記サーメット粒子は炭化クロム粒子を含み、該炭化クロム粒子の平均粒子径が0.5〜7μmである請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
・ 前記サーメット粒子はニッケル基合金粒子を含み、該ニッケル基合金粒子の平均粒子径が7μm以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
・ 請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶射用粉末をHVAF溶射する溶射方法。
・ 請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶射用粉末をHVAF溶射して形成される溶射皮膜。

Claims (5)

  1. 炭化クロム及びニッケル基合金のサーメット粒子を含有する溶射用粉末であって、サーメット粒子の圧壊強度は150〜250MPaであり、溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径10μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率は1.0%未満であり、溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径38μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率は7.0%以下であることを特徴とする溶射用粉末。
  2. 溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算体積に対する粒子径15μm以下のサーメット粒子の積算体積の比率は1.0〜10.0%であり、溶射用粉末中の全サーメット粒子の積算重量に対する粒子径32μm以上のサーメット粒子の積算重量の比率は15.0〜25.0%であることを特徴とする請求項1に記載の溶射用粉末。
  3. 嵩比重が1.8〜2.5であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶射用粉末。
  4. 造粒−焼結法又は焼結−粉砕法により炭化クロム粉末及びニッケル基合金粉末から前記サーメット粒子が作製されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
  5. HVAF溶射により溶射皮膜を形成する用途において用いられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
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