JP2006182936A - 水系コーティング剤組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】均一塗布性、非粘着性、撥水性および滑り性が良好で、特にゴム、プラスチック基材に対する接着性に優れた水系コーティング剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明の水系コーティング剤組成物は、(A)25℃における粘度が50〜10,000,000mPa・sの両末端が水酸基で閉塞されたポリジオルガノシロキサンと、(B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、(C)硬化触媒と、(D)塩素化ポリオレフィンおよび/またはアクリル変性ポリオレフィンと、(E)シリコーンエラストマーを主成分とし、硬化触媒に由来する金属元素を実質的に含まない球状シリコーンエラストマー微粒子をそれぞれ含有する。
【選択図】なし

Description

本発明は、水系コーティング剤組成物に係わり、特に、保存安定性が良好で可使時間が長く、ゴム、プラスチックなどの基材の表面を処理することにより、非粘着性、撥水性、滑り性などが良好で、基材との密着性(接着性)および耐摩耗性に優れた被膜を形成することができる水系コーティング剤組成物に関する。
従来から、自動車用ウェザーストリップとして使用されているエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)ゴムや各種ゴム製品には、その表面に非粘着性、撥水性、耐摩耗性、滑り性などを付与するため、各種のポリオルガノシロキサン組成物からなるコーティング剤を塗布することが行われている。
このようなコーティング剤としては、例えば、末端に水酸基を持つポリジオルガノシロキサンに、ケイ素原子に結合した水素原子を有するポリオルガノシロキサンおよび/またはオルガノアルコキシシランと硬化触媒とを加えた組成物などが知られている。
しかしこれらのコーティング剤組成物は、通常有機溶剤を含む溶液であるため、安全・衛生上の問題や引火性に起因する取扱い上の問題があるばかりでなく、自然環境に与える影響が大きいという問題があった。そのため、有機溶剤を使用しない水系エマルジョンタイプのコーティング剤の開発が求められていた。
しかしながら、有機溶剤希釈型のコーティング剤をそのまま水系に適用した場合、被膜の耐久性、密着性(接着性)などが十分に得られなかった。また、シラン成分が水と反応し、水系化が困難である、あるいは接着性の良好な被膜が得られないなどの問題があった。
一方、エマルジョンタイプのシリコーン系コーティング剤として、各種のシロキサン化合物を組み合わせて配合した組成物が提案されている。(例えば、特許文献1参照)
また、密着性や耐摩耗性を改善するために、脱アルコール縮合タイプのシリコーン系水性エマルジョンに、無水マレイン酸基を有する塩素化ポリオレフィンを配合したコーティング剤(例えば、特許文献2参照)や、脱水素縮合タイプのシリコーンエマルジョンに、特定の密着性向上成分(アミノシラン化合物、エポキシシラン化合物、カルボン酸など)を配合したコーティング剤(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
さらに、架橋剤成分としてオルガノトリアルコキシシランを有し、密着性向上成分としてアミド基およびカルボキシル基含有オルガノトリアルコキシシラン、エポキシ基含有トリアルコキシシランをそれぞれ有する脱アルコール縮合タイプのコーティング剤が提案されている。(例えば、特許文献4参照)
また近年、これらのコーティング剤に、滑り性向上成分として球状シリコーンエラストマー微粒子を配合することも提案されている。そして、球状シリコーンエラストマー微粒子として、分子中にビニル基を含有するポリオルガノシロキサンとポリオルガノハイドロジェンロキサンを界面活性剤により水中に乳化し、触媒として白金化合物を加えてヒドロシリル化反応を生起させて架橋・硬化したものが考えられている。(例えば、特許文献5参照)
しかしながら、特許文献1に記載されたエマルジョンタイプのコーティング剤においては、被膜の密着性や耐摩耗性が十分でなく、またソリッド系およびそれに近いゴム材料に対して、接着性や被膜強度が十分に発現しないという問題があった。さらに、エマルジョンの保存安定性や各成分配合後の可使時間が十分ではないという問題があった。
また、特許文献2に記載されたコーティング剤においては、主成分のシリコーンが脱アルコール縮合タイプであり、被膜の密着性や耐摩耗性が十分ではなかった。
また、特許文献3に記載されたコーティング剤においても、均一塗布性、非粘着性、撥水性、滑り性、基材との密着性などに対する効果が必ずしも十分でなく、さらなる改善が求められていた。
さらに、特許文献4に記載されたコーティング剤においては、被膜の密着性や耐摩耗性が十分ではなく、さらには触媒存在下で加水分解性を有するシランを配合させるために、配合方法や配合後の可使時間に問題があった。
またさらに、特許文献5に記載された球状シリコーンエラストマー微粒子を配合したコーティング剤においては、保存安定性が悪く、短時間でハードケーキを形成するため可使時間が短く、しかも被膜の耐摩耗性も悪いという問題があった。
特開平8−245882号公報 特開2001−207106公報 特開2002−188057公報 特開2003−155411公報 特開平3−93834号公報
本発明は、これらの問題を解決するためになされたもので、基材表面の処理剤として、特にEPDMなどのゴムシートおよびモールド成形体基材への水系コーティング剤として、保存安定性、均一塗布性、非粘着性、撥水性、可使時間および滑り性に優れ、基材に対する密着性、耐摩耗性が改善されたコーティング剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のシリコーンポリマー、塩素化ポリオレフィンなどのエマルジョンと、金属系の硬化触媒を含まない球状シリコーンエラストマー微粒子をそれぞれ配合することにより、優れた特性を有する水系のコーティング剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の水系コーティング剤組成物は、(A)25℃における粘度が50〜10,000,000mPa・sの両末端が水酸基で閉塞されたポリジオルガノシロキサンと、(B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、(C)硬化触媒と、(D)塩素化ポリオレフィンおよび/またはアクリル変性ポリオレフィンと、(E)シリコーンエラストマーを主成分とし、硬化触媒に由来する金属元素を実質的に含まない球状シリコーンエラストマー微粒子をそれぞれ含有することを特徴とする。
なお、本発明において、「球状」の用語は、真球状の他、その類似形状、例えばたまご形状や球状の一部が欠損した形状も包含して使用するものとする。
本発明の水系コーティング剤組成物は、滑り性向上成分として、白金やスズのような硬化触媒に由来する金属元素を実質的に含まない球状シリコーンエラストマー微粒子を含有しているので、組成物自体の保存安定性が良好で可使時間が長いうえに、ゴム、プラスチックから成る基材、特に発泡または非発泡のEPDMゴムから成る基材に対して、極めて接着性に優れかつ良好な滑り性、非粘着性、撥水性などを有する硬化被膜を形成することができる。また、この硬化被膜は、摩擦係数が低く耐摩耗性に優れている。
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態の水系コーティング剤組成物は、(A)25℃における粘度が50〜10,000,000mPa・sの両末端が水酸基で閉塞(あるいは封鎖)されたポリジオルガノシロキサンと、(B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、(C)硬化触媒と、(D)塩素化ポリオレフィンおよび/またはアクリル変性ポリオレフィン、および(E)シリコーンエラストマーを主成分とし、硬化触媒に由来する金属元素を実質的に含まない球状シリコーンエラストマー微粒子をそれぞれ含有する。
本発明の実施形態に使用される(A)成分の両末端水酸基閉塞ポリジオルガノシロキサンは、分子の両末端にケイ素原子に結合した水酸基を有し、その反応性によって硬化反応に関与するものである。
ポリジオルガノシロキサン中のケイ素原子に結合した有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基のようなアルキル基;ビニル基、プロペニル基のようなアルケニル基;フェニル基のようなアリール基;フェネチル基のようなアラルキル基;およびこれらの炭化水素基の水素原子の一部がハロゲン原子、ニトリル基などで置換されたものが例示される。合成のしやすさ、硬化後の被膜の物性とのかね合いなどから、メチル基が好ましい。
このような両末端水酸基閉塞ポリジオルガノシロキサンの粘度は、25℃において50〜10,000,000mPa・sであり、好ましくは1,000〜2,000,000mPa・sである。50mPa・s未満では硬化後の被膜が脆くなり、また10,000,000mPa・sを超えると安定したエマルジョンを得ることが困難である。
(A)成分として使用されるポリジポリオルガノシロキサンは、25℃における粘度が上記範囲内であれば良く、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いても良い。さらに、直鎖状のポリシロキサンであることが好ましいが、部分的に分岐や網構造があっても良い。また、粘度が100,000mPa・s以上である場合には、安定なエマルジョンを得るために、公知の乳化重合により製造することが好ましい。
本発明に使用される(B)成分のポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、(A)成分の両末端水酸基閉塞ポリジオルガノシロキサンと脱水素縮合反応して網状構造を形成するために、ケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するものである。
分子中のケイ素原子に結合した有機基としては、前記した(A)成分のケイ素原子に結合した有機基と同様なものが例示される。このようなポリオルガノハイドロジェンシロキサンのシロキサン鎖は、直鎖状、分岐状および環状のいずれでも良い。
(B)成分の配合量は、前記(A)100重量部に対して0.5〜20重量部とすることが好ましい。0.5重量部未満では、硬化速度が遅すぎて連続被膜を形成することが難しく、また20重量部を超えると、硬化被膜が脆くなり好ましくない。
本発明に使用される(C)成分の硬化触媒は、(A)成分の両末端水酸基閉塞ポリジオルガノシロキサンの水酸基と、(B)成分のポリオルガノハイドロジェンシロキサンのSi−H結合との間の脱水素縮合反応を促進する触媒である。このような硬化触媒としては、金属脂肪酸塩、アミン類、第4アンモニウムヒドロキシド類などが挙げられる。これらのものを併用しても良い。
金属脂肪酸塩としては、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオレエート、ジブチルスズジステアレート、トリブチルスズアセテート、トリブチルスズオクトエート、トリブチルスズラウレート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、ジエチルスズジオレエート、モノメチルスズジオレエートのように金属原子に直接結合した有機基をもつもの、およびオクテン酸亜鉛、オクテン酸鉄、オクテン酸スズのように金属原子に直接結合した有機基を持たないものが例示される。
アミン類としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチルテトラアミンのような有機アミン;α−アミノプロピルトリエトキシシランのようなアミノ基を有するシラン化合物やそれらの塩が例示される。第4アンモニウムヒドロキシド類としては、テトラメチルアンモニウム、ジメチルベンジルアンモニウムおよびそれらの塩が例示される。
(C)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して0.1〜10重量部の範囲が好ましい。0.1重量部未満では、硬化速度が遅すぎて連続被膜を形成することが難しく、また10重量部を超えると、組成物の安定性が悪くなり好ましくない。
実施形態では、前記(A)成分と(B)成分および(C)成分を含有するエマルジョンに、後述する(D)成分あるいはそのエマルジョンを配合してエマルジョンを調製することができる。
(A)成分、(B)成分および(C)成分を含有するエマルジョンの調製方法としては、適当な乳化剤を用いて(A)成分〜(C)成分の各成分を単独でエマルジョン化したものを混合しても良いし、あるいは2種または3種の成分を混合した後、エマルジョン化しても良い。エマルジョンは、適宜、既存の機械乳化あるいは乳化重合により製造したものを用いることができる。
本発明の実施形態において、(D)成分である塩素化ポリオレフィンおよび/またはアクリル変性ポリオレフィンは、組成物から得られる被膜の接着性(密着性)を向上させるために配合される成分である。塩素化ポリオレフィンとしては、反応基として無水マレイン酸基を有する塩素化ポリオレフィンを使用することができる。また、アクリル変性ポリオレフィンとしては、反応基として無水マレイン酸基とアクリル基をそれぞれ有する無水マレイン酸・アクリル変性ポリオレフィンを使用することができる。このような塩素化ポリオレフィンとアクリル変性ポリオレフィンの少なくとも一方を配合することにより、本発明のコーティング剤組成物から得られる被膜に、ゴムに対する優れた接着性と耐摩耗性を付与することができる。また、このコーティング剤組成物は各成分配合後の安定性にも優れているので、長い可使時間が可能となる。
(D)成分である塩素化ポリオレフィンおよび/またはアクリル変性ポリオレフィンは、いずれもエマルジョンの形態のものを配合することが好ましい。塩素化ポリオレフィンのエマルジョンおよびアクリル変性ポリオレフィンのエマルジョンについて、塩素含有量やベースとなる塩素化ポリオレフィン樹脂の分子量、アクリル変性量(含有量)、およびベースとなるポリオレフィンの分子量などに特に制限はないが、入手のし易さから、反応基として無水マレイン酸基を有する無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィンのエマルジョン、および反応基として無水マレイン酸基とアクリル基をそれぞれ有するポリオレフィンである無水マレイン酸・アクリル変性ポリオレフィンをそれぞれ使用することが望ましい。
特に、無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィンエマルジョンとしては、分子量が10,000〜200,000で、塩素含有量が5〜35重量%で、無水マレイン酸基含有量が0.1〜30重量%である変性塩素化ポリオレフィンを、乳化(エマルジョン化)したものが好ましい。また、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィンエマルジョンとしては、分子量が10,000〜200,000で、アクリル基含有量が5〜35重量%で、無水マレイン酸基含有量が0.1〜30重量%である変性ポリオレフィンを乳化したものが好ましい。
このような(D)成分の含有量は、(A)両末端が水酸基で閉塞されたポリジオルガノシロキサン100重量部に対して5〜150重量部、より好ましくは50〜100重量部とする。(D)成分の含有量を上記範囲に限定したのは、5重量部未満であると、配合目的であるゴム基材との接着性向上および耐摩耗性の付与を十分に達成することができず、一方50重量部を超えて配合しても、ゴム基材との接着性向上および耐摩耗性付与の効果が飽和し、かえって耐候性など他の特性が低下するためである。
(E)成分である球状シリコーンエラストマー微粒子は、シリコーンゴム、シリコーンゲルなどのシリコーンエラストマーを主成分とし、硬化触媒に由来する白金系、スズ系などの金属元素を実質的に含有しない球状粒子であり、本発明の特徴的成分である。この球状シリコーンエラストマー微粒子の平均粒子径は、0.1〜100μmであることが好ましくは、1〜20μmであることがより好ましい。
また、(E)成分を構成するシリコーンエラストマーの硬さ(ゴム硬度)は、JIS K 6253に拠る測定値で90度未満であることが好ましく、より好ましい範囲は60〜80度である。硬さが90度以上の硬質あるいは半硬質材料の微粒子を使用した場合には、コーティングが施された成形体の水濡れ状態での鳴き音抑制や金属塗装面の損傷防止の効果が十分に得られない。
(E)成分である球状シリコーンエラストマー微粒子は、例えば、(a)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合する水酸基、すなわちシラノール基を有するポリオルガノシロキサンと、(b)一般式:RSi(ORで表されるオルガノトリアルコキシシランとを、金属系の触媒を使用することなく縮合反応させた後、得られた液状の架橋性ポリオルガノシロキサンを、(c)界面活性剤の存在下で水中に乳化し、かつ縮合反応させて架橋・硬化することにより調製あるいは製造することができる。
ここで、(E)球状シリコーンエラストマー微粒子の調製に使用する(a)成分は、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合する水酸基を有するポリオルガノシロキサンであり、このオルガノポリシロキサンの分子構造としては、直鎖状、環状、網状、一部分岐を有する直鎖状などが挙げられる。エラストマー状シリコーン粒子の架橋構造の制御のし易さから、特に、一般式(I)で示される分子鎖末端がシラノール基で封鎖された直鎖状のポリオルガノシロキサンが好ましい。このポリオルガノシロキサンは、以下において、α、ω−ジヒドロキシポリジオルガノシロキサンと呼ぶことがある。
HO[(RSiO]H ………(I)
式中、Rは互いに同一でも異なっていてもよい置換または非置換の1価の炭化水素基を表す。Rとしては、(1)炭素数1〜30、好ましくは1〜10のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基など、(2)炭素数4〜7、好ましくは6のシクロアルキル基、例えばシクロヘキシル基など、(3)炭素数2〜8、好ましくは2〜3のアルケニル基、例えばビニル基、アリル基など、(4)アラルキル基、特にアリール部分がフェニル基または低級アルキル(C程度まで)置換フェニル基で、アルキル部分がC程度までのもの、例えば2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基など、(5)アリール基、特にフェニル基または置換フェニル基(置換基は、例えばC程度までのアルキル基)、例えばフェニル基、トリル基など、および(6)置換炭化水素基、特に置換基がハロゲンであるもの、例えば3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などが例示される。
乳化重合により得られるエラストマー状シリコーン粒子が、撥水性、滑り性に優れ、また生理活性がないことから、分子中のRの85%以上がメチル基であることが好ましく、実質的にはすべてがメチル基であることが特に好ましい。したがって、(a)成分として好ましいものは、α、ω−ジヒドロキシポリ(ジメチルシロキサン)、およびそのジメチルシロキサン単位の一部がメチルエチルシロキサン単位、メチルヘキシルシロキサン単位、メチルフェニルシロキサン単位、ジフェニルシロキサン単位などで置換された共重合ポリシロキサンである。これらのうちでも、α、ω−ジヒドロキシポリ(ジメチルシロキサン)が特に好ましい。
式中mは、成分(I)の25℃における粘度を5〜3000mPa・s、特に15〜1000mPa・sの範囲にする値のものであることが好ましい。シラノール末端ポリオルガノシロキサンの粘度が5mPa・s未満のものは、安定に合成し、精製することが困難であり、粘度が3000mPa・sを超えると、粒径分布の狭い粒子を得ることが難しくなる。
(b)成分である一般式:RSi(ORで表されるオルガノトリアルコキシシランは、前記(a)成分の架橋剤として機能するものである。ここでRは前記Rと同義であり、好ましくはメチル基、フェニル基である。Rとしては、メチル基、エチル基、ブチル基のようなアルキル基;および2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−プロポキシエチル基、2−ブトキシエチル基のようなアルコキシ置換炭化水素基が例示され、加水分解速度が大きいことから、メチル基、エチル基、および2−メトキシエチル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。好ましいオルガノトリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリイソプロキシシラン、フェニルトリメトキシシランおよびフェニルトリエトキシシランが例示される。これらの1種または2種以上を混合したものが用いられる。
(b)成分であるオルガノトリアルコキシシランの配合量は、(a)成分であるポリオルガノシロキサンのシラノール基1個に対して、アルコキシ基が1.5〜5個となるような範囲であることが好ましい。アルコキシ基が1.5個未満となるような量では、(a)成分と(b)成分をあらかじめ縮合反応させて液状の架橋性ポリオルガノシロキサンを調製する際に、ゲル化が起こりやすくなり、アルコキシ基が5個を超えるような量では、(a)成分と(b)成分をあらかじめ縮合反応させて液状の架橋性ポリオルガノシロキサンを調製する際に、未反応の(b)成分が多くなり、均一に硬化した粒子が得られなくなる。
(a)成分と(b)成分との縮合反応は、有機スズ化合物や有機チタン化合物のような金属系の触媒を使用することなく行われる。縮合反応の触媒としては、アミン類、第4アンモニウムヒドロキシド類、第4ホスホニウムヒドロキシド類などが挙げられ、これらのものを併用してもよい。アミン類としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチルテトラアミンのような有機アミン;α−アミノプロピルトリエトキシシランのようなアミノ基を有するシラン化合物やそれらの塩が例示される。
第4アンモニウムヒドロキシド類としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ジメチルベンジルアンモニウムヒドロキシドおよびそれらのシラノレート化合物が例示される。第4ホスホニウムヒドロキシド類としては、テトラメチルホスホニウムハイドロオキサイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムハイドロオキサイド、フェニルトリメチルホスホニウムハイドロオキサイド、テトラメチルホスホニウムメトキサイド、テトラブチルホスホニウムブトキサイド、ブチルトリシクロヘキシルホスホニウムハイドロオキサイドおよびそれらのシラノレート化合物が例示される。これらの中でも第4アンモニウムヒドロキシド類、第4ホスホニウムヒドロキシド類およびそれらのシラノレート化合物は、縮合反応後に熱分解できることから特に好ましい。
この縮合反応用触媒の配合量は、前記(a)成分であるポリオルガノシロキサンおよび(b)成分であるオルガノトリアルコキシシランの合計量100重量部に対して、0.001〜0.1重量部の範囲であることが好ましく、特に0.003〜0.01重量部の範囲であることが好ましい。触媒の配合量が0.001重量部未満では縮合反応速度が小さくなり、0.1重量部を超えると触媒の不活性化や除去が困難になるからである。
(a)成分と(b)成分との縮合反応により得られる液状の架橋性ポリオルガノシロキサンは、反応後に生成するアルコール類や未反応のオルガノトリアルコキシシラン類を取り除くために、加熱や減圧下に留去することが好ましい。さらに、乳化時の安定性を向上させるために、縮合触媒の中和や除去を行うことが好ましい。
(a)成分と(b)成分との縮合反応により、液状の架橋性ポリオルガノシロキサンが得られる。得られる架橋性ポリオルガノシロキサンの粘度は限定されないが、25℃において5〜10000mPa・sの範囲であることが好ましく、特に10〜5000mPa・sの範囲であることが好ましい。さらに、この架橋性ポリオルガノシロキサンには、その流動性を調節したり、得られる架橋シリコーンエラストマー微粒子の機械強度を向上させるために、任意の成分として充填剤を配合してもよい。
このような充填剤としては、例えば、沈澱シリカ、フュームドシリカ、焼成シリカ、フュームド酸化チタンなどの補強充填剤;粉砕石英、ケイソウ土、アルミノケイ酸、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウムなどの非補強充填剤、これらの表面をヘキサメチルシラザン、トリメチルクロルシラン、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサンなどの有機ケイ素化合物により処理してなる充填剤が挙げられる。
こうして得られた架橋性ポリオルガノシロキサンは、(c)界面活性剤の存在下で水中に乳化させ、加水分解するとともに縮合反応させることにより、架橋・硬化される。この架橋および硬化反応も、前記した金属系の触媒を使用することなく行われる。
(c)界面活性剤としては、前記した液状の架橋性ポリオルガノシロキサンの架橋を阻害しないものであれば特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれを用いてもよい。単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
アニオン性界面活性剤としては、ヘキシルベンゼンスルフォン酸、オクチルベンゼンスルフォン酸、デシルベンゼンスルフォン酸、ドデシルベンゼンスルフォン酸、セチルベンゼンスルフォン酸、ミリスチルベンゼンスルフォン酸、ラウリル硫酸、ポリオキシエチレンラウリル硫酸、ドデセンスルフォン酸、テトラデセンスルフォン酸、ヘキサデセンスルフォン酸、ヒドロキシドデカンスルフォン酸、ヒドロキシテトラデカンスルフォン酸、ヒドロキシヘキサデカンスルフォン酸、およびそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩などが挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、オクチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ラウリルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ステアリルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ジオクチルジメチルアンモニウムヒドロキシド、ジステアリルジメチルアンモニウムヒドロキシド、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ジココイルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウムなどが挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジエチレングリコールなどが挙げられる。
両性界面活性剤としては、アミノ酸型、ベタイン酸型界面活性剤が例示される。
これらの界面活性剤の使用量は、架橋性ポリオルガノシロキサン100重量部に対して0.05〜50重量部が好ましく、特には0.1〜10重量部が好ましい。界面活性剤が0.05重量部未満では、エマルジョンの安定性が悪くて分離することがあり、50重量部を超えると、得られるシリコーンエラストマー微粒子の用途が限定され、あるいはエマルジョンが増粘して流動性が悪くなるおそれがある。
(E)成分である球状シリコーンエラストマー微粒子の調製においては、塩型のアニオン性界面活性剤を使用して架橋性ポリオルガノシロキサンを乳化し、その後、酸を添加し、反応系内で酸型のアニオン性界面活性剤を生成するように構成することが好ましい。このように構成した場合には、乳化重合条件の制御が容易であり、また乳化状態が良好であって、エマルジョン製造中や保存中に高分子量ポリオルガノシロキサンの分離や浮きが発生せず、安定性に優れたエマルジョンを得ることができる。
乳化に使用する水の使用量は、架橋性ポリオルガノシロキサン100重量部に対して10〜1000重量部であり、エマルジョン中の架橋性ポリオルガノシロキサン成分濃度が20〜80%となるような量が好ましい。
乳化後に添加される酸としては、無機酸および有機酸がある。無機酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、スルファミン酸などが挙げられる。有機酸としては、カルボン酸(ギ酸を包含する)、スルフォン酸、スルファミン酸、硫酸モノエステルなどが挙げられる。
前記したように、乳化剤として加えられた塩型のアニオン性界面活性剤を、乳化後に酸を添加して酸型のアニオン性界面活性剤に変える場合には、硫酸、塩酸、リン酸、ギ酸などが使用される。低温でも大きな重縮合反応速度が得られることから、これらのうちで硫酸の使用が好ましい。酸の使用量は特に限定されないが、架橋性ポリオルガノシロキサン100重量部に対して0.05〜10量部が好ましく、0.1〜5重量部の範囲が特に好ましい。
(E)球状シリコーンエラストマー微粒子の調製において、架橋性ポリオルガノシロキサンの水中への乳化とそれに続く縮合反応は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、コロイドミル、ラインミル、ホモミキサー、ホモジナイザーなどの乳化機、あるいは、アンカーミキサーとホモミキサー、またはアンカーミキサーとディスパーミキサーとが一体になった乳化機、さらには加圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、多孔質膜などの乳化機を用いて乳化する方法などを用いることができる。必要であればさらに水を加えて均一に乳化分散させる。次いで、酸を加えて分散して架橋性ポリオルガノシロキサンを重縮合させることで、シリコーンエラストマー微粒子が形成される。
反応温度が低すぎるとエマルジョンの安定性が損なわれ、また反応温度が高すぎてもエマルジョンの安定性が損なわれることから、反応温度は0〜85℃であることが好ましい。より好ましくは5〜60℃で2〜48時間保持するが、必要に応じてさらに長時間をかけても差し支えない。酸をエマルジョンへ添加する際には、酸を水で予め希釈してもよく、また反応中は撹拌を継続することも停止することもできる。
所望の重合度に達したならば、アルカリ性物質を添加することにより、触媒である酸ならびに酸型のアニオン性界面活性剤を中和して重合反応を停止する。アルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、および酢酸カリウムのような無機物質、ならびにトリエタノールアミンのようなアミン類が挙げられる。
エマルジョンの安定性を向上させるために、先に例示したアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、水などを、重縮合反応後やアルカリ性物質添加時、その他任意の段階で配合することもできる。さらに、エマルジョンを保存するための防腐剤、防カビ剤、金属の腐食を防止するための防錆剤などを配合することもできる。
またさらに、乳化重合によって得られるシリコーンエラストマー微粒子に含まれるシラノール基をトリオルガノシリル基で封鎖するために、またはシリコーンエラストマー微粒子の硬度を所望の値に制御するために、トリオルガノシリル基を有するシロキサン化合物を添加することができる。トリオルガノシリル基がトリメチルシリル基の場合、添加されるシロキサン化合物としては、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサンなどが挙げられる。
また、架橋性ポリオルガノシロキサンを重縮合させることで、シリコーンエラストマー微粒子の水分散液中に生成するアルコール分や低分子量オルガノシロキサンを除去するために、加熱や減圧下に留去することも、必要に応じて行うことができる。
こうして、架橋シリコーンエラストマーから成る球状の微粒子を、水分散液(ディスパージョンまたはサスペンジョン)として得ることができるが、必要に応じてこの水分散液を脱水することによりシリコーンエラストマー微粒子を分離することができる。脱水方法としては、水分散液を熱風中に噴霧する方法や、ろ過、水洗、乾燥、解砕などの適当な処理を施す方法があり、こうして架橋シリコーンエラストマー球状粒子を微粉体として回収することができる。
本発明の実施形態では、(E)成分である球状シリコーンエラストマー微粒子が、硬化触媒に由来する金属元素を実質的に含有していないので、水系コーティング剤組成物への配合において、乾燥解砕したシリコーンエラストマー微粒子を添加する態様を採ることができるばかりでなく、前記方法で調製された架橋シリコーンエラストマーから成る球状の微粒子の水分散液(ディスパージョンまたはサスペンジョン)を配合する態様を採ることができる。
すなわち、硬化触媒に由来する金属元素を含有する球状シリコーンエラストマー微粒子では、水分散液の形態のものを配合すると短時間でゲル化してしまい、保存安定性が高く十分な可使時間を有する組成物が得られない。そして、乾燥解砕した微粒子の配合では、微粒子の凝集性や撥水性が高いため、超音波分散などの方法を用いない限り、水系コーティング剤への分散が難しく、経済的に不利であるが、本発明の実施形態では、(E)成分である球状シリコーンエラストマー微粒子の水分散液(ディスパージョンまたはサスペンジョン)を水系コーティング剤組成物に安定的に配合することができるので、経済的に有利である
(E)成分の配合量は、固形分比で(A)成分100重量部に対して10〜150重量部、より好ましくは30〜75重量部である。(E)成分の配合量を上記範囲に限定したのは、10重量部未満であると、被膜の滑り性が劣り、反対に150重量部を超えると塗装性が悪化し、また粒子の凝集により被膜にざらついた触感が生じ好ましくないためである。
本発明の実施形態においては、ゴム基材表面などに対する濡れ性を向上させ、コーティングの際の寄りや弾きを防止する成分として、アルキルアミンオキサイドを、エマルジョンに対する固形分比で0.5〜10重量%の範囲で添加することができる。なお、アルキルアミンオキサイドはジメチルアルキルアミンオキサイドに代表され、アルキル基としては、ラウリル基、ミリスチル基、ヤシ油等の天然油脂変性基などが例示される。
また、実施形態の水系コーティング剤組成物には、さらに密着性を向上させるために、非水溶性アミノ基含有ポリオルガノシロキサンを含有するエマルジョンを添加することができる。非水溶性アミノ基含有ポリオルガノシロキサンの添加量は、塗布効率や塗布性の点から、成分濃度がエマルジョン組成物の固形分の3〜50重量%になるように、水で調整することが望ましい。
非水溶性アミノ基含有ポリシロキサンとしては、一般式:[R Si(OR(4−a−b)/2(ただし、Rは水素原子および1価の置換または非置換の炭化水素基から選ばれる少なくとも2種のものを示し、1分子中の全Rのうち少なくとも2個は、1個以上の炭素原子を介してケイ素原子に結合した置換または非置換のアミノ基で置換された1価の炭化水素基である。Rは水素原子および1価の置換または非置換の炭化水素基を示す。aおよびbは、1≦a≦2.5、1≦a+b≦2.5、0≦b≦0.5の関係を満たす数であり、nは4〜5,000の数を示す。)で示されるポリオルガノシロキサンである。
そして、少なくとも1個の炭素原子を介してケイ素原子に結合した置換または非置換のアミノ基としては、アミノメチル基、β−アミノエチル基、γ−アミノプロピル基、δ−アミノブチル基、γ−(メチルアミノ)プロピル基、γ−(エチルアミノ)プロピル基、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピル基、N−(β−ジメチルアミノエチル)−γ−アミノプロピル基などが例示される。これらのアミノ基含有炭化水素基以外のRとしては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基のようなアルキル基;ビニル基、プロペニル基のようなアルケニル基;フェニル基のようなアリール基;フェネチル基のようなアラルキル基;およびこれら炭化水素基の水素原子の一部がハロゲン原子、ニトリル基などで置換されたものが例示される。合成のしやすさ、取扱の容易さから、これらの中でも、水素原子、メチル基、ビニル基、フェニル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が例示される。合成のしやすさ、取扱の容易さから、これらの中でも、水素原子、メチル基、エチル基であることが好ましい。
前記平均組成式中でaおよびbは、前記した関係を満たす数であり、aおよび(a+b)が1未満あるいは2.5を超えるものでは、基材に対する接着性が向上しない。bはケイ素原子に結合するヒドロキシル基あるいはアルコキシ基の数を示し、0.5以下であれば良い。0.5を超えると、コーティング剤の保存安定性が悪くなる。
また、合成のしやすさ、硬化前の組成物の粘度が作業に支障をきたさない範囲であること、および硬化後の被膜の接着性から、非水溶性アミノ基含有ポリシロキサンの重合度nは、4〜5,000好ましくは4〜1,000の範囲から選ばれる。重合度が4より低いと接着性が十分に向上せず、重合度が5,000より高いと、合成しにくいうえ粘度が上昇して取扱が不便である。
このアミノ基含有ポリシロキサン中でアミノ基の量は、単独で非水溶性となるような量であれば良く、アミノ当量として100〜15,000(g/mol)、好ましくは150〜1,000(g/mol)のものが使用可能である。アミノ当量が15,000(g/mol)を超えるもの、あるいは100(g/mol)未満のものでは、密着性を向上させる効果がない。
本発明の水系コーティング剤組成物を塗布するには、紙、ゴム、プラスチック、金属などから成る基材の表面に、ディップコート、スプレーコート、刷毛塗り、ナイフコート、ロールコートなどの方法によって塗布する。次いで、室温で数時間放置するか、あるいは基材の耐熱性の度合いに応じて適宜加熱を行い、塗膜を硬化させる。加熱条件は、基材が紙の場合には120〜180℃の温度で10〜30秒間、基材がゴムの場合には80〜180℃の温度で1〜5分間、プラスチックの場合には70〜150℃の温度で30秒〜2分間とすることが好ましい。
また、本発明の実施形態においては、上記組成物の基材との接着性を向上させるために、各種シランカップリング剤の単体あるいは混合物をそのままであるいは部分縮合させて添加しても良い。
さらに、実施形態においては、上記組成物の耐候性を向上させる目的で無機系、有機系の紫外線吸収剤を、滑り性をさらに向上させる目的で高粘度のポリジメチルシロキサンを、つや消し性と滑り性を向上させる目的で、平均粒径0.01〜100μm程度のポリアルキルシルセスキオキサン、ポリエチレンのようなポリオレフィンやポリカーボネート樹脂等の有機フィラーあるいは無機フィラーを、着色する目的で無機顔料などを、それぞれ本発明の趣旨を変えない範囲で添加することができる。また必要に応じて、増粘剤、消泡剤、防腐剤を適宜配合することは任意である。
本発明の実施形態の水系コーティング剤組成物は、各種基材の表面を処理した場合に、従来のシリコーン組成物による処理方法に比べて、均一塗布性に優れ、基材に対して接着性(密着性)、耐摩耗性に優れた硬化被膜を与える。特に、従来の非粘着性被膜形成用シリコーン組成物では十分な密着性が得られなかったゴム、プラスチック基材、特に発泡EPDMゴムから成る基材に対して、優れた密着性、耐摩耗性を持つ硬化被膜を形成する。
また、実施形態の水系コーティング剤組成物は、(E)成分である球状シリコーンエラストマー微粒子が硬化触媒に由来する金属元素を実質的に含有していないので、水系コーティング剤組成物への配合においてシリコーンエラストマーから成る球状の微粒子の水分散液(ディスパージョンまたはサスペンジョン)を配合することができ、経済的に有利である。すなわち、各成分液それぞれの保存安定性に優れ、また各成分配合後の安定性に優れ、可使時間が長い。また、滑り性成分である(E)球状シリコーンエラストマー微粒子中には官能基(シラノール基やアルコキシ基)が含まれており、これらの官能基がバインダーであるシリコーン成分と強固に結び付き一体化するため、耐摩耗性に優れ極めて強靭な硬化被膜が形成される。
さらに、常温ないし比較的低温で硬化被膜を形成するので、耐熱性の低い基材や大型で加熱処理のしにくい基材に対しても処理が可能であり、他の物質に対する非粘着性が良好で、撥水性を有しかつ優れた耐摩耗性を有する硬化被膜を形成する。
したがって、本発明の水系コーティング剤組成物は、EPDMゴムなどが使用される用途、例えば自動車用ウェザーストリップ、プリンターブレード、防振ゴム、建材用ガスケット等のゴム部品の表面処理剤として、好適に使用することができる。さらに本発明の水系コーティング剤組成物は、ゴム、プラスチックをはじめ各種基材に、非粘着性で撥水性を付与する場合に用いられる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、粘度などの物性値は全て25℃、相対湿度50%での値を示し、表1中、部とあるのはいずれも重量部を表す。
まず、球状シリコーンエラストマー微粒子の分散液−1,2および3をそれぞれ調製した。
[調製例1]
粘度が30mPa・sのα,ω−ジヒドロキシポリ(ジメチルシロキサン)334部とメチルトリメトキシシラン119部を、還流撹拌装置付きの500mLフラスコに仕込み、撹拌混合した。そして、撹拌しながら90℃まで昇温した後、触媒であるテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの30%水溶液を0.015部添加し、さらに撹拌を続けた。4時間撹拌を続けたところ、縮合反応により生成したメタノールが還流状態となり、フラスコ内の温度が77℃になった。
次いで、140℃まで昇温して2時間撹拌を続け、生成したメタノールを除去するとともに、触媒のテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの分解を行った。しかる後、140℃、2.6KPaの加熱減圧下で1時間低沸点化合物の除去を行った後、室温まで冷却して、粘度が16mPa・sの反応性オイル(1)を386部得た。
次に、ラウリル硫酸ナトリウム1.9部とポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.7部をイオン交換水90部に溶解させた。この中に反応性オイル(1)300部を添加し、ホモミキサーにより3500rpmの回転速度で3分間撹拌した後、撹拌を続けながらイオン交換水150部を2分間かけて滴下し、さらに3500rpmの回転速度で3分間撹拌を行った。
次いで、得られたエマルジョンをフラスコに移し、撹拌しながら20%硫酸6部を添加した後、撹拌しながら50℃で16時間反応させた。その後、撹拌を続けながら、10%炭酸ナトリウム水溶液と30%ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液を1:1の重量比で混合した溶液を、pHが7になるまで滴下することにより反応を停止させ、150メッシュの金網に通し、シリコーンエラストマー微粒子の水分散液−1(不揮発分45重量%)を得た。この水分散液中の粒子の粒径を粒度分布測定装置(LS−230;COULTER(株)社製)を用いて測定したところ、体積平均粒子径が11.6μmであった。
[調製例2]
ラウリル硫酸ナトリウム2部をイオン交換水90部に溶解させた後、その中に調製例1と同じ反応性オイル(1)300部を添加し、5分間撹拌を行った。次いで、撹拌を続けながらイオン交換水150部を5分間かけて滴下し、その後コロイドミルにより均一に乳化させた。
次いで、得られたエマルジョンをフラスコに移し、撹拌しながら20%硫酸6部を添加した後、撹拌しながら50℃で12時間反応させた。その後,撹拌を続けながら30℃まで冷却し、10%炭酸ナトリウム水溶液と30%ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液を1:1の重量比で混合した溶液を、pHが7になるまで滴下することにより反応を停止させ、150メッシュの金網に通し、シリコーンエラストマー微粒子の水分散液−2(不揮発分45重量%)を得た。この水分散液の粒径を調製例1と同様に測定したところ、体積平均粒子径が6.5μmであった。
[調製例3]
粘度が400mPa・sの分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン50部と、粘度が20mPa・sの分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたメチルハイドロジェンポリシロキサン1.5部、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン7.5×10−3部、および前記シロキサンの合計重量に対して白金金属として120ppmの割合の塩化白金酸のイソプロピルアルコール溶液を均一に混合し、硬化性液状シリコーンゴム組成物を調製した。
この硬化性液状シリコーンゴム組成物を、純水100部中で約1時間かけて600rmsで撹拌混合した後、コロイドミルに通してエマルジョンを調製した。次いで、このエマルジョン中の不揮発分量が15重量%となるように純水中にエマルジョンを投入し、均質な硬化性液状シリコーンゴム組成物の水系エマルジョンを調製した。このエマルジョンを70℃で20分間加熱して、硬化性液状シリコーンゴム組成物を硬化させ、シリコーンゴム微粒子の水分散液−3を得た。この水分散液の粒径を調製例1と同様に測定したところ、体積平均粒子径が15μmであった。
実施例1〜3,比較例1,2
表1に示す組成の各成分を同表に示す上から順に配合し、水系コーティング剤組成物を調製した。そして、このときの配合性を調べた。
なお、表1中、ポリジメチルシロキサンエマルジョンは、シリコーン分50重量%、粘度1,400,000mPa・sで末端水酸基封鎖の乳化重合エマルジョンであり、メチルハイドロジェンシロキサンエマルジョンは、平均式:
(CHSiO(CHHSiO)50Si(CHで表されるポリメチルハイドロジェンシロキサンを30重量%の割合で含有する機械乳化エマルジョンである。
また、塩素化ポリオレフィンエマルジョンは、無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレン(塩素含有量17重量%、分子量約60,000)を30重量%含有するエマルジョンであり、アクリル変性ポリオレフィンエマルジョンは、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン(アクリル基含有量が20重量%、無水マレイン酸基含有量0.2重量%、分子量約10,000〜200,000)を27重量%含有するエマルジョンである。
さらに、非水溶性アミノ基含有ポリシロキサンは、平均式;
{HN(CHNH(CH}SiO[{(CHSiO}15OH]
で表されるアミノ基含有ポリシロキサンを30重量%の割合で含有する乳化重合エマルジョンである。
次いで、得られた水系コーティング剤組成物を、発泡EPDMゴムのシートの表面に、スプレーガンを用い、硬化被膜の膜厚が10μmになるように塗布した。その後、塗布膜から水を揮散させた後、150℃のオーブンで10分間加熱乾燥させ、硬化被膜を形成した。
このように表面処理された発泡EPDMゴムシートについて、硬化被膜の接着性、耐溶剤性、摩擦係数、耐摩耗性をそれぞれ調べた。また、水系コーティング剤組成物の可使時間を調べた。結果を表1に示す。なお、被膜の接着性、耐溶剤性、摩擦係数、耐摩耗性および可使時間は、それぞれ以下に示す方法で調べた。
[密着性]
被膜表面に1mm間隔で縦横に各11本の平行線を入れて100個のマス目をクロスカットし、その上に、粘着テープ(シリコーン粘着剤YR3340(ジーイー東芝シリコーン(株)製)を40μmの厚さになるようにコーティングした後、恒温高湿室に48時間放置したポリエステルフィルム)を付着させた後、粘着テープを剥離し、剥離しないマス目の数を測定した。
[耐溶剤性]
ヘキサンを含浸させたワイピングペーパーで、被膜表面を30往復摩擦し、摩擦後の状態を調べた。
[摩擦係数]
コーティングしたゴム表面に、幅10mm、長さ100mmのガラス板を置き、200gの荷重をかけてガラス板を900mm/min.の速度で移動させ、そのときに得られる引っ張り応力により動摩擦係数を求めた。なお、最大静止摩擦係数はガラス板が動き出すときの値である。
[耐摩耗性]
厚さ2mm、幅20mmで接触面が曲面加工された図1に示すガラス板を摩耗子として用い、これを400gの荷重で押し付け、15cmの間隔を60回/min の速度で往復させる摩耗性試験を行なった。耐摩耗性は、ゴム表面が摩耗により擦り切れた時の往復回数により評価した。
[可使時間]
水系コーティング剤組成物の調製後、室温(25℃)において液にゲルが生成するまでの時間を調べた。
Figure 2006182936
本発明の水系コーティング剤組成物は、滑り性向上成分として、白金やスズのような硬化触媒に由来する金属元素を実質的に含まない球状シリコーンエラストマー微粒子を含有しているので、組成物自体の保存安定性が良好で可使時間が長いうえに、ゴム、プラスチックから成る基材、特に発泡または非発泡のEPDMゴムから成る基材に対して、極めて接着性に優れ、かつ良好な滑り性、非粘着性、撥水性などを有する硬化被膜を形成することができる。また、この硬化被膜は、摩擦係数が低く耐摩耗性に優れている。
したがって、本発明の水系コーティング剤組成物は、EPDMゴムが使用される用途、例えば自動車用ウェザーストリップ、プリンターブレード、防振ゴム、建材用ガスケット等のゴム部品の表面処理剤として、好適に使用することができる。
本発明の実施例において、耐摩耗性試験に用いた摩耗子を示す図。

Claims (6)

  1. (A)25℃における粘度が50〜10,000,000mPa・sの両末端が水酸基で閉塞されたポリジオルガノシロキサンと、
    (B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、
    (C)硬化触媒と、
    (D)塩素化ポリオレフィンおよび/またはアクリル変性ポリオレフィンと、
    (E)シリコーンエラストマーを主成分とし、硬化触媒に由来する金属元素を実質的に含まない球状シリコーンエラストマー微粒子
    をそれぞれ含有することを特徴とする水系コーティング剤組成物。
  2. 前記(E)成分である球状シリコーンエラストマー微粒子が、
    (a)1分子中に少なくとも2個のシラノール基を有するポリオルガノシロキサンと、(b)一般式:RSi(OR
    (式中、Rは置換または非置換のアルキル基、アルケニル基およびアリールから選ばれる1価の炭化水素基を示し、Rは同一または異なる置換もしくは非置換のアルキル基を示す。)で表されるオルガノトリアルコキシシランとを、金属系の触媒を使用することなく縮合反応させて得られた液状の架橋性ポリオルガノシロキサンを、(c)界面活性剤の存在下に水中に乳化し、かつ金属系の触媒を使用することなく縮合反応させ架橋させて得られたものであることを特徴とする請求項1記載の水系コーティング剤組成物。
  3. 前記(A)成分と(B)成分と(C)成分、および前記(D)成分をそれぞれ含有するエマルジョンに、前記(E)成分である球状シリコーンエラストマー微粒子を含む分散液(ディスパージョンまたはサスペンジョン)を混合してなることを特徴とする請求項1または2記載の水系コーティング剤組成物。
  4. 前記(E)球状シリコーンエラストマー微粒子の含有量が、前記(A)成分のポリジオルガノシロキサン100重量部に対して、5〜150重量部であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の水系コーティング剤組成物。
  5. アルキルアミンオキサイドおよび/または非水溶性アミノ基含有ポリオルガノシロキサンをさらに含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の水系コーティング剤組成物。
  6. 発泡あるいは非発泡のエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体から成る成形体の上に塗布されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の水系コーティング剤組成物。
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