本発明は、強誘電体膜、及びその製造方法、ならびに強誘電体膜を有する強誘電体キャパシタを用いて構成される強誘電体メモリ、圧電素子、及び半導体素子に関する。
近年、PZT、SBT等の強誘電体膜や、これを用いた強誘電体キャパシタ、強誘電体メモリ装置等の研究開発が盛んに行われている。強誘電体メモリ装置の構造は1T、1T1C、2T2C、単純マトリクス型に大別できる。この中で、1T型は構造上キャパシタに内部電界が発生するためリテンション(データ保持)が1ヶ月と短く、半導体一般で要求される10年保証は不可能といわれている。1T1C型、2T2C型は、DRAMと殆ど同じ構成であり、かつ選択用トランジスタを有するために、DRAMの製造技術を生かすことが出来、かつSRAM並みの書き込み速度が実現されるため、現在までに256kbit以下の小容量品が商品化されている。
これまで強誘電体材料としては、主にPb(Zr、Ti)O3(PZT)が用いられているが、同材料の場合、Zr/Ti比が52/48あるいは40/60といった、稜面体晶及び正方晶の混在領域及びその近傍の組成が用いられ、かつLa、Sr、Caといった元素をドーピングされて用いられている。この領域が用いられているのは、メモリ素子に最も必要な信頼性を確保するためである。もともとヒステリシス形状はTiをリッチに含む正方晶領域が良好であるのだが、イオン性結晶構造に起因するショットキー欠陥が発生し、このことが原因で、リーク電流特性あるいはインプリント特性(いわゆるヒステリシスの変形の度合い)不良が発生してしまい、信頼性を確保することが困難である。
一方、単純マトリックス型は、1T1C型、2T2C型に比べセルサイズが小さく、またキャパシタの多層化が可能であるため、高集積化、低コスト化が期待されている。
また、従来の単純マトリクス型強誘電体メモリ装置に関しては、日本国特開平9−116107号公報等に開示されている。同公開公報においては、メモリセルへのデータ書き込み時に、非選択メモリセルへ書き込み電圧の1/3の電圧を印加する駆動方法が開示されている。
しかしながら、この技術においては、動作に必要とされる強誘電体キャパシタのヒステリシスループに関しては、具体的に記載されていない。実際に動作が可能な単純マトリクス型強誘電体メモリ装置を得るには角型性の良好なヒステリシスループが必要不可欠である。これに対応可能な強誘電体材料としては、Tiリッチな正方晶のPZTが候補として考えられるが、既述の1T1C及び2T2C型強誘電体メモリ同様、信頼性の確保が最重要課題となる。
また、PZT正方晶は、メモリ用途に適した角型性を有するヒステリシス特性を示すが、信頼性に乏しく実用化されていない。その理由は、以下の通りである。
まず、結晶化後のPZT正方晶薄膜は、Ti含有率が高ければ高いほど、リーク電流密度が高くなる傾向がある。加えて、+あるいは−方向のどちらか一方に一回だけデータを書き込んで、100℃に加熱保持した後、データを読み出す、いわゆるスタティックインプリント試験を行うと、24h後には、殆ど書き込んだデータが残っていない。これらは、イオン性結晶であるPZT及びPZTの構成元素であるPbとTi自身の抱える本質的なものであり、このことが構成元素の大部分がPb及びTiからなるPZT正方晶薄膜の抱える最大の課題となっている。この課題は、PZTペロブスカイトがイオン性結晶であることが大きく、PZTが抱える本質的なものである。
図35は、PZTの各構成元素の結合にまつわる主なエネルギーの一覧である。PZTは結晶化後に酸素空孔を多く含むことが知られている。すなわち、図35より、Pb−OはPZT構成元素中、結合エネルギーが最も小さく、焼成加熱時や、分極反転時に簡単に切れることが予想される。すなわち、Pbが抜けると電荷中性の原理よりOが抜けてしまう。
次に、インプリント試験等の加熱保持時には、PZTの各構成元素は振動し衝突を繰り返していることになるが、PZT構成元素中でTiは最も軽く、高温保持時の振動衝突により抜け易い。したがって、Tiが抜けると電荷中性の原理よりOが抜ける。また、Pb:+2、Ti:+4の最大価数で結合に寄与しているため、Oが抜ける以外に電荷中性が成り立たない。すなわち、PZTはPb及びTiといった陽イオン1つに対しOという陰イオンが2つ抜けやすく、いわゆるショットキー欠陥を容易に形成する。
ここで、PZT結晶中の酸素欠損によるリーク電流の発生のメカニズムについて説明する。図36(A)〜図36(C)は、一般式ABO2.5で表されるブラウンミラライト型結晶構造を有する酸化物結晶におけるリーク電流の発生を説明するための図である。図36(A)に示すように、ブラウンミラライト型結晶構造は、一般式ABO3で表されるPZT結晶などが持つペロブスカイト型結晶構造に対して酸素欠損を有する結晶構造である。そして、図36(B)に示すように、ブラウンミラライト型結晶構造では、陽イオンの隣は酸素イオンが来るため、陽イオン欠陥は、あまりリーク電流増大の原因にはなりにくい。しかしながら、図36(C)に示すように、酸素イオンはPZT結晶全体に直列で繋がっており、酸素欠損が増えることにより結晶構造がブラウンミラライト型結晶構造となると、リーク電流もそれに従って増大してしまうのである。
また、上記したリーク電流の発生に加えて、PbおよびTiの欠損や、それに伴うOの欠損は、いわゆる格子欠陥であり、図37に示すような空間電荷分極の原因となる。すると、PZT結晶には強誘電体の分極による電界によって格子欠陥による反電界が生じてしまい、いわゆるバイアス電位が掛かった状態となり、この結果、ヒステリシスがシフトあるいは減極してしまう。さらに、この現象は、温度が高くなるほど速やかに生じてしまう。
以上はPZTの抱える本質的な問題であり、純粋なPZTでは上記の問題を解決困難であると考えられ、現在に至るまで正方晶のPZTを用いたメモリ素子で十分な特性を有するものは実現していない。
特開平9−116107号公報
特開平4−37076号公報
特開平6−150716号公報
特開平8−335676号公報
特開2001−80995号公報
木島健、石原宏,「FeRAM用強誘電体材料の新展開」,2002年(平成14年)春季 第49回応用物理学関係連合講演予稿集 第0分冊,2002年3月27日 応用物理学会発行,p.105
本発明の目的は、1T1C、2T2C及び単純マトリクス型強誘電体メモリのいずれにも使用可能なヒステリシス特性を持つ強誘電体キャパシタを含む、1T1C、2T2C及び単純マトリクス型強誘電体メモリを提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記強誘電体メモリに好適な強誘電体膜およびその製造方法を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、上記強誘電体膜を用いた圧電素子および半導体素子を提供することにある。
(1)本発明に係る強誘電体膜は、AB1−xNbxO3の一般式で示され、A元素は、少なくともPbからなり、B元素は、Zr、Ti、V、W及びHfのうち、少なくとも一つ以上の組み合わせからなり、0.05≦x<1の範囲でNbを含む。
また、本発明に係る強誘電体膜において、A元素は、Pb1−yLnyからなり、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuのうち、少なくとも一つ以上の組み合わせからなり、かつ0<y≦0.2の範囲であることができる。
(2)また、本発明に係る強誘電体膜は、(Pb1−yAy)(B1−xNbx)O3の一般式で示され、A元素は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuのうち、少なくとも一つ以上の組み合わせからなり、B元素は、Zr、Ti、V、W及びHfのうち、一つ以上の組み合わせからなり、0.05≦x<1の範囲でNbを含む。
また、本発明に係る強誘電体膜において、0.1≦x≦0.3の範囲でNbを含むことができる。
(3)また、本発明に係る強誘電体膜は、PZT系強誘電体膜であって、Zr組成よりもTi組成が多く、かつTi組成のうち、2.5モル%以上40モル%以下がNbに置換されている。
また、本発明に係る強誘電体膜において、Ti組成のうち、10モル%以上30モル%以下をNbに置換することができる。
また、本発明に係る強誘電体膜において、前記PZT系強誘電体膜は、正方晶系および稜面体晶系の少なくとも一方の結晶構造を有することができる。
また、本発明に係る強誘電体膜において、0.5モル%以上のSi或いはSi及びGeを含むことができる。
また、本発明に係る強誘電体膜において、0.5モル%以上、5モル%未満のSi或いはSi及びGeを含むことができる。
(4)また、本発明に係る強誘電体膜は、ABO3の一般式で表され、Aサイトの構成元素としてPbを含み、Bサイトの構成元素として少なくともZrおよびTiを含むPZT系強誘電体膜において、AサイトのPb欠損量が前記ABO3の化学量論的組成に対して多くとも20モル%以下である。
また、本発明の強誘電体膜において、前記AサイトのPb欠損量の2倍に相当する組成比でBサイトにNbを含むことができる。
また、本発明に係る強誘電体膜おいて、BサイトにおけるTi組成がZr組成よりも高く、かつ稜面体晶系の結晶構造を有することができる。
また、本発明に係る上記(3)および(4)の強誘電体膜は、ゾルゲル溶液を用いて形成することができる。
(5)また、本発明に係る強誘電体膜の製造方法は、上記(3)および(4)の強誘電体膜の製造方法であって、前記ゾルゲル溶液として、PbZrO3用ゾルゲル溶液、PbTiO3用ゾルゲル溶液、およびPbNbO3用ゾルゲル溶液を混合したものを用いる。
また、本発明に係る強誘電体膜の製造方法において、前記ゾルゲル溶液として、さらにPbSiO3用ゾルゲル溶液を混合したものを用いることができる。
(6)また、本発明の強誘電体膜の製造方法は、上記(4)の強誘電体膜の製造方法であって、Aサイトの構成元素であるPbの化学量論的組成を1とした場合に、Pbが0.9〜1.2の範囲で含まれるゾルゲル溶液を用いて形成する。
(7)また、本発明の強誘電体膜の製造方法は、前記PZT系強誘電体膜を、白金系金属からなる金属膜上に形成することを含むことができる。
(8)また、本発明の強誘電体膜の製造方法において、前記白金系金属は、PtおよびIrの少なくともいずれか一つであることができる。
(9)また、本発明は、上記強誘電体膜を用いた、強誘電体メモリ、圧電素子、および半導体素子に適用することができる。
(10)本発明に係る強誘電体メモリは、予めSiウェハ上に形成されたCMOSトランジスタのソース或いはドレイン電極のどちらかと導通している第1電極と前記第1電極上に形成された強誘電体膜、前記強誘電体膜上に形成された第2電極、とを含み、前記第1電極、前記強誘電体膜及び前記第2電極によって構成されるキャパシタが、予めSiウェハ上に形成されたCMOSトランジスタによって選択動作を行う強誘電体メモリであって、前記強誘電体膜は、Ti比率が50%以上の正方晶PZTからなり、Ti組成のうち5モル%以上40モル%以下がNbで置換され、同時に1モル%以上のSi及びGeを含む強誘電体膜からなる。
(11)また、本発明に係る強誘電体メモリは、予め作りこまれた第1電極と、前記第1電極と交差する方向に配列された第2電極と、少なくとも前記第1電極と前記第2電極との交差領域に配置された強誘電体膜とを、含み、前記第1電極、前記強誘電体膜及び前記第2電極によって構成されるキャパシタがマトリクス状に配置された強誘電体メモリであって、前記強誘電体膜は、Ti比率が50%以上の正方晶PZTからなり、Ti組成のうち5モル%以上40モル%以下がNbで置換され、同時に1モル%以上のSi及びGeを含む強誘電体膜からなる。
(12)本発明に係る強誘電体メモリの製造方法は、第1の原料溶液であるPbZrO3形成用ゾルゲル溶液と第2の原料溶液であるPbTiO3形成用ゾルゲル溶液と第3の原料溶液であるPbNbO3形成用ゾルゲル溶液と第4の原料溶液であるPbSiO3形成用ゾルゲル溶液をコート後に結晶化する工程を含み、前記、第1、第2、及び第3の原料溶液は、強誘電体層を形成するための原料液であり、第4の原料溶液は、第1、第2、及び第3の原料溶液を強誘電体層として形成するために必要不可欠な触媒効果を有する常誘電体層を生成するための原料液である。
以下、本発明に好適な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
1.強誘電体膜、強誘電体キャパシタ、およびそれらの製造方法
図1は、本発明の実施形態に係る強誘電体膜101を用いた強誘電体キャパシタ100を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、強誘電体キャパシタ100は、強誘電体膜101、第1電極102、および第2電極103から構成される。
第1電極102及び第2電極103は、Pt、Ir、Ru等の貴金属の単体または前記貴金属を主体とした複合材料よりなる。第1電極102及び第2電極103に強誘電体の元素が拡散すると電極と強誘電体膜101との界面部に組成ずれが生じヒステリシスの角型性が低下するため、第1電極102及び第2電極103には強誘電体の元素が拡散しない緻密性が要求される。第1電極102及び第2電極103の緻密性を上げるためには、例えば、質量の重いガスでスパッタ成膜する方法、Y、La等の酸化物を貴金属電極中に分散させる等の方法がとられる。
強誘電体膜101は、Pb、Zr、Tiを構成元素として含む酸化物からなるPZT系強誘電体を用いて形成される。特に、本実施の形態では、この強誘電体膜101をTiサイトにNbをドーピングしたPb(Zr、Ti、Nb)O3(PZTN)を採用することを特徴とする。
NbはTiとサイズ(イオン半径が近く、原子半径は同一である。)がほぼ同じで、重さが2倍あり、格子振動による原子間の衝突によっても格子から原子が抜けにくい。また原子価は、+5価で安定であり、たとえPbが抜けても、Nb5+によりPb抜けの価数を補うことができる。また結晶化時に、Pb抜けが発生したとしても、サイズの大きなOが抜けるより、サイズの小さなNbが入る方が容易である。
また、Nbは+4価も存在するため、Ti4+の代わりは十分に行うことが可能である。更に、実際にはNbは共有結合性が非常に強く、Pbも抜け難くなっていると考えられる(H.Miyazawa,E.Natori,S.Miyashita;Jpn.J.Appl.Phys.39(2000)5679)。
これまでも、PZTへのNbドーピングは、主にZrリッチの稜面体晶領域で行われてきたが、その量は、0.2〜0.025mol%(J.Am.Ceram.Soc,84(2001)902;Phys.Rev.Let,83(1999)1347)程度と、極僅かなものである。このようにNbを多量にドーピングすることができなかった要因は、Nbを例えば10モル%添加すると、結晶化温度が800℃以上に上昇してしまうことによるものであったと考えられる。
そこで、強誘電体膜101を形成する際には、更にPbSiO3シリケートを例えば、1〜5モル%の割合で添加することが好ましい。これによりPZTNの結晶化エネルギーを軽減させることができる。すなわち、強誘電体膜101の材料としてPZTNを用いる場合、Nb添加とともに、PbSiO3シリケートとを添加することでPZTNの結晶化温度の低減を図ることができる。
また、本実施の形態において、強誘電体膜101には、PZTに対してNbに代えてTa、W、V、Moを添加物質として加えても同等の効果を有する。また、Mnを添加物質として用いてもNbに準じた効果を有する。また、同様の考え方で、Pb抜けを防止するために、+3価以上の元素でPbを置換することも考えられ、これらの候補として、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuなどのランタノイド系が挙げられる。加えて、結晶化を促進する添加剤として、シリケート(Si)ではなくゲルマネート(Ge)を用いることもできる。図42(A)に、PZTに対してNbに代えて10モル%のTaを添加物質として用いた場合のヒステリシス特性を示す。また、図42(B)に、PZTに対してNbに代えて10モル%のWを添加物質として用いた場合のヒステリシス特性を示す。Taを用いた場合にもNb添加と同等の効果が得られることが分かる。また、Wを用いた場合にも絶縁性の良好なヒステリシス特性が得られる点でNb添加と同等の効果があることが分かる。
次に、本実施の形態の強誘電体キャパシタ100に適用されるPZTN強誘電体膜101の成膜方法の一例を述べる。
PZTN強誘電体膜101は、Pb、Zr、Ti、およびNbの少なくともいずれかを含む第1〜第3の原料溶液からなる混合溶液を用意し、これらの混合液に含まれる酸化物を熱処理等により結晶化させて得ることができる。
第1の原料溶液としては、PZTN強誘電体相の構成金属元素のうち、Pb及びZrによるPbZrO3ペロブスカイト結晶を形成するため縮重合体をn−ブタノール等の溶媒に無水状態で溶解した溶液が例示できる。
第2の原料溶液としは、PZTN強誘電体相の構成金属元素のうち、Pb及びTiによるPbTiO3ペロブスカイト結晶を形成するため縮重合体をn−ブタノール等の溶媒に無水状態で溶解した溶液が例示できる。
第3の原料溶液としては、PZTN強誘電体相の構成金属元素のうち、Pb及びNbによるPbNbO3ペロブスカイト結晶を形成するため縮重合体をn−ブタノール等の溶媒に無水状態で溶解した溶液が例示できる。
上記第1、第2及び第3の原料溶液を用いて、例えば、PbZr0.2Ti0.8Nb0.2O3(PZTN)からなる強誘電体膜101を形成する場合、(第1の原料溶液):(第2の原料溶液):(第3の原料溶液)=2:6:2の比で混合することになるが、この混合溶液をそのまま結晶化させようとしても、PZTN強誘電体膜101を作製するには、高い結晶化温度を必要とする。すなわち、Nbを混合すると、結晶化温度が急激に上昇してしまい、700℃以下の素子化可能な温度範囲では結晶化が不可能なため、従来では5モル%以上のNbはTiの置換元素としては用いられておらず、これまでは添加剤の域を出ていなかった。加えて、TiがZrよりも多く含まれるPZT正方晶では全く例がなかった。このことは、参考文献J.Am.Ceram.Soc,84(20001)902やPhys.Rev.Let,83(1999)1347等より明らかである。
そこで、本実施の形態では、上記課題を、第4の原料溶液としての、PbSiO3結晶を形成するため縮重合体をn−ブタノール等の溶媒に無水状態で溶解した溶液を例えば、1モル%以上5モル%未満で上記混合溶液中に更に添加することで解決することができる。
すなわち、上記第1、第2、第3及び第4溶液の混合溶液を用いることで、PZTNの結晶化温度を700℃以下の素子化可能な温度範囲で結晶化させることが可能となる。
具体的には、図2に示したフローチャートに従い強誘電体膜101を成膜する。混合溶液塗布工程(ステップST11)、アルコール除去工程〜乾燥熱処理工程〜脱脂熱処理工程(ステップST12,ステップST13)の一連の工程を所望の回数行い、その後に結晶化アニール(ステップST14)により焼成して強誘電体膜101を形成する。
各工程における条件の例を下記に示す。
初めにSi基板上にPt等の電極用貴金属を被覆して下部電極を成膜する(ステップST10)。次に、混合液の塗布をスピンコートなどの塗布法で行う(ステップST11)。具体的には、Pt被覆基板上に混合溶液を滴下する。滴下された溶液を基板全面に行き渡らせる目的で500rpm程度でスピンを行った後、50rpm以下に回転数を低下させて10秒ほど回転させる。乾燥熱処理工程は150℃〜180℃で行う(ステップST13)。乾燥熱処理は大気雰囲気下でホットプレート等を用いて行う。同様に脱脂熱処理工程では300℃〜350℃に保持されたホットプレート上で、大気雰囲気下で行う(ステップST13)。結晶化のための焼成は、酸素雰囲気中でサーマルラピッドアニール(RTA)等を用いて行う(ステップST14)。
また焼結後の膜厚は100〜200nm程度とすることができる。次に、上部電極をスパッタ法等により形成した後に(ステップST15)、第2電極と強誘電体薄膜との界面形成、および強誘電体薄膜の結晶性改善を目的としてポストアニールを、焼成時と同様に、酸素雰囲気中でRTA等を用いて行い(ステップST16)、強誘電体キャパシタ100を得る。
以下では、PZTN強誘電体膜101を用いることによる強誘電体キャパシタ100へのヒステリシス特性への影響を考察する。
図3は、強誘電体キャパシタ100のP(分極)−V(電圧)ヒステリシス曲線を模式的に示した図である。まず、電圧十Vs印加すると分極量P(十Vs)となり、その俊、電圧を0にすると分極量Prとなる。さらに、電圧を−1/3Vsとした時、分極量はP(−1/3Vs)となる。そして、電圧を−Vsとした時には分極量はP(−Vs)となり、再び電圧0とした時に分極量−Prとなる。また、電圧を+1/3Vsとした時には、分極量はP(+1/3Vs)となり、再び電圧を+Vsとした時、分極量は再びP(+Vs)に戻る。
また、強誘電体キャパシタ100は、ヒステリシス特性において以下のような特徴をも有する。まず、一旦電圧Vsを印加して分極量P(+Vs)にした後、−1/3Vsの電圧を印加して、さらに印加電圧を0とした時、ヒステリシスループは図3中矢印Aに示す軌跡をたどり、分極量は安定な値PO(0)を持つ。また、一旦電圧−Vsを印加して分極量をP(−Vs)にした後、+1/3Vsの電圧を印加して、さらに印加電圧を0とした時、ヒステリシスループは図2中矢印Bに示す軌跡をたどり、分極量は安定な値PO(1)を持つ。この分極量PO(0)と分極量PO(1)の差が充分にとれていれば、前記特開平9−116107号公報等に開示されている駆動法により単純マトリクス型強誘電体メモリ装置を動作させることが可能である。
そして、本実施の形態の強誘電体キャパシタ100によれば、結晶化温度の低温化、ヒステリシスの角型性の向上、Prの向上が図れる。また、強誘電体キャパシタ100によるヒステリシスの角型性の向上は、単純マトリクス型の強誘電体メモリ装置の駆動にとって重要なディスターブの安定性に顕著な効果がある。単純マトリクス型強誘電体メモリ装置においては、書き込み、読み出しを行わないセルにも±1/3Vsの電圧がかかるため、この電圧で分極が変化しないこと、いわゆるディスターブ特性が安定である必要がある。実際に、本願発明者は、一般的なPZTでは分極の安定した状態から分極を反転させる方向に1/3Vsパルスを108回与えると分極量は80%程度の低下が見られるが、本実施の形態の強誘電体キャパシタ100によると10%以下の低下量であることを確認した。従って、本実施の形態の強誘電体キャパシタ100を強誘電体メモリ装置に適用すれば、単純マトリクス型メモリの実用化が可能となる。
以下に、本実施の形態についての詳細な実施例を説明する。
本実施例では、本願発明によるPZTNと従来のPZTとを比較する。成膜フローは全て前述の図2を用いた。
Pb:Zr:Ti:Nb=1:0.2:0.6:0.2とした。ここにPbSiO3を0〜1モル%添加した。
この時の膜の表面モフォロジーを図4(A)〜図4(C)に示す。また、この膜の結晶性をX線回折法により測定すると、図5(A)〜図5(C)に示すようであった。図5(A)に示される0%(なし)の場合、結晶化温度を800℃まであげても、常誘電体パイロクロアのみが得られた。また、図5(B)に示される0.5%の場合、PZTとパイロクロアの混在であった。また、図5(C)に示される1%の場合、PZT(111)単一配向膜が得られた。また結晶性もこれまで得られたことがないほど良好なものであった。
次にPbSiO3の1%添加PZTN薄膜に対して、膜厚を120〜200nmとしたところ、図6(A)〜図6(C)ならびに図7(A)〜図7(C)に示すように、それぞれ膜厚に比例した結晶性を示した。なお、図6(A)〜図6(C)は、膜厚120nm〜200nmにおける表面モフォロジーを示す電子顕微鏡写真であり、図7(A)〜図7(C)は、膜厚120nm〜200nmにおけるPZTN薄膜の結晶性を示すX線回折法による測定結果である。また、図8(A)〜図8(C)および図9(A)〜図9(C)に示すように、膜厚が120nm〜200nmの範囲の全てにおいて角型性の良好なヒステリシス特性が得られた。なお、図9(A)〜図9(C)は、図8(A)〜図8(C)のヒステリシスカーブの拡大図である。特に、図9(A)〜図9(C)に示すように、本例のPZTN薄膜では、2V以下という低い電圧でしっかりとヒステリシスが開き、かつ飽和していることが確認された。
また、リーク特性についても、図10(A)及び図10(B)に示すように、膜組成や膜厚によらず、2V印加時(飽和時)で5×10−8〜7×10−9A/cm2と非常に良好であった
次に、PbZr0.2Ti0.6Nb0.2O3薄膜の疲労特性、及びスタティックインプリントを測定したところ、図11(A)及び図11(B)に示すように、非常に良好であった。特に、図11(A)に示す疲労特性は、上下電極にPtを用いているにもかかわらず、非常に良好である。
さらに、図12に示すように、基板601上に、下部電極601、本実施例のPZTN強誘電体膜603、上部電極603を形成した強誘電体キャパシタ600の上にオゾンTEOSによるSiO2膜604の形成を試みた。従来からあるPZTはオゾンTEOSによるSiO2膜形成を行うと、TEOSから発生する水素が上部Ptを通してPZTを還元し、全くヒステリシスを示さなくなるほど、PZT結晶が壊れてしまうことが知られている。
しかしながら本実施例によるPZTN強誘電体膜603は、図13に示すように、ほとんど劣化せず、良好なヒステリシスを保持していた。すなわち、本実施例によるPZTN強誘電体膜603は耐還元性にも強いことが分かった。また、本願発明による正方晶PZTN強誘電体膜603ではNbが40モル%を超えない場合、Nbの添加量に応じて、良好なヒステリシスが得られた。
次に、比較のために従来のPZT強誘電体膜の評価を行った。従来PZTとしては、それぞれPb:Zr:Ti=1:0.2:0.8、1:0.3:0.7、及び1:0.6:0.4とした。そのリーク特性は、図14に示すように、Ti含有量が増加するほどリーク特性は劣化してしまい、Ti:80%の場合、2V印加時に、10−5A/cm2となり、メモリ応用に適していないことが分かった。同様に疲労特性も図15に示すように、Ti含有量が増加するほど疲労特性は劣化した。またインプリント後には、図16に示すように、殆どデータが読み出せないことが分かった。
以上の実施例から分かるように、本実施例によるPZTN強誘電体膜は、従来、PZTの本質が原因と考えられるリーク電流増大並びにインプリント特性劣化という問題を解決したばかりか、これまで、上記理由から使われてこなかった、正方晶PZTをメモリの種類、構造によらずにメモリ用途に用いることが可能となる。加えて、同じ理由から正方晶PZTが使われなかった圧電素子用途にも本材料は適用可能である。
本実施例では、PZTN強誘電体膜において、Nb添加量を0、5、10、20、30、40モル%と変化させて強誘電特性を比較した。全ての試料においてPbSiO3シリケートを5モル%添加している。また、膜形成のための原料となる強誘電体膜形成用ゾルゲル溶液には、コハク酸メチルを添加してpHを6とした。成膜フローは全て前述の図2を用いている。
図17〜図19に、本実施例のPZTN強誘電体膜を測定したヒステリシス特性を示す。
図17(A)に示すように、Nb添加量が0の場合、リーキーなヒステリシスが得られたが、図17(B)に示すように、Nb添加量が5モル%となると、絶縁性の高い良好なヒステリシス特性が得られた。
また、図18(A)に示すように、強誘電特性は、Nb添加量が10モル%までは、殆ど変化が見られなかった。Nb添加量が0の場合も、リーキーではあるが、強誘電特性には変化が見られていない。また、図18(B)に示すように、Nb添加量が20モル%の場合は、非常に角型性の良いヒステリシス特性が得られた。
しかしながら、図19(A)及び図19(B)に示すように、Nb添加量が20モル%を超えると、ヒステリシス特性が大きく変化し、劣化していくことが確認された。
そこで、X線回折パターンを比較したところ図20のようであった。Nb添加量が5モル%(Zr/Ti/Nb=20/75/5)の場合、(111)ピーク位置は、従来からあるNbが添加されていないPZT膜の時と変わらないが、Nb添加量が20モル%(Zr/Ti/Nb=20/60/20)、40モル%(Zr/Ti/Nb=20/40/40)と増加するに従って、(111)ピークは低角側にシフトした。すなわち、PZTの組成はTiリッチで正方晶領域であるにもかかわらず、実際の結晶は、稜面体晶となっていることが分かる。また結晶系が変化するに従って、強誘電体特性が変化していることが分かる。
加えて、Nbを45モル%添加したところ、ヒステリシスは開かず、強誘電特性を確認できなかった(図示省略)。
また、本願発明によるPZTN膜は、非常に絶縁性が高いことは既に述べたが、ここでPZTNが絶縁体であるための条件を求めてみたところ、図21のようであった。
すなわち、本願発明によるPZTN膜は、非常に絶縁性が高く、このことはPbの欠損量の2倍に相当する組成比で、TiサイトにNbが添加されていることとなる。また、ペロブスカイト結晶は図22に示されるWO3の結晶構造からも分かるように、Aサイトイオンが100%欠損していても成り立ち、かつWO3は結晶系が変化し易いことが知られている。
従って、PZTNの場合は、Nbを添加することで、Pb欠損量を積極的に制御して、かつ結晶系を制御していることとなる。
このことは、本実施の形態のPZTN膜が、圧電素子への応用にも非常に有効であることを示している。一般的に、PZTを圧電素子に応用する場合、Zrリッチ組成の稜面体晶領域を用いる。このとき、ZrリッチなPZTはソフト系PZTと呼ばれる。このことは文字通り、結晶が軟らかいことを意味している。例えば、インクジェットプリンターのインク吐き出しノズルにも、ソフト系PZTが使われているが、あまりにもソフトであるため、あまり粘度の高いインクでは、インクの圧力に負けて押し出すことが出来ない。
一方で、Tiリッチな正方晶PZTはハード系PZTと呼ばれ、固くて脆いことを意味している。しかしながら、本願発明のPZTN膜ではハード系でありながら、人工的に結晶系を稜面体晶に変化させることが出来る。その上、結晶系をNbの添加量によって任意に変化させることが可能で、かつTiリッチなPZT系強誘電体膜は比誘電率が小さいため、素子を低電圧で駆動することも可能となる。
このことにより、これまで用いられることのなかった、ハード系PZTを例えば、インクジェットプリンターのインク吐き出しノズルに用いることが可能となる。加えて、NbはPZTに軟らかさをもたらすため、適度に硬いが、脆くないPZTを提供することが可能となる。
最後に、これまで述べたように、本実施例ではNb添加するだけでなく、Nb添加と同時に、シリケートを添加することで、結晶化温度をも低減することが出来る。
本実施例では、例えば、強誘電体メモリのメモリセル部分を構成する強誘電体キャパシタや例えば、インクジェットプリンターのインク吐き出しノズル部分を構成する圧電アクチュエータの電極材料として用いられるPtやIrなどの白金系金属からなる金属膜上にPZTN膜を形成した場合における格子整合性の点からPZTN膜を用いることの有効性を検討した。白金系金属は、PZT系強誘電体膜を素子応用する場合に、強誘電体膜の結晶配向性を決める下地膜となるとともに、電極材料としても有用な材料である。しかし、両者の格子整合性が十分でないため、素子応用に関しては、強誘電体膜の疲労特性が問題となってくる。
そこで、本願発明者らは、PZT系強誘電体膜の構成元素中にNbを含ませることで、PZT系強誘電体膜と白金系金属薄膜との間の格子不整合の改善を図る技術を開発した。この場合のPZT系強誘電体膜の成膜工程を図23(A)〜図23(C)に示す。
まず、図23(A)に示すように、所与の基板10を用意する。基板10としては、SOI基板上にTiOx層が形成されたものを用いた。なお、基板10としては、公知の材料からなるものの中から好適なものを選択して用いることができる。
次に、図23(B)に示すように、基板100上に例えば、スパッタ法を用いてPtからなる金属膜(第1電極)102を形成し、その後、図23(C)に示すように、金属膜102上に強誘電体膜101としてPZTN膜を形成する。PZTN膜を形成するための材料としては、例えば、ゾルゲル溶液を用いることができる。より具体的には、PbZrO3用ゾルゲル溶液、PbTiO3用ゾルゲル溶液、およびPbNbO3用ゾルゲル溶液を混合したものに、さらにPbNbO3用ゾルゲル溶液を添加したものを用いる。なお、PZTN膜は、構成元素にNbを含むため、結晶化温度が高い。このため、結晶化温度を低減させるためには、PbSiO3用ゾルゲル溶液をさらに添加したものを用いることが好ましい。本実施例では、上記したゾルゲル混合溶液をPt金属膜102上にスピンコート法で塗布し、所定の熱処理を行って結晶化する。成膜工程のフローは、図2に示したものと同様である。
本実施例では、Nbの添加量を0mol%〜30mol%の範囲として得られたPZTN膜について、X線回折法を用いて結晶の格子定数を測定したところ図24(A)及び図24(B)のようであった。図24(A)及び図24(B)によれば、Nbの添加量が多くなるほど、a軸(またはb軸)における格子定数とc軸における格子定数とが近づいていくことがわかる。また、図24(A)中におけるV(abc)は、格子定数(a,b,c)を体積変換した指数である。また、図24(A)中のV/V0は、Nbが添加されていないPZT結晶の格子定数を体積変換した指数V0に対するPZTN結晶についてのV(abc)との比である。このように、V(abc)あるいはV/V0の欄からも、PZTN結晶は、Nbの添加量が増加するに従って結晶格子が小さくなっていくことが確認できる。
そして、このようにNbを添加して形成されたPZTN膜の格子定数から、Pt金属膜の格子定数(a,b,c=3.96)との格子不整合率を計算してNbの添加量(mol%)を横軸としてプロットしたものが図25に示される。図25によれば、PZT系強誘電体膜に対してNbが含まれることの効果は、上述した各実施例のごとく強誘電体特性が向上する効果のみならず、その格子定数をPtなどの白金系金属結晶の格子定数に近づける効果もあることが確認された。特に、Nbの添加量が5mol%以上の領域では、その効果が顕著に表れることが確認された。
従って、本発明の手法を用いれば、電極材である金属膜と強誘電体膜との間の格子不整合が軽減され、例えば、Nbの添加量が30mol%では、格子不整合率が2%程度まで改善されることが確認された。これは、PZTNの結晶構造において、BサイトのTi原子を置換したNb原子がO原子との間でイオン結合性と共有結合性とを併せ持つ強い結合が生じ、その結合力が結晶格子を圧縮する方向に働いて、格子定数が小さくなる方向に変化していったものと考えられる。
また、Ptなどの白金系金属は化学的に安定な物質であって、強誘電体メモリや圧電アクチュエータの電極材料としては好適であり、本実施例の手法によれば、このPt金属膜上に直接PZTN膜を形成しても、格子不整合を従来よりも緩和させることができるとともに、界面特性を向上させることができる。従って、本実施例の手法は、PZT系強誘電体膜の疲労劣化を軽減することができ、強誘電体メモリや圧電アクチュエータなどへの素子応用にも適しているといえる。
(参考例)
本例ではPbZr0.4Ti0.6O3強誘電体膜を作製した。
従来の方法では、20%程度Pbを過剰に含む溶液を用いるが、これは、揮発Pbの抑制及び結晶化温度低減のためである。しかしながら、出来た薄膜で過剰Pbが、どのようになっているかは不明であり、本来ならば最小限のPb過剰量で抑えるべきである。
そこで、過剰Pbが0、5、10、15、20%である10重量%濃度のPbZr0.4Ti0.6O3形成用ゾルゲル溶液(溶媒:n−ブタノール)を用い、更に10重量%濃度のPbSiO3形成用ゾルゲル溶液(溶媒:n−ブタノール)を、それぞれ1モル%添加して、図26に示すステップST20〜ステップST25の各工程を行い、200nmのPbZr0.4Ti0.6O3強誘電体膜を形成した。この時の表面モフォロジーは図27(A)〜図27(C)に示すようであり、XRDパターンは図28(A)〜図28(C)に示すようであった。
従来は20%程度過剰なPbが必要であったが、5%過剰のPbで十分に結晶化が進行していることが示された。このことは、わずか1モル%のPbSiO3触媒が、PZTの結晶化温度を下げたために、過剰Pbは殆どいらないことを示している。以降、PZT、PbTiO3、及びPbZrTiO3形成用溶液としては、全て5%Pb過剰溶液を用いている。
次に、10重量%濃度のPbZrO3形成用ゾルゲル溶液(溶媒:n−ブタノール)及び10重量%濃度のPbTiO3形成用ゾルゲル溶液(溶媒:n−ブタノール)を4:6の割合で混合した溶液に10重量%濃度のPbSiO3形成用ゾルゲル溶液(溶媒:n−ブタノール)を、1モル%添加した混合溶液を用いて図2のフローにしたがって、200nm−PbZr0.4Ti0.6O3強誘電体膜を作製した。この時の、ヒステリシス特性は、図29(A)及び図29(B)に示すように、角型性の良好なものであった。しかしながら、同時にリーキーであることがわかった。
また、比較のために、従来の方法で、前述の図26のフローを用いて、10重量%濃度のPbZr0.4Ti0.6O3形成用ゾルゲル溶液(溶媒:n−ブタノール)に10重量%濃度のPbSiO3形成用ゾルゲル溶液(溶媒:n−ブタノール)を、1モル%添加した混合溶液を用いて、200nm−PbZr0.4Ti0.6O3強誘電体薄膜を作製した。この時、ヒステリシス特性は、図30に示すように、あまり良好なヒステリシスはえられなかった。
そこで、それぞれの強誘電体膜を用いて脱ガス分析を行ったところ、図31(A)及び図31(B)のようであった。
図31(A)に示すように、PZTゾルゲル溶液で作製した従来の強誘電体膜は、室温から1000℃までの温度上昇に対して、常にHやCに纏わる脱ガスが確認された。
一方、図31(B)に示すように、10重量%濃度のPbZrO3形成用ゾルゲル溶液(溶媒:n−ブタノール)及び10重量%濃度のPbTiO3形成用ゾルゲル溶液(溶媒:n−ブタノール)を4:6の割合で混合した溶液を用いた本願発明による強誘電体膜の場合は、分解するまで殆ど脱ガスが見られないことが判った。
このことは、10重量%濃度のPbZrO3形成用ゾルゲル溶液(溶媒:n−ブタノール)及び10重量%濃度のPbTiO3形成用ゾルゲル溶液(溶媒:n−ブタノール)を4:6の割合で混合した溶液を用いることで、初めに混合溶液中の10重量%濃度のPbTiO3形成用ゾルゲル溶液(溶媒:n−ブタノール)によりPt上でPbTiO3が結晶化し、これが結晶初期核となり、またPtとPZTとの格子ミスマッチを解消し、PZTが容易に結晶化したものと思われた。かつ、混合溶液を用いることで、PbTiO3とPZTが良好な界面で連続して形成され、良好なヒステリシスの角型性へと繋がったものと考えられる。
2.強誘電体メモリ装置
図32(A)及び図32(B)は、本発明の実施形態における、単純マトリクス型の強誘電体メモリ装置300の構成を示した図である。図32(A)はその平面図、図32(B)は図32(A)のA−A線に沿った断面図である。強誘電体メモリ装置300は、図32(A)及び図32(B)に示すように、基板308上に形成された所定の数配列されたワード線301〜303と、所定の数配列されたビット線304〜306とを有する。ワード線301〜303とビット線304〜306との間には、上記実施の形態において説明したPZTNからなる強誘電体膜307が挿入され、ワード線301〜303とビット線304〜306との交差領域に強誘電体キャパシタが形成される。
この単純マトリクスにより構成されるメモリセルを配列した強誘電体メモリ装置300において、ワード線301〜303とビット線304〜306との交差領域に形成される強誘電体キャパシタヘの書き込みと読み出しは、図示しない周辺の駆動回路や読み出し用の増幅回路等(これらを「周辺回路」と称す)により行う。この周辺回路は、メモリセルアレイと別の基板上にMOSトランジスタにより形成して、ワード線301〜303及びビット線304〜306に接続するようにしてもよいし、あるいは基板308に単結晶シリコン基板を用いることにより、周辺回路をメモリセルアレイと同一基板上に集積化することも可能である。
図33は、本実施の形態における、メモリセルアレイが周辺回路と共に同一基板上に集積化されている強誘電体メモリ装置300の一例を示す断面図である。
図33において、単結晶シリコン基板401上にMOSトランジスタ402が形成され、このトランジスタ形成領域が周辺回路部となる。MOSトランジスタ402は、単結晶シリコン基板401、ソース・ドレイン領域405、ゲート絶縁膜403、およびゲート電極404により構成される。
また、強誘電体メモリ装置300は、素子分離用酸化膜406、第1の層間絶縁膜407、第1の配線層408、および第2の層間絶縁膜409を有する。
また、強誘電体メモリ装置300は、強誘電体キャパシタ420からなるメモリセルアレイを有し、強誘電体メモリ420は、ワード線またはビット線となる下部電極(第1電極または第2電極)410、強誘電体相と常誘電体相とを含む強誘電体膜411、および強誘電体膜411の上に形成されてビット線またはワード線となる上部電極(第2電極または第1電極)412から構成される。
さらに、強誘電体メモリ装置300は、強誘電体キャパシタ420の上に第3の層間絶縁膜413を有し、第2の配線層414により、メモリセルアレイと周辺回路部が接続される。なお、強誘電体メモリ装置300において、第3の層間絶縁膜413と第2の配線層414との上には保護膜415が形成されている。
以上の構成を有する強誘電体メモリ装置300によれば、メモリセルアレイと周辺回路部とを同一基板上に集積することができる。なお、図4に示される強誘電体メモリ装置300は、周辺回路部上にメモリセルアレイが形成されている構成であるが、もちろん、周辺回路部上にメモリセルアレイが配置されず、メモリセルアレイは周辺回路部と平面的に接しているような構成としてもよい。
本実施の形態で用いられる強誘電体キャパシタ420は、上記実施の形態に係るPZTNから構成されるため、ヒステリシスの角形性が非常に良く、安定なディスターブ特性を有する。さらに、この強誘電体キャパシタ420は、プロセス温度の低温化により周辺回路等や他の素子へのダメージが少なく、またプロセスダメージ(特に水素の還元)が少ないので、ダメージによるヒステリシスの劣化を抑えることができる。したがって、かかる強誘電体キャパシタ420を用いることで、単純マトリクス型強誘電体メモリ装置300の実用化が可能になる。
また図34(A)には、変形例として1T1C型強誘電体メモリ装置500の構造図を示す。図34(B)は、強誘電体メモリ装置500の等価回路図である。
強誘電体メモリ装置500は、図34に示すように、下部電極501、プレート線に接続される上部電極502、および本実施の形態のPZTN強誘電体を適用した強誘電体膜503からなるキャパシタ504(1C)と、ソース/ドレイン電極の一方がデータ線505に接続され、ワード線に接続されるゲート電極506を有するスイッチ用のトランジスタ素子507(1T)からなるDRAMに良く似た構造のメモリ素子である。1T1C型のメモリは書き込み及び読み出しが100ns以下と高速で行うことが出来、かつ書き込んだデータは不揮発であるため、SRAMの置き換え等に有望である。
3.圧電素子およびインクジェット式記録ヘッド
以下に、本発明の実施形態における、インクジェット式記録ヘッドについて詳細に説明する。
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
そして、たわみ振動モードのアクチュエータを使用したものとしては、例えば、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電体層を形成し、この圧電体層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが知られている。
図38は、本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図39は、図38の平面図及びA−A’断面図であり、図40は、圧電素子700の層構造を示す概略図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。なお、連通部13は、後述する封止基板30のリザーバ部32と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ800の一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、厚さが例えば約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、厚さが例えば、約0.4μmの絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1.0μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子700を構成している。ここで、圧電素子700は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子700の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子700の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子700と当該圧電素子700の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。なお、圧電体層70は、各圧力発生室12毎に独立して設けられ、図40に示すように、複数層の強誘電体膜71(71a〜71f)で構成されている。
インクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図41は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図41に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上に搬送されるようになっている。
なお、液体噴射ヘッドとしてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドを一例として説明したが、本発明は、圧電素子を用いた液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
本実施の形態の圧電素子は、上記実施の形態に係るPZTN膜を圧電体層に用いるため、次の効果が得られる。
(1)圧電体層中の共有結合性が向上するため、圧電定数を向上させることができる。
(2)圧電体層中のPbOの欠損を抑えることができるため、圧電体層の電極との界面における異相の発生が抑制されて電界が加わり易くなり、圧電素子としての効率を向上させることができる。
(3)圧電体層のリーク電流が抑えられるため、圧電体層を薄膜化することができる。
また、本実施の形態の液体噴射ヘッド及び液体噴射装置は、上記の圧電体層を含む圧電素子を用いるため、特に次の効果が得られる。
(4)圧電体層の疲労劣化を軽減することができるため、圧電体層の変位量の経時変化を抑えて、信頼性を向上させることができる。
以上に、本発明に好適な実施の形態について述べてきたが、本発明は、上述したものに限られず、発明の要旨の範囲内において種々の変形態様により実施することができる。
本実施形態における強誘電体キャパシタを模式的に示す断面図。
本実施形態におけるPZTN膜をスピンコート法で形成するためのフローチャートを示す図。
本実施形態における強誘電体キャパシタのP(分極)−V(電圧)ヒステリシス曲線を示す図。
本実施形態に係る実施例1におけるPZTN膜の表面モフォロジーを示す図。
本実施形態に係る実施例1におけるPZTN膜の結晶性を示す図。
本実施形態に係る実施例1におけるPZTN膜の膜厚と表面モフォロジーとの関係を示す図。
本実施形態に係る実施例1におけるPZTN膜の膜厚と結晶性との関係を示す図。
本実施形態に係る実施例1におけるPZTN膜の膜厚とヒステリシス特性を示す図。
本実施形態に係る実施例1におけるPZTN膜の膜厚とヒステリシス特性を示す図。
本実施形態に係る実施例1におけるPZTN膜のリーク電流特性を示す図。
本実施形態に係る実施例1におけるPZTN膜の疲労特性およびスタティックインプリント特性を示す図。
本実施形態に係る実施例1におけるオゾンTEOSによるSiO2保護膜形成のキャパシタ構造を示す図。
本実施形態に係る実施例1におけるオゾンTEOSによるSiO2保護膜形成後のキャパシタのヒステリシス特性を示す図。
本実施形態に係る実施例1における従来PZT膜のリーク電流特性を示す図。
本実施形態に係る実施例1における従来PZTキャパシタの疲労特性を示す図。
本実施形態に係る実施例1における従来PZTキャパシタのスタティックインプリント特性を示す図。
本実施形態に係る実施例2におけるPZTN膜のヒステリシス特性を示す図。
本実施形態に係る実施例2におけるPZTN膜のヒステリシス特性を示す図。
本実施形態に係る実施例2におけるPZTN膜のヒステリシス特性を示す図。
本実施形態に係る実施例2におけるPZTN膜のX線回折パターンを示す図。
本実施形態に係る実施例2におけるPZTN結晶中のPb欠損量とNbの組成比の関係を示す図。
ペロブスカイト結晶であるWO3の結晶構造を説明するための図。
本実施形態に係る実施例3におけるPZTN膜の形成工程を模式的に示す図。
本実施形態に係る実施例3におけるPZTN膜の格子定数の変化を説明するための図。
本実施形態に係る実施例3におけるPZTN膜とPt金属膜との格子不整合率の変化を説明するための図。
本実施形態の参考例における、従来のPZT膜をスピンコート法で形成するためのフローチャートを示す図。
本実施形態の参考例におけるPZT膜の表面モフォロジーを示す図。
本実施形態の参考例におけるPZT膜の結晶性を示す図。
本実施形態の参考例における正方晶PZT膜のヒステリシスを示す図。
本実施形態の参考例における従来の正方晶PZT膜のヒステリシスを示す図。
本実施形態の参考例における正方晶PZT膜の脱ガス分析結果を示す図。
本実施形態における単純マトリクス型の強誘電体メモリ装置を模式的に示す平面図及び断面図。
本実施形態における、メモリセルアレイが周辺回路と共に同一基板上に集積化されている強誘電体メモリ装置の一例を示す断面図。
本実施形態の変形例における1T1C型強誘電体メモリを模式的に示す断面図及びその回路図。
PZT系強誘電体の構成元素の結合に関する諸特性を示す図。
ブラウンミラライト型結晶構造のショットキー欠陥を説明するための図。
強誘電体の空間電荷分極を説明するための図。
本実施形態に係る記録ヘッドの分解斜視図。
本実施形態に係る記録ヘッドの平面図及び断面図。
本実施形態に係る圧電素子の層構造を示す概略図。
本実施形態に係るインクジェット式記録装置の一例を示す概略図。
本実施形態に係るPZTにTa又はWを添加した強誘電体膜のヒステリシス特性を示す図。
符号の説明
101 強誘電体膜、102 第1電極、103 第2電極