上記目的を達成するために、この発明の一の局面によるソフトフェライトコアの製造方法は、ソフトフェライト原料を準備する工程と、ソフトフェライト原料を仮焼する工程と、ソフトフェライト原料に、アクリル系バインダを0.5質量%以上10質量%以下の含有率で添加することにより造粒粉を形成する工程と、造粒粉を、金型を用いて一軸圧縮することにより成形体を形成する工程と、成形体を焼成することにより、アクリル系バインダを除去して焼結体を形成する工程とを備えている。
この一の局面によるソフトフェライトコアの製造方法では、上記のように、ソフトフェライト原料にアクリル系バインダを添加することにより造粒粉を形成することによって、アクリル系バインダの吸湿性は、ポリビニルアルコール(PVA)バインダの吸湿性よりも低いので、アクリル系バインダを含有する造粒粉の吸湿性は、PVAバインダを含有する造粒粉の吸湿性よりも低くなる。これにより、成形時に、造粒粉や成形体の一部が金型に付着するのを抑制することができるので、装置を停止して、金型に付着した造粒粉や成形体を除去する作業の頻度を減少させることができる。その結果、焼結体(ソフトフェライトコア)の成形時の生産効率を向上させることができる。また、アクリル系バインダを0.5質量%以上の割合で含有する造粒粉を用いることによって、造粒粉に含有されるバインダの減少に起因する成形体の強度の低下を抑制することができるので、成形体をプレス装置から焼結炉に移動させて焼成する際に、成形体が破損するのを抑制することができる。その結果、ソフトフェライトコアの焼結時の生産効率も向上させることができる。また、アクリル系バインダを10質量%以下の割合で含有する造粒粉を用いることによって、造粒粉に含有されるバインダの増加に伴って造粒粉の強度が高くなりすぎることに起因して、成形時に造粒粉がつぶれにくくなるのを抑制することができるので、成形体の内部に空隙が発生するのを抑制することができる。これにより、緻密な構造を有する成形体を得ることができるので、焼結体の強度を向上させることができる。また、アクリル系バインダを10質量%以下の比較的少ない割合で含有する造粒粉を用いることによって、成形体の焼成時に、成形体の表面のフェライト化が終了するより前に、すべてのアクリル系バインダを容易に成形体から脱離させることができるので、成形体の表面のフェライト化が終了して行き場のなくなったアクリル系バインダがフェライト化した成形体の表面を突き破って外部に噴出するのを抑制することができる。これによって、焼結体の表面や内部にクラックが発生するのを抑制することができるので、焼結体(ソフトフェライトコア)の強度を向上させることができる。
また、この一の局面によるソフトフェライトコアの製造方法では、上記のように、ソフトフェライト原料にアクリル系バインダを添加することにより造粒粉を形成することによって、アクリル系バインダの柔軟性は、ポリビニルアルコール(PVA)バインダの柔軟性よりも高いので、アクリル系バインダを含有する造粒粉の柔軟性は、PVAバインダを含有する造粒粉の柔軟性よりも高くなる。これにより、造粒粉を、金型を用いて一軸圧縮することにより成形体を形成する際に、造粒粉が容易につぶれるので、造粒粉間に空隙が生じるのを抑制することができる。これにより、成形体を焼成することにより形成された焼結体の密度を上昇させることができるとともに、焼結体をより均質にすることができる。その結果、高い強度を有し、かつ、緻密な構造を有する焼結体(ソフトフェライトコア)を得ることができる。また、焼結体の密度を上昇させることができるので、焼結体におけるフェライト成分の密度が上昇する。その結果、焼結体(ソフトフェライトコア)の磁気特性を向上させることができる。
上記一の局面によるソフトフェライトコアの製造方法において、好ましくは、造粒粉を形成する工程は、アクリル系バインダを含有するとともに、ポリビニルアルコールのみからなるバインダを含有する造粒粉よりも低い吸湿性を有する造粒粉を形成する工程を含む。このように構成すれば、容易に、成形時に、造粒粉や成形体の一部が金型に付着するのを抑制することができる。
上記一の局面によるソフトフェライトコアの製造方法において、好ましくは、造粒粉を形成する工程は、アクリル系バインダを含有するとともに、ポリビニルアルコールのみからなるバインダを含有する造粒粉よりも成形時につぶれやすい造粒粉を形成する工程を含む。このように構成すれば、容易に、成形体の形成時に、造粒粉間に空隙が生じるのを抑制することができる。
上記一の局面によるソフトフェライトコアの製造方法において、好ましくは、造粒粉を形成する工程は、40μm以上200μm以下の平均粒径を有する造粒粉を形成する工程を含む。このように構成すれば、たとえば、10cm角で、7mmの高さを有する比較的大きいサイズの成形体を形成する際には、約150μmの平均粒径を有する比較的大きい造粒粉を用いるとともに、5mm角で、5mm以下の高さを有する比較的小さいサイズの成形体を形成する際には、約60μmの平均粒径を有する比較的小さい造粒粉を用いるようにすれば、小さな平均粒径を有する造粒粉を用いて、比較的大きい成形体を形成する場合や、大きな平均粒径を有する造粒粉を用いて、比較的小さい成形体を形成する場合と異なり、1つの成形体内における密度が不均一になるのを抑制することができる。これにより、密度にばらつきのない緻密な構造を有する成形体を容易に得ることができる。
上記一の局面によるソフトフェライトコアの製造方法において、好ましくは、アクリル系バインダは、アクリル酸系モノマーとメタクリル酸系モノマーとの共重合体を含む。このように構成すれば、アクリル酸系モノマーとメタクリル酸系モノマーとの共重合体からなるアクリル系バインダは、アクリル酸系モノマーとメタクリル酸系モノマーとの共重合体以外のアクリル系バインダに比べて、成形体を焼成する際に、成形体からより噴出されやすいので、焼結体の表面や内部にクラックが発生するのをより抑制することができると考えられる。これによって、アクリル酸系モノマーとメタクリル酸系モノマーとの共重合体からなるアクリル系バインダを成形体が含有する場合には、焼結体(ソフトフェライトコア)の強度をより向上させることができると考えられる。
上記一の局面によるソフトフェライトコアの製造方法において、好ましくは、造粒粉を形成する工程は、ソフトフェライト原料に、アクリル系バインダと、部分ケン化型ポリビニルアルコールとの質量比率が5:1〜1:1の範囲内となるように、アクリル系バインダに加えて部分ケン化型ポリビニルアルコールを添加する工程を含む。このように構成すれば、アクリル系バインダに加えて、アクリル系バインダよりも柔軟性の低い部分ケン化型ポリビニルアルコールを、アクリル系バインダと部分ケン化型ポリビニルアルコールとの質量比率が5:1〜1:1の範囲内となるようにソフトフェライト原料に添加することによって、ソフトフェライト原料に添加するバインダ中の部分ケン化型ポリビニルアルコールの割合が高くなるのを抑制することができるので、造粒粉の柔軟性が低下するのを抑制することができる。これにより、成形時に、造粒粉が容易につぶれるので、成形体の内部に空隙が発生するのを抑制することができる。このため、成形体を焼成することにより形成された焼結体の密度を上昇させることができるので、焼結体におけるフェライト成分の密度を上昇させることができる。その結果、焼結体(ソフトフェライトコア)の磁気特性を向上させることができる。また、アクリル系バインダに加えて、アクリル系バインダよりも柔軟性の低い部分ケン化型ポリビニルアルコールを、アクリル系バインダと部分ケン化型ポリビニルアルコールとの質量比率が5:1〜1:1の範囲内となるようにソフトフェライト原料に添加することによって、ソフトフェライト原料に添加するバインダ中のアクリル系バインダの割合が高くなるのを抑制することができるので、造粒粉の柔軟性が高くなりすぎることに起因する成形体の強度の低下を抑制することができる。このため、成形体を焼成することにより得られた焼結体の表面や内部にクラックが発生するのを抑制することができるので、緻密な構造を有する焼結体を得ることができる。これによっても、焼結体におけるフェライト成分の密度を上昇させることができるので、焼結体(ソフトフェライトコア)の磁気特性を向上させることができる。
この場合、好ましくは、造粒粉を形成する工程は、ソフトフェライト原料に、アクリル系バインダと、部分ケン化型ポリビニルアルコールとの質量比率が3:1〜1:1の範囲内となるように、アクリル系バインダに加えて部分ケン化型ポリビニルアルコールを添加する工程を含む。このように構成すれば、ソフトフェライト原料に添加するバインダ中のアクリル系バインダの割合が高くなるのをより抑制することができるので、造粒粉の柔軟性が高くなりすぎるのをより抑制することができる。これにより、成形体の表面を構成する造粒粉が成形時の加圧力で直ちにつぶれることにより成形時の加圧力が成形体の表面を構成する造粒粉に吸収されることに起因して、成形体の内部を構成する造粒粉にまで加圧力が十分に伝達されなくなるのを抑制することができるので、成形時の加圧力をすべての造粒粉に均一に伝達することができる。このため、成形時にすべての造粒粉が十分につぶれるので、成形体の内部に空隙が発生するのを抑制することができる。これにより、成形体を焼成することにより得られた焼結体の密度をより上昇させることができるので、焼結体におけるフェライト成分の密度をより上昇させることができる。その結果、焼結体(ソフトフェライトコア)の磁気特性をより向上させることができる。
上記ソフトフェライト原料に、アクリル系バインダに加えて部分ケン化型ポリビニルアルコールを添加する工程において、好ましくは、部分ケン化型ポリビニルアルコールは、85mol%以上90mol%以下のケン化度を有する。このように構成すれば、85mol%以上のケン化度を有する部分ケン化型ポリビニルアルコールを用いて造粒粉を形成することによって、造粒粉の吸湿性が高くなるのを抑制することができるので、造粒粉を圧縮することにより形成された成形体の強度の低下を抑制することができる。これにより、成形体をプレス装置から焼結炉に移動させて焼成する際に、成形体が破損するのをより有効に抑制することができる。また、90mol%以下のケン化度を有する部分ケン化型ポリビニルアルコールを用いて造粒粉を形成することによって、造粒粉の強度が高くなりすぎるのを抑制することができるので、成形時に造粒粉がつぶれやすくなる。これにより、成形体の内部に空隙が発生するのを抑制することができるので、緻密な構造を有する成形体を容易に得ることができる。その結果、焼結体(ソフトフェライトコア)の強度を容易に向上させることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるソフトフェライトコアの製造方法における造粒粉(ソフトフェライト原料粉末)の粉末成形方法において使用するプレス装置を部分的に示した斜視図である。図2〜図5は、本発明の一実施形態によるソフトフェライトコアの製造方法における造粒粉(ソフトフェライト原料粉末)の粉末成形方法を説明するための断面図である。以下、図1〜図5を参照して、本発明の一実施形態によるソフトフェライトコアの製造方法について説明する。なお、本実施形態では、円柱形状を有するソフトフェライトコアの製造方法について説明する。
まず、ソフトフェライト原料としては、Fe2O3と、NiOまたはMnOとを主に含むソフトフェライト材料を用いる。組成は、Fe2O3が45mol%〜55mol%、NiOまたはMnOが10mol%〜35mol%、ZnOおよびCuOが残部である。なお、ソフトフェライト原料には、添加物として、Si、Ca、Zr、Bi、Co、TiおよびNbなどからなるグループより選択される少なくとも1つの材料の酸化物を加えてもよい。これにより、ソフトフェライトコアの磁気特性や加工性などを容易に制御することが可能になる。このような組成のソフトフェライト原料を仮焼した後、ボールミルやアトライタなどを用いて所定の粒径(約0.5μm〜約2.0μm)に粉砕する。この粉砕は、湿式粉砕および乾式粉砕のいずれの方法を用いてもよい。なお、乾式粉砕法を用いる場合には、粉砕された粉末に純水を加えることによりスラリー状にする必要がある。
ここで、本実施形態では、粉砕されたスラリー状の粉末に、アクリル系バインダ(結合剤)を約0.5質量%〜約10質量%の含有率で添加する。このアクリル系バインダは、アクリル酸系モノマーとメタクリル酸系モノマーとの共重合体を含んでいる。そして、スプレードライヤを用いて乾燥させることにより造粒粉を形成する。なお、造粒粉の平均粒径は、約40μm〜約200μmの範囲内であることが好ましい。これにより、たとえば、10cm角で、7mmの高さを有する比較的大きいサイズの成形体を形成する際には、約150μmの平均粒径を有する比較的大きい造粒粉を用いるとともに、5mm角で、5mm以下の高さを有する比較的小さいサイズの成形体を形成する際には、約60μmの平均粒径を有する比較的小さい造粒粉を用いるようにすれば、小さな平均粒径を有する造粒粉を用いて、比較的大きい成形体を形成する場合や、大きな平均粒径を有する造粒粉を用いて、比較的小さい成形体を形成する場合と異なり、1つの成形体内における密度が不均一になるのを抑制することが可能になる。その結果、密度にばらつきのない緻密な構造を有する成形体を容易に得ることが可能である。また、上記したスラリー状の粉末の濃度および粘性を、それぞれ、約50質量%〜約70質量%、および、約100cpに調節することにより、高い圧力伝達性を有する真球状の造粒粉を得ることが可能である。
また、本実施形態で用いるプレス装置は、図1に示すように、成形金型1と、上パンチ2と、下パンチ3と、造粒粉100aを給粉するフィーダーボックス(図示せず)と、上パンチ2および下パンチ3を駆動させるための駆動機構(図示せず)とを備えている。なお、成形金型1、上パンチ2および下パンチ3は、本発明の「金型」の一例である。また、上パンチ2および下パンチ3は、それぞれ、円形状の成形面2aおよび3aを有する。
本実施形態では、図2に示すように、上記した造粒粉(ソフトフェライト原料粉末)100aをフィーダーボックス(図示せず)により成形金型1のキャビティ1aに給粉する。この後、図3に示すように、上パンチ2を下降させるとともに、約0.7ton/cm2〜約2.0ton/cm2の加圧力で、造粒粉100a(図2参照)を約2.76g/cm3〜約3.30g/cm3の密度まで圧縮することによって、成形体100を形成する。そして、図4に示すように、上パンチ2を上昇させる。この後、図5に示すように、下パンチ3を上昇させることによって、成形体100を、成形金型1のキャビティ1aから外部に露出させる。この後、成形体100を水平方向に取り出す。次に、成形体100を焼結炉(図示せず)内で約1000℃〜約1350℃の温度条件下で焼成することにより、焼結体としてのソフトフェライトコアを形成する。なお、大気中、または、酸素濃度制御下で焼成を行うことにより、ソフトフェライトコアの磁気特性などを制御することが可能である。
次に、図6を参照して、本実施形態によるアクリル系バインダを含有する造粒粉100aの吸湿特性(吸湿量)を測定した結果について説明する。この吸湿量の測定条件としては、まず、本実施形態によるアクリル系バインダを1.0質量%の割合で含有する造粒粉100aを、厚みが10mmとなるようにプラスチック容器に充填した。次に、そのプラスチック容器を40℃の温度および80%の湿度を有する恒温恒湿槽内に載置した。そして、本実施形態によるアクリル系バインダを含有する造粒粉100aの恒温恒湿槽内での経過時間(露出時間)に対する吸湿量の変化を測定した。また、比較のために、従来例による86.5mol%〜89.0mol%のケン化度を有する部分ケン化型PVAバインダを1.0質量%の割合で含有する造粒粉を、厚みが10mmとなるようにプラスチック容器に充填した。そして、そのプラスチック容器を40℃の温度および80%の湿度を有する恒温恒湿槽内に載置した。そして、従来例による部分ケン化型PVAバインダを含有する造粒粉の恒温恒湿槽内での経過時間(露出時間)に対する吸湿量の変化を測定した。その結果が図6に示される。図6では、横軸に、露出時間が取られており、縦軸に、吸湿量が取られている。図6に示すように、従来例による86.5mol%〜89.0mol%のケン化度を有する部分ケン化型PVAバインダを1.0質量%の割合で含有する造粒粉の吸湿量は、本実施形態によるアクリル系バインダを1.0質量%の割合で含有する造粒粉100aの吸湿量の約2倍であり、本実施形態による造粒粉100aの吸湿特性が従来例による造粒粉に比べて低いことがわかった。
次に、図7を参照して、本実施形態によるアクリル系バインダを含有する成形体100の圧密特性(成形体密度)を測定した結果について説明する。この成形体密度の測定条件としては、まず、本実施形態によるアクリル系バインダを1.0質量%の割合で含有する造粒粉100aを、所定の加圧力(42.49MPa〜212.44MPa)下で圧縮成形することにより、本実施形態によるアクリル系バインダを含有する成形体100を形成した。そして、造粒粉100aに加える圧力の大きさを変化させて本実施形態によるアクリル系バインダを1.0質量%の割合で含有する成形体100の加圧力に対する密度の変化を測定した。また、比較のために、従来例による86.5mol%〜89.0mol%のケン化度を有する部分ケン化型PVAバインダを1.0質量%の割合で含有する造粒粉を、所定の加圧力(42.49MPa〜212.44MPa)下で圧縮成形することにより、従来例による部分ケン化型PVAバインダを含有する成形体を形成した。そして、造粒粉に加える圧力の大きさを変化させて従来例による86.5mol%〜89.0mol%のケン化度を有する部分ケン化型PVAバインダを1.0質量%の割合で含有する成形体の加圧力に対する密度の変化を測定した。その結果が図7に示される。図7では、横軸に、加圧力が取られており、縦軸に、成形体密度が取られている。図7に示すように、本実施形態によるアクリル系バインダを1.0質量%の割合で含有する成形体100は、所定の加圧力(42.49MPa〜212.44MPa)下で形成した場合、従来例による86.5mol%〜89.0mol%のケン化度を有する部分ケン化型PVAバインダを1.0質量%の割合で含有する成形体と比べて、より高い成形体密度を有することがわかった。これは、本実施形態による造粒粉100aに含有されるアクリル系バインダの柔軟性が、従来例による造粒粉に含有される部分ケン化型PVAバインダの柔軟性よりも高いために、本実施形態によるアクリル系バインダを含有する造粒粉は、従来例による部分ケン化型PVAバインダを含有する造粒粉と比べて、成形時によりつぶれやすいからであると考えられる。
次に、図8および図9を参照して、本実施形態によるアクリル系バインダを含有する成形体の破壊強度と、その成形体を焼成することにより形成された本実施形態による焼結体の破壊強度とを測定した結果について説明する。この破壊強度の測定条件としては、まず、本実施形態によるアクリル系バインダを1.0質量%の割合で含有する造粒粉100aを、169.96MPaの加圧力で圧縮成形することにより、アクリル系バインダを1.0質量%の割合で含有するとともに、20mmの外径、10mmの内径および5mmの厚みを有する本実施形態に対応するリング状の成形体を形成した。そして、本実施形態に対応するリング状の成形体を外径方向から加圧し、成形体が破壊されたときの加圧力を測定した。また、上記した本実施形態に対応するリング状の成形体を1280℃の温度条件下、および、1.0%の濃度を有する酸素濃度制御下で3時間焼成することにより、本実施形態に対応するリング状の焼結体を形成した。そして、本実施形態に対応するリング状の焼結体を外径方向から加圧し、焼結体が破壊されたときの加圧力を測定した。また、比較のために、従来例による86.5mol%〜89.0mol%のケン化度を有する部分ケン化型PVAバインダを1.0質量%の割合で含有する造粒粉を、169.96MPaの加圧力で圧縮成形することにより、86.5mol%〜89.0mol%のケン化度を有する部分ケン化型PVAバインダを1.0質量%の割合で含有するとともに、20mmの外径、10mmの内径および5mmの厚みを有する従来例に対応するリング状の成形体を形成した。そして、従来例に対応するリング状の成形体を外径方向から加圧し、成形体が破壊されたときの加圧力を測定した。また、上記した従来例に対応するリング状の成形体を1280℃の温度条件下、および、1.0%の濃度を有する酸素濃度制御下で3時間焼成することにより、従来例に対応するリング状の焼結体を形成した。そして、従来例に対応するリング状の焼結体を外径方向から加圧し、焼結体が破壊されたときの加圧力を測定した。それらの結果が図8および図9に示される。
図8および図9では、縦軸に、本実施形態に対応する成形体および焼結体と、従来例に対応する成形体および焼結体とが破壊されたときの加圧力(破壊強度)が取られている。なお、破壊実験は、本実施形態に対応する成形体および焼結体と、従来例に対応する成形体および焼結体とにおいて、それぞれ、30回ずつ行った。その結果を図8中および図9中に「×」印で表す。図8に示すように、本実施形態に対応するアクリル系バインダを1.0質量%の割合で含有する成形体は、従来例に対応する86.5mol%〜89.0mol%のケン化度を有する部分ケン化型PVAバインダを1.0質量%の割合で含有する成形体よりも低い加圧力で破壊されることがわかった。これに対して、図9に示すように、本実施形態に対応するアクリル系バインダを1.0質量%の割合で含有する成形体から形成された焼結体は、従来例に対応する86.5mol%〜89.0mol%のケン化度を有する部分ケン化型PVAバインダを1.0質量%の割合で含有する成形体から形成された焼結体よりも高い加圧力で破壊されることがわかった。これは、従来例による造粒粉に含有される部分ケン化型PVAバインダの柔軟性が、本実施形態による造粒粉100aに含有されるアクリル系バインダの柔軟性よりも低いために、従来例に対応する部分ケン化型PVAバインダを含有する成形体の強度が、本実施形態に対応するアクリル系バインダを含有する成形体の強度よりも高くなったからであると考えられる。その一方、本実施形態によるアクリル系バインダを含有する造粒粉100aは、従来例による部分ケン化型PVAバインダを含有する造粒粉に比べて、成形時によりつぶれやすいので、造粒粉間に空隙が発生しにくいと考えられる。これにより、本実施形態に対応するアクリル系バインダを含有する成形体は、従来例に対応する部分ケン化型PVAバインダを含有する成形体に比べて、より緻密な構造を有するので、本実施形態に対応する焼結体は、従来例に対応する焼結体よりも高い密度を有すると考えられる。その結果、より強度が高くなったと考えられる。
次に、図10を参照して、本実施形態によるアクリル系バインダを含有する成形体を焼成することにより形成された焼結体の磁気特性(飽和磁束密度)を測定した結果について説明する。なお、図10中の2点鎖線により囲まれた領域A〜E内の複数の焼結体は、同一の加圧力(A:42.49MPa、B:84.98MPa、C:127.47MPa、D:169.96MPaおよびE:212.44MPa)下で形成された焼結体であることを意味する。この飽和磁束密度の測定条件としては、まず、本実施形態によるアクリル系バインダを1.0質量%の割合で含有する造粒粉100aを、複数種類の加圧力(図10のA〜E参照)で圧縮成形することにより、本実施形態によるアクリル系バインダを1.0質量%の割合で含有する成形体100を形成した。そして、本実施形態による成形体100を1280℃の温度条件下、および、1.0%の濃度を有する酸素濃度制御下で3時間焼成することにより、本実施形態によるトロイダル形状を有する焼結体を形成した。そして、本実施形態によるトロイダル形状の各焼結体に巻線を施し、飽和磁束密度を測定した。また、比較のために、従来例による部分ケン化型PVAバインダを1.0質量%の割合で含有する造粒粉を、上記と同様の加圧力(図10のA〜E参照)で複数ずつ圧縮成形することにより、従来例による部分ケン化型PVAバインダを1.0質量%の割合で含有する成形体を形成した。そして、従来例による成形体を1280℃の温度条件下、および、1.0%の濃度を有する酸素濃度制御下で3時間焼成することにより、従来例によるトロイダル形状を有する焼結体を形成した。そして、従来例によるトロイダル形状の各焼結体に巻線を施し、飽和磁束密度を測定した。その結果が図10に示される。
図10に示すように、本実施形態によるアクリル系バインダを含有する成形体100から形成される焼結体は、同一の加圧力下で形成された従来例による部分ケン化型PVAバインダを含有する成形体から形成される焼結体に比べて、より高い飽和磁束密度を有することがわかった。これは、本実施形態による造粒粉100aに含有されるアクリル系バインダの柔軟性が、従来例による造粒粉に含有される部分ケン化型PVAバインダの柔軟性よりも高いため、成形時に造粒粉間に空隙が生じるのを抑制できるからであると考えられる。これにより、成形体および焼結体の構造がより緻密になるので、焼結体におけるフェライト成分の密度が上昇したと考えられる。
本実施形態では、上記のように、ソフトフェライト原料にアクリル系バインダを添加することにより造粒粉(ソフトフェライト原料粉末)100aを形成することによって、アクリル系バインダの吸湿性は、ポリビニルアルコール(PVA)バインダの吸湿性よりも低いので、アクリル系バインダを含有する造粒粉100aの吸湿性は、PVAバインダを含有する造粒粉の吸湿性よりも低くなる。これにより、成形時に、造粒粉100aが上パンチ2および下パンチ3に付着するのを抑制することができるので、装置を停止して、上パンチ2および下パンチ3に付着した造粒粉100aを除去する作業の頻度を減少させることができる。その結果、ソフトフェライトコアの成形時の生産効率を向上させることができる。
また、本実施形態では、アクリル系バインダを約0.5質量%以上の割合で含有する造粒粉100aを用いることによって、造粒粉100aに含有されるバインダの減少に起因する成形体100の強度の低下を抑制することができるので、成形体100をプレス装置から焼結炉に移動させて焼成する際に、成形体100が破損するのを抑制することができる。その結果、ソフトフェライトコアの焼結時の生産効率も向上させることができる。また、アクリル系バインダを約10質量%以下の割合で含有する造粒粉100aを用いることによって、造粒粉100aに含有されるバインダの増加に伴って造粒粉100aの強度が高くなりすぎることに起因して、成形時に造粒粉100aがつぶれにくくなるのを抑制することができるので、成形体100の内部に空隙が発生するのを抑制することができる。これにより、緻密な構造を有する成形体100を得ることができるので、ソフトフェライトコア(焼結体)の強度を向上させることができる。また、アクリル系バインダを約10質量%以下の比較的少ない割合で含有する造粒粉100aを用いることによって、成形体100の焼成時に、成形体100の表面のフェライト化が終了するより前に、すべてのアクリル系バインダが容易に成形体100から脱離することができるので、成形体100の表面のフェライト化が終了して行き場のなくなったアクリル系バインダがフェライト化した成形体100の表面を突き破って外部に噴出するのを抑制することができる。これによって、焼結体の表面や内部にクラックが発生するのを抑制することができるので、焼結体(ソフトフェライトコア)の強度を向上させることができる。
また、本実施形態では、ソフトフェライト原料にアクリル系バインダを添加することにより造粒粉100aを形成することによって、アクリル系バインダの柔軟性は、ポリビニルアルコール(PVA)バインダの柔軟性よりも高いので、アクリル系バインダを含有する造粒粉100aの柔軟性は、PVAバインダを含有する造粒粉の柔軟性よりも高くなる。これにより、造粒粉100aを、成形金型1を用いて一軸圧縮することにより成形体100を形成する際に、造粒粉100aが容易につぶれるので、造粒粉100a間に空隙が生じるのを抑制することができる。これにより、成形体100を焼成することにより形成された焼結体の密度を上昇させることができるとともに、焼結体をより均質にすることができる。その結果、高い強度を有し、かつ、緻密な構造を有するソフトフェライトコア(焼結体)を得ることができる。また、焼結体の密度を上昇させることができるので、焼結体におけるフェライト成分の密度が上昇する。その結果、ソフトフェライトコア(焼結体)の磁気特性を向上させることができる。
次に、上記した本発明の一実施形態の効果(上パンチ2および下パンチ3の成形面2aおよび3aへの造粒粉100aの付着抑制効果)を確認するために行った第1の比較実験について説明する。この第1の比較実験では、アクリル系バインダを添加した上記実施形態に対応する実施例1による成形体100と、部分ケン化型PVAバインダを添加した上記従来例に対応する比較例1による成形体との成形時に、上パンチおよび下パンチの成形面への造粒粉の付着(粉付状態)が発生するまでの成形回数を測定した。以下、詳細に説明する。
[造粒粉の作製]
(実施例1)
ソフトフェライト原料として、Fe2O3を70.3質量%と、MnOを16.1質量%と、ZnOを13.6質量%とを含むソフトフェライト材料を用いた。このような組成のソフトフェライト原料を仮焼した後、1.05μmの平均粒径を有するように粉砕し、スラリー状の粉末にした。ここで、実施例1では、スラリー状の粉末にアクリル酸系モノマーとメタクリル酸系モノマーとの共重合体を含むアクリル系バインダを1.0質量%の含有率となるように添加した。そして、スプレードライヤで乾燥させることにより、80μmの平均粒径を有する実施例1による造粒粉100aを作製した。
(比較例1)
スラリー状の粉末に部分ケン化型PVAバインダを1.0質量%の含有率となるように添加すること以外は、上記実施例1と同様にして、80μmの平均粒径を有する比較例1による造粒粉を作製した。
[ソフトフェライトコアの作製]
(実施例1および比較例1共通)
図2〜図5に示した本発明の一実施形態による粉末成形法を用いて、上記のように作製した実施例1および比較例1による造粒粉を圧縮成形することにより、20mmの直径、5.0mmの厚みおよび3.05g/cm3の密度を有する円柱形状の成形体を形成した。そして、成形体を焼結炉内で1280℃の温度条件下、および、1.0%の濃度を有する酸素濃度制御下で3時間焼成することにより、焼結体としてのソフトフェライトコアを作製した。
[粉付サイクル特性試験]
上記のように作製した実施例1による1.0質量%の割合でアクリル系バインダを含有する造粒粉100aから成形体100を連続して成形し、何回目の成形時に上パンチ2の成形面2aまたは下パンチ3の成形面3aが粉付の状態(造粒粉(ソフトフェライト原料粉末)が上パンチまたは下パンチに付着した状態)になったかを調べた。また、比較の対照として、上記のように作製した比較例1による1.0質量%の割合で部分ケン化型PVAバインダを含有する造粒粉から成形体を連続して成形し、何回目の成形時に上パンチの成形面または下パンチの成形面が粉付の状態(造粒粉(ソフトフェライト原料粉末)が上パンチまたは下パンチに付着した状態)になったかを調べた。その結果を図11に示す。図11を参照して、実施例1では、1000回以上成形を繰り返しても上パンチ2および下パンチ3の成形面2aおよび3aは、粉付の状態にならずに、良好な成形体100を得ることができた。これに対して、比較例1では、成形を10回程度繰り返し行った場合にも、上パンチの成形面または下パンチの成形面が粉付の状態になり、成形体の表面が凹凸形状(あばた状)になった。これにより、造粒粉を形成する際に、スラリー状の粉末にバインダ(結合剤)としてアクリル系バインダを添加することが有効であることが確認できた。
次に、上記した本発明の一実施形態の効果(焼結体(ソフトフェライトコア)の磁気特性の向上)を確認するために行った第2の比較実験について説明する。この第2の比較実験では、アクリル系バインダを添加した上記実施形態に対応する実施例2〜5による成形体100の密度と焼結体の磁気特性(飽和磁束密度)とを測定するとともに、部分ケン化型PVAバインダのみを添加した上記従来例に対応する比較例2〜4による成形体の密度と焼結体の磁気特性(飽和磁束密度)とを測定した。そして、アクリル系バインダを添加した実施例2〜5による焼結体の磁気特性(飽和磁束密度)と部分ケン化型PVAバインダのみを添加した比較例2〜4による焼結体の磁気特性(飽和磁束密度)とを比較した。以下、詳細に説明する。
[成形体および焼結体の作製]
(実施例2)
上記実施例1と同様にして、スラリー状の粉末にアクリル酸系モノマーとメタクリル酸系モノマーとの共重合体を含むアクリル系バインダを1.0質量%の含有率となるように添加することにより、実施例2による造粒粉100aを作製した後、図2〜図5に示した本発明の一実施形態による粉末成形法を用いて、実施例2による造粒粉100aを圧縮成形した。そして、20mmの直径と、5.0mmの厚みと、2.8g/cm3、3.0g/cm3および3.3g/cm3の密度とを有する実施例2による3つの円柱形状の成形体100を形成した。そして、その3つの成形体100を焼結炉内で1280℃の温度条件下、および、1.0%の濃度を有する酸素濃度制御下で3時間焼成することにより、実施例2による3つの焼結体としてのソフトフェライトコアを作製した。
(実施例3)
スラリー状の粉末にアクリル酸系モノマーとメタクリル酸系モノマーとの共重合体を含むアクリル系バインダを5.0質量%の含有率となるように添加すること以外は、上記実施例2と同様にして、実施例3による3つの円柱形状の成形体100と、3つの焼結体としてのソフトフェライトコアとを作製した。
(実施例4)
スラリー状の粉末に、部分ケン化型PVAバインダを0.5質量%の含有率となるように添加するとともに、アクリル酸系モノマーとメタクリル酸系モノマーとの共重合体を含むアクリル系バインダを0.5質量%の含有率となるように添加すること以外は、上記実施例2と同様にして、実施例4による3つの円柱形状の成形体100と、3つの焼結体としてのソフトフェライトコアとを作製した。
(実施例5)
スラリー状の粉末に、部分ケン化型PVAバインダを0.25質量%の含有率となるように添加するとともに、アクリル酸系モノマーとメタクリル酸系モノマーとの共重合体を含むアクリル系バインダを0.75質量%の含有率となるように添加すること以外は、上記実施例2と同様にして、実施例5による3つの円柱形状の成形体100と、3つの焼結体としてのソフトフェライトコアとを作製した。
(比較例2)
スラリー状の粉末に部分ケン化型PVAバインダを0.5質量%の含有率となるように添加すること以外は、上記実施例2と同様にして、比較例2による3つの円柱形状の成形体と、3つの焼結体としてのソフトフェライトコアとを作製した。
(比較例3)
スラリー状の粉末に部分ケン化型PVAバインダを1.0質量%の含有率となるように添加すること以外は、上記実施例2と同様にして、比較例3による3つの円柱形状の成形体と、3つの焼結体としてのソフトフェライトコアとを作製した。
(比較例4)
スラリー状の粉末に部分ケン化型PVAバインダを2.0質量%の含有率となるように添加すること以外は、上記実施例2と同様にして、比較例4による3つの円柱形状の成形体と、3つの焼結体としてのソフトフェライトコアとを作製した。
[飽和磁束密度の測定]
上記のようにして作製した実施例2〜5および比較例2〜4による各焼結体に巻線を施し、飽和磁束密度を測定した。その結果を以下の表1および図12に示す。
上記表1および図12を参照して、1.0質量%のアクリル系バインダを含有する実施例2では、2.8g/cm3の密度を有する成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は425mTであり、3.0g/cm3の密度を有する成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は450mTであり、3.3g/cm3の密度を有する成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は455mTであった。また、5.0質量%のアクリル系バインダを含有する実施例3では、2.8g/cm3の密度を有する成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は430mTであり、3.0g/cm3の密度を有する成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は435mTであり、3.3g/cm3の密度を有する成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は450mTであった。
また、0.5質量%の部分ケン化型PVAバインダと0.5質量%のアクリル系バインダとを1:1の質量比率で含有する実施例4では、2.8g/cm3の密度を有する成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は450mTであり、3.0g/cm3の密度を有する成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は455mTであり、3.3g/cm3の密度を有する成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は460mTであった。また、0.25質量%の部分ケン化型PVAバインダと0.75質量%のアクリル系バインダとを1:3の質量比率で含有する実施例5では、2.8g/cm3の密度を有する成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は420mTであり、3.0g/cm3の密度を有する成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は440mTであり、3.3g/cm3の密度を有する成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は455mTであった。
また、0.5質量%の部分ケン化型PVAバインダを含有する比較例2では、2.8g/cm3の密度を有する成形体を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は360mTであり、3.0g/cm3の密度を有する成形体を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は440mTであり、3.3g/cm3の密度を有する成形体を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は450mTであった。また、1.0質量%の部分ケン化型PVAバインダを含有する比較例3では、2.8g/cm3の密度を有する成形体を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は360mTであり、3.0g/cm3の密度を有する成形体を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は430mTであり、3.3g/cm3の密度を有する成形体を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は440mTであった。また、2.0質量%の部分ケン化型PVAバインダを含有する比較例4では、2.8g/cm3の密度を有する成形体を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は410mTであり、3.0g/cm3の密度を有する成形体を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は450mTであり、3.3g/cm3の密度を有する成形体を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度は455mTであった。
上記の結果から、アクリル系バインダを含有する上記実施形態に対応する実施例2〜5による2.8g/cm3の密度の成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度(425mT、430mT、450mTおよび420mT)は、部分ケン化型PVAバインダのみを含有する上記従来例に対応する比較例2〜4による2.8g/cm3の密度の成形体を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度(360mT、360mTおよび410mT)よりも高いことが確認できた。
これにより、アクリル系バインダを含有する上記実施形態に対応する実施例2〜5では、部分ケン化型PVAバインダのみを含有する上記従来例に対応する比較例2〜4と異なり、低い密度(2.8g/cm3)の成形体を用いた場合にも、420mT以上の高い磁気特性(飽和磁束密度)を有する焼結体を得ることができるので、所定の磁気特性(飽和磁束密度)を有する焼結体を得るための成形体を、低い加圧力を用いて形成することができる。これにより、造粒粉を圧縮して成形体を形成する際に、金型に造粒粉や成形体の一部が付着するのを抑制することが可能である。また、低い加圧力を用いて成形体を形成するので、金型が磨耗するのを軽減する効果もある。
また、上記表1を参照して、0.5質量%の部分ケン化型PVAバインダと0.5質量%のアクリル系バインダとを1(0.5質量%):1(0.5質量%)の質量比率で含有する実施例4では、アクリル系バインダのみを含有する実施例2および3(425mTおよび430mT)と比べて、2.8g/cm3の密度の成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度がより高い(450mT)ことが判明した。これは、以下の理由による。すなわち、ソフトフェライト原料にアクリル系バインダおよび部分ケン化型PVAバインダを1(0.5質量%):1(0.5質量%)の質量比率で含有する実施例4では、1.0質量%のアクリル系バインダを含有する実施例2および5.0質量%のアクリル系バインダを含有する実施例3と異なり、ソフトフェライト原料に部分ケン化型PVAバインダを含有するとともに、ソフトフェライト原料に添加されるバインダ中のアクリル系バインダの割合が低いので、造粒粉の柔軟性が高くなりすぎることに起因する成形体の強度の低下を抑制することができる。これにより、成形体を焼成することにより得られた焼結体の表面や内部にクラックが発生するのを抑制することができるので、緻密な構造を有する焼結体を得ることができる。その結果、焼結体におけるフェライト成分の密度を上昇させることができたと考えられる。
また、上記表1を参照して、0.5質量%の部分ケン化型PVAバインダと0.5質量%のアクリル系バインダとを1(0.5質量%):1(0.5質量%)の質量比率で含有する実施例4では、0.25質量%の部分ケン化型PVAバインダと0.75質量%のアクリル系バインダとを1(0.25質量%):3(0.75質量%)の質量比率で含有する実施例5(420mT)と比べて、2.8g/cm3の密度の成形体100を焼成して得られた焼結体の飽和磁束密度がより高い(450mT)ことが判明した。これは、以下の理由による。すなわち、0.5質量%の部分ケン化型PVAバインダと0.5質量%のアクリル系バインダとを1(0.5質量%):1(0.5質量%)の質量比率で含有する実施例4では、0.25質量%の部分ケン化型PVAバインダと0.75質量%のアクリル系バインダとを1(0.25質量%):3(0.75質量%)の質量比率で含有する実施例5と比べて、ソフトフェライト原料に添加するバインダ中のアクリル系バインダの割合が低く、かつ、部分ケン化型PVAバインダの割合が高いので、造粒粉の柔軟性が高くなりすぎるのをより抑制することができる。これにより、成形体の表面を構成する造粒粉が成形時の加圧力で直ちにつぶれることにより成形時の加圧力が成形体の表面を構成する造粒粉に吸収されることに起因して、成形体の内部を構成する造粒粉にまで加圧力が十分に伝達されなくなるのを抑制することができるので、成形時の加圧力をすべての造粒粉に均一に伝達することができる。このため、成形時にすべての造粒粉が十分につぶれるので、成形体の内部に空隙が発生するのを抑制することができる。これにより、成形体を焼成することにより得られた焼結体の密度をより上昇させることができるので、焼結体におけるフェライト成分の密度をより上昇させることができる。その結果、焼結体(ソフトフェライトコア)の磁気特性をより向上させることができたと考えられる。
これにより、0.5質量%の部分ケン化型PVAバインダと0.5質量%のアクリル系バインダとを1(0.5質量%):1(0.5質量%)の質量比率で含有する実施例4では、低い密度(2.8g/cm3)の成形体を用いた場合にも、460mTの高い磁気特性(飽和磁束密度)を有する焼結体を得ることができるので、所定の磁気特性(飽和磁束密度)を有する焼結体を得るための成形体を、より低い加圧力を用いて形成することができる。その結果、造粒粉を圧縮して成形体を形成する際に、金型に造粒粉や成形体の一部が付着するのをより抑制することが可能である。
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記実施形態および実施例では、本発明を、円柱形状のソフトフェライトコアの製造方法に適用した例について示したが、本発明はこれに限らず、円柱形状以外の円筒形状や角型形状などのソフトフェライトコアの製造方法に本発明を適用しても同様の効果を得ることができる。
また、上記実施例では、ソフトフェライト原料として、Fe2O3と、MnOと、ZnOとを含むソフトフェライト材料を用いる例について説明したが、本発明はこれに限らず、Fe2O3と、NiOと、ZnOとを含むソフトフェライト材料を用いてもよいし、Fe2O3と、NiOと、CuOと、ZnOとを含むソフトフェライト材料を用いてもよい。
また、上記実施形態および実施例では、造粒粉に含有されるアクリル系バインダとして、アクリル酸系モノマーとメタクリル酸系モノマーとの共重合体を含むアクリル系バインダを用いる例について説明したが、本発明はこれに限らず、アクリル酸系モノマーとメタクリル酸系モノマーとの共重合体以外のアクリル系バインダを用いてもよい。たとえば、カルボキシル基を有するアクリル系バインダを用いてもよい。
また、上記実施形態および実施例では、上パンチを上昇させた後、下パンチを上昇させることにより成形体をプレス装置から取り出すように構成されたプレス装置を用いてソフトフェライトコアを形成する例を説明したが、本発明はこれに限らず、成形体を上パンチと下パンチとにより挟み込みながら、上パンチおよび下パンチを上昇させることにより、成形体をプレス装置から取り出す、いわゆる、ホールドダウン機能付のプレス装置を用いても同様の効果を得ることができる。
また、上記実施形態では、バインダ(結合剤)として、アクリル系バインダをソフトフェライト原料に加える例を説明したが、本発明はこれに限らず、バインダ(結合剤)として、アクリル系バインダに加えて、アクリル系バインダよりも柔軟性の低い部分ケン化型PVA(ポリビニルアルコール)バインダを、アクリル系バインダと部分ケン化型PVAバインダとの質量比率が好ましくは(5:1)〜(1:1)の範囲内、より好ましくは(3:1)〜(1:1)の範囲内となるように、ソフトフェライト原料に添加してもよい。これによって、造粒粉の柔軟性が高くなりすぎるのを抑制することができるので、成形体の強度が低下するのを抑制することが可能になる。これにより、成形体をプレス装置から焼結炉に移動させて焼成する際に、成形体が破損するのを抑制することが可能になる。
なお、バインダとして、アクリル系バインダとともにソフトフェライト原料に添加される部分ケン化型PVAのケン化度は、85mol%〜90mol%であることが好ましい。このように構成すれば、85mol%以上のケン化度を有する部分ケン化型PVAバインダを用いて造粒粉を形成することによって、造粒粉の吸湿性が高くなるのを抑制することができるので、造粒粉を圧縮することにより形成された成形体の強度の低下を抑制することが可能になる。これにより、成形体をプレス装置から焼結炉に移動させて焼成する際に、成形体が破損するのをより有効に抑制することができる。また、90mol%以下のケン化度を有する部分ケン化型PVAバインダを用いて造粒粉を形成することによって、造粒粉の強度が高くなりすぎるのを抑制することができるので、成形時に造粒粉がつぶれやすくなる。これにより、成形体の内部に空隙が発生するのを抑制することができるので、緻密な構造を有する成形体を容易に得ることが可能になる。その結果、焼結体(ソフトフェライトコア)の強度を容易に向上させることが可能である。
また、85mol%〜90mol%のケン化度を有する部分ケン化型PVAバインダに代えて、97mol%以上のケン化度を有する完全ケン化型PVAバインダをソフトフェライト原料に添加してもよい。この場合、97mol%以上のケン化度を有する完全ケン化型PVAバインダは、85mol%〜90mol%のケン化度を有する部分ケン化型PVAバインダに比べて、より低い吸湿性を有しているので、形成される造粒粉および成形体の吸湿性をより低下させることが可能である。