JP2005015281A - 焼結部材の製造方法、成形用組成物、フェライトコアの製造方法及びフェライトコア - Google Patents
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Abstract
【課題】強度の高い焼結部材、典型的には強度の高いフェライトコアを得る技術を提供する。
【解決手段】原料粉末、バインダ及び熱硬化性樹脂を含む成形用組成物からなる所定形状の成形体を得る成形工程と、熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度に成形体を加熱する熱処理工程と、成形体を湿式バレル研磨するバレル工程と、湿式バレル研磨が施された成形体を焼結する焼結工程とを含むことを特徴とする焼結部材の製造方法。
【選択図】 図1
【解決手段】原料粉末、バインダ及び熱硬化性樹脂を含む成形用組成物からなる所定形状の成形体を得る成形工程と、熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度に成形体を加熱する熱処理工程と、成形体を湿式バレル研磨するバレル工程と、湿式バレル研磨が施された成形体を焼結する焼結工程とを含むことを特徴とする焼結部材の製造方法。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は高強度が要求されるフェライトコアの製造方法に適した焼結部材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
フェライトコアは線材を巻き付けてコイル、トランスなどに使用されることが多い。フェライトコアは、所定の出発原料を仮焼きした後に、この仮焼き粉末を粉砕し、この粉砕粉末を用いてスプレー・ドライヤにより顆粒を作製し、この顆粒を所定の金型を用いて加圧成形してフェライトコア成形体を作製し、しかる後に焼結して製造される。この製造過程で、フェライトコア成形体には、複数の金型の境界部分に対応する位置にバリと称される突起が形成される。金型の精度を向上するのにも限界があるため、このバリは成形工程で不可避的に発生する。
【0003】
焼結して最終的に得られるフェライトコアにバリが存在すると、このコアに線材を巻き回す際に、線材が断線し、あるいは線材の絶縁被覆が剥離してショートする恐れがある。そこで、通常、焼結後のフェライトコアにアルミナ粒子等の硬質なメディアを用いてバレル研磨を施すことにより、成形工程で発生したバリを除去していた。
ところが、焼結後にバリ取りを行うこと、フェライトコアの表面にバレル研磨による歪が残留し、強度が大きく低下するという不具合があった。
以上の不具合に対して、特公平8−1872号公報は、成形体に該成形体を構成する粉末と同様の成分からなる焼結顆粒をメディアとしてバリ取りし、その後焼結することにより歪の残留を小さくすることを開示している また、特開平−266123号公報では、成形体に600〜1000℃の温度範囲で熱処理を施してから該成形体のバリ取りを行い、その後焼結することにより歪の残留を小さくすることを開示している。
【0004】
【特許文献1】
特公平8−1872号公報
【特許文献2】
特開平9−266123号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら特公平8−1872号公報の手法では、メディアが成形体を構成するフェライト粉末と同様の成分からなる焼結顆粒からなるため、バリ取り時に成形体にメディアである顆粒が付着する。その成形体を焼結すると、メディアが成形体と焼結反応を起こし、製品上不具合をもたらすものであった。また、特開平9−266123号公報は、600〜1000℃という比較的高温での熱処理を行うことによりコストの上昇をもたらし、かつ600〜1000℃の熱処理では焼結初期過程であるネックの形成が既に始まっているために、後に行われる焼結工程におけるフェライトコアの焼結性が劣化するという不具合があった。
そこで本発明は、強度の高い焼結部材、典型的には強度の高いフェライトコアを得る技術を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
コア成形体を得る加圧成形では、前述のように、バリは不可避的に形成される。したがって、バリ取り工程をなくすことは容易ではない。しかるに、従来のように、焼結後にバリ取りを行うと強度の低下を招き、この強度低下を回復するためには、バリ取りで生じた歪を除去するための熱処理を施す必要がある。ところが、焼結前の成形体の段階でバリ取りを行えば、成形体に歪が生じたとしても、焼結時にその歪は開放される。
金型による加圧成形を行うために、原料粉末は例えば噴霧乾燥法により顆粒に成形される。顆粒形成のために、原料粉末にはバインダが添加される。成形体は、このバインダにより形状が維持されていると言える。しかるに、このバインダは水溶性であるため、バリ取りの目的で湿式バレル研磨を実施すると、成形体が崩壊する。したがって、湿式バレル研磨を行なう過程で成形体の形状を維持するための添加剤が必要である。この添加剤として、熱硬化性樹脂が有効であることを本発明者等は知見した。
【0007】
本発明は以上の知見に基づいたものであり、原料粉末、バインダ及び熱硬化性樹脂を含む成形用組成物からなる所定形状の成形体を得る成形工程と、熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度に成形体を加熱する熱処理工程と、成形体を湿式バレル研磨するバレル工程と、湿式バレル研磨が施された成形体を焼結する焼結工程とを含むことを特徴とする焼結部材の製造方法である。
本発明はフェライトコア以外の焼結部材の製造方法に適用することができる。この焼結部材は、セラミックス、金属等を問わない。また、原料粉末は、最終的に得たい組成と同一の組成を有している場合のほか、焼結により最終的に得たい組成となる複数種の材質から構成される場合を包含するものとする。
【0008】
本発明において、成形用組成物は、原料粉末、バインダ及び熱硬化性樹脂を含むスラリを噴霧乾燥したものとすることができる。この成形用組成物は、原料粉末が顆粒状をなしている。
本発明において、成形用組成物には、原料粉末に対して、バインダが0.1〜5.0wt%、熱硬化性樹脂が0.1〜3.0wt%含まれることが望ましい。なお、バインダ及び熱硬化性樹脂の量は、固形分の量とする。
また本発明において、熱処理工程は、バインダを変性させ得る温度に成形体を保持することが望ましい。
【0009】
本発明は、以上の焼結部材の製造方法に用いる成形用組成物をも提供する。この成形用組成物は、原料粉末、バインダ及び熱硬化性樹脂を含み、原料粉末は、バインダ及び熱硬化性樹脂を介して顆粒状をなしていることを特徴としている。ここで、バインダ及び熱硬化性樹脂を介して、とは、バインダ及び熱硬化性樹脂が原料粉末同士を結着させることを意味する。
【0010】
本発明の焼結部材の製造方法は、フェライトコアの製造方法として実施することができる。このフェライトコアの製造方法は、フェライト原料粉末、バインダ及び熱硬化性樹脂を含むスラリを用いてフェライト原料粉末からなる成形用顆粒を得る顆粒作製工程と、成形用顆粒を加圧成形することによりコア成形体を得る成形工程と、コア成形体の中に含まれる熱硬化性樹脂を硬化させる樹脂硬化工程と、コア成形体を湿式バレル研磨するバレル工程と、湿式バレル研磨が施されたコア成形体を焼結する焼結工程と、を含むことを特徴としている。
【0011】
以上のようにして得られたフェライトコアは、焼結後に湿式バレル研磨でバリ取りを行ったフェライトコアと、歪の残留度合いに差異がある。この差異は、X線回折を行うことにより確認することができる。本発明によるフェライトコアは、焼結フェライト材料から構成され、X線回折による(844)面の半価幅が0.30ラジアン以下であるのに対して、焼結後に湿式バレル研磨でバリ取りを行ったフェライトコアはこの半価幅が0.30を超える。換言すれば、X線回折による(844)面の半価幅が0.30ラジアン以下であるか否かが、高強度なフェライトコアの指標となる。
また本発明によるフェライトコアの特徴的な要素として、フェライトコアを構成する焼結フェライト材料が、その粒界が明瞭に観察される結晶粒子の集合から構成されることが掲げられる。
また、本発明のフェライトコアが、磁芯部と、磁芯部に対して略直角に延設される鍔とから構成される場合、鍔の長さをL(mm)、磁芯部と鍔の付け根の曲率をR(mm)とすると、0<R≦L/5を満足することが、高強度化にとって望ましい。このフェライトコアにおいて、結晶粒径の標準偏差(σ)が3.5以下であることが望ましい。
【0012】
例えば、焼結後にバレル研磨によりバリ取りを行ったフェライトコアは、歪が残留するために半価幅が大きい。この歪を除去するべく所定の熱処理(例えば、大気中、800℃で1時間保持)を施すと、歪が開放されて半価幅が減少する。つまり、焼結後にバレル研磨によりバリ取りを行ったフェライトコアは、所定の熱処理を施すと半価幅が変動する。
【0013】
これに対して本発明のフェライトコアは、成形体の段階でバリ取りを行い、その後に焼結する。焼結前の成形体の段階でバリ取りを行うと、成形体に歪が生じたとしても、焼結時にその歪は開放される。それゆえ、焼結後に熱処理を施したとしても、歪によって変動するX線回折による半価幅に変動は生じない。つまり本発明によれば、焼結フェライト材料から構成され、大気中、800℃で1時間保持する熱処理を施す前後における所定結晶面の半価幅が一定であることを特徴とするフェライトコアが提供される。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、焼結部材の一種であるフェライトコアの製造方法を例にして説明する。
本発明の製造方法は、所定組成を有するフェライト粉末を加圧成形してコア成形体を得る工程を含む。加圧成形に供せられる粉末は、以下示す従来公知の手法により得ることができる。まず、出発原料を所定組成になるように配合したのちに、これら出発原料をボール・ミル等の混合装置を用いて十分混合した後に、仮焼結を行う。ボール・ミルの運転条件にも左右されるが、20時間程度行えば均一な混合状態を得ることができる。出発原料を十分に混合した後に、仮焼きを行う。仮焼きは、800〜950℃の温度範囲で0.1〜10時間保持すればよい。仮焼き後には、例えばボール・ミルを用いて仮焼き体を粉砕する。粉砕および混合は、湿式で行うことが望ましい。
【0015】
次に、以上で得られた粉砕粉末(原料粉末)から顆粒状の粉末(以下、単に顆粒)を得る。これは、加圧成形において、効率よく成形体を得るためである。顆粒も従来公知の方法により得ることができる。例えば、フェライト粉末同士を結合して顆粒を得るためのバインダ及びバレル研磨時に成形体の形状を維持するための熱硬化性樹脂を加えたスラリを、スプレー・ドライヤを用いた噴霧乾燥法にて造粒することにより顆粒を得ることができる。顆粒を得るためには、噴霧乾燥法以外に、オシレーティング押出法を用いることができる。得られる顆粒の粒径は、10〜200μm、望ましくは30〜100μmの範囲とすることが望ましい。
【0016】
バインダとしては、ポリビニールアルコール(PVA)、ポリアクリル系樹脂、セルロース系樹脂を用いることができる。バインダは、フェライト粉末同士を結合させる機能を有しており、かつ顆粒に対する低圧つぶれ性、耐崩壊性及び耐スティッキング性を備えることが望まれる。これら特性を考慮すると、PVAが最もバインダとして望ましい。ここで、低圧つぶれ性とは、顆粒を含む成形用組成物を金型成形する際に低圧(代表的には29〜147MPa)での顆粒のつぶれ易さを意味する。そして、低圧つぶれ性が良好であるとは、成形用の顆粒が均一につぶれることを意味する。また、耐崩壊性とは、貯蔵時や運搬時あるいは金型への充填時に転動や相互衝突により生じる成形用顆粒の崩壊に対する耐性を示す。さらに耐スティッキング性とは、金型等の表面に対する成形用顆粒中の微粒子等の耐付着性を意味する。
バインダの添加量は、フェライト粉末に対して0.1〜5.0wt%の範囲とすることが望ましい。0.1wt%未満ではバインダの量が不足して、顆粒を造粒することが難しくなるからである。一方、5.0wt%を超えると、成形用組成物が硬くなりすぎて、低圧つぶれ性が悪化する。そこで本発明では、バインダの添加量を0.1〜5.0wt%、望ましくは0.3〜1.5wt%とする。
【0017】
成形用組成物に含まれる熱硬化性樹脂は、後に行う湿式バレル研磨において加圧成形体の形状を維持させる機能を有する。PVA等のバインダは成形体の形状を維持する機能を有しているが、水溶性のため、湿式バレル研磨を行うとバインダが溶解し成形体が崩壊してしまうことを本発明者等は確認している。そこで、本発明においては、熱硬化性樹脂を成形用組成物に含ませ、加圧成形後に熱硬化性樹脂を硬化処理することにより、湿式バレル研磨時に成形体が崩壊するのを阻止する。
用いる熱硬化性樹脂は、上記機能を果たす限り特に限定されるものではなく、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリイミド等のいずれの熱硬化性樹脂を用いることができる。この中では、有機溶剤を用いることなく水のみで使用できかつPVAに対して悪影響を及ぼさないとの理由から、フェノール樹脂を用いることが望ましい。
【0018】
熱硬化性樹脂は、硬化前は液状又は固体状の比較的低分子量の物質であるが、本発明においては、出発原料、バインダとともにスラリを形成するため、液状のものを用いることが望ましい。これは、スラリ中において良好な分散状態を得るためである。熱硬化性樹脂の添加量は、0.1〜3.0wt%とするのが望ましい。0.1wt%未満では、湿式バレル研磨時に成形体の形状を維持するのに必要な強度を与えることが困難な場合があり、一方、3.0wt%を超えると加圧成形時に成形体と金型との付着性が強くなり、成形後の離型が容易でなくなるからである。熱硬化性樹脂の添加量は0.1〜1.0wt%とするのがより望ましい。
【0019】
次いで、以上の成形用組成物を加圧成形に供する。加圧成形は、得たいコア形状を有するキャビティを備えた金型を用いて行う。このキャビティは複数の金型の組み合わせから構成されるため、金型の継ぎ目で成形体にバリが形成される。成形体は、後に行う湿式バレル研磨において形状を維持するために、60%以上の相対密度を有することが望ましい。さらに望ましい成形体の密度は、65%以上、より望ましい成形体の密度は70%以上である。なお、相対密度とは、所定組成のフェライト材料の真密度に対する密度の比をいうものとする。
【0020】
得られた成形体は、次いで、熱処理が施される。この熱処理は、成形体中に含まれる熱硬化性樹脂を硬化させることを目的としている。したがって、用いている熱硬化性樹脂成分の硬化温度以上の温度に成形体を加熱する。加熱温度は用いている熱硬化性樹脂の種類によるが、一般的には、80〜230℃の範囲にある。熱処理を施す時間は、成形体の形状、大きさに応じて定めればよいが、5〜100分の範囲で適宜選択すればよい。以上の熱処理により熱硬化性樹脂が硬化し、成形体の強度が向上する。硬化した熱硬化性樹脂は、湿式バレル研磨に耐える不溶性を有している。
【0021】
この熱処理は、熱硬化性樹脂の硬化を主たる目的としているが、以下のように、後の工程におけるバインダの溶出防止の効果をも有している。つまり、湿式バレル研磨後に、成形体は乾燥工程に供される。湿式バレル研磨は、多数の成形体を対象に行われ、かつこれら成形体同士が接触した状態で乾燥される。この乾燥工程において、バインダが成形体から溶出して成形体同士が付着することがある。そのまま焼成工程を行うと、複数のコアが焼結により結合する不具合が生ずるので、付着した成形体を分離する必要がある。したがって、この乾燥工程において、成形体同士が付着する現象を回避することが望ましく、後述する実施例に示すように、熱処理温度を比較的高く設定すると、成形体同士が付着する現象が見られなくなった。この理由は明らかでないが、本来溶出すべき分のバインダが、比較的高めに設定された熱処理により変性してしまったためと解される。一方で、熱処理温度を必要以上に高くすると、湿式バレル研磨時にその形状を維持することができなかった。したがって、熱処理は、熱硬化性樹脂の硬化可能な温度であり、かつバレル研磨処理後の乾燥工程における成形体同士の付着を防止することができる温度で実施することが望ましい。
【0022】
熱処理が施された成形体は、バリ取り工程に供される。バリ取り工程は、湿式バレル研磨により実行される。
バレル研磨は、乾式バレル研磨と湿式バレル研磨に区分することができる。乾式バレル研磨は、樹脂等からなる乾式メディアと研磨ペースト等の乾式コンパウンドを用いてバレル研磨を行う方法である。また、湿式バレル研磨は、セラミックス系(例えば、アルミナ、ジルコニア)メディアと、水及び界面活性剤等の湿式コンパウンドを用いてバレル研磨を行う方法である。本発明は湿式バレル研磨を適用する。湿式バレル研磨の方が乾式バレル研磨に比べて成形体の表面精度が良好なためである。
【0023】
一方で、顆粒とバインダからなる成形体に湿式バレル研磨を施すと、バインダが水溶性であることから、研磨中に成形体が崩壊してしまう。そこで、この崩壊を防ぐために、本発明は熱硬化性樹脂を成形体に含ませ、かつ熱処理により熱硬化性樹脂を硬化した後に湿式バレル研磨を施すことにより、バリが除去されかつ表面性状の優れた成形体を得ることができる。
湿式バレル研磨の条件は、成形体の形状、寸法等によっても変動する必要がある。もちろん、この湿式バレル研磨はバリ取りを目的としているから、バリ取りを十分なしうる条件を設定すべきであることは言うまでもない。一方で、過剰な条件でバレル研磨を行うと、成形体コアの寸法精度を劣化させるので、この点をも考慮すべきである。また、湿式バレル研磨を施すことにより、バリ取りの他に、成形体の角部にアール(R)が形成される。このアールは、フェライトコアの強度、耐衝撃性向上に有効である。
【0024】
焼結後にバリ取りのために湿式バレル研磨を行うと焼結体コアの表面が粗らくなる。一方、成形体の状態で湿式バレル研磨によりバリ取りを行うと、成形体の表面は若干粗らくなるが、焼結によりその粗い表面が回復する。この差異は、例えば走査型電子顕微鏡によりその表面を観察することにより明確に認識することができる。図1に、成形体の段階でバリ取りを行った後に焼結したコア表面の走査型電子顕微鏡写真(図1(a)2000倍、(b)5000倍)を示す。また、図2に、焼結後にバリ取りを行ったコア表面の走査型電子顕微鏡写真(図2(a)2000倍、(b)5000倍)を示す。図1に示すように、バリ取り後に焼結を行ったフェライトコアは、結晶粒子の粒界が明瞭である。これに対して、焼結後にバリ取りを行ったフェライトコアは、図2に示すように、結晶粒の粒界を明確に認識することができない。また、図3に焼結前にバリ取りを行ったフェライトコアの、バリ取りを行った部分の表面性状を示す走査型電子顕微鏡による写真を示す。また、図4に焼結後にバリ取りを行ったフェライトコアの、バリ取りを行った部分の表面性状を示す走査型電子顕微鏡による写真を示す。焼結前にバリ取りを行うと、その表面がなだらかであることがわかる。これに対して、焼結後にバリ取りを行うと、その表面は角張っていることがわかる。このように、コア表面を観察することにより、バリ取りの時期を概ね把握できることがわかる。
【0025】
湿式バレル研磨を終了した後に、成形体は乾燥される。前述のように、この乾燥工程において成形体に含まれるバインダが成形体から溶出して成形体同士が付着するおそれがある。この付着は、熱硬化性樹脂を硬化するための熱処理の温度を高めに設定することにより回避することが可能である。
【0026】
乾燥後に成形体は焼結工程に供される。焼結は、通常、大気中で、1000〜1300℃の温度範囲で1〜5時間加熱、保持すればよい。
本発明が適用されるフェライト材料は特別な制限はなく、以下の各種のフェライト材料に適用して効果を得ることができる。
NiZn系フェライト、NiCuZn系フェライト、NiMnCuZn系フェライト、MnZn系フェライト、MgZn系フェライト、MgCuZn系フェライト
【0027】
以上のようにして得られた本発明のフェライトコアは、焼結フェライト材料から構成され、X線回折による(844)面の半価幅が0.30ラジアン以下になる。実施例として後述するように、このフェライトコアは、強度が高い。
また本発明のフェライトコアは、図5に示すように、磁芯部2と、磁芯部2の両端に設けられる鍔3とから構成されるドラムコア1に適用することができる。そしてこの場合、鍔3の長さをL(mm)、磁芯部2と鍔3の付け根の曲率半径をR(mm)とすると、0<R≦L/5を満足するように加工すると、付け根部分に集中する応力を分散することができる。そのため、フェライトコアの強度を向上することができる。Rが0だと強度向上の効果がなく、L/5を超えると巻き線をする際に不具合を生じる。
【0028】
本発明において、焼結フェライト材料を構成する結晶粒の大きさの均一性が高いほど高強度化を図ることができる。そして、このような組織を得るためには、焼結に供される粉末の粒度分布を制御することが、フェライト材料の高強度化に寄与する。具体的には、フェライト結晶の粒径の標準偏差が3.5以下とすることが望ましい。このような組織を得るためには、粒度分布のピーク位置が0.5〜1.5μm、ピークの頻度が7%以上のフェライト粉末から構成される平均径が30〜80μmの顆粒を用意し、この顆粒を加圧成形することにより所定形状の成形体を作製し、この成形体を焼結すればよい。
以上、フェライトコアの製造方法を例にして本発明について説明したが、本発明はフェライト以外のセラミックス、金属に対して広く適用することができることは言うまでもない。
【0029】
【実施例】
(実施例1)
Fe2O3:49.0mol%、NiO:15.5mol%、CuO:6.5mol%、ZnO:29.0mol%を主成分とする原料を、900℃で2時間仮焼きし、その後ボール・ミルで16時間粉砕した。
粉砕したフェライト粉末に対して、水を100質量部、バインダとしてのPVAをフェライト粉末に対して0.8wt%、フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製 PR50781)を0.4wt%を含むスラリを作製した。なお、PVA及びフェノール樹脂ともに水溶液として添加されたが、前記添加量は固形分としての量である。その後、このスラリをスプレー・ドライヤにより噴霧乾燥することにより平均粒径60μmの顆粒を作製した。この顆粒を用いて、プレス成形により、成形密度が3.20Mg/m3(相対密度70%)の角型形状のコア成形体を得た。
熱硬化性樹脂を硬化させるために、得られたコア成形体を大気中で60分間180℃に保持した後に、アルミナ・メディア(平均粒径300μm)を用い、振動バレル機で160rpm、20分間処理することにより、バリ取りを行った。バリ取り後、1050℃で2時間焼結し、角型コアを得た。この角型コアについて3点曲げ強度を測定した。結果を表1に示す。
また、この角型コアについて、X線回折による観察を行った。その(844)面の回折結果を図6に、(844)面の半価幅を表1に示す。なお、この角型コアに、大気中において800℃で1時間保持する熱処理を施した後に、再度X線回折を行ったが、(844)面の半価幅は変わらなかった。
【0030】
(比較例1)
熱硬化性樹脂の添加を行わないことを除いて実施例1と同様に成形体を得た。この成形体を実施例1と同様に湿式バレル研磨を施したところ、ほとんどの成形体は崩壊してしまった。
(比較例2)
焼結前に湿式バレル研磨をする代わりに焼結後に湿式バレル研磨によるバリ取りを実施したことを除いて実施例1と同様に角型コアを作製し、やはり3点曲げ強度を測定した。その結果を表1に示す。なお、焼結後のバリ取りは、実施例1と同内容の湿式バレル研磨である。また、この角型コアについて、X線回折による観察を行った。その(844)面の回折結果を図6に、(844)面の半価幅を表1に示す。
(比較例3)
焼結後にブラスト処理によるバリ取りを実施したことを除いて実施例1と同様の角型コアを作成し、やはり3点曲げ強度を測定した。その結果を表1に示す。なお、ブラストは、メディアにアルミナ(平均粒径75μm)を用い、噴射圧1.5kgf/mm2で30分間処理するという条件で行った。また、この角型コアについて、X線回折による観察を行った。(844)面の半価幅を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示すように、焼結前に湿式バレル研磨によるバリ取りを行ったコアの強度は20kgf/mm2を超えているのに対し、焼結後に湿式バレル研磨によるバリ取りを行ったコアの強度は17.1kgf/mm2、焼結後にサンドブラストによるバリ取りを行ったコアの強度は15.6kgf/mm2と低い値であった。なお、実施例1、比較例2及び比較例3ともに、バリに相当するものは観察されなかった。
以上より、焼結前に湿式バレル研磨によるバリ取りを行うことにより、焼結後の強度を向上できることがわかった。
また、実施例1による角型コアに対して、大気中において800℃で1時間保持する熱処理を施した後に、再度X線回折を行ったが、(844)面の半価幅は、変わらなかった。これに対して、比較例2による角型コアに対して同様の熱処理を施した後に再度X線回折を行ったところ、(844)面の半価幅は、実施例1と同程度まで低下したことが確認された。
【0033】
(実施例2)
実施例1と同様にしてコア成形体を作製した後に、温度を変えて熱硬化性樹脂の硬化のための熱処理を行った。熱処理後に実施例1と同様の条件で湿式バレル研磨を施した後に乾燥を行い、乾燥終了後にコア成形体の状態を観察した。その結果を表2に示す。なお、表2において、付着率とはコア成形体の総数に対する付着したコア成形体の比率である。
表2に示すように、熱処理温度が130℃、170℃ではコア成形体同士が付着するのに対して、熱処理温度が180℃以上になるとコア成形体同士の付着は生じないことがわかる。また、熱処理温度が250℃と高温になると、湿式バレル研磨後に、コア成形体が崩壊してしまうことが確認された。以上の結果より、熱処理温度を選択することで、コア成形体同士の付着を防止するとともに、コア成形体の崩壊を防止することができることがわかった。
【0034】
【表2】
【0035】
(実施例3)
実施例1と同様にして顆粒を得た後に、この顆粒を用いて、図5に示す20×12×8mmのドラムコア1を得るべく成形体を得た。得られた成形体の密度は、3.20Mg/m3である。なお、付け根のRを0、1.0mm、2.0mmおよび4.0mmと変化させた4種類の成形体を得た。この成形体に対して、実施例1と同様にしてバリ取りを行った。バリ取り後に、1050℃で2時間焼結してドラムコア1を得た。このドラムコア1について曲げ強度を測定した。測定要領を図8に示すが、ドラムコア1の一方の鍔3を支持した状態で他方の鍔3に負荷をかけていき、鍔3が磁芯部2から折れたときの負荷から曲げ強度を特定した。付け根のRと曲げ強度の関係を図7に示すが、Rが大きいほど強度が高くなることがわかる。したがって、ドラムコア1の強度のみを考慮すると、付け根のRを大きくすればよいが、Rが大きすぎると、巻き線を施す際に不具合が生じる。そこで、本発明では、付け根のRをL/5以下とする。
【0036】
(実施例4)
実施例1と同様にして仮焼き体を得た。得られた仮焼き体を、鋼鉄製のボール・ミルにて湿式粉砕を行った。このとき、いくつかの異なる条件で粉砕を行い、A〜Eの5種類の異なる粒度分布を有する粉砕粉末を得た。ただし、これら5種類の粉砕粉末の比表面積はほぼ同じである。A〜Eの粒度分布を表3に示す。表3に示すように、AおよびBは粒度分布のピークが1〜1.5μmの範囲にあり、かつその頻度が7%以上である。Cは、粒度分布のピークが2つ存在し、頻度の大きいほうのピークが1μm未満、頻度の小さいほうのピークが1.5μmを超えている。Dは、粒度分布のピークが1〜1.5μmの範囲にあるが、その頻度が7%未満である。さらに、Eは、粒度分布のピークが1.5μmを超えている。
【0037】
【表3】
【0038】
粉砕後の粉末を含むスラリにPVA及び熱硬化性樹脂を実施例1と同様に加えた後に、実施例1と同様にして5種類の顆粒を得た。これら顆粒の平均径は60μmであった。これら顆粒を用いて成形密度が3.40Mg/m3(相対密度65%)となるように角型形状のコア成形体をプレス成形により得た。得られたコア成形体に対して、実施例1と同様にしてバリ取りまで行った。次にこのコア成形体を大気中で2時間、1080℃で焼成して焼結コアA〜Eを得た。コアA〜Eを構成する焼結体の結晶粒径の標準偏差(σ)を求めた。結果を表3に示す。表3に各コアの強度をも併せて示す。
表3に示すように、粒度分布のピークが1〜1.5μmの範囲にあり、かつその頻度が7%以上であるAおよびBは、19kgf/mm2以上の高い強度を得ている。これに対して、粒度分布のピークが2つ存在するC、粒度分布のピークが1〜1.5μmの範囲にあるがその頻度が7%未満のDおよび粒度分布のピークが1.5μmを超えるEは、18kgf/mm2以上の強度を得るに至っていない。また、結晶粒径の標準偏差(σ)の観点からすると、標準偏差(σ)が3.5以下になると、18kgf/mm2以上の3点曲げ強度が得られることがわかった。
以上のように、仮焼き後の粉砕粉末の粒度分布を制御することにより、強度を向上することができる。
【0039】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、成形体の状態で湿式バレル研磨によるバリ取りを行った後に焼結するという工程を採用することにより、高強度な焼結部材、例えばフェライトコアを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】成形体の状態でバリ取りを行ったフェライトコアの走査型電子顕微鏡による組織写真である。
【図2】焼結後にバリ取りを行ったフェライトコアの走査型電子顕微鏡による組織写真である。
【図3】焼結前にバリ取りを行ったフェライトコアの、バリ取りを行った部分の表面性状を示す走査型電子顕微鏡による写真である。
【図4】焼結後にバリ取りを行ったフェライトコアの、バリ取りを行った部分の表面性状を示す走査型電子顕微鏡による写真である。
【図5】ドラムコアの形態を示す図である。
【図6】実施例1および比較例2のX線回折を測定した結果を示すグラフである。
【図7】ドラムコアのRと芯折れ強度の関係を示すグラフである。
【図8】ドラムコアについて行った曲げ強度の測定要領を示す図である。
【符号の説明】
1…ドラムコア、2…磁心部、3…鍔
【発明の属する技術分野】
本発明は高強度が要求されるフェライトコアの製造方法に適した焼結部材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
フェライトコアは線材を巻き付けてコイル、トランスなどに使用されることが多い。フェライトコアは、所定の出発原料を仮焼きした後に、この仮焼き粉末を粉砕し、この粉砕粉末を用いてスプレー・ドライヤにより顆粒を作製し、この顆粒を所定の金型を用いて加圧成形してフェライトコア成形体を作製し、しかる後に焼結して製造される。この製造過程で、フェライトコア成形体には、複数の金型の境界部分に対応する位置にバリと称される突起が形成される。金型の精度を向上するのにも限界があるため、このバリは成形工程で不可避的に発生する。
【0003】
焼結して最終的に得られるフェライトコアにバリが存在すると、このコアに線材を巻き回す際に、線材が断線し、あるいは線材の絶縁被覆が剥離してショートする恐れがある。そこで、通常、焼結後のフェライトコアにアルミナ粒子等の硬質なメディアを用いてバレル研磨を施すことにより、成形工程で発生したバリを除去していた。
ところが、焼結後にバリ取りを行うこと、フェライトコアの表面にバレル研磨による歪が残留し、強度が大きく低下するという不具合があった。
以上の不具合に対して、特公平8−1872号公報は、成形体に該成形体を構成する粉末と同様の成分からなる焼結顆粒をメディアとしてバリ取りし、その後焼結することにより歪の残留を小さくすることを開示している また、特開平−266123号公報では、成形体に600〜1000℃の温度範囲で熱処理を施してから該成形体のバリ取りを行い、その後焼結することにより歪の残留を小さくすることを開示している。
【0004】
【特許文献1】
特公平8−1872号公報
【特許文献2】
特開平9−266123号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら特公平8−1872号公報の手法では、メディアが成形体を構成するフェライト粉末と同様の成分からなる焼結顆粒からなるため、バリ取り時に成形体にメディアである顆粒が付着する。その成形体を焼結すると、メディアが成形体と焼結反応を起こし、製品上不具合をもたらすものであった。また、特開平9−266123号公報は、600〜1000℃という比較的高温での熱処理を行うことによりコストの上昇をもたらし、かつ600〜1000℃の熱処理では焼結初期過程であるネックの形成が既に始まっているために、後に行われる焼結工程におけるフェライトコアの焼結性が劣化するという不具合があった。
そこで本発明は、強度の高い焼結部材、典型的には強度の高いフェライトコアを得る技術を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
コア成形体を得る加圧成形では、前述のように、バリは不可避的に形成される。したがって、バリ取り工程をなくすことは容易ではない。しかるに、従来のように、焼結後にバリ取りを行うと強度の低下を招き、この強度低下を回復するためには、バリ取りで生じた歪を除去するための熱処理を施す必要がある。ところが、焼結前の成形体の段階でバリ取りを行えば、成形体に歪が生じたとしても、焼結時にその歪は開放される。
金型による加圧成形を行うために、原料粉末は例えば噴霧乾燥法により顆粒に成形される。顆粒形成のために、原料粉末にはバインダが添加される。成形体は、このバインダにより形状が維持されていると言える。しかるに、このバインダは水溶性であるため、バリ取りの目的で湿式バレル研磨を実施すると、成形体が崩壊する。したがって、湿式バレル研磨を行なう過程で成形体の形状を維持するための添加剤が必要である。この添加剤として、熱硬化性樹脂が有効であることを本発明者等は知見した。
【0007】
本発明は以上の知見に基づいたものであり、原料粉末、バインダ及び熱硬化性樹脂を含む成形用組成物からなる所定形状の成形体を得る成形工程と、熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度に成形体を加熱する熱処理工程と、成形体を湿式バレル研磨するバレル工程と、湿式バレル研磨が施された成形体を焼結する焼結工程とを含むことを特徴とする焼結部材の製造方法である。
本発明はフェライトコア以外の焼結部材の製造方法に適用することができる。この焼結部材は、セラミックス、金属等を問わない。また、原料粉末は、最終的に得たい組成と同一の組成を有している場合のほか、焼結により最終的に得たい組成となる複数種の材質から構成される場合を包含するものとする。
【0008】
本発明において、成形用組成物は、原料粉末、バインダ及び熱硬化性樹脂を含むスラリを噴霧乾燥したものとすることができる。この成形用組成物は、原料粉末が顆粒状をなしている。
本発明において、成形用組成物には、原料粉末に対して、バインダが0.1〜5.0wt%、熱硬化性樹脂が0.1〜3.0wt%含まれることが望ましい。なお、バインダ及び熱硬化性樹脂の量は、固形分の量とする。
また本発明において、熱処理工程は、バインダを変性させ得る温度に成形体を保持することが望ましい。
【0009】
本発明は、以上の焼結部材の製造方法に用いる成形用組成物をも提供する。この成形用組成物は、原料粉末、バインダ及び熱硬化性樹脂を含み、原料粉末は、バインダ及び熱硬化性樹脂を介して顆粒状をなしていることを特徴としている。ここで、バインダ及び熱硬化性樹脂を介して、とは、バインダ及び熱硬化性樹脂が原料粉末同士を結着させることを意味する。
【0010】
本発明の焼結部材の製造方法は、フェライトコアの製造方法として実施することができる。このフェライトコアの製造方法は、フェライト原料粉末、バインダ及び熱硬化性樹脂を含むスラリを用いてフェライト原料粉末からなる成形用顆粒を得る顆粒作製工程と、成形用顆粒を加圧成形することによりコア成形体を得る成形工程と、コア成形体の中に含まれる熱硬化性樹脂を硬化させる樹脂硬化工程と、コア成形体を湿式バレル研磨するバレル工程と、湿式バレル研磨が施されたコア成形体を焼結する焼結工程と、を含むことを特徴としている。
【0011】
以上のようにして得られたフェライトコアは、焼結後に湿式バレル研磨でバリ取りを行ったフェライトコアと、歪の残留度合いに差異がある。この差異は、X線回折を行うことにより確認することができる。本発明によるフェライトコアは、焼結フェライト材料から構成され、X線回折による(844)面の半価幅が0.30ラジアン以下であるのに対して、焼結後に湿式バレル研磨でバリ取りを行ったフェライトコアはこの半価幅が0.30を超える。換言すれば、X線回折による(844)面の半価幅が0.30ラジアン以下であるか否かが、高強度なフェライトコアの指標となる。
また本発明によるフェライトコアの特徴的な要素として、フェライトコアを構成する焼結フェライト材料が、その粒界が明瞭に観察される結晶粒子の集合から構成されることが掲げられる。
また、本発明のフェライトコアが、磁芯部と、磁芯部に対して略直角に延設される鍔とから構成される場合、鍔の長さをL(mm)、磁芯部と鍔の付け根の曲率をR(mm)とすると、0<R≦L/5を満足することが、高強度化にとって望ましい。このフェライトコアにおいて、結晶粒径の標準偏差(σ)が3.5以下であることが望ましい。
【0012】
例えば、焼結後にバレル研磨によりバリ取りを行ったフェライトコアは、歪が残留するために半価幅が大きい。この歪を除去するべく所定の熱処理(例えば、大気中、800℃で1時間保持)を施すと、歪が開放されて半価幅が減少する。つまり、焼結後にバレル研磨によりバリ取りを行ったフェライトコアは、所定の熱処理を施すと半価幅が変動する。
【0013】
これに対して本発明のフェライトコアは、成形体の段階でバリ取りを行い、その後に焼結する。焼結前の成形体の段階でバリ取りを行うと、成形体に歪が生じたとしても、焼結時にその歪は開放される。それゆえ、焼結後に熱処理を施したとしても、歪によって変動するX線回折による半価幅に変動は生じない。つまり本発明によれば、焼結フェライト材料から構成され、大気中、800℃で1時間保持する熱処理を施す前後における所定結晶面の半価幅が一定であることを特徴とするフェライトコアが提供される。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、焼結部材の一種であるフェライトコアの製造方法を例にして説明する。
本発明の製造方法は、所定組成を有するフェライト粉末を加圧成形してコア成形体を得る工程を含む。加圧成形に供せられる粉末は、以下示す従来公知の手法により得ることができる。まず、出発原料を所定組成になるように配合したのちに、これら出発原料をボール・ミル等の混合装置を用いて十分混合した後に、仮焼結を行う。ボール・ミルの運転条件にも左右されるが、20時間程度行えば均一な混合状態を得ることができる。出発原料を十分に混合した後に、仮焼きを行う。仮焼きは、800〜950℃の温度範囲で0.1〜10時間保持すればよい。仮焼き後には、例えばボール・ミルを用いて仮焼き体を粉砕する。粉砕および混合は、湿式で行うことが望ましい。
【0015】
次に、以上で得られた粉砕粉末(原料粉末)から顆粒状の粉末(以下、単に顆粒)を得る。これは、加圧成形において、効率よく成形体を得るためである。顆粒も従来公知の方法により得ることができる。例えば、フェライト粉末同士を結合して顆粒を得るためのバインダ及びバレル研磨時に成形体の形状を維持するための熱硬化性樹脂を加えたスラリを、スプレー・ドライヤを用いた噴霧乾燥法にて造粒することにより顆粒を得ることができる。顆粒を得るためには、噴霧乾燥法以外に、オシレーティング押出法を用いることができる。得られる顆粒の粒径は、10〜200μm、望ましくは30〜100μmの範囲とすることが望ましい。
【0016】
バインダとしては、ポリビニールアルコール(PVA)、ポリアクリル系樹脂、セルロース系樹脂を用いることができる。バインダは、フェライト粉末同士を結合させる機能を有しており、かつ顆粒に対する低圧つぶれ性、耐崩壊性及び耐スティッキング性を備えることが望まれる。これら特性を考慮すると、PVAが最もバインダとして望ましい。ここで、低圧つぶれ性とは、顆粒を含む成形用組成物を金型成形する際に低圧(代表的には29〜147MPa)での顆粒のつぶれ易さを意味する。そして、低圧つぶれ性が良好であるとは、成形用の顆粒が均一につぶれることを意味する。また、耐崩壊性とは、貯蔵時や運搬時あるいは金型への充填時に転動や相互衝突により生じる成形用顆粒の崩壊に対する耐性を示す。さらに耐スティッキング性とは、金型等の表面に対する成形用顆粒中の微粒子等の耐付着性を意味する。
バインダの添加量は、フェライト粉末に対して0.1〜5.0wt%の範囲とすることが望ましい。0.1wt%未満ではバインダの量が不足して、顆粒を造粒することが難しくなるからである。一方、5.0wt%を超えると、成形用組成物が硬くなりすぎて、低圧つぶれ性が悪化する。そこで本発明では、バインダの添加量を0.1〜5.0wt%、望ましくは0.3〜1.5wt%とする。
【0017】
成形用組成物に含まれる熱硬化性樹脂は、後に行う湿式バレル研磨において加圧成形体の形状を維持させる機能を有する。PVA等のバインダは成形体の形状を維持する機能を有しているが、水溶性のため、湿式バレル研磨を行うとバインダが溶解し成形体が崩壊してしまうことを本発明者等は確認している。そこで、本発明においては、熱硬化性樹脂を成形用組成物に含ませ、加圧成形後に熱硬化性樹脂を硬化処理することにより、湿式バレル研磨時に成形体が崩壊するのを阻止する。
用いる熱硬化性樹脂は、上記機能を果たす限り特に限定されるものではなく、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリイミド等のいずれの熱硬化性樹脂を用いることができる。この中では、有機溶剤を用いることなく水のみで使用できかつPVAに対して悪影響を及ぼさないとの理由から、フェノール樹脂を用いることが望ましい。
【0018】
熱硬化性樹脂は、硬化前は液状又は固体状の比較的低分子量の物質であるが、本発明においては、出発原料、バインダとともにスラリを形成するため、液状のものを用いることが望ましい。これは、スラリ中において良好な分散状態を得るためである。熱硬化性樹脂の添加量は、0.1〜3.0wt%とするのが望ましい。0.1wt%未満では、湿式バレル研磨時に成形体の形状を維持するのに必要な強度を与えることが困難な場合があり、一方、3.0wt%を超えると加圧成形時に成形体と金型との付着性が強くなり、成形後の離型が容易でなくなるからである。熱硬化性樹脂の添加量は0.1〜1.0wt%とするのがより望ましい。
【0019】
次いで、以上の成形用組成物を加圧成形に供する。加圧成形は、得たいコア形状を有するキャビティを備えた金型を用いて行う。このキャビティは複数の金型の組み合わせから構成されるため、金型の継ぎ目で成形体にバリが形成される。成形体は、後に行う湿式バレル研磨において形状を維持するために、60%以上の相対密度を有することが望ましい。さらに望ましい成形体の密度は、65%以上、より望ましい成形体の密度は70%以上である。なお、相対密度とは、所定組成のフェライト材料の真密度に対する密度の比をいうものとする。
【0020】
得られた成形体は、次いで、熱処理が施される。この熱処理は、成形体中に含まれる熱硬化性樹脂を硬化させることを目的としている。したがって、用いている熱硬化性樹脂成分の硬化温度以上の温度に成形体を加熱する。加熱温度は用いている熱硬化性樹脂の種類によるが、一般的には、80〜230℃の範囲にある。熱処理を施す時間は、成形体の形状、大きさに応じて定めればよいが、5〜100分の範囲で適宜選択すればよい。以上の熱処理により熱硬化性樹脂が硬化し、成形体の強度が向上する。硬化した熱硬化性樹脂は、湿式バレル研磨に耐える不溶性を有している。
【0021】
この熱処理は、熱硬化性樹脂の硬化を主たる目的としているが、以下のように、後の工程におけるバインダの溶出防止の効果をも有している。つまり、湿式バレル研磨後に、成形体は乾燥工程に供される。湿式バレル研磨は、多数の成形体を対象に行われ、かつこれら成形体同士が接触した状態で乾燥される。この乾燥工程において、バインダが成形体から溶出して成形体同士が付着することがある。そのまま焼成工程を行うと、複数のコアが焼結により結合する不具合が生ずるので、付着した成形体を分離する必要がある。したがって、この乾燥工程において、成形体同士が付着する現象を回避することが望ましく、後述する実施例に示すように、熱処理温度を比較的高く設定すると、成形体同士が付着する現象が見られなくなった。この理由は明らかでないが、本来溶出すべき分のバインダが、比較的高めに設定された熱処理により変性してしまったためと解される。一方で、熱処理温度を必要以上に高くすると、湿式バレル研磨時にその形状を維持することができなかった。したがって、熱処理は、熱硬化性樹脂の硬化可能な温度であり、かつバレル研磨処理後の乾燥工程における成形体同士の付着を防止することができる温度で実施することが望ましい。
【0022】
熱処理が施された成形体は、バリ取り工程に供される。バリ取り工程は、湿式バレル研磨により実行される。
バレル研磨は、乾式バレル研磨と湿式バレル研磨に区分することができる。乾式バレル研磨は、樹脂等からなる乾式メディアと研磨ペースト等の乾式コンパウンドを用いてバレル研磨を行う方法である。また、湿式バレル研磨は、セラミックス系(例えば、アルミナ、ジルコニア)メディアと、水及び界面活性剤等の湿式コンパウンドを用いてバレル研磨を行う方法である。本発明は湿式バレル研磨を適用する。湿式バレル研磨の方が乾式バレル研磨に比べて成形体の表面精度が良好なためである。
【0023】
一方で、顆粒とバインダからなる成形体に湿式バレル研磨を施すと、バインダが水溶性であることから、研磨中に成形体が崩壊してしまう。そこで、この崩壊を防ぐために、本発明は熱硬化性樹脂を成形体に含ませ、かつ熱処理により熱硬化性樹脂を硬化した後に湿式バレル研磨を施すことにより、バリが除去されかつ表面性状の優れた成形体を得ることができる。
湿式バレル研磨の条件は、成形体の形状、寸法等によっても変動する必要がある。もちろん、この湿式バレル研磨はバリ取りを目的としているから、バリ取りを十分なしうる条件を設定すべきであることは言うまでもない。一方で、過剰な条件でバレル研磨を行うと、成形体コアの寸法精度を劣化させるので、この点をも考慮すべきである。また、湿式バレル研磨を施すことにより、バリ取りの他に、成形体の角部にアール(R)が形成される。このアールは、フェライトコアの強度、耐衝撃性向上に有効である。
【0024】
焼結後にバリ取りのために湿式バレル研磨を行うと焼結体コアの表面が粗らくなる。一方、成形体の状態で湿式バレル研磨によりバリ取りを行うと、成形体の表面は若干粗らくなるが、焼結によりその粗い表面が回復する。この差異は、例えば走査型電子顕微鏡によりその表面を観察することにより明確に認識することができる。図1に、成形体の段階でバリ取りを行った後に焼結したコア表面の走査型電子顕微鏡写真(図1(a)2000倍、(b)5000倍)を示す。また、図2に、焼結後にバリ取りを行ったコア表面の走査型電子顕微鏡写真(図2(a)2000倍、(b)5000倍)を示す。図1に示すように、バリ取り後に焼結を行ったフェライトコアは、結晶粒子の粒界が明瞭である。これに対して、焼結後にバリ取りを行ったフェライトコアは、図2に示すように、結晶粒の粒界を明確に認識することができない。また、図3に焼結前にバリ取りを行ったフェライトコアの、バリ取りを行った部分の表面性状を示す走査型電子顕微鏡による写真を示す。また、図4に焼結後にバリ取りを行ったフェライトコアの、バリ取りを行った部分の表面性状を示す走査型電子顕微鏡による写真を示す。焼結前にバリ取りを行うと、その表面がなだらかであることがわかる。これに対して、焼結後にバリ取りを行うと、その表面は角張っていることがわかる。このように、コア表面を観察することにより、バリ取りの時期を概ね把握できることがわかる。
【0025】
湿式バレル研磨を終了した後に、成形体は乾燥される。前述のように、この乾燥工程において成形体に含まれるバインダが成形体から溶出して成形体同士が付着するおそれがある。この付着は、熱硬化性樹脂を硬化するための熱処理の温度を高めに設定することにより回避することが可能である。
【0026】
乾燥後に成形体は焼結工程に供される。焼結は、通常、大気中で、1000〜1300℃の温度範囲で1〜5時間加熱、保持すればよい。
本発明が適用されるフェライト材料は特別な制限はなく、以下の各種のフェライト材料に適用して効果を得ることができる。
NiZn系フェライト、NiCuZn系フェライト、NiMnCuZn系フェライト、MnZn系フェライト、MgZn系フェライト、MgCuZn系フェライト
【0027】
以上のようにして得られた本発明のフェライトコアは、焼結フェライト材料から構成され、X線回折による(844)面の半価幅が0.30ラジアン以下になる。実施例として後述するように、このフェライトコアは、強度が高い。
また本発明のフェライトコアは、図5に示すように、磁芯部2と、磁芯部2の両端に設けられる鍔3とから構成されるドラムコア1に適用することができる。そしてこの場合、鍔3の長さをL(mm)、磁芯部2と鍔3の付け根の曲率半径をR(mm)とすると、0<R≦L/5を満足するように加工すると、付け根部分に集中する応力を分散することができる。そのため、フェライトコアの強度を向上することができる。Rが0だと強度向上の効果がなく、L/5を超えると巻き線をする際に不具合を生じる。
【0028】
本発明において、焼結フェライト材料を構成する結晶粒の大きさの均一性が高いほど高強度化を図ることができる。そして、このような組織を得るためには、焼結に供される粉末の粒度分布を制御することが、フェライト材料の高強度化に寄与する。具体的には、フェライト結晶の粒径の標準偏差が3.5以下とすることが望ましい。このような組織を得るためには、粒度分布のピーク位置が0.5〜1.5μm、ピークの頻度が7%以上のフェライト粉末から構成される平均径が30〜80μmの顆粒を用意し、この顆粒を加圧成形することにより所定形状の成形体を作製し、この成形体を焼結すればよい。
以上、フェライトコアの製造方法を例にして本発明について説明したが、本発明はフェライト以外のセラミックス、金属に対して広く適用することができることは言うまでもない。
【0029】
【実施例】
(実施例1)
Fe2O3:49.0mol%、NiO:15.5mol%、CuO:6.5mol%、ZnO:29.0mol%を主成分とする原料を、900℃で2時間仮焼きし、その後ボール・ミルで16時間粉砕した。
粉砕したフェライト粉末に対して、水を100質量部、バインダとしてのPVAをフェライト粉末に対して0.8wt%、フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製 PR50781)を0.4wt%を含むスラリを作製した。なお、PVA及びフェノール樹脂ともに水溶液として添加されたが、前記添加量は固形分としての量である。その後、このスラリをスプレー・ドライヤにより噴霧乾燥することにより平均粒径60μmの顆粒を作製した。この顆粒を用いて、プレス成形により、成形密度が3.20Mg/m3(相対密度70%)の角型形状のコア成形体を得た。
熱硬化性樹脂を硬化させるために、得られたコア成形体を大気中で60分間180℃に保持した後に、アルミナ・メディア(平均粒径300μm)を用い、振動バレル機で160rpm、20分間処理することにより、バリ取りを行った。バリ取り後、1050℃で2時間焼結し、角型コアを得た。この角型コアについて3点曲げ強度を測定した。結果を表1に示す。
また、この角型コアについて、X線回折による観察を行った。その(844)面の回折結果を図6に、(844)面の半価幅を表1に示す。なお、この角型コアに、大気中において800℃で1時間保持する熱処理を施した後に、再度X線回折を行ったが、(844)面の半価幅は変わらなかった。
【0030】
(比較例1)
熱硬化性樹脂の添加を行わないことを除いて実施例1と同様に成形体を得た。この成形体を実施例1と同様に湿式バレル研磨を施したところ、ほとんどの成形体は崩壊してしまった。
(比較例2)
焼結前に湿式バレル研磨をする代わりに焼結後に湿式バレル研磨によるバリ取りを実施したことを除いて実施例1と同様に角型コアを作製し、やはり3点曲げ強度を測定した。その結果を表1に示す。なお、焼結後のバリ取りは、実施例1と同内容の湿式バレル研磨である。また、この角型コアについて、X線回折による観察を行った。その(844)面の回折結果を図6に、(844)面の半価幅を表1に示す。
(比較例3)
焼結後にブラスト処理によるバリ取りを実施したことを除いて実施例1と同様の角型コアを作成し、やはり3点曲げ強度を測定した。その結果を表1に示す。なお、ブラストは、メディアにアルミナ(平均粒径75μm)を用い、噴射圧1.5kgf/mm2で30分間処理するという条件で行った。また、この角型コアについて、X線回折による観察を行った。(844)面の半価幅を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示すように、焼結前に湿式バレル研磨によるバリ取りを行ったコアの強度は20kgf/mm2を超えているのに対し、焼結後に湿式バレル研磨によるバリ取りを行ったコアの強度は17.1kgf/mm2、焼結後にサンドブラストによるバリ取りを行ったコアの強度は15.6kgf/mm2と低い値であった。なお、実施例1、比較例2及び比較例3ともに、バリに相当するものは観察されなかった。
以上より、焼結前に湿式バレル研磨によるバリ取りを行うことにより、焼結後の強度を向上できることがわかった。
また、実施例1による角型コアに対して、大気中において800℃で1時間保持する熱処理を施した後に、再度X線回折を行ったが、(844)面の半価幅は、変わらなかった。これに対して、比較例2による角型コアに対して同様の熱処理を施した後に再度X線回折を行ったところ、(844)面の半価幅は、実施例1と同程度まで低下したことが確認された。
【0033】
(実施例2)
実施例1と同様にしてコア成形体を作製した後に、温度を変えて熱硬化性樹脂の硬化のための熱処理を行った。熱処理後に実施例1と同様の条件で湿式バレル研磨を施した後に乾燥を行い、乾燥終了後にコア成形体の状態を観察した。その結果を表2に示す。なお、表2において、付着率とはコア成形体の総数に対する付着したコア成形体の比率である。
表2に示すように、熱処理温度が130℃、170℃ではコア成形体同士が付着するのに対して、熱処理温度が180℃以上になるとコア成形体同士の付着は生じないことがわかる。また、熱処理温度が250℃と高温になると、湿式バレル研磨後に、コア成形体が崩壊してしまうことが確認された。以上の結果より、熱処理温度を選択することで、コア成形体同士の付着を防止するとともに、コア成形体の崩壊を防止することができることがわかった。
【0034】
【表2】
【0035】
(実施例3)
実施例1と同様にして顆粒を得た後に、この顆粒を用いて、図5に示す20×12×8mmのドラムコア1を得るべく成形体を得た。得られた成形体の密度は、3.20Mg/m3である。なお、付け根のRを0、1.0mm、2.0mmおよび4.0mmと変化させた4種類の成形体を得た。この成形体に対して、実施例1と同様にしてバリ取りを行った。バリ取り後に、1050℃で2時間焼結してドラムコア1を得た。このドラムコア1について曲げ強度を測定した。測定要領を図8に示すが、ドラムコア1の一方の鍔3を支持した状態で他方の鍔3に負荷をかけていき、鍔3が磁芯部2から折れたときの負荷から曲げ強度を特定した。付け根のRと曲げ強度の関係を図7に示すが、Rが大きいほど強度が高くなることがわかる。したがって、ドラムコア1の強度のみを考慮すると、付け根のRを大きくすればよいが、Rが大きすぎると、巻き線を施す際に不具合が生じる。そこで、本発明では、付け根のRをL/5以下とする。
【0036】
(実施例4)
実施例1と同様にして仮焼き体を得た。得られた仮焼き体を、鋼鉄製のボール・ミルにて湿式粉砕を行った。このとき、いくつかの異なる条件で粉砕を行い、A〜Eの5種類の異なる粒度分布を有する粉砕粉末を得た。ただし、これら5種類の粉砕粉末の比表面積はほぼ同じである。A〜Eの粒度分布を表3に示す。表3に示すように、AおよびBは粒度分布のピークが1〜1.5μmの範囲にあり、かつその頻度が7%以上である。Cは、粒度分布のピークが2つ存在し、頻度の大きいほうのピークが1μm未満、頻度の小さいほうのピークが1.5μmを超えている。Dは、粒度分布のピークが1〜1.5μmの範囲にあるが、その頻度が7%未満である。さらに、Eは、粒度分布のピークが1.5μmを超えている。
【0037】
【表3】
【0038】
粉砕後の粉末を含むスラリにPVA及び熱硬化性樹脂を実施例1と同様に加えた後に、実施例1と同様にして5種類の顆粒を得た。これら顆粒の平均径は60μmであった。これら顆粒を用いて成形密度が3.40Mg/m3(相対密度65%)となるように角型形状のコア成形体をプレス成形により得た。得られたコア成形体に対して、実施例1と同様にしてバリ取りまで行った。次にこのコア成形体を大気中で2時間、1080℃で焼成して焼結コアA〜Eを得た。コアA〜Eを構成する焼結体の結晶粒径の標準偏差(σ)を求めた。結果を表3に示す。表3に各コアの強度をも併せて示す。
表3に示すように、粒度分布のピークが1〜1.5μmの範囲にあり、かつその頻度が7%以上であるAおよびBは、19kgf/mm2以上の高い強度を得ている。これに対して、粒度分布のピークが2つ存在するC、粒度分布のピークが1〜1.5μmの範囲にあるがその頻度が7%未満のDおよび粒度分布のピークが1.5μmを超えるEは、18kgf/mm2以上の強度を得るに至っていない。また、結晶粒径の標準偏差(σ)の観点からすると、標準偏差(σ)が3.5以下になると、18kgf/mm2以上の3点曲げ強度が得られることがわかった。
以上のように、仮焼き後の粉砕粉末の粒度分布を制御することにより、強度を向上することができる。
【0039】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、成形体の状態で湿式バレル研磨によるバリ取りを行った後に焼結するという工程を採用することにより、高強度な焼結部材、例えばフェライトコアを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】成形体の状態でバリ取りを行ったフェライトコアの走査型電子顕微鏡による組織写真である。
【図2】焼結後にバリ取りを行ったフェライトコアの走査型電子顕微鏡による組織写真である。
【図3】焼結前にバリ取りを行ったフェライトコアの、バリ取りを行った部分の表面性状を示す走査型電子顕微鏡による写真である。
【図4】焼結後にバリ取りを行ったフェライトコアの、バリ取りを行った部分の表面性状を示す走査型電子顕微鏡による写真である。
【図5】ドラムコアの形態を示す図である。
【図6】実施例1および比較例2のX線回折を測定した結果を示すグラフである。
【図7】ドラムコアのRと芯折れ強度の関係を示すグラフである。
【図8】ドラムコアについて行った曲げ強度の測定要領を示す図である。
【符号の説明】
1…ドラムコア、2…磁心部、3…鍔
Claims (11)
- 原料粉末、バインダ及び熱硬化性樹脂を含む成形用組成物からなる所定形状の成形体を得る成形工程と、
前記熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度に前記成形体を加熱する熱処理工程と、
前記成形体を湿式バレル研磨するバレル工程と、
前記湿式バレル研磨が施された前記成形体を焼結する焼結工程と、
を含むことを特徴とする焼結部材の製造方法。 - 前記成形用組成物は、前記原料粉末、前記バインダ及び前記熱硬化性樹脂を含むスラリを噴霧乾燥したものであり、前記原料粉末が顆粒状をなしていることを特徴とする請求項1に記載の焼結部材の製造方法。
- 前記成形用組成物には、前記原料粉末に対して、前記バインダが0.1〜5.0wt%、前記熱硬化性樹脂が0.1〜3.0wt%含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載の焼結部材の製造方法。
- 前記熱処理工程は、前記バインダを変性させ得る温度に前記成形体を保持することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の焼結部材の製造方法。
- 原料粉末、バインダ及び熱硬化性樹脂を含み、
前記原料粉末は、前記バインダ及び前記熱硬化性樹脂を介して顆粒状をなしていることを特徴とする成形用組成物。 - フェライト原料粉末、バインダ及び熱硬化性樹脂を含むスラリを用いて前記フェライト原料粉末からなる成形用顆粒を得る顆粒作製工程と、
前記成形用顆粒を加圧成形することによりコア成形体を得る成形工程と、
前記コア成形体の中に含まれる前記熱硬化性樹脂を硬化させる樹脂硬化工程と、
前記コア成形体を湿式バレル研磨するバレル工程と、
前記湿式バレル研磨が施された前記コア成形体を焼結する焼結工程と、
を含むフェライトコアの製造方法。 - 焼結フェライト材料から構成され、X線回折による(844)面の半価幅が0.30ラジアン以下であることを特徴とするフェライトコア。
- 前記焼結フェライト材料は、その粒界が明瞭に観察される結晶粒子の集合から構成されることを特徴とする請求項7に記載のフェライトコア。
- 前記フェライトコアは、磁芯部と、前記磁芯部の両端に設けられた鍔とから構成され、前記鍔の長さをL(mm)、前記磁芯部と前記鍔の付け根の曲率半径をR(mm)とすると、0<R≦L/5を満足することを特徴とする請求項7又は8に記載のフェライトコア。
- 前記焼結フェライト材料は、結晶粒径の標準偏差(σ)が3.5以下であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のフェライトコア。
- 焼結フェライト材料から構成され、大気中、800℃で1時間保持する熱処理を施す前後における所定結晶面の半価幅が一定であることを特徴とするフェライトコア。
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